ヒストンデアセチラーゼのインヒビターを用いた医学療法での診断に用いる抗体ツール
本発明は、HDACインヒビターによる障害の処置を開始/継続するかどうかを判定する方法であって、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体の使用により、サンプル中のヒストンアセチル化のレベルを決定することと、ヒストンアセチル化のレベルが参照サンプルのレベルよりも著しく低い場合に、HDACインヒビターによって処置するとして障害を分類することとを含む方法に関する。本発明はさらに、特異的抗体およびそれを産生する細胞系の診断および予後使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストンデアセチラーゼ活性を有する酵素のインヒビターを用いた、腫瘍患者の処置での診断および予後使用のための特異的抗体ツールの使用に関する。本発明は、これらの抗体に基づく診断および予後ツールシステムの製造にも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子調節およびヒストンアセチル化
クロマチンの局所リモデリングは、遺伝子の転写活性化における重要なステップである。DNAのヌクレオソームパッケージングにおける動的変化は、転写タンパク質をDNAの鋳型と接触させるために生じる必要がある。クロマチンのリモデリングおよび遺伝子の転写に影響する最も重要な機構の1つは、アセチル化によるヒストンおよび他の細胞タンパク質の翻訳後修飾およびそれに続くクロマチン構造の変化である(Davie, 1998, Curr Opin Genet Dev 8,173-8 ;Kouzarides, 1999, Curr Opin Genet Dev 9,40-8 ; Strahl and Allis, 2000, Nature 403,41-4)。ヒストン過剰アセチル化の場合、DNAへの静電気引力の変化および疎水性アセチル基によって導入された立体異性は、ヒストンのDNAとの相互作用の不安定化を引き起こす。結果としてヒストンのアセチル化は、ヌクレオソームを破壊し、DNAが転写機構へアクセスできるようになる。アセチル基の除去は、ヒストンをDNAへ、および隣接するヌクレオソームへさらにしっかりと結合させ、それゆえ転写的に抑制されたクロマチン構造を維持することができる。アセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を持つ一連の酵素によって仲介される。反対にアセチル基は、特異的ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)酵素によって除去される。これらの機構の破壊は転写調節不全を生じさせ、腫瘍化を引き起こす。
【0003】
加えて、転写因子などの他の分子は、そのアセチル化の状態に応じてその活性および安定性を変化させる。たとえば急性前骨髄球性白血病(APL)に関連する融合タンパク質であるPML−RARは、p53の脱アセチル化および分解を仲介することによってp53を阻害し、APL芽細胞をp53依存性癌調査監視経路から回避させる。造血前駆物質におけるPML−RARの発現は、p53仲介転写活性化の抑制、および遺伝毒性ストレス(X線、酸化的ストレス)が引き起こすp53依存性アポトーシスからの保護を生じさせる。しかしながらp53の機能は、HDACの活性補充に関与するHDACインヒビターの存在下で、p53阻害の基礎を成す機構としてのPML−RARによって、p53に再組み込みされる(Insinga et al. 2002, 投稿中)。したがって因子のアセチル化は、HDACインヒビターの抗腫瘍活性において決定的な役割を果たす。
【0004】
核ホルモンレセプタは、遺伝子発現の正および負の対照の両方を通じて発生およびホメオスタシスを制御する、リガンド依存性転写因子である。これらの調節過程における欠陥は、多くの疾患原因の基礎を成し、癌の発生で重要な役割を果たす。T3R、RARおよびPPARを含む多くの核レセプタは、リガンドの非存在下でコリプレッサN−CoRおよびSMRTと相互作用し、それによって転写を阻害する。さらにN−CoRは、アンタゴニストに占有されたプロゲステロンおよびエストロゲンレセプタと相互作用することも報告されている。N−CoRおよびSMRTは、mSin3タンパク質およびヒストンデアセチラーゼも含有する大型のタンパク質複合体中に存在することが示されている(Pazin and Kadonaga, 1997; Cell 89,325-8)。それゆえ抑制から活性化への核レセプタのリガンドに誘導されるスイッチは、アンタゴニスト酵素活性を用いた、コリプレッサおよびコアクチベータ複合体の交換を反映している。
【0005】
N-CoRコリプレッサ複合体は、核レセプタによる抑制を仲介するだけでなく、Mad−1、BCL−6およびETOを含む別の転写因子と相互作用もする。これらのタンパク質の多くは、細胞増殖および分化の障害において重要な役割を果たす(Pazin and Kadonaga, 1997, Cell 89,325-8 ; Huynh and Bardwell, 1998, Oncogene 17,2473-84 ; Wang, J. et al., 1998, Proc Natl Acad Sci U S A 95,10860-5)。たとえばT3Rは、当初はウィルス発癌遺伝子v−erbAとの相同性に基づいて同定され、野生型レセプタとは対照的にウィルス発癌遺伝子v−erbAはリガンドを結合せず、転写の構成リプレッサとして機能する。さらにRARにおける突然変異は、多くのヒト癌、特に急性前骨髄球性白血病(APL)および肝細胞癌に関連付けられている。APL患者では、染色体転座から生じるRAR融合タンパク質が、前骨髄球性白血病タンパク質(PML)または前骨髄球性ジンクフィンガータンパク質(PLZF)のどちらかを包含する。どちらの融合タンパク質もコリプレッサ複合体の成分と相互作用できるが、レチノイン酸の添加はPML−RARからのコリプレッサ複合体をだめにするのに対して、PLZF−RARは構成的に相互作用する。これらの発見結果は、PML−RAR APL患者がレチノイン酸処置後に完全な回復を実現するのに対して、PLZF−RAR APL患者が非常に乏しい反応をする理由の説明を示す(Grignani et al., 1998, Nature 391,815-8 ; Guidez et al., 1998, Blood 91,2634-42 ; He et al., 1998, Nat Genet 18,126-35 ; Lin et al., 1998, Nature 391,811-4)。さらに、レチノイン酸による処置後に複数回の再発を経験したPMLRAR患者は最近、HDACインヒビターのフェニルブチラートによって処置され、白血病の完全な回復をもたらしている(Warrell et al., 1998, J.Natl. Cancer Inst. 90,1621-1625)。
【0006】
ヒストンデアセチラーゼの阻害
現在までに、密接に関連した酪酸誘導体のPivanex(Titan Pharmaceuticals)を単剤療法として用いた臨床第II相試験が完了し、III/IV期非小細胞肺癌において活性を示している(Keer et al., 2002, ASCO, Abstract No. 1253)。さらなるHDACインヒビターが同定され、NVP−LAQ824(Novartis)およびSAHA(Aton Pharma Inc.)は、第I相臨床試験において試験されたヒドロキサム酸の構造クラスの構成要素である(Marks et al., 2001, Nature Reviews Cancer 1,194-202)。別のクラスは、環状テトラペプチド、たとえば、T細胞リンパ腫の処置の第II相試験でうまく使用されたデプシペプチド(FR901228-藤沢)を含む(Piekarz et al., 2001, Blood 98,2865-8)。さらに、ベンズアミドのクラスに関連する化合物であるMS−27−275(三井製薬)は、血液悪性腫瘍を持つ第I相試験の患者で現在試験中である。
【0007】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の補充は、細胞増殖および分化において重要な役割を果たしている多くの遺伝子の動的調節の重要な要素と見なされる。ヒストンH3およびH4のN末端テールの過剰アセチル化は、遺伝子活性化と相関しているが、これに対して脱アセチル化は、転写抑制を仲介する。結果として、多くの疾患が、転写因子に影響する突然変異によって引き起こされた遺伝子発現における変化に結び付けられてきた。白血病融合タンパク質、たとえばPML−RAR、PLZF−RAR、AML−ETOおよびStat5−RARによる異常抑制は、この観点からプロトタイプ例となる。これらの場合のすべてにおいて、染色体転座は転写活性化因子をリプレッサに変換し、リプレッサはHDACの補充を介して、造血分化に重要な標的遺伝子を構成的に抑制する。同様の事象が多くの他の種類の癌における病原にも寄与すると思われる。
【0008】
哺乳動物ヒストンデアセチラーゼは、3つのサブクラスに分類できる(Gray and Ekstrom, 2001)。酵母RPD3タンパク質のホモローグであるHDAC1、2、3、および8は、クラスIを構成する。HDAC4、5、6、7、9、および10は、酵母Hda 1タンパク質に関連し、クラスIIを形成する。最近、酵母Sir2タンパク質の複数の哺乳動物ホモローグが、NAD依存性であるデアセチラーゼの第3のクラスを形成することが確認された。これらのHDACはすべて、大量の多タンパク質複合体のサブユニットとして、細胞中に存在すると考えられる。特にクラスIおよびII HDACは、転写因子へのHDACの補充に必要な架橋因子として作用する転写コリプレッサのmSin3、N−CoRおよびSMRTと相互作用することが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヒト癌療法における分子マーカー
ヒト癌の診断およびステージングのための新たな分子マーカーの発見は、なお進行中の作業であり、正しい治療方法の選択には必須である。乳癌の場合、分子マーカー、たとえばHER2/neu、p53、BCL−2およびエストロゲン/プロゲステロンレセプタ発現が、疾患の状態および進行と相関することが明確に示されている。それゆえ転移性乳癌患者の血清中のHER2濃度を測定する、新たに承認されたキットは現在、これらの患者の追跡調査およびモニタリングに使用できる。最近、複数の大規模な研究が、HER2血清濃度が疾患の重症度に関連付けられ、さらに重要なことには、療法に反応する患者において、療法の種類とは無関係にHER2濃度が低下することを示した。この例は、癌療法での診断および予後マーカーの価値を証明する。
【0010】
HDACインヒビターに関連する新しい診断および予後ツールに対する医療上の必要性
癌療法でのHDAC阻害およびその関連の臨床上の利益は、最近複数の場所で調査されている。初期の研究による結果は、HDACインヒビターが急性骨髄性白血病、T細胞リンパ腫、および肺癌の処置において有益であることを示しているが、他の癌の実体が効果的に処置されることが大いに考えられる。今までのところは、調査中のHDACインヒビターの多くが、副作用を有することが多く、新世代のHDACインヒビターのさらなる開発が要求されている。したがって、HDACインヒビターとして成功する候補の特徴的な特性を識別することが必須である。これは、新たな化合物の開発における費用および時間の節約に劇的な因果関係を持つ。第二の大きな作業は次に、これらのHDACインヒビターを用いた療法から利益を得る患者を早期に識別して、療法の間にこれらの患者をモニタリングする。どちらの問題も、本特許出願で取り扱う。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、HDACインヒビターの開発および使用のための診断および/または予後ツールを提供することを目的とする。したがって本発明の1つの態様は、ヒストンの、特にこれに限定されるわけではないがヒストンH4のアセチル化状態を調査するための、特異的抗体ツールの使用である。
【0012】
本発明は、HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうかを判断するための、:
(a)障害により影響を受けた組織に由来するサンプルに、脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体を接触させることと;
(b)サンプル中のヒストンアセチル化のレベルを決定することと;
(c)ヒストンアセチル化のレベルが、参照サンプルのレベルよりも著しく低い場合に、HDACインヒビターによって処置される障害を分類することと;
を含む方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
「サンプル」という用語は、本明細書で使用されるように、個人の組織に由来する組成物を指す。障害により影響を受けた組織は、健常者の対応組織とは異なる組織である。相違は、形態、組織、遺伝子発現、処置に対する応答、タンパク質組成物などにおける相違である。障害によって影響される組織は、癌疾患の場合、たとえばこれに限定されるわけではないが、皮膚癌、メラノーマ、エストロゲンレセプタ依存性および非依存性乳癌、卵巣癌、テストステロンレセプタ依存性および非依存性前立腺癌、腎臓癌、結腸および結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、子宮癌、星状細胞腫、神経膠腫、基底細胞癌ならびに扁平上皮癌、カポジ肉腫および骨肉腫などの肉腫、頭部および頚部癌、小細胞および非小細胞肺癌、白血病、リンパ腫および他の血液細胞癌の腫瘍組織である。サンプルは、生検によって、たとえば個人の固形腫瘍から採取した組織物質である。障害によって影響を受けた組織は、腫瘍組織および形質転換細胞系から確立された細胞系を含む。好ましくは、サンプルはヒストンアセチル化のレベルを決定する方法(ステップ(b))に適した条件で処理された組成物である。処理は、均質化、抽出、固定化、洗浄および/または透過処理を含む。処理の方法は主として、ヒストンアセチル化のレベルを決定する(ステップ(b))ために使用される技法によって変わる。必要条件は、サンプルが組織からのヒストンタンパク質を含有することである。本発明の方法は、インビトロで実施されるステップのみを含む。したがってヒトまたは動物の体から組織物質を入手するステップは、本発明には含まれない。
【0014】
第一の実施形態において、参照サンプルは、健常者の組織に由来するサンプルである。この参照サンプルが由来する組織は、障害によって影響を受けた組織に一致する。たとえば障害によって影響を受けた組織が、乳癌患者からの腫瘍組織である場合、参照サンプルが由来した組織は、健常者からの胸組織である。参照サンプルは通例、障害によって影響を受けた組織に由来するサンプルと同じ方法で処理される(ステップ(a)および(b))。健常者のある組織でのヒストンアセチル化レベルが既知である場合、障害によって影響を受けたサンプルにおけるヒストンアセチル化のレベルを決定することのみが必要である。たとえば、健常者からの多数の組織におけるヒストンアセチル化に関するデータを収集することが考えられる。いったんこれらのデータが収集されると、HDACインヒビターを用いた処置が開始/継続されるかどうかを判定するために、障害によって影響を受けた組織に由来するサンプルを検査することのみが必要である。
【0015】
第二の実施形態において、参照サンプルは、障害によって影響を受けた組織に由来するさらなるサンプルである。この実施形態において、それが由来した参照サンプルまたは細胞は、HDACインヒビター(HDACi)に接触している。たとえばサンプルは、患者の癌組織に由来する。次に患者はHDACインヒビターによって処置され、参照サンプルは、HDACi処置時に同じ患者から採取される。参照サンプルは、HDACiによって処置された同じ疾患に苦しむ別の患者の癌組織にも由来する。サンプルは、細胞培養細胞にも由来し、参照サンプルは、HDACiによって処置された同じ種類の細胞の並行培養物に由来する。参照サンプルは続いて、障害によって影響を受けた組織に由来する第一のサンプルと同じ方法で処理される(ステップ(a)および(b))。通例、HDACi処置を除いて全く同じように処理される、並列サンプルが調製される。使用できるHDACインヒビターは、トリコスタチンA、バルプロ酸およびその誘導体、ならびに当業界で既知の他のインヒビターを含む。HDACインヒビターによって処置しなかったサンプル(-HDACi)と比較した、HDACインヒビターによって処置した参照サンプル(+HDACi)中のヒストンアセチル化のレベル上昇は、障害によって影響を受けた組織の細胞がHDACインヒビター処置に反応することを示す。それゆえ障害は、HDACインヒビターによって処置されるものとして分類される。
【0016】
第三の実施形態において、上述の第一および第二の実施形態は組み合わされ、すなわち障害によって影響を受けた組織に由来するサンプル中のヒストンアセチル化レベルを、少なくとも2つの参照サンプル中のヒストンアセチル化レベルを比較する。第一の参照サンプルは、健常者からであるのに対して、第二の参照サンプルは、障害によって影響を受けた組織に由来し、HDACインヒビターに接触させた(上を参照)。
【0017】
患者でのHDACi処置の有効性のモニタリングは、本発明に包含される。各種の参照サンプルは、HDACiで異なる時点で継続的に処置している患者から採取できる。ヒストンアセチル化レベルは、ステップ(a)および(b)によって決定される。HDACi処置の間、ヒストンアセチル化のレベルが、HDACi処置の前(サンプルを採取した時点)よりも著しく高いままである場合、処置は有効であると見なされ、継続される。継続HDACi処置にもかかわらず、ヒストンアセチル化のレベルが低いままであるか、初期上昇の後に再度低下して、サンプル中のレベルに接近する場合、処置は無効である。
【0018】
「著しくより低い」という用語は、アセチル化レベルの差が統計的に有意であることを示す。好ましくは、障害は、ヒストンアセチル化レベルが参照サンプルよりも少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも75%低い場合に、HDACインヒビターによって処置されるとして分類される。
【0019】
本明細書で使用されるように、「抗体」という用語は、免疫グロブリンまたは同じ結合特異性を有するその誘導体を指す。本発明の抗体は、モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗血清に由来するまたはそれに含まれる抗体であるが、モノクローナル抗体が好ましい。「抗体」という用語は、本明細書で使用されるように、誘導体、たとえばFab、F(ab’)2、Fv、またはscFv断片をさらに含む:たとえばHarlow and Lane,“Antibodies, A Laboratory Manual”CSH Press 1988,Cold Spring Harbor N.Yを参照。抗体またはその誘導体は天然起源であるか、あるいは(半)合成的に産生できる。そのような合成産物は、本発明の抗体と同じまたは本質的に同じ結合特異性を有する、タンパク性または半タンパク性物質も含む。そのような産物はたとえば、ペプチドミメティックスによって得られる。
【0020】
本発明によって使用される抗体は、アセチル化ヒストン、好ましくはアセチル化ヒストンH4、さらに好ましくはアセチル化ヒトヒストンH4に結合できる。ヒストンのアセチル化は、アミノ酸配列のいずれかのリジン残基においてであり、好ましくは、アセチル化は、ヒトヒストンH4の位置6、9、13および/または位置17のリジンにおいてである(参考のためにSwiss Prot P02304におけるヒトヒストンH4のアミノ酸配列を参照、そこで最初のメチオニンが位置1である)。抗体は、脱アセチル化ヒストン、好ましくは脱アセチル化ヒストンH4、さらに好ましくは脱アセチル化ヒトヒストンH4に結合しない。
【0021】
1つの実施形態において、抗体はアセチル化ヒストンに結合するが、別の状況ではアセチル化リジンにも結合する。そのような抗体は、アセチル化非ヒストンタンパク質、たとえば腫瘍サプレッサタンパク質p53と交差反応する。本実施形態による抗体は、配列番号:1、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドに結合するが、配列番号:2に示す配列を有するペプチドには結合しない。それはさらに、配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6に示す配列を有するペプチドに結合可能である。使用可能である好ましい抗体は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweig, Germany; German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)に寄託されたG2M−T52−acという名称の細胞系から入手できるT52という名称の抗体である。
【0022】
別の実施形態において、抗体は、アセチル化ヒストンに結合するが、別の状況ではアセチル化リジンには結合しない。そのような抗体は、アセチル化非ヒストンタンパク質と交差反応しない。この実施形態による抗体は、 配列番号:1に示す配列を有するペプチドに結合するが、配列番号:2、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドには結合しない。それはさらに、配列番号:4および配列番号:5に示す配列を有するペプチドに結合するが、配列番号:6に示す配列を有するペプチドには結合しない。本発明によって使用される好ましい抗体は、配列番号:4に示す配列を有するペプチドに結合できるが、配列番号:2、配列番号:6、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドのいずれにも結合しない。最も好ましい抗体は、DSMZに寄託されたG2M−T52−H4acという名称の細胞系から得られるT52という名称の抗体である。
【0023】
本発明の方法は、HDACインヒビターによる障害の処置を開始するかどうかの判定を可能にする。したがって本発明の方法の重要な態様は、HDACインヒビターを用いた療法に反応する患者および腫瘍実体を識別するための、これらの抗体ツールの使用である。
【0024】
方法は、HDACインヒビターによる障害の処置を継続するかどうかの判定も可能にする。それゆえこれらの抗体ツールは、患者におけるHDACインヒビター処置の有効性をモニターするために使用できる。
【0025】
この予後および診断のモニタリングは、ヒストンの過剰アセチル化の誘導が、患者の腫瘍細胞の分化および/またはアポトーシスを生じさせ、それゆえ患者の症状の臨床的改善を引き起こす有益な効果を有するような障害または疾患に適している。そのような疾患の例は、これに限定されるわけではないが、皮膚癌、メラノーマ、エストロゲンレセプタ依存性および非依存性乳癌、卵巣癌、テストステロンレセプタ依存性および非依存性前立腺癌、腎臓癌、結腸および結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、子宮癌、星状細胞腫、神経膠腫、基底細胞癌ならびに扁平上皮癌、カポジ肉腫および骨肉腫などの肉腫、頭部および頚部癌、小細胞および非小細胞肺癌、白血病、リンパ腫および他の血液細胞癌を含む。
【0026】
本発明のなお別の態様は、ヒストンデアセチラーゼ活性の異常補充を示す障害または疾患、たとえば甲状腺抵抗症候群、あるいは異常な遺伝子発現に関連する症状、たとえば炎症性疾患、糖尿病、サラセミア、肝硬変、原虫感染などおよびあらゆる種類の自己免疫疾患、特に関節リウマチ、リウマチ様脊椎炎、あらゆる形のリウマチ、骨関節炎、痛風性関節炎、多発性硬化症、インスリン依存性真性糖尿病および非インスリン依存性糖尿病、喘息、鼻炎、ブドウ膜炎、紅斑性狼瘡、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患はもちろんのこと、他の慢性炎症、慢性下痢における、これらの抗体ツールの使用である。
【0027】
さらに本発明は、他の増殖性疾患、たとえば乾癬、線維症および他の皮膚障害での、上記の抗体ツールの診断および予後使用に関する。「増殖性疾患」、「増殖性障害」および「細胞増殖」という用語は、本明細書では互換的に使用され、インビトロまたはインビボにかかわらず、望ましくない過剰または異常細胞の望ましくないまたは制御されない細胞増殖、たとえば腫瘍性または過形成性成長に関する。増殖性症状の例は、これに限定されるわけではないが、悪性新生物および腫瘍を含む前悪性および悪性細胞増殖、癌、白血病、乾癬、骨疾患、線維増殖性障害(たとえば結合組織)、ならびにアテローム性動脈硬化を含む。これに限定されるわけではないが、肺、結腸、胸、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、脳、および皮膚を含むどの種の細胞も処置され、再生不良性貧血およびディジョーニ症候群、グレーブズ病などの障害のどの処置も、T細胞を包含する。
【0028】
1つの実施形態において、障害をHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定は、所与の疾患を一般にHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定を意味する。別の実施形態において、障害をHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定は、所与の患者をHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定を意味する。
【0029】
ヒストンアセチル化のレベルは、各種の方法によって決定できる。当業界で既知の方法であるウェスタンブロッティングを使用できる。細胞材料を、変性および/または還元剤によって処理してサンプルを得る。サンプルをポリアクリルアミドゲルにのせ、タンパク質を分離し、続いて膜に移すか、固相に直接スポットする。次に抗体をサンプルに接触させる。1回以上の洗浄ステップの後、当業界で既知の技法を使用して、結合した抗体を検出する。タンパク質のゲル電気泳動およびウェスタンブロッティングは、Golemis, "Protein-Protein Interactions : A Laboratory Manual", CSH Press 2002, Cold Spring Harbor N. Y.で述べられている。
【0030】
免疫組織化学は、組織材料、たとえば固形腫瘍片の固定化および透過処理の後に使用できる。次に抗体は、サンプルと共にインキュベートされ、1回以上の洗浄ステップの後に、結合抗体を検出する。技法は、Harlow and Lane, "Antibodies, A LaboratoryManual"CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.に概説されている。
【0031】
好ましい実施形態において、ヒストンアセチル化のレベルは、ELISAによって決定される各種形式のELISAが考えられる。1つの形式において、抗体がマイクロタイタープレートなどの固相に固定化され、非特異的結合部位がブロッキングされ、サンプルとインキュベーションされる。別の形式では、サンプル中に含まれるヒストンを固定化するために、サンプルを最初に固相に接触させる。ブロッキングおよび場合により洗浄の後、抗体を固定化サンプルと接触させる。ELISA法は、Harlow and Lane, "Antibodies, A Laboratory Manual" CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.に述べられている。
【0032】
最も好ましくは、ヒストンアセチル化のレベルは、フローサイトメトリーによって決定される。障害によって影響を受けた組織から採取した細胞、たとえば血液細胞または骨髄からの細胞は、固定化および透過処理されて、抗体を核タンパク質に到達させる。任意の洗浄およびブロッキングステップの後、抗体を細胞に接触させる。次にヒストンに結合した抗体を有する細胞を判定するために、当業界で既知の手順に従ってフローサイトメトリーを実施する。各種のフローサイトメトリー法がRobinson "Current Protocols in Cytometry" JohnWiley & Sons Inc., New Yorkに述べられている。ヒストンアセチル化のレベルを定量的に決定する方法を、実施例3に示す。
【0033】
ヒストンアセチル化の特異的診断および予後検出
上述したように細胞ヒストンアセチル化レベルの検出は、特異的抗癌処置に対する細胞応答のモニタリングで重要なツールを提供することができる。たとえばヒストンアセチル化レベルの検出、たとえば毒性レベルに達することなく、生体応答を達成するために十分な投薬量を評価することによって、HDACi(HDACインヒビター)を用いた臨床処置は、最適化できる。ウェスタンブロット分析は一部の場合で使用できるが、それは細胞抽出物の調製を必要とし、1個の細胞分析を提供しない。生検材料からの免疫組織化学(IHC)は有益であるが、それは外科的行為を必要とし、半定量的な読取値のみを与える。
【0034】
それゆえ本発明は、血液/骨髄サンプルを含む各種の細胞サンプルで使用される好ましい特定の方法、たとえば過剰アセチル化ヒストンの検出のためのフローサイトメトリープロトコルに関する。
【0035】
本発明は、患者がHDACiによって処置されるべきかどうか判定するための、およびそのような処置の臨床成果に従うための、(腫瘍)サンプルにおけるヒストンアセチル化レベルの決定のためのT25およびT52という名称のモノクローナル抗体の使用に関する。抗体はさらに、新しいHDACインヒビターを同定するために使用できる。既知のHDACインヒビターは、さらに詳細にキャラクタリゼーションできる。たとえば、前記HDACインヒビターに応答する障害を同定することができる。抗体はさらに、障害を処置するために使用されるあるHDACインヒビターの好都合な投薬量を評価するために使用できる。本発明による使用は、上述したようにステップ(a)および(b)を含む。
【0036】
本発明はさらに、HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうか;および/または腫瘍の分類を判定するための、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体の使用に関する。使用される抗体の好ましい実施形態は、上で述べた。
【0037】
本発明の別の態様は、配列番号:4に示す配列を有するペプチドに結合可能であるが、配列番号:2、配列番号:6、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドのいずれにも結合不可能である抗体である。抗体は、それ自体既知の方法によって産生できる(Harlow and Lane, "Antibodies, A Laboratory Manual" CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.)。
【0038】
T25という名称の最も好ましい抗体は、DSMZに寄託されたG2M−T25−H4acという名称のハイブリドーマ細胞系によって産生される。
【0039】
本発明の別の抗体は、ブダペスト条約の条項によりDSMZに寄託されたG2M−T52−acという名称のハイブリドーマ細胞系から得られるT52という名称の抗体である。
【0040】
本発明はさらに、本発明の抗体を産生するハイブリドーマ細胞系に関する。好ましいハイブリドーマ細胞系は、細胞系G2M−T25−H4ac(DSMZに寄託されている)の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系である。別の好ましいハイブリドーマ細胞系は、細胞系G2M−T52−ac(DSMZに寄託されている)の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系である。最も好ましいハイブリドーマ細胞系は、T25およびT52という名称の抗体の1つを産生する。
【0041】
本発明は、生育培地内への抗体の分泌を可能にする条件下で、本発明のハイブリドーマ細胞を培養することと、培地から抗体を採取することと、を含む本発明による抗体を産生する方法にも関する。細胞を培養し、培地から抗体を採取する方法は、当業者に既知である(Harlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual" CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.)。
【0042】
本発明はさらに、
(i)脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体と;
(ii)HDACインヒビターと;場合により
(iii)ステップ(i)の抗体に対する二次抗体と;場合により
(iv)アセチル化ヒストンに結合する抗体に由来するシグナルの測定のための試薬と;を含有する、ヒストンアセチル化のレベルを決定するための診断キットに関する。
上の(iv)で言及される試薬の例は、検出用に一般に使用される酵素/基質の組合せ、たとえば
a)酵素としてのアルカリホスファターゼと共に、以下の基質:
1.5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(BCIP)およびニトロブルーテトラゾリウム(NBT)
2.ナフトール−AS−MX−ホスフェートおよびファーストレッド(fast red) TR、またはファーストブルー(fast blue) BN、またはファーストグリーン(BN)(fast green(BN))
3.ベクターレッド(Vector Red)
4.ベクターブラック(Vector Black)
5.ベクターブルー(Vectot Blue)
6.酵素としてのホースラディッシュペルオキシダーゼおよび基質としての3,3−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)
である。
【0043】
使用した他の試薬は、免疫蛍光検査、たとえばフルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、テキサスレッド、TRIC、Cy3、またはCy5によって検出できる。他の染色技法、たとえば金、ローダミンを利用できる。
【0044】
キットの、好ましい実施形態、特にその中に含有される好ましい抗体は、本発明による方法の好ましい実施形態に相当する。
【0045】
本発明のさらに好ましい実施形態において、抗体T25および/またはT52は、これらの抗体に結合した物質を、過剰アセチル化レベルが疾患状態を示す組織中のヒストン過剰アセチル化の部位に方向付けるために使用できる。抗体T52および/またはT25は、これらの抗体に結合した物質を過剰アセチル化の部位に方向付けるための、医薬品または診断薬の製造に使用できる。そのような物質は、これに限定されるわけではないが、放射性化合物および化学療法剤または細胞毒性剤を含む。これらの部位では、そのような結合物質が抗体から、たとえばこれに限定されるわけではないがタンパク質分解切断によって、放出される。放射性物質の例は、これに限定されるわけではないがアルファ粒子放出物質およびガンマ放出物質を含む。細胞毒性剤または化学療法剤は、細胞または損傷細胞の増殖を阻害する物質である。
【0046】
これらの物質は当業者に既知であり、カリケアミシン、メイタンシノイド、131ヨウ素、90イットリウム、186ロジウム、188ロジウム、ドキソルビシン、ダウノルビシン、リシンA、シュードモナス外毒素、およびPaul Carterが検討したその他の物質を含む(Paul Carter, Improving the efficacy of antibody-based cancer therapies, Nature Reviews Cancer 2001; 1: 118-129)。
【0047】
以下の実施例は本発明をさらに説明する:
【実施例1】
【0048】
アセチル化ヒストンH4、およびアセチル化リジンに対するモノクローナル抗体の産生(図1および2)
【0049】
方法:
KLHに融合されたヒストンH4のテトラアセチル化テールに相当するペプチドによってマウスを免疫化した(配列:KLH−SGRGK*GGK*GLGK*GGAK*R;17アミノ酸、アスタリスクはアセチル化リジンを示す)。下線のS残基は、ヒトヒストンH4ポリペプチド配列のアミノ酸番号2に相当する(参考のためにSwiss Prot P02304およびその中を参照)。マウスは、標準手順に従って免疫した(Antibodies: A Laboratory Manual. David Lane and Ed Harlow editors, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1990)。
ハイブリドーマ:
a)Balb/cマウスの脾臓;
b)融合に使用した骨髄腫:
ECACCより購入したSP2/0 Ag14 (ref.No.85072401).
【0050】
モノクローナル抗体のスクリーニングは、以下のビオチン化ペプチドを使用して、ELISAによって実施した:
・SGRGK*GGK*GLGK*GGAK*R(配列番号:1;免疫原、テトラアセチル化ヒストンH4テール);
・SGRGKGGKGLGKGGAKR(配列番号:2;非アセチル化ペプチド、アセチル化状態とは無関係にヒストンテールを認識できる抗体をスクリーニングするため);
・SGRGK*GGKGLGKGGAKR(配列番号:3;ヒストンH4テール、リジン5にてモノアセチル化);
・SGRGKGGK*GLGKGGAKR(配列番号:4;ヒストンH4テール、リジン8にてモノアセチル化);
・SGRGKGGKGLGK*GGAKR(配列番号:5;ヒストンH4テール、リジン12にてモノアセチル化);
・SGRGKGGKGLGKGGAK*R(配列番号:6;ヒストンH4テール、リジン16にてモノアセチル化);
・SGRGK*GGKGLGK*GGAKR(配列番号:7;ヒストンH4テール、リジン5、12にてジアセチル化);
・SGRGKGGK*GLGKGGAK*R(配列番号:8ヒストンH4テール、リジン8、16にてジアセチル化;
・SGRGKGGK*GLGK*GGAK*R(配列番号:9;ヒストンH4テール、リジン8、12、16にてトリアセチル化);
・SGRGK*GGK*GLGK*GGAK*R(配列番号:1ヒストンH4テール、リジン5、8、12、16にてテトラアセチル化);
・AVCDK*CLK*FYSK*(配列番号:10;12aa、3 Ac−K);
・VWDQEFLK*VDQG(配列番号:11;12aa、1 Ac−K);
最後の2つのペプチドは、抗体が、ヒストンH4テールとは異なる状況でアセチル化リジンを認識できるかどうかを確認するために使用した。
【0051】
結果:
結果を図1および2に示す。抗体T25およびT52の特異性が、1組のアセチル化および非アセチル化ペプチドを使用したELISA試験で分析される、
【0052】
ELISAプロトコル:
−50μl/ウェルの、50mM炭酸緩衝液中の5μg/ml ストレプトアビジン溶液、pH9を4℃にて一晩インキュベートした;
−200μl/ウェルのBSA3%を37℃にて1時間に渡って添加した;
−50μl/ウェルのアセチル化ビオチン化ペプチド(PBST中2μg/ml)を37℃にて1時間に渡って添加した;
−50μl/ウェルの、PBST+BSA(1mg/ml)中の各種抗体(ハイブリドーマプレートからの上澄みとして、または指示濃度での精製抗体のどちらかとして)を37℃にて2時間に渡って添加した;
−PBST中で6回洗浄(各10分間)
−PBST、BSA 1mg/ml中で1:5000に希釈した、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)と結合した、抗マウス抗体50μl/ウェルによる、37℃にて30分間に渡る、結合モノクローナル抗体の検出。
【0053】
モノクローナル抗体T25およびT52は、アセチル化ヒストンH4由来ペプチドのその認識に基づいて選択され、その特異性をELISAによってさらに試験した。得られたデータを図1〜2に示し、以下にまとめることができる:
クローンT25:
特異性:
・リジン8でのヒストンH4アセチル化: +++
・リジン12でのヒストンH4アセチル化: +
非反応性
・リジン5または16でのヒストンH4アセチル化
・リジンにてアセチル化された非関連性ペプチド
・非アセチル化ヒストンH4
クローンT52:
特異性:
・すべての状況におけるアセチル化リジン
非反応性
・非アセチル化ペプチド
【0054】
加えて抗体T25およびT52の用量依存性試験も、ELISA分析によって実施した。抗体は、シグナル強度の用量依存性変化を評価するために、2つの異なる濃度で試験した(図2)。
【0055】
T25およびT52をそれぞれ産生するハイブリドーマ細胞系は、ブダペスト条約の条項に従って、DSMZ(Deutsche Sammiung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Mascheroder Weg 1 b, D-38124 Braunschweig, Germany; German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)に2002年9月24日に寄託されている。
【0056】
識別番号G2M−T25−H4acを有するハイブリドーマ細胞系は、抗体T25を産生する。識別番号G2M−T25−H4acを有するハイブリドーマ細胞系は、アクセション番号ACC2578を与えられている。識別番号G2M−T52−acを有するハイブリドーマ細胞系は、抗体T52を産生する。識別番号G2M−T52−acを有するハイブリドーマ細胞系は、アクセション番号ACC2579を与えられている。
【0057】
ハイブリドーマ細胞系は、当業者に既知の条件下で培養することができる。培地および条件は以下の通りである:
HT:500mlの場合
ISCOVE変法ダルベッコ培地ベース 418ml
FBS 50ml
Pen/strep(100倍) 5ml
HT(ヒポキサンチン、チミジン)(50x) 10ml
ピルビン酸ナトリウム(100mM) 6ml
非必須アミノ酸(100x) 6ml
グルタミン(100x) 5ml
CO2 5%/37℃
【0058】
BM−Condimed H1ハイブリドーマ成長サプリメント(Roche)を、培養の第一週には10%、その後は5%添加する。
【0059】
細胞は、2日おきに1:2/1:3に分割する。
【実施例2】
【0060】
患者サンプル中のヒストンH4アセチル化レベルを測定するための、そして臨床応答を予測してヒストンデアセチラーゼのインヒビター(HDACi)によって処置するための、免疫組織化学における(アセチル化ヒストンH4ヒストンに対する)モノクローナル抗体T25の使用(図3〜8)
【0061】
ヒストンアセチル化によるクロマチン構造および機能の修飾に対してこれまで実施された研究は、機械的側面に集中しており、哺乳類においては、不死化/形質転換細胞系に基づく確立されたモデル系にてほぼ独占的に実施されている。これらの研究は非常に有益であり、重大な洞察を与えてきたが、生理学的状況における(全体的レベルで、そして特異的ゲノム範囲での)ヒストンアセチル化の正確な役割は、うまく特徴付けられていない:このような知識の欠如によって現在、生理学的状況におけるそのような現象の変更に対する特異的な機械的仮説を説明することができない。しかしながら、ヒストン修飾因子(modifier)の機能の変更が、癌を含む複数の疾患の病因で重要な役割を果たすことは明らかである(Brown and Strathdee, 2002, Trends Mol Med 8, S43-8; Chinnadurai, 2002, Mol Cell 9,213-24 ;Robertson, 2002, Oncogene 21,5361-79)。HDACインヒビター(HDACi)は、正常細胞に対して腫瘍細胞に高い選択性を備えた抗増殖剤、アポトーシス促進剤および分化促進剤として作用することが示されているが、この選択性の背後にある機構は未知である(Marks et al., 2001, Nat Rev Cancer 1,194-202)。さらに、酵母およびC.elegans(SIR2)のNAD依存性ヒストンデアセチラーゼの過剰発現が寿命の延長につながるという発見は、ヒストンアセチル化の調節が細胞および生物の老化の時期を選ぶために重要であることを示している(Tissenbaum and Guarente, 2001,Nature410, 227-30)。
【0062】
方法:
発現および上述したモノクローナル抗体(実施例1を参照)を使用して、各種の生理学的/病理学的状況でヒストンH4アセチル化レベルの免疫組織化学研究を実施した。ここでアセチル化ヒストンH4を選択的に認識する抗体T25を使用した。この抗体は、他のヒストンと交差反応せず、非ヒストンタンパク質を認識しない。
【0063】
結果:
免疫組織化学(IHC)におけるT25抗体の特異性を評価するために、発明者らは確立された細胞系(U937細胞)で予備試験を実施した。これらの細胞は懸濁液中で、HDACiを用いたインビトロでの処置後に増殖し(トリコスタチンAまたはVPAなどで6〜12時間)、それらはウェスタンブロットにより、アセチル化ヒストンH3およびヒストンH4のレベルにおける劇的上昇を示す(図3A)。未処置細胞、またはVPA(1mM)によって12時間処置した細胞はどちらも、ウェスタンブロット分析用に処理するか(図3A)、またはホルマリンで固定化して、次に免疫組織化学用に処理した(図1B)。図1Aのウェスタンブロットで見られるアセチル化ヒストンH4のレベルの上昇は、免疫組織化学で観察された染色強度の上昇および染色細胞の核の数で完全に同等のものである(図3B)。したがってT25抗体は、ウェスタンブロット分析および免疫組織化学(IHC)による、ヒストンアセチル化レベルの分析に使用できる。
【0064】
さらに腫瘍サンプルのIHC分析は、複数の症例において、正常組織と比較したヒストンアセチル化レベルの変化を明らかにした。図4にヒト胸部組織による例を示す:導管細胞の核がT25抗体によって強く染色された正常胸部組織(左パネル)と比較して、腫瘍細胞(右パネル)は、T25染色に対して均一に陰性であり、全体的に低アセチル化状態を明らかにする。この発見は、胸部組織に限定されるものではない:図5に、結腸癌症例の同様の結果を示す。
【0065】
50個を超える乳房腫瘍サンプルのさらなる評価は、ヒストンH4のアセチル化レベルによる腫瘍サンプルの新規な分類が明らかとなった。分析されたこれらのサンプルのうち、51%を「クラスA」として(すなわち全体的に低アセチル化);31%は「クラスB」として(すなわちヒストンアセチル化の普通から高レベル);18%を「クラスC」として(すなわちヒストンアセチル化の不均一パターン)として分類した(図6)。したがって、ヒト腫瘍をヒストンH4アセチル化レベルのレベルに基づいて分類可能であり、そのヒストンH4アセチル化パターンに基づいて(正常組織と比較した、T25抗体を用いた免疫組織化学に基づいて)腫瘍を分類するために、この方法を使用できると考えられる。
【0066】
この分類が腫瘍生物学とのさらなる相関および臨床治療処置の選択に対する潜在的な影響を有するかどうかを確立するために、「クラスA」または「クラスB」原発性ヒト乳房腫瘍に由来する腫瘍細胞の、各種HDACインヒビターに対する感受性をインビトロで評価した(図7〜8)。これをさらに調査するために、原発性乳房腫瘍の切開手術に由来する細胞(ヒストンアセチル化レベルをインビボで確立するために、T25抗体を使用したIHCをそれに対して並列して実施した)を、標準手順の後に培養した(Elenbaas et al., 2001, Genes Dev 15,50-65)。数継代の培養の後(ウシ胎仔血清の非存在下で、線維芽細胞の混在を除去するために)、細胞個体群を腫瘍細胞中で大幅に強化する。次に4つの「クラスA」および3つの「クラスB」腫瘍に由来する細胞のバルク個体群を、VPAまたはTSAで処置した(図7〜8)。図7〜8に示すように、HDACインヒビターによって誘導されたアポトーシスと原発性腫瘍のヒストンアセチル化レベルとの間に劇的な相関が観察された:実際に、「クラスA」腫瘍に由来する(すなわち全体的に低アセチル化された)細胞のみが、HDACインヒビターによる処置時にアポトーシスを示したのに対して、「クラスB」腫瘍からの細胞は、完全に耐性であった。したがって本明細書で述べるような免疫組織化学分類は、HDACインヒビターによる処置に対する腫瘍細胞の反応を予測するために使用することができ、それゆえ患者をそのようなインヒビターで処置すべきかどうかの予後予測に使用できる。
【実施例3】
【0067】
(i)患者サンプル中のアセチル化レベルおよび(ii)HDACインヒビターによる処置に対する細胞応答を判定するための、サイトフルオロメトリーでの(アセチル化リジンに対する)モノクローナル抗体T52の使用(図9〜11)
【0068】
モノクローナル抗体T52は、複数の状況でアセチル化リジンを認識する(図1〜2も参照)。未処置またはHDACインヒビターTSAによって処置したどちらかのU937細胞のウェスタンブロット分析は、T52抗体を用いた検出可能なバンドのみが、HDACiによる処置時に大きく上昇するアセチル化ヒストンH3およびH4に相当することを示した(図9)。比較のために、(アセチル化ヒストンH4のみを認識する)T25抗体を使用するウェスタンブロットは、ヒストンH4バンドのみを示した(図3Aおよび9)。
【0069】
方法:
ヒトU−937細胞を、10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI−1640培地にて、標準培養条件で生育した。指数関数的に増殖するU−937細胞を、10ng/mlトリコスタチンA(TSA, Sigma Aldrich)で4時間処置した。処置の後、細胞を冷やしたリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)で洗浄し、カウントし、PBS中の1%ホルムアルデヒドで15分間固定化した。次に固定化細胞を洗浄し、PBSで再懸濁させ、4℃にて貯蔵した。
【0070】
ヒストンアセチル化分析は、以下の手順に従って実施した。細胞は、PBS中の1%ホルムアルデヒドで15分間固定化した。1X106細胞/サンプルをPBS+1%BSAで洗浄し、PBS中の0.1%TritonX100 200μlによって10分間、室温にて透過処理した(抗体をアセチル化核タンパク質、たとえばヒストンに到達させるために)。PBS+1%BSAを用いた洗浄の後、ペレットをPBS中の10%正常ヤギ血清(NGS) 500μlを用いて、4℃にて20分間インキュベートした。ヒストンアセチル化レベルは、T52マウスモノクローナル抗体(PBS+1%BSA中の1μg/ml)を用いたインキュベーションによって検出した。検出は、ヤギ抗マウスIgG(Sigma)のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合親和性純F(ab’)2断片によるインキュベーションによって、室温にて1時間、暗所にて実施した。
【0071】
フローサイトメトリー分析は、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson)を使用して実施し、少なくとも10,000回/サンプルを得た。装置は、FITC蛍光検出用のバンドパス530/30nm光学フィルタ(FL1チャネル)およびPI(FL3)チャネル検出器の前の650nmロングパス光学フィルタを装備していた。細胞二重項は、FL3からのピークおよびエリア電子信号の比較によるパルス化プロセッサ分析によって識別された。
【0072】
結果:
指数関数的に増殖するU937細胞は、TSAを用いた処置に付された。T52染色は、未処置の指数関数的に増殖する細胞と比較して処置されたTSAの平均蛍光(FL1−H)の上昇を証明し、ヒストンアセチル化レベルの上昇を示した。未処置の指数関数的に増殖するU937細胞の平均蛍光値は、90であった(図10、曲線B)。10ng/ml TSAによって4時間処置したU937細胞の平均蛍光値は、450であった(図10、曲線C)。対照ブランク染色は、これらの増殖条件下でのアセチル化ヒストンからの予想された関連ベースライン信号を示した(曲線A;平均蛍光値:3)。
【0073】
細胞中に存在する大量のHDACタンパク質により、脱アセチル化活性は非常に高い。結果として、予備固定化ステップは、ヒストンを過剰アセチル化状態で維持し、アーチファクトを避けるために非常に重要となった。洗浄はすべて、冷PBSを用いて冷凍遠心器で実施して、その間に細胞を最終的に氷上で固定化した。TSAを含有する細胞培地の除去およびPBSとの置換は、予備固定化洗浄に必要とされた数分間の間ですら、向上したアセチル化信号の完全な消失を引き起こすことができる。エタノール固定化は、アセチル化ヒストン検出と適合性がなく、結果として続いて、アルコール処置が細胞サイクル分析でのDNA染色に使用される場合、1%ホルムアルデヒドを用いた第一のインキュベーションが必要であった。
【0074】
U937細胞で得たデータは、フローサイトメトリー手法の妥当性、およびHDACインヒビターに対する細胞応答を測定する可能性を示した。
【0075】
HDACインヒビターは現在、腫瘍患者でその臨床使用について試験中である(Marks et al., 2001, Nat Rev Cancer 1,194-202)。したがって発明者らは、VPA処置を受けた患者の血液サンプル中でのバルプロ酸、VPA(複数の形の癌について現在臨床試験中のHDACインヒビター)に対する応答を評価した。例を図11に示す。末梢血をVPA処置の前に/各種時間にて定期的に収集し(10〜30mg/kg/日;原形質VPA濃度;0.75mM)、単核細胞をFicoll分析によって分離し、次に述べるように分析した。ヒストンアセチル化レベルは、VPA処置の7日後(第8日)に3倍超に上昇し、第28〜35日にさらに上昇した(図11)。これらの結果は、いずれかの種類の腫瘍に影響を受けた患者からの血液サンプルのフローサイトメトリーによるヒストンアセチル化レベルの測定の実行可能性を示した。血液細胞のヒストンアセチル化レベルは、固形腫瘍を含む腫瘍に苦しむ患者のHDACインヒビター処置の有効性を評価して、処置スケジュールをさらに方向付けるための、マーカーとして作用する。
【実施例4】
【0076】
方法:
ヒストンアセチル化レベルの変化がHDACインヒビターに対する感受性に直接機能的および治療関連的に結び付いていることを示すために、高レベルのヒストンアセチル化を特徴とする原発性腫瘍由来の細胞培養物を、HDAC−1、HDAC−2、またはMTA1(または対照=MCSV)のレトロウィルス発現作成物によって形質導入した。形質導入の2日後、各種のHDACインヒビターを用いた処置を開始した(TSAを図12に示す)。細胞の一定分量を収集し、(アセチル化ヒストンH4に対する抗体を使用して)ウェスタンブロット分析を、これらの細胞から調製したタンパク質抽出物に対して実施し、腫瘍細胞のヒストンアセチル化レベルの低下に至る、HDAC、またはMTA1のどちらかの過剰発現を検証した。
【0077】
結果:
図12Aに見られるように、対照形質導入細胞は、ヒストンH4アセチル化の検出可能なレベル(T25抗体を用いて検出された)を示し、TSA処置に対して耐性であったのに対し(図12B)、HDAC/MTA作成物によって形質導入されたすべての腫瘍細胞は、さらに導入されたHDAC活性により、ヒストン低アセチル化を示した(図12A)。したがって、これらの細胞は、HDACインヒビター処置に対して非常に感度の高いものとなった(最大50%のアポトーシス)(図12B)。
【0078】
これらのデータは、ヒストンH4アセチル化のレベルとHDACインヒビター処置に対する感受性との間に直接相関があることを明らかに示している。このことは、腫瘍細胞のヒストンH4アセチル化レベルを検出する抗体、たとえばT25の機能的および治療関連性の使用を、HDAC活性の阻害に基づく療法への応答性に関して選択する方法として検証する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】抗体T25およびT52のアセチル化ヒストンに対する特異性を試験するELISA分析の結果を示す(実施例1)。
【図2】ELISA分析による抗体T25およびT5の抗体依存性試験を示す(実施例1)。
【図3】確立された細胞系(U937細胞)を使用した、ウェスタンブロットおよび免疫組織化学(IHC)でのT25抗体の特異性を示す(実施例2)。
【図4】T25抗体を使用したヒト胸部組織の免疫組織化学(IHC)による分析を示し、正常組織に対する、ヒト乳房腫瘍組織のヒストンアセチル化レベルの変化が明らかにされている(実施例2)。
【図5】T25抗体を使用したヒト結腸組織の免疫組織化学(IHC)による分析を示し、正常組織に対する、ヒト結腸腫瘍組織のヒストンアセチル化レベルの変化が明らかにされている(実施例2)。
【図6】ヒト乳房腫瘍細胞の、そのヒストンアセチル化状態による新規な分類を示す(実施例2)。
【図7】HDACiによって誘導されたアポトーシスと原発性乳房腫瘍の図6に示された分類によるヒストンアセチル化レベルとの相関を示す(実施例2)。
【図8】HDACiによって誘導されたアポトーシスと原発性乳房腫瘍のクラス「A」および「B」の追加症例におけるヒストンアセチル化レベルとの相関を示す(実施例2)。
【図9】HDACインヒビターTSA(トリコスタチンA)によって処置していない、または処置した、U937細胞のウェスタンブロット分析を示し、T52抗体がアセチル化ヒストンH3およびH4を認識したのに対して、T25抗体はアセチル化ヒストンH4のみを認識する(実施例3)。
【図10】抗体T52を使用したHDACインヒビターTSAによる処置を受けた、U937細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示す(実施例3)。
【図11】患者の血液サンプル中でのHDACインヒビターによる処置に対する細胞応答を測定するフローサイトメトリーの結果を示す(実施例3)。
【図12】ヒストンアセチル化のレベルとHDACインヒビターに対する感受性との間の直接的な機能性および治療関連性の相関を示す(実施例4)。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストンデアセチラーゼ活性を有する酵素のインヒビターを用いた、腫瘍患者の処置での診断および予後使用のための特異的抗体ツールの使用に関する。本発明は、これらの抗体に基づく診断および予後ツールシステムの製造にも関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子調節およびヒストンアセチル化
クロマチンの局所リモデリングは、遺伝子の転写活性化における重要なステップである。DNAのヌクレオソームパッケージングにおける動的変化は、転写タンパク質をDNAの鋳型と接触させるために生じる必要がある。クロマチンのリモデリングおよび遺伝子の転写に影響する最も重要な機構の1つは、アセチル化によるヒストンおよび他の細胞タンパク質の翻訳後修飾およびそれに続くクロマチン構造の変化である(Davie, 1998, Curr Opin Genet Dev 8,173-8 ;Kouzarides, 1999, Curr Opin Genet Dev 9,40-8 ; Strahl and Allis, 2000, Nature 403,41-4)。ヒストン過剰アセチル化の場合、DNAへの静電気引力の変化および疎水性アセチル基によって導入された立体異性は、ヒストンのDNAとの相互作用の不安定化を引き起こす。結果としてヒストンのアセチル化は、ヌクレオソームを破壊し、DNAが転写機構へアクセスできるようになる。アセチル基の除去は、ヒストンをDNAへ、および隣接するヌクレオソームへさらにしっかりと結合させ、それゆえ転写的に抑制されたクロマチン構造を維持することができる。アセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を持つ一連の酵素によって仲介される。反対にアセチル基は、特異的ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)酵素によって除去される。これらの機構の破壊は転写調節不全を生じさせ、腫瘍化を引き起こす。
【0003】
加えて、転写因子などの他の分子は、そのアセチル化の状態に応じてその活性および安定性を変化させる。たとえば急性前骨髄球性白血病(APL)に関連する融合タンパク質であるPML−RARは、p53の脱アセチル化および分解を仲介することによってp53を阻害し、APL芽細胞をp53依存性癌調査監視経路から回避させる。造血前駆物質におけるPML−RARの発現は、p53仲介転写活性化の抑制、および遺伝毒性ストレス(X線、酸化的ストレス)が引き起こすp53依存性アポトーシスからの保護を生じさせる。しかしながらp53の機能は、HDACの活性補充に関与するHDACインヒビターの存在下で、p53阻害の基礎を成す機構としてのPML−RARによって、p53に再組み込みされる(Insinga et al. 2002, 投稿中)。したがって因子のアセチル化は、HDACインヒビターの抗腫瘍活性において決定的な役割を果たす。
【0004】
核ホルモンレセプタは、遺伝子発現の正および負の対照の両方を通じて発生およびホメオスタシスを制御する、リガンド依存性転写因子である。これらの調節過程における欠陥は、多くの疾患原因の基礎を成し、癌の発生で重要な役割を果たす。T3R、RARおよびPPARを含む多くの核レセプタは、リガンドの非存在下でコリプレッサN−CoRおよびSMRTと相互作用し、それによって転写を阻害する。さらにN−CoRは、アンタゴニストに占有されたプロゲステロンおよびエストロゲンレセプタと相互作用することも報告されている。N−CoRおよびSMRTは、mSin3タンパク質およびヒストンデアセチラーゼも含有する大型のタンパク質複合体中に存在することが示されている(Pazin and Kadonaga, 1997; Cell 89,325-8)。それゆえ抑制から活性化への核レセプタのリガンドに誘導されるスイッチは、アンタゴニスト酵素活性を用いた、コリプレッサおよびコアクチベータ複合体の交換を反映している。
【0005】
N-CoRコリプレッサ複合体は、核レセプタによる抑制を仲介するだけでなく、Mad−1、BCL−6およびETOを含む別の転写因子と相互作用もする。これらのタンパク質の多くは、細胞増殖および分化の障害において重要な役割を果たす(Pazin and Kadonaga, 1997, Cell 89,325-8 ; Huynh and Bardwell, 1998, Oncogene 17,2473-84 ; Wang, J. et al., 1998, Proc Natl Acad Sci U S A 95,10860-5)。たとえばT3Rは、当初はウィルス発癌遺伝子v−erbAとの相同性に基づいて同定され、野生型レセプタとは対照的にウィルス発癌遺伝子v−erbAはリガンドを結合せず、転写の構成リプレッサとして機能する。さらにRARにおける突然変異は、多くのヒト癌、特に急性前骨髄球性白血病(APL)および肝細胞癌に関連付けられている。APL患者では、染色体転座から生じるRAR融合タンパク質が、前骨髄球性白血病タンパク質(PML)または前骨髄球性ジンクフィンガータンパク質(PLZF)のどちらかを包含する。どちらの融合タンパク質もコリプレッサ複合体の成分と相互作用できるが、レチノイン酸の添加はPML−RARからのコリプレッサ複合体をだめにするのに対して、PLZF−RARは構成的に相互作用する。これらの発見結果は、PML−RAR APL患者がレチノイン酸処置後に完全な回復を実現するのに対して、PLZF−RAR APL患者が非常に乏しい反応をする理由の説明を示す(Grignani et al., 1998, Nature 391,815-8 ; Guidez et al., 1998, Blood 91,2634-42 ; He et al., 1998, Nat Genet 18,126-35 ; Lin et al., 1998, Nature 391,811-4)。さらに、レチノイン酸による処置後に複数回の再発を経験したPMLRAR患者は最近、HDACインヒビターのフェニルブチラートによって処置され、白血病の完全な回復をもたらしている(Warrell et al., 1998, J.Natl. Cancer Inst. 90,1621-1625)。
【0006】
ヒストンデアセチラーゼの阻害
現在までに、密接に関連した酪酸誘導体のPivanex(Titan Pharmaceuticals)を単剤療法として用いた臨床第II相試験が完了し、III/IV期非小細胞肺癌において活性を示している(Keer et al., 2002, ASCO, Abstract No. 1253)。さらなるHDACインヒビターが同定され、NVP−LAQ824(Novartis)およびSAHA(Aton Pharma Inc.)は、第I相臨床試験において試験されたヒドロキサム酸の構造クラスの構成要素である(Marks et al., 2001, Nature Reviews Cancer 1,194-202)。別のクラスは、環状テトラペプチド、たとえば、T細胞リンパ腫の処置の第II相試験でうまく使用されたデプシペプチド(FR901228-藤沢)を含む(Piekarz et al., 2001, Blood 98,2865-8)。さらに、ベンズアミドのクラスに関連する化合物であるMS−27−275(三井製薬)は、血液悪性腫瘍を持つ第I相試験の患者で現在試験中である。
【0007】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の補充は、細胞増殖および分化において重要な役割を果たしている多くの遺伝子の動的調節の重要な要素と見なされる。ヒストンH3およびH4のN末端テールの過剰アセチル化は、遺伝子活性化と相関しているが、これに対して脱アセチル化は、転写抑制を仲介する。結果として、多くの疾患が、転写因子に影響する突然変異によって引き起こされた遺伝子発現における変化に結び付けられてきた。白血病融合タンパク質、たとえばPML−RAR、PLZF−RAR、AML−ETOおよびStat5−RARによる異常抑制は、この観点からプロトタイプ例となる。これらの場合のすべてにおいて、染色体転座は転写活性化因子をリプレッサに変換し、リプレッサはHDACの補充を介して、造血分化に重要な標的遺伝子を構成的に抑制する。同様の事象が多くの他の種類の癌における病原にも寄与すると思われる。
【0008】
哺乳動物ヒストンデアセチラーゼは、3つのサブクラスに分類できる(Gray and Ekstrom, 2001)。酵母RPD3タンパク質のホモローグであるHDAC1、2、3、および8は、クラスIを構成する。HDAC4、5、6、7、9、および10は、酵母Hda 1タンパク質に関連し、クラスIIを形成する。最近、酵母Sir2タンパク質の複数の哺乳動物ホモローグが、NAD依存性であるデアセチラーゼの第3のクラスを形成することが確認された。これらのHDACはすべて、大量の多タンパク質複合体のサブユニットとして、細胞中に存在すると考えられる。特にクラスIおよびII HDACは、転写因子へのHDACの補充に必要な架橋因子として作用する転写コリプレッサのmSin3、N−CoRおよびSMRTと相互作用することが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヒト癌療法における分子マーカー
ヒト癌の診断およびステージングのための新たな分子マーカーの発見は、なお進行中の作業であり、正しい治療方法の選択には必須である。乳癌の場合、分子マーカー、たとえばHER2/neu、p53、BCL−2およびエストロゲン/プロゲステロンレセプタ発現が、疾患の状態および進行と相関することが明確に示されている。それゆえ転移性乳癌患者の血清中のHER2濃度を測定する、新たに承認されたキットは現在、これらの患者の追跡調査およびモニタリングに使用できる。最近、複数の大規模な研究が、HER2血清濃度が疾患の重症度に関連付けられ、さらに重要なことには、療法に反応する患者において、療法の種類とは無関係にHER2濃度が低下することを示した。この例は、癌療法での診断および予後マーカーの価値を証明する。
【0010】
HDACインヒビターに関連する新しい診断および予後ツールに対する医療上の必要性
癌療法でのHDAC阻害およびその関連の臨床上の利益は、最近複数の場所で調査されている。初期の研究による結果は、HDACインヒビターが急性骨髄性白血病、T細胞リンパ腫、および肺癌の処置において有益であることを示しているが、他の癌の実体が効果的に処置されることが大いに考えられる。今までのところは、調査中のHDACインヒビターの多くが、副作用を有することが多く、新世代のHDACインヒビターのさらなる開発が要求されている。したがって、HDACインヒビターとして成功する候補の特徴的な特性を識別することが必須である。これは、新たな化合物の開発における費用および時間の節約に劇的な因果関係を持つ。第二の大きな作業は次に、これらのHDACインヒビターを用いた療法から利益を得る患者を早期に識別して、療法の間にこれらの患者をモニタリングする。どちらの問題も、本特許出願で取り扱う。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、HDACインヒビターの開発および使用のための診断および/または予後ツールを提供することを目的とする。したがって本発明の1つの態様は、ヒストンの、特にこれに限定されるわけではないがヒストンH4のアセチル化状態を調査するための、特異的抗体ツールの使用である。
【0012】
本発明は、HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうかを判断するための、:
(a)障害により影響を受けた組織に由来するサンプルに、脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体を接触させることと;
(b)サンプル中のヒストンアセチル化のレベルを決定することと;
(c)ヒストンアセチル化のレベルが、参照サンプルのレベルよりも著しく低い場合に、HDACインヒビターによって処置される障害を分類することと;
を含む方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
「サンプル」という用語は、本明細書で使用されるように、個人の組織に由来する組成物を指す。障害により影響を受けた組織は、健常者の対応組織とは異なる組織である。相違は、形態、組織、遺伝子発現、処置に対する応答、タンパク質組成物などにおける相違である。障害によって影響される組織は、癌疾患の場合、たとえばこれに限定されるわけではないが、皮膚癌、メラノーマ、エストロゲンレセプタ依存性および非依存性乳癌、卵巣癌、テストステロンレセプタ依存性および非依存性前立腺癌、腎臓癌、結腸および結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、子宮癌、星状細胞腫、神経膠腫、基底細胞癌ならびに扁平上皮癌、カポジ肉腫および骨肉腫などの肉腫、頭部および頚部癌、小細胞および非小細胞肺癌、白血病、リンパ腫および他の血液細胞癌の腫瘍組織である。サンプルは、生検によって、たとえば個人の固形腫瘍から採取した組織物質である。障害によって影響を受けた組織は、腫瘍組織および形質転換細胞系から確立された細胞系を含む。好ましくは、サンプルはヒストンアセチル化のレベルを決定する方法(ステップ(b))に適した条件で処理された組成物である。処理は、均質化、抽出、固定化、洗浄および/または透過処理を含む。処理の方法は主として、ヒストンアセチル化のレベルを決定する(ステップ(b))ために使用される技法によって変わる。必要条件は、サンプルが組織からのヒストンタンパク質を含有することである。本発明の方法は、インビトロで実施されるステップのみを含む。したがってヒトまたは動物の体から組織物質を入手するステップは、本発明には含まれない。
【0014】
第一の実施形態において、参照サンプルは、健常者の組織に由来するサンプルである。この参照サンプルが由来する組織は、障害によって影響を受けた組織に一致する。たとえば障害によって影響を受けた組織が、乳癌患者からの腫瘍組織である場合、参照サンプルが由来した組織は、健常者からの胸組織である。参照サンプルは通例、障害によって影響を受けた組織に由来するサンプルと同じ方法で処理される(ステップ(a)および(b))。健常者のある組織でのヒストンアセチル化レベルが既知である場合、障害によって影響を受けたサンプルにおけるヒストンアセチル化のレベルを決定することのみが必要である。たとえば、健常者からの多数の組織におけるヒストンアセチル化に関するデータを収集することが考えられる。いったんこれらのデータが収集されると、HDACインヒビターを用いた処置が開始/継続されるかどうかを判定するために、障害によって影響を受けた組織に由来するサンプルを検査することのみが必要である。
【0015】
第二の実施形態において、参照サンプルは、障害によって影響を受けた組織に由来するさらなるサンプルである。この実施形態において、それが由来した参照サンプルまたは細胞は、HDACインヒビター(HDACi)に接触している。たとえばサンプルは、患者の癌組織に由来する。次に患者はHDACインヒビターによって処置され、参照サンプルは、HDACi処置時に同じ患者から採取される。参照サンプルは、HDACiによって処置された同じ疾患に苦しむ別の患者の癌組織にも由来する。サンプルは、細胞培養細胞にも由来し、参照サンプルは、HDACiによって処置された同じ種類の細胞の並行培養物に由来する。参照サンプルは続いて、障害によって影響を受けた組織に由来する第一のサンプルと同じ方法で処理される(ステップ(a)および(b))。通例、HDACi処置を除いて全く同じように処理される、並列サンプルが調製される。使用できるHDACインヒビターは、トリコスタチンA、バルプロ酸およびその誘導体、ならびに当業界で既知の他のインヒビターを含む。HDACインヒビターによって処置しなかったサンプル(-HDACi)と比較した、HDACインヒビターによって処置した参照サンプル(+HDACi)中のヒストンアセチル化のレベル上昇は、障害によって影響を受けた組織の細胞がHDACインヒビター処置に反応することを示す。それゆえ障害は、HDACインヒビターによって処置されるものとして分類される。
【0016】
第三の実施形態において、上述の第一および第二の実施形態は組み合わされ、すなわち障害によって影響を受けた組織に由来するサンプル中のヒストンアセチル化レベルを、少なくとも2つの参照サンプル中のヒストンアセチル化レベルを比較する。第一の参照サンプルは、健常者からであるのに対して、第二の参照サンプルは、障害によって影響を受けた組織に由来し、HDACインヒビターに接触させた(上を参照)。
【0017】
患者でのHDACi処置の有効性のモニタリングは、本発明に包含される。各種の参照サンプルは、HDACiで異なる時点で継続的に処置している患者から採取できる。ヒストンアセチル化レベルは、ステップ(a)および(b)によって決定される。HDACi処置の間、ヒストンアセチル化のレベルが、HDACi処置の前(サンプルを採取した時点)よりも著しく高いままである場合、処置は有効であると見なされ、継続される。継続HDACi処置にもかかわらず、ヒストンアセチル化のレベルが低いままであるか、初期上昇の後に再度低下して、サンプル中のレベルに接近する場合、処置は無効である。
【0018】
「著しくより低い」という用語は、アセチル化レベルの差が統計的に有意であることを示す。好ましくは、障害は、ヒストンアセチル化レベルが参照サンプルよりも少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも75%低い場合に、HDACインヒビターによって処置されるとして分類される。
【0019】
本明細書で使用されるように、「抗体」という用語は、免疫グロブリンまたは同じ結合特異性を有するその誘導体を指す。本発明の抗体は、モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗血清に由来するまたはそれに含まれる抗体であるが、モノクローナル抗体が好ましい。「抗体」という用語は、本明細書で使用されるように、誘導体、たとえばFab、F(ab’)2、Fv、またはscFv断片をさらに含む:たとえばHarlow and Lane,“Antibodies, A Laboratory Manual”CSH Press 1988,Cold Spring Harbor N.Yを参照。抗体またはその誘導体は天然起源であるか、あるいは(半)合成的に産生できる。そのような合成産物は、本発明の抗体と同じまたは本質的に同じ結合特異性を有する、タンパク性または半タンパク性物質も含む。そのような産物はたとえば、ペプチドミメティックスによって得られる。
【0020】
本発明によって使用される抗体は、アセチル化ヒストン、好ましくはアセチル化ヒストンH4、さらに好ましくはアセチル化ヒトヒストンH4に結合できる。ヒストンのアセチル化は、アミノ酸配列のいずれかのリジン残基においてであり、好ましくは、アセチル化は、ヒトヒストンH4の位置6、9、13および/または位置17のリジンにおいてである(参考のためにSwiss Prot P02304におけるヒトヒストンH4のアミノ酸配列を参照、そこで最初のメチオニンが位置1である)。抗体は、脱アセチル化ヒストン、好ましくは脱アセチル化ヒストンH4、さらに好ましくは脱アセチル化ヒトヒストンH4に結合しない。
【0021】
1つの実施形態において、抗体はアセチル化ヒストンに結合するが、別の状況ではアセチル化リジンにも結合する。そのような抗体は、アセチル化非ヒストンタンパク質、たとえば腫瘍サプレッサタンパク質p53と交差反応する。本実施形態による抗体は、配列番号:1、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドに結合するが、配列番号:2に示す配列を有するペプチドには結合しない。それはさらに、配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6に示す配列を有するペプチドに結合可能である。使用可能である好ましい抗体は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweig, Germany; German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)に寄託されたG2M−T52−acという名称の細胞系から入手できるT52という名称の抗体である。
【0022】
別の実施形態において、抗体は、アセチル化ヒストンに結合するが、別の状況ではアセチル化リジンには結合しない。そのような抗体は、アセチル化非ヒストンタンパク質と交差反応しない。この実施形態による抗体は、 配列番号:1に示す配列を有するペプチドに結合するが、配列番号:2、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドには結合しない。それはさらに、配列番号:4および配列番号:5に示す配列を有するペプチドに結合するが、配列番号:6に示す配列を有するペプチドには結合しない。本発明によって使用される好ましい抗体は、配列番号:4に示す配列を有するペプチドに結合できるが、配列番号:2、配列番号:6、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドのいずれにも結合しない。最も好ましい抗体は、DSMZに寄託されたG2M−T52−H4acという名称の細胞系から得られるT52という名称の抗体である。
【0023】
本発明の方法は、HDACインヒビターによる障害の処置を開始するかどうかの判定を可能にする。したがって本発明の方法の重要な態様は、HDACインヒビターを用いた療法に反応する患者および腫瘍実体を識別するための、これらの抗体ツールの使用である。
【0024】
方法は、HDACインヒビターによる障害の処置を継続するかどうかの判定も可能にする。それゆえこれらの抗体ツールは、患者におけるHDACインヒビター処置の有効性をモニターするために使用できる。
【0025】
この予後および診断のモニタリングは、ヒストンの過剰アセチル化の誘導が、患者の腫瘍細胞の分化および/またはアポトーシスを生じさせ、それゆえ患者の症状の臨床的改善を引き起こす有益な効果を有するような障害または疾患に適している。そのような疾患の例は、これに限定されるわけではないが、皮膚癌、メラノーマ、エストロゲンレセプタ依存性および非依存性乳癌、卵巣癌、テストステロンレセプタ依存性および非依存性前立腺癌、腎臓癌、結腸および結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、子宮癌、星状細胞腫、神経膠腫、基底細胞癌ならびに扁平上皮癌、カポジ肉腫および骨肉腫などの肉腫、頭部および頚部癌、小細胞および非小細胞肺癌、白血病、リンパ腫および他の血液細胞癌を含む。
【0026】
本発明のなお別の態様は、ヒストンデアセチラーゼ活性の異常補充を示す障害または疾患、たとえば甲状腺抵抗症候群、あるいは異常な遺伝子発現に関連する症状、たとえば炎症性疾患、糖尿病、サラセミア、肝硬変、原虫感染などおよびあらゆる種類の自己免疫疾患、特に関節リウマチ、リウマチ様脊椎炎、あらゆる形のリウマチ、骨関節炎、痛風性関節炎、多発性硬化症、インスリン依存性真性糖尿病および非インスリン依存性糖尿病、喘息、鼻炎、ブドウ膜炎、紅斑性狼瘡、潰瘍性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患はもちろんのこと、他の慢性炎症、慢性下痢における、これらの抗体ツールの使用である。
【0027】
さらに本発明は、他の増殖性疾患、たとえば乾癬、線維症および他の皮膚障害での、上記の抗体ツールの診断および予後使用に関する。「増殖性疾患」、「増殖性障害」および「細胞増殖」という用語は、本明細書では互換的に使用され、インビトロまたはインビボにかかわらず、望ましくない過剰または異常細胞の望ましくないまたは制御されない細胞増殖、たとえば腫瘍性または過形成性成長に関する。増殖性症状の例は、これに限定されるわけではないが、悪性新生物および腫瘍を含む前悪性および悪性細胞増殖、癌、白血病、乾癬、骨疾患、線維増殖性障害(たとえば結合組織)、ならびにアテローム性動脈硬化を含む。これに限定されるわけではないが、肺、結腸、胸、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、脳、および皮膚を含むどの種の細胞も処置され、再生不良性貧血およびディジョーニ症候群、グレーブズ病などの障害のどの処置も、T細胞を包含する。
【0028】
1つの実施形態において、障害をHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定は、所与の疾患を一般にHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定を意味する。別の実施形態において、障害をHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定は、所与の患者をHDACインヒビターによって処置するかどうかの判定を意味する。
【0029】
ヒストンアセチル化のレベルは、各種の方法によって決定できる。当業界で既知の方法であるウェスタンブロッティングを使用できる。細胞材料を、変性および/または還元剤によって処理してサンプルを得る。サンプルをポリアクリルアミドゲルにのせ、タンパク質を分離し、続いて膜に移すか、固相に直接スポットする。次に抗体をサンプルに接触させる。1回以上の洗浄ステップの後、当業界で既知の技法を使用して、結合した抗体を検出する。タンパク質のゲル電気泳動およびウェスタンブロッティングは、Golemis, "Protein-Protein Interactions : A Laboratory Manual", CSH Press 2002, Cold Spring Harbor N. Y.で述べられている。
【0030】
免疫組織化学は、組織材料、たとえば固形腫瘍片の固定化および透過処理の後に使用できる。次に抗体は、サンプルと共にインキュベートされ、1回以上の洗浄ステップの後に、結合抗体を検出する。技法は、Harlow and Lane, "Antibodies, A LaboratoryManual"CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.に概説されている。
【0031】
好ましい実施形態において、ヒストンアセチル化のレベルは、ELISAによって決定される各種形式のELISAが考えられる。1つの形式において、抗体がマイクロタイタープレートなどの固相に固定化され、非特異的結合部位がブロッキングされ、サンプルとインキュベーションされる。別の形式では、サンプル中に含まれるヒストンを固定化するために、サンプルを最初に固相に接触させる。ブロッキングおよび場合により洗浄の後、抗体を固定化サンプルと接触させる。ELISA法は、Harlow and Lane, "Antibodies, A Laboratory Manual" CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.に述べられている。
【0032】
最も好ましくは、ヒストンアセチル化のレベルは、フローサイトメトリーによって決定される。障害によって影響を受けた組織から採取した細胞、たとえば血液細胞または骨髄からの細胞は、固定化および透過処理されて、抗体を核タンパク質に到達させる。任意の洗浄およびブロッキングステップの後、抗体を細胞に接触させる。次にヒストンに結合した抗体を有する細胞を判定するために、当業界で既知の手順に従ってフローサイトメトリーを実施する。各種のフローサイトメトリー法がRobinson "Current Protocols in Cytometry" JohnWiley & Sons Inc., New Yorkに述べられている。ヒストンアセチル化のレベルを定量的に決定する方法を、実施例3に示す。
【0033】
ヒストンアセチル化の特異的診断および予後検出
上述したように細胞ヒストンアセチル化レベルの検出は、特異的抗癌処置に対する細胞応答のモニタリングで重要なツールを提供することができる。たとえばヒストンアセチル化レベルの検出、たとえば毒性レベルに達することなく、生体応答を達成するために十分な投薬量を評価することによって、HDACi(HDACインヒビター)を用いた臨床処置は、最適化できる。ウェスタンブロット分析は一部の場合で使用できるが、それは細胞抽出物の調製を必要とし、1個の細胞分析を提供しない。生検材料からの免疫組織化学(IHC)は有益であるが、それは外科的行為を必要とし、半定量的な読取値のみを与える。
【0034】
それゆえ本発明は、血液/骨髄サンプルを含む各種の細胞サンプルで使用される好ましい特定の方法、たとえば過剰アセチル化ヒストンの検出のためのフローサイトメトリープロトコルに関する。
【0035】
本発明は、患者がHDACiによって処置されるべきかどうか判定するための、およびそのような処置の臨床成果に従うための、(腫瘍)サンプルにおけるヒストンアセチル化レベルの決定のためのT25およびT52という名称のモノクローナル抗体の使用に関する。抗体はさらに、新しいHDACインヒビターを同定するために使用できる。既知のHDACインヒビターは、さらに詳細にキャラクタリゼーションできる。たとえば、前記HDACインヒビターに応答する障害を同定することができる。抗体はさらに、障害を処置するために使用されるあるHDACインヒビターの好都合な投薬量を評価するために使用できる。本発明による使用は、上述したようにステップ(a)および(b)を含む。
【0036】
本発明はさらに、HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうか;および/または腫瘍の分類を判定するための、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体の使用に関する。使用される抗体の好ましい実施形態は、上で述べた。
【0037】
本発明の別の態様は、配列番号:4に示す配列を有するペプチドに結合可能であるが、配列番号:2、配列番号:6、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドのいずれにも結合不可能である抗体である。抗体は、それ自体既知の方法によって産生できる(Harlow and Lane, "Antibodies, A Laboratory Manual" CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.)。
【0038】
T25という名称の最も好ましい抗体は、DSMZに寄託されたG2M−T25−H4acという名称のハイブリドーマ細胞系によって産生される。
【0039】
本発明の別の抗体は、ブダペスト条約の条項によりDSMZに寄託されたG2M−T52−acという名称のハイブリドーマ細胞系から得られるT52という名称の抗体である。
【0040】
本発明はさらに、本発明の抗体を産生するハイブリドーマ細胞系に関する。好ましいハイブリドーマ細胞系は、細胞系G2M−T25−H4ac(DSMZに寄託されている)の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系である。別の好ましいハイブリドーマ細胞系は、細胞系G2M−T52−ac(DSMZに寄託されている)の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系である。最も好ましいハイブリドーマ細胞系は、T25およびT52という名称の抗体の1つを産生する。
【0041】
本発明は、生育培地内への抗体の分泌を可能にする条件下で、本発明のハイブリドーマ細胞を培養することと、培地から抗体を採取することと、を含む本発明による抗体を産生する方法にも関する。細胞を培養し、培地から抗体を採取する方法は、当業者に既知である(Harlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual" CSH Press 1988, Cold Spring Harbor N. Y.)。
【0042】
本発明はさらに、
(i)脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体と;
(ii)HDACインヒビターと;場合により
(iii)ステップ(i)の抗体に対する二次抗体と;場合により
(iv)アセチル化ヒストンに結合する抗体に由来するシグナルの測定のための試薬と;を含有する、ヒストンアセチル化のレベルを決定するための診断キットに関する。
上の(iv)で言及される試薬の例は、検出用に一般に使用される酵素/基質の組合せ、たとえば
a)酵素としてのアルカリホスファターゼと共に、以下の基質:
1.5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(BCIP)およびニトロブルーテトラゾリウム(NBT)
2.ナフトール−AS−MX−ホスフェートおよびファーストレッド(fast red) TR、またはファーストブルー(fast blue) BN、またはファーストグリーン(BN)(fast green(BN))
3.ベクターレッド(Vector Red)
4.ベクターブラック(Vector Black)
5.ベクターブルー(Vectot Blue)
6.酵素としてのホースラディッシュペルオキシダーゼおよび基質としての3,3−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)
である。
【0043】
使用した他の試薬は、免疫蛍光検査、たとえばフルオレセインイソチオシアネート、フィコエリトリン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、テキサスレッド、TRIC、Cy3、またはCy5によって検出できる。他の染色技法、たとえば金、ローダミンを利用できる。
【0044】
キットの、好ましい実施形態、特にその中に含有される好ましい抗体は、本発明による方法の好ましい実施形態に相当する。
【0045】
本発明のさらに好ましい実施形態において、抗体T25および/またはT52は、これらの抗体に結合した物質を、過剰アセチル化レベルが疾患状態を示す組織中のヒストン過剰アセチル化の部位に方向付けるために使用できる。抗体T52および/またはT25は、これらの抗体に結合した物質を過剰アセチル化の部位に方向付けるための、医薬品または診断薬の製造に使用できる。そのような物質は、これに限定されるわけではないが、放射性化合物および化学療法剤または細胞毒性剤を含む。これらの部位では、そのような結合物質が抗体から、たとえばこれに限定されるわけではないがタンパク質分解切断によって、放出される。放射性物質の例は、これに限定されるわけではないがアルファ粒子放出物質およびガンマ放出物質を含む。細胞毒性剤または化学療法剤は、細胞または損傷細胞の増殖を阻害する物質である。
【0046】
これらの物質は当業者に既知であり、カリケアミシン、メイタンシノイド、131ヨウ素、90イットリウム、186ロジウム、188ロジウム、ドキソルビシン、ダウノルビシン、リシンA、シュードモナス外毒素、およびPaul Carterが検討したその他の物質を含む(Paul Carter, Improving the efficacy of antibody-based cancer therapies, Nature Reviews Cancer 2001; 1: 118-129)。
【0047】
以下の実施例は本発明をさらに説明する:
【実施例1】
【0048】
アセチル化ヒストンH4、およびアセチル化リジンに対するモノクローナル抗体の産生(図1および2)
【0049】
方法:
KLHに融合されたヒストンH4のテトラアセチル化テールに相当するペプチドによってマウスを免疫化した(配列:KLH−SGRGK*GGK*GLGK*GGAK*R;17アミノ酸、アスタリスクはアセチル化リジンを示す)。下線のS残基は、ヒトヒストンH4ポリペプチド配列のアミノ酸番号2に相当する(参考のためにSwiss Prot P02304およびその中を参照)。マウスは、標準手順に従って免疫した(Antibodies: A Laboratory Manual. David Lane and Ed Harlow editors, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1990)。
ハイブリドーマ:
a)Balb/cマウスの脾臓;
b)融合に使用した骨髄腫:
ECACCより購入したSP2/0 Ag14 (ref.No.85072401).
【0050】
モノクローナル抗体のスクリーニングは、以下のビオチン化ペプチドを使用して、ELISAによって実施した:
・SGRGK*GGK*GLGK*GGAK*R(配列番号:1;免疫原、テトラアセチル化ヒストンH4テール);
・SGRGKGGKGLGKGGAKR(配列番号:2;非アセチル化ペプチド、アセチル化状態とは無関係にヒストンテールを認識できる抗体をスクリーニングするため);
・SGRGK*GGKGLGKGGAKR(配列番号:3;ヒストンH4テール、リジン5にてモノアセチル化);
・SGRGKGGK*GLGKGGAKR(配列番号:4;ヒストンH4テール、リジン8にてモノアセチル化);
・SGRGKGGKGLGK*GGAKR(配列番号:5;ヒストンH4テール、リジン12にてモノアセチル化);
・SGRGKGGKGLGKGGAK*R(配列番号:6;ヒストンH4テール、リジン16にてモノアセチル化);
・SGRGK*GGKGLGK*GGAKR(配列番号:7;ヒストンH4テール、リジン5、12にてジアセチル化);
・SGRGKGGK*GLGKGGAK*R(配列番号:8ヒストンH4テール、リジン8、16にてジアセチル化;
・SGRGKGGK*GLGK*GGAK*R(配列番号:9;ヒストンH4テール、リジン8、12、16にてトリアセチル化);
・SGRGK*GGK*GLGK*GGAK*R(配列番号:1ヒストンH4テール、リジン5、8、12、16にてテトラアセチル化);
・AVCDK*CLK*FYSK*(配列番号:10;12aa、3 Ac−K);
・VWDQEFLK*VDQG(配列番号:11;12aa、1 Ac−K);
最後の2つのペプチドは、抗体が、ヒストンH4テールとは異なる状況でアセチル化リジンを認識できるかどうかを確認するために使用した。
【0051】
結果:
結果を図1および2に示す。抗体T25およびT52の特異性が、1組のアセチル化および非アセチル化ペプチドを使用したELISA試験で分析される、
【0052】
ELISAプロトコル:
−50μl/ウェルの、50mM炭酸緩衝液中の5μg/ml ストレプトアビジン溶液、pH9を4℃にて一晩インキュベートした;
−200μl/ウェルのBSA3%を37℃にて1時間に渡って添加した;
−50μl/ウェルのアセチル化ビオチン化ペプチド(PBST中2μg/ml)を37℃にて1時間に渡って添加した;
−50μl/ウェルの、PBST+BSA(1mg/ml)中の各種抗体(ハイブリドーマプレートからの上澄みとして、または指示濃度での精製抗体のどちらかとして)を37℃にて2時間に渡って添加した;
−PBST中で6回洗浄(各10分間)
−PBST、BSA 1mg/ml中で1:5000に希釈した、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)と結合した、抗マウス抗体50μl/ウェルによる、37℃にて30分間に渡る、結合モノクローナル抗体の検出。
【0053】
モノクローナル抗体T25およびT52は、アセチル化ヒストンH4由来ペプチドのその認識に基づいて選択され、その特異性をELISAによってさらに試験した。得られたデータを図1〜2に示し、以下にまとめることができる:
クローンT25:
特異性:
・リジン8でのヒストンH4アセチル化: +++
・リジン12でのヒストンH4アセチル化: +
非反応性
・リジン5または16でのヒストンH4アセチル化
・リジンにてアセチル化された非関連性ペプチド
・非アセチル化ヒストンH4
クローンT52:
特異性:
・すべての状況におけるアセチル化リジン
非反応性
・非アセチル化ペプチド
【0054】
加えて抗体T25およびT52の用量依存性試験も、ELISA分析によって実施した。抗体は、シグナル強度の用量依存性変化を評価するために、2つの異なる濃度で試験した(図2)。
【0055】
T25およびT52をそれぞれ産生するハイブリドーマ細胞系は、ブダペスト条約の条項に従って、DSMZ(Deutsche Sammiung von Mikroorganismen und Zellkulturen, Mascheroder Weg 1 b, D-38124 Braunschweig, Germany; German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)に2002年9月24日に寄託されている。
【0056】
識別番号G2M−T25−H4acを有するハイブリドーマ細胞系は、抗体T25を産生する。識別番号G2M−T25−H4acを有するハイブリドーマ細胞系は、アクセション番号ACC2578を与えられている。識別番号G2M−T52−acを有するハイブリドーマ細胞系は、抗体T52を産生する。識別番号G2M−T52−acを有するハイブリドーマ細胞系は、アクセション番号ACC2579を与えられている。
【0057】
ハイブリドーマ細胞系は、当業者に既知の条件下で培養することができる。培地および条件は以下の通りである:
HT:500mlの場合
ISCOVE変法ダルベッコ培地ベース 418ml
FBS 50ml
Pen/strep(100倍) 5ml
HT(ヒポキサンチン、チミジン)(50x) 10ml
ピルビン酸ナトリウム(100mM) 6ml
非必須アミノ酸(100x) 6ml
グルタミン(100x) 5ml
CO2 5%/37℃
【0058】
BM−Condimed H1ハイブリドーマ成長サプリメント(Roche)を、培養の第一週には10%、その後は5%添加する。
【0059】
細胞は、2日おきに1:2/1:3に分割する。
【実施例2】
【0060】
患者サンプル中のヒストンH4アセチル化レベルを測定するための、そして臨床応答を予測してヒストンデアセチラーゼのインヒビター(HDACi)によって処置するための、免疫組織化学における(アセチル化ヒストンH4ヒストンに対する)モノクローナル抗体T25の使用(図3〜8)
【0061】
ヒストンアセチル化によるクロマチン構造および機能の修飾に対してこれまで実施された研究は、機械的側面に集中しており、哺乳類においては、不死化/形質転換細胞系に基づく確立されたモデル系にてほぼ独占的に実施されている。これらの研究は非常に有益であり、重大な洞察を与えてきたが、生理学的状況における(全体的レベルで、そして特異的ゲノム範囲での)ヒストンアセチル化の正確な役割は、うまく特徴付けられていない:このような知識の欠如によって現在、生理学的状況におけるそのような現象の変更に対する特異的な機械的仮説を説明することができない。しかしながら、ヒストン修飾因子(modifier)の機能の変更が、癌を含む複数の疾患の病因で重要な役割を果たすことは明らかである(Brown and Strathdee, 2002, Trends Mol Med 8, S43-8; Chinnadurai, 2002, Mol Cell 9,213-24 ;Robertson, 2002, Oncogene 21,5361-79)。HDACインヒビター(HDACi)は、正常細胞に対して腫瘍細胞に高い選択性を備えた抗増殖剤、アポトーシス促進剤および分化促進剤として作用することが示されているが、この選択性の背後にある機構は未知である(Marks et al., 2001, Nat Rev Cancer 1,194-202)。さらに、酵母およびC.elegans(SIR2)のNAD依存性ヒストンデアセチラーゼの過剰発現が寿命の延長につながるという発見は、ヒストンアセチル化の調節が細胞および生物の老化の時期を選ぶために重要であることを示している(Tissenbaum and Guarente, 2001,Nature410, 227-30)。
【0062】
方法:
発現および上述したモノクローナル抗体(実施例1を参照)を使用して、各種の生理学的/病理学的状況でヒストンH4アセチル化レベルの免疫組織化学研究を実施した。ここでアセチル化ヒストンH4を選択的に認識する抗体T25を使用した。この抗体は、他のヒストンと交差反応せず、非ヒストンタンパク質を認識しない。
【0063】
結果:
免疫組織化学(IHC)におけるT25抗体の特異性を評価するために、発明者らは確立された細胞系(U937細胞)で予備試験を実施した。これらの細胞は懸濁液中で、HDACiを用いたインビトロでの処置後に増殖し(トリコスタチンAまたはVPAなどで6〜12時間)、それらはウェスタンブロットにより、アセチル化ヒストンH3およびヒストンH4のレベルにおける劇的上昇を示す(図3A)。未処置細胞、またはVPA(1mM)によって12時間処置した細胞はどちらも、ウェスタンブロット分析用に処理するか(図3A)、またはホルマリンで固定化して、次に免疫組織化学用に処理した(図1B)。図1Aのウェスタンブロットで見られるアセチル化ヒストンH4のレベルの上昇は、免疫組織化学で観察された染色強度の上昇および染色細胞の核の数で完全に同等のものである(図3B)。したがってT25抗体は、ウェスタンブロット分析および免疫組織化学(IHC)による、ヒストンアセチル化レベルの分析に使用できる。
【0064】
さらに腫瘍サンプルのIHC分析は、複数の症例において、正常組織と比較したヒストンアセチル化レベルの変化を明らかにした。図4にヒト胸部組織による例を示す:導管細胞の核がT25抗体によって強く染色された正常胸部組織(左パネル)と比較して、腫瘍細胞(右パネル)は、T25染色に対して均一に陰性であり、全体的に低アセチル化状態を明らかにする。この発見は、胸部組織に限定されるものではない:図5に、結腸癌症例の同様の結果を示す。
【0065】
50個を超える乳房腫瘍サンプルのさらなる評価は、ヒストンH4のアセチル化レベルによる腫瘍サンプルの新規な分類が明らかとなった。分析されたこれらのサンプルのうち、51%を「クラスA」として(すなわち全体的に低アセチル化);31%は「クラスB」として(すなわちヒストンアセチル化の普通から高レベル);18%を「クラスC」として(すなわちヒストンアセチル化の不均一パターン)として分類した(図6)。したがって、ヒト腫瘍をヒストンH4アセチル化レベルのレベルに基づいて分類可能であり、そのヒストンH4アセチル化パターンに基づいて(正常組織と比較した、T25抗体を用いた免疫組織化学に基づいて)腫瘍を分類するために、この方法を使用できると考えられる。
【0066】
この分類が腫瘍生物学とのさらなる相関および臨床治療処置の選択に対する潜在的な影響を有するかどうかを確立するために、「クラスA」または「クラスB」原発性ヒト乳房腫瘍に由来する腫瘍細胞の、各種HDACインヒビターに対する感受性をインビトロで評価した(図7〜8)。これをさらに調査するために、原発性乳房腫瘍の切開手術に由来する細胞(ヒストンアセチル化レベルをインビボで確立するために、T25抗体を使用したIHCをそれに対して並列して実施した)を、標準手順の後に培養した(Elenbaas et al., 2001, Genes Dev 15,50-65)。数継代の培養の後(ウシ胎仔血清の非存在下で、線維芽細胞の混在を除去するために)、細胞個体群を腫瘍細胞中で大幅に強化する。次に4つの「クラスA」および3つの「クラスB」腫瘍に由来する細胞のバルク個体群を、VPAまたはTSAで処置した(図7〜8)。図7〜8に示すように、HDACインヒビターによって誘導されたアポトーシスと原発性腫瘍のヒストンアセチル化レベルとの間に劇的な相関が観察された:実際に、「クラスA」腫瘍に由来する(すなわち全体的に低アセチル化された)細胞のみが、HDACインヒビターによる処置時にアポトーシスを示したのに対して、「クラスB」腫瘍からの細胞は、完全に耐性であった。したがって本明細書で述べるような免疫組織化学分類は、HDACインヒビターによる処置に対する腫瘍細胞の反応を予測するために使用することができ、それゆえ患者をそのようなインヒビターで処置すべきかどうかの予後予測に使用できる。
【実施例3】
【0067】
(i)患者サンプル中のアセチル化レベルおよび(ii)HDACインヒビターによる処置に対する細胞応答を判定するための、サイトフルオロメトリーでの(アセチル化リジンに対する)モノクローナル抗体T52の使用(図9〜11)
【0068】
モノクローナル抗体T52は、複数の状況でアセチル化リジンを認識する(図1〜2も参照)。未処置またはHDACインヒビターTSAによって処置したどちらかのU937細胞のウェスタンブロット分析は、T52抗体を用いた検出可能なバンドのみが、HDACiによる処置時に大きく上昇するアセチル化ヒストンH3およびH4に相当することを示した(図9)。比較のために、(アセチル化ヒストンH4のみを認識する)T25抗体を使用するウェスタンブロットは、ヒストンH4バンドのみを示した(図3Aおよび9)。
【0069】
方法:
ヒトU−937細胞を、10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI−1640培地にて、標準培養条件で生育した。指数関数的に増殖するU−937細胞を、10ng/mlトリコスタチンA(TSA, Sigma Aldrich)で4時間処置した。処置の後、細胞を冷やしたリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)で洗浄し、カウントし、PBS中の1%ホルムアルデヒドで15分間固定化した。次に固定化細胞を洗浄し、PBSで再懸濁させ、4℃にて貯蔵した。
【0070】
ヒストンアセチル化分析は、以下の手順に従って実施した。細胞は、PBS中の1%ホルムアルデヒドで15分間固定化した。1X106細胞/サンプルをPBS+1%BSAで洗浄し、PBS中の0.1%TritonX100 200μlによって10分間、室温にて透過処理した(抗体をアセチル化核タンパク質、たとえばヒストンに到達させるために)。PBS+1%BSAを用いた洗浄の後、ペレットをPBS中の10%正常ヤギ血清(NGS) 500μlを用いて、4℃にて20分間インキュベートした。ヒストンアセチル化レベルは、T52マウスモノクローナル抗体(PBS+1%BSA中の1μg/ml)を用いたインキュベーションによって検出した。検出は、ヤギ抗マウスIgG(Sigma)のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合親和性純F(ab’)2断片によるインキュベーションによって、室温にて1時間、暗所にて実施した。
【0071】
フローサイトメトリー分析は、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson)を使用して実施し、少なくとも10,000回/サンプルを得た。装置は、FITC蛍光検出用のバンドパス530/30nm光学フィルタ(FL1チャネル)およびPI(FL3)チャネル検出器の前の650nmロングパス光学フィルタを装備していた。細胞二重項は、FL3からのピークおよびエリア電子信号の比較によるパルス化プロセッサ分析によって識別された。
【0072】
結果:
指数関数的に増殖するU937細胞は、TSAを用いた処置に付された。T52染色は、未処置の指数関数的に増殖する細胞と比較して処置されたTSAの平均蛍光(FL1−H)の上昇を証明し、ヒストンアセチル化レベルの上昇を示した。未処置の指数関数的に増殖するU937細胞の平均蛍光値は、90であった(図10、曲線B)。10ng/ml TSAによって4時間処置したU937細胞の平均蛍光値は、450であった(図10、曲線C)。対照ブランク染色は、これらの増殖条件下でのアセチル化ヒストンからの予想された関連ベースライン信号を示した(曲線A;平均蛍光値:3)。
【0073】
細胞中に存在する大量のHDACタンパク質により、脱アセチル化活性は非常に高い。結果として、予備固定化ステップは、ヒストンを過剰アセチル化状態で維持し、アーチファクトを避けるために非常に重要となった。洗浄はすべて、冷PBSを用いて冷凍遠心器で実施して、その間に細胞を最終的に氷上で固定化した。TSAを含有する細胞培地の除去およびPBSとの置換は、予備固定化洗浄に必要とされた数分間の間ですら、向上したアセチル化信号の完全な消失を引き起こすことができる。エタノール固定化は、アセチル化ヒストン検出と適合性がなく、結果として続いて、アルコール処置が細胞サイクル分析でのDNA染色に使用される場合、1%ホルムアルデヒドを用いた第一のインキュベーションが必要であった。
【0074】
U937細胞で得たデータは、フローサイトメトリー手法の妥当性、およびHDACインヒビターに対する細胞応答を測定する可能性を示した。
【0075】
HDACインヒビターは現在、腫瘍患者でその臨床使用について試験中である(Marks et al., 2001, Nat Rev Cancer 1,194-202)。したがって発明者らは、VPA処置を受けた患者の血液サンプル中でのバルプロ酸、VPA(複数の形の癌について現在臨床試験中のHDACインヒビター)に対する応答を評価した。例を図11に示す。末梢血をVPA処置の前に/各種時間にて定期的に収集し(10〜30mg/kg/日;原形質VPA濃度;0.75mM)、単核細胞をFicoll分析によって分離し、次に述べるように分析した。ヒストンアセチル化レベルは、VPA処置の7日後(第8日)に3倍超に上昇し、第28〜35日にさらに上昇した(図11)。これらの結果は、いずれかの種類の腫瘍に影響を受けた患者からの血液サンプルのフローサイトメトリーによるヒストンアセチル化レベルの測定の実行可能性を示した。血液細胞のヒストンアセチル化レベルは、固形腫瘍を含む腫瘍に苦しむ患者のHDACインヒビター処置の有効性を評価して、処置スケジュールをさらに方向付けるための、マーカーとして作用する。
【実施例4】
【0076】
方法:
ヒストンアセチル化レベルの変化がHDACインヒビターに対する感受性に直接機能的および治療関連的に結び付いていることを示すために、高レベルのヒストンアセチル化を特徴とする原発性腫瘍由来の細胞培養物を、HDAC−1、HDAC−2、またはMTA1(または対照=MCSV)のレトロウィルス発現作成物によって形質導入した。形質導入の2日後、各種のHDACインヒビターを用いた処置を開始した(TSAを図12に示す)。細胞の一定分量を収集し、(アセチル化ヒストンH4に対する抗体を使用して)ウェスタンブロット分析を、これらの細胞から調製したタンパク質抽出物に対して実施し、腫瘍細胞のヒストンアセチル化レベルの低下に至る、HDAC、またはMTA1のどちらかの過剰発現を検証した。
【0077】
結果:
図12Aに見られるように、対照形質導入細胞は、ヒストンH4アセチル化の検出可能なレベル(T25抗体を用いて検出された)を示し、TSA処置に対して耐性であったのに対し(図12B)、HDAC/MTA作成物によって形質導入されたすべての腫瘍細胞は、さらに導入されたHDAC活性により、ヒストン低アセチル化を示した(図12A)。したがって、これらの細胞は、HDACインヒビター処置に対して非常に感度の高いものとなった(最大50%のアポトーシス)(図12B)。
【0078】
これらのデータは、ヒストンH4アセチル化のレベルとHDACインヒビター処置に対する感受性との間に直接相関があることを明らかに示している。このことは、腫瘍細胞のヒストンH4アセチル化レベルを検出する抗体、たとえばT25の機能的および治療関連性の使用を、HDAC活性の阻害に基づく療法への応答性に関して選択する方法として検証する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】抗体T25およびT52のアセチル化ヒストンに対する特異性を試験するELISA分析の結果を示す(実施例1)。
【図2】ELISA分析による抗体T25およびT5の抗体依存性試験を示す(実施例1)。
【図3】確立された細胞系(U937細胞)を使用した、ウェスタンブロットおよび免疫組織化学(IHC)でのT25抗体の特異性を示す(実施例2)。
【図4】T25抗体を使用したヒト胸部組織の免疫組織化学(IHC)による分析を示し、正常組織に対する、ヒト乳房腫瘍組織のヒストンアセチル化レベルの変化が明らかにされている(実施例2)。
【図5】T25抗体を使用したヒト結腸組織の免疫組織化学(IHC)による分析を示し、正常組織に対する、ヒト結腸腫瘍組織のヒストンアセチル化レベルの変化が明らかにされている(実施例2)。
【図6】ヒト乳房腫瘍細胞の、そのヒストンアセチル化状態による新規な分類を示す(実施例2)。
【図7】HDACiによって誘導されたアポトーシスと原発性乳房腫瘍の図6に示された分類によるヒストンアセチル化レベルとの相関を示す(実施例2)。
【図8】HDACiによって誘導されたアポトーシスと原発性乳房腫瘍のクラス「A」および「B」の追加症例におけるヒストンアセチル化レベルとの相関を示す(実施例2)。
【図9】HDACインヒビターTSA(トリコスタチンA)によって処置していない、または処置した、U937細胞のウェスタンブロット分析を示し、T52抗体がアセチル化ヒストンH3およびH4を認識したのに対して、T25抗体はアセチル化ヒストンH4のみを認識する(実施例3)。
【図10】抗体T52を使用したHDACインヒビターTSAによる処置を受けた、U937細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示す(実施例3)。
【図11】患者の血液サンプル中でのHDACインヒビターによる処置に対する細胞応答を測定するフローサイトメトリーの結果を示す(実施例3)。
【図12】ヒストンアセチル化のレベルとHDACインヒビターに対する感受性との間の直接的な機能性および治療関連性の相関を示す(実施例4)。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうかを判定する方法であって:
(a)障害により影響を受けた組織に由来するサンプルに、脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体を接触させることと;
(b)サンプル中のヒストンアセチル化のレベルを決定することと;
(c)ヒストンアセチル化のレベルが、参照サンプルのレベルよりも著しく低い場合に、HDACインヒビターによって処置される障害を分類することと;
を含む方法。
【請求項2】
前記抗体がアセチル化ヒトヒストンH4には結合可能であるが、脱アセチル化ヒトヒストンH4には結合できず、ヒトヒストンH4アセチル化のレベルがステップ(b)で決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体がDSMZに寄託された細胞系G2M−T25−H4acから入手可能である抗体T25である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体がDSMZに寄託された細胞系G2M−T52−acから入手可能である抗体T52である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記障害が、ヒストンの過剰アセチル化の誘導が患者の腫瘍細胞の分化および/またはアポトーシスを生じさせる有益な効果を有する疾患、HDAC活性の異常補充を示す疾患、異常な遺伝子発現に関連する症状、自己免疫疾患、および増殖性疾患から成る群より選択される、請求項1〜5の一項に記載の方法。
【請求項7】
前記障害が皮膚癌、メラノーマ、エストロゲンレセプタ依存性および非依存性乳癌、卵巣癌、テストステロンレセプタ依存性および非依存性前立腺癌、腎臓癌、結腸および結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、子宮癌、星状細胞腫、神経膠腫、基底細胞癌ならびに扁平上皮癌、カポジ肉腫および骨肉腫などの肉腫、頭部および頚部癌、小細胞および非小細胞肺癌、白血病、リンパ腫および他の血液細胞癌、ならびに甲状腺抵抗症候群から成る群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)において、サンプル中のヒストンアセチル化のレベルがフローサイトメトリー、免疫組織化学、ELISAおよび/またはウェスタンブロッティングによって決定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記参照サンプルが健常者からの組織に由来するサンプルであって、健常者からの前記組織が、障害によって影響を受けた組織に相当し、参照サンプルがステップ(a)およびステップ(b)に従って処理される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記参照サンプルが、HDACインヒビターと接触させた、障害によって影響を受けた組織に由来するさらなるサンプルであって、参照サンプルがステップ(a)およびステップ(b)に従って処理される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうかを;および/または腫瘍の分類を判定するための、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体の使用。
【請求項12】
配列番号:4および配列番号:5に示す配列を有するペプチドに結合可能であるが、配列番号:6、配列番号:2、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドのいずれにも結合不可能である抗体。
【請求項13】
配列番号:4および配列番号:5および配列番号:6に示す配列を有するペプチドに結合可能であるが、配列番号:2に示す配列を有するペプチドには結合不可能である抗体。
【請求項14】
DSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞系G2M−T25−H4acおよびG2M−T52−acから選択されるハイブリドーマ細胞系によって産生される抗体。
【請求項15】
請求項12または13に記載の抗体を産生するハイブリドーマ細胞系。
【請求項16】
DSMZに寄託されたG2M−T25−H4acの細胞系の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系。
【請求項17】
DSMZに寄託されたGG2M−T52−acの細胞系の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系。
【請求項18】
ヒストンアセチル化のレベルを決定するための診断キットであって:
(i)脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体と;
(ii)HDACインヒビターと;場合により
(iii)ステップ(i)の抗体に対する二次抗体と;場合により
(iv)アセチル化ヒストンに結合する抗体に由来するシグナルの測定のための試薬と;を含有するキット。
【請求項19】
抗体がT25という名称のモノクローナル抗体、またはT52という名称のモノクローナル抗体である、請求項19に記載の診断キット。
【請求項20】
抗体に結合した物質をヒストン過剰アセチル化の部位に方向付けるための、抗体T25および/またはT52の使用。
【請求項21】
前記結合した物質が放射性化合物である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記結合した物質が化学療法剤または細胞毒性剤である、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記結合した物質がタンパク質分解切断によって放出される、請求項20〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項1】
HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうかを判定する方法であって:
(a)障害により影響を受けた組織に由来するサンプルに、脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体を接触させることと;
(b)サンプル中のヒストンアセチル化のレベルを決定することと;
(c)ヒストンアセチル化のレベルが、参照サンプルのレベルよりも著しく低い場合に、HDACインヒビターによって処置される障害を分類することと;
を含む方法。
【請求項2】
前記抗体がアセチル化ヒトヒストンH4には結合可能であるが、脱アセチル化ヒトヒストンH4には結合できず、ヒトヒストンH4アセチル化のレベルがステップ(b)で決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体がDSMZに寄託された細胞系G2M−T25−H4acから入手可能である抗体T25である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体がDSMZに寄託された細胞系G2M−T52−acから入手可能である抗体T52である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記障害が、ヒストンの過剰アセチル化の誘導が患者の腫瘍細胞の分化および/またはアポトーシスを生じさせる有益な効果を有する疾患、HDAC活性の異常補充を示す疾患、異常な遺伝子発現に関連する症状、自己免疫疾患、および増殖性疾患から成る群より選択される、請求項1〜5の一項に記載の方法。
【請求項7】
前記障害が皮膚癌、メラノーマ、エストロゲンレセプタ依存性および非依存性乳癌、卵巣癌、テストステロンレセプタ依存性および非依存性前立腺癌、腎臓癌、結腸および結腸直腸癌、膵臓癌、膀胱癌、食道癌、胃癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、子宮癌、星状細胞腫、神経膠腫、基底細胞癌ならびに扁平上皮癌、カポジ肉腫および骨肉腫などの肉腫、頭部および頚部癌、小細胞および非小細胞肺癌、白血病、リンパ腫および他の血液細胞癌、ならびに甲状腺抵抗症候群から成る群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)において、サンプル中のヒストンアセチル化のレベルがフローサイトメトリー、免疫組織化学、ELISAおよび/またはウェスタンブロッティングによって決定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記参照サンプルが健常者からの組織に由来するサンプルであって、健常者からの前記組織が、障害によって影響を受けた組織に相当し、参照サンプルがステップ(a)およびステップ(b)に従って処理される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記参照サンプルが、HDACインヒビターと接触させた、障害によって影響を受けた組織に由来するさらなるサンプルであって、参照サンプルがステップ(a)およびステップ(b)に従って処理される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
HDACインヒビターを用いた障害の処置を開始/継続するかどうかを;および/または腫瘍の分類を判定するための、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体の使用。
【請求項12】
配列番号:4および配列番号:5に示す配列を有するペプチドに結合可能であるが、配列番号:6、配列番号:2、配列番号:10および配列番号:11に示す配列を有するペプチドのいずれにも結合不可能である抗体。
【請求項13】
配列番号:4および配列番号:5および配列番号:6に示す配列を有するペプチドに結合可能であるが、配列番号:2に示す配列を有するペプチドには結合不可能である抗体。
【請求項14】
DSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞系G2M−T25−H4acおよびG2M−T52−acから選択されるハイブリドーマ細胞系によって産生される抗体。
【請求項15】
請求項12または13に記載の抗体を産生するハイブリドーマ細胞系。
【請求項16】
DSMZに寄託されたG2M−T25−H4acの細胞系の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系。
【請求項17】
DSMZに寄託されたGG2M−T52−acの細胞系の識別特性を有するハイブリドーマ細胞系。
【請求項18】
ヒストンアセチル化のレベルを決定するための診断キットであって:
(i)脱アセチル化ヒストンではなく、アセチル化ヒストンに結合可能な抗体と;
(ii)HDACインヒビターと;場合により
(iii)ステップ(i)の抗体に対する二次抗体と;場合により
(iv)アセチル化ヒストンに結合する抗体に由来するシグナルの測定のための試薬と;を含有するキット。
【請求項19】
抗体がT25という名称のモノクローナル抗体、またはT52という名称のモノクローナル抗体である、請求項19に記載の診断キット。
【請求項20】
抗体に結合した物質をヒストン過剰アセチル化の部位に方向付けるための、抗体T25および/またはT52の使用。
【請求項21】
前記結合した物質が放射性化合物である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記結合した物質が化学療法剤または細胞毒性剤である、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記結合した物質がタンパク質分解切断によって放出される、請求項20〜22のいずれか一項に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2006−501279(P2006−501279A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539052(P2004−539052)
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010842
【国際公開番号】WO2004/029622
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505098915)ゲー2エム キャンサー ドラッグス アーゲー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月30日(2003.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010842
【国際公開番号】WO2004/029622
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505098915)ゲー2エム キャンサー ドラッグス アーゲー (2)
【Fターム(参考)】
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