説明

パルスレーザ加工装置およびパルスレーザ加工方法

【目的】パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度を向上させ、大型の被加工物表面の安定した微細加工とその高速化を可能にするパルスレーザ加工装置を提供する。
【構成】クロック信号を発生する基準クロック発振回路と、クロック信号に同期した第1および第2のパルスレーザビームを出射する第1および第2のレーザ発振器と、クロック信号に同期して第1および第2のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第1および第2のパルスピッカーと、第1および第2のパルスレーザビームとを合波し合波パルスレーザビームを生成する合波器と、クロック信号に同期して合波パルスレーザビームを1次元方向のみに走査するレーザビームスキャナと、被加工物を載置可能で上記1次元方向に直交する方向に移動するステージと、を備えることを特徴とするパルスレーザ加工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザビームにより被加工物表面を加工するパルスレーザ加工装置およびパルスレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば液晶パネルのようなフラットパネルディスプレイ(FPD)は、その大型化に伴い、例えばμmオーダーあるいはそれ以下の高精度の微細加工が大面積の領域に施された部材を必要としてきている。そして、従来の機械加工では作成が難しい、シート作成用大型ロール金型、止まり溝や深いマイクロレンズ用の微細形状をもつ金型、難削材等の微細加工について種々に検討されている。
【0003】
一方、パルス幅がピコ秒(ps)オーダー以下になる超短パルスレーザビームを用いたアブレーション加工により、例えば金属表面に1μm以下の微細パターンを容易に形成できることが知られている。そして、これまで、この超短パルスレーザ加工により、樹脂を含む高分子材、半導体材、ガラス材、金属材等からなる被加工物の表面を加工する技術について種々の方法が提示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
超短パルスレーザ加工では、生産性をあげるため加工時間の短縮が望まれる。加工時間を短縮するためには、繰り返し周波数をあげること、それと共にレーザ出力エネルギーをあげることが一般的である。
【0005】
このため、例えば、Nd:YVOを使用したpsレーザ、fsレーザが用いられる。さらに、基本波(ω)から非線形結晶であるBBO(β−BaB)、LBO(LiB)等を使用して、第2高調波(2ω)、第3高調波等を得て加工が行われている。もっとも、高繰り返し周波数で、かつ、高出力エネルギーを得るためにはビーム径を非常に小さくする必要がある。
【0006】
この場合、例えば、ビームプロファイルが悪くなる、非線形結晶のライフタイムが短くなる、非線形結晶から出力されるレーザビームの安定性が劣化する等の問題が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4612733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度を向上させ、大型の被加工物表面の安定した微細加工とその高速化を可能にするパルスレーザ加工装置およびパルスレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のパルスレーザ加工装置は、クロック信号を発生する基準クロック発振回路と、前記クロック信号に同期した第1のパルスレーザビームを出射する第1のレーザ発振器と、前記クロック信号に同期した第2のパルスレーザビームを出射する第2のレーザ発振器と、前記クロック信号に同期して前記第1のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第1のパルスピッカーと、前記クロック信号に同期して前記第2のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第2のパルスピッカーと、前記第1のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記第1のパルスピッカーを制御する第1のパルスピッカー制御部と、前記第2のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記第2のパルスピッカーを制御する第2のパルスピッカー制御部と、前記第1のパルスピッカーの後段に設けられ、前記第1のパルスレーザビームの出力を調整する第1のアッテネータと、前記第2のパルスピッカーの後段に設けられ、前記第2のパルスレーザビームの出力を調整する第2のアッテネータと、前記第1のアッテネータおよび前記第2のアッテネータの後段に設けられ、前記第1のパルスレーザビームと前記第2のパルスレーザビームとを合波し合波パルスレーザビームを生成する合波器と、前記クロック信号に同期して前記合波パルスレーザビームを1次元方向のみに走査するレーザビームスキャナと、被加工物を載置可能で前記1次元方向に直交する方向に移動するステージと、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記態様の装置において、前記ステージは、前記レーザビームスキャナからの走査角信号に基づき、前記1次元方向に直交する方向に移動することが望ましい。
【0011】
上記態様の装置において、被加工物の加工データを入力する入力部と、前記加工データを加工パターンに変換する加工パターン生成部と、前記加工パターンを第1の副加工パターンと第2の副加工パターンに分割する加工パターン分割部とをさらに備え、前記第1のパルスピッカー制御部が、前記第1の副加工パターンに基づき、前記第1のパルスピッカーを制御し、前記第2のパルスピッカー制御部が、前記第2の副加工パターンに基づき、前記第2のパルスピッカーを制御することが望ましい。
【0012】
上記態様の装置において、前記第1および第2の副加工パターンが、パルスレーザビームの光パルス数で記述した加工テーブルであることが望ましい。
【0013】
上記態様の装置において、前記レーザビームスキャナはガルバノメータ・スキャナにより構成され、前記パルスピッカーは音響光学素子(AOM)または電気光学素子(EOM)により構成されていることが望ましい。
【0014】
本発明の別の態様のパルスレーザ加工方法は、ステージに被加工物を載置し、クロック信号を発生し、前記クロック信号に同期した第1のパルスレーザビームを出射し、前記第1のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記クロック信号に同期して前記第1のパルスレーザビームの照射と非照射を切り替え、前記クロック信号に同期した第2のパルスレーザビームを出射し、前記第2のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記クロック信号に同期して前記第2のパルスレーザビームの照射と非照射を切り替え、前記第1のパルスレーザビームと前記第2のパルスレーザビームとを合波して合波パルスレーザビームを生成し、前記被加工物表面に、前記合波パルスレーザビームを前記クロック信号に同期してレーザビームスキャナにより1次元方向に走査し、前記合波パルスレーザビームを前記1次元方向に走査した後に、前記1次元方向に直交する方向に前記ステージを移動して、更に前記クロック信号に同期して前記合波パルスレーザビームを前記1次元方向に走査することを特徴とする。
【0015】
上記態様の方法において、前記ステージは、前記レーザビームスキャナからの走査角信号に基づき、前記1次元方向に直交する方向に移動することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度を向上させ、大型の被加工物表面の安定した微細加工とその高速化を可能にするパルスレーザ加工装置およびパルスレーザ加工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置の構成図である。
【図2】第1の実施の形態のガルバノメータ・スキャナを用いたレーザビームスキャナの説明図である。
【図3】第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置のレーザビームスキャナの走査の説明図である。
【図4】第1の実施の形態の加工パターンの定義形式の一例である加工テーブルの具体例を示す図である。
【図5】第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置のタイミング制御を説明する信号波形図である。
【図6】第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置のタイミング制御を説明する信号波形図である。
【図7】第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置のパルスピッカー動作のタイミング制御を説明する信号波形図である。
【図8】第1の実施の形態による被加工物の加工を説明する模式図である。
【図9】第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置による一加工例を示す図である。
【図10】図9の加工における特定の1次元方向の走査を示す図である。
【図11】図9の加工における特定のレイヤについての2次元加工を示す図である。
【図12】第2の実施の形態の製造方法により形成される金型の加工例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態のパルスレーザ加工装置およびパルスレーザ加工方法について説明する。
【0019】
本明細書中、ある部材がある部材の「前段にある」、「後段にある」とはレーザビームの進行方向を基準にした概念である。したがって、ある部材に対しレーザビームの進行方向側の部材が「後段にある」部材となる。
【0020】
(第1の実施の形態)
本実施の形態のパルスレーザ加工装置は、クロック信号を発生する基準クロック発振回路と、クロック信号に同期した第1のパルスレーザビームを出射する第1のレーザ発振器と、クロック信号に同期した第2のパルスレーザビームを出射する第2のレーザ発振器と、クロック信号に同期して第1のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第1のパルスピッカーと、クロック信号に同期して第2のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第2のパルスピッカーと、第1のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、第1のパルスピッカーを制御する第1のパルスピッカー制御部と、第2のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、第2のパルスピッカーを制御する第2のパルスピッカー制御部と、第1のパルスピッカーの後段に設けられ、第1のパルスレーザビームの出力を調整する第1のアッテネータと、第2のパルスピッカーの後段に設けられ、第2のパルスレーザビームの出力を調整する第2のアッテネータと、第1のアッテネータおよび第2のアッテネータの後段に設けられ、第1のパルスレーザビームと第2のパルスレーザビームとを合波し合波パルスレーザビームを生成する合波器と、クロック信号に同期して合波パルスレーザビームを1次元方向のみに走査するレーザビームスキャナと、被加工物を載置可能で1次元方向に直交する方向に移動するステージと、を備える。
【0021】
本実施の形態のパルスレーザ加工装置は、同一のクロック信号に同期される複数のレーザ発振器を備え、これらから発せられるパルスレーザビームを合波して被加工物に照射することを可能とする。すなわち、複数のレーザ系を備え、複数のレーザ系から得られるパルスレーザビームを合波する。合波されたパルスレーザビームにより、加工時のレーザビームの高出力化、高繰り返し周波数化が実現できる。
【0022】
また、本実施の形態のパルスレーザ加工装置は、レーザ発振器のパルス、パルスレーザビームの通過と遮断およびレーザビームスキャナの走査を、同一の基準クロック信号に直接または間接的に同期させる。このように、レーザ系とビーム走査系の同期を維持することで、パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度を向上させる。
【0023】
そして、さらに、パルスレーザビームの光パルス数に基づき、パルスレーザビームの通過と遮断を制御することを可能にする。これにより、レーザ発振器のパルス、パルスレーザビームの通過と遮断およびレーザビームスキャナの走査の同期維持が容易になる。また、制御回路の構成が簡略化できる。本実施の形態のパルスレーザ加工装置は、パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度を一層向上させるとともに、大型の被加工物表面の安定した微細加工とその高速化を容易に実現する。
【0024】
図1は、本実施の形態のパルスレーザ加工装置の構成図である。パルスレーザ加工装置10は、その主要な構成として、加工データ入力部11、第1のレーザ発振器12a、第2のレーザ発振器12b、第1のパルスピッカー14a、第2のパルスピッカー14b、第1のビーム整形器16a、第2のビーム整形器16b、第1のアッテネータ17a、第2のアッテネータ17b、合波器40、レーザビームスキャナ18、XYステージ部20、第1のパルスピッカー制御部22a、第2のパルスピッカー制御部22b、加工パターン分割部50および加工制御部24を備えている。加工制御部24には所望のクロック信号S1を発生する基準クロック発振回路26、分周器52、加工パターン生成部54が備えられている。
【0025】
基準クロック発振回路26では基準クロック信号S1が生成される。基準クロック信号S1は分周器52により、第1のクロック信号S1aと第2のクロック信号S1bとに分周される。第1のクロック信号S1aと第2のクロック信号S1bとは、例えば、相互間位相を180度ずらしたクロック信号である。また、例えば、それぞれ周波数が基準クロック信号S1の半分となっている。
【0026】
第1のレーザ発振器12aは、第1のクロック信号S1aに同期したパルスレーザビームPL1aを出射するよう構成されている。すなわち、基準クロック信号S1に同期したパルスレーザビームPL1aを出射する。このレーザ発振器12aは、超短パルスであるps(ピコ秒)レーザビームあるいはfs(フェムト秒)レーザビームを発振するものが望ましい。
【0027】
ここで第1のレーザ発振器12aから射出されるレーザ波長は被加工物の光吸収率、光反射率等を考慮して選択される。例えば、Cu、Ni、難削材であるSKD11等を含む金属材料あるいはダイヤモンドライク・カーボン(DLC)からなる被加工物の場合、Nd:YAGレーザの第2高調波(波長:532nm)を用いることが望ましい。
【0028】
第1のパルスピッカー14aは、第1のレーザ発振器12aの後段、レーザビームスキャナ18の前段の光路に設けられる。そして、第1のクロック信号S1aに同期して、すなわち基準クロック信号S1に同期して第1のパルスレーザビームPL1aの通過と遮断(オン/オフ)を切り替えることで被加工物(ワークW)の加工と非加工を切り替えるよう構成されている。このように、第1のパルスピッカー14aの動作により第1のパルスレーザビームPL1aは、被加工物の加工のためにオン/オフが制御され変調された第1の変調パルスレーザビームPL2aとなる。
【0029】
第1のパルスピッカー14aは、例えば音響光学素子(AOM)で構成されていることが望ましい。また、例えばラマン回折型の電気光学素子(EOM)を用いても構わない。
【0030】
第1のビーム整形器16aは、入射した第1のパルスレーザビームPL2aを所望の形状に整形された第1のパルスレーザビームPL3aとする。例えば、ビーム径を一定の倍率で拡大するビームエクスパンダである。また、例えば、ビーム断面の光強度分布を均一にするホモジナイザのような光学素子が備えられていてもよい。また、例えばビーム断面を円形にする素子や、ビームを円偏光にする光学素子が備えられていても構わない。
【0031】
第1のアッテネータ17aは、第1のパルスピッカー14aの後段に設けられ、第1のパルスレーザビームPL3aの出力を調整し、第1のパルスレーザビームPL4aとして出射する。例えば、第1のアッテネータ17aは第1のパルスレーザビームPL4aの出力をビームサンプラーでモニタし、このビームサンプラーのモニタ結果に基づきコントローラーで第1のパルスレーザビームPL3aを所望の出力に調整し、第1のパルスレーザビームPL4aとする。
【0032】
第2のレーザ発振器12bは、第2のクロック信号S1bに同期したパルスレーザビームPL1bを出射するよう構成されている。すなわち、基準クロック信号S1に同期したパルスレーザビームPL1bを出射する。このレーザ発振器12bは、超短パルスであるps(ピコ秒)レーザビームあるいはfs(フェムト秒)レーザビームを発振するものが望ましい。
【0033】
ここで第2のレーザ発振器12bから射出されるレーザ波長は被加工物の光吸収率、光反射率等を考慮して選択される。例えば、Cu、Ni、難削材であるSKD11等を含む金属材料あるいはダイヤモンドライク・カーボン(DLC)からなる被加工物の場合、Nd:YAGレーザの第2高調波(波長:532nm)を用いることが望ましい。
【0034】
第2のパルスピッカー14bは、第1のレーザ発振器12bの後段、レーザビームスキャナ18の前段の光路に設けられる。そして、第2のクロック信号S1bに同期して、すなわち基準クロック信号S1に同期して第2のパルスレーザビームPL1bの通過と遮断(オン/オフ)を切り替えることで被加工物(ワークW)の加工と非加工を切り替えるよう構成されている。このように、第2のパルスピッカー14bの動作により第2のパルスレーザビームPL1bは、被加工物の加工のためにオン/オフが制御され変調された第2の変調パルスレーザビームPL2bとなる。
【0035】
第2のパルスピッカー14bは、例えば音響光学素子(AOM)で構成されていることが望ましい。また、例えばラマン回折型の電気光学素子(EOM)を用いても構わない。
【0036】
第2のビーム整形器16bは、入射した第1のパルスレーザビームPL2aを所望の形状に整形された第2のパルスレーザビームPL3aとする。例えば、ビーム径を一定の倍率で拡大するビームエクスパンダである。また、例えば、ビーム断面の光強度分布を均一にするホモジナイザのような光学素子が備えられていてもよい。また、例えばビーム断面を円形にする素子や、ビームを円偏光にする光学素子が備えられていても構わない。
【0037】
第2のアッテネータ17bは、第2のパルスピッカー14bの後段に設けられ、第2のパルスレーザビームPL3bの出力を調整し、第2のパルスレーザビームPL4bとして出射する。例えば、第2のアッテネータ17bは第2のパルスレーザビームPL4bの出力をビームサンプラーでモニタし、このビームサンプラーのモニタ結果に基づきコントローラーで第2のパルスレーザビームPL3bを所望の出力に調整し、第2のパルスレーザビームPL4bとする。
【0038】
合波器40は、例えば、第1のミラー40aと第2のミラー40bとで構成される。第1のミラー40aは例えば折り返しミラーであり、第2のミラー40bは例えばハーフミラーである。第1のミラー40aは、例えば、ピエゾ素子を利用した駆動系を備えたホルダーで保持され、微細な位置調整を可能としている。合波器40は、位相が、例えば180度ずれた第1のパルスレーザビームPL4aと第2のパルスレーザビームPL4bを合波して合波パルスレーザビームPL5を生成する。
【0039】
このように、別個のレーザ発振器で生成された2系列のパルスレーザビームを合波して合波パルスレーザビームを生成することで、高繰り返し周波数で高出力エネルギーを、レーザ発振器の信頼性を確保した上で実現することが可能となる。
【0040】
レーザビームスキャナ18は、クロック信号S1に同期して合波パルスレーザビームPL5を、1次元方向のみに走査するよう構成されている。このように、クロック信号S1に同期して合波パルスレーザビームPL5を走査することにより、パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度が向上する。
【0041】
また、1次元方向のみの走査とすることによっても、パルスレーザビームの照射スポットの位置決め精度の向上を図ることができる。なぜなら、2次元方向の走査を行うレーザビームスキャナは、構造上1次元方向のみ走査するレーザビームスキャナに対してビームの位置精度が劣化するためである。
【0042】
レーザビームスキャナ18としては、例えば1軸スキャンミラーを備えたガルバノメータ・スキャナが挙げられる。
【0043】
図2は、ガルバノメータ・スキャナを用いたレーザビームスキャナの説明図である。
【0044】
ガルバノメータ・スキャナは、1軸スキャンミラー28、ガルバノメータ30、レーザビームスキャナ制御部32を有している。ここで、ガルバノメータ30は、例えば走査角センサ36からのフィードバックによるサーボ制御のようなスキャンミラー回転の駆動機構を備えている。
【0045】
加工制御部24からは、クロック信号S1に同期した走査指令信号S2が送られる。そして、ガルバノメータ30は、走査指令信号S2に基づくレーザビームスキャナ制御部32からの駆動信号S3により駆動制御されるよう構成されている。ガルバノメータ・スキャナは、1軸スキャンミラー28により全反射する合波パルスレーザビームPL5を、図2の矢印に示すようにスキャンミラーの回転運動(首振り)に従い走査する。
【0046】
レーザビームスキャナ18には、走査角センサ36が備えられている。ガルバノメータ・スキャナの場合には、その1軸スキャンミラー28の回転位置をロータリエンコーダ等によって検出する構造になっている。そして、走査角センサ36は検出した走査角検出信号S4をレーザビームスキャナ制御部32に送り、ガルバノメータ30の駆動制御用として使用する。また、レーザビームスキャナ制御部32は、走査角検出信号S4に基づき走査角信号S5を加工制御部24に送信する。
【0047】
そして、上記1軸スキャンミラー28で反射した合波パルスレーザビームPL5は、fθレンズ34を通り、1次元方向に、例えば一定の速度Vで並行して走査される像高H=fθの合波パルスレーザビームPL6となる。そして、この合波パルスレーザビームPL6が、XYステージ部20上に保持される被加工物Wの表面を微細加工する照射パルス光として、被加工物W上に投射される。
【0048】
レーザビームスキャナ18には、ガルバノメータ・スキャナの他に、例えば、ポリゴン・スキャナ、ピエゾ・スキャナ、またはレゾナント・スキャナ等を適用することも可能である。
【0049】
上記いずれのレーザビームスキャナであっても、加工を行う範囲で一定の走査速度Vが確保できるように制御するよう構成されることが、加工精度を上げる観点から重要である。
【0050】
図3は、本実施の形態のパルスレーザ加工装置のレーザビームスキャナの走査を説明する図である。図3に示すように、スキャンミラーの走査角範囲の走査開始位置から走査終了位置に対応する位置範囲には、加速期間、安定域、減速期間がある。加工精度をあげるためには、実際の加工範囲が含まれる安定域内で走査速度Vが一定となるよう制御するよう装置が構成されることが重要である。
【0051】
XYステージ部20は、被加工物Wを載置可能で、パルスレーザビームが走査される1次元方向に直交する方向を含むXY方向に自在に移動できるXYステージ、その駆動機構部、XYステージの位置を計測する例えばレーザ干渉計を有した位置センサ等を備えている。ここで、XYステージは、2次元の広範囲、例えば1m程度のX方向およびY方向の距離範囲で、連続移動あるいはステップ移動できるようになっている。そして、その位置決め精度および移動誤差がサブミクロンの範囲の高精度になるよう構成されている。
【0052】
加工データ入力部11では、被加工物の加工データが入力される。加工データは、例えば、例えば、3次元形状の指定、寸法、形状の数、配置、ワークの材料名、ワークの寸法等で構成されている。3次元形状の指定は、例えば、被加工物の加工後の形状がカラーデータとして含まれるビットマップ形式のデータにより行われる。加工データ入力部11は、例えば、加工データが記憶される記憶媒体、例えば半導体メモリやDVD(Degital Video Disk)等の記憶媒体読み取り装置である。
【0053】
加工制御部24は、加工データ入力部11から入力される加工データに基づき、パルスレーザ加工装置による加工を統合して制御する。加工制御部24は、基準クロック信号S1を発生する基準クロック発振回路26、基準クロック信号S1を第1のクロック信号S1a、第2のクロック信号S1bに分周する分周器52を備えている。
【0054】
さらに、加工制御部24は、加工データ入力部11から入力される加工データから、実際の加工に即したパラメータのデータの加工パターンに変換する加工パターン生成部54を備える。加工データは加工パターン生成部54の加工データ解析部で解析される。そして、加工に使用されるレーザの発振器動作、ビーム走査条件である照射パルスエネルギー、ビームスポット径、繰り返し周波数、走査速度、ステージ送り量等の条件から単位光パルスの加工量が経験的に得られる。
【0055】
上記条件を基に、更に3次元形状から2次元レイヤに分解し、レイヤ毎のビットマップデータ等による2次元データに変換する。この2次元データからパルスピッカーの動作データ(加工パルス数、非加工パルス数、待機長パルス数)に変換する。
【0056】
加工パターン生成部54で生成される加工パターンは、例えば、レーザビームの走査毎の待機長、加工長、非加工長がパルス数を単位として記述された加工テーブルである。加工データ生成部では、例えば、合波された後の合波パルスレーザビームのパルス数を単位として記述された加工テーブルを生成する。
【0057】
図4は、加工パターンの定義形式の一例である加工テーブルの具体例を示す図である。ある1レイヤの加工テーブルを示している。図4に示すように、加工テーブルは、例えば、加工パターンについて、待機長、加工長や非加工長をパルスレーザビームの光パルス数に基づき記載する。また、図4中、ステージ送り(μm)とは、レーザビームスキャナ18によるX方向の走査が終了した後、XYステージ部によりX方向に直交するY方向に移動される移動距離である。
【0058】
加工パターン分割部50では、加工パターン生成部54で生成された加工パターンを、第1の副加工パターンと第2の副加工パターンに分割する機能を備える。第1の副加工パターンは第1のパルスレーザビームPL1aから第1のパルスレーザビームPL2aを生成するために用いられる。また、第2の副加工パターンは第2のパルスレーザビームPL1bから第2のパルスレーザビームPL2bを生成するために用いられる。
【0059】
第1の副加工パターンは、例えば、レーザビームの走査毎の待機長、加工長、非加工長が第1のパルスレーザビームPL1aのパルス数を単位として記述された加工テーブルである。また、第2の副加工パターンは、例えば、レーザビームの走査毎の待機長、加工長、非加工長が第2のパルスレーザビームPL1bのパルス数を単位として記述された加工テーブルである。例えば、図4に示した加工テーブルの各ライン(各走査)のデータが、2つのレーザ系列用に2つに分割された形式を備える。
【0060】
第1の副加工パターンは、第1のパルスピッカー制御部22aに転送され、第1のパルスピッカー14aの制御に用いられる。また、第2の副加工パターンは、第2のパルスピッカー制御部22bに転送され、第2のパルスピッカー14bの制御に用いられる。
【0061】
加工制御部24、加工パターン分割部50は、半導体集積回路からなるマイクロコンピュータ(MCU)、マイクロプロセッサ(MPU)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、半導体メモリ、回路基板等のハードウェアまたはこれらのハードウェアとソウトウェアとの組み合わせにより構成されている。
【0062】
次に、上記パルスレーザ加工装置10を用いたパルスレーザ加工方法について説明する。このパルスレーザ加工方法は、ステージに被加工物(ワーク)を載置し、クロック信号を発生し、クロック信号に同期した第1のパルスレーザビームを出射し、第1のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、クロック信号に同期して第1のパルスレーザビームの照射と非照射を切り替え、クロック信号に同期した第2のパルスレーザビームを出射し、第2のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、クロック信号に同期して第2のパルスレーザビームの照射と非照射を切り替え、第1のパルスレーザビームと第2のパルスレーザビームとを合波して合波パルスレーザビームを生成し、被加工物表面に、合波パルスレーザビームをクロック信号に同期して1次元方向に走査し、合波パルスレーザビームを1次元方向に走査した後に、1次元方向に直交する方向にステージを移動して、更にクロック信号に同期して合波パルスレーザビームを1次元方向に走査する。
【0063】
図5および図6は、本実施の形態のパルスレーザ加工装置のタイミング制御を説明する信号波形図である。ステージに載置されるワークWを加工する際、第1および第2のレーザ発振器12a、12bは、内蔵する制御部によりレーザ発振の大半が制御され自律して動作する。もっとも、図5に示すように基準クロック発振回路により生成される周期Tpの基準クロック信号S1から分周された第1のクロック信号S1a、第2のクロック信号S1bにより、パルス発振のタイミングの制御が行われる。
【0064】
このようにして、基準クロック信号S1に同期した第1のパルスレーザビームPL1a、および、第2のパルスレーザビームPL1bが出射される。第1のクロック信号S1aと第2のクロック信号S1bは位相が180度異なるよう分周されているため、第1のパルスレーザビームPL1aと第2のパルスレーザビームPL1bも位相が180度異なっている。
【0065】
第1のパルスレーザビームPL1aと第2のパルスレーザビームPL1bが合波器40により合波されることにより、合波パルスレーザビームPL5が生成される。
【0066】
レーザビームスキャナ18は、走査起動信号S11に基づき図3に示す走査開始位置(走査原点)で走査起動する。この時、レーザビームスキャナ18は図5に示すように、基準クロック信号S1の立ち上がり(立下りでもよい)に同期した、加工制御部24で生成される周期Tsの走査指令信号S2により指示を受ける。そして、この走査指令信号S2に基づき、レーザビームスキャナ制御部32がガルバノメータ30の駆動制御を行う。
【0067】
このように、レーザビームスキャナ18により、基準クロック信号S1に同期してパルスレーザビームを1次元方向に走査する。この時、パルスレーザビームの照射と非照射を切り替えることで、ワークW表面にパターンを加工する。なお、走査指令信号S2は、XY2−100プロトコルに対応することで、例えば、100kHz(Ts=10μsec)での、ガルバノメータ30の走査角「0度」位置を基準とする絶対走査角指令に従う。
【0068】
1次元方向に合波パルスレーザビームPL6を走査した後に、上記1次元方向に直交する方向にステージを移動して、更に上記基準クロック信号S1に同期して合波パルスレーザビームS6を上記1次元方向に走査する。このように、パルスレーザビームの1次元方向の走査と、上記1次元方向に直交する方向にステージの移動が交互に行われる。
【0069】
ここで、レーザビームスキャナ18からの走査角信号S5が、XYステージ部の移動タイミングを指示する。レーザビームスキャナ18の1次元走査方向をX軸方向とすると、上記移動タイミングにより、Y軸方向の所定幅のステップ移動あるいは連続移動がなされる。その後、パルスレーザビームをX方向に走査する。
【0070】
ここで、図3の加速期間では、走査速度が早期に安定した走査速度Vになるように、走査指令信号S2によるレーザビームスキャナ18の制御を行う。最適条件での1軸スキャンミラー28の走査角繰り返し再現性は、安定域では10μrad/p−p程度が得られることが経験的に明らかである。この値は、焦点距離が100mmのfθレンズとした場合、1μm/p−pの走査位置再現性になる。
【0071】
もっとも、加速期間における走査速度Vの繰り返し安定性は、長期の走査において10倍程度まで悪化する。このため、図3における加工原点の位置が走査ごとに変動する恐れがある。そこで、加速期間終了後、充分に安定した領域で、パルスレーザビームPL1の発振と、ビーム走査との同期をとるための同期角(θsy)を設定する。充分に安定した領域に達するまでの走査角範囲は、例えば、加速期間が1msec〜1.5msecで、焦点距離が100mmのfθレンズとした場合、約2.3度〜3.4度である。
【0072】
そして、図6に示すように、この同期角を走査角センサ36が同期角検出信号S12として検出する。そして、同期角を検出する時に走査開始位置からの走査角θに対応する走査指令信号S2との位相差θiを求める。そして、この位相差θに基づき、走査指令信号S2に対する加工原点までの距離を補正する。
【0073】
上記加工原点までの距離の補正値は、加工時の第1回目の走査(i=1)を基準補正値として記憶させる。そして、以後のi=nとなる第n回目の走査開始位置からの走査の都度、位相差θと位相差θの差分を第n回目走査の第1回目走査に対する走査指令信号S2に対する加工原点までの距離補正値とする。求められた距離補正値は、走査開始位置からの走査角θに対する走査指令信号(S2:絶対走査角指令)以降の走査指令信号(S2)に与えることで、加工原点位置が補正される。このようにして、レーザビームスキャナ18の加速期間における走査速度がばらついたとしても、第1回目走査時と第n回目走査時の加工原点位置を一致させることが可能となる。
【0074】
以上のように、1次元方向に合波パルスレーザビームPL6を走査した後に、上記1次元方向に直交する方向にステージを移動して、更に上記基準クロック信号S1に同期して合波パルスレーザビームPL6を上記1次元方向に走査する場合において、走査ごとの加工原点位置が一致し、加工精度が向上する。
【0075】
そして、上記、1次元方向に合波パルスレーザビームPL6を走査する際に、合波パルスレーザビームPL6の光パルス数に基づき、上記基準クロック信号S1に同期して合波パルスレーザビームPL6の照射と非照射を切り替える。パルスレーザビームの照射と非照射は、第1および第2のパルスピッカー14a、14bを用いて行われる。
【0076】
図7は、本実施の形態のパルスレーザ加工装置のパルスピッカー動作のタイミング制御を説明する信号波形図である。加工データから生成され、例えば、光パルス数で管理される加工パターン信号S7は、加工パターン生成部54から出力される。
【0077】
図7に示すように、周期Tpの基準クロック信号S1から生成される第1のクロック信号S1aからt遅延した第1のパルスレーザビームPL1aは、第1のパルスピッカー駆動信号S6aに基づき遮断/通過が制御される。なお、レーザビームスキャナ18の走査と、第1のパルスレーザビームの遮断/通過との同期は、走査角指令信号S2生成タイミングを基準クロック信号S1に同期させることで行っている。
【0078】
例えば、第1のパルスピッカー駆動信号S6aは、加工パターン信号S7から加工パターン分割部54で生成された第1の加工パターン信号S7aを、第1のクロック信号S1aの立ち上がりによりサンプリングする。そして、第1のクロック信号S1aの一クロックの立ち上がりからt時間遅延して立ち上がる。そして、所要のパルス数に相当するクロック数後、第1の加工パターン信号S7aがインアクティブとなった状態を第1のクロック信号S1aの立ち上がりでサンプリングし、t時間遅延して立ち下がる。
【0079】
そして、この第1のパルスピッカー駆動信号S6aにより、第1のパルスピッカー14aの動作が遅延時間tおよびt経過後に生ずる。この第1のパルスピッカー14aの動作により、第1のパルスレーザビームPL1aが、第1の変調パルスレーザビームPL2aとして抽出される。
【0080】
同様に、周期Tpの基準クロック信号S1から生成される第2のクロック信号S1bからt遅延した第2のパルスレーザビームPL1bは、第2のパルスピッカー駆動信号S6bに基づき遮断/通過が制御される。なお、レーザビームスキャナ18の走査と、第2のパルスレーザビームの遮断/通過との同期は、走査角指令信号S2生成タイミングを基準クロック信号S1に同期させることで行っている。
【0081】
例えば、第2のパルスピッカー駆動信号S6bは、加工パターン信号S7から加工パターン分割部54で生成された第2の加工パターン信号S7bを、第2のクロック信号S1bの立ち上がりによりサンプリングする。そして、第2のクロック信号S1bの一クロックの立ち上がりからt時間遅延して立ち上がる。そして、所要のパルス数に相当するクロック数後、第2の加工パターン信号S7bがインアクティブとなった状態を第2のクロック信号S1bの立ち上がりでサンプリングし、t時間遅延して立ち下がる。
【0082】
そして、この第2のパルスピッカー駆動信号S6bにより、第2のパルスピッカー14bの動作が遅延時間tおよびt経過後に生ずる。この第2のパルスピッカー14bの動作により、第2のパルスレーザビームPL1bが、第2の変調パルスレーザビームPL2bとして抽出される。
【0083】
第1の変調パルスレーザビームPL2aと第2の変調パルスレーザビームPL2bが合波器40(図1)で合波されることにより、基準クロック信号S1に同期した合波パルスレーザビームPL5が生成され、基準クロック信号S1に同期したレーザビームスキャナ18の走査により、合波パルスレーザビームPL6として被加工物に照射されことになる。
【0084】
図8は、本実施の形態による被加工物の加工を説明する模式図である。図8に示すように第1および第2のパルスピッカー動作により生成される第1および第2の変調パルスレーザビームPL2a、PL2bは、第1および第2のビーム整形器によって各パルス光が所望の形状に整形される。さらに、第1および第2のアッテネータにより2つの出力が、例えば同等になるよう調整され合波器40にて合波される。
【0085】
このようにして生成された合波パルスレーザビームPL5は、レーザ系を1系列しか用いない場合に比べ、単位長あたり2倍の出力を備えることになる。合波パルスレーザビームPL5は、レーザビームスキャナによるX軸方向の走査と、XYステージ部20による被加工物W位置のY軸方向の移動によって被加工物Wの所定位置に照射され、被加工物W表面の高出力かつ高精度での微細加工が可能となる。なお、図8におけるパルスピッカー動作の時間幅および各動作の時間間隔はそれぞれ異なるようになってもよい。
【0086】
次に、レイヤ毎のパルスピッカー動作データ、すなわち、加工パルス数、非加工パルス数、待機長パルス数について説明する。図9は本実施の形態のパルスレーザ加工装置による一加工例を示す図である。図10は図9の加工における特定の1次元方向の走査を示す図である。図11は図9の加工における特定のレイヤについての2次元加工を示す図である。
【0087】
図9に示すように、例えば、LX(横)×LY(縦)×Dp(深さ)、具体的には、例えば、52.5μm×37.5μm×0.1RnμmのポケットをワークW上の9箇所に形成する。この加工例では、ビーム走査方向であるX方向については、LXの加工長とLXの非加工長の加工を行い、ステージ移動方向であるY方向については、LYの加工長で、LY、LYの非加工長の加工を行う。
【0088】
ここで、Rnは被加工物の深さ方向に分解されたレイヤの数である。
【0089】
図10には、Y方向で、LYに相当する領域内の1本のラインの1次元方向の走査を示す。同期角検出位置からS+W、光パルス数にして(S+W)/(D/n)離れた加工原点(SYNC)を基準にLw、光パルス数にしてL/(D/n)の待機長をおいて、ワークへのパルスレーザビーム照射が行われる。この照射は光パルス数にして(LX/(D/n))−1である。その後、光パルス数にして(LX/(D/n))+1の間、非照射とし、更に、光パルス数で管理された照射と非照射を同一走査内で繰り返す。
【0090】
ここで、Dはビームスポット径、nはビーム照射移動比である。ビーム照射移動比とはビームスポット間の移動量をD/nとした場合のnの値である。
【0091】
1次元方向のみに走査されるレーザビームスキャナ18により、特定のX方向のライン走査が終了すると、ステージをX方向に直交するY方向に移動させて、更にレーザビームスキャナ18により、X方向の走査を行う。すなわち、レーザビームスキャナ18による合波パルスレーザビームの1次元方向の走査と、この走査に続く1次元方向に直交する方向のステージの移動を交互に繰り返すことで、被加工物を加工する。
【0092】
このようにして、図11に示すような特定のレイヤについての2次元加工が行われる。さらに、レイヤ分解により生成された別のレイヤについて、図11に示すと同様な手法で2次元加工を行う。このようなレイヤ毎の加工を繰り返して、最終的に図9に示すような3次元のポケット加工が完了する。
【0093】
例えば、レーザ系を1系列使用することとして、加工走査条件を、
走査速度 :30.0m/sec
ビームスポット径 :15.0μm
とすると、
ビームスポット単位移動量 :7.5μm
とするためには、4MHzの繰り返し周波数が必要となる。
【0094】
ここで、上記条件を本実施の形態のようにレーザ系を2系列使用すると、各系列のレーザ発振器は2MHzの繰り返し周波数で加工走査条件を充足することが可能となる。これは、繰り返し周波数「2MHz」でSHG(Second Harmonic Generation)出力が「3W」のピコ秒レーザ発振器を用いると、等価的に4MHzの繰り返し周波数での加工を、パルスあたりのエネルギーを「1.5μJ」程度で加工できるということである。
【0095】
例えば、「4MHz」のような高い繰り返し周波数で1個のレーザ発振器を使用するとビームプロファイルの劣化、非線形結晶のダメージ率の増大、非線形結晶のライフタイムの短縮、一パルスあたりのエネルギーの減少、レーザ出力の不安定化等が懸念される。本実施の形態によれば、同程度の加工を行うために1個のレーザ発振器の繰り返し周波数は半分の、例えば「2MHz」で済む。このため、上述のビームプロファイルの劣化、非線形結晶のダメージ率の増大、非線形結晶のライフタイムの短縮、一パルスあたりのエネルギーの減少、レーザ出力の不安定化等が抑制される。
【0096】
また、例えば、「4MHz」の繰り返し周波数で1個のレーザ発振器を使用するとプレパルス、ポストパルスの影響についても考慮が必要となる。本実施の形態によれば、同程度の加工を行うために1個のレーザ発振器の繰り返し周波数は半分の、例えば「2MHz」で済む。このためプレパルス、ポストパルスの影響について考慮する負担が軽減される。
【0097】
ここで、被加工物の加工品質を高める際、一般的にビームスポット単位移動量を小さくすることが行われる。例えば、ビームスポット単位移動量を5μm、3μmとすると、走査速度はそれぞれ20.0m/sec、12.0m/secとなる。
【0098】
レーザビームスキャナをガルバノメータとした場合、加工範囲を100mm、各発振器の繰り返し周波数を2MHzとすると、実際の加工走査時間は、
ビームスポット単位移動量=5μm :レーザ1系列時 10msec
:レーザ2系列時 5msec
ビームスポット単位移動量=3μm :レーザ1系列時 16.6msec
:レーザ2系列時 8.3msec
ビームスポット単位移動量=7.5μm:レーザ1系列時 6.6msec
:レーザ2系列時 3.3msec
と、2系列時では単位時間あたり1系列に比較して2倍のビームスポットを照射することが可能であるため走査時間が短縮する。
【0099】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、第1の実施の形態のパルスレーザ加工装置およびパルスレーザ加工方法を用いたマイクロレンズ用金型の製造方法、これを用いて製造されるマイクロレンズ用金型、および、このマイクロレンズ用金型を用いたマイクロレンズの製造方法である。
【0100】
例えば、フラットパネルディスプレイに用いられるマイクロレンズは大面積と高い加工精度が求められる。そのため、金型を用いて、このマイクロレンズを製造する場合には、必然的に、その金型にも大面積と高い加工精度が要求される。図12は、本実施の形態の製造方法により形成される金型の加工例である。
【0101】
図12に示すように、例えば、Cu材のワークに、直径R、深さDpのディンプルを、間隔Iで9箇所に形成する。レーザ加工については、第1の実施の形態と同様の方法による。加工テーブルとして、図12の3次元形状に即したテーブルを用いることで、図12の加工が実現できる。本実施の形態によれば、大面積かつ高精度のマイクロレンズ用金型の製造が可能となる。
【0102】
また、このマイクロレンズ用金型は大面積かつ高精度のマイクロレンズを製造する上で有用である。そして、このマイクロレンズ用金型を用いたマイクロレンズの製造方法によれば、大面積かつ高精度のマイクロレンズを製造することが可能である。
【0103】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。パルスレーザ加工装置、パルスレーザ加工方法等で、本発明の説明に直接必要としない部分については記載を省略したが、必要とされるパルスレーザ加工装置、パルスレーザ加工方法を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのパルスレーザ加工装置、パルスレーザ加工方法は、本発明の範囲に包含される。
【0104】
例えば、実施の形態ではレーザ系が2系列の場合を例に説明したが、3系列またはそれ以上の数の系列を適用することも可能である。
【0105】
また、例えば、実施の形態では、ポケットやディンプルを加工する場合を例に説明したが、これらの形状に限られることなく、例えば、電子ペーパ用のリブを製造するための円錐形状、あるいは三角錐、四角錘、V溝、凹溝、R溝等の任意形状の加工、その組み合わせの形状の加工を行うパルスレーザ加工装置またはパルスレーザ加工方法であっても構わない。
【0106】
また、被加工物として、主にCu材を例に説明したが、例えば、Ni材、SKD11等の金属材、DLC材、高分子材料、半導体材、ガラス材等のその他の材料であっても構わない。
【0107】
また、レーザ発振器としては、YAGレーザに限ることなく、被加工物の加工に適したその他の、例えば、Nd:YVOレーザの第2高調波(波長:532nm)のような単一波長帯レーザあるいは複数波長帯レーザを出力するものであっても構わない。
【符号の説明】
【0108】
10 パルスレーザ加工装置
11 加工データ入力部
12a 第1のレーザ発振器
12b 第2のレーザ発振器
14a 第1のパルスピッカー
14b 第2のパルスピッカー
17a 第1のアッテネータ
17b 第2のアッテネータ
18 レーザビームスキャナ
20 XYステージ部
22a 第1のパルスピッカー制御部
22b 第2のパルスピッカー制御部
26 基準クロック発振回路
50 加工パターン分割部
52 分周器
54 加工パターン生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号を発生する基準クロック発振回路と、
前記クロック信号に同期した第1のパルスレーザビームを出射する第1のレーザ発振器と、
前記クロック信号に同期した第2のパルスレーザビームを出射する第2のレーザ発振器と、
前記クロック信号に同期して前記第1のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第1のパルスピッカーと、
前記クロック信号に同期して前記第2のパルスレーザビームの通過と遮断を切り替える第2のパルスピッカーと、
前記第1のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記第1のパルスピッカーを制御する第1のパルスピッカー制御部と、
前記第2のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記第2のパルスピッカーを制御する第2のパルスピッカー制御部と、
前記第1のパルスピッカーの後段に設けられ、前記第1のパルスレーザビームの出力を調整する第1のアッテネータと、
前記第2のパルスピッカーの後段に設けられ、前記第2のパルスレーザビームの出力を調整する第2のアッテネータと、
前記第1のアッテネータおよび前記第2のアッテネータの後段に設けられ、前記第1のパルスレーザビームと前記第2のパルスレーザビームとを合波し合波パルスレーザビームを生成する合波器と、
前記クロック信号に同期して前記合波パルスレーザビームを1次元方向のみに走査するレーザビームスキャナと、
被加工物を載置可能で前記1次元方向に直交する方向に移動するステージと、
を備えることを特徴とするパルスレーザ加工装置。
【請求項2】
前記ステージは、前記レーザビームスキャナからの走査角信号に基づき、前記1次元方向に直交する方向に移動することを特徴とする請求項1記載のパルスレーザ加工装置。
【請求項3】
被加工物の加工データを入力する入力部と、
前記加工データを加工パターンに変換する加工パターン生成部と、
前記加工パターンを第1の副加工パターンと第2の副加工パターンに分割する加工パターン分割部とをさらに備え、
前記第1のパルスピッカー制御部が、前記第1の副加工パターンに基づき、前記第1のパルスピッカーを制御し、
前記第2のパルスピッカー制御部が、前記第2の副加工パターンに基づき、前記第2のパルスピッカーを制御することを特徴とする請求項1または請求項2記載のパルスレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第1および第2の副加工パターンが、パルスレーザビームの光パルス数で記述した加工テーブルであることを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれか一項記載のパルスレーザ加工装置。
【請求項5】
前記レーザビームスキャナはガルバノメータ・スキャナにより構成され、前記パルスピッカーは音響光学素子(AOM)または電気光学素子(EOM)により構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載のパルスレーザ加工装置。
【請求項6】
ステージに被加工物を載置し、
クロック信号を発生し、
前記クロック信号に同期した第1のパルスレーザビームを出射し、
前記第1のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記クロック信号に同期して前記第1のパルスレーザビームの照射と非照射を切り替え、
前記クロック信号に同期した第2のパルスレーザビームを出射し、
前記第2のパルスレーザビームの光パルス数に基づき、前記クロック信号に同期して前記第2のパルスレーザビームの照射と非照射を切り替え、
前記第1のパルスレーザビームと前記第2のパルスレーザビームとを合波して合波パルスレーザビームを生成し、
前記被加工物表面に、前記合波パルスレーザビームを前記クロック信号に同期してレーザビームスキャナにより1次元方向に走査し、
前記合波パルスレーザビームを前記1次元方向に走査した後に、前記1次元方向に直交する方向に前記ステージを移動して、更に前記クロック信号に同期して前記合波パルスレーザビームを前記1次元方向に走査することを特徴とするパルスレーザ加工方法。
【請求項7】
前記ステージは、前記レーザビームスキャナからの走査角信号に基づき、前記1次元方向に直交する方向に移動することを特徴とする請求項6記載のパルスレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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