説明

パン用酵母製造用種およびパン用酵母の製造方法

【目的】サッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株とラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むパン酵母を容易に、かつ効率的に製造する。
【構成】ビール、大根おろし、酒粕、ブドウ発酵汁および小麦粉全粒粉を混合し、熟成させることを特徴とする。また、パン用酵母製造方法は、前記パン用酵母製造用種、小麦粉、水および25℃、2日間、好気性雰囲気で培養した場合の生菌数が1.4±10%×10個/gであるサッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株と、30℃、2日間、嫌気性雰囲気で培養した場合の乳酸菌株の生菌数が1.2±10%×10個/gであるラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むパン用酵母を混合し、熟成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパン用酵母製造用種およびパン用酵母の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンを製造するときのパン生地を製造する場合、強力粉、砂糖、塩、油脂、酵母溶液を混合し、攪拌したものを予備発酵させて製造している。そして、このパン生地を分割、成形した後、ホイロで発酵させ、焼成しパンを製造していた。
【0003】
このようなパン用酵母として、健康上などの観点より、自然素材を利用して培養した酵母、いわゆる自然酵母、たとえばリンゴ、イチジク、ブドウなどの果実から培養した酵母を使用することが多くなってきている。
【0004】
しかしながら、このような自然酵母は、1.糖分、油脂、卵などがリッチなパン生地、2.国内産の小麦粉のように低蛋白の素材より製造した酵母生地には使用できないという欠点があった。このようなパン生地に酵母として自然酵母を使用する場合に、酵母が糖分などを消費してしまったり、蛋白質が少なすぎるため、パンが膨らまなくなり、良好なパンを焼くことができない。
【0005】
さらに、保存性を良好にするために、パン生地を冷凍することも行われている。この場合、上述のようなリッチなパン生地、低蛋白のパン生地以外の場合でも、自然酵母を使用すると、冷凍すると酵母が死滅してしまうという難点を有していた。また、パンを大量生産する場合、機械を使用してパン生地を計量し、分割し、まるめることになるが、この機械使用を行う場合に酵母生地に損傷が生じ、同様に良好なパンを製造することが困難であるという欠点があった。
【0006】
上記欠点を除去するため、本発明者は25℃、2日間、好気性雰囲気で培養した場合の生菌数が1.4±10%×10個/gであるサッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株と、30℃、2日間、嫌気性雰囲気で培養した場合の乳酸菌株の生菌数が1.2±10%×10個/gであるラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むことを特徴とするパン用酵母を提供した。このパン用酵母によれば、パン生地の種類によらず良好なパンを焼くことが可能となり、さらにパン生地を冷凍したり、大きな物理的な衝撃を与えても、良好に酵母として作用し、優れたパンとすることができるという利点がある。このため、パンの大量生産に適しているという利点を生じる。
【0007】
しかしながら上述のパン用酵母を製造する場合、ビール、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成し、第1の酵母生地を形成する工程、前記第1の酵母生地に水、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成し、第2の酵母生地とする工程、第2の酵母生地に、さらに水、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成する、という複数の工程を時間を掛けて実施する必要があり、手間が掛かるという欠点がある。
【特許文献1】特開2003−116453公報
【特許文献2】特願2003−296115号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の点に鑑みなされたものであり、上述のようなパン酵母を簡便に、且つ多量に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するため、本発明によるパン用酵母製造用種の製造方法は、ビール、大根おろし、酒粕、ブドウ発酵汁および小麦粉全粒粉を混合し、熟成させることを特徴とする。
【0010】
また、パン用酵母製造方法は、前記パン用酵母製造用種、小麦粉、水および25℃、2日間、好気性雰囲気で培養した場合の生菌数が1.4±10%×10個/gであるサッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株と、30℃、2日間、嫌気性雰囲気で培養した場合の乳酸菌株の生菌数が1.2±10%×10個/gであるラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むパン用酵母を混合し、熟成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記パン用酵母種はサッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株とラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むパン用酵母を多量に、且つ簡単に製造可能であるという利点を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明によるパン用酵母製造用種の製造方法によれば、ビール、大根おろし、酒粕、ブドウ発酵汁および小麦粉全粒粉を混合し、熟成させる。
【0013】
ビールは菌が死滅しないように、非加熱のものを使用する。小麦粉全粒分100(重量比)に対し、ビール90〜110、大根おろし90〜110、酒粕90〜110、ブドウ発酵汁90〜110であるのが好ましい。特に好ましくはビール、大根おろし、酒粕、ブドウ発酵汁および小麦粉全粒粉が1:1:1:1:1と重量比で等量である。上述の範囲を逸脱すると、上述のパン酵母を製造するため良好な種を製造することが困難になる。
【0014】
このような混合物を熟成するわけであるが、この熟成は26〜30℃の温度で7〜9時間熟成させ、さらに8〜12℃で22〜26時間熟成させる。その後冷凍してもよい。
【0015】
本発明により製造するパン用酵母は、サッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株とラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含んでいる。一般にパンを作成するために使用される酵母は、酵母菌株単独である場合が一般的であるが、本発明においてはラクトバシラス SP.属の乳酸菌株を含んでおり、この乳酸菌株が酵母菌株を保護するため、パン生地の種類によらず良好なパンを焼くことが可能となり、さらにパン生地を冷凍したり、大きな物理的な衝撃を与えても、良好に酵母として作用し、優れたパンとすることができるようになると考えられる。
【0016】
この酵母菌株と乳酸菌株の割合は、25℃、2日間、好気性雰囲気で培養した場合の生菌数1.4±10%×10個/g:30℃、2日間、嫌気性雰囲気で培養した場合の生菌数1.2±10%×10個/gである。酵母菌株が少なすぎると、良好な発酵が望めず、逆に多すぎると、乳酸菌株の保護作用が脆弱で、従来の自然酵母と同様にパンを製造するうえでの制約が多くなるからである。
【0017】
このような本発明のパン用酵母の製造方法は、下記の工程を含んでいる。
【0018】
1.第1の酵母生地の作成
まず、ビール、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成する。
【0019】
本発明は基本的に化学物質を使用することのない天然材料を使用した酵母ないしパンを製造することを目的としている。このためビールとしては、基本的に付加的な化学物質を添加していないものを用いる。さらに、好ましくはろ過を行わず、かつ加熱処理をしていないものが好ましい。ビール酵母を良好に育成させるためである。
【0020】
このようなビールに小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を添加混合する。このように種類の異なるでんぷん質分を混合することによって、酵母の発酵が促進されるからである。小麦粉分としては、通常の小麦粉のほか小麦粉の全粒粉をあげることができる。小麦粉以外のでんぷん質分としては、ライ麦粉、米粉などをあげることができる。
【0021】
小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分の混合割合は小麦粉分100重量部に対し、30〜70重量部であるのがよい。30重量部未満であると、小麦粉本来が持つ酵素の活性が充分に行われず、一方70重量部を超えると、小麦粉本来が持つ酵素の活性が妨げられる。
【0022】
小麦粉分は、好ましくは小麦粉と小麦粉全粒粉を混合したものを用いる。この小麦粉と小麦全粒粉との割合は、小麦粉100重量部に対し80〜120重量部であるのがよい。80重量部未満であると、小麦粉胚芽部分に有する灰分、及びカリウム、マグネシウムの働きが期待できず、ビール酵母の発育に必要な養分が不足する。一方120重量部を超えると、ビール酵母発育に必要な養分が過多になり、適切なビール酵母の発育が期待できない。
【0023】
前記ビールと小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分との混合比は、前記ビール1に対し小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分0.8〜1.2(重量比)であるのがよい。0.8未満であると、ビールに含まれる酵母の充分な発育が保たれない。一方1.2を超えると、発育が過多になり、過度の熟成状態になってしまう。
【0024】
このようなビールと小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分との混合物を熟成させる。熟成は、まず28〜35℃の温度で1〜5時間行う。28℃未満であると、十分発酵しない恐れがあり、一方35℃を超えると菌株が死滅する恐れがあるからである。
【0025】
また、熟成時間が1時間未満であると、十分に発酵しない恐れがあり、一方5時間を超えると、発酵が促進しすぎて、pHが変化する恐れを生じるからである。
【0026】
このように、第1の熟成を行った後、8〜12℃の温度で、17〜25時間熟成を行う。8℃未満であると、充分な熟成が行われない。一方、12℃以上であると、過度の熟成状態になり、適したpHが得られない。さらに第2の熟成時間が17時間未満であると、最適な熟成状態に達し得ない。また25時間を超えると、発酵が促進しすぎて、pHが変化する恐れを生じるからである。
【0027】
2.第2の酵母生地の作成
前記第1の酵母生地に水、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成し、第2の酵母生地とする。
【0028】
本発明は基本的に化学物質を使用することのない天然材料を使用した酵母ないしパンを製造することを目的としている。このため水としては、基本的に付加的な化学物質を添加されていない湧水などの天然水を用いるのが好ましい。この水は好ましくは弱アルカリ性であるのがよい。特にpH7.8〜8.2の水が好ましく使用される。アルカリ性が弱いと、酸性状態への加速が増加する。一方pH8.2を超える強アルカリになると、酵母菌、乳酸菌が死滅するという恐れを生じるからである。
【0029】
前記小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分の種類、混合割合などは、第1の酵母生地作成の場合と同様であり、繰り返さない。
【0030】
前記水と小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分との混合比は、前記水1に対し小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分0.8〜1.2(重量比)であるのがよい。0.8未満であると、酵母が発育する上で、充分で適正な熟成が期待できない。一方1.2を超えると、酵母発育が急加速し、熟成状況も過度になる。
【0031】
このように前記水および小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分との混合した混合物を前記第1の酵母生地に混合し、熟成する。この混合物の混合比は、第1の酵母生地100重量部に対し、80〜120重量部であるのがよい。80重量部未満であると、混合後の生地が醗酵生地になりえない。一方、120重量部を超えると、混合後の生地が醗酵過多を起し、強度の酸性、過度の熟成状態を起す。
【0032】
このような混合物を熟成させる。熟成は、まず28〜35℃の温度で1〜5時間行う。さらに、この第1の熟成を行った後、8〜12℃の温度で、17〜25時間熟成を行う。この熟成温度、熟成時間の上限下限の理由は第1の酵母生地生成の場合と同様である。
【0033】
3.第3の酵母生地の作成
このように作成された第2の酵母生地に、さらに水、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成する。
【0034】
この場合、水、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分の種類、混合比は第2の酵母生地を製造する場合と同様である。水、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分の混合物と第2の酵母生地の混合割合も前記第2の作成工程で示されたものと同様で、第2の酵母生地100重量部に対し、前記混合物を80〜120重量部添加する。理由は第2の酵母生地を作成する場合に記載したので繰り返さない。
【0035】
このような混合物を熟成させる。熟成は、まず28〜35℃の温度で1〜5時間行う。さらに、この第1の熟成を行った後、8〜12℃の温度で、17〜25時間熟成を行う。この熟成温度、熟成時間の上限下限の理由は第1および第2の酵母生地生成の場合と同様である。
【0036】
4.第4の酵母生地の作成
このように作成された第3の酵母生地に、さらに水、大根おろし、ニンジンおろし、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を混合し熟成する。この工程は必ずしも必要ではないが、酵母の安定性を向上させるために行うのが好ましい。水および小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分の種類は第2から第3の酵母生地の作成時と同様である。
【0037】
大根おろし、ニンジンおろしは酵母菌株および乳酸菌株の安定を促進するために添加される。大根のジアスターゼ、ニンジンのカロチンなどの酵素が酵母菌株および乳酸菌株の安定に寄与するものと考えられる。大根おろし、ニンジンおろしは、それぞれ水80重量部に対し、8〜12重量部添加される。この範囲を逸脱すると、安定効果が損なわれるからである。
【0038】
このような水+大根おろし+ニンジンおろし100重量部に対し、小麦粉分および小麦粉分以外のでんぷん質分を80〜120重量部添加して混合する。この混合割合および混合の理由は第2および第3の酵母生地の製造の場合と同様である。
【0039】
さらにこの混合物を第3の酵母生地に混合する。この混合物の第3の酵母生地への混合割合および混合理由も第2および第3の酵母生地の製造の場合と同様である。すなわち第3の酵母生地100重量部に対し、前記混合物を80〜120重量部添加する。
【0040】
次いで、このような混合物を熟成させる。熟成は、まず28〜35℃の温度で1〜5時間行う。さらに、この第1の熟成を行った後、8〜12℃の温度で、17〜25時間熟成を行う。この熟成温度、熟成時間の上限下限の理由は第1、第2、第3の酵母生地生成の場合と同様である。
【0041】
上記のように製造されたパン用酵母および前記パン用酵母製造用種を使用して、本発明においては、前記パン用酵母を多量に製造する方法を提供する。
【0042】
前記パン用酵母、小麦粉および前記パン用酵母製造用種、更に水を添加して混合し熟成することによって前記パン用酵母を製造することができる。すなわち、前記パン用酵母2000に対し、前記パン用酵母製造用種を重量比で0.8〜1.2の割合で混合し、更に小麦粉を重量比で500〜700、水を重量比で380〜420の割合で混合する。この混合物を18〜22℃の温度で、6〜10時間熟成させた後、さらに6〜10℃の低温で14〜18時間熟成させる。これによってほぼ全量が、前記パン用酵母となる。
【0043】
前述のパン用酵母製造用種が0.8未満であると、前記パン用酵母及び小麦粉と作用して、前記パン用酵母に良好に変性できない恐れがあり、一方、1.2を超える場合には、前記パン用酵母製造用種が多く残留する恐れがあり、好ましくない。また、小麦粉が500未満であると、十分なパン用酵母を製造できない恐れがあり、一方700を超えると、小麦粉が残留する恐れがある。さらに水が380未満あるいは420以上であると、パン酵母製造用種が充分に作用せず、良好なパン用酵母を製造できない恐れがある。
【0044】
以下実施例について説明する。
【実施例1】
【0045】
下記の配合及び工程でパン用酵母を作成した。
【0046】
1.第1の酵母生地の作成
ビール 100重量部
小麦粉 33重量部
小麦粉全粒粉 33重量部
ライ麦粉 33重量部
上記の成分を混合し、28〜35℃で3時間、10℃で21時間放置し熟成させ第1の酵母生地を作成した。
【0047】
2.第2の酵母生地の製造
第1の酵母生地 100重量部
小麦粉 33重量部
小麦粉全粒粉 33重量部
ライ麦粉 33重量部
天然水 100重量部
上記の成分を混合し、28〜35℃で3時間、10℃で21時間放置し熟成させ第2の酵母生地を作成した。
【0048】
3.第3の酵母生地の製造(パン用酵母の作成)
第2の酵母生地 100重量部
小麦粉 33重量部
小麦粉全粒粉 33重量部
ライ麦粉 33重量部
天然水 100重量部
上記の成分を混合し、28〜35℃で3時間、10℃で21時間放置し熟成させ第3の酵母生地を作成した。
【0049】
4.第4の酵母生地の製造(パン用酵母の安定化)
第3の酵母生地 100重量部
小麦粉 33重量部
小麦粉全粒粉 33重量部
ライ麦粉 33重量部
天然水 80重量部
大根おろし 10重量部
ニンジンおろし 10重量部
上記の成分を混合し、28〜35℃で3時間、10℃で21時間放置し熟成させ第4の酵母生地を作成した。
【0050】
このように作成されたパン用酵母(第4の酵母生地:検体)から優勢に分離される微生物の同定を行った。検体の乳酸菌数および酵母菌数を測定した後、培養平板状に優勢に成育した集落をそれぞれ釣菌して分離細菌、分離酵母とした。分離細菌については携帯観測および生理的性状試験を行い属を同定した。
【0051】
この結果、分離細菌はラクトバシラス(Lactobacillus sp:乳酸桿菌)属であり、酵母菌はサッカロミセス.セレビシェー属であることがわかった。サッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株は25℃、2日間、好気性雰囲気で培養した場合の生菌数が1.4×10個/gであり、ラクトバシラス SP.属の乳酸菌株は30℃、2日間、嫌気性雰囲気で培養した場合の生菌数が1.2±10%×10個/gであった。
【0052】
この結果より、本発明によるパン用酵母は、酵母菌株と乳酸菌株の混合であることがわかる。
【0053】
表1および表2に酵母菌株と乳酸菌株の性状を記載した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【実施例2】
【0056】
このように製造されたパン用酵母を使用してパンを製造した。小麦粉100に対し前記実施例1のパン用酵母20(重量比)、砂糖20(重量比)、卵15(重量比)、バター20(重量比)および適当量の水および塩を入れ、発酵させたリッチなパン生地を用い、このパン生地を分割し、焼いて、パンを製造した。この場合良好なパンが製造可能であった。
【0057】
従来の自然酵母においては、多糖生地、及び鶏卵、油脂の多いものはパンとして成しえないといわれてきた。
【0058】
従来 本発明の酵母
糖分 10%が限界 対粉30%位まで可能
鶏卵 10%が限界 対粉25%位まで可能
油脂 5%が限界 対粉35%位まで可能
「成しえない理由」としては、
糖分の場合―――10%を超えた配合だと、パン生地の酸化が進みすぎ小麦蛋白質のガス保有力を弱体化させる、
鶏卵の場合―――卵黄に多く含まれるレシチンが、使用料が10%を超えるパン生地においては、小麦粉が本来持つ酵素の活性を阻害する、
油脂の場合――――5%を超える場合、パン生地と馴染まないだけでなく酵素によるブドウ糖生成力が無くなり、期待されるアルコール成分ができない。(パン自体のボリュームも出ず、旨みも出てない)、などがあげられる。
【実施例3】
【0059】
自然酵母使用のパン生地は冷凍によるオーバーナイトは不可能といわれてきた。しかし今般の研究は冷凍により死滅しやすい酵母菌を、乳酸菌の菌体成分が酵母の蘇生に有益な働きをする、という仮説の元に実証を積み上げた。
配合例としては
国内産小麦粉 100(重量部、以下同じ)
三温糖 8
塩 1.6
バター 25
全卵 40
牛乳 20
本発明酵母 35
をあげることができる。上記の配合は生地冷凍、成型冷凍、最終醗酵後冷凍を可能にする一例である。
【0060】
上記のようなパン生地を−20℃で冷凍した後、数日後、前記の冷凍パン生地を1日放置して解凍した後、パンを焼いたところ、良好なパンが製造できた。
【実施例4】
【0061】
国内産小麦粉は蛋白質の含有量が少なく、蛋白分の含有量に比べ灰分が多いというのが特徴である。従って製パン性を考えた場合蛋白分の量が少ないと、二酸化炭素及びアルコール分の発生が弱くパンには適さない。しかし灰分にはカリウム、マグネシウムなども多く含まれ、健康には欠かせない。その反面、灰分は有効な酵素の活性を阻害することも事実である。本発明の酵母はそれらの弊害、阻害を補う働きがある。
【0062】
国内産小麦粉 100重量部(以下同じ)
水 48
塩 1.5
本発明酵母 25
上記の配合でパン生地を作製し、熟成し、前記パン生地を焼いてパンを作製した所良好なパンを製造可能であった。
【0063】
結論として、従来の自然酵母を使用した場合:
従来の自然酵母はサッカロマイセス セルビシェー菌の単体構造であり、乳酸菌群は添加したものであるが、本発明によるパン用酵母は酵母菌と乳酸菌が適切な割合で共存している。したがって、従来の自然酵母には見られない働き、即ち、
1) 低蛋白小麦粉の活用
2) リッチなパン生地による新商品
3) 生地玉冷凍、成型冷凍、最終醗酵(ホイロ)後冷凍
4) ライン製造による量産化(パン生地の機械損傷を修復する働きを有する)があり、パン用の酵母として良好な作用を示すことが明らかになった。
【実施例5】
【0064】
非加熱のビール 200g
大根おろし 200g
酒粕 200g
ブドウ発酵汁 200g
小麦粉全粒粉 200g
上記成分を混合し、28℃、8時間、続いて、10℃で24時間熟成させ、約1kgのパン用酵母製造用種を製造した。
【0065】
実施例1で製造したパン用酵母 2000kg
小麦粉 600kg
水 399kg
上記パン用酵母製造用種 1kg
上記成分を混合し、20℃で8時間、8℃で16時間熟成した。熟成後のパン用酵母は、実施例1と同様なパン用酵母約3000kgであった。
【0066】
1000kgの前記パン用酵母を製品とし、残量の2000kgで同様な操作を施したところ、3000kgのパン用酵母を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、前記パン用酵母種はサッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株とラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むパン用酵母を多量に、且つ簡単に製造可能であるという利点を生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール、大根おろし、酒粕、ブドウ発酵汁および小麦粉全粒粉を混合し、熟成させることを特徴とするパン用酵母製造用種の製造方法。
【請求項2】
小麦粉全粒粉100に対し、重量比で、ビール90〜110、大根おろし90〜110、酒粕90〜110、ブドウ発酵汁90〜110の割合で混合することを特徴とする請求項1記載のパン用酵母製造用種の製造方法。
【請求項3】
熟成は26〜30℃の温度で7〜9時間、さらに8〜12℃で22〜26時間行うことを特徴とする請求項1または2記載のパン用酵母製造用種の製造方法。
【請求項4】
前記パン用酵母製造用種、小麦粉、水および25℃、2日間、好気性雰囲気で培養した場合の生菌数が1.4±10%×10個/gであるサッカロミセス.セレビシェー属の酵母菌株と、30℃、2日間、嫌気性雰囲気で培養した場合の乳酸菌株の生菌数が1.2±10%×10個/gであるラクトバシラス SP.属の乳酸菌株とを含むパン用酵母を混合し、熟成させることを特徴とするパン用酵母の製造方法。
【請求項5】
前記パン用酵母2000に対し、前記パン用酵母製造用種を重量比で0.8から1.2、更に小麦粉を重量比で500〜700、水を重量比で380〜420の割合で混合する請求項4記載のパン用酵母の製造方法。
【請求項6】
18〜22℃の温度で、6〜10時間熟成させた後、さらに6〜10℃の低温で14〜18時間熟成させる請求項4または5記載のパン用酵母の製造方法。

【公開番号】特開2006−166716(P2006−166716A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359672(P2004−359672)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(501165086)株式会社ミツ (1)
【Fターム(参考)】