説明

パンの製造方法

【課題】 湯種特有のもっちりとした食感と、米粉特有の風味を持ち、かつパン全体として均質なパンの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のパンの製造方法は、小麦粉と、前記小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の米粉と、食塩とからなり、脱脂粉乳を含有しない中間生地材料準備工程と、前記中間生地材料に、前記小麦粉100重量部に対して熱水80〜120重量部を加え混捏する中間生地材料熱水混捏工程と、混捏された中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却しかつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存する冷却保存工程と、該冷却保存工程において冷却された中間生地を13℃〜30℃に調製する温度調整工程とを行うものであり、さらに、温度調整工程により温度調整された中間生地を最終パン生地の一部として利用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パンの製造方法に関し、詳しくは、食感や風味に特徴を持ったパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉に熱水を加えたものを種生地(湯種)として、これを用いてパンを製造する方法がある。この方法は、湯種法あるいはα化法と呼ばれている。
この製法を用いた製品は、もっちりとした独特の食感の製品が得られるとされている。生地に使用する全小麦粉に対する湯種に使用する小麦粉量が多い程、湯種特有のもっちりとした食感が得られる。
また、従来より、小麦粉を含むパン生地に対して米粉を加えるパンの製造方法が知られている。パン生地に対して米粉を加えることにより、米粉特有の風味、粘り、食感等を持つパンを得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの両方法を同時に実施してパンを製造することは容易ではない。すなわち、湯種法によりパンを製造するに際して、小麦粉を含む生地に対して熱水を加えた場合には、小麦粉中のグルテンが熱水で変性する。そのため、焼成後にパンが潰れるというケービング現象を起こしやすくなる。そして、パン生地に対して米粉が加えられていると、該米粉がグルテンの形成を阻害するため、生地の発酵によって発生する炭酸ガスが生地中に保持されず、焼成後にパンが潰れるというケービング現象をますます起こしやすくなる。
上述した理由により、湯種特有のもっちりとした食感を有しつつ、米粉特有の風味や食感を併せ持ち、かつパン全体として均質なパンを製造することは容易なものではなかった。
本願発明の目的は、湯種特有のもっちりとした食感と、米粉特有の風味を持ち、かつパン全体として均質なパンの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
本発明のパンの製造方法は、小麦粉と、前記小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の米粉と、食塩とからなり、脱脂粉乳を含有しない中間生地材料準備工程と、前記中間生地材料に、前記小麦粉100重量部に対して熱水80〜120重量部を加え混捏する中間生地材料熱水混捏工程と、混捏された中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却しかつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存する冷却保存工程と、該冷却保存工程において冷却された中間生地を13℃〜30℃に調製する温度調整工程と、該温度調整工程により温度調整された中間生地を最終パン生地の一部として利用するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のパンの製造方法によれば、中間生地材料熱水混捏工程と、冷却保存工程と、温度調整工程が行われた中間生地をパン生地の一部として利用するものであるので、湯種特有のもっちりとした食感を有し、米粉特有の風味を持ち、かつパン全体として均質なパンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明のパンの製造方法について説明する。
本発明のパンの製造方法は、小麦粉と、前記小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の米粉と、食塩とからなり、脱脂粉乳を含有しない中間生地材料準備工程と、前記中間生地材料に、前記小麦粉100重量部に対して熱水80〜120重量部を加え混捏する中間生地材料熱水混捏工程と、混捏された中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却しかつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存する冷却保存工程と、該冷却保存工程において冷却された中間生地を13℃〜30℃に調製する温度調整工程と、該温度調整工程により温度調整された中間生地を最終パン生地の一部として利用するものである。
【0007】
また、言い換えれば、本発明のパンの製造方法は、小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の米粉と、食塩とを添加し、かつ脱脂粉乳を添加することなく準備した材料に、前記小麦粉100重量部に対して熱水80〜120重量部を加え混捏する中間生地材料熱水混捏工程と、調製された中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却しかつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存する冷却保存工程と、該冷却保存工程において冷却された中間生地を13℃〜30℃に調製する温度調整工程と、該温度調整工程により温度調整された中間生地をパン生地の一部として利用するものである。
本発明のパンの製造方法の特徴は、上記のように調製された中間生地(言い換えれば、湯種)をパン生地の一部として利用する点である。
【0008】
中間生地の調製には、小麦粉、米粉、食塩、熱水が使用される。
小麦、食塩としては、周知のものが使用される。
米粉が添加された中間生地を利用することにより、米粉特有の風味、うまみ、食感等を持ったおいしいパン類を製造することができる。米粉としては、もち米粉を用いてもよいが、うるち米を原料とした米粉を用いることが好ましい。うるち米の米粉を添加した方が、もち米の米粉を添加するよりも優れた食感を有するおいしいパン類を製造できる。また、米粉は、生米をそのまま粉にしたベーター型の米粉、米を加熱して糊化してから粉にしたアルファー型の米粉のいずれを用いてもよいが、ベーター型の米粉の方が生地中への分散が良好であり、良好な食感を得られるため好ましい。また、アルファー型米粉及びベーター型米粉の両者を添加してもよい。
熱水としては、90度以上の熱水を用いることが好ましい。
【0009】
そして、最初に、小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の米粉と、食塩とを添加し、かつ脱脂粉乳を添加することなく準備した材料に、前記小麦粉100重量部に対して熱水80〜120重量部を加え混捏する中間生地材料熱水混捏工程が行われる。
本発明では、この生地調製の出発である中間生地材料熱水混捏工程において、脱脂粉乳が添加されていない。風味改善などの目的より、脱脂粉乳を添加することはパンの製造において一般的に行われている。しかし、熱水を添加する本発明では、脱脂粉乳中の蛋白質成分に熱水による変性を生じさせ、結果的に風味を損なう場合があることより、添加しないものとしている。なお、添加される米粉により十分な風味改善効果がある。
【0010】
米粉の添加量としては、小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部であることが必要であり、0.2〜10重量部であることが特に好ましい。 そして、食塩の添加量としては、小麦粉100重量部に対して、4〜15重量部であることが好ましく、特に、5〜12重量部が好適である。食塩の添加量は、通常の生地調製において添加される量よりかなり高い。このように、食塩添加量を高いものとすること、すなわち、中間生地材料熱水混捏物における塩分濃度を高いものとすることにより、中間生地調製中における雑菌の繁殖を抑制できる。特に、上記のように高塩分濃度とするとともに脱脂粉乳を添加しないことにより、中間生地調製中における雑菌の繁殖を顕著に抑制できる。食塩添加量としては、調製される最終生地に添加される全量の食塩をこの中間生地材料中に添加するものとしてもよい。
【0011】
中間生地材料熱水混捏工程では、小麦粉、米粉および食塩を混合した後、熱水を加えて混捏して中間生地を調製する。添加する熱水量は、小麦粉100重量部に対して80〜120重量部であり、より好ましくは、90〜110重量部である。さらに好ましい量は90重量部〜100重量部である。熱水とは、温度が85℃以上の水をいう。好ましくは、90℃以上97℃以下である。85℃以上であれば、湯種としての効果を確実に発揮し、97℃以下であれば、生地に不測の熱変化を与えることがない。
また、中間生地の調製にあたっては、生地温度が55℃〜80℃となるようにするのが好ましい。ここにいう生地温度は、生地の内部温度である。通常には、生地の中心部の温度である。生地温度(捏上げ時の生地温度)としては、57〜70℃であることがより好ましい。
【0012】
そして、上記のように調製された中間生地を冷却保存する冷却保存工程が行われる。
この冷却保存工程では、調製された中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却し、かつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存することにより行われる。この冷却保存工程は、0℃以下に調製された冷蔵室に中間生地を保存することにより行われる。そして、このように、中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却し、かつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存することにより、比較的中間生地(湯種量)が少なくても、良好な食感が得ることができる。
そして、24時間以上上記の状態にて冷却保存することにより、焼成後の良好な食感を得ることができ、また、上記の状態での冷却保存時間が72時間以下であれば、生地中に離水が生じることもない。冷却保存時間としては、15時間から40時間が好適である。
【0013】
続いて、冷却保存された中間生地を13℃〜30℃に調製する温度調整工程が行われる。これは、いわゆる温度復帰工程である。このように、中間生地をその温度が常温程度となる状態に復帰させることにより、他の生地材料との混捏性を良好なものとするとともに、焼成されるパンの内部が均質なものとなり、良好な食感を得ることができる。また、温度調整工程としては、冷却保存された中間生地を15℃〜20℃に調製することが好ましい。このように、温度復帰工程における温度を冷却温度よりある程度高くかつ常温より低い温度とすることにより、後の混捏工程における冷却媒体の使用量を少ないものとすることができる。
温度調整工程は、冷却保存された中間生地を温蔵庫にて所定時間保存することにより行うことが好ましい。温蔵庫の温度としては、15℃〜30℃程度が好ましい。なお、この温度調製工程は、冷却保存工程において収納されていた冷蔵庫より中間生地を取り出し、常温雰囲気下に置いておくことにより行ってもよい。
【0014】
そして、本発明では、このように調製された中間生地(湯種)をパン生地の一部として利用し、パンを製造する。また、製造されるパンの種類もどのようなものであってもよい。なお、本発明のパンの製造方法は、食パン、ロールパン、菓子パンなどに適用することにより、その効果が極めて有効に発揮される。
パンの製造方法としては、上述のように調製された中間生地をパン生地の一部として用いるものであれば、どのようなものであってもよい。具体的には、いわゆるストレート法(直捏法)と呼ばれるもの、中間生地と他のパン生地を用いる方法などが用いられる。そして、パンの製造にあたり、上述のように調製された中間生地とともに、パン生地全体に必要な小麦粉の残量、水、イースト、砂糖、バターまたはマーガリン、食塩等の材料、さらには、あらかじめ準備された別のパン生地を添加し、混捏することにより、パン生地を調製し、常法に従い、発酵、焼成することにより、パンが製造される。
そして、本発明のパンの製造方法を直捏法(ストレート法)によるパンの製造方法に応用する場合には、生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として10〜60重量部となるように上述の中間生地を用いることが好ましい。特に、生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として20〜50重量部となるように上述の中間生地を用いることが好ましい。
【0015】
そして、このケースの場合には、生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として10〜60重量部となる前記中間生地と、40〜90重量部となる小麦粉と、砂糖と、イーストと、バターもしくはマーガリンと、水とを混捏する生地調製工程(本捏工程)と、調製された生地を発酵させる発酵工程と、発酵された生地を焼成する焼成工程とが行われる。
発酵工程は、常法にて行われる。通常、発酵工程は、最終生地を静置(フロア)させた後、分割して丸めた後、再静置(ベンチ)させたのち、最終発酵(ホイロ)が行われる。そして、常法に従って、焼成される。
【0016】
また、本発明のパンの製造方法を中間生地と他のパン生地を用いる方法によるパンの製造方法応用する場合には、生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として10〜30重量部の上述の中間生地を用いることが好ましい。
そして、このケースの場合には、小麦粉と、イーストと、水とを混捏した後発酵させる発酵中種調製工程と、生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、5〜20重量部となる小麦粉と、10〜30重量部となる前記中間生地と、40〜80重量部となる前記発酵中種と、砂糖と、バターもしくはマーガリンと、水とを混捏する生地調製工程と、調製された生地を発酵させる発酵工程と、発酵された生地を焼成する焼成工程とが行われるものとなる。
この方法では、発酵中種が調製される。小麦粉と、イーストと、水とを混捏し、常法に従い発酵させることにより発酵中種が調製される。そして、中間生地(湯種)と、発酵中種と、小麦粉と、砂糖と、バターもしくはマーガリンと、水とを混捏することにより、最終生地調製が行われる。そして、この最終生地を常法にて発酵させる。通常、発酵工程は、最終生地を静置(フロア)させた後、分割して丸めた後再静置(ベンチ)させたのち、最終発酵(ホイロ)が行われる。そして、常法に従って、焼成される。
本発明では、米粉を含有した材料に熱水を加えて混捏し後、冷却保存された湯種生地を用いているので、製造されるパンに、独特の風味と食感と、良好な焼成状態を与えることができる。また、製造されたパンは、もっちりとした食感を有するとともに、ある程度の期間、良好な水和状態を保持する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の具体的実施例を説明する。
(実施例1)
この実施例は、本発明のパンの製造方法をストレート法(直捏法)に適用したものである。
中間生地に添加する米粉は、うるち米を原料としたベーター型の米粉を用いた。 中間生地材料熱水混捏工程、冷却保存工程、温度調整工程、本捏工程、発酵工程、焼成工程を以下の通り行うことにより、パンを製造した。
【0018】
(中間生地材料熱水混捏工程)
中間生地の配合及び混合を、常法に基づいて以下に示すとおり行った。なお、混合において、低速とは90rpm、中速とは180rpm、高速とは270rpmを意味する。以下の実施例において同様とする。
生地配合
小麦粉 2000g(生地形成のための小麦粉100重量部に対して20重量部)
食塩 200g
米粉 10g(生地形成のための小麦粉に対して0.1%、中間生地小麦粉100重量部に対して0.5重量部)
上記材料を混合した後、熱水(95℃) 2000gを投入し、低速にて3分、その後、中速にて2分、混捏し、中間生地(湯種)を調製した。調製された湯種の内部温度(捏上温度)は、65℃であった。
【0019】
(冷却保存工程)
次いで、得られた中間生地(湯種)を、−1℃の冷蔵庫内に静置し、35時間冷却保存した。なお、冷蔵庫に静置後、約4時間後には、中間生地の内部温度は、20℃以下となったことを確認した。また、40時間冷却保存後の中間生地の内部温度は、約8℃であった。よって、32時間程度は、中間生地は、5℃〜15℃の温度範囲にて冷却保存されていたものとなる。
【0020】
(温度調整工程)
冷却保存された中間生地(湯種)を約25℃に調製した温蔵庫内に静置し、2時間加温保存した。温蔵庫より取り出した中間生地の内部温度は、20℃であった。
【0021】
(本捏工程)
上記のように温度調整された中間生地を用い、かつ以下のようにして最終生地を調製した。
小麦粉 8000g
砂糖 500g
イースト 300g
マーガリン 500g
中間生地(湯種) 上述の中間生地全量(小麦粉量2000g、米粉量200g)
水 5000g
マーガリンを除く上記材料を低速にて4分、中速にて8分混捏した後、マーガリンを全量投入し、さらに、低速にて3分、中速にて5分混捏することにより、全量生地(最終生地)を調製した。調製された全量生地(最終生地)の内部温度(捏上温度)は、27℃であった。
【0022】
(発酵、焼成工程)
次いで、上記の全量生地(最終生地)を用いて、常法により発酵、焼成して食パンを製造した。
フロアタイム(最終生地のねかし)を60分行い、その後、最終生地を複数に分割したのちベンチタイム(分割生地のねかし)を15分行い、その後、分割生地をホイロ(発酵器)内に入れ、60分発酵させた。そして、それぞれの分割生地を食パン成形型内に入れ、蓋をした後、焼成釜に入れ、200℃/200℃(上火温度/下火温度、45分)の条件にて焼成することにより、角型食パンを製造した。
【0023】
(実施例2)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を50g(生地形成のための小麦粉に対して0.5%、中間生地小麦粉100重量部に対して2.5重量部)とした以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0024】
(実施例3)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を100g(生地形成のための小麦粉に対して1%、中間生地小麦粉100重量部に対して5重量部)とした以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0025】
(実施例4)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を400g(生地形成のための小麦粉に対して4%、中間生地小麦粉100重量部に対して20重量部)とした以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0026】
(実施例5)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を5g(生地形成のための小麦粉に対して0.05%、中間生地小麦粉100重量部に対して0.25重量部)とした以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0027】
(比較例1)
中間生地材料熱水混捏工程において米粉を添加しない以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0028】
(比較例2)
中間生地材料熱水混捏工程において、温度調整工程を行わない以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。なお、この比較例2では、良好な本捏が行われなかった。
【0029】
(実施例6)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉として、うるち米を用いたベーター型米粉を用い、その添加量を50g(生地形成のための小麦粉に対して0.5%、中間生地小麦粉100重量部に対して2.5重量部)とした以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0030】
(実施例7)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉として、もち米を用いたアルファー型米粉を用い、その添加量を50g(生地形成のための小麦粉に対して0.5%、中間生地小麦粉100重量部に対して2.5重量部)とした以外は、実施例1と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0031】
(実施例8)
この実施例は、本発明のパンの製造方法を中間生地と他のパン生地を用いる方法に適用したものである。
中間生地に添加する米粉は、うるち米を原料としたベーター型の米粉を用いた。 中間生地材料熱水混捏工程、冷却保存工程、温度調整工程、発酵中種調製工程、本捏工程、発酵工程、焼成工程を以下の通り行うことにより、角型食パンを製造した。
【0032】
(中間生地材料熱水混捏工程)
中間生地の配合及び混合を、常法に基づいて以下に示すとおり行った。なお、混合において、低速とは90rpm、中速とは180rpm、高速とは270rpmを意味する。以下の実施例において同様とする。
生地配合
小麦粉 2000g(生地形成のための小麦粉100重量部に対して20重量部)
食塩 200g
米粉 10g(生地形成のための小麦粉に対して0.1%、中間生地小麦粉100重量部に対して0.5重量部)
上記材料を混合した後、熱水(95℃) 2000gを投入し、低速にて3分、その後、中速にて2分、混捏し、中間生地(湯種)を調製した。調製された湯種の内部温度(捏上温度)は、65℃であった。
【0033】
(冷却保存工程)
次いで、得られた中間生地(湯種)を、−1℃の冷蔵庫内に静置し、35時間冷却保存した。なお、冷蔵庫に静置後、約4時間後には、中間生地の内部温度は、3℃以下となったことを確認した。また、40時間冷却保存後の中間生地の内部温度は、約0℃であった。よって、32時間程度は、中間生地は、3℃〜0℃の温度範囲にて冷却保存されていた。
【0034】
(温度調整工程)
冷却保存された中間生地(湯種)を約30℃に調製した温蔵庫内に静置し、2時間加温保存した。温蔵庫より取り出した中間生地の内部温度は、27℃であった。
【0035】
(発酵中種調製工程)
この発酵中種調製工程は、上記の中間生地材料熱水混捏工程と並行して行われる。
小麦粉 7000g
イースト 300g
水 3500g
上記材料を混合し、低速にて2分、中速にて2分混捏した。捏上温度は、24℃であった。そして、捏上生地を27℃に調製された温蔵庫(発酵器)内にて、4時間発酵させることにより、発酵中種を調製した。
【0036】
(本捏工程)
上記のように温度調整された中間生地(湯種)、発酵中種を用い、かつ以下のようにして最終生地を調製した。
小麦粉 1000g
砂糖 300g
マーガリン 500g
水 1000g
中間生地 上述の中間生地全量(小麦粉量2000g、米粉量200g)
中種 上述の発酵中種全量(小麦粉量7000g)
マーガリンを除く上記材料を混合し、低速にて2分、中速にて4分混捏した後、マーガリンを投入し、さらに、低速にて2分、中速にて5分混捏することにより、全量生地(最終生地)を調製した。調製された全量生地(最終生地)の内部温度(捏上温度)は、27℃であった。
【0037】
(発酵、焼成工程)
次いで、上記の全量生地(最終生地)を用いて、常法により発酵、焼成して食パンを製造した。
フロアタイム(最終生地のねかし)を60分行い、その後、最終生地を複数に分割したのちベンチタイム(分割生地のねかし)を15分行い、その後、分割生地をホイロ内に入れ、60分発酵させた。そして、それぞれの分割生地を食パン成形型内に入れ、蓋をした後、焼成釜に入れ、200℃/200℃(上火温度/下火温度、45分)の条件にて焼成することにより、角型食パンを製造した。
【0038】
(実施例9)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を50g(生地形成のための小麦粉に対して0.5%、中間生地小麦粉100重量部に対して2.5重量部)とした以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0039】
(実施例10)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を100g(生地形成のための小麦粉に対して1%、中間生地小麦粉100重量部に対して5重量部)とした以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0040】
(実施例11)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を400g(生地形成のための小麦粉に対して4%、中間生地小麦粉100重量部に対して20重量部)とした以外は、実施例7と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0041】
(実施例12)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉の添加量を5g(生地形成のための小麦粉に対して0.05%、中間生地小麦粉100重量部に対して0.25重量部)とした以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0042】
(実施例13)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉として、うるち米を用いたベーター型米粉を用い、その添加量を50g(生地形成のための小麦粉に対して0.5%、中間生地小麦粉100重量部に対して2.5重量部)とした以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0043】
(実施例14)
中間生地材料熱水混捏工程における米粉として、もち米を用いたアルファー型米粉を用い、その添加量を50g(生地形成のための小麦粉に対して0.5%、中間生地小麦粉100重量部に対して2.5重量部)とした以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0044】
(比較例3)
中間生地材料熱水混捏工程において米粉を添加しない以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。
【0045】
(比較例4)
中間生地調製工程において、温度調整工程を行わない以外は、実施例8と同様に行い、角型食パンを製造した。なお、この比較例4では、良好な本捏が行われなかった。
【0046】
〔品質評価試験〕
実施例1ないし14、比較例1ないし4により得られた角型食パンの品質及び嗜好性について試験した。
試験項目は、食パンの内相の膜伸び、食パンクラム硬さ、味の好ましさ、香りの好ましさ、食感の好ましさである。
試験結果を表1ないし表4に示す。
食パンの内相については、目視により膜伸びの状態を確認した。この「膜伸び」とは、パン生地の焼成の初期段階において、伸展性を持ったパン生地が内部に含まれる炭酸ガスやアルコールによって膨張し、食パンの内相において縦目状の外観が得られることをいう。「膜伸び」が良好な場合とは、内相において良好な縦目が得られたことを意味しており、食パンの品質として高い評価を得ることができる。反対に、「膜伸び」が不良である場合とは、内相において良好な縦目が得られていないことを意味しており、食パンの品質として高い評価を得ることができない。
食パンクラム硬さについては、プランジャー径20mmのテクスチャーアナライザーによりクラム(内相)の硬さを測定した。クラム硬さは、室内20℃保存時における硬さであり、食パン製造後から1日目、2日目、3日目についてそれぞれ測定した。クラムの硬さは、食パンのいわゆる老化現象の指標となるものである。クラムの硬さが小さい程、もっちりとしてソフトな食感を得ることができるので、食パンの品質として高い評価を得ることができる。
嗜好性を指標する3つの要素、すなわち、味の好ましさ、香りの好ましさ、食感の好ましさについては、熟練したパネリスト20人がそれぞれ10点満点で評価し、この20人のデータの平均値を表中に記載した。これらの点数が高いほど、食パンの嗜好性が優れていることを意味する。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
表1ないし表3に示すように、実施例1ないし8のいずれにおいても、パン生地中に米粉を添加し、かつ、中間生地調製において温度調整工程を行うことにより、全体的に食パンの品質が向上した。嗜好性の評価点のほとんどが8.0点以上であった。これに対し、米粉を添加しない比較例1、比較例3、温度調整工程を行わない比較例2,比較例4で、嗜好性の評価点がすべて8.0点以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と、前記小麦粉100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の米粉と、食塩とからなり、脱脂粉乳を含有しない中間生地材料準備工程と、
前記中間生地材料に、前記小麦粉100重量部に対して熱水80〜120重量部を加え混捏する中間生地材料熱水混捏工程と、
混捏された中間生地をその内部温度が−5℃〜10℃となるように冷却しかつ内部温度が当該温度領域となる状態にて24時間〜72時間保存する冷却保存工程と、
該冷却保存工程において冷却された中間生地を13℃〜30℃に調製する温度調整工程と、
該温度調整工程により温度調整された中間生地を最終パン生地の一部として利用することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
前記中間生地材料は、前記小麦粉100重量部に対して、4重量部〜15重量部の前記食塩を含有するものである請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
前記パンの製造方法は、直捏法によるパンの製造方法であり、最終生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として10〜60重量部となるように前記中間生地を用いるものである請求項1または2に記載のパンの製造方法。
【請求項4】
前記パンの製造方法は、生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として10〜60重量部となる前記中間生地と、40〜90重量部となる小麦粉と、砂糖と、イーストと、バターもしくはマーガリンと、水とを混捏する最終生地調製工程と、調製された最終生地を発酵させる発酵工程と、発酵された最終生地を焼成する焼成工程とを行うものである請求項1または2に記載のパンの製造方法。
【請求項5】
前記パンの製造方法は、前記中間生地と他のパン生地とを用いるパンの製造方法であり、最終生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、小麦粉量として10〜30重量部の前記中間生地を用いるものである請求項1または2に記載のパンの製造方法。
【請求項6】
前記パンの製造方法は、小麦粉と、イーストと、水とを混捏した後発酵させる他の発酵パン生地調製工程と、最終パン生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、10〜30重量部となる前記中間生地と、40〜80重量部となる前記他の発酵パン生地と、5〜20重量部となる小麦粉と、砂糖と、バターもしくはマーガリンと、水とを混捏する最終生地調製工程と、調製された最終生地を発酵させる発酵工程と、発酵された生地を焼成する焼成工程とを行うものである請求項1または2に記載のパンの製造方法。
【請求項7】
前記中間生地の捏上温度は、55℃〜80℃となるように行うものである請求項1ないし6のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項8】
前記温度調整工程は、前記冷却保存工程において冷却された中間生地を15℃〜20℃に調製するものである請求項1ないし7のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項9】
前記米粉は、ベーター型の米粉である請求項1ないし8のいずれかにに記載のパンの製造方法。
【請求項10】
前記米粉は、うるち米の米粉であるである請求項1ないし8のいずれかにに記載のパンの製造方法。
【請求項11】
前記パンは、食パンまたはロールパンである請求項1ないし10のいずれかにに記載のパンの製造方法。
【請求項12】
前記米粉は、うるち米の米粉であり、前記パンは、食パンまたはロールパンである請求項1ないし8のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項13】
前記中間生地材料熱水混捏工程では、前記小麦粉100重量部に対して、4重量部〜15重量部の前記食塩を添加するものであり、前記米粉は、うるち米の米粉であり、前記パンは、食パンである請求項1ないし8のいずれかに記載のパンの製造方法。
【請求項14】
前記中間生地材料熱水混捏工程では、前記小麦粉100重量部に対して、4重量部〜15重量部の前記食塩を添加するものであり、前記米粉は、うるち米の米粉であり、前記パンは、食パンであり、前記パンの製造方法は、小麦粉と、イーストと、水とを混捏した後発酵させる他の発酵パン生地調製工程と、最終パン生地全量の形成に必要な小麦粉100重量部中、10〜30重量部となる前記中間生地と、40〜80重量部となる前記他の発酵パン生地と、5〜20重量部となる小麦粉と、砂糖と、バターもしくはマーガリンと、水とを混捏する生地調製工程と、調製された生地を発酵させる発酵工程と、発酵された生地を焼成する焼成工程とを行うものである請求項1ないし8のいずれかに記載のパンの製造方法。