説明

ヒアルロン酸産生増強剤

【課題】 本発明は、ヒアルロン酸増強剤を提供することを目的とする。また、本発明は、ヒアルロン酸増強剤作用を有する食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明者らは、N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖およびはキトサンオリゴ糖が生理作用に及ぼす効果に注目し、研究を重ねた結果、N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖がヒアルロン酸の産生を促進する作用を有することを見いだし、本発明に想到した。すなわち、本発明は、N-アセチルグルコサミンを含有することを特徴とする、ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。また、本発明は、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を含有することを特徴とする、ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸産生増強剤に関する。より詳細には、本発明は、体内におけるヒアルロン酸産生を促進させる、ヒアルロン酸増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸(GlcNAcβ1-4GlcAβ1-3)の二糖単位が連結した構造をしている。ヒアルロン酸は、皮膚および関節など、生体において種々の機能を担っていることが知られている。たとえば、ヒアルロン酸は、皮膚表皮において基底層から顆粒層まで広く分布しており、皮膚における水分の保持皮膚や潤いの維持など、生体において多くの機能を有している。また、ヒアルロン酸の量は、加齢と共に減少することが知られており、その結果として、しわおよびかさつきなどの皮膚の老化が生じると考えられている。
【0003】
また、ヒアルロン酸は、関節液にも含まれており、関節の円滑な動作を助けると共に、軟骨の機能維持に極めて重要な役割をしている。さらに、関節炎および慢性関節リウマチの患者では、関節液におけるヒアルロン酸の含量が低下することが知られている。
【0004】
上記のように、ヒアルロン酸は、皮膚における老化の改善や関節炎の防止といった有効な作用を有しているため、種々のヒアルロン酸の産生を促進する物質が探求されてきた。ヒアルロン酸は、高分子であるため、皮膚を透過しにくいことから、ヒアルロン酸自体を配合した組成物を皮膚などに塗布しても、皮膚に対する保湿効果の改善は見込めない。したがって、ヒアルロン酸による有益な効果を得るために、生体自身によるヒアルロン酸の産生を増強することができる物質の開発がなされている。
【0005】
たとえば、ヒアルロン酸の産生を促進させる物質として、種々の植物由来の物質が開示されている。特許文献1には、ヒアルロン酸の産生を促進させる物質として、アヤメ科クロッカス属サフラン(Crocus Sativus)から得られる抽出物および製油が開示されている。また、特許文献2には、マメ科シカクマメ属(Psophocarpus)に属する植物およびその抽出物が、ヒアルロン酸の産生を促進させることが開示されている。さらに、特許文献3には、トウダイグサ科アムラ(Phyllanthus emblicaおよびEmblica officienale)およびその抽出物が、ヒアルロン酸の産生を促進させることが開示されている。
【0006】
その他、特許文献4には、レチノールと大豆タンパク質のサーモリシン分解物とを併用することにより、細胞におけるヒアルロン酸の産生が顕著に促進されることが開示されている。
【0007】
一方、キチンは、エビおよびカニなどの甲殻類の外殻をはじめとして、昆虫、貝およびキノコにいたるまで、非常に多くの生物に含まれている天然の素材である。その構造は、主として、N-アセチル-D-グルコサミンが鎖状に数百から数千分子つながったアミノ多糖である。また、キトサンは、主として、キチンのアセチル基が除かれたD-グルコサミンの1,4-重合物であり、分子量は数千から数十万に及ぶ高分子である。また、キチンおよびキトサンを原料として、それぞれを分解することにより、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖が得られる。
【0008】
特許文献5には、N-アセチルグルコサミンを含有する皮膚保湿・柔軟化作用を有する食品組成物が記載されている。特許文献6には、N-アセチルグルコサミンとコラーゲン有効成分とする経口用皮膚潤い改善剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-206510号公報
【特許文献2】特開2010-24222号公報
【特許文献3】特許第4420358号公報
【特許文献4】特開2008-24704号公報
【特許文献5】特許3615397号公報
【特許文献6】特許4249853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の状況に鑑み、本発明は、ヒアルロン酸産生増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、キチンおよびキトサンの分解産物であるN-アセチルグルコサミン(NAG)、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖が生理作用に及ぼす効果に注目し、研究を重ねた結果、N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖がヒアルロン酸の産生を促進する作用を有することを見いだし、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明は、N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖および/またはキトサンオリゴ糖を含有することを特徴とする、ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、オリゴ糖が二糖〜六糖のオリゴ糖を60重量%以上含有するものであることを特徴とする、上記ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。
【0014】
また、本発明は、オリゴ糖が五糖以上のオリゴ糖を30%以上含有するものであることを特徴とする、上記ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、皮膚外用剤の形態である、上記ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、皮膚外用剤中のN-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖および/またはキトサンオリゴ糖の含有量が0.1〜10重量%である、上記ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。
【0017】
また、本発明は、キチンオリゴ糖がキチンを多価酸と塩酸を同時に使用して限定加水分解することにより製造したものである、上記ヒアルロン酸産生増強剤を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、人におけるヒアルロン酸の産生を増強および促進することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、皮膚における水分保持および潤いの維持に有用であり、皮膚の老化の予防のために有用である。また、本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、関節炎などのヒアルロン酸の産生を促進することにより治癒される疾患の治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】正常ヒト表皮角化細胞におけるNAG、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖のヒアルロン酸産生に対する効果を示す図。
【図2】正常ヒト表皮角化細胞におけるNAG、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖のヒアルロン酸合成遺伝子HASに対する効果を示す図。
【図3】ヒト皮膚再構築モデルにおけるNAG、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖のヒアルロン酸合成遺伝子HAS2に対する効果を示す図。
【図4】ヒト皮膚再構築モデルの顕微鏡写真。
【図5】ヒト皮膚再構築モデルにおけるNAGのヒアルロン酸産生に対する効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のヒアルロン酸産生増強剤について説明する。本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖および/またはキトサンオリゴ糖を含む。
【0022】
N-アセチルグルコサミンは、グルコースから誘導される単糖である。化学的には、グルコサミンと酢酸との間のアミドである。
【0023】
本発明に使用されるN-アセチルグルコサミンは、任意の手段によって製造することができる。たとえば、カニおよびエビなどの甲殻類の外殻に由来するN-アセチルグルコサミンを使用することができる。具体的には、カニやエビの外殻を、希塩酸等に浸漬して脱灰し、5%前後の水酸化ナトリウム溶液中で加熱して除タンパクを行って得られるキチンを原料とすることができる。N-アセチルグルコサミンは、このキチンを、濃塩酸などの酸で主鎖のグリコシド結合部分を主に分解する程度処理し、酸を希釈して除去、または中和したのち脱塩、脱色、精製などの後、濃縮して結晶化、または噴霧乾燥等によって得ることができるまた、D-グルコサミンの塩酸塩をアセチル化することなどにより、化学合成することもできる。
【0024】
キチンオリゴ糖は、N-アセチルグルコサミンが数個連なったオリゴ糖であり、キチンを酵素または酸などで分解して得られる。本発明に使用されるキチンオリゴ糖は、上記の通り、当該技術分野においてオリゴ糖として一般的な分子量を有するキチンオリゴ糖である。本発明において、オリゴ糖とは、単糖類同士がグリコシド結合によって結合した化合物であって、多糖類というほどは分子量が大きくない糖類のことであり、分子量としては300〜3000程度のものをいう。好ましくは、二糖〜六糖を60%以上含有するものが好ましい。また、五糖以上のオリゴ糖を30%以上含有するオリゴ糖が好ましい。
【0025】
本発明に使用されるキチンオリゴ糖は、カニやエビなどの甲殻類の外殻から精製したキチンを原料として製造することができる。キチンは、上記のとおりに製造することができる。このキチンを濃塩酸で部分的に加水分解し、酸を希釈して除去、または中和したのち脱塩、脱色、精製などの後、濃縮して噴霧乾燥等によってキチンオリゴ糖を得ることができる。たとえば、特許4588205号に記載のように、原料であるキチンの酸加水分解に際し、多価酸と塩酸を同時に使用して限定加水分解をして製造することができる。
【0026】
一例として、カニやエビなどの甲殻類の外殻から上記の手順で製造されたキチンオリゴ糖は原料や処理方法によるが、たとえばたとえば、以下のような組成を有する。単糖:35.9%、二糖:20.2%、三糖:16.8%、四糖:12.5%、五糖:8.5%、六糖:4.7%。
【0027】
キトサンオリゴ糖は、主にD-グルコサミンが数個連なったオリゴ糖類であり、キトサンを酸分解あるいは酵素分解させることによって得られる。本発明に使用されるキトサンオリゴ糖もキチンオリゴ糖と同様、分子量としては300〜3000程度のもの、好ましくは、二糖〜六糖を60%以上含有するものが好ましい。具体的には、たとえば、単糖:12.6%、二糖:14.6%、三糖:19.5%、四糖:8.6%、五糖:10.8%、六糖:13.5%、七糖〜十糖:20.4%のような組成のキトサンオリゴ糖を用いることができる。
【0028】
キトサンは、キチンをアルカリで処理してアセチル基を除去することにより、キチンから変換することができる。1回のアルカリ処理により、D-グルコサミン単位の割合は、70-95%程度までになる。本発明に使用されるキトサンオリゴ糖は、このようなキトサンを分解することによって得られたオリゴ糖であることができ、任意の脱アセチル化度のキトサンオリゴ糖であることができる。
【0029】
本発明に使用されるキトサンオリゴ糖は、カニやエビの殻から精製したキチンを原料として製造することができる。上記のようにして得られたキチンを、40%以上の水酸化ナトリウム溶液などの濃厚アルカリ溶液中で30分から数時間程度加熱して、水洗、乾燥により、キトサンを得ることができる。このキトサンをキチンオリゴ糖と同様に酸で加水分解するか、または希酢酸等で溶解し酵素で分解し、酸を希釈して除去、または中和したのち脱塩、脱色、精製などの後、濃縮して噴霧乾燥等により、キトサンオリゴ糖を得ることができる
【0030】
本発明に使用されるN-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖は、カニやエビなどの甲殻類の外殻のほか、軟体動物の殻皮の表面といった多くの無脊椎動物の体表を覆うクチクラや、キノコなど菌類の細胞壁に由来することもできる。
【0031】
本明細書において、ヒアルロン酸産生増強とは、ヒアルロン酸の産生量を増加することをいう。ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸(GlcNAcβ1-4GlcAβ1-3)の二糖単位が連結した構造を有する。また、ヒアルロン酸は、極めて高分子量であり、分子量は100万以上になるといわれている。また、ヒアルロン酸は、体内において、水分維持および軟骨の機能維持などの作用を有する。
【0032】
また、本明細書において、ヒアルロン酸産生増強は、ヒアルロン酸自体の産生の増強だけでなく、HAS-2、HAS-3aおよびHAS-3bなどのヒアルロン酸合成遺伝子の発現を増強することを含む。ヒアルロン酸合成遺伝子の発現が増強された結果、ヒアルロン酸の産生量は、増加されると考えられる。
【0033】
また、本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、上記の成分に加えて、任意の成分を含む組成物であることができる。たとえば、本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、医薬品および化粧品として使用される場合、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などと共に組成物として提供することができる。組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。また、結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。また、崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。また、滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。また、着色剤は、医薬品または化粧品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。また、組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。また、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などを添加してもよい。
【0034】
また、組成物は、任意の形態の製剤として提供することができる。たとえば、組成物は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、エリキシル剤等の液剤であることができる。
【0035】
また、組成物は、非経口投与のために、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの投与のための製剤であることができる。たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。特に、本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、ペースト状、ムース状、ジェル状、液状、乳液状、クリーム状、シート状およびエアロゾール状などの皮膚外用剤に適した任意の剤形として提供することができる。
【0036】
本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、上記の他に、食品として提供することができる。本発明において、食品は、飲料を含む食品全般を意味し、サプリメントなどの健康食品を含む一般食品の他、消費者庁の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品をも含む。たとえば、ヒアルロン酸産生増強作用を有する旨の表示を付した機能性食品が提供される。
【0037】
本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖および/またはキトサンオリゴ糖を、ヒアルロン酸産生増強作用を奏するのに必要な量で含有することができる。本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、任意の量でN-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を含むことができ、たとえば0.01〜100重量%の量で含むことができる。
【0038】
また、本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、医薬品および化粧品として患者に投与する場合、症状の程度、患者の年齢、体重および健康状態などの条件に応じて、限定されないが、成人であれば100mg〜30g/日、好ましくは500mg〜5g/日のN-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を、経口または非経口的に、1日1回または2〜4回以上に分割して、適宜の間隔をあけて投与することができる。また、本発明のヒアルロン酸産生増強剤は、医薬品のように強力な効果や副作用を有するものではないので、1日の摂取量に制限はない。
【0039】
外用剤の場合も、本発明のヒアルロン酸産生増強剤を0.01〜2重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%の濃度で含有する製剤を皮膚に適用して用いることができる。
【実施例】
【0040】
(材料および方法)
(正常ヒト皮膚表皮角化細胞を用いた評価試験)
N-アセチルグルコサミン(NAG)、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖は、いずれも日本水産株式会社製であり、NAGは、純度95重量%以上のもの、キチンオリゴ糖は、単糖:35.9%、二糖:20.2%、三糖:16.8%、四糖:12.5%、五糖:8.5%、六糖:4.7%の組成を有するもの、キトサンオリゴ糖は単糖:12.6%、二糖:14.6%、三糖:19.5%、四糖:8.6%、五糖:10.8%、六糖:13.5%、七糖〜十糖:20.4%の組成を有するものであった。正常ヒト皮膚表皮角化細胞と培地は、倉敷紡績株式会社製、正常ヒト皮膚表皮角化細胞(新生児由来)NHEKおよびHuMedia-KG2を用いた。
【0041】
正常ヒト皮膚表皮角化細胞をHumedia-KG2に懸濁して、24穴プレートに2×104/500μL/ウェルの濃度で播種した。細胞は、コンフルエントになるまで37℃で培養した。次いで、培地をヒト組換え型上皮成長因子(hEGF)およびウシ脳下垂体抽出液(BPE)の増殖因子を除いたHumedia-KG2に交換し、さらに24時間培養した。さらに、同培地に10 mMのN-アセチルグルコサミン(NAG)、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖を添加した培地に交換し、48時間培養した。培養後の細胞およびその培地を検体として評価試験を行った。
【0042】
培地中のヒアルロン酸の定量は、ヒアルロン酸測定キット(生化学バイオビジネス社製)を用いて行った。また、細胞におけるヒアルロン酸合成遺伝子発現の定量のために、培養後の細胞からcDNAの合成を行った。cDNAは、RNeasy mini kit(キアゲン社製)を用いて細胞から全RNAを抽出した後に、Primescript 1st strand cDNA synthesize kit(タカラバイオ)を用いて合成した。
【0043】
ヒアルロン酸合成遺伝子(Hyaluronan synthase-2、-3aおよび-3b:HAS-2、HAS-3a、HAS-3b)の定量は、SYBR premix Ex ROX plus(タカラバイオ社製)を用いた定量PCR法を用いて行った。PCRのためのプライマーは、フォワードプライマーとして、5'- TTGGCTACCAGTTTATCCAAACG-3'(HAS-2)、5'- ACAAGTACGACTCATGGATTTCC-3'(HAS-3a)および5'-CCCAGGGAAAGGTATGGCA-3'(HAS-3b)を使用し、リバースプライマーとして、5'- TTTTCGGTGCTCCAAAAAGGC -3'(HAS-2)、5'-CACTGCACACAGCCAAAGTAG-3'(HAS-3a)および5'- CATGCTTCCGTAGCTCTGACC-3'(HAS-3b)を使用した。また、定量PCR法には、内因性遺伝子として、β-アクチン遺伝子を使用した。PCRのためのプライマーはフォワードプライマーとして5'- CATGTACGTTGCTATCCAGGC-3'を使用し、リバースプライマーとして5'-CTCCTTAATGTCACGCACGAT-3'を使用した。PCR反応は、7500 リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社)を用い、95度、5秒に次いで60℃、34秒の反応を40回繰り返すことで行った。
【0044】
(ヒト皮膚再構築モデルを用いた評価試験)
ヒト皮膚再構築モデルは、東洋紡株式会社製のヒト皮膚再構築モデルTMLSE-003を使用した。細胞培地は、東洋紡株式会社から入手したテストスキン培地を用いた。
【0045】
培養トレイにおいて、テストスキンのトランスウェルを10 mMのN-アセチルグルコサミン(NAG)、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖を含む培地中で24時間培養した。培養後の組織およびその培地を検体として評価試験を行った。
【0046】
組織中のヒアルロン酸の染色は、以下の通りに行った。凍結切片を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温にて1時間固定した後にPBSで3回洗浄を行った。次いで、0.3% H2O2/メタノール中で4℃にて30分間処理し、内因性のペルオキシダーゼの不活化を行った後にPBSで3回洗浄した。その後、内因性のビオチンを内因性アビジンビオチンブロッキングキット(ニチレイ社製)を用いて、プロトコールに従ってブロッキングを行った。続いて、1% BSA/PBSで2μg/mlに希釈したビオチン標識ヒアルロン酸結合タンパク(生化学工業社製)を加え、室温で1時間放置し組織中ヒアルロン酸と結合させた後にPBSで3回洗浄した。1% BSA/PBSで200ng/mlに希釈したストレプトアビジン-HRP(カルビオケム)を添加し、室温で1時間放置し、PBSで3回洗浄した後にDAB (Zymed)で発色させ顕微鏡下で観察した。また、組織中のヒアルロン酸合成遺伝子HAS2の定量は、上記の正常ヒト皮膚表皮角化細胞の評価試験と同様の方法で行った。
【0047】
(結果)
図1は、培地に10 mMのNAG、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を添加してから48時間後の培地中のヒアルロン酸量を示すグラフである。正常ヒト皮膚表皮角化細胞では、NAG、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を添加した培地中のヒアルロン酸量は、それぞれ675±19 ng/mL、556±43 ng/mLおよび603±42 ng/mLであった。対照としての10 mMグルコース添加区の培地中のヒアルロン酸量は、178±16 ng/mLであった。正常ヒト皮膚表皮角化細胞では、NAG、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴを添加した場合、対照と比較して、ヒアルロン酸量が有意に増加することが示された(図1)。
【0048】
図2A〜Cは、培地に10 mMのNAG、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を添加してから48時間後の細胞におけるヒアルロン酸合成遺伝子の発現を示すグラフである。HAS2遺伝子の発現量(HAS2/β-アクチン)は、対照区と比べ、NAG区で1.69倍に有意に上昇した(図2A)。HAS3a遺伝子の発現量は、対照区と比べ、NAG区、キチンオリゴ糖区およびキトサンオリゴ糖区でそれぞれ3.11倍、3.86倍および1.72倍に有意に上昇した(図2B)。さらに、HAS3b遺伝子の発現量は、対照区と比べ、NAG区、キチンオリゴ糖区およびキトサンオリゴ糖区でそれぞれ3.53倍、4.11倍および2.12倍に有意に上昇した(図2C)。正常ヒト皮膚表皮角化細胞では、NAG、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴを添加した場合、対照と比較して、ヒアルロン酸合成遺伝子の発現量が有意に増加したことが示された。
【0049】
図3は、培地に10 mMのNAG、キチンオリゴ糖またはキトサンオリゴ糖を添加してから24時間後のヒト皮膚再構築モデルにおけるヒアルロン酸合成遺伝子の発現を示すグラフである。培養後のHAS2遺伝子の発現量(HAS2/β-アクチン)は、対照区と比べ、NAG区およびキチンオリゴ糖区でそれぞれ2.56倍および2.45倍に有意に上昇した(図3)。
【0050】
図5は、培地に10 mM NAGまたは対照としての10 mMグルコースを添加してから24時間後のヒト皮膚再構築モデルにおける組織中のヒアルロン酸の染色を示す顕微鏡写真である。図5は、図4に示した顕微鏡写真の四角で囲われた部分に対応している。写真において、矢印で示した部分は、染色されたヒアルロン酸を示している。対照区と比較して、10 mM NAG添加区の基底層においてヒアルロン酸の産生が増加することが明らかになった。
【0051】
上記より、NAG、キチンオリゴ糖およびキトサンオリゴ糖は、ヒアルロン酸産生の増強作用およびヒアルロン酸合成遺伝子発現の増強作用を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖および/またはキトサンオリゴ糖を含有することを特徴とする、ヒアルロン酸産生増強剤。
【請求項2】
オリゴ糖が二糖〜六糖のオリゴ糖を60重量%以上含有するものであることを特徴とする、請求項1に記載のヒアルロン酸産生増強剤。
【請求項3】
オリゴ糖が五糖以上のオリゴ糖を30%以上含有するものであることを特徴とする、請求項1のヒアルロン酸産生増強剤。
【請求項4】
皮膚外用剤の形態である、請求項1または2に記載のヒアルロン酸産生増強剤。
【請求項5】
皮膚外用剤中のN-アセチルグルコサミン、キチンオリゴ糖および/またはキトサンオリゴ糖の含有量が0.1〜10重量%である、請求項4に記載のヒアルロン酸産生増強剤。
【請求項6】
キチンオリゴ糖がキチンを多価酸と塩酸を同時に使用して限定加水分解することにより製造したものである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のヒアルロン酸産生増強剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98983(P2011−98983A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−29967(P2011−29967)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】