説明

パネルアセンブリの製造方法及びこのアセンブリのへミング加工装置

【課題】穴の打ち分けが必要なパネル部材を含むパネルアセンブリを製造するに際して、パネル部材の部品置き場の増加を避けて加工エリア周辺のスペースを確保すると共に、急な生産比率の変更にも対応可能とし、これにより生産効率を高める。
【解決手段】本発明に係るパネルアセンブリのへミング加工装置は、互いに重ね合わせた状態のアウタパネル2とインナパネル3のうち、一方の金型4に設置されたアウタパネル2の周縁部2aを他方の金型5に設けたへム型6でプレスしてインナパネル3の側に折り返すことにより、アウタパネル2とインナパネル3とを一体化して、パネルアセンブリ20を形成するものであって、他方の金型5には、ヘム型6によるプレス時に、アウタパネル2とインナパネル3の少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施すことのできる穴開け機構13が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネルアセンブリの製造方法及びこのアセンブリのへミング加工装置に関し、特に、アウタパネルとインナパネルを重ね合わせた状態でアウタパネルの周縁部をインナパネル側に折り返すことにより、この折り返し部分とアウタパネル本体とでインナパネルの周縁部をアウタパネルで挟み込んで、パネルアセンブリを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のパネル部材を重ね合わせたパネルアセンブリの製造方法の一つに、いわゆるへミング加工を利用したものが知られている。この加工法は、主としてパネルアセンブリの補強や意匠的な品質の向上を目的としてなされるもので、例えば自動車のドアパネルやボンネット(フード)、ルーフパネルなど、強度面と共に意匠面においても高レベルの品質が要求される製品(部品)に使用されている。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、ドアパネルの製造方法として、プレス加工によりアウタパネルやインナパネルを成形した後、これらアウタパネルとインナパネルをへミング加工により一体化する方法が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、上記へミング加工に際し、アウタパネルを下型に対して位置決めした状態で、その上にインナパネルを載置し、インナパネルの上方に配置したプレッシャパッドでインナパネルをアウタパネルに押し付けることによりインナパネルの位置決めを行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−104059号公報
【特許文献2】実開2008−272791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車用ドアパネルにおいては、同一車種であっても、グレードの違いによりドアモール等の装飾部品を取り付けたものと、取り付けずにおくものの2種類のドアパネルを製作することがある。ここで、ドアモールを取り付ける設定の場合には、取り付け先となるアウタパネルにドアモール取り付け用の穴を設ける必要があり、一方で、ドアモールを取り付けない設定の場合には、上記取り付け穴は不要となる。そのため、各パネル部材のプレス加工に際して、インナパネルについては1種類で、アウタパネルについては例えば穴開け用と穴開け無しの2種類のプレス型を用意して、あるいは1台のプレス型に穴打ち分け機構を新たに設ける等して、穴有りと穴無しの2種類のアウタパネルを製作し、それぞれへミング加工工程に供給する必要が生じる。
【0007】
しかし、各パネル部材のプレス加工は原則、ロット生産で行われるので、プレス加工された各パネル部材は、生産管理の観点から、同一種類のパネル部材ごとに設けられた部品置き場にストックされることになる。そのため、上述のように、ドアモールの設定の有無に応じて2種類のアウタパネルを製作する場合には、穴有りと穴無しのアウタパネルそれぞれに部品置き場を設ける必要が生じる。また、同様に、へミング加工工程においてもアウタパネルについて2ヶ所の部品置き場を設ける必要が生じる。これでは、加工エリアの周囲に多大なスペースを確保しなければならず、このことが設備の大型化を招来するおそれがある。
【0008】
また、上述の通り、各パネル部材のプレス加工は原則、ロット生産で行われるので、打ちだめした大量のパネル部材が常に部品置き場にストックされることになる。そのため
、同一車種内における各グレードの生産比率(ここでは、ドアモール有りと無しの生産比率)の急な変更指示が出された場合、この指示に対して迅速に対応することが難しい、という問題がある。例えば穴有りのそれと比較して穴無しのアウタパネルを多く製作していた場合にドアモール有りの車両の生産比率を高める指示が出された場合、穴有りのアウタパネルが相対的に不足し、別途製作し直さないといけない場合が起こり得る。また、この場合、予め大量に打ちだめした穴無しのアウタパネルが無駄になるおそれがある。何れにしても大幅な生産性の低下は避けられない。
【0009】
上述した問題は、何も自動車用ドアパネルの製造技術に限ったことではなく、穴の打ち分けが必要なパネル部材を含む他の用途のパネルアセンブリを製造する場合にも同様に起こり得る問題である。
【0010】
以上の事情に鑑み、穴の打ち分けが必要なパネル部材を含むパネルアセンブリを製造するに際して、パネル部材の部品置き場の増加を避けて加工エリア周辺のスペースを確保すると共に、急な生産比率の変更にも対応可能とし、これにより生産効率を高めることのできるパネルアセンブリの製造技術を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題の解決は、本発明に係るパネルアセンブリの製造方法により達成される。すなわち、この製造方法は、アウタパネル及びインナパネルをプレス加工で成形するプレス加工工程と、プレス加工で成形したアウタパネルとインナパネルとを重ね合わせた状態で、アウタパネルの周縁部をプレスしてインナパネルの側に折り返すことによりアウタパネルとインナパネルとを一体化して、パネルアセンブリを形成するへミング加工工程とを具備するパネルアセンブリの製造方法において、へミング加工時に、アウタパネルとインナパネルの少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施す点をもって特徴付けられる。
【0012】
このように、本発明は、従来、各パネル部材のプレス成形時に行われていた穴開け加工を、へミング加工時において選択的に実施するようにしたことを特徴とする。このように穴開け加工を選択的に実施することで、プレス加工工程では、穴無しのパネル部材(アウタパネル又はインナパネル)を成形しておき、へミング加工工程で、穴有りのパネル部材に対してのみへミング加工と穴開け加工を施し、穴無しのパネル部材に対してはへミング加工のみを施すことができる。これにより、プレス加工で成形されるパネル部材を1種類に統一することができるので、プレス加工工程において穴の打ち分けを行わずに済む。そのため、部品(パネル部材)ごとに設けざるを得なかった部品置き場の数を減らすことができ、これにより省スペース化を図ることができる。また、急な生産比率の変更に対してもへミング加工工程だけで対応できるので、予めプレス加工工程で打ちだめした部品(パネル部材)を無駄なく全て使い切ることができる。そのため、生産効率が低下するおそれもない。
【0013】
また、へミング加工工程において、当該へミング加工時のプレス力を利用した打ち抜きにより穴開け加工を施すようにしてもよい。
【0014】
例えば自動車用ドアパネルのパネル部材であれば、へミング加工に要する程度のプレス力でもって当該パネル部材に打ち抜きで穴を開けることができる。そのため、別途孔開け機構に穴開け力を付与するための駆動装置を設けずに済み、低コストに穴開け機構を構築することができる。また、へミング加工時のプレス力を利用して穴を打ち抜くことで、へミング加工動作の中で穴開け加工を行うことができるので、従来と同等の加工時間で足りる。
【0015】
また、打ち抜きによりアウタパネルに対する穴開け加工を施す場合、プレス加工によりインナパネルに形成された開口部を介して、アウタパネルに対する穴開け加工を施すようにしてもよい。
【0016】
アウタパネルに打ち抜きで孔開け加工を施すのであれば、アウタパネルを例えば一方の側から支持した状態で他方の側から打ち抜きピン等でプレスする必要があるが、これだと、インナパネルが干渉して打ち抜きピンが到達できないおそれがある(アウタパネルの一方の側に重ね合わせたインナパネルが孔開け加工の妨げとなる)。そこで、予めプレス加工でインナパネルに開口部を設けておき、この開口部を介してアウタパネルに対する穴開け加工を施すことで、インナパネルと干渉することなく、打ち抜きによるアウタパネルへの穴開け加工を選択的に実施することができる。これにより、へミング加工とアウタパネルへの穴開け加工を1つのプレス動作の中で併せて行うことが可能となる。
【0017】
また、前記課題の解決は、本発明に係るパネルアセンブリのへミング加工装置によっても達成される。すなわち、この加工装置は、互いに重ね合わせた状態のアウタパネルとインナパネルのうち、一方の金型に設置されたアウタパネルの周縁部を他方の金型に設けたへム型でプレスしてインナパネルの側に折り返すことにより、アウタパネルとインナパネルとを一体化して、パネルアセンブリを形成するパネルアセンブリのへミング加工装置において、他方の金型には、ヘム型によるプレス時に、アウタパネルとインナパネルの少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施すことのできる穴開け機構が設けられている点をもって特徴付けられる。
【0018】
このように、本発明に係るへミング加工装置は、へミング加工用のへム型が取り付けられた他方の金型に、一方又は双方のパネル部材に対して選択的に穴開け加工を施すことのできる穴開け機構を設けた点を特徴とする。この加工装置によれば、へミング加工と併せて穴開け加工を選択的に実施することができる。そのため、上記製造方法と同様、プレス加工工程では、穴無しのパネル部材(アウタパネル又はインナパネル)を成形しておき、へミング加工工程で、穴有りのパネル部材に対してのみへミング加工と穴開け加工を施すことができる。これにより、プレス加工工程において穴の打ち分けを行わずに済むので、部品置き場の数を減らすことができ、省スペース化を図ることができる。また、急な生産比率の変更に対してもへミング加工工程だけで対応できるので、予めプレス加工工程で打ちだめした部品(パネル部材)を無駄なく全て使い切ることができる。そのため、生産効率が低下するおそれもない。また、へム型等に変更を加えることなく、穴開け機構を追加して設置するだけで足りる。そのため、へミング加工の精度低下を招くこともない。また、プレス加工装置においては1台で足りる一方、へミング加工装置においては穴開け機構の追加に係る費用だけで足りる。そのため、設備コストの削減を図ることも可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係るパネルアセンブリの製造方法及びこのアセンブリのへミング加工装置によれば、穴の打ち分けが必要なパネル部材を含むパネルアセンブリを製造するに際して、パネル部材の部品置き場の増加を避けて加工エリア周辺のスペースを確保すると共に、急な生産比率の変更にも対応可能とし、これにより生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るパネルアセンブリのへミング加工装置の断面図であって、へミングプレス動作及びアウタパネルに対する穴開け加工動作を説明するための断面図である。
【図2】図1に示すへミング加工装置の断面図であって、へミングプレス動作及びアウタパネルに対する穴開け加工動作を説明するための断面図である。
【図3】図1に示すへミング加工装置の断面図であって、へミングプレス動作及びアウタパネルに対する穴開け加工動作を説明するための断面図である。
【図4】図1に示すへミング加工装置の断面図であって、へミングプレス動作及びアウタパネルに対する穴開け加工動作を説明するための断面図である。
【図5】穴開け機構の要部拡大図であって、(a)はアウタパネルに穴開け加工を施す場合の穴開け機構本体に対するパンチの位置を、(b)はアウタパネルに穴開け加工を施さずにおく場合の穴開け機構本体に対するパンチの位置をそれぞれ示す要部拡大図である。
【図6】穴開け機構の要部拡大図であって、(a)はアウタパネルに穴開け加工を施す場合のパンチとこれに嵌合可能なブッシュとの位置関係を、(b)はアウタパネルに穴開け加工を施さずにおく場合のパンチとこれに嵌合可能なブッシュとの位置関係をそれぞれ示す要部拡大図である。
【図7】へミング加工工程において、へミング加工と共に孔開け加工を施すことで得たパネルアセンブリの平面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るパネルアセンブリのへミング加工装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るパネルアセンブリの製造方法の一実施形態を図面に基づき説明する。なお、この実施形態では、パネルアセンブリとして自動車のサイドドアパネルを製造する場合を例にとって説明する。なお、以下の説明における上下方向は説明の理解を容易にするために便宜的に設定したものに過ぎず、実際の設置態様を限定するものではない。
【0022】
図1は、本発明に係るパネルアセンブリのへミング加工装置1を示している。このへミング加工装置1は、共にプレス加工で成形され、互いに重ね合わせた状態のアウタパネル2とインナパネル3にへミング加工を施すことで、これらアウタパネル2とインナパネル3を一体化して、後述するパネルアセンブリ20(図4を参照)を形成するための加工に使用されるもので、アウタパネル2が載置される一方の金型としての下型4と、下型4と鉛直方向に対向し、この下型4に対して近接及び離隔可能に配設された上型5と、上型5に設けられ、上型5の下降動作(下型4への近接動作)により、下型4の上面4aに設置されたアウタパネル2の周縁部2aを所定のプレス力でプレスして、当該周縁部2aをインナパネル3の側に折り返すへム型6と、上型5に近接及び離隔可能に配設され、上型5の下型4への近接動作に伴いインナパネル3を上側から保持する保持部としてのプレッシャパッド7と、上型5に設けられ、ヘム型6によるプレス動作時に、アウタパネル2とインナパネル3の少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施すことのできる穴開け機構13とを具備する。
【0023】
ここで、プレッシャパッド7は、エアシリンダ又は油圧シリンダ等の伸縮駆動装置8を介して上型5に取り付けられており、略矩形状のフレーム部9と、フレーム部9の下面に配設され、アウタパネル2と重ね合わせた状態のインナパネル3を全体にわたって略均等に押圧するための押圧部材10と、押圧部材10で押圧した状態でインナパネル3に対するプレッシャパッド7の位置決めを行うための位置決めピン11とを有する。また、フレーム部9には、このフレーム部9の下面から下型4に向けて延びる延設部材12が設けられると共に、延設部材12の先端に穴開け機構13が取り付けられている。これら延設部材12と穴開け機構13は、アウタパネル2の穴開け加工を施す位置及び数に対応する位置及び数だけ設置されるようになっている。例えば図7に示すように、アウタパネル2の車両前後方向に沿って例えばドアモール取り付け用の穴2bを4ヶ所に設ける場合、対応する位置に4個の穴開け機構13が配設される。
【0024】
穴開け機構13は例えばセレクトリテーナと呼ばれる類の機構であって、図5に示すように、穴開け機構13本体に対してスライド可能なパンチ14と、パンチ14の周囲に配設され、その上端部を止め輪19等を介して穴開け機構13本体に固定される押え部材18とを有している。そして、延設部材12を介してプレッシャパッド7のフレーム部9に取り付けられた状態では、穴開け用のパンチ14が下型4に向けて前進及び後退するようになっている。そして、この穴開け機構13において、図5(a)に示すように、パンチ14を下型4に向けて所定量前進させた状態では、へム型6によるへミングプレス時(後述する図4の状態のとき)、パンチ14の下端が後述するインナパネル3の開口部3aを介してアウタパネル2を貫通し、穴2bが形成されるようになっている(後述する図6(a)を参照)。また、図5(b)に示すように、パンチ14を下型4から離間する向きに所定量後退させた状態では、へミングプレス時(後述する図4の状態のとき)、パンチ14の下端はアウタパネル2よりも上方に位置するようになっている(後述する図6(b)を参照)。なお、押え部材18は、この実施形態では、アウタパネル2への打ち抜き動作時、パンチ14のストロークを案内する。また、押え部材18の下端をパンチ14の下端よりも下方に位置させる(長くする)ことで、パンチ14による穴開け加工後、アウタパネル2から引き抜きを終えるまでの間、押え部材18が多少の弾性変形を伴ってアウタパネル2に密着するようになっている。
【0025】
下型4の上面4aには、上述のパンチ14を内周に嵌合可能なブッシュ15が配設されている。また、ブッシュ15の下方には、ブッシュ15とパンチ14との嵌合によりアウタパネル2を打ち抜いた際に生じる屑(スクラップ)を溜めるスクラップボックス16が配設されており、スクラップが所定量溜まった時点でスクラップボックス16を下型4内部から取り出して、スクラップを廃棄できるようになっている。
【0026】
以下、本発明に係るへミング加工装置1を用いたパネルアセンブリ20の製造方法の一例を、2種類のパネルアセンブリ20を形成する場合、すなわち、(1)穴2bをアウタパネル2に形成する場合、(2)穴2bをアウタパネル2に形成せずにおく場合とに分けて、以下説明する。
【0027】
(1)穴2bをアウタパネル2に形成する場合
まず、アウタパネル2とインナパネル3をそれぞれプレス加工で所定の形状に成形する。ここで、アウタパネル2については、後のへミング加工工程で形成する穴2bを除く全ての部分を上記プレス加工で成形する。この段階では、アウタパネル2の周縁部2aは、隣接するアウタパネル2本体に対して略直立するように折り曲げた形状にプレス成形される。また、インナパネル3には、プレッシャパッド7に取り付けた穴開け機構13及びそのパンチ14が挿通可能な大きさの開口部3aと、位置決めピン11が挿通可能な大きさの挿通穴3bとが上記プレス加工により成形される。
【0028】
このようにして得られた共に1種類のアウタパネル2及びインナパネル3をへミング加工装置1にセットする。具体的には、図1に示すように、下型4の周縁部に取り付けたガイド部材17によりアウタパネル2を下型4に対して位置決めした状態で、当該アウタパネル2を下型4の上面4aに設置する。そして下型4に設置されたアウタパネル2に重ね合わせるようにしてインナパネル3を設置する。この状態では、アウタパネル2の周縁部2aはインナパネル3の外周に位置している。また、プレッシャパッド7及び穴開け機構13は共にインナパネル3の上方に位置している。
【0029】
そして、図1に示す状態から、上型5及びプレッシャパッド7を同期して下降させ、最初にプレッシャパッド7に取り付けた穴開け機構13のパンチ14をインナパネル3の開口部3aを介してアウタパネル2に当接させる(図2を参照)。この状態では、プレッシャパッド7の位置決めピン11はインナパネル3の挿通穴3bに挿通される一方、押圧部材10は未だインナパネル3の上方に位置している。
【0030】
そして、図2に示す状態から更に上型5及びプレッシャパッド7を同期して下降させることで、図3及び図6(a)に示すように、全てのパンチ14がアウタパネル2を貫通し、アウタパネル2の下方に配置したブッシュ15との協働によりアウタパネル2の打ち抜きが行われる。これにより、アウタパネル2の所定位置に所定の大きさの穴2bが形成される。また、プレッシャパッド7の押圧部材10がインナパネル3を上方から押圧することで、アウタパネル2とインナパネル3とが下型4の上面4a及び押圧部材10によって上下から押圧挟持されると共に、挿通穴3bに挿入された位置決めピン11により、プレッシャパッド7ひいては上型5に対するインナパネル3の水平方向位置決めがなされる。
【0031】
このようにして、アウタパネル2に対する穴開け加工、及びインナパネル3の位置決めが完了した後、押圧部材10による押圧力を一定に維持したままで伸縮駆動装置8を収縮させることで、上型5を下型4及びプレッシャパッド7に対して近接させ、略直立状態にあるアウタパネル2の周縁部2aを1段階又は2段階のプレスによりインナパネル3の側に折り返す。この実施形態では、まず図3中の破線で示すように、図示しない押え型で周縁部2aを所定の斜度までインナパネル3の側に押込み、然る後、へム型6でさらに上方から押し込むことで、図4に示すように、周縁部2aを完全にインナパネル3の側に折り返す。そして、折り返した周縁部2aとアウタパネル2の本体とでインナパネル3を挟み込んで、一体化することで、アウタパネル2とインナパネル3とからなるパネルアセンブリ20が形成される。
【0032】
このようにしてへミング加工を行い、パネルアセンブリ20を形成した後、上型5をプレッシャパッド7と同期して上昇させ、パンチ14をパネルアセンブリ20(のアウタパネル2)から引き抜き、パネルアセンブリ20をへミング加工装置1から取り出す。そして、上記挟み込み部分に溶接等を施すことにより、図7に示すように、穴2b有りのアウタパネル2を一体に有するパネルアセンブリ20が形成される。なお、パンチ14引き抜きの間、多少の弾性変形を伴ってアウタパネル2に密着している押え部材18の存在により、アウタパネル2がパンチ14と共に引き上げられないように押圧される。これにより引き抜き時のバリや返りが防がれる。
【0033】
(2)穴2bをアウタパネル2に形成せずにおく場合
この場合も、まず(1)の場合と同様、穴2bを除く全ての部分を上記プレス加工で成形する。この段階で、アウタパネル2の周縁部2aが略直立するように折り曲げた形状にプレス成形される点、及び、インナパネル3に、プレッシャパッド7に取り付けた穴開け機構13及びそのパンチ14が挿通可能な大きさの開口部3aと、位置決めピン11が挿通可能な大きさの挿通穴3bとが上記プレス加工により成形される点は上記(1)の場合と同じである。
【0034】
そして、上述のプレス加工で得た共に1種類のアウタパネル2及びインナパネル3を上記(1)の場合と同様の態様で、へミング加工装置1にセットする。この状態で、アウタパネル2の周縁部2aがインナパネル3の外周に位置している点、及び、プレッシャパッド7及び穴開け機構13は共にインナパネル3の上方に位置している点も同じである。
【0035】
そして、図1に示す状態から、上型5及びプレッシャパッド7を同期して下降させ、プレッシャパッド7の位置決めピン11をインナパネル3の挿通穴3bに挿通すると共に、プレッシャパッド7の押圧部材10でインナパネル3を上方から押圧する。これにより、アウタパネル2とインナパネル3とが下型4の上面4a及び押圧部材10によって上下から押圧挟持されると共に、挿通穴3bに挿入された位置決めピン11により、プレッシャパッド7ひいては上型5に対するインナパネル3の水平方向位置決めがなされる(図3を参照)。ここで、パンチ14は上記(1)の場合と比べて下型4から離間する向きに所定量後退させた状態にあるため(図5(b)を参照)、アウタパネル2及びインナパネル3を位置決めした状態においても、パンチ14の下端はアウタパネル2よりも上方に位置している(図6(b)を参照)。
【0036】
このようにして、アウタパネル2及びインナパネル3の位置決めが完了した後、押圧部材10による押圧力を一定に維持したままでシリンダ等の伸縮駆動装置8を収縮させることで、上型5を下型4及びプレッシャパッド7に対して近接させ、略直立状態にあるアウタパネル2の周縁部2aをプレスし、インナパネル3の側に折り返す。そして、折り返した周縁部2aとアウタパネル2の本体とでインナパネル3を挟み込んで、一体化することで、アウタパネル2とインナパネル3とからなるパネルアセンブリ20が形成される。この間、下型4に対するプレッシャパッド7の鉛直方向位置は維持されるため、上記へミングプレス動作を完了した段階においても、パンチ14の下端は未だアウタパネル2よりも上方に位置している(図6(b)を参照)。
【0037】
このようにしてへミング加工を行い、パネルアセンブリ20を形成した後、上型5をプレッシャパッド7と同期して上昇させ、パンチ14をパネルアセンブリ20(のアウタパネル2)から引き抜き、パネルアセンブリ20をへミング加工装置1から取り出す。そして、上記挟み込み部分に溶接等を施すことにより、図示は省略するが、穴2b無しのアウタパネル2を一体に有するパネルアセンブリ20が形成される。
【0038】
このように、予め穴開け機構13に設けたパンチ14を下型4に向けて所定量前進又は後退させておくことで、アウタパネル2に対する穴開け加工を選択的に実施できる。言い換えると、へミング加工工程において(へミング加工装置1を用いて)、へミング加工を行いながらもアウタパネル2に穴2bを自在に打ち分けすることができる。これにより、プレス加工で成形されるアウタパネル2を1種類に統一することができるので、プレス加工工程において穴2bの打ち分けを行わずに済む。そのため、従来、部品(アウタパネル2)ごとに設けざるを得なかった部品置き場の数を減らすことができ、これにより省スペース化を図ることができる。また、急な生産比率の変更に対してもへミング加工工程だけで対応できるので、予めプレス加工工程で打ちだめした部品(アウタパネル2)を無駄なく全て使い切ることができる。従って、生産効率の低下を防ぐことができる。また、この実施形態のように、プレッシャパッド7にパンチ14を同期させて打ち抜きによる穴開け加工を施す場合、1個の伸縮駆動装置8(シリンダなど)で足りるため、プレッシャパッド7とパンチ14とを別々のシリンダ等で駆動させる場合と比べてへミング加工装置1を低コストに構築できる。
【0039】
また、この実施形態では、パンチ14によりアウタパネル2に穴開け加工を施した後、インナパネル3を位置決めピン11及び押圧部材10で位置決めし、然る後、アウタパネル2の周縁部2aにへミング加工(プレス加工)を施すようにしたので、アウタパネル2に穴2bを精度良く形成しつつも、アウタパネル2の周縁部2aの折り返し加工を精度良く実施して、パネルアセンブリ20で高い組付け精度を得ることができる。
【0040】
以上、本発明に係るパネルアセンブリの製造方法の一実施形態を説明したが、この製造方法は、上記例示の形態に限定されることはない。へミング加工時に、プレス加工で成形され、互いに重ね合わさった状態のアウタパネル2とインナパネル3の少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施す限りにおいて、あるいは、へミング加工装置1において、へム型6を取り付けた他方の金型(上型5)に、ヘム型6によるプレス時に、アウタパネル2とインナパネル3の少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施すことのできる穴開け機構13が設けられている限りにおいて、任意の形態を採ることが可能である。
【0041】
図8は、本発明の他の実施形態に係るパネルアセンブリのへミング加工装置1’を示している。このへミング加工装置1’は、穴開け機構13を下端に有する延設部材12の上端を上型5に埋設し、かつ対応するフレーム部9の対応位置に貫通穴9aを形成することで、穴開け機構13を直接的に上型5に固定した点において、図1〜図4に係る実施形態と相違する。なお、その他の構成については上記実施形態と同一であるため、その説明を省略する。
【0042】
この場合においても、予め穴開け機構13に設けたパンチ14を下型4に向けて所定量前進又は後退させておくことで、へミング加工を行いつつ、アウタパネル2に対する穴開け加工を選択的に実施して、アウタパネル2に穴2bを自在に打ち分けすることができる。これにより、プレス加工で成形されるアウタパネル2を1種類に統一することができるので、プレス加工工程において穴2bの打ち分けを行わずに済む。そのため、従来、部品(アウタパネル2)ごとに設けざるを得なかった部品置き場の数を減らすことができ、これにより省スペース化を図ることができる。また、急な生産比率の変更に対してもへミング加工工程だけで対応できるので、予めプレス加工工程で打ちだめした部品(アウタパネル2)を無駄なく全て使い切ることができる。従って、生産効率の低下を防ぐことができる。また、この実施形態のように、金型(上型5)に直接的に穴開け機構13を設けることで、アウタパネル2に対する穴開け加工の位置精度が安定する。
【0043】
なお、上記実施形態では、アウタパネル2に穴開け加工を施した後、プレッシャパッド7の押圧部材10及び位置決めピン11でインナパネル3を位置決めし、然る後、アウタパネル2の周縁部2aにへミング加工(プレス加工)を施した場合を説明したが、例えば図8に示す形態であれば、押圧部材10及び位置決めピン11でアウタパネル2及びインナパネル3を位置決めした後、アウタパネル2に穴開け加工を施し、然る後、アウタパネル2の周縁部2aにへミング加工を施すこともできる。
【0044】
また、上記実施形態では、へミング加工時のプレス力を利用した打ち抜きによりアウタパネル2に穴開け加工を施した場合を説明したが、打ち抜き以外の穴開け加工(例えばドリルなど)を施すようにしてもよい。また、打ち抜き以外の穴開け加工であれば、アウタパネル2やインナパネル3の形状(重ね合わせ形態)に関らず、アウタパネル2だけでなくインナパネル3に対しても穴開け加工を施すことができる。
【0045】
また、上記以外の事項についても、本発明の技術的意義を没却しない限りにおいて他の具体的形態を採り得ることはもちろんである。
【0046】
また、上記実施形態では、自動車のサイドドアパネルの製造に際して本発明を適用する場合を説明したが、もちろんこれ以外の種類のドアパネルについても本発明に係る製造方法ないしへミング加工装置を適用することができ、さらにはドアパネル以外のパネルアセンブリについても本発明に係る製造方法ないしへミング加工装置を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1,1’ へミング加工装置
2 アウタパネル
2a 周縁部
2b 穴
3 インナパネル
3a 開口部
4 下型
5 上型
6 ヘム型
7 プレッシャパッド
8 伸縮駆動装置
9 フレーム部
10 押圧部材
11 位置決めピン
12 延設部材
13 穴開け機構
14 パンチ
15 ブッシュ
16 スクラップボックス
17 ガイド部材
18 押え部材
20 パネルアセンブリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネル及びインナパネルをプレス加工で成形するプレス加工工程と、前記プレス加工で成形したアウタパネルとインナパネルとを重ね合わせた状態で、前記アウタパネルの周縁部をプレスして前記インナパネルの側に折り返すことにより前記アウタパネルとインナパネルとを一体化して、パネルアセンブリを形成するへミング加工工程とを具備するパネルアセンブリの製造方法において、
前記へミング加工時に、前記アウタパネルとインナパネルの少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施すことを特徴とするパネルアセンブリの製造方法。
【請求項2】
前記プレス加工により前記インナパネルに形成された開口部を介して、前記アウタパネルに対する穴開け加工を施す請求項1に記載のパネルアセンブリの製造方法。
【請求項3】
互いに重ね合わせた状態のアウタパネルとインナパネルのうち、一方の金型に設置された前記アウタパネルの周縁部を他方の金型に設けたへム型でプレスして前記インナパネルの側に折り返すことにより、前記アウタパネルとインナパネルとを一体化して、パネルアセンブリを形成するパネルアセンブリのへミング加工装置において、
前記他方の金型には、前記ヘム型によるプレス時に、前記アウタパネルとインナパネルの少なくとも一方に対して、選択的に穴開け加工を施すことのできる穴開け機構が設けられていることを特徴とするパネルアセンブリのへミング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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