説明

パワーステアリング装置

【課題】 装置全体の軸方向長さを短くする。
【解決手段】 ピストン3を固定したガイドロッド1と、このガイドロッド1に摺動自在に設けるとともに、上記ピストン3によって区画された一対の圧力室6,7を有するシリンダ2と、上記ガイドロッド1と平行に設けるとともに、上記シリンダ2と一体に移動する出力軸10と、上記ガイドロッド1と平行に設けるとともに、上記シリンダ2と一体に移動するラックシャフト16と、ステアリングホイールに連係した入力軸と、この入力軸に設けるとともに、ラックシャフト16のラックにかみ合わせピニオン18と、ラックに対するピニオン18の回転負荷に応じて切り換わり、上記一方の圧力室を圧力源に連通させ、他方の圧力室をタンクに連通させるバルブ機構Vとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラックアンドピニオン方式によるパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この従来から知られている装置は、ラックシャフトとパワーシリンダのピストンロッドとを一体的に設けている。言い換えると、この従来の装置は、ラックシャフトとピストンロッドとを直列に設け、パワーシリンダの出力によって、上記ラックシャフトおよびピストンロッドとを一体的に移動させる構成にしている。
【0003】
また、上記ラックシャフトにはタイロッドを連係しているが、このタイロッドは、ラックシャフトとほぼ平行にしている。そして、パワーシリンダの力でラックシャフトが移動すれば、その移動力がタイロッドを介してナックルアームに伝達され、所期のアシスト力が発揮されるものである。
【特許文献1】特開平11−321694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにした従来の装置では、ラックシャフトとピストンロッドとを一体化しているので、その分、軸方向長さが、長くならざるを得ない。しかも、ラックシャフトとピストンロッドとの間には、間隔を設けなければならない。なぜなら、ラックシャフトがシリンダ内に進入するのを防止しなければならないからである。そのために、上記間隔分に相当した分も、軸方向長さを長くせざるを得ない要因になっていた。このように当該装置の軸方向長さが長くなると、例えば、車幅が狭い車両には、パワーステアリング装置を設置できないという問題が発生していた。
【0005】
この発明の目的は、軸方向長さを短くできるパワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ピストンを固定したガイドロッドと、このガイドロッドに摺動自在に設けるとともに、上記ピストンによって区画された一対の圧力室を有するシリンダと、上記シリンダと一体でかつガイドロッドと平行移動する出力伝達機構と、上記ガイドロッドと平行に設けるとともに、上記シリンダと一体に移動するラックシャフトと、ステアリングホイールに連係した入力軸と、この入力軸に設けるとともに、ラックシャフトのラックにかみ合わせたピニオンと、ラックに対するピニオンの回転負荷に応じて切り換わり、上記一方の圧力室を圧力源に連通させ、他方の圧力室をタンクに連通させるバルブ機構とを備え、シリンダのいずれか一方の圧力室を圧力源に連通させ、他方の圧力室をタンクに連通させることによって上記シリンダをガイドロッドに沿って摺動させる構成にした点に特徴を有する。
【0007】
なお、上記出力伝達機構は、シリンダと一体に移動して、そのシリンダの移動する力を、外部に伝達するものであれば、どのようなものであってもよい。したがって、上記出力伝達機構には、シリンダと一体的に移動する出力軸はもちろん、シリンダ側に固定したブラケット等が含まれるものである。
【0008】
第2の発明は、ガイドロッドに一対の連通孔を形成し、これら連通孔の一端をバルブ機構に接続し、他端をピストンで区画された圧力室に連通させた点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、ガイドロッドに対してシリンダを移動させるようにしているので、シリンダ全体における最大長さは、ガイドロッドの長さになる。このガイドロッドの長さは、シリンダの両端からのストローク分だけで足りるので、その必要最大長さは、ピストンロッドを移動させる場合よりも短くてすむ。このようにシリンダ全体の必要長さを短くできる上に、ラックシャフトを上記シリンダすなわちガイドロッドと平行に設けるとともに、出力機構を上記シリンダと平行移動する構成にしたので、装置全体の軸方向長さを短くできる。したがって、車幅が狭い車両、あるいは車幅方向の搭載スペースが小さい車両に対しても当該装置を設置することが可能になる。
【0010】
また、第2の発明によれば、ガイドロッドを介して、シリンダの圧力室を圧力源に連通させたり、タンクに連通させたりできるので、ガイドロッドの部分では配管が不要になり、その分、設置効率を向上させることができる。また、配管が不要になる分、部品点数も少なくなるので、コストダウンに役立つことになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図示の実施形態は、図示していない車体側に固定したガイドロッド1にシリンダ2を摺動自在に組み付けているが、上記ガイドロッド1にはピストン3を設けている。したがって、シリンダ2内は、ピストン3によって圧力室4と5とに区画されている。さらに、上記ガイドロッド1には、その軸中心線に沿って一対の連通孔6,7を形成している。この連通孔6,7は、その一端をピストン3の両側近傍に開口させ、他端は、後で説明するバルブ機構Vに接続している。
【0012】
上記のようにしたシリンダ2には、一対のブラケット8,9を、間隔を開けて設けるとともに、これらブラケット8,9に出力軸10を固定している。このようにして固定された出力軸10は、ガイドロッド1と平行に支持されることになる。そして、上記のようにシリンダ2と出力軸10とが固定されているので、シリンダ2がガイドロッド1に沿って移動すれば、それにともなって出力軸10も軸方向に移動することになる。
【0013】
上記のようにした出力軸10の両端には、インナーボールジョイント11,12を介してロッド13,14を連結している。さらにこのロッド13,14には、図示していないナックルアームを連結しているので、上記出力軸10が軸方向に移動することによって、その移動方向に応じた転舵が可能になる。また、図中符号15は、車体側に固定した支持部材で、出力軸10を摺動自在に支持するものである。
【0014】
なお、上記ブラケット8,9および出力軸10で、この発明の出力伝達機構を構成するが、例えば、上記ブラケット8,9にインナーボールジョイント11,12を直接設ければ、このインナーボールジョイント8,9だけで出力伝達機構を構成することになる。要するに、この発明においては、出力伝達機構によってシリンダ2の移動力が転舵力に変換されるとともに、この出力伝達機構がシリンダ2と平行移動すればよく、その間における伝達機構の具体的な構成はどのようなものであってもよい。
【0015】
さらに、上記ガイドロッド1と平行にしたラックシャフト16を設けているが、このラックシャフト16は、支持部材17によって、シリンダ2と一体的に軸方向に移動可能に支持されている。そして、このラックシャフト16に形成したラックには、図2に示したピニオン18をかみ合わせているが、このピニオン18は、ギヤケース22内に設けている。このようにしたピニオン18にはステアリングホイールと連結した入力軸23を連結しているが、ステアリングホイールは図示していない。
【0016】
また、上記ピニオン18と入力軸23との間には、バルブ機構Vを設けているが、このバルブ機構Vは、ラックシャフト16に設けたラックに対するピニオン18の回転負荷に応じて切り換わるものである。そして、前記した連通孔6,7は、配管19,20を介してこのバルブ機構Vに接続している。したがって、バルブ機構Vがステアリングホイールの操舵方向に応じて切り換わると、前記圧力室のうちのいずれか一方の圧力室、例えば一方の圧力室4が圧力源である図示していないポンプに連通し、他方の圧力室5が同じく図示していないタンクに連通することになる。なお、図中符号21は、ラックシャフト16のガイド部材で、ラックシャフト16はこのガイド部材21に沿って軸方向に移動可能にしている。
【0017】
次に、上記実施形態の作用を説明する。
今、ステアリングホイールを操作すると、その操作方向に応じて、バルブ機構Vが切り換わるとともに、その切り換え方向に応じて、シリンダ2の例えば一方の圧力室4を圧力源に連通し、他方の圧力室5をタンクに連通させる。上記のように一方の圧力室4が圧力源に連通し、他方の圧力室5がタンクに連通すると、シリンダ2は図面左方向に移動することになる。
【0018】
上記のようにシリンダ2が図面左方向に移動すると、それにともなって出力軸10とラックシャフト16も図面左方向に移動する。なお、ラックシャフト16はシリンダ2に追随しながら、ピニオン18を回転させることになる。このようにシリンダ2の移動にともなって、出力軸10が移動すると、それにともなってロッド13,14が移動し、その移動方向に応じた転舵がなされることになる。
【0019】
そして、この実施形態によれば、まず、ガイドロッド1に対してシリンダ2を移動させるようにしたので、例えば、ピストンロッドを移動させる場合に比べて、必要長さを短くできる。例えば、ピストンロッドを移動させる場合には、中立位置におけるピストンロッドの両端が、ストロークの始点になるので、ピストンロッドの両端からさらにストローク分の長さを必要とする。しかし、この実施形態のように、ガイドロッド6に対してシリンダ2を移動させるようにすれば、シリンダ全体における最大長さは、ガイドロッド6の長さになる。このガイドロッド6の長さは、シリンダ2の両端からのストローク分だけで足りるので、その必要最大長さは、ピストンロッドを移動させる場合よりも短くてすむ。
【0020】
しかも、この実施形態では、上記ガイドロッド1と出力軸10とを平行にし、さらに、ガイドロッド1とラックシャフト16も平行にしているので、従来のようにピストンロッドとラックシャフト16とを一体的にしかも直列にする場合よりも、軸方向長さを短くできる。
【0021】
上記のように、この実施形態によれば、装置全体の軸方向長さを短くできるので、例えば、車幅が狭い車両あるいは車幅方向の設置スペースが小さい車両に対しても当該装置を設置することが可能になる。
【0022】
また、ガイドロッド1に形成した連通孔6,7を介して、シリンダ2の圧力室4あるいは5を圧力源に連通させたり、タンクに連通させたりできるので、ガイドロッド1に対応する長さ分だけ配管が不要になる。このように配管が不要になるので、その分、さらに設置効率が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施形態を示す平面図である。
【図2】この発明の実施形態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ガイドロッド
2 シリンダ
3 ピストン
4,5 圧力室
6,7 連通孔
10 出力軸
16 ラックシャフト
18 ピニオン
V バルブ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを固定したガイドロッドと、このガイドロッドに摺動自在に設けるとともに、上記ピストンによって区画された一対の圧力室を有するシリンダと、上記シリンダと一体でかつガイドロッドと平行移動する出力伝達機構と、上記ガイドロッドと平行に設けるとともに、上記シリンダと一体に移動するラックシャフトと、ステアリングホイールに連係した入力軸と、この入力軸に設けるとともに、ラックシャフトのラックにかみ合わせたピニオンと、ラックに対するピニオンの回転負荷に応じて切り換わり、上記一方の圧力室を圧力源に連通させ、他方の圧力室をタンクに連通させるバルブ機構とを備え、シリンダのいずれか一方の圧力室を圧力源に連通させ、他方の圧力室をタンクに連通させることによって上記シリンダをガイドロッドに沿って摺動させる構成にしたパワーステアリング装置。
【請求項2】
上記ガイドロッドには一対の連通孔を形成し、これら連通孔の一端をバルブ機構に接続し、他端をピストンで区画された圧力室に連通させた請求項1記載のパワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−335303(P2006−335303A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165195(P2005−165195)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】