説明

パルスTIG溶接ロボットの制御方法及びパルスTIG溶接ロボットの制御システム

【課題】
実アーク電圧のピーク領域のみを使用するとともに、ピーク領域ではPI制御を行い、ピーク領域でない領域ではI制御を行うことにより、溶接トーチとワーク間を一定に保つことができるパルスTIG溶接ロボットの制御方法及びパルスTIG溶接ロボットの制御システムを提供する。
【解決手段】
TIGアークセンサ50はピークベース判定電圧以上のピーク側電圧領域にある実アーク電圧を制御周期毎に抽出して実アーク電圧のピーク電圧の平均電圧を算出し、制御周期毎に平均電圧とアーク基準電圧との差電圧に基づきトーチ動作方向を決定する。前記アークセンサは、制御周期毎に抽出した実アーク電圧がピーク領域にあるか否かの判定に応じて差電圧とトーチ動作方向に基づき、PI制御又はI制御で溶接トーチ11の動作量を算出する。ロボット制御装置20はその結果に基づき溶接ロボット10を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスTIG溶接ロボットの制御方法及びパルスTIG溶接ロボットの制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスTIG溶接を自動化する場合、溶接過程に生じる溶接熱により母材が歪んでしまい、溶接トーチとワーク間の距離が変化し安定した溶接ができない場合がある。その対策として、アーク電圧の基準値をあらかじめ設定し、実アーク電圧が基準値と等しくなるように溶接トーチとワーク間の距離を制御することが行われている。
【0003】
しかし、基準値の設定入力を間違うと安定した溶接ができないばかりか、場合によっては溶接トーチとワークが干渉することがある。そこで、その対策としてアーク電圧の基準値を溶接開始直後に自動設定する装置(特許文献1)や、アーク電圧のパルスの立ち上がりから一定時間経過した後のアーク電圧値を基準値とする装置が提案されている(特許文献2)。
【0004】
ところで、基準値が設定されたとしても、実アーク電圧(ピーク領域とベース領域を含む)をすべて監視していては溶接トーチが振動(上下運動)してしまう。このため、実アーク電圧のピーク領域とベース領域を判定し、一定期間のパルス・ベース領域の時間比率によりどちらかの領域を選び、その領域の実アーク電圧と基準値の差分を求めて溶接トーチとワーク間の距離を修正する制御方法が提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平3−23067号公報
【特許文献2】特開昭61−78570号公報
【特許文献3】特開平9−76069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献3においては、ベース領域にある実アーク電圧は電圧変換器の測定レンジに対して小さくなるため、測定値のばらつきが大きい。この問題を解決するために、精度良い測定を行うためには高性能のAD変換器が必要となる。又、パルス・ベースの時間比率によりどの領域を採用するかという信頼性の高い情報をワーク、溶接条件別であらかじめ収集する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、パルスTIG溶接時において、実アーク電圧のピーク領域のみを使用するとともに、ピーク領域では、PI制御を行い、ピーク領域でない領域、すなわちベース領域ではI制御を行うことにより、溶接トーチとワーク(母材)間を一定に保つことができるパルスTIG溶接ロボットの制御方法及びパルスTIG溶接ロボットの制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、溶接ロボットに設けられた溶接トーチにより母材に対して、パルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御方法において、前記溶接トーチに印加される実アーク電圧の中から予め定められたピークベース判定電圧以上のピーク側電圧領域にある実アーク電圧を、制御周期毎に抽出して、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧におけるピーク電圧の平均電圧を算出し、前記制御周期毎に、前記平均電圧と、予め定められたアーク基準電圧との差電圧に基づいて、トーチ動作方向を決定し、前記制御周期毎に、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧がピーク領域にあるか否かを判定し、前記実アーク電圧が前記ピーク領域にあると判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきPI制御で前記溶接トーチの動作量を算出し、前記ピーク領域にないと判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきI制御で前記溶接トーチの動作量を算出し、前記溶接トーチの動作量及び前記トーチ動作方向に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御方法を要旨とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、溶接ロボットに設けられた溶接トーチにより母材に対して、パルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御システムにおいて、前記溶接トーチに印加される実アーク電圧の中から予め定められたピークベース判定電圧以上のピーク側電圧領域にある実アーク電圧を、制御周期毎に抽出して、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧におけるピーク電圧の平均電圧を算出する平均電圧算出手段と、前記制御周期毎に、前記平均電圧と、予め定められたアーク基準電圧との差電圧に基づいて、トーチ動作方向を決定する決定手段と、前記制御周期毎に、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧がピーク領域にあるか否かを判定する判定手段と、前記実アーク電圧が前記ピーク領域にあると判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきPI制御で前記溶接トーチの動作量を算出し、前記ピーク領域にないと判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきI制御で前記溶接トーチの動作量を算出するトーチ動作量算出手段と、前記溶接トーチの動作量及び前記トーチ動作方向に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御するロボット制御手段とを含むことを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御システムを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、パルスTIG溶接時において、実アーク電圧のピーク領域のみを使用するとともに、ピーク領域ではPI制御を行い、ピーク領域でない領域、すなわちベース領域ではI制御を行うことにより、溶接トーチとワーク(母材)間を一定に保つことができるパルスTIG溶接ロボットの制御方法を提供できる。又、本発明の制御方法によれば、従来と異なり、測定値のばらつきが大きいベース領域にある実アーク電圧を使用する必要が無く、又、ベース領域の実アーク電圧の測定値を精度良く変換するための高性能のAD変換器が必要でなくなる。
【0010】
請求項2の発明によれば、パルスTIG溶接時において、実アーク電圧のピーク領域のみを使用するとともに、ピーク領域では、PI制御を行い、ピーク領域でない領域、すなわちベース領域ではI制御を行うことにより、溶接トーチとワーク(母材)間を一定に保つことができるパルスTIG溶接ロボットの制御システムを提供できる。本発明のシステムによれば、従来と異なり、測定値のばらつきが大きいベース領域にある実アーク電圧を使用する必要が無く、又、ベース領域の実アーク電圧の測定値を精度良く変換するための高性能のAD変換器が必要でなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のパルスTIG溶接ロボットの制御方法及びパルスTIG溶接ロボットの制御システムを、具体化した一実施形態を図1〜6を参照して説明する。図1には、パルスTIG溶接ロボットの制御システム(以下、単にシステムという)の概要が示されている。
【0012】
システムは溶接トーチ11を備えた関節が6軸の溶接ロボットマニピュレータ(以下、単に溶接ロボットという)10、溶接ロボット10を制御するロボット制御装置20、溶接トーチ11に電力を供給するTIG溶接電源30、TIGアークセンサ50等を備えている。TIG溶接電源30は、溶接ロボット10の先端に取付された溶接トーチ11に対して電力を供給する。又、母材としてのワークWは、TIG溶接電源30を介して電気的に接続されている。
【0013】
ロボット制御装置20は、TIGアークセンサ50と接続され、各種制御情報の通信が可能である。又、ロボット制御装置20は、溶接ロボット10と各種の制御情報の交信が可能であり、ロボット制御装置20に記憶されている教示プログラムに従ってパルスTIG溶接を行うとともに、TIGアークセンサ50からの制御信号により、溶接トーチ11の位置、すなわち、ワークWとの間の距離を修正しながら溶接線倣いを行う。
【0014】
図1に示すようにTIGアークセンサ50は、電圧測定器51、ピーク電圧領域判定設定器52、ピーク電圧領域抽出器53、ピーク電圧平均処理器54、アーク基準電圧設定器55、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、ピークベース電圧判定器58、制御方式切替器59、及びトーチの動作量算出器60を備えている。前記TIGアークセンサ50の構成中、電圧測定器51を除いたピーク電圧領域判定設定器52、ピーク電圧領域抽出器53、ピーク電圧平均処理器54、アーク基準電圧設定器55、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、ピークベース電圧判定器58、制御方式切替器59、及びトーチの動作量算出器60は、コンピュータで構成してもよく、或いは個別の機器として構成してもよい。
【0015】
ピーク電圧領域抽出器53、及びピーク電圧平均処理器54は、平均電圧算出手段に相当する。差電圧算出器56は、差電圧取得手段に相当する。又、トーチ動作方向判定器57は、トーチ動作方向の決定手段に相当する。ピークベース電圧判定器58は、実アーク電圧がピーク領域にあるか否かの判定手段に相当する。又、動作量算出器60は、トーチ動作量算出手段に相当する。ロボット制御装置20は、ロボット制御手段に相当する。
【0016】
(実施形態の作用)
上記のように構成された、システムの作用を説明する。
溶接トーチ11がワークWに対して溶接線倣いでパルスTIG溶接を行っている際、TIGアークセンサ50の電圧測定器51は、TIG溶接電源30から溶接トーチ11に印加されている実アーク電圧Aを測定する。この測定周期は、TIG溶接電源30が溶接トーチ11に印加する電力のパルス周期及び後述する制御周期よりも遙かに短い周期である(図6参照)。電圧測定器51は、電圧測定手段に相当する。
【0017】
ピーク電圧領域抽出器53は、測定された実アーク電圧Aの中で、制御周期毎にピーク電圧領域判定設定器52で予め設定されているピークベース判定電圧H以上のピーク側電圧領域R(図3参照)にある実アーク電圧Aを抽出する。すなわち、当該制御周期の期間内におけるピークベース判定電圧H以上のピーク側電圧領域R(図3参照)にある実アーク電圧Aを抽出する。なお、ピークベース判定電圧Hは、TIG溶接電源30が供給する電力のアーク電圧のベース電圧よりも高い値であって、かつ、アーク基準電圧Kよりも低い値に設定されている。
【0018】
ピーク電圧平均処理器54は、ピーク電圧領域抽出器53がピーク側電圧領域Rにある当該制御周期で測定検出した実アーク電圧Aにおいて、ピーク電圧(すなわち、当該制御周期の期間に抽出されたもの)を平均化して平均電圧Mを得る。この平均化処理は例えば移動平均を挙げることができるが、移動平均に限定されるものではなく、他の公知の平均処理でもよい。
【0019】
差電圧算出器56は、アーク基準電圧設定器55で予め設定されているアーク基準電圧Kとピーク電圧平均処理器54で得た前記平均電圧Mに基づきその差電圧を算出する。ここで、平均電圧M>アーク基準電圧Kであれば、差電圧は、+の値となり、平均電圧M<アーク基準電圧Kであれば、差電圧は−となる。又、平均電圧M=アーク基準電圧Kの場合は、差電圧は、0となる。この+、−、0により、トーチ動作方向判定器57は、当該制御周期毎に溶接トーチ11の動作方向を判定する。
【0020】
すなわち、+の場合は、平均電圧Mがアーク基準電圧Kよりも高いため、ワークWに接近する方向が動作方向となり、−の場合は、平均電圧Mがアーク基準電圧Kよりも低いため、ワークWに接近する方向が動作方向となる。0の場合は、トーチ動作方向を変更しないことになる。
【0021】
ピークベース電圧判定器58は、当該制御周期毎にピーク電圧側領域にある実アーク電圧Aが、ピーク領域Pにあるか否かを判定する。なお、制御周期は、パルス周期よりも短い周期である。図4には、制御周期とパルス周期との大小関係を示すために例示している。この判定は、具体的には、実アーク電圧A中、ピークベース判定電圧よりも高いピーク電圧が測定検出されている期間が、ピーク領域P(すなわち、ピーク電圧領域)であるとして判定され、ピークベース判定電圧よりも高いピーク電圧が測定検出されていない期間がベース領域B(すなわち、ベース電圧領域)として判定されることになる(図3参照)。
【0022】
制御方式切替器59は、ピークベース電圧判定器58の判定結果が、実アーク電圧Aがピーク領域Pにあるとの判定の場合、及び実アーク電圧Aがピーク領域Pにない(すなわち、実アーク電圧Aがベース領域Bある)との判定の場合には、制御方式をそれぞれ制御方式をPI制御及びI制御に切り換える。
【0023】
動作量算出器60は、切替された制御方式で、溶接トーチ11の位置補正量としてのトーチ動作量を算出する。図2は、動作量算出器60の概念図である。同図に示すように、動作量算出器60は、差電圧を比例制御する比例制御部61(すなわち、P制御部)と、差電圧を積分制御する積分制御部62(すなわち、I制御部)と、比例制御部61及び積分制御部62の出力を加算する加算器63とを備えている。
【0024】
そして、前記加算器63は、制御方式切替器59の切替により、積分制御部62の出力のみをトーチ動作量として、或いは、比例制御部61の出力と積分制御部62の出力を加算した結果をトーチ動作量として、ロボット制御装置20に出力する。この加算器63によるトーチ動作量と前記トーチ動作方向が、ロボット制御装置20に出力されることにより、ロボット制御装置20は、トーチ動作量と前記トーチ動作方向に基づいて、溶接ロボット10を駆動制御し、溶接トーチ11を移動して該溶接トーチ11とワークW(母材)間の距離を制御する。
【0025】
ここで、ピーク領域PでPI制御がされ、ベース領域BではI制御がされない場合を図5に示す。図5(a)は、縦軸が実アーク電圧A、横軸が時間であり、実アーク電圧Aのパルスの形状を示している。又、図5(b)は、縦軸は倣い直線(すなわち、溶接線が直線となっている)の倣い高さ(溶接トーチ11とワークの離間距離)を示し、横軸が時間である。図5(b)に示すようにベース領域Bで制御がない場合、溶接トーチ11の倣い軌跡は、ベース領域BではI制御を行っていないため、倣い直線(すなわち、倣い位置)から外れる。
【0026】
一方、本実施形態では、ピーク領域PでPI制御され、ベース領域BでI制御されると、図4に示すようになる。図4(a)は、縦軸が実アーク電圧A、横軸が時間であり、実アーク電圧Aのパルスの形状を示している。又、図4(b)は、縦軸は倣い直線(すなわち、溶接線が直線となっている)の倣い高さ(溶接トーチ11とワークの離間距離)を示し、横軸が時間である。図4(b)に示すように、本実施形態では、ベース領域Bにおいて、I制御を行っているため、ピーク領域P及びベース領域Bにかかわらず、安定した倣いが実現できる。又、このように、本実施形態ではピーク領域Pにおいて、PI制御を行うために、正確な倣いを行うことができ、ベース領域Bでは、PI制御からI制御に切替え、過去の移動平均を使う制御により、現在の電圧値に左右されず、安定した倣いを実現できる。
【0027】
又、上記のような方法により、溶接トーチ11のワークに対する接近離間運動が減少し、倣いが安定するとともに、安定した溶接ができる。
さて、上記のように構成された方法、及びシステムは、下記の特徴がある。
【0028】
(1) 本実施形態のパルスTIG溶接ロボットの制御方法は、溶接トーチ11に印加される実アーク電圧Aの中から予め定められたピークベース判定電圧H以上のピーク側電圧領域Rにある実アーク電圧Aを、制御周期毎に抽出して、前記ピーク側電圧領域Rにある実アーク電圧Aにおけるピーク電圧の平均電圧Mを算出する。そして、前記制御周期毎に、平均電圧Mと、予め定められたアーク基準電圧Kとの差電圧に基づいて、トーチ動作方向を決定する。さらに、本実施形態では、前記制御周期毎に、前記ピーク側電圧領域Rにある実アーク電圧Aがピーク領域Pにあるか否かを判定する。そして、実アーク電圧Aがピーク領域Pにあるとの判定の場合、及び実アーク電圧Aがピーク領域Pにないとの判定の場合には、前記差電圧とトーチ動作方向に基づき、それぞれPI制御及びI制御で溶接トーチ11の動作量を算出する。そして、溶接トーチ11の動作量及び前記トーチ動作方向に基づいて溶接ロボット10を制御して溶接トーチ11とワークW間の距離を制御する。
【0029】
この結果、本実施形態の制御方法によれば、パルスTIG溶接時において、実アーク電圧のピーク領域のみを使用するとともに、ピーク領域ではPI制御を行い、ピーク領域でない領域、すなわちベース領域ではI制御を行うことにより、溶接トーチとワーク(母材)間を一定に保つことができる。又、本発明の制御方法によれば、従来と異なり、測定値のばらつきが大きいベース領域にある実アーク電圧を使用する必要が無く、又、ベース領域の実アーク電圧の測定値を精度良く変換するための高性能のAD変換器が必要でなくなる。
【0030】
(2) 本実施形態のシステムは、溶接トーチ11に印加される実アーク電圧Aの中から予め定められたピークベース判定電圧H以上のピーク側電圧領域Rにある実アーク電圧Aを、制御周期毎に抽出して、ピーク側電圧領域Rにある実アーク電圧Aにおけるピーク電圧の平均電圧Mを算出するピーク電圧領域抽出器53、ピーク電圧平均処理器54(平均電圧算出手段)を備える。
【0031】
又、システムは、前記制御周期毎に、平均電圧Mと、予め定められたアーク基準電圧Kとの差電圧に基づいて、トーチ動作方向を決定するトーチ動作方向判定器57(決定手段)と、前記制御周期毎に、ピーク側電圧領域Rにある実アーク電圧Aがピーク領域にあるか否かを判定するピークベース電圧判定器58(判定手段)を備える。
【0032】
そして、システムは、実アーク電圧Aがピーク領域Pにあるとの判定の場合、及び実アーク電圧Aがピーク領域Pにないとの判定の場合には、差電圧とトーチ動作方向に基づき、それぞれPI制御及びI制御で溶接トーチ11の動作量を算出する動作量算出器60(トーチ動作量算出手段)を備える。又、システムは、溶接トーチ11の動作量及びトーチ動作方向に基づいて、溶接ロボット10を制御して溶接トーチ11とワークW間の距離を制御するロボット制御装置20(ロボット制御手段)とを備える。
【0033】
この結果、本実施形態のシステムによれば、パルスTIG溶接時において、実アーク電圧のピーク領域Pのみを使用するとともに、ピーク領域Pでは、PI制御を行い、ピーク領域Pでない領域、すなわちベース領域BではI制御を行うことにより、溶接トーチ11とワーク(母材)間を一定に保つことができるパルスTIG溶接ロボットの制御システムを提供できる。本実施形態のシステムによれば、従来と異なり、測定値のばらつきが大きいベース領域Bにある実アーク電圧を使用する必要が無く、又、ベース領域の実アーク電圧の測定値を精度良く変換するための高性能のAD変換器が必要でなくなる。
【0034】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 前記実施形態では、溶接ロボット10は、関節が6軸の溶接ロボットとしたが、6軸限定されるものではない。例えば、溶接ロボットは5軸、或いは、7軸以上であってもよい。
【0035】
○前記TIGアークセンサ50は、ロボット制御装置20と別体としているが、ロボット制御装置20内に内蔵してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】パルスTIG溶接ロボットの制御システムの概略図。
【図2】動作量算出器60の概念図。
【図3】ピーク側電圧領域R、アーク基準電圧K、ピークベース判定電圧H、実アーク電圧Aと、ピーク領域P、及びベース領域Bの説明図。
【図4】(a)は、実アーク電圧Aのパターンを示し、(b)は本実施形態による倣い直線と、倣い軌跡とを示す説明図。
【図5】(a)は、実アーク電圧Aのパターンを示し、(b)は比較例による倣い直線と、倣い軌跡とを示す説明図。
【図6】制御周期と、測定周期との関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0037】
10…溶接ロボット、11…溶接トーチ、
20…ロボット制御装置(ロボット制御手段)、
50…TIGアークセンサ、51…電圧測定器、
52…ピーク電圧領域判定設定器、
53…ピーク電圧領域抽出器(ピーク電圧領域抽出手段)、
54…ピーク電圧平均処理器(平均電圧算出手段)
56…差電圧算出器、57…トーチ動作方向判定器(決定手段)、
58…ピークベース電圧判定器(判定手段)、
60…動作量算出器(トーチ動作量算出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ロボットに設けられた溶接トーチにより母材に対して、パルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御方法において、
前記溶接トーチに印加される実アーク電圧の中から予め定められたピークベース判定電圧以上のピーク側電圧領域にある実アーク電圧を、制御周期毎に抽出して、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧におけるピーク電圧の平均電圧を算出し、
前記制御周期毎に、前記平均電圧と、予め定められたアーク基準電圧との差電圧に基づいて、トーチ動作方向を決定し、
前記制御周期毎に、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧がピーク領域にあるか否かを判定し、
前記実アーク電圧が前記ピーク領域にあると判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきPI制御で前記溶接トーチの動作量を算出し、前記ピーク領域にないと判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきI制御で前記溶接トーチの動作量を算出し、
前記溶接トーチの動作量及び前記トーチ動作方向に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御方法。
【請求項2】
溶接ロボットに設けられた溶接トーチにより母材に対して、パルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御システムにおいて、
前記溶接トーチに印加される実アーク電圧の中から予め定められたピークベース判定電圧以上のピーク側電圧領域にある実アーク電圧を、制御周期毎に抽出して、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧におけるピーク電圧の平均電圧を算出する平均電圧算出手段と、
前記制御周期毎に、前記平均電圧と、予め定められたアーク基準電圧との差電圧に基づいて、トーチ動作方向を決定する決定手段と、
前記制御周期毎に、前記ピーク側電圧領域にある実アーク電圧がピーク領域にあるか否かを判定する判定手段と、
前記実アーク電圧が前記ピーク領域にあると判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきPI制御で前記溶接トーチの動作量を算出し、前記ピーク領域にないと判定した場合は、前記差電圧及び前記トーチ動作方向に基づきI制御で前記溶接トーチの動作量を算出するトーチ動作量算出手段と、
前記溶接トーチの動作量及び前記トーチ動作方向に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御するロボット制御手段とを含むことを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−125461(P2010−125461A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299875(P2008−299875)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】