説明

パーティクル発生の少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲット

【課題】スパッタリング時にパーティクル発生が少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】(TePd(TeO(但し、原子%で30≦y≦60、x=100−y、50≦b≦70、a=100−b)からなる成分組成を有する光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットにおいて、Te:30〜60原子%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有するTePd合金相とTeO相とからなる混合相からなり、前記TePd合金相の平均粒径が5〜15μm、前記TeO相の平均粒径が5〜15μmを有し、かつTePd合金相の平均粒径とTeO相の平均粒径との比:{(TePd合金相の平均粒径)/(TeO相の平均粒径)}が0.5〜1.5の範囲内にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パーティクル発生の少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光記録媒体膜の一つとしてTe−O−Pd膜が知られており、このTe−O−Pd膜はTeO相の中にTePd合金相が一様に分散している混合相からなること、このTe−O−Pd膜はレーザー光が照射されると溶融してTePd合金相がより大きな結晶粒子となって析出するために光学状態が変化し、その差が信号として検出することができることが知られている。かかるTe−O−Pd膜は一般に成膜ガスに酸素を導入して成膜を行う反応性成膜法と呼ばれる方法により成膜されていたが、この方法によると得られたTe−O−Pd膜に含まれる酸素の組成比が変動しやすいことから膜組成にバラツキが生じる。
そのために、近年、(TePd(TeO(但し、原子%で30≦y≦60、x=100−y、50≦b≦70、a=100−b)からなる成分組成を有し、さらにTe:30〜60原子%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有するTePd合金相とTeO相との混合相からなる組織を有するターゲットを用いてスパッタリングすることによりTe−O−Pd膜を成膜しようとしている。
この時使用するターゲットは、TePd合金粉末およびTeO酸化物粉末を用意し、これら粉末を混合し、得られた混合粉末をホットプレス装置により焼結して作製することができることも知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−135568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このようにして作製した従来のホットプレス体からなるターゲットを用いてスパッタリングを行うとパーティクルの発生が多く、不良品が多く発生して相変化記録膜を成膜歩留りが悪かった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、スパッタリングに際してパーティクル発生の少ないターゲットを得るべく研究を行なった。その結果、
(イ)従来の(TePd(TeO(但し、原子%で30≦y≦60、x=100−y、50≦b≦70、a=100−b)からなる成分組成を有し、さらにTe:30〜60原子%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有するTePd合金相とTeO相との混合相からなる組織を有するTe系スパッタリングターゲットは、TePd合金相の粒径がTeO相の粒径に比べて格段に大きいが、TePd合金相の粒径とTeO相の粒径との差が小さくなるにしたがってパーティクルの発生が少なくなり、Te系スパッタリングターゲットにおけるTePd合金相の粒径とTeO相の粒径が同じになることによりパーティクルの発生が最も少なくなる、
(ロ)TePd合金相およびTeO相との混合相からなる組織において、前記TePd合金相の平均粒径が5〜15μm、前記TeO相の平均粒径が5〜15μmの範囲内にあることが好ましく、さらにTePd合金相の平均粒径とTeO相の平均粒径との比:{(TePd合金相の平均粒径)/(TeO相の平均粒径)}が0.5〜1.5の範囲内にあるターゲットを用いてスパッタリングを行うと、パーティクル発生が極めて少なくなる、などの研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(TePd(TeO(但し、原子%で30≦y≦60、x=100−y、50≦b≦70、a=100−b)からなる成分組成を有する光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットにおいて、Te:30〜60原子%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有するTePd合金相とTeO相とからなる混合相からなり、前記TePd合金相の平均粒径が5〜15μm、前記TeO相の平均粒径が5〜15μmを有し、かつTePd合金相の平均粒径とTeO相の平均粒径との比:{(TePd合金相の平均粒径)/(TeO相の平均粒径)}が0.5〜1.5の範囲内にあるパーティクル発生の少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットの組織におけるTePd合金相の平均粒径を5〜15μmに限定した理由は、Te系スパッタリングターゲットの組織におけるTePd合金相の平均粒径が5μm未満ではある程度のパーティクル発生を少なくする効果は得られるが、TePd合金の生産歩留まりが悪いので好ましくなく、一方、15μmを越えて大きくなるとパーティクルが多く発生するようになるので好ましくないという理由によるものである。
【0007】
この発明の光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットの組織におけるTeO相の平均粒径を5〜15μmに限定した理由は、Te系スパッタリングターゲットの組織におけるTeO相の平均粒径が5μm未満ではパーティクル発生を少なくする効果が得られなくなり、また、生産歩留まりが悪くなるので好ましくなく、一方、15μmを越えて大きくなるとパーティクルが多く発生するようになるので好ましくないことによるものである。
【0008】
この発明のパーティクル発生の少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットの組織におけるTePd合金相の平均粒径とTeO相の平均粒径との比:{(TePd合金相の平均粒径)/(TeO相の平均粒径)}を0.5〜1.5の範囲内に限定した理由は、0.5未満ではパーティクル発生を少なくする効果が得られなくなるので好ましくなく、一方、1.5を越えるとパーティクルが多く発生するようになるので好ましくないという理由によるものである。
【0009】
この発明のパーティクル発生の少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットを製造するには、まず、TeとPdを不活性ガス雰囲気中で溶解鋳造してTePd合金インゴットを作製し、このインゴットを粉砕し分級して平均粒径:5〜15μmを有するTePd合金粉末を作製し、また、市販のTeO粉末をボールミルで粉砕して分級して平均粒径:5〜15μmを有するTeO粉末を作製し、
これら粉末を(TePd(TeO(但し、原子%で30≦y≦60、x=100−y、50≦b≦70、a=100−b)からなる成分組成、並びにTePd合金相の平均粒径とTeO相の平均粒径との比{(TePd合金相の平均粒径)/(TeO相の平均粒径)}が0.5〜1.5の範囲内にあるように配合し混合し、得られた混合粉末を真空ホットプレス法または熱間静水圧プレス法などの加圧焼結することにより得られる。
前記原料合金粉末を加圧焼結するには真空ホットプレス法または熱間静水圧プレス法を用いることが好ましく、その加圧焼結条件は、圧力:50〜70MPa、温度:370〜430℃、1〜3時間保持の条件で行われている。
【発明の効果】
【0010】
この発明の光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットは、スパッタリングを行うに際してパーティクルの発生が少なく、したがって不良品の発生が少ないことから、歩留良く光記録媒体膜を作製することができ、光記録ディスク産業および新しい半導体メモリー産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
原料として純度:99.999質量%以上のTe、純度:99.9質量%以上のPd、純度:99.99質量%以上のTeOを準備し、これらTe原料とPd原料とをArガス雰囲気中で溶解鋳造し、TePd合金インゴットを作製し、このインゴットをハンマーを用いて破砕し、続いて振動ミル装置を用いて微粉砕し、その後の分級することにより表1に示される成分組成および平均粒径を有するTePd合金粉末A〜Yを得た。
さらに、TeOをボールミルにて粉砕し分級して表2に示される平均粒径を有するTeO粉末a〜iを得た。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
実施例1
表1に示されるTePd合金粉末A〜FおよびYと表2に示されるTeO粉末a〜iとを表3に示される割合で配合し、ロッキングミキサーにて1時間混合後、得られた混合粉末を金型に充填し、以下の条件にて真空中にてホットプレスにて焼結体を作製した。
・到達真空圧力:0.06MPa、
・加圧力:58.8MPa、
・キープ温度:380℃
・キープ時間:2時間
【0015】
得られた焼結体を機械加工にて、直径:154mm、厚さ:6mmの寸法を有する本発明ターゲット1〜6、比較ターゲット1〜6および従来ターゲット1をそれぞれ2個作製し、これら本発明ターゲット1〜6、比較ターゲット1〜6および従来ターゲット1の相対密度を求め、その結果を表3に示し、さらに各ターゲットを中心線に沿って切断し、ターゲットのほぼ中央部から組織観察用サンプルを切り出し、前記サンプル断面を研磨にて観察用試料を作製し、走査型電子顕微鏡にて倍率:50倍で撮影し、その写真から、画像解析ソフト「WinRooF」に読み込ませて二値化し、ターゲット組織におけるTePd合金の平均粒径およびTeOの平均粒径を計測し、その結果を表3に示した。
【0016】
さらに、もう一方の本発明ターゲット1〜6、比較ターゲット1〜6および従来ターゲット1を酸素銅製のバッキングプレートにInハンダにてボンディングし、異常放電回数を計測できるENI社製直流電源(RPG−50)を備えたスパッタリング装置にセットし、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて2時間プレスパッタした。プレスパッタ後、一旦スパッタチャンバーを開放し、チャンバー内の防着板を交換し、直径:120mm、厚さ:1.2mmのポリカーボネート基板をターゲット−基板間距離:70mmに設定し、ターゲットに対向させて装着し、再び、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて連続して1時間スパッタを継続し、その間に発生した異常放電回数を計測し、その結果を表3に示した。
【0017】
【表3】

【0018】
実施例2
表1に示されるTePd合金粉末G〜Lと表2に示されるTeO粉末a〜iとを表4に示される割合で配合し、ロッキングミキサーにて1時間混合後、得られた混合粉末を金型に充填し、
・到達真空圧力:0.06MPa、
・加圧力:58.8MPa、
・キープ温度:380℃、
・キープ時間:2時間、
の条件にて真空中にてホットプレスにて焼結体を作製し、得られた焼結体を機械加工にて、直径:154mm、厚さ:6mmの寸法を有する本発明ターゲット7〜12および比較ターゲット7〜12をそれぞれ2個作製し、これら本発明ターゲット7〜12および比較ターゲット7〜12の相対密度を求め、その結果を表4に示し、さらに各ターゲットを中心線に沿って切断し、ターゲットのほぼ中央部から組織観察用サンプルを切り出し、前記サンプル断面を研磨にて観察用試料を作製し、走査型電子顕微鏡にて倍率:50倍で撮影し、その写真から、画像解析ソフト「WinRooF」に読み込ませて二値化し、ターゲット組織におけるTePd合金の平均粒径およびTeOの平均粒径を計測し、その結果を表4に示した。
【0019】
さらに、もう一方の本発明ターゲット7〜12および比較ターゲット7〜12を酸素銅製のバッキングプレートにInハンダにてボンディングし、異常放電回数を計測できるENI社製直流電源(RPG−50)を備えたスパッタリング装置にセットし、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて2時間プレスパッタした。プレスパッタ後、一旦スパッタチャンバーを開放し、チャンバー内の防着板を交換し、直径:120mm、厚さ:1.2mmのポリカーボネート基板をターゲット−基板間距離:70mmに設定し、ターゲットに対向させて装着し、再び、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて連続して1時間スパッタを継続し、その間に発生した異常放電回数を計測し、その結果を表4に示した。
【0020】
【表4】

【0021】
実施例3
表1に示されるTePd合金粉末M〜Rと表2に示されるTeO粉末a〜iとを表5に示される割合で配合し、ロッキングミキサーにて1時間混合後、得られた混合粉末を金型に充填し、
・到達真空圧力:0.06MPa、
・加圧力:58.8MPa、
・キープ温度:380℃、
・キープ時間:2時間、
の条件にて真空中にてホットプレスにて焼結体を作製し、得られた焼結体を機械加工にて、直径:154mm、厚さ:6mmの寸法を有する本発明ターゲット13〜18および比較ターゲット13〜18をそれぞれ2個作製し、これら本発明ターゲット13〜18および比較ターゲット13〜18の相対密度を求め、その結果を表5に示し、さらに各ターゲットを中心線に沿って切断し、ターゲットのほぼ中央部から組織観察用サンプルを切り出し、前記サンプル断面を研磨にて観察用試料を作製し、走査型電子顕微鏡にて倍率:50倍で撮影し、その写真から、画像解析ソフト「WinRooF」に読み込ませて二値化し、ターゲット組織におけるTePd合金の平均粒径およびTeOの平均粒径を計測し、その結果を表5に示した。
【0022】
さらに、もう一方の本発明ターゲット13〜18および比較ターゲット13〜18を酸素銅製のバッキングプレートにInハンダにてボンディングし、異常放電回数を計測できるENI社製直流電源(RPG−50)を備えたスパッタリング装置にセットし、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて2時間プレスパッタした。プレスパッタ後、一旦スパッタチャンバーを開放し、チャンバー内の防着板を交換し、直径:120mm、厚さ:1.2mmのポリカーボネート基板をターゲット−基板間距離:70mmに設定し、ターゲットに対向させて装着し、再び、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて連続して1時間スパッタを継続し、その間に発生した異常放電回数を計測し、その結果を表5に示した。
【0023】
【表5】

【0024】
実施例4
表1に示されるTePd合金粉末S〜Xと表2に示されるTeO粉末a〜iとを表6に示される割合で配合し、ロッキングミキサーにて1時間混合後、得られた混合粉末を金型に充填し、
・到達真空圧力:0.06MPa、
・加圧力:58.8MPa、
・キープ温度:380℃、
・キープ時間:2時間、
の条件にて真空中にてホットプレスにて焼結体を作製し、得られた焼結体を機械加工にて、直径:154mm、厚さ:6mmの寸法を有する本発明ターゲット19〜24および比較ターゲット19〜24をそれぞれ2個作製し、これら本発明ターゲット19〜24および比較ターゲット19〜24の相対密度を求め、その結果を表6に示し、さらに各ターゲットを中心線に沿って切断し、ターゲットのほぼ中央部から組織観察用サンプルを切り出し、前記サンプル断面を研磨にて観察用試料を作製し、走査型電子顕微鏡にて倍率:50倍で撮影し、その写真から、画像解析ソフト「WinRooF」に読み込ませて二値化し、ターゲット組織におけるTePd合金の平均粒径およびTeOの平均粒径を計測し、その結果を表6に示した。
【0025】
さらに、もう一方の本発明ターゲット19〜24および比較ターゲット19〜24を酸素銅製のバッキングプレートにInハンダにてボンディングし、異常放電回数を計測できるENI社製直流電源(RPG−50)を備えたスパッタリング装置にセットし、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて2時間プレスパッタした。プレスパッタ後、一旦スパッタチャンバーを開放し、チャンバー内の防着板を交換し、直径:120mm、厚さ:1.2mmのポリカーボネート基板をターゲット−基板間距離:70mmに設定し、ターゲットに対向させて装着し、再び、
到達真空圧力:5×10-5Pa、
スパッタガス(Ar)圧:1.0Pa、
スパッタパワー:800W、
の条件にて連続して1時間スパッタを継続し、その間に発生した異常放電回数を計測し、その結果を表6に示した。
【0026】
【表6】

【0027】
表3〜6に示される結果から、本発明ターゲット1〜24の異常放電回数は表3の従来ターゲット1の異常放電回数に比べて格段に少ないことが分かる。しかし、この発明の範囲から外れた値を有する比較ターゲット1〜24は異常放電回数が増えることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(TePd(TeO(但し、原子%で30≦y≦60、x=100−y、50≦b≦70、a=100−b)からなる成分組成を有する光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲットにおいて、Te:30〜60原子%を含有し、残部がTeおよび不可避不純物からなる組成を有するTePd合金相とTeO相とからなる混合相からなり、前記TePd合金相の平均粒径が5〜15μm、前記TeO相の平均粒径が5〜15μmを有し、かつTePd合金相の平均粒径とTeO相の平均粒径との比:{(TePd合金相の平均粒径)/(TeO相の平均粒径)}が0.5〜1.5の範囲内にあることを特徴とするパーティクル発生の少ない光記録媒体膜形成用Te系スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2009−228061(P2009−228061A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74857(P2008−74857)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】