説明

ヒアルロン酸合成阻害剤

【課題】 MU以外のクマリン系化合物の新規医薬用途としてのヒアルロン酸合成阻害剤を提供すること。
【解決手段】 下記の一般式で表されるクマリン系化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【化1】


(式中、R1とR2は同一または異なって水素またはアルキル基を示すが、少なくとも一つはアルキル基である。R3とR4とR5とR6は同一または異なって水素または水酸基を示すが、少なくとも一つは水酸基である。但し、R1が水素,R2がメチル基,R3が水素,R4が水素,R5が水酸基,R6が水素の場合を除く)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸合成阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の化学構造式で表されるクマリン系化合物の一つである4−メチルウンベリフェロン(4−Methylumbelliferone:MU)は、古くから利胆剤としての医薬用途が知られている他、最近では、ヒアルロン酸に対して合成阻害効果を有することが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
【化3】

【0004】
ヒアルロン酸は、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンの二糖単位の繰り返し構造からなる直鎖状の高分子多糖で、細胞外マトリックスの主要な構成成分の一つとして生体内に広く分布している。近年、このヒアルロン酸が、組織の構築材料としてばかりでなく、細胞の挙動に大きな影響を与えていることが知られてきた。その一例として挙げられるのが、癌細胞とヒアルロン酸との関係である。癌組織は、ヒアルロン酸リッチな環境を形成していることが知られており、癌細胞の増殖や浸潤とヒアルロン酸との間に関連性があることが示唆されている。事実、培養系においても、癌細胞と線維芽細胞を混合培養すると、線維芽細胞のヒアルロン酸合成が顕著に増加することが知られている。前述の通り、MUにはヒアルロン酸合成阻害効果があることが知られているが、MU以外のクマリン系化合物のヒアルロン酸合成に対する作用についてはこれまで報告された例がない。
【非特許文献1】Nakamura, T., Takagaki, K., Shibata, S., Tanaka, K., Higuchi, T., and Endo, M. (1995) Biochem. Biophys. Res. Commun., 208, 470-475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、MU以外のクマリン系化合物の新規医薬用途としてのヒアルロン酸合成阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果なしえた本発明のヒアルロン酸合成阻害剤は、請求項1記載の通り、下記の一般式で表されるクマリン系化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0007】
【化4】

【0008】
(式中、R1とR2は同一または異なって水素またはアルキル基を示すが、少なくとも一つはアルキル基である。R3とR4とR5とR6は同一または異なって水素または水酸基を示すが、少なくとも一つは水酸基である。但し、R1が水素,R2がメチル基,R3が水素,R4が水素,R5が水酸基,R6が水素の場合を除く)
また、請求項2記載のヒアルロン酸合成阻害剤は、請求項1記載のヒアルロン酸合成阻害剤において、クマリン系化合物がR3とR4とR5とR6の少なくとも二つが水酸基であることを特徴とする。
また、請求項3記載のヒアルロン酸合成阻害剤は、請求項2記載のヒアルロン酸合成阻害剤において、クマリン系化合物が5,7−ジヒドロキシ−4−アルキルクマリンまたは6,7−ジヒドロキシ−4−アルキルクマリンであることを特徴とする。
また、請求項4記載のヒアルロン酸合成阻害剤は、請求項3記載のヒアルロン酸合成阻害剤において、クマリン系化合物が5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンまたは6,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンであることを特徴とする。
また、本発明のヒアルロン酸合成阻害組成物は、請求項5記載の通り、下記の一般式で表されるクマリン系化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
【化5】

【0010】
(式中、R1とR2は同一または異なって水素またはアルキル基を示すが、少なくとも一つはアルキル基である。R3とR4とR5とR6は同一または異なって水素または水酸基を示すが、少なくとも一つは水酸基である。但し、R1が水素,R2がメチル基,R3が水素,R4が水素,R5が水酸基,R6が水素の場合を除く)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、MU以外のクマリン系化合物の新規医薬用途としてのヒアルロン酸合成阻害剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のヒアルロン酸合成阻害剤は、下記の一般式で表されるクマリン系化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするものである。本発明のヒアルロン酸合成阻害剤は、癌細胞のヒアルロン酸合成を阻害することで、癌細胞の増殖・浸潤・転移を阻害する効果を持つことから、癌の予防・治療に有用である。また、本発明のヒアルロン酸合成阻害剤は、ヒアルロン酸の過剰産生に起因する各種の線維化疾患、例えば、慢性肝炎をはじめとする、肝、肺、腎などの各種臓器における慢性炎症性疾患に伴う線維化、胸膜中皮腫などの予防・治療にも有用である。
【0013】
【化6】

【0014】
(式中、R1とR2は同一または異なって水素またはアルキル基を示すが、少なくとも一つはアルキル基である。R3とR4とR5とR6は同一または異なって水素または水酸基を示すが、少なくとも一つは水酸基である。但し、R1が水素,R2がメチル基,R3が水素,R4が水素,R5が水酸基,R6が水素の場合を除く)
【0015】
上記の一般式において、アルキル基は、好ましくは炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状のものである。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基などが例示される。
【0016】
上記の一般式で表されるクマリン系化合物の薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩などが例示される。
【0017】
上記の一般式で表されるクマリン系化合物のうち、R3とR4とR5とR6の少なくとも二つが水酸基であるクマリン系化合物は、MUに比較してヒアルロン酸合成阻害効果と水溶性に優れるため、本発明のヒアルロン酸合成阻害剤の有効成分として好適である。このような化合物の具体例としては、5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンに代表される5,7−ジヒドロキシ−4−アルキルクマリンや、6,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンに代表される6,7−ジヒドロキシ−4−アルキルクマリンなどが挙げられる。なお、上記の一般式で表されるクマリン系化合物は、例えば、Kawase et al.,in vivo 17:509−512(2003)に記載の方法に従って合成することができ、そのうちのいくつかは市販もされている。
【0018】
本発明のヒアルロン酸合成阻害剤は、経口投与または非経口投与(例えば、静脈注射、皮下投与、直腸投与など)することができる。投与に際してはそれぞれの投与方法に適した剤型に製剤化すればよい。製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、舌下錠、坐剤、軟膏、注射剤、乳剤、懸濁剤、シロップなどが挙げられ、これら製剤の調製は、無毒性の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、矯味剤、緩衝剤などの添加剤を使用して自体公知の方法にて行うことができる。無毒性の添加剤としては、例えば、でんぷん、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ペトロラタム、グリセリン、エタノール、シロップ、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、ポリビニルピロリドン、水などが挙げられる。なお、製剤中には、本発明の有用性を補強したり増強したりするために、他の薬剤を含有させてもよい。
【0019】
製剤中における有効成分の含有量は、その剤型に応じて異なるが、一般に0.1〜100重量%の濃度であることが望ましい。製剤の投与量は、投与対象者の性別や年齢や体重の他、症状の軽重、医師の診断などにより広範に調整することができるが、一般に1日当り0.01〜300mg/kgとすることができる。上記の投与量は、1日1回または数回に分けて投与すればよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0021】
実施例1:ヒト膵癌細胞のヒアルロン酸合成に対する阻害作用の評価
(実験方法)
1.培養細胞
10%ウシ胎仔血清(Biofluid,Australia)を含むRPMI−1640にて5%CO2−95%air中、37℃で培養したヒト膵癌細胞KP−1NLを用いた。
【0022】
2.評価サンプル
以下の化合物を評価サンプルとした。
・ 化合物1(比較例):クマリン
・ 化合物2(比較例):7−ヒドロキシクマリン
・ 化合物3(比較例):7−メトキシ−4−メチルクマリン
・ 化合物4(比較例):6,7−ジヒドロキシクマリン
・ 化合物5(実施例):6−ヒドロキシ−4−メチルクマリン
・ 化合物6(実施例):7−ヒドロキシ−3−メチルクマリン
・ 化合物7(実施例):7−ヒドロキシ−3,4−ジメチルクマリン
・ 化合物8(実施例):5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリン
・ 化合物9(実施例):6,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリン
・ 化合物10(参考例):4−メチルウンベリフェロン(MU)
なお、化合物1,2,10はWako純薬工業から購入した。化合物3,5,9は東京化成工業から購入した。化合物4はAlfa Aesarから購入した。化合物6と7はKawase et al.,in vivo 17:509−512(2003)に記載の方法に従って合成した。化合物8はSSXから購入した。
【0023】
3.培地中のヒアルロン酸の定量
10cm培養皿にKP−1NLを2.0×104個蒔き、24時間インキュベートした。24時間後、培地中にジメチルスルフォキシドに溶解させた評価サンプルをその濃度が1.0×10-2mMになるように添加した。72時間後に培地と細胞を回収し、ヒアルロン酸測定キット(生化学工業)を用いて培地に分泌された106細胞数あたりのヒアルロン酸を定量した。
【0024】
(実験結果)
結果を表1に示す(培地中のヒアルロン酸量はnが6の平均値)。
【0025】
【化7】

【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、化合物5〜9は、評価サンプルを添加しないコントロールに比較して癌細胞のヒアルロン酸合成を効果的に阻害した。中でも化合物8と9は、MUよりも優れた阻害作用を示し、また、MUよりも高い水溶性を有することから(別途の実験による)、本発明のヒアルロン酸合成阻害剤の有効成分として好適であることがわかった。なお、いずれの評価サンプルも、1.0×10-2mMの濃度で細胞の増殖活性に影響を与えなかった(別途の実験による)。
【0028】
実施例2:ヒト大腸癌細胞のヒアルロン酸合成に対する阻害作用の評価
ヒト膵癌細胞KP−1NLのかわりにヒト大腸癌細胞DLD−1を用いたこと以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す(培地中のヒアルロン酸量はnが6の平均値)。
【0029】
【化8】

【0030】
【表2】

【0031】
表2から明らかなように、ヒト大腸癌細胞DLD−1を用いた場合でも、ヒト膵癌細胞KP−1NLを用いた場合と同様の結果を得ることができた。
【0032】
製剤例1:錠剤
1錠当たり5mgの5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンを含む以下の成分組成からなる200mg錠剤を、各成分をよく混合してから打錠することで製造した。
5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリン 5mg
乳糖 137〃
でんぷん 45〃
カルボキシメチルセルロース 10〃
タルク 2〃
ステアリン酸マグネシウム 1〃
合計200mg/錠
【0033】
製剤例2:カプセル剤
1カプセル当たり20mgの6,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンを含む以下の成分組成からなる100mgカプセル剤を、各成分をよく混合してからカプセルに充填することで製造した。
6,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリン 20mg
乳糖 53〃
でんぷん 25〃
ステアリン酸マグネシウム 2〃
合計100mg/カプセル
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、MU以外のクマリン系化合物の新規医薬用途としてのヒアルロン酸合成阻害剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式で表されるクマリン系化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするヒアルロン酸合成阻害剤。
【化1】

(式中、R1とR2は同一または異なって水素またはアルキル基を示すが、少なくとも一つはアルキル基である。R3とR4とR5とR6は同一または異なって水素または水酸基を示すが、少なくとも一つは水酸基である。但し、R1が水素,R2がメチル基,R3が水素,R4が水素,R5が水酸基,R6が水素の場合を除く)
【請求項2】
クマリン系化合物がR3とR4とR5とR6の少なくとも二つが水酸基であることを特徴とする請求項1記載のヒアルロン酸合成阻害剤。
【請求項3】
クマリン系化合物が5,7−ジヒドロキシ−4−アルキルクマリンまたは6,7−ジヒドロキシ−4−アルキルクマリンであることを特徴とする請求項2記載のヒアルロン酸合成阻害剤。
【請求項4】
クマリン系化合物が5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンまたは6,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンであることを特徴とする請求項3記載のヒアルロン酸合成阻害剤。
【請求項5】
下記の一般式で表されるクマリン系化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸合成阻害組成物。
【化2】

(式中、R1とR2は同一または異なって水素またはアルキル基を示すが、少なくとも一つはアルキル基である。R3とR4とR5とR6は同一または異なって水素または水酸基を示すが、少なくとも一つは水酸基である。但し、R1が水素,R2がメチル基,R3が水素,R4が水素,R5が水酸基,R6が水素の場合を除く)

【公開番号】特開2007−63193(P2007−63193A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251980(P2005−251980)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】