ヒト又は動物の心臓の虚血領域の存在を決定する方法及び装置
本発明は、患者の心臓の虚血領域の存在を決定する方法、及び当該方法を実行するための装置(2)に関する。当該方法は、A. 患者の体の様々な部位に多数の感覚電極を設置するステップ;B. 各感覚電極を介して心臓からの心電図(ECG)シグナルを取得するステップ;C. ステップBで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の虚血領域の存在を決定するステップ;D. ステップBで取得した様々なECGシグナルを分析するステップ;及びE. ステップDで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の冠動脈系での閉塞位置を決定するステップ、を含む。この方法により、冠動脈の狭窄又は閉塞の位置及び虚血領域の大きさの直接的かつ正確な評価を得ることができる。この情報により、医療職員(救急車及び病院関係者又は一般の職員)は、治療スキームの開始に関してより迅速かつ適切に対応することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺に痛みを有する患者の心臓の虚血領域の存在の決定方法であって、A. 患者の体の様々な部位に多数の感覚電極を設置するステップ;B. 各感覚電極を介して心臓からの心電図(ECG)シグナルを取得するステップ;C. ステップBで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の虚血領域の存在を決定するステップ、を含む方法に関する。本発明はまた、本発明に従い方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で用いる用語「患者」は、ヒト及び動物を含むと理解される。ヒト又は動物の体の筋肉において、電圧シグナルは、筋肉の動き(収縮及び弛緩)に先行する。また、体の中の血液を汲み上げる中空筋である心臓は、心拍ごとに電圧を送達する。このような電圧シグナルは、特徴的形態を有し、その記名は、専門家の間では、心電図(ECG)と称される。
【0003】
心臓に送達されかつ心臓の上半部及び心室の筋組織を通過する心臓周波数及び電気パルスを含む、ポンプ作用に対する見識を得るために、心臓によって送達される電圧シグナルを測定するための方法が開発されている。そのためには、多数の感覚電極が体に設置され(心臓の周囲の肺に6つの前胸電極、及び四肢上に4つの電極)、この電極は、心臓を通過する電圧シグナルを測定する(図2を参照)。
【0004】
こうして得られる心電図は、図1に示すように、全ての健常人について特徴的形態を有する。診断目的で、ECGシグナルは、1心拍に対応する時間間隔を越える多数のパルス又は波形に分けられる。サインノード(sine node)による2つの心臓上半部の電気的活性化は、図1のPで示される波形によって説明される。
【0005】
心電図記録法の分野では、当該活性化は、脱分極と称される。活性化(脱分極)後に、再分極と称される心臓筋細胞の再充電が起こる。心室の再分極は、ECGのSTセグメントで起こる。
【0006】
健常人では、図1に示す心電図(P波、QRS複合体及びT波)は、心拍ごとにその後に、「イソポテンシャル」(実線で示す)に戻る。
【0007】
健常人のECGと比べて、ECG(PQRST)の異常は、心臓不整脈及び心筋に対するダメージを示すことがある。ECGの最初の測定は20世紀の初期に始まったので、その分析及び心臓の動きの異常可能性に関連する診断について進歩してきた。
【0008】
現在では、心筋の一部が心臓のポンプ作用に関与していないか、又は例えば、心臓の一部での血液循環が一時的に又は長期間、遮断される間に、1以上の冠動脈の閉塞によって起こる心筋梗塞の結果として、より弱い程度で関与しているかを決定することができる。これは、ECGシグナルに由来する。病気に冒された心臓を通過する電気シグナルは、通常機能している心臓からのECGシグナルとは異なるからである。専門家の間では、血液を提供しない病気に冒された心筋の一部は「虚血領域」と称される。
【0009】
心臓の虚血領域の存在、特にその位置及び大きさの決定は、生命に関わる重要性を有し、患者の治療は当該決定を基準とすることになる。治療のためには、当該閉塞が正確にかつできるだけ早く取り除かれるように、冠動脈の閉塞の正確な位置を知ることが最も重要である。
【0010】
導入部分で言及した、心臓の虚血領域の存在を決定する方法論又は方法の1例は、例えば、米国特許第6,128 526号明細書に記載されている。しかしながら、当該特許文献に記載されているECG分析の方法は、心臓の虚血領域の存在の決定を目的としたものに過ぎず、これに限定されている。
【0011】
米国特許第6,424,860号明細書には、多少のこれに対応する技術が記載されている。
【0012】
正確な位置及び心臓の虚血領域のサイズに関する追加の情報を得るために、現在公知のECG分析法の手段によってはこれまで成功していない。正確な治療スキーム及びその時宜を得た実施が、心筋に対するダメージの程度を限定し、又は更にこのようなダメージを共に抑制することができるため、この情報の入手可能性は、問題の特許には非常に重要である。
【0013】
特に、虚血領域が大きい場合には、血液供給の迅速な回復は必須であり、回復は、閉塞冠動脈の開口を含む心臓カテーテル法によって起こる。しかし、この治療を行う病院の数は限られる。そのため、迅速かつ正確な診断、及び次の治療ステップに関する正確な病識(例えば、専門化心臓センターへの搬送媒体)は、最も重要である。
【発明の開示】
【0014】
本発明の目的は、この目的を満足するECG分析の新技術を提供することである。
【0015】
本発明によれば、心臓の虚血領域の存在を決定する方法は、D. ステップBで取得した様々なECGシグナルを分析するステップ;及び、E. ステップDで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の冠動脈系での閉塞位置を決定するステップによって更に特徴付けられる。
【0016】
より特には、本発明に従う方法は、虚血領域のサイズを決定するステップFによって更に特徴付けられる。
【0017】
この方法により、虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系での閉塞の位置の直接かつ正確な評価を得ることができる。この情報は、治療スキームの開始について緊急時に、医療関係者(救急車及び病院関係者又は一般の職員)に、より迅速かつ適切に対応させることができる。
【0018】
虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系での閉塞の位置を決定することができるためには、本発明に従う方法は、G. イソポテンシャルレベル、及びステップBで取得した各ECGシグナルのイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するステップ;並びにH. ステップGで取得したSTセグメントの偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを組み立てるステップ、によって更に特徴付けられる。
【0019】
STセグメント偏差ベクトルに基づいて、心臓での虚血領域の位置は、ステップIにおけるSTセグメント偏差ベクトルの方向から得られる本発明に従い;そして、ステップIにおける局在化される虚血領域の大きさは、ステップJにおけるSTセグメント偏差ベクトルの大きさから得られる。
【0020】
この情報は、医療従事者に適切な治療スキームを作成させることができ、そのためには、本発明に従う方法は、K. 心臓の虚血画像上にステップHで構成されるSTセグメント偏差要素を投影するステップ;及びL. ステップKで得られた画像を使用者に表示するステップ、によって更に特徴付けられる。
【0021】
より具体的には、本発明に従う方法は、心臓の冠動脈系の閉塞位置、及びステップEとFで得られた虚血領域の位置及びサイズに基づいて、治療ステップのスキームを作成する、ステップMを更に含む。
【0022】
この結果は、心臓の心電図の診断及び分析の改良技術をもたらし、その結果、心筋梗塞の治療法をもたらす。このようにして、患者の適切な治療スキームは、より早くに開始することができ、患者の生存率が極端に増加する。
【0023】
本発明に従う患者の心臓の虚血領域の存在を決定する装置は以下を含む:患者の心臓からのECGシグナルを測定するためのECG電極群;ECG電極に連結されるべきECGデータ処理手段であって、ECGシグナルを受信し、かつ当該ECGシグナルに基づいて心臓の虚血領域の存在を決定するように配置される手段;並びにECGデータ処理手段によって得られるECGデータを使用者に表示するための表示手段。
【0024】
本発明によれば、当該装置は、ECGシグナルを分析し、かつ虚血領域の位置及び心臓の冠動脈系の閉塞位置を決定するように配置される、ECG分析手段を含む。
【0025】
より具体的には、ECG分析手段は、心臓の冠動脈に局在化した虚血領域の大きさを決定するように配置される。結果として、虚血領域の位置及び大きさに関する正確な情報、並びに心臓の冠動脈での閉塞の位置についての正確な情報が直接的に得られる。この情報に基づいて、医療従事者(救急車の従事者)は、治療スキームの開始に関してより迅速かつ適切に応答することができる。
【0026】
具体的実施態様では、ECG分析手段は、イソポテンシャルレベル、及び全てのECGシグナルに対するイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するように配置される。
【0027】
より具体的には、ECG分析手段は、決定されるSTセグメント偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを構成するように配置される。当該STセグメント偏差ベクトルは、虚血領域の存在、位置と大きさ及び心臓の冠動脈での閉塞位置に関する重要な情報を含む。これは、本発明によれば、ECG分析手段は、STセグメント偏差ベクトルの方向に基づいて、虚血領域の位置及び心臓の冠動脈での閉塞位置を導き出すように更に配置され、かつ、STセグメント偏差ベクトルの大きさに基づいて、局在化した虚血領域の大きさを導き出すように更に配置されるからである。
【0028】
具体的な治療スキームの作成において医療従事者をサポートするために、当該表示手段は、テキスト形式の情報を表示するように配置され、更に構成されるSTセグメント偏差ベクトルを心臓の略図上に投影することもできるように配置される。
【0029】
特定の実施態様では、装置は、得られる虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈での閉塞位置に基づいて、治療ステップのスキームを作成し、かつ当該表示手段を介して使用者に当該スキームを表示するように配置すればよい。
【0030】
この方法及び本発明に従う装置の実施態様は、図面を参考に本明細書で以下により詳細に説明されることになる。
【0031】
図2は、患者1に使用される本発明に従う装置の実施態様を示す。本発明に従う装置2は、一束の感覚電極3で提供され、この電極は、医療で公知の位置又は方向に従って患者1の体に適用される。一束の感覚電極3は、6つの前胸ECG電極V1〜V6から成り、図2に示すように、心臓の周囲の胸郭の前面に適用される。
【0032】
更に、本発明に従う装置2は、左腕、右腕、左脚及び右脚にそれぞれ適用される4つの四肢感覚電極を利用する。4つの四肢感覚電極の手段により、6つの先端誘導(I、II、III、AVF、AVL及びAVR)が生じる。
【0033】
ECG感覚電極の手段により、ヒト心臓の心電図は、図1に示すように、時間と共に変動する12のECG電圧シグナルの形態で多数の角度から測定される。この結果は12のECGシグナルを生じる。
【0034】
本発明に従う装置のより正確な操作及び方法を達成するために、2つの追加のECG感覚電極V3R及びV4Rを使用してもよい。これらは、図2に示すように、心臓の右手半分上の肺上に設置される。2つの追加のECG感覚電極V3R及びV4Rの使用は、各々、14のECGシグナル群を生じ、これは、心臓の状態及びポンプ作用についてのより正確な情報を提供する。
【0035】
本発明に従う方法及び装置は、閉塞の下流の心筋組織が虚血になる結果として、心臓、特に冠動脈系で閉塞が起こったかどうかを決定するために、12のECGシグナル群又は14のECGシグナル群を利用する。
【0036】
図3Aは、ヒト心臓の冠動脈系を図解的に示す。冠動脈系は、大動脈の第一枝主幹部であり、ヒト心臓の左心室から生じ、心臓弁により遮断される。酸素に富む血液は、左心室から大動脈に、大動脈枝の当該一部から冠動脈系に吸い上げられる。
【0037】
冠動脈系は、2つの冠動脈からできている。大動脈から分岐する右手冠動脈RCAは、右手側(右心室)及び酸素に富む左心室の一部を提供する。従って、右手冠動脈RCAは、血液により心臓の右手側全部及び左手側の約25 %を提供する。
【0038】
専門家は、右手冠動脈RCAを、上部の近位RCA枝及び低部の末梢RCA枝に分ける。RCAの近位部は、右心室(RV)を通過する枝に広がる。
【0039】
冠動脈系の他の冠動脈は、左手冠動脈主幹部LMであり、これは、酸素に富む血液で心臓の左手側の残りの75 %を提供する。左手冠動脈LMは、左手前下行冠動脈LAD(50 %)及び回旋冠動脈(25 %)に分かれる。
【0040】
図3Aは、問題の冠動脈の閉塞が起こる(数字1〜8で示される)冠動脈系内に8位置を示す。可能性のある閉塞の8位置は、本発明に従う方法及び装置によって決定することができ、その決定は図6、7A〜7B、8A〜8B及び9A〜9Bを参考に説明されることになる。
【0041】
図3Bは、冠動脈系の特定部位の狭窄(狭心症)に関する(文字A、B、Cで示される)3位置を更に示す。位置A、B及びCの狭窄は、閉塞に発展することがある。本発明及び本発明に従う方法は、後者の位置に基づいて、図6、7A〜B、8A〜8B及び9A〜9Bを参考に更に詳細に説明される。
【0042】
図4及び5は、本発明に従う方法の2つの実施態様を示す。本発明に従う方法は、図4及び5に示される流れ図を参考に最もよく説明される。本発明に従う方法を実施するための最初のステップ10では、一束のECG電極3(図2)は、公知の方法で肺(6つの前胸電極V1〜V6)及び四肢に適用される。
【0043】
次のステップ11では、各ECG感覚電極からのECGシグナルが測定され、一群の9つの直接測定される心電図I〜III、V1〜V6及びそこから得られる3つの心電図 AVF、AFL及びAVRを生じ得る。
【0044】
次に、心筋組織の虚血領域の形成を招く閉塞又は重度の狭窄が冠動脈系で起こったかどうかがステップ12で決定される。ステップ12に従う虚血領域の存在の決定は、米国特許第6,171,256号明細書に記載の公知の方法で実行することができる。
【0045】
本発明に従う方法の次のステップ13では、虚血領域の正確な位置と大きさ及び心臓の冠動脈系の閉塞位置が決定されることにより、得られたECGシグナル群は更に分析される。
【0046】
図5で、本発明に従う方法の次のステップ13がより詳細に説明される。本発明に従う方法の第一の特定のステップ131では、各心電図の等電レベル(イソポテンシャル)からのSTセグメント偏差は、12のECGシグナル群(V1〜V6、I〜III、AVF、AVR、AVL)で決定される。
【0047】
心筋組織の一部が虚血性になる結果としての、冠動脈の閉塞又は深刻な狭窄の場合には、図1に示すように、心電図のシグナルに異常が生じることになる。緊急時では、当該障害は、特に、QRS複合体とT-波との遷移を形成するいわゆるSTセグメントの形態での変化形態として現れることになる。これらの変化は、等電レベル(「イソポテンシャル」)に関連して上昇又は下降する。
【0048】
心電図の分析では、STセグメントの変化の発生(上昇又は下降)は、冠動脈系が、好ましくは心筋組織の少なくとも一部を通って血液を循環していないことの第一の兆候であると現在、考えられ、これは当該組織が虚血になることを意味する。
【0049】
ステップ131で決定される等電レベル(イソポテンシャル)からの種々のECGシグナルのSTセグメントレベルの偏差は、いわゆるSTセグメント偏差ベクトルを構成するように使用される。ステップ132で構成される当該STセグメント偏差ベクトルは、1つの方向及び1つの長さ(大きさ)を含む。ベクトルの方向は、虚血性になる心筋組織の位置及び冠動脈系の閉塞又は深刻な狭窄(狭心症)の最も可能性のある位置を示す。
【0050】
各ECGシグナルの決定されたSTセグメント偏差の全ての絶対値の総計を見出すことによって決定される、STセグメント偏差ベクトルの長さ又は大きさは、病気に冒された虚血領域(ステップ133)の大きさ及び重度の指標である。
【0051】
心臓の心電図は、電圧シグナルであり、当該電圧は、各々の心拍中の、図1で示されるPORSTパルス形態を示す。電圧はミリボルト(mV)で測定される。従って、等電レベルからの心電図でのSTセグメントの全ての偏差も、ミリボルトで測定される。(ミリボルトで特徴付けられる)STセグメント偏差の極性は、上昇(増加)の場合には正(+)、等電レベル(イソポテンシャル)に関連して下降(減少)の場合には(-)である。測定されたSTセグメント偏差が0ミリボルトである場合には、等電STセグメント(0)は、健常人のそれと類似する。
【0052】
ステップ134では、この情報は、通常、テキスト式に位置を限定しかつ大きさを表示する形態で又は図的表示の形態で使用者に提供され、構成されるSTセグメント偏差ベクトルは、ヒト心臓の略図上に投影される。
【0053】
従って、使用者(例えば救急車の職員)は、患者の梗塞形成がどの程度深刻であるか、及び緊急治療及びより専門化された病院への搬送が必要であると考えられるかについて、この情報に基づいて直接的に決定することができる。
【0054】
この決定プロセスでは、そのため、本発明に従う方法は、次の治療スキームに関してステップ135で示唆を提供する。当該治療スキームは例えば、血液希釈剤の投与、及び心臓カテーテル法を実行しかつ閉塞冠動脈を開くための専門化センターへの迅速な搬送を含む。
【0055】
本発明に従う方法及び装置は、図4及び5のステップ13(そして、次にステップ131〜135)で、測定されたECGシグナルを分析する診断及び分析モデルを採用する。これは、例えば図6で示される。この表では、第一カラムは、14の関連ECGシグナル、すなわち、6つの前胸ECGシグナルV1〜V6、任意の前胸ECGシグナルV3R及びV4R(グレイで示す)、3つの四肢シグナルI、II、III、並びにそれから得られる四肢シグナルAVR、AVL及びAVFを含む。
【0056】
更に、診断-分析モデルは、並ぶ多数のカラムを開示する。これは、各々、冠動脈系で最も起こる可能性のある8つの閉塞の内の1つを示している。当該8つの閉塞の位置は、図3Aに図示され、それらは診断-分析モデルで表わされる。
【0057】
第二及び第三カラムは、RCA Prox及びRCA Distを各々示し、梗塞閉塞が右手冠動脈RCA Prox(近位枝)の上部又は右手冠動脈RCA Dist(末梢枝)の低部で起こった状況で、12(又は14)ECGシグナルの各々に関してSTセグメント偏差の特徴を記載している(図3Aの番号1及び2)。
【0058】
第4カラムCXは、回旋冠動脈CXの梗塞/閉塞に対応するSTセグメント偏差の特徴を含むが(図3Aの数字3)、第5、第6、第7及び第8カラムLAD 1〜4は、LAD障害(閉塞)が左手前下降冠動脈で起こる4種の位置のSTセグメント偏差を記載する(図3Aの番号4〜7)。説明LAD 1〜4については図6を参照されたい。
【0059】
第9カラムLMでは、左手冠動脈主幹部LM(図3Aの番号8)の上部での閉塞と関連するSTセグメント偏差が記載されている。(実質的に心臓の左手側全体にある)心筋組織の75 %は、左手冠動脈主幹部LMの閉塞の結果として酸素に富む血液を奪うため、この後者の位置は、非常に重度の梗塞であると考えられる。このようなLM閉塞は直ぐに除かれない場合には、筋組織の大部分が永久に虚血になる危険性にあるので、患者の生命を脅かす状況になる。
【0060】
これに加えて、第10(最後の)カラムは、肺に痛みを有する人が直面するSTセグメントの変化を示す。この状況では、冠動脈の1つでは真の閉塞は存在しないが、重度の狭窄が多数の冠動脈で起こっている。専門家の間では、図3BのA〜Cで示されるこの状況は、「不安定狭心症」と称される(「不安定A.P.」)。
【0061】
従って、冠動脈の閉塞又は重度の狭窄の位置は、虚血になる心筋組織の大きさに決定的影響を与え、将来、生存の機会及び心臓機能に重要な影響も及ぼす。直接的かつ適切なケアを提供する枠組み内で、閉塞及び虚血領域の位置と大きさに関する時宜を得た病識を得ることが非常に望ましい。
【0062】
図7A〜7B、8A〜8B及び9A〜9Bは、本発明に従う方法及び装置の原理を開示する3つの態様を、図3及び6に関連して示す。
【実施例】
【0063】
実施例 A
この実施例は、図7に、冠動脈系の閉塞の結果としての梗塞を有する患者の、12ECGシグナルI〜III、AVR、AVF及びV1〜V6の一群を示す。本発明に従う方法のステップ13(図4及び5)に従う分析では、ECGシグナルV2〜V6、I、AVR及びAVLのSTセグメントは、等電レベル(イソポテンシャル)から負の偏差(「-」=下降)を示すようであった。
【0064】
これに加えて、ECGシグナルII、III及びAVFは、等電レベルからSTセグメントの増加した偏差(「+」=上昇)を示した。ECGシグナルVIは、等電STセグメント(「0」=等電)を示す。更に、ECGシグナルIIの上昇がECGシグナルIIIの上昇に比べて小さいようであった。
【0065】
本発明に従えば、STセグメント偏差ベクトルは、図6の診断及び分析モデルに基づいて構成される。そのベクトルは図7Bの20に示される。ECGシグナルII及びIIIの上昇の結果として、STセグメント偏差ベクトル20は、ECG電極II及びIIIが人の体に設置される位置方向に向いている。更に、STセグメント偏差ベクトル20は、ECG感覚電極Iが存在する位置を離れて指している。これは、ECGシグナルIのSTセグメントが等電レベルに関連して下降を示すからである。
【0066】
図6に示される診断-分析モデルを用いて、閉塞が右手冠動脈RCAの近位枝に局在化することをSTセグメント偏差要素20の方向及び長さ/大きさから結論できる。右手冠動脈RCAの近位枝の閉塞位置を、図3Aの1に示す。
【0067】
STセグメント偏差ベクトル20の長さ及び次に心臓の病気に冒された虚血領域の大きさは、ECGシグナルの様々なSTセグメント偏差(上昇、下降、等電)の絶対的大きさの総計を見出すことによって決定した。
【0068】
各STセグメント偏差は、心電図の等電レベル(イソポテンシャル)を合計で0 mVoltとして、ミリボルトで決定した。正のポテンシャル差は、「上昇」を示すが、負のポテンシャル差は、「下降」を示した。この実施例において、STセグメント偏差スコアは76 mmであった。
【0069】
本発明に従う診断-分析モデルを用いて、患者のECGの分析後に、虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系の閉塞位置(様々なECGシグナルの決定)、そして直接的行為を患者の治療に関して採るか否かを直接に決定することができた。
【0070】
本実施例Aでは、様々なECGシグナルの測定したSTセグメント偏差は、右手冠動脈RCA Proxの近位枝での閉塞の特徴である、STセグメント偏差の値(「+」、「0」又は「-」)に最も対応する(図6及び図3Aの番号1の関連カラムを参照されたい)ので、対象の患者がこのような閉塞を有するという事実は、本発明に従う方法によって直接的に診断することができる。本実施例では、STセグメント偏差スコアは76 mmであった。
【0071】
実施例 B
本発明に従う方法及び装置の操作に関する第二実施例Bは、図3A及び図6に関連して、図8A及び8Bに示す。
【0072】
図8Aには、12のECGシグナルの中で、ECGシグナルII、III、AVF、V5及びV6が、等電レベルと比べてSTセグメント(「+」)の上昇を示したことを示す。STセグメント(「-」)の下降は、ECGシグナルAVR、AVL、V2、V3及びV4で測定し、ECGシグナルI、AVL及びV1のSTセグメントは等電(「0」)であった。更に、ECGシグナルIIの上昇は、ECGシグナルIIIの上昇よりも大きかった。
【0073】
12のSTセグメント偏差の決定は、図8Bで、STセグメント偏差ベクトル21を構成する。ベクトル21は、回旋冠動脈CX方向を向いている。図3Aでは、回旋冠動脈CXの閉塞位置は、3で示す。更に、図8Aで示す、心電図の決定したSTセグメント偏差の局在化は、回旋冠動脈CXの閉塞として述べるSTセグメント偏差に対応する。図6の診断及び分析モデルのカラムCXを参照されたい。
【0074】
本実施例Bでは、ベクトル21上のSTセグメント偏差の長さ/大きさ、次いで心臓の病気に冒された虚血領域の大きさは、図8Aで示すECGシグナルの様々なSTセグメント偏差(上昇、下降、等電)の絶対的大きさの総計によって決定した。
【0075】
実施例 C
図9Aで示す12のECGシグナルの内で、ECGシグナルII、III、AVF、V5及びV6は、STセグメントの下降(「-」)を示すが、ECGシグナルI、AVR、AVL、V1、V2、V3及びV4は、STセグメントの下降(「+」)を示した。測定する12のECGシグナルのセグメントはいずれも等電レベルを示さず又は有さなかった。
【0076】
本発明に従う装置及び方法を用いて、当該ECGシグナルのSTセグメント偏差の分析後に、図9Bに示すように、左手前下降冠動脈の上部(LAD 1)に向いているベクトル22のSTセグメント偏差を構成した。図3Bでは、この閉塞位置を4で示す。
【0077】
図6に示す診断及び分析モデルの方法によって決定した様々なECGシグナルのSTセグメント偏差の分析後に、測定した偏差が、LAD 1閉塞に関連する特徴的なSTセグメント偏差に最も対応する、と結論することもできる。
【0078】
同様に、測定したECGシグナルの各シリーズに関連するSTセグメント偏差は、図6の診断及び分析モデルで特定した関連閉塞症状に関連付けられる。各種の閉塞に関して、ある特定のECGシグナルは、特徴的なSTセグメント偏差(上昇又は下降)を示すが、他の測定したECGシグナルに関連するSTセグメントは、等電を維持してもよく、又は上昇もしくは下降を示してもよい。
【0079】
本発明に従う診断及び分析モデルは、不安定な狭心症の場合に、冠動脈狭窄の程度を診断するために用いることもできる。
【0080】
図10は、本発明に従う装置の実施態様を更に図解的に示す。装置は、好ましくは、人の体に設置することができる一束のECG電極3(1〜111、AVR、AVL、V1〜V、及び場合によりV3R及びV4R)を含むポータブルユニット2である(図2参照)。
【0081】
一束のECG電極3は、インプットコネクタを介して装置2に結合され(図示せず)、様々な入射角で測定した心臓の心電図は、当該コネクタを介してECGデータ処理ユニット11、12で読まれる。当該処理ユニット11、12では、誘導ECGシグナルAVL、AVR及びAVFを発生させるだけでなく、ECGシグナルに基づいて、公知の方法で、虚血領域が患者の心臓に存在するか否かも決定される。当該公知の診断的方法の結果は、表示ユニット15、例えばディスプレイスクリーンに提示することができ、そして紙に複写することができる。
【0082】
本発明によれば、装置2はECG分析ユニット13を含む。分析ユニット13は、各々の心電図の電圧シグナルをサンプリングし、等電レベルからのSTセグメント偏差を決定した。測定される全てのECGシグナルに関して(12又は14)、当該STセグメントサンプリングは、上昇の場合には正であり、下降の場合には負である差電圧をもたらした。
【0083】
分析ユニット13は、診断ユニット14を更に含む。12(又は14)のECGシグナルI〜III、V1〜V6、AVF、AVL及びAVR (及び場合によりV3R及びV4R)のSTセグメント偏差に対応する、12(又は14)のサンプリングした差電圧は、診断ユニット14に提示される。診断ユニット14は、図6の診断及び分析モデルに従って機能する。すなわち、ユニット14を、一連のサンプリングした差電圧と結合するように配置した。この電圧は、前に特定した、モデルに存在すする閉塞症状に多かれ少なかれ対応する。
【0084】
当該結合又は「マッチング」はソフトウェアで制御した方法で起こり得る。その場合に、診断ユニット14は、保存手段、記憶手段及び中央処理ユニットを含み、制御システムは中央処置ユニットによって実行することができる。保存手段は、そこに保存されたデータ処理プログラムを有してもよい。プログラムは、記憶に一旦ロードされると、デジタル的にサンプリングした差電圧を読むように配置され、そして、得られた一連の測定値を解析し、次いで、一連の分析した測定値を前に特定し、保存した閉塞症状に結び付けるために、図6で記載したアルゴリズムを実行する。
【0085】
別の実施態様では、診断ユニットは、それ自体公知で論理演算として機能する電気的成分から成っていてもよい。このようにして、図6の診断及び分析モデルは、論理演算の手段により論理回路として配置することができる。測定したSTセグメント偏差の論理回路への提示は、一連のサンプリングしたSTセグメント偏差を、前に特定した閉塞症状に結び付ける。
【0086】
当該結合は、表示ユニット15を介して表示される。当該表示は、テキスト形式でも又は視覚的でもよい。前者では、冠動脈の閉塞位置及びSTセグメント偏差ベクトルが表示される。後者の状況では、構成されたSTセグメント偏差ベクトルが心臓の略図に投影される。この場合に、表示される画像は、虚血領域(閉塞)の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系の閉塞位置、並びに虚血領域の大きさに関連する。
【0087】
診断ユニット14から分析ユニット13へのSTセグメント偏差診断のフィーッドバック後に、治療スキームの示唆が更になされ、そして表示ユニット15を介して使用者(救急車又は病院関係者及び一般の職員)に提示されてもよい。そのためには、関連するデータベースが分析ユニット13に保存されてもよく、そこから、様々な治療ステップを、診断された閉塞に基づいて提案することができる。例えば、冠動脈の開口、血栓溶解剤の投与又は監視のための病院への移送についての専門化病院を参照されたい。
【0088】
図11で図解的に示される別の実施態様では、本発明に従う装置は、図10の実施態様から明らかなように、ECG分析ユニット13及び診断ユニット14から成るに過ぎない。この単純化されたユニットは、独立の電源(電池)を備えていても又は備えてなくてもよく、ヒト又は動物について心電図が行われる方法により既に存在する装置の拡張として機能すればよい。
【0089】
当該ユニットは、公知のケーブル結合により簡単な方法で現存の装置に結合することができる。同様に、ユニット13〜14にはコネクタ5が備えられ、統合ECG測定及び分析装置が入手できるため、公知の装置2の対応するコネクタ6へのユニットをクリックすることが可能になる。これは、使用容易性を向上させ、より簡単に管理可能でコンパクトかつ持ち運びのできる併合装置をつくる。
【0090】
処理ユニット11、12又は14によって読まれるECGシグナルV1〜V6、I〜III、AVF、AVL及びAVR (及び、必要によりV3R及びV4R)は、コネクタ5〜6によって分離ユニット4に送られる。当該分離ユニット4では、ECG分析及び診断ステップは、図6に記載のアルゴリズムに従って実行され、その結果は処理ユニット11、12及び表示ユニット15に反映される。
【0091】
本発明に従う装置のこの簡略化した実施態様は、現存のECG測定器具を、本発明に従う方法及びアルゴリズムに従って操作する装置に、低コストで性能向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、1脈拍における健常人の心電図を示す。
【図2】図2は、本発明に従う装置の実施態様を示す。
【図3A】図3Aは、ヒト心臓の周囲の冠動脈系の概略図であり、発生する閉塞場所が図解的に示されている。
【図3B】図3Bは、ヒト心臓の周囲の冠動脈系の概略図であり、可能性のある狭窄位置が図解的に示されている。
【図4】図4は、本発明に従う方法の実施態様を示す流れ図である。
【図5】図5は、本発明に従う方法の第二の実施態様を示す流れ図である。
【図6】図6は、本発明に従う診断及び分析モデルを示す。
【図7A】図7Aは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Aを示す。
【図7B】図7Bは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Aを示す。
【図8A】図8Aは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Bを示す。
【図8B】図8Bは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Bを示す。
【図9A】図9Aは、本発明に従うECG診断及び分析の第三の実施例Cを示す。
【図9B】図9Bは、本発明に従うECG診断及び分析の第三の実施例Cを示す。
【図10】図10は、本発明に従う装置の第二及び第三実施態様の詳細な図である。
【図11】図11は、本発明に従う装置の第二及び第三実施態様の詳細な図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺に痛みを有する患者の心臓の虚血領域の存在の決定方法であって、A. 患者の体の様々な部位に多数の感覚電極を設置するステップ;B. 各感覚電極を介して心臓からの心電図(ECG)シグナルを取得するステップ;C. ステップBで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の虚血領域の存在を決定するステップ、を含む方法に関する。本発明はまた、本発明に従い方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で用いる用語「患者」は、ヒト及び動物を含むと理解される。ヒト又は動物の体の筋肉において、電圧シグナルは、筋肉の動き(収縮及び弛緩)に先行する。また、体の中の血液を汲み上げる中空筋である心臓は、心拍ごとに電圧を送達する。このような電圧シグナルは、特徴的形態を有し、その記名は、専門家の間では、心電図(ECG)と称される。
【0003】
心臓に送達されかつ心臓の上半部及び心室の筋組織を通過する心臓周波数及び電気パルスを含む、ポンプ作用に対する見識を得るために、心臓によって送達される電圧シグナルを測定するための方法が開発されている。そのためには、多数の感覚電極が体に設置され(心臓の周囲の肺に6つの前胸電極、及び四肢上に4つの電極)、この電極は、心臓を通過する電圧シグナルを測定する(図2を参照)。
【0004】
こうして得られる心電図は、図1に示すように、全ての健常人について特徴的形態を有する。診断目的で、ECGシグナルは、1心拍に対応する時間間隔を越える多数のパルス又は波形に分けられる。サインノード(sine node)による2つの心臓上半部の電気的活性化は、図1のPで示される波形によって説明される。
【0005】
心電図記録法の分野では、当該活性化は、脱分極と称される。活性化(脱分極)後に、再分極と称される心臓筋細胞の再充電が起こる。心室の再分極は、ECGのSTセグメントで起こる。
【0006】
健常人では、図1に示す心電図(P波、QRS複合体及びT波)は、心拍ごとにその後に、「イソポテンシャル」(実線で示す)に戻る。
【0007】
健常人のECGと比べて、ECG(PQRST)の異常は、心臓不整脈及び心筋に対するダメージを示すことがある。ECGの最初の測定は20世紀の初期に始まったので、その分析及び心臓の動きの異常可能性に関連する診断について進歩してきた。
【0008】
現在では、心筋の一部が心臓のポンプ作用に関与していないか、又は例えば、心臓の一部での血液循環が一時的に又は長期間、遮断される間に、1以上の冠動脈の閉塞によって起こる心筋梗塞の結果として、より弱い程度で関与しているかを決定することができる。これは、ECGシグナルに由来する。病気に冒された心臓を通過する電気シグナルは、通常機能している心臓からのECGシグナルとは異なるからである。専門家の間では、血液を提供しない病気に冒された心筋の一部は「虚血領域」と称される。
【0009】
心臓の虚血領域の存在、特にその位置及び大きさの決定は、生命に関わる重要性を有し、患者の治療は当該決定を基準とすることになる。治療のためには、当該閉塞が正確にかつできるだけ早く取り除かれるように、冠動脈の閉塞の正確な位置を知ることが最も重要である。
【0010】
導入部分で言及した、心臓の虚血領域の存在を決定する方法論又は方法の1例は、例えば、米国特許第6,128 526号明細書に記載されている。しかしながら、当該特許文献に記載されているECG分析の方法は、心臓の虚血領域の存在の決定を目的としたものに過ぎず、これに限定されている。
【0011】
米国特許第6,424,860号明細書には、多少のこれに対応する技術が記載されている。
【0012】
正確な位置及び心臓の虚血領域のサイズに関する追加の情報を得るために、現在公知のECG分析法の手段によってはこれまで成功していない。正確な治療スキーム及びその時宜を得た実施が、心筋に対するダメージの程度を限定し、又は更にこのようなダメージを共に抑制することができるため、この情報の入手可能性は、問題の特許には非常に重要である。
【0013】
特に、虚血領域が大きい場合には、血液供給の迅速な回復は必須であり、回復は、閉塞冠動脈の開口を含む心臓カテーテル法によって起こる。しかし、この治療を行う病院の数は限られる。そのため、迅速かつ正確な診断、及び次の治療ステップに関する正確な病識(例えば、専門化心臓センターへの搬送媒体)は、最も重要である。
【発明の開示】
【0014】
本発明の目的は、この目的を満足するECG分析の新技術を提供することである。
【0015】
本発明によれば、心臓の虚血領域の存在を決定する方法は、D. ステップBで取得した様々なECGシグナルを分析するステップ;及び、E. ステップDで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の冠動脈系での閉塞位置を決定するステップによって更に特徴付けられる。
【0016】
より特には、本発明に従う方法は、虚血領域のサイズを決定するステップFによって更に特徴付けられる。
【0017】
この方法により、虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系での閉塞の位置の直接かつ正確な評価を得ることができる。この情報は、治療スキームの開始について緊急時に、医療関係者(救急車及び病院関係者又は一般の職員)に、より迅速かつ適切に対応させることができる。
【0018】
虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系での閉塞の位置を決定することができるためには、本発明に従う方法は、G. イソポテンシャルレベル、及びステップBで取得した各ECGシグナルのイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するステップ;並びにH. ステップGで取得したSTセグメントの偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを組み立てるステップ、によって更に特徴付けられる。
【0019】
STセグメント偏差ベクトルに基づいて、心臓での虚血領域の位置は、ステップIにおけるSTセグメント偏差ベクトルの方向から得られる本発明に従い;そして、ステップIにおける局在化される虚血領域の大きさは、ステップJにおけるSTセグメント偏差ベクトルの大きさから得られる。
【0020】
この情報は、医療従事者に適切な治療スキームを作成させることができ、そのためには、本発明に従う方法は、K. 心臓の虚血画像上にステップHで構成されるSTセグメント偏差要素を投影するステップ;及びL. ステップKで得られた画像を使用者に表示するステップ、によって更に特徴付けられる。
【0021】
より具体的には、本発明に従う方法は、心臓の冠動脈系の閉塞位置、及びステップEとFで得られた虚血領域の位置及びサイズに基づいて、治療ステップのスキームを作成する、ステップMを更に含む。
【0022】
この結果は、心臓の心電図の診断及び分析の改良技術をもたらし、その結果、心筋梗塞の治療法をもたらす。このようにして、患者の適切な治療スキームは、より早くに開始することができ、患者の生存率が極端に増加する。
【0023】
本発明に従う患者の心臓の虚血領域の存在を決定する装置は以下を含む:患者の心臓からのECGシグナルを測定するためのECG電極群;ECG電極に連結されるべきECGデータ処理手段であって、ECGシグナルを受信し、かつ当該ECGシグナルに基づいて心臓の虚血領域の存在を決定するように配置される手段;並びにECGデータ処理手段によって得られるECGデータを使用者に表示するための表示手段。
【0024】
本発明によれば、当該装置は、ECGシグナルを分析し、かつ虚血領域の位置及び心臓の冠動脈系の閉塞位置を決定するように配置される、ECG分析手段を含む。
【0025】
より具体的には、ECG分析手段は、心臓の冠動脈に局在化した虚血領域の大きさを決定するように配置される。結果として、虚血領域の位置及び大きさに関する正確な情報、並びに心臓の冠動脈での閉塞の位置についての正確な情報が直接的に得られる。この情報に基づいて、医療従事者(救急車の従事者)は、治療スキームの開始に関してより迅速かつ適切に応答することができる。
【0026】
具体的実施態様では、ECG分析手段は、イソポテンシャルレベル、及び全てのECGシグナルに対するイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するように配置される。
【0027】
より具体的には、ECG分析手段は、決定されるSTセグメント偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを構成するように配置される。当該STセグメント偏差ベクトルは、虚血領域の存在、位置と大きさ及び心臓の冠動脈での閉塞位置に関する重要な情報を含む。これは、本発明によれば、ECG分析手段は、STセグメント偏差ベクトルの方向に基づいて、虚血領域の位置及び心臓の冠動脈での閉塞位置を導き出すように更に配置され、かつ、STセグメント偏差ベクトルの大きさに基づいて、局在化した虚血領域の大きさを導き出すように更に配置されるからである。
【0028】
具体的な治療スキームの作成において医療従事者をサポートするために、当該表示手段は、テキスト形式の情報を表示するように配置され、更に構成されるSTセグメント偏差ベクトルを心臓の略図上に投影することもできるように配置される。
【0029】
特定の実施態様では、装置は、得られる虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈での閉塞位置に基づいて、治療ステップのスキームを作成し、かつ当該表示手段を介して使用者に当該スキームを表示するように配置すればよい。
【0030】
この方法及び本発明に従う装置の実施態様は、図面を参考に本明細書で以下により詳細に説明されることになる。
【0031】
図2は、患者1に使用される本発明に従う装置の実施態様を示す。本発明に従う装置2は、一束の感覚電極3で提供され、この電極は、医療で公知の位置又は方向に従って患者1の体に適用される。一束の感覚電極3は、6つの前胸ECG電極V1〜V6から成り、図2に示すように、心臓の周囲の胸郭の前面に適用される。
【0032】
更に、本発明に従う装置2は、左腕、右腕、左脚及び右脚にそれぞれ適用される4つの四肢感覚電極を利用する。4つの四肢感覚電極の手段により、6つの先端誘導(I、II、III、AVF、AVL及びAVR)が生じる。
【0033】
ECG感覚電極の手段により、ヒト心臓の心電図は、図1に示すように、時間と共に変動する12のECG電圧シグナルの形態で多数の角度から測定される。この結果は12のECGシグナルを生じる。
【0034】
本発明に従う装置のより正確な操作及び方法を達成するために、2つの追加のECG感覚電極V3R及びV4Rを使用してもよい。これらは、図2に示すように、心臓の右手半分上の肺上に設置される。2つの追加のECG感覚電極V3R及びV4Rの使用は、各々、14のECGシグナル群を生じ、これは、心臓の状態及びポンプ作用についてのより正確な情報を提供する。
【0035】
本発明に従う方法及び装置は、閉塞の下流の心筋組織が虚血になる結果として、心臓、特に冠動脈系で閉塞が起こったかどうかを決定するために、12のECGシグナル群又は14のECGシグナル群を利用する。
【0036】
図3Aは、ヒト心臓の冠動脈系を図解的に示す。冠動脈系は、大動脈の第一枝主幹部であり、ヒト心臓の左心室から生じ、心臓弁により遮断される。酸素に富む血液は、左心室から大動脈に、大動脈枝の当該一部から冠動脈系に吸い上げられる。
【0037】
冠動脈系は、2つの冠動脈からできている。大動脈から分岐する右手冠動脈RCAは、右手側(右心室)及び酸素に富む左心室の一部を提供する。従って、右手冠動脈RCAは、血液により心臓の右手側全部及び左手側の約25 %を提供する。
【0038】
専門家は、右手冠動脈RCAを、上部の近位RCA枝及び低部の末梢RCA枝に分ける。RCAの近位部は、右心室(RV)を通過する枝に広がる。
【0039】
冠動脈系の他の冠動脈は、左手冠動脈主幹部LMであり、これは、酸素に富む血液で心臓の左手側の残りの75 %を提供する。左手冠動脈LMは、左手前下行冠動脈LAD(50 %)及び回旋冠動脈(25 %)に分かれる。
【0040】
図3Aは、問題の冠動脈の閉塞が起こる(数字1〜8で示される)冠動脈系内に8位置を示す。可能性のある閉塞の8位置は、本発明に従う方法及び装置によって決定することができ、その決定は図6、7A〜7B、8A〜8B及び9A〜9Bを参考に説明されることになる。
【0041】
図3Bは、冠動脈系の特定部位の狭窄(狭心症)に関する(文字A、B、Cで示される)3位置を更に示す。位置A、B及びCの狭窄は、閉塞に発展することがある。本発明及び本発明に従う方法は、後者の位置に基づいて、図6、7A〜B、8A〜8B及び9A〜9Bを参考に更に詳細に説明される。
【0042】
図4及び5は、本発明に従う方法の2つの実施態様を示す。本発明に従う方法は、図4及び5に示される流れ図を参考に最もよく説明される。本発明に従う方法を実施するための最初のステップ10では、一束のECG電極3(図2)は、公知の方法で肺(6つの前胸電極V1〜V6)及び四肢に適用される。
【0043】
次のステップ11では、各ECG感覚電極からのECGシグナルが測定され、一群の9つの直接測定される心電図I〜III、V1〜V6及びそこから得られる3つの心電図 AVF、AFL及びAVRを生じ得る。
【0044】
次に、心筋組織の虚血領域の形成を招く閉塞又は重度の狭窄が冠動脈系で起こったかどうかがステップ12で決定される。ステップ12に従う虚血領域の存在の決定は、米国特許第6,171,256号明細書に記載の公知の方法で実行することができる。
【0045】
本発明に従う方法の次のステップ13では、虚血領域の正確な位置と大きさ及び心臓の冠動脈系の閉塞位置が決定されることにより、得られたECGシグナル群は更に分析される。
【0046】
図5で、本発明に従う方法の次のステップ13がより詳細に説明される。本発明に従う方法の第一の特定のステップ131では、各心電図の等電レベル(イソポテンシャル)からのSTセグメント偏差は、12のECGシグナル群(V1〜V6、I〜III、AVF、AVR、AVL)で決定される。
【0047】
心筋組織の一部が虚血性になる結果としての、冠動脈の閉塞又は深刻な狭窄の場合には、図1に示すように、心電図のシグナルに異常が生じることになる。緊急時では、当該障害は、特に、QRS複合体とT-波との遷移を形成するいわゆるSTセグメントの形態での変化形態として現れることになる。これらの変化は、等電レベル(「イソポテンシャル」)に関連して上昇又は下降する。
【0048】
心電図の分析では、STセグメントの変化の発生(上昇又は下降)は、冠動脈系が、好ましくは心筋組織の少なくとも一部を通って血液を循環していないことの第一の兆候であると現在、考えられ、これは当該組織が虚血になることを意味する。
【0049】
ステップ131で決定される等電レベル(イソポテンシャル)からの種々のECGシグナルのSTセグメントレベルの偏差は、いわゆるSTセグメント偏差ベクトルを構成するように使用される。ステップ132で構成される当該STセグメント偏差ベクトルは、1つの方向及び1つの長さ(大きさ)を含む。ベクトルの方向は、虚血性になる心筋組織の位置及び冠動脈系の閉塞又は深刻な狭窄(狭心症)の最も可能性のある位置を示す。
【0050】
各ECGシグナルの決定されたSTセグメント偏差の全ての絶対値の総計を見出すことによって決定される、STセグメント偏差ベクトルの長さ又は大きさは、病気に冒された虚血領域(ステップ133)の大きさ及び重度の指標である。
【0051】
心臓の心電図は、電圧シグナルであり、当該電圧は、各々の心拍中の、図1で示されるPORSTパルス形態を示す。電圧はミリボルト(mV)で測定される。従って、等電レベルからの心電図でのSTセグメントの全ての偏差も、ミリボルトで測定される。(ミリボルトで特徴付けられる)STセグメント偏差の極性は、上昇(増加)の場合には正(+)、等電レベル(イソポテンシャル)に関連して下降(減少)の場合には(-)である。測定されたSTセグメント偏差が0ミリボルトである場合には、等電STセグメント(0)は、健常人のそれと類似する。
【0052】
ステップ134では、この情報は、通常、テキスト式に位置を限定しかつ大きさを表示する形態で又は図的表示の形態で使用者に提供され、構成されるSTセグメント偏差ベクトルは、ヒト心臓の略図上に投影される。
【0053】
従って、使用者(例えば救急車の職員)は、患者の梗塞形成がどの程度深刻であるか、及び緊急治療及びより専門化された病院への搬送が必要であると考えられるかについて、この情報に基づいて直接的に決定することができる。
【0054】
この決定プロセスでは、そのため、本発明に従う方法は、次の治療スキームに関してステップ135で示唆を提供する。当該治療スキームは例えば、血液希釈剤の投与、及び心臓カテーテル法を実行しかつ閉塞冠動脈を開くための専門化センターへの迅速な搬送を含む。
【0055】
本発明に従う方法及び装置は、図4及び5のステップ13(そして、次にステップ131〜135)で、測定されたECGシグナルを分析する診断及び分析モデルを採用する。これは、例えば図6で示される。この表では、第一カラムは、14の関連ECGシグナル、すなわち、6つの前胸ECGシグナルV1〜V6、任意の前胸ECGシグナルV3R及びV4R(グレイで示す)、3つの四肢シグナルI、II、III、並びにそれから得られる四肢シグナルAVR、AVL及びAVFを含む。
【0056】
更に、診断-分析モデルは、並ぶ多数のカラムを開示する。これは、各々、冠動脈系で最も起こる可能性のある8つの閉塞の内の1つを示している。当該8つの閉塞の位置は、図3Aに図示され、それらは診断-分析モデルで表わされる。
【0057】
第二及び第三カラムは、RCA Prox及びRCA Distを各々示し、梗塞閉塞が右手冠動脈RCA Prox(近位枝)の上部又は右手冠動脈RCA Dist(末梢枝)の低部で起こった状況で、12(又は14)ECGシグナルの各々に関してSTセグメント偏差の特徴を記載している(図3Aの番号1及び2)。
【0058】
第4カラムCXは、回旋冠動脈CXの梗塞/閉塞に対応するSTセグメント偏差の特徴を含むが(図3Aの数字3)、第5、第6、第7及び第8カラムLAD 1〜4は、LAD障害(閉塞)が左手前下降冠動脈で起こる4種の位置のSTセグメント偏差を記載する(図3Aの番号4〜7)。説明LAD 1〜4については図6を参照されたい。
【0059】
第9カラムLMでは、左手冠動脈主幹部LM(図3Aの番号8)の上部での閉塞と関連するSTセグメント偏差が記載されている。(実質的に心臓の左手側全体にある)心筋組織の75 %は、左手冠動脈主幹部LMの閉塞の結果として酸素に富む血液を奪うため、この後者の位置は、非常に重度の梗塞であると考えられる。このようなLM閉塞は直ぐに除かれない場合には、筋組織の大部分が永久に虚血になる危険性にあるので、患者の生命を脅かす状況になる。
【0060】
これに加えて、第10(最後の)カラムは、肺に痛みを有する人が直面するSTセグメントの変化を示す。この状況では、冠動脈の1つでは真の閉塞は存在しないが、重度の狭窄が多数の冠動脈で起こっている。専門家の間では、図3BのA〜Cで示されるこの状況は、「不安定狭心症」と称される(「不安定A.P.」)。
【0061】
従って、冠動脈の閉塞又は重度の狭窄の位置は、虚血になる心筋組織の大きさに決定的影響を与え、将来、生存の機会及び心臓機能に重要な影響も及ぼす。直接的かつ適切なケアを提供する枠組み内で、閉塞及び虚血領域の位置と大きさに関する時宜を得た病識を得ることが非常に望ましい。
【0062】
図7A〜7B、8A〜8B及び9A〜9Bは、本発明に従う方法及び装置の原理を開示する3つの態様を、図3及び6に関連して示す。
【実施例】
【0063】
実施例 A
この実施例は、図7に、冠動脈系の閉塞の結果としての梗塞を有する患者の、12ECGシグナルI〜III、AVR、AVF及びV1〜V6の一群を示す。本発明に従う方法のステップ13(図4及び5)に従う分析では、ECGシグナルV2〜V6、I、AVR及びAVLのSTセグメントは、等電レベル(イソポテンシャル)から負の偏差(「-」=下降)を示すようであった。
【0064】
これに加えて、ECGシグナルII、III及びAVFは、等電レベルからSTセグメントの増加した偏差(「+」=上昇)を示した。ECGシグナルVIは、等電STセグメント(「0」=等電)を示す。更に、ECGシグナルIIの上昇がECGシグナルIIIの上昇に比べて小さいようであった。
【0065】
本発明に従えば、STセグメント偏差ベクトルは、図6の診断及び分析モデルに基づいて構成される。そのベクトルは図7Bの20に示される。ECGシグナルII及びIIIの上昇の結果として、STセグメント偏差ベクトル20は、ECG電極II及びIIIが人の体に設置される位置方向に向いている。更に、STセグメント偏差ベクトル20は、ECG感覚電極Iが存在する位置を離れて指している。これは、ECGシグナルIのSTセグメントが等電レベルに関連して下降を示すからである。
【0066】
図6に示される診断-分析モデルを用いて、閉塞が右手冠動脈RCAの近位枝に局在化することをSTセグメント偏差要素20の方向及び長さ/大きさから結論できる。右手冠動脈RCAの近位枝の閉塞位置を、図3Aの1に示す。
【0067】
STセグメント偏差ベクトル20の長さ及び次に心臓の病気に冒された虚血領域の大きさは、ECGシグナルの様々なSTセグメント偏差(上昇、下降、等電)の絶対的大きさの総計を見出すことによって決定した。
【0068】
各STセグメント偏差は、心電図の等電レベル(イソポテンシャル)を合計で0 mVoltとして、ミリボルトで決定した。正のポテンシャル差は、「上昇」を示すが、負のポテンシャル差は、「下降」を示した。この実施例において、STセグメント偏差スコアは76 mmであった。
【0069】
本発明に従う診断-分析モデルを用いて、患者のECGの分析後に、虚血領域の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系の閉塞位置(様々なECGシグナルの決定)、そして直接的行為を患者の治療に関して採るか否かを直接に決定することができた。
【0070】
本実施例Aでは、様々なECGシグナルの測定したSTセグメント偏差は、右手冠動脈RCA Proxの近位枝での閉塞の特徴である、STセグメント偏差の値(「+」、「0」又は「-」)に最も対応する(図6及び図3Aの番号1の関連カラムを参照されたい)ので、対象の患者がこのような閉塞を有するという事実は、本発明に従う方法によって直接的に診断することができる。本実施例では、STセグメント偏差スコアは76 mmであった。
【0071】
実施例 B
本発明に従う方法及び装置の操作に関する第二実施例Bは、図3A及び図6に関連して、図8A及び8Bに示す。
【0072】
図8Aには、12のECGシグナルの中で、ECGシグナルII、III、AVF、V5及びV6が、等電レベルと比べてSTセグメント(「+」)の上昇を示したことを示す。STセグメント(「-」)の下降は、ECGシグナルAVR、AVL、V2、V3及びV4で測定し、ECGシグナルI、AVL及びV1のSTセグメントは等電(「0」)であった。更に、ECGシグナルIIの上昇は、ECGシグナルIIIの上昇よりも大きかった。
【0073】
12のSTセグメント偏差の決定は、図8Bで、STセグメント偏差ベクトル21を構成する。ベクトル21は、回旋冠動脈CX方向を向いている。図3Aでは、回旋冠動脈CXの閉塞位置は、3で示す。更に、図8Aで示す、心電図の決定したSTセグメント偏差の局在化は、回旋冠動脈CXの閉塞として述べるSTセグメント偏差に対応する。図6の診断及び分析モデルのカラムCXを参照されたい。
【0074】
本実施例Bでは、ベクトル21上のSTセグメント偏差の長さ/大きさ、次いで心臓の病気に冒された虚血領域の大きさは、図8Aで示すECGシグナルの様々なSTセグメント偏差(上昇、下降、等電)の絶対的大きさの総計によって決定した。
【0075】
実施例 C
図9Aで示す12のECGシグナルの内で、ECGシグナルII、III、AVF、V5及びV6は、STセグメントの下降(「-」)を示すが、ECGシグナルI、AVR、AVL、V1、V2、V3及びV4は、STセグメントの下降(「+」)を示した。測定する12のECGシグナルのセグメントはいずれも等電レベルを示さず又は有さなかった。
【0076】
本発明に従う装置及び方法を用いて、当該ECGシグナルのSTセグメント偏差の分析後に、図9Bに示すように、左手前下降冠動脈の上部(LAD 1)に向いているベクトル22のSTセグメント偏差を構成した。図3Bでは、この閉塞位置を4で示す。
【0077】
図6に示す診断及び分析モデルの方法によって決定した様々なECGシグナルのSTセグメント偏差の分析後に、測定した偏差が、LAD 1閉塞に関連する特徴的なSTセグメント偏差に最も対応する、と結論することもできる。
【0078】
同様に、測定したECGシグナルの各シリーズに関連するSTセグメント偏差は、図6の診断及び分析モデルで特定した関連閉塞症状に関連付けられる。各種の閉塞に関して、ある特定のECGシグナルは、特徴的なSTセグメント偏差(上昇又は下降)を示すが、他の測定したECGシグナルに関連するSTセグメントは、等電を維持してもよく、又は上昇もしくは下降を示してもよい。
【0079】
本発明に従う診断及び分析モデルは、不安定な狭心症の場合に、冠動脈狭窄の程度を診断するために用いることもできる。
【0080】
図10は、本発明に従う装置の実施態様を更に図解的に示す。装置は、好ましくは、人の体に設置することができる一束のECG電極3(1〜111、AVR、AVL、V1〜V、及び場合によりV3R及びV4R)を含むポータブルユニット2である(図2参照)。
【0081】
一束のECG電極3は、インプットコネクタを介して装置2に結合され(図示せず)、様々な入射角で測定した心臓の心電図は、当該コネクタを介してECGデータ処理ユニット11、12で読まれる。当該処理ユニット11、12では、誘導ECGシグナルAVL、AVR及びAVFを発生させるだけでなく、ECGシグナルに基づいて、公知の方法で、虚血領域が患者の心臓に存在するか否かも決定される。当該公知の診断的方法の結果は、表示ユニット15、例えばディスプレイスクリーンに提示することができ、そして紙に複写することができる。
【0082】
本発明によれば、装置2はECG分析ユニット13を含む。分析ユニット13は、各々の心電図の電圧シグナルをサンプリングし、等電レベルからのSTセグメント偏差を決定した。測定される全てのECGシグナルに関して(12又は14)、当該STセグメントサンプリングは、上昇の場合には正であり、下降の場合には負である差電圧をもたらした。
【0083】
分析ユニット13は、診断ユニット14を更に含む。12(又は14)のECGシグナルI〜III、V1〜V6、AVF、AVL及びAVR (及び場合によりV3R及びV4R)のSTセグメント偏差に対応する、12(又は14)のサンプリングした差電圧は、診断ユニット14に提示される。診断ユニット14は、図6の診断及び分析モデルに従って機能する。すなわち、ユニット14を、一連のサンプリングした差電圧と結合するように配置した。この電圧は、前に特定した、モデルに存在すする閉塞症状に多かれ少なかれ対応する。
【0084】
当該結合又は「マッチング」はソフトウェアで制御した方法で起こり得る。その場合に、診断ユニット14は、保存手段、記憶手段及び中央処理ユニットを含み、制御システムは中央処置ユニットによって実行することができる。保存手段は、そこに保存されたデータ処理プログラムを有してもよい。プログラムは、記憶に一旦ロードされると、デジタル的にサンプリングした差電圧を読むように配置され、そして、得られた一連の測定値を解析し、次いで、一連の分析した測定値を前に特定し、保存した閉塞症状に結び付けるために、図6で記載したアルゴリズムを実行する。
【0085】
別の実施態様では、診断ユニットは、それ自体公知で論理演算として機能する電気的成分から成っていてもよい。このようにして、図6の診断及び分析モデルは、論理演算の手段により論理回路として配置することができる。測定したSTセグメント偏差の論理回路への提示は、一連のサンプリングしたSTセグメント偏差を、前に特定した閉塞症状に結び付ける。
【0086】
当該結合は、表示ユニット15を介して表示される。当該表示は、テキスト形式でも又は視覚的でもよい。前者では、冠動脈の閉塞位置及びSTセグメント偏差ベクトルが表示される。後者の状況では、構成されたSTセグメント偏差ベクトルが心臓の略図に投影される。この場合に、表示される画像は、虚血領域(閉塞)の位置と大きさ及び心臓の冠動脈系の閉塞位置、並びに虚血領域の大きさに関連する。
【0087】
診断ユニット14から分析ユニット13へのSTセグメント偏差診断のフィーッドバック後に、治療スキームの示唆が更になされ、そして表示ユニット15を介して使用者(救急車又は病院関係者及び一般の職員)に提示されてもよい。そのためには、関連するデータベースが分析ユニット13に保存されてもよく、そこから、様々な治療ステップを、診断された閉塞に基づいて提案することができる。例えば、冠動脈の開口、血栓溶解剤の投与又は監視のための病院への移送についての専門化病院を参照されたい。
【0088】
図11で図解的に示される別の実施態様では、本発明に従う装置は、図10の実施態様から明らかなように、ECG分析ユニット13及び診断ユニット14から成るに過ぎない。この単純化されたユニットは、独立の電源(電池)を備えていても又は備えてなくてもよく、ヒト又は動物について心電図が行われる方法により既に存在する装置の拡張として機能すればよい。
【0089】
当該ユニットは、公知のケーブル結合により簡単な方法で現存の装置に結合することができる。同様に、ユニット13〜14にはコネクタ5が備えられ、統合ECG測定及び分析装置が入手できるため、公知の装置2の対応するコネクタ6へのユニットをクリックすることが可能になる。これは、使用容易性を向上させ、より簡単に管理可能でコンパクトかつ持ち運びのできる併合装置をつくる。
【0090】
処理ユニット11、12又は14によって読まれるECGシグナルV1〜V6、I〜III、AVF、AVL及びAVR (及び、必要によりV3R及びV4R)は、コネクタ5〜6によって分離ユニット4に送られる。当該分離ユニット4では、ECG分析及び診断ステップは、図6に記載のアルゴリズムに従って実行され、その結果は処理ユニット11、12及び表示ユニット15に反映される。
【0091】
本発明に従う装置のこの簡略化した実施態様は、現存のECG測定器具を、本発明に従う方法及びアルゴリズムに従って操作する装置に、低コストで性能向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、1脈拍における健常人の心電図を示す。
【図2】図2は、本発明に従う装置の実施態様を示す。
【図3A】図3Aは、ヒト心臓の周囲の冠動脈系の概略図であり、発生する閉塞場所が図解的に示されている。
【図3B】図3Bは、ヒト心臓の周囲の冠動脈系の概略図であり、可能性のある狭窄位置が図解的に示されている。
【図4】図4は、本発明に従う方法の実施態様を示す流れ図である。
【図5】図5は、本発明に従う方法の第二の実施態様を示す流れ図である。
【図6】図6は、本発明に従う診断及び分析モデルを示す。
【図7A】図7Aは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Aを示す。
【図7B】図7Bは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Aを示す。
【図8A】図8Aは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Bを示す。
【図8B】図8Bは、本発明に従うECG診断及び分析の第一の実施例Bを示す。
【図9A】図9Aは、本発明に従うECG診断及び分析の第三の実施例Cを示す。
【図9B】図9Bは、本発明に従うECG診断及び分析の第三の実施例Cを示す。
【図10】図10は、本発明に従う装置の第二及び第三実施態様の詳細な図である。
【図11】図11は、本発明に従う装置の第二及び第三実施態様の詳細な図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓の虚血領域の存在を決定する方法であって、以下:
A. 患者の体の様々な部位に多数の感覚電極を設置するステップ;
B. 各感覚電極を介して心臓からの心電図(ECG)シグナルを取得するステップ;
C. ステップBで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の虚血領域の存在を決定するステップ
を含み、以下:
D. ステップBで取得した様々なECGシグナルを分析するステップ;及び
E. ステップDで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の冠動脈系での閉塞位置を決定するステップ、
によって更に特徴付けられる、前記方法。
【請求項2】
前記虚血領域の大きさを決定するステップFによって更に特徴付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
G. イソポテンシャルレベル、及びステップBで取得した各ECGシグナルのイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するステップ;並びに
H. ステップGで取得したSTセグメントの偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを構成するステップ、
によって更に特徴付けられる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
I. STセグメント偏差ベクトルの方向から、心臓の虚血領域位置を導き出すステップ;及び
J. STセグメント偏差ベクトルの大きさから、ステップIで局在化される虚血領域の大きさを導き出すステップ、
によって更に特徴付けられる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
K. 心臓の虚血画像上にステップHで構成されるSTセグメント偏差要素を投影するステップ;及び
L. ステップKで得られた画像を使用者に表示するステップ、
によって更に特徴付けられる、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
心臓の冠動脈系の閉塞位置、及びステップEとFで得られた虚血領域の位置及び大きさに基づいて、治療ステップのスキームを作成する、ステップMによって更に特徴付けられる、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
患者の心臓の虚血領域の存在を決定する装置であって、以下:
患者の心臓からのECGシグナルを測定するためのECG電極群;
ECG電極に連結されるべきECGデータ処理手段であって、ECGシグナルを受信し、かつ当該ECGシグナルに基づいて心臓の虚血領域の存在を決定するように配置される手段;並びに
ECGデータ処理手段によって得られるECGデータを使用者に表示するための表示手段であって、当該装置はECG分析手段を含むことを特徴とし、ECGシグナルを分析し、かつ心臓の冠動脈系の閉塞位置を決定するように配置される手段、
を含む、前記装置。
【請求項8】
前記ECG分析手段が、局在化された虚血領域の大きさを決定するために更に配置される、請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記ECG分析手段が、イソポテンシャルレベル及び全てのECGシグナルのイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するように配置される、請求項7又は8記載の装置。
【請求項10】
前記ECG分析手段が、決定されるSTセグメント偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを構成するように配置される、請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記ECG分析手段が、STセグメント編差ベクトルの方向に基づいて、心臓の冠動脈系での虚血領域の位置を導き出し、かつSTセグメント偏差ベクトルの大きさに基づいて、局在化した虚血領域の大きさを導き出すように配置される、請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記表示手段が、テキスト形式の情報を表示し、かつ構成されるSTセグメント偏差ベクターを心臓の略図上に投影することもできるように配置されることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
得られる虚血領域の位置及び大きさ、及び心臓の冠動脈系での閉塞位置に基づいて治療ステップのスキームを作成し、かつ前記表示手段により使用者にそれを表示するように更に配置されることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれか1項の特徴的部分に従う患者の心臓の虚血領域の存在を決定する器具であって、請求項7の前提部で特定される装置に結合することができる、前記器具。
【請求項1】
患者の心臓の虚血領域の存在を決定する方法であって、以下:
A. 患者の体の様々な部位に多数の感覚電極を設置するステップ;
B. 各感覚電極を介して心臓からの心電図(ECG)シグナルを取得するステップ;
C. ステップBで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の虚血領域の存在を決定するステップ
を含み、以下:
D. ステップBで取得した様々なECGシグナルを分析するステップ;及び
E. ステップDで取得したECGシグナルに基づいて、心臓の冠動脈系での閉塞位置を決定するステップ、
によって更に特徴付けられる、前記方法。
【請求項2】
前記虚血領域の大きさを決定するステップFによって更に特徴付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
G. イソポテンシャルレベル、及びステップBで取得した各ECGシグナルのイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するステップ;並びに
H. ステップGで取得したSTセグメントの偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを構成するステップ、
によって更に特徴付けられる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
I. STセグメント偏差ベクトルの方向から、心臓の虚血領域位置を導き出すステップ;及び
J. STセグメント偏差ベクトルの大きさから、ステップIで局在化される虚血領域の大きさを導き出すステップ、
によって更に特徴付けられる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
K. 心臓の虚血画像上にステップHで構成されるSTセグメント偏差要素を投影するステップ;及び
L. ステップKで得られた画像を使用者に表示するステップ、
によって更に特徴付けられる、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
心臓の冠動脈系の閉塞位置、及びステップEとFで得られた虚血領域の位置及び大きさに基づいて、治療ステップのスキームを作成する、ステップMによって更に特徴付けられる、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
患者の心臓の虚血領域の存在を決定する装置であって、以下:
患者の心臓からのECGシグナルを測定するためのECG電極群;
ECG電極に連結されるべきECGデータ処理手段であって、ECGシグナルを受信し、かつ当該ECGシグナルに基づいて心臓の虚血領域の存在を決定するように配置される手段;並びに
ECGデータ処理手段によって得られるECGデータを使用者に表示するための表示手段であって、当該装置はECG分析手段を含むことを特徴とし、ECGシグナルを分析し、かつ心臓の冠動脈系の閉塞位置を決定するように配置される手段、
を含む、前記装置。
【請求項8】
前記ECG分析手段が、局在化された虚血領域の大きさを決定するために更に配置される、請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記ECG分析手段が、イソポテンシャルレベル及び全てのECGシグナルのイソポテンシャルレベルからのSTセグメント偏差を決定するように配置される、請求項7又は8記載の装置。
【請求項10】
前記ECG分析手段が、決定されるSTセグメント偏差に基づいて、STセグメント偏差ベクトルを構成するように配置される、請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記ECG分析手段が、STセグメント編差ベクトルの方向に基づいて、心臓の冠動脈系での虚血領域の位置を導き出し、かつSTセグメント偏差ベクトルの大きさに基づいて、局在化した虚血領域の大きさを導き出すように配置される、請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記表示手段が、テキスト形式の情報を表示し、かつ構成されるSTセグメント偏差ベクターを心臓の略図上に投影することもできるように配置されることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
得られる虚血領域の位置及び大きさ、及び心臓の冠動脈系での閉塞位置に基づいて治療ステップのスキームを作成し、かつ前記表示手段により使用者にそれを表示するように更に配置されることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれか1項の特徴的部分に従う患者の心臓の虚血領域の存在を決定する器具であって、請求項7の前提部で特定される装置に結合することができる、前記器具。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−510493(P2007−510493A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539413(P2006−539413)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000792
【国際公開番号】WO2005/046471
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(506161050)コンサルト イン メディスン ベスローテン フェンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000792
【国際公開番号】WO2005/046471
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(506161050)コンサルト イン メディスン ベスローテン フェンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】
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