説明

ヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターを同定する方法

本発明は、ヒトオレキシン受容体タンパク質をコードする組換え産生核酸分子を用いることなく、ヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターを同定する新規の方法を提供する。本方法は、本発明の方法を実行するために既知の方法およびオレキシン−2受容体の自然発現のために選択された細胞系統を組み合わせて利用する。本発明の例示の方法は、非組換えヒトオレキシン−2受容体タンパク質を産生するためにPFSK−1細胞を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞受容体のモジュレーターを同定するためのアッセイ系に関する。具体的には、本発明は、非組換え起源の受容体を利用するオレキシン−2受容体のモジュレーターのためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
オレキシンシグナル伝達は、二種の受容体および二種のペプチドアゴニストにより媒介される。ペプチド(オレキシンAおよびオレキシンB)は、同じ遺伝子、プレ−プロオレキシンの分割物である。中枢神経系内で、プレ−プロオレキシンを産生するニューロンは、脳弓傍核、視床下部後部および視床下部外側部中にみいだされる(非特許文献1)。これらの領域内の食欲誘発細胞は、脳の多数の領域に投射し、吻側では嗅球そして尾側では脊髄に伸びている(非特許文献2)。オレキシンはオレキシン−1およびオレキシン−2受容体と称される二種の高親和性受容体に結合する。オレキシン−1受容体はオレキシンAを優先的に選択し、一方オレキシン−2受容体は双方のオレキシンに同様の親和性をもって結合する。
【0003】
オレキシンを産生する細胞、ならびにオレキシン受容体を発現する細胞の広範なCNS分布は、摂食、飲水、覚醒、ストレス、代謝および再生を含む多数の生理学的機能におけるオレキシンの関与を示唆する。プレ−プロオレキシンを産生する細胞の標的壊死を記載した最近の報告は、生理学的に最も重要なオレキシンの役割が覚醒、摂食および代謝への作用であるらしいことを示唆している(非特許文献3)。
【0004】
数系統の証拠は、オレキシン系が覚醒の重要なモジュレーターであることを示している。オレキシンを脳室内に投与されたげっ歯類は、より長時間を覚醒して過ごす(非特許文献4)。覚醒に対するオレキシン媒介作用は、隆起乳頭体核(TMN)内のヒスタミン作用ニューロンへのオレキシンニューロン投射に連結している(非特許文献5)。TMNニューロンは、主としてオレキシン−2受容体、そして低い度合いでオレキシン−1受容体を発現する。そのプレ−プロオレキシン遺伝子がノックアウトされたか、またはその食欲誘発ニューロンが殺されたげっ歯類は、睡眠発作に類似する改変された睡眠・覚醒サイクルを示す(非特許文献6,非特許文献3)。睡眠発作のイヌモデルは、変異または非機能性オレキシン−2受容体を有することが証明された(非特許文献7)。ヒトの睡眠発作は、欠失したオレキシンシグナル伝達に関連するように思われ、視床下部外側部内の食欲誘発ニューロンの免疫剥離(非特許文献8、非特許文献9)か、または稀な場合に、オレキシン−2遺伝子内の変異(非特許文献10)に関連するらしい。
【0005】
従って、睡眠−覚醒サイクルの障害は、オレキシン−2受容体モジュレーター活性を標的としやすい。オレキシン−2受容体媒介過程を上方制御するアゴニストまたはその他のモジュレーターにより処置できる睡眠−覚醒障害の例は、睡眠発作、時差ぼけ(眠気)および鬱病のような神経障害から派生する睡眠障害を含む。オレキシン−2受容体媒介過程を下方制御するアンタゴニストまたはその他のモジュレーターにより処置できる障害の例は、不眠症、不穏下肢症候群、時差ぼけ(覚醒)および躁病、精神分裂症、疼痛症候群などの神経障害から発生する睡眠障害を含む。
【0006】
オレキシン系は、脳ドーパミン系とも相互作用する。マウスにおけるオレキシンの脳室内注入は、運動活性、グルーミングおよび常同性を上昇する。これらの挙動作用は、D2ドーパミン受容体アンタゴニストの投与により逆転される(非特許文献11)。従って、オレキシン−2モジュレーター、例えば緊張症を処置するアゴニストまたは上方レギュレーター、パーキンソン病、トゥレット症候群、不安、譫妄および痴呆を処置するアンタゴニストまたは下方レギュレーターは、さまざまな神経障害を処置するために有用であろう。
【0007】
オレキシンおよびそれらの受容体は、消化管神経系の筋層内および粘膜下神経叢の双方内に見いだされており、ここでオレキシンはin vitroで自発運動性を上昇し(非特許文献12)そしてin vitroでは胃酸分泌を刺激する(非特許文献13)ことが見いだされている。迷走神経切断またはアトロピンが胃酸分泌に対するオレキシンの脳室内注入の作用を防止するので(非特許文献13)、消化管に対するオレキシン作用は、迷走神経を介する投射により駆動されるらしい(非特許文献2)。従って、オレキシン受容体アンタゴニストまたはその他のオレキシン受容体媒介系の下方レギュレーターは、潰瘍、過敏性腸症候群、下痢および胃食道逆流のための可能な処置方法である。
【0008】
体重は、食欲および代謝のオレキン媒介調節によっても影響されるらしい。代謝および食欲に対するオレキシンのある種の作用は消化管内で媒介され、ここで、上記のように、オレキシンは胃腸運動性および胃酸分泌を改変するらしい。従って、オレキシンアンタゴニストは、体重過大もしくは肥満および体重過大もしくは肥満に関連する状態、例えばインスリン耐性/II型糖尿病、高脂血症、胆石、狭心症、高血圧、呼吸困難、頻脈、不妊症、睡眠時無呼吸、背および関節痛、静脈瘤および変形性関節炎の処置に有用と思われる。反対に、オレキシンアゴニストは、体重過少および関連状態、例えば低血圧、徐脈、無月経および関連不妊症、および摂食障害、例えば無食欲および過食症の処置に有用であると思われる。
【0009】
脳室内投与オレキシンは、自由に運動する(覚醒)動物内(非特許文献14、非特許文献15)およびウレタン麻酔動物内(非特許文献16)で平均動脈血圧および脈拍数を上昇することが同様の結果をもって証明されている。従って、オレキシン受容体アゴニストは、低血圧、徐脈およびそれらに関連する心不全の処置の候補であり、一方オレキシン−2受容体アンタゴニストは、高血圧、頻脈およびその他の不整脈、狭心症および急性心不全の処置に有用であろう。
【非特許文献1】Peyron et al,1998,J.Neurosci.18:9996−10015
【非特許文献2】Van den Pol,1999,J.Neurosci.19:3171−3182
【非特許文献3】Hara et al.,2001,Neuron 30:345−354
【非特許文献4】Piper et al.,2000,J.Neurosci.12:726−730
【非特許文献5】Yamanaka et al.,2002,Biochem.Biophys.Res.Comm.290:1237−1245
【非特許文献6】Chemelli et al.,1999,Cell 98:437−451
【非特許文献7】Lin et al.,1999,Cell 98:365−376
【非特許文献8】Mignot et al.,2001,Am.J.Hum.Genet.68:686−699
【非特許文献9】Minot & Thorsby,2001,New England J.Med.344:692
【非特許文献10】Peyron et al.,2000.NatureMed.6:991−997
【非特許文献11】Nakamura et al.,2000,Brain Res.873:181−187
【非特許文献12】Kirchgessner & Liu,1999,Neuron 24:941−951
【非特許文献13】Takahashi et al.,1999,Biochem.Biophys.Res.Comm.254:623−627
【非特許文献14】Samson et al.,1999,Brain Res.831:248−253
【非特許文献15】Shirasaka et al.,1999,Am.J.Physiol.277:R1780−R1785
【非特許文献16】Chen et al.,2000,Am J.Physiol.278:R692−R697
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の考察から、オレキシン受容体モジュレーター、特にはオレキシン−2受容体のモジュレーターの同定が、それらの受容体系を介して媒介されるさまざまな障害の処置のための治療剤の開発に大きい利益であることが理解できる。ヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターを同定する改善された方法、特にはヒトオレキシン−2受容体をコードする組換えDNA分子の使用を必要としない方法への要求が当該技術分野に存在する。かかる改善された方法は、ヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターを同定するための化学ライブラリーの迅速なプロセシングを容易とし、そして好ましくは自動化も容易となり、これにより新規薬剤発見および開発用途のための実質的な商業的利益を提供することができる。本発明は、それらの要求を満足しそしてその他の関連利益を提供すると確信する。
【0011】
本明細書内の参照文献の引用は、かかる参照文献が本発明の従来技術であることを容認すると解釈されてはならない。本明細書中に言及するすべての出版物は、引用することによりその全体を編入される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、オレキシン−2受容体を発現する非組換え細胞系統を利用する、ヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターを同定する方法に関する。好ましい細胞系統は、PFSK−1細胞系統として知られる。本発明の典型的な態様では、全細胞ならびにそれらのフラグメントまたは成分をヒトオレキシン−2受容体の非組換え起源として利用する。従って、非組換え細胞系統は、受容体をコードする組換え産生核酸分子の使用を必要とすることなく、受容体を調節するための化合物の能力に関して化合物を試験するアッセイを実行するためのオレキシン−2受容体の十分な量を提供する。
【0013】
本発明の他の態様によると、ヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定する方法が提供される。本方法は、ヒトオレキシン−2受容体活性の推定モジュレーターを、ヒトオレキシン−2受容体を非組換え的に有する細胞の膜内に含まれるヒトオレキシン−2受容体と組み合わせ、そしてヒトオレキシン−2受容体の活性に対するモジュレーターの作用を測定することを含んでなる。一つの態様では、ヒトオレキシン−2受容体が不変(intact)細胞の膜内に含まれる。別の態様では、オレキシン−2受容体が、単離された膜フラグメント、単層小胞および多重ラメラ小胞などの膜構造内に含まれる。好ましい態様では、ヒトオレキシン−2受容体を有する細胞がPFSK−1細胞である。数種の形式のアッセイが本発明のこの局面内で実行できる。一つの態様では、測定される作用が、オレキシン−2受容体への推定モジュレーターの結合である。別の態様では、測定される作用が、受容体への結合に関する推定モジュレーターとヒトオレキシン−2受容体の既知リガンドとの競合である。別の態様では、測定される作用が、ヒトオレキシン−2受容体細胞内二次メッセンジャー、例えば、cAMP、Ca++、またはレポーター遺伝子産物の調節である。好ましい態様では、細胞内二次メッセンジャーがCa++であり、蛍光性Ca++指示薬を用いて検出される。
【0014】
本発明の別の局面では、ヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定するために使用されるキットを特徴とする。キットは、典型的にはヒトオレキシン−2受容体を有する細胞の膜内に含まれるヒトオレキシン−2受容体、およびヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定する受容体の使用のための指導書を含んでなる。キットは、ヒトオレキシン−2受容体を有する無傷の細胞を含んでなってもよい。それらは、追加の成分、例えばオレキシン−2受容体の既知リガンド、オレキシン−2受容体活性に対する推定モジュレーターの作用を検出するための試薬、および/またはヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定するアッセイを実行するための1種またはそれ以上の緩衝液または希釈液をさらに含んでなってもよい。
【0015】
本発明の他の局面によると、上記の方法を用いて同定される化合物が提供され、ここでかかる化合物はヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターであることがこれまで公知ではなかったものである。かかる化合物は、ヒトオレキシン−2受容体のアゴニスト、アンタゴニストもしくは逆アゴニストであってもよくまたはヒトオレキシン−2受容体により活性化されるCa++チャンネルを調節してもよい。
【0016】
本発明のさらなる局面は、上記の方法により同定される製薬学的に許容できるキャリヤおよび化合物を含んでなる薬剤組成物を特徴とする。オレキシン−2受容体により媒介される状態のために患者を処置するそれらの薬剤組成物を使用する方法も提供される。一つの態様では、ヒトオレキシン−2受容体の高い量または活性により媒介される状態が、オレキシン−2受容体の量または活性を低下させる形式の薬剤組成物の投与により処置される。かかる状態は、睡眠/覚醒移行障害、不眠、代謝亢進、高血圧、頻脈、肥満、パーキンソン病、トゥレット症候群、不安、譫妄および痴呆を含む。別の態様では、ヒトオレキシン−2受容体の低い量または活性により媒介される状態が、オレキシン−2受容体の量または活性を上昇させる形式の薬剤組成物の投与により処置される。かかる状態は、睡眠発作、ジェット機時差ぼけ、代謝低下、低血圧、徐脈および食欲不振を含む。
【0017】
本発明は、ヒトオレキシン−2受容体の活性を調節する能力を有する化合物の同定のための方法を提供する。本明細書中に記載のような方法は、典型的には組換え受容体を発現する細胞を必要とすると考えられる。しかし、本発明者は、ヒトオレキシン−2受容体をコードする組換え的に産生された核酸分子を使用することなく、それらの方法が達成されることを決定した。その代わりに、オレキシン−2受容体を産生する非組換え細胞系統が使用できる。かかる細胞系統の一つは公知でありそして商業的に入手できるPFSK−1細胞系統(アメリカン タイプ カルチャー コレクション(American Type Culture Collection)ATCC寄託番号CRL−2060より入手できる)である。他のかかる細胞系統は、以下に記載する規定の方法を用いて同定してもよい。本明細書中に記載の方法により明示できるオレキシン−2受容体のモジュレーターは、アゴニスト、アンタゴニスト、および逆アゴニストを含む。本明細書中に使用される場合に、用語「モジュレーター」は、受容体の量または活性を上昇または低下する薬剤を称する。モジュレーターは、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、または非タンパク質性有機もしくは無機分子を含み、これらに限定はされない分子のいかなる形式であってもよい。用語「アゴニスト」は、受容体に結合して、受容体の活性と関連する生物学的作用をもたらす化合物を称する。用語「アンタゴニスト」は、受容体の活性と関連する少なくとも1種の生物学的作用を遮断する化合物を称する(通常は受容体に結合することにより)。逆アゴニストの用語は、活性受容体に構成的に結合しそして受容体の構成的活性に関連する生物学的作用を低下する化合物を称する。
【0018】
本明細書中で開示されるアッセイ中で同定されるモジュレーターは、例えば、治療剤、予防剤、および診断剤として有用である。治療剤としての効能は、覚醒、摂食、代謝、睡眠発作、ホルモン分泌、ストレスおよび再生産系への作用を含み、これらに限定はされない。特定すると、本発明の方法を使用して同定されるオレキシン−2受容体の量または活性を上昇するモジュレーターは、睡眠発作、徐脈、低血圧、代謝低下および体重過少状態に導く摂食/食欲障害のような状態を処置するために使用してもよい。オレキシン−2受容体の量または活性を低下させるモジュレーターは、例えば不眠症、不穏下肢症候群、疼痛、頻脈、高血圧、狭心症、心筋梗塞、喘息、肥満、妊娠(産児制限)、不妊、無月経(食事性、感情性、病的、またはストレス依存性)、水分不平衡、潰瘍、下痢、便秘、過敏性腸症候群、または種々の形の運動異常などの状態の処置に有用と期待される。
【0019】
ヒトオレキシン−2受容体がこれら多数の生理学的プロセスにいかに関与するかを理解する一つの方法は、研究の手段および治療手段としての受容体の化学モジュレーター(アゴニスト、アンタゴニスト、および逆アゴニスト)を開発することである。ヒトオレキシン−2受容体を発現する非組換え宿主細胞、例えばPFSK−1細胞系統は、かかるアゴニストおよびアンタゴニストを同定する方法をスクリーニングする材料を提供するために使用される。このように、本発明は、研究の手段として有用であることが証明されるかまたはオレキシン−2受容体に直接または間接に関与する障害を処置するための治療剤として有用であるようなヒトオレキシン−2受容体の新規のアゴニストおよびアンタゴニストを同定するための一つの方法を直接的に教示する。
【0020】
PFSK−1細胞系統は、本発明のアッセイのために本明細書中で例示される。PFSK−1細胞系統は、大脳半球からのヒト原始神経外胚葉腫瘍細胞系統である(Fults et al.(1992)J.Neuropath.Exp.Neurol.51:272−280)。細胞系統は、多数の細胞系統により産生されたmRNAのDNAマイクロアレイスクリーンを介してオレキシン−2受容体を発現するとして同定された。PFSK−1細胞系統は、オレキシン−2受容体の十分な量を産生し、本明細書中に記載のアッセイ中に使用するために適することが確認された。PFSK−1細胞系統は本発明の当初のDNAマイクロアレイスクリーンに適するとして同定された唯一のものであったけれども、かかるスクリーニングの追加の実施は、標準方法論に従ってその他の適合する細胞系統を同定するために使用されてもよいことは明らかである。一種の細胞系統が同定されているので、その後同定される他の細胞系統は、本発明中に使用することに適する十分なオレキシン−2受容体を産生するかどうかを決定するためにPFSK−1細胞と比較されてもよい。
【0021】
ヒトオレキシン−2受容体の化合物相互作用または調節を検出するためのアッセイは、直接リガンド結合アッセイ、競合的(もしくは置換的)リガンド結合アッセイ、または、例えば細胞内二次メッセンジャーの変化を測定してリガンドへの受容体の応答を測定する機能アッセイを含むが、それらに限定はされない。それらアッセイそれぞれは、不変細胞を用いて行ってもよい。アッセイのあるもの、例えば結合または競合アッセイは、細胞から単離されるオレキシン−2受容体含有膜上で行ってもよい。当該技術分野では公知のように、受容体を含んでなる膜フラグメントまたは小胞をアッセイのこの形式に使用してもよい。
【0022】
本発明の好ましいアッセイ系は、生きているPFSK−1細胞およびオレキシン−2受容体を調節する候補化合物の能力の指標として細胞内二次メッセンジャーの測定を利用する。一つの態様では、Gタンパク質の作用を介する細胞内Ca++の変化を、例えば以下に詳細に記載する蛍光により測定する。別の態様では、二次メッセージは、キメラGαタンパク質の発現を与える遺伝子構築物を用いる細胞のトランスフェクションによりPFSK−1細胞内に誘発される(Conklin et al.,1993,Nature 363:274−276;Milligan & Reese,1999,Trends Pharmacol.Sci.20:118−124)。
【0023】
本発明の例示的アッセイ系は、生のPFSK−1細胞および候補モジュレーター化合物により影響される細胞内Ca++の変化の測定を利用する。アゴニストによるオレキシン−2受容体の結合は、Gタンパク質の活性化および電圧活性化細胞膜カルシウムチャンネルの開口を介して細胞内自由カルシウムイオン濃度を上昇する(van den Pol et al.,1998、上記)。この作用は、Fluo−3 AM(TefLabs,Austin,Texas)のような蛍光Ca++指示薬およびモレキュラー デヴァイス(Molecular Devices,Sunnyvale,California)PLIPR(蛍光画像プレート読取装置(Fluorescent Imaging Plate Reader))のような計器を用いて測定される。
【0024】
要約すると、PFSK−1細胞は下記の実施例1中に記載のようにして増殖および維持される。細胞は、トリプシン−EDTAを用いて集密組織カルチャー皿から取り出されそしてマルチウエルプレート(例えば、パッカードビュープレート(Packard Viewplate)、Meridian,Connecticut)内にプレーティングされる。接着細胞は集密化するまで増殖され、次いで蛍光染料を加えられる。完全増殖培地をプレートから除去しそして蛍光指示薬溶液をそれぞれのウエルに加える。プレートは適当な細胞培養条件下で所定の時間を保持される。細胞内カルシウム濃度変化の測定は、FLIPR計器を用いて行われる。化合物添加の時期は、アッセイの形式(アゴニストスクリーン、アゴニスト効力/EC50決定、アンタゴニストスクリーンまたはアンタゴニストpKアッセイ)および試験化合物の速度動力学により決定され、これは当該技術分野の専門家には理解されるであろう。
【0025】
FLIPRを用いる標準アンタゴニストpKアッセイのために、一秒間隔で60回、次いで6秒間隔で20回の露出を記録するように計器が設定される。化合物、対照またはアゴニストの適当な体積および濃度を最初の10回の露出の後に加える。応答の大きさを記述する適当な統計量(例えば各ウエル毎の合計、極大シグナル、または極大−極小シグナル)をFLIPRソフトウエアにより創成された原データファイルを用いてFLIPRソフトウエアまたは同様の手段によりコンパイルする。
【0026】
スクリーニングの目的で、公知のオレキシンアゴニスト刺激と比較して、細胞内Ca++シグナル伝達の刺激比率または抑制比率を決定するために、化合物を単回投与において試験できる。アゴニストスクリーンにおいては、正および負の対照を試験化合物からプレートの別のカラムに加える。アンタゴニストスクリーンにおいては、化合物を典型的には試験ウエルに供給し、結合させるためにインキュベーションし、次いでオレキシンアゴニスト刺激を試験ウエルに加える。アンタゴニストスクリーンのための対照は、完全なアゴニストに応答する蛍光を示すための正および負の対照、ならびに基線を含む。
【0027】
アゴニスト作用は、効力(対照オレキシンアゴニストと比較)およびEC50の両者を決定して分析する。この形式のアッセイに対して、単一のマルチウエルプレートは、試験化合物の投与応答および対照オレキシンアゴニストの投与応答の両者を含んでもよい。
【0028】
アンタゴニスト作用は、細胞内で細胞内Ca++濃度の上昇を抑制することが見いだされた化合物に対するKおよびpK値を算出して分析する。これは、オレキシンアゴニストのEC50を決定しそしてFluo−3AMまたは同様の染料を加えたPFSK−1細胞の単一マルチウエルプレート上のアンタゴニスト化合物の希釈から決定されたIC50値を比較して行う。この場合に、アゴニストのEC50決定に使用したものを除き、すべてのウエルにオレキシンアゴニストの同じ濃度を与える。
【0029】
次いで、Kはチェンとプルソフ(Cheng and Prusoff(1973),Biochem.Pharmacol.22:3099−3108)に従って、次式
=IC50/(1+({アゴニスト}/EC50))
を用いて決定される。アゴニストによるオレキシン−2受容体の結合は膜カルシウムイオンチャンネルの開放に導くので、当該技術分野の熟練者に公知のその他の手段は、PFSK−1細胞上のオレキシン受容体活性をアッセイするために使用できた。かかる方法の例は、電圧感受性蛍光染料(例えばモレキュラー デバイセズ(Molecular Devices)のFLIPR膜ポテンシャル アッセイ キットに使用されるもの)の使用、パッチ クランプ(patch clamping)技術等を含む。同様に、それらの方法は、関連Ca++チャンネルのモジュレーターをスクリーニングするために使用できた。
【0030】
本発明は、ヒトオレキシン−2受容体をコードするDNAまたはRNAの発現を調節する化合物に対するオレキシン−2受容体のモジュレーターと推測される試験化合物ならびに生体内における受容体タンパク質の機能のスクリーニングのための方法にも関する。それらの活性を調節する化合物は、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、または非タンパク質性有機または無機分子であってもよい。化合物は、オレキシン−2受容体をコードするDNAもしくはRNAの発現、または受容体タンパク質の機能を上昇または低下させることにより調節してもよい。オレキシン−2受容体をコードするDNAもしくはRNAの発現を調節する化合物またはオレキシン−2受容体タンパク質の機能は、PFSK−1細胞および/またはそのフラグメントまたは機能を利用する各種のアッセイにより検出されてもよい。それらを含む細胞からのオレキシン−2受容体コードmRNAの存在または量は、「ノーザン」ブロット分析および定量PCRを含み、それらに限定はされない標準的方法に従って測定されてもよい。オレキシン−2受容体タンパク質の存在または量は、標準的方法、例えば「ウエスタン」ブロット、免疫沈降または同様の方法によっても測定される。機能を測定するためのアッセイは以上に記載され、ここで機能はシグナルを伝達する受容体の能力、すなわち細胞内二次メッセンジャーを産生することにより示される。アッセイは、発現または機能において変化があるかどうかを決定するための単純な「イエス/ノー」アッセイであってもよい。アッセイは、試験試料の発現またはレベルと標準試料中の発現または機能のレベルとを比較することにより定量化されてもよい。本プロセスで同定されるモジュレーターは、治療剤、研究手段、および診断剤として有用である。
【0031】
PFSK−1細胞によりまたはそれから産生されるヒトオレキシン−2受容体タンパク質を含むキットを調製してもよい。かかるキットは、ヒトオレキシン−2受容体の活性を調節する能力または活性を有する化合物を特性決定または同定するために使用される。かかる特性決定は、ヒトオレキシン−2受容体の活性を調節する新規医薬を同定するための医薬発見および医薬開発を含み、それらに限定はされない各種の目的のために有用である。
【0032】
PFSK−1細胞からのオレキシン−2受容体タンパク質を含むキットを調製してもよく、それというのもそれらの調製は広範囲の各種の異種化合物の活性を分析および/または特性決定するために一般的に有用であるからである。かかるキットは、例えば、オレキシン−2受容体タンパク質のモジュレーターとして新規化合物を発現するための遺伝子発見の研究者にとって特に有利であろう。かかるキットは、少なくとも1個のコンテナに緊密に封入して保持するために適する区分されたキャリヤを含んでなる。キャリヤは、受容体タンパク質(膜内または全細胞または生細胞内)またはオレキシン−2受容体タンパク質の調節を検出するために適する対照化合物のような試薬をさらに含んでなる。キャリヤは、例えば、標識リガンド、標識抗原または酵素基質などを検出するための手段をさらに含んでもよい。かかるキットは、試料内の受容体タンパク質またはペプチドフラグメントの存在を検出するためにも使用される。かかる特性決定は、法医学分析、診断用途、および疫学研究を含み、それらに限定はされない各種の目的のために有用である。
【0033】
ヒトオレキシン−2受容体活性のモジュレーターを含んでなる製薬学的に有用な組成物は、製薬学的に許容できるキャリヤの混合によるなどの公知の方法に従って製剤されてもよい。かかるキャリヤおよび製剤の方法の例は、レミントンの薬剤科学(Remington’s Pharmaceutical Science)中に見いだすことができる。有効な投与に適合する製薬学的に許容できる組成物を形成するために、かかる組成物は、タンパク質、DNA、RNA、またはモジュレーターの有効量を活性成分として含む。
【0034】
本発明の方法を用いて同定される治療または診断組成物は、ヒトオレキシン−2受容体関連活性の調節が指示された障害を処置または診断するために十分な量で個体に投与される。有効量は、各種の因子、例えば個体の状態、体重、性別および年齢に従って変化するであろう。その他の因子には投与の方法が含まれる。薬剤組成物は、種々の経路、例えば静脈内、腹腔内、鼻内、皮下、局所、経口および筋肉内により個体に供給されてもよい。
【0035】
用語「化学誘導体」は、通常は基本分子の一部分ではない追加の化学的部分を含む分子を記述する(すなわち、本発明の方法により同定されるオレキシン−2受容体モジュレーター)。かかる部分は、基本分子の溶解度、半減期、吸収などを改善するであろう。あるいは、その部分は、基本分子の望ましくない副作用を減少させるかまたは基本分子の毒性を低下させるであろう。かかる部分の例は、各種の教科書、例えばレミントンの薬剤科学に記載されている。
【0036】
本明細書中に開示される方法に従って同定される化合物は、オレキシン−2受容体またはその活性の最適な刺激または抑制を得て、他方ではあらゆる可能な毒性を最小化するように日常的な試験により決定される適当な投与量で単独に使用されてもよい。さらに、他の薬剤との同時投与または連続投与も望ましいであろう。
【0037】
本発明は、本発明を介して同定される化合物を用いる処置の新規の方法に使用するために適する局所、経口、全身および非経口薬剤製剤を提供する目的も有する。オレキシン−2受容体の調節に使用するための活性成分として本発明に従って同定される化合物またはモジュレーターを含む組成物は、投与のための慣用のベヒクル中の各種の治療投与剤型で投与できる。例えば、化合物またはモジュレーターは、錠剤、カプセル剤(それぞれ時間差放出、徐放性製剤を含む)、丸薬、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤および乳剤のような経口投与剤型、または注入により投与できる。同様に、静脈内(ボーラスおよび輸液の双方)、腹腔内、皮下、吸蔵(occlusion)を有するかまたは有しない局所、または筋肉内剤型で投与してもよく、それらはすべて製薬業界の通常の熟練者には周知の剤型を用いる。所望の化合物の有効であるがしかし無毒性の量は、オレキシン−2受容体調節剤として使用できる。
【0038】
本明細書中で開示される方法に従って同定される組成物の日用量は、患者あたり、一日あたりに0.01〜1000mgの広範囲に変化してもよい。経口投与のためには、組成物は、処置する患者への投与量の症状に従う調整のために、活性成分の0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、および50.0mgを含む刻み目入りまたは刻み目なしの錠剤の剤型で好ましくは提供される。薬剤の有効量は、一日あたりに約0.0001mg/kg(体重)〜約100mg/kg(体重)の投与量レベルで通常供与される。その範囲は、さらに特定すると一日あたりに約0.001mg/kg(体重)〜約10mg/kg(体重)である。オレキシン−2受容体モジュレーターの投与量は、所望の作用を達成するように複合される場合には調整される。反対に、それらの各種の薬剤の投与量は、相乗効果を達成するように独立して最適化および複合してもよく、ここで病状はどの薬剤も単独で使用される場合よりも軽減される。
【0039】
有利には、本発明の方法に従って同定される化合物またはモジュレーターは一日単回投与で投与されてもよく、または全日用量を一日に2回、3回または4回の分割投与で投与されてもよい。さらに、それらの化合物は、当該技術分野の通常の熟練者には周知の適合する経鼻ベヒクルの局所使用を介して経鼻剤型で、または経皮貼付薬の剤型を用いて経皮経路を介して投与されてもよい。経皮送達系の剤型で投与するためには、投与量適用は、もちろん投与方式の期間中、断続的よりも連続的である。
【0040】
活性剤が別個の投与製剤中にある場合に、1種を越える活性薬剤を用いる複合処置に対して活性薬剤は同時に投与でき、またはそれらは別々に時差的に投与できる。
【0041】
本発明により同定される化合物またはモジュレーターを利用する投与方式は、患者のタイプ、人種、年齢、体重、性別および医療状態、処置すべき状態の重症度、投与の経路、患者の腎臓および肝臓の機能、および使用される特定のそれらの化合物を含む種々の因子に従って選択される。通常の技術の医師または獣医師は、状態進行の予防、対抗または停止のために必要な薬剤の有効量を容易に決定して処方できる。毒性を伴わないで効力を発生する範囲内の薬剤の濃度に到達するための最適の正確さは、標的部位への薬剤の利用度の速度論に基づく方式を必要とする。これは、薬剤の分布、平衡、および排出の考慮を含む。
【0042】
本明細書内で開示される方法に従って同定される組成物またはモジュレーターは活性成分を形成でき、そして、典型的には、投与の意図する剤型、すなわち経口錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤などに関して適当に選択され、そして慣用の薬剤的実施に合致する適合する薬剤希釈剤、賦形剤またはキャリヤ(本明細書中では、集合的に「キャリヤ」物質と称する)と混合して投与される。
【0043】
例えば、錠剤またはカプセル剤の剤型での経口投与のために、活性薬剤成分は、経口、無毒性で製薬学的に許容できる不活性キャリヤ、例えばエタノール、グリセロール、水などと複合できる。さらに、所望または必要な場合に、適合する結合剤、滑沢剤、崩壊剤および着色料を混合物内に組み込むことができる。適合する結合剤は、限定ではないが、デンプン、ゼラチン、天然糖類、例えばグルコースまたはベータ−ラクトース、コーン甘味料、天然および合成ゴム、例えばアラビアゴム、トラガカントまたはアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどを含む。それらの投与剤型中に使用される滑沢剤は、限定ではないが、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどを含む。崩壊剤は、限定ではないが、デンプン、メチルセルロース、カンテン、ベントナイト、キサンタンガムなどを含む。
【0044】
液体剤型に対して、活性薬剤成分は、適当に調味した懸濁または分散剤、例えば合成および天然ゴム、例えばトラガカント、アラビアゴム、メチル−セルロースなどの中に複合できる。使用してもよいその他の分散剤は、グリセリンなどを含む。非経口投与のためには、滅菌懸濁液および液剤が望ましい。静脈内、腹腔内、筋肉内または皮下投与が望まれる場合に、一般的に適合する保存剤を含む等張製剤が使用される。
【0045】
活性薬剤成分を含む局所製剤は、当該技術分野で周知の各種のキャリヤ物質、例えばアルコール、ホンアロエゲル、アラントイン、グリセリン、ビタミンAおよびEオイル、鉱油、PPG2プロピオン酸ミリスチルなどと混合して、そして例えばアルコール性液剤、局所洗浄剤、洗浄クリーム、皮膚用ゲル、皮膚ローション、およびクリームもしくはゲル製剤のシャンプーを形成できる。
【0046】
本発明に従って同定される化合物またはモジュレーターは、リポソーム送達系、例えば小型単層小胞、大型単層小胞および多重ラメラ小胞の形でも投与できる。リポソームは、各種のリン脂質、例えばコレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンから形成できる。
【0047】
本発明に従って同定される化合物は、化合物分子が結合またはカプリングされる個別のキャリヤとしてモノクローナル抗体を用いても送達される。本発明を介して同定される化合物またはモジュレーターは、標的可能な薬剤キャリヤとして可溶性ポリマーとカプリングされてもよい。かかるポリマは、ポリビニル−ピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリル−アミドフェノール、ポリヒドロキシ−エチルアスパルタミドフェノール、またはパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリシンを含むことができる。さらに、本発明の方法に従って同定される化合物またはモジュレーターは、薬剤の制御放出達成に有用な一連の生分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレートおよび架橋または両親媒性のヒドロゲルのブロックコポリマーにカプリングされてもよい。
【0048】
経口投与のために、化合物またはモジュレーターは、カプセル剤、錠剤、またはボーラス剤型で投与されてもよく、あるいはそれらは動物の飼料に混入されることができる。カプセル剤、錠剤、およびボーラス剤は、適当なキャリヤベヒクル、例えばデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、またはリン酸二カルシウムと組み合わせた活性成分から成る。それらの単位投与剤型は、希釈剤、充填剤、崩壊剤、および/または結合剤を含む適合する微粉状不活性成分と活性成分とを均一な混合物が得られるように緊密に混合して調製される。不活性成分は、化合物またはモジュレーターと反応せずそして処置される動物に無毒性のものである。適当な不活性成分は、デンプン、ラクトース、タルク、ステアリン酸マグネシウム、植物性ガムおよび油などを含む。それらの製剤は、多数の因子、例えば処置される動物種の大きさとタイプおよび感染の形式と重症度に依存して活性および不活性成分の広範に変化させた量を含んでもよい。活性成分は、化合物と食餌とを単に混合することによるかまたは食餌の表面に化合物を散布することによるかによって食餌への添加物として投与されてもよい。あるいは、活性成分を不活性キャリヤと混合し、次いで得られた組成物を食餌と混合するかまたは動物に直接給餌するかのいずれかでもよい。適当な不活性キャリヤは、コーンミール、柑橘ミール(citrus meal)、発酵残さ、大豆粉(soya grit)、乾燥穀粒などを含む。活性成分は、最終組成物が活性成分の0.001〜5重量%を含むように粉砕、攪拌、磨砕またはタンブリングによりそれらの不活性キャリヤと緊密に混合される。
【0049】
あるいは、化合物またはモジュレーターは、不活性液体キャリヤ中に溶解された活性成分から成る製剤の注入を介して非経口的に投与されてもよい。注入は、筋肉内、静脈内、腹腔内、第一胃内、気管内、または皮下のいずれかであってもよい。注入可能な製剤は、適当な不活性液体キャリヤと混合された活性成分から成る。許容できる液体キャリヤは、植物油、例えばラッカセイ油、綿実油、ゴマ油などならびに有機溶剤、例えばソルケタル(solketal)、グリセロールホルマール(glycerol formal)などを含む。別の方法として、水性非経口製剤を使用してもよい。植物油が好ましい液体キャリヤである。製剤は、最終製剤が活性成分0.005〜10重量%を含むように活性成分を液体キャリヤ中に溶解または懸濁させて調製される。
【0050】
化合物またはモジュレーターの局所適用は、水溶液または懸濁液として本化合物またはモジュレーターを含む灌注液またはシャンプーの使用を介して可能である。それらの調剤は、一般に懸濁剤、例えばベントナイトを含みそして通常は消泡剤も含むであろう。活性成分0.005〜10重量%を含む製剤が許容できる。好ましい調剤は、本化合物またはモジュレーターの0.01〜5重量%を含むものである。
【0051】
下記の実施例は、本発明の説明のために提供されそして本発明をそれらに限定すると考えてはならない。
【実施例1】
【0052】
PFSK−1細胞の培養および維持
PFSK−1細胞は、アメリカン タイプ カルチャー コレクション(American Type Culture Collection、CRL−2060,Manassas,VA)から入手しそしてFults et al(1992、上記)の記載のようにして培養した。10%ウシ胎児血清(HyClone,Logan,Utah)、50単位/mlペニシリンAG、および50単位/ml硫酸ストレプトマイシンを補足した25mM HepesおよびL−グルタミンを含むRPMI培地1640(Gibco/InVitrogen,Carlsbad,California)中の10または15cm組織培養皿(Corning Inc.,Corning,New York)上で細胞を培養した。10cm皿上で培養する細胞は10ml完全培地内で培養しそして15cm皿上で培養する細胞は30ml完全培地内で培養した。細胞を3〜5日毎に1:5希釈で培地を吸引除去し、2ml/皿 Gibco/Invitrogen トリプシン−EDTA溶液を加え、溶液を吸引除去し、室温で5分間インキュベーションし、そして新しい完全培地を用いて新しいプレート内に細胞を移した。次いで、37℃および5%COを維持するように設定されたインキュベーター中で細胞を維持した。
【実施例2】
【0053】
PFSK−1細胞内の細胞内カルシウムイオンの蛍光アッセイ
実施例1の記載のようにして培養および維持したPFSK−1細胞を上記のようにしてトリプシン−EDTAを用いて集密化組織培養皿から取り出しそして100μl/ウエル完全培地中、50,000細胞/ウエルで96−ウエルパッカード ビュープレート(Packard Viewplate)(Meriden,Connecticut)中にプレーティングした。次の日に、ビュープレートに接着して集密化した細胞に蛍光染料Fluo−3を加えた。Fluo−3溶液を調製するために、2.3μM Fluo−3 AMの20μlを20%F−127界面活性剤(Molecular Probes,Eugene,Oregon)の20μlと混合しそして混合物を10ml Gibco/Invitrogen D−MEM:F12内に混入した。次いで完全培地をビュープレートから除去しそしてそれぞれのウエルにFluo−3 AM溶液100μlを加えた。適当に希釈されたオレキシン−2受容体抑制剤A、B、CまたはD(試験化合物、ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水中で希釈)を必要に応じてFluo−3の後に直ちに加え次いでプレートを室温で60分間インキュベーションした。等張性、pH中性ベヒクル、例えばダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水中でウエルに試験化合物を加えた。
【実施例3】
【0054】
PFSK−1細胞内の細胞内カルシウムイオンに対する試験化合物の作用の分析
実施例2に記載のインキュベーション段階に続いて、細胞内カルシウム濃度の変化をFLIPR計器(Molecular Probes,Eugene,OR)を用いて測定した。FLIPR装置は、1秒間隔で60回露出、次いで6秒間隔で20回露出を記録するように設定した。最初の10回露出の後に、FLIPRピペット装置(pipettor)を濃縮オレキシンBまたは緩衝液対照の30μlを供給するように設定した。データは、任意蛍光単位で、それぞれのウエルに対して極大シグナルと極小シグナルとの差を用いて分析した。蛍光値は、さらに、100nMオレキシンB刺激に対するオレキシンBのEC50およびオレキシン抑制剤AのIC50を決定するために、グラフパド(GraphPad,San Diego,California)のプリズム(Prism)プログラムを用いて分析した。
【0055】
アンタゴニスト作用は、細胞内の細胞内Ca++濃度上昇を抑制することが見いだされた化合物に対してKおよびpK値を算出して分析した。これは、オレキシンアゴニストのEC50を決定しそしてFluo−3 AMを加えたPFSK−1細胞の単一マルチウエルプレート上のアンタゴニスト化合物の希釈から決定されたIC50値と比較して行った。
【0056】
次いで、Kをチェンとプルソフの式を用いて決定した。オレキシン−2受容体抑制剤A、B、CおよびDを試験した3回の独立した試験の結果を図1(抑制剤A)、図2(抑制剤B)および図3(抑制剤CおよびD)に示す。オレキシンBの100nMのそれぞれの化合物による投与量依存性抑制を測定した。結果を以下に表示する。
【0057】
【表1】

【0058】
本発明の一部の態様を本明細書中に記載しそして例示した。本発明は、記載および例示の態様に限定されず、反対に別記の特許請求範囲の範囲内で変形および変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、PFSK−1細胞内で細胞内Ca++により測定された、オレキシン−2受容体抑制剤Aによる、オレキシン−2受容体リガンドオレキシンBの100nMの投与量依存性抑制を示す。■=オレキシンB単独、▽=抑制剤Aの存在下のオレキシンB
【図2】図2は、PFSK−1細胞内で細胞内Ca++により測定された、オレキシン−2受容体抑制剤Bによる、オレキシン−2受容体リガンドオレキシンBの100nMの投与量依存性抑制を示す。■=オレキシンB単独、△=抑制剤Bの存在下のオレキシンB
【図3】図3は、PFSK−1細胞内で細胞内Ca++により測定された、オレキシン−2受容体抑制剤CおよびDによる、オレキシン−2受容体リガンドオレキシンBの100nMの投与量依存性抑制を示す。■=オレキシンB単独、▽=抑制剤Cの存在下のオレキシンB、□=抑制剤Dの存在下のオレキシンB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヒトオレキシン−2受容体活性の推定モジュレーターを、ヒトオレキシン−2受容体を非組換え的に有する細胞の膜内に含まれるヒトオレキシン−2受容体と組み合わせ、そして
b)ヒトオレキシン−2受容体の活性に対するモジュレーターの作用を測定する、
ことを含んでなる、ヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定する方法。
【請求項2】
ヒトオレキシン−2受容体が無傷の細胞の膜内に含まれている、請求項1の方法。
【請求項3】
ヒトオレキシン−2受容体が、単離された膜フラグメント、単層小胞および多重膜小胞より成る群から選択される膜構造内に含まれている、請求項1の方法。
【請求項4】
ヒトオレキシン−2受容体を有する細胞がPFSK−1細胞である、請求項1の方法。
【請求項5】
手順(b)で測定される作用が、オレキシン−2受容体への推定モジュレーターの結合である、請求項1の方法。
【請求項6】
手順(b)で測定される作用が、推定モジュレーターとヒトオレキシン−2受容体の既知リガンドとの受容体への結合に関する競合である、請求項1の方法。
【請求項7】
手順(b)で測定される作用が、ヒトオレキシン−2受容体細胞内二次メッセンジャーの調節である、請求項2の方法。
【請求項8】
細胞内二次メッセンジャーが、cAMP、Ca++、およびレポーター遺伝子産物より成る群から選択される、請求項7の方法。
【請求項9】
細胞がGαタンパク質DNA構築物を用いてトランスフェクションされる、請求項8の方法。
【請求項10】
細胞内二次メッセンジャーが、蛍光性Ca++指示薬を用いて検出されるCa++である、請求項8の方法。
【請求項11】
オレキシン−2受容体のアゴニスト、アンタゴニストまたは逆アゴニストとして推定モジュレーターを識別するように適合された、請求項1の方法。
【請求項12】
ヒトオレキシン−2受容体を有する細胞の膜内に含まれるヒトオレキシン−2受容体を含むコンテナ、およびヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定するための受容体の使用の指導書を含んでなる、ヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物の同定に使用するキット。
【請求項13】
ヒトオレキシン−2受容体を有する無傷の細胞を含んでなる、請求項12のキット。
【請求項14】
a)オレキシン−2受容体の既知リガンド
b)オレキシン−2受容体活性に対する推定モジュレーターの作用を検出する試薬、および
c)ヒトオレキシン−2受容体活性を調節する化合物を同定するアッセイを実行するための1種またはそれ以上の緩衝液または希釈液
の1種またはそれ以上をさらに含んでなる、請求項12のキット。
【請求項15】
該化合物がヒトオレキシン−2受容体のモジュレーターであることがこれまで公知ではなかった、請求項1の方法を用いて同定される化合物。
【請求項16】
化合物が、ヒトオレキシン−2受容体のアゴニスト、アンタゴニストもしくは逆アゴニストであるかまたはヒトオレキシン−2受容体により活性化されるCa++チャンネルを調節する、請求項1の方法を用いて同定される化合物。
【請求項17】
請求項15の化合物および製薬学的に許容できるキャリヤを含んでなる薬剤組成物。
【請求項18】
オレキシン−2受容体の量または活性を低下させる形式の請求項17の薬剤組成物の投与を含んでなる、ヒトオレキシン−2受容体の高い量または活性により媒介される状態に対してかかる処置を必要とする患者を処置する方法。
【請求項19】
状態が、睡眠/覚醒移行障害、不眠、代謝亢進、高血圧、頻脈、体重過大、肥満、パーキンソン病、トゥレット症候群、不安、譫妄および痴呆よりなる群から選択される、請求項18の方法。
【請求項20】
オレキシン−2受容体の量または活性を上昇させる形式の請求項15の薬剤組成物の投与を含んでなる、ヒトオレキシン−2受容体の低い存在または活性により媒介される状態に対してかかる処置を必要とする患者を処置する方法。
【請求項21】
状態が、睡眠発作、時差ぼけ、代謝低下、低血圧、徐脈および食欲不振よりなる群から選択される、請求項20の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−518709(P2006−518709A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560786(P2004−560786)
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/039491
【国際公開番号】WO2004/054510
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】