説明

ヒト精巣特異的セリン/スレオニンキナーゼ

【課題】精子形成中に発現し、新規避妊手段としての使用が予想される、精巣特異的キナーゼのファミリー(tsskファミリー)タンパク質と、それをコードする核酸配列を提供する。
【解決手段】避妊薬として使用するtsskキナーゼインヒビターの同定のためのキナーゼ活性を有し、特定のアミノ酸配列を持つポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする特定の塩基配列を含むポリヌクレオチドと組換え構築物、更に該構築物を含むトランスジェニック細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府の権利
本発明は、National Institutes of Healthにより認可された許可番号HD06274、HD22732、HD38082、およびCA06927の下、米国政府の支持により行われた。米国政府は、本発明に関し一定の権利を有する。
【0002】
優先権の主張
本願は、2000年11月9日出願の米国仮出願番号60/246,939および2001年1月30日出願の米国仮出願番号60/264,921に基づく、35USC§199(e)による優先権を主張する。それらの開示は本明細書に引用により加える。
【0003】
本発明の分野
本発明は、精子特異的キナーゼ(tssk)遺伝子のファミリー、それらそれぞれをコードしたタンパク質およびそれらのタンパク質に対する抗体を目的とする。本発明はまた、tsskキナーゼ活性のインヒビターの同定のための標的としてのtsskキナーゼの使用を含む。
【背景技術】
【0004】
本発明の背景
精子形成、機能精子細胞が精巣中で生成される過程には、成長中の生殖細胞(developing germ cells)とそれらの支持セルトリ細胞(supporting Sertoli cell)との特異的相互作用ならびにアンドロゲン生成Leydig細胞によるホルモン調節が含まれる。精子形成の一般的な組立は、実質的にすべての哺乳類で同一であり、3つの明確な相に分けられる:1)最初の相は、精原細胞が有糸分裂し、脆弱な精母細胞を生ずる増殖相または精原相であり、2)ハプロイド精細胞を生ずる減数分裂相、および3)精子への、各円形精細胞(round spermatid)分化による精子完成。最初の2つの相を調節する分子機構は、比較的十分に解析されているが、分子ベースの精子完成は殆ど知られていない。
【0005】
哺乳類の精子完成、精子完成の減数分裂後相は、ハプロイド精細胞で生ずる劇的な形態的変化により特徴付けられる。いくつかのこれらの変化には、先体形成およびその内容物の形成、クロマチンの濃縮および再構築、当該細胞のエロンゲーションおよび種特異的再形成、ならびに鞭毛のアセンブリが含まれる。これらのイベントは、この発生期間に生ずる遺伝子転写およびタンパク質翻訳の両方の変化から生ずる。ハプロイド精細胞中で翻訳された幾つかのタンパク質は、精巣から離れた後、形態的成熟精子中に残留する。この点を考慮すると、精子形成の間に合成されるタンパク質は、精細胞分化および/または受精の間の精子機能に必要となり得る。
【0006】
本発明は、この高度に分化した細胞の機能を調節する、哺乳類精子中のシグナリングイベントに関する。より特に、本発明は、精子受精能の獲得を修飾するシグナルトランスダクションに関する。射精後、精子は活発に動くことができるが、受精能力に欠いている。それらは、受精能獲得と呼ばれる時間-依存過程で、雌の生殖器官中で受精能を獲得する。受精能獲得は、セリン/スレオニンおよびチロシン残基の両方の幾つかのタンパク質のタンパク質リン酸化が付随すると説明され、タンパク質チロシンリン酸化がcAMP/PKA経路(これら2つのシグナリング経路間のクロストークを含む)により調節される下流であることが説明される。PKAを除き、受精能獲得の調節に含まれる他のキナーゼもまた知られていない。
【0007】
更なるタンパク質キナーゼが精子形成中に含まれることが示されたが、それらの幾つかのみが生殖細胞中または精巣中で排他的に発現する(Jinno et al., 1993, Cell Biol 13, 4146-56; Nayak et al., 1998, Mech Dev 74, 171-4; Shalom & Don, 1999, Mol Reprod Dev 52, 392-405; Toshima et al., 1998, Biochem Biolphys Res Commun 249, 107-12; Toshima et al., 1999, J Biol Chem 274, 12171-6; Tseng et al., 1998, DNA Cell Biol 17, 823-33; Walderi & Cowan, 1993, Mol Cell Biol 13, 7625-35)。精巣特異的キナーゼの例は、近年、述べられているマウス遺伝子、tssk1、2および3(Bielke et al., 1994, Gene 139, 235-9; Kueng et al., 1997, J Cell Biol 139, 1851-9; Zuercher et al., 2000, Mech Dev 93, 175-7)である。tsskキナーゼファミリーの機能は知られていない。しかし、このファミリーのメンバーは、精子完成の間、減数分裂後に発現するため、それらは、生殖細胞分化で、またはその後の精子機能で役割を担うと仮定される。そのため、このキナーゼファミリーの機能を阻害する化合物は避妊薬として利用可能であると予想される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
各種の避妊法の利用にかかわらず、世界的に、そして米国では、50%を超える妊娠が望まれないものである。そのため、女性および男性の異なる要求に、より適合する避妊の不可欠な必要性があり、異なった人種、文化および宗教上の価値観を考慮した不可欠な必要性がある。コンドームの使用または精管切除を除き、男性の避妊法の利用は非常に制限される。
【0009】
殆どの生理的な過程のプロテインキナーゼの重要性は、特定薬物によるtsskキナーゼファミリーの活性阻害により受精を阻害可能であることを示唆する。本発明のある態様により、tsskキナーゼファミリーを新規薬物の開発の標的として使用する。特に、精子特異的tssk遺伝子産物は、tsskキナーゼ活性の特異的インヒビターのスクリーニングに使用し、これらのインヒビターは、単独で、または意図しない妊娠を阻止する他の避妊薬と共に使用する。有利なことに、tsskキナーゼファミリーのメンバーの特有配列は、その活性に対する特異的インヒビターを発見する見込みを支持する。最終的に、精子形成後の精子中にこれらのキナーゼは残留し、精子の生理機能の役割を担うならば、設計された特異的tsskキナーゼインヒビターは、受精を阻止するため、男性および女性の両方に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要約
本発明は、ヒト精子特異的tsskキナーゼ遺伝子ファミリーおよびその相当するタンパク質を目的とする。より特に、本発明は、ヒトtssk1、tssk2およびtssk3キナーゼ、ならびに当該キナーゼの使用であってtsskキナーゼ活性のアゴニストまたはアンタゴニストを同定するための当該使用を目的とする。本発明は、ヒトtssk1、tssk2およびtssk3に対し生ずる抗体および診断ツールとしてのこれらの抗体の使用をも包含する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒトtssk1、ヒトtssk2およびヒトtssk3のアミノ酸配列間の比較を示したものである。図1に示すように、当該3つのタンパク質間のアミノ酸配列はカルボキシ末端近辺が相違している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細な説明
定義
本発明の説明および請求において、以下の専門用語は、以下で示す定義に従い使用する。
【0013】
本明細書で使用するとき、「核酸」、「DNA」および同様の語句にはまた、核酸類似体が含まれ、すなわち、ホスホジエステルバックボーン以外を有する類似体が含まれる。例えば、当分野に既知であり、バックボーンにおけるホスホジエステル結合に代わるペプチド結合を有するいわゆる「ペプチド核酸」は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0014】
語句「ペプチド」には、3またはそれより多いアミノ酸が含まれ、ここで、当該アミノ酸は天然に生じたアミノ酸でもよいし、合成された(非天然で生じた)アミノ酸であってもよい。ペプチド擬似物(peptide mimetic)には、1つまたはそれより多い以下の修飾を有するペプチドが含まれる:
1.1つまたはそれより多いペプチジル--C(O)NR--連結(結合)が、--CH2-カルバメート連結(--CH2OC(O)NR--)、ホスホネート連結、-CH2-スルホンアミド(-CH2--S(O)2NR--)連結、尿素(--NHC(O)NH--)連結、--CH2-第二級アミン連結のような非ペプチジル連結により置換されるか、またはアルキル化ペプチジル連結(--C(O)NR--)(ここで、RはC1-C4アルキルである)で置換されたペプチド、
2.N-末端が、--NRR1基、--NRC(O)R基、--NRC(O)OR基、--NRS(O)2R基、--NHC(O)NHR基(ここで、RおよびR1は、水素またはC1-C4アルキルであるが、両方とも水素となることはない)へ誘導化されるペプチド、
3.C末端が、--C(O)R2(ここで、R2は、C1-C4アルコキシからなる群から選択される)、および--NR3R4(R3およびR4は、水素およびC1-C4アルキルからなる群から独立して選択される)へ誘導化されるペプチド。
【0015】
天然に生ずる、ペプチド中のアミノ酸残基は、以下のようなIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによる推奨の略語である:
フェニルアラニンはPheまたはFであり、ロイシンはLeuまたはLであり、イソロイシンはIleまたはIであり、メチオニンはMetまたはMであり、ノルロイシンはNleであり、バリンはValまたはVであり、セリンはSerまたはSであり、プロリンはProまたはPであり、スレオニンはThrまたはTであり、アラニンはAlaまたはAであり、チロシンはTyrまたはYであり、ヒスチジンはHisまたはHであり、グルタミンはGlnまたはQであり、アスパラギンはAsnまたはNであり、ロイシンはLysまたはKであり、アスパラギン酸はAspまたはDであり、グルタミン酸はGluまたはEであり、システインはCysまたはCであり、トリプトファンはTrpまたはWであり、アルギニンはArgまたはRであり、グリシンはGlyまたはGであり、そしてXは任意のアミノ酸である。他の天然に生ずるアミノ酸は、例えば4-ヒドロキシプロリン、5-ヒドロキシリシンなどにより含まれる。
【0016】
合成または非天然に生ずるアミノ酸とは、天然にはインビボでは生じないが、それにも拘わらず、本明細書に記載のペプチド構造体中に組み込まれ得るアミノ酸をいう。得られた「合成ペプチド」には、20の天然に生ずるアミノ酸であって、当該ペプチドの1つ、2つまたはそれより多い位置で遺伝学的にコードされる当該アミノ酸以外のアミノ酸を含む。例えば、ナフチルアラニンは、合成を促進するためトリプトファンに置換され得る。ペプチドに置換され得る他の合成アミノ酸には、L-ヒドロキシプロピル、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニル、L-α-ヒドロキシルシル(hydroxylysyl)およびD-α-メチルアラニルのようなα-アミノ酸、L-α-メチルアラニル、β-アミノ酸、およびイソキノリルが含まれる。Dアミノ酸および非天然に生ずる合成アミノ酸はまた、ペプチド中に組み込まれ得る。他の誘導体には、20の遺伝学的にコードされたアミノ酸(または任意のLもしくはDアミノ酸)の天然に生ずる側鎖の、他の側鎖による置換が含まれる。
【0017】
本明細書で記載するとき、語句「保存的アミノ酸置換残基(conservative amino acid substitutions)」は、以下の5つの群のうちの1つにおける置換として本明細書では定義する:
I. 小脂肪族、非極性または僅かに極性の残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II. 極性、陰性荷電残基およびそのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln;
III. 極性、陽性荷電残基:
His、Arg、Lys;
IV. 巨大な脂肪族、非極性残基:
Met、Leu、Ile、Val、Cys;
V. 巨大な芳香族残基:
Phe、Tyr、Trp。
【0018】
本明細書で使用するとき、語句「精製した」およびそのような語句は、天然または自然の環境で分子または化合物に通常付随する汚染物が実質的に含まれていない形態の分子または化合物の単離に関する。
【0019】
本明細書で使用するとき、tsskポリペプチドの「生物学的に活性なフラグメント」または「生理活性フラグメント」なる語句は、天然リガンドに特異的に結合し得る全長タンパク質の天然または合成タンパク質を包含する。
【0020】
語句「作動可能なように連結させた」は、近接した配置をいい、当該成分が通常の機能を果たすように配置されることをいう。例えば、コーディング配列に作動可能なように連結させた調節配列またはプロモーターは、コーディング配列の発現をし得る。
【0021】
本明細書で使用するとき、語句「非天然プロモーター」は、コーディング配列に作動可能なように連結させた任意のプロモーターをいい、当該コーディング配列およびプロモーターは、天然には結合していない(すなわち、組換えプロモーター/コーディング配列構成物)。
【0022】
本明細書で使用するとき、トランスジェニック細胞は、核酸配列を含む任意の細胞であって、ここで導入された当該核酸配列がコードする遺伝子を発現し得る形式で当該細胞中に当該核酸配列は導入されている。
本発明
本発明は、ヒトおよびマウスの生殖細胞において排他的に発現するキナーゼのファミリー(tsskキナーゼファミリー)を目的とする。ヒトtssk遺伝子のマウス相同体は、従前に述べられており、雄生殖細胞で減数分裂後に発現が見られた(Bielke et al., 1994, Gene 139, 235-9; Kueng et al., 1997, J Cell Biol 139, 1851-9)。ツー・イースト・ハイブリッド技術(two yeast hybrid technology)および免疫共沈降を用い、Kueng et al.(1997)は、マウスtssk1および2が、tssk基質を代表する54Kdaのタンパク質に結合し、そのタンパク質をリン酸化することを発見した。このtssk基質をtsksと称する。tsksタンパク質はまた、精巣特異的であり、その発生的発現(developmental expression)は、生殖細胞で減数分裂後発現することを示唆する。tssk基質のマウスcDNA配列は従前に報告されており(Kueng et al., 1997)、ESTデータベースの探索に使用された。ヒトEST相同体AL041339が発見され、ヒト精巣marathon ready cDNA(Clontech, Inc.)を用いる5'および3'RACEにより全長クローンを得るためセンスおよびアンチセンスプライマーの作成に使用した。ヒトtsksの全長ヌクレオチド配列を配列番号7として提供し、推定タンパク質配列を配列番号8として提供する。
【0023】
tsskキナーゼの発生的発現パターン、および生理学的過程のキナーゼ群の一般的関連性により、このファミリーの精巣特異的キナーゼは、精子形成で役割を担っていると考えられる。tsskキナーゼファミリーおよび推定基質の1つが精子形成中に同時に発現するという発見は、避妊標的(contraceptive targets)としてこれらのタンパク質を使用できる可能性がある。従って、本発明の1つの態様は、ヒトtssk相同体の単離および避妊薬の単離おけるその使用を目的とする。
【0024】
精子は転写的および翻訳的には不活性であるため、分子レベルで候補精子タンパク質キナーゼをクローニングおよび特性解析するには、雄生殖細胞から単離したRNAの使用が必要である。雄生殖細胞系で発現するRNA転写物は、最終的には精子機能に重要となり得るが、その転写物が精巣精子形成の間に機能することもあり得る。この方法を用い、特有cDNAを、ser/thrタンパク質キナーゼサブファミリーの推定タンパク質キナーゼをコードするマウス雄生殖細胞からクローニングした。当該キナーゼ(tssk3b)はマウス雄生殖細胞で減数分裂後に特異的に発現する。本発明の1つの実施態様により、特有精巣特異的マウスtssk遺伝子を提供する。tssk3bの核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号9および配列番号10として提供する。
【0025】
tssk3bのヒト相同体をもまたクローニングし(ヒトtssk3と称する)、その相同体はタンパク質レベルで推定マウスタンパク質と98%相同性がある。ヒトtssk3のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号3および配列番号6として提供する。最近、類似のマウスタンパク質キナーゼが述べられており、精巣特異的セリンキナーゼ3(マウスtssk3)(Zuercher et al., 2000, Mech Dev 93, 175-7)、精巣特異的タンパク質キナーゼの小ファミリーのメンバー(Bielke et al., 1994, Gene 139, 235-9; Kueng et al., 1997, J Cell Biol 139, 1851-9)として同定された。この相同性にも拘わらず、ヒトtssk3およびマウスtssk3bの両方のcDNAであって、クローニングし本出願で記載した当該cDNAは、マウスtssk3とは幾つかのアミノ酸が相違している。
【0026】
予想されるマウスtssk1および2アミノ酸配列(Kueng et al., 1997により述べられているような)を遺伝子バンクの探索目的に用い、マウスtssk1とtssk2の両方のゲノム配列を得た。次いで、これらのゲノムマウス遺伝子のコーディング領域の3'末端および5'末端を用い、センスおよびアンチセンスプライマーをそれぞれ作成し、PCR技術を用いヒト相同体を単離した(実施例2参照)。増幅cDNAフラグメントを、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を用いクローニングし、配列決定した。増幅ヒトtssk1遺伝子はおおよそ1.3kbの大きさであり、単離ヒトtssk2遺伝子は、1.2kbの大きさであった。ヒトtssk1の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および配列番号4として提供する。ヒトtssk2の核酸配列およびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号2および配列番号5として提供する。
【0027】
本発明の1つの実施態様により、精製ポリペプチドを、配列番号4、配列番号5、配列番号6または配列番号9のアミノ酸配列、または配列番号4もしくは配列番号6とは1つもしくはそれより多い保存的アミノ酸置換残基が異なるアミノ酸配列を含むように提供する。より好ましくは、精製ポリペプチドは、配列番号4または配列番号6とは5未満の保存的アミノ酸置換残基が異なるか、より好ましくは2またはそれ未満の保存的アミノ酸置換残基が異なるアミノ酸配列を含む。
【0028】
1つの好ましい実施態様では、精製ポリペプチドは、配列番号4、配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む。これらのポリペプチドは、組換えで産生したポリペプチドの精製を補助する付加アミノ酸配列を含み得る。1つの実施態様では、精製ポリペプチドは、配列番号4、配列番号5および配列番号6ならびにペプチドタグ(当該ペプチドタグは、tsskペプチド配列と連結する)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。その融合タンパク質および適当なペプチドタグの発現に適当な発現ベクターは当業者に既知であり、商業的に利用可能である。1つの実施態様では、当該タグには、Hisタグが含まれる(実施例4参照)。他の実施態様では、精製ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列またはペプチドタグに連結した配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0029】
他の実施態様では、本発明は、tsskポリペプチドの一部を含む精製ポリペプチドを目的とする。より好ましくは、tsskポリペプチド部分は、天然のリガンドに特異的に結合し得る配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号9からなる群から選択される全長ポリペプチドの天然または合成部分からなる。1つの実施態様では、ヒトtsskフラグメントは、tsksへの結合能を保持する。
【0030】
本発明はまた、ヒトtsskをコードする核酸配列を含む。1つの実施態様では、核酸配列を、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号10またはそのフラグメントの配列を含むように提供する。他の実施態様では、精製核酸配列を、配列番号1、配列番号2および配列番号3からなる群から選択し、提供する。
【0031】
本発明はまた、ストリンジェントまたは高ストリンジェント条件下(本明細書で記載のように)、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号10により表されるヌクレオチド配列またはその相補配列(complement)のすべてまたは一部にハイブリダイズするアミノ酸を含む。ハイブリダイズ核酸のハイブリダイズ部分は典型的には少なくとも15(例えば、20、25、30または50)のヌクレオチドである。本明細書で記載の型のハイブリダイズ核酸を、例えばクローニングプローブ、プライマー(例えば、PCRプライマー)、またはヒトtssk遺伝子の発現を検出するための診断プローブとして使用し得る。
【0032】
核酸二重鎖またはハイブリッドの安定性は、融解温度またはTmとして表され、それは、核酸二重鎖がその成分である一本鎖DNAに解離する温度である。この融解温度は、必要なストリンジェント条件の定義に用いる。典型的に1%のミスマッチでTmは1℃下がり、これによりハイブリダイゼーション反応の最終洗浄の温度が推定される(例えば、2つの配列が95%を超える同一性を有するならば、最終洗浄温度はTmから5℃減少する)。実施では、Tmの変化は、1%ミスマッチあたり0.5℃から1.5℃であり得る。
【0033】
1つの実施態様では、本発明は、配列番号1、配列番号2または配列番号3の核酸配列、およびその配列(または相補配列)に、ストリンジェントまたは高ストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸配列を目的とする。本発明では、、高ストリンジェント条件は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄を-5℃Tm以上で実施することと定義される。ストリンジェント条件は、68℃、5×SSC/5×Denhardt's 溶液/1.0% SDSでハイブリダイズし、68℃、0.2×SSC/0.1% SDSで洗浄することを含むように定義される。適度のストリンジェント条件には、68℃、5×SSC/5×Denhardt's 溶液/1.0% SDSおよび42℃、3×SSC/0.1% SDSで洗浄することを含む。その条件についての更なるガイダンスは当分野では容易に利用可能であり、例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, N.Y.およびAusubel et al. (eds.) 1995, Current Protocols in Molecular Biology,(John Wiley & Sons, N.Y.) at Unit 2.10。
【0034】
本発明はまた、組換えヒトtssk遺伝子構成物を目的とする。1つの実施態様では、組換え遺伝子構成物は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号7、および配列番号10からなる群から選択される核酸配列に作動可能なように連結した非天然プロモーターを含む。1つの実施態様では、組換え遺伝子構成物は、配列番号1、配列番号2および配列番号3からなる群から選択される核酸配列に作動可能なように連結した非天然プロモーターを含む。非天然プロモーターは、好ましくは、事前に決定した宿主細胞で発現し得る強力な構造プロモーターである。これらの組換え遺伝子構成物は、宿主細胞中に導入され、tssk遺伝子産物を合成するトランスジェニック細胞系を作成し得る。宿主細胞は、多種多様の真核および原核生物から選択し得、2つの好ましい宿主細胞はE. coliと酵母細胞である。
【0035】
1つの実施態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3、および配列番号10からなる群から選択された核酸配列は、適当な調節配列に遺伝子配列を作動可能なように連結する方法で真核または原核発現ベクター中に挿入し、ヒトtsskは適当な真核または原核細胞宿主細胞中で発現する。適当な真核宿主細胞およびベクターは当業者に既知である。バキュロウイルスシステムもまたトランスジェニック細胞の作成および本発明のtssk遺伝子の合成に適当である。本発明の1つの態様は、ヒトtsskおよびヒトtsskコーディング配列のフラグメントを発現する組換え遺伝子を含むトランスジェニック細胞系を目的とする。本明細書で使用するとき、トランスジェニック細胞は、外因的に導入する核酸配列を含む任意の細胞である。より好ましくは、導入核酸は、トランスジェニック細胞中で有意に安定(すなわち、細胞ゲノム中へ組み込まれるか、または高コピーのプラスミド中に存在する)であり、子孫細胞へ伝えられる。1つの実施態様では、トランスジェニック細胞は、ヒト細胞であり、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号7、および配列番号10からなる群から選択される核酸配列を含む。より好ましくは、核酸配列は、配列番号1、配列番号2、および配列番号3からなる群から選択される。本発明はまた、非ヒトトランスジェニック生物を含み、ここで、当該トランスジェニック生物の1つまたはそれより多い細胞は、ヒトtsskを発現する組換え遺伝子を含む。
【0036】
本発明はまた、ヒトtsskを作成する方法を含む。当該方法は、ヒトtsskをコードする配列を含む核酸配列を宿主細胞中に導入し、そして導入ヒトtssk遺伝子を発現し得る条件下で宿主細胞を培養するステップを含む。1つの実施態様では、当該プロモーターは、条件付き(conditional)または誘導性プロモーターであり、他に、当該プロモーターは組織特異的または一過性制限的(temporal restricted)プロモーター(すなわち、作動可能なように連結した遺伝子は、特定組織でまたは特定時間でのみ発現する)であり得る。合成tsskは、標準技術を用い精製され、ハイスループットスクリーニングに用いられtssk活性のインヒビターを同定し得る。他に、1つの実施態様では、組換え的に作成したtsskポリペプチドまたはそのフラグメントを用い、tsskポリペプチドに対する抗体を作成する。組換え的に作成したtsskをまた用い、結晶構造を得る。その構造を結晶学的分析し、tssk機能を阻害する特定薬物を設計し得る。
【0037】
好ましくは、精子特異的キナーゼをコードする核酸配列を、事前に選択した宿主細胞中で発現する適当な調節配列に作動可能なように当該遺伝子配列を連結する方法で適当な発現ベクター中に挿入する。適当な宿主細胞、ベクターおよびDNA構成物を細胞中に導入する方法は当業者に既知である。特に、精子特異的キナーゼをコードする核酸配列を、細胞または細胞群に、インビトロまたはインビボで、リポソーム、ウイルスに基づくベクターまたはマイクロインジェクションを用い、付加し得る。
【0038】
1つの実施態様により、組成物は、配列番号4、配列番号5および配列番号6からなる群から選択される配列またはその抗原性フラグメントを有するペプチドを含むように提供する。1つの実施態様では、抗原性フラグメントは、配列番号6の配列番号4の配列からなる。当該組成物は、医薬的に許容される担体または添加物と組合され、哺乳類種に投与され免疫応答が誘導され得る。
【0039】
本発明の他の実施態様は、ヒトtsskまたはそのフラグメントに対し生ずる単離抗体を目的とする。ヒトtsskに対する抗体は、当分野に既知の方法を用い作成され得る。1つの実施態様では、抗体は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号8および配列番号9からなる群から選択されるポリペプチドに特異的結合するように提供する。1つの実施態様では、抗体は、配列番号4、配列番号5、および配列番号6からなる群から選択されるポリペプチドに結合するように提供する。1つの好ましい実施態様では、当該抗体はモノクローナル抗体である。当該抗体は、修飾を伴うかまたは伴わずに使用され得、共有結合または非共有結合でレポーター分子と結合することにより標識し得る。更に、当該抗体は標準的担体で製剤化され得、所望により標識されて治療または診断組成物を製造し得る。
【0040】
本発明はまた、ヒトtsskの存在を検出する方法を提供する。当該方法は、サンプルを、ヒトtsskに特異的に結合する標識抗体と接触させ、非結合および非特異的結合物質を除去し、そして標識抗体の存在を検出するステップを含む。1つの実施態様では、標識化合物は、直接的または間接的(すなわち、標識した二次抗体)に標識する抗体を含む。特に、本発明のtssk抗体は、tsskの発現およびその細胞での位置の確認、またはヒト可溶性tsskまたはインヒビターで処置する患者をモニターするアッセイに使用し得る。
【0041】
本発明の1つの態様では、tsskキナーゼファミリーを、新規薬物の開発のための標的として使用する。ハイスループットスクリーニングと結合したコンビナトリアル化学方法を用いる、小分子ライブラリー作成の分野での進展により、理想的な細胞透過インヒビターの探索を促進する。更に、結晶学的方法を用い構造に基づく設計により、リガンド設計を探索し得るリガンド-タンパク質相互作用部位を詳細に特性解析する能力が改善される。
【0042】
1つの実施態様では、本発明は、薬剤、小分子、またはtssk1、tssk2、tssk3またはその生理活性フラグメントを含むポリペプチドと相互作用するタンパク質をスクリーニングする方法を提供する。本明細書で使用するとき、tssk1、tssk2、tssk3の「生物学的作用フラグメント」または「生理活性フラグメント」なる語句は、tsksを含むそれぞれの天然tssk1、tssk2、tssk3ポリペプチドの天然リガンドのうちの少なくとも1つに特異的に結合可能な天然ペプチドの天然または合成部分を含む。本発明は、結合するかまたはtssk1、tssk2、tssk3の活性を修飾し、そのため、受精能の治療または診断マーカーとして有用となる、小分子、化合物、組換えタンパク質、ペプチド、核酸、抗体などをスクリーニングするためのインビボおよびインビトロの両方のアッセイを含む。
【0043】
本発明の1つの実施態様では、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号9からなる群から選択されるtsskポリペプチドを用い、生理学的条件下、tsskに結合するリガンドを単離する。当該方法は、tsskポリペプチドを生理学的条件下で化合物混合物と接触させ、非結合および非特異的結合物質を除去し、tsskポリペプチドへの結合を維持する化合物を単離するステップを含む。典型的に、tsskポリペプチドは、標準技術を用い固体支持体に結合し、化合物のスクリーニングを迅速にし得る。当該固体支持体は、生体化合物の固定化に使用し、以下に限らないが、ポリスチレン、アガロース、シリカまたはニトロセルロースを含む任意の表面から選択され得る。1つの実施態様では、固体表面は、官能性シリカまたはアガロースビーズを含む。その化合物のスクリーニングは、医薬製剤のライブラリーおよび従事者に既知の標準技術を用い行い得る。
【0044】
次いで、tsskポリペプチドに結合するリガンドは更に、実施例7に記載のようなインビトロキナーゼアッセイの使用を介するアゴニストおよびアンタゴニスト活性を分析し得る。tsskキナーゼ活性のインヒビターは、精子の成熟/受精能獲得を阻止する薬剤として使用する可能性を有する。そのインヒビターは、医薬組成物として製剤化し、対象に投与し精子形成を阻止し、避妊の手段を提供し得る。
【0045】
1つの実施態様により、ヒトtsskキナーゼ活性の特異的インヒビターは、ホスホリレーションイベントを検出し得るインビトロキナーゼアッセイの使用を介し同定する。1つの実施態様では、tsskキナーゼ活性のインヒビターを同定する方法には、1つまたはそれより多い阻害の可能性のある化合物の存在下、1つまたはそれより多いヒトtsskポリペプチドとホスフェートの標識源とを合わせることを含む。実施例4に記載のように、tsskタンパク質は、自己リン酸化する性質を有する。そのため、候補阻害化合物の存在下および非存在下で生ずる自己リン酸化の速度を比較することにより、特異的阻害化合物を同定し得る。1つの好ましい実施態様では、tssk基質を提供し、当該アッセイは、候補阻害化合物の存在下および非存在下での当該基質のリン酸化の速度の測定に基づく。好ましくは、多数の化合物が、ハイスループット技術を用いスクリーニングし、tssk特異的阻害化合物を同定する。
【0046】
1つの実施態様により、tsskキナーゼ活性の特異的インヒビターは、インビトロキナーゼアッセイ組成物を提供することにより同定し、ここで当該組成物は、ホスフェートの標識源、tssk基質、および配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号9からなる群から選択されるtsskキナーゼを含む。tssk基質リン酸化の速度は、任意の阻害化合物の非存在下の調節条件下で測定し、次いで、同一条件を用い、1つまたはそれより多い阻害の可能性のある化合物の存在下でアッセイを行うときtssk基質のリン酸化の速度を測定する。tsskキナーゼの活性を減少する当該化合物を同定し、阻害効果がtsskキナーゼに特異的かどうか決定するため試験した。
【0047】
1つの実施態様では、ヒトtsskインヒビターを同定する方法には、ホスフェートの標識源、tssk基質、および配列番号4、配列番号5、配列番号6からなる群から選択されるtsskキナーゼを提供し、その組成物を1つまたはそれより多い阻害可能性のある化合物と接触させ、リン酸化の速度を測定するステップを含む。1つの好ましい実施態様では、ホスフェートの標識源は[λ32P]ATPであり、tssk基質は配列番号8のアミノ酸配列を含む。当該キナーゼアッセイは、3つ全てのキナーゼに対するインヒビターの活性を確認するため存在する2つまたはそれより多いヒトtsskキナーゼにより構成され得る。
【実施例1】
【0048】
新規マウス精巣特異的セリン/スレオニンキナーゼの単離
タンパク質キナーゼ中に存在する保存領域に相当するディジェネレイトオリゴヌクレオチドを用いる逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、精巣特異的セリン/スレオニンキナーゼの新規メンバーを単離した。このPCRフラグメントは、雄生殖細胞においてノーザンブロット分析により1020bp転写物を認識した。プローブとしてこのフラグメントを用い、全長cDNAを、マウス混合生殖細胞cDNAライブラリーからクローニングした。このcDNAは、268アミノ酸のタンパク質をコードする804塩基のオープンリーディングフレームを有する。組織発現分析により、このタンパク質キナーゼは、マウス精巣生殖細胞中で発生的に発現し、脳、卵巣、腎臓、肝臓または初期胚細胞には存在しないことが示された。
【0049】
この新規推定セリン/スレオニンタンパク質キナーゼ(配列番号9)は、ほぼtssk3(Zuercher et al., 2000, Mech Dev 93, 175-7)と同じであり、最近では、マウス精巣特異的プロテインキナーゼと述べられているが、コーディング領域のシフトおよび22アミノ酸(109から131残基)の変化を生ずる幾つかの塩基欠失の点が異なる。この新規タンパク質キナーゼのヒト相同体(配列番号6)を実質的にクローニングし、精巣中での排他的発現が見られた。ヒトおよびマウスcDNAクローンの両方を用いる蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により、lp34-35および4E、それぞれのクロモソーム上のシンテニー局在性(syntenic localization)が示された。tssk3との相同性により、この新規タンパク質キナーゼはtssk3bと名づける。
【0050】
材料および方法
精子形成細胞群の単離
精製した、パキテン期精母細胞、円形精細胞および濃縮精細胞(condensing spermatids)の群を、コラゲナーゼおよびトリプシン-DNaseI(Bellve et al., 1977; Romrell et al., 1976)での連続解離により、成体マウス(CD-1; Charles Rivers)の被膜剥離精巣から作成した。当該細胞を、エンリッチなKrebs Ringer Bicarbonate Medium(EKRB)(Bellve et al., 1977; Romrell et al., 1976)の2-4%BSA勾配における単位重量の沈降速度により、個別の群に分離した。パキテン期精母細胞および円形精細胞群は少なくとも純度85%であったが、濃縮精細胞群は〜40-50%の純度であった(無核化残留体(anucleated residual bodies)および幾つかの円形精細胞が本来的に混ざっている)。
【0051】
RNA単離およびノーザンブロット分析
体組織、特定年齢のマウスの精巣、および成体マウスの単離精子形成細胞由来のトータルRNAを、5M グアニジウムイソチオシアネート、25mM クエン酸ナトリウム、pH7.2、0.5%Sarkosyl、および0.1M 2-メルカプトエタノール(Chirgwin et al., 1979)中で細胞をホモジナイズすることにより単離した。ライゼートを、5.7M CsCl、0.1M EDTAのクッション上で、114,000×g、20℃で一夜、遠心分離した。ペレットを再懸濁し、フェノール:クロロホルムで抽出し、当該RNAをエタノールで沈殿した。当該RNAの完全性(integrity)は、1%アガロースゲルにおけるリボゾームRNAのエチジウムブロミド染色により証明した。等量のRNAを、ホルムアルデヒドを含む1.2%アガロースゲルで電気泳動した(Sambrook et al., 1989)。RNAをニトロセルロースペーパーに移し、80℃で2時間ベイク(bake)し、50%ホルムアミド、5×Denhartdt's、0.1%SDS、100μg/ml Torula RNA、5×SSPE中で最低1時間、42℃で事前ハイブリダイズ(prehybridize)した。適当なDNAプローブをPCRで作成し、ランダムプライム法で32p-dCTPで標識し、10%デキストランサルフェートを伴う50%ホルムアミド、5×Denhartdt's、0.1%SDS、100μg/ml Torula RNA、5×SSPE中のブロット(1×106 cpm/ml)と共にインキュベーションし、42℃で一夜ハイブリダイズした。ブロットを2×SSPE、0.1%SDSで洗浄し、次いで、0.1×SSPE、0.1%SDSで洗浄した(何れも室温で2×10分間)。洗浄後、当該フィルターを風乾させ、増強スクリーンと共に-70℃でフィルムに感光させた。ヒト組織のノーザンブロットは、Clontechから得、ハイブリダイゼーションは、上記のとおり行った。
【0052】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、Gibco-BRLのSuperscriptIIを用い、製造者指示書に従い行い、その後、PromegaのTaqポリメラーゼを使用した。PCR条件は以下の通りである:95℃2分間を1サイクル; 95℃1分間、55℃1分間および72℃1分間を35サイクル; 当該サイクルは72℃7分間の1サイクルで終了し、次いで4℃に冷蔵した。次いで、当該DNA産物を2%アガロースゲルで分析した。以下のディジェネレイトプライマーを用い、チロシンキナーゼの保存領域の標的とした:逆転写ステップの場合、3つのランダムヌクレオチド(CGTGGATCCA(A/T)AGGACCA(C/G)AC(A/G)TC:配列番号11)後にサブクローニングする5'EcoRI共通部位を付加したチロシンキナーゼのサブファミリーに共通のコーディングサブ領域IXに相当するディジェネレイトアンチセンス20-mer; (2)PCRステップには、同じプライマーを、チロシンキナーゼのサブファミリーと共通のサブ領域VIbに相当するディジェネレイトセンス20-merと共に用い、またEcoRIの共通部位をまた4つのランダムヌクレオチド(ATTCGGATCCAC(A/C)G(A/C/T/G)GA(C/T)(C/T)T; 配列番号2)の後に導入した。PCR反応が終了し当該産物を分析した後、cDNAを、製造者指示書に従いTOPO TAクローニングベクター(In Vitrogen)にサブクローニングし、EcoRIサブクローニング共通部位は使用しなかった。35の陽性クローンのMiniprepにより、Qiagenキットを用い作成し、次いで、T7プライマーを用い配列決定した。
【0053】
マウスtssk3bのクローニング
tssk3bをクローニングするため、RT-PCRにより得られた特有配列を用い、この新規キナーゼに対する特定プライマーを設計した。プライマーA2(アンチセンス: CATCACCTTTCTTGCTATCATGGG; 配列番号13)およびS2(センス: TGTGAGAACGCCTTGTTGCAG:配列番号14)を用い、169塩基のPCRフラグメントを得た。その後、このPCRフラグメントを、ランダムプライム法により、32p-dCTPで放射標識し、プローブとして用い、従前に述べられているようにオリゴ-dTプライム化混合化生殖細胞cDNAライブラリーをスクリーニングした。
【0054】
ヒトtssk3b相同体のクローニング
ヒトESTデータベースのサーチ目的に予測マウスtssk3bアミノ酸配列を用い、登録AI553938をBLAST searchから得た。このEST配列を用い、アンチセンスプライマーA3(GACATCACCTTTTTTGCTATCGT;配列番号15)を得た。このプライマーおよびアダプター(CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC; 配列番号16)を、鋳型としてヒト精巣marathon ready cDNA(Clontech, Inc)を用いる5'RACEに使用した。当該PCR反応ミックスを最初に10分間94℃で加熱し、次いで当該ミックスを以下の条件で40サイクルのPCRを行った:94℃30秒、55℃30秒、72℃2分間。これらのサイクルの後、当該ミックスを72℃10分間インキュベーションした。AmpTaq Gold(Perkin Elmer)を、PCR用の通常のTaqポリメラーゼの代わりに用いた。増幅cDNAフラグメントをクローニングし、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を用い配列決定した。以下の5'RACEを得るcDNA配列の5'末端を用い、センスプライマーS3(GCAGGTGAGAATGTTCTAACGCTG;配列番号17)を設計した; アンチセンスプライマーA4(TCTCCCCCTACTTTATTGGAGAGC;配列番号18)は、AI553938の3'末端に基づいている。次いで、これら2つのプライマーを用い、上記の条件で、同じライブラリーから全長ヒトtssk3b相同体を増幅した。増幅1.058kbフラグメントを切り取り、クローニングし、University of Virginiaの配列決定施設を用い配列決定した。cDNAライブラリー増幅tssk3bヒト相同体のC末端1400bpフラグメントをヒト組織のノーザンブロットに使用した。
【0055】
DNA配列決定およびコンピューター分析
すべての配列決定を、AmpliTaq、FS dye terminator cycle sequencing kit chemistryおよび適当なプライマーで、373A DNA sequencer(PE Applied Biosystems, Foster City, CA)を用い行った。あいまいなところは反対鎖を配列決定することにより解決した。DNAおよびタンパク質配列分析は、Mac Vector MT(Kodak Scientific Imaging Systems, New Haven, CT)およびSequencerTM(Gene Codes Corp., Ann Arbor, MI)ソフトウェアプログラムを用い行った。
【0056】
蛍光性in situハイブリダイゼーションおよびクロモソームマッピング
蛍光性in situハイブリダイゼーション(FISH)および免疫蛍光の検出は、従前に述べられているように行った(Bell et al., 1995, Cytogenet. Cell Genet, 70: 263-267)。1kb、マウスcDNA、および相当する1kbヒト相同体を、1μg DNA、dATP、dCTPおよびdGTP(Perkin Elmer)それぞれ20μM、1μM dTTP(Perkin Elmer)、25mM Tris-HCl、pH7.5、5mM MgCl2(Sigma)、10mM B-メルカプトエタノール(Sigma)、10μM ビオチン-16-dUTP(Boehringher Mannheim)、2units DNAポリメラーゼI/DNaseI(GIBCO, BRL)およびH2Oを含み総容量50μlの反応物中のニックトランスレーションによりビオチニル化した。プローブを変性させ、ヒト末梢リンパ球およびマウス胚線維芽細胞、それぞれのメタフェーズスプレッド(metaphase spreads)にハイブリダイズした。ハイブリダイズプローブを、フルオレセイン標識アビジン、ならびに抗アビジン抗体(Oncor)およびフルオレセイン標識アビジンの第二層の付加により増幅したシグナルで検出した。クロモソーム調製物はDAPIで対比染色し、Macintoshコンピューターワークステーションで操作する冷却CCDカメラ(Photometrics, Tucson, AZ)を装着したZeiss Axiophot epifluorescence顕微鏡で観察した。DAPI染色およびFITCシグナルのデジタル化イメージを得、擬色化し、Oncor version 1.6ソフトウェアを用いマージした。
【0057】
結果
マウス雄生殖細胞由来のプロテインキナーゼのクローニング
哺乳類精子受精能獲得は、幾つかのタンパク質のタンパク質チロシンリン酸化の増加により生ずる。成熟精子は、タンパク質の合成ができず、これらの細胞中でのRNAの存在が議論されているため、最終的に機能を低下させる目的でRT-PCRによるプロテインキナーゼを同定するべく、RNAを最初にマウス混合生殖細胞群から単離した。チロシンキナーゼのサブファミリー中のディジェネレイトプライマーターゲッティング保存領域を用い、TAクローニング後、上記方法で述べられるように得られた27の配列を分析し、GeneBankの配列と比較した。殆どの配列がチロシンキナーゼサブファミリーの既知メンバーとマッチするが、得られた配列の幾つかは、ser/thrプロテインキナーゼのサブファミリーのメンバーとマッチした。
【0058】
B-Rafkinaseのようなサブファミリーの既知メンバー間で、精子完成に関与するser/thrプロテインキナーゼの新規ファミリーに対し相同性を有する配列を検出した(Kueng et al., 1997, J Cell Biol 139, 1851-9)。この新規のser/thrキナーゼをクローニングするため、この配列に相当する169塩基対の特異的PCRフラグメントを放射標識し、マウス混合生殖細胞cDNAライブラリーを上記の方法で述べたようにスクリーニングした。1.02kb cDNA挿入物を含むクローンを得(配列番号10)、Kueng et al.の命名法によりtssk-3bと名付けた。配列決定分析により、266アミノ酸推定ser/thrプロテインキナーゼをコードする804ヌクレオチドの単一のオープンリーディングフレームが示された。開始メチオニンに隣接するヌクレオチドは、Kozak共通配列に十分に適合する。3'-非翻訳領域は、ポリ(A)テールの上流のポリアデニル化シグナルの21のヌクレオチドを示す。当該配列は、ser/thrキナーゼに相当する予測保存ドメインのすべてを含む。
【0059】
マウスtssk3の発現パターン
マウスtssk3bの発現パターンを、tssk3bの全長転写産物に相当するtssk-3b特異的プローブを用いる異なるマウス組織由来のトータルRNAのノーザンブロット分析により調査した。このプローブは、上記方法で記載したように作成した混合マウス生殖細胞群中で排他的におおよそ1kbの単一転写産物を認識した。高感光で、生殖細胞の1.35kb転写産物の排他的識別も可能であり、この転写物は、マウス生殖細胞ライブラリーをスクリーニングし、他のtssk3bのスプライシングが示されるときには観察されなかった。更なる、精巣中のtssk-3bの発現パターンの分析のため、成体精巣の精製生殖細胞から得たRNAによるノーザンブロットを実施した。tssk-3bmRNAは、円形および濃縮精細胞で減数分裂後に発現するが、減数分裂パキテン期精母細胞では発現しなかった。マウス試験では、胚発生のd11-12で分化し、始原生殖細胞が生じる。最初の精子形成の波は、誕生後数日で始まり、精原細胞は、思春期前に初期精細胞に分化する。成熟精子への分化は、テストステロン依存であり、思春期後生ずる。
【0060】
tssk-3bが減数分裂後に発現するかどうか更に調査するため、トータル精巣RNAを、出生後の異なる年齢(1、3、7、10、15、20、24、30および成体)のマウスから調製し、ノーザンブロット分析により分析した。tssk-3bの転写は、誕生後、20と24日の間に始まり、このmRNAの減数分裂後発現を確認した。
【0061】
これらの結果により、tssk3bの発現パターンは、マウスtssk1およびtssk2(Kueng et al., 1997, J Cell Biol 139, 1851-9)のものと類似することが示され、これにより、tssk3 mRNA発現は発生的に調節され、その発現は、精子完成の開始あたりで減数分裂後に刺激されることが示唆される。
【0062】
tssk3bの発現パターンを更に分析するため、我々は、卵母細胞、中期II停止卵子でおよび移植前胚発生の異なる段階で特定プライマーを用いRT-PCRを行った。これらの任意の段階では、正確な大きさのtssk3bPCR産物が混合生殖細胞トータルRNAから増幅し得る条件下、PCR産物が観察されなかった。
【0063】
tssk3Bのヒト相同体のクローニングおよび発現
マウスtssk3配列を用い、生殖細胞腫瘍由来のヒトESTをデータベースのBLAST searchにより同定し、3'および5'RACEと共に使用し、上記方法に記載のような適当なライゲーションしたヒト精巣cDNAライブラリー(Clontech)から全長ヒト相同体(配列番号3)をクローニングした。
【0064】
ヒト組織でのtssk3の発現パターンを調査するため、組織ノーザンブロット(Clontech)を、ヒトtssk3 cDNAのC末端400bpフラグメントによりプローブとした。1kbおよび1.35kbRNA転写産物は当該精巣中で排他的に発現した。マウスの場合と同様に、1.35kbフラグメントは、他のスプライスした転写物を示し得る。マウスtssk3bとこれら新規のser/thrキナーゼのヒト相同体tssk3の両方は、互いに最も高い相同性(98%)を有しており、そしてマウスtssk3(92%)、マウスtssk1およびマウスtssk2(56%)とづづき、これは、このキナーゼが新規ser/thrキナーゼの同じサブファミリーに属することを示唆する。記載したように、tssk3およびtssk3bは非常に高い相同性(92%)を有し、これら2つの配列間の相違は、22アミノ酸(残基109から131)の範囲に限定される。この範囲をヌクレオチドレベルで分析すると、3つの塩基対欠失が、コーディング領域にシフトを生じ上記の22アミノ酸に変化を生じたマウスtssk3配列で観察された。この時点でのこれらのフレームシフトの起点は不明であり、2種類のtssk3がマウス精巣に存在する可能性がある。より可能性があるのは、これら2つの配列の1つは、当該配列中の僅かな誤りを有し得ることである。tssk3bヒト相同体は、マウスcDNAクローンから独立して得られ、そのマウス相同体とはアミノ酸レベルで100%の相同性を有するため、出願人は、マウス3bとヒトtssk3配列の両方の正確さについて確信する。
【0065】
ヒトおよびマウスtssk3のクロモソームマッピング
tssk3bのクロモソームの位置もまた、全長ヒトcDNAプローブを用いる蛍光性in situ ハイブリダイゼーション(FISH)でマッピングした。蛍光シグナルは、スコアした20のメタフェーズスプレッドすべてのクロモソーム1で検出された。観察された合計109シグナルのうち、49(45%)が1pにあった。すべてのクロモソーム特異的シグナルは1p34.1-34.3に局在した。シグナルの分布は以下のようであった:1染色分体(6細胞)、2染色分体(14細胞)および3染色分体(5細胞)。マウスtssk3bcDNA相同体はクロモソーム4のシンテニー領域、バンドEに位置していた。
【実施例2】
【0066】
tsskキナーゼファミリーのヒト相同体の全長cDNAおよびtssk基質由来の部分的cDNA配列のクローニング
遺伝子銀行のサーチ目的で、予想されるマウスtssk1および2アミノ酸配列を用い、マウスtssk1およびtssk2の両方のゲノム配列を得た。クロモソーム5および22にそれぞれ位置するこれらの遺伝子にはイントロンはない。コーディング領域の3'末端および5'末端に相当する配列を用い、それぞれセンスおよびアンチセンスプライマーを設計した。両方のヒトキナーゼ相同体の全長配列を最終的に得るため、鋳型としてヒト精巣marathon ready cDNA(Clontech, Inc.)を使用し、アンチセンスプライマーを5'RACEに用い、センスプライマーを3'RACEに用いた。増幅cDNAフラグメントをTOPO TAクローニングキット(Invitrogen)を用いクローニングし、配列決定した。全長ヒトtsskキナーゼcDNAを増幅するため、5'RACE後に得られた5'末端のcDNA配列を用い、5'センスプライマーを設計した。3'RACE後に得られた3'末端のcDNA配列を用い、アンチセンスプライマーを設計した。次いで、これらの2対のプライマーを用い、同じライブラリーからヒトtssk1および2を増幅した。増幅配列1.3kb(tssk1)および1.2kb(tssk2)をサブクローニングし、配列決定した。tsskキナーゼファミリーの3つのメンバーの翻訳ヒト相同体をそれぞれ配列番号1-3として提供する。
【0067】
発現の特異性を分析するため、幾つかのヒト組織を描く市販用のブロットを、ヒトtssk1および2の全長cDNA由来ランダムプライム化標識ラベルを用い、行った。加えて、部分的な800塩基対配列由来のランダムプライム標識化プローブを用い、tssk基質の組織分布を決定した。ノーザンブロットは、商業用の利用可能なヒト組織ブロット(Clonetech)を用い行った。
【0068】
ノーザンブロットにより、tssk1、2およびtssk基質は精巣特異的mRNAである。これら同一のブロットを、tsskプローブにストリップし、βアクチン配列で再プローブ化した(各レーンに等量のRNAを負荷し確認した)。発現の特異性を更に分析するために、同一プローブを用い、76種のヒト組織由来の商業用の利用可能なmRNAアレイを使用するドットブロットを行った(Clontech, Cat#7775-1のMultiple Tissue Expression(MTETM)Arrayを用いる)。それぞれのプローブ化MTEで得られたシグナルのみが、精巣RNAを含むグリッド中にある。この実験により、これらのメッセージはヒトでは精巣特異的であることが確認された。加えて、Kueng et al. (1997)は、tssk1および2がマウス生殖細胞中で発現し、これらのメッセージは他の11組織中には存在しなかったことを示した。
【実施例3】
【0069】
免疫局在性およびイムノブロッティング実験
tssk1、2および3キナーゼおよびその基質が精巣中に存在するかどうか決定するため、および/または組換えタンパク質に対する成熟精子特異的抗体を作成する。他に、各cDNAの予想アミノ酸配列から設計する特異的ペプチドに対する抗ペプチド抗体を作成する。作成された各抗体の特異性を、組換え体tssk1、2および3について試験する。各タンパク質の特定アミノ酸配列に対し設計した抗ペプチド抗体は特異的となると予想される。
【0070】
tsskキナーゼおよびtssk基質に対し作成した抗体を用い、他の組織中のこれらキナーゼの存在を分析する。この目的のため、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、卵巣、胎盤、骨格筋および脾臓のような種々の組織のClontechタンパク質MedleysTMを、抗tsskおよび抗tssk基質抗体を使用するウェスタンブロットで試験する。tssk1、2および3をコードするmRNAが精巣にのみ存在するため、同様のタンパク質分布が予測される。tsskキナーゼのヒト相同体は、マウス対応物と比較すると80%を超える相同性を有するため、ヒト組換えtsskキナーゼに対する抗血清はマウス相同体を同様に認識すると予測される。そのため、ヒトtsskキナーゼに対し作成した抗体もまた、マウス組織中で試験する。
【0071】
精製組換えタンパク質に対するポリクローナル抗体を作成するため。ラットおよびウサギを抗体産生に用いる。この目的のために、Mandal et al. (1999)により述べられるようなプロトコールに従う。抗体力価はELISAによりモニターし、抗体の特異性は、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティング分析でチェックする。
【0072】
精子調製
免疫局在性およびイムノブロッティング実験を行うため、ヒト精子を健常なドナーから回収し、従来述べられている(Naaby-Hansen et al., 1997)ようなPercoll(Pharmacia Biotech, Upsala, Sweden)密度勾配遠心分離を用い精製する。次いで、精子を最終濃度2×107cells/mlで再懸濁する。
【0073】
SDS-PAGEおよびイムノブロッティング
精子および異なる組織由来の他の細胞型を遠心分離でペレットとし、リン酸緩衝性生理食塩水(PBS)1mlで洗浄し、メルカプトエタノールの入っていないサンプル緩衝液(Laemmli, 1970)に再懸濁し、5分間煮沸する。遠心分離後、上清を回収し、2-メルカプトエタノールを最終濃度5%となるように加え、5分間煮沸し、次いで、10%SDS-PAGEした。タンパク質濃度は、PierceのABCキットで測定する。Immobilon Pへのタンパク質の電気泳動転移および免疫検出を、従来述べられているように行う(Kalab et al., 1994)。ゲルを、銀またはクマジーブルーで染色するか、immobilon PVDF(Millipore)へ転移させ、抗組換え抗体でプローブ化する。
【0074】
免疫蛍光
tssk1、2および3の細胞内位置を決定するため、可能性酵素に対する特異的抗体を免疫蛍光実験ならびにヒト精巣組織およびヒト精子の免疫電子顕微鏡に使用する。加えて、抗体がマウス抗原を認識するならば、その局在性を、マウス生殖細胞および精子の免疫蛍光性で探索する。
【0075】
精子を適当な実験条件下で処置し、PBS中の3%(w/v)パラホルムアルデヒド-0.05%(v/v)グルタルアルデヒドの溶液で懸濁液で1時間固定し、37℃のPBSで洗浄し、次いで、PBS中の0.1%(v/v)TritonX-100で37℃10分間、透過処理する。次いで、精子をPBSで洗浄し、従来述べられている(Visconti et al., 1996)ように、適当な抗体の連続希釈物(5、10、50および100)と共に一夜インキュベーションする。PBSで精子を洗浄後、FITC結合ヤギ抗マウスIgGと共にインキュベーションし、次いでポリリシン被覆顕微鏡スライドに付着させる。PBSによる3×洗浄の後、当該スライドをフルオロモント(fluoromont)でマウントし、蛍光を評価する。精巣生検から得た精巣サンプルを従来記載(Westbrook et al., 2000)のように処理する。
【実施例4】
【0076】
組換えtsskタンパク質の発現
多くのキナーゼがE. coli内で作用分子として発現する(Bodenbach et al., 1994; Letwin et al., 1992)。E. coliだと比較的簡単であり、容易にスケールアップできるという利点がある。TSSK1、2、3のオープンリーディングフレームを増幅し、pET28bベクター(Novagen)中でHisタグと融合させる。当該プラスミドをBL21DE3または他の適当な宿主株に形質転換する。組換えタンパク質産生は、培養培地に最終濃度1mMとなるようIPTGを加えることにより誘導する。組換えタンパク質は、天然の条件下、Ni-NTAカラムを用いE. coliライゼートから精製する。結晶形成の促進のため、高純度のタンパク質が最適である。上記のタンパク質調製物を精製するため、PrepCell(Bio-RAD)を使用する準備した電気泳動を用いる。キナーゼアッセイは結晶化を行う前に行う。
【0077】
細菌中における、組換え精巣tsskキナーゼおよびtssk基質を産生させるため、tssk1、2および3の、ならびにtssk基質のための発現構成物を作成する。これらタンパク質のそれぞれのコーディング領域を、C末端6残基のHisタグを含むpET28b発現ベクター中にサブクローニングする。特に当該構成物は、完全ORFを用い作成する。プライマーは、5'末端にNdeI部位および3'末端にXhoI部位ができるように設計する。増幅産物を、pET28b発現ベクターのNdeI-XhoI部位にライゲーションする。組換えタンパク質を発現ベクターの6ヒスチジン残基と融合させるため、発現タンパク質は、Ni-Histidine結合樹脂親和性クロマトグラフィーを用い精製する。一旦、精製すると、キナーゼ活性はtssk基質で評価し、酵素が正しくホールディングされていることを確認する。
【0078】
TSSK2タンパク質は、E. coli内での発現が上手くいき、精製した。tssk2を発現させるため、オープンリーディングフレームを、His-タグを有するpET28b発現ベクター中にサブクローニングした。組換えタンパク質はIPTGでの誘導後、産生した。細菌で発現し、部分的に精製したtssk2を、BioradのPrepCellを使用する準備したゲル電気泳動により更に精製した。当該画分を回収し、SDS-PAGEで分析した。TSSK基質を発現させ、同様に精製した。これらの精製タンパク質を用い、標準技術を用いラットポリクローナル抗体を産生した。
【0079】
複数のキナーゼがインビボおよびインビトロで自己リン酸化するという性質を有するため、精製した細菌性の発現組換えtssk2を自己リン酸化についてアッセイした。当該実験は、40μM ATP(1μCiの[32P]ATP)、10mM Mg2+、p-ニトロ-フェニルホスフェートおよびグリセロールホスフェートのようなホスファターゼインヒビターおよびプロテアーゼインヒビター(ロイペプチンおよびアプロチニン10μg/ml)の存在下で構成し、当該アッセイは、サンプル緩衝液で停止させ、tssk2は10%PAGEで分離した。乾燥ゲルのオートラジオグラフィーにより、組換えtssk2に32Pが組み込まれていることが示され、これは、細菌で発現したtssk2は、生ずるリン酸化で正確にフォールディングされ、構造研究に使用し得ることを示唆する。
【0080】
細菌で発現した組換えタンパク質のすべてが正確にフォールディングされているわけではないので、同様のアプローチにより、酵母でtssk1、2および3を発現する。酵母でtsskキナーゼおよび基質を発現させるため、キナーゼを、Invitrogen(Carlsbad, CA)のpPICZαBベクターにサブクローニングし、分泌タンパク質および細胞内タンパク質のようにPichia pastoris中で発現する。これらの構成物はまた、培養培地または抽出細胞の何れかからの組換えタンパク質の精製が容易となるC末端Hisタグを有する。
【実施例5】
【0081】
酵母ツー・ハイブリッド・システムにおけるtsksとtssk2との相互作用
tssk2とtsksとのタンパク質-タンパク質相互作用を証明するため、ツー・ハイブリッド・システムを用いた。この実験では、ベイト遺伝子(tssk2)を、最初に、GAL4 DNA結合ドメイン(DNA-BD)への融合としてレポーター株中に形質転換した。GAL4活性化ドメイン(AD)への融合としてtsksを発現する第二プラスミドもまたAH109レポーター株中に導入した。ウェスタンブロットを行い、酵母中での融合タンパク質の発現の確認を行った。tssk2およびtsksの相互作用により、ヒスチジン(HIS)遺伝子の転写が促進され、Hisのない培地中で酵母が増殖し得ることが観察された。同様に、GAL4 DNA結合ドメインに融合したp53を発現する第一の構成物とGAL4活性化ドメイン(AD)に融合したSV40 Large T 抗原を発現する第二の構成物とを酵母細胞に共トランスフェクトすることにより、p53およびSV40 Large T抗原は相互作用し、His遺伝子活性化を促進することが示された。この相互作用を陽性対照として使用した。対照的に、TSSK2およびp53とDNA-BDとの融合タンパク質は、GAL-ADプラスミドを共トランスフェクトしたときは増殖を促進しなかった。GAL-AD単独、またはGAL-ADとTSKSとの融合タンパク質またはGAL-ADとSV40 Large T 抗原との融合タンパク質の何れも、His遺伝子の転写を活性化する能力を有さなかった。この実験により、tssk2および基質tsksは相互作用し得ることが示され、これらのタンパク質のヒト相同体が、マウス対応物と同様に挙動することを示唆する。
【0082】
tssk2とtsksとがインビボで相互作用するかどうか調査するため、受精能獲得した精子および受精能獲得していない精子を、タンパク質-タンパク質相互作用を保護する条件下でTritonX100で抽出し、次いで、免疫沈降を特定抗体で行う。相互作用は、典型的な交差免疫沈降実験における他の抗体を用いるウェスタンブロットによりアッセイする。相互作用するタンパク質が共存するため、二重標識免疫蛍光が生じ、共存を調査する。ヒトtsskではウサギ抗体はまだ得られていないが、ラット抗tssk2およびラット抗tsks抗体は従前から得られており、そのため、ヒトtsskに対する抗体を得る任意の困難性が予想される理由はない。
【実施例6】
【0083】
tssk1、2、3およびtssk基質の結晶構造の単離
2つのストラテジーをtssk特異的インヒビターの理論的設計に利用する。第一に、ハイスループットスクリーニングに適するインビトロキナーゼアッセイを開発する。第二に、tsskキナーゼ単独の結晶構造またはその基質との複合化した結晶構造を得る。
【0084】
X線結晶を使用する構造研究の場合、おおよそ5mgの活性キナーゼを得る必要がある。この量のタンパク質は、一般的には、最初の結晶化の試みに適当な量である。最初の試みは、組換え未処理タンパク質で行う;これは、幾つかの酵素の構造研究を含む多くの場合に成功すると証明されている共通の結晶技術である。結晶スクリーニング前に、発現フラグメントを、酵素活性の適当なレベルならびに純度、均一性および溶解性についてチェックし得る。懸滴蒸発拡散法(hanging drop vapor diffusion method)と合わせて使用する、幾つかの商業用の利用可能な結晶スクリーニングキットは、結晶成長条件を探索する標準的な最初のステップを提供する。触媒的に必要な金属イオン、基質および/またはインヒビターの存在下、フラグメントの結晶スクリーニングは、アポ酵素のスクリーニングと同時に行う。
【0085】
結晶は、シッティングドロップ(sitting drop)を平衡化することにより21℃で得られる。クリオディフラクション(cryodiffraction)実験の場合、結晶を、これらの試薬の中間濃度を有する3つの溶液を介して同様の緩衝性溶液に移す。室温および低レゾリューションでの回折実験の場合、回転陽極X線発生装置(rotating anode X-ray generator)のCuKαを用いる。最終的な構造は、予備的な改良、モデル改善および更なる改善後に確立する。
【0086】
tsskキナーゼファミリーの場合、基質の存在下での結晶化を、分子に基づくキナーゼ活性の確立のため、試みる。最初の結晶化条件が得られると、その条件を、少なくとも3.0Åレゾリューションで回折する結晶が得られるように、最適化する。MAD(multiple wavelength anomalous dispersion)およびMIR(multiple isomorphous replacement)技術による構造の直接同期化を同時に行い、確実に成功させ得る。同期化構造の半自動モデル構成および改良技術を用い、迅速に構造結果が得られ得る。構造が得られると、その結果は、精子形成のtsskキナーゼファミリーおよび/または精子機能での特有の役割を理解する観点で分析する。これらの研究の最終目的は、避妊に有用であることを証明し得る、tssk1、2および/または3の特異的インヒビターの設計のため、鋳型として当該構造を使用し得る。
【実施例7】
【0087】
tssk特異的キナーゼアッセイの開発
tsskファミリー用の特異的キナーゼアッセイの設計は、別の観点から利点がある。第一に、キナーゼアッセイは、ATPのKmのようなこれらの酵素、二価陽イオンおよび基質の動力学的特性を解析し得る。第二に、作用酵素のみは結晶学的研究に適当であるため、キナーゼアッセイにより、組換えタンパク質のフォールディングが確認され得る。第三に、tssk特異的インヒビターのハイスループットスクリーニングに適当なキナーゼアッセイに基づく研究室スケールでのインビトロキナーゼアッセイの開発に望ましい。
【0088】
tsskキナーゼ活性を測定するアッセイの開発は、基質、[λ32P]ATP、Mg2+および/またはMn2+およびホスファターゼインヒビターの存在のようなキナーゼアッセイの一般的特性による。しかし、第一に、tsskキナーゼの源を提供しなければならない。tsskキナーゼは、これらのタンパク質の組換え的発現および発現キナーゼの精製により生ずる。
【0089】
哺乳類細胞抽出物のキナーゼアッセイ
それぞれのヒトtsskキナーゼのORFをpCMV-HAエピトープタグ化哺乳類発現ベクター(Clontech cat#K6003-1)中にサブクローニングする。tssk基質のORFをpCMV-Myc哺乳類発現ベクター(Clontech, 上記と同じ)にサブクローニングする。3つのHA-キナーゼのそれぞれを、それぞれのヒトtssk用の3種のCOS細胞系中でcMyc-tssk基質で共発現させる。共発現は、それぞれの抗タグ抗体で免疫蛍光を有効に行う。HAおよびHycに対する抗体はClontechから利用可能である。抗c-Mycはマウスモノクローナルであり、抗HAはウサギポリクローナルであるため、キナーゼおよび基質の両方が同じ細胞中で共発現するかどうか分析することが可能となる。
【0090】
次いで、タンパク質を1%Tritonで抽出し、免疫沈降を、抗HA-タグ抗体を用い行う。他に、抗tssk-キナーゼ/抗-tssk基質抗体を用い、tsskキナーゼおよびtssk基質を免疫沈降し得る。典型的に当該抗体は、標的リガンドの単離を幇助するセファロースビーズのような固体支持体に結合する。プロテインAセファロースによる沈殿後、当該ペレットを、ATP(10μM、100μMおよび1mM)、Mg2+またはMn2+(100μM、1mMおよび10mM)および1μCiの[λ32P]ATPの異なる濃度を用いるキナーゼ活性についてアッセイする。リン酸化タンパク質をSDS-PAGE分離およびオートラジオグラフィー後評価する。免疫沈降後のキナーゼ活性の評価は、1つの特定キナーゼの活性を特異的に測定し得る、しばしば使用される方法(Coso et al., 1995, Cell 81, 1137-46; Moos et al., 1995, Biol Reprod 53, 692-9)である。Kueng et al.(1997)が、tssk1および2の免疫沈降後のtssk基質のリン酸化の検出に成功したため、哺乳類システムでの共発現後のtsskキナーゼのキナーゼ活性を測定することが可能であると予測される。
【0091】
インビトロキナーゼアッセイ
それぞれ精製した酵素を、種々の濃度の、ATP(10μM、100μMおよび1mM)、Mg2+またはMn2+(100μM、1mMおよび10mM)、1μCiの[λ32P]ATP、および種々の濃度の精製tssk基質(1、10および100ng/アッセイ)と混合する。リン酸化は、SDS-PAGE分離およびオートラジオグラフィーの後に評価する。タンパク質が正確にフォールディングされているならば、基質のリン酸化は、この方法で容易に検出されると予測される。
【実施例8】
【0092】
tssk抗体の産生
精製tssk2およびtsksを使用し、ラットポリクローナル抗体を産生した。組換えヒトtssk1、2および3ならびにヒトtssk基質に対する抗血清を用い、組織分布およびタンパク質レベルでの細胞下局在性を決定する。当該ラット抗tsskおよび抗tsks抗体は、組換えタンパク質を認識し、予想されるMWを有する精子および精巣中のタンパク質をも認識した。これは、tsskファミリーの少なくとも1つのメンバーおよびその基質(tsks)が精子中に存在することを示唆する。次いで、これらの抗体を用い、受精能を獲得したヒト精子中のこれらのタンパク質の細胞内位置を研究した。Tssk2は、ヒト精子の赤道セグメント(equatorial segment)に局在することが観察された。tsksもまた赤道セグメントに局在した。それにも拘わらず、抗tsks抗体は、前頭および尾に存在するタンパク質をも認識する。これら分子の免疫局在性は、tssk2およびtsksが、ヒト精子群の少なくとも1画分に精子の類似領域中に存在することを示唆する。対照実験は、各抗体のラット免疫前血清を用い行った。ウェスタンブロットおよび免疫蛍光の両方は陰性であった。tssk2に対する抗体はtssk2に対し産生させるが、配列に高い相同性があるためこの抗体がtsskファミリーの他のメンバーを認識したことを否定できない。しかし、3つのtsskイソ酵素間の識別は、tssk1と2の間で相違し、tssk3中には存在しないC末端ドメインに対する抗体を産生させることにより可能となり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
避妊薬として使用するtsskキナーゼインヒビターの同定のためのポリペプチドをコードする、配列番号2のヒト核酸配列を含む精製ポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号2の核酸配列に作動可能なように連結させた非天然プロモーターを含む、組み換えヒトtssk遺伝子構築物。
【請求項3】
請求項2に記載の構築物を含む、トランスジェニック細胞。
【請求項4】
配列番号5のアミノ酸配列、または1個もしくは2個の保存的アミノ酸置換により配列番号5のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含む精製ポリペプチドであって、キナーゼ活性を有し、配列番号8に特異的に結合し、そして避妊薬として使用するヒトtsskキナーゼ阻害剤の同定に使用する、ポリペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列が配列番号5のアミノ酸配列と同一である、請求項4に記載の精製ポリペプチド。

【図1】
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【公開番号】特開2010−29197(P2010−29197A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216891(P2009−216891)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【分割の表示】特願2007−174924(P2007−174924)の分割
【原出願日】平成13年11月9日(2001.11.9)
【出願人】(501149684)ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション (35)
【Fターム(参考)】