説明

パティキュレート燃焼触媒、パティキュレートフィルター及び排ガス浄化装置

【課題】高価な貴金属を使用することなしで排ガス中のNOx 濃度に関わらず低温でススを酸化除去することができるパティキュレート燃焼触媒、パティキュレートフィルター、及び排ガス浄化装置を提供すること。
【解決手段】金属成分としてLa、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属とCeとを含む複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された触媒成分としての金属Ag又はAg酸化物とからなり、該La、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属が酸化物換算で該担体の0.1〜30質量%を占めているパティキュレート燃焼触媒、該パティキュレート燃焼触媒でコーティングされているパティキュレートフィルター、及び該パティキュレート燃焼触媒でコーティングされたパティキュレートフィルターを備えている排ガス浄化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパティキュレート燃焼触媒、パティキュレートフィルター及び排ガス浄化装置に関し、より詳しくはディーゼル内燃機関から排出されるパティキュレートを酸化除去し得るパティキュレート燃焼触媒、該パティキュレート燃焼触媒でコーティングされているパティキュレートフィルター、及び該パティキュレート燃焼触媒でコーティングされたパティキュレートフィルターを備えている排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスは窒素酸化物(NOx )やパティキュレート(粒子状物質)を含んでおり、これらの物質がそのまま大気中に放出されると大気汚染の主要な原因になる。それで、これらの物質の大幅な規制が求められている。パティキュレートを取り除くための有効な手段として、SOF(Soluble Organic Fraction)(可溶性有機成分)を燃焼させるためのフロースルー型酸化触媒やススを捕集するためのディーゼル・パティキュレートフィルターを用いたディーゼル排ガス装置トラップシステムがある。しかし、このパティキュレートフィルターでは捕集したパティキュレートを連続的に酸化除去してパティキュレートフィルターを再生する必要がある。
【0003】
これまでに提案されてきた連続再生システムとしては、担体、例えば、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化セリウム等の無機酸化物からなる担体にPtなどの高価な貴金属を担持させた触媒(例えば、特許文献1、2及び3参照)を用いるシステムや、NO2 による連続再生方法(例えば、特許文献4参照)等がある。この連続再生方法ではパティキュレートフィルターの前段にNOを酸化してNO2とするためのPt等の酸化触媒を取り付ける必要があり、コストがかかる。また、このNO2による反応ではNOx とCとの比率も問題とされ、使用条件に制約が多い。
【0004】
【特許文献1】特開平10−047035号公報
【特許文献2】特開2003−334443号公報
【特許文献3】特開2004−058013号公報
【特許文献4】特許第3012249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高価な貴金属を使用することなしで低温でススを酸化除去することができ、酸素のみでも酸化反応が進むので排ガス中のNOx 濃度に関わらず低温でススを酸化除去することができるパティキュレート燃焼触媒、該パティキュレート燃焼触媒でコーティングされているパティキュレートフィルター、及び該パティキュレート燃焼触媒でコーティングされたパティキュレートフィルターを備えている排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、パティキュレート燃焼触媒の担体として特定組成の複合酸化物を用い、触媒成分として金属Ag又はAg酸化物を用いることにより上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明のパティキュレート燃焼触媒は、金属成分としてLa、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属とCeとを含む複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された触媒成分としての金属Ag又はAg酸化物とからなり、該La、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属が酸化物換算で該担体の0.1〜30質量%を占めていることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明のパティキュレートフィルターは、上記のパティキュレート燃焼触媒でコーティングされていることを特徴とし、また、本発明の排ガス浄化装置は、上記のパティキュレート燃焼触媒でコーティングされたパティキュレートフィルターを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパティキュレート燃焼触媒を用いることにより、高価な貴金属を使用することなしで低温でススを酸化除去することができ、酸素のみでも酸化反応が進むので排ガス中のNOx 濃度に関わらず低温でススを酸化除去することができ、触媒システムが高温に長時間曝されても劣化を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、パティキュレート燃焼触媒の担体として金属成分としてLa、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属とCeとを含む複合酸化物を用いるが、この複合酸化物中のLa、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属が酸化物換算で該担体の0.1〜30質量%を占めていることが必須であり、これらの金属の酸化物を含むことにより、担体の熱安定性の向上が達成され、低温での酸化特性の向上が達成される。これらの効果が達成されるためには、これらの金属の酸化物の量が0.1質量%以上であることが必須である。しかし、これらの金属の酸化物の量が30質量%を超えると、それに応じてセリウム酸化物の相対量が低下し、複合酸化物からなる担体の特性が低下する傾向がある。従って、La、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物の量(二種以上の金属の酸化物を用いる場合にはその合計量)が0.1〜30質量%である複合酸化物からなる担体を用いることが好ましい。
【0011】
本発明においては、触媒成分として金属Ag又はAg酸化物を担体に担持させることが必須である。触媒成分を担体に担持させる方法として従来技術で周知の含浸法やゾルゲル法を採用することができる。本発明で用いるAgはPt、Pd等に比べて安価であるだけでなく、本発明で用いる特定の担体との組合せで用いる場合に、PtやPd成分を用いる場合よりもAg成分を用いる場合に一層優れた効果が達成される。本発明においては、金属Ag又はAg酸化物からなる触媒を金属換算で担体の質量を基準として0.1〜25質量%(即ち、担体100質量部に対して0.1〜25質量部)の量で用いることが好ましい。0.1質量%よりも少ない場合には、触媒として効果が充分には発揮できず、また、25質量%を超える場合には、本発明で用いる特定の触媒と特定の担体との組合せによる相乗効果が充分には発揮できない。また、触媒の量が多い場合には金属のシンタリングが起こりやすく、その触媒としての効果が期待できない。
【0012】
基材上に本発明のパティキュレート燃焼触媒を保持させて本発明のパティキュレートフィルターを製造することを考慮すると、担体の表面にバインダー成分としてSiO2 、TiO2 、ZrO2 又はAl23 などを付与することが好ましい。担体の表面にバインダー成分を付与することにより基材と担体との密着性が向上して触媒の耐久性が向上し、耐熱性が向上する。
【0013】
本発明のパティキュレートフィルターはパティキュレートフィルターとして公知のいかなる形状であっても良いが、三次元立体構造を有するものが好ましい。三次元立体構造を有するフィルターの具体例として、ウォールスルー型、フロースルーハニカム型、ワイヤメッシュ型、セラミックファイバー型、金属多孔体型、粒子充填型、フォーム型等を挙げることができる。また、基材の材質としてコージエライト、SiCなどのセラミックやFe−Cr−Al合金やステンレス合金などを挙げることができる。
【0014】
本発明の排ガス浄化装置は上記の本発明のパティキュレートフィルターを組み込んだものであり、当業者には容易に理解できるものである。
【0015】
次に、本発明のパティキュレートフィルターの製造法について説明する。
担体としての上記の複合酸化物をSiO2 、アルミナゾルなどのバインダー成分及び水と共に混合したあと、ボールミルなどの粉砕装置で細かく粉砕する。このようにして得られたスラリーをワイヤメッシュフィルイターなどのパティキュレートフィルターにコートする。一般的には、これを500℃から700℃くらいの温度で焼成する。形成されたウオッシュコート層に、触媒成分として銀の硝酸塩などを含浸させ、その後、乾燥及び焼成を行う。触媒の総コート量としては、ウォールフロータイプのパティキュレートフィルターの場合には10〜100g/L、ワイヤメッシュの場合には50〜150g/Lくらいが好ましい。触媒の総コート量が少なすぎると充分な性能を得ることができない。また、多すぎると排ガスに対する背圧が高くなってしまう。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、各実施例及び比較例において、複合酸化物を構成する各酸化物の後の括弧内の数値は複合酸化物を構成する各酸化物の質量%を示すものである。
【0017】
実施例1
硝酸銀0.40gに水30gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とした。得られた水溶液にCeO2(80)Gd23(20)からなる複合酸化物の粉末5.0gを投入し、30分間攪拌した。得られたスラリーを120℃で3時間乾燥した後、最終的に空気中500℃で1時間焼成した。得られたパティキュレート燃焼触媒のAg担持量は担体の質量基準で5質量%であった。
【0018】
実施例2
硝酸銀0.080gに水30gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とした。得られた水溶液にCeO2(90)La23(10)からなる複合酸化物の粉末5.0gを投入し、30分間攪拌した。得られたスラリーを120℃で3時間乾燥した後、最終的に空気中500℃で1時間焼成した。得られたパティキュレート燃焼触媒のAg担持量は担体の質量基準で1質量%であった。
【0019】
実施例3
CeO2(80)Gd23(20)からなる複合酸化物の代わりにCeO2(80)Nd23(20)からなる複合酸化物を用いた以外は実施例1と同様に調製した。得られたパティキュレート燃焼触媒のAg担持量は担体の質量基準で5質量%であった。
【0020】
実施例4
CeO2(80)Gd23(20)からなる複合酸化物の代わりにCeO2(80)Sm23(20)からなる複合酸化物を用いた以外は実施例1と同様に調製した。得られたパティキュレート燃焼触媒のAg担持量は担体の質量基準で5質量%であった。
【0021】
比較例1
CeO2(80)Gd23(20)からなる複合酸化物の代わりにCeO2を用いた以外は実施例1と同様に調製した。得られたパティキュレート燃焼触媒のAg担持量は担体の質量基準で5質量%であった。
【0022】
粉末触媒の模擬排ガスによる評価
実施例1〜4及び比較例1で得た各々のパティキュレート燃焼触媒粉末の何れか一種50mgとカーボン5mg(デグサ社製、Printex−V、トナーカーボン)とをメノウ乳鉢で15秒間混合し、この混合物を石英反応管の中央部に石英ウールを使って固定した。下記組成の流通ガスを下記の流量で流しながら電気炉によってその石英反応管の温度を下記の昇温速度で昇温させながら出口側でのCO及びCO2の濃度を赤外線型分析計で測定した。このCO2の濃度が100ppmになった時の触媒入り口側の温度(電気炉制御温度)をTig(燃焼開始温度)とした。
ガス組成:O2:10%、H2O:10%、N2:残余
流量:400cc/min
昇温速度:10℃/min
【0023】
実施例1〜4及び比較例1で得た各々のパティキュレート燃焼触媒粉末について測定されたTigをそれらの触媒活性種、触媒担持量(担体の質量を基準とした質量%)及び担体組成と共に第1表に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例5
CeO2(80)Gd23(20)からなる複合酸化物の粉末100gに水700gを加え、ボールミルにより平均粒径が1μm以下になるまで粉砕し、これに更にバインダー成分としてZrO2ゾルをZrO2換算で10gとなるように加え、2時間混合してスラリーを得た。このスラリーを用いて直径25.4mm×長さ76.2mmのコージェライト製パティキュレートフィルター上に複合酸化物をコートさせた。これを120℃で3時間乾燥した後、空気中500℃で1時間焼成した。この複合酸化物でコートされたフィルターの複合酸化物の担持量は40g/Lであった。この複合酸化物でコートされたフィルターに所定濃度の硝酸銀水溶液を含浸させ、これを120℃で3時間乾燥した後、最終的に空気中500℃で1時間焼成した。最終的に形成されたフィルター上のAg担持量は2g/Lであり、上記複合酸化物の質量を基準にしてAg担持量は5質量%であった。
【0026】
比較例2
CeO2(80)Gd23(20)の代わりにCeO2を用いた以外は実施例5と同様に調製した。最終的に形成されたフィルター上のAg担持量は2g/Lであり、複合酸化物の質量を基準にしてAg担持量は5質量%であった。
【0027】
<触媒付きパティキュレートフィルターの耐熱性の評価>
触媒付きパティキュレートフィルターの耐熱性を評価するために、実排ガスによるバランスポイント温度の評価を行った。実施例5及び比較例2で得たそのままの各々の触媒付きパティキュレートフィルター、それらを800℃で20時間熱処理を行った各々の触媒付きパティキュレートフィルターをステンレススチール製のホルダーにセットし、これを石英反応管の内部に固定した。エンジン排気量0.2Lのディーゼル発電機エンジン(回転数3000rpm)から排出される排ガスの一部を分岐し、30.8L/minの条件で該石英反応管に流しながら、電気炉で該石英反応管を外部から加熱し、300℃以降は20℃/10minの範囲で段階的に加熱した。パティキュレートフィルターの流入口と流出口との圧力差を測定し、圧力差がゼロになる温度を求めた。この温度をバランスポイント温度とした。各々の触媒付きパティキュレートフィルターについて測定したバランスポイント温度は第2表に示す通りであった。第2表に示すデータから明らかなように、本発明の実施例5の触媒付きパティキュレートフィルターは、比較例2の触媒付きパティキュレートフィルターと比較して、高温で熱処理を行った後にもバランスポイント温度が低く、耐熱性に優れたものであった。
【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分としてLa、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属とCeとを含む複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された触媒成分としての金属Ag又はAg酸化物とからなり、該La、Nd、Gd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属が酸化物換算で該担体の0.1〜30質量%を占めていることを特徴とするパティキュレート燃焼触媒。
【請求項2】
触媒成分としての金属Ag又はAg酸化物が、金属換算で担体の質量を基準として0.1〜25質量%の量で担持されている請求項1記載のパティキュレート燃焼触媒。
【請求項3】
担体の表面にバインダー成分としてSiO2、TiO2、ZrO2又はAl23が付与されている請求項1又は2記載のパティキュレート燃焼触媒。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のパティキュレート燃焼触媒でコーティングされていることを特徴とするパティキュレートフィルター。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載のパティキュレート燃焼触媒でコーティングされたパティキュレートフィルターを備えていることを特徴とする排ガス浄化装置。

【公開番号】特開2009−255004(P2009−255004A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109621(P2008−109621)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】