説明

パルスTIG溶接ロボットの制御方法及び制御システム

【課題】パルスTIG溶接において、ベース電圧を利用した倣いができない。
【解決手段】
外部パルス信号受信判別器52はパルス信号のピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定する。電圧抽出器53は設定された指定電圧区間における実溶接電圧V1をサンプリング周期毎に抽出する。差電圧算出器56は抽出した実溶接電圧V1の平均電圧値とアーク基準電圧との差を算出し、トーチ動作方向判定器57及びトーチ動作方向判定器57により、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量を得る。ロボット制御装置20は溶接トーチ11とワークW間の距離を制御して倣い制御する。ピーク電圧区間だけでなく、ベース電圧区間を利用して倣い制御ができ、溶接環境に適応した倣いを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスTIG溶接ロボットの制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パルスTIG溶接を自動化する場合、溶接過程に起こる溶接熱によりワークが歪んでしまい、溶接トーチとワーク間の距離が変化し安定した溶接ができない場合がある。それに対し、TIG溶接のパルス電圧値から抽出したピーク電圧区間の電圧値を利用して、溶接トーチとワーク間を一定に保つことができる倣い制御のアークセンサが提案されている。特許文献1では、TIG溶接のTIGパルス電圧値のパルスの立ち上がり・立ち下がりを利用してピーク電圧値を抽出する方法が提案されている。
【0003】
又、特許文献2では、ピーク電圧値かベース電圧値であるかを判定するために、閾値となる基準電圧を手動にて設定する方法が提案されている。
これらの方法では、ピーク電圧区間で倣うことが可能であるが、ベース電圧区間の電圧値を利用した倣い制御はできない。溶接長が長く溶接速度が遅い場合など、溶接による熱ひずみを避けるため、ベース電圧区間を長く設定するケースがある。また、ワーク環境、溶接条件によっては、ピーク電圧値よりベース電圧値の方が安定して出力される場合がある。このように、ピーク電圧値よりベース電圧値を活用した方がより精度の良い倣い制御が行える場合がある。
【0004】
又、TIG電極の先端は非消耗電極ではあるが、実際の溶接中の溶着などにより電極先端が丸くなってしまうことがあり、パルスTIG溶接電圧値から抽出したピーク電圧値が小さくなることがある。この場合、ピークとベースの電圧値の変化が小さくなるため、特許文献1では、アークの立ち上がり・立ち下りを抽出できずに、倣いに利用する電圧値を収集できない可能性があるため、正しい倣い制御が行えない状態になる。このような場合、正しい電圧値を抽出するためには高性能なAD変換器が必要となりコストが上がってしまう。特許文献2では、ピーク電圧区間かベース電圧区間かを判定する基準電圧より電圧が小さくなってしまうとベース電圧値であると判断するため、必要な電圧値を収集できず、倣い制御を行わない状態となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−78570号公報
【特許文献2】特開2010−125461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように特許文献1、2は、ピーク電圧区間を利用した倣い制御であり、ベース電圧区間を利用した倣い制御を行うことは考慮されていない。
又、特許文献1,2では、TIGパルス電圧のピーク電圧値が小さくなりピーク・ベース電圧値に差が小さくなった場合には、倣いに必要な電圧値を抽出できずに、倣い制御を行えない問題がある。
【0007】
本発明の目的は、ピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれかを選択できることにより、TIG溶接のピーク電圧区間だけでなく、ベース電圧区間を利用して倣い制御を行うことができ、より溶接環境に適応した倣いを行うことができるパルスTIG溶接ロボットの制御方法及び制御システムを提供することにある。
【0008】
又、本発明の他の目的は、TIGパルス電圧のピーク電圧区間、ベース電圧区間を自動的に、かつ確実に判定でき、手動による入力ミスや、電圧降下による抽出不良が発生せず、より使い易い装置が実現できるとともに、確実な倣い制御が可能となるパルスTIG溶接ロボットの制御方法及び制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御方法において、倣い制御に使用する指定電圧区間として、前記パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する第1ステップと、前記パルス信号のピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定する第2ステップと、前記設定された指定電圧区間における実溶接電圧をサンプリング周期毎に抽出する第3ステップと、前記指定電圧区間における前記抽出した前記実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出ステップと、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御する制御ステップを有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御方法を要旨としている。
【0010】
請求項2の発明は、パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御方法において、倣い制御に使用する指定電圧区間として、ピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する設定ステップと、前記パルス信号のパルス周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた前記実溶接電圧の値(以下、実溶接電圧という)を時間方向に平均化して電圧区間判定基準値を得るステップと、前記電圧区間判定基準値に基づいて前記実溶接電圧が、前記パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれの電圧区間に属するかを判定する判定ステップと、前記判定ステップで、前記ピーク電圧区間又はベース電圧区間に属すると判定された前記実溶接電圧の内、前記設定された指定電圧区間に属する実溶接電圧を抽出する抽出ステップと、前記指定電圧区間において前記抽出した実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出ステップと、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御する制御ステップを有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御方法を要旨としている。
【0011】
請求項3の発明は、パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御システムにおいて、倣い制御に使用する指定電圧区間として、前記実溶接電圧中のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれかを設定する設定手段と、前記パルス信号のピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定する判定手段と、前記設定された指定電圧区間における実溶接電圧をサンプリング周期毎に抽出する抽出手段と、前記指定電圧区間における前記抽出した前記実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出手段と、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御するロボット制御手段を有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御システムを要旨としている。
【0012】
請求項4の発明は、パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御システムにおいて、倣い制御に使用する指定電圧区間として、ピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する設定手段と、前記パルス信号のパルス周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた前記実溶接電圧の値(以下、実溶接電圧という)を時間方向に平均化して電圧区間判定基準値を得る時間方向平均化手段と、前記電圧区間判定基準値に基づいて前記実溶接電圧が、前記パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれの電圧区間に属するかを判定する判定手段と、前記判定手段で、前記ピーク電圧区間又はベース電圧区間に属すると判定された前記実溶接電圧の内、前記設定された指定電圧区間に属する実溶接電圧を抽出する抽出手段と、前記指定電圧区間において前記抽出した実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出手段と、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御するロボット制御手段を有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御システムを要旨としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1及び請求項2の発明によれば、TIG溶接のピーク電圧区間だけでなく、ベース電圧区間を利用して倣い制御を行うことができるため、より溶接環境に適応した倣いを行うことができるパルスTIG溶接ロボットの制御方法を提供できる。
【0014】
又、請求項1及び請求項2の発明によれば、TIGパルス電圧のピーク電圧区間、ベース電圧区間を自動的に、かつ確実に判定できるため、ピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定するための基準値の手動入力を行う必要がないとともに前記基準値の手動による入力ミスや、該入力ミスに伴って電圧降下による抽出不良が発生せず、より使い易い装置が実現できるとともに、確実な倣い制御が可能となるパルスTIG溶接ロボットの制御方法を提供できる。
【0015】
請求項3及び請求項4発明によれば、TIG溶接のピーク電圧区間だけでなく、ベース電圧区間を利用して倣い制御を行うことができるため、より溶接環境に適応した倣いを行うことができるパルスTIG溶接ロボットの制御システムを提供できる。
【0016】
又、請求項3及び請求項4の発明によれば、TIGパルス電圧のピーク電圧区間、ベース電圧区間を自動的に、かつ確実に判定できるため、ピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定するための基準値の手動入力を行う必要がないとともに前記基準値の手動による入力ミスや、該入力ミスに伴って電圧降下による抽出不良が発生せず、より使い易い装置が実現できるとともに、確実な倣い制御が可能となるパルスTIG溶接ロボットの制御システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のパルスTIG溶接ロボットの制御制御システムの電気ブロック図。
【図2】(a)は第1実施形態の外部パルス信号受信判別器が実行するパルス信号のピーク電圧区間とベース電圧区間の判定プログラムのフローチャート、(b)は、電圧抽出器が実行する電圧抽出プログラムのフローチャート。
【図3】TIGパルス信号のピーク電圧区間での倣いを行う場合のパルス信号、実溶接電圧と、溶接トーチの高さの関係を示す説明図。
【図4】TIGパルス信号のベース電圧区間での倣いを行う場合の、パルス信号、実溶接電圧と、溶接トーチの高さの関係を示す説明図。
【図5】第2実施形態のパルスTIG溶接ロボットの制御制御システムの電気ブロック図。
【図6】(a)は第2実施形態のピーク・ベース電圧区間判定器が実行する判定プログラムのフローチャート、(b)は電圧抽出器が実行する電圧抽出プログラムのフローチャート。
【図7】第2実施形態におけるTIGパルス信号のピーク電圧区間での倣いを行う場合のフィルタ化電圧、実溶接電圧と、溶接トーチの高さの関係を示す説明図。
【図8】第2実施形態におけるTIGパルス信号のベース電圧区間での倣いを行う場合のフィルタ化電圧、実溶接電圧と、溶接トーチの高さの関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態のパルスTIG溶接ロボットの制御方法及び制御システム(以下、単にシステムという)を図1〜図4を参照して説明する。
【0019】
図1に示すようにシステムは溶接トーチ11を備えた関節が6軸の溶接ロボットマニピュレータ(以下、単に溶接ロボットという)10、溶接ロボット10を制御するロボット制御装置20、溶接トーチ11に電力を供給するTIG溶接電源30、TIGアークセンサ50等を備えている。TIG溶接電源30は、溶接ロボット10の先端に取付された溶接トーチ11に対して電力を供給する。又、母材としてのワークWは、TIG溶接電源30を介して電気的に接続されている。
【0020】
ロボット制御装置20は、TIGアークセンサ50と電気的に接続され、各種制御情報の通信が可能である。ロボット制御装置20は、設定手段としてのピーク・ベース指定電圧区間選択器25を備えている。オペレータは、ロボット制御装置20に通信可能に接続される図示しない可搬式操作装置(ティーチペンダント)の操作によって、溶接環境に適応するように、ピーク・ベース指定電圧区間選択器25を、TIG溶接を行う前に予め設定操作する(第1ステップ)。このことにより、パルス信号P1のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれかの区間を、溶接線倣い制御(以下、単に倣い制御という)を行う指定電圧区間とする設定が可能である。なお、前記パルス信号P1は、ロボット制御装置20で設定されたパルス周波数・パルス比率(デューティ比)に基づいて、TIG溶接電源30により生成される。ピーク・ベース指定電圧区間選択器25において、設定された指定電圧区間は、TIGアークセンサ50に送信される。
【0021】
又、ロボット制御装置20は、溶接ロボット10と各種の制御情報の交信が可能であり、ロボット制御装置20に記憶されている教示プログラムに従ってパルスTIG溶接を行うとともに、TIGアークセンサ50からの制御信号により、溶接トーチ11の位置、すなわち、ワークWとの間の距離を修正しながら溶接線倣い制御(以下、単に倣い制御という)を行う。
【0022】
図1に示すようにTIGアークセンサ50は、電圧測定器51、外部パルス信号受信判別器52、電圧抽出器53、抽出電圧値平均処理器54、アーク基準電圧設定器55、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及びトーチの動作量算出器60を備えている。
【0023】
前記TIGアークセンサ50の構成中、電圧測定器51を除いた外部パルス信号受信判別器52、電圧抽出器53、抽出電圧値平均処理器54、アーク基準電圧設定器55、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及びトーチの動作量算出器60は、コンピュータで構成してもよく、或いは個別の機器として構成してもよい。
【0024】
本実施形態のシステムにおいて、外部パルス信号受信判別器52は、請求項1の判定手段に相当するとともに電圧抽出器53は抽出手段に相当する。又、抽出電圧値平均処理器54、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及び動作量算出器60は算出手段に相当する。ロボット制御装置20は、ロボット制御手段に相当する。
【0025】
又、本実施形態において、電圧測定器51は、電圧測定手段に相当する。抽出電圧値平均処理器54は、抽出電圧値平均手段に相当するとともにアーク基準電圧設定器55は、基準電圧設定手段に相当する。又、差電圧算出器56は差電圧判定手段に相当するとともにトーチ動作方向判定器57はトーチ動作方向判定手段に相当する。又、動作量算出器60は溶接トーチ11の動作量算出手段に相当する。
【0026】
(実施形態の作用)
上記のように構成されたシステムの作用を、図2〜図4を参照して説明する。
TIG溶接は、ロボット制御装置20で設定された溶接電流・溶接電圧のパルス周波数とパルス比率(デューティ比)に基づいて、TIG溶接電源30により溶接トーチ11とワークW間に電流・電圧が出力されて溶接が行われる。このように溶接トーチ11がワークWに対して溶接線倣いでパルスTIG溶接を行っている際、TIGアークセンサ50の電圧測定器51は、TIG溶接電源30から溶接トーチ11に印加されている実溶接電圧V1を測定周期(すなわち、サンプリング周期)で測定する。このサンプリング周期は、TIG溶接電源30が溶接トーチ11に印加する電力のパルス周期よりも遙かに短い周期である。電圧測定器51は、前記サンプリング周期で測定した実溶接電圧V1を電圧抽出器53に出力する。
【0027】
TIG溶接電源30は、ロボット制御装置20で設定されたパルス周波数・パルス比率(デューティ比)に基づいてパルス信号P1を生成するとともに、外部パルス信号受信判別器52は、そのパルス信号P1を受信する。
【0028】
外部パルス信号受信判別器52は、受信した前記パルス信号P1が、ピークを指し示す場合は、ピーク電圧区間と判別し、ベースを指し示す場合は、ベース電圧区間と判別する(第2ステップ)。具体的に説明すると、図2(a)は、外部パルス信号受信判別器52が、コンピュータで構成されている場合に、外部パルス信号受信判別器52が前記サンプリング周期と同周期で実行するパルス信号のピーク電圧区間とベース電圧区間の判定プログラムのフローチャートである。
【0029】
S10では、外部パルス信号受信判別器52は、受信したパルス信号P1が、ピーク値であるか否かを判定し、ピーク値である場合には、S12で、今受信したパルス信号P1がピーク電圧区間であると判定し、その判定結果にON(すなわち、「1」)を設定した後、S14に移行する。又、S10において、ピーク値でない場合には、S16で、ベース電圧区間であると判定し、その判定結果にOFF(すなわち、「0」)を設定し,S14に移行する。S14では、外部パルス信号受信判別器52は、S12又はS16の判定結果を電圧抽出器53に送信する。なお、ピーク電圧区間及びベース電圧区間の判定結果であるON(1)、OFF(0)の設定を、逆にして、すなわち、反転して出力するようにしてもよい。この場合、例えば、前記図示しない可搬式操作装置(ティーチペンダント)の設定変更操作により、ロボット制御装置20から、外部パルス信号受信判別器52の出力設定を変更することにより、外部パルス信号受信判別器52から電圧抽出器53への前記判定結果の出力の反転が可能である。
【0030】
電圧抽出器53は、電圧測定器51から入力した実溶接電圧V1から、前記サンプリング周期と同周期でピーク・ベース指定電圧区間選択器25により設定された指定電圧区間の実溶接電圧を抽出する。図2(b)は、電圧抽出器53が、コンピュータで構成されている場合に、前記サンプリング周期毎に実行する電圧抽出プログラムのフローチャートである。
【0031】
同図に示すように、S20では、電圧抽出器53は、ロボット制御装置20のピーク・ベース指定電圧区間選択器25で設定された指定電圧区間が、ピーク電圧区間であるか否か、すなわち、ピーク電圧区間を利用するものであるか否かを判定する。
【0032】
ロボット制御装置20から送信された指定電圧区間がベース電圧区間に設定されている場合には、電圧抽出器53は、S20からS28に移行する。S28では、電圧抽出器53は、外部パルス信号受信判別器52から送信された判定結果がOFF(0)であるか、否かを判定する。
【0033】
S28において、前記判定結果がOFF(0)ではない場合は、電圧抽出器53は、S28の判定を「NO」とし、このフローチャートを一旦終了する。すなわち、この場合は、S20において、ベース電圧区間を利用するものとして指定電圧区間が設定されていると判定したため、判定結果がOFF(0)ではない場合は、実溶接電圧V1がピーク電圧区間に属することから、この区間では、実溶接電圧V1を倣い制御に使用しないのである。S28において、前記判定結果がOFF(0)である場合は、電圧抽出器53は、S28の判定を「YES」とし、S24に移行する。
【0034】
又、S20において、ロボット制御装置20から送信された指定電圧区間がピーク電圧区間に設定されている場合には、電圧抽出器53は、S22に移行する。
S22では、電圧抽出器53は、外部パルス信号受信判別器52から送信された判定結果がON(1)であるか、否かを判定する。
【0035】
S22において、判定結果がON(1)ではない場合は、電圧抽出器53は、S22の判定を「NO」とし、このフローチャートを一旦終了する。すなわち、この場合は、S20において、ピーク電圧区間を利用するものとして指定電圧区間が設定されていると判定したため、判定結果がON(1)ではない場合は、実溶接電圧V1がベース電圧区間に属することから、この区間では、実溶接電圧V1を倣い制御に使用しないのである。S22において、前記判定結果がON(1)である場合は、電圧抽出器53は、S22の判定を「YES」とし、S24に移行する。
【0036】
S24では、電圧抽出器53は、S28で「YES」と判定した場合、前記判定結果がOFF(0)である実溶接電圧V1を抽出し、図示しないメモリに倣い用電圧V2として記憶(保存)する(第3ステップ)。或いは、S24では、電圧抽出器53は、S22で「YES」と判定した場合、前記判定結果がOFF(0)である実溶接電圧V1を抽出し、図示しないメモリに倣い用電圧V2として記憶(保存)する(第3ステップ)。
【0037】
図1に示す抽出電圧値平均処理器54は、電圧抽出器53が前記図示しないメモリに保存した倣い用電圧V2を平均化して平均電圧Mを得る。この平均化処理は例えば移動平均を挙げることができるが、移動平均に限定されるものではなく、他の公知の平均処理でもよい。
【0038】
差電圧算出器56は、アーク基準電圧設定器55で予め設定されている基準電圧としてのアーク基準電圧Kと抽出電圧値平均処理器54で得た前記平均電圧Mに基づきその差電圧を算出する。ここで、平均電圧M>アーク基準電圧Kであれば、差電圧は、+の値となり、平均電圧M<アーク基準電圧Kであれば、差電圧は−となる。又、平均電圧M=アーク基準電圧Kの場合は、差電圧は、0となる。この+、−、0により、トーチ動作方向判定器57は、当該制御周期毎に溶接トーチ11の動作方向を判定する。
【0039】
すなわち、+の場合は、平均電圧Mがアーク基準電圧Kよりも高いため、ワークWに接近する方向が動作方向となり、−の場合は、平均電圧Mがアーク基準電圧Kよりも低いため、ワークWに接近する方向が動作方向となる。0の場合は、トーチ動作方向を変更しないことになる。
【0040】
トーチの動作量算出器60は、溶接トーチ11の位置補正量としてのトーチ動作量を算出する。トーチ動作量の算出は、差電圧の比例制御、或いは差電圧の比例積分制御のいずれの方法で算出を行ってもよい。差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及びトーチの動作量算出器60が行う処理は算出ステップに相当する。
【0041】
そして、動作量算出器60によるトーチ動作量と前記トーチ動作方向が、ロボット制御装置20に出力されることにより、ロボット制御装置20は、トーチ動作量と前記トーチ動作方向に基づいて、溶接ロボット10を駆動制御し、溶接トーチ11を移動して該溶接トーチ11とワークW(母材)間の距離を制御する。ロボット制御装置20の前記制御は制御ステップに相当する。
【0042】
図3は、指定電圧区間が、パルス信号P1のピーク電圧区間に設定された場合のパルス信号P1、アーク基準電圧K、実溶接電圧V1が示されるとともに、ピーク電圧区間において、溶接トーチ11の倣い制御が行われた場合が示されている。同図において、縦軸は、電圧及び高さを示し、横軸は時間軸である。
【0043】
又、図4は、指定電圧区間が、パルス信号P1のベース電圧区間に設定された場合のパルス信号P1、アーク基準電圧K、実溶接電圧V1が示されるとともに、ベース電圧区間において、溶接トーチ11の倣い制御が行われた場合が示されている。同図において、縦軸は、電圧及び高さを示し、横軸は時間軸である。又、両図において、「ピーク」はピーク電圧区間を示し、「ベース」はベース電圧区間を示す。
【0044】
図3の場合は、ピーク電圧区間で倣い用電圧V2が抽出されるとともに平均電圧Mの算出が行われる。そして、このピーク電圧区間において、溶接トーチ11のワークW(母材)からの高さ(離間距離)の倣い制御が行われる。図4の場合は、ベース電圧区間で倣い用電圧V2が抽出されるとともに平均電圧Mの算出が行われる。そして、このベース電圧区間において、溶接トーチ11のワークW(母材)からの高さ(離間距離)の倣い制御が行われる。
【0045】
さて、上記のように構成された方法、及びシステムは、下記の特徴がある。
(1) 本実施形態の制御方法は、倣い制御に使用する指定電圧区間として、パルス信号P1のピーク電圧区間又はベース電圧区間を、ピーク・ベース指定電圧区間選択器25で設定する(第1ステップ)。そして、パルス信号P1のピーク電圧区間及びベース電圧区間を、外部パルス信号受信判別器52で判定する(第2ステップ)。さらに、ピーク・ベース指定電圧区間選択器25で設定された指定電圧区間における実溶接電圧V1を、サンプリング周期毎に電圧抽出器53により抽出する(第3ステップ)。そして、指定電圧区間における前記抽出した実溶接電圧V1の平均電圧Mと予め設定されたアーク基準電圧K(基準電圧)との差に基づいて、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量を得る(算出ステップ)。さらに、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量に基づいて溶接ロボット10を制御して溶接トーチ11とワークW(母材)間の距離を制御して倣い制御する(制御ステップ)。
【0046】
又、本実施形態のシステムは、倣い制御に使用する指定電圧区間として、実溶接電圧中のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれかを設定するピーク・ベース指定電圧区間選択器25(設定手段)と、パルス信号P1のピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定する外部パルス信号受信判別器52(判定手段)を有する。又、システムは、設定された指定電圧区間における実溶接電圧V1をサンプリング周期毎に抽出する電圧抽出器53(抽出手段)と、指定電圧区間における抽出した実溶接電圧V1の平均電圧Mと予め設定されたアーク基準電圧K(基準電圧)との差電圧(差)に基づいて、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量を得る抽出電圧値平均処理器54、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及び動作量算出器60(算出手段)を備える。又、システムは、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量に基づいて溶接ロボット10を制御して溶接トーチ11とワークW(母材)間の距離を制御して倣い制御するロボット制御装置20(ロボット制御手段)を有する。
【0047】
この結果、本実施形態の制御方法及びシステムによれば、TIG溶接のピーク電圧区間だけでなく、ベース電圧区間を利用して倣い制御を行うことができる。このため、より溶接環境に適応した倣いを行うことができる。又、本実施形態の制御方法によれば、ピーク・ベース指定電圧区間選択器25の設定により、TIGパルス電圧のピーク電圧区間、ベース電圧区間を自動的に、かつ確実に判定できるため、ピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定するための基準値の手動入力を行う必要がないとともに前記基準値の手動による入力ミスや、該入力ミスに伴って電圧降下による抽出不良が発生せず、より使い易い装置が実現できるとともに、確実な倣い制御が可能となる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態のシステム及び制御方法を図5〜図8を参照して説明する。なお、第2実施形態のシステムにおいて、第1実施形態のシステムと同一構成又は相当する構成には、同一符号を付してその詳細説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0049】
第2実施形態のシステムは図5に示すように、第1実施形態のTIGアークセンサ50の構成中、外部パルス信号受信判別器52が省略されている。そして、その代わりに、電圧測定器51がサンプリング周期毎に測定した実溶接電圧V1を入力するフィルタ化電圧値生成器62が設けられるとともにフィルタ化電圧値生成器62の出力がピーク・ベース電圧区間判定器64に入力されるようにされているところが第1実施形態と異なる。又、ピーク・ベース電圧区間判定器64の出力は電圧抽出器53に入力される。他のハード構成は、第1実施形態と同じである。
【0050】
前記TIGアークセンサ50の構成中、電圧測定器51を除いたフィルタ化電圧値生成器62、電圧抽出器53、抽出電圧値平均処理器54、アーク基準電圧設定器55、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及びトーチの動作量算出器60は、コンピュータで構成してもよく、或いは個別の機器として構成してもよい。
【0051】
本実施形態のシステムにおいて、フィルタ化電圧値生成器62は、時間方向平均化手段に相当する。ピーク・ベース電圧区間判定器64は請求項2の判定手段に相当する。電圧抽出器53は抽出手段に相当する。又、抽出電圧値平均処理器54、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及び動作量算出器60は算出手段に相当する。ロボット制御装置20は、ロボット制御手段に相当する。
【0052】
(第2実施形態の作用)
次に、第2実施形態の作用を図6〜図8を参照して説明する。
まず、オペレータは、設定手段としてのピーク・ベース指定電圧区間選択器25に対して、ロボット制御装置20に通信可能に接続される図示しない可搬式操作装置(ティーチペンダント)の操作により、溶接環境に適応するように、ピーク・ベース指定電圧区間選択器25を、TIG溶接を行う前に予め設定操作しておく(設定ステップ)。
【0053】
TIG溶接が開始されると、図5に示すTIG溶接電源30は、ロボット制御装置20で設定されたパルス周波数・パルス比率(デューティ比)に基づいてパルス信号P1を生成するとともに、パルス信号P1に応じて溶接トーチ11に対して電力を供給する。又、TIGアークセンサ50の電圧測定器51は、第1実施形態と同様のサンプリング周期で測定し、その測定結果をフィルタ化電圧値生成器62に出力する。
【0054】
フィルタ化電圧値生成器62は、電圧測定器51から入力された実溶接電圧V1を図示しないメモリに記憶するとともに前記実溶接電圧V1に基づいて電圧区間判定基準値を算出する。すなわち、フィルタ化電圧値生成器62は、電圧区間判定基準値としてフィルタ化された電圧値V1’(以下、フィルタ化電圧という)を算出する。前記算出方法としては、例えば、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを使用する処理方法や、移動平均処理方法の公知の方法を挙げることができるが、これらの方法に限定されるものではない。これらの処理により、今回のサンプリング周期で測定された実溶接電圧V1は、前の周期で測定された複数の実溶接電圧V1とともに時間方向に平均化される。FIRフィルタを使用したフィルタ化電圧V1’は遅れ系電圧値となり、移動平均処理で得られた電圧値は、移動平均化された電圧値となる。フィルタ化電圧値生成器62は算出したフィルタ化電圧V1’をピーク・ベース電圧区間判定器64に出力する。
【0055】
フィルタ化電圧値生成器62における処理(ステップ)は、実溶接電圧を時間方向に平均化して電圧区間判定基準値を得るステップに相当する。
ピーク・ベース電圧区間判定器64は、前記メモリに記憶された実溶接電圧V1が、パルス信号P1のピーク電圧区間に属するか、ベース電圧区間に属するかを判定する。図6(a)は、ピーク・ベース電圧区間判定器64がコンピュータで構成されている場合に、ピーク・ベース電圧区間判定器64が前記サンプリング周期と同周期で実行するパルス信号のピーク電圧区間とベース電圧区間の判定プログラムのフローチャートである。本実施形態は、第1実施形態と異なりパルス信号P1に基づき、現在のパルス信号P1がピーク電圧区間にあるのかベース電圧区間にあるのか判定を行うものではなく、入力した実溶接電圧V1に基づいて、現在のパルス信号P1がピーク電圧区間にあるのかベース電圧区間にあるのかを判定するところに特徴がある。
【0056】
図6(a)に示すS30では、ピーク・ベース電圧区間判定器64は、実溶接電圧V1がフィルタ化電圧V1’以上か否かを判定する。
ここで、実溶接電圧V1がフィルタ化電圧V1’以上か否かを判定する理由について説明する。
【0057】
図7、図8に示すように、図示しないパルス信号P1と、実溶接電圧V1のピーク電圧区間と、ベース電圧区間は同期している。そして、実溶接電圧V1がピーク電圧値(ピーク電圧区間の電圧値)になっている場合、フィルタ化電圧V1’は実溶接電圧V1より小さくなり、実溶接電圧V1がベース電圧値(ベース電圧区間の電圧値)の場合、フィルタ化電圧V1’は実溶接電圧V1より大きくなる。
【0058】
従って、実溶接電圧V1がフィルタ化電圧V1’以上である場合には、S32で、パルス信号P1がピーク電圧区間であると判定し、その判定結果にON(すなわち、「1」)を設定した後、S34に移行する。又、S30において、実溶接電圧V1がフィルタ化電圧V1’未満である場合には、S36で、ピーク・ベース電圧区間判定器64はベース電圧区間であると判定し、その判定結果にOFF(すなわち、「0」)を設定し,S34に移行する。S34では、ピーク・ベース電圧区間判定器64は、S32又はS36の判定結果を電圧抽出器53に送信する。なお、ピーク電圧区間及びベース電圧区間の判定結果であるON(1)、OFF(0)の設定を、逆にして、すなわち、反転して出力するようにしてもよい。この場合、例えば、前記図示しない可搬式操作装置(ティーチペンダント)の設定変更操作により、ロボット制御装置20から、ピーク・ベース電圧区間判定器64の出力設定を変更することにより、ピーク・ベース電圧区間判定器64から電圧抽出器53への前記判定結果の出力の反転が可能である。
【0059】
前記ピーク・ベース電圧区間判定器64が行う処理(ステップ)は、請求項2の判定ステップに相当する。
電圧抽出器53は、前記図示しないメモリに格納されている実溶接電圧V1から、前記サンプリング周期と同周期でピーク・ベース指定電圧区間選択器25により設定された指定電圧区間の実溶接電圧を抽出する。図6(b)は、電圧抽出器53が、コンピュータで構成されている場合に、前記サンプリング周期毎に実行する電圧抽出プログラムのフローチャートである。なお、図6(b)のフローチャートは、第1実施形態の図2(b)のフローチャートと同じであるため、各処理(ステップ)に付したステップ番号は、図2(b)に付したS付きの番号に100を加算して、その説明を省略する。
【0060】
本実施形態において、S124のステップは、請求項2の抽出ステップに相当する。
抽出電圧値平均処理器54、アーク基準電圧設定器55、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及び動作量算出器60の作用、並びに、ロボット制御装置20の作用は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。従って、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及びトーチの動作量算出器60が行う処理は算出ステップに相当するとともに、ロボット制御装置20の制御ステップに相当する。
【0061】
図7は、指定電圧区間が、パルス信号P1(実溶接電圧)のピーク電圧区間に設定された場合のアーク基準電圧K、実溶接電圧V1、フィルタ化電圧V1’が示されるとともに、ピーク電圧区間において、溶接トーチ11の倣い制御が行われた場合が示されている。同図において、縦軸は、電圧及び高さを示し、横軸は時間軸である。
【0062】
又、図8は、指定電圧区間が、パルス信号P1(実溶接電圧)のベース電圧区間に設定された場合のパルス信号P1、アーク基準電圧K、実溶接電圧V1、フィルタ化電圧V1’が示されるとともに、ベース電圧区間において、溶接トーチ11の倣い制御が行われた場合が示されている。同図において、縦軸は、電圧及び高さを示し、横軸は時間軸である。又、両図において、「ピーク」はピーク電圧区間を示し、「ベース」はベース電圧区間を示す。
【0063】
図7の場合は、ピーク電圧区間で倣い用電圧V2が抽出されるとともに平均電圧Mの算出が行われる。そして、このピーク電圧区間において、溶接トーチ11のワークW(母材)からの高さ(離間距離)の倣い制御が行われる。図8の場合は、ベース電圧区間で倣い用電圧V2が抽出されるとともに平均電圧Mの算出が行われる。そして、このベース電圧区間において、溶接トーチ11のワークW(母材)からの高さ(離間距離)の倣い制御が行われる。
【0064】
さて、上記のように構成された方法、及びシステムは、下記の特徴がある。
(1) 本実施形態の方法は、倣い制御に使用する指定電圧区間として、ピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する設定ステップと、パルス信号のパルス周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた実溶接電圧V1を時間方向に平均化してフィルタ化電圧V1’(電圧区間判定基準値)を得るステップを有する。又、本実施形態の制御方法は、フィルタ化電圧V1’に基づいて実溶接電圧V1が、パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれの電圧区間に属するかをピーク・ベース電圧区間判定器64が行う処理(判定ステップ)を備える。さらに、ピーク電圧区間又はベース電圧区間に属すると判定された実溶接電圧V1の内、設定された指定電圧区間に属する実溶接電圧V1を倣い用電圧V2として電圧抽出器53が抽出する処理(抽出ステップ)を行う。
【0065】
そして、指定電圧区間における前記抽出した実溶接電圧V1の平均電圧Mと予め設定されたアーク基準電圧K(基準電圧)との差に基づいて、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量を得る(算出ステップ)。さらに、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量に基づいて溶接ロボット10を制御して溶接トーチ11とワークW(母材)間の距離を制御して倣い制御する(制御ステップ)。
【0066】
又、本実施形態のシステムは、倣い制御に使用する指定電圧区間として、実溶接電圧中のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれかを設定するピーク・ベース指定電圧区間選択器25(設定手段)と、パルス信号のパルス周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた実溶接電圧V1を時間方向に平均化してフィルタ化電圧V1’を得るフィルタ化電圧値生成器62(時間方向平均化手段)を備える。
【0067】
又、システムは、フィルタ化電圧V1’に基づいて実溶接電圧V1が、パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれの電圧区間に属するかを判定するピーク・ベース電圧区間判定器64(判定手段)を備える。さらに、システムは、ピーク・ベース電圧区間判定器64で、ピーク電圧区間又はベース電圧区間に属すると判定された実溶接電圧V1の内、設定された指定電圧区間に属する実溶接電圧V1を抽出する電圧抽出器53(抽出手段)を備える。又、システムは、指定電圧区間における抽出した実溶接電圧V1の平均電圧Mと予め設定されたアーク基準電圧K(基準電圧)との差電圧(差)に基づいて、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量を得る抽出電圧値平均処理器54、差電圧算出器56、トーチ動作方向判定器57、及び動作量算出器60(算出手段)を備える。又、システムは、溶接トーチ11の動作方向とトーチ動作量に基づいて溶接ロボット10を制御して溶接トーチ11とワークW(母材)間の距離を制御して倣い制御するロボット制御装置20(ロボット制御手段)を有する。この結果、第2実施形態においても、第1実施形態の上記(1)で述べた作用と同様の効果を奏する。
【0068】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように変更しても良い。
・ 前記実施形態では、溶接ロボット10は、関節が6軸の溶接ロボットとしたが、6軸限定されるものではない。例えば、溶接ロボットは5軸、或いは、7軸以上であってもよい。
【0069】
・ 前記TIGアークセンサ50は、ロボット制御装置20と別体としているが、ロボット制御装置20内に内蔵してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…溶接ロボット、11…溶接トーチ、
20…ロボット制御装置(ロボット制御手段)、
25…ピーク・ベース指定電圧区間選択器(設定手段)、
30…TIG溶接電源、
50…TIGアークセンサ、
51…電圧測定器(電圧測定手段)、
52…外部パルス信号受信判別器(判定手段)、
53…電圧抽出器(抽出手段)、
54…抽出電圧値平均処理器、
55…アーク基準電圧設定器(基準電圧設定手段)、
56…差電圧算出器、
57…トーチ動作方向判定器、
60…動作量算出器(抽出電圧値平均処理器、差電圧算出器、トーチ動作方向判定器とともに算出手段を構成する。)、
62…フィルタ化電圧値生成器(時間方向平均化手段)、
64…ピーク・ベース電圧区間判定器(判定手段)、
W…ワーク(母材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御方法において、
倣い制御に使用する指定電圧区間として、前記パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する第1ステップと、前記パルス信号のピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定する第2ステップと、前記設定された指定電圧区間における実溶接電圧をサンプリング周期毎に抽出する第3ステップと、前記指定電圧区間における前記抽出した前記実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出ステップと、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御する制御ステップを有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御方法。
【請求項2】
パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御方法において、
倣い制御に使用する指定電圧区間として、ピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する設定ステップと、前記パルス信号のパルス周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた前記実溶接電圧の値(以下、実溶接電圧という)を時間方向に平均化して電圧区間判定基準値を得るステップと、前記電圧区間判定基準値に基づいて前記実溶接電圧が、前記パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれの電圧区間に属するかを判定する判定ステップと、前記判定ステップで、前記ピーク電圧区間又はベース電圧区間に属すると判定された前記実溶接電圧の内、前記設定された指定電圧区間に属する実溶接電圧を抽出する抽出ステップと、前記指定電圧区間において前記抽出した実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出ステップと、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御する制御ステップを有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御方法。
【請求項3】
パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御システムにおいて、
倣い制御に使用する指定電圧区間として、前記実溶接電圧中のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれかを設定する設定手段と、前記パルス信号のピーク電圧区間及びベース電圧区間を判定する判定手段と、前記設定された指定電圧区間における実溶接電圧をサンプリング周期毎に抽出する抽出手段と、前記指定電圧区間における前記抽出した前記実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出手段と、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御するロボット制御手段を有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御システム。
【請求項4】
パルス信号を生成するとともに前記パルス信号に同期して実溶接電圧を、溶接トーチを介して母材に印加するTIG溶接電源を備え、前記実溶接電圧の印加によりパルスTIG溶接を行うパルスTIG溶接ロボットの制御システムにおいて、
倣い制御に使用する指定電圧区間として、ピーク電圧区間又はベース電圧区間を設定する設定手段と、前記パルス信号のパルス周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングされた前記実溶接電圧の値(以下、実溶接電圧という)を時間方向に平均化して電圧区間判定基準値を得る時間方向平均化手段と、前記電圧区間判定基準値に基づいて前記実溶接電圧が、前記パルス信号のピーク電圧区間又はベース電圧区間のいずれの電圧区間に属するかを判定する判定手段と、前記判定手段で、前記ピーク電圧区間又はベース電圧区間に属すると判定された前記実溶接電圧の内、前記設定された指定電圧区間に属する実溶接電圧を抽出する抽出手段と、前記指定電圧区間において前記抽出した実溶接電圧の平均電圧と予め設定された基準電圧との差に基づいて前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量を得る算出手段と、前記溶接トーチの動作方向とトーチ動作量に基づいて前記溶接ロボットを制御して前記溶接トーチと前記母材間の距離を制御して前記倣い制御するロボット制御手段を有することを特徴とするパルスTIG溶接ロボットの制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161815(P2012−161815A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24063(P2011−24063)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】