説明

ヒト肝細胞様細胞およびその利用

【課題】従来のシステムの改変により、ヒト肝細胞の表現型にさらに近いヒト肝細胞様細胞を製造すること。また、該ヒト肝細胞様細胞およびその利用法の提供。
【解決手段】従来のシステムにおいて総培養期間を延長し、さらに培地中にデキサメタゾンを添加することにより、従来よりも、ヒト肝細胞に近い細胞形態を有するヒト肝細胞様細胞の製造方法。また、該細胞は、チトクロムP450(CYP)、多剤耐性関連蛋白質(MRP)および多剤耐性(MDR)蛋白質を含む初代正常ヒト培養肝細胞の形態学的特徴および機能的特徴の両方を示すことが判明した。該ヒト肝細胞様細胞を利用した、動物モデルを必要としない候補薬剤などの被検化合物の代謝や肝毒性の評価法、また、肝疾患治療剤、肝炎ウイルス感染阻害剤、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト肝細胞様細胞、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト間葉系幹細胞は、成人骨髄に存在し、未分化細胞として複製することができ、かついくつかの異なる組織系統となる能力を有する、多能性細胞であると考えられている。
間葉系幹細胞(MSC)は、最初にFriedenstein により(1982)、骨髄(BM)から、ウシ胎仔血清存在下でのプラスチック上への単純な播種により、単離された(非特許文献1)。骨髄穿刺液から単離されたヒトMSC(hMSC)は、全般的に免疫表現型を共有し、SH2、SH3、CD29、CD44、CD71、CD90、CD106、CD120a、CD124については一様に陽性であるが、CD14、CD34、およびリンパ球共通抗原CD4518については陰性である。hMSCは多能性であり、インビトロにおいて規定された条件下で培養された場合に、少なくとも3系統に分化可能である(骨原性、軟骨原性および脂質生成性)(非特許文献1)。
これまでにhMSC(CD34-陽性細胞画分)を含む成人BMから成熟肝細胞を分化しようとする試みが報告されている(非特許文献2〜4)。しかしインビトロにおける直接分化によっては、機能性肝細胞は誘導されていない。
【0003】
【非特許文献1】M. F. Pittenger et al., Science. 284, 143 (1999)
【非特許文献2】S. A. Camper, S. M. Tilghman, Biotechnology. 16, 81 (1991)
【非特許文献3】J. L. Nahon, Biochimie. 69, 445 (1987)
【非特許文献4】A. Medyinsky, A. Smith, Nature. 422, 823 (2003)
【非特許文献5】B. Melody et al., J. Cellular Biochem. 89, 1235 (2003)
【非特許文献6】E. H. Morgan, J. Biol. Chem. 244, 4193 (1969)
【非特許文献7】P. Pileri et al., Science. 282, 938 (1998)
【非特許文献8】澤田康文, この薬はウサギかカメか, 中公新書 1375, (1997)
【非特許文献9】D. F. Mercer, Nature Medicine, 7, 8 (2001)
【非特許文献10】Kuan-Der Lee et al, Hepatology, 40, 1275-1284 (2004)
【非特許文献11】小原道法、現代医療 33巻 9号 51-56頁(2001年)「C型肝炎ウイルスの増殖システム」
【非特許文献12】土方 誠、最新医学 59巻 9号 39-45頁(2004年)「C型肝炎ウイルス研究の新しい展開」
【非特許文献13】Friedenstein, A. J., Latzinik, N. W., Grosheva, A. G. & Gorskaya, U. F. Marrow microenvironment transfer by heterotopic transplantation of freshly isolated and cultured cells in porous sponges. Exp. Hematol. 10, 217-227 (1982).
【非特許文献14】Lou, S. et al. The effect of bone marrow stromal cells on neuronal differentiation of mesencephalic neural stem cells in Sprague-Dawley rats. Brain Res. 1, 114-121 (2003).
【非特許文献15】Jiang, Y. et al. Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow. Nature 418, 41-49 (2002).
【非特許文献16】Vassilopoulos, G., Wang, R. P. & Russell, W. D. Transplanted bone marrow regenerates liver by cell fusion. Nature 422, 901- 904 (2003).
【非特許文献17】Wang, X. et al. Cell fusion is the principal source of bone-marrow-derived hepatocytes. Nature 422, 897- 901 (2003).
【非特許文献18】Teratani, T. et al. Direct hepatic fate specification from mouse embryonic stem cells. Hepatology 41, 836-846 (2005).
【非特許文献19】Yamamoto, H. et al. Differentiation of embryonic stem cells into hepatocytes: biological functions and therapeutic application. Hepatology 37, 983 - 993 (2003).
【非特許文献20】Lin, H. J. & Yamazaki, M. Role of P-glycoprotein in pharmacokinetics: clinical implications. Clin. Pharmacokinet. 42, 59- 98 (2003).
【非特許文献21】Perelman A. & Brandan E. Different membrane-bound forms of acetylcholinesterase are present at the cell surface of hepatocytes. Eur. J. Biochem. 182, 203-207 (1989).
【非特許文献22】Chauret, N., Gauthier, A. & Nicoll-Griffith, A. D. Effect of common organic solvents on in vitro cytochrome P450-mediated metabolic activities in human liver microsomes. Drug. Metab. Dispos. 26, 1- 4 (1998).
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【非特許文献26】Bertz R. J. & Granneman G. R. Use of in vitro and in vivo data to estimate the likelihood of metabolic pharmacokinetic interactions. Clin. Pharmacokinet. 32, 210-258 (1997).
【非特許文献27】Sherratt A. J. & Damani L. A. Activities of cytosolic and microsomal drug oxidases of rat hepatocytes in primary culture. Drug Metab. Dispos. 17, 20-25 (1989).
【非特許文献28】Lindenbach B. D. et al. Complete replication of hepatitis C virus in cell culture. Science 309, 623-626 (2005).
【非特許文献29】Wakita T. et al. Production of infectious hepatitis C virus in tissue culture from a cloned viral genome. Nat. Med. 11, 791-796 (2005).
【非特許文献30】Bartenschlager R. & Lohmann V. Replication of hepatitis C virus. J. Gen. Virol. 81, 1631-1648 (2000).
【特許文献1】US 5,197,985
【特許文献2】US 5,226,914
【特許文献3】US 5,486,359
【特許文献4】US 5,591,625
【特許文献5】US 5,643,736
【特許文献6】US 5,733,542
【特許文献7】US 5,736,396
【特許文献8】US 5,811,094
【特許文献9】US 5,827,740
【特許文献10】US 5,837,539
【特許文献11】US 5,855,619
【特許文献12】US 5,908,782
【特許文献13】US 5,908,784
【特許文献14】US 5,942,225
【特許文献15】US 5,965,436
【特許文献16】US 6,010,696
【特許文献17】US 6,022,540
【特許文献18】US 6,030,836
【特許文献19】US 6,087,113
【特許文献20】US 6,149,906
【特許文献21】US 6,174,333
【特許文献22】US 6,225,119
【特許文献23】US 6,239,157
【特許文献24】US 6,255,112
【特許文献25】US 6,261,549
【特許文献26】US 6,281,012
【特許文献27】US 6,322,784
【特許文献28】US 6,328,960
【特許文献29】US 6,342,370
【特許文献30】US 6,355,239
【特許文献31】US 6,358,702
【特許文献32】US 6,368,636
【特許文献33】US 6,379,953
【特許文献34】US 6,387,367
【特許文献35】US 6,387,369
【特許文献36】US 6,482,231
【特許文献37】US 6,541,024
【特許文献38】US 6,685,936
【特許文献39】US 6,709,864
【特許文献40】US 6,761,887
【特許文献41】US 6,797,269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、本発明者らは、簡単な接着単層培養条件を用い、マウス、ラットおよびサルの胚性幹(ES)細胞から、肝細胞特異的分化誘導を直接することができる増殖因子を同定した(特願2004-059705)。本発明者らのHIFC(肝細胞誘導因子カクテル)分化システムは、3工程からなり、効率が高く、1.0×105個の未分化マウスES細胞を出発材料として使用する場合には、約3.0×106個の機能的成熟肝細胞が産生された。ES細胞-由来の肝細胞は、RT-PCRによる肝細胞特異性遺伝子の発現およびいくつかの代謝活性に関して、成熟肝細胞の特徴を明らかにした。更にこれらは、動物における移植可能性を示した。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のシステムの改変により、ヒト肝細胞の表現型にさらに近いヒト肝細胞様細胞を製造することにある。また、該ヒト肝細胞様細胞およびその利用法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、試行錯誤の結果、従来のシステムにおいて、総培養期間を延長し、さらに培地中にデキサメタゾンを添加することで、従来よりも、ヒト肝細胞に近い細胞形態を有するヒト肝細胞様細胞が製造できることを見出した。また、該細胞は、チトクロムP450(CYP)、多剤耐性関連蛋白質(MRP)および多剤耐性(MDR)蛋白質を含む初代正常ヒト培養肝細胞の形態学的特徴および機能的特徴の両方を示すことが判明した。
本発明のヒト肝細胞様細胞を利用することで、動物モデルを必要とせずに候補薬剤などの被検化合物の代謝や肝毒性を評価でき、また、肝疾患治療剤、肝炎ウイルス感染阻害剤、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニングができる。
【0007】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔10〕を提供するものである。
〔1〕以下の(a)〜(c)の工程を含み、総培養期間が約2週間〜約13週間であることを特徴とする、ヒト肝細胞様細胞の製造方法。
(a)多分化能を有するヒト由来の細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
(i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経成長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
(iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
(b)工程(a)で培養された細胞を、オンコスタチンMを含む培地で培養する工程
(c)工程(b)で培養された細胞を、デキサメタゾンを含む培地で培養する工程
〔2〕コラーゲンコーティング培養皿を用いる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕多分化能を有するヒト由来の細胞が、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系幹細胞、臍帯血細胞、または人為的に多分化能を獲得した細胞である、〔1〕に記載の方法。
〔4〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞。
〔5〕〔4〕に記載のヒト肝細胞様細胞を含む、肝疾患の治療剤。
〔6〕以下の(a)および(b)の工程を含む、被検化合物の代謝を評価する方法。
(a)〔4〕に記載のヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)ヒト肝細胞様細胞に接触させた被検化合物の代謝を測定する工程
〔7〕以下の(a)および(b)の工程を含む、被検化合物の肝毒性を評価する方法。
(a)〔4〕に記載のヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の障害の程度を測定する工程
〔8〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、肝疾患治療剤のスクリーニング方法。
(a)〔4〕に記載のヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の機能を測定する工程
(c)被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の機能を昂進させる化合物を選択する工程
〔9〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、肝炎ウイルス感染阻害剤のスクリーニング方法。
(a)〔4〕に記載のヒト肝細胞様細胞に、被検化合物の存在下において肝炎ウイルスを接触させる工程
(b)肝炎ウイルスを接触させたヒト肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの感染の有無を検査する工程
(c)肝炎ウイルスの感染を阻害する化合物を選択する工程
〔10〕以下の(a)〜(d)の工程を含む、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニング方法。
(a)〔4〕に記載のヒト肝細胞様細胞に、肝炎ウイルスを接触させる工程
(b)肝炎ウイルスが感染したヒト肝細胞様細胞に、被検化合物を接触させる工程
(c)被検化合物を接触させた細胞における肝炎ウイルスの増殖を測定する工程
(d)肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物を選択する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は細胞単位で取り扱うことができるので、肝細胞への分化機構を分子レベルで解明するツールとして有効であり、また従来の動物個体を用いた発がん実験や食品添加物、および抗がん剤などの安全評価試験に代わる新しいアッセイモデルとして使用可能であり、さらに、人工臓器への応用が期待される。例えば、毒性評価試験や食品安全性評価試験などは多くの場合、ラットを用いた検査が主流であり、検査を行えるスペースの関係上、一度に評価できる数には限度があり、また、ヒトとラットでは動物種が大きく異なる為、瞬時にラットで得られた結果をヒトに反映させる事は困難である。そこで、ヒトの培養細胞を評価試験に用いる方法に移行しつつあり、本発明の方法を用いる事により、安定的かつコスト的にも比較的安価に肝細胞を得る事が可能である。本発明で得られるヒト肝細胞様細胞は、肝細胞へのウイルスの感染の予防・治療方法の研究に使用できることも期待される。特に、C型肝炎ウイルスはヒト肝細胞にのみ感染するため、従前は、その予防・治療方法の研究のためのツールを得る事において既に困難があったが、本発明により研究をin vitroの系で、即ち細胞レベルで容易に行えることが可能となると期待される。一方、人工透析や人工心肺で実際に使用されている技術を本発明の方法と組み合わせて用いることにより、例えば、抗原性の少ない浸透膜を用いた器内に本発明の方法により得たヒト肝細胞様細胞を充填し、体外循環の要領で血中老廃物を洗浄する事が可能となる。本発明の方法は、ES細胞や骨髄細胞由来間葉系幹細胞を用いた分化誘導研究としては世界的に初めての試みであり、社会的ニーズは勿論、再生医療産業への貢献度や期待度は計り知れず、その他の産業界にも十分に貢献しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、多分化能を有するヒト由来の細胞から、ヒト肝細胞様細胞を製造する方法を提供する。
本発明の方法では、まず多分化能を有するヒト由来の細胞をヒト肝細胞様細胞に分化誘導させる。
【0010】
多分化能を有するヒト由来の細胞からヒト肝細胞様細胞への分化誘導は、多分化能を有するヒト由来の細胞を、以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養することで実施できる(工程(a):実施例における工程2に対応)。
(i)酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4)および肝細胞増殖因子(HGF)
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子(EGF)およびβ-神経生長因子(βNGF)から選択される増殖因子およびaFGF
(iii)アクチビンAおよびHGFから選択される増殖因子およびFGF4
【0011】
本発明においては、(i)に記載の増殖因子を用いることで、より効率的に、多分化能を有するヒト由来の細胞を分化誘導できる。なお、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)は、線維芽細胞増殖因子1(FGF1)と称されることもある。
また、本発明の増殖因子はヒト由来でなくとも、多分化能を有するヒト由来の細胞を分化誘導させることが可能である。
【0012】
本発明の方法は、次いで、工程(a)で培養された細胞を、オンコスタチンMを含む培地で培養する(工程(b):実施例における工程3に対応)。この工程において、分化誘導した細胞を成熟させる。
本発明の方法は、次いで、工程(b)で培養された細胞をデキサメタゾン(DEX)を含む培地で培養する(工程(c):実施例における工程4に対応)。より具体的には、工程(b)後の培養液に、DEXを添加して、さらに培養を継続する。なお、本発明においては、工程(a)、(b)にDEXを添加して培養することも可能である。
【0013】
本発明において、多分化能を有するヒト由来の細胞としては、例えば胚性幹細胞(ES細胞)、成人幹細胞、間葉系幹細胞、臍帯血細胞、または人為的に多分化能を獲得した細胞が挙げられるが、種々の種類の細胞に分化する能力を有している細胞であれば、本発明の多分化能を有するヒト由来の細胞に含まれる。上記の「人為的に多分化能を獲得した細胞」としては、例えば遺伝子操作を含むクローン技術により多分化能を獲得した体細胞を挙げることができる。
【0014】
本発明の方法において、間葉系幹細胞を用いる場合、分化誘導前に、実施例のように前培養(実施例における工程1に対応)してもよいが、この工程を省略することもできる。この前培養工程において、多分化能を維持した状態で、未分化間葉系幹細胞を増殖させることが可能である。
【0015】
また、本発明の方法において、ES細胞を用いる場合、工程(a)の前に、レチノイン酸(RA)、白血病阻害因子(LIF)、およびHGFから選択される少なくとも一つの増殖因子を含む培地で前培養してもよい。この前培養工程を実施することで、ES細胞を、より効率的に分化誘導できる。前培養工程では、RAに加えてLIFおよび/またはHGFを含む培地で培養することで、ES細胞をより効率的に分化誘導できる。
【0016】
本発明における細胞培養法は、マトリクスコーティングが異なる培養皿、またはマトリクスコーティングの有無が異なる培養皿を用いた二次元培養法、マトリジェル等のソフトゲルやコラーゲンスポンジ等を用いた三次元培養法、またはそれらを併用する方法が挙げられるが、好ましくは、マトリクスコーティングが異なる培養皿、またはマトリクスコーティングの有無が異なる培養皿を用いた二次元培養法である。
【0017】
本発明の方法において、間葉系幹細胞を用いる場合、前培養工程では非コーティング培養皿を用い、工程(a)、(b)および(c)では、コラーゲンコーティング培養皿(好ましくはI型コラーゲンコーティング培養皿、以下同様)を用いて、細胞を培養することができる。コラーゲンコーティング培養皿の代わりに、工程(a)ではゼラチンコーティング培養皿、工程(b)および(c)では、ラミニンコーティング培養皿、アテロコラーゲンコーティング培養皿、またはヒアルロン酸コーティング培養皿を用いることもできる。
【0018】
また、本発明の方法において、ES細胞を用いる場合、前培養および工程(a)でゼラチンコーティング培養皿を用い、工程(b)でコラーゲンコーティング培養皿またはラミニンコーティング培養皿を用い、工程(c)でコラーゲンコーティング培養皿、ラミニンコーティング培養皿、アテロコラーゲンコーティング培養皿、またはヒアルロン酸コーティング培養皿を用いて、細胞を培養することができる。
また、本発明の方法において、間葉系幹細胞やES細胞以外の多分化能を有するヒト由来の細胞を用いる場合は、間葉系幹細胞やES細胞の例を参考に、適宜、培養皿を選択しうる。
【0019】
また、本発明の実施例において、工程(a)、(b)、(c)、前培養工程のより詳細な培養条件が開示されているが、本発明の方法の培養条件はこれら特定の条件に限定されるものではなく、一般的に許容される条件を取りうる。例えば、分化誘導開始時の細胞数としては、5.0×103〜5.0×106細胞/培養皿の範囲を例示できる。
【0020】
本発明の方法における培養期間は、特に制限はないが、本発明の方法において、間葉系幹細胞を用いる場合、好ましくは、工程(a)、(b)、(c)の総培養期間が約2週間〜約13週間であり、より好ましくは約3週間〜約12週間であり、さらに好ましくは約3週間〜約10週間、さらにより好ましくは約3週間〜約8週間である。
【0021】
また、本発明の方法において、間葉系幹細胞を用いる場合、工程(a)、(b)、(c)の各培養期間の組合せとして、以下の1)〜5)が例示できるが、これらに限定されるものではない。
1)工程(a):10日間〜12日間、工程(b):2日間〜3日間、工程(c):0日間
2)工程(a):12日間〜16日間、工程(b):4日間〜7日間、工程(c):1日間〜5日間
3)工程(a):14日間〜21日間、工程(b):4日間〜7日間、工程(c):3日間〜30日間
4)工程(a):18日間〜24日間、工程(b):7日間〜10日間、工程(c):25日間〜35日間
5)工程(a):25日間〜28日間、工程(b):11日間〜14日間、工程(c):36日間〜46日間
【0022】
また、前培養工程では4日間〜6日間の培養期間が例示できるが、これに制限されない。
本発明の方法において、間葉系幹細胞以外の多分化能を有するヒト由来の細胞を用いる場合、工程(a)、(b)、(c)の総培養期間、および工程(a)、(b)、(c)、前培養工程の各培養期間は、間葉系幹細胞の培養期間を参考に、適宜設定しうる。
【0023】
また、本発明における増殖因子としては、例えば、RA (all-trans-Retinoic Acid : 和光純薬株式会社)、LIF (ESGROTM (107 units) : フナコシ株式会社)、HGF (Human HGF : 株式会社ベリタス)、aFGF (Human FGF-acidic : 株式会社ベリタス)、FGF4 (Human FGF-4 : 株式会社ベリタス)、OsM (Human Oncostatin M : 株式会社ベリタス)、および、DEX(Dexamethasone : 三光純薬)を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明においては、上記分化誘導方法によって、ヒト肝細胞様細胞、特にヒト成熟肝細胞様細胞を製造できる。
分化細胞がヒト肝細胞様細胞であることは、肝細胞マーカー、または肝細胞の機能を指標に確認できる。
【0025】
肝細胞マーカーとしては、ALB、TTR、CYP3A4、CYP1A1、MRP1、MRP2、MRP3、MDR1、MDR3が挙げられる。また、肝細胞の機能としては、例えば、グルコース産生能、アンモニア代謝能、アルブミン生産能、尿素合成能等が挙げられる。グルコース生産能は、グルコースオキシダーゼ法によって培養上清中のグルコースレベルを分析することで確認できる。アンモニア代謝能は、改変インドフェノール法(Horn DB & Squire CR, Chim. Acta. 14: 185-194. 1966)によって、培養培地中のアンモニアレベルを分析することで確認できる。アルブミン生産能は、血清アルブミン濃度を測定する方法により、培養液中のアルブミン濃度を分析することで確認できる。また、尿素合成能は、例えばColorimetric assay(シグマ社)を使用して確認できる。
【0026】
また、本発明は、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞を提供する。本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞の機能や形態は、従来の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞の機能や形態と比較して、ヒト成熟肝細胞に、より近いという特徴を有する。また、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞は、インビボにおいても機能するという特徴を有する。よって、本発明のヒト肝細胞様細胞は、例えば医療分野(例えば再生医療分野)において有用である。
【0027】
例えば、本発明のヒト肝細胞様細胞を用いることで、肝疾患の治療ができる(実施例7を参照)。例えば、該ヒト肝細胞様細胞を直接的に肝門脈を通して移植する方法やコラーゲン、ポリウレタン、その他公知の生体親和性材料に包埋した形で移植する方法により、肝疾患を治療できる。このように、本発明は上記工程により製造されたヒト肝細胞様細胞の用途もまた提供する。より具体的には、ヒト肝細胞様細胞を含む肝疾患の治療剤を提供する。また、該ヒト肝細胞様細胞を用いた肝疾患の治療方法を提供する。本発明の肝疾患としては、肝硬変、劇症肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、肝炎(例えばウイルス性肝炎またはアルコール性肝炎)が挙げられるが、これらに限定されるものでない。
【0028】
また本発明のヒト成熟肝細胞様細胞は、例えば肝疾患の治療を目的とした研究分野においても有用である。例えば、人工臓器(人工肝臓など)の研究開発において、本発明のヒト成熟肝細胞様細胞を用いることができる。さらに、以下に述べるように、本発明のヒト成熟肝細胞様細胞は、医薬品や食品等の開発の分野においても有用である。具体的には、被検化合物の代謝や肝毒性の評価、肝疾患治療剤、肝炎ウイルス感染阻害剤、またはウイルス性肝炎治療剤のスクリーニングに利用できる。
【0029】
本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞を利用することで、被検化合物の代謝や肝毒性を評価することが可能である。
被検化合物の代謝や肝毒性の評価には、従来、動物モデル等が用いられていたが、一度に評価できる被検化合物の数に制限があり、また動物モデル等で得られた評価を、そのままヒトに適用できないという問題があった。そのため、ヒト肝がん細胞株や初代正常ヒト培養肝細胞を用いる評価方法が採用されつつある。しかしながら、ヒト肝がん細胞株はがん細胞であるため、ヒト肝がん細胞株で得られた評価が、ヒト正常肝細胞に適用できないという可能性が残る。また、初代正常ヒト培養肝細胞は安定供給やコストの面での問題がある。また、初代正常ヒト培養肝細胞を不死化した細胞株は、不死化していない場合と比較して、CYP3A4の活性が低下していることが示されている(International Journal of Molecular Medicine 14: 663-668, 2004, Akiyama I. et al.)。本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞を利用することで、このような問題を解決しうる。
【0030】
本発明は、被検化合物の代謝を評価する方法を提供する。該方法では、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる。次いで、ヒト肝細胞様細胞に接触させた被検化合物の代謝を測定する。
【0031】
本発明で用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、生体異物、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
生体異物としては、例えば薬剤や食品の候補化合物、既存の薬剤や食品が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、生体にとって異物である限り、本発明の生体異物に含まれる。より具体的には、Rifampin、Dexamethasone、Phenobarbital、Ciglirazone、Phenytoin、Efavirenz、Simvastatin、β-Naphthoflavone、Omeprazoie、Clotrimazole、3-Methylcholanthreneなどが例示できる。
【0032】
本発明における「接触」は、通常、培地や培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0033】
被検化合物の代謝は、当業者に周知の方法で測定することが可能である。例えば被検化合物の代謝産物が検出された場合に、被検化合物が代謝されたと判定される。また、被検化合物の接触により、CYP(チトクロムp450)、MDR、MPR等の酵素遺伝子の発現が誘導された場合や、これら酵素の活性が上昇した場合に、被検化合物が代謝されたと判定される。
【0034】
また、本発明は、被検化合物の肝毒性を評価する方法を提供する。該方法では、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる。次いで、被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の障害の程度を測定する。障害の程度は、例えばヒト肝細胞様細胞の生存率やGOTやGPTなどの肝障害マーカーを指標に測定できる。
【0035】
例えば、ヒト肝細胞様細胞の培養液に被検化合物を添加することにより、ヒト肝細胞様細胞の生存率が低下する場合、該被検化合物は肝毒性を有すると判定され、生存率に有意な変化がない場合、該被検化合物は肝毒性を有さないと判定される。また、例えば、ヒト肝細胞様細胞の培養液に被検化合物を添加後、培養液中のGOTやGPTが上昇する場合、該被検化合物は肝毒性を有すると判定され、GOTやGPTに有意な変化がない場合、該被検化合物は肝毒性を有さないと判定される。
なお、すでに肝毒性の有無が判明している化合物を対照として用いることで、より正確に、被検化合物が肝毒性を有するか否かを評価することができる。
【0036】
また、本発明は、肝疾患治療剤のスクリーニング方法を提供する。該方法では、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる。次いで、被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の機能を測定する。次いで、被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の機能を昂進させる化合物を選択する。
本発明における肝細胞様細胞の機能は、例えば、グルコース産生能、アンモニア代謝能、アルブミン生産能、尿素合成能、CYP等の酵素の活性を指標に測定できる。
【0037】
グルコース生産能は、グルコースオキシダーゼ法によって培養上清中のグルコースレベルを分析することで確認できる。アンモニア代謝能は、改変インドフェノール法(Horn DB & Squire CR, Chim. Acta. 14: 185-194. 1966)によって、培養培地中のアンモニアレベルを分析することで確認できる。アルブミン生産能は、血清アルブミン濃度を測定する方法により、培養液中のアルブミン濃度を分析することで確認できる。また、尿素合成能は、例えばColorimetric assay(シグマ社)を使用して確認できる。本発明のCYPは特に制限はないが、例えばCYP1A1、CYP2C8、CYP2C9、CYP3A4などが挙げられる。CYPの活性測定方法は、当業者に周知の方法を使用することができる。
【0038】
本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞の機能や形態は、ヒト成熟肝細胞により近いため、肝炎ウイルスに感染しうる。
本発明は、肝炎ウイルス感染阻害剤のスクリーニング方法を提供する。該方法では、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞に、被検化合物の存在下において肝炎ウイルスを接触させる。次いで、肝炎ウイルスを接触させたヒト肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの感染の有無を検査する。次いで、肝炎ウイルスの感染を阻害する化合物を選択する。細胞への肝炎ウイルスの接触は、定法によって実施することができる。
【0039】
肝炎ウイルスとしては、特に制限はないが、C型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスが含まれる。これら肝炎ウイルスは、株化されたものであってもよいし、肝炎ウイルス感染者から直接単離されたものでもよい。また、精製された状態であってもよいし、クルードな状態(例えば感染者から得られた血清の状態)であってもよい。
【0040】
これまでに、インビトロにおける高効率なC型肝炎ウイルスの感染系は未開発であった。そのため、肝細胞を用いて、C型肝炎ウイルスの感染阻害剤や肝炎治療剤を開発することは現実的ではなく、また、C型肝炎ウイルスのライフサイクルの研究が進展していないという現状があった。これに対し、本発明者らは、本発明のヒト肝細胞様細胞がC型肝炎ウイルスに感染すること、その感染効率が非常に高いことを見出した。この結果は、本発明のヒト肝細胞様細胞を用いることで、C型肝炎ウイルスの感染阻害剤や肝炎治療剤をスクリーニングできること、C型肝炎ウイルスのライフサイクルの解明ができることを示している。
【0041】
肝炎ウイルスの感染の有無は、例えば細胞中の肝炎ウイルス量を指標に検査することができる。細胞中の肝炎ウイルス量は、例えば細胞中の肝炎ウイルスのRNA量を指標に判定できる。肝炎ウイルスのRNA量は、定法に従って測定することができる。また、本発明者らが確立した方法によって測定してもよい(T. Takeuch. et al. Real-Time Detection System for Quantification of Hepatitis C Virus Genome. Gastroenterology 1999, 116:636-642)。
【0042】
さらに、本発明は、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニング方法を提供する。該方法では、本発明の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞に、肝炎ウイルスを接触させる。次いで、肝炎ウイルスが感染したヒト肝細胞様細胞に、被検化合物を接触させる。次いで、被検化合物を接触させた細胞における肝炎ウイルスの増殖を測定する。次いで、肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物を選択する。
【0043】
本発明の肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物には、1)被検化合物を接触させてない場合と比較して、肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物、2)肝炎ウイルスの増殖を完全に阻害する化合物、3)肝炎ウイルスを消失させる化合物の全てが含まれる。肝炎ウイルスの増殖や消失は、細胞中の肝炎ウイルス量を測定することで検査することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。本実施例においては、統計解析を、市販のソフトウェアパッケージ(StatView、SAS institute Inc.)を用いて行った。スチューデントt-検定を、統計学的評価のために行い、p<0.05を有意であるとみなした。2種よりも多い試料を比較する場合は、片側ANOVA検定を行い、データは、平均値±s.e.m.として表した。全てのインビトロにおける結果は、少なくとも3回の独立した実験に基づいている。
【0045】
〔実施例1〕ヒト間葉系幹細胞(hMSC)株の培養および分化の誘導
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)株を、タカラ(日本)から入手し、5%ウシ胎仔血清を含有するDMEMにおいて、加湿大気中5%CO2含有下、37℃で培養した。マウスアルブミンプロモーター/エンハンサーの下流に緑色蛍光蛋白質(GFP)を連結したベクター (pALB-EGFP)の特徴を利用して、蛍光活性により評価した(G. Quinn, T. Ochiya, M. Terada, T. Yoshida, Biochem. Biophys. Res. Commun. 276, 1089 (2000)、C. H. Sellem, M. Frain, T. Erdos, J. M. Sala-Trapat, Dev. Biol. 102, 51 (1984))。導入遺伝子の対比のために、pALB-EGFP線状化されたプラスミドDNAを使用し、hMSCを播種後48時間エレクトロポレーションした(420V、25μF、pALB-EGFPベクター50μg)。G418-抵抗性pALB-EOFP/hMSCを調製し、間葉系幹細胞増殖培地(MSCGM:10%仔牛血清を添加した培養液)の入ったプラスチック皿上で培養した。
【0046】
hMSCから肝細胞を最大に誘導するために、以下の4つの工程で培養・分化を行った(図1A)。
工程1:MSCGMによるhMSCの増殖
pALB-EGFP/hMSCは、hMSC培養培地を伴うプラスチック皿上で5日間培養した。
工程2:pALB-EGFP/hMSCの14日間のHIFC処置
5日後、細胞を継代し、およびHIFC(FGF1、5000ng/ml;FGF4、40ng/ml;HGF、250ng/ml;VERITAS、東京、日本)の存在下で、100-mmI型コラーゲンコーティングプレート(アサヒテクノガラス社)1個あたり106個細胞で、肝細胞培養培地(HCM)、トランスフェリン(5mg/ml)、ヘミコハク酸ヒドロコルチゾン-21(10-6M)、ウシ血清アルブミン(0.5mg/ml)、アスコルビン酸(2mM)、インスリン(5μg/ml)およびゲンタマイシン(50μg/ml)(三光純薬、東京、日本)を含有する改変William E培地により、2週間培養した。
工程3:4日間のOsM処置
その後細胞を、冷PBS(-)により3回洗浄し、0.05%コラゲナーゼ(ギブコ-BRL、東京、日本)およびディスパーゼ1000U/ml(合同酒精、東京、日本)を含有するPBSにおいて37℃で20分間インキュベーションした。剥離した細胞を、無血清DMEMで2回洗浄し、その後OsM(30ng/ml)を含有するHCM培地(William E培地に、トランスフェリン、ヘミコハク酸ヒドロコルチゾン、ウシ血清アルブミン、アスコルビン酸、インスリン、ゲンタマイシンを添加した溶液)中に、100-mmI型コラーゲンコーティングプレートあたり106個細胞で、再懸濁した。
工程4:デキサメタゾン(10-8M)を含有するHCMの供給
播種の4日後、細胞にデキサメタゾン(10-8M)を含有するHCMを供給し、3日間培養した。
【0047】
なお、本発明者らは、工程2:21日間、工程3:7日間、工程4:30日間の培養期間等であっても、以下に示す結果が得られることを見出している。
GFP遺伝子発現を、蛍光顕微鏡によりモニタリングした。マトリクス;ラミニン、ビトロネクチンおよびフィブロネクチンを、各々、10μg/ml、6μg/ml、および1μg/mlで使用した(アサヒテクノガラス)。
【0048】
HIFCで処置した細胞は、非常に高い割合でGFP-陽性細胞(73.2±5.7%)を生じることを発見した。他方で、HIFC-陰性培地で処置した細胞においては、GFP陽性細胞は出現しなかった(図1B)。HIFC処理を行ったhMSCを顕微鏡分析したところ、二核細胞を伴う肝細胞-様形態が明らかになり、また、工程2の培養開始から8週間後には胆小管が頻繁に認められた(図1CおよびD)。これらの結果は、増殖因子で刺激しながら培養を行い、未分化のhMSCからGFP-陽性肝細胞-様細胞を産生する際に、この分化システムが高い効率を示すことを表している。
【0049】
〔実施例2〕RT-PCR解析
GFP-陽性細胞の特徴的性質を明らかにするために、本発明者らは、RT-PCR解析により、様々な肝細胞マーカーおよび肝臓で高発現している転写因子の遺伝子発現を分析した(図2A)。
まず、未分化のES細胞およびGFP-陽性細胞から、ISOGEN溶液(ニッポンジーン、東京、日本)を用いて単離された総RNAを、製造業者のガイドラインに従い、DNaseI(増幅グレード試薬;タカラ、京都、日本)で処理した。
RT-PCR反応は、One-Step RT-PCR kit (QIAGEN、東京、日本)を用いて行った。
【0050】
成熟肝細胞によって合成される最も豊富な蛋白質であるアルブミン(ALB)の発現は、初期胎児肝細胞(E12)に始まり、成人肝細胞において最高レベルに達する(C. J. Pan, J. K. Lei, H. Chen, J. M. Ward, J. Y. Chou, Arch. Biochem. Biophys. 358, 17 (1998))。グルコース-6-ホスファターゼ(G6P)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)およびトリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TO)は、周産期または生後の肝細胞特異的分化の優れた酵素マーカーである(O. Greengard, Science. 163, 891 (1969)、M. Nagao, T. Nakamura, A. Ichihara, Biochem. Biophys. Acta. 867, 179 (1986)、T. Thomas, B. R. Southwell, G. Schreber, A. Jaworowski, Placenta. 11, 413 (1990))。HNF4αは、肝細胞の形態学的および機能的分化、肝グリコーゲン貯蔵の蓄積および肝エピネフリンの生成に必須である(F. Parviz et al., Nat. Genet 34, 292 (2003))。
【0051】
全て単一バンドのcDNA断片として増幅し、そのマーカーの同定は配列決定により確認した(図2A)。この発現パターンは、初代正常ヒト培養肝細胞における発現に類似している。更に、HIFC処理を行ったhMSCは、分析した全ての肝細胞マーカー遺伝子を発現したが、HIFC処理を行っていないhMSCにおいて肝細胞マーカーは検出出来なかった。
【0052】
〔実施例3〕培養細胞の生化学的分析
GFP-陽性細胞は肝細胞特異的機能を発揮するかどうかを更に解明するために、本発明者らは、生化学的分析を行った。
2×105個細胞/60-mm皿で播種した1日後、GFP-陽性肝細胞または対照ES細胞および正常マウス肝細胞を、培養物上清中のグルコースレベルについて、既報のグルコースオキシダーゼ法により分析した(H. Yamamoto et al., Hepatology. 37, 983 (2003)、図2C)。アンモニア分解の細胞活性を試験するために、GFP-陽性細胞または対照ES細胞および正常マウス肝細胞を、2.5mM NH4Clを含有するDMEM 1.0ml中において、2×105個細胞/60-mm皿で培養し、その後更に24時間インキュベーションした。この培養培地を、0、6、12および24時の時点で、NH4Cl濃度について、「Ammonia-Test Wako」(和光純薬化学、東京、日本)により試験した(図2D)。尿素合成能をアッセイするために、細胞を、5mmol/L NH4Clが存在するHBSSで培養した。0、2、4および6時間インキュベーションした後、培地を収集し、製造業者のガイドラインに従いアッセイした(図2E)。
【0053】
これらの結果から、培養したGFP-陽性細胞は、アルブミンおよびグルコース産生能ならびに培養培地からアンモニア分解能、更には尿素合成能も有することがわかった(図2BからE)。GFP-陽性細胞により生成されたアルブミン(工程2の培養開始から21日目)、グルコース(工程2の培養開始から21日目)および尿素のレベルは、初代正常ヒト培養肝細胞の単層培養レベルに類似していた。他方で、HIFC処理を行っていないhMSCは、アルブミン、グルコースまたは尿素を生成せず、上清からアンモニアを分解する能力を示さなかった(図2BからE)。G-バンド形成は、GFP-陽性細胞の染色体数が46でありおよび染色体総計の変化は認められないことを明らかにした(図2F)。従って、本発明者らの新規培養システムによりhMSCから分化された肝細胞は、正常な成熟肝細胞の表現型および生化学的特性ならびに機能活性を示している。
【0054】
〔実施例4〕培養細胞のP450活性測定
ファミリーを形成するCYP1、CYP2、およびCYP3のチトクロムP450(CYP)は、酸化代謝機構の一員として、発がん性物質などの薬剤を酸化する事において、突出した役割を果たしている(W. F. Busby, J. M. Ackermann, C. L. Crespi, Drag Metab. Dispos. 27, 246 (1999))。CYP3A4は、成体肝において発現された主要なCYP蛋白質であり、成体肝において総CYP蛋白質の最大60%を占めることがある(T. Shimada, H. Yamazaki, M. Miura, Y. Inui, F. P. Guengerich, J. Pharmacol. Exp. Ther. 270, 414 (1994))。本発明者らは、hMSC由来肝細胞において、インデューサー(Rif:リファンピシン、および3-MC:3-メチルコラントレン)に反応したCYPの誘導活性化を調べた(N. Chauret, A. Gauthier, D. A. Nicoll-Griffith, Drug Metab. Dispos. 26, 1 (1998))(図3)。
P450活性は、P450-GLOアッセイ(Promega)により測定した。
【0055】
間葉系幹細胞由来の肝細胞、間葉系幹細胞および初代正常ヒト培養肝細胞を、多くのCYPインデューサーにより2日間処理した。3-メチルコラントレンの作用を1mMで試験し、およびリファンピシンおよびデキサメタゾンは50mMで試験した。全てのインデューサーは、DMSOに溶解し、最終ビヒクル濃度0.1%(v/v)を得た。ビヒクル対照の一セットを使用し、基本的P450活性を測定し、第二のセットを使用し、バックグラウンドの発光を測定した。2日間誘導処理した後、P450-GLO発光原CYP450基質を、製造業者のガイドラインに従い、各ウェルに添加した。チトクロムP450反応後、更に1時間室温でインキュベーションした。その後再構成したルシフェリン検出試薬(LDR)を、各ウェルに添加し、20分間インキュベーションした。相対光単位(RLU)を、プレートリーダーにより記録した。
【0056】
hMSC-由来肝細胞におけるCYP3A4の活性は、初代培養したヒト肝細胞と同様に、インデューサーへの曝露時に増大した(図3A)。通常の培養条件下のCYP3A4の活性レベルは、Rif含有培地におけるhMSC-由来肝細胞においておよそ2倍大きかった。更に、CYP3A4発現レベルは、誘導後インデューサーを含まない培養培地において正常レベルへ回復した(データは示さず)。これらの結果は、hMSC由来肝細胞(0.13±0.029pmol)および初代正常ヒト培養肝細胞(0.13±0.014pmol)でのCYP3A4の濃度が同様であることを明らかにしている。
CYP1A1およびCYP2C9の活性レベルは、両方ともインデューサーにより増加した(図3BおよびC)。他方で、CYP活性は数種類の条件の培地を用いたところ、未処理のhMSCにおいては検出されなかった。これらの結果は、接着単層培養方式で使用されたhMSC-由来肝細胞は、時期を得た効率的様式で、ヒトP450酵素の誘導のための新規化合物実体のスクリーニングを促進することができることを示唆している。
【0057】
〔実施例5〕RT-PCR による、hMSC-由来肝細胞のMRP遺伝子発現解析
CYP3A4同様、P-糖蛋白質(P-gp)輸送体は、頂端側の小腸上皮細胞および肝細胞において発現される。P-gpは、腸壁から直接および肝臓から胆嚢を介して間接的に、腸管へと薬物を戻すポンプとして作用し、その結果経口投与された薬物のバイオアベイラビリティを低下する(J. H. Lin, M. Yamazaki, Clin. Pharmacokinet. 42, 59 (2003))。ファミリーを形成するMRP1、MRP2、およびMRP3の多剤耐性関連蛋白質(MRP)は、P-gpのような、有機アニオンの胆汁分泌を媒介する主要な肝薬物輸送体である(L, Vernhet, M. P. Seite, N. Allain, A. Guillouzo, O. Fardel, J. Pharmacol. Exp. Ther. 298, 234 (2001))。
そこで、RT-PCRにより、hMSC-由来肝細胞のMRP遺伝子発現プロファイルを解析した(図4A)。加えてヒトは、2種類の既知のP-gp遺伝子、つまり多剤耐性蛋白質1(MDR1)、およびMRPを伴わないMDR3を有する(C. Chen et al., J. Biol. Chem. 265, 506 (1990)、 C. R. Lincke, J. J. Smit, T. Van der Velde-Koerts, P. Borst. J. Biol. Chem. 266, 5303 (1991))。
【0058】
RT-PCRに使用したPCRプライマーは次の通りである。
Human MRP1
F: 5'-cgtacttgaactggctggtt-3'(配列番号:1)
R: 5'-tccagacttcttcatccgag-3'(配列番号:2)
Human MRP2
F: 5'-tcacttgtgacatcggtagc-3'(配列番号:3)
R: 5'-atcttcccgttgtctaggac-3'(配列番号:4)
Human MRP3
F: 5'-actgtggagctcagtgtgtt-3'(配列番号:5)
R: 5'-ggcatccaccttagtatcac-3'(配列番号:6)
Human MDR1
F: 5'-acataaactcatgagctttgag-3'(配列番号:7)
R: 5''-cacgagctatggcaatgcgt-3'(配列番号:8)
Human MDR3
F: 5'-cgatttggtgcatatctcattgtga-3'(配列番号:9)
R: 5'-cccttatctcccactcttgtttc-3'(配列番号:10)
Human CD81
F: 5'-acactgactgctttgaccac-3'(配列番号:11)
R: 5'-agcaccatgctcaggatcat-3'(配列番号:12)
Human β-actine
F: 5'- agagcaagag aggtatcctg-3'(配列番号:13)
R: 5'- agagcatagc cctcgtagat-3'(配列番号:14)
【0059】
RT-PCR分析により、hMSC-由来肝細胞においてMDR1およびMDR3の遺伝子発現が検出されることがわかった(図4B)。hMSC-由来肝細胞における全てのMRP発現レベルは、初代正常ヒト培養肝細胞の発現レベルと同等であった。従って、hMSCから分化した肝細胞は、初代正常ヒト培養肝細胞と、同様の発現パターンおよびmRNAレベルを示していることが明らかとなった。
【0060】
〔実施例6〕C型肝炎ウイルス(HCV)の感染実験
C型肝炎ウイルス(HCV)の感染、複製過程、細胞外への放出機構は、効率のよいin vitro感染系がないために、全く明らかになっていない。
これまでに、C型肝炎ウイルスを培養細胞に感染させる試みは肝臓由来の培養細胞に感染させようとする試みと、フラビウイルスがリンパ球系の細胞で増殖することからリンパ球由来細胞に感染させる試みが行われていた。リンパ球系の細胞であるMolt4−Ma細胞やHPB−Ma細胞、MT−2細胞に感染してHCVが増殖可能であることが報告されている。このことからヒトに感染しているHCVのなかにはリンパ球向性のウイルス株の存在することも考えられる。
【0061】
一方、肝がん由来の培養細胞にはHCVは感染してもほとんど増殖しない。しかしヒトの胎児や、チンパンジーの肝臓の初代培養細胞では感染が成立してHCVの複製が認められている。また、初代肝細胞をSV40のlarge T 抗原で不死化したPH5CH8細胞でHCVが感染増殖し、また培養上清中にウイルス粒子を放出することも示されている。しかし、この培養上清中に放出されたウイルスは新しいPH5CH8細胞に再感染することができず、reverse geneticalな解析を進めることが出来なかった。本発明者らは肝癌由来の培養細胞株であるHepG2細胞にヒトの初代培養肝細胞を融合させてIMY細胞を樹立してHCVに感染感受性のある細胞株を作成し報告した。このIMY細胞から培養上清中に放出されたウイルスは新しいIMY細胞に再感染することができ、reverse geneticalな解析を進めることが出来るようになった(T. Ito et. al. Acquisition of Susceptibility to Hepatitis C Virus Replication in HepG2 Cells by Fusion with Primary Human Hepatocytes : Establishment of a Quantitative Assay for HCV Infectivity in a Cell Culture System. Hepatology 34:566-572, 2001)。しかし、これらの株化肝細胞を用いてもその感染増殖できるウイルス量はヒト肝初代培養に比較して著しく低く、ヒト肝初代培養細胞に匹敵する細胞系が望まれている。
【0062】
そこで本発明において間葉幹細胞から分化誘導した肝細胞をもちいて、効率のよいHCVの感染培養系の確立を試みた。
コラーゲンあるいはマトリゲルをコートした12穴と6穴の細胞培養プレートに間葉幹細胞から分化誘導した肝細胞を播種した。細胞が充分に着床したらWilliams E培地で1回洗浄した。この細胞に感染性HCVが存在していることが確認されているHCV感染者血清を接種した。接種HCV量は、細胞あたりのHCV遺伝子量として、それぞれ0.5あるいは1.0とする。37度のCO2インキュベータで3時間ウイルスを細胞に吸着後、Williams E培地で3回洗浄し、未吸着のHCVを除去した。これに肝細胞培養液を添加し、37度のCO2インキュベータで培養を行った。ウイルス培養開始後、1から10日間にわたり毎日細胞をサンプリングした。サンプリングの方法は、細胞から培養液を除去し、5M濃度の塩酸グアニジンを添加することにより行った。塩酸グアニジンで溶解した細胞液は、HCV−RNAを抽出するまで−80℃に保存した。塩酸グアニジンで溶解した細胞液から定法に従ってRNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりHCV−RNA量を定量した。HCV−RNA量の定量は、我々が確立し報告した方法により行った(T. Takeuch. et al. Real-Time Detection System for Quantification of Hepatitis C Virus Genome. Gastroenterology 1999, 116:636-642)。
【0063】
C型肝炎感染患者血清を用いた感染実験の結果、C型肝炎ウイルスは間葉系幹細胞由来の肝細胞様細胞に感染増殖し、長期に渡って持続感染することが明らかになった(図5)。
図5に示すように、患者血清を添加後1日目、5日目、8日目に培地の交換を行った後でも細胞内のC型肝炎ウイルス遺伝子の増加が見られたことから、細胞内でウイルスが増殖していることが示唆される。特に1日目の培地交換後では、10,000 copies/μg RNA以上のウイルスの増加が見られている。これはこれまで培養細胞の中では最も高率にC型肝炎ウイルスに感染するといわれている肝癌由来の培養細胞株である HepG2細胞にヒトの初代培養肝細胞を融合させたIMY細胞に感染増殖させた場合に比較して、約10〜100倍の高効率である。
さらに8日目の培地交換後もC型肝炎ウイルス遺伝子の増加が見られたことから、長期に渡って細胞内でウイルスが持続感染していると考えられる。初期の増殖に比べ、2回目の培地交換以降増殖効率が落ちているのは、感染細胞がインターフェロンβを分泌して感染を抑制しているためと考えられる。
以上の結果は、本発明により作製される間葉系幹細胞由来の肝細胞様細胞がC型肝炎ウイルスの感染メカニズム解析および抗C型肝炎薬のスクリーニングにおいて極めて有効な細胞である可能性を示している。
【0064】
最近、骨髄由来の幹細胞は、宿主肝臓内において細胞融合により損傷された肝臓を修復することができるが、肝細胞への直接転換によっては修復できないことが報告された(G. Vassilopoulos, P. R. Wang, D. W. Russell, Nature. 422, 823 (2003)、X. Wang et al., Nature. 422, 897 (2003))。誘導された細胞融合が、損傷を受けた肝細胞のレスキューを達成することは考えられることではあるが、このような戦略は、融合機構は完全に理解されていないため、無理だと思われる。対照的に、本発明のHIFC分化システムは、単層培養条件下での直接分化により、肝細胞様細胞を作成することができた。さらに、本発明のHIFC分化システムは、胎児または成人肝細胞との共培養条件を必要としなかった。本発明者らは、hMSC-由来肝細胞の、インターロイキン3を含有するHCMにおける培養した成人肝細胞との混合、およびコラーゲンでコーティングした培養皿への播種の結果を調べた。細胞融合は、G-バンド形成法では観察されなかった。このデータは、hMSC由来肝細胞は、宿主肝細胞との細胞融合により作成される可能性が低いことを示唆している。
【0065】
薬物-薬物の相互作用を推定するための、新規分子実体のCYPを誘導する能力は、様々な方法で評価することができる(A. D. Rodrigues, Pharm. Res. 14, 1504 (1997) 、A. D. Rodrigues, Med. Chem. Res. 8, 422 (1998))。酵素誘導に関連しているひとつの方法は、動物モデルの使用を必要としている。残念ながら、多くの場合において、実験動物から得られた情報は、数種類のCYPの誘導においては決定的な種差が存在するので、容易にヒトの場合の推定の基礎とすることはできない(J. L. Barwick et al., Mol. Pharmacol. 50, 10 (1996)、H. Shin, G. V. Pickwell, D. K. Guenette, B. Bilir, L. C. Quattrochi, Hum. Exp. Toxicol. 18, 95 (1999))。
【0066】
今日、ヒト胎児肝細胞は、成熟肝細胞研究における標準のモデルシステムを構成している。しかし欠点として、個人から得ることができる細胞量が限られていること、限定された生存期間であることおよび凍結/解凍手法に耐える能力が無いことが挙げられる。加えて、ヒト肝細胞の初代培養物は、酵素誘導の推定に使用することができる(P. Maurel, Adv. Drug Deliv. Rev. 22, 105 (1996)、P. Maurel, Adv. Drug Deliv. Rev. 22, 105 (1996)、E. LeCluyse et al., J. Biochem. Toxicol. 14, 177 (2000))。しかし、このシステムに関連した制限が存在する。初代正常ヒト培養肝細胞から得られた結果は、P450酵素インデューサーに反応して、顕著な試料毎の変動を示すことが多く、これにより数名から得た試料をスクリーニングすることが重要となる(E. LeCluyse et al., J. Biochem. Toxicol. 14, 177 (2000))。肝細胞を使用する他の欠点は、高コストの点と、新鮮なヒトの肝臓を必要とする点であり、これらは散発的にしか入手できない。本発明は、インビトロにおける直接分化条件を用い、CYP、MRPおよびMDR活性を示す機能性肝細胞を、hMSCから誘導することができることを初めて示すものである。本発明者らのシステムは、インビトロにおいて肝細胞に影響を及ぼす発生的手法、新規薬物候補のスクリーニングを基にした分子の研究にとって価値のある道具を提供し、肝臓の損傷のレスキューに適用可能である細胞療法の基礎を形成する。
【0067】
〔実施例7〕分化誘導させた肝細胞様細胞の移植実験例
インビトロで分化培養したhMSC-由来肝細胞様細胞をコラゲナーゼ-ディスパーゼ処理して、少量の新鮮な培地に浮遊させた。細胞浮遊液を5分間放置して細胞凝集物を除去後、遠心によって細胞を上清から回収した。細胞を燐酸緩衝生理食塩液(PBS(−))により洗滌した。細胞注入の24時間前、雄性および雌性の10週齢のヌードマウス(SLC Co、静岡、日本)に、体重20 gあたりCCl4 10 μlを含むオリーブ油100 μlを腹腔内に注射した。該ヌードマウス6匹に、1.0×107個/mlの細胞浮遊液0.2 mlを尾静脈に注射することにより、マウス1頭当たりhMSC-由来肝細胞様細胞2.0×106個の移植を行った。対照としてCCl4-処置マウス(n=4)、未分化hMSC移植マウス(n=4)、ヒト初代培養肝細胞移植マウス(n=6)、およびCCl4-無処置健康マウス(n=6)を用いた。肝組織の組織学的解析は、細胞移植後1日目に連続組織切片を作製し、ヘマトキシリン-エオジンによって染色するか、または免疫組織化学によって染色して、顕微鏡下で観察することにより行った。
肝機能を評価するために、細胞移植後1日目に採血した血液を5,000 rpmで20分間遠心することによって得られた血清試料について常法により生化学的分析を行い、血清中のアルブミン、グルコース、トリグリセリド、乳酸デヒドロゲナーゼ、および尿素窒素の濃度を測定した。
移植したhMSC-由来肝細胞様細胞は、ヒト初代肝細胞移植マウスと同様に、細胞移植後1日目に直ちに肝臓の門脈周囲領域を通して拡散し、それぞれ細胞2〜5個の塊状で肝床に組み入れられた(図6)。組織切片5枚におけるhMSC-由来肝細胞様細胞(FITC-陽性細胞)数を計数したところ、宿主肝臓に遊走したhMSC-由来肝細胞様細胞の数は、約1.4×105個/マウスであると推定された。hMSC-由来肝細胞様細胞(5.0×106個/20 gマウス、n=6)を移植した肝損傷マウスにつき、アルブミン、グルコース、トリグリセリド、乳酸デヒドロゲナーゼ、および尿素窒素の濃度(n=6)を移植後1日目に測定したところ、hMSC-由来肝細胞様細胞による肝損傷の回復は、凍結保存されたヒト初代肝細胞を移植した場合(n=6)と同等であった(表1)。一方、未分化-hMSCs(n=4)およびPBS(−)処置(n=4)マウスでは有意な回復を示さなかった。このように、本発明者らのhMSC-由来肝細胞様細胞は、それらを移植するとインビボで機能して、CCl4処置マウスの肝機能を回復することができる。これらの結果を考慮すると、インビトロでhMSCsから誘導した肝細胞は、移植された動物の肝臓に生着し、周囲の肝細胞と同様の細胞配列を模すように取り込まれ、なおかつ肝細胞としての機能を発揮し、肝障害をレスキューすることが証明された。
【表1】

表1は、肝損傷マウスにおけるhMSC-由来肝細胞様細胞の移植の効果を示す。hMSC-由来肝細胞様細胞がCCl4処置マウスにおける肝機能を改善できるか否かを検討するために、移植後1日目の検査パラメータを分析した。結果は、平均値±標準誤差を表す。括弧内の数値は回復の割合(%)である。試料は全て、PBS(−)の値に対して標準化した。表の「CCl4処置」欄において、「+」は、体重20 gあたりCCl4 10 μlを含むオリーブ油100 μlを腹腔内注射したことを示し、「-」は、体重20 gあたりオリーブ油100 μlの腹腔内注射したことを示す。「*」を付した数値はP<0.01である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】接着単層培養におけるhMSCの肝臓分化を示す図および写真である。A:単層培養におけるhMSCからの肝細胞誘導に関する分化プロトコールの統合した概略的説明(工程1〜4)を示す図である。B:pALB-EGFP/hMSCからの肝細胞分化過程における、形態学的変化およびGFP発現の誘導を示す写真である。C :HIFC処理を行っていないhMSCを示す写真である。D:HIFC処理を行ったhMSCの形態を示す写真である。
【図2】肝臓-特異的マーカーの発現およびhMSC-由来肝細胞のインビトロ機能を示す写真および図である。A:RT-PCR法による、肝細胞-特異的遺伝子発現を示す写真である。RNAは、HIPC未処置のhMSC(レーン1)、HIFCで刺激したhMSC(レーン2)、および鋳型なし(レーン3、陰性対照)から単離し、ならびにヒトの培養した肝細胞のcDNA(レーン4、陽性対照;AFPは、HepG2細胞scDNA)である。 B:アルブミン生成、C:グルコース生成、D:アンモニア分解、および、E:尿素合成を示す図である。B〜Eにおいて、(1):GFP-陽性hMSC、(2):HIFC処理を行っていないhMSC、(3):ヒト培養した肝細胞を示す。データは、平均値±s.e.m.として表し、ANOVAを用い解析した。実験の数は、各実験群につき3回であった。F:HIFC-刺激したhMSCのG-バンド形成した核型を示す写真である。
【図3】hMSC由来肝細胞におけるチトクロムP450活性を示す図である。CYP3A4(A)、YP2C9(B)およびCYP1A1(C)に関するP450活性を、hMSC由来肝細胞、初代正常ヒト培養肝細胞(陽性対照)、HIFC処理を行っていないhMSC(陰性対照)において測定した。CYP3A4およびCYP2C9は、リファンピシン(Rif)により誘導した。CYP1A1は、3-メチルコラントレン(3MC)により誘導した。生データは、平均細胞容量について標準化し、細胞数の差を補正した。結果は、平均値±s.e.m.(n=3)*として表し、P>0.05であった。
【図4】hMSC由来肝細胞のMRPおよびMDR遺伝子の発現パターン、ならびにmRNAレベルを示す写真である。A :RT-PCR法による、MRP遺伝子(MRP1〜3)の発現を示す写真である。HIFC処理を行っていないhMSC (レーン1)、HIFC-刺激したhMSC (レーン2)、初代正常ヒト培養肝細胞(レーン3、陽性対照)、ヒーラ細胞(レーン4)、および鋳型なし(レーン5、陰性対照)における遺伝子発現を示す。B:RT-PCR法による、MDR遺伝子(MDR1,3)およびCD81のの発現を示す写真である。HIFC処理を行っていないhMSC (レーン1)、HIFC-刺激したhMSC (レーン2)、初代正常ヒト培養肝細胞(レーン3、陽性対照)、および鋳型なし(レーン4、陰性対照)における遺伝子発現を示す。
【図5】本発明で得られた肝細胞様細胞によるHCV感染実験の結果を示す図である。縦軸はHCVのコピー数を示し、横軸は日数を示す。
【図6】CCl4-誘導肝損傷マウスへのhMSC-由来肝細胞の移植結果を示す写真である。連続組織切片を抗ヒトアルブミン抗体によって染色した。a.生理食塩液を投与したCCl4-処置マウス(n=4)の肝切片のHE染色。b.hMSC-由来肝細胞の移植後1日目でのCCl4-処置マウス肝切片1のHE-染色(n=6)。c、d.aおよびbの連続切片のヒトアルブミン免疫染色(FITC、緑色)。矢印は、塊状で肝床に組み入れられたhMSC-由来肝細胞を指す。PV、門脈。尺度のバーは、10 μmを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)の工程を含み、総培養期間が約2週間〜約13週間であることを特徴とする、ヒト肝細胞様細胞の製造方法。
(a)多分化能を有するヒト由来の細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
(i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
(iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
(b)工程(a)で培養された細胞を、オンコスタチンMを含む培地で培養する工程
(c)工程(b)で培養された細胞を、デキサメタゾンを含む培地で培養する工程
【請求項2】
コラーゲンコーティング培養皿を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多分化能を有するヒト由来の細胞が、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系幹細胞、臍帯血細胞、または人為的に多分化能を獲得した細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造されたヒト肝細胞様細胞。
【請求項5】
請求項4に記載のヒト肝細胞様細胞を含む、肝疾患の治療剤。
【請求項6】
以下の(a)および(b)の工程を含む、被検化合物の代謝を評価する方法。
(a)請求項4に記載のヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)ヒト肝細胞様細胞に接触させた被検化合物の代謝を測定する工程
【請求項7】
以下の(a)および(b)の工程を含む、被検化合物の肝毒性を評価する方法。
(a)請求項4に記載のヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の障害の程度を測定する工程
【請求項8】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、肝疾患治療剤のスクリーニング方法。
(a)請求項4に記載のヒト肝細胞様細胞に被検化合物を接触させる工程
(b)被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の機能を測定する工程
(c)被検化合物を接触させたヒト肝細胞様細胞の機能を昂進させる化合物を選択する工程
【請求項9】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、肝炎ウイルス感染阻害剤のスクリーニング方法。
(a)請求項4に記載のヒト肝細胞様細胞に、被検化合物の存在下において肝炎ウイルスを接触させる工程
(b)肝炎ウイルスを接触させたヒト肝細胞様細胞における肝炎ウイルスの感染の有無を検査する工程
(c)肝炎ウイルスの感染を阻害する化合物を選択する工程
【請求項10】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、ウイルス性肝炎治療剤のスクリーニング方法。
(a)請求項4に記載のヒト肝細胞様細胞に、肝炎ウイルスを接触させる工程
(b)肝炎ウイルスが感染したヒト肝細胞様細胞に、被検化合物を接触させる工程
(c)被検化合物を接触させた細胞における肝炎ウイルスの増殖を測定する工程
(d)肝炎ウイルスの増殖を阻害する化合物を選択する工程

【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−254896(P2006−254896A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245200(P2005−245200)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年8月25日 日本癌学会発行の「第63回 日本癌学会学術総会記事」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月1日 株式会社メディカルレビュー社発行の「再生医療−日本再生医療学会雑誌 Vol.3/No.4 2004,11」に発表
【出願人】(500201406)株式会社 エフェクター細胞研究所 (12)
【出願人】(503299295)
【Fターム(参考)】