説明

パーフルオロポリエーテル化合物、その製造方法、該化合物を含有する潤滑剤、および磁気ディスク

【課題】水酸基を有するパーフルオロポリエーテルの末端に新たな官能基を導入することにより、従来の末端変性化合物よりも、ディスク表面上における良好な流動性と吸着性を有し、さらには熱に対して安定な化合物(潤滑剤)を提供する。
【解決手段】分子内に一般式(2);


(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテル化合物、その製造方法、該化合物を含有する潤滑剤、および磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクの記録密度の増大に伴い、記録媒体である磁気ディスクと情報の記録・再生を行うヘッドとの距離は、殆ど接触するまで狭くなっている。磁気ディスク表面には、ヘッドとの接触・摺動の際の摩耗抑制や、ディスク表面の汚染防止等の目的で、炭素保護膜や極薄膜の液体潤滑膜が設けられている。
【0003】
この炭素保護膜は、一般にスパッタ法やCVD法で製膜される。ディスクの表面保護は、炭素保護膜と、この上層に位置する液体潤滑膜の両者で担うことになるため、炭素保護膜と潤滑剤との相互作用が重要である。
【0004】
この潤滑剤としては、一般に、官能基を有するパーフルオロポリエーテルが用いられている。官能基としては、水酸基やアミノ基、さらにはシクロホスファゼン基等がある。具体的には、分子鎖の末端に水酸基群を有する潤滑剤として、SOLVAY SOLEXIS社製のFomblin ZTETRAOL、さらには分子の一方の末端に水酸基を有し、他方の末端にシクロホスファゼン基を有する松村石油研究所製のPHOSFAROL A20H等がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
分子鎖の末端に2個の水酸基を有するFomblin ZDOLは、良好な潤滑膜の流動性を示すが、高速回転するディスク上では飛散が多く、潤滑膜を長期間維持することができない。一方、ZDOLを末端変性することにより製造されるFomblin ZTETRAOLは、分子両末端に位置する4個の水酸基によりディスクへの良好な吸着性を示し、ディスクが高速回転しても飛散せず、潤滑膜を維持することができる。しかしながら、潤滑膜の流動性が低下し、摺動耐久性が不足してしまう。また、末端変性により導入された官能基は、加熱によって容易に変性(酸化)してしまう(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
前記PHOSFAROL A20Hは、ルイス酸によるパーフルオロポリエーテル主鎖の切断を抑制するシクロホスファゼン基を分子内に有することから、ヘッドの部材中のAlによる化合物の分解を抑制し、ディスク上での潤滑膜を維持することができる(例えば、特許文献2および非特許文献2参照)。このPHOSFAROL A20Hの添加的使用により、潤滑剤(膜)の耐久性が向上する例も報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
潤滑剤の分子内に水酸基等の極性基の数が増えると、炭素保護膜との相互作用が強くなるが、一方で潤滑剤としての流動性が低下する。流動性が著しく低下する場合には、ディスクとヘッドがほとんど接触する潤滑条件では潤滑性(膜)が不足し、磁気ディスクの耐久性が損なわれる懸念がある。
【0008】
潤滑剤が有する水酸基は、炭素保護膜上の水酸基と水素結合を形成することや、ダングリングボンド(未結合手)と共有結合を形成することにより、潤滑剤がディスク表面に吸着することが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
また、近年では、潤滑剤のディスク表面への固着を増加させる手法として、従来の熱処理に替わり、紫外線処理が主として適用されている。
【特許文献1】米国特許第4085137号明細書
【特許文献2】米国特許第6608009号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0176106号明細書
【非特許文献1】トライボロジー会議予稿集名古屋2008−9,p.419−420
【非特許文献2】Macromolecules,第25巻,1992年,p.6791−6799
【非特許文献3】TribologyLetters,第26巻,2007年,p.93−101
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、水酸基を有するパーフルオロポリエーテルの末端に新たな官能基を導入することにより、従来の末端変性化合物よりも、ディスク表面上における良好な流動性と吸着性を有し、さらには熱に対して安定な化合物(潤滑剤)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテルを原料として用いて、新規潤滑剤を合成し、その特性を評価した。その結果、パーフルオロポリエーテル鎖の末端に特定の官能基を有するパーフルオロポリエーテル化合物が、上記課題を克服することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりのパーフルオロポリエーテル化合物、その製造方法、該化合物を含有する潤滑剤、および磁気ディスクを提供するものである。
項1. 一般式(1);
A-O-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-O-A (1)
[式中、Aは一般式(2);
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を示し、pは1〜30を示し、qは0〜30を示す。]で表されるパーフルオロポリエーテル化合物。
項2. 分子内に一般式(2);
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤。
項3. 一般式(1);
A-O-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-O-A (1)
[式中、Aは一般式(2);
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を示し、pは1〜30を示し、qは0〜30を示す。]で表されるパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤。
項4. 末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテルと、一般式(3);
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)で表されるエポキシ化合物とを反応させることを特徴とする、分子内に一般式(2);
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、Rは前記と同様である。nは1または2を示す。)で表される基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の製造方法。
項5. 支持体上に記録層および保護層をこの順に形成し、該保護層の表面に項2または3に記載の潤滑剤からなる潤滑層を形成した磁気ディスク。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の潤滑剤に含有されるパーフルオロポリエーテル化合物の末端には、芳香環が導入されているので、本発明の潤滑剤は、炭素保護膜と相互作用を示す。また、導入する芳香環をフェノキシ基とすることにより、炭素保護膜との相互作用力を増加させ、さらには紫外線処理への応答性を得ることができる。導入する官能基としては、フェノキシ基だけでなく、水酸基も同時に導入している。
【0025】
本発明の潤滑剤に含有されるパーフルオロポリエーテル化合物は、原料の一例となるFomblin ZDOLよりも水酸基数を増加させない(水酸基数2個)ことにより、流動性を維持している。
【0026】
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、フェノキシ基と水酸基を含有した一般式(2)で表される官能基を、末端に有する。
【0027】
一般式(2)のRが示すC1−10のアルキル基としては、メチル基等が好ましい。C1−10のアルコキシ基としては、メトキシ基等が好ましい。
【0028】
また、一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物におけるpは5〜22が好ましく、qは5〜22が好ましい。
【0029】
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、例えば、以下のようにして製造する。
【0030】
[一般式(1);A-O-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-O-Aで表されるパーフルオロポリエーテル化合物の製造]
分子鎖の両末端に水酸基を有するHO-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-OHのパーフルオロポリエーテルと、ポタシウム−t−ブトキシドと、t−ブタノールとを混合し、70℃で30分撹拌する。ポタシウム−t−ブトキシドが溶解した後に、0.5〜3.0当量の1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパンを、70℃で撹拌しながら1時間かけてゆっくり滴下する。滴下終了後、70℃でさらに5時間以上撹拌する。反応終了後、フルオロカーボン系のフッ素溶剤で抽出し、蒸留により溶剤を留去して、粘ちょう液体を得る。得られた粘ちょう液体は、上記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物、一般式(4);A-O-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-OHで表されるパーフルオロポリエーテル化合物、および未反応原料を含有する。
【0031】
原料のパーフルオロポリエーテルとしては、例えば、SOLVAY SOLEXIS社製のFomblin ZDOL[構造式:HO-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-OH]等が挙げられる。パーフルオロポリエーテルの数平均分子量は、約1,000〜10,000である。
【0032】
反応剤のエポキシ化合物としては、2,3−エポキシプロピル−4−メトキシフェニルエーテル、グリシジル−4−ノニルフェニルエーテル等も使用することができる。
【0033】
なお、反応終了後の混合物をそのまま潤滑剤として用いることもできるが、カラムクロマトグラフィー法、超臨界炭酸抽出法、分子蒸留(薄膜加熱蒸留)法等により単離して用いることもできる。
【0034】
パーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤としては、上記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物の含有量が80重量%以上のものが好ましく、上記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物の含有量が90重量%以上のものがより好ましい。
【0035】
[上記一般式(2)で表される基を有するその他のパーフルオロポリエーテル化合物の製造]
原料のパーフルオロポリエーテルとしては、分子鎖の片側の末端に水酸基を有するCFCFCFO-(CFCFCFO)-CF-CF-CH-OHや、B-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-OHを使用することができる。ここで、式中のBは、下記式(5)で表される基である。
【0036】
【化6】

【0037】
原料のパーフルオロポリエーテルとしては、例えば、ダイキン工業社製のDEMNUM-SA[構造式:CFCFCFO-(CFCFCFO)-CF-CF-CH-OH]、松村石油研究所製のPHOSFAROL A20H[構造式:B-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-OH。式中、Bは、上記式(5)で表される基であり、上記式(5)のXは、CF-である。]等が挙げられる。パーフルオロポリエーテルの数平均分子量は、約1,000〜10,000である。
【0038】
また、原料のパーフルオロポリエーテルとしては、分子鎖の両末端に水酸基を有するHO-CH-CF-CFO-(CFCFCFO)-CF-CF-CH-OHを使用することもできる。
【0039】
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物の用途としては、磁気ディスク装置内における磁気ディスクの摺動特性を向上させるための記録媒体用潤滑剤としての用途が挙げられる。これは、磁気ディスクとヘッドとの摩擦係数の低減が目的であるので、磁気ディスク以外にも磁気テープ等の記録媒体とヘッドとの間に摺動が伴う他の記録装置における記録媒体用潤滑剤としての用途も挙げられる。また、記録装置に限らず、摺動を伴う部分を有する機器の潤滑剤としての用途も考えられる。
【0040】
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、単独使用してもよいし、例えば、SOLVAY SOLEXIS社製のFomblin ZDOLやZTETRAOL、ZDOL-TX、AM、ダイキン工業社製のDEMNUM、Dupont社製のKRYTOX、松村石油研究所製のPHOSFAROL A20H等と任意の比率で混合して使用することもできる。
【0041】
本発明の磁気ディスクは、支持体上に記録層および保護層をこの順に形成し、該保護層の表面に上記潤滑剤からなる潤滑層を形成してなる。
【0042】
本発明の磁気ディスクの一例の構成(断面)の概略を、図1に示す。
【0043】
図1において、本発明の磁気ディスクは、支持体1の上に記録層2を有し、その上に保護層3を有し、さらにその上に上記記録媒体用潤滑剤からなる潤滑層4を最外層として有する。
【0044】
支持体1の材質としては、アルミニウム合金、ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。記録層2の材質としては、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素にクロム、白金、タンタル等を加えた合金、またはそれらの酸化物が挙げられる。これらは、メッキ法、スパッタ法等で形成される。保護層3の材質としては、ダイアモンドライクカーボン、Si、SiC、SiO等が挙げられる。これらは、スパッタ法、CVD法等で形成される。
【0045】
潤滑層4は、本発明のパーフルオロポリエーテル化合物または該化合物を含有する潤滑剤を溶剤に溶解し、この溶液を用いて、通常、ディップ法により形成する。溶剤としては、本発明のパーフルオロポリエーテル化合物または該化合物を含有する潤滑剤を溶解するものを使用する。具体的には、フルオロカーボン系の溶剤(例えば、住友スリーエム社製の「PF-5060」、「PF-5080」、「HFE-7100」、「HFE-7200」、「HFE-7300」、Dupont社製の「バートレルXF」)等が挙げられる。溶液中のパーフルオロポリエーテル化合物の濃度は、1重量%以下が好ましく、0.001〜0.1重量%がより好ましい。
【発明の効果】
【0046】
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、従来のFomblin ZTETRAOLよりも、良好な流動性と吸着性を示すので、該化合物を含有する潤滑剤を塗布することにより、耐久性や低飛散性に優れた磁気ディスクの提供が可能となる。また、本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、加熱に対しても非常に安定であるので、高温環境下での長期間の使用によっても変性しにくい潤滑膜の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0048】
実施例1[一般式(1)において、Rが水素で、nが1であるパーフルオロポリエーテル化合物(化合物1)の製造]
アルゴン雰囲気下、SOLVAY SOLEXIS社製「Fomblin ZDOL」50.0g(0.024mol)、ポタシウム−t−ブトキシド1.1g(0.010mol)およびt−ブタノール45.0gを混合し、70℃で30分撹拌した。ポタシウム−t−ブトキシドが溶解したのを確認した後に、2.4当量の1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパン8.8g(0.059mol)を、70℃で撹拌しながら1時間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、70℃でさらに7.5時間撹拌した。反応終了後、反応混合液にデュポン社製「バートレルXF」を加えて抽出し、3重量%の硝酸水溶液と純水を用いて洗浄した。蒸留により「バートレルXF」を留去して、粘ちょう液体57.2gを得た。さらに、分子蒸留精製により、未反応原料を除去して、目的化合物1を52.0g得た。
【0049】
化合物1は無色透明の液体であった。H−NMR分析と19F−NMR分析を用いて行った化合物1の同定結果を示す。
【0050】
以下、H−NMR分析結果を示す。
H−NMR(溶媒:パーフルオロベンゼン、基準物質:重水DO):
δ=2.87ppm
〔1H,Rf-[-CF-CH-O-CH-CH(-CH-OC)-O]〕,
δ=3.45−4.15ppm
〔7H,Rf-[-CF-C-O-C-C(-C-OC)-OH]〕,
δ=6.40−7.00ppm
〔5H,Rf-[-CF-CH-O-CH-CH(-CH-OC)-OH]〕。
【0051】
以下、19F−NMR分析結果を示す。
19F−NMR(溶媒および基準物質:パーフルオロベンゼン):
δ=−77.00ppm
〔2F,Rf-[-CFCFO-C-CH-O-CH-CH(-CH-OC)-OH]〕,
δ=−79.00ppm
〔2F,Rf-[-CFO-C-CH-O-CH-CH(-CH-OC)-OH]〕。
p=10.3、q=11.3。
【0052】
NMRの分析結果から、数平均分子量は、2310であった。
【0053】
次に、実施例1で製造した化合物1を磁気ディスクに塗布し、潤滑膜の流動性試験、紫外線処理によるボンド率測定、潤滑膜のスピンオフ試験、およびバルク潤滑剤の加熱に対する安定性試験を実施した。比較のためのパーフルオロポリエーテル化合物としては、同様の原料であるFomblin ZDOLから製造されたSOLVAY SOLEXIS社製の「Fomblin ZTETRAOL」を用いた(比較例1)。
【0054】
[潤滑膜の流動性試験]
磁気ディスク上に塗布された潤滑剤の拡散係数は、JOURNAL of TRIBOLOGY,第126巻,2004年,p.751−754にも記載されているように、ディスク上での潤滑剤の拡散挙動をエリプソメーターもしくはOSA(オプティカルサーフェスアナライザー)で観察することにより計測される。拡散係数は、T時間後の潤滑剤の移動距離(L)を用いて、下記数式から算出される。
拡散係数(mm/s)=L/T。
【0055】
具体的には、実施例1で製造した化合物1およびFomblin ZTETRAOL(比較例1)を、それぞれデュポン社製「バートレルXF」に溶解した。この溶液の濃度はいずれも0.1重量%であった。直径3.5インチの磁気ディスクの一部分(約1/2)をこの溶液に浸漬し、速度4mm/sで引き上げることにより、潤滑層として塗布された部分と塗布されていない部分からなるディスクを作製した。塗布された部分の平均膜厚は、約30Åであった。上記のディスクを作製後すぐに、OSAに装着し、常温環境下にて一定時間毎に塗布部と非塗布部の境界付近における膜厚の変化を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、実施例1で製造した化合物1は、磁気ディスク表面で良好な流動性を示すことが確認された。このことから、ヘッドとの接触・摺動における耐久性の向上が期待できる。
【0058】
[紫外線処理によるボンド率測定]
実施例1で製造した化合物1およびFomblin ZTETRAOL(比較例1)を、それぞれデュポン社製「バートレルXF」に溶解した。この溶液の濃度はいずれも0.1重量%であった。直径3.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げることにより、磁気ディスクに潤滑剤を塗布した。平均膜厚は、約20Åであった。潤滑剤を塗布したディスクを、波長185nmと254nmの紫外光を発光する低圧水銀ランプを取り付けた紫外線照射装置の内部に10秒間挿入した。この際、オゾンの形成を防ぐため、紫外線照射装置の内部は予め窒素で置換した。紫外線照射後の潤滑剤の膜厚をFT−IRで計測した(この膜厚をeとする)。次に、このディスクをバートレルXFに1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げて、固着していない潤滑剤を洗い流した。ディスク上に残った潤滑剤の膜厚を、FT−IRで計測した(この膜厚をfとする)。ディスクへの固着性の強弱を、ボンド率にて評価した。ボンド率は、下記式から算出される。結果を表2に示す。
ボンド率(%)=100×f/e
【0059】
【表2】

【0060】
表2から明らかなように、実施例1で製造した化合物1は、紫外線照射により磁気ディスク表面に強く固着した潤滑層を形成できることが確認された。このことから、潤滑剤の飛散低減効果が期待できる。
【0061】
[潤滑膜の飛散(スピンオフ)試験]
実施例1で製造した化合物1およびFomblin ZTETRAOL(比較例1)を、それぞれデュポン社製「バートレルXF」に溶解した。この溶液の濃度はいずれも0.1重量%であった。直径3.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げることにより、磁気ディスクに潤滑剤を塗布した。平均膜厚は、約20Åであった。潤滑剤を塗布したディスクを、波長185nmと254nmの紫外光を発光する低圧水銀ランプを取り付けた紫外線照射装置の内部に10−20秒間挿入した。この際、オゾンの形成を防ぐため、紫外線照射装置の内部は予め窒素で置換した。紫外線照射後の潤滑剤のボンド率が約70%になるよう、照射時間を調整した。作製したディスクをスピンテスターに組み込み、高温高湿環境下、15,000rpmの速度で高速回転させた。14日後の潤滑剤の膜厚をFT−IRで計測した。潤滑剤の飛散の強弱を、飛散率にて評価した。飛散率は、下記式から算出される。結果を表3に示す。
飛散率(%)=[1−(14日後の膜厚/初期膜厚)]×100
【0062】
【表3】

【0063】
表3から明らかなように、実施例1で製造した化合物1は、優れた低飛散性を有する。
【0064】
[加熱に対する安定性試験]
実施例1で製造した化合物1およびFomblin ZTETRAOL(比較例1)の各2.5gを直径12cmのシャーレに広げ、150℃の恒温槽に、このシャーレを4日間入れて加熱した。加熱後の潤滑剤について13C−NMR分析を実施し、加熱前後における末端基の変化を観察した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
表4から明らかなように、実施例1で製造した化合物1は、加熱に対しても優れた安定性を示す。このことから、高温環境下での長期間の使用でも変性しにくい潤滑膜の提供が可能となる。
【0067】
実施例2
実施例1で製造した化合物1をデュポン社製「バートレルXF」に溶解させ、潤滑剤溶液(0.1重量%)を調製した。支持体、記録層および保護層からなる直径3.5インチの磁気ディスクを潤滑剤溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた後に、波長185nmと254nmの紫外光を発光する低圧水銀ランプを取り付けた紫外線照射装置の内部に10秒間挿入した。この際、オゾンの形成を防ぐため、紫外線照射装置の内部は予め窒素で置換した。ディスク上の潤滑剤の膜厚をFT−IRで計測した。平均膜厚は、20.7Åであった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の磁気ディスクの一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 支持体
2 記録層
3 保護層
4 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
A-O-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-O-A (1)
[式中、Aは一般式(2);
【化1】

(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を示し、pは1〜30を示し、qは0〜30を示す。]で表されるパーフルオロポリエーテル化合物。
【請求項2】
分子内に一般式(2);
【化2】

(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤。
【請求項3】
一般式(1);
A-O-CH-CFO-(CFCFO)-(CFO)-CF-CH-O-A (1)
[式中、Aは一般式(2);
【化3】

(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示し、nは1または2を示す。)で表される基を示し、pは1〜30を示し、qは0〜30を示す。]で表されるパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑剤。
【請求項4】
末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテルと、一般式(3);
【化4】

(式中、Rは水素、C1−10のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)で表されるエポキシ化合物とを反応させることを特徴とする、分子内に一般式(2);
【化5】

(式中、Rは前記と同様である。nは1または2を示す。)で表される基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の製造方法。
【請求項5】
支持体上に記録層および保護層をこの順に形成し、該保護層の表面に請求項2または3に記載の潤滑剤からなる潤滑層を形成した磁気ディスク。

【図1】
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【公開番号】特開2010−143855(P2010−143855A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322086(P2008−322086)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000146180)株式会社MORESCO (20)
【Fターム(参考)】