説明

パルプモールド成形品とその製造方法

【課題】成形型面全域を単一の金網で被覆困難な形状の成形型を、小ブロックの組合せではない単一の部材で構成することにより、パルプモールド成形品に於いて小ブロックの境界部に対応する部位に不可避的に生じていた筋状の凹凸を無くす。
【解決手段】各部位12,13が薄板状を成し、収容凹部12と該収容凹部12の開口部の周囲に張り出された張出部13とを備えた収容ユニットを複数個有し、相互に隣接する収容ユニットが張出部13の端縁にて相互に連設されるように一体形成して成るパルプモールド成形品10であって、前記隣接する収容ユニットの張出部端縁の連設部位が筋状の凹凸130無く平坦に形成されていることを特徴とするパルプモールド成形品10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の収容凹部を備え、隣接する収容凹部がそれぞれの開口部に連なる平坦部を介して連設されたパルプモールド成形品と、その製造方法に関する。詳しくは、隣接する収容凹部間に設けられた平坦部に不可避的に形成されていた筋状の凹凸を無くしたパルプモールド成形品と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実或いは各種の物品等を収容するための複数個の収容凹部を備え、隣接する収容凹部が、それぞれの開口部に連なる平坦部を介して連設されたパルプモールド成形品では、平坦部に、筋状の凹凸が不可避的に形成されていた。
【0003】
その理由は、収容凹部等の凹凸が形成され且つ各部位が薄板状を成すパルプモールド成形品を製造するための成形型(抄き型)の構造に求められる。
【0004】
パルプモールド成形品は、図4に例示するように、槽80内のパルプ溶液801に成形型50−p(以下、添字「−p」は従来を示す)を浸して成形型面の裏側から吸引して全域にパルプ繊維を1〜3mm程度の厚さに付着させた後、成形型50−pをパルプ溶液801から引き上げ(矢印a)、成形型面の全域に付着・形成されている未乾燥品を成形型面に対向させた受け型20で受け(矢印b)、更に受け型20から搬送装置86のパレット861上へ移載して乾燥機88へ送り込み(矢印c)、乾燥機88内にて加熱・乾燥することにより得られる。なお、図中、82は回転式成形型支持装置、84は回転式受け型支持装置である。
【0005】
従来、成形型50−pとしては、アルミニウム等の型本体の成形型面を、金網で被覆したものが用いられている。即ち、目的のパルプモールド成形品の凹凸形状を転写成形するための成形型面を備え、該成形型面から裏側へ通ずる多数の吸引用の細孔310(図3参照)を穿孔して成るアルミニウム製等の型本体31−1,31−2と、前記吸引用の細孔310付近にのみパルプ泥漿・繊維が偏して吸着されないようにするべく前記型本体31−1,31−2の成形型面を被覆する金網32−1,32−2と、を有するものが用いられている。
【0006】
しかしながら、成形型面を金網で被覆する場合、成形型面の凹凸形状に合わせて寸法精度良く金網32−1,32−2を加工して取り付ける作業が困難であり、熟練を要するばかりでなく、たとえ熟練者であっても作業に長時間を要するという問題がある。この問題は、例えば実開平6−79800(特許文献1)の段落0004〜0005でも指摘されている。なお、特許文献1は、パルプ泥漿の吸引により変形して成形型面に沿う形状になる網体を用いることにより問題を解決しようとするものであるが、そのような網体に常に最適な変形を生ぜしめることは、経時劣化や、吸引時間・圧力制御等の観点から、困難と思われる。
【0007】
このため、従来は、図3(a)に例示するように、アルミニウム製の型本体を複数の小ブロック(例:小ブロック31−1,31−2)に分割し、各小ブロックに金網(例:32−1,32−2)を被覆し、これらを、図3(b)に例示するように組み付けて、型枠35内に固定して、一体化している。
【0008】
しかしながら、この手法では、各小ブロックの境界で金網の折り返し端部(例:320−1,320−2)が密接して連なるため、金網の性質上、その連なり部分が完全な平坦面にならず、その結果、当該の境界部分が転写されるパルプモールド成形品に、図3(c)に符号「130」で示すような筋状の凸部が不可避的に生じ、これが、目的物であるパルプモールド成形品の外観を損なうばかりでなく、その強度にも悪影響を及ぼすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平6−79800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、成形型面の全域を単一の金網で被覆することが困難な形状の成形型を、小ブロックの組合せではない単一の部材で構成することにより、パルプモールド成形品に於いて小ブロックの境界部に対応する部位に不可避的に生じていた筋状の凹凸を無くすことを目的とする。また、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成を、下記[1]〜[3]に記す。なお、この項([課題を解決するための手段])と次項([発明の効果])に於いて、符号は理解を容易にするために付したものであり、本発明を符号の構成に限定する趣旨ではない。
【0012】
[1]構成1
各部位12,13が薄板状を成し、収容凹部12と該収容凹部12の開口部の周囲に張り出された張出部13とを備えた収容ユニットを複数個有し、相互に隣接する収容ユニットが張出部13の端縁にて相互に連設されるように一体形成して成るパルプモールド成形品10であって、
前記隣接する収容ユニットの張出部端縁の連設部位が筋状の凹凸130無く平坦に形成されていることを特徴とするパルプモールド成形品10。
なお、収容ユニットとは、収容凹部12とその開口部の周囲に張り出した張出部13から成る部位を仮想した概念であり、各収容ユニット間に明確な境界は無い。つまり、従来の製品との対比に於いて、該従来の製品の筋状凸部130(図1(b)参照)で仕切られる単位を、分かり易く説明するために仮想した定義である。
【0013】
[2]構成2
成形型50をパルプ溶液801に浸して成形型面の裏側から多数の細孔を通して吸引することにより該成形型面にパルプ繊維を層状に付着させた後、パルプ溶液801から引き上げ、パルプ繊維の層を前記成形型面から離型して乾燥させることにより該成形型面の凹凸を転写して成り各部位12,13が薄板状を成すパルプモールド成形品10を得る製造方法であって、
前記成形型50として、複数個の収容凹部の各開口部の間を平坦な張出部を介して連設して成る形状を転写するための凹凸形状を成す成形型面を備え、該成形型面からその裏側へ通ずる多数の細孔を有するように熱溶解積層法により多孔質に形成して成る合成樹脂製の成形型50を用いることを特徴とする製造方法。
【0014】
[3]構成3
各部位が薄板状を成し複数個の収容凹部12の各開口部の間に平坦で筋状の凹凸130の無い張出部13を有するように、請求項2の製造方法により製造されたパルプモールド成形品10。
【発明の効果】
【0015】
構成1は、各部位12,13が薄板状を成し、収容凹部12と該収容凹部12の開口部の周囲に張り出された張出部13とを備えた収容ユニットを複数個有し、相互に隣接する収容ユニットが張出部13の端縁にて相互に連設されるように一体形成して成るパルプモールド成形品10であって、前記隣接する収容ユニットの張出部端縁の連設部位が筋状の凹凸130無く平坦に形成されていることを特徴とするパルプモールド成形品10であるため、従来は各収容ユニットの境界に形成されていた筋状の凹凸に起因する強度の低下を免れることができる。また、外観も良好となる。
構成2は、成形型50をパルプ溶液801に浸して成形型面の裏側から多数の細孔を通して吸引することにより該成形型面にパルプ繊維を層状に付着させた後、パルプ溶液801から引き上げ、パルプ繊維の層を前記成形型面から離型して乾燥させることにより該成形型面の凹凸を転写して成り各部位12,13が薄板状を成すパルプモールド成形品10を得る製造方法であって、前記成形型50として、複数個の収容凹部の各開口部の間を平坦な張出部を介して連設して成る形状を転写するための凹凸形状を成す成形型面を備え、該成形型面からその裏側へ通ずる多数の細孔を有するように熱溶解積層法により多孔質に形成して成る合成樹脂製の成形型50を用いることを特徴とする製造方法であるため、構成1の良好な特性を有し且つ外観も良好なパルプモールド成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は実施の形態のパルプモールド成形品の一例、(b)は従来のパルプモールド成形品の一例を示す。
【図2】(a)は図1(a)のパルプモールド成形品の製造に用いる成形型の製造方法を示す説明図、(b)は(a)の製造方法で製造した成形型を用いて図1(a)のパルプモールド成形品を製造する様子を示す模式的断面図、(c)は(b)の製造方法で製造したパルプモールド成形品の模式的断面図(図1(a)内の2C−2C線断面)。
【図3】図1(b)のパルプモールド成形品の製造方法の説明図であり、(a)は従来の成形型を構成する小ブロックの模式的断面図、(b)は複数の小ブロックを組み付けて構成した成形型を用いて図1(b)のパルプモールド成形品を製造する様子を示す模式的断面図、(c)は(b)の製造方法で製造したパルプモールド成形品の模式的断面図(図1(b)内の3C−3C線断面)を示す。
【図4】パルプモールド成形品の製造過程を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明する。
図1(a)に示す例は、4個の収容凹部12,12,,を、それぞれの開口部の周囲に張り出した平坦な張出部13を介して連設して成るパルプモールド成形品である。
なお、本発明は、図示のような形状に限定されず、パルプ溶液(パルプ泥漿)801を抄き型(成形型)50で抄いて成形型面に吸着し、離型後、乾燥させることにより製造されるパルプモールド成形品であれば、適用可能である。換言すれば、果実や物品等を収容するための凹部やその他の凹凸は有るが、抄き型(成形型)で抄いて成形型面へ吸着されることにより形成される各部位が、薄板状を成す成形品であれば、適用可能である。
【0018】
図1(a)に示すパルプモールド成形品は、図2(a)に示す熱溶解積層法で製造した多孔質樹脂製の成形型50を用いて製造される。なお、パルプモールド成形品を得る製造方法としては、従来と同様、前述の図4に示す方法を用いるものとする。
【0019】
熱溶解積層法により立体形状を製造する方法を説明する。
熱溶解積層法とは、加熱して溶融した樹脂を細いノズルの先端から少しずつ吐出するとともに、ノズル(又は受け台)を主走査方向(X方向)へ移動させることにより、吐出した溶融樹脂を線状に置きつつ固化させ、目的物の寸法(当該層・当該副走査方向位置での当該主走査方向の寸法)で決まる端部に至ると、ノズル(又は受け台)を副走査方向(Y方向)へ所定の微小距離移動させ、次に、主走査方向に沿う反対方向(−X方向)へ移動させるという処理を、目的物の寸法(当該層・当該副走査方向の寸法)で決まる副走査範囲まで繰り返して第1層を形成する。次に、第1層の主走査方向と交叉する方向を主走査方向として、同様に処理して、第2層を形成する。かかる処理を、目的物の高さで決まる範囲までくりかえすことにより、目的物を形成する方法である。
【0020】
本発明の実施の形態で用いる成形型50は、上述の熱溶解積層法により、ヘッド60からノズル61を通して溶融樹脂を吐出して形成しており、溶融樹脂としては、例えば、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂や、PC(ポリカーボネート)樹脂)を用いている。また、或る層(例:第1層)の主走査方向と、その直上の層(例:第2層)の主走査方向は、例えば、60度ずつ変えて、交叉させている。
【0021】
ノズル61の径、即ち、ノズル61から吐出する溶融樹脂の径や、副走査方向への微小移動の距離は、パルプモールド成形品の用途等の実情を考慮して、所望の使用期間に渡って目詰まりを起こさず、且つ、水のみを排出してパルプ繊維をほとんど排出しない良好な通水特性の多孔質となるように、適宜に設定している。
【0022】
また、成形型50の断面が表れている図2(b)には、成形型50内の多孔質の密度等の様子は示されていないが、これは、部位に応じて適宜に変えたり、或いは、空洞の部分を設ける等してもよい。例えば、排水量を多くしたい部位では副走査の間隔(前述の所定の微小距離)を他の部位より拡げる等、適宜に制御してもよい。或いは、ノズルの径を可変として、吐出量を異ならせるように制御してもよい。
【0023】
このようにして製造したパルプモールド成形品は、図1(a)に例示するように、各収容凹部12,12の間に介在される平坦な張出部13に、従来の成形品に不可避的に見られた筋状凸部(図1(b)参照)がなく、外観が良好なばかりでなく、該筋状凸部130に起因する強度上の問題も無い、良好な特性を有する。
【符号の説明】
【0024】
10 実施の形態のパルプモールド成形品
10m 成形品(成形途中)
12 収容凹部
13 張出部
10−p 従来のパルプモールド成形品
10m−p 成形品(成形途中)
12−p 収容凹部
13−p 張出部
130 筋状凸部
20 受け型
31−1,31−2 型本体
310 細孔
32−1,32−2 金網
320−1,320−2 金網の端部
35 型枠
50 成形型
50m 成形型(製造途中)
50−p 従来の成形型
60 ヘッド
61 ノズル
80 パルプ溶液槽
801 パルプ溶液
82 回転式成形型支持装置
84 回転式受け型支持装置
86 搬送装置
861 パレット
88 乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各部位が薄板状を成し、収容凹部と該収容凹部の開口部の周囲に張り出された張出部とを備えた収容ユニットを複数個有し、相互に隣接する収容ユニットが張出部の端縁にて相互に連設されるように一体形成して成るパルプモールド成形品であって、
前記隣接する収容ユニットの張出部端縁の連設部位が筋状の凹凸無く平坦に形成されていることを特徴とするパルプモールド成形品。
【請求項2】
成形型をパルプ溶液に浸して成形型面の裏側から多数の細孔を通して吸引することにより該成形型面にパルプ繊維を層状に付着させた後、パルプ溶液から引き上げ、パルプ繊維の層を前記成形型面から離型して乾燥させることにより該成形型面の凹凸を転写して成り各部位が薄板状を成すパルプモールド成形品を得る製造方法であって、
前記成形型として、複数個の収容凹部の各開口部の間を平坦な張出部を介して連設して成る形状を転写するための凹凸形状を成す成形型面を備え、該成形型面からその裏側へ通ずる多数の細孔を有するように熱溶解積層法により多孔質に形成して成る合成樹脂製の成形型を用いることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
各部位が薄板状を成し複数個の収容凹部の各開口部の間に平坦で筋状の凹凸の無い張出部を有するように、請求項2の製造方法により製造されたパルプモールド成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−208289(P2011−208289A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73941(P2010−73941)
【出願日】平成22年3月27日(2010.3.27)
【出願人】(597047163)日本モウルド工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】