説明

パーフルオロエラストマーおよびフッ素プラスチックのブレンド

硬化物品は、パーフルオロエラストマーと、51〜300phrの、テトラフルオロエチレンおよび5〜12重量パーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合単位を含む半結晶性熱可塑性コポリマーと、のブレンドを含む組成物から調製される。半結晶性コポリマーは、100nmを超える平均粒径を有する粒子として存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロエラストマーと、100nmを超える平均粒径を有する半結晶性熱可塑性コポリマーとの硬化性ブレンドに関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロエラストマーは、際立った商業的な成功を達成しており、これらは、特に、高温への曝露および攻撃的な薬品が生じる最終用途といった過酷な環境を経験する幅広い種類の用途に用いられている。例えば、これらのポリマーは、飛行機エンジンのためのシール、油井掘削装置、および高温で用いられる工業機器のためのシーリングエレメントにおいて、頻繁に用いられている。
【0003】
パーフルオロエラストマーの際立った特性は、これらの組成物におけるポリマー主鎖の主要部を形成する、共重合されたパーフルオロ化モノマー単位の安定性および不活性に大きく起因する。このようなモノマーとしては、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロビニルエーテルが挙げられる。ゴム状弾性を完全に発現させるためには、パーフルオロ化エラストマーは、典型的には架橋、すなわち硬化される。この目的のためには、少量の硬化部位モノマー(cure site monomer)がパーフルオロ化モノマー単位と共重合される。硬化部位モノマーは、少なくとも1つのニトリル基を含有し、例えばパーフルオロ−8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテンが特に好ましい。このような組成物は、米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2)、米国特許公報(特許文献3)、および米国特許公報(特許文献4)に記載されている。
【0004】
米国特許公報(特許文献5)には、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の弾性コポリマーと、テトラフルオロエチレンの熱可塑性コポリマーとの単相ブレンドが開示されている。弾性構成成分は硬化部位を含有しておらず、従ってこの組成物を架橋することはできない。このような組成物から形成されたシールは、架橋を欠くため、比較的貧弱なシーリング特性を有している。
【0005】
米国特許公報(特許文献6)には、パーフルオロエラストマーと、2〜50重量部の熱可塑性パーフルオロポリマーとの溶融ブレンドを含有する硬化性パーフルオロエラストマー組成物が開示されている。典型的には、熱可塑性ポリマーは、少なくとも300℃の融点を有する。熱可塑性パーフルオロポリマーの比較的少ないブレンド量のため、これらの組成物により提供されるシールは、高圧シーリング用途について要求される物理的強度を欠く。
【0006】
米国特許公報(特許文献7)には、パーフルオロエラストマーと2〜90重量パーセントの半結晶性コア/シェルフッ素プラスチックとのラテックスブレンドが開示されており、ここではシェルポリマーが臭素および/またはヨウ素をポリマー鎖中に含有している。(特許文献8)には、パーフルオロエラストマーとフッ素樹脂との硬化性ラテックスブレンドが開示されており、ここではフッ素樹脂が230℃〜300℃の間の融点、および100nm未満の平均粒径を有している。ラテックスブレンドは、簡潔ではなく、また、商業規模での製造では経済的ではない。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,281,092号明細書
【特許文献2】米国特許第4,394,489号明細書
【特許文献3】米国特許第5,789,489号明細書
【特許文献4】米国特許第5,789,509号明細書
【特許文献5】米国特許第3,484,503号明細書
【特許文献6】米国特許第4,713,418号明細書
【特許文献7】米国特許第6,710,132B2号明細書
【特許文献8】国際公開第02/79280号パンフレット
【特許文献9】米国特許第3,467,638号明細書
【特許文献10】米国特許第4,243,770号明細書
【特許文献11】米国特許第3,332,907号明細書
【特許文献12】米国特許第5,565,512号明細書
【特許文献13】米国特許第6,281,296B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
架橋されたときに、良好なシーリング特性と、高圧での用途で用いるために十分な強度と、良好な耐薬品性との組み合わせを提供するパーフルオロエラストマー組成物であって、組成物は従来のゴム処理機器中で製造することができる組成物を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
A.i)パーフルオロエラストマーと、ii)テトラフルオロエチレンと5〜12重量パーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合単位を含む、パーフルオロエラストマー100重量部当たり51〜300重量部の半結晶性コポリマーであって、前記半結晶性コポリマーは100nmを超える平均粒径および融点を有する半結晶性コポリマーと、iii)硬化性組成物を形成する硬化剤とを、100℃未満の温度で乾式ブレンドする工程と、
B.前記組成物を硬化して硬化物品を形成する工程と、
C.前記硬化物品を、前記半結晶性コポリマーの融点を超える温度で後硬化する工程と、を含む硬化物品を調製するための方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、
A.i)パーフルオロエラストマーと、ii)テトラフルオロエチレンと5〜12重量パーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合単位を含む、パーフルオロエラストマー100重量部当たり51〜300重量部の半結晶性コポリマーであって、前記半結晶性コポリマーは、100nmを超える平均粒径および融点を有する半結晶性コポリマーとを、前記半結晶性コポリマーの融点を超える温度で溶融ブレンドし、これによりブレンドを形成する工程と、
B.硬化剤を、前記ブレンドに150℃未満の温度で添加する工程と、
C.前記組成物を硬化して硬化物品を形成する工程と、を含む硬化物品を調製するための方法である。
【0011】
本発明の別の態様は、上記の方法のいずれかによって調製された硬化物品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
パーフルオロエラストマーは、一般に、少なくとも2種の主要なパーフルオロ化モノマーの共重合単位を有する非晶性ポリマー組成物である。一般的には、主要なモノマーの一つはパーフルオロオレフィンであり、その他はパーフルオロビニルエーテルである。代表的なパーフルオロ化オレフィンとしては、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。好適なパーフルオロ化ビニルエーテルとしては、式
CF=CFO(Rf’O)(Rf”O) (I)
(式中、Rf’およびRf”は、炭素原子2〜6個の、異なる直鎖または分岐パーフルオロアルキレン基であり、mおよびnは独立に0〜10であり、およびRは炭素原子1〜6個のパーフルオロアルキル基である)で表されるものが挙げられる。
【0013】
パーフルオロ化ビニルエーテルの好ましい種類としては、式
CF=CFO(CFCFXO) (II)
(式中、XはFまたはCFであり、nは0〜5であり、およびRは炭素原子1〜6個のパーフルオロアルキル基である)で表される組成物が挙げられる。最も好ましいパーフルオロ化ビニルエーテルは、nが0または1であり、およびRが1〜3個の炭素原子を含むものである。このようなパーフルオロ化エーテルの例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が挙げられる。
【0014】
他の有用なモノマーとしては、式
CF=CFO[(CFCFCFZO] (III)
(式中、Rが炭素原子1〜6個のパーフルオロアルキル基であり、m=0または1、n=0〜5であり、およびZ=FまたはCFである)で表される化合物が挙げられる。この種類の好ましい一員は、RがCであり、m=0、およびn=1であるものである。
【0015】
更なるパーフルオロ化ビニルエーテルモノマーとしては、式
CF=CFO[(CFCFCFO)(CFCFCFO)(CF]C2x+1 (IV)
(式中、mおよびn=1〜10、p=0〜3、およびx=1〜5である)化合物が挙げられる。この種類の好ましい一員としては、n=0〜1、m=0〜1、およびx=1である化合物が挙げられる。
【0016】
有用なパーフルオロ化ビニルエーテルの更なる例としては、
CF=CFOCFCF(CF)O(CFO)2n+1 (V)
(式中、n=1〜5、m=1〜3であり、ここで、好ましくはn=1である)が挙げられる。
【0017】
好ましいパーフルオロエラストマーコポリマーは、主要なモノマー単位として、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のパーフルオロ化ビニルエーテルで構成される。このようなコポリマーにおいては、共重合されたパーフルオロ化エーテル単位は、ポリマー中の総モノマー単位の約15〜50モルパーセントを構成する。
【0018】
パーフルオロエラストマーは、少なくとも一種の硬化部位モノマーの共重合単位を、一般に、0.1〜5モルパーセントの量でさらに含有する。この範囲は、好ましくは0.3〜1.5モルパーセントである。2つ以上の種類の硬化部位モノマーが存在してもよいが、最も一般的には、一種の硬化部位モノマーが用いられ、これは少なくとも一つのニトリル置換基を含有している。好適な硬化部位モノマーとしては、ニトリル基含有フッ素化オレフィンおよびニトリル基含有フッ素化ビニルエーテルが挙げられる。 有用なニトリル基含有硬化部位モノマーとしては、下記に表される式のものが挙げられる。
CF=CF−O(CF−CN (VI)
(式中、n=2〜12であり、好ましくは2〜6である)、
CF=CF−O[CF−CF(CF)−O]−CF−CFCF−CN (VII)
(式中、n=0〜4、好ましくは0〜2である)、および
CF=CF−[OCFCF(CF)]x−O−(CF−CN (VIII)
(式中、x=1〜2、およびn=1〜4である)
【0019】
式(VIII)のものが好ましい。特に好ましい硬化部位モノマーは、ニトリル基およびトリフルオロビニルエーテル基を有するパーフルオロ化ポリエーテルである。最も好ましい硬化部位モノマーは、
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN (IX)
すなわち パーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)または8−CNVEである。
【0020】
他の硬化部位モノマーとしては、式RCH=CR(式中、RおよびRは独立に水素およびフッ素から選択され、Rは独立に水素、フッ素、アルキル、およびパーフルオロアルキルから選択される)により表されるオレフィンが挙げられる。パーフルオロアルキル基は、約12個以下の炭素原子を含んでいてもよい。しかしながら、炭素原子が4個以下のパーフルオロアルキル基が好ましい。さらに、硬化部位モノマーは、3つ以下の水素原子を有することが好ましい。このようなオレフィンの例としては、エチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、1−ヒドロペンタフルオロプロペン、および2−ヒドロペンタフルオロプロペン、および4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1ならびにブロモトリフルオロエチレンなどの臭素化オレフィンが挙げられる。
【0021】
本発明において用いられるパーフルオロエラストマーに組み込まれ得る硬化部位モノマーの他の種類は、パーフルオロ(2−フェノキシプロピルビニルエーテル)および米国特許公報(特許文献9)に開示されている、関連するモノマーである。
【0022】
特に好ましいパーフルオロエラストマーは、53.0〜79.9モルパーセントのテトラフルオロエチレン、20.0〜46.9モルパーセントのパーフルオロ(メチルビニルエーテル)および0.4〜1.5モルパーセントの硬化部位モノマー、好ましくはニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を含む。モル分率は、パーフルオロエラストマーにおけるすべての共重合されたモノマー単位の総モル数を基準とする。
【0023】
硬化部位モノマーの代替として、または追加で、パーフルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーポリマー鎖の末端位置にヨウ素原子および/または臭素原子を含有していてもよい。このような原子は、米国特許公報(特許文献10)に開示されている通りヨウ素含有連鎖移動剤または臭素含有連鎖移動剤の反応により、重合中に導入され得る。
【0024】
本発明の組成物において用いられる半結晶性フルオロポリマー(すなわち熱可塑性パーフルオロポリマー)は、テトラフルオロエチレンと5〜12重量パーセント(コポリマーの総重量を基準として)のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合単位を含むコポリマーである。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が挙げられる。パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。このようなフルオロポリマーは、285℃〜310℃の公称融点(ASTM D3418)を有している。フルオロポリマーの数平均粒径は、100nmより大きく、好ましくは1μmより大きい。好ましい半結晶性フルオロポリマーは、本願特許出願人から入手可能であるテフロン(Teflon)(登録商標)PFAフルオロポリマー樹脂である。特に好ましいフルオロポリマーは、2.5mmのペレットで入手可能であるテフロン(Teflon)(登録商標)PFA HP Plusである。このように比較的大きい粒径の半結晶性フルオロポリマーは、パーフルオロエラストマーとの、ロールミル、ミキサーおよびエクストルーダなどの従来のゴム混合機器でのブレンドを容易にする。
【0025】
本発明の硬化物品は、パーフルオロエラストマーと、51〜300(好ましくは60〜200、最も好ましくは75〜200)phrの上記に規定した半結晶性フルオロポリマーと、硬化剤とを含む。用語「phr」は、ゴム100重量部(すなわちパーフルオロエラストマー)当たりの成分の重量部を指す。
【0026】
本発明の硬化物品の形成に用いられる硬化性組成物は、半結晶性フルオロポリマーの融点未満の温度で、半結晶性フルオロポリマーとパーフルオロエラストマーとを溶融ブレンドするか、または半結晶性フルオロポリマーとパーフルオロエラストマーとを乾式ブレンドするかのいずれかにより形成することができる。しかしながら、半結晶性フルオロポリマーは、硬化物品製造法の間におけるある時点において溶融されることが重要である。
【0027】
「溶融ブレンド」とは、乾燥した成分(すなわちラテックスまたは液状分散物ではない)を、半結晶性フルオロポリマーの融点より高い温度でブレンドすることを意味する。溶融ブレンド温度は、パーフルオロエラストマーまたは半結晶性フルオロポリマーの顕著な熱分解がブレンドを行う時に発生する可能性のある温度より低く維持されるべきである。好ましい溶融ブレンド温度は、300℃〜350℃の間である。パーフルオロエラストマーと半結晶性フルオロポリマーとの溶融ブレンドの後、硬化剤が、150℃未満の温度で(好ましくは100℃未満)ブレンドに添加される。組成物が物品に造形される前に硬化(すなわち架橋)が開始されないよう、より高い温度で硬化剤を添加しないことが大切である。次いで、硬化物品は、任意選択で組成物を造形し、次いで架橋(すなわち硬化)することによって、後者の組成物から形成されてもよい。任意選択により、物品は後硬化されてもよい。
【0028】
好ましくは、本発明の硬化物品は、パーフルオロエラストマーと、半結晶性フルオロポリマーと、硬化剤とを、半結晶性フルオロポリマーの融点より相当低く、顕著な架橋が生じる温度よりも低い温度(すなわち、100℃より低く、好ましくは50℃未満の温度)で乾式ブレンドすることにより形成される硬化性組成物から形成される。「乾式ブレンドする」とは、顕著な量の水または溶剤が存在するラテックス、液状分散物または溶液ブレンドとは反対に、水または溶剤が存在するとしてもほとんど含有しない成分を一緒にブレンドすることを意味する。任意選択により、乾式ブレンド法は、硬化剤の導入に先立って、パーフルオロエラストマーおよび半結晶性フルオロポリマーが予備ブレンド(半結晶性フルオロポリマーの融点より相当低い温度で)される、2つの工程で行うことができる。次いで、組成物は、典型的には、好ましくは半結晶性フルオロポリマーの融点より低い温度で、造形され、および硬化すなわち架橋される。次いで、得られた物品は、半結晶性フルオロポリマーの融点より高い温度で、少なくとも、半結晶性フルオロポリマーが溶融するのに必要とされる時間、後硬化される(すなわち、300℃〜350℃の間の温度で後硬化される)。典型的には、物品は、不活性雰囲気下(例えば窒素)または空気中で、半結晶性フルオロポリマーを溶融させると共にパーフルオロエラストマーをさらに架橋させるために、5〜30時間の間後硬化される。後硬化条件は、物品が後硬化される時間の間、パーフルオロエラストマーまたは半結晶性フルオロポリマーの顕著な熱分解が発生する可能性のある温度より低く維持されるべきである。驚くべきことに、この方法により形成された硬化物品は、パーフルオロエラストマーおよび半結晶性フルオロポリマーの溶融ブレンド組成物から形成された物品より良好な物理的特性を有する。
【0029】
パーフルオロエラストマーがニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を有する場合、有機錫化合物をベースとする硬化系を利用することが可能である。好適な有機錫化合物としては、アリル−、プロパルギル−、トリフェニル−およびアレニル錫硬化剤が挙げられる。テトラアルキル錫化合物またはテトラアリール錫化合物が、ニトリル置換硬化部位と組み合わせて用いるために好ましい硬化剤である。用いられる硬化剤の量は、パーフルオロエラストマーにおける反応性部分の種類および濃度と共に、最終生成物において所望の架橋度に応じて必然的に決定されるであろう。一般的に、約0.5〜10重量部(エラストマー100部当たり(phr))の硬化剤を用いることが可能であり、および1〜4phrであると大部分の目的については充分である。ニトリル基が、有機錫などの硬化剤の存在下においては三量体形成してs−トリアジン環を形成し、これにより、パーフルオロエラストマーが架橋されると考えられている。架橋は、275℃以上の温度でさえも熱的に安定である。
【0030】
ニトリル基含有硬化部位を含有するパーフルオロエラストマーについて有用な好ましい架橋系は、下記式のビス(アミノフェノール)およびビス(アミノチオフェノール)、
【0031】
【化1】

【0032】
および下記式のテトラアミンを利用する。
【0033】
【化2】

【0034】
式中、AはSO、O、CO、炭素原子1〜6個のアルキレン、炭素原子1〜10個のパーフルオロアルキレン、または2つの芳香族環をリンクする炭素‐炭素結合である。上記の式XおよびXIにおけるアミノおよびヒドロキシルまたはチオ基は、ベンゼン環上において相互に隣接し、基Aについて、メタおよびパラ位置が相互に交換可能である。好ましくは、硬化剤は、4,4’−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス(2−アミノフェノール)、4,4’−スルホニルビス(2−アミノフェノール)、3,3’−ジアミノベンジジン、および3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノンからなる群から選択される化合物である。これらの最初のものが最も好ましく、これをビス(アミノフェノール)AFと呼ぶ。硬化剤は、米国特許公報(特許文献11)(アンジェロ(Angelo))に開示されている通り調製することが可能である。ビス(アミノフェノール)AFは、4,4’−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]−ビスフェノール(すなわちビスフェノールAF)を、好ましくは硝酸カリウムおよびトリフルオロ酢酸と共にニトロ化し、引き続き、好ましくは溶剤としてエタノールと触媒として触媒量のパラジウム炭素で接触水素化することにより調製することが可能である。硬化剤の濃さは、硬化物の所望の特性が最適化されるよう選択されるべきである。一般的に、フルオロエラストマーに存在する全ての硬化部位と反応するのに必要とされる量より僅かに過剰な硬化剤が用いられる。典型的には、エラストマー100部当たり0.5〜5重量部の硬化剤が必要とされる。好ましい範囲は1〜2phrである。
【0035】
過酸化物は、特に硬化部位がニトリル、ヨードまたは臭素基である場合に硬化剤として利用されてもよい。有用な過酸化物は、硬化温度でフリーラジカルを生成するものである。50℃を超える温度で分解する、過酸化ジアルキルまたはビス(過酸化ジアルキル)が特に好ましい。多くの場合に、ペルオキシの酸素に結合した三級炭素原子を有するジ−t−過酸化ブチルを用いることが好ましい。この中で最も有用なこの種類の過酸化物は、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンである。その他の過酸化物は、ジクミルペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、過安息香酸t−ブチル、およびジ[1,3−ジメチル−3−(t−ブチルペルオキシ)ブチル]カーボネートなどの化合物から選択することができる。一般的には、パーフルオロエラストマー100部当たり約1〜3部の過酸化物が用いられる。この組成物に、過酸化物硬化剤系の一部として通常ブレンドされる他の物質は、有用な硬化をもたらすために過酸化物と共に作用することが可能である多価不飽和化合物から構成される架橋助剤である。これらの架橋助剤は、パーフルオロエラストマー100部当たり0.1〜10部の間、好ましくは2〜5phrの間の量で添加することが可能である。架橋助剤は下記化合物の1種または複数であればよい。トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリ(メチルアリル)イソシアヌレート、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、トリアリルホスファイト、N,N−ジアリルアクリルアミド、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアルキルテトラフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、およびトリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート。特に有用なのはトリアリルイソシアヌレートである。
【0036】
ニトリル硬化部位を有するパーフルオロエラストマーの硬化に好適なその他の硬化剤としては、米国特許公報(特許文献12)に開示されているアンモニア、無機酸または有機酸のアンモニウム塩(例えばパーフルオロオクタン酸アンモニウム)が挙げられ、および米国特許公報(特許文献13)に開示されている、硬化温度で分解してアンモニアを生成する化合物(例えば尿素)が挙げられる。
【0037】
存在する硬化部位に応じて、デュアル硬化系を用いることも可能である。 例えば、ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を有するパーフルオロエラストマーは、過酸化物の混合物を含む硬化剤を、有機錫硬化剤および架橋助剤と組み合わせて用いて硬化することが可能である。一般的には、0.3〜5部の過酸化物、0.3〜5部の架橋助剤、および0.1〜10部の有機錫硬化剤が利用される。
【0038】
パーフルオロエラストマーブレンド物に典型的に利用される、充填材(例えばカーボンブラック、硫酸バリウム、シリカ、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、および二酸化チタン)、安定化剤、可塑剤、滑剤、および処理助剤などの添加剤を本発明の組成物に組み込むことが可能であるが、ただしこれらの組成物が意図される提供条件に対して十分な安定性を有する場合に限られる。本発明の組成物に存在するいずれの添加剤も150℃未満の温度で導入されることが好ましい。しかしながら、本発明の好ましい実施形態においては、本発明の組成物中には、カーボンブラック、金属充填材、金属塩、金属酸化物または金属水酸化物は用いられない。従って、本発明のこのような実施形態は非常に僅かな抽出可能な金属を有しており、半導体製造業および製薬業などの高純度シールが求められる環境での使用に対して特に好適である。
【0039】
本発明の硬化パーフルオロエラストマー物品は、良好なシーリング特性と、高圧での用途で用いるために十分な強度と、耐クリープ性と、柔軟性と、優れた耐薬品性とを有する。「良好なシーリング特性」とは、25℃、伸度(elongation)200%での引張永久ひずみ(%復元率)が少なくとも25%であることを意味する。「高圧での用途で用いるために十分な強度」とは、伸度100%で少なくとも5.5MPaである弾性率を意味する。「優れた耐薬品性」とは、硬化パーフルオロエラストマー物品が90℃のエチレンジアミンまたは225℃の蒸気のいずれかに70時間曝されたときに12%未満である体積膨潤度を意味する。
【0040】
この物品は、高温、悪条件の薬品および高圧状態などの環境に曝されることとなる、シール、ガスケット、チューブ、ワイヤー外被、およびローラなどの多種の用途において有用である。特定の最終使用用途としては、半導体製造機器、化学処理、食品および製薬工業および事務機器(すなわち複写機および印刷ローラ)が挙げられる。
【実施例】
【0041】
(試験法)
(硬化特性)
硬化特性を、モンサント(Monsanto)MDR2000計器を下記の条件下で用いて測定した。
可動盤周波数:1.66Hz
振動幅: 1.0
温度:特に記載のない限り190℃
サンプルサイズ:45mmの直径、5mmの厚さを有するディスク
試験時間:20分間
下記の硬化パラメータを記録した。
:最大トルクレベル、単位N・mで
:最低トルクレベル、単位N・mで
1:Mより0.04N・m上昇するまでの時間(分)
90:最大トルクの90%に達するまでの時間(分)
【0042】
以下の実施例に列挙された処方に記載されている通り適切な添加剤をブレンドしたエラストマーから試験片を調製した。ゴム用ロール機またはバンバリーミキサーでブレンドを行った。練った組成物をシートに成形すると共に、10gのサンプルを型抜いてディスクとし、試験片を形成した。
【0043】
正圧および高温下に維持した計器のシールされたテストキャビティ内に試験片を載置して硬化特性を測定した。バイコニカルディスクを試験片に埋設し、これを0.5°のアークを通じて特定の周波数で振動させ、これにより試験片に剪断歪をおよぼした。ディスクを回転させるのに必要とされる最大振幅での力(トルク)は、ゴムの剛性(剪断弾性率)と比例する。このトルクを時間の関数として記録した。ゴム試験片の剛性は硬化の最中に増大するため、試験は、硬化性の尺度を提供する。試験は、記録したトルクが均衡または最大値のいずれかに達した時か、または予め定められた時間が経過した時に、完了する。カーブを得るために必要とされる時間は、試験温度およびゴム化合物の特性による。
【0044】
(引張特性)
特に記載のない限り、応力/疲労特性は、190℃で4分間プレス硬化し、次いで空気中で10時間、305℃で後硬化した試験片について測定した。物理的特性の測定値をASTM D412に記載された方法に準拠して得た。以下のパラメータを記録した。
100、単位MPaでの、100%伸度での弾性率
、単位MPaでの破断引張強度
、単位%での破断伸び
デュロメーター硬さ、ショア(Shore)A
【0045】
Oリングサンプルの圧縮永久ひずみを、ASTM D395準拠して測定した。
【0046】
25℃、200%伸度での引張永久ひずみを、%復元率の単位で、ASTM D412に準拠して測定した。
【0047】
耐薬品性、体積膨潤度%、をASTM D471により測定した。
【0048】
(実施例1〜7および対照例A〜E)
実施例および対照例において用いられたパーフルオロエラストマーは、68.2モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、31.0モルパーセントのパーフルオロ(メチルビニルエーテル)と、0.80モルパーセントのパーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)との共重合単位を含有し、米国特許公報(特許文献3)に記載されている一般的な手法に準拠して調製した。
【0049】
用いた半結晶性フルオロポリマーは、三井・デュポンフルオロケミカル株式会社から市販されているテフロン(Teflon)(登録商標)PFA等級940、945または950であった。
【0050】
本発明の組成物(実施例1〜6)および対照例DおよびEを、パーフルオロエラストマーおよび半結晶性フルオロポリマーを開放式のロールミル中において40℃でブレンドすることにより形成した。次いで、硬化剤およびその他の成分を、同一の条件下においてミルに添加した。対照組成物(対照例A〜C)を、成分を開放式のロールミル中において40℃でブレンドすることにより形成した。成分および調合割合を表Iに示す。硬化特性、耐薬品性および引張特性を、試験法に基づいて測定し、また、それらを表1に示す。
【0051】
本発明の他の組成物(実施例7)を、ラボプラストミル(Laboplasto mill)(東洋精機工業株式会社)中においてパーフルオロエラストマーおよび半結晶性フルオロポリマーを、320℃で溶融ブレンドすることにより形成した。次いで、硬化剤およびその他の成分をこのブレンドに、40℃で2ロールミルで添加した。成分および調合割合が表Iに示されている。硬化特性および引張特性を試験法に従って測定し、これらもまた表Iに示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.i)パーフルオロエラストマーと、ii)テトラフルオロエチレンと5〜12重量パーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合単位を含む、パーフルオロエラストマー100重量部当たり51〜300重量部の半結晶性コポリマーであって、前記半結晶性コポリマーは100nmを超える平均粒径および融点を有する半結晶性コポリマーと、iii)硬化性組成物を形成する硬化剤とを、100℃未満の温度で乾式ブレンドする工程と、
B.前記組成物を硬化して硬化物品を形成する工程と、
C.前記硬化物品を、前記半結晶性コポリマーの融点を超える温度で後硬化する工程と、を含むことを特徴とする硬化物品を調製するための方法。
【請求項2】
硬化工程B)は、前記半結晶性コポリマーの融点未満の温度で行われること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾式ブレンド工程A)は50℃未満の温度で実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
A.i)パーフルオロエラストマーと、ii)テトラフルオロエチレンと5〜12重量パーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合単位を含む、パーフルオロエラストマー100重量部当たり51〜300重量部の半結晶性コポリマーであって、前記半結晶性コポリマーは、100nmを超える平均粒径および融点を有する半結晶性コポリマーとを、前記半結晶性コポリマーの融点を超える温度で溶融ブレンドし、これによりブレンドを形成する工程と、
B.硬化剤を、前記ブレンドに150℃未満の温度で添加する工程と、
C.前記組成物を硬化して硬化物品を形成する工程と
を含むことを特徴とする硬化物品を調製するための方法。
【請求項5】
前記溶融ブレンド工程A)は300℃〜350℃の間の温度で実施されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記硬化剤は100℃未満の温度で前記ブレンドに添加されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記硬化性組成物は、パーフルオロエラストマー100重量部当たり60〜200重量部の前記半結晶性コポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記硬化性組成物は、パーフルオロエラストマー100重量部当たり75〜200重量部の前記半結晶性コポリマーを含有することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記パーフルオロエラストマーは、53.0〜79.9モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、20.0〜46.9モルパーセントのパーフルオロ(メチルビニル)エーテルと、0.4〜1.5モルパーセントの硬化部位モノマーとの共重合単位を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−538142(P2007−538142A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527395(P2007−527395)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/017323
【国際公開番号】WO2006/057666
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(597035953)デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー (44)
【Fターム(参考)】