説明

パーフルオロアルケニル誘導体

【課題】屈折率制御が可能であり、低吸湿性等の特性に優れ、プラスチック繊維や光学フィルム等の光学材料等の様々な分野で好適に用いられる材料に用いることができるフッ素含有化合物、及び、フッ素含有化合物を含む樹脂用添加剤、樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるパーフルオロアルケニル誘導体。


式中、Yは、炭素数1〜30のアルキル基、酸素原子(O)若しくは硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基、又は、Arどおしを結ぶ直接結合を表す。Xは、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を表す。Rfは、パーフルオロアルケニル基を表す。aは、0又は1、cは、1以上の整数であり、aが0のとき、cは1であり、aが1のとき、cは2以上である。bは、1以上の整数である。Arは、芳香環を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロアルケニル誘導体、及び、パーフルオロアルケニル誘導体を含んでなる樹脂用添加剤、樹脂組成物に関する。より詳しくは、プラスチック繊維や光学フィルム等の光学材料等の種々の用途に好適に用いられるパーフルオロアルケニル誘導体、及び、パーフルオロアルケニル誘導体を含んでなる樹脂用添加剤、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、製品の高機能化、高性能化の要求の高まりとともに、これらの製品に用いられる材料にも、それぞれの製品の用途に合った、優れた特性を有するものが求められるようになってきている。フッ素を含有していることに起因して撥水性が良好であり、また耐熱性等の特性に優れるフッ素含有化合物は、重合体等の形態で各種フィルム、燃料電池用電解質膜やエンジニアリングプラスチック等の原料として幅広い産業分野において利用されているが、各種分野において更に好適に用いることができるものとなるように、耐熱性や低吸湿性、溶剤への溶解性等、各用途毎に要求される物性を更に高めた化合物を開発する余地があった。
【0003】
これらフッ素化合物の利用が期待される分野の中に、光学・電子部品分野がある。この分野の中で、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の用途においては、近年アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等に代表される透明樹脂が利用されつつあり、これらの用途において要求される物性を発揮するものが望まれている。しかしながら、これらの透明樹脂は吸湿性を示すものが多く、透明樹脂中への水分の吸収は、成形物のそりやひずみの発生、伝送損失の増大等の様々な弊害を招くため、透明樹脂の低吸湿化について種々検討されている。また、これらの用途においては、材料の屈折率を制御することが重要であることから、材料の屈折率制御についても、検討がなされている。しかしながら、これら2つの要件をともに満足し、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の用途に好適に用いることができる材料を得るには至っていない。
【0004】
従来の含フッ素重合体としては、例えば、含フッ素アリールエーテルケトン重合体が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。これらの重合体は、フッ素で置換されたベンゼン環とフェニルエーテル構造とを有する単量体単位により構成されるものであり、溶剤に溶解し、耐熱性を有する等の基本性能を発揮することができるものである。しかしながら、光学材料分野において好適に用いることができるものとなるように更に高い特性を有する含フッ素化合物とする工夫の余地があった。
【0005】
また従来の透明樹脂を含有する材料に関し、エーテル結合を含有する6員環構造を有する繰り返し単位を含む重合体(A)と(メタ)アクリル系重合体(B)とからなる樹脂組成物(例えば、特許文献3参照。)、フェニルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び架橋剤を含有する組成物をラジカル重合開始剤の存在下に注型重合して得られる低吸湿性透明樹脂(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。これらの樹脂組成物においては、レンズ等の光学部品、光ディスク等の光学式情報記録用媒体、光伝送材等に用いられることが記載されている。また、主鎖に窒素原子を含む化合物がエステル結合された繰り返し単位を含む光通信用高分子材料が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
しかしながら、これらの透明樹脂を含有する材料においては、低吸湿性を更に向上させるとともに、屈折率制御を可能とし、光通信、光導波路、光記録、液晶ディスプレイ等の種々の用途に好適に用いられるものとするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2001−64226号公報(第1−2、11頁)
【特許文献2】特開2003−82091号公報(第1−2、8頁)
【特許文献3】特開2000−239325号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特開平5−32731号公報(第2、4頁)
【特許文献5】特開2000−89049号公報(第2−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、屈折率制御が可能であり、低吸湿性等の特性に優れ、プラスチック繊維や光学フィルム等の光学材料等の様々な分野で好適に用いられる材料に用いることができるフッ素含有化合物、及び、フッ素含有化合物を含む樹脂用添加剤、樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、光学材料等の様々な分野で好適に用いることができる含フッ素化合物について種々検討したところ、芳香環とパーフルオロアルケニル基とが酸素又は硫黄原子を介して結合した構造を必須とし、更に特定の構造を有する新規なパーフルオロアルケニル誘導体を見いだした。また、芳香環とパーフルオロアルケニル基とが酸素又は硫黄原子を介して結合した構造を必須とする化合物を各種の透明樹脂材料に添加すると、透明樹脂材料の屈折率を制御することが可能になるとともに、透明樹脂材料の吸水率を低減し、光学材料として好適に用いることができる透明樹脂材料とすることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるパーフルオロアルケニル誘導体である。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Yは、炭素数1〜30のアルキル基、酸素原子(O)若しくは硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基、又は、Arどおしを結ぶ直接結合を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を表す。Rfは、パーフルオロアルケニル基を表す。aは、0又は1、cは、1以上の整数であり、aが0のとき、cは1であり、aが1のとき、cは2以上である。bは、1以上の整数である。
Arは、芳香環を表す。芳香環がベンゼン環であり、aが1であって、かつYが、−SO−、−C(CH−、又は、Arどおしを結ぶ直接結合の場合、又は、芳香環がベンゼン環であり、aが0であり、Xが酸素原子(O)かつbが1又は2、若しくは、XがSかつbが1の場合は、芳香環は、少なくとも1つの置換基を有し、
芳香環がナフタレン環であり、aが0であり、かつbが1の場合には、芳香環は、置換基を1つ以上有する。
本発明はまた、下記一般式(2);
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、R、R及びRのうち少なくとも1つはパーフルオロアルキル基である。)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させて得られる化合物を含んでなる樹脂用添加剤である。
本発明は、更に下記一般式(2);
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、R、R及びRのうち少なくとも1つはパーフルオロアルキル基である。)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させて得られる化合物を含んでなる樹脂組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0015】
フッ素原子を有する化合物は、フッ素原子を含有していることに起因して撥水性が良好であるという特性を有するものであるが、本発明のパーフルオロアルケニル誘導体は、上記一般式(1)で表される構造を有するものであり、構造中に少なくとも3つのフッ素原子を有するパーフルオロアルケニル基を少なくとも1つ有することにより、優れた撥水性を発揮する化合物である。
【0016】
上記一般式(1)において、Yは、炭素数1〜30のアルキル基、酸素原子(O)若しくは硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基、又は、Arどおしを結ぶ直接結合を表すが、炭素数1〜30のアルキル基の場合、アルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましい。より好ましくは、1〜15である。また、アルキル基の水素原子は他の原子や置換基によって置換されていてもよく、ハロゲン原子によって置換されていていることが好ましい。ハロゲン原子の数は、1つ以上であれば特に制限されない。アルキル基に置換するハロゲン原子としては、塩素原子(Cl)、フッ素原子(F)が好ましい。
酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基としては、酸素原子、硫黄原子、−SO−等が挙げられる。これらの中でも、酸素原子(O)、硫黄原子(S)が好ましい。
【0017】
上記一般式(1)のa、cにおいて、aが0であり、cが1である場合には、分子中に1つの芳香環を有する化合物となり、aが1であり、cが2以上である場合には、分子中に2つ以上の芳香環を有し、これらの芳香環が芳香環どおしの直接結合、又は、炭素数1〜30のアルキル基、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基を介して結合した化合物となる。上記bは、芳香環に付加する−X−Rf基の数を表す。芳香環に付加する−X−Rf基の位置は、特に制限されず、複数の−X−Rf基が芳香環に付加する場合には、これら複数の−X−Rf基の位置関係も特に制限されない。
芳香環には、Y−、−X−Rf基や、その他の置換基が付加することになるが、芳香環を構成する炭素原子に結合したすべての水素原子がY−、−X−Rf基や、その他の置換基によって置換されていてもよく、一部の水素原子が置換されずに残っていてもよい。
−X−Rf基は、1つの芳香環について1つ以上付加していることになるが、1〜6個付加していることが好ましい。より好ましくは、1〜4個である。すなわち、bは、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。
【0018】
上記一般式(1)において、芳香環がベンゼン環であり、aが1であって、かつYが、−SO−、−C(CH−、又は、Arどおしを結ぶ直接結合の場合、又は、芳香環がベンゼン環であり、aが0であり、Xが酸素原子(O)かつbが1又は2、若しくは、XがSかつbが1の場合は、芳香環は、少なくとも1つの置換基を有する。また、芳香環がナフタレン環であり、aが0であり、かつbが1の場合には、芳香環は、置換基を1つ以上有する。これらの場合、ベンゼン環、ナフタレン環に付加する置換基の位置は特に制限されず、−X−Rfに対してオルト位、メタ位、パラ位のいずれの位置であってもよい。また、置換基の種類も特に制限されない。
なお、上記ベンゼン環、ナフタレン環を含め、一般式(1)のArで表される芳香環の置換基は、上記一般式(1)において、Arで表される構造に含まれるものであり、一般式(1)におけるY−及び−X−Rfは、当該置換基には含まれない。以下、本明細書において、一般式(1)のArで表される芳香環の置換基とは、上記一般式(1)におけるY−及び−X−Rf以外の置換基を意味する。
【0019】
上記Arで表される芳香環の置換基としては、ハロゲン原子、又は、ハロゲン原子によって置換されたアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、及び、シアノ基、ニトロ基、アミノ基等が好ましい。より好ましくは、ハロゲン原子、ハロゲン原子によって置換されたアルキル基、アルコキシル基、及び、シアノ基、ニトロ基、アミノ基等 である。ハロゲン原子としては、塩素原子(Cl)、フッ素原子(F)が好ましい。
【0020】
上記一般式(1)において、Rfで表されるパーフルオロアルケニル基としては、アルケニル基における炭素原子に結合する水素のすべてがフッ素で置換された構造を有するものである限り特に制限されず、下記一般式(3);
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、R、R及びRのうち少なくとも1つはパーフルオロアルキル基である。)で表されるいずれの基も用いることができるが、パーフルオロアルケニル基が有する炭素原子数の合計が6つであるヘキサフルオロプロペンダイマー由来のパーフルオロアルケニル基、又は、炭素原子数の合計が9つであるヘキサフルオロプロペントリマー由来のパーフルオロアルケニル基が好ましい。より好ましくは、下記式(4)で表されるヘキサフルオロプロペンダイマー由来のパーフルオロアルケニル基、又は、下記式(5)で表されるヘキサフルオロプロペントリマー由来のパーフルオロアルケニル基である。
【0023】
【化5】

【0024】
なお、本発明における上記一般式(1)で表されるパーフルオロアルケニル誘導体はまた、以下のように定義することもできる。
【0025】
【化6】

【0026】
式中、Yは、2価の有機基、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基、又は、芳香環どおしの直接結合を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を表す。Rfは、パーフルオロアルケニル基を表す。Arは、芳香環を表す。aは、0又は1、cは、1以上の整数であり、aが0のとき、cは1であり、aが1のとき、cは2以上である。bは、1以上の整数である。
ただし、芳香環がベンゼン環、又は、ナフタレン環であり、XがOであり、aが0であり、bが1であり、cが1であって、芳香環が−O−Rf以外の置換基を有しない場合、
芳香環がベンゼン環であり、XがSであり、aが0であり、bが1であり、cが1であって、芳香環が−S−Rf以外の置換基を有しない場合、
芳香環がベンゼン環であり、XがOであり、aが0であり、bが2であり、cが1であって、芳香環が−O−Rf以外の置換基を有しない場合、
芳香環がベンゼン環であり、XがOであり、aが1であり、bが1であり、cが2であり、Yが芳香環どおしの直接結合、−C(CH−、又は、−SO−を介した結合のいずれかであって、芳香環が−O−Rf以外の置換基を有しない場合
を除く。
【0027】
本発明のパーフルオロアルケニル誘導体としては、例えば、Rfで表されるパーフルオロアルケニル基がヘキサフルオロプロペントリマー由来のパーフルオロアルケニル基である以下の(6−1)〜(6−21)で表される化合物、Rfで表されるパーフルオロアルケニル基がヘキサフルオロプロペンダイマー由来のパーフルオロアルケニル基である以下の(7−1)〜(7−21)で表される化合物等が挙げられる。
【0028】
【化7】


【0029】
【化8】


【0030】
上記式中、Qは、フッ素原子(F)又は塩素原子(Cl)を表す。m及びnは、芳香環に付加するフッ素原子又は塩素原子の数を表し、mは、1〜5の整数である。nは、1〜7の整数である。
【0031】
本発明の樹脂用添加剤は、下記一般式(2);
【0032】
【化9】

【0033】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、R、R及びRのうち少なくとも1つはパーフルオロアルキル基である。)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させて得られる化合物(Z)を含んでなるものであるが、その他の化合物を含んでいてもよい。また、樹脂用添加剤に含まれる化合物(Z)は、1種であってもよく2種以上であってもよい。
【0034】
上記化合物(Z)を含んでなる本発明の樹脂用添加剤は、化合物(Z)がフッ素原子を含んでいることに起因して撥水性が良好であるという特性を有し、この樹脂用添加剤を樹脂に添加して得られる樹脂組成物は、屈折率制御が可能であり、また低吸湿化されたものとなる。このような上記一般式(2)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させて得られる化合物(Z)を含んでなる樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【0035】
本発明の樹脂用添加剤の添加量としては、樹脂100質量%に対して1質量%以上であることが好ましく、100質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、2質量%以上であることであり、また、80質量%以下であることである。
樹脂用添加剤の含有量が1質量%以下であると、充分に低吸湿化された樹脂組成物とすることができないこととなる。
【0036】
上記化合物(Z)の合成に用いられる一般式(2)で表される化合物において、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表すが、一般式(2)で表される化合物が6つの炭素原子を有するヘキサフルオロプロペンダイマー、又は、9つの炭素原子を有するヘキサフルオロプロペントリマーとなることが好ましい。より好ましくは、上記式(4)で表されるヘキサフルオロプロペンダイマー、又は、上記式(5)で表されるヘキサフルオロプロペントリマーである。
【0037】
上記芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物としては、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を分子内に少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限されず、芳香環は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等のいずれの芳香環であってもよく、芳香環に付加する水酸基及び/又はチオール基の数も1つ以上であれば、複数であってもよい。芳香環の数は1つであってもよく、2つ以上であってもよく、芳香環は、水酸基、チオール基以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、及び、アミノ基等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、含ハロゲンアルキル基、含ハロゲンアルコキシル基が好ましい。また、2つ以上の芳香環を有するものである場合には、2つの芳香環は直接結合であってもよく、下記一般式(8−1)〜(8−9)で表される基等を介して結合するものであってもよい。これらの中でも、(8−3)、(8−5)、(8−6)、及び(8−8)のいずれかが好ましい。
【0038】
【化10】

【0039】
上記芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物は、以下の一般式(9);
【0040】
【化11】

【0041】
(式中、Lは、炭素数1〜30のアルキル基、酸素原子(O)若しくは硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基、又は、Tどおしを結ぶ直接結合を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を表す。Hは、水素原子である。pは、0又は1、rは、1以上の整数であり、pが0のとき、rは1であり、pが1のとき、rは2以上である。qは、1以上の整数である。Tは、芳香環を表す。)で表すことができる。
上記Tとしては、置換基を有していてもよいベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等の芳香環が好ましく、置換基としては、ハロゲン原子、含ハロゲンアルキル基、含ハロゲンアルケニル基、含ハロゲンアルキニル基、含ハロゲンアルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基等が好ましい。また、ハロゲン原子としては、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。
【0042】
上記一般式(9)において、Tで表される芳香環がベンゼン環であり、pが0である場合、上記一般式(9)で表される化合物は、1つの芳香環にq個の−X−Hが付加した化合物となるが、−X−Hは、1〜3個付加していることが好ましい。すなわち、qは、1〜3が好ましい。芳香環が置換基を有する場合、芳香環のすべての水素原子が置換基によって置換されていてもよく、一部の水素原子が置換されずに残っていてもよい。
また上記一般式(9)において、芳香環がベンゼン環であり、pが1であり、rが2である場合、式中の−T−L−T−の構造としては、下記式(10−1)〜(10−13)で表される構造のいずれかであることが好ましい。より好ましくは、(10−1)、(10−2)、(10−4)、(10−6)及び(10−7)のいずれかである。
なお、上記一般式(9)のTで表される芳香環の置換基は、上記一般式(9)において、Tで表される構造に含まれるものであり、一般式(9)におけるL−及び−X−Hは、当該置換基には含まれない。以下、本明細書において、一般式(9)のTで表される芳香環の置換基とは、上記一般式(9)におけるL−及び−X−H以外の置換基を意味する。
【0043】
【化12】

【0044】
上記式(10−1)〜(10−13)において、M、M、M及びMは、同一若しくは異なって、置換基を表し、1つのベンゼン環は、0〜4個のM、M、M及びMを置換基として有する。
上記M、M、M及びMにおける置換基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アリールチオ基、ハロゲン原子等が好適である。好ましくは、炭素数1〜30であって、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子である。
【0045】
上記一般式(9)において、Tで表される芳香環がナフタレン環の場合、p=0でq=1〜4が好ましく、水素は、他の置換基で置換されていてもよい。アントラセン環又はフェナントレン環の場合、p=0でq=1〜6が好ましく、水素は他の置換基で置換されていてもよい。
【0046】
本発明の樹脂用添加剤を添加する樹脂としては、何れの樹脂であってもよいが、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂等の樹脂、及び、含フッ素ポリアリルエーテル、含フッ素ポリイミド類、含フッ素ベンゾオキサゾール、脂環式含フッ素重合体、脂肪族含フッ素重合体等の含フッ素重合体が好ましく、更にはアクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、含フッ素ポリアリルエーテル、含フッ素ポリイミド類、含フッ素ベンゾオキサゾール、脂環式含フッ素重合体、脂肪族含フッ素重合体からなるものがより好ましい。本発明の樹脂用添加剤をこれらの樹脂からなるものに用いると、樹脂の屈折率制御及び吸水率低減の効果をより効果的に発揮することが可能となる。
【0047】
本発明の樹脂用添加剤をアクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂に添加する場合、添加剤の相溶性が高まることから、これらの樹脂の中でも主鎖及び/又は側鎖にフッ素原子を有する構造単位を含む重合体からなる樹脂を用いることが好ましい。主鎖及び/又は側鎖にフッ素原子を有する構造単位を含む重合体からなる樹脂、及び、上記含フッ素ポリアリルエーテル、含フッ素ポリイミド類、含フッ素ベンゾオキサゾール、脂環式含フッ素重合体、脂肪族含フッ素重合体としては、樹脂、重合体100質量%中にフッ素原子を5〜80質量%含むものが好ましい。
【0048】
上記一般式(2)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させる化合物(Z)の合成反応においては、反応原料の有効利用及び生成物の収率の向上の点から、原料として使用されるフッ素含有化合物と芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物との比率を適宜設定することが好ましく、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物中、1つの水酸基(−OH基)若しくはチオール基(−SH基)に対しフッ素含有化合物を1〜2等量、より好ましくは1〜1.5等量用いることが好ましい。
【0049】
上記化合物(Z)の合成反応に用いる溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジフェニルエーテル、ベンジルエーテル、tert−ブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類;N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アセトニトリル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセアミド等が好ましい。溶媒の量としては、上記反応を効率良く進行できる量であればよいが、フッ素含有化合物と芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物との総量が溶媒中に10〜60質量%となるような量とすることが好ましい。より好ましくは、フッ素含有化合物と芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物との総量が溶媒中に20〜50質量%存在するような量である。
【0050】
上記化合物(Z)の合成反応の反応条件としては、反応を効率良く進行できる条件であればよく、反応温度としては、−10〜100℃とすることが好ましく、より好ましくは、−5〜90℃である。また、反応時間は、0.2〜24時間とすることが好ましく、より好ましくは1〜20時間である。更に、上記反応は、減圧下、常圧下又は加圧下のいずれで行われてもよいが、設備面等を考慮すると、常圧下で反応を行うことが好ましい。
【0051】
本発明の樹脂用添加剤を添加した樹脂組成物は、基板や反射防止層、屈折率制御層、光学補償層等に用いられる光学フィルム、光ファイバーや光導波路、光スイッチ等の光学通信材料、光記録ディスク等の記録材料、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、デジタルペーパー、有機EL、無機EL、リアプロ等の表示用基板等の各種用途に好適に用いることができるものであり、例えば、光ピックアップレンズ、レーザービームプリンター用fθレンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ランプレンズ等のレンズ;ビデオディスク、オーディオディスク、コンピューター用追記型ディスク等のディスク;プラスティック光ファイバー(POF)、光コネクター、導光体等の光伝送材等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明のパーフルオロアルケニル誘導体は、上述の構成よりなり、撥水性に優れたものである。また本発明の樹脂用添加剤は、樹脂に添加することで、屈折率制御が可能であり、また低吸湿化された樹脂組成物を得ることが可能となるものであり、これにより、得られた樹脂組成物は、光学材料等の様々な分野で好適に用いることができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
実施例1、2
攪拌子を入れた反応容器に表1の通り原料a、ヘキサフルオロプロペントリマー、溶媒を加え、氷浴に浸けて冷却した。充分に冷却した後、攪拌下、炭酸カリウムを所定量少量ずつ加えた。加え終わった後、そのまま終夜冷却した。反応物を希塩酸中にあけ、析出物をろ過し、ろ物を水でかけ洗いした後、真空乾燥機にて乾燥することで目的物であるパーフルオロアルケニル誘導体を得た。得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートを図1及び図2に示す。チャートには、得られたパーフルオロアルケニル誘導体の構造も併せて記載した。19F−NMRの測定条件は、後述のとおりである。
【0055】
実施例3〜7
攪拌子を入れた反応容器に表1の通り原料a、ヘキサフルオロプロペントリマー、溶媒を加え、氷浴に浸けて冷却した。充分に冷却した後、攪拌下、炭酸カリウムを所定量少量ずつ加えた。加え終わった後そのまま終夜冷却した。反応物を希塩酸中にあけ、有機層をエーテルで希釈し、分液ロートに移した後に有機層を3回水洗し、エバポレーターで濃縮、真空乾燥することで目的物であるパーフルオロアルケニル誘導体を得た。得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートを図3〜7に示す。得られたパーフルオロアルケニル誘導体の構造も併せて記載した。19F−NMRの測定条件は、後述のとおりである。
【0056】
【表1】

【0057】
19F−NMRの測定条件〕
Unity Plus 400(Varian社製)を用いて、溶媒としてアセトン−d6、内部標準としてヘキサフルオロベンゼンを使用してスペクトル測定し、構造分析を行った。
【0058】
実施例8
表2に示す配合で各種材料を配合し、混合溶液を作製した後、ガラス上に落とし、その上にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを重ねることによりガラス上に混合溶液を押し広げ、これによりガラス板上に混合溶液を塗った。
その後、UV照射し、混合溶液を硬化させた後、PETを剥離してガラス基板上に厚さ約20μのフィルムを作製した。その透過率とヘイズをヘイズメーター(日本電色工業社製 NDH−1001DP型)を用いて測定した結果、透過率92.5%、ヘイズ0.8%の均一で透明なフィルムが得られていることを確認した。また、ガラス基板をシリコン基板に変えて、同様の手法で厚さ約3μのフィルムを作製した。得られたフィルムの633nmと830nmの屈折率をプリズムカプラー(SAIRON TECHNOLOGY社製 プリズムカプラー SPA−4000)を用いて測定をした結果、1.4429と、添加剤を添加していないフィルムの屈折率と比べて屈折率が低下していることを確認した。
【0059】
実施例9〜11及び比較例1
実施例8と同様にして、表2の配合に従って混合溶液を作製し、同様の条件でフィルムを作製し検討した。比較のため、添加剤を添加しない混合溶液についても、同様の条件でフィルムを作製し検討した。その結果、いずれの混合溶液からも透明なフィルムが得られ、添加剤を添加した混合溶液を用いたフィルムのほうが、添加剤を添加しない混合溶液を用いたフィルムよりもより大きく屈折率を低下させることを確認した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2中、添加剤(1)とは、実施例2で得られたパーフルオロアルケニル誘導体であり、添加剤(2)とは、実施例1で得られたパーフルオロアルケニル誘導体である。また、ライトエステルFM−108は、フッ素含有メタクリレート(共栄社化学株式会社製)であり、ライトアクリレートIB−XAは、イソボルニルアクリレート、ライトアクリレートPE−3Aは、三官能アクリレート(共栄社化学株式会社製)である。また、MMAは、メチルメタクリレートを表す。イルガキュア907は、重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製)である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。
【図2】本発明の実施例2において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。
【図3】本発明の実施例3において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。
【図4】本発明の実施例4において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。
【図5】本発明の実施例5において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。
【図6】本発明の実施例6において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。
【図7】本発明の実施例7において得られたパーフルオロアルケニル誘導体の19F−NMRの測定チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするパーフルオロアルケニル誘導体。
【化1】

式中、Yは、炭素数1〜30のアルキル基、酸素原子(O)若しくは硫黄原子(S)を少なくとも1つ有する基、又は、Arどおしを結ぶ直接結合を表す。Xは、同一又は異なって、酸素原子(O)又は硫黄原子(S)を表す。Rfは、パーフルオロアルケニル基を表す。aは、0又は1、cは、1以上の整数であり、aが0のとき、cは1であり、aが1のとき、cは2以上である。bは、1以上の整数である。
Arは、芳香環を表す。芳香環がベンゼン環であり、aが1であって、かつYが、−SO−、−C(CH−、又は、Arどおしを結ぶ直接結合の場合、又は、芳香環がベンゼン環であり、aが0であり、Xが酸素原子(O)かつbが1又は2、若しくは、XがSかつbが1の場合は、芳香環は、少なくとも1つの置換基を有し、
芳香環がナフタレン環であり、aが0であり、かつbが1の場合には、芳香環は、置換基を1つ以上有する。
【請求項2】
下記一般式(2);
【化2】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、R、R及びRのうち少なくとも1つはパーフルオロアルキル基である。)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させて得られる化合物を含んでなる
ことを特徴とする樹脂用添加剤。
【請求項3】
下記一般式(2);
【化3】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、R、R及びRのうち少なくとも1つはパーフルオロアルキル基である。)で表されるフッ素含有化合物と、芳香環に水酸基及び/又はチオール基が直接付加した構造を有する化合物とを反応させて得られる化合物を含んでなる
ことを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−335677(P2006−335677A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161711(P2005−161711)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】