説明

パッキン及びパッキンの装着方法

【課題】分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに装着されるパッキンであって、モールドのコンパクト化を実現できるパッキンと、そのパッキンの装着方法を提供すること。
【解決手段】流体管を包囲した分岐ケースの内部を密封するパッキン4において、流体管との当接部位に装着される一対の第1パッキン41,43と、第1パッキン41,43の端部同士を連結し、分岐ケースのフランジ間に介在する一対の第2パッキン42,44とを備え、第2パッキン42が、前記分岐部に装着される円弧状の湾曲部42aと、その湾曲部42aの両端から第1パッキン41,43に連なる連結部42bとからなり、外力が作用しない自然状態では、流体管の管軸方向PDから見て一対の第1パッキン41,43が直線状に延在するとともに、湾曲部42aが第2パッキン44に向かって突き出た形状となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管を包囲した分岐ケースの内部を密封するパッキンと、そのパッキンを分岐ケースに装着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる分岐ケースとしては、既設の流体管に分岐管を接続する際に使用される割T字管や、流体管の破損により流体が漏洩しているのを補修する場合に使用される補修用金具が知られている。この種の分岐ケースでは、互いにフランジ接続される複数の分割体からなり、パッキンを介して内部を密封可能に構成されたものが一般的である。
【0003】
下記特許文献1には、分岐管の接続に使用される割T字管として、互いにフランジ接続された二つの分割体からなる分岐ケースが記載されている。この分岐ケースに装着されるパッキンは、流体管の外周面に当接する一対の円弧状パッキンと、その円弧状パッキンの端部同士を連結して、分岐ケースのフランジ間に介在する一対のフランジパッキンとを備え、全体として枠型に形成されている。この円弧状パッキンは、流体管の外周面に沿って半円状に湾曲し、フランジパッキンは直線状に延在する。
【0004】
ところで、上記の分岐ケースでは、分岐管を接続するための分岐部が分割体の正面に設けられ、分割面に分岐部が干渉しないように設計されているが、近年では、下記特許文献2に記載された割T字管のように、分割体の分割面間に分岐部を設定した分岐ケースが使用されることがある。このような構造の分岐ケースに装着されるパッキンでは、フランジ間に介在するパッキンの一部を、分岐管の外周面に沿って半円状に立ち上がらせる必要がある。
【0005】
ところが、そのようなパッキンをモールドで一体的に成型する場合、上述したようにパッキンが立ち上がる部分を有することに起因して、モールドが嵩張って大型化する傾向にあった。特に、分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに装着されるパッキンでは、流体管の管径だけでなく分岐管の管径にも対応する必要があり、両者の組み合わせに応じてモールドの種類が多大に増えるため、モールドのコンパクト化を実現できる手法の提案が強く望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−221387号公報
【特許文献2】特開2007−309474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに装着されるパッキンであって、モールドのコンパクト化を実現できるパッキンと、そのパッキンの装着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係るパッキンは、互いにフランジ接続される複数の分割体の分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに装着され、流体管を包囲した前記分岐ケースの内部を密封するパッキンにおいて、前記流体管との当接部位に装着される一対の第1パッキンと、前記第1パッキンの端部同士を連結し、前記分岐ケースのフランジ間に介在する一対の第2パッキンとを備え、前記第2パッキンの少なくとも片方が、前記分岐部に装着される円弧状の湾曲部と、その湾曲部の両端から前記第1パッキンに連なる連結部とからなり、外力が作用しない自然状態では、前記流体管の管軸方向から見て前記一対の第1パッキンが直線状に延在するとともに、前記第2パッキンの湾曲部が他方の第2パッキンに向かって突き出た形状となるものである。
【0009】
かかる構成のパッキンは、分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに装着可能であり、分岐ケースが包囲した流体管の外周面には一対の第1パッキンが当接し、分岐部に接続した分岐管の外周面には、第2パッキンの湾曲部が当接する。それでいて、外力が作用しない自然状態では、流体管の管軸方向から見て第1パッキンが直線状に延在し、第2パッキンの湾曲部が他方の第2パッキンに向かって突き出た形状であることから、このパッキンを成型するためのモールドを嵩張らせずにコンパクトに構成できる。
【0010】
本発明のパッキンでは、前記一対の第1パッキン及び前記第2パッキンの湾曲部が、前記分岐ケースとの接触面とその反対側の面とに、複数の凸部が幅方向に並設されているものが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、一対の第1パッキンや第2パッキンの湾曲部においてパッキンの面圧を高めやすくなり、シール性能を向上できる。しかも、分岐ケースとの接触面とその反対側の面との両方に凸部を設けることで、均等に圧力を作用させることができる。また、第1パッキンを湾曲させると、分岐ケースとの接触面が引っ張られるとともに、その反対側の面が圧縮されるが、それらの面に複数の凸部を設けていることにより、かかる引張力や圧縮力を緩和してシール性能の影響を抑制できる。
【0012】
本発明のパッキンでは、前記連結部に連なる前記湾曲部の両端が肉厚に形成されているものが好ましい。
【0013】
湾曲部の両端では、その厚み方向が分割体同士の締め付け方向に対して傾斜するため、分割体同士を強く締め付けても面圧を高め難い傾向にある。そこで、上記の如く湾曲部の両端を肉厚に形成することにより、面圧を高めやすくしてシール性能を向上することができる。また、湾曲部の両端が肉厚であると、第2パッキンを立ち上がらせた際に姿勢が安定し、シール性能を確保しやすくなる。
【0014】
本発明に係るパッキンの装着方法は、上記のパッキンを変形させて、前記一対の第1パッキンを前記流体管との当接部位に沿って湾曲させるとともに、その湾曲した第1パッキンと同じ向きに前記湾曲部が突き出るように前記第2パッキンを立ち上がらせて前記分岐ケースに装着するものである。
【0015】
かかる方法によれば、分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに、上記のパッキンを適正な姿勢で装着できる。装着時のパッキンでは、分岐ケースが包囲した流体管の外周面に一対の第1パッキンが当接し、分岐部に接続した分岐管の外周面に第2パッキンの湾曲部が当接する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のパッキンを装着可能な分岐ケースの一例を示す斜視図
【図2】分岐ケースを構成する分割体の片方を示す斜視図
【図3】図2のA−A矢視断面を示す要部拡大図
【図4】分岐ケースに装着されているパッキンを示す斜視図
【図5】外力が作用しない自然状態におけるパッキンを示す斜視図
【図6】図5に示すパッキンを水道管の管軸方向から見た図
【図7】図5に示すパッキンの平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1では、既設の流体管である水道管K1に、割T字管である分岐ケース1が外嵌装着され、その分岐部10に分岐管K2が接続されている。分岐ケース1で被覆された水道管K1の外周面には穿孔が施されており、流路がT字状に分岐している。分岐ケース1にはパッキン4(図1では不図示)が装着されていて、その内部が水密に密封されている。
【0018】
分岐ケース1は、上下に二分割され、互いにフランジ接続された複数(本実施形態では二つ)の分割体11,12により構成されている。各分割体のフランジ11a,12aには、ボルトとナットとからなる締結具3が取り付けられ、これを強固に締結することで分割体11と分割体12とが締め付けられる。分岐ケース1の外周面には、締結具3のボルトの軸線に沿ってリブ2を設けている。これにより、締結具3を締結した際にフランジ11a,12aの局部的な撓みを抑制し、分割体11,12を全体的に引き寄せることができる。
【0019】
図2は、分割体11の斜視図であり、図1に示した分割体11を裏返して内面側から示したものである。図3は、図2のA−A矢視断面を示す要部拡大図である。分割体11の分割面11Sでは、水道管K1との当接部位11bと、分岐管K2との当接部位11cとが円弧状に形成されており、その残りの部分にフランジ11aが形成されている。パッキン4は、分割面11Sの長手方向に沿って設けられた溝5に嵌入されており、必要であれば溝5にパッキン4を接着しても構わない。分割体12もこれと同様に構成され、パッキン4は分割体11,12の各々に装着される。
【0020】
分割体11,12は、略水平方向に位置する互いの分割面を対向させており、その分割面間に分岐部10が設定されている。この分岐部10は、分割体11が有する分岐管K2との当接部位11cと、分割体12が有する分岐管K2との当接部位とを互いに対向させて構成されている。本実施形態では、分岐管K2の外周面に設けた突起6を分岐部10の凹部7に挿し込み可能に構成している。分岐管K2において分岐部10に接続される部分は、仕切弁や短筒状のアダプタなどで構成してもよい。
【0021】
図1において、分割体11には、図4に示した姿勢のパッキン4が装着され、分割体12には、これを上下反転した姿勢のパッキン4が装着されている。図4の矢印PDは、水道管K1の管軸方向である。パッキン4は、弾性を有する可撓性材料であるゴムで構成され、全体として枠型をなす無端状に形成されている。パッキン4は、水道管K1との当接部位11bに装着される一対の第1パッキン41,43と、それらの端部同士を連結し、分岐ケース1のフランジ間に介在する一対の第2パッキン42,44とを備える。
【0022】
図4に示すように、一対の第1パッキン41,43は、管軸方向PDに間隔を置いて設けられ、その各々が水道管K1の外周面に沿って半円状に湾曲している。また、分岐部10が設定された側に位置する第2パッキン42は、分岐部10に装着される円弧状の湾曲部42aと、その湾曲部42aの両端から第1パッキン41,43に連なる連結部42bとからなる。湾曲部42aは、分岐管K2の外周面に沿って半円状に湾曲しており、分岐部10と分岐管K2との間を密封する。分岐部10が反対側に設定される場合には、第2パッキン44にも当該形状が適用される。
【0023】
このパッキン4を分割体11から取り外して作業台などの平面に載置すると、重力以外の外力が作用しない自然状態では、図5に示すような形状になる。即ち、図4に示したパッキン4の姿勢は、図5のパッキン4を弾性変形させたものである。この状態のパッキン4では、図5,6に示すように、水道管K1の管軸方向PDから見て、一対の第1パッキン41,43が非湾曲形状を有して実質的に直線状に延在する。それでいて、第2パッキン42の湾曲部42aは、他方の第2パッキン44に向かって突き出た形状となる。この湾曲部42aは、分岐管K2の外周面に沿った半円状でなくても構わない。図5では、管軸方向PDが第2パッキン44の長手方向と同方向である。
【0024】
分岐ケース1に装着する際には、パッキン4を弾性変形させて図4に示した姿勢にし、分割体の溝5に嵌入する。具体的には、一対の第1パッキン41,43を水道管K1との当接部位に沿って湾曲させるとともに、その湾曲した第1パッキン41,43と同じ向き(図4,5の上方向)に湾曲部42aが突き出るように第2パッキン42を立ち上がらせる。図5では、これらの変形の向きを矢印X,Yで示している。分岐ケース1に装着したパッキン4は、溝5により姿勢が拘束されているため、不意に復元することはない。
【0025】
パッキン4は、上述のように自然状態にて図5に示した形状を有しており、この形状にて一体的にモールドで成型することができる。したがって、図4のような形状のパッキンを成型する場合に比べると、立ち上がった部分を有していない分だけパッキンの高さが小さくなる。それ故、このパッキン4ではモールドを嵩張らせずにコンパクトに構成でき、分割面間に分岐部10を設定した分岐ケース1に装着されるものでありながら、モールドのコンパクト化を実現することができる。
【0026】
図5,6に示すように、外力が作用しない自然状態において、第1パッキン41,43と第2パッキン42,44との連結部位では、双方が高さ方向(図5,6の上下方向)に隣り合っている。かかる構成によれば、第1パッキン41,43を半円状に変形させた際に、図4に示すように第2パッキン42,44が外側に倒れ込み、湾曲部42aを上方に突き出しやすくなる。
【0027】
図6に示すように、第2パッキン42の湾曲部42aの断面形状は、図3に示した第1パッキン41,43の断面形状と略同じである。このように、一対の第1パッキン41,43と湾曲部42aでは、分岐ケース1との接触面(溝5との接触面)とその反対側の面(管体との接触面)とに、複数の凸部8が幅方向に並設されている。この幅方向は、装着時におけるパッキン4の厚み方向に直交する方向であり、溝5の幅方向と同じになる。本実施形態のパッキン4は、当該部位の断面形状が略H字状をなし、上記の各面に二本の線状の凸部8が間隔をおいて並設されている。
【0028】
一方、第2パッキン42の連結部42bと第2パッキン44には、上記のような凸部8が設けられておらず、上記の各面が平坦に形成されている。これらの部位はフランジ11a,12aに近接しており、締結具3の操作により分割面間で強く圧接され、またパッキン4同士が接触することから、上記の如き凸部8を設けた場合には、パッキン4同士の接触面が変形し、却ってシール性能が低下する恐れがある。
【0029】
図3に示すように、締結具3を強く締結する前の状態では、第1パッキン41,43と溝5との間に隙間9が幅方向に設けられている。湾曲部42aについても、これと同様である。かかる隙間9は、分割体11,12をフランジ接続した際に、パッキン4の圧縮量が増大したときのために予め設けられている。
【0030】
図4などに示すように、第2パッキン42では、連結部42bに連なる湾曲部42aの両端が肉厚に形成されており、その湾曲部42aの他の部分と比べて厚みが大である。これにより、当該部位の面圧を高めやすくして、シール性能を向上することができる。これと同様に、第1パッキン41,43においても、第2パッキン42,44に連なる両端を相対的に肉厚に形成している。
【0031】
図7は、図5に示したパッキン4の平面図であり、このパッキン4を一体的に成型するためのモールドMを破線で示している。このモールドMは、第2パッキン44を成型する第1の部材M1と、第1パッキン41,43の中央部を成型する第2の部材M2と、第2パッキン42を成型する第3の部材M3とにより構成されている。かかる構造のモールドMであれば、水道管K1と分岐管K2の両方の管径に適宜に対応できるため、モールドの種類が多大に増えるという問題を軽減できる。
【0032】
即ち、水道管K1の管径の変化に対しては、第1パッキン41,43の長さを変えることで対処できることから、水道管K1の管径に応じたサイズの異なる第2の部材M2を用意すればよい。また、分岐管K2の管径の変化に対しては、湾曲部42aのサイズを変えることで対処できるため、分岐管K2の管径に応じたサイズの異なる第3の部材M3を用意すればよい。なお、第2パッキン44に管径等の表示を成型する場合には、第1の部材M1も各種を用意する必要がある。
【0033】
例えば、水道管K1の管径が4種、分岐管K2の管径が3種である場合、通常であれば、それらの組み合わせに応じた12種のモールドを用意する必要が生じ、そのモールドの各々は上記のモールドMに相当する大きさとなる。これに対して、上記のモールドMであれば、少なくとも1種の第1の部材M1と、4種の第2の部材M2と、3種の第3の部材M3とを用意すれば足り、それらは何れもモールドMよりも小さくて取り扱いが容易である。
【0034】
上述した実施形態では、パッキンを装着する分岐ケースが、既設の流体管に分岐管を接続する際に使用する割T字管である例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば水道管のT字部周辺が破損して漏水している場合に、その部分に取り付けて包囲する補修用金具などであってもよい。また、分岐ケースが包囲する流体管は、水道管に限られるものではなく、各種の液体や気体が流れる流体管であってよい。
【符号の説明】
【0035】
1 分岐ケース
4 パッキン
5 溝
8 凸部
10 分岐部
11 分割体
12 分割体
41 第1パッキン
42 第2パッキン
43 第1パッキン
44 第2パッキン
42a 湾曲部
42b 連結部
K1 水道管(流体管)
K2 分岐管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにフランジ接続される複数の分割体の分割面間に分岐部を設定した分岐ケースに装着され、流体管を包囲した前記分岐ケースの内部を密封するパッキンにおいて、
前記流体管との当接部位に装着される一対の第1パッキンと、前記第1パッキンの端部同士を連結し、前記分岐ケースのフランジ間に介在する一対の第2パッキンとを備え、前記第2パッキンの少なくとも片方が、前記分岐部に装着される円弧状の湾曲部と、その湾曲部の両端から前記第1パッキンに連なる連結部とからなり、
外力が作用しない自然状態では、前記流体管の管軸方向から見て前記一対の第1パッキンが直線状に延在するとともに、前記第2パッキンの湾曲部が他方の第2パッキンに向かって突き出た形状であることを特徴とするパッキン。
【請求項2】
前記一対の第1パッキン及び前記第2パッキンの湾曲部は、前記分岐ケースとの接触面とその反対側の面とに、複数の凸部が幅方向に並設されている請求項1に記載のパッキン。
【請求項3】
前記連結部に連なる前記湾曲部の両端が肉厚に形成されている請求項1又は2に記載のパッキン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のパッキンを変形させて、前記一対の第1パッキンを前記流体管との当接部位に沿って湾曲させるとともに、その湾曲した第1パッキンと同じ向きに前記湾曲部が突き出るように前記第2パッキンを立ち上がらせて前記分岐ケースに装着するパッキンの装着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80542(P2011−80542A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233773(P2009−233773)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】