説明

パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。

【課題】 効率よく簡便な操作で、かつ安全性の高い工業的に優れたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法を提供する。
【解決手段】粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを、シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒から晶析し、単離する精製パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法に関し、さらに詳しくは、簡便かつ工業的に優れたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−ジケトナートパラジウム錯体の一種であるパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートは、有機合成反応、重合の分野の触媒、医薬品などの製造用原料、自動車排ガス浄化などの機能性無機化合物の製造用原料、無電解メッキの核剤、電極剤の原料など多岐にわたる分野で有用な化合物である。
【0003】
パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの製造方法は、たとえば塩化パラジウムと酸化水銀を反応させて生成する水和物イオンとヘキサフルオロアセチルアセトンを作用させる方法(非特許文献1、2)やアルカリ金属水酸化物水溶液とヘキサフルオロアセチルアセトンを作用させ、塩化パラジウムと反応させる方法(非特許文献3)などが知られている。一方、単離方法として、非特許文献1はクロロホルムを用いて抽出しており、またその後、昇華精製を行っている。また非特許文献2は、蒸発乾固を行っており、また晶析溶媒として、ノルマルヘキサンを使用している。さらに非特許文献3は、ジクロロメタンで抽出し、蒸発乾固後、さらに昇華精製を行っている。
【0004】
しかし、非特許文献1および3に記載されているクロロホルムやジクロロメタンは、催涙性があり、発ガン性が疑われている物質であり、工業的使用に関し、規制されている。また非特許文献1、2および3に記載されている蒸発乾固や昇華精製は、高価で特殊な設備を必要とすることから工業的製造法としては不適である。さらに昇華精製では、純度は高くなるものの、収率が低下してしまう。
【0005】
さらに非特許文献2で晶析溶媒をして記載されているノルマルヘキサンは、揮発性が高く、引火性が低いことから、安全上、好ましくない。
【0006】
これらいずれの方法においても、工業的使用には問題があり、高収率で、毒性の低い原料・反応剤を使用し、危険性の低い溶媒等を使用するパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離法が望まれていた。
【非特許文献1】Koordinatstionnaya Khimiya,14,67,(1988)
【非特許文献2】Bull.Chem.Soc.Jpn.,54,1085,(1981)
【非特許文献3】Inorganic Synthesis,27,316,(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、効率よく簡便な操作で、かつ安全性の高い工業的に優れたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の単離方法は、アルカリ金属水酸化物水溶液下で反応させて得られた粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートをシクロヘキサンと、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から晶析し、単離する方法からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の単離方法は、毒性、発ガン性、危険性が高い化合物や溶媒を使用せず、かつ高価な特殊設備を必要としない、工業的に優れたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の詳細を記載する。
【0011】
本発明のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法において、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートは、好ましくは、パラジウム塩とヘキサフルオロアセチルアセトンとをアルカリ金属水酸化物水溶液下で反応させて、粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを生成させて製造される。
【0012】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを製造する場合、アルカリ金属水酸化物水溶液としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの水溶液が用いることができるが、安価で入手容易な水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、好ましくは、0.01M(mol/L)〜10M(mol/L)である。また、アルカリ金属水酸化物は、ヘキサフルオロアセチルアセトンのモル数に対して2〜6倍モルの範囲で使用することが望ましい。
【0013】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを製造する場合、ヘキサフルオロアセチルアセトンは、安価な溶剤に希釈して使用することもできるが、原液のまま使用することができる。反応に必要なヘキサフルオロアセチルアセトンはPdモル数の2倍モル以上であるが、使用量はPdモル数に対して2〜6倍モルを使用することが好ましい。
【0014】
パラジウム塩としては、臭化パラジウム、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウムなどが挙げられる。またこれらパラジウム塩には、下記の式で表される、パラジウム塩のナトリウム、カリウム、アンモニウムなどとの錯塩も含まれる。
M2[PdX4]
(式中、Mは、Na、K、NH4、Xは、Br、Cl、NO2、CN、CH3、COOを示す。)
あるいは、
M2[PdY2]
(式中、MはNa、K、NH4Yは、SO4あるいは[COO]2を示す。)。
【0015】
パラジウム塩としては、さらにパラジウム塩のアンミン錯体、たとえばPdCl2(NH3)2、PdCl2(NH3)4、Pd(NO2)2(NH3)2、PdCl2(C2H8N2)2なども含まれる。またこれらパラジウム塩、錯塩、アンミン錯体は無水物、水和物のいずれかであっても構わない。入手の容易さから塩化パラジウムを用いることが望ましい。
【0016】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを製造する場合、ヘキサフルオロアセチルアセトンとアルカリ金属水酸化物水溶液を混合する際、また該混合液にパラジウム塩を加え反応させる場合も、温度を−10℃以上50℃以下に制御することが好ましい。
【0017】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを製造する場合、反応時間は、1〜20時間が好ましい。
【0018】
本発明のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法では、粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを、シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒を用いて、晶析させる。
【0019】
シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒の具体例としては、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ノルマルヘプタン、シクロヘプタン、ノルマルオクタン、シクロオクタン、ノルマルノナン、シクロノナン、ノルマルデカン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、オルソ-キシレン、メタ-キシレン、パラ-キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼンなどが挙げられる。濃縮晶析の溶剤への溶解度やスラリー濃度または乾燥工程の操作性および安全性を考慮するとノルマルヘプタンが特に好ましい。
【0020】
炭素数11以上の炭化水素系溶媒は、抽出溶媒から晶析、濾過で単離したパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの溶媒を除去する乾燥工程で、高温、高真空を必要とし特殊で高価な設備を必要とすることや、該パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの分解につながることから、不適当である。一方、炭素数5以下の低級炭化水素系溶媒は、揮発性が高く、引火点が低いことから、安全上、使用は不適当である。また、炭素数6の炭化水素系溶媒であるノルマルキヘサンは、揮発性が高く、引火点が低いことから、安全面に課題が多いため工業的製造に使用するには不適当である。
【0021】
シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒は、単独で使用することも可能であり、複数の溶媒を混合して使用してもよい。
【0022】
シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒の使用量は、十分に粗パラジウムヘキサフルオロアセトナートを溶解する量である、粗パラジウムヘキサフルオロアセトナートの3〜30重量倍が好ましい。さらに、経済的観点から、パラジウム塩の3〜20倍が特に好ましい。
【0023】
晶析温度は、−10℃から50℃が好ましく、さらに好ましくは、収量の観点から0〜40℃が好ましい。
【0024】
本発明のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法において、反応工程で得られた粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを含む反応液から、シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒から晶析する時、好ましくは、シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒で抽出し、該抽出溶液から濃縮晶析により単離する。シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒で抽出し、該抽出溶液から濃縮晶析により単離すると、粗結晶を単離する工程が省略できるので、経済性の観点から優れている。
【0025】
晶析溶媒と同じ溶媒を抽出溶媒とすることが好ましい。この場合、溶媒置換の煩雑な操作を必要としないため、経済的に有利である。
また、前記該抽出溶液を濃縮前に水洗することが好ましい。水洗によって、不純物が除去され高純度なパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを得ることができることから好ましい。
【0026】
該抽出溶液を水洗する工程の水の量は、粗パラジウムヘキサフルオロアセトナートの1〜20重量倍が好ましく、経済的観点から、3〜10重量倍がさらに好ましい。
【0027】
本発明のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法において、晶析後、濾過することで得られた湿体パラジウムヘキサフルオロアセトナートを乾燥し、溶媒を除去する方法としては、パラジウムヘキサフルオロアセトナートの分解を抑制する観点から低温かつ短時間で溶媒を除去することが好ましく、そのためにも、減圧下で乾燥することが望ましい。
【0028】
減圧度は、0.10MPa未満が好ましく、さらに好ましくは、0〜0.01MPaである。
【0029】
乾燥温度は、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの融点(99℃)以下であることが望ましく、分解を抑制する観点から90℃以下が好ましい。
【0030】
本発明の単離方法により得られたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートは、有機合成反応、重合の分野の触媒、医薬品などの製造用原料、自動車排ガス浄化などの機能性無機化合物の製造用原料、無電解メッキの核剤、電極剤の原用などの多岐にわたる分野で使用されており、安価かつ効率よく工業的に得られることの意義は大きい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により具体的に説明する。融点は、株式会社島津製作所製示差走査熱量計DSC−60で測定した。
【0032】
実施例1
撹拌装置、温度計、還流冷却器を装着した100ml四つ口フラスコに、1M(mol/L)の水酸化ナトリウム水溶液56ml(0.11mol)を入れ、溶液温度を0〜10℃に冷却し、その温度を維持したままヘキサフルオロアセチルアセトナート11.7g(0.056mol)を滴下した。そこに塩化パラジウム5.0g(0.028mol)を投入後、14hr撹拌し、粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを含む反応液を得た。ノルマルヘプタン75gを添加し、洗浄分液後、得られた抽出溶液を再度水25gで洗浄、分液した。該抽出溶液を減圧下濃縮後、0〜10℃で晶析し、濾過により湿体パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを得、50℃、10Torrで12hr乾燥することによりパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート10.5gを単離した(収率72%)。融点99.1℃(文献値99.5℃(非特許文献2))。
【0033】
実施例2
ノルマルヘプタンの代わりにシクロヘキサンを用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを単離した。得られたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの収率は71%であった。
【0034】
実施例3
ノルマルヘプタンの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを単離した。得られたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの収率は50%であった。
【0035】
比較例
ノルマルヘプタンの代わりに塩化メチレンを用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを製造した。しかしパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートは晶析により析出せず、塩化メチレンに溶解しており、目的のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを単離できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを、シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒から晶析し、単離するパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。
【請求項2】
晶析溶媒がノルマルヘプタンである請求項1に記載のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。
【請求項3】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを含む反応液が、アルカリ金属水酸化物水溶液下で反応させて得られた粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを含む反応液である請求項1または2に記載のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。
【請求項4】
粗パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを含む反応液から、シクロヘキサン、および、炭素数7〜10の炭化水素系溶媒から選ばれた少なくとも1種類の溶媒から抽出し、該抽出溶液から濃縮晶析により、単離する請求項1〜3記載のいずれかにパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。
【請求項5】
抽出溶液を濃縮前に水洗する請求項4に記載のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。
【請求項6】
単離されたパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートを減圧下、90℃以下で乾燥する請求項1〜5のいずれかに記載のパラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナートの単離方法。

【公開番号】特開2010−90046(P2010−90046A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260208(P2008−260208)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】