説明

パラフィンワックスを低水素圧接触脱ロウすることによる潤滑油収率の増大

パラフィン含有原料、好ましくは、シンガスから非シフトフィッシャー−トロプシュ触媒を用いて製造された原料の接触脱ロウを、比較的低い水素分圧で、一定の細孔構造を有する脱ロウ触媒の寿命に対する実質的な影響なしに達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラフィン含有炭化水素の接触脱ロウ方法に関する。より詳しくは、本発明は、予め決定されるか、または予め選択された流動点を有する潤滑油基油を、パラフィン含有原料を低水素分圧で接触脱ロウすることによって製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油基油をパラフィン含有原料の水素処理によって製造することは、周知である。例えば、潤滑油基油を製造するための原料の水素異性化または水素化分解である。これらのプロセスは、接触プロセスであり、通常、比較的高い水素圧、例えば水素分圧>3549kPa(500psig)で行われる。接触脱ロウは、水素処理の一形態であり、これは、潤滑油基油を製造する際に、パラフィンの異性化およびいくらかの水素化分解を含む。
【0003】
水素処理(即ち、潤滑油基油を製造するためのパラフィンの異性化、分解、脱ロウ)では常に、水素が用いられてきた。水素は、長期の触媒寿命を、例えば還元型コーク除去によって増進するのに重要であると考えられる。例えば特許文献1を参照されたい。接触脱ロウは、本質的に、n−パラフィンの分枝パラフィンへの転化である。即ち、特により低い温度における、ワックス質分子のより良好な流動特性を示す分子への転化である。接触脱ロウプロセスで通常用いられる水素分圧は、約1480kPa(200psig)〜約6996kPa(1000psig)以上の範囲である。例えば特許文献2を参照されたい。ここでは、この範囲の上端の水素圧が、触媒寿命の理由で好ましい。
【0004】
特許文献3には、大細孔触媒ゼオライトベータとの使用に際して、水素分圧597〜1599kPa(72〜2,305psig)が記載される。この特許では、触媒寿命またはTIR、即ち流動点またはくもり点などの生成物規格を保持するために必要な温度上昇要求が言及されない。大細孔ゼオライトベータは、典型的には、脱ロウ触媒ではなく異性化触媒に分類される。特許文献3によれば、これらの触媒を用いて製造された生成物は、当該のプロセスから得られる低い流動点およびくもり点を達成するためには、脱ロウされることが必要であろう。
【0005】
本発明者らは驚くべきことに、特徴の特定の組合せにより、3549kPa(500psig)未満と低い水素圧下、水素異性化に選択的な条件で接触脱ロウを行うことが可能であることを見出した。このとき、水素化分解は殆どまたは全くなく、潤滑油収率も良好で、触媒寿命の犠牲もなく、生成物は低い流動点およびくもり点を有する。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,872,968号明細書
【特許文献2】米国特許第5,614,079号明細書
【特許文献3】米国特許第5,362,378号明細書
【特許文献4】米国特許第3,832,449号明細書
【特許文献5】米国特許第4,104,294号明細書
【特許文献6】米国特許第4,375,573号明細書
【特許文献7】米国特許第4,397,827号明細書
【特許文献8】米国特許第4,448,675号明細書
【特許文献9】米国特許第4,423,021号明細書
【特許文献10】米国特許第5,075,269号明細書
【特許文献11】米国特許第3,354,078号明細書
【非特許文献1】J.シュレンカー(J.Schlenker)ら著「ゼオライト(Zeolites)」、1985年、第5巻、11月号、第355〜358頁
【非特許文献2】「ジャーナルオブキャタリシス(Journal of Catalysis)」、第4巻、第527頁、1965年
【非特許文献3】「ジャーナルオブキャタリシス(Journal of Catalysis)」、第6巻、第278頁、1966年
【非特許文献4】「ジャーナルオブキャタリシス(Journal of Catalysis)」、第61巻、第395頁、1980年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、n−パラフィン少なくとも80wt%を含む原料は、平均直径0.50nm〜0.65nmの一次元細孔構造を有するモレキュラーシーブおよび金属脱水素成分を含む触媒の存在下で、水素分圧3549kPa(500psig)未満で接触脱ロウされる。細孔の最大直径と最小直径の差は、好ましくは≦0.05nmである。これらのプロセス条件を用いることによって、以下に定義される触媒の失活速度は、16.7K(30゜F)/年未満の低いレベルで保持される。
【0008】
モレキュラーシーブは、例えば、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−22、SSZ−32、ゼオライトベータ、モルデナイトおよび希土類イオン交換されたフェリエライトである。
【0009】
脱水素成分は、通常金属成分である。好ましくは、マンガン、タングステン、バナジウム、亜鉛、クロム、モリブデン、レニウムまたは第VIII族金属(ニッケル、コバルト、貴金属(白金、パラジウムなど)など)である。
【0010】
触媒の失活速度は、TIRとして本明細書に報告される。即ち、予め決定された流動点(好ましくは−12℃未満)またはくもり点を保持するための「温度上昇要求」である。触媒の失活速度は、初期温度と、流動点またはくもり点の目標を保持するのに十分な特定期間の最後における温度と差によって決定される。
【0011】
本明細書に記載された特定の一連の特徴については、水素分圧を減少することにより、増大された触媒活性および増大された異性化収率が得られる。即ち、活性の増大は殆ど完全に異性化活性の増大であり、分解は殆ど起こらない。それにもかかわらず、本発明の特徴は、触媒寿命が犠牲とならないことを示す(通常は、水素分圧を低減することにより、低減された触媒寿命がもたらされるであろうが)。
【0012】
本発明の目的に対して、流動点はASTM D−5950によって決定され、くもり点はASTM D−5773によって決定される。モレキュラーシーブの細孔パラメーターは、X線回折によって決定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いられる原料は、パラフィン含有原料である。これは、n−パラフィン少なくとも80wt%、より好ましくはn−パラフィン90wt%超、更により好ましくはn−パラフィン95wt%超、更により好ましくはn−パラフィン98wt%を含む。原料は、一般に、221℃+(430°F+)、好ましくは232℃+(450°F+)、より好ましくは232〜649℃(450〜1200°F)の範囲で沸騰する(少量、例えば10%未満の649℃+(1200°F+)物質が存在するであろう)。好ましくは、原料は、n−パラフィン少なくとも90wt%を含み、221℃(430°F)超の範囲で沸騰する。
【0014】
原料は、好ましくは不飽和物が少ない。即ち、芳香族およびオレフィンの両者が少ない。好ましくは、不飽和物のレベルは、10wt%未満、好ましくは5wt%未満、より好ましくは2wt%未満である。また、原料は、窒素および硫黄が比較的少ない。例えば、それぞれが200ppm未満、好ましくはそれぞれが100ppm未満、より好ましくはそれぞれが50wppm未満である。フィッシャー−トロプシュ誘導原料が用いられる場合には、触媒を予備硫化する必要はなく、実際、予備硫化は回避すべきである。
【0015】
最も好ましくは、原料は、n−パラフィンを本質的に製造するフィッシャー−トロプシュ反応の生成物であり、更により好ましくは、フィッシャー−トロプシュプロセスは、非シフト触媒、例えばコバルトまたはルテニウム、好ましくはコバルトを含有する触媒を用いて行われる。フィッシャー−トロプシュ生成物を原料材として用いる利点は、この原料の高いn−パラフィン含有量および低いヘテロ原子含有量にある。
【0016】
触媒脱ロウ工程で用いられる触媒は、一次元細孔構造を有するモレキュラーシーブおよび金属脱水素成分を含む。これは、平均直径0.50nm〜0.65nmを有し、好ましくは最大直径および最小直径の間の差は≦0.05nmである。これには、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−22、SSZ−32、ゼオライトベータ、モルデナイトおよび希土類イオン交換されたフェリエライトなどのモレキュラーシーブが含まれる。好ましくは、ZSM−48触媒は、金属脱水素官能基を含んで用いられ、好ましくは白金またはパラジウム、もしくは白金およびパラジウムの両者、好ましくは白金を存在させて供給される。ZSM48に構造的に等価である他のゼオライトもまた用いられるであろう。EU−2、EU−11、およびZBM−30などである。ZSM−48が特に好ましい。これらのモレキュラーシーブに基づく触媒を用いることにより、低流動点の潤滑油を、低圧(3549kPa(500psig)未満)で、高収率で得ることが可能である。また、本方法は、低い触媒失活速度16.7K(30°F)/年未満によって特徴付けられる。
【0017】
モレキュラーシーブは当該技術において周知である。それらは、例えば非特許文献1に記載される。
【0018】
ZSM−48は、次の表1に示されるX線回折パターンによって特徴付けられる。物質は、更に、11.8±0.2オングストローム単位の範囲内に、単一線を示すという事実によって特徴付けられる。単一線が、表示された間隔に存在することにより、構造的に、ZSM−48が、近密関係の物質と区別される。近密関係の物質は、例えば、11.8±0.2オングストローム単位に二本の線、即ち二重線を有するZSM−12(特許文献4に記載される)、および表示された間隔に同じく二重線を有する高シリカZSM−12(特許文献5に記載される)である。
【0019】
【表1】

【0020】
値を、標準的な技術(即ち、銅のK−アルファ二重線を照射)で、シンチレーション計数管を備えた回折計によって決定した。ピークの高さIと、二倍θ(θはブラッグ角)の関数としての位置を、コンパクター(compactor)によって決定した。これらから、相対強度100I/I(Iは最強の線またはピークの強度)と、記録された線に相当するAの格子面間隔d(観測値)を計算した。表1には、強度が記号(W=弱い、S=強い、VS=非常に強い、M=中位、およびW〜M=弱〜中)によって示される(カチオンの型による)。ナトリウムイオンを他のカチオンでイオン交換することにより、格子面間隔の小シフトおよび相対強度の変動をいくらか有する、実質的に同じパターンが示される。特定の試料のケイ素/アルミニウム比によって、また引続くいずれかの熱処理によって、他の小変動が生じることがある。
【0021】
ZSM−48およびその調製方法は、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9および特許文献10に記載される。特許文献10に記載された調製方法は特に好ましい。この方法は、接触脱ロウプロセスに特に適切な触媒を調製するためのものである。
【0022】
脱水素成分は、好ましくは貴金属、通常はパラジウムまたは白金、もしくは白金およびパラジウムの両者である。白金が最も好ましい。脱水素成分は、通常、触媒の全重量を基準として0.01〜5.0wt%の量で存在する。好ましくは0.1〜1.5wt%である。これらの成分は、触媒またはモレキュラーシーブに置き換えられるか、その上に含浸されるか、または物理的にそれらと完全に混合されるであろう。これらの成分は、例えばモレキュラーシーブを金属含有イオンで処理することによって、モレキュラーシーブ中またはその上に含浸されるであろう。白金の場合には、適切な白金化合物には、塩化白金酸、二塩化白金、および種々の化合物(白金テトラ−アンモニア錯体を含む)が含まれる。
【0023】
本発明によれば、触媒を調製するのに用いられる金属化合物は、金属が化合物のカチオンで存在する化合物、およびそれが化合物のアニオンで存在する化合物に分けられるであろう。金属をイオン状態で含む化合物の両タイプが用いられるであろう。白金の場合には、白金金属が、カチオンまたはカチオン錯体の形態(例えばPt(NHCl)にある溶液は、特に有用である。
【0024】
触媒は通常、その使用に先立って、少なくとも部分的に脱水される。この脱水工程は、典型的には、水を触媒から除去するために行われる。過剰の水は、担体物質のスチーミング、金属の浸出または移動、生成物の汚染、もしくは他の望ましくない反応をもたらすであろう。脱水は、不活性雰囲気(空気、窒素等など)下、大気圧または準大気圧で、100〜600℃の範囲の温度に1〜48時間加熱することによってなされるであろう。脱水はまた、単に触媒を減圧下に置くことによって、より低い温度で行われるであろう。モレキュラーシーブ触媒は、広範に異なる粒度で形成される。概して、粒子は、粉末、細粒、または成形生成物の形状であろう。例えば、2メッシュ(タイラー(Tyler))のふるいを通過し、400メッシュ(タイラー)のふるい上に保持されるのに十分な粒度を有する押出し物である。触媒またはモレキュラーシーブが、例えば押出し成形によって成形される場合には、それは、乾燥前に押出し成形されるか、もしくは乾燥または部分乾燥され、次いで押出し成形されるであろう。
【0025】
更に、モレキュラーシーブを、温度、および本明細書の脱ロウ方法で用いられる他の条件に耐性がある母材物質と一体化することが望ましいであろう。これらの母材物質には、活性および不活性物質、並びに合成または天然ゼオライト、同様に粘土、シリカおよび/または金属酸化物(例えばアルミナ)などの無機物質が含まれる。後者は、天然に存在するものでもよく、シリカと金属酸化物の混合物を含む、ゼラチン状沈殿物、ゾルまたはゲルのいずれかの形態にあるものでもよい。モレキュラーシーブと共に(即ち、それと組合せて)、活性のある物質を用いることにより、本明細書の触媒の転化率および/または選択性が高められるであろう。不活性物質は、希釈剤として適切に機能して、所定プロセスにおける転化率の量を制御し、それにより生成物を、反応速度を制御するための他の手段を用いることなく、経済的にかつ秩序よく得ることができる。モレキュラーシーブはしばしば、天然の粘土(例えばベントナイトおよびカオリン)に組み込まれてきた。これらの物質は一部、触媒の結合剤として機能する。石油製油所において、触媒はしばしば乱暴な取扱いに付される傾向にあり、これが触媒を粉砕し、処理に問題を引起す粉末状物質にする。そのため、良好な破砕強度を有する触媒を提供することが望ましい。
【0026】
モレキュラーシーブと複合化されるであろう天然の粘土には、モンモリロナイトおよびカオリン系が含まれる。これには、亜ベントナイト、並びにディキシー(Dixie)、マクナミー(McNamee)、ジョージア(Georgia)およびフロリダ(Florida)粘土として一般に知られるカオリン、または主な鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライトまたはアナウキサイトである他のものが含まれる。これらの粘土は、当初に採掘された未処理の状態で用いてもよく、最初に焼成、酸処理または化学修飾に付してもよい。
【0027】
前記の母材物質に加えて、モレキュラーシーブは、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シリカ−チタニア、同様に三元組成物(シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−マグネシア、シリカ−マグネシア−ジルコニアなど)などの多孔質母材物質と複合化されうる。母材は、共ゲルの形態でありうる。これらの成分の混合物を用いてもよい。微細に粉砕されたモレキュラーシーブと母材物質の相対的な割合は、幅広く異なるであろう。一般に、モレキュラーシーブ含有量は、触媒の全重量の1〜90%、より一般には2〜80%の範囲である。
【0028】
本発明の好ましい触媒の一つは、アルミナ結合ZSM−48モレキュラーシーブである。これは、好ましくは、ゼオライト結晶10〜90wt%および白金2wt%以下を含む。これらの好ましい触媒は、フィッシャー−トロプシュ誘導ワックスの脱ロウにより長期間用いた後でも、失活が非常に少ないという利点を有する。
【0029】
一般に、脱ロウの反応条件は、水素分圧が低いレベルで保持される場合でさえ、幅広く異なりうる。従って、運転温度の始点は、288〜343℃(550〜650°F)で異なりうる。運転条件の終点は、製造されつつある生成物の性質によって定めることができる。例えば、予め決定された色相の規格がもはや満足され得なくなるとき(触媒失活の指標)、予め決定された流動点またはくもり点がもはや得られなくなるとき、或いは異性化に対する選択性が減少するとき(水素化分解によるメタン収率の増大によって示される)である。しかし一般には、運転温度の終点は427℃(800°F)未満、好ましくは399℃(750°F)未満、より好ましくは385℃(725°F)未満であろう。反応温度は、例えば288℃(550°F)〜約427℃(800°F)の範囲であろう。288〜385℃の範囲の反応温度は、特に良好な結果をもたらす。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、水素分圧は、所望の触媒寿命を犠牲にすることなく、適切に可能な限り低く保持される。触媒寿命は、所望の結果および脱ロウ方法の過酷度(即ち、より高い過酷度は、温度の上昇または原料速度の低減、もしくはその両方によって得られる)に応じ、より長いことも、より短いこともある。しかし、運転条件の終点では、触媒を賦活するか、賦活がもはや不可能である場合には置き換えるかのいずれかをしなければならない。いずれの場合においても装置を停止せねばならず、貴重な運転時間が失われる。本発明の方法はより低い触媒失活速度をもたらすので、より長期間装置への通油を続けられる。
【0031】
本発明の方法においては、触媒失活速度は、好ましくは13.9K(25°F)/年未満、より好ましくは11.1K(20°F)/年未満、更により好ましくは5.6K(10°F)/年未満である。脱ロウ条件におけるこれらの触媒失活速度は、通常は、本発明の方法が、予め決定された流動点−12℃未満を依然として満足しながら、触媒を置き換えることなく、少なくとも6ヶ月間、好ましくは少なくとも12ヶ月間、より好ましくは少なくとも18ヶ月間、更により好ましくは少なくとも24ヶ月間以上(例えば30ヶ月間超または36ヶ月間超)実行されることを可能にする。
【0032】
本発明の好ましい方法により、予め決定された流動点−21℃を満足するための触媒の温度上昇要求は、16.7℃(30゜F)/年未満、より好ましくは14℃(25゜F)/年未満、更により好ましくは11℃(20゜F)/年未満、更により好ましくは5.6℃(10゜F)/年未満である。
【0033】
触媒の失活は、触媒表面におけるコーク形成、触媒金属のコーク被覆、またはそれへの接近阻害、同様にゼオライトの細孔閉塞の結果であると考えられる。触媒は、知られた方法によって再生されうる。これには、高温水素ストリッピング、酸素処理によるコーク除去、または水素ストリッピングおよび酸素処理の組合せが含まれる。簡単に言えば、水素ストリッピングは、水素または水素と不活性ガス(窒素など)の混合物を用いて、異性化反応温度で、触媒がその最初のラインアウト活性の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%を回復するのを可能にするのに十分な時間行いうる。酸素処理は、焼成条件で行いうる。例えば、触媒が、引き続く還元後に最初のラインアウト活性の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%を回復するのを可能にするのに十分な時間、500〜650℃の温度で、再度空気が用いられる。
【0034】
触媒寿命要求は、3549kPa(500psig)未満、好ましくは2859kPa(400psig)未満、より好ましくは101.325kPa(0psig)超および2859kPa(400psig)未満の正水素分圧、最も好ましくは791〜2859kPa(100〜400psig)の範囲の水素分圧(791〜2515kPa(100〜350psig)、更により好ましくは約1136〜2515kPa(150〜350psig)など)で満足されうる。
【0035】
本発明の方法においては、原料を、水素分圧約3549kPa(500psig)未満を含む水素化脱ロウ条件下で、触媒と接触させる。プロセスの温度は、予め決定された流動点またはくもり点が満足されない場合には調節(上昇)される。流動点−12℃未満が好ましい。流動点約−18℃以下がより好ましい。
【0036】
水素分圧3549kPa(500psig)未満および流動点−12℃以下で、典型的な失活速度は、16.7K(30゜F)/年未満である。好ましくは、水素分圧3549kPa(500psig)未満および流動点約−18℃以下で、典型的な失活速度は、16.7K(30゜F)/年未満である。最も好ましい実施形態においては、水素分圧1136〜2515kPa(150〜350psig)および流動点約−21℃以下で、典型的な失活速度は、8.3K(15゜F)/年未満である。
【0037】
一般に、反応を阻害しない他のガスが存在してもよい。これらの他のガスは、窒素、メタン、または他の軽質炭化水素(反応中に製造されうる)でありうる。全圧は、13790kPa(2000psi)以下、好ましくは690〜13790kPa(100〜2000psi)、より好ましくは1034〜6895kPa(150〜1000psi)、更により好ましくは1034〜3447kPa(150〜500psi)の範囲でありうる。水素は、全ガスの50〜100vol%、好ましくは70〜100vol%、より好ましくは70〜90vol%を構成しうる。本明細書にいう低い水素分圧では、少量のオレフィンおよび芳香族が製造されうる。これらの成分を除去するのに、周知の条件で水素化精製することが必要なことがある。
【0038】
液空間速度は、一般に約0.1〜約10(原料容積/触媒容積/時間)、好ましくは一般に約0.5〜4である。水素/原料比は、一般に、101.325kPaおよび15.5℃の標準状態で、約17.8〜約1781、好ましくは約142.5〜約712.5(水素リットル/原料リットル)である。
【0039】
アルファ値は、標準触媒と比較した触媒の接触分解活性の指標であり、相対速度定数(ノルマルヘキサンの転化速度/触媒容積/単位時間)を定める。値は、アルファ値1(速度定数=0.016秒−1)としたシリカ−アルミナ分解触媒の活性に基づく。アルファ値の試験は、特許文献11、並びに非特許文献2、非特許文献3および非特許文献4に記載される。金属充填前の、本発明で用いられた触媒のアルファ値は、好ましくは約10〜約50の範囲である。
【0040】
特定の実施形態によれば、脱ロウ反応の生成物は更に、水素精製反応に付される。そのような反応は、周知のように、触媒を水素化精製触媒(存在する可能性のあるオレフィンおよび芳香族を所望の分飽和するのに十分な活性金属成分を含む)と接触させる工程からなる。
【0041】
本発明の方法で得られた生成物は、特に良好な特性を示す。本発明の方法はまた、良好な活性の保持を示しつつ、低価値の分解燃料生成物の収率を顕著に低下して、低流動点の潤滑油生成物を製造することを可能にする。
【0042】
次の実施例は、本発明を説明するのに資する。
【実施例】
【0043】
実施例1
この実施例は、水素分圧を3549〜1136kPa(500〜150psig)に減少した際に得られる、潤滑油基油の収率の利益を示す。ワイドカットフィッシャー−トロプシュ原料、例えば221℃+(430゜F+)原料を用いて、ZSM−48に関し、次の装置条件およびプロセス変数を検討した。
【0044】
接触脱ロウを、細流床反応器を模したダウンフロー反応器(等温反応器条件を保持するためサンドバスに浸漬)で行った。反応器は、非硫化ZSM−48触媒80ccを含んでいた。非硫化ZSM−48触媒は、全重量(ガラスビーズで希釈)を基準として、アルミナ母材35wt%をPt0.6wt%と共に含む。コバルトスラリー接触フィッシャー−トロプシュプロセスから得られた221℃+(430゜F+)ワックスの転化率を、温度によって制御した。
【0045】
プロセスを、304〜338℃(580〜640゜F)の範囲の温度で、反応器水素圧(反応器出口)1136〜3549kPa(150〜500psig)で運転した。水素処理ガス比は、101.325kPaおよび15.5℃の標準状態で、320.6〜445水素リットル/原料リットルであった。液空間速度は、1.25v/v/hrであった。
【0046】
液体生成物を、15/5蒸留装置によって分留して、次の留分を回収した。即ち、IBP/160℃(320゜F)、160℃/371℃(320/700゜F)、および371℃+(700゜F+)であった。371℃+(700゜F+)留分を、流動点およびくもり点、並びに動粘度および粘度指数について分析した。160℃/371℃(320/700゜F)留分を、くもり点について分析した。
【0047】
図1において、線A、BおよびCは、水素圧1136、1825および3549kPa(150、250および500psig)を指す。次の表2に示されるように、予め決定された流動点−21℃において、触媒活性は運転圧の低減と共に増大する。
【0048】
【表2】

【0049】
本発明は特に、本明細書に記載された脱ロウプロセスの動力学が、水素に関して負の二次であることを見出したことに基づく。それにより、収率は、水素分圧の減少と共に増大する。しかし、驚くべきことに、また普通の知見とは逆に、特定の条件および触媒を用いることによって、触媒の失活速度は、顕著に低く保持された。
【0050】
潤滑油に対する選択性は、水素圧の低減と共に増大した。図2では、線A、BおよびCは、ここでも水素圧1136、1825および3549kPa(150、250および500psig)を指す。流動点−21℃における潤滑油収率(即ち1−転化率)を、次の表3に各圧力に対して示す。
【0051】
【表3】

【0052】
データは、驚くべきことに、触媒活性および潤滑油選択性が、より低い圧力で増大したことを示す。従って、全潤滑油収率は増大した。
【0053】
それにもかかわらず、一般的な知見では、触媒寿命は実質的に、水素圧が低減すると共に低減し、従って短縮された通油期間およびより長い運転停止時間が導かれる。触媒寿命(および触媒の失活速度)に対する減少された水素圧の効果を決定するため、他の実験を、70日間に亘って、水素圧1136kPa(150psig)で行って、流動点−21℃の潤滑油基油が製造された。回帰では、失活速度は11.7K(21゜F)/年であり、二点活性検査では、失活速度は14.4K(26゜F)/年であった。
【0054】
従って、非常に低い水素圧での運転により、良好な失活速度がもたらされ、水素圧3549kPa(500psig)未満、好ましくは2859kPa(400psig)未満、より好ましくは1136kPa(150psig)未満(例えば963kPa(125psig)未満)、または791kPa(100psig)未満(例えば約619kPa(75psig)未満)は、失活速度約16.7K(30゜F)/年未満、好ましくは約13.9K(25゜F)/年未満、より好ましくは約8.3K(15゜F)/年未満を保持しつつ、異性化に対する選択性および増大された潤滑油収率の両者に有益であることが、明らかに示される。
【0055】
実施例2
実施例1に記載された反応器を、221℃+(430゜F+)ワイドカットフィッシャー−トロプシュワックス原料について運転して、脱ロウ装置の運転を1825kPa(250psig)で検討した。実施例1の触媒を同様に用いた。水素処理ガス比は、101.325kPaおよび15.5℃の標準状態で、445.3(水素リットル/原料リットル)(2500SCF/bbl)であった。液空間速度は1.0であった。温度を、潤滑油の流動点またはディーゼルのくもり点を満足するように調整した。ディーゼルのくもり点−15℃を満足するように運転された場合には、失活速度は、1K/年(1.8゜F/年)未満であった。結果を図4に示す。
【0056】
この装置を、ワイドカット潤滑油の流動点−21℃を満足するように運転することにより、失活速度3K/年(5.4゜F/年)が得られた。結果を図5に示す。
【0057】
実施例3
実施例1で用いたものと同じ原料を水素異性化し、異性化油を二つの留分に蒸留した。即ち、(i)371〜510℃(700〜950゜F)軽質カットおよび(ii)510℃+(950゜F+)重質カットである。各留分を、それぞれ流動点−21℃およびくもり点+8℃を満足するように、実施例1に記載された反応器および実施例2に記載された条件で処理した。各留分を4ヶ月間運転した。結果を図6および7に示す。図6には、留分(i)に対する失活速度(回帰による)約1.1K(2゜F)/年が示され、図7には、留分(ii)に対する失活速度(回帰による)約1.1K(2゜F)/年が示される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】温度℃(゜F)(横軸)に対する流動点℃(縦軸)のプロットである。これは、水素圧の低減と共に、触媒活性が増大することを示す。
【図2】流動点℃(横軸)に対する転化率%(縦軸)のプロットである。これは、水素圧の低減と共に、異性化に対する選択性が増大することを示す。
【図3】通油日数(横軸)に対する平均反応器温度℃(゜F)(縦軸)のプロットである。これは、流動点−21℃の潤滑油基油を、水素分圧1135.5kPa(150psig)で製造する際の、回帰による失活速度を示す。
【図4】水素圧1825kPa(250psig)における通油日数(横軸)に対する温度℃(縦軸)のプロットである。これは、ディーゼルのくもり点−15℃を満足する。
【図5】図4に類似のプロットである。これは、ワイドカット潤滑油基油の流動点−21℃を満足する。
【図6】通油日数(横軸)に対する反応器温度℃(゜F)(縦軸)のプロットである。これは、371〜510℃(700〜950゜F)異性化油の流動点−21℃を満足する。
【図7】通油日数(横軸)に対する反応器温度℃(゜F)(縦軸)のプロットである。これは、510℃+(950゜F+)異性化油のくもり点+8℃を満足する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも80重量%のn−パラフィンを含む原料を、水素分圧3549kPa(500psig)未満を含む脱ロウ条件で、平均直径0.50〜0.65nmの一次元細孔構造を有するモレキュラーシーブおよび金属脱水素成分を含む触媒と接触させる工程を含み、
前記触媒は、予め決定された流動点またはくもり点を満足するための温度上昇要求(TIR)によって測定される失活速度が16.6K/年(30゜F/年)未満であることを特徴とする接触脱ロウ方法。
【請求項2】
前記水素分圧は、101.325kPa(0psig)超であることを特徴とする請求項1に記載の接触脱ロウ方法。
【請求項3】
前記水素分圧は、2859kPa(400psig)未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の接触脱ロウ方法。
【請求項4】
前記水素分圧は、1136〜2514.5kPa(150〜350psig)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項5】
前記TIRは、13.9K/年(25゜F/年)未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項6】
前記パラフィン含有原料は、90重量%超のn−パラフィンを含み、430゜F超の範囲で沸騰することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項7】
前記原料は、フィッシャー−トロプシュプロセスから誘導され、それぞれ50wppm未満の窒素および硫黄を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項8】
前記脱水素成分は、白金、パラジウムまたはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項9】
前記モレキュラーシーブは、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−22、SSZ−32、ゼオライトベータ、モルデナイト、希土類イオン交換されたフェリエライトおよびそれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項10】
前記触媒は、10〜90重量%のZSM−48および2重量%以下の白金を含むアルミナ結合ZSM−48触媒であることを特徴とする請求項9に記載の接触脱ロウ方法。
【請求項11】
反応温度は、288〜427℃(550〜800゜F)の範囲であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項12】
全反応圧は、689〜13790kPa(100〜2000psi)の範囲であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項13】
脱ロウ生成物を、更に水素化精製に付すことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の接触脱ロウ方法。
【請求項14】
潤滑油基油またはディーゼル物質を製造するための、請求項1〜13のいずれかに記載の接触脱ロウ方法の用途。
【請求項15】
フィッシャー−トロプシュ生成物の流動点またはくもり点を向上するための請求項1〜13のいずれかに記載の接触脱ロウ方法の用途。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−502306(P2006−502306A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501187(P2005−501187)
【出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/033321
【国際公開番号】WO2004/033594
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】