説明

ヒトBRCA2遺伝子の表現型の決定方法

【課題】BRCA2遺伝子の多型を提供する。
【解決手段】BRCA2遺伝子について、決定された5種のDNAおよびタンパク質を提供する。BRCA2遺伝子の正常な対立遺伝子における10種の多形性とその発生頻度を示す。配列BRCA2(omi1-5)および10の多形性部位は、遺伝子試験について正確さと信頼性を提供する。当業者は、遺伝子および/またはタンパク質の配列における変化の誤解釈を回避し、BRCA2の正常な配列および変異の存在を決定できる。本発明はまた、BRCA2(omi1-5)コード配列またはそのフラグメントでもって遺伝子療法を行う方法に関する。本発明はさらに、BRCA2(omi1-5)タンパク質またはその機能的等価物でのタンパク質療法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、米国仮出願60/055,784(1997年8月15日出願)、60/064,926(1997年11月7日出願)および60/065,367(1997年11月12日出願)に基づく。
【0002】
発明の領域
本発明は、遺伝子に変異がみられる乳癌に関連する遺伝子に関する。より具体的には、本発明は、ヒトから同定されたBRCA2の5種の非反復コード配列、BRCA2(omi1)、BRCA2(omi2)、BRCA2(omi3)、BRCA2(omi4)およびBRCA(omi5)に関し、これらは5種の新しい半数型(haplotype)である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
乳癌の5−10%が遺伝性のものであると考えられている。Rowell,S., et al., American Journal of Human Genetics 55:861-865(1994)。乳房および卵巣の癌に関連する最初の遺伝子は、染色体17からミキらにより1994年に単離された(Miki et al., Science 266:66-71(1994))。第2の乳癌の高い危険性を与える遺伝子は、1994年に染色体13上に位置付けされ(Wooster, R., et al., Science 265: 2088-2090)、ついで1995年に単離された(Wooster, R., et al., Nature 378: 789-792)。この“腫瘍抑圧”遺伝子の変異は、遺伝性乳癌の約35%、および男性乳癌含有家系の80−90%の原因となっていると考えられている。
【0004】
染色体13のBRCA2領域における1以上の変異を突き止めることは、高い危険性のある女性および男性を早期に検出することによって、乳癌の高い発生率および死亡率を低下し得る有望な手段を提供する。このよう者は、一度認定されると、さらに高度な予防方法の対象とすることができる。スクリーニングは、核型認定、プローブ結合、DNA配列決定を含む種々の方法によって実施される。
【0005】
DNA配列決定技術において、ゲノムDNAは全血から抽出され、そしてBRCA2遺伝子のコード配列が増幅される。各コード配列は完全に配列決定されて、その結果が遺伝子の正常DNA配列と比較される。別法として、サンプル遺伝子のコード配列は、遺伝子を完全に配列決定して、それを遺伝子の正常配列と比較する前に、既知の変異などの選別方法のパネルと比較することができる。
【0006】
BRCA2遺伝子は27の別個のエキソンに分類される。エキソン1は非暗号であって、最終機能的BRCA2タンパク質産物の部分ではない。BRCA2コード配列は70kb以上の大略10433塩基対(bp)に及ぶ。各エキソンは100−600bpからなるが、エキソン10、11および27が例外である。完全長のmRNAは11−12kbである。BRCA2遺伝子のコード配列を決定するために、各エキソンは別個に増幅されて、得たPCR産物が正および逆方向に配列される。エキソン10、11および27がこのように大きいので、我々は、これらを各々約250−625bpの3個、21個および2個の重複するPCRフラグメントに分断した(エキソン10のセグメントAからC、エキソン11のセグメントAからU、およびエキソン27のセグメントAからB)。
【0007】
多くの変異および正常多型がBRCA2遺伝子について既に報告されている。乳癌感受性遺伝子における変化の検出および特性化を容易にするために、世界的な情報網がつくられている。このようなBRCA2の変異は、http://www.nchgr.nih.gov/dir/lab transfer/bic.の乳癌情報機関を通じて情報を得ることができる。この情報機関は1995年11月1日に一般に利用可能となった。Friend, S. et al., Nature Genetics 11:238,(1995)。BRCA2の情報は1996年2月に加えられた。
【0008】
乳癌症候の遺伝は、低い浸透度の常染色体優性である。この意味を簡単に言うと、この症候は家系を通じて生じ、(1)男女共に保持し(ほとんどの女性は発病し、男性は発病しないか、時に乳癌となる)、(2)すべての世代が乳癌になりやすく、(3)時には、この遺伝子のある女性が発病する時間を得ないままに若くして死亡するか(子孫は遺伝子を持って)、あるいは乳房または卵巣の癌になることなしに老齢で死亡する(後者の人々を、癌が発病することがないので、“低い浸透度”を有すると言う)。いかなる研究よりも前に血統的解析および遺伝学的検討が、適当な家系対策に絶対的に必須である。
【0009】
現在のところ、BRCA2のゲノム配列情報の唯一の供給源は、ジーンバンク(アクセス番号U43746)か、乳房情報コア共同体(BIC)の会員であることを要するインターネットのBICデーターベースを通じてである。しかし、本特許出願の開示に基づくと、ジーンバンクもBICも配列の同定が完全には正しくない。これらの誤りを是正する必要があり、さもないと患者からの配列データを異常と誤って解釈することにつながり、またその逆も起こり得る。
【0010】
さらに、この分野で必要があるのは、正常な母集団の大部分で最も普通に見られるBRCA2配列を提示する機能性対立遺伝子のプロファイルを利用可能にすることである。この機能性対立遺伝子プロファイルは頻繁に起こる多形性(polymorphism)および正しい骨格配列に基づいている。いくつかの普通の半数型についての知識が真の変異を多形性と容易に同定または識別するのを可能にする。BRCA2遺伝子およびタンパク質の変異を同定することは、現在可能であること以上に広範な遺伝性乳房癌の診断選別ができるようになる。
【0011】
これらの普通の正常半数型の使用は、前に公表されているBRCA2配列に加えて、病的な“変異”(すなわち、個体に疾患を起こす、または個体に疾患が生じる高い危険性をもたらす)を有する正常集団にみられる“配列変化”の読み誤りやすさを減少せしめる。乳癌の素質試験において、読み誤りは特に問題である。すでに乳癌になっている者は、“私の病気は遺伝性の変異によるものですか”との医学的質問をする。乳癌の患者の家族は、“私は家族が有する変異の素質があるのですか、私の危険性が増加しているなら、私ももっと高度の検査プログラムを受けねばならないのでしょうか”と尋ねる。
【非特許文献1】Rowell,S., et al., American Journal of Human Genetics 55:861-865(1994)
【非特許文献2】Miki et al., Science 266:66-71(1994)
【非特許文献3】Wooster, R., et al., Science 265: 2088-2090
【非特許文献4】Wooster, R., et al., Nature 378: 789-792
【非特許文献5】Friend, S. et al., Nature Genetics 11:238,(1995)
【発明の概要】
【0012】
本発明の要約
本発明は、BRCA2遺伝子の正常人に見いだされる正しいゲノムBRCA2、および5種の新規配列半数型の発見に基づいている。
本発明の目的は、BRCA2遺伝子の正しいイントロン/エキソン配列を提供することである。
本発明の別の目的は、癌感受性の増加に対応しない正常な個体のBRCA2遺伝子の5種の非反復半数型を提供することである。
本発明の別の目的は、BRCA2遺伝子またはその部分の配列決定を行い、
それを5種の半数型配列と比較して、配列変化が多形性または潜在的に危険な変異を提示するかどうかを決定することである。
【0013】
本発明の他の目的は、BRCA2遺伝子上の10多形性ポイントの各々で生じる対のリストを提供することである。
本発明の他の目的は、BRCA2遺伝子のコドン289、372,455,743,894,991、1132、1269、2414および2951での多形性の発生比率を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、BRCA2またはその部分のエキソンが1以上のオリゴヌクレオチドプライマーで増幅される方法を提供することである。
本発明の他の目的は、BRCA2コード配列の変異がなく、従って、乳房または卵巣の癌に対する遺伝子感受性が増加していない者を同定する方法を提供することである。異常なBRCA2遺伝子の保持がないとの知見に基づき同定される。
【0015】
本発明の他の目的は、乳房または卵巣の癌に対する遺伝子感受性または素質を増大せしめるBRCA2の変異を同定する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、5種のBRCA2半数型配列から誘導された5種の新規BRCA2タンパク質配列を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、5種の新規BRCA2タンパク質配列、それらのBRCA2ポリペプチドまたはそれらの機能的等価物の全体またはフラグメントをコードするDNA配列を有する発現ベクターを含有する原核または真核の宿主を包含することである。
本発明の他の目的は、5種の新規BRCA2タンパク質配列、それらのBRCA2ポリペプチドまたはそれらの機能的等価物の全体またはフラグメントを免疫原として用いるアンチBRCA2タンパク質抗体を包含することである。
【0017】
癌感受性の増加の危険性のない正常人からの、BRCA2遺伝子のcDNA配列およびBRCA2のタンパク質配列について技術上の必要性がある。BRCA2変異を含有するかもしれない患者のサンプルが実際に変異を有しているかどうかを調べるために、患者のBRCA2DNAおよび/またはアミノ酸配列をすべて既知の正常BRCA2配列と比較する必要がある。得たサンプルをすべての天然型の正常配列と比較できないと、臨床的に意味のない多形性のときでもサンプルが潜在的に危険な変異を含有するものとして報告することになってしまう。
【0018】
遺伝子感受性試験における当業者は、本発明が下記の事項に有用であることが分かるであろう。
a)コード配列変異のない正常なBRCA2遺伝子を有する個体、従ってBRCA2遺伝子からの乳房または卵巣の癌の増大した遺伝子感受性を有するとは言えない個体を同定すること。
b)BRCA2遺伝子にみられる正常な多形性の読み誤りを回避すること。
c)BRCA2遺伝子に今まで知られていない変異の存在を認定すること。
d)乳癌より卵巣癌(すなわち、推測“卵巣癌クラスター”領域に存在)に対して素質または高い感受性を示すBRCA2のエキソン11での変異を同定すること。
e)BRCA2遺伝子のヒトサンプルを対立遺伝子でプローブし、多形性対立遺伝子または変異の存在または不存在を決定すること。
f)正しいBRCA2遺伝子で遺伝子療法を行うこと。
g)正しいBRCA2タンパク質配列またはその機能的等価物でタンパク質置換療法を行うこと。
【0019】
図面の簡単な説明
図1は、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【0020】
図2は、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【0021】
図3は、BRCA2などの遺伝子内の一単位すなわち“半数型”として提示され得る染色体の多形性部位における代わりの対立遺伝子を示す。ジーンバンク(GB)の半数型を淡いシャドーで示す。5種の追加の半数型を図3に示す(ヌクレオチド部位1093、1342、1593、2457、2908、3199、3624、4035、7470、9079の代わりの対立遺伝子を含む)。BRCA2(omi1)、BRCA2(omi2)、BRCA2(omi3)、BRCA2(omi4)およびBRCA2(omi5)は濃淡混合のシャドーで示す(左から右へ2、4、6、8、10)。全体として、BRCA2遺伝子の10半数型中5は非反復である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】図1Aは、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【図1B】図1Bは、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【図1C】図1Cは、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【図1D】図1Dは、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【図1E】図1Eは、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【図1F】図1Fは、BRCA2のジーンバンクゲノム配列(アクセス番号U43746)を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5および16の誤りのエキソンを太文字で示す。
【図2A】図2Aは、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【図2B】図2Bは、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【図2C】図2Cは、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【図2D】図2Dは、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【図2E】図2Eは、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【図2F】図2Fは、BRCA2の正しいゲノム配列を示す。小文字はイントロン配列を、大文字はエキソン配列を意味する。エキソン5、11および15の訂正したイントロンおよびエキソンを太文字で示す。
【図3】図3は、BRCA2などの遺伝子内の一単位すなわち“半数型”として提示され得る染色体の多形性部位における代わりの対立遺伝子を示す。ジーンバンク(GB)の半数型を淡いシャドーで示す。5種の追加の半数型を図3に示す(ヌクレオチド部位1093、1342、1593、2457、2908、3199、3624、4035、7470、9079の代わりの対立遺伝子を含む)。BRCA2(omi1)、BRCA2(omi2)、BRCA2(omi3)、BRCA2(omi4)およびBRCA2(omi5)は濃淡混合のシャドーで示す(左から右へ2、4、6、8、10)。全体として、BRCA2遺伝子の10半数型中5は非反復である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
定義
下記の定義は本発明を理解する目的で提供される。
“乳房および卵巣の癌”は、当業者の理解によると、女性における乳房および卵巣および膵臓の癌、および男性における乳房、前立腺および膵臓の癌を含む。BRCA2は、遺伝性の乳房、卵巣および膵臓の癌に対する遺伝子感受性に関連している。従って、本明細書の請求項で乳房および/または卵巣の癌と記載されたものは、男性および女性における乳房、卵巣、前立腺および膵臓の癌を意味する。
【0024】
“コード配列”は、一緒になってペプチド(タンパク質)をコードする、または核酸自体が機能する遺伝子の部分を意味する。
“タンパク質”または“ペプチド”は、機能する配列アミノ酸を意味する。
【0025】
“BRCA2(omi)”は、ジーンバンク(アクセス番号U43746)に開示されたBRCA2配列を意味し、うち、
(1)10bp伸張(5’−TTTATTTTAG−3’)はエキソン5の5末端よりもむしろイントロン4の3’末端でイントロン性であり、
(2)16bp伸張(5’−GTGTTCTCATAAACAG−3’)はエキソンの5’末端よりもむしろエキソン15の3’末端でエキソン性である。
【0026】
“BRCA2(omi1-5)”は、BRCA2遺伝子およびそのイントロン(特にエキソンに隣接の切片部位)の5種の非反復DNA配列を意味する。これらの配列は、母集団から無作為に抽出された5人のBRCA2遺伝子を端から端へ配列決定することでみつけられた。この5人は乳房または卵巣の癌について家族歴のない者である。配列決定されたエキソンは、いかなる末端切除変異も含有していないことが分かった。すべての場合、多形性部位での核酸の変化は、ジーンバンクで前に公表されている標準物からのコドン変化およびアミノ酸変化を招く(参照、表III)。ある場合には、核酸の変化が起きる頻度は、公表の頻度と異なることがわったか、または初めて決定した。これらの配列変動は、半数型が癌の危険性増大を示さない対立遺伝子であると思われる。
【0027】
“正常DNA配列”または“正常遺伝子配列”は、正常機能のタンパク質をコードする遺伝子またはそれ自体が正常な機能を有する遺伝子を保持する者の集団において、核酸が高頻度でそれぞれの位置で生じることの知られている核酸の配列を意味する。
【0028】
“正常タンパク質配列”は、正常機能のタンパク質をコードする遺伝子を保持する者の集団において、タンパク質配列のアミノ酸が高頻度で生じることの知られているタンパク質の配列を意味する。
【0029】
“正常配列”とは、正常機能のタンパク質をコードする遺伝子またはそれ自体が正常な機能を有する遺伝子を保持する者の集団において、核酸またはアミノ酸が、高頻度でそれぞれの位置で生じることの知られている核酸またはタンパク質の配列を意味する。
【0030】
“半数型”は、染色体上の遺伝子内の特異的対立遺伝子の1系統を意味する。
“機能的対立遺伝子”は、完全な機能を有する正常人の母集団における対立遺伝子のリストを意味する。
【0031】
“変異”は、DNA配列における塩基の変化、または塩基対の獲得または喪失を意味し、非機能性のタンパク質または実質的に低下あるいは変化した機能のタンパク質をコードするDNA配列をもたらすものである。
“多形性”は、既知の病理と関連しないDNA配列における塩基変化を意味する。
【0032】
“プライマー”は、BRCA2遺伝子に相補的な配列を有する約15以上のヌクレオチドを含有する配列を意味する。当業者はプライマーハイブリダイゼーションに使用できる他のプライマーを知っているか、容易に確認できる。
【0033】
“実質的に相補的”は、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーが相補的であるBRCA2配列とハイブリダイズするように、ストリンジェントな条件で提供される配列および/またはBRCA2配列との充分な相同性を有する配列とハイブリダイズするプライマー配列を意味する。
【0034】
“単離された核酸”は、他の核酸、タンパク質、炭水化物および結合し得る他の物質を実質的に含まない核酸を意味する。かかる結合は、細胞性材料および合成培地のいずれでも典型的である。
【0035】
“生物サンプル”または“生物体サンプル”は、生物源から得たDNA含有のサンプルを意味する。サンプルは種々の組織または細胞の生きている、死んだ、さらには考古学的な源に由来する。サンプルには、体液(例えば、血液(白血球)、尿(上皮細胞)、唾液、乳、月経、子宮・膣分泌物)、皮膚,毛根/毛嚢、粘膜(例えば、口腔または舌細胞の擦過)膣頚部細胞(PAPスメアなどから由来)、リンパ組織、内部組織(正常または腫瘍)が含まれる。
【0036】
“ベクター”は、自己複製可能なポリヌクレオチドまたは自己複製ポリヌクレオチドへの組込みを起こすポリヌクレオチドを意味する。例えば、複製起点または組込み部位を含有するポリヌクレオチドがある。ベクターは宿主細胞の染色体に組込まれるか、自動的複製部位を形成し得る。
【0037】
“腫瘍成長阻害剤”は、BRCA2タンパク質、BRCA2ポリペプチドまたはこれらの機能的等価物の全体またはフラグメントなどの分子を意味する。この分子は、乳房または卵巣の癌の形質転換または悪性の表現型の形成を予防、減少または消失するのに効果的である。
【0038】
“BRCA2ポリペプチド”は、BRCA2タンパク質から直接的に誘導されるか、またはBRCA2タンパク質に相同性であるBRCA2ポリペプチド、またはBRCA2タンパク質およびポリペプチドの全体またはフラグメントからなる融合タンパク質を意味する。
【0039】
“機能的等価物”は、非天然のBRCA2ポリペプチド、元のBRCA2タンパク質として実質的な生物活性を保持する薬剤または天然産物を意味する。BRCA2タンパク質の活性および機能に、活性導入、グラニン(granin)、DNA修復などが含まれる。
【0040】
“標的ポリヌクレオチド”は、所望の核酸配列、例えばBRCA2コードポリヌクレオチドを意味する。当業者は、プライマーハイブリダイゼーションに使用できる他のプライマーを知るか、容易に確認し得る。
【0041】
本発明はいくつかの実施態様においてつぎのものを含む。配列番号4、6、8、10および12のBRCA2コード配列の単離されたDNA配列、配列番号5,7、9、11、13のBRCA2タンパク質の配列、乳房および卵巣の癌の危険性を増大させない正常BRCA2遺伝子を有する者を同定する方法、BRCA2コード配列での変異の存在に由来する遺伝子感受性の増大を検出する方法、腫瘍を防止または治療する遺伝子療法を行う方法、腫瘍を防止または治療するタンパク質置換療法を行う方法、開示されたBRCA2cDNAおよびタンパク質配列の全体またはフラグメントを含有する診断薬。
【0042】
配列決定
すべての核酸標本は、精製形態であろうと非精製形態であろうと、多形性または変異対立遺伝子を含む特殊な核酸配列を含有するか、または含有するかも知れない限り、出発の核酸として用いることができる。mRNAおよびcDNAを含むDNAまたはRNAは増幅し得る。DNAまたはRNAは一重鎖あるいは二重鎖であり得る。RNAが鋳型として用いられる場合は、鋳型をDNAへ逆転写するための酵素および/または適当な条件が用いられるであろう。更に、各一重鎖を含むDNA−RNAハイブリドが用いられる。核酸の混合物も用いられ、あるいは同一または異なるプライマーを用いてあらかじめ増幅反応で産生された核酸が用いられる。増幅された特殊な核酸配列、すなわち多形性および/または変異対立遺伝子は、より大きい分子の断片であり得たり、または個々の分子として最初は存在し得て、特殊な配列が完全な核酸を構成する。多様な増幅法が用いられる。例えば、DNAサンプルまたはそのフラグメントの複製可能ベクターへの連結、あるいは複製システムへの組込みによってBRCA2遺伝子の少なくとも部分を含有すると思われるDNA複写数を増加する。増幅法にいわゆる“ショットガン・クローニング”も含まれる。増幅される配列が最初から純粋な形で存在することは必要でない。全ヒトDNA中に含まれるような複合混合物の小さい断片であり得る。
【0043】
注意すべきことは、変異が存在するかどうかを調べるために全コード領域または全DNAフラグメントすらも配列決定する必要がないことである。例えば、ある変異が一家族員でわかっていると、他の家族員を試験したとき、配列決定によって、またはASOなどの他の変異検出システムによって、変異部位のみでの配列を調べることで十分である。
【0044】
ここで用いられるDNAは、血液、組織材料などの生物体サンプルから(Maniatis,et.al.in Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY,p.280-281,1982)に記載のような様々な方法により抽出され得る。抽出されたサンプルが純粋でなければ、増幅の前に効果的な試薬量で処置して、細胞を開き、核酸の鎖を爆露および/または単離することができる。この鎖を爆露または単離する溶菌および核酸変性工程は、増幅がより迅速に起きるのを可能にする。
【0045】
クローニングによる増幅のために、単離DNAをフラグメントに、制限エンドヌクレオターゼにより、またはDNA含有混合物をシリンジからの25ゲージ針を通すせん断により分解して、1〜1.5kbのフラグメントを調製する。次いでフラグメントを切断ベクター(ウイルス、プラスミド、トランスポソン、コスミドなど)に連結し、形成した形質転換ベクターをそのベクターに典型的な方法で複製する。
【0046】
PCR増幅のために、デオキシリボヌクレオチドトリホスフェートdATP、dCTP、dGTPおよびdTTPを、個々にまたはプライマーと共に、適当な量で、合成混合物に加え、得た溶液を約1−10分間、好ましくは1−4分間、約90−100℃で加熱する。この加熱期間後、溶液を冷却する。これはプライマーハイブリデイションに好ましい。冷却した混合物にプライマー伸長反応を生じるのに適した薬剤(ここでは、“ポリメリゼイション剤”と呼ぶ)を加え、反応を当業者に知られた条件で生起せしめる。ポリメリゼイション剤も熱安定性であると、他の反応剤と共に加えることができる。この合成(増幅)反応は、室温またはポリメリゼイション剤がもはや機能しない上記温度で生じ得る。例えば、DNAポリメラーゼが反応剤として用いられたときは、温度は一般的に40℃より大きくはない。最も好都合には、反応は室温で生じる。Taqなどの熱安定性DNAポリメラーゼを用いたときは、高熱を使用できる。
【0047】
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、対象者が乳房または卵巣の癌になる危険性を有するかを調べるとき、および腫瘍の特性を調べるときに有用である。プライマーは配列決定前に標的ポリヌクレオチドの増幅を指示する。表IIに示すエキソン2−27についてのこれら非反復BRCA2オリゴヌクレオチドを設計し、特異的につくって、配列決定すべきBRCA2の部分の増幅を最適にした。
【0048】
本発明の実施に用いられるプライマーは、ポリメリゼイションを開始するのに充分な長さと適当な配列のオリゴヌクレオチドを含む。合成を促進する環境条件は、ヌクレオチドトリホスフェート、DNAポリメラーゼなどのポリメリゼイション剤および適当な温度とpHである。プライマーは、増幅に最も効率的には単鎖であるが、二重鎖でもよい。二重鎖のときは、伸長生産物を製造するのに用いる前に、プライマーはその鎖を分離するためにまず処置される。プライマーは、ポリメリゼイションの促進剤の存在下に伸長生産物の合成を始めるのに充分長くなければならない。プライマーの厳密な長さは、温度、緩衝剤およびヌクレオチドの組成を含む多くの要因に依存する。オリゴヌクレオチドは、典型的には18−28を含み、および便宜的にいくつかの場合にはM13テイルをさらに含む。
【0049】
本発明の実施に用いられるプライマーは、増幅されるべきゲノム座の各鎖に実質的に相補的であるように設計される。このことは、ポリメリゼイション剤が働く条件下で、各々の鎖にハイブリダイズするのに充分に相補的でなければならなことを意味する。換言すると、プライマーは変異を挟む5'および3'配列に充分に相補的であるべきで、それとハイブリダイズし、ゲノム座の増幅をもたらす。
【0050】
本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、関与する反応段階数に比較して急増した量の多形性座を生産する酵素鎖反応である増幅過程において用いられる。典型的には、一つのプライマーが多形性座の負(−)鎖に相補的であり、他の一つが正(+)鎖に相補的である。DNAポリメラーゼの大きいフラグメント(Klenow)などの酵素で伸長による変性核酸およびヌクレオチドプライマーをアニーリングすることは、標的多形性座配列を含む新規合成の+および−鎖をもたらす。これらの新規合成配列は鋳型でもあるので、変性のくりかえしサイクル、プライマーアニーリングおよび伸長は、プライマーで定義される領域(すなわち標的多形性座配列)の急増的な産生をもたらす。鎖反応の産物は、用いられる特殊なプライマーの末端に対応する終末を有する目立たない核酸2量体である。
【0051】
本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、通常のホスホトリエステルおよびホスホジエステル方法またはその自動実施などの適当な方法を用いて調製される。一つのかかる自動実施において、ジエチルホスホルアミジットが出発物質として用いられ、Beaucage,et al.,Tetrahedron Letters,22:1859-1862,1981に記載のように合成される。修正された固体支持体でのオリゴヌクレオチドの合成の一つの方法が米国特許第4,458,066に記載されている。
【0052】
ポリメリゼイション剤は、酵素を含み、プライマー伸長産物の合成を遂行する機能を有するいかなる化合物およびシステムでもあり得る。この目的のための適当な酵素としては、例えばE.coli DNAポリメラーゼI、E.coliDNAポリメラーゼのKlenowフラグメント、ポリメラーゼミュテイン、逆トランスクリプターゼおよびTaqポリメラーゼなどの熱安定性の酵素(すなわち、変性を起こすのに充分高い温度にかけた後にプライマー伸長をおこす酵素)を含む他の酵素がある。適当な酵素は、各多形性座核酸鎖に相補的であるプライマー伸長産物を形成するのに適した状態で、ヌクレオチドの結合を容易にする。一般に、合成は各プライマーの3'末に始まり、合成が終了するまで鋳型鎖に沿って5'末の方向に進み、相違する長さの分子を産生する。
【0053】
新規合成の鎖およびその相補的核酸鎖は、上記したハイブリダイズ条件で二重鎖分子を形成し、このハイブリドは続く工程に用いられる。次の工程において、新規合成二重鎖分子は、一重鎖分子を提供するために、上記手法のいずれかを用いて、変性条件の対象とされる。
【0054】
変性、アニーリングおよび伸長産物合成の工程は、標的多形性座核酸配列を検出に必要な程度にまで増幅するために、何度もくりかえされる。製造された特殊な核酸配列の量は急増して蓄積される。増幅については、PCR.A.Practical Approach,ILR Press,Eds.M.J.McPherson,P.Qurke,and G.R.Taylor,1992.に記載されている。
【0055】
増幅産物は、サザンブロット法により放射活性プローブを用いずに、検出される。この方法において、例えば、多形性座の核酸配列の非常に低レベルを含有するDNAの小サンプルは、増幅され、サザンブロット法あるいは類似的にドットブロット法を用いて、解析される。非放射活性プローブまたはラベルの使用は、増幅シグナルの高レベルによって容易となる。別法として、増幅産物を検出するのに用いられるプローブは、例えば、放射性同位元素、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素によって、直接的または間接的に検出可能なようにラベルされる。当業者は、プローブを結合する他の適当なラベルを知り、または通常実験で適当なラベルを確定することができるであろう。
【0056】
本発明方法により増幅された配列は、PCRなどの特殊なDNA配列の検出に通常用いられる方法で、オリゴーマ制限(Saiki,et.al.,Bio/Technology,3:1008-10102,1985)、対立遺伝子特異オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ解析法(Conner,et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:278,1983)、オリゴヌクレオチド連結反応検定(Landgren,et.al.,Science,241:1007,1988)などによって、溶液において、または固体支持体に結合された後に、さらに検討され、検定され、クローン化され、配列決定される。DNA解析の分子的手法は総説されている(Landgren,et.al.,Science,242:229-237,1988)。
【0057】
好ましくは、増幅方法は、本明細書記載のように、かつ当業者に普通使用されているように、PCRによるものである。増幅の他の方法は、記述されており、本発明のプライマーPCRにより増幅されたBRCA2座が同様に他の手段で増幅される限り、使用することができる。かかる他の増幅系には、制限するわけでないが、望むRNAの短い配列およびT7プロモーターで始まる自己保持配列複製がある。逆トランスクリプターゼは、RNAをcDNAに複写し、RNAを変性し、次いでDNAの第2鎖をポリメリゼーションする。
【0058】
他の核酸増幅技術は、逆転写およびT7 RNAポリメラーゼを用い、2プライマーをそのサイクル標的とするように合体する核酸配列を基とする増幅(NASBA)である。NASBAは、DNAまたはRNAのいずれかで始まり、いずれかで終わり、60−90分以内に108コピーに増幅する。他の方法として、核酸は連結反応活性転写(LAT)により増幅することができる。LATは、単鎖鋳型から、部分的に単鎖であり部分的に二重鎖である単一のプライマーに働く。増幅は、cDNAをプロモーターオリゴヌクレオチドに連結することにより始まり、数時間で108−109となる。本発明方法で有用な他の増幅はQβレプリカーゼ系である。Qβレプリカーゼ系は、MDV−1と呼ばれるRNA配列を望むDNA配列に相補的なRNAに結合することにより、用いることができる。サンプルと混合するに際して、ハイブリドRNAは、標本のmRNA中にその補体を見出し、望む指標アロング配列を複写するレプリカーゼを活性化して、結合する。他の核酸増幅技法であるリガーゼ鎖反応(LCR)は、新しい標的を形成し、サンプル中の隣接配列の存在下にリガーゼにより共有結合された望む配列の2つの別個にラベルされた半分を用いる。修復鎖反応(RCR)核酸増幅技術は、標的配列を幾何的に増幅するために、2つの相補的かつ標的特異的オリゴヌクレオチドプローブ対、熱安定性ポリメラーゼおよびリガーゼ、およびDNAヌクレオチドを用いる。A2−塩基間隙は、オリゴヌクレオチドプローブ対を単離し、RCRは、DNA修復を模倣して間隙を満たし結合せしめる。鎖置換活性化(SDA)による核酸増幅は、標的DNAに結合する5'末上に短い張り出しを有するHinkIIの認識部位を含む短いプライマーを利用する。DNAポリメラーゼは、硫黄含有アデニン類似体での張り出しの反対側のプライマーの部分を満たす。HinkIIは、加えられるが、非修飾のDNA鎖を切断するのみである。5'エキソヌクレアーゼ活性を欠くDNAポリメラーゼは、ニックの部位に入り、そしてポリメリゼーションを開始し、最初のプライマー鎖を下流方向に置換し、よりプライマーとして働く新しいものを形成する。SDAは37℃で2時間で107の以上の増幅を行う。RCRおよびLCRと異なり、SDAは器具設置の温度サイクルを要しない。
【0059】
他の方法は、精製されて、または核酸の混合物中に存在しているDNAまたはRNA鋳型から核酸配列を増幅する方法である。得た核酸配列は鋳型の正確なコピーであり、また修飾し得る。この方法は、特殊な核酸配列を複写する信頼性を増大し、単一検定で特定の点変異を効率的に検出するのを可能にすることにおいてPCRより優れている。標的核酸は、鎖置換を回避しながら酵素的に増幅される。3プライマーが用いられる。第1のプライマーは標的の第1末端に相補的である。第2プライマーは標的の第2末端に相補的である。第3プライマーは、標的の第1末端に類似し、かつ第1プライマーの少なくとも一部に実質的に相補的であり、第3プライマーが第1プライマーとハイブリダイズしたときに、第1プライマーの5'末端の塩基に相補的な第3プライマーの位置が実質的に鎖置換を回避する修飾を含む。この方法は、Bhatnager et. al.,1997の米国特許第5,593,840(出典明示により本明細書の一部とする)に詳記されている。
【0060】
最後に、DNAチップスまたはミクロ配置法の最新の応用によって、DNAまたはオリゴヌクレオチドを小さい固体支持物に固定して、サンプルBRCA2遺伝子を迅速に配列決定でき、その発現を分析できる。典型的には、DNAフラグメントの高密度配置をガラスまたはナイロンの基質上に、インシトウ光指向組み合せ合成によりつくるか、または通常の合成によりつくり固定化する(Fodor et al., 米国特許第5,445,934)。サンプルDNAまたはRNAをPCRで増幅し、蛍光標識でラベルして、ミクロ配置にハイブリドできる。この技術の例は、米国特許第5,510,270および5,547,839(出典明示により本明細書の一部とする)に開示されている。
【0061】
BRCA2遺伝子のすべてのエキソンまたは隣接イントロンの配列は、上記の方法で5人の正常者について端から端へ配列決定して取得し、得たデータを解析した。得たデータにより、BRCA2遺伝子の正しいイントロン/エキソン構造を確立した。さらに、前に公表された6種の正常な多形性(1342,2457,3199,3624,4035、7470)を集団における正確さと頻度について評価し、まえに特性化されていない追加の多形性(1093,1593,2908,9079)を同定した。
【0062】
遺伝子治療
BRCA2遺伝子のエキソン、全コード配列またはフラグメントのセンスまたはアンチセンス転写からのポリヌクレオチドは、遺伝子治療に使用できる。様々な方法が遺伝子転移について知られているが、そのいずれも利用できるであろう。
【0063】
インビボでの組換えDNAの直接注入:
1.“裸の”DNAをシリンジおよび針で特異的な組織に直接注入し、血管床を通して浸透し、またはカテーテルを通して内皮細胞に移行さす。
2.人工的脂質小胞または他の包含運搬体に含まれるDNAを直接注入する。
3.ジフテリア抗原や抗体などの標的受容体組織を複合したDNAを直接注入する。
4.DNAを金粒子上にコートし、細胞中に射入するものであり、粒子を爆撃的に直接注入する。
【0064】
ヒト人工染色体
この新しい遺伝子運搬方法は、複製に基本的な要素および転移の望む遺伝子のみを含有するように、はがされたヒト染色体の使用を含む。
【0065】
レセプター仲介遺伝子転移
DNAが特異的な細胞表面レセプターに結合する標的分子にリンクされ、DNAの哺乳動物細胞へのエンドサイト−シスおよび転移を誘発する。この技術の一つでは、アシアログリコタンパク質をDNAにリンクするために、ポリ−L−リジンを用いる。アデノウイルスも複合体に加えられて、リソソームをこわし、DNAの変性を回避し、その核への移動を可能にする。これらの粒子の静脈内注入は肝細胞への遺伝子転移をもたらす。
【0066】
組替えウイルスベクター
いくつかのベクターが遺伝子治療で用いられている。それらには、モノロニイ・ネズミ白血病ウイルス(MoMLV)ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター、ポックスウイルスベクター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベクターがある。
【0067】
遺伝子の置換および修復
遺伝性疾患の処置についての理想的な遺伝子操作法は、欠陥遺伝子をその遺伝子の正常なコピーで置きかえることである。相同組換えは、DNAのセクションを切りかえ、新しいもので置換することを意味する用語である。この技術により、欠陥遺伝子を機能的BRCA2腫瘍生長阻害タンパク質発現の正常な遺伝子で置換することができる。
【0068】
遺伝子治療についての詳細な記載は、Gene Therapy A Primer For Physicians 2d Ed. by Kenneth W.Culver,M.D. Publ.Mary Ann Liebert Inc.(1996)にも記載されている。BRCA2について2種の遺伝子治療プロトコールがJeffrey T.Holt et al.組換えDNA諮問委員会で認められている。このプロトコールは、9602−148および9603−149としてリストされ、NIHから入手できる。単離されたBRCA2は増幅産物から合成または組み立てられて、LXSNベクターなどのベクターに挿入される。
【0069】
BRCA2ポリペプチドまたはその機能的等価物
乳房および卵巣の癌の生長は、機能的BRCA2活性が機能的に不適当であることが、この癌の原因となっているBRCA2タンパク質レベルを直接増加することにより、停止または防止できる。5種の新規BRCA2半数型のcDNAおよびアミノ酸の配列を開示する(配列番号4−13)。BRCA2の全体およびフラグメントは乳房および卵巣の癌についての治療的または予防的処置に用いられる。かかるフラグメントは、BRCA2遺伝子の天然BRCA2タンパク質に類似の生物機能を有し,または下記に特定するような望ましい生物機能を有し得る。BRCA2ポリペプチドまたは相同あるいは修飾のポリペプチド配列を含むその機能的等価物も本発明の範囲内にある。元の配列の変化は、乳房および卵巣の癌の治療的または予防的処置に適したBRCA2誘導ポリペプチドまたは機能的等価物を生産または使用するのに、好都合である。例えば、この変化が望ましいのは、インビボタンパク質分解性開裂に対する抵抗性をつくるために、治療薬を容易に移行または運送するために、腫瘍抑制剤を局在せしめ集中するために、または標的種を発現,単離、精製するためにである。
【0070】
活性BRCA2ポリペプチドまたは機能的等価物を腫瘍生長阻害剤として生産する方法は、多様である。例えば、1以上のアミノ酸を、よく知られた方法(Maniatis et al.,1982)で置換、欠失または挿入する。アミノ酸の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性を考慮することが、意図する処置に適した相同ポリペプチド変化を設計するのに重要である。特に、関連の側鎖構造および電荷のアミノ酸を使用する同類アミノ酸置換で、化学的および生物的性質を保持することができる。相同ポリペプチドは元の配列に少なくとも70%の相同性を典型的には含有する。ポリペプチドの非天然型も、修飾が実質的な生物活性を保持している限り、組込むことができる。このような非天然ポリペプチドは、構造類似の化学的薬剤を典型的に含み、元のBRCA2タンパク質の活性領域として類似の三次元構造を有する。例えば、これらの修飾には、末端D−アミノ酸、環状ペプチド、非天然アミノ酸側鎖、プソイドペプチド結合、N末アセチル化、グリコシル化およびビオチン化などがある。これらのペプチドの非天然型は望ましい生物機能を有する。例えば、細胞性または血清性のプロテアーゼおよびエキソペプチダーゼの存在で特に強い。効果的なBRCA2ポリペプチドまたは機能的等価物は、元のBRCA2タンパク質の還元によっても得られる。BRCA2タンパク質の領域を系統的に欠失し、どの領域が腫瘍生長阻害活性に欠かせないかを同定する。次いで、BRCA2タンパク質のこのような小さいフラグメントを構造的または機能的に修飾し、治療的または予防的に効果的なものを誘導する。最後に、薬剤、天然産物または小分子を選別または合成して、BRCA2タンパク質の機能を模倣する。典型的には、活性種は三次元形態と化学的活性を保持し、それでもって天然BRCA2タンパク質の生物活性の望ましい相を保持する。BRCA2の活性および機能には、活性移行、グラニン、DNA修復などがある。BRCA2の機能について、Bertwistle and Ashworth, Curr. Opin. Genet. Dev. 8(1): 14-20 (1998)およびZhang et al., Cell 92: 433-436 (1998)にも総説されている。当業者に明らかなように、BRCA2ポリペプチドまたは機能的等価物の選択は、かかるポリペプチドまたは機能的等価物が天然BRCA2タンパク質と類似の生物活性を有することでなされる。
【0071】
宿主細胞におけるBRCA2タンパク質およびポリペプチドの発現
BRCA2タンパク質およびポリペプチドの全体またはフラグメントの生産は、外来遺伝子の複製および発現を指示し得る宿主細胞でなされ得る。適当な宿主細胞には、原核細胞、酵母細胞または高等な真核細胞があり、意図するBRCA2タンパク質またはポリペプチドを生産するための1以上の調節配列に操作的に連結したBRCA2cDNA配列の全体またはフラグメント(配列番号4,6、8、10、12)を含む発現ベクターを含有する。原核細胞には、グラム陽性またはグラム陰性菌、例えば、E.coliやBacillus株がある。例えば、COS、MCF7、HeLa、293T、HBL100、SW480、HCT116細胞などのSf9昆虫細胞およびヒト細胞系がある。
【0072】
広範な適当な発現ベクターが当技術で用いられる。発現ベクターは、複製起点、プロモーター、表現型選択遺伝子(抗生物質抵抗性や栄養要求性)およびBRCA2タンパク質の全体またはフラグメントをコードするDNA配列を含有する。発現ベクターはまた、当技術で知られた他の操作的に結合する調節DNA配列を含み得る。例えば、安定リーダー配列、分泌リーダー配列、制限酵素開裂配列、ポリアデニル化配列、終了配列などである。発現ベクターの必須および調節因子は、意図する宿主に適合しなければならない。望ましいコードおよび調節領域を含有する適当な発現ベクターは、当技術で知られる標準的組換えDNA法を用いて構築される。このような技法の多くは、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989)に記載されている。例えば、適当な複製起点には、ColE1、ウイルス性SV40およびM13複製起点がある。適当なプロモーターは、構成的あるいは誘導的であって、例えば、tacプロモーター。lacZプロモーター、SV40プロモーター、MMTVプロモーターおよびLXSNプロモーターである。選択マーカーの例としては、ネオマイシン、アンピシリン、ヒグロマイシンの抵抗性などがある。多くの適当な原核細胞性、ウイルス性および哺乳動物の発現ベクターは、市販されており、例えばInvitrogen Corp., San Diego, CA またはClontech, Palo Alto, CA から入手できる。望ましくは、BRCA2タンパク質またはポリペプチドは融合タンパク質として生産され、選択した宿主細胞での発現を高め、トランスフェクトされた細胞での発現を検出し、精製方法を簡素化する。BRCA2タンパク質またはポリペプチドの適当な融合相手は、当技術でよく知られており、β−ガラクトシダーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼおよびポリヒスチジンtagなどである。
【0073】
発現ベクターは種々の既知技術で宿主細胞に導入される。形質転換方法は、形質転換すべき宿主によって異なる。ベクターの宿主細胞への導入方法には、リン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション、デキストラン調節トランスフェクション、リポソーム封入、核微注入、ウイルスまたはファージ感染などがある。
【0074】
発現ベクターが適当な宿主細胞に導入されると、多量のBRCA2タンパク質またはポリペプチドを発現し得る条件で宿主細胞を培養できる。発現産物の同定は既知の多くの方法でなすことができる。例えば、PCRによる増幅後の配列決定、望むDNA配列に相補的なプローブを用いたハイブリダイゼーション、酵素活性や抗生物質抵抗などのマーカーー遺伝子機能の有無、意図した配列をコードするmRNA生産のレベル、ウエスタンブロティングやELISAなどのモノクローナルポリクローナル抗体を用いた遺伝子産物検出法がある。このようにして生産されたBRCA2タンパク質またはポリペプチドを細胞溶解後に単離し、既知の種々のタンパク質精製法で精製する。精製法には、例えばイオン交換クロマトグラフィ−、ゲル濾過クロマトグラフィ−およびイムノアフィニティイクロマトグラフィ−がある。
【0075】
一般的に好ましいのは、いつもできるだけ、長いフラグメントのBRCA2タンパク質またはポリペプチドを用いることで、特にBRCA2の所望の機能的ドメインを用いる。DNAの短いフラグメントの発現は、アンチBRCA2抗体の生産のためのBRCA2誘導免疫原をつくるのに有用である。当然のことであるが、すべての発現ベクター、DNA調節配列または宿主細胞が、本発明のBRCA2タンパク質またはポリペプチドを発現するのに等しくよく機能するわけでない。しかし、当業者は、余分な実験なしに既知の技術を用いて発現を最大化するために、発現ベクター、DNA調節配列、宿主細胞およびコドン使用を選択できるであろう。BRCA2タンパク質機能の研究およびBRCA2タンパク質の遺伝操作の例については、つぎの2論文に総説されている。Berwistle and Asworth, Curr. Opin. Genet. Dev. 8(1): 14-20 (1998)およびZhang et al., Cell 92: 433-436 (1998)。
【0076】
インビトロ合成および化学合成
BRCA2タンパク質またはポリペプチドのフラグメントが原核または真核の宿主細胞によって得られることは好ましいが、BRCA2ポリペプチドまたはその機能的等価物は当業者に既知の方法によるインビトロ翻訳または合成手段でも得ることができる。例えば、インビトロ翻訳では、BRCA2タンパク質またはポリペプチドのフラグメントをコードするDNA配列によりコードされたmRNAを用いる。固相合成などの化学合成法を用いて、BRCA2ポリペプチド構造模擬体およびその化学的修飾類似体を合成する。このようにつくられたポリペプチドまたはその修飾模擬体を単離し、種々の精製法で精製する。精製法には、例えばイオン交換クロマトグラフィ−、ゲル濾過クロマトグラフィ−およびイムノアフィニティイクロマトグラフィ−がある。
【0077】
タンパク質置換療法
BRCA2の腫瘍抑制機能からして、種々のBRCA2タンパク質標的療法が乳房および卵巣の癌における腫瘍を治療または予防するのに用いられ得る。したがって、本発明は、BRCA2タンパク質、ポリペプチドまたはその機能的等価物を含有する医薬組成物を用いて乳房または卵巣の癌を治療的または予防的に処置することを含む。例えば、タンパク質置換療法には、薬学的に効果的な担体中のBRCA2タンパク質、ポリペプチドまたはその機能的等価物を直接的に投与することが含まれる。あるいは、タンパク質置換療法では、BRCA2タンパク質、ポリペプチドまたはその機能的等価物のフラグメントに融合した腫瘍抗原特異的抗体を用い、抗癌剤を腫瘍細胞に特異的に運ぶ。
【0078】
本発明の医薬組成物をつくるには、活性のBRCA2タンパク質、BRCA2ポリペプチドまたはその機能的等価物を、通常の製薬技術により選択し製造した担体と組み合す。適当な量の組成物を腫瘍部位に局所的に、または全身的に投与して、腫瘍細胞の増殖を止める。投与方法には、当技術での確立したプロトコールに従って非経口、経口または静脈内などがある。
【0079】
組成物を高めたり安定化したり、また組成物の製造を容易にする薬学的に許容される固体または液体の担体または成分として、限定ではないが、シロップ、水、等張液、5%グルコース水溶液、酢酸ナトリウムまたはアンモニウムの緩衝液、油、グリセリン、アルコール類、香料、保存剤、着色剤、デンプン、砂糖、希釈剤、果粒化剤、滑沢剤、結合剤および徐放化剤がある。医薬組成物の投与量は、広い範囲で変動するが、癌の進行段階、患者の年齢や状態などに依存し、個々に調整される。
【0080】
診断薬
BRCA2タンパク質、ポリペプチド、これらの機能的等価物、抗体およびポリヌクレオチドは、遺伝子治療やタンパク質置換療法以外に広範な用途がある。診断薬として用いて、DNA、RNAおよびタンパク質レベルでBRCA2の正常または異常な活性を測定できる。従って、本発明は、配列番号4−13のBRCA2cDNAおよびタンパク質配列から誘導される診断薬を含む。この診断薬は、疾患の進行の監視、患者が遺伝子またはタンパク質置換療法に適しているかの決定、療法後の腫瘍増殖阻害剤の存在検定または定量などの方法に用いられる。かかる方法には通常の組織化学的技術が含まれ、患者からの腫瘍組織の取得、腫瘍の増殖または代謝からの抽出物の作成およびその試験などがある。例えば、腫瘍増殖試験には通常の診断アッセイを用いた異常BRCA2活性の測定が含まれる。このアッセイは、サザン、ノーザンおよびウエスタン・ブロティング、PCR、RT−PCRおよび免疫沈降法などである。腫瘍組織の生検において、腫瘍組織におけるBRCA2発現の喪失をRNAレベルでRT−PCRおよびノーザンブロッチングで確認できる。サザンブロット、ゲノムPCRまたはインシツ・ハイブリダイゼーションの蛍光(FISH)によっても、DNAレベルでBRCA2の変異を調べられる。ウエステンブロッティング、タンパク質切断アッセイあるいは免疫沈降法を用いて、タンパク質レベルでの効果を検査できる。
【0081】
これらの診断薬は、検出される標識に共有的または非共有的に結合している。このような標識には、放射活性標識、比色酵素標識、蛍光標識またはエピトープ標識がある。しばしば、調節配列の下流レポーター遺伝子は、BRCA2タンパク質またはポリペプチドと融合して、標的種の検出または精製を容易にする。BRCA2融合タンパク質において普通に用いられるレポーターに、β−ガラクトシダーゼおよびルシフェラーゼ遺伝子がある。
【0082】
BRCA2タンパク質、ポリペプチド、これらの機能的等価物、抗体およびポリヌクレオチドは、BRCA2タンパク質の特性の試験にも有用である。癌の原因におけるBRCA2の組織および機能、または正常または癌性の細胞におけるBRCA2タンパク質の局在の試験に有用である。例えば、酵母の2種のハイブリド系がBRCA2の細胞機能の研究に用いられて、BRCA2腫瘍抑制機能の調節体または作用体が同定されている(Sharan et al., Nature 386: 804-810b (1997) and Katagiri et al., Genes, Chromosomes & Cancer 21: 217-222(1988))。さらに、BRCA2タンパク質、ポリペプチド、これらの機能的等価物、抗体およびポリヌクレオチドは、インビボ細胞に基づくアッセイおよびインビトロ細胞なしのアッセイで用いられて、BRCA2タンパク質機能を模倣、調節または促進する天然産物または合成化合物を選別する。
【0083】
アンチセンス阻害
内在性BRCA2発現のアンチセンス抑制でもって、既知の技術(Crooke, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32: 329-376(1992)およびRobinson-Benion and Holt, Methods Enzymol. 254: 363-375 (1995))を用いて細胞成長阻害に対するBRCA2の作用が調べられる。配列番号4,6、8、10、12のcDNAから、野生型BRCA2タンパク質または成熟型BRCA2タンパク質の
生産に関与するDNAまたはRNAの配列のアンチセンス鎖を当業者は容易に得ることができる。あるいは、BRCA2の制御配列を標的とするようにアンチセンス・オリゴヌクレオチドを設計して、外因性BRCA2遺伝子の発現を低下または防止できる。
【0084】
抗体
BRCA2タンパク質、ポリペプチド、これらの機能的等価物を免疫原として用い、既知の方法で(Harlow & Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1988)BRCA2誘導抗原に結合し得るポリクロナールまたはモノクロナール抗体をつくることができる。この抗体は、ELISA、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイおよび免疫細胞化学法などのイムノアッセイで、BRCA2タンパク質、ポリペプチド、これらの機能的等価物を検出するのに用いられる。典型的には、アンチBRCA2抗体は、溶液の形であるか、プレート、粒子、ビードまたはチューブなどの固体表面に接着している。抗体はBRCA2タンパク質またはポリペプチドを含有するかもしれないサンプルまたはブロットに接触すると、最初の免疫複合体を形成する。十分にインキュベーションした後、最初の免疫複合体を水洗し、非特異的結合種を除去する。特異的に結合したBRCA2タンパク質またはポリペプチドの定量は、放射活性、蛍光または酵素標識などの結合標識またはマーカーの検出を用いる。あるいは、BRCA2誘導抗原の検出は、このような標識またはマーカーに結合している第2抗体を用いて、第2免疫複合体を形成して行える。抗体は、BRCA2タンパク質、ポリペプチド、これらの機能的等価物を単離または精製するためのアフィニティイクロマトグラフィ−で使用できる。
【実施例】
【0085】
実施例1
正常人のBRCA2遺伝子のコード配列半数型の決定
肉親 (すなわち、一等および二等の親族)が癌の経歴をもたない個体を同定するために約150人の志願者を審査した。各人に下記の表Iに示される『遺伝性癌を事前選別試験するためのアンケート』に答えてもらった。BRCA2遺伝子の全配列を決定するために、これらの中の5人を任意に選んだ。一等の親族は両親、兄弟または子である。二等の親族は、おば、おじ、祖父母、孫、めい、甥または半兄弟である。
【0086】
上記の質問に対する返答を解析して選んだ5人の正常人の白血球細胞から、ゲノムDNAを単離した。ジデオキシ配列解析をポリメラーゼ連鎖反応増幅後に行った。
BRCA2遺伝子の全てのエキソンは、このDNAサンプルから増幅した一本鎖産物を生ぜしめるために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて不斉増幅することによる、直接ジデオキシ配列解析の対象とした。Shuldiner、et al.、Handbook of Techniques in Endocrine Research、p.457-486、DePablo、F.、Scanes、C.、監修、Academic Press、Inc.、1993。Taq Dye TerminatorKit(Perkin-Elmer(登録商標) 商品番号 401628)を用いて、自動配列決定するために蛍光色素を結合させた。DNA配列決定は、Applied Biosystems、Inc.(ABI)自動シークエンサー(モデル377)の正および逆の両方向で行った。得られたデータの解析に使用したソフトウェアは、ABIから購入した“シークエンスナビゲーター”であった。
【0087】
1.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅
ゲノムDNA(100ng)を5正常個体の白血球細胞から抽出した。5個のサンプルの各々を端から端まで配列決定した。各サンプルを、1μl(100ng)ゲノムDNA、2.5μl 10×PCR緩衝液(100mMTris、pH8.3、500mMKCl、1.2mMMgCl2)、2.5μl 10×dNTP混合(2mM各ヌクレオチド)、2.5μl正のプライマー、2.5μl負のプライマー、および1μlTaqポリメラーゼ(5単位)、および13μl水を含む最終容量25μlで増幅した。
【0088】
下の表IIのプライマーを使用して、様々な分画のBRCA2遺伝子のサンプルを増幅した。プライマーは、DNA/RNAモデル394(登録商標)シンセサイザーで合成した。
【0089】
35サイクルを行い、各々は、変性(95℃;30秒)、アニーリング(55℃;1分)、および伸長(72℃;90秒)から構成され、ただし、始めのサイクルでは変性時間を5分に増やし、最後のサイクルでは伸長時間を5分に増やした。
【0090】
PCR産物は、Qia-quick(登録商標)PCR精製キット(Qiagen 商品番号28104;Chatsworth、CA)を用いて精製した。PCR産物の収率および純度は、ベックマンDU650分光光度計においてOD260で分光光度的に測定する。
【0091】
2.ジデオキシ配列解析
Taq Dye Terminator Kit(Perkin-Elmer(登録商標) 商品番号 401628)を用いて、自動配列決定するために蛍光色素をPCR産物に結合させた。DNA配列決定は、Applied Biosystems、Inc.(ABI)Foster City、CA.、自動モデル377(登録商標)シークエンサーを用いて正および逆の両方向で行った。得られたデータの解析に使用したソフトウェアは、ABIから購入した“シークエンスナビゲーター(登録商標)”であった。
【0092】
3.結果
5人の正常人の配列に基づいて、ジーンバンクとBICの両方の標準配列が正しくないことを決定した。ジーンバンクでは、10塩基伸長(5'-TTTATTTTAG-3')をエキソン5の5’末端で、誤ってエキソンとして挙げているが、これはcDNAおよび得られたタンパク質中に含まれないのでイントロンとすべきである。加えて、乳癌の不正確な診断を招きかねない問題の大きい誤りが、ジーンバンクとBICとの両方に存在する:(5'-GTGTTCTCATAAACAG-3')の16塩基対配列はエキソン15の終了部であると考えられるが、しかるに、データベース中ではエキソン16の開始部として挙げている。ジーンバンクの開示および表を図1に示す。BRCA2の正しいイントロン/エキソン配列を図2に示す。この中で、
(1)10塩基伸長(5'-TTTATTTTAG-3')は、エキソン5の5’末端というよりはむしろイントロン4の3’末端におけるイントロンである(訂正したエキソン5を配列番号:1に示す)、および
(2)16塩基伸長(5'-GTGTTCTCATAAACAG-3')は、エキソン16の5’末端というよりはむしろエキソン15の3’末端におけるイントロンである(訂正したエキソン15および16を、それぞれ配列番号:2および3に示す)。
【0093】
BIC BRCA2配列もまた、CGTTTGTGT(アミノ酸:Arg-Leu-Cys)で示される5554−5460位置における9つのヌクレオチドの伸長で、配列の誤りがある。これらの位置の正しい配列はGTTTGTGTT(アミノ酸:Val-Cys-Val)である。加えて、BIC BRCA2ヌクレオチドの2024位置(コドン599)、4553(コドン1442)、4815(コドン1529)、5841(コドン1871)、および5972(コドン1915)は、T、T、A、C、およびTであるが、これらの位置の正しいヌクレオチドはそれぞれC、C、G、TおよびCである。この中で、コドン599、1442、1915のヌクレオチドの誤りは、アミノ酸の変化をもたらす。
【0094】
5人の正常人の核酸における更なる違いが10の多形性座中で判明した。この変化および位置を表IIIに示す。BRCA2の各染色体の個別の半数型を図3に示す。各例について、ジーンバンクで報告された最初の半数型(アクセス番号 U43746)を参考にして、新たな半数型OMI 1−5を決定した。その結果、ジーンバンクの配列は、次の5種の半数型の50%のみを示すにすぎない;5つの新たなBRCA2(OMI 1-5)DNA配列を各配列番号:4、6、8、10、および12に示し(図3参照)、関連するポリペプチドを各配列番号:5、7、9、11、および13に示す。組み合わせて、これらの7つの半数型はBRCA2遺伝子の対立遺伝子像表わす。
【0095】
このデータによると、各サンプルにおいて、10の多形性領域を除いてBRCA2のエキソン全部が同一である。これらの多形性のうち6種は以前に同定されている(Tartigan et al., Nature Genetics 12: 333-337 (1996) ; Phelan et al., Nature Genetics 13: 120-122 (1996); Couch et al., Nature Genetics 13: 123-125 (1996); Teng, et al., Nature Genetics 13: 241-244 (1996); Schubert et al 60: 1031-1040 (1997))。しかし、4種は本発明独特である。各多形性を同定することができるが、これらの完全な半数型は何れも過去に決定されていない。
【0096】
【表1】

【0097】
表1の続き
【表2】

【0098】
表1の続き
【表3】

【0099】
表1の続き
【表4】

【0100】
表1の続き
【表5】

【0101】
表1の続き
【表6】

【0102】
表1の続き
【表7】

【0103】
表2
【表8】

【0104】
表2の続き
【表9】

【0105】
表2の続き
【表10】

【0106】
表2の続き
【表11】

【0107】
表2の続き
【表12】

【0108】
表3
【表13】

【0109】
表3の続き
【表14】

【0110】
実施例2
BRCA2(omi 1-5)および参考としての10の多形性を用いた正常個体の決定
遺伝子感受性試験の当業者は、本発明が以下事項に有用であることがわかるであろう:
a)正常のBRCA2遺伝子を有する個体の同定;
b)正常人群にみられる正常の多形性を読み誤ることの回避;
【0111】
配列決定は、問題となっている患者の血液を用いて実施例1のように行う。しかしながら、BRCA2(omi 1-5)配列を参考のために使用し、患者にみられる多形性部位を、各多形性部位の正常コドンについて上記した核酸配列と比較する。正常サンプルは、BRCA2(omi 1-5)配列に匹敵するものであり、ただ小多形性部位でおこる小さい変化の1つを含む。各多形性部位であらわれる対立変化は、参考のために対にする。
・1093位のAT(Asn)およびAT(His)、(コドン 289)
・1342位のAT(His)およびAT(Asn)、(コドン 372)
・1593位のTC(Ser)およびTC(Ser)、(コドン 455)
・2457位のCA(His)およびCA(His)、(コドン 743)
・2908位のTA(Val)およびTA(lle)、(コドン 894)
・3199位のAC(Asn)およびAC(Asp)、(コドン 991)
・3624位のAA(Lys)およびAA(Lys)、(コドン 1132)
・4035位のGT(Val)およびGT(Val)、(コドン 1269)
・7470位のTC(Ser)およびTC(Ser)、(コドン 2414)
・9079位のCC(Ala)およびCC(Thr)、(コドン 2951)
【0112】
これらの多形性対を使用すると、当業者が、正常の変異を多形性変異と間違えることなく正しく多形性変異を解釈できることが一層確かになる。
BRCA2遺伝子のエキソン全ては、このDNAサンプルから増幅した一本鎖産物を得るために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて不斉増幅し、直接ジデオキシ配列解析に供する。Shuldiner、et al.、Handbook of Techniques in Endocrine Research、p.457-486、DePablo、F.、Scanes、C.、監修、Academic Press、Inc.、1993。Taq Dye Terminator Kit(Perkin-Elmer(登録商標) 商品番号 401628)を用いて、自動配列決定するために蛍光色素を結合させた。DNA配列決定は、Applied Biosystems、Inc.(ABI)自動シークエンサー(モデル377)の正および逆の両方向で行った。得られたデータの解析に使用したソフトウェアは、ABIから購入した“シークエンスナビゲーター”である。
【0113】
1.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅
患者のサンプルであるBRCA2遺伝子を増幅するために使用するPCRプライマーを表IIに示す。プライマーをDNA/RNAシンセサイザーモデル394(登録商標)で合成した。35サイクルで増幅し、各々は、変性(95℃;30秒)、アニーリング(55℃;1分)、および伸長(72℃;90秒)から構成され、ただし、始めのサイクルでは変性時間を5分に増やし、最後のサイクルで伸長時間を5分に増やす。
【0114】
PCR産物をQia-quick(登録商標)PCR精製キット(Qiagen(登録商標)、商品番号28104;Chatsworth、CA)を用いて精製する。PCR産物の収率および純度は、ベックマンDU650分光光度計においてOD260で分光光度的に測定した。
【0115】
2.ジデオキシ配列解析
Taq Dye Terminator Kit(Perkin-ELmer(登録商標)、商品番号 401628)を用いて、自動配列決定するために蛍光色素をPCR産物に結合させる。DNA配列決定は、Applied Biosystems、Inc.(ABI)Foster City、CA.、自動モデル377(登録商標)シークエンサーの正および逆の両方向で行う。得られたデータの解析に使用したソフトウェアは、ABIから購入した“シークエンスナビゲーター(登録商標)”である。BRCA2(omi 1-5)配列を比較の標準物としてシークエンスナビゲーターソフトウェアに、連続的に入れる。シークエンスナビゲーターソフトウェアは、1塩基ごとに患者のサンプル配列を各BRCA2(omi 1-5)標準物と比較する。シークエンスナビゲーターは、標準物と患者のサンプルの配列との間の全ての相違を明らかにする。
【0116】
一番目の技術者が、BRCA2(omi 1-5)標準物を患者のサンプルと視覚的に比較することによりコンピューター化された結果を調べ、再び標準物とサンプルの間のあらゆる差異を明白にする。次いで、一番目の技術者が、配列に沿って各位置における配列の変化を読む。各配列変異のクロマトグラムは、シークエンスナビゲーターにより作成され、カラープリンターに印刷される。ピークは、一番目の技術者および二番目の技術者がよむ。次いで、二番目の技術者はクロマトグラムを再試験する。最後に、結果を遺伝学者がよむ。各々の場合において、変異は、位置および塩基変化が既知の正常多形性と比較される。
【0117】
3.結果
患者のBRCA2配列は7つのヌクレオチド位:1093(A/C)、1342(A/C)、1593(A/G)、2457(C/T)、2908(A/G)、3199(A/G)および9079(A/G)で異種接合体であることが判明した。加えて、これはポリペプチド産物で5つのアミノ酸を変化させる:コドン289のAsnをHisへ、コドン372のAsnをHisへ、コドン894のValをIleへ、コドン991のAsnをAspへ、およびコドン2951のAlaをThrへ変化させる。これらの変化の何れかまたは全てが患者にとって意味があるのであろうかという疑問が生じる。
患者の結果とBRCA2(omi 1-5)半数型とを比較すると、BRCA2omi標準物(#5)の一つと合わさることがはっきりとする。従って患者のサンプルは、乳癌の危険性を増大することのない正常な遺伝子配列を保持していると、解釈される。
【0118】
実施例3
BRCA2(omi 1-5)を用いたBRCA2遺伝子のエキソン11における変異の存在の決定
遺伝子感受性試験の当業者はわかるように、本発明は、BRCA2遺伝子において既知または未知の変異の存在を決定するのに有用である。BRCA2の変異の一覧表は乳癌情報機関のhttp://www.nchgr.nih.gov/dir/lab_transfer/bic.で公共的に入手できる。この情報機関は1995年11月1日に公共的に使用できるようになった。Friend、S.et al.Nature Genetics 11:238、(1995)。
【0119】
本実施例で、エキソン11の変異は、変異領域を増幅するプライマーを設置すると変異領域を増幅するという特徴がある。問題の患者の血液サンプルを使用して、実施例1と同様に配列決定を行なった。特にBRCA2遺伝子のエキソン11は、このDNAサンプルから増幅した一本鎖産物を得るために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて不斉増幅し、直接ジデオキシ配列決定する。Shuldiner、et al.、Handbook of Techniques in Endocrine Research、p.457-486、DePablo、F.、Scanes、C.、監修、Academic Press、Inc.、1993。Taq Dye TerminatorKit(Perkin-Elmer(登録商標)、商品番号 401628)を用いて、自動配列決定するために蛍光色素を結合させた。DNA配列決定は、Applied Biosystems、Inc.(ABI)自動シークエンサー(モデル377)の正および逆の両方向で行った。得られたデータの解析に使用したソフトウェアは、ABIから購入した“シークエンスナビゲーター”である。
【0120】
1.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅
該体の白血球から抽出したゲノムDNA(100ng)は、1μl(100ng)ゲノムDNA、2.5μl 10×PCR緩衝液(100mMTris、pH8.3、500mMKCl、1.2mMMgCl2)、2.5μl 10×dNTP混合(2mM各ヌクレオチド)、2.5μl正のプライマー(BRCA2−11Q−F、10μM溶液)、2.5μl負のプライマー(BRCA2−11Q−R、10μM溶液)、および1μlTaqポリメラーゼ(5単位)、および13μl水を含む最終容量25μlにおいて増幅する。
【0121】
エキソン11のセグメントQ(6174del T1変異がある)を増幅するのに使用するPCRプライマーを以下示す。
BRCA2-11Q-F:5'-ACG'AAA'ATT'ATG'GCA'GGT'TGT-3'
BRCA2-11Q-R:5'-CTT'GTC'TTG'CGT'TTT'GTA'ATG-3'
【0122】
プライマーをDNA/RNAシンセサイザーモデル394(登録商標)で合成する。35サイクルで行ない、各々は変性(95℃;30秒)、アニーリング(55℃;1分)、および伸長(72℃;90秒)から構成され、ただし、始めのサイクルでは変性時間を5分に増やし、最後のサイクルで伸長時間を5分に増やす。
PCR産物をQia-quick(登録商標)PCR精製キット(Qiagen(登録商標)、商品番号28104;Chatsworth、CA)を用いて精製する。PCR産物の収率および純度は、ベックマンDU650分光光度計においてOD260で分光光度的に測定する。
【0123】
2.ジデオキシ配列解析
Taq Dye Terminator Kit(Perkin-ELmer(登録商標)、商品番号 401628)を用いて、自動配列決定するために蛍光色素をPCR産物に結合させる。DNA配列決定は、Applied Biosystems、Inc.(ABI)Foster City、CA.、自動シークエンサー(モデル377)の正および逆の両方向で行う。得られたデータの解析に使用したソフトウェアは、ABIから購入した“シークエンスナビゲーター(登録商標)”である。BRCA2(omi 1-5)配列を比較の標準物としてシークエンスナビゲーターソフトウェアに入れる。シークエンスナビゲーターソフトウェアは、1塩基ごとにサンプル配列をBRCA2(omi)標準物と比較する。シークエンスナビゲーターソフトウェアは、BRCA2(omi)正常DNA配列と患者のサンプルの配列との間の全ての相違を明らかにする。
【0124】
一番目の技術者が、BRCA2(omi 1-5)標準物を患者のサンプルと視覚的に比較することによりコンピューター化された結果を調べ、再び標準物とサンプルの間のあらゆる差異を明白にする。次いで、一番目の技術者が、配列に沿って各位置における配列の変化を読む。各配列変異のクロマトグラムは、シークエンスナビゲーターにより作成され、カラープリンターに印刷される。ピークは、一番目の技術者および二番目の技術者もよむ。次いで、二番目の技術者はクロマトグラムを再試験する。最後に、結果を遺伝学者がよむ。各々の場合において、配列変異は、位置および塩基変化が既知の正常な多形性と比較される。BRCA2で起こる10のフラグメントの多形性は:
・1093位のAAT(Asn)およびCAT(His)、(コドン 289)
・1342位のCAT(His)およびAAT(Asn)、(コドン 372)
・1593位のTCA(Ser)およびTCG(Ser)、(コドン 455)
・2457位のCAT(His)およびCAC(His)、(コドン 743)
・2908位のGTA(Val)およびATA(lle)、(コドン 894)
・3199位のAAC(Asn)およびGAC(Asp)、(コドン 991)
・3624位のAAA(Lys)およびAAG(Lys)、(コドン 1132)
・4035位のGTT(Val)およびGTC(Val)、(コドン 1269)
・7470位のTCA(Ser)およびTCG(Ser)、(コドン 2414)
・9079位のGCC(Ala)およびACC(Thr)、(コドン 2951)
【0125】
3.結果
上記のPCR増幅および標準蛍光配列決定法を用いて、6174delT変異を発見し得る。変異は非対の配列変化の鎖長で示される。このような長い誤対合の形態は欠失および挿入で生じる。この変異は、変異の命名に提案されている命名法、Baudet、A et al.、Human Mutation 2:245-248、(1993)に従って命名される。BRCA2遺伝子のコドン1982の6174delT変異は、エキソン11のセグメント“Q”でおこる。このDNA配列決定の結果により、BRCA2(omi 1-5)配列の6174ヌクレオチドでTの1つの塩基対が欠失していることが実証される。この変異はBRCA2転写産物の正常なリーディングフレームを阻害し、その結果コドン2003位でインフレームターミネーター(TAG)が現れる。それ故、この変異は、切断されて、おそらく機能しないであろうタンパク質をもたらすと予測される。
【0126】
実施例4
免疫原としてGST-BRCA2融合タンパク質を使用したモノクローナルおよびポリクローナル抗体の産出
DNAプライマーを使用し、PCR法を用いてBRCA2フラグメントを増幅する。生成物を適切な酵素で消化した後、GST発現ベクターpGEX(Pharmacia Biotech Inc.)を使用するEscherichia coliで、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)をコードする遺伝子とフレーム中で融合する。融合タンパク質の発現をイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドの添加で誘発する。次いで細菌を分解し、過剰発現した融合タンパク質をグルタチオンセファロースビーズで精製する。この融合タンパク質をSDS/PAGEゲルで確かめ、N-末端タンパク質配列決定する。精製したタンパク質をHarlow & Lane (1988)による標準的な方法でウサギを免疫化するのに使用する。数週間後ポリクローナル抗体を血清から集め、当業者に既知の方法で精製する。BRCA2タンパク質、ポリペプチドまたは機能的同等物の全体またはフラグメントに対するモノクローナル抗体を、ハイブリドーマ法を用いて得ることができる。Harlow & Lane (1988)参照。このBRCA2タンパク質またはポリペプチドは、グルタルアルデヒドの存在下でキーホールリンペットヘモシアニン担体と結合する。結合した免疫原を補助剤と混ぜ、ウサギへ注射する。抗体を含有するウサギから脾臓を取り出す。脾臓から単離したB細胞を骨髄腫細胞と融合し、ポリエチレングリコール(PEG)を使用して融合を促進する。骨髄腫とB細胞間のハイブリッドを選択し、免疫原BRCA2タンパク質またはポリペプチドに対する抗体の産物をスクリーンする。陽性細胞を再びクローンして、モノクローナル抗体を産出する。
【0127】
実施例5
ヒト組織および細胞株でのBRCA2発現の検出
ヒト組織でのBRCA2発現を、ノーザンブロット分析を使用して決定する。膵臓、精巣、前立腺、卵巣、胸部、小腸および結腸などのヒト組織を、Clontech Laboratories, Inc., Paloから入手する。異なるヒト組織のポリ(A)+mRNAノーザンブロットをBRCA2 cDNAプローブと交雑し、プロトコルを製造する。さらに、プライマーとしてオリゴ-d(T)などの適切なプライマーを使用するRT-PCRで発現レベルを整える。
【0128】
癌細胞系のノーザンブロット法のために、ヒト卵巣癌細胞系SKOV−3およびヒト乳癌細胞系MCF−7を米国基準菌株保存機構ATCCから得る。全RNAをグアニジンイソシアネートの存在で細胞を溶解して調製する。ポリ(A)+mRNAの単離に、Promega(Madison,WI)のPolyATractmRNA単離システムを用いる。単離RNAを変性条件で電気泳動し、ナイロン膜に移行せしめる。ノーザンブロットに用いるプローブはPCR増幅で得たBRCA2配列のフラグメントである。[α−32P]dCTPでのプローブの標識にはランダムプライム標識キット(American Life Science, Arlington Heights, Il)を使用する。
【0129】
実施例6
BRCA2タンパク質の発現
BRCA2トランスフェクト細胞のの全細胞抽出物を免疫沈降法および免疫ブロット法にかけ、BRCA2タンパク質レベルを測定する。BRCA2タンパク質またはポリペプチドの免疫沈降には、実施例4で調製したアンチBRCA2抗体を使用する。サンプルをSDS/PAGEで分画し、ニトロセルロースに移行する。BRCA2タンパク質またはポリペプチドについてウエスタンブロットを表示の抗体で行う。抗体反応の提示には化学発光試薬(DuPont New England Nuclear, Boston, MA)を用いる。
【0130】
実施例7
BRCA2(omi 1-5)遺伝子治療の使用
BRCA2遺伝子の発現を増加することにより、卵巣癌、乳癌または前立腺癌の成長を抑制し得る。この遺伝子の不十分な発現は遺伝性の卵巣癌、乳癌および前立腺癌をもたらす。腫瘍サイズを減少させるために患者に遺伝子治療を行う。LXSNベクターを配列番号4、6、8、10、12のBRCA2(omi1-5)コード配列で形質転換し得る。
【0131】
ベクター
LXSNベクターを配列番号4、6、8、10、12の野生型BRCA2(omi1-5)コード配列で形質転換する。LXSN−BRCA2(omi1-5)レトロウイルス発現ベクターは、SalI連結BRCA2(omi1-5)cDNAまたはそのフラグメントをベクターLXSNのXhoI部位にクローン化することにより構築される。構築物をDNA配列決定により確認する。参照、Holt et al.Nature Genetics 12:298-302(1996)。レトロウイルスベクターは、血清およびフェノールレッドが含まれていない条件を用いて、ウイルス産生細胞から調製し、標準的解析法により、不稔性、特定の病原体の非存在、および複製能を有するレトロウイルスの存在について試験する。レトロウイルスは試験を行う分割単位で凍結させて保存する。
【0132】
患者は、全体的健康を調べるために、完全な物理的検査、血液検査および尿検査を受ける。彼らはまた、腫瘍段階を評定するために、胸部X線、心電図、および適当な放射線測定を受ける。
【0133】
転移性卵巣癌の患者は、薬剤単位形あたり109および1010の間のウイルス粒子で、腫瘍を含む腹膜部位に組換えLXSN−BRCA2(omi1-5)レトロウイルスベクターを注入することによるレトロウイルス遺伝子治療を用いて処置する。血液サンプルを毎日採取し、感度の良いポリメラーゼ連鎖(PCR)を基礎とした解析により、レトロウイルスベクターの存在を試験する。取得した液体を解析して以下を決定する:
【0134】
1.組換えLXSN−BRCA2(omi1-5)レトロウイルスベクターの組み合わせを取り込んだ癌細胞のパーセンテージ。BRCA2遺伝子が癌細胞にうまく取り込まれたことは、RT−PCR解析およびインシツハイブリダイゼーションにより示される。RT−PCRは、配列番号4、6、8、10、12のまたはそのフラグメントのBRCA2(omi1-5)由来のプライマーを用いて、Thompson et al.Nature Genetics 9:444-450(1995)の方法により行われる。Jensen et al., Nature Genetics 12:303-308(1996)およびJensen et al.Biochemistry 31:10887-10892(1992)の方法により、細胞溶解物を調製し、イムノブロットを行う。
【0135】
2.ApoTAG(登録商標)インシツアポトーシス検知キット(Oncor、Inc.、Gaithersburg、メリーランド)およびDNA解析を用いたプログラム細胞死の存在。
【0136】
3.スライド免疫蛍光法またはウエスタンブロットによるBRCA2遺伝子発現の測定。
【0137】
測定可能な疾病の患者をまた、LXSN−BRCA2(omi1-5)に対する臨床応答について検査し、特にレトロウイルスベクター治療後すぐに通常の処置はしないで患者を検査する。流動細胞診、腹部の周囲、腹部のCTスキャンおよび局所徴候を検査する。
【0138】
その他の部位の疾病については、以下のような慣用的な評価基準を使用する:
1.完全反応(CR)、少なくとも4週間、疾患の全ての測定可能な病巣および全ての徴候および症状の完全な消失。
2.部分反応(PR)、4週間以内に2人の観察者により決定された全ての測定可能な病巣の最も大きい2つの垂線の直径の産物の合計が少なくとも50%減少。PRを続けると、この間に全く新しい病巣は現れず、またどの病巣もサイズが増大しない。
3.安定な疾病、前回の測定から腫瘍容積が25%以下の変化。
4.進行性疾病、前回の測定から腫瘍測定が25%以上の増加。
【0139】
実施例8
タンパク質置換療法
機能的BRCA2タンパク質レベルの治療上の増大は、内因性BRCA2腫瘍抑制活性の不存在または低下を改善する。乳房または卵巣の癌に対する処置には、薬学的に許容される担体中のBRCA2、ポリペプチドまたはその機能的等価物の治療的有効量を投与する。臨床的に効果的な運送方法は、既知のプロトコールでもって、腫瘍の部位に局所的に行うか、または他の転移箇所に到達するように全身的に行う。そのようなプロトコールでは腫瘍に直接注入する方法または時間放出カプセルを用いる拡散法がある。治療的に効果的な量は当業者により決定される。
【0140】
乳房または卵巣の癌の予防には、薬学的に許容される担体中のBRCA2、ポリペプチドまたはその機能的等価物の予防上の有効量を投与する。乳房または卵巣の癌の危険性がわかっている者にタンパク質置換療法を行い、腫瘍原性を予防し、癌のおそれを低下せしめる。乳房および卵巣の癌の危険性の増大には、1以上のBRCA2およびBRCA1変異の保持、後期出産の子供、月経の早い開始、閉経の遅い開始、ある種の高危険性の食事習慣などの因子がある。臨床上効果的な運送方法は、既知のプロトコールで用いられるものであり、例えば腹膜腔内投与または植込み時間放出カプセルである。予防的に効果的な量は当業者により決定される。
【0141】
文献目録
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本発明は、好ましい実施態様に関連して記述されているが、本発明の精神からそれることなく様々な修飾を行なうことができることを理解すべきである。それに応じて、本発明は次の請求の範囲のみによって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BRCA2遺伝子を含有するゲノムDNAであって、
そのうち、エキソン5から始まる最初の12のヌクレオチドが配列番号1の5’−TCCTGTTGTTCT−3’であり、
そのうち、ヌクレオチド番号5782−5790が配列番号4のGTTTGTGTTであり、
そのうち、エキソン15で終わる最後の20のヌクレオチドが配列番号2の5’−CTGCGTGTTCTCATAAACAG−3’であり、
そのうち、エキソン16で始まる最初の20のヌクレオチドが配列番号3の5’−CTGTATACGTATGGCGTTTC−3’である、
ゲノムDNA。
【請求項2】
コード配列ヌクレオチドが次の1093A、1342A、1593A、2457T、2908G、3199A、3624A、4035T、7470A、9079Gである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項3】
コード配列ヌクレオチドが次の1093A、1342C、1593A、2457T、2908G、3199A、3624A、4035T、7470A、9079Gである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項4】
コード配列ヌクレオチドが次の1093A、1342C、1593A、2457T、2908G、3199A、3624A、4035C、7470A、9079Gである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項5】
コード配列ヌクレオチドが次の1093C、1342A、1593A、2457C、2908G、3199G、3624G、4035T、7470G、9079Gである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項6】
コード配列ヌクレオチドが次の1093A、1342C、1593A、2457T、2908G、3199A、3624G、4035T、7470G、9079Gである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項7】
コード配列ヌクレオチドが次の1093C、1342C、1593G、2457C、2908A、3199G、3624A、4035T、7470A、9079Aである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項8】
コード配列ヌクレオチドが次の2024C、4553C、4815G、5841T、5972Cである、請求項1のゲノムDNA。
【請求項9】
BRCA2コード配列を含有するDNAであり、
そのうち、ヌクレオチド番号643−666がCTTAGTGAAAGTCCTGTTGTTCTAであり、
そのうち、ヌクレオチド番号5782−5790がGTTTGTGTTである、
DNA。
【請求項10】
コード配列ヌクレオチドが次の1093A、1342A、1593A、2457T、2908G、3199A、3624A、4035T、7470A、9079Gである、請求項9のDNA。
【請求項11】
コード配列ヌクレオチドが次の配列番号4の1093A、1342C、1593A、2457T、2908G、3199A、3624A、4035T、7470A、9079Gである、請求項9のDNA。
【請求項12】
コード配列ヌクレオチドが次の配列番号6の1093A、1342C、1593A、2457T、2908G、3199A、3624A、4035C、7470A、9079Gである、請求項9のDNA。
【請求項13】
コード配列ヌクレオチドが次の配列番号8の1093C、1342A、1593A、2457C、2908G、3199G、3624G、4035T、7470G、9079Gである、請求項9のDNA。
【請求項14】
コード配列ヌクレオチドが次の配列番号10の1093A、1342C、1593A、2457T、2908G、3199A、3624G、4035T、7470G、9079Gである、請求項9のDNA。
【請求項15】
コード配列ヌクレオチドが次の配列番号12の1093C、1342C、1593G、2457C、2908A、3199G、3624A、4035T、7470A、9079Aである、請求項9のDNA。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−118863(P2009−118863A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58788(P2009−58788)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【分割の表示】特願2000−509828(P2000−509828)の分割
【原出願日】平成10年8月14日(1998.8.14)
【出願人】(500254446)オア・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Ore Pharmaceuticals Inc.
【Fターム(参考)】