説明

ヒト歯エナメルの誘発される再石灰化

本発明はヒト歯溶融物の誘発された再石灰化および特に歯科材料上のアパタイトの形成に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト歯エナメルの誘発される再石灰化および特に歯科材料上のアパタイトの形成に関する。本発明は更にヒト象牙質の誘発される再石灰化、特に歯科材料の象牙質の形成に関する。
【0002】
歯はアパタイトおよびタンパク質からなる複合材料である。歯はカルシウムおよび燐酸塩をベースとするきわめて硬い生体材料である。歯のエナメル、歯冠の外層は歯の硬質部分であり、生きている細胞を含有しない。歯エナメルは無機結晶からなり、前記結晶は典型的に高い配向された配置を有する。歯エナメルは一度形成されるとすぐに生涯に亘りほとんど変化せずに残る組織であり、それというのも歯の形成に関係する細胞は歯の形成が終了するとすぐに死滅するからである。完成した歯エナメルはアパタイト約95質量%、タンパク質および脂質約3質量%および水約2質量%からなる。
【0003】
象牙質は骨に使用される硬質物質の名称であり、哺乳動物および人間での歯の核を形成する。象牙質は細胞不含の有機基礎物質、特にグリコプロテイン約30質量%からなり、前記物質はコラーゲン繊維に挿入されている。無機成分は特にハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、および少量のカーボネート、マグネシウムおよび微量元素である。
【0004】
特に虫歯による歯の損傷を避けるために、または修理するために、再石灰化系を使用することがかなり以前から試みられた。その際まず燐酸カルシウム化合物の被覆により歯の性質を改良することが試みられた。すでに予め製造された歯科材料、例えばアパタイト、ハイドロキシアパタイト、または他の燐酸カルシウム化合物を歯に被覆することを試みる一成分系は例えば欧州特許第0666730号またはWO01/95863号に記載されている。この系の問題は燐酸カルシウム化合物での歯科材料の処理が構造的に歯科材料に類似するアパタイトの成長を生じることがなく、むしろ歯科材料上のアパタイト結晶の単なる堆積を生じ、その際アパタイト結晶は歯科材料と完全に異なる形状を有する。従って歯エナメルまたは持続する充填物の固定は損傷を生じなく、それは挿入されるアパタイト結晶が自然の歯科材料に十分な類似性および付着力を有しないからである。
【0005】
更に二成分系を使用して歯の再石灰化を取得することが試みられ、その際この系は一般にカルシウム相および燐酸塩相を有する。二成分系は例えばWO98/10736号およびドイツ特許第3303937号に記載されている。ここに記載される方法の欠点は、WO98/10736号に記載される方法が使用する前にカルシウム溶液および燐酸塩溶液を浄化し、準安定な溶液を形成し、この溶液から歯上にアパタイトを晶出することである。これらの方法は歯上の局在化された処理を可能にしないが、それは口洗浄剤またはゲルとして反応物質を使用し、反応物質を歯ブラシですり込むからである。更に天然のエナメルの複合材料の性質が考慮されず、それはこの系において有機成分が含まれないからである。従って歯エナメル類似結晶の形成はありそうにない。ドイツ特許第3303937号はカルシウムイオンおよび燐酸塩イオンを別々に前後して歯に被覆する方法を記載し、その際歯をキャップに浸漬し、キャップがゼラチンマトリックス中に相当するイオンを含有する。2分の勧められる作用時間において、有効な多くの量のアパタイトを歯の表面に形成できることは期待できない。形成材料では新たに形成されるアパタイト層がエナメル類似構造を有することは裏付けられない。
【0006】
他の研究(S.Busch等、Eur.J.Inorg.Chem.(1999)、1643−1653;S.Busch等、Chem.Mater.13(2001)、3260−3271;S.Busch、Zahnaertztliche Mitteilungen91、Nr.10(2001)、34−38;R.Kniep等、Angew.Chem.108、Nr.22(1996)、2787−2791)において、フルオロアパタイト−ゼラチン複合材料の生物模倣的形態形成を研究した。その際変性したコラーゲン基質に拡散することによるフルオロアパタイト凝集物の生物模倣的成長および自己組織化が認められた。その際ゼラチンゲル中のフルオロアパタイト形成の根拠を、U字管中のカルシウム溶液および燐酸塩溶液の二重拡散試験により調べた。この作業は使用されるゲル内部のフルオロアパタイト球の形成を記載する。
【0007】
WO03/099234号は以下の工程:
(i)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを有する第1ゲルを被覆し、
(ii)第2ゲルを被覆し、この第2ゲルを使用して第1ゲル層を被覆し、および
(iii)カルシウムイオンを含有する媒体を被覆する
ことからなる歯材料上のアパタイトの成長法を記載し、その際歯材料の表面上にアパタイトを形成する。
【0008】
この方法を使用してすでに良好な結果を得ることができた。しかしこの方法を、特にアパタイト層の成長速度に関して更に改良することが求められた。
【0009】
従って本発明の課題は、再石灰化により歯材料上の欠陥を高い成長速度で改良できる方法を提供することである。
【0010】
前記課題は、本発明により、歯材料上にアパタイトを成長する物質もしくはキットを製造するための、
(i)アルカリ媒体、
(ii)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを有する第1ゲル、および
(iiia)燐酸塩イオンを含まない第2ゲル、その際この第2ゲルを使用して第1ゲル層を被覆するおよび/または
(iiib)カルシウムイオンを含有する媒体
の使用により解決される。
【0011】
意想外にも、アルカリ媒体での歯材料の前処理により、歯試料、特にヒト歯材料上のフルオロアパタイトの成長速度の明らかな上昇を達成できることが判明した。特に1〜5μm/日、特に3〜5μm/日の成長速度を達成することができた。
【0012】
本発明により、有利にアルカリ媒体としてアルカリ溶液、特に水性アルカリ溶液またはアルカリゲルを使用する。その際アルカリ媒体は有利に7.1〜14、特に少なくとも7.3、より有利に少なくとも7.5、最も有利に少なくとも8、有利に10まで、より有利に9までのpH値を有する。特に有利にアルカリ媒体として、人間の口空間中で適合する組成物、例えば0.05〜1NNaOH溶液を使用する。アルカリ媒体、特に苛性ソーダ溶液が更に有利にすでにカルシウムイオン、例えば10〜50%0.1〜0.3NCaCl溶液を含有できることが判明した。
【0013】
本発明により、歯エナメル類似材料の有効な成長を達成することが可能である。主な利点は、天然の歯エナメルに構造的によく類似する高い次元の小さいアパタイト針が得られることにある。相当する基質の配列において成長したアパタイトと本来の歯材料にほとんど相違が認められない。
【0014】
他の実施態様において本発明により象牙質を再石灰化することが可能である。その際歯材料上に象牙質層または象牙質類似層の成長を達成できる。成長した層は天然の象牙質の結晶子の大きさおよび結晶子の配列に相当する。
【0015】
本発明の他の利点は歯基質上のフルオロアパタイト結晶子の耐久性のある成長から出発できることである。この新しい層のビッカース硬度は天然のエナメルもしくは天然の象牙質に相当する。個々の工程の実施は歯エナメルの再石灰化または象牙質の再石灰化を患者が自分で実施できるほど簡単である。ゲルを局部的に損傷した位置に被覆し。そこで固化することができる。暖めたゲルがきわめて急速に冷却するので、個々の工程の間の待ち時間がほとんど必要でない。
【0016】
ゲルの軟化温度は通常の体温よりいくらか高い(38〜42℃)ので、作用時間の間のゲルの溶融が阻止される。これにより制御されない再石灰化が回避される。
【0017】
本発明により、
(i)アルカリ媒体を被覆し、
(ii)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを有する第1ゲルを、アルカリ媒体で予め処理された歯材料に被覆する
ことによりアパタイトを歯材料上に成長する。
【0018】
本発明により、更に工程(iiia)または(iiib)の一方または両方を実施し、すなわち燐酸塩イオンを含まない第2ゲルを被覆し、この第2ゲルを使用して第1ゲル層を被覆しおよび/またはカルシウムイオンを含有する媒体を被覆する。特にカルシウムイオン含有媒体としてカルシウムイオン含有ゲルを使用する場合に、このゲルを直接(すなわち(iiia)ゲルでの処理なしに)第1ゲルに被覆できる。
【0019】
本発明により、更に少なくとも1種の燐酸カルシウム化合物を含有する第1ゲルを使用することにより、フルオロアパタイトの成長速度を改良できることが判明した。適当な燐酸カルシウム化合物は例えばフルオロアパタイト、モネタイト(monetit)、ブラシット(Brushit)、非晶質燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等である。燐酸カルシウム化合物は有利に粒子の形で、特に有利に球または大部分が球状粒子の形で使用する。その際粒子の大きさは有利に5〜50μm、特に10〜20μmである。適当な方法では第1ゲルに燐酸カルシウム化合物5〜30質量%を添加する。特に有利な1つの実施態様において、第1ゲルは5〜50μmの大きさを有する大部分が球状のフルオロアパタイト粒子5〜30質量%を有する。
【0020】
燐酸塩含有ゲルにフッ化物イオンを添加することにより酸に対する層の耐性を高めることができる。
【0021】
本発明により、誘発された再石灰化により歯エナメル欠陥を再生することが可能である。体温で固体であり、局部的に歯の関係する位置に被覆できる二層ゲルの使用によりおよびカルシウムイオン含有媒体として口洗浄液の使用により、歯に直接成長する歯エナメル類似物質の形成を生じる石灰化条件を提供することができる。開示された従来の二重拡散法においては、ゼラチンゲル中のカルシウムイオンおよび燐酸塩イオンの向流拡散により形成されるフルオロアパタイトが球状の凝集物を形成し、その有機質量部分が完全な人間の歯エナメルの有機質量部分に相当することだけが示された。この二重拡散法は人間に歯エナメルの再石灰化を可能にする可能性を開示しないし、この可能性をいかなる方法でも示唆しない。二重拡散法に使用される試験構造物は小さい球を形成し、基質上にアパタイト材料の均一な層の成長を可能にしない。これは本発明の方法によりはじめて可能である。
【0022】
更に象牙質の誘発された再石灰化により歯核欠陥を再生することも可能である。その際歯材料上に直接成長する象牙質層が形成される。
【0023】
本発明は特に人間に使用できる。その際例えば誘発された再石灰化により小さい虫歯の欠陥を完治できるかまたは歯の好ましい位置を保護するアパタイト層で被覆することができる。その際処理方法は有利に以下のように行う。虫歯の位置をまずアルカリ媒体、例えば苛性ソーダで処理し、引き続き約50℃の暖かい燐酸塩含有ゲルの薄い層を塗布しまたは暖めることができる適当な注射液を被覆する。このゲルは歯の表面ですぐに硬化し、同じ方法により保護ゲルもしくはカルシウムイオン含有媒体を被覆する。その後1日に1〜3回、場合によりカルシウム溶液で約10分間の口洗浄を行う。口洗浄の代わりにカルシウムイオン含有ゲルの被覆を行うこともできる。例えば0.1〜0.5Nカルシウムゲルが有利であり、これにより被覆が更に簡略化される。洗浄の間に歯をプラスチックまたは金属から形成されていてもよい適当なキャップで覆い、患者が邪魔されず、再石灰化を妨害せずに行うことができる。多くの歯が関係する場合は、例えば歯ぎしりに対して使用するような副木で歯の列全体を保護することができる。2日ごとにゲルを交換し、この機会に関係する歯を洗浄し、殺菌する。
【0024】
本発明により歯材料上に第1ゲルを被覆する。このゲルはゼラチンおよび燐酸塩イオンおよび場合により他の成分、特に前記の燐酸カルシウムを含有する。第1ゲル中のゼラチン含量は有利に少なくとも15質量%、より有利に25〜40質量%、更に有利に30質量%までである。ゼラチンは特に形成されるアパタイトの形状を形成する際に機能する。意想外にもゼラチンを使用する場合に、歯材料の表面に、天然の歯エナメルもしくは象牙質によく類似するアパタイト材料が堆積することが判明した。これに対して他の有機マトリックスを使用する場合は、他の形状のアパタイト結晶が観察され、本発明により求められるような歯材料表面上のアパタイトの形成を生じない。
【0025】
ゼラチンは、特に動物の皮膚および骨に含まれるコラーゲンの加水分解により得られるポリペプチドである。ゼラチンは一般に15000g/モルから250000g/モルより多くまでの分子量を有し、コラーゲンから酸性またはアルカリ性条件下で取得できる。本発明により有利に以下のゼラチンを使用する。酸加水分解されたゼラチンの種類(タイプA)、高いブルーム値、例えば250〜350ブルーム(ブルーム値はゲル強度を特徴付ける特性値であると理解され、一般にブルーム値が高いほど、ゼラチン中の長鎖分子の割合が高く、ゲルの強度が高い)を有するブタの皮または牛の皮から製造されるもの。
【0026】
アパタイトの所望の形状および歯材料の表面上の構造を形成するために含まれるゼラチンのほかに、第1ゲルは更に燐酸塩イオンを含有する。この燐酸塩イオンは燐酸カルシウムから形成されるアパタイトの基礎成分である。第1ゲル中の燐酸塩イオンの濃度は有利に少なくとも0.01モル/l、より有利に少なくとも0.05モル/lおよび0.5モル/lまで、より有利に0.2モル/lまで、特に0.08モル/lである。
【0027】
第1ゲルは有利に通常の体温より高い軟化温度を有し、ゲルは体温で固体である。第1ゲルの軟化温度は有利に38〜45℃、より有利に38〜42℃の範囲にある。第1ゲルは有利に暖めた形で、例えば45〜55℃に暖めて被覆する。被覆後にゲルが冷却し、固体になる。
【0028】
本発明により他の工程で第2ゲル、いわゆる保護ゲルを被覆できる。この第2ゲルを使用して特に第1ゲルを被覆する。ゲル被覆層として機能する保護ゲルは意想外にも石灰化、すなわちアパタイトの形成が大部分または排他的に歯の表面で行われ、ゲル液体の境界層で行われないように作用する。本発明の方法において達成される二層ゲル構造により、歯材料上にアパタイトの形成もしくは成長を生じ、技術水準に記載されるような、ゲル内部のアパタイト球の結晶および形成を生じない。二層構造により実現可能な、技術的に重要な歯の再石灰化が可能である。
【0029】
第2ゲルのpH値およびゲル濃度は典型的に第1ゲルに関して示された値に相当する。第2ゲルは有利に38〜45℃、特に38〜42℃の軟化温度を有し、有利に45〜55℃に暖めて被覆する。
【0030】
第3工程でまたは保護ゲルの代わりに(特にカルシウムイオン含有ゲルを使用する場合に)最後にカルシウムイオン含有媒体を被覆する。カルシウムイオン含有媒体は更にアパタイトを形成するために必要な基礎構造物質、すなわちカルシウムイオンを提供する。このカルシウムイオンは保護ゲルを通過して拡散し、第1ゲル層が歯材料の表面まで堆積し、ここにアパタイトとして堆積する。カルシウムイオン含有媒体中のカルシウムイオンの濃度は有利に少なくとも0.01モル/l、より有利に少なくとも0.05モル/lおよび0.5モル/lまで、より有利に0.2モル/lまで、特に0.13モル/lである。
【0031】
本発明により平行にまたは放射状に成長したアパタイト結晶子の均一な層を形成できることが判明した。更にこの層は天然の歯材料に対して間隙を示さないかまたはサブマイクロメートルの大きさの間隙のみを示す。アパタイト結晶子の成長方向はエナメル柱の配向に関係なく基質に垂直に行われ、エナメル柱の配向に相当する場合は人工的に成長した結晶の縦の配列は柱中の結晶と広い範囲で等しく伸びる。エナメル結晶と成長したフルオロアパタイトの大きさの程度は同じである。層内部に緻密な、均一な充填物が観察できる。更に被覆されたアパタイト層は天然の歯エナメルに相当するビッカース硬度を有する。本発明により被覆されたアパタイト層は特に250〜400HVの範囲のビッカース硬度を有する。
【0032】
本発明により、達成される層厚がゲル交換の頻度に依存するので、アパタイト層を任意の厚さに被覆することが可能である。本発明の方法を使用して1〜5μm/日、特に3〜5μm/日の成長速度を達成できる。
【0033】
1つの有利な実施態様において、第1ゲルとしてゼラチン−グリセリンゲルを使用する。その際ゼラチンとグリセリンの質量比は有利に1:5〜5:1、特に1:2〜2:1である。グリセリンはゲルの軟化温度を通常の人間の体温より高める作用を有する。石灰化の間に二層系を取得するために、達成されるゲル強度が必要であり、意図的な調節された結晶の堆積を可能にする。液体のゲルにおいて、歯上に成長しない、微結晶材料の自発的沈殿を生じた。
【0034】
第1ゲルは有利に更にフッ化物イオンを含有する。フッ化物は例えばフッ化ナトリウムまたはフッ化アンモニウムとして添加することができる。この実施態様において、フッ素の多いアパタイトまたはフルオロアパタイトを歯材料の表面に成長できる。フルオロアパタイトは特に天然の歯エナメルのカーボネート含有ハイドロキシアパタイトより酸に強く、その際フルオロアパタイトから形成される層の形状はそれにもかかわらず天然の歯エナメルとよく似ている。
【0035】
アパタイトまたはフルオロアパタイトの成長速度は特に第1ゲルのpH値により決定される。第1ゲルは有利に2.0〜6.0、特に4.0〜6.0、より有利に5.0〜5.5のpH値を有する。
【0036】
更に第2ゲルとして保護ゲルまたはカルシウムイオン含有ゲルを使用する。このゲルを使用して燐酸塩含有第1ゲル層を被覆する。このゲル層の使用により意想外にもアパタイト形成が排他的に歯材料の表面上で行われ、技術水準で知られた方法の場合に認められるような、アパタイト結晶子または複合材料凝集物の自発的な晶出が生じない。従って二重拡散空間での研究と異なり、意図的に歯材料表面の被覆が得られる。第2ゲルが有利にアパタイトに組み込まれる材料を含有せず、特に燐酸塩イオン、カルシウムイオンおよび/またはフッ化物イオンを含有しないが、特定の実施態様においてカルシウムイオン含有ゲルを第2ゲルとして被覆することが可能である。これにより1日当たり数μmの成長速度が達成される。第2ゲルを形成するために、同様にゼラチンを使用することができ、その際ゼラチン−グリセリンゲルが有利である。第2ゲルとして他のゲル、例えば多糖類、例えばアガロースまたはカラグナンおよびカルボキシメチルセルロースから選択されるゲルを使用することもできる。
【0037】
最後に第1ゲルおよび場合により保護ゲルで被覆された歯材料をカルシウム含有媒体で処理できる。カルシウム含有媒体として例えばカルシウムイオン含有溶液および/またはカルシウムイオン含有ゲルを使用できる。その際カルシウムイオン含有媒体は有利に水溶性カルシウムイオン含有塩、例えばCaClからなる塩を使用することにより製造される。
【0038】
カルシウムイオン含有媒体は有利に6〜8のpH値を有する。
【0039】
本発明によりアパタイトの2つの成分、すなわち燐酸塩イオンおよびカルシウムイオンをそれぞれ別々に固有の成分として供給し、その際歯材料表面上で燐酸カルシウム形成が行われる。
【0040】
アパタイト形成の際にプロトン放出による石灰化前部での局部的過酸性化を避けるために、燐酸塩ゲルを有利に緩衝系、有利に酢酸緩衝系またはα−α−α−トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン緩衝液と混合する。
【0041】
アルカリ媒体および/または第1ゲルで処理する前に、歯材料を前処理、特に脱脂、腐食および/またはすすぐことができる。例えば良好な作用のために歯表面をまずエタノールで脱脂し、燐酸で腐食し、引き続き脱イオン水ですすぐことができる。
【0042】
本発明の方法は特に人の歯または歯エナメルの処理に適している。その際虫歯の欠陥を再石灰化により処理するかまたは歯材料を予防のために保護するアパタイト層またはフルオロアパタイト層で被覆することができる。アパタイト層は基質として歯エナメル上におよび象牙質上に形成される。
【0043】
本発明は更に、特に前記使用に適した、
a)アルカリ媒体、
b)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを含有する第1ゲル、および
c1)燐酸塩イオンを含まない第2ゲルおよび/または
c2)カルシウムイオン含有媒体
を有する組成物もしくはキットに関する。
【0044】
その際成分の有利な構成はすでに記載されている。
【0045】
本発明を以下の実施例により詳細に説明する。
【0046】
実施例
例1(比較例)
工程1.歯材料の準備
(任意の)人の歯を歯根から分離し、歯冠を幅約0.5mmの板に鋸で切断した。板を30%燐酸溶液中に30秒浸漬し、脱イオン水で洗浄し、乾燥した。
【0047】
工程2.ゲルの準備
ゼラチン8.56g、85%グリセリン溶液8.24g、HO7.26g、2NNaOH1.8ml、2NHAc2.7ml、NaF13.8ml、NaHPO236mgから80℃で、攪拌下に均一なゲルを製造し、そのpH値は5.0であった。ゼラチン8.56g、85%グリセリン溶液8.24g、およびHO11.76gから他のゲルを製造した。CaCl塩から0.133モルカルシウム溶液を製造した。
【0048】
工程3.歯表面での誘発された石灰化
歯板表面を燐酸塩含有ゲル約0.5mlで塗布した。これが固化した後に添加物不含ゲル約0.5mlで被覆した。歯板を片面が閉鎖されたプラスチック管に導入し、カルシウム溶液中37℃で保存した。ゲルおよび溶液を7日毎に取り換え、全部で16回交換した。成長した層を評価するために、切断面に垂直に試料をこじ開けて層厚を測定できた。層厚7.2μmを有する延長した結晶子の均一な層が形成された。これは約450nm/週の成長速度に相当する。
【0049】
例2
例1と同様に処理したが、まずアルカリ溶液で処理した。更に前記のようにカルシウム溶液中にまたはSWF(体液にシミュレートした、Na142ミリモル、K5ミリモル、Mg2+15ミリモル、Ca2+25ミリモル、Cl148.8ミリモル、HCO2−4.2ミリモル、HPO2−4.2ミリモル、HPO2−1ミリモル、SO2−0.5ミリモル)中に保存しまたは乾燥して保存した。その際乾燥した保存において0.9〜1.4μm/日、SWF中の保存において1.4〜1.9μm/日、およびCa溶液中の保存において2.1μm/日の成長速度を観察できた。有利に象牙質上で層形成を行った。
【0050】
例3
例2に相当して処理した。しかし直径20μm以下、直径20〜25μmもしくは直径50〜100μmを有するフルオロアパタイトスフェルライトを第1ゲルに添加した。その際直径20μm以下のフルオロアパタイトスフェルライトを添加した際に5μm/日の成長速度、直径20〜25μmのフルオロアパタイトスフェルライトを添加した際に4μm/日の成長速度、および直径50〜100μmのフルオロアパタイトスフェルライトを添加した際に1.25μm/日の成長速度が得られた。
【0051】
例4
例2に相当して処理し、カルシウム溶液の代わりにカルシウムゲルを使用した。ここで匹敵する成長速度が確認できた。
【0052】
例5
例4に相当して処理し、保護ゲルを省略した。ここで1.8〜5μm/日の成長速度が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯材料上にアパタイトおよび/または象牙質を成長する物質を製造するための
(i)アルカリ媒体、
(ii)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを有する第1ゲル、および
(iiia)燐酸塩イオンを含まない第2ゲル、その際この第2ゲルを使用して第1ゲル層を被覆するおよび/または
(iiib)カルシウムイオン含有媒体
の使用。
【請求項2】
アルカリ媒体としてアルカリ溶液またはアルカリゲルを使用する請求項1記載の使用。
【請求項3】
アルカリ媒体が7.1〜14、特に7.5〜10、有利に8〜9のpH値を有する請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
アルカリ媒体として0.05〜1NaOHを使用する請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
アルカリ媒体が更にカルシウムイオンを含有する請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
第1ゲルとしてゼラチン−グリセリンゲルを使用する請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
第1ゲルが更にフッ化物イオンを含有する請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
第1ゲルが2.0〜6.0のpH値を有する請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
第1ゲルが更に少なくとも1個の燐酸カルシウム化合物を含有する請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
第1ゲルが更にフルオロアパタイト、モネタイト、ブラシット、非晶質燐酸カルシウムおよびハイドロキシアパタイトから選択される燐酸カルシウム化合物を含有する請求項9記載の使用。
【請求項11】
第1ゲルが更にフルオロアパタイト粒子、特に球状フルオロアパタイト粒子を含有する請求項9または10記載の使用。
【請求項12】
第1ゲルが燐酸カルシウム化合物、特にフルオロアパタイト5〜30質量%を含有する請求項9から11までのいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
第1ゲルが燐酸カルシウム化合物の球状粒子、特にフルオロアパタイトの球状粒子を含有する請求項9から12までのいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
燐酸カルシウム化合物を平均粒度5〜50μm、特に10〜20μmを有する粒子として使用する請求項9から13までのいずれか1項記載の使用。
【請求項15】
第2ゲルがフッ化物イオンを含まない請求項1から14までのいずれか1項記載の使用。
【請求項16】
第2ゲルがゼラチン−グリセリンゲル、多糖類ゲルまたはカルボキシメチルセルロースゲルから選択される請求項1から15までのいずれか1項記載の使用。
【請求項17】
カルシウムイオン含有媒体としてカルシウムイオン含有溶液またはカルシウムイオン含有ゲルを使用する請求項1から16までのいずれか1項記載の使用。
【請求項18】
カルシウムイオン含有ゲルを使用する際に第2ゲル(iiia)を使用する請求項17記載の使用。
【請求項19】
カルシウムイオン含有媒体が6〜8のpH値を有する請求項1から18までのいずれか1項記載の使用。
【請求項20】
アルカリ媒体を被覆する前におよび/または第1ゲルを被覆する前に歯材料を脱脂し、腐食しおよび/またはすすぐ請求項1から19までのいずれか1項記載の使用。
【請求項21】
歯材料が人の歯および/または歯エナメルである請求項1から20までのいずれか1項記載の使用。
【請求項22】
成分(i)、(ii)および(iiia)および/または(iiib)が再石灰化により虫歯の欠陥を処理するために用意されている請求項1から21までのいずれか1項記載の使用。
【請求項23】
歯材料を象牙質層および/または保護するアパタイト層で覆う請求項1から22までのいずれか1項記載の使用。
【請求項24】
a)アルカリ媒体、
b)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを有する第1ゲル、および
c1)燐酸塩イオンを含まない第2ゲルおよび/または
c2)カルシウムイオン含有媒体
からなる、特に請求項1から12までのいずれか1項記載の使用のための組成物。
【請求項25】
a)アルカリ媒体、
b)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを有する第1ゲル、および
c1)燐酸塩イオンを含まない第2ゲルおよび/または
c2)カルシウムイオン含有媒体
からなる、特に請求項1から12までのいずれか1項記載の使用のためのキット。
【請求項26】
成分a)、b)および/またはc1)もしくはc2)が更に請求項2から9までのいずれか1項と同様に決められている請求項24記載の組成物または請求項25記載のキット。
【請求項27】
(i)アルカリ媒体を被覆し、
(ii)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを含有する第1ゲルを被覆し、および
(iiia)第2ゲルを被覆し、その際この第2ゲルを使用して第1ゲルを被覆しおよび/または
(iiib)カルシウムイオン含有媒体を被覆する
工程からなる歯材料上にアパタイトを成長する方法であり、
その際歯材料の表面にアパタイトを形成する、歯材料上にアパタイトを成長する方法。
【請求項28】
第1ゲルが更に少なくとも1種の燐酸カルシウム化合物を含有する、歯材料にアパタイトおよび/または象牙質を成長する物質を製造するための、
(i)ゼラチンおよび燐酸塩イオンを含有する第1ゲル、および
(iia)燐酸塩イオンを含まない第2ゲル、その際この第2ゲルを使用して第1ゲル層を被覆するおよび/または
(iib)カルシウムイオン含有媒体
の使用。

【公表番号】特表2008−519795(P2008−519795A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540590(P2007−540590)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012101
【国際公開番号】WO2006/050966
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
【Fターム(参考)】