説明

ヒアルロン酸と成長因子を用いた骨成長促進方法

【課題】ヒアルロン酸及び成長因子を含む骨成長促進組成物の提供。
【解決手段】ヒアルロン酸及び成長因子を含む骨成長促進組成物を提供する。該組成物は、骨成長の促進にとって十分な時間にわたって、所望の骨成長の関節内部位において残存するために十分な粘性及び生分解性を有するものである。ヒアルロン酸が0.1〜4重量%の組成範囲で使用されることが好ましく、且つ、好ましい成長因子は、約10-6〜100mg/mlの濃度範囲で存在するbFGFである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、1996年3月5日に出願された米国特許出願第08/611690号の一部継続出願である、1997年3月5日に出願された米国特許出願第08/811971号の一部継続出願である。本明細書には、両出願の全体が参考文献として組み込まれている。
【0002】
発明の背景
ヒアルロン酸は、N−アセチルグルコサミンとD−グルクロン酸とがβ1−4結合で結合した単糖単位と、β1−3グリコシド結合で結合した二糖単位を交互に含む、天然に生ずる多糖である。ヒアルロン酸は、通常、ナトリウム塩として生じ、約50000〜8×10の範囲の分子量を有する。
【0003】
発明の概要
本発明は、ヒアルロン酸及び成長因子を含む骨成長促進組成物を提供する。該組成物は、骨成長の促進にとって十分な時間にわたって所望の骨成長部位において残存するために十分な粘性及び生分解性を有するものである。
【0004】
ヒアルロン酸及び成長因子を含む組成物は、要求される粘性及び生分解性を有するものとして提供される。
【0005】
本明細書で用いられる用語「ヒアルロン酸(HAと略)」は、ヒアルロン酸とその塩(例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の塩)を意味する。
【0006】
「成長因子」とは、骨、靱帯、軟骨、又は、骨若しくは関節に関連したその他の組織の成長を誘発又は誘導する役割を果たすことが見出された因子(タンパク質であろうとなかろうと)を意味するものである。
【0007】
具体的には、これらの成長因子として、bFGF、aFGF、EGF(表皮性成長因子)、PDGF(血小板由来成長因子)、IGF(インシュリン様成長因子)、TGF−βのI〜IIIが挙げられ、TGF−βスーパーファミリー(BMP−1〜12、GDF1〜12、dpp、60A、BIP、OF)が含まれる。
【0008】
好適な実施形態の説明
以下、組成物及びそれらの使用方法についての工程を詳しく説明する。
【0009】
HAは、500000以上(一般には10〜10の範囲)の分子量を有し架橋していないことが好ましい。骨成長促進組成物は、一般に、架橋されていないHAを水溶液中に0.1〜4重量%まで含む。該水溶液には、その他の液状賦形剤(例えば、緩衝塩、糖、抗酸化剤、並びに成長因子の生物活性及び組成物の適当なpHを維持する防腐剤)も含まれる。架橋されていないHAを約0.1〜2重量%含む組成物であることが好ましい。溶液の一般的なpHは、4〜9の範囲であり、約6.0±1.0であることが好ましく、約5.0であることが最も好ましい。
【0010】
成長因子は、一般に、約10−6〜100mg/mlの濃度範囲で溶液中に存在するが、特にbFGFの場合には、約0.1〜20mg/mlであることが好ましい。濃度は、特定の骨部位及び適用、並びに注入容量及び成長因子の特異的活性に依存する。関節内部位であることが好ましい。
【0011】
成長促進に使われる溶液は、該溶液が注射器又はカテーテルを通して注入できるような粘性であるが、骨促進効果が達成される前に体液によって早まって希釈されない粘性を有していることが重要である。組成物の粘性は、10〜10cPの範囲内であることが好ましく、bFGF含有組成物の場合には、約75000cPであることが好ましい。
【0012】
また、組成物は、骨成長促進活性をもたらすように所望の骨成長部位に留まるほどに十分な生分解性を有していることが重要である。
【0013】
通常、組成物は、約3日〜約30日(一般的に、3日〜約14日)の期間にわたって所望の骨成長部位に残存しなければならない。組成物の分散が早すぎると、所望の骨成長促進効果が起こらないか、或いは形成された骨が所望の強度を有しない。
【0014】
組成物が過度の期間にわたって所望の骨成長部位に残存すると、その骨部位での組成物の存在により、骨の自然的発達が抑制される可能性があり、時には、骨成長が全然起こらない結果となる。
【0015】
一般に、組成物は、HA及び成長因子が所望の濃度で溶液中に残存し、且つ、該溶液が適切な粘性及び生分解性を呈するように、適量の賦形剤(例えば、クエン酸ナトリウム、EDTA及びショ糖)中でHA及び成長因子を混合することによって溶液として形成される。この溶液は、いかなる便法によっても所望の骨成長部位に適用され得るが、一般的には、注射器又はカテーテルを通しての導入による。骨の接合がある関節内部位への投与が好ましい。
【0016】
本発明の骨成長組成物の投与は、傷の治癒を速めるため、外傷に続いて起こる組織の更なる損傷を防ぐため、自然の治癒プロセスに障害を起こす治療を避けるために、且つ治癒にとって最適の物理的及び生物的条件を作るために望まれる。所望の骨成長部位には、脛骨/腓骨の骨折、大腿骨/上腕骨の骨折、前腕骨折、コーリス骨折(後部に位置を変えられた橈骨末端の骨折)、脛痛症及び足外傷に伴う変種骨折を含む疲労骨折、脊椎骨の圧縮破壊、肋骨骨折、及び鎖骨骨折等がある。また、所望の骨成長部位には、骨粗鬆症、骨軟化症、上皮小体亢進症、腎性骨形成異常症、並びに原発性及び転移性の骨ガンに伴う病理学的骨欠陥も含まれる。
【0017】
本発明は、以下の実施例においてより詳細に説明される。該実施例は、例示目的のために提供されており、請求項に記載の本発明を制限するように意図されたものではない。
【0018】
実施例1
ヒアルロン酸ナトリウム(Genzyme 社、MW 2×10、滅菌、1%溶液の粘性は6500cP)、bFGF(Scios-Nova 社、9%ショ糖、20mMクエン酸ナトリウム、及び1mMEDTA溶液中に4.3mg/ml(pH5))を混合した。bFGF及び他の賦形剤(クエン酸ナトリウム、水等)の滅菌ろ過された溶液と適量の固体の滅菌HAとを混合することによって製剤を形成した。粒子の大きな凝集形成を防ぐために、注射器への出入りを繰り返すことによってHAを素早く分散させた。無菌操作により製剤を調製し、予充填された、21G針を備える1mlプラスチック注射器で、アセプトマジン(acepromazine)、ジラジン(xylazine)及びケタミンで麻酔をかけた雄のスプリーグドーリー・ラット(8〜9週歳、160〜180グラム)内へ投与した。矢状及びラムダ縫合の交差場所を見つけるために、首の後ろの皮膚を5−10mm側面から切開した。21G針を用いて、骨膜と頭頂骨との間に、試験製剤を50マイクロリットル注入した。処理から14日後に動物を安楽死させた。
【0019】
組織学的分析のため、中性に緩衝された10%ホルマリン溶液中に組織を固定した。ギ酸(RapidBone Decal 社)中で、少なくとも2時間、一定速度で穏やかに撹拌することにより組織を脱石灰した。サンプルを脱水し、パラフィンで湿潤させた。その後、横断面平面に試料を固定し5μmに切断した。組織学的分析のため、ヘマトキシリン−エオジンで断片を染色した。表1に示すように、0〜4のスケールで新らしい骨の形成をスコアリングした。
【0020】
【表1】

【0021】
Noda等(Endocrinology, 124:2991-4, 1989)の方法と類似する方法により頭頂骨の全厚を測定した。矢状縫合の2〜3mm横(矢状縫合と断片端の間のおよそ中間点)において、各々の断片写真を撮った。骨全体の骨厚を、写真の左側、中央、右側で3測定して全骨厚を決定するためにスケール化した。密度の高い皮質骨と新しい織骨の両方を測定に含めた。
【0022】
全グループにおいて、各々の処理に対する反応は、同一処理グループの動物間で一貫していた。定性的に、全てのbFGFゲル製剤で処理された動物グループが新しい骨形成を示したが、偽薬処理された動物及び成長コントロールの動物は新しい骨形成を最小限に示すか又は示さない(表2)。本研究で試されたbFGF/HA製剤の間にはほんのわずかな差異があるということが明らかである。しかし、用量反応効果があることは明らかであった。(図1A、図1B)
【0023】
【表2】

【0024】
表3は、骨膜下注入により異なる製剤を摂取した後のラット頭蓋冠の全骨厚を示す。bFGF及びHAを含む全製剤が、新しい骨形成を示した。表3の最初の2つの記載項目は、重複測定の実験を表す。2%HAゲル中bFGF100μgを摂取した動物の重複測定グループは、第一の研究では0.49±0.10mmの頭頂骨厚を有し、第二の研究では0.59±0.12mmの頭頂骨厚を有し、違いは17%であった。しかし、両グループの全骨厚は、定性的にも定量的にも有意にコントロールとは異なった。100μgのbFGF及びHAを含む全製剤が、処理を受けていない動物に比べて少なくとも61%の新しい骨形成の増加をもたらした。
【0025】
図1A及び図1Bは、bFGF及びHA濃度の全骨厚に及ぼす効果を示す。bFGFの用量が10μgから100μgへ増加すると、全骨厚は0.45mmから0.54mmへと20%増加する。HA濃度が増加するにつれての全骨形成の増加は、骨形成の最大増加が0.5%HA近傍で観察されるまで見られる。0.5%用量を超えてHA濃度を増加させても、本モデルにおいてbFGFによって誘発される新しい骨形成が更に増加することにはならない(図1B)。
【0026】
【表3】

【0027】
このように、HAゲル中bFGF100μgの単一の骨膜下注射は、コントロールに比べて骨膜内骨形成に対し、かなりの定性的及び定量的効果を示した。投与から14日後には、HAゲル中bFGF100μgで処理された動物の注入部位では111%に及ぶ新しい骨が形成される。偽薬及びコントロールグループの全ては、注入から14日後には骨厚に18%未満の増加があった。bFGF用量が10μgから100μgへ増加すると、全骨厚は0.45mmから0.54mmへと20%増加する。0.5%用量を超えてHA濃度を増加させても、本モデルにおいてbFGFによって誘発される新しい骨形成が更に増加することにはならない。
【0028】
実施例2
実施例1で説明した試験を8つの異なる製剤を使って実行した。7つの他の組成物との比較として、ヒアルロン酸と組み合わせてbFGFを使った。この7つの組成物においては、bFGFが他のキャリアと使われるか、或いはキャリアそれ自体が偽薬として使われた。以下に結果を示し、図2及び表4に要約する。
【0029】
【表4】

【0030】
実施例3
ウサギの骨折部位に投与するために、実施例1の通り、ヒアルロン酸ナトリウム(2%)とbFGF(4mg/ml)との製剤を調製した。また、4mg/mlのbFGF、6mg/mlのウサギフィブリノーゲン、0.2mg/mlのアプロチニン、及びpH及び安定性を維持するための他の賦形剤を含む製剤を調製した。このフィブリノーゲン製剤は、以前に刊行物に掲載された組成物で骨折回復に使われたものと類似する。骨折をモデル化するために、ニュージランドホワイト種ウサギにおいて、腓骨の骨幹中央に1mmの切断を外科的に作った。この実験的方法は、ウサギの骨折における治癒を試験するために以前に利用されたものである。50μlのHA/bFGF製剤、50μlのフィブリノーゲン/bFGF製剤で動物を処理するか、又は残りの動物は未処理であった。
【0031】
処理から23日後、処理グループ当たり10個の治癒された腓骨の機械的強度を、4点曲げ技術により測定した。未処理、HA/bFGF処理、及びフィブリノーゲン/bFGF処理された腓骨についての破損荷重を図3に示す。フィブリン/bFGFで処理された腓骨が、未処理コントロールに比べて30%強かったのに対し、HA/bFGF処理された腓骨は、未処理コントロールに比べて53%強かった。図4は、3つの処理グループ全てについての破損エネルギーを示す。この測定では、フィブリン/bFGFで処理された腓骨が、未処理コントロールに比べて3%弱かったのに対し、HA/bFGF処理処理された腓骨は、未処理コントロールに比べて43%強かった。
【0032】
さらに、処理から30日後、10個の未処理腓骨と10個のHA/bFGF処理腓骨の機械的強度を測定した。図3により、HA/bFGF処理された動物における破損荷重は、コントロールに比べて36%高く、この違いは統計学的に有意である(p=0.02)ことが示される。図4により、HA/bFGF処理された動物における破損エネルギーは、コントロールに比べて79%高く、この違いは統計学的に有意である(p=0.01)ことが示唆される。また、図3及び図4は、HA/bFGF処理された腓骨は、未処理の腓骨に比べて、その強度を無傷骨の強度へより早くに回復することを示しており、これにより加速された骨の治癒が示唆される。
【0033】
1.HiroshiKawaguchi, et al., Stimulation of Fracture Repair by Recombinant Human BasicFibroblast Growth Factor in Normal and Streptozotocin-Diabetic Rats,Endocrinology, 135:774-781, 1994.
2.A.A.Pilla, et al., Non-invasive Low-intensity Pulsed Ultrasound Accelerates BoneHealing in the Rabbit, Journal of Orthopaedid Trauma, 4:246-253, 1990.
【0034】
実施例4
実施例1のHA/bFGF製剤、実施例3のフィブリン/bFGF製剤、及びショ糖/クエン酸緩衝水溶液製剤中のbFGFについての全骨形成を比較するために実施例1の方法を使った。50μlの各製剤中100μgのbFGFを、骨膜下注入により投与し、投与から7日及び14日後、動物を殺した。また、処理を受けない動物をコントロールとして使用した。
【0035】
各4グループでは、各処理に対する反応が動物間で非常に一貫していた。7日後、bFGF処理された全動物において、bFGFに反応して頭蓋冠上に形成された膜内骨が示される。コントロール動物では、骨形成が最小限に示されるか、或いは新しい骨形成は示されない。定性的には、HAゲル中のbFGFで処理された動物のグループには、他のいずれのbFGF製剤よりも、より新しい骨形成があった。14日後の試料では、bFGF/HAゲル処理動物中における骨形成量の違いは、より明らかである。bFGF処理動物の全てにおいて新しい骨形成があったが、bFGF/HAゲル処理された動物においては、他の処理グループに比べてより厚い骨塊が形成されたことが容易に明らかであった。
【0036】
骨厚測定の定量的結果を図5に示す。2%HAゲル中100μgのbFGFを投与された動物は、処理を受けていない動物(つまり、コントロール)に比べて、7日後に骨厚が95%厚かった。bFGF処理された他のグループでは、フィブリンゲル中のbFGF及びクエン酸バッファー水溶液中のbFGFで処理された骨形成の増加は、それぞれ86%及び55%であった。
【0037】
HAゲル中100μgのbFGFで処理された動物では、14日後に、111%の新しい骨が形成される(図5)。他のbFGF処理グループでは、フィブリンゲル中のbFGF及びクエン酸バッファー水溶液中のbFGFで処理されたラットにおける骨形成の増加は、それぞれほんの25%及び21%であった。
【0038】
実施例5
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)製剤中のヒアルロン酸分子量の膜内骨形成に対する効果を、ラット頭頂骨への骨膜下注入により試験した。
【0039】
材料と方法
760〜2300kDaの分子量を有するHA(Genzyme 社及び Lifecore Biomedical 社から)を使い製剤を調製した。bFGFは、9%ショ糖、20mMクエン酸ナトリウム、及びpHが5.0に調整されたEDTAの冷凍液(4.3mg/ml)として供給された。他の試薬(ショ糖、クエン酸ナトリウム、EDTA)は、Sigma社から購入された。
【0040】
bFGFの滅菌ろ過された溶液(2mg/ml)と適量のHA(20mg/ml)とを混合することによって製剤を形成した。溶液とキャリアは、最初は、コック栓で連結された別々の注射器中に入っていた。注射器への出入りを繰り返すことによって製剤を混合した。無菌操作により製剤を調製し、予充填された、21G針を備える1mlプラスチック注射器中に投与した。
【0041】
雄のスプリーグドーリー・ラット(8〜9週歳、160〜180g)を、アセプトマジン、ジラジン及びケタミンの混合物によって麻酔した。首の後ろの皮膚に側面から5−10mmの小さな切開を作った。矢状及びラムダ縫合の交差場所を見つけ、21G針を用いて、骨膜と頭頂骨との間の左側部位に、各製剤を50マイクロリットル注入した。処理から14日後にCO窒息により動物を安楽死させた。
【0042】
組織学的分析のため、中性に緩衝された10%ホルマリン溶液中に組織を固定した。ギ酸(RapidBone Decal 社)中で、少なくとも2時間、一定速度で穏やかに撹拌することにより組織を脱石灰した。サンプルを脱水し、パラフィンで湿潤させた。その後、横断面平面に試料を固定し5μmに切断した。組織学的分析のため、ヘマトキシリン−エオジンで断片を染色した。0〜4のスケールで新しい骨形成をスコアリングした。スコア0は、新しい織骨が無いことを示した。スコア1は、極微量又は斑状の織骨領域を示した。スコア2は、斑状の骨形成がより広い領域にあることを示した。スコア3は、薄く連続的な織骨(<最初の阿頭頂骨の50%)を示した。スコア4は、厚く連続的な織骨(>最初の阿頭頂骨の50%)を示した。
【0043】
骨厚測定
注入部位において、頭頂骨の全厚を測定した。矢状縫合の2〜3mm横(矢状縫合と断片端の間のおよそ中間点)において、各々の断片写真を撮った。骨全体の骨厚を、写真の左側、中央、右側で3測定して全骨厚を決定するためにスケール化した。密度の高い皮質骨と新しい織骨の両方を測定に含めた。
【0044】
結果
同一処理グループでは、各々の処理に対する反応が全グループにおいて動物間で一貫していた。定性的には、bFGFを用いて処理された全動物グループが新しい骨形成を示したが、HAのみのゲルで処理された動物及びコントロール動物は新しい骨形成を最小限に示すか又は示さない。組織学的には、bFGF処理された動物は、新しい織骨及び成熟した層状骨の存在を示した。注入部位では、新しい織骨の特徴づけられた層が、より成熟した下方に横たわる骨に対して表在的に形成された。時々、右側に織骨が存在するが、同じようには左側に存在しない。新しい織骨は、標準的反転ライン、骨髄空間(marrow spacing)、及び通常の染色特色を示す。これらのグループのうち、ほとんどの動物が骨形成スコア3を受けたが(28/30)、2匹は最大スコア4を受けた。織骨の上方には、脂肪及び繊維組織の領域が新しい織骨に近接してあり、正常な配列して見える。HA/bFGF製剤の抗原潜在性の示度である慢性炎症細胞の病巣はどこにも見当たらない。
【0045】
HAゲルで処理された動物は、新しい骨形成をほんのわずかに示すか、又は示さず、ほとんどの動物(26/30)が骨形成スコア0を受けた。30匹の動物のうち1匹が骨形成スコア3を有する一方、3匹が骨形成スコア1を有した。この新しい骨形成は、外科的処置の間に骨膜隆起があった結果だろう。組織のいかなる場所においても異常は観察されない。また、試験されたいずれのHAにおいても抗原潜在性は示されない。
【0046】
外科手術を受けていない動物及び処理を受けていない動物は、新しい骨形成を示さず、動物6匹の全てが骨形成スコア0を受けた。このグループは、骨膜隆起の結果として新しい骨形成がなかったことを除けば、HAゲルを受けたグループと非常に類似した。その試料は、正常な骨細胞が空隙に存在する成熟した骨から成り、骨髄空間が見られた。全ての断片において、骨組織に外面して細かい繊維組織がわずかに存在する。
【0047】
骨厚に関しては、FGF処理されたグループは、成長コントロールに比べて、68−100%の骨厚増加を有した。Lifecore 社から利用可能な最も大きな分子量のHAから形成されたゲル中のbFGFで処理された動物は、骨形成において最も大きな増加を有した(100%)。骨形成に対する分子量の効果はわずかにあった。HAの分子量が増加すると、形成された新しい骨の量も増加した。この骨形成における増加は、製剤の粘性の増加によるものであろう。粘性が増加すると、FGFに対する拡散バリアが大きくなり、より長い時間にわたってFGFをその部位に局所的に維持する。より長い滞在時間の結果、より多くの骨形成がされる。
【0048】
実施例6
本実施例は、HA+bFGFゲルの骨膜下注入に続く、ヒアルロン酸の局所的分布及び残存性について言及する。本研究では、骨膜の増殖、新しい骨形成、及び塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を含むHAゲルの骨膜下注入に続く、ヒアルロン酸の局所的分布及び残存性について試験した。組織評価により、3日後の骨膜厚及び10日後の骨厚を決定した。
【0049】
材料及び方法
材料
ヒアルロン酸ナトリウム(HA)は、 Lifecore Biomedical 社(チャスカ、ミネソタ州、1300kDa)から購入した。bFGFは、9%ショ糖、20mMクエン酸ナトリウム、及びpHが5に調整された1mMEDTAの冷凍液(4.3mg/ml)として Scios-Nova 社から供給された。製剤バッファー試薬(ショ糖、クエン酸ナトリウム、EDTA、BSA)は、Sigma 社から購入した。アジピン酸ジヒドラジド(AD)及び1−エチル−3[3−(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDC)は、Aldrich 社から購入した。スルホ−NHS−ビオチン(SNB)、2−(4'ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(HABA)、3, 3'ジアミノベンジジン四塩酸塩(DAB)金属強化基質キット、及びアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Av−HRP)結合体は、Pierce 社から購入した。トゥイーン20は、Baker 社から購入した。
【0050】
ビオチン化
2段階反応により、HA−ビオチン(HA−Bi)結合体を調製した。ヒドラジドHAを合成し、続いてHA−Biの調製は Pouyani 及び Prestwich (Bioconjugate Chem. 5:370-372(1994))の方法に従った。50mlの水にHAを200mg溶解させることにより、ヒドラジド−HAを調製した。このHA溶液にAD(3.5g)を加え、0.1HClでpHを4.75に調整した。この溶液にEDC(382g)を加え、反応を開始させた。pHを定期的にモニターし、0.1HClの添加により4.75に維持した。1NaOHでpHを7にして中性化することにより4時間後(この時点では、更なるpH増加は検出されなかった)に反応を止めた。生成物を72時間にわたって透析した(Specta/Pro, 6000〜800MWカットオフ)後、48時間にわたって凍結乾燥させた。
【0051】
1.5mlの0.1M NaHCO3 中に、ヒドラジド−HAを15mg溶解させることにより、HA−Bi結合体を調製した。SNB(50mg)を加えて反応を開始させた。磁石の撹拌棒を用いて、室温で20時間にわたって溶液を攪拌した。この溶液を72時間にわたって透析した後、48時間にわたって凍結乾燥させた。製造者プロトコール(Pierce 社)に従った置換アッセイにより、置換の度合いを決定した。簡潔に説明すると、900μlのアビジン−HABA試薬を1mlキュベットに入れた。500nmにおける吸光度を、100μlの1mg/mlHA−ビオチン溶液が加えられた、900μlのアビジン−HABA溶液の吸光度と比較した。置換度の平均は、ビオチンの1モルについて、繰り返し二糖単位30モルであった。
【0052】
製剤
表5に記載されたように、滅菌ろ過されたbFGF溶液を固体HAと混合することにより調製した。コック栓で連結された2つの注射器の前後動作を反復することにより製剤を混合した。無菌操作により製剤を調製し、予充填された、21G針を備える1mlプラスチック注射器中に投与した。
【0053】
【表5】

【0054】
動物モデル
雄のスプリーグドーリー・ラット(6〜7週歳、160〜180g、n=5/グループ)を、アセプトマジン、ジラジン及びケタミンの混合物によって麻酔した。首の後ろの皮膚に側面から5−10mmの小さな切開を作った。矢状及びラムダ縫合の交差場所を見つけ、21G針を用いて、骨膜と頭頂骨との間の左側部位に、各製剤を50マイクロリットル注入した。処理から14日後にCO窒息により動物を安楽死させた。
【0055】
組織学
組織学的評価のため、10%の中性に緩衝されたホルマリン溶液中で組織を固定した後、13〜15%のEDTA溶液中で、一定速度で穏やかに撹拌することにより組織を脱石灰した。サンプルを脱水し、パラフィンで湿潤させた。その後、横断面平面に試料を固定し4μmに切断した。各試料につき2つの断片を調製し、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)で染色した。又は、以下の方法に従ってBi:Av−HRP組織化学を用いてHAについて染色をした。ブロッカー溶液(1%BSA/0.05%トゥイーンのPBS)中で30分間にわたって組織断片をインキュベートした後、検出用の結合体溶液(1%BSA/0.05%トゥイーンのPBS中に1μg/mlアビジンーHRP)中で60分間にわたってインキュベートした。その後、これらの組織断片を5分間にわたって洗浄溶液(0.05%トゥイーンのPBS)に入れた。PBS/トゥイーン中での洗浄を、新しい溶液を使って5回繰り返した。HA−Bi:Av−HRP複合体を染色するために、金属強化されたDABキットを利用した。DAB基質を適用してから5分後に水中で断片をリンスした。HA−Bi:Av−HRP複合体の存在下においては、黒い析出物が形成される。最終的に、細胞の詳細についてのために、ヘマトキシリンでこれらの断片を対比染色した。
【0056】
骨膜及び骨厚測定
注入部位において、骨膜及び頭頂骨の全厚を測定した。矢状縫合の2〜3mm横(矢状縫合と断片端の間のおよそ中間点)において、各組織断片の写真を撮った。骨全体の骨厚を、写真の左側、中央、右側で3測定して骨厚又は骨膜の全厚を決定するためにスケール化した。正常骨膜と染色の特徴及び細胞形態が似ている組織を、骨膜厚に含めた。密度の高い皮質骨と新しい織骨の両方を骨厚測定に含めた。
【0057】
結果
HAゲル中のbFGFで処理された動物は、3日目に骨膜厚の増加を示し、10日目にかなりの織骨形成を示した。bFGFで未処理の動物では、骨膜厚の増加及び骨形成は限られていた。厚くなった骨膜に近接する組織においては3日目に、及び、新たに形成された骨に近接する組織においては10日目に、HA−Biが検出された。
【0058】
HA−Biの投与3日目
注入部位では、骨膜の上方に明らかなHAの塊が存在していた。外科的外傷により層状骨から隆起した骨膜の一部があった。HAについて染色された領域内には、繊維組織及び非特異的細胞様浸入物の局在的な領域があった。該領域では、リンパ球及び退化している細胞が明らかだった。取り巻きの組織は、細かな繊維組織から成っていた。
【0059】
HA−Biの投与10日目
HA−Biで処理された動物は、繊維組織上方の肉芽組織に似ている非特異的繊維組織領域を有する正常な層状の骨を示した。この領域には、リンパ球、微細な血管、脂肪細胞及び非染色物質の幾つかの断片が含まれていた。褐色様黒色のペルオキシダーゼ染色は、頭蓋冠の左側に表在する密度の高い繊維組織内にあった。HAは、繊維組織内に非特異的に分散していた。
【0060】
HA−Bi+bFGFの投与3日目
注入部位では、先在する層状骨の上方に横たわっている骨膜層に肥厚があった。定量的には、HA−Bi+bFGFで処理された動物の骨膜は、HA−Biゲルのみで処理された動物の骨膜よりも403%も厚かった。血管化され、過剰増殖した多くの繊維組織が厚くなった骨膜の上方に存在した。この繊維組織内には、脂肪細胞が存在し、多形核白血球、組織球、及びプラズマ細胞を含む非特異的な炎症細胞浸入物が存在した。残留性HAは、縫合中央線にわたって延在し且つカプセル化を受けているように見えた。これらのサンプルにより、褐色様の黒色染色物質(つまり、HA)は、主に、カプセル化された組織の領域内に集中していることが示された。この物質の多くは、繊維状ネットワーク内に非特異的に保持されているように見え、この物質の幾つかは、局在性組織球の細胞形質内に非特異的に蓄積されているように見えた。
【0061】
HA−Bi+bFGFの投与10日目
注入部位では、先在する頭蓋冠の層状骨が、構造及び染色性において正常な、成熟した織骨の厚い層に覆われていることが示された。全骨厚は、HA−Bi+bFGFで処理された動物では、HA−Biゲルを摂取された動物に比べて70%厚かった。この新しい骨は、通常、縫合中央線を超えて頭蓋冠の右側部上に延在した。新たに形成された織骨を囲んでいる繊維組織増殖の表在層において、HAについてのDAB染色が見られた。ペルオキシダーゼ染色により、通常、新たに形成された骨に隣接してHAが存在することが示唆された。織骨の上方には、繊維骨膜層が存在した。この層に表在して、血管化され且つ脂肪細胞を含む細かな繊維組織が広範領域にあった。繊維組織の薄い層で限定された良好に発達した該領域には、リンパ細胞、プラズマ細胞、及び組織球の幾つかが存在した。
【0062】
HA+bFGFの投与3日目及び10日目
定性的にも定量的にも、HAへのビオチン結合は、製剤への生物学的反応に対する影響を有しなかった(表6)。HA+bFGFで処理されたグループについての骨膜及び骨厚は、HA−Bi+bFGFで処理されたグループについてのものと統計学的に異ならなかった(p>0.05)が、HA−Bi処理されたコントロールとは有意に異なった(p<0.001)。組織学的には、ビオチン無しにHA+bFGFで処理された動物は、DAB基質による褐色様の黒色染色領域が無い点を除けば、HA−Bi+bFGF処理のものと類似した。これらの領域は、ビオチンが存在しないので染色されることが予期されていなかった。外因性のペルオキシダーゼ活性のため、少数の細胞が陽性に染色した。
【0063】
【表6】

【0064】
骨膜下注入によるHA+bFGFゲル投与は、骨膜及び活性骨形成の増殖にかなりの効果を及ぼした。投与から3日後には、骨膜の厚さはコントロールに比べて約5倍であった。また、投与から10日後には、HA/bFGF処理されたラットにおいては、頭頂骨厚は、コントロールに比べて70%多く増加した。本明細書で試験された製剤中のHAキャリアは、製剤物質を配置させることにより新しい骨の形成が起こることを導く。HAは、活性ある骨形成領域に見られる。HA+bFGFの注入に続いて、HAは、新しい骨形成部位に隣接するbFGFレザバーを供給する。
【0065】
方向付けされたbFGF放出を提供することに加えて、HAは、骨形成を促進させる環境を支援する生物学的な特徴を有する。HAは、FGFとの相乗効果を有している可能性がある。
【0066】
本発明についての先の開示及び記載は、例示的且つ説明的なものである。大きさ、形状、及び材料における種々の変更、並びに好適な実施の形態の詳細についての種々の変更が、本発明の趣旨を逸脱することなく可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1に記載された実験結果を表すグラフである。図1Aは、bFGF用量の関数として形成された骨厚を示す。図1Bは、ヒアルロン酸濃度の関数として骨厚形成を示す。
【図2】実施例2に記載された実験結果を表すグラフである。
【図3】実施例3に従い処理されてから23日及び30日後における、治癒しているウサギ腓骨に破損が起こる荷重を表すグラフである。
【図4】実施例3に従い処理されてから23日及び30日後における、治癒しているウサギ腓骨を破損させるエネルギー(単位はポンド)を表すグラフである。
【図5】実施例4に従い処理された後のラットにおける骨厚データを表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患を有する、負傷した又は異常な骨を治療するための組成物であって、
骨成長の速度及び規模を増大するために十分な、且つ、前記骨成長の速度及び規模の増大にとって十分な時間にわたって所望の骨成長の関節内部位において、適用後、残存するために十分な粘性及び生分解性を有する、成長因子とヒアルロン酸の混合物の有効量を含む、前記組成物。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸が架橋されていない、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、溶液中に0.1〜4重量%のヒアルロン酸を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記成長因子がbFGFを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記bFGFが、前記組成物1ml当たり約10-6〜100mgの範囲で、前記組成物中に存在する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
所望の骨成長の関節内部位において、疾患を有する、負傷した又は異常な骨を治療する方法であって、
骨成長の速度及び規模を増大するために十分な、且つ、前記骨成長の速度及び規模の増大にとって十分な時間にわたって前記部位において残存するために十分な粘性及び生分解性を有する、ヒアルロン酸と成長因子の混合物の有効量を含む組成物を、前記部位に適用するステップを含む、前記方法。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸が架橋されていない、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記組成物中の前記ヒアルロン酸が、前記組成物の約0.1〜4重量%を成す、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記成長因子がbFGFを含む、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記bFGFが、前記組成物中に約10-6〜100mg/mlの範囲で存在する、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−143949(P2009−143949A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30095(P2009−30095)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【分割の表示】特願2001−511940(P2001−511940)の分割
【原出願日】平成12年7月26日(2000.7.26)
【出願人】(599054950)デピュイ スパイン、インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】DEPUY SPINE,INC.
【Fターム(参考)】