説明

パラアミノ安息香酸の製造方法

【課題】安全に、高収率で且つ高選択率で、そして大きな反応速度で、パラアミノ安息香酸を製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】スチレン系重合体をマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、生成したパラニトロ安息香酸を1atm以上の水素で還元して、高収率で且つ高選択率で、そして大きな反応速度で、パラアミノ安息香酸を製造する。市販のパラニトロ安息香酸を使用するよりも反応速度が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラアミノ安息香酸の製造方法に関する。より詳細には、スチレン系重合体をマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、生成したパラニトロ安息香酸を還元するパラアミノ安息香酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラニトロ安息香酸の製造方法として、トルエンを硝酸及び硫酸でニトロ化してオルトニトロトルエンとパラニトロトルエンとの異性体混合物を生成し、生成した異性体混合物からパラニトロトルエンを分離し、分離したパラニトロトルエンを過マンガン酸カリウム、重クロム酸ナトリウム等の酸化剤で酸化してパラニトロ安息香酸を生成する方法が知られている。この方法において中間体として生成するオルトニトロトルエンとパラニトロトルエンはいずれも毒性が強いので、この方法によってパラニトロ安息香酸を製造することは安全上問題があり好ましい方法ではない。
【0003】
パラニトロ安息香酸のより安全で低コストの製造方法として、スチレン系重合体を種々の金属原子含有化合物の存在下で硝酸とともに加熱するパラニトロ安息香酸の製造方法、並びにスチレン系重合体を種々の金属原子含有化合物の存在下で硝酸及び酢酸とともに加熱するパラニトロ安息香酸の製造方法が知られている(特許文献1、第4欄第26〜34行、第1欄第2行〜第3欄第3行参照)。この方法では、毒性の強いオルトニトロトルエンやパラニトロトルエンを取り扱う必要がない。
【0004】
さらに、スチレン系重合体を、金属原子含有化合物の存在下で、硝酸と共に加熱するパラニトロ安息香酸の製造方法であって、所定の複数の工程よりなり、反応終了時における系内の硝酸の比重が所定値以上であることを特徴とするパラニトロ安息香酸の製造方法及びその装置が知られている(特許文献2、第1欄第2行〜第2欄第37行参照)。この製造方法及びその装置によれば、パラニトロ安息香酸の選択率及び変化率が改善されたパラニトロ安息香酸の製造方法及びその装置が提供される。
【0005】
芳香族ニトロ化合物のニトロ基の還元によるアミノ化合物への誘導は、酸性条件では金属と酸や塩化第一スズ等を還元剤として用いる方法、中性条件では亜鉛末と水や水素化化合物を還元剤として用いる方法、アルカリ性条件では硫化物やヒドラジン、ハイドロサルファイト等を還元剤として用いる方法が知られている。例えば、パラニトロ安息香酸を、酸性条件において鉄と塩酸で還元してパラアミノ安息香酸とする方法が知られている。
【0006】
また、パラアミノ安息香酸の製造方法として、幾らかのテレフタル酸モノアミド及び幾らかのテレフタル酸を含むテレフタル酸ジアミドから実質的に成る混合物を、反応温度以下の接触温度で水性水酸化ナトリウム及び次亜塩素酸ナトリウムと接触し、急速に反応温度を95〜212°F(35〜100℃)に上昇し、反応混合物を酸性にしてテレフタル酸及びパラアミノ安息香酸を含有する水性混合物を生成し、そして該水性混合物からテレフタル酸及びパラアミノ安息香酸のそれぞれを分離することを特徴とする、テレフタル酸と一緒にパラアミノ安息香酸を製造する方法が知られている(特許文献3、第8欄第38〜49行参照)。
【0007】
さらに、水素ガスをp‐ニトロ安息香酸、水及び触媒から成る懸濁液に大気圧で50〜95℃の範囲の温度において加え、該触媒が白金及びパラジウム並びにそれらの酸化物から成る群から選択され、該触媒が該懸濁液中で出発原料であるp‐ニトロ安息香酸の重量を基準として少なくとも0.025%の濃度で存在することを特徴とする、p‐ニトロ安息香酸の接触水添によるp‐アミノ安息香酸の製造方法が知られている(特許文献4、第6欄第39〜48行参照)。
【0008】
このp‐アミノ安息香酸の製造方法について、特許文献4は、「この方法は、水素の分圧が200〜700mmHgの範囲で実施することができる。反応容器中の水素の分圧は、反応容器中の全圧からその温度でのその溶液上の水蒸気の圧力を引いた圧力に等しい。水素の分圧が200mmHg以下のときは、反応が遅すぎて経済的に価値が無く、700mmHg以上の水素の分圧で実施したときは、有利な点は観察されない。好ましい圧力範囲は、水素の分圧が235〜700mmHgの範囲である。」と記載している(特許文献4、第2欄第36〜46行参照)。
【0009】
しかしながら、スチレン系重合体をマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、生成したパラニトロ安息香酸を加圧水素で還元するパラアミノ安息香酸の製造方法は知られていない。
【特許文献1】特許第3316120号公報
【特許文献2】特開平11−180934号公報
【特許文献3】米国特許第2878281号明細書
【特許文献4】米国特許第2947781号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、高収率で且つ高選択率で、そして大きな反応速度で、パラアミノ安息香酸を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上で述べた課題は、本発明に従って解決することができる。
本発明においては、特定のパラニトロ安息香酸を、貴金属含有触媒の存在下において、加圧水素によって還元し、パラアミノ安息香酸を製造する。
本発明において特定のパラニトロ安息香酸とは、スチレン系重合体を、マンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱することによって生成するパラニトロ安息香酸である。
【0012】
上記スチレン系重合体には、スチレンに由来する繰り返し単位のみからなる重合体、及びスチレンに由来する繰り返し単位と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体、例えばブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸エステル等に由来する繰り返し単位を含有する共重合体が含まれる。
【0013】
スチレン系重合体がスチレンに由来する繰り返し単位と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体に由来する繰り返し単位からなる共重合体である場合、他のエチレン性不飽和結合を有する単量体は1種であっても2種以上であってもよい。スチレン系重合体がスチレンに由来する繰り返し単位と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体に由来する繰り返し単位からなる共重合体である場合、スチレンに由来する繰り返し単位の割合は、重量を基準にして、一般に30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは65%以上、最も好ましくは80%以上である。
【0014】
スチレン系重合体の分子量はいかなるものであってもよい。スチレン系重合体は、一般に添加剤として通常添加される量の添加剤、例えば、安定剤、静電防止剤、着色剤、発泡剤、難燃剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。
【0015】
本発明において、マンガン原子含有化合物は、例えば二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン、硝酸マンガン等であることができる。
マンガン原子含有化合物としては、1種のマンガン原子含有化合物を用いてもよいし、2種以上のマンガン原子含有化合物を用いてもよい。
【0016】
使用する硝酸は、特に高純度のものである必要はない。工業薬品として入手できる市販の硝酸をそのまま、或いは適宜希釈して使用することができる。回収硝酸を使用することもできる。
【0017】
使用する硝酸の濃度は、重量で好ましくは20〜100%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは40〜80%である。硝酸濃度と硝酸の比重との間には一定の関係があるから、硝酸は濃度で表す代わりに比重で表してもよい。例えば、濃度50wt%の硝酸の比重は1.30であり、濃度62wt%の硝酸の比重は1.37であり、濃度98wt%の硝酸の比重は1.49である。
使用する酢酸も特に高純度のものである必要はない。工業薬品として入手できる市販の酢酸をそのまま、或いは適宜希釈して使用することができる。回収酢酸を使用することもできる。
【0018】
特定のパラニトロ安息香酸の生成は、スチレン系重合体を、マンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱することによって行う。スチレン系重合体が固体である場合、その大きさは、反応容器に導入することができるために、ある程度以下の大きさであることが必要である。また、スチレン系重合体は、望ましい反応速度を確保するため、細かく分割されていて、表面積が大きいことが有利である。したがって、スチレン系重合体は、例えば細片状、微粒子状、粉末状であることが望ましい。
また、マンガン原子含有化合物が固体である場合、同様に、その大きさは、反応容器に導入することができるために、ある程度以下の大きさであることが必要である。
【0019】
スチレン系重合体に対して用いるマンガン原子含有化合物の割合は、重量で好ましくは1〜100%、より好ましくは3〜50%、最も好ましくは5〜30%である。一般に、マンガン原子含有化合物の割合が小さいと、パラニトロ安息香酸の収量は減少する。
スチレン系重合体に対して用いる硝酸の割合は、スチレンに由来する繰り返し単位に対するモル比で、好ましくは1〜100%、より好ましくは2〜80%、最も好ましくは5〜70%である。
【0020】
特定のパラニトロ安息香酸の生成は、例えば、反応容器にスチレン系重合体、マンガン原子含有化合物並びに硝酸及び任意に酢酸を導入することによって行う。スチレン系重合体、マンガン原子含有化合物並びに硝酸及び任意に酢酸を反応容器に導入する順序は如何なる順序でもよい。また、最初にスチレン系重合体の一部、マンガン原子含有化合物の一部及び硝酸の一部を反応容器に加え、後で残りを1度又は数度に分けて導入してもよい。この反応は、バッチ式反応容器で実施することもできるし、連続式反応容器で実施することもできる。
【0021】
硝酸と酢酸を使用する場合、硝酸に対する酢酸の割合は、重量で、好ましくは10〜500%、より好ましくは20〜300%、最も好ましくは50〜200%である。スチレン系重合体のパラニトロ安息香酸への反応を実施するときの反応圧力は、常圧、加圧及び減圧のいずれでもよいが、常圧又は加圧において実施するのが便利である。スチレン系重合体のパラニトロ安息香酸への反応の際の反応温度は、好ましくは0〜300℃、より好ましくは20〜200℃、最も好ましくは50〜150℃である。反応圧力として常圧を用い、反応温度として反応混合物の還流温度を用いることは簡単で便利であり、好ましい態様の一つである。スチレン系重合体のパラニトロ安息香酸への反応の反応時間は、一般に200時間以下、通常1〜100時間であることができる。
【0022】
反応混合物は、常法に従って処理することができる。例えば、下記の方法で処理することができる。
反応終了後、反応生成物から減圧下で、例えばアスピレータを使用して、揮発性成分を除去し、残留物を得る。このとき未反応の硝酸を回収することができる。残留物に適当な溶媒、例えば水、あるいは溶媒混合物、例えば30%エタノール水溶液を加えて加熱し(30%エタノール水溶液を使用したときは、例えば90℃に加熱し)、熱時濾過して、固体の不溶物を分離する。濾液は、例えば10℃以下に冷却して結晶を析出させ、析出した結晶を濾別する。このとき得られる濾液は減圧下で揮発成分の一部を除去して濃縮し、冷却してさらに結晶を析出させる。両方の結晶を合わせて乾燥し、生成物とする。
【0023】
生成物中の安息香酸、オルトニトロ安息香酸(o−ニトロ安息香酸)、メタニトロ安息香酸(m−ニトロ安息香酸)及びパラニトロ安息香酸(p−ニトロ安息香酸)の割合は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって求める。
スチレン系重合体をマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成する際に、反応終了時における系内の硝酸の比重が1.25〜1.50、好ましくは1.30〜1.50、より好ましくは1.35〜1.50となるようにして反応させると、パラニトロ安息香酸への変化率が増大し、パラニトロ安息香酸の選択率が高くなる。この反応は、例えば、特開平11−180934号公報(特許文献2)に記載されている製造方法及び装置を用いて実施することができる。
【0024】
上で説明した特定のパラニトロ安息香酸は、貴金属含有触媒の存在下において、加圧水素で還元することによって、パラアミノ安息香酸とすることができる。使用した貴金属含有触媒は、再使用することができる。
貴金属含有触媒は、好ましくはパラジウム触媒、白金触媒及びレニウム触媒から成る群から選択される貴金属含有触媒であり、より好ましくはパラジウム・カーボン粉末触媒及び白金・カーボン粉末触媒から成る群から選択される貴金属含有触媒である。
パラジウム・カーボン粉末触媒は、例えば20%パラジウム・カーボン粉末含水品、10%パラジウム・カーボン粉末乾燥品、10%パラジウム・カーボン粉末含水品、5%パラジウム・カーボン粉末乾燥品、5%パラジウム・カーボン粉末含水品、3%パラジウム・カーボン粉末乾燥品、3%パラジウム・カーボン粉末含水品、2%パラジウム・カーボン粉末乾燥品、2%パラジウム・カーボン粉末含水品であることができる。
また、白金・カーボン粉末触媒は、5%白金・カーボン粉末含水品、3%白金・カーボン粉末乾燥品、3%白金・カーボン粉末含水品、2%白金・カーボン粉末乾燥品、2%白金・カーボン粉末含水品、1%白金・カーボン粉末乾燥品、1%白金・カーボン粉末含水品等であることができる。
【0025】
加圧水素の圧力は、大気圧よりも大きい圧力、例えば1.1〜200atm、好ましくは1.5〜150atm、より好ましくは2〜100atmである。加圧水素による還元は、バッチ式反応容器で実施することもできるし、連続式反応容器で実施することもできる。
特定のパラニトロ安息香酸の貴金属含有触媒の存在下における加圧水素による還元は、0〜100℃、好ましくは0〜80℃、より好ましくは0〜50℃で実施することができる。
溶媒として水を使用することができるが、水以外にアルコール、例えばエチルアルコール等も使用することができる。また、溶媒として水とアルコールとの混合物、例えば水とエチルアルコールとの混合物、例えば水80容量%とエチルアルコール20容量%との混合物を使用することができる。作業の安全性や経済性を考慮すると、溶媒として水を使用することが有利である。
【0026】
驚くべきことに、市販のパラニトロ安息香酸に代えて、特定のパラニトロ安息香酸を用いた場合の方が、加圧水素による還元反応の反応速度が大きいことが見出された。また、意外なことに、特定のパラニトロ安息香酸をアルカリで精製して得たパラニトロ安息香酸を用いた場合と比べて、特定のパラニトロ安息香酸をアルカリで精製せずに用いた場合の方が、加圧水素による還元反応の反応速度が大きいことが見出された。
【0027】
このように、特定のパラニトロ安息香酸は、貴金属含有触媒の存在下において、極めて温和な条件において加圧水素で還元することによって、大きな反応速度で、高収率で且つ高選択率でパラアミノ安息香酸とすることができる。
本発明に係る方法は、従来の鉄と塩酸系による還元反応と比較して、廃液の処理負担が著しく軽減され、さらに、極めて温和な条件において還元反応が進行し、使用した触媒を再使用することができる等、多くの利点をもっている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、スチレン系重合体をマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、生成した特定のパラニトロ安息香酸を、貴金属含有触媒の存在下において加圧水素で還元することによって、大きな反応速度で、高収率で且つ高選択率で、パラアミノ安息香酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
スチレン系重合体を、二酸化マンガンの存在下で硝酸とともに加熱して、特定のパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、5重量%白金・カーボン粉末含水品(5wt%Pt/C;57.8wt%の水を含む)の存在下において加圧水素によって還元し、パラアミノ安息香酸を製造する。
【実施例】
【0030】
下記の実験で得られた反応生成物の同定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴法(NMR)、赤外分光法(IR)、元素分析法、原子吸光分析法によって行った。また、下記の実験で得られた反応生成物の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって行った。使用した機器名と測定方法を下に示す。
【0031】
A.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
使用機器:ウオーターズ社製 高速液体クロマトグラム 600E システム
測定方法:UV―VIS検出器 484
【0032】
B.核磁気共鳴法(NMR)
使用機器:日本電子(株)製 核磁気共鳴装置 JNM−GSE 400
測定方法:測定核種 プロトン(H)、炭素13
基準物質 テトラメチルシラン(TMS)
溶媒 重メタノール
【0033】
C:赤外分光法(IR)
使用機器:日本電子(株)製 フーリエ変換赤外分光装置 JIR−5×6160
測定方法:KBr粉末に試料を分散し、拡散反射法により測定
【0034】
D.元素分析法
使用機器:パーキンエルマー社製 2400型CHN元素分析装置
【0035】
E.原子吸光分析法
使用機器:パーキン・エルマー社製 AAnalyst 800
測定方法:フレーム原子吸光法
Mn原子吸光ランプ
【0036】
実験1
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って、特定のパラニトロ安息香酸を調製した。調製した特定のパラニトロ安息香酸は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴法(NMR)、赤外分光法(IR)により測定し、標準品と比較して同定した。
調製した特定のパラニトロ安息香酸の組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によると、パラニトロ安息香酸99.4モル%、メタニトロ安息香酸0.4モル%及びオルトニトロ安息香酸0.1モル%であった。
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸が含有するマンガン原子の量は、原子吸光分析により同定、定量した。特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸は、重量で230ppbのマンガン原子を含有していた。
【0037】
内容積400mlの耐圧ガラス瓶を有するスキータ・パール型反応装置(スキータ・パール型振盪式水素添加装置)に、特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を8.7g、5重量%パラジウム・カーボン粉末含水品(5wt%Pd/C;57.75wt%の水を含む)を0.5g、そして水を100ml装入した。次いで、耐圧ガラス瓶内の圧力が5.20atmになるまで水素ガスを圧入し、室温で反応させ、水素圧の変化によって反応を追跡した。圧入した水素は、理論消費量の50%が消費されるまでに16分が経過し、理論消費量の90%が消費されるまでに68分が経過した。
【0038】
反応終了後、反応混合物に200mlの水を加えて90〜100℃に加熱し、析出物を溶解した後、溶解せずに残った触媒を濾過し、濾液と分離した。濾液に少量の活性炭を加えて処理した後、活性炭を濾過し、濾液と分離した。濾液を10℃以下に冷却して一晩放置し、析出した針状晶を濾別し、風乾した後得られた固体(反応生成物)を秤量した。反応生成物の収量は、6.9g(96モル%)であった。
【0039】
反応生成物の同定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴法(NMR)、赤外分光法(IR)及び元素分析法によって行い、パラアミノ安息香酸であることを確認した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴法(NMR)及び赤外分光法(IR)による同定は、パラアミノ安息香酸の標準品と比較することによって行った。
【0040】
元素分析の結果は、次のとおりであった。

反応生成物の元素分析
炭素 水素 窒素
実測値 61.17% 5.04% 10.21%
計算値 61.30% 5.15% 10.22%

【0041】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量した反応生成物の組成は、パラアミノ安息香酸が99.58モル%、パラニトロ安息香酸が0.42モル%であった。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実験2
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸の量を、8.7gから10.0gに、触媒の種類と量を、5重量%パラジウム・カーボン粉末含水品(5wt%Pd/C;57.75wt%の水を含む)0.5gから5重量%白金・カーボン粉末含水品(5wt%Pt/C;57.8wt%の水を含む)0.54gに、溶媒の種類と量を、水100mlから20容量%エタノール水溶液100mlに、そして水素ガスの圧入圧力を、5.20atmから2.40atmに変えた以外は、実験1におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0044】
実験3
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸の量を、8.7gから16.7gに、触媒の種類と量を、5重量%パラジウム・カーボン粉末含水品(5wt%Pd/C)0.5gから5重量%白金・カーボン粉末含水品(5wt%Pt/C;57.8wt%の水を含む)0.85gに、溶媒の種類と量を、水100mlから水150mlに、そして水素ガスの圧入圧力を、5.20atmから3.40atmに変え、反応終了後に反応混合物に加える水の量を200mlから300mlに変えた以外は、実験1におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0045】
実験4
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸の量を、8.7gから8.4gに、触媒の種類と量を、5重量%パラジウム・カーボン粉末含水品(5wt%Pd/C)0.5gから2重量%白金・カーボン粉末含水品(2wt%Pt/C;54.45wt%の水を含む)1.0gに、そして水素ガスの圧入圧力を、5.20atmから3.02atmに変えた以外は、実験1におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0046】
実験5
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸の量を、8.7gから8.4gに、そして水素ガスの圧入圧力を、5.20atmから3.90atmに変えた以外は、実験1におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0047】
実験6
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸の量を、8.7gから8.4gに、触媒の種類と量を、5重量%パラジウム・カーボン粉末含水品(5wt%Pd/C;57.75wt%の水を含む)0.5gから5重量%レニウム・カーボン粉末(5wt%Re/C)0.3g+2重量%白金・カーボン粉末含水品(2wt%Pt/C;54.45wt%の水を含む)1.0gに、そして水素ガスの圧入圧力を、5.20atmから4.25atmに変えた以外は、実験1におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0048】
実験7
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸の量を、8.7gから8.4gに、触媒の種類と量を、5重量%パラジウム・カーボン粉末含水品(5wt%Pd/C;57.75wt%の水を含む)0.5gから2重量%白金・カーボン粉末含水品(2wt%Pt/C;54.45wt%の水を含む)1.0gに、そして水素ガスの圧入圧力を、5.20atmから2.90atmに変えた以外は、実験1におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
【0049】
実験8(比較実験)
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を、市販のパラニトロ安息香酸(関東化学株式会社製)に変え、そして水素ガスの圧入圧力を、2.90atmから4.30atmに変えた以外は、実験7におけると同様にして実験した。
市販のパラニトロ安息香酸(関東化学株式会社製)のマンガン原子の含有量は、重量で50ppbであった。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
表1に記載した実験7及び実験8の比較から、特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を、市販のパラニトロ安息香酸(関東化学株式会社製)に変えると、水素50%消費時の時間(min)が19分から40分に、水素90%消費時の時間(min)が56分から136分に変化していることが分かる。
即ち、特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を使用したときの水素の消費速度(反応速度)は、市販のパラニトロ安息香酸(関東化学株式会社製)を使用したときの水素の消費速度(反応速度)よりも大きいことが分かる。
【0050】
実験9(比較実験)
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、濾過して不溶物を除去し、次いで希塩酸を加えてパラニトロ安息香酸を遊離した。このようにしてアルカリで精製したパラニトロ安息香酸を得た。アルカリで精製したパラニトロ安息香酸のマンガン原子の含有量は、重量で70ppbであった。
特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を、アルカリで精製したパラニトロ安息香酸に変え、そして水素ガスの圧入圧力を、2.90atmから2.80atmに変えた以外は、実験7におけると同様にして実験した。
パラニトロ安息香酸の種類と量、触媒の種類と量、溶媒の種類と量、水素圧の変化、水素50%消費時の時間、水素90%消費時の時間、収量及び組成(反応生成物中のパラアミノ安息香酸のモル%及びパラニトロ安息香酸のモル%)を表1に示す。
表1に記載の実験7及び実験9の比較から、特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸を、アルカリで精製して得たパラニトロ安息香酸に変えると、水素50%消費時の時間(min)が19分から72分に、水素90%消費時の時間(min)が56分から160分に変化していることが分かる。
即ち、特開平11−180934号公報(特許文献2)の実施例1に記載の方法に従って調製した特定のパラニトロ安息香酸をアルカリで精製せずに使用したときの水素の消費速度(反応速度)は、アルカリで精製して得たパラニトロ安息香酸を使用したときの水素の消費速度(反応速度)よりも大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
染料、種々のエステル(局所麻酔剤)、現像液、葉酸等の製造に、また日焼け止めの成分等として使用することができるパラアミノ安息香酸を、大きな速度で、高収率で且つ高選択率で、製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系重合体を、マンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項2】
スチレン系重合体を、二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及び硝酸マンガンから選ばれる1種又は2種以上のマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項3】
スチレン系重合体を、二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及び硝酸マンガンから選ばれる1種又は2種以上のマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、パラジウム触媒、白金触媒及びレニウム触媒から成る群から選択される貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項4】
スチレン系重合体を、二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及び硝酸マンガンから選ばれる1種又は2種以上のマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱してパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、パラジウム・カーボン粉末触媒及び白金・カーボン粉末触媒から成る群から選択される貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項5】
スチレン系重合体を、マンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱して微量のマンガンイオンを含有するパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項6】
スチレン系重合体を、二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及び硝酸マンガンから選ばれる1種又は2種以上のマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱して微量のマンガンイオンを含有するパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項7】
スチレン系重合体を、二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及び硝酸マンガンから選ばれる1種又は2種以上のマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱して微量のマンガンイオンを含有するパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、パラジウム触媒、白金触媒及びレニウム触媒から成る群から選択される貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。
【請求項8】
スチレン系重合体を、二酸化マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及び硝酸マンガンから選ばれる1種又は2種以上のマンガン原子含有化合物の存在下で硝酸及び任意に酢酸とともに加熱して微量のマンガンイオンを含有するパラニトロ安息香酸を生成し、該パラニトロ安息香酸を、パラジウム・カーボン粉末触媒及び白金・カーボン粉末触媒から成る群から選択される貴金属含有触媒の存在下において加圧水素によって還元することを特徴とするパラアミノ安息香酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−84498(P2007−84498A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276954(P2005−276954)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【出願人】(501351151)株式会社オプティ (5)
【Fターム(参考)】