説明

パンクシーリング剤

【課題】優れた初期シール性能、シール保持性能及び貯蔵安定性を発揮しつつ、低温での粘度を低下させて低温での注入性を改善し、更に高温での注入性も改善したタイヤのパンクシーリング剤を提供する。
【解決手段】天然ゴムラテックス、粘着付与剤、1,3−プロパンジオール及びノニオン性界面活性剤を含むタイヤのパンクシーリング剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤパンク時に、タイヤホイールの空気バルブからパンクシーリング剤と高圧空気とを順次タイヤ内に注入する方式のパンク処置システムにおいて、シーリング剤の低温での粘度を改善するとともに、高温での注入時に空気バルブで生じる詰まりを防止したパンクシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンクしたタイヤを応急的に補修する処置システムとして、例えば、パンクシーリング剤を収容した耐圧容器とコンプレッサーなどの高圧空気源とを用い、空気バルブを経てタイヤ内にシーリング剤を注入した後、引き続いて連続的に高圧空気を注入し、走行可能な圧力までタイヤをポンプアップするもの(以下に一体型タイプという場合がある)が知られている(特開2001−198986号公報の図1参照)。
【0003】
このようなパンクシーリング剤として、特許文献1〜3に記載されているような天然ゴムラテックスに、樹脂系粘着剤及びエチレングリコールを配合したものが提案されている。しかし、天然ゴムラテックスをベースとし、凍結防止剤としてエチレングリコールを添加したパンクシーリング剤は、長期間の保管でクリーム化しやすく、パンクシーリング剤の貯蔵安定性(長期間保管性)が望まれている。
【0004】
そのため、特許文献4には、凍結防止剤にプロピレングリコールを使用し、安定性を改善したシーリング剤が提案されている。しかし、エチレングリコールに代えてプロピレングリコールを使用することによって、パンクシーリング剤の低温での粘度が上昇してしまうため、低温下でのシーリング剤の空気バルブからの注入が困難になり、実質的に低温下では使用できないことがある。ここで、固形分であるゴム粒子や粘着付与樹脂の含有量を減じることで、シーリング剤の流動性を高めることは可能であるが、パンクシール性能が低下する場合がある。更に、従来のシーリング剤を一体型タイプに適用する場合、高温での使用時に空気バルブで凝固してしまい、所定の圧量まで上昇させることができない可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−294214号公報
【特許文献2】特開2001−198986号公報
【特許文献3】特開2000−272022号公報
【特許文献4】特許第4074073号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、優れた初期シール性能、シール保持性能及び貯蔵安定性を発揮しつつ、低温での粘度を低下させて低温での注入性を改善し、更に高温での注入性も改善したタイヤのパンクシーリング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴムラテックス、粘着付与剤、1,3−プロパンジオール及びノニオン性界面活性剤を含むタイヤのパンクシーリング剤に関する。
【0008】
上記ノニオン性界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアルケニルエーテルであることが好ましい。
【0009】
上記ノニオン性界面活性剤がエチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有することが好ましい。ここで、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの平均付加モル数は、10以上であることが好ましい。
【0010】
上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルはアルキル基の炭素数が10以上であることが好ましく、また、上記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルはアルケニル基の炭素数が10以上であることが好ましい。
【0011】
上記ノニオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、上記ノニオン性界面活性剤のHLB値は、12以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、天然ゴムラテックス及び粘着付与剤を含むタイヤのパンクシーリング剤に、1,3−プロパンジオールを添加するとともに、更にノニオン性界面活性剤を添加しているので、パンクシーリング剤の初期シール性能、シール保持性能及び長期保管性を発揮しつつ、低温での粘度を低下させて低温での注入性を改善できると同時に、更に高温での注入性も改善することが可能となる。従って、一体型タイプのパンク処置システムにおいて、バルブコアからパンクシーリング剤、エアーを注入する場合に、低温から高温までの広い温度範囲で好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤのパンクシーリング剤は、天然ゴムラテックスと、粘着付与剤と、1,3−プロパンジオールと、ノニオン性界面活性剤とを含む。
【0014】
本発明では、スムーズにシーリング剤をタイヤ内に注入できること、走行により速やかにパンク穴にシーリング剤が入り込み、タイヤの変形による機械的刺激を受けて固まってパンク穴を塞ぐこと(初期シール性能)、ある程度の走行距離までシール性が保持されること(シール保持性能)等の性能の観点から、天然ゴムラテックスを主成分とするシーリング剤が使用される。
【0015】
特に、この天然ゴムラテックスから蛋白質を除去した所謂脱蛋白天然ゴムラテックスは、より少ないアンモニアで腐敗が抑えられるため、アンモニアに起因するスチールコードへの腐食損傷及び刺激臭の発生を防止するという観点からも、より好ましく使用できる。脱蛋白天然ゴムラテックスは、例えば、特開平10−217344号公報に記載のように、天然ゴムラテックスに蛋白分解酵素を添加して、蛋白質を分解させた後、洗浄することによって調製できる。
【0016】
また、必要に応じて天然ゴムラテックスに、更にブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴムなどの合成ゴムラテックス等をブレンドしてもよい。
【0017】
なお、前記ゴムラテックスは、乳化剤である界面活性剤を少量含む水性媒体中に、ゴム固形分を微粒子状に乳化分散させたものであり、通常、ゴム固形分の占める割合を60質量%程度としたゴムラテックスが使用される。また、初期シール性能、シール保持性能の点から、パンクシーリング剤の全質量100質量%に対する天然ゴムラテックス(ゴム固形分)の配合量Aを15〜40質量%の範囲とすることが好ましい。配合量Aの下限は18質量%以上がより好ましく、上限は35質量%以下がより好ましい。
【0018】
粘着付与剤は、天然ゴムラテックスとタイヤとの接着性を高め、パンクシール性能を向上させるために用いられるものであり、例えば、乳化剤を少量含む水性媒体中に、粘着付与樹脂を微粒子状に乳化分散させた粘着付与樹脂エマルジョン(水中油滴型エマルジョン)が使用される。粘着付与樹脂エマルジョン(粘着付与剤)の固形分である粘着付与樹脂としては、前記ゴムラテックスを凝固させないもの、例えば、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂が好ましく使用できる。他に好ましい樹脂としては、ポリビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジンも挙げられる。
【0019】
粘着付与樹脂(粘着付与剤の固形分)の配合量Bは、パンクシーリング剤の全質量100質量%中、2〜20質量%が好ましい。配合量Bの下限は3質量%以上がより好ましく、上限は15質量%以下がより好ましい。
【0020】
なお、前記ゴム固形分の配合量Aが15質量%未満、及び粘着付与樹脂の配合量Bが2質量%未満では、パンクシール性能及びシール保持性能が不十分となるおそれがある。逆に各配合量A、Bがそれぞれ40質量%、及び20質量%を超えると、保管中にゴム粒子が凝集しやすくなるなど保管性能を損ねるとともに、粘度が上昇しパンクシーリング剤の空気バルブからの注入を難しくさせるおそれがある。従って、前記配合量A、Bの和(A+B(固形分))をパンクシーリング剤の全質量100質量%に対して20〜50質量%の範囲にすることが好ましい。配合量A+B(固形分)の下限は25質量%以上がより好ましく、上限は45質量%以下がより好ましい。
【0021】
前記ゴムラテックスの乳化剤、及び粘着付与樹脂エマルジョンの乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などの界面活性剤が好適に使用できる。この乳化剤の総配合量は、パンクシーリング剤の全質量100質量%に対して0.4〜2.0質量%程度である。
【0022】
本発明では、凍結防止剤として、1,3−プロパンジオールが使用される。プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)に代えて1,3−プロパンジオールを使用することにより、低温での粘度上昇が抑制され、低温でのシーリング剤の注入性を改善できる。このため、シーリング剤の使用温度範囲を低温側へ拡大でき、一体型タイプのパンク処置システムにおいて、低温でもバルブコアからシーリング剤、エアーを注入する場合に、バルブコアでの詰まりを防止できる。これは、1,3−プロパンジオールでは水酸基(−OH)が炭素原子の1及び3の位置に結合しているが、“1,2−”に比べて“1,3−”の方が双極子モーメントが小さくなるため、水素結合力が小さくなり、粘度を低下させることができると推察される。
【0023】
また、シーリング剤に凍結防止剤を添加した場合、ゴム粒子の安定性が悪化し、凝集してしまうことがあるが、本発明では、1,3−プロパンジオールを使用しているため、長期間保管した場合、ゴム粒子や粘着剤の粒子が表面付近で凝集してクリーム状物質に変質することを抑制でき、優れた保管性能(貯蔵安定性)が発揮される。よって、1,3−プロパンジオールの使用により、エチレングリコールを用いた場合に比べて貯蔵安定性が改善されるとともに、プロピレングリコールを用いた場合に比べて低温特性が改善され、貯蔵安定性及び低温特性をバランス良く両立できる。このような効果は1,3−プロパンジオールを用いた場合に得られるものであり、凍結防止剤としてブタンジオール等の他の化合物を用いた場合は増粘等の問題が生じる。
【0024】
また、1,3−プロパンジオールの使用により、良好な凍結防止効果も得ることができる。更に、使用量も最小限に抑えられ、凍結防止剤によるパンクシール性能等の諸性能への悪影響を防止することもできる。
【0025】
パンクシーリング剤の全質量100質量%に対する1,3−プロパンジオールの配合量Cは、20〜64質量%が好ましい。配合量Cが20質量%未満では、低温での粘度上昇が大きくなり、逆に64質量%を超えると、シーリング剤中の固形分が少なくなり、パンクシーリング性が低下するおそれがある。配合量Cの下限は25質量%以上がより好ましく、上限は40質量%以下がより好ましい。
【0026】
1,3−プロパンジオールの配合量C′は、パンクシーリング剤の液体成分100質量%中、50〜80質量%が好ましい。配合量C′が50質量%未満では、低温、特に−30℃以下での粘度上昇が大きくなるおそれがある。逆に80質量%を超えると、凍結防止性能が低下し、逆に低温での粘度が上昇し、注入性が悪化する。
。配合量C′の下限は55質量%以上がより好ましく、上限は70質量%以下がより好ましい。
【0027】
本発明では、ノニオン性界面活性剤が使用される。天然ゴムラテックス及び粘着付与剤に1,3−プロパンジオールを配合したパンクシーリング剤では、高温での使用時に詰まりが生じることがある。この高温での詰まりは、シーリング剤の注入に続く高圧空気の注入中に、ボトルやホースの内壁に付着したシーリング剤が暖かい空気に接して乾燥、ゴム化して流路の狭い部分(バルブコア、弁軸押し)に蓄積し、流路が詰まることによって生じる。本発明では、更にノニオン性界面活性剤を添加することにより、高温での注入性を改善し、高温での詰まりを防止できる。これは、アニオン性界面活性剤のイオン斥力により分散している天然ゴム粒子にノニオン性界面活性剤を吸着させることによって、粒子近傍の粒子間ポテンシャルエネルギーを上昇できるため、熱安定性が改善されたものと推察される。このような効果はノニオン性界面活性剤を用いた場合に発揮され、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤を添加した場合は、シーリング剤の増粘がみられる。
【0028】
また、ノニオン性界面活性剤を使用していることから、優れた初期シール性能、シール保持性能、貯蔵安定性も得られる。
【0029】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアルケニルエーテルが好ましい。この場合、高温注入性を効果的に改善できる。
【0030】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等のノニオン性界面活性剤は、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有することが好ましい。親水基として、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有するものは、1,3−プロパンジオールとの相溶性を高めることができる。なかでも、エチレンオキサイド構造を有するものが好ましい。また、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有するノニオン性界面活性剤では、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)の平均付加モル数(EO及びPOの平均付加モル数の合計)が10以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましい。また、該平均付加モル数は、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは40以下である。この場合、相溶性が高められ、高温注入性を改善できる。
【0031】
また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルにおけるアルケニル基の炭素数は、10以上であることが好ましく、12以上であることが好ましい。また、該炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。この場合、高温注入性を効果的に改善できる。
【0032】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。該化合物の使用により、高温注入性を改善するとともに、優れた初期シール性能、シール保持性能、貯蔵安定性も得られる。
−O−(AO)−H (1)
(式(1)において、Rは炭素数4〜24のアルキル基又は炭素数4〜24のアルケニル基を表す。平均付加モル数nは1〜80を表す。AOは同一又は異なって炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。)
【0033】
の炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上である。またRの炭素数は、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
【0034】
nは、好ましくは10以上、より好ましくは13以上である。またnは、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
【0035】
AOは、好ましくは炭素数2〜3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基(EO)、オキシプロピレン基(PO))である。(AO)が2種以上のオキシアルキレン基を含む場合、オキシアルキレン基の配列はブロックでもランダムでもよい。R、nが上記範囲である場合やAOがEO、POである場合、本発明の効果が良好に発揮される。
【0036】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、下記式(2)で表される化合物が好適に使用される。
−O−(EO)(PO)−H (2)
(式(2)において、Rは炭素数8〜22のアルキル基又は炭素数8〜22のアルケニル基を表す。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を表す。平均付加モル数xは1〜60、平均付加モル数yは0〜20である。)
【0037】
の炭素数の好ましい数値範囲は、上記Rと同様である。Rは直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、直鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。xは、好ましくは10以上、より好ましくは13以上である。またxは、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。yは、好ましくは10以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは2.0以下である。また、yは0であってもよい。R、x、yが上記範囲である場合、本発明の効果が良好に発揮される。
【0038】
EOとPOの配列はブロックでもランダムでもよい。EOとPOの配列がブロックである場合、EOのブロックの数、POのブロックの数は、各平均付加モル数が上記範囲内である限り、それぞれ1個でも2個以上でもよい。また、EOからなるブロックの数が2個以上である場合、各ブロックにおけるEOの繰り返し数は、同一でも異なってもよい。POのブロックの数が2個以上である場合も、各ブロックにおけるPOの繰り返し数は、同一でも異なってもよい。EOとPOの配列がランダムである場合は、各平均付加モル数が上記範囲内である限り、EOとPOとが交互に配列されても無秩序に配置されてもよい。
【0039】
本発明におけるノニオン性界面活性剤としては、高温注入性の点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル(例えば、式(2)のy=0の化合物)が好適に使用される。この場合、好ましいEOの平均付加モル数、アルキル基、アルケニル基は、上記と同様である。
【0040】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル等が挙げられる。なかでも、高温注入性の点から、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが好ましい。
【0041】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等のノニオン性界面活性剤のHLB値(グリフィン法で算出)は、好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。また、該HLB値は、好ましくは19以下、より好ましくは17以下である。この場合、相溶性が高められ、高温での安定性が改善されるため、保管性能や高温注入性が改善され、また、優れたパンクシール性能、シール保持性能、低温特性も得られる。
【0042】
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、エマルゲン320P(式(2):R=ステアリル基、x=13、y=0)、エマルゲン420(式(2):R=オレイル基、x=20、y=0)、エマルゲン430(式(2):R=オレイル基、x=30、y=0)、エマルゲン150(式(2):R=ラウリル基、x=40、y=0)、エマルゲン109P(式(2):R=ラウリル基、x=9、y=0)、エマルゲン120(式(2):R=ラウリル基、x=12、y=0)、エマルゲン220(式(2):R=セチル基、x=12、y=0)等が挙げられる(いずれも花王(株)製)。
【0043】
パンクシーリング剤の全質量100質量%に対するノニオン性界面活性剤の配合量Dは、1〜12質量%が好ましい。配合量Dが1質量%未満では、高温での詰まり防止効果が不十分となるおそれがある。逆に12質量%を超えると、シール性が不十分となり、また室温での粘度が上昇してしまうおそれもある。配合量Dの下限は1.5質量%以上がより好ましく、上限は10質量%以下がより好ましい。
【0044】
パンクシーリング剤に含まれる界面活性剤100質量%に対するノニオン性界面活性剤の配合量D′は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。これにより、高温注入性を効果的に改善できる。
【0045】
また、凍結温度の低温度化と低温での粘性の上昇抑制効果とをバランス良く確保し、使用温度範囲を低温側に拡げる点、高温注入性を高める点、シーリング剤の安定性を確保する点から、前記配合量C、Dの和(C+D)をパンクシーリング剤の全質量100質量%に対して34〜65質量%にすることが好ましい。配合量C+Dの下限は36質量%以上がより好ましく、上限は62質量%以下がより好ましい。
【0046】
本発明のパンクシーリング剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を更に配合してもよい。
本発明のパンクシーリング剤は、一般的な方法で製造される。すなわち、前記各成分等を公知の方法により混合すること等により製造できる。
【実施例】
【0047】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0048】
製造例1
フィールドラテックス(固形分30質量%)に、細菌由来の蛋白分解酵素を加えて、40℃で24時間放置し、蛋白分解を行ったフィールドラテックスを得た。このフィールドラテックスを特許第3350593号に記載の方法に従い、回転平膜分離装置にて精製処理を行って、固形分が60質量%になるまで濃縮して脱蛋白天然ゴムラテックスを得た。
【0049】
実施例1〜12及び比較例1〜4
市販の天然ゴムラテックス(マレーシア産のHA型天然ゴムラテックス:ゴム固形分60質量%)、又は調製した脱蛋白天然ゴムラテックスを用い、表1〜2の仕様に基づいて、パンクシーリング剤を作製した。
【0050】
なお、粘着付与剤、界面活性剤は、以下のものを使用した。
粘着付与剤:テルペン樹脂の乳化液(固形分:約50質量%)
エマルゲン320P:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(式(2)、R=ステアリル基、x=13、y=0、HLB値=13.9、花王(株)製)
エマルゲン420:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(式(2)、R=オレイル基、x=20、y=0、HLB値=13.6、花王(株)製)
エマルゲン430:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(式(2)、R=オレイル基、x=30、y=0、HLB値=16.2、花王(株)製)
エマルゲン150:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(式(2)、R=ラウリル基、x=40、y=0、HLB値=18.4、花王(株)製)
エマール270J:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王(株)製)
エマール2FG:ラウリル硫酸ナトリウム(花王(株)製)
【0051】
得られた各パンクシーリング剤について、高温注入性、パンクシール性能、シール保持性能、保管性能(貯蔵安定性)、低温粘度(−30℃)を下記方法にて評価し、結果を表1に示した。
【0052】
(1)高温注入性:
50℃の雰囲気下で一体型タイプのパンク処置システムを用いて、パンクシーリング剤の注入を行い、タイヤの圧力が所定圧まで上昇するかどうかで判断し、上昇したもの…○、上昇しなかったもの…×、の2段階で評価した。
【0053】
(2)パンクシール性能:
タイヤサイズ185/65R14のタイヤに、直径4.0mmの釘で穴を開け、釘を抜いた後、500mlのパンクシーリング剤を注入し、かつエアーを200kpaまで昇圧した。その後、ドラム上で荷重(3.5kN)にて回転させ、パンク穴がシールされるまでの時間をエアー漏れの量で判断し、従来品を3とした5段階で指数評価した。値が大きいほど優れている。
【0054】
(3)シール保持性能:
前記タイヤを用い、シールされてから100km走行するまでにパンク穴からエアー漏れがあったかどうかを測定し、エアー漏れなし…○、エアー漏れあり…×、の2段階で評価した。
【0055】
(4)保管性能(経時安定性):
作製したパンクシーリング剤を期間(10日間)、温度(70℃)の条件下で放置した後の状態変化を、液状のまま…◎、ややクリーム状に変化…○、クリーム状に変化…△、固化する…×、の4段階で目視評価した。
【0056】
(5)低温粘度(−30℃及び−40℃):
B型粘度計(ブルックフィールド粘度計)を用い、−30℃及び−40℃のパンクシーリング剤の粘度を測定した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1〜2のとおり、ノニオン性界面活性剤及び1,3−プロパンジオールを用いた実施例のシーリング剤は、パンクシール性能、シール保持性能、保管性能を確保しながら、低温粘度を大幅に低下でき、更に高温注入性も良好であった。よって、一体型タイプを低温から高温までの広い温度範囲で好適に使用できる。一方、アニオン性界面活性剤及び1,3−プロパンジオールを用いた比較例では、高温注入性に劣っていた。また、市販の天然ゴムラテックスを用いた場合は、低温特性も大きく劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックス、粘着付与剤、1,3−プロパンジオール及びノニオン性界面活性剤を含むタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項2】
ノニオン性界面活性剤がポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアルケニルエーテルである請求項1記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項3】
ノニオン性界面活性剤がエチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有する請求項1又は2記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項4】
エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの平均付加モル数が10以上である請求項3記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項5】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、アルキル基の炭素数が10以上である請求項2〜4のいずれかに記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項6】
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルは、アルケニル基の炭素数が10以上である請求項2〜4のいずれかに記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項7】
ノニオン性界面活性剤がポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル及びポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、3又は4記載のタイヤのパンクシーリング剤。
【請求項8】
ノニオン性界面活性剤のHLB値が12以上である請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤのパンクシーリング剤。

【公開番号】特開2011−12158(P2011−12158A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157086(P2009−157086)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】