説明

ヒシの栽培装置

【課題】栽培用水の確保が困難な地域においても、品質の良好なヒシを、しかも年間での複数回の栽培によって多量に収穫できるヒシの栽培装置を提供する。
【解決手段】底部に栽培床2が設けられるとともに栽培液3が供給され該栽培液3中においてヒシの育成が行われる育成槽1と、栽培液3を貯留する栽培液槽11と、該栽培液槽11内の栽培液3を上記育成槽1との間で循環させる循環ポンプ12と、栽培液3の液温調整を行う調温部13と、育成槽1において育成中のヒシから上記栽培液3に溶出するアク成分を除去するアク取り部19を備える。係る構成置によれば、栽培用水の確保が困難な地域においても、品質の良好なヒシを、しかも年複数回の栽培によって多量に収穫することが可能なヒシの栽培装置を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、水草の一種のヒシ(菱)を、自然環境下ではなく、人工的に設備された栽培環境化において栽培するためのヒシの栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒシは水草の一種で、池、湖沼、クリーク等の比較的水深の浅いところ(約1.5m〜2.0m未満)に自生する一年草であり、小ヒシ、中ヒシ、オニヒシ(唐ヒシ)等の種類が知られている。このヒシの実は、でんぷん質で、しかも有機ゲルマニュムを含む数少ない植物であることから、古来、食用に、あるいは漢方生薬として珍重され、特に近年では、生食するほかに、焼酎、菓子、茶等に加工されて、ダイエット食品、がん抑制サプリメント品として製造・販売され、注目を集めている。
【0003】
ところで、元来、ヒシは、湖沼とかクリーク等に自生したものをその結実時期に実を採取して利用するのが一般的であったが、係る自生状態では生育状態の管理ができず収穫作業も難しく、しかも収穫量も少ない等の欠点があるところに、国の農業政策の一環としての減反政策が進められ、これに相俟って、減反した田圃でヒシを栽培する試みが九州の福岡県とか佐賀県を中心に行われている(非特許文献1参照)。なお、現在、ヒシの国内生産量は少なく、その大半が中国から輸入されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−306895号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】社団法人 農山漁村文化協会発行 「月刊 現代農業」 1999年12月号(196頁〜201頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このような田圃でのヒシ栽培は、自生状態のヒシを管理する場合に比して栽培状態の管理が容易で収量アップも期待できるものの、その収穫作業は田圃に入って腰を屈めて一つ一つヒシの株を持上げてヒシの生育状態を確認し、生育の良い物だけを選んで採取するため、作業労力が大きく、非常に疲れるものであった。
【0007】
また、ヒシにはアク(灰汁)があり、これが田圃の水に溶け出すと、ヒシの実が黒く変色し、特に表面色が青色の中ヒシとか赤色のオニヒシにあってはその商品価値が下がるため、収穫時期が近づくと、田圃の水を定期的に入れ替えるとか、少流量で水を継続的に流すなどのアク抜きあるいはアクの希釈作業が必要であり、このような水替えは上掲の福岡県とか佐賀県等の水郷と称されるような農業用水が豊富な地域ではさほど問題とはならないが、農業用水の乏しい地域においてはヒシ栽培における最大のネックとなっている。
【0008】
さらに、ヒシは通常一個の種実から凡そ4〜6つのロゼット株(浮き葉が平面状に広がったもの)が成長し、これら各ロゼット株のそれぞれにおいて4〜6個のヒシの実が採れるので、一個の種実からは16〜36個ぐらいヒシの実が収穫できることになるが、この栽培自体が田圃を利用するものの、自然環境下での栽培であるため、ヒシ栽培及び実の収穫は1年に一度とされ、その収量アップには限界があり、栽培者が増えない一因ともなっている。
【0009】
一方、このような問題の解決手段としては、上掲特許文献1に示されるような「水耕栽培」が考えられるが、ヒシには、一般的な野菜とは異なり、水草としての特有の生態があることから、一般的な野菜の水耕栽培についての技術・ノウハウをそのままヒシ栽培に転用することは困難である。
【0010】
そこで本願発明では、ヒシに特有の生態を考慮した上で、栽培用水の確保が困難な地域においても、品質の良好なヒシを、しかも年複数回の栽培によって多量に収穫できるようにしたヒシの栽培装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0012】
本願の第1の発明に係るヒシの栽培装置では、底部に栽培床2が設けられるとともに栽培液3が供給され該栽培液3中においてヒシの育成が行われる育成槽1と、上記栽培液3を貯留する栽培液槽11と、該栽培液槽11内の栽培液3を上記育成槽1との間で循環させる循環ポンプ12と、上記栽培液3の液温調整を行う調温部13と、上記育成槽1において育成中のヒシから上記栽培液3に溶出するアク成分を除去するアク取り部19とを備えて構成したことを特徴としている。
【0013】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係るヒシの栽培装置において、上記栽培床2を、土、砂、フェルト、不織布、繊維編成物の何れか、又はこれらを二種類以上組み合わせて構成したことを特徴としている。
【0014】
本願の第3の発明では、上記第1又は第2の発明に係るヒシの栽培装置において、上記育成槽1の上側に照明器4を配置し、該照明器4からの照明光を上記育成槽1内の栽培液3の表面側に照射することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
(a)本願の第1の発明に係るヒシの栽培装置によれば、以下のような効果が得られる。
【0016】
(a−1)ヒシは水草ではあるが浮き草ではなく、その根部分が栽培床2に定着していることが必要であるが、この場合、上述のように、栽培液3が供給される育成槽1の底部に栽培床2が設けられているので、ヒシの種実31を上記栽培床2に載置してこれを発芽させた場合、あるいは別の施設で種実31を発芽させた後、この発芽苗を上記栽培床2に移植した場合には、上記種実31あるいは上記発芽苗の胚軸32から延びる主根33、及び該胚軸32から延びる軸茎34、35に生えた土中根36が上記栽培床2に定着し、該主根33及び土中根36からの養分吸収によって軸茎34、35の成長が促進される。
【0017】
また、ヒシの軸茎34、35は、その根部分の上記栽培床2への定着部分から栽培液3の表面までの距離(液深さ)によってその成長長さが変化する生態をもつことから、例えば、上記根部分が上記栽培床2に定着されていないと上記軸茎34、35が必要以上に延びて該軸茎34、35の先端部分での浮き葉の成長及びこの浮き葉が集合して構成されるロゼット株40の成長が遅れ、延いては該ロゼット株40部分での結花及び結実が遅れることになるが、上述のようにヒシの根部分が上記栽培床2に定着していることで、上記軸茎34、35の成長長さが栽培液3の深さに対応した適正な長さとなり、それだけロゼット株40部分での結花及び結実が促進される。
【0018】
(a−2)上記栽培液3を貯留する栽培液槽11を備えるとともに、該栽培液槽11内の栽培液3を循環ポンプ12によって上記育成槽1との間で循環させるようにしていることから、栽培水の使用量を可及的に抑えた状態で且つヒシに養分を十分に吸収させることができ、その結果、利用可能な栽培水量が比較的少ない地域であってもヒシの栽培を行うことが容易となる。
【0019】
(a−3)上記育成槽1において育成されるヒシから上記栽培液3に溶出するアク成分を除去するアク取り部19を備えているので、アクによるヒシの実への悪影響を可及的に抑えて品質の良いヒシの実を得ることができる。
【0020】
(a−4)上記栽培液3の液温調整を行う調温部13を備えているので、例えば、自然環境下ではヒシの種実31が冬眠状態となる低液温(例えば、7℃以下)の冬季であっても、上記調温部13での液温調整によって液温を高めて種実31の冬眠状態を解除してこれを発芽させることができ、これによって年複数回の栽培及び収穫が可能となる。因みに、ヒシは夏植物であって20℃程度の液温が最適であることから、上記調温部13は低液温の昇温が主目的となる。
【0021】
(a−5) 以上の(a−1)〜(a−4)の相乗効果として、栽培用水の確保が困難な地域においても、品質の良好なヒシを、しかも年複数回の栽培によって多量に収穫することが可能なヒシの栽培装置を提供することができる。
【0022】
(b)本願の第2の発明に係るヒシの栽培装置によれば、上記(a)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記栽培床2を、土、砂、フェルト、不織布、繊維編成物の何れか、又はこれらを二種類以上組み合わせて構成しているので、上記栽培床2を構成する素材の選択が容易となり、その選択によってはヒシの栽培装置の低コスト化とか軽量化等が促進される。また、例えば、フェルト、不織布、繊維編成物を用いる場合には、例えば、土、砂を用いる場合に比して、それぞれの取り扱いが容易となり、延いてはヒシ栽培作業の簡易化も図れる。
【0023】
(c)本願の第3の発明に係るヒシの栽培装置によれば、上記(a)又は(b)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記育成槽1の上側に照明器4を配置し、該照明器4からの照明光を上記育成槽1内の栽培液3の表面側に照射するようにしていることから、この照射光によって栽培液3の表面に浮かんだロゼット株40の各浮き葉、及び栽培液3中にある軸茎34、35に生えた水中根37での光合成を促進させることができ、従って、太陽光を用いた栽培のみならず、上記照射光を用いた屋内施設での栽培、あるいはこれら両者の併用による栽培等、その栽培形態の選択の自由度が高くなる。また、ヒシは、野菜等と異なって、気孔は葉の表面側にあることから、この葉の表面側に照明光を照射することで、より効率的に光合成が行われ、ヒシの生育促進が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本願発明の実施の形態に係るヒシの栽培装置の全体システム図である。である。
【図2】図1に示した栽培槽の縦断面図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】ヒシの生育形態の説明図である。
【図5】育成槽の設置構成及び栽培液の循環構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本願発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0026】
A:ヒシの栽培装置Zの構成
図1には、本願発明の実施の形態に係るヒシの栽培装置Zのシステム構成を示しており、同図において符号1は上面が開口した矩形箱状の育成槽である。
【0027】
この育成槽1の大きさは、栽培対象のヒシの種類に応じて適宜設定されるものであって、例えば、実の大きいオニビシを栽培する場合には、一つの種実31から4〜6個のロゼット株40ができ、また一つのロゼット株40の平面上の直径寸法が約30cmであり、しかもヒシには隣り合うロゼット株40同士が密接しないと結花しにくい一方、ロゼット株40同士が余り詰み合うとロゼット株40の一部が液面上に迫り出して枯れる恐れがある。これらの点を勘案した結果、平面積が3000cm 〜 5000cm 程度の矩形又は円形の槽が好適と考えられる。尚、この実施形態では、栽培液3の循環性、育成槽1の占有面積の抑制等の観点から、長矩形の平面形状に設定しているが、係る設定に限定されないことは言うまでもない。また、上記育成槽1の素材には何等制約はない。
【0028】
さらに、この育成槽1の深さは、ヒシに特有の生態、即ち、ロゼット株40から出現した花茎は結花受粉の後、液面下に潜って次第に成長するという生態があり、ロゼット株40の下部を確実に液面下に沈めたまま維持できるだけの水深が必要であって、例えばオニビシを栽培する場合の水深は約25〜35cmとするのが最適である。従って、上記育成槽1の深さ寸法は、上記水深を得られるような寸法(例えば、30〜40cm)に設定される。
【0029】
上記育成槽1には、給液管21と排液管22及び越流管23が備えられている。上記給液管21には後述の循環ポンプ12によって栽培液槽11から栽培液3が供給される。上記排液管22には、止水弁18が設けられている。さらに、上記越流管23は、上記育成槽1内の栽培液3に深さを一定に保持するものであって、その管端面の高さは、上記水深を確保できるように設定され、さらに必要に応じてその高さ位置を変更調整できる(図示省略)ようになっている。なお、この越流管23の管端面の高さ調整は、ヒシの成長に合わせて栽培過程の何れにおいても最適な水深が得られるようにするためとか、栽培されるヒシの種類の変更に対処するためである。
【0030】
また、この実施形態では、後述のように、上記育成槽1を施設内に多段配置し照明光を用いた促成栽培を意図しており、そのため上記育成槽1の上方には照明器4が配置される。
【0031】
一方、上記育成槽1には、該育成槽1におけるヒシの栽培状態を管理するための栽培管理部10が付設される。この栽培管理部10は、所定容量をもつ栽培液槽11を備えるとともに、該栽培液槽11の一端側には循環ポンプ12と調温部13を備え且つ上記育成槽1の上記給液管21に接続される栽培液供給路25が接続され、また上記栽培液槽11の他端側にはアク取り部19と濃度センサ20を備え且つ上記育成槽1の排液管22及び越流管23に接続される栽培液帰還路26が接続されている。
【0032】
さらに、上記栽培液槽11には、給液弁16を備えた養液供給路27と、給水弁17を備えた給水路28が、それぞれ接続されている。また、上記育成槽1の側面には、温度センサ15が取付けられている。
【0033】
そして、上記循環ポンプ12と調温部13と給水弁17及び給水弁17は、次述のコントローラ14によってその作動が制御される。上記コントローラ14は、上記温度センサ15からの液温信号を受けて、上記育成槽1内の栽培液3の液温を予め設定した設定温度(この設定温度は、栽培工程に応じて設定される)となるように温度調整を行う。尚、この温度調整は、栽培液3の昇温作用が主となるもので、例えば、ヒータで構成されるが、必要に応じて降温作用を行うように構成することもできる。
【0034】
また、上記コントローラ14は、上記濃度センサ20からの濃度信号を受けて、上記栽培液槽11内に貯留される栽培液3の養分濃度を予め設定した設定濃度となるように、上記給液弁16及び給水弁17を適宜作動させて養液Qと水Wを上記栽培液槽11に補給する。
【0035】
一方、上記循環ポンプ12は、上記コントローラ14からの制御信号によって作動制御されるものであって、上記栽培液槽11内の栽培液3を常時上記育成槽1側へ送給して循環させるものであるが、係る作動形態に限定されるものではなく、例えば、所定期間毎に所定時間だけ運転されて上記栽培液槽11内の栽培液3を完結的に上記育成槽1側へ送給するように構成することもできる。
【0036】
また、上記アク取り部19は、脱着式の吸着材を内装し、この吸着材に上記育成槽1から帰還する栽培液3を通過させることで該栽培液3に含まれたアク成分を吸着除去して上記栽培液槽11へ戻すものであり、このアク取り部19のアク取り作用によって上記栽培液槽11内の栽培液3はアク成分が可及的に除去された清浄栽培液とされる。
【0037】
尚、この実施形態では上記アク取り部19を吸着材を用いて構成したが、本願発明はこれに限定されるものではなく、要は栽培液3に含まれたアク成分を分離して除去できるものであれば良く、例えば、上記吸着材の内装に代えて、イオン交換膜、浸透膜等を用いることもできるものである。
【0038】
B:栽培装置Zの設置
この実施形態では、施設内でのヒシ栽培を目的としており、そのために図2及び図3に示すように、棚部51を上下方向に所定間隔で多段に配置した支持棚50を用意し、この支持棚50の各棚部51のそれぞれの上面側に上記育成槽1を載置する。また、上記支持棚50の各棚部51の下面側にそれぞれ照明器4を下方に向けて設置し、該照明器4からの照明光がその下側に設置された上記育成槽1の上面側を照射するようにしている。
【0039】
また、この場合、図5に示すように、上下方向に多段配置された上記各育成槽1を上記栽培管理部10の栽培液供給路25及び栽培液帰還路26によって並列的に接続し、上記各育成槽1のそれぞれにおける栽培液3の供給形態の均一化を図っている。
【0040】
尚、図示していないが、上記各育成槽1相互間のヘッド差による栽培液3の供給量の不均一を解消する観点から、上記各育成槽1への上記栽培液供給路25から分岐して上記各育成槽1のそれぞれに至る分岐路に、例えば、オリフィス、流量調整正弁等の調量部材を設け、その開度を上段側の育成槽1から下段側の育成槽1に向かうに伴って絞るとか、上記各分岐路の口径を上段側の育成槽1から下段側の育成槽1に向かうに伴って小さくすることも有効である。
【0041】
また、上記照明器4の照度あるいは上記育成槽1との間隔等は、上記育成槽1において栽培されるヒシの浮き葉を十分に照射して光合成を促進させ得ると同時に、該浮き葉に熱害を及ぼすことがなく、且つ該育成槽1からのヒシの実の収穫作業に支障を及ぼさないように適宜設定される。なお、上記照明器4の照明具としては、蛍光灯とかLEDランプが適用可能であるが、特にLEDランプを用いた場合にはヒシに対する熱害という問題が殆ど無いため最適である。
【0042】
C:栽培装置Zを用いたヒシの栽培
(C−1) ヒシに特有の生態等
先ず、ヒシに特有の生態等について図4を参照して簡単に説明する。
【0043】
ヒシは、水底に沈んで冬眠した実(種実)が、水温の上昇(約7℃以上)によって活性化されて発芽する。そして、図4に示すように、種実31から延びた胚軸32の先端から主根33と軸茎34がそれぞれ枝分かれする。
【0044】
上記主根33には、側根といわれるヒゲ状の土中根36が多数生え、この土中根36が土中に潜ってここに根を張ることで、水底に固定されるとともに土中から養分を取り込むことができ、これによって上記軸茎34の安定した成長が促進される。このように上記主根33で水底に固定される点が、ヒシは水草ではあるが浮き草ではない、といわれる所以である。
【0045】
一方、上記軸茎34は、所定間隔で多数の節を形成しながら成長する茎であって、上記胚軸32に近い節部には、土中根36とシダ状の形体で且つ光合成機能を有する水中根37が生えている。この軸茎34の土中根36も水底に潜って成長する。
【0046】
また、上記軸茎34は、上記胚軸32から遠くの節になるにつれて土中根36が短くなり、あるいは次第に消滅し、これに代わって水中根37が大いに繁茂した状態となり、次第に水面側に向かって延びていく。さらに、上記軸茎34の成長に伴って、いくつかの節から新たな軸茎35が分岐して成長し、これも次第に水面側に向かって延びていく。
【0047】
このように水面側に延びた軸茎34、35の先端部分では、次第に間隔が狭くなった各節から葉柄が成長し、この葉柄の先に浮葉41が形成されこれが次第に平面状に拡大成長する。これら多数の浮葉41が葉柄の先にロゼット状(葉をある点の回りに順次平に並べた形体)に展開してロゼット株40を構成する。
【0048】
そして、このロゼット株40においては、順次花柄が成長しその先にヒシの花が開花する。この花は一日花で、開花したあと自家受粉し、受粉すると花柄が次第に水中側に曲がって水没し、水中にて結実しこれが成長してヒシの実となる。このヒシの実は、成長して熟すると採取され、食用に、あるいは薬用に供される。なお、採取されなかったヒシの実は、自然に花柄から離脱して落下し、水底において冬眠する。
【0049】
(C−2) 栽培方法等
(a) 栽培床2の設置
図2に示すように、上記支持棚50の各棚部51に載置された各育成槽1の底部に上記栽培床2を設ける。この場合、上記栽培床2を土又は砂あるいはこれらを混合したもので構成するときは、この土等を上記育成槽1の底部に5cm〜10cmの厚さに敷詰める。また、上記栽培床2をフェルト、不織布、繊維編成物又はこれらを組み合わせて構成するときにも、これらフェルト、不織布、繊維編成物等を上記育成槽1の底部に5cm〜10cmの厚さに敷詰める。
【0050】
なお、この実施形態においては、上述のように、上記育成槽1の底部の全域に略均一厚さで上記栽培床2を敷詰めるように構成しているが、本願発明は係る構成に限定されるものではなく、上記育成槽1の底部の一部領域のみに上記栽培床2を設けることもできる。この場合、上記「一部領域」とは、発芽した種実31の胚軸32の先端から延びる上記主根33と軸茎34の各節から発生した土中根36、及び該軸茎34からさらに分岐して延びる軸茎35の各節から発生した土中根36を定着させるに必要な大きさの領域である。
【0051】
また、上記育成槽1を施設内に設置するのではなく、例えば、干上げた田圃に設置するような場合には、田圃の土をそのまま上記育成槽1内に投入してこれによって上記栽培床2を構成することもでき、しかも一作毎に、あるいは複数作毎に土を入れ替えることも容易である。
【0052】
(b) 播種又は苗の定植
上記栽培床2が設けられた上記育成槽1内に、上記栽培液槽11内の栽培液3を導入し、該栽培床2を上記栽培液3中に浸漬させる。この状態で、保管しておいた種実31を上記栽培床2上に載置し(播種)、又は上記種実31を予め発芽させた苗を上記栽培床2上に定植する。なお、上記苗は、例えば、少なくとも7℃以上の温度に保持された別途装置の栽培液3内に上記種実31を浸漬することで行われる。
【0053】
また、この播種又は苗の定植時点では、上記育成槽1内の栽培液3の深さを、種実31又は苗を水没保持できる程度に浅くして、該栽培液3の温度保持作用を高めればよい。
【0054】
(c) ヒシの育成
播種又は定植後、上記循環ポンプ12を低速で常時運転して上記栽培液3を上記育成槽1に循環させるか、あるいは上記循環ポンプ12を低速で所定時間(所定日数)ごとに運転して上記栽培液3を上記育成槽1に間歇的に循環させて、ヒシの養分吸収を促進し、その生育を図る。
【0055】
この場合、上記調温部13によって上記育成槽1内の栽培液3の温度管理を行うとともに、上記濃度センサ20の検出濃度に基づいて上記栽培液3の養分濃度を、水Wと養液Qの供給制御によって、管理する。
【0056】
種実31から発芽した胚軸32、あるいは定植された苗の胚軸32から軸茎34、35が延びて、ヒシが生長すると、この成長状態、即ち、軸茎34、35の長さの変化、枝別れ繁茂の状態に応じて、栽培液3の深さを調整する。上記軸茎34、35が延びて液面に達するようになると、それぞれの先端寄り部分に葉茎が順次発生し、これら多数の葉がロゼット状に茂ってロゼット株40となる。このロゼット株40はさらに成長して大きく拡大するので、このロゼット株40同士が過度に詰み合わないように、また液面から浮上しないように管理することが必要となる。
【0057】
多数のロゼット株40同士が適度に詰み合う程度に成長すると、各ロゼット株40においては花柄が順次成長し、液面上に突出した花柄の先端に花をつける。この花が自家受粉すると、花柄は次第に曲がり始めて栽培液3に没し、液中で結実してヒシの実となって次第に成長する。従って、この花柄及びヒシの実が栽培液3から液面上に飛び出ないように管理することが必要である。
【0058】
また、ヒシの実が成長する段階では、その茎とか葉からの栽培液3へのアクの溶出が多くなるため、特にアク取り部19が十分に機能しているか同かを監視し、アクによるヒシの実の変色を防止することが重要となる。
【0059】
成長したヒシの実は、そのまま放置すれば支弁に花柄から離脱して栽培床2側に沈下するが、この沈下前に実の充実を確認して採取する。このヒシの実の充実状態、即ち、採取時期の確認は、視覚では実の左右両側から延びていたツノ部分の先が丸くなったことで確認でき、触覚では実の左右のツナ部分同士を折り曲げるように詰まんで、折り曲げが困難と思われるときには採取時期と判断することができる。なお、実の採取は、各実の成長度合いに応じて、段階的に数回行われる。また、採取された実のうち、充実した実を次回の栽培における種実として保存する。
【0060】
(d) 実の採取後の作業
実の採取が終われば、通常ならば、残った茎とか葉を育成槽1から取り除いて廃棄し、上記育成槽1を次回の栽培に備えて清掃等を行う。
【0061】
しかし、現に行われている田圃でのヒシ栽培では実を採取した後、耕運機で残った茎とか葉を土中にすき込むことで、新たに肥料を施すことなく次回のヒシ栽培を行っていること、及びヒシの実がもつ有効成分は、少なからずヒシの葉及び茎類ももつことが知られていること、等から、実を採取した後、残った葉を採取するとともに、さらに残った茎類も採取してこれを有効に利用する。
【0062】
例えば、採取した葉は、乾燥させて粉砕して、あるいは生のまま成分を抽出して、飲用材とか薬用材として用いることができる。また、茎類は、これを乾燥して粉砕して、例えば、菜園用、観葉植物用の肥料として用いることができる。
【0063】
なお、採取された実は、殻をとって中身を食用材あるいは薬用材として用いられるのが通例である。
【符号の説明】
【0064】
1 ・・育成槽
2 ・・栽培床
3 ・・栽培液
4 ・・照明器
10 ・・栽培管理部
11 ・・栽培液槽
12 ・・循環ポンプ
13 ・・調温部
14 ・・コントローラ
15 ・・温度センサ
16 ・・給液弁
17 ・・給水弁
18 ・・止水弁
19 ・・アク取り部
20 ・・濃度センサ
21 ・・給液管
22 ・・排液管
23 ・・越流管
25 ・・栽培液供給路
26 ・・栽培液帰還路
31 ・・種実
32 ・・胚軸
33 ・・主根
34 ・・軸茎
35 ・・軸茎
36 ・・土中根
37 ・・水中根
40 ・・ロゼット株
41 ・・浮葉
50 ・・支持棚
51 ・・棚部
R ・・養液
W ・・水
Z ・・栽培装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に栽培床(2)が設けられるとともに栽培液(3)が供給され該栽培液(3)中においてヒシの育成が行われる育成槽(1)と、
上記栽培液(3)を貯留する栽培液槽(11)と、
該栽培液槽(11)内の栽培液(3)を上記育成槽(1)との間で循環させる循環ポンプ(12)と、
上記栽培液(3)の液温調整を行う調温部(13)と、
上記育成槽(1)において育成されるヒシから上記栽培液(3)に溶出するアク成分を除去するアク取り部(19)と、
を備えて構成されたことを特徴とするヒシの栽培装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記栽培床(2)が、土、砂、フェルト、不織布、繊維編成物の何れか、又はこれらを二種類以上組み合わせて構成されていることを特徴とするヒシの栽培装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記育成槽(1)の上側に照明器(4)を配置し、該照明器(4)からの照明光を上記育成槽(1)内の栽培液(3)の表面側に照射するようにしたことを特徴とするヒシの栽培装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−67172(P2011−67172A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222830(P2009−222830)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(507344863)株式会社インテム (9)
【Fターム(参考)】