説明

ヒトの癌における予後マーカーとしてのHP1アルファ

本発明は、その高い過剰発現が予後不良と関連する、ヒトの癌における予後マーカーであるHP1αを提供する。本発明はさらに、腫瘍細胞においてHP1αが特異的に過剰発現している、対象における癌の診断方法を提供する。本発明はまた、アジュバント療法のために癌に罹患した対象を選択する方法、及び癌に罹患した対象の治療への反応をモニタリングする方法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野、具体的には腫瘍学に関する。ヒトの癌における新しい予後及び/又は診断マーカーを提供する。
【0002】
発明の背景
癌は、細胞分裂が制御できない状態になった場合、及び、DNA修復経路の損傷、正常な遺伝子の腫瘍遺伝子への形質転換、又は腫瘍抑制遺伝子の機能不全の結果により生じる。多数の異なる形態の癌が存在する。これらの癌の頻度は多様であるが、癌は大部分の先進国において、心疾患に次ぐ、死亡原因の二番目に高い原因となっている。異なる形態の癌は異なる特性を有するが、多くの癌に共通する1つの因子は転移する能力である。全ての悪性腫瘍の遠隔転移は、この疾患を有する患者の死亡の主因である。
【0003】
癌を有する患者への治療的処置は第一に、手術、放射線治療及び化学療法に基づき、施術者がその患者に最も適応した治療法を選択しなくてはならない。大部分の症例では、治療プロトコールの選択は病理解剖学及び臨床データに基づいている。現在、予後の決定及び患者へのアジュバント療法の選択方法は主に、病理学及び臨床病期による。しかしながら、どの限局性腫瘍が遠隔転移を生ずるかを予測することは非常に難しい。
【0004】
そのため、転移の高い可能性、初期疾患進行、疾患再発の増加又は患者の生存率の低下を含む予後不良と関連がある腫瘍を、他の腫瘍から正確に区別することができる予後マーカーの同定が強く必要とされている。そのようなマーカーを用いることで、施術者は患者の予後を予測することができ、そしてアジュバント療法が最も効きそうな個体を効果的に標的とすることができる。
【0005】
発明の概要
発明者らは、非腫瘍細胞と比較して、癌細胞ではHP1αが過剰発現していること、及び、この癌細胞におけるHP1αの高い発現レベルが、初期疾患進行、転移形成の増加、疾患再発の増加及び/又は患者の生存率の低下を含む予後不良と相関していることを示した。
【0006】
従って、第一の態様において、本発明は、癌に罹患した対象の臨床転帰を予測する又はモニタリングする方法に関し、ここでこの方法は、前記対象からの癌試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルは予後不良の指標となる)を決定する工程を含む。好ましくは、予後不良は、患者の生存率の低下及び/又は初期疾患進行及び/又は疾患再発の増加及び/又は転移形成の増加である。
【0007】
第二の態様において、本発明は、対象における癌の診断方法に関し、ここでこの方法は、前記対象からの試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルは前記対象が癌に罹患していることを示す)を決定する工程を含む。
【0008】
第三の態様において、本発明は、アジュバント化学療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象の選択方法、又は癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかの決定方法に関し、ここでこの方法は、前記対象からの癌試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルはアジュバント化学療法及び/又は放射線治療が必要であることを示す)を決定する工程を含む。
【0009】
最後の態様において、本発明は、癌に罹患した対象の治療への反応をモニタリングする方法に関し、ここでこの方法は、治療の投与前の前記対象からの癌試料及び治療の投与後の前記対象からの癌試料における、HP1αの発現レベル(治療の投与後に得た試料におけるHP1αの発現レベルの低下は、対象が治療に反応することの指標となる)を決定する工程を含む。
【0010】
一実施形態において、HP1αの発現レベルは、HP1αタンパク質又はHP1α mRNAの量を測定することにより決定される。
【0011】
さらなる実施形態において、HP1αタンパク質の量は、免疫組織化学、半定量的ウエスタンブロット、又はタンパク質若しくは抗体アレイにより測定される。
【0012】
別のさらなる実施形態において、HP1α mRNAの量は、定量的又は半定量的RT−PCR、又はリアルタイム定量的若しくは半定量的RT−PCR、又はトランスクリプトーム解析により測定される。
【0013】
別の実施形態において、本発明の方法は、HP1αの発現レベルを基準発現レベルと比較する工程を含む。加えて、本発明の方法は、HP1αの発現レベルが前記基準発現レベルよりも高いかどうかを決定する工程をさらに含む。
【0014】
さらなる実施形態において、基準発現レベルは正常な試料におけるHP1αの発現レベルである。
【0015】
あるいは、基準発現レベルは、RPLPO遺伝子のような、様々な癌試料において安定した発現を有する遺伝子の発現レベルである。
【0016】
その上さらに別の実施形態において、本発明による方法は、腫瘍悪性度、ホルモン受容体の状態、分裂指数、腫瘍サイズ、HJURP発現レベル、又はKi67、MCM2、CAF−1 p60及びCAF−1 p150のような増殖マーカーの発現のような少なくとも1つの別の癌又は予後マーカーを評価することをさらに含む。
【0017】
その上さらに別の実施形態において、癌は固形癌又は造血癌であり、好ましくは固形癌であり、そしてより好ましくは局所的又は全身性の浸潤のない、早期固形癌である。
【0018】
好ましくは、癌は、乳癌、膵臓癌、子宮及び子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌並びに白血病からなる群より選択される。より好ましくは、癌は乳癌である。さらにより好ましくは、癌は、局所的又は全身性の浸潤のない早期乳癌である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】HP1β又はγではなく、HP1αの発現は静止期にはダウンレギュレートされる。非同調的増殖期(As.)及び静止期(G0)のWI38肺線維芽細胞、MCF7乳癌細胞及びBJ初期包皮線維芽細胞におけるHP1α、β及びγの全タンパク質レベルをウエスタンブロットにより検出した。線維芽細胞を血清飢餓により、及びMCF7細胞を抗エストロゲン処理により、静止期において停止させた。濃縮した(x)全細胞抽出物をローディングし、ローディングコントロールとしてはβ−アクチンを用いた。細胞増殖のマーカーとしては、CAF−1 p60(Polo et al, 2004)及びサイクリンAを用いた。
【図1B】HP1β又はγではなく、HP1αの発現は静止期にはダウンレギュレートされる。Aに示した細胞の細胞周期分布のフローサイトメトリー解析
【図1C】HP1β又はγではなく、HP1αの発現は静止期にはダウンレギュレートされる。定量的RT−PCRにより決定した、増殖期(As.)及び静止期(G0)のBJ包皮繊維芽細胞におけるHP1αのmRNAレベル。レベルは基準遺伝子であるリボソームタンパク質P0様タンパク質(RPLPO)(de Cremoux et al, 2004)に対して正規化し、増殖期細胞のレベルを100%と設定した。CAF−1 p60及びCAF−1 p150のレベルを比較のために示す。エラーバーは3回の独立した実験からのデータを示す。
【図2A】静止期を解除すると、HP1αレベルは徐々に増加した。血清飢餓によりBJ初代線維芽細胞を静止期(G0)において停止させ、そして示した時間血清を再添加することにより解除した。全タンパク質レベルをウエスタンブロットにより解析した。CAF−1 p60(Polo et al, 2004)及びサイクリンAを細胞増殖のマーカーとして用いた。β−アクチンをローディングコントロールとして用いた。
【図2B】静止期を解除すると、HP1αレベルは徐々に増加した。図2Aに示した細胞の細胞周期分布のフローサイトメトリー解析。
【図3A】HP1αの発現は、細胞周期の間には目に見えるほど変動しない。HeLa子宮頸癌細胞は、二重チミジン遮断の解除(G1、Gl/S、S、G2)及びノコダゾール(M)により、細胞周期において同調する。ウエスタンブロットを用い、HP1αの発現レベルについて全タンパク質抽出物を解析した。β−アクチンをローディングコントロールとして用い、サイクリンAをG2/S期のマーカーとして用いた。CAF−1 p60を比較のために示す。
【図3B】HP1αの発現は、細胞周期の間には目に見えるほど変動しない。図3Aに示した同調した細胞のフローサイトメトリー細胞周期解析。
【図3C】HP1αの発現は、細胞周期の間には目に見えるほど変動しない。BJ包皮初代線維芽細胞は、二重チミジン遮断の解除(G1、Gl/S、S、G2)及びノコダゾール(M)により、細胞周期において同調する。ウエスタンブロットを用い、全細胞抽出物におけるHP1αタンパク質レベル解析した。β−アクチンをローディングコントロールとして用い、サイクリンAをG2/S期のマーカーとして用いた。CAF−1 p60を比較のために示す。
【図3D】HP1αの発現は、細胞周期の間には目に見えるほど変動しない。図3Cで示した同調した細胞の細胞周期分布のフローサイトメトリー解析。
【図3E】HP1αの発現は、細胞周期の間には目に見えるほど変動しない。定量的RT−PCRにより決定した、同調したBJ細胞におけるHP1αのmRNAレベル。レベルは基準遺伝子であるリボソームタンパク質PO様タンパク質(RPLPO)(de Cremoux et al, 2004)に対して正規化し、非同調的増殖期細胞のレベルを100%と設定した。CAF−1 p60及びCAF−1 p150のレベルを比較のために示す(Polo et al, 2004)。エラーバーは、2回の独立した実験からのデータを示す。
【図4A】HP1αは乳癌細胞において過剰発現し、クロマチンと関連する。図4Bにおいて使用した、全、可溶性、及び、クロマチン結合細胞抽出物を得るために用いた実験手順の模式図。
【図4B】HP1αは乳癌細胞において過剰発現し、クロマチンと関連する。同じ患者由来の乳癌細胞株Hs578T(T)及び非腫瘍乳房細胞株Hs578Bst(Bst)(Hackett et al, 1977)の、可溶性及びクロマチン結合核抽出物中におけるHP1α、β及びγのタンパク質レベルをウエスタンブロットにより解析した。サイクリンA及びCAF−1 p60を比較のために示す。濃縮した(x)全細胞抽出物をローディングし、β−アクチンをローディングコントロールとして用いた。
【図4C】HP1αは乳癌細胞において過剰発現し、クロマチンと関連する。CAF−1 p60(Polo et al, 2004)の量と比較した場合の、腫瘍乳房細胞(T)及び非腫瘍乳房細胞(Bst)における全HP1αタンパク質レベルの相対量。濃縮した(x)全細胞抽出物をローディングし、β−アクチンをローディングコントロールとして用いた。
【図4D】HP1αは乳癌細胞において過剰発現し、クロマチンと関連する。倍数性を評価するための、腫瘍乳房細胞(T)及び非腫瘍乳房細胞(Bst)のフローサイトメトリー解析。腫瘍(T)及び非腫瘍(Bst)細胞はそれぞれ、25%及び13%のS期にある細胞を含む。
【図4E】HP1αは乳癌細胞において過剰発現し、クロマチンと関連する。定量的RT−PCRにより決定した、腫瘍(T)及び非腫瘍(Bst)乳房細胞におけるHP1αの相対的なmRNAレベル。レベルは基準遺伝子であるリボソームタンパク質PO様タンパク質(RPLPO)(de Cremoux et al, 2004)に対して正規化し、非腫瘍細胞を100%と設定した。CAF−1 p150を比較のために示す。エラーバーは2回の独立した実験からのデータを示す。
【図5A】可溶性及びクロマチン結合核画分のHP1タンパク質のレベル。同じ患者由来の乳癌細胞株Hs578T(T)及び健康な乳房細胞株Hs578Bst(Bst)(Hackett et al, 1977)の、可溶性及びクロマチン結合核画分を得るための抽出手順を図示する模式図。
【図5B】可溶性及びクロマチン結合核画分のHP1タンパク質のレベル。癌細胞Hs578T(T)及び健康な細胞Hs578Bst(Bst)からの可溶性及びクロマチン結合核抽出物におけるHP1α、β及びγのタンパク質レベルをウエスタンブロットにより解析した。ローディングは、同一の量の細胞を用いたものとして修正した(それぞれの抽出物につき、2×10及び4×10個の細胞)。複数の古典的なローディングコントロールを示した。α−チューブリン画分及びβ−アクチンの存在が腫瘍細胞と健康な細胞との間で僅かに異なっているが、これらの実験条件下では、GAPDHが最も同一のローディングを反映する。サイクリンA及びCAF−1 p60を比較のために示した。
【図6A】健康な乳房細胞と比較して乳癌細胞においては、H3K9me3ではなく、HP1αの核分布が変化する。乳癌細胞株Hs578T(T)及び非腫瘍乳房細胞株Hs578Bst(Bst)におけるHP1αの免疫蛍光染色。CREST患者の血清を用いたセントロメアの対比染色は、Hs578T乳癌細胞における、不完全ではあるが部分的なHP1αのスポットとの共局在を明らかにした。DNAはDAPIを用いて染色した。顕微鏡像の下に示した数値は、乳癌細胞株Hs578T(T)及び健康な乳房細胞株Hs578Bst(Bst)において、明確に区別できるHP1αのスポットを示した細胞のパーセンテージの平均を示す。2回の独立した実験に基づく標準誤差を示す。
【図6B】健康な乳房細胞と比較して乳癌細胞においては、H3K9me3ではなく、HP1αの核分布が変化する。腫瘍(T)及び非腫瘍(Bst)乳房細胞における、HP1αと比較した場合のH3K9me3ヒストン修飾の核分布。DNAはDAPIを用いて示した。
【図6C】健康な乳房細胞と比較して乳癌細胞においては、H3K9me3ではなく、HP1αの核分布が変化する。Cdtl(G1期の指標)、サイクリンA(S及びG2期の指標)、又はS10がリン酸化されたヒストンH3(H3S10P、G2及びM期の指標)を用いたHP1αの対比染色は、細胞周期の状態とスポットされたHP1αのパターンとの間の相関を示さなかった。スケールバー:10μm。
【図7A】HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションは、HeLa細胞における有糸分裂欠損を誘導する。HP1α(siHP1α.3と命名)、HP1β、HP1γ又は対照siRNA(siGFP)を標的とするsiRNA配列を用いてトランスフェクションした72時間後の、HeLa細胞の全細胞抽出物のウェスタンブロット解析。濃縮した(x)全細胞抽出物をローディングし、β−アクチンをローディングコントロールとして用いた。
【図7B】HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションは、HeLa細胞における有糸分裂欠損を誘導する。Aに示した細胞の細胞周期分布のフローサイトメトリー解析。
【図7C】HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションは、HeLa細胞における有糸分裂欠損を誘導する。HP1α、HP1β、HP1γ又は模擬siRNA(siGFP)を標的とするsiRNA配列を用いてトランスフェクションした後の、典型的な有糸分裂の図。
【図7D】HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションは、HeLa細胞における有糸分裂欠損を誘導する。HP1α、HP1β、HP1γ又は模擬siRNA(siGFP)を標的とするsiRNA配列を用いてトランスフェクションした72時間後の、非同調的なHeLa細胞における異常な有糸分裂(遅滞染色体、不均衡、染色体橋)の図のパーセンテージ。エラーバーは3回の独立した、盲検的に計測した実験からのデータを示す。
【図7E】HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションは、HeLa細胞における有糸分裂欠損を誘導する。DAPI染色は、HP1αを標的とするsiRNA配列を用いてトランスフェクションした72時間後の小核の形成を表す。
【図7F】HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションは、HeLa細胞における有糸分裂欠損を誘導する。HP1α、HP1β、HP1γ又は対照siRNA(siGFP)を標的とするsiRNA配列を用いてトランスフェクションした72時間後の、小核が形成された細胞のパーセンテージの定量。エラーバーは3回の独立した実験からのデータを示し、このうち2回は盲検的に計測した。
【図8A】初代細胞におけるHP1αのダウンレギュレーションは(前)中期に影響を及ぼす。対照siRNA(siGFP)又はHP1α(α.1又はα.3)を標的とする2つの異なるsiRNA配列を用い、ヌクレオフェクションにより、BJ初代線維芽細胞をトランスフェクションした。全タンパク質レベルをウエスタンブロットにより解析した。HP1β及びHP1γは、siRNAがHP1αイソ型への特異性を示すことを明らかにした。
【図8B】初代細胞におけるHP1αのダウンレギュレーションは(前)中期に影響を及ぼす。対照siRNA(siGFP)又はHP1αを標的とする2つの異なるsiRNA配列(siHP1α.1/3)を用いてトランスフェクションした72時間後の、図8Aに示した細胞の細胞周期分布のフローサイトメトリー解析。
【図8C】初代細胞におけるHP1αのダウンレギュレーションは(前)中期に影響を及ぼす。有糸分裂細胞のプロファイルを、トランスフェクションした72時間後に免疫蛍光法により解析した。12時間のチミジン遮断を6時間解除することにより、有糸分裂細胞を増やした。典型的な有糸分裂プロファイル(上段)及び有糸分裂細胞の総数における各有糸分裂期の割合をパーセンテージとして図示した(グラフ)。エラーバーは3回の独立した実験(各回につきn>100)に基づく標準誤差を示し、このうち2回は盲検的に計測した。
【図8D】初代細胞におけるHP1αのダウンレギュレーションは(前)中期に影響を及ぼす。対照siRNA(siGFP)又はHP1α siRNA(siHP1α.3)を用いた2回の連続したトランスフェクションの後の有糸分裂時間のライブセルイメージングによる決定。DNAをH2B−Cherry(赤色)の発現により可視化した。2回目のトランスフェクションの48時間後から24時間、20分毎に画像を取得した。有糸分裂の時間は(上のグラフ)、DNAの凝縮から2つの別個の細胞の確立までの時間と定義した。実験開始前に染色体の分離が見られた場合には、(前)中期にある有糸分裂細胞を図示している画像の平均数もまた決定した(下のグラフ)。siGFP及びsiHP1αそれぞれで、有糸分裂細胞の総数が130、及び87であることを示している、3回の独立した実験の平均を図示した。Mann−Whitney Wilcoxonの検定を用いてP値を決定した。siGFP及びsiHP1αそれぞれの平均H2B−cherryトランスフェクション効率は37%及び39%であった。
【図9A】HP1αのmRNAは複数の型の癌において過剰発現し、臨床的及び分子データと関連する。正常な組織と比較した場合の、異なる型の癌におけるHP1αのマイクロアレイ発現プロファイルの箱形図。箱は25番目〜75番目のパーセンタイル、括弧は範囲、黒線は中間値、黒点はアウトライアー、nはサンプル数を示す。p値はスチューデントのT検定に基づく。結果をONCOMINEを用いて解析してプロットし(Rhodes et al, 2004)、異なる腫瘍型におけるトランスクリプトーム研究からのデータを活用した(Andersson e tal, 2007;Pyeon et al, 2007;Quade et al, 2004;Ramaswamy et al, 2003;Richardson et al, 2006;Yu et al, 2004)。
【図9B】HP1αのmRNAは複数の型の癌において過剰発現し、臨床的及び分子データと関連する。左側のパネル:小児急性リンパ性白血病におけるHP1αの発現レベルと再発までの期間との相関(Kirschner-Schwabe et al, 2006)。非常に早い期間での再発(最初の診断から18ヶ月以内)、早い(最初の診断から18ヶ月より後であるが、直近の治療の休止より6ヶ月未満)又は遅い(直近の治療を休止して6ヶ月より後)。箱形図の表現は図9Aと同様である。右側のパネル:小児急性リンパ性白血病におけるHP1αの発現レベルとCAF−1 p150及び増殖マーカーKi67発現レベルとの正の相関を示す散布図(Kirschner-Schwabe et al, 2006)。灰色線:最良のあてはめ線、R:ピアソン相関係数。結果をONCOMINEを用いて解析し、プロットした(Rhodes et al, 2004)。
【図10A】HP1αタンパク質は複数型のヒトの癌において過剰発現する。腫瘍及び正常な組織由来の切片を含む、凍結したヒト組織のアレイにおけるHP1αを免疫組織化学により染色し、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【図10B】HP1αタンパク質は複数型のヒトの癌において過剰発現する。凍結した子宮組織切片におけるHP1α、β及びγを免疫組織化学により染色し、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。3種類の抗体について、組織アレイを同様に処理した。
【図10C】HP1αタンパク質は複数型のヒトの癌において過剰発現する。凍結した髄様乳癌からの2枚の隣接した切片のHP1α及び上皮パン−サイトケラチンのマーカーであるKL−1を、免疫蛍光法(IF)により染色した。DNAはDAPIを用いて示した。HP1αが過剰発現している部分は、上皮腫瘍細胞の領域と関連している。スケールバー:100μm。
【図11A】ポリクローナル抗体を用いて検出したヒト腫瘍試料におけるHP1αの過剰発現は、H3K9me3染色の変化とは一致しなかった。ポリクローナルHP1α抗体を用いた、腫瘍及び正常な組織からの凍結ヒト組織切片を含む組織アレイの免疫組織化学的染色。組織をヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【図11B】ポリクローナル抗体を用いて検出したヒト腫瘍試料におけるHP1αの過剰発現は、H3K9me3染色の変化とは一致しなかった。凍結したヒト組織アレイ(図11Aのものと同じバッチ)におけるH3K9me3を免疫組織化学染色し、そしてヘマトキシリンを用いて対比染色した。スケールバー:50μm。
【図12A】HP1αの発現レベルは乳癌患者における予後値を有する。10年を越えて追跡調査した患者の86の乳癌試料における、示した臨床病理学的な因子による対数的なHP1αのmRNA発現レベルを示す箱形図。箱は25番目〜75番目のパーセンタイル、括弧は範囲、黒線は中間値、黒点はアウトライアーを示す。
【図12B】HP1αの発現レベルは乳癌患者における予後値を有する。高い(>10)又は低い(<10)レベルのHP1αを発現する患者における、生存率、転移の発生率、及び疾患のない間隔(限局的な再発の発生、所属リンパ節再発、対側性乳癌又は転移の前の間隔)の単変量Kaplan−Meier曲線。各時点でリスクを有する患者の数をグラフの下に示した。
【図13A】乳癌のサブタイプにおける発現レベル。試験した乳癌試料の分子的な特徴。ER:エストロゲン受容体、PR:プロゲステロン受容体。
【図13B】乳癌のサブタイプにおける発現レベル。マイクロアレイでのトランスクリプトームデータにおけるmRNAレベルとして決定した(図13B)、又は逆相タンパク質アレイを用いてタンパク質レベルとして決定した(図13C)HP1αの発現レベルを示す箱形図。箱は25〜75番目のパーセンタイル、括弧は範囲、黒線は中間値、黒点はアウトライアーを示す。1群当たりの試料数をグラフの下に示した(n)。アスタリスクは群の間での有意差を示す(T−検定)。
【図13C】乳癌のサブタイプにおける発現レベル。マイクロアレイでのトランスクリプトームデータにおけるmRNAレベルとして決定した(図13B)、又は逆相タンパク質アレイを用いてタンパク質レベルとして決定した(図13C)HP1αの発現レベルを示す箱形図。箱は25〜75番目のパーセンタイル、括弧は範囲、黒線は中間値、黒点はアウトライアーを示す。1群当たりの試料数をグラフの下に示した(n)。アスタリスクは群の間での有意差を示す(T−検定)。
【0020】
本発明の詳細な説明
哺乳類の細胞は3種類の密接に関係したヘテロクロマチンタンパク質1のイソ型である、HP1α、β及びγを含み、これらは酵母(S.pombe)におけるそれらの唯一の対応物との類似性により、遺伝子サイレンシング、ゲノム安定性及び染色体の分離に関与してきた。
【0021】
HP1タンパク質と腫瘍形成との間の第一に可能性のある関連は、HP1が腫瘍抑制網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)と相互作用するという観察(Nielsen et al, 2001b; Williams&Grafi, 2000)及び、HP1がサイクリンEのような細胞周期遺伝子のRb依存性サイレンシングに関与するという観察(Nielsen et al, 2001b)から提唱された。同様に、HP1は、E2F1(Wang et al, 2007)及びp53(Wang et al, 2005)タンパク質の制御に関与する、転写のコリプレッサーであるKAP−1と相互作用する(Ryan et al, 1999)。さらに、HP1α及びγはクロマチン会合因子1(CAF−1)との複合体中に見いだされ(Murzina et al, 1999; Quivy et al, 2004)、この内の中間体サブユニットp60は乳癌における有効な増殖マーカーである(Polo et al, 2004)。しかしながら、細胞増殖、静止期及び癌に関連する、3つのHP1イソ型に特異的な及び/又は共通の制御パターンは明かになっていない。
【0022】
発明者らは、HP1αが増殖依存的な発現パターンを表すという特異な特性を示すこと、及び、同じ患者由来の癌細胞において、非腫瘍細胞と比較した場合に、HP1β又はγではなくHP1αの有意な過剰発現が認められたことを示した。このHP1αの過剰発現は、膵臓、子宮、卵巣、前立腺及び乳癌において認められた。これらの結果は、HP1αが複数の型の癌の診断のためのマーカーを構成することを示す。本明細書において発明者らは、癌におけるHP1αの発現レベルが臨床データ及び疾患の転帰と関連することもまた示す。それらは、癌におけるHP1αの高い発現レベルが、時間経過に伴う患者の生存率の低下、初期疾患進行、疾患再発の増加及び/又は転移の発生の増加、すなわち予後不良と関連することを示す。
【0023】
定義
本明細書で使用する場合、「HP1α」という語は、高度に保存された非ヒストンタンパク質である、ヘテロクロマチンタンパク質1−アルファを指す。Genbankには、NP_001120793、NP_001120794、NP_036249の、ヒトHP1αに対応する3つのアクセッション番号がある。このタンパク質は、遺伝子CBX5(GeneID:23468)によりコードされる。
【0024】
本明細書で使用する場合、「癌」又は「腫瘍」という語は、制御されない増殖、不死性、転移可能性、早い増殖及び増殖率のような癌を誘発する細胞の典型的な特徴、及び特定の特徴的な形態学的特徴を有する細胞の存在を指す。この語は、任意の型の悪性度(初期又は転移)を指す。典型的な癌は、乳、胃、食道、肉腫、卵巣、子宮内膜、膀胱、子宮頸、直腸、結腸、肺又はORL癌、小児腫瘍(神経芽細胞腫、多形膠芽細胞腫)、リンパ腫、白血病、骨髄腫、精上皮腫、ホジキン及び悪性血液疾患のような固形癌又は造血癌である。好ましくは、癌は、乳癌、膵臓癌、子宮及び子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌並びに白血病からなる群より選択される。好ましくは、癌は固形癌であり、より好ましくは、局所的又は全身性の浸潤のない早期固形癌である。好ましくは、固形癌は乳癌であり、より好ましくは局所的又は全身性の浸潤のない早期乳癌である。
【0025】
本明細書で使用する場合、「治療」、「治療する」又は「治療している」という語は、疾患の治療、予防、防御及び遅延のような、患者の健康状態を回復することを意図する、任意の行為を指す。特定の実施形態においては、そのような語は、疾患又は疾患に関連がある症状の回復又は根絶を指す。その他の実施形態においては、この語は、そのような疾患を有する対象に1つ以上の治療薬を投与することにより、疾患の拡大又は悪化を最小限にすることを指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、「化学療法治療」又は「化学療法」という語は、化学的な又は生化学的な物質、具体的には1つ又は複数の抗腫瘍薬を用いた癌の治療的処置を指す。
【0027】
「放射線治療処置」又は「放射線治療」という語は、内部の及び外部の放射線治療又は放射免疫治療、及びX線、ガンマ線、アルファ粒子、ベータ粒子、光子、電子、中性子、放射性同位元素、及びその他の型の電離放射線を含む様々な型の放射線の使用を含む、複数の型の放射線治療を指す、当該分野において一般的に用いられる語である。
【0028】
本明細書で使用する場合、「アジュバント療法」という語は、一般に、転移及び/又は再発する恐れがあるリスクを有する癌に罹患した患者の初期腫瘍を外科的に切除した後に、追加の治療として与えられる化学療法又は放射線治療を指す。そのようなアジュバント治療の目的は、予後を改善することである。
【0029】
本明細書で使用する場合、「予後不良」という語は、患者の生存率の低下及び/又は初期疾患進行及び/又は疾患再発の増加及び/又は転移形成の増加を指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、「対象」又は「患者」という語は、動物、好ましくは哺乳類、さらにより好ましくは成人、子供及び出生前段階のヒトを含むヒトを指す。しかしながら、「対象」という語は、中でも治療を必要とする非ヒト動物、具体的にはイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ及び非ヒト霊長類のような哺乳類を指す。
【0031】
本明細書で使用する場合、「試料」という語は、対象由来の細胞を含む任意の試料、好ましくは核酸を含む試料を意味する。そのような試料の例としては、血液、血漿、唾液、尿及び精液試料のような液体、並びに生検、器官、組織又は細胞試料が挙げられる。試料をその使用の前に処理してもよい。「癌試料」という語は、患者由来の腫瘍細胞を含む任意の試料、好ましくは核酸を含む試料を指す。好ましくは、この試料は腫瘍細胞のみを含む。「正常な試料」という語は、いずれの腫瘍細胞も含まない任意の試料を指す。
【0032】
以下に開示する本発明の方法は、インビボ、エクスビボ、又はインビトロの方法であってよく、好ましくはインビトロの方法である。
【0033】
これまでの研究では、HP1αの発現の増加は、複数の乳癌細胞株における浸潤の可能性の低下と関連していた(Kirschmann et al., 2000; Norwood et al., 2006)。驚くことに、本明細書において発明者らは、HP1αの高い発現レベルがそれどころか予後不良と関連があり、従って死亡リスクの増加と関連することを示した。
【0034】
従って、本発明は、癌に罹患した対象の臨床転帰を予測又はモニタリングする方法に関し、ここでこの方法は、前記対象由来の癌試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルは予後不良の指標となる)を決定する工程を含む。
【0035】
ある実施形態において、この方法は、対象から癌試料を準備する工程をさらに含む。
【0036】
HP1αの発現レベルは、癌試料から、様々な技術によって決定することができる。ある実施形態においては、HP1αの発現レベルは、HP1αタンパク質又はHP1α mRNAの量を測定することにより決定される。
【0037】
特定の実施形態においては、HP1αの発現レベルは、HP1αタンパク質の量を測定することにより決定される。HP1αタンパク質の量は、当業者に既知の任意の方法によって決定され得る。一般に、これらの方法は、試料と、試料中に存在するHP1αタンパク質と選択的に相互作用することが可能な結合パートナーとを接触させることを含む。結合パートナーは通常、ポリクローナル又はモノクローナル抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。抗HP1αのポリクローナル及びモノクローナル抗体は市販されている。これら市販の抗体の例としては、Euromedexのマウスモノクローナル抗HP1α 2HP−1H5(アミノ酸67〜119に対する)、Sigmaのウサギポリクローナル抗HP1α H2164(アミノ酸177〜191に対する)及びEuromedexのマウスモノクローナル抗HP1α 2HP−2G9が挙げられる。HP1αタンパク質を定量するために、異なる方法において用いられるその他の抗体は当業者において既知であり、市販されている。HP1αタンパク質の量を、半定量的ウエスタンブロット、酵素で標識した及び酵素介在性免疫アッセイ(ELISA、ビオチン/アビジン型アッセイ、放射性免疫アッセイ、免疫電気泳動若しくは免疫沈降など)又はタンパク質若しくは抗体アレイにより測定してもよい。タンパク質の発現レベルを、癌試料(例えば凍結又はホルマリンで固定し、パラフィンで包埋した材料)の組織切片上での免疫組織化学により評価してもよい。反応は通常、蛍光、化学発光、放射性活性、酵素標識又は色素分子のような標識体を表す工程、又は、抗原と抗体若しくはそれと反応する抗体との複合体の形成を検出するその他の方法を含む。好ましくは、HP1αタンパク質の量は免疫組織化学又は半定量的ウェスタンブロットにより測定される。免疫組織化学によるHP1αの検出は、慣習的に用いられるKi−67マーカーとは異なって、抗原の脱マスキング工程を必要としないため、染色工程の時間を短縮する。
【0038】
別の実施形態において、HP1αの発現レベルは、HP1α mRNAの量を測定することにより決定される。mRNAの量を決定する方法は当該分野において周知である。例えば、試料(例えば、患者から調製した細胞又は組織)に含まれる核酸を最初に標準的な方法、例えば溶解酵素若しくは化学溶液を用いて抽出するか、又は製造業者の説明に従って核酸結合樹脂により抽出する。次に、抽出したmRNAをハイブリダイゼーション(例えばノーザンブロット解析)及び/又は増幅(例えば、RT−PCR)により検出する。好ましくは定量的又は半定量的RT−PCRが好ましい。リアルタイム定量的又は半定量的RT−PCRは特に有利である。推定されるゲノムの混入からcDNAの増幅を区別できるように、イントロンを含むようにプライマー対を設計することが好ましい。この方法において用いることができるプライマー対の例は実施例部分に示されおり、かつ、配列番号8及び配列番号9のプライマーから構成されている。当業者はその他のプライマーを容易に設計することができる。増幅のその他の方法は、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写介在増幅(TMA)、SDA法(strand displacement amplification)及び核酸配列ベース増幅(NASBA)を含む。好ましくは、HP1α mRNAの量は、定量的若しくは半定量的RT−PCRにより、又はリアルタイム定量的若しくは半定量的RT−PCRにより、又はトランスクリプトーム解析により測定される。
【0039】
ある実施形態においては、この方法は、HP1αの発現レベルと基準の発現レベルを比較する工程をさらに含む。
【0040】
特定の実施形態においては、基準となる発現レベルは、正常な試料におけるHP1αの発現レベルである。正常な試料とは非腫瘍試料であり、好ましくは癌試料と同じ組織由来のものである。正常な試料を、癌に罹患した対象から得てもよく、又はその他の対象、好ましくは正常又は健康な対象、すなわち癌に罹患していない対象から得てもよい。好ましくは、正常な試料は癌試料と同じ対象から得られる。癌及び正常な試料から得られた発現レベルを、RPLPO(酸性リボソームリンタンパク質PO)、TBP(TATAボックス結合タンパク質)、GAPDH(グリセルアルデヒド3−リン酸塩デヒドロゲナーゼ)又はβ−アクチンのような、安定した発現を有することが知られているタンパク質の発現レベルを用いて正規化してもよい。
【0041】
別の実施形態においては、基準となる発現レベルは、異なる癌試料において安定して発現する遺伝子の発現レベルである。そのような遺伝子には、例えば、RPLPO、TBP、GAPDH又はβ−アクチンが含まれる。好ましくは、基準発現レベルは、RPLPO遺伝子の発現レベルである。基準としてのヒト酸性リボソームリンタンパク質PO(RPLPO)遺伝子の使用については、de Cremouxら(de Cremoux et al., 2004)の文献に記載されている。好ましい実施形態においては、HP1α mRNAの量は、RPLPO mRNAの量に従って正規化される。RPLPO mRNAの量は、基準の量(すなわち100%)として用いられる。HP1α mRNAの量は、RPLPO mRNAの量に関する相対量として表される。
【0042】
さらなる実施形態においては、この方法は、HP1αの発現レベルが基準発現レベルと比較して高いかどうかを決定する工程をさらに含む。
【0043】
基準発現レベルが正常な試料のHP1αの発現レベルであるとき、正規化した後で、癌試料におけるHP1αの発現レベルが正常な試料における発現レベルよりも少なくとも1.5倍高い場合に高いと考えられる。好ましくは、癌試料におけるHP1αの発現レベルが正常な試料における発現レベルよりも少なくとも2倍、又は、3、4、5又は6倍高い場合に、高いと考えられる。
【0044】
基準発現レベルが異なる癌試料において安定した発現を有する遺伝子、具体的にはRPLPO遺伝子、の発現レベルであるとき、HP1α mRNAのレベル又は量が、RPLPO mRNAレベル又は量の少なくとも7、8、9、10、11、12、13、14又は15%である場合に、HP1αの発現レベルが高いと考えられる。好ましい実施形態においては、HP1α mRNAのレベル又は量が、RPLPO mRNAレベル又は量の少なくとも10%である場合に、HP1αの発現レベルが高いと考えられる。その他の基準遺伝子を用いることで、当業者により、このカットオフ値は容易に調整され得る。このカットオフ値は、具体的には乳癌に適用可能である。この値は、癌の型により多様になり得、そして当業者により容易に適用されるだろう。
【0045】
ある実施形態においては、本方法は、腫瘍悪性度、ホルモン受容体の状態、分裂指数、腫瘍サイズ、HJURP発現レベル、又はKi67、MCM2、CAF−1 p60及びCAF−1 p150のような増殖マーカーの発現、好ましくはCAF−1増殖マーカーの発現のような、少なくとも1つの別の癌又は予後マーカーを評価することをさらに含む。これらのマーカーは一般的に使用されており、そしてこれらのマーカーにより得られる結果を、予後を確認するために本方法によって得られる結果と組み合わせても良い。これらのマーカーの使用は、当業者に周知である。例としては、腫瘍悪性度をElston&Ellisの方法(Elston & Ellis, 2002)により決定することができ、ホルモン受容体の状態(エストロゲン及びプロゲステロン)をタンパク質又はmRNAレベルで決定することができ、代表的な組織切片中の10個の顕微鏡視野における有糸分裂細胞を計測することにより分裂指数を決定することができ、そして腫瘍サイズを画像技術(例えば乳房撮影)により、触診により、若しくは手術後の切除組織を用いて検出することができる。Ki67及びCAF−1の発現を、タンパク質レベル又はmRNAレベルで評価することができる。高い悪性度、高い分裂指数、大きなサイズ及び/又は高いKi67若しくはCAF−1の発現は、悪い予後の指標となる。HJURP発現レベルを、Hu et al., 2010に記載されたように評価してもよい。高いHJURP発現は臨床転帰の不良と関連がある。
【0046】
多変量の統計解析を用い、以下の実施例部分において発明者らは、HP1αの発現レベルが、これらの標準的な予後マーカーよりもよく疾患転帰を予測することを示した。
【0047】
これまでに、異なる癌細胞株におけるHP1の発現レベルが比較されてきたが、腫瘍及び非腫瘍細胞におけるHP1の発現レベルを比較する研究は行われていない。本明細書において、発明者らは初めて、同じ患者由来の非腫瘍細胞におけるHP1αの発現と比較して、HP1αが腫瘍細胞において特異的に過剰発現していることを示す。そのような過剰発現は、従って、複数の型の癌、具体的には乳癌、の診断マーカーとなる。
【0048】
従って、本発明は、対象における癌の診断方法に関し、ここでこの方法は、前記対象からの試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルは前記対象が癌に罹患していることを示す)を決定する工程を含む。
【0049】
ある実施形態においては、この方法は、対象から試料を準備する工程をさらに含む。好ましくは、この試料は腫瘍細胞を含む考えられる。
【0050】
この試料におけるHP1αの発現レベルは上述したように、好ましくはHP1αタンパク質又はHP1α mRNAの量を測定することにより、決定される。
【0051】
ある実施形態においては、この方法は、HP1αの発現レベルを、基準発現レベル、好ましくは正常な試料におけるHP1αの発現レベル、と比較する工程をさらに含む。上述したように、正常な試料とは非腫瘍試料、好ましくは試験する試料と同じ組織由来の試料である。正常な試料を、診断する対象又はその他の対象、好ましくは健康な対象から得てもよい。正常な試料及び試験する試料から得た発現レベルを、本明細書上部で記載したような、安定した発現を有することが知られているタンパク質の発現レベルを用いて正規化してもよい。
【0052】
さらなる実施形態において、この方法は、HP1αの発現レベルが前記基準発現レベルよりも高いかどうかを決定する工程をさらに含む。試験する試料におけるHP1αの発現レベルが、正常な試料における発現レベルよりも少なくとも10、25、50又は75%高い場合に、対象は癌に罹患していると診断される。好ましくは、試験する試料におけるHP1αの発現レベルが、正常な試料よりも少なくとも25%高い場合に対象が癌に罹患していると診断される。
【0053】
別の実施形態において、本方法は、腫瘍悪性度、分裂指数、腫瘍サイズ、HJURP発現レベル、又はKi67、MCM2、CAF−1 p60及びCAF−1 p150のような増殖マーカーの発現、好ましくはCAF−1増殖マーカーの発現、のような癌の診断に用いられる少なくとも1つの別のマーカーを評価することをさらに含む。これらのマーカーは診断の目的において一般的に使用されており、そしてこれらのマーカーにより得られる結果を、予後を確認するために本方法によって得られる結果と組み合わせても良い。
【0054】
本発明はまた、対象における癌の診断に有用な情報の提供方法に関し、ここでこの方法は、前記対象からの試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルは前記対象が癌に罹患していることの指標となる)を決定する工程を含む。ある実施形態において、この方法は、対象から癌試料を準備する工程をさらに含む。
【0055】
さらなる態様において、本発明は、アジュバント化学療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象を選択する方法、又は癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかを決定する方法に関し、ここでこの方法は、前記対象からの癌試料におけるHP1αの発現レベル(HP1αの高い発現レベルはアジュバント化学療法及び/又は放射線治療が必要であることを示す)を決定する工程を含む。
【0056】
ある実施形態において、この方法は、対象から癌試料を準備する工程をさらに含む。
【0057】
上述したように、この癌試料におけるHP1αの発現レベルは、好ましくはHP1αタンパク質又はHP1α mRNAの量を測定することにより、決定される。
【0058】
ある実施形態において、この方法は、臨床転帰の予測方法に関して、上述したようにHP1αの発現レベルを基準発現レベルと比較する工程を含む。基準となる発現レベルは正常な試料におけるHP1αの発現レベル、又はRPLPO遺伝子のような様々な癌試料において安定した発現を有する遺伝子の発現レベルであってもよい。
【0059】
さらなる実施形態において、この方法は、HP1αの発現レベルが前記基準発現レベルよりも高いかどうかを決定する工程をさらに含む。特定の実施形態においては、正規化した後で、癌試料におけるHP1αの発現レベルが正常な試料における発現レベルよりも少なくとも1.5、2、3、4、5又は6倍高い場合に、高いと考えられる。好ましくは癌試料におけるHP1αの発現レベルが正常な試料における発現レベルよりも少なくとも1.5倍高い場合に、高いと考えられる。別の特定の実施形態においては、HP1α mRNAの量が、RPLPO mRNA量の少なくとも7、8、9、10、11、12、13、14又は15%である場合にHP1αの発現レベルが高いと考えられる。好ましくは、HP1α mRNAの量が、RPLPO mRNAの量の少なくとも10%である場合に、HP1αの発現レベルが高いと考えられる。
【0060】
上記で説明したように、これらのカットオフ値は特に乳癌に適用され、また、癌の型によって多様になり得る。しかしながら、当業者はこのカットオフ値を容易に適用することができる。
【0061】
HP1αの高い発現レベルは、患者の生存率の低下及び/又は初期疾患進行及び/又は疾患再発の増加及び/又は転移形成の増加を示す。従って、予後不良と関連があるこの型の癌は、患者の生存の機会を改善する目的において、アジュバント化学療法及び/又は放射線治療で治療する必要がある。アジュバント療法の型は施術者により選択される。
【0062】
ある実施形態において、本方法は、腫瘍悪性度、ホルモン受容体の状態、分裂指数、腫瘍サイズ、HJURP発現レベル、又はKi67、MCM2、CAF−1 p60及びCAF−1 p150のような増殖マーカーの発現、好ましくはCAF−1増殖マーカーの発現、のような少なくとも1つの別の癌及び予後マーカーを評価することをさらに含む。これらのマーカーにより得られる結果を、本発明の方法によって得られる結果を確認するために、及び/又はアジュバント療法の選択のために用いてもよい。
【0063】
最後の態様において、本発明は、癌に罹患した対象の治療への反応をモニタリングする方法にさらに関し、ここでこの方法は、治療の投与前の前記対象からの癌試料及び治療の投与後の前記対象からの癌試料における、HP1αの発現レベル(治療の投与後に得た試料におけるHP1αの発現レベルの低下は、対象が治療に反応することの指標となる)を決定する工程を含む。
【0064】
ある実施形態において、この方法は、対象から癌試料を準備する工程をさらに含む。
【0065】
治療は、任意の化学療法又は放射線治療であってよい。最初の癌試料は、治療の投与前に対象から得られる。二番目の試料は、治療の投与後に同じ対象から得られる。好ましくは、二番目の試料は、選択した治療による、細胞増殖への有意な効果が期待される場合に採取される。ある実施形態においては、二番目の試料は治療投与の少なくとも2日後、好ましくは前記投与の1週間後に採取される。
【0066】
患者の治療への反応性は、治療の前及び後の腫瘍細胞におけるHP1αの発現レベルを決定することにより評価される。癌試料におけるHP1αの発現レベルは上述したように、好ましくはHP1αタンパク質又はHP1α mRNAの量を測定することにより決定される。治療前に採取した試料に含まれる腫瘍細胞におけるHP1αの発現レベルと比較して、治療後に採取した試料に含まれる腫瘍細胞におけるHP1αのより低い発現レベルが、対象が治療に反応することを示す。
【0067】
ある実施形態において、この方法は、腫瘍悪性度、ホルモン受容体の状態、分裂指数、腫瘍サイズ、HJURP発現レベル、又はKi67、MCM2、CAF−1p60及びCAF−1 p150のような増殖マーカーの発現、好ましくはCAF−1増殖マーカーの発現、のような、少なくとも1つの別の癌マーカーを評価することをさらに含む。
【0068】
この方法は、必要とされる治療の期間及び/又は程度の指標をもまた提供するだろう。この例においては、各治療サイクルの後の経過観察は、治療前よりもHP1αの発現レベルが低いかどうかを決定し、従って、それに応じて治療の期間及び/又は程度を調整することを可能にする。
【0069】
本発明はさらに、癌における、好ましくはヒトの癌における、そしてより好ましくはヒトの乳癌における、予後マーカーとしてのHP1αの使用に関する。好ましい実施形態において、HP1αは、局所的又は全身性の浸潤のない、早期乳癌における予後マーカーとして用いられる。本明細書で使用する場合、「予後マーカー」という語は、癌に罹患した対象の臨床転帰を予測する又はモニタリングするために用いられる化合物、すなわちHP1αを指す。
【0070】
本発明はまた、癌の、好ましくはヒトの癌の、そしてより好ましくはヒトの乳癌の診断マーカーとしてのHP1αの使用に関する。本明細書で使用する場合、「診断マーカー」という語は、対象における癌の診断のために用いられる化合物、すなわちHP1αを指す。
【0071】
本発明はまた、アジュバント療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象を選択するための、又は癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかを決定するためのマーカーとしてのHP1αの使用に関する。好ましくは、この癌はヒトの癌であり、より好ましくはヒトの乳癌である。
【0072】
本発明はさらに、癌に罹患した対象の治療への反応をモニタリングするためのマーカーとしてのHP1αの使用に関する。好ましくは、この癌はヒトの癌であり、より好ましくはヒトの乳癌である。
【0073】
HP1αを、上述した本発明の方法のうちのいずれか1つにおいて、マーカーとして使用することができる。
【0074】
別の態様において、本発明はさらに、
(a)癌に罹患した対象の臨床転帰を予測又はモニタリングするための;及び/又は
(b)対象における癌を診断するための;及び/又は
(c)アジュバント療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象を選択するための、若しくは癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかを決定するための;及び/又は
(d)癌に罹患した対象の治療への反応をモニタリングするための、
キットに関し、ここでこのキットは、
(i)少なくとも1つの、HP1αに特異的な抗体、及び任意に、HP1αと前記少なくとも1つの抗体との複合体の形成を検出する手段;及び/又は
(ii)少なくとも1つの、HP1α mRNA又はcDNAに特異的なプローブ、及び任意に、前記少なくとも1つのプローブと、HP1α mRNA又はcDNAとのハイブリダイゼーションを検出する手段;及び/又は
(iii)少なくとも1つの、HP1α mRNA又はcDNAに特異的な核酸プライマー対、及び任意に、前記mRNA又はcDNAを増幅及び/又は検出する手段;及び、
(iv)任意に、そのようなキットの使用についての指針を提供する印刷物、
を含む。
【0075】
本発明のさらなる態様及び利点を以下の実施例に記載するが、この実施例は説明するのためのものであり、限定するものではないと見なされるべきである。
【0076】
実施例
実施例1
材料及び方法
細胞培養及び同調化
Wi38初代肺線維芽細胞(ATCC)及びBJ初代包皮線維芽細胞(ATCC)をMEMα培地(GIBCO)中で、MCF7乳癌細胞及びHeLa子宮頸癌細胞をDMEM(GIBCO)中で、Hs578T乳癌細胞を10mMのインスリン(Sigma)を含むRPMI培地(GIBCO)中で、及びHs578Bst健康乳房細胞(ATCC)を30ng/mlの上皮成長因子(TEBU)を含むDMEM中で培養した。培地には10%ウシ胎仔血清(Eurobio)並びに10mg/mlのペニシリン及びストレプトマイシン(GIBCO)を添加した。
【0077】
静止期での同調化のために、初代細胞を、血清を含まない培地中で少なくとも72時間、MCF7細胞については10nMの抗エストロゲンICI182780(Fischer Bioblock Scientific)(Carroll et al, 2000)を含む培地中で48時間、生育させた。
【0078】
同調化を(Polo et al, 2004)に従ってフローサイトメトリーにより確認し、データをFlowJo(Tree Star Inc.)を用いて解析した。
【0079】
HeLa細胞を、(Polo et al, 2004)に記載されているように、細胞周期の異なる段階において同調化した。BJ細胞を、14時間遮断、10時間解除、14時間の再遮断、及び、S、G2及びG1期のそれぞれについて3、6、又は12時間の解除、を行った以外は、同様に同調化した。有糸分裂をしているBJ細胞については、チミジンからの2回目の解除の4時間後に10ng/mlのノコダゾールを添加し、10時間後に細胞を回収した。同調化を(Polo et al, 2004)に記載されているようにフローサイトメトリーにより解析した。フローサイトメトリーデータの解析は、FlowJo(Tree Star Inc.)ソフトウェアを用いて行った。
【0080】
トランスフェクション及びsiRNA
抗生物質を含まない培地にプレーティングしたHeLa細胞を、Oligofectamine試薬(Invitrogen)及びOptimem 1培地(Gibco)を用い、30nMのsiRNAでトランスフェクションした。
【化1】

【0081】
BJ初代細胞を、27回目の継代(ATCCからの受領後、8回目の継代)の時に、nucleofection(Amaxa)を用いて製造業者の説明に従って、トランスフェクションした。簡単に述べると、4×10個の細胞を、nucleofection program X−001を用い、100μlのNucleofector solution R(Amaxa)に溶解した0.8nmolのsiRNA(Dharmacon)又は1μgのプラスミドDNAでトランスフェクションした。その後細胞を、4日以内にコンフルエンスに達しないように増殖させるため、7000細胞/cm2の密度でプレーティングした。
【0082】
ライブセルイメージング
ライブセルイメージング用に、BJ細胞を72時間の間隔でsiRNAで2回トランスフェクションした。2回目のトランスフェクションではH2B−cherryをコードしているプラスミドを導入し、そしてガラスボトムディッシュ(Mattek)にプレーティングした。Bio Stationシステム(Nikon)を用いて動画を作成した。2回目のトランスフェクションから48時間後に開始して24時間の間、画像を20分毎に取得した。動画をImageJを用いて解析した。
【0083】
細胞抽出物
全細胞抽出物については、PBS中で洗った後、細胞をプレートから1×Laemmli緩衝液(60mM Tris−Hcl、pH6.8;10%グリセロール;2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);1%2−メルカプトエタノール及び0.002%ブロモフェノールブルー)中にかき取り、そしてこれらの抽出物を10分間煮沸し、その後−20℃で保存した。
【0084】
クロマチン結合細胞抽出物は、(Martini et al, 1998)に従って準備した。タンパク質濃度をBio−Radタンパク質アッセイ溶液を用いて決定した。
【0085】
抗体
一次抗体:Euromedexのマウスモノクローナル抗HP1α 2HP−1H5及びSigmaのウサギポリクローナル抗HP1α H2164(それぞれ、アミノ酸67〜119及び177〜191、に対する)(免疫蛍光法及び免疫組織化学用)、ウエスタンブロット用マウスモノクローナル抗HP1α 2HP−2G9(Euromedex)、マウスモノクローナル抗HP1β 1MOD1A9(Euromedex)、マウスモノクローナル抗HPlγ 2MOD−1G6−AS(Euromedex)、抗CRESTヒト血清、ウサギポリクローナル抗CAF−1 p60、マウスモノクローナル抗β−アクチン AC−15(Sigma)、マウスモノクローナル抗KL1抗体(Dako)、ウサギポリクローナル抗サイクリンA(Santa Cruz)、マウスモノクローナル抗H3S10P(Abcam ab14955)及びウサギポリクローナル抗Cdtl(Santa Cruz28262)。
【0086】
二次抗体:Interchimのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはテキサスレッド結合抗体(免疫蛍光法)又は西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗体(ウェスタンブロット)。
【0087】
ウェスタンブロット
25Uのbenzonase nuclease(Novagen)で30分間処理した後、細胞抽出物をl×MES migration緩衝液(Invitrogen)を用いて4〜12%の勾配ゲル(Invitrogen)にロードし、その後(Martini et al, 1998)に記載の通りにウェスタンブロットを行った。
【0088】
免疫蛍光法
2%のパラホルムアルデヒド中で固定した後、PBSに溶解した0.2%TritonX−100中で細胞を透過処理した。免疫蛍光検出は(Martini et al, 1998)の通りに行った。4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を含むVectashield封入剤(Vector Laboratories)中にカバーグラスを封入した。
【0089】
組織試料上での免疫蛍光法用に、凍結した乳房組織(Curie Institute、Paris、France)から8μmの凍結切片を作成し、スライドグラス上、3% パラホルムアルデヒド中で固定し、その後免疫染色を上述したように行った。
【0090】
免疫組織化学
凍結した乳房組織(Curie Institute、Paris、France)からの8μm凍結切片又は凍結組織アレイ(FMC401、Biomax)を用いた。スライドグラス上、3%パラホルムアルデヒド中で固定し、そして0.5%Tritonを含むPBS中で4分間透過処理した切片を、ペルオキシダーゼを阻害するために3%H(Prolabo)中で5分間インキュベートし、その後1%BSAと5%脱脂粉乳を含むPBS中でブロッキングした。ブロッキング溶液で希釈した一次抗体と共にインキュベートし、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Dako Cytomation)及びジアミノベンジジン(Dako Cytomation)を用いて検出し、その後ヘマトキシリン(Merck)を用いて対比染色した。高濃度のエタノールとトルエンでスライドを脱水し、その後Entellan封入剤(Merck)を用いて封入した。
【0091】
RNAの抽出、定量的RT−PCR及びプライマー
細胞株又は凍結した患者試料からのトータルRNAの抽出にはmRNeasyミニキット(Qiagen)を用い、そして1反応当たりlμgのRNAと3μgのランダムプライマー(Invitrogen)を用い、Super script II逆転写酵素(Invitrogen)によりcDNAを合成した。定量的PCRには、Lightcycler 2.0システム(Roche)及びLightcycler FastStart DNA Master SYBR Green I reactionキット(Roche)を用いた。患者試料については、96−ウェルプレートのStep One Plusシステム(Applied Biosystems)及びSYBR Green PCR Master mix(Applied Biosystems)を用いた。2連の反応を測定し、そしてプライマー効率を評価するために、3つの連続希釈したcDNAを用いた。推定されるゲノムの混入からcDNAの増幅を区別できるように、プライマー対をイントロンを含むように設計した。
【化2】


HP1α mRNAの量を、x=E(Cp RPLPO−Cp HP1α)の式(式中、Eはプライマー対の効率の平均、及びxは示された試料におけるRPLPO mRNAの量に対するHP1α mRNAの相対量)を適用することにより、ヒト酸性リボソームリンタンパク質PO(RPLPO)(de Cremoux et al, 2004)に対して正規化した。
【0092】
乳癌患者試料及び統計値
本研究は、最初の保存的な腫瘍摘出術のために、Institut Curie Biological Resources Centerから選択した92の乳癌試料(腫瘍の中間サイズ:18mm[6〜50mm])を含んだ。患者は1995年に診断され、そしてリンパ節陰性(NO)、かつ、転移が無い(MO)であると認められた。患者には調査目的が告知され、患者は反対意見を表明しなかった。患者及び腫瘍の特徴を表1に示す。冷凍保存した組織からRNAを抽出し、そして上述したように解析した。86の試料からのRNAはさらなる解析に十分な質であった。
【0093】
群間の差を、カテゴリー変数についてはχ又はフィッシャーの直接確率検定によって、及び連続変数についてはクラスカル・ワリスによって解析した。再発がなく、生存している患者については、最後に会ったことが分かっている日時で調査を打ち切った。生存データは乳癌と診断された日から疾患進行の発生までの期間として定義し、疾患進行の発生は治療した乳房における局所再発、リンパ節領域における局所再発、対側乳癌又は遠隔再発として定義した。無病期間(DFI)についての予後カットオフ値の決定はコックスの比例ハザードモデル(Cox proportional risks model)を用いてコンピューターにより行った。各イベントにおけるこの変数の予後値の評価には、ワルド検定を用いた。全生存(OS)、無転移期間及びDFI率をカプラン・マイヤー法により予測し、そしてログランク検定を用いて群間の比較を行った。コックスの前向き解析(Cox stepwise forward procedure)(Cox1972)を用いて、OS及びDFIにおける予後因子の相対的な影響を評価するために多変量解析を行った。有意なレベルは0.05であった。解析はRソフトウェア2.5.0バージョンを用いて行った。
【0094】
結果
HP1αの発現は細胞増殖に依存する
近年の研究には、HP1タンパク質が、未分化の血液細胞と比較して、分化した血液細胞でダウンレギュレートされていることが記載されてきた(Baxter et al, 2004; Gilbert et al, 2003; Istomina et al, 2003; Ritou et al, 2007)。このダウンレギュレーションは、細胞周期からの離脱に共通の反応、又は(血液)細胞の分化に特異的な結果だと考えられる。この問題を扱うために、発明者らは分化過程を伴わない、一過性の細胞周期からの離脱が同様にHP1のダウンレギュレーションを生じるかどうかについて試験した。血清飢餓によって静止期を誘導した2種類の異なるヒト初代線維芽細胞(WI38及びBJ)を用い、発明者らは、HP1β又はγではなく、HP1αのタンパク質レベルが、増殖期細胞と比較して静止期細胞ではより低いことを観察した(図1A)。抗エストロゲン処理により静止期で停止させたMCF7乳癌細胞(Carroll et al, 2000)も同様に、HP1β又はγではなく、HP1αのダウンレギュレーションを示す。従って、静止期を誘導するための2つの異なる手段を用いて、発明者らは、その量が細胞が静止期にあった時間に関係する、HP1αイソ型の特異的なダウンレギュレーションを見いだした。対照として、全ての静止期細胞におけるCAF−1 p60のダウンレギュレーション(Polo et al, 2004)を確認し(図1A)、フローサイトメトリーにより同調効率を評価した(図1B)。非同調的増殖期の細胞と比較した場合、静止期BJ細胞もまた低いHP1α mRNAレベルを示すことから(定量的RT−PCRにより決定した、図1C)、CAF−1 p150及びp60と同様に、一過性の静止期におけるHP1αのダウンレギュレーションは部分的には転写制御に関係する。静止状態からの離脱に際しては、HP1αのタンパク質レベルは、細胞周期への進入の時間(フローサイトメトリーにより決定した、図2B)と対応する、解除から16〜24時間の間に徐々に増加する(図2A)。HP1αの蓄積はCAF−1 p60のうちの1つより早く起こり(図2A)、大部分はDNA複製の開始において観察された。
【0095】
静止期において観察されるHP1αのダウンレギュレーションは、静止状態に特異的か、又は細胞周期の特定の状態に限定される発現を反映するものだと考えられた。そこで発明者らは、同調させたHeLa細胞の細胞周期経過におけるHP1αのレベルを解析した。細胞周期マーカーであるサイクリンAとは対照的に、同調した細胞集団におけるHP1αレベルの有意な変動は観察されなかった(図3A、B)。同様に、正常な細胞周期の制御を示すヒト初代線維芽細胞は、同調した細胞集団におけるHP1αタンパク質(図3C)及びmRNAと本質的に類似したレベルを示す(図3D、E)。この点においてHP1αは、細胞周期経過において普遍的に発現するが静止期においてダウンレギュレートされる、CAF−1 p60及びp150と同様にふるまう(図1及び3;((Polo et al, 2004))。結論として、HP1αの発現レベルは増殖可能な細胞において細胞周期の全ての状態において高く、HP1αのダウンレギュレーションは静止状態に特異的である。
【0096】
HP1αは乳癌細胞において過剰発現する
HP1αの増殖依存的な発現は、CAF−1 p60(Polo et al, 2004)を含む増殖マーカーに見られるような、腫瘍及び非腫瘍細胞間での差次的発現の可能性を示唆するものである。この問題を試験するために、発明者らは比較のため、同じ患者由来の腫瘍(Hs578T)又は非腫瘍(Hs578Bst)(Hackett et al, 1977)いずれかの乳房細胞を用いた。全細胞抽出物に加え、可溶性画分及びクロマチン結合画分の両方におけるHP1タンパク質のレベルも解析した(図4A)。実際には、HP1タンパク質は、高濃度塩を用いた又はTritonX−100界面活性剤を用いた抽出に抵抗性があることで区別される、様々な核画分に分布する。HP1の塩又は界面活性剤抵抗性プールは、活性な、HP1のクロマチン結合プールであり、そしてウエスタンブロット定量(Taddei et al, 2001)又はFRAP(Cheutin et al, 2003; Dialynas et al, 2007; Festenstein et al, 2003)によって決定されたように、ヒト及び齧歯類細胞の全HP1の10%未満を示すと考えられる。
【0097】
クロマチン結合及び可溶性核画分の両方において、発明者らは、非腫瘍Hs578BsT細胞と比較して腫瘍Hs578T細胞においてより高いレベルのHP1αを観察したが、HP1β又はγの発見はローディングコントロールであるβ−アクチンと比較してほとんど差を示さない(図4B)。同一量の細胞をロードした場合も、特異的な、HP1αの腫瘍での過剰発現を示す(図5)。全細胞抽出物を用いた半定量的ウエスタンブロットは、ローディングコントロールと比較して、腫瘍Hs578T細胞は非腫瘍Hs578BsT細胞よりもおよそ8倍多いHP1αタンパク質を含むことを示す(図4C)。フローサイトメトリーにおいて腫瘍Hs578T細胞が非常に中程度な異数性を示すことから(図4D)、発明者らは、HP1αの発現レベルが細胞のDNA含量を反映している可能性を排除することができた。定量的RT−PCRにより検出したHP1α mRNAの過剰発現(図4E)はさらに、少なくとも部分的には転写を含む制御を示す。
【0098】
クロマチン結合及び可溶性画分に関する本解析は、腫瘍細胞におけるHP1αの過剰発現は部分的にはクロマチン結合であり、そのためクロマチン構成に重要である可能性を示唆するものである。これは、非腫瘍乳房細胞では粒状で分散しているが、乳癌細胞の大部分においては別々のスポットとしてはっきりと局在する(図6A)、その核局在と一致するようである。CREST自己免疫血清により検出したように、これらのスポットの大部分はセントロメア領域に局在する(図6A)。さらに、HP1αの差次的な局在は、変化したH3K9me3の核分布を伴わず(図6B)、そして細胞周期マーカーの染色により検出されるように(図6C)、HP1α染色の異なるパターンは細胞周期の特定の状態とは相関しないようであった。結論として、本細胞株モデルは、HP1β又はγではなくHP1αの、非腫瘍乳房細胞と比較して腫瘍乳房細胞での過剰発現を示した。乳癌細胞におけるHP1αの大部分の画分はクロマチン結合であり、そしてセントロメア領域に局在する。
【0099】
HP1αのダウンレギュレーションは有糸分裂の欠損を生じる
HP1β又γには見られない、HP1αの増殖依存的発現は、このイソ型に特異な機能を指摘し、そしてこのタンパク質の量が多いことが細胞成長に有利になり得ることを示唆するものである。興味深いことに、CAF−1 p150のダウンレギュレーションは、そのHP1タンパク質との相互作用による、S期での著明な停止を生じる(Quivy et al, 2008; Quivy et al, 2004)。そのため、発見者らは、ヒト癌細胞の増殖においてHP1α、β又はγの高い発現レベルが必要なのかどうかについて試験した。HP1α、β又はγを標的とするsiRNAを用いてHeLa細胞をトランスフェクションすることにより、HP1の各イソ型の特異的なダウンレギュレーションを得た(図7A)。その結合パートナーであるCAF−1 p150(Quivy et al, 2008)のダウンレギュレーションと比較して、HP1イソ型のダウンレギュレーションは、フローサイトメトリーによって評価したように(図7B)、細胞増殖において明らかに影響を及ぼさなかった。発明者らは、乳癌細胞株Hs578TにおけるHP1αのダウンレギュレーションについても同様の結果を得た。しかしながら、これまでの報告と同様に(Auth et al, 2006; Obuse et al, 2004)、発明者らは、HP1αのダウンレギュレーションの後に遅滞染色体、不均衡及び染色体橋を示す(図7C)有糸分裂プロファイルの画分の増加を認めた。これらを異常な有糸分裂画分として定量した(図7D)。興味深いことに、本実施例の条件下においては、HP1β又γのダウンレギュレーションは有糸分裂欠損の増加をもたらさず、このことはHP1αイソ型のみが正常な有糸分裂に重要であることを示唆している。さらに、HP1β又γではなく、HP1αのダウンレギュレーションの後に小核の形成が3倍増加したことが観察されたことからも、有糸分裂の欠損が支持された(図7E、F)。
【0100】
HeLa細胞がこれまでに、多くの画分での有糸分裂の欠損(〜20%)及び多くの画分での小核の形成(〜10%)を示したことから、さらなる解析のために、発明者らは、細胞周期の制御及びチェックポイントの活性に有用な、初代線維芽細胞を用いた。HP1αに対する2つの異なるsiRNAを用いた一過性のトランスフェクションは、このイソ型の特異的なダウンレギュレーションを生じた(図8A)。ここでも、発明者らはフローサイトメトリーによる全体的な細胞周期分布における有意な効果を検出しなかったが(図8B)、顕微鏡観察により、少なくはあるが再現可能な前中期のパーセンテージの増加、及び中期のパーセンテージの低下を認めた(図8C)。興味深いことに、この効果は、HP1αのショウジョウバエ(Drosophila)ホモログの突然変異(Kellum & Alberts, 1995)、又はニワトリ細胞におけるセントロメアヒストンH3変異体CENPAの不活性化(Regnier et al, 2005)において見られる効果と類似するものである。ライブセルイメージングを用い、HP1αのダウンレギュレーション後の有糸分裂期間における、対照と比較して、少なくはあるが統計学的に有意な(p=4.9e−7)増加を測定した(図8D、上段のグラフ)。興味深いことに、ここでもまた、遅延は主に実際の染色体分離に先立つ工程に影響した(図8D、下段のグラフ)。結論として、腫瘍及び初代細胞両方を用いた本観察は、おそらく位置の調整、又は染色体の中期における安定した結合に寄与することによる、HP1αの初期有系分裂における役割を示唆するものである。
【0101】
ヒト癌試料におけるHP1αの過剰発現
乳癌細胞株におけるHP1αの増殖依存的発現及びその過剰発現は、発明者らを、ヒトの癌の生理学的な状況におけるHP1αの発現について研究するよう促した。最初に、異なる組織型において行われ、報告されたトランスクリプトーム研究からのデータをOncomineデータベース(Rhodes et al, 2004)を用いて解析した。これらのデータは、HP1αが複数の型の固形腫瘍並びに白血病において有意に及び一貫して過剰発現すること(図9A)、及びその発現が結合パートナーであるCAF−1 p150及び増殖マーカーKi67の発現と相関すること(図9B)を示した。
【0102】
培養細胞における本結果は、HP1αタンパク質レベルの差が、対応するmRNAレベルよりも顕著であり(図1及び4)、おそらく転写後の制御を反映しているのだろうということを系統的に示した。これに刺激され、発明者らは免疫組織化学により、凍結した腫瘍及び非腫瘍ヒト組織切片におけるHP1αタンパク質レベルを解析した。膵臓、子宮、卵巣、前立腺及び乳房での悪性腫瘍の腫瘍細胞の核において、HP1αの強い染色が系統的に観察された(図10A)。対応する非腫瘍組織においては、HP1αレベルは主に、検出限界よりも低かった。HP1β及びγは腫瘍及び非腫瘍組織の両方での核染色を示す中で、この差次的発現はHP1αに特異的であった(図10B)。癌細胞に対応するHP1αの強い免疫染色を示す核は、上皮サイトケラチンマーカーKL−1についてもまた陽性であった(図10C)。加えて、図10で用いられたモノクローナル抗体よりも強い染色を呈するHP1αに対するポリクローナル抗体もまた、癌細胞における明かな過剰発現と、非腫瘍組織におけるいくらかの染色を示した(図11A)。しかしながら、H3K9me3についての染色は、非腫瘍及び腫瘍組織間での明かな差は示さず(図11B)、このことはHP1αの検出がより感受性であるか、又は過剰発現がH3K9me3とは独立して生じるかのいずれかを示唆するものである。
【0103】
腫瘍成長及び疾患転帰におけるHP1αの過剰発現の重要性を決定するために、1995年に採取され、凍結保存した乳癌標本を選択した。発明者らは、それらのサイズ(中間値18mm;範囲6〜50mm)が最初の保存的腫瘍摘出に適した、リンパ節転移陰性及び転移のない浸潤癌に焦点を当てた。これらの症例ではアジュバント化学療法の指標である新しい予後マーカーから恩恵を受けると考えられる。患者及び腫瘍の特徴は以下のとおり、表1に示した。
【0104】
【表1】

【0105】
経過観察の中間値は146ヶ月である(範囲30〜161)。10年目での全生存、遠隔再発及び疾患進行率はそれぞれ、90%[83〜97%]、87%[80〜95%]及び70%[61〜81%]であった。86の試料におけるHP1α mRNA発現レベルを定量的RT−PCRにより測定し、発現レベルを基準遺伝子であるリボソームタンパク質PO様タンパク質(RPLPO)(de Cremoux et al, 2004)に対して正規化した。発明者らはHP1αの高いレベルが患者の年齢上昇と関連し(p=0.0014)、より大きく、高度に分裂した、グレードIIIの腫瘍と関連する(有意差なし)傾向にあることを見いだした(図12A)。単変量解析においては、HP1αの継続的な発現は、疾患進行のリスク増加と有意に関連した:log2(HP1α)の1単位の増加は、疾患進行のリスクを3%増加させた(RR=1.03[1.00−1.05]、p=0.041)。発明者らは、患者を2群に分け(74.4%がHP1αレベル≦10及び25.6%がHP1αレベル>10)、疾患進行と有意に関連がある(p=0.0113;相対リスク=2.47[1.20−5.09])カットオフ値が10であることを決定した。10年目においては、HP1αレベルが低い患者の75%[64−87]対HP1αレベルが高い患者の57%[39−83]が疾患の進行を示さなかった。さらに、このカットオフ値は全生存(p=0.0134;相対リスク=3.76[1.03−13.7])及び遠隔再発の発症(p=0.011;相対リスク=3.74[1.26−11.2])とも有意に関連する(図12B)。
【0106】
既知の予後因子(すなわち患者の年齢、分裂指数、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、ホルモン受容体の状態及びKi67レベル)で調整される多変量解析では、HP1αの発現のみが全生存における独立した予後因子である(p=0.0431):高い(>10)HP1αレベルが死亡リスクの上昇と関連する(相対リスク=3.76[1.03−13.7])。同様に、同じパラメーターで調整すると、高いHP1αの発現(p=0.0077;相対リスク=3.02[1.38−6.63])及び高い腫瘍悪性度(p=0.0170;グレードIIIについての相対リスク=4.53[1.51−13.6])のみが疾患進行を悪化させる。
【0107】
結論として、免疫組織化学による本結果は、HP1β又はγではなく、HP1αが複数の型のヒト癌細胞において過剰発現することを示すものである。さらに、HP1αについて行った定量的RT−PCR解析は、臨床病理学的データ及び疾患転帰との有意な相関関係を示した。本区分の86の小さい乳房腫瘍においては、HP1αの高い発現は、分裂指数、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、ホルモン受容体の状態又はKi67のような古典的な予後マーカーを用いた調整の後においても、依然として全生存における独立した予後因子である。まとめると、これらのデータは、HP1αが、乳癌及びその他の型の癌の予後のための、臨床的関連における細胞増殖及び腫瘍形成の新しいクロマチン関連マーカーを構成することを示す。
【0108】
考察
HP1αイソ型の特異な制御
HP1ファミリーのタンパク質は、20年以上前に同定されたが(James & Elgin, 1986)、3つのイソ型に共通の又は異なる機能の大部分は明らかになっていない。本結果は、ヒトの細胞においては、HP1αイソ型が、HP1β及びγとは共通しない、特異な特性を有することを示す。タンパク質は増殖依存的に発現し、一過性の細胞周期からの離脱の間、ダウンレギュレートされる。これらの発見と一致して、培養癌細胞は、非腫瘍細胞と比較してHP1αを過剰発現する。重要なことは、このことが患者試料において確認されたことである。従って、これらのデータは、HP1β又はγとは異なる、HP1αの特異な制御を示すものである。
【0109】
癌におけるHP1αの重要性
HP1α発現の臨床上における重要性を評価するために、ヒト癌におけるHP1αタンパク質及びmRNAレベルを免疫組織化学及び定量的RT−PCRにより解析した。凍結保存したヒト組織試料の染色は、腫瘍細胞においてHP1β又γではなく、HP1αの有意な過剰発現を示した。従って、HP1αは、複数の型の癌を診断するためのマーカーを構成する。Ki67のようなその他の増殖マーカーとは対照的に、HP1αは全ての腫瘍細胞を染色するため、腫瘍の正確な位置及び度合いに決定するのに非常に適している。
【0110】
HP1αの発現を定量し、そして予後値を決定するために、10年より長く経過を管理をした86の小さい乳房腫瘍におけるHP1αのmRNAレベルを測定した。本データは、HP1αの高い発現が、経過期間における生存の低下及び転移発生の増加と相関することを明らかにした。さらに、多変量解析は、標準的な予後マーカーよりも、HP1αのレベルが疾患転帰をより正確に予測することを示した。従って、HP1αは、乳癌及びその他の型の癌における予後値のマーカーを構成する。
【0111】
実施例2
材料及び方法
DNA及びRNAマイクロアレイ解析
Institut CurieのBiological Resource centerから選択された、158のよく注釈付けられた凍結腫瘍試料及び19の健康な乳房組織から、RNeasy kit(Qiagen、France)及びRNA clean up kit(Macherey Nagel、France)を用いてトータルRNAを抽出した。各RNA試料の質をAgilent 2100バイオアナライザーを用いて決定した。RNAの量は、分光光度計を用いて260nmで測定した。RNAをU133 plus 2.0 Affymetrixチップ上にハイブリダイズさせた。トランスクリプトームのデータをGC−RMA(Irizarry、Hobbs et al.2003)を用いて正規化した。生データ及び正規化したトランスクリプトームのデータは、Gene Expression Omnibus(アクセッション番号:[GSE13787])で公開されている。
【0112】
逆相タンパク質アレイ解析
タンパク質アレイ用に、トランスクリプトーム解析に用いた試料の内の168の凍結ヒト腫瘍を、50mM Tris(pH6.8)、2% SDS、5% グリセロール、2mM DTT、2.5mM EDTA、2.5mM EGTA、2mM オルトバナジウム酸ナトリウム、10mM フッ化ナトリウム、並びにプロテアーゼ(Roche、France)及びフォスファターゼ(Pierce、Perbio、France)インヒビターのカクテルを含む緩衝液中で溶解した。Tissue Lyser(Qiagen、France)を用いて、5mmのステンレス製ビーズ(Qiagen、France)と共に30Hzで2分間ホモジナイズした。溶解物を100℃で10分間煮沸し、そして−80℃で保存した。タンパク質濃度をBCA Protein Assay Kit−Reducing Agent Compatible(Pierce、Perbio、France)により決定した。全ての溶解物について、5種類の2倍連続希釈液を、ニトロセルロースでコーティングしたスライドグラス(FAST slides、Whatman)上に、SMP3XBピン(チップの直径=75μm、1スポット当たりの容積=1.2nl;Telechem、Proteigene、France)を備えたMicro Grid Compactアレイヤー(Bio Robotics、Dutscher Scientific Instrumentation、France)装置を用いて3連でスポットした。次に、スライドをアビジン、ビオチン、及びペルオキシダーゼブロッキング試薬(Dako、France)と共にインキュベートし、その後0.1% Tween−20及び5% BSA(TBST−BSA)を含むTBSで飽和させ、そしてTBST−BSAで希釈した一次抗体(ウサギポリクローナル抗HP1α、H2164、Sigma)と共に、4℃で一晩インキュベートした。TBST中で洗った後、アレイをTBST−BSAで希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Jackson Immuno Research Laboratories、Interchim、France)を用いて、室温で1時間プローブ化した。Bio−Rad Amplification Reagent(Bio−Rad、France)を用いて室温で10分間反応させて、シグナルを増幅させた。次にスライドを10% DMSOを含むTBSTで2分間すすぎ、TBST−BSAで希釈したCy5−ストレプトアビジン(Jackson Immuno Research Laboratories、Interchim、France)を用いて室温で1時間プローブ化した。蛍光シグナルをGenePix 4000Bマイクロアレイスキャナー(Molecular Devices、France)を用いてスキャンした。スポットの検出及びシグナルの定量はMicro Vigeneソフトウェア(Vigene TechInc、MA)を用いて決定した。シグナル強度を、ネガティブコントロール(一次抗体なし)及び全タンパク質染色の両方に対して正規化した。このために、1枚のスライドを7%酢酸と10%メタノールの溶液で15分間固定し、その後Sypro Rubyタンパク質染色溶液(Molecular Probes、S11791)で染色した。
【0113】
統計分析
統計分析には、Rソフトウェアv2.4.0を用いた。分布を正規化するために、データをLog(2)により変換した。差次的発現をT検定により評価した。5%未満のp値を有意だと見なした。
【0114】
結果
この10年で、マイクロアレイでのmRNA発現プロファイルに基づき、複数の研究が、乳癌が4つの主要な群、(i)ルミナール乳癌、主にER陽性であり、さらにルミナールA(グレードが低い)及びルミナールB(グレードが高い)に分類される;(ii)基底細胞様乳癌、主にER、PR及びHER2陰性;及び(iii)HER2過剰発現癌(Sotiriou and Piccart 2007)、に分類できることを示した。HP1αの発現をこれらの異なる分類の乳房腫瘍において解析した。
【0115】
158のよく注釈付けられた乳癌試料、及び19の健康な乳房細胞試料からのトランスクリプトームデータを解析した。試料の分子的な特徴を図13Aに要約した。得られた発現プロファイルは、全ての高いグレードの腫瘍サブタイプ(ルミナールB、HER2+及び基底細胞様)が、健康な組織と比較して、有意なHP1α mRNAの過剰発現を示すことを示すものである(図13B)。興味深いことに、HP1αの過剰発現は、基底細胞様乳癌において特に重要である(図13B)。ER、PR及びHER2の過剰発現が陰性なこれらの乳房腫瘍は、効果的な治療に対して臨床的に悪性の癌であり、現在のところ予後マーカーがない(Rakha and Ellis 2009にまとめられている)。
【0116】
HP1αが、高いグレードの腫瘍サブタイプ(ルミナールB、HER2+及び基底細胞様)における標的となるであろうことを確認するために、逆相タンパク質アレイ(RPPA)技術を用い、タンパク質レベルでその発現レベルを解析した。このマイクロドットブロット技術は、ニトロセルロースで覆ったスライドグラス上に、非常に少量(1ng)のタンパク質溶解物を乗せる工程を含む。その後、目的のタンパク質を特異的抗体を用いて明らかにした。この方法においては、全168の乳房腫瘍試料からのタンパク質溶解物を、それらのHP1αのタンパク質レベルについて同時に解析した。異なる腫瘍型から得られたプロファイルは、トランスクリプトームプロファイルと近似し(図13C)、グレードの高いルミナールB腫瘍及び基底細胞様乳癌における発現レベルが特に高かった。
【0117】
従って、これらの結果から、HP1αが予後及び診断マーカーとして使用可能であることを確認した。HP1αの発現レベルが特に、最も悪性の臨床的挙動を有する乳癌サブタイプである、基底細胞様、ルミナールB、及びHER2過剰発現乳癌においてその発現が高いことから、乳癌における予後マーカーに適している。
【0118】
さらに、これらの結果から、HP1α発現レベルを、mRNAレベルにおいてだけでなく、タンパク質レベルにおいても定量的な方法で評価することができることを確認した。
【0119】
【表2】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌に罹患した対象の臨床転帰を予測又はモニタリングするインビトロでの方法であって、該方法が前記対象からの癌試料におけるHP1αの発現レベルを決定する工程、ここでHP1αの高い発現レベルは予後不良の指標となる、を含む方法。
【請求項2】
対象における癌を診断するインビトロでの方法であって、該方法が前記対象からの試料におけるHP1αの発現レベルを決定する工程、ここでHP1αの高い発現レベルは前記対象が癌に罹患していることの指標となる、を含む方法。
【請求項3】
アジュバント化学療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象を選択する、又は癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかを決定するインビトロでの方法であって、該方法が前記対象からの癌試料におけるHP1αの発現レベルを決定する工程、ここでHP1αの高い発現レベルは、アジュバント化学療法及び/又は放射線治療が必要であることの指標となる、を含む方法。
【請求項4】
癌に罹患した対象の、治療への反応をモニタリングするインビトロでの方法であって、該方法が、治療の投与前の前記対象からの癌試料及び治療の投与後の前記対象からの癌試料における、HP1αの発現レベルを決定する工程、ここで治療の投与後に得た試料におけるHP1αの発現レベルの低下は、該対象が治療に反応することの指標となる、を含む方法。
【請求項5】
HP1αタンパク質又はHP1α mRNAの量を測定することによりHP1αの発現レベルを決定する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
HP1αタンパク質の量を、免疫組織化学、半定量的ウエスタンブロット、又はタンパク質若しくは抗体アレイによって測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
HP1α mRNAの量を、定量的若しくは半定量的RT−PCR、又はリアルタイム定量的若しくは半定量的RT−PCR、又はトランスクリプトーム解析によって測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
HP1αの発現レベルを基準発現レベルと比較する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
基準発現レベルが、正常な試料におけるHP1αの発現レベルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
HP1αの発現レベルを基準発現レベルと比較する工程をさらに含む方法であって、ここで該基準発現レベルが、RPLPO遺伝子のような様々な癌において安定した発現を有する遺伝子の発現レベルである、請求項1及び請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記基準発現レベルと比較して、HP1αの発現レベルが高いかどうかを決定する工程をさらに含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載に記載の方法。
【請求項12】
予後不良が、患者の生存率の低下及び/又は初期疾患進行及び/又は疾患再発の増加及び/又は転移形成の増加である、請求項1及び請求項5〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
腫瘍度、ホルモン受容体の状態、分裂指数、腫瘍サイズ、HJURP発現レベル、又は、Ki67、MCM2、CAF−1 p60及びCAF−1 p150のような増殖マーカーの発現のような、少なくとも1つの別の癌又は予後マーカーを評価することをさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
癌における予後マーカーとしてのHP1αの使用。
【請求項15】
癌における診断マーカーとしてのHP1αの使用。
【請求項16】
アジュバント療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象を選択するための、又は癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかを決定するためのマーカーとしてのHP1αの使用。
【請求項17】
癌に罹患した対象の、治療への反応をモニタリングするためのマーカーとしてのHP1αの使用。
【請求項18】
癌が、固形癌又は造血癌であり、好ましくは固形癌であり、より好ましくは局所的又は全身性の浸潤のない早期固形癌である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法又は請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
癌が、乳癌、膵臓癌、子宮及び子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌及び白血病からなる群より選択される、請求項18に記載の方法又は使用。
【請求項20】
癌が乳癌であり、好ましくは局所的又は全身性の浸潤のない早期乳癌である、請求項19に記載の方法又は使用。
【請求項21】
(a)癌に罹患した対象の臨床転帰を予測又はモニタリングするための;及び/又は
(b)対象における癌を診断するための;及び/又は
(c)アジュバント療法及び/又は放射線治療のために癌に罹患した対象を選択するための、又は癌に罹患した対象がアジュバント化学療法及び/又は放射線治療からの利益を受けやすいかどうかを決定するための;及び/又は
(d)癌に罹患した対象の治療への反応をモニタリングするための、
キットであり、ここで該キットが
(i)少なくとも1つの、HP1αに特異的な抗体、及び/又は
(ii)少なくとも1つの、HP1α mRNA又はcDNAに特異的なプローブ、及び/又は
(iii)少なくとも1つの、HP1α mRNA又はcDNAに特異的な核酸プライマー対、及び場合により、そのようなキットの使用についての指針を提供する印刷物、
を含むキット。
【請求項22】
HP1αと前記少なくとも1つのHP1αに特異的な抗体との複合体の形成を検出する手段;及び/又は、前記少なくとも1つの、HP1α mRNA及びcDNAに特異的なプローブとHP1α mRNA又はcDNAとのハイブリダイゼーションを検出する手段;及び/又は、前記HP1α mRNA又はcDNAを増幅及び/又は検出する手段;をさらに含む、請求項21に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【公表番号】特表2012−524892(P2012−524892A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506512(P2012−506512)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055423
【国際公開番号】WO2010/122137
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(500026533)アンスティテュ・キュリ (20)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】