ヒトCD20を発現するトランスジェニックマウス
本発明は、一般に、CD20を含むヒト細胞マーカーを発現する非ヒトトランスジェニック動物及びヒトCD20を有する細胞を枯渇させるのに効果的な薬剤を同定するためのその動物の使用方法に関するものである。トランスジェニック動物はまた抗CD20療法の安全性及び効果を試験するために有用である。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
この出願は、全ての国を指定し、2002年12月16日出願の米国仮出願番号第60/434115号及び2003年6月5日出願の米国仮出願番号第60/476481号に基づく優先権を主張して、米国籍の国内企業のジェネンテック・インク(米国を除く全ての国に対しての出願人)、米国在住米国市民アンドリュー・チー-イェン・チャン(米国に対してのみ出願人)、米国在住中国市民キアン・ゴン(米国に対してのみ出願人)、及び米国在住ルーマニア市民フラビウス・マーチン(米国に対してのみ出願人)の名義で2003年12月11日にPCT国際特許出願として出願されたものである。
【0002】
発明の背景
T細胞とB細胞は共に分化と同定のためのマーカーとして利用することができる細胞表面タンパク質を含む。一つのそのようなヒトB細胞マーカーは「CD20」としても知られているヒトBリンパ球制限的分化抗原Bp35である。CD20は初期プレB細胞発生中に発現し、形質細胞の分化まで残る。CD20分子は、細胞分裂周期開始と分化に必要な活性化プロセスの工程を調節すると考えられている。
【0003】
CD20は正常なB細胞並びにその衰えない増殖がB細胞リンパ腫を生じうる悪性B細胞の双方に存在する。よって、CD20表面抗原は抗原に特異的な抗体を用いてB細胞リンパ腫のターゲティングの候補となる可能性がある。これらの抗CD20抗原は正常及び悪性B細胞双方のCD20細胞表面抗原に特異的に結合し、B細胞の破壊と枯渇を生じる。腫瘍を破壊する可能性を有する化学薬剤又は放射標識を該薬剤が腫瘍性B細胞に特異的に送達されるように抗CD20抗体に結合させることができる。
【0004】
CD20を標的とするモノクローナル抗体の使用は記載されている(例えば、Weiner, Semin. Oncol., 26, 43-51 (1999); Gopal及びPress, J. Lab. Clin. Med., 134, 445-450 (1999); White等, Pharm. Sci. Technol. Today, 2, 95101 (1999)を参照)。リツキサンTMは、リンパ腫と新しく診断された患者及びリンパ腫が再発した患者に対して単一の薬剤としてまた化学療法と併用して広く使用されているキメラ抗CD20モノクローナル抗体である(Davis等, J. Clin. Oncol., 17, 1851-1857 (1999); Solal-Celigny等, Blood, 94, abstract 2802 (1999); Foran等, J. Clin. Oncol., 18, 317-324 (2000))。放射標識抗体のコンジュゲートの利用もまた記載されている(例えば、BexxarTM; Zelenetz等, Blood, 94, abstract 2806 (1999))。
【0005】
CD20を標的とする抗体の使用は、他の症状、特に自己免疫性に関連するものについてもまた記載されている。例えば、抗CD20抗体療法は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス及び強直性脊椎炎の治療において過去に評価され又は現在も評価されている。(Protheroe等, Rheumatology 38:1150(1999))。例えば自己免疫血小板減少症及び好中球減少、及び自己免疫溶血性貧血のような他の自己免疫症状についてもまたB細胞枯渇を生じる抗CD20抗体での治療法が研究されている。(Trape等, Haematologica 88:223(2003); Arzo等, Annals of Rheumatic Diseases 61:922 (2002))。
【0006】
ヒトリンパ腫及び他の疾患におけるCD20の重要な役割にも拘わらず、ヒトマーカーを発現する動物モデルは欠けている。よって、疾患の研究及び医薬薬剤開発のために関連する動物モデルが必要である。
【0007】
発明の概要
本発明は、一般にヒト細胞マーカー、特にCD20を発現する非天然に生じる非ヒトトランスジェニック動物に関する。一側面では、トランスジェニック動物は、癌のようなCD20関連疾患又は症状のための新規治療剤を同定し試験する系を提供する。一実施態様では、トランスジェニック動物はCD20に向けられた治療法の有効性と毒性を試験するのに有用である。
【0008】
本発明は、異種性CD20、好ましくはヒトCD20をコードするヌクレオチド配列をそのゲノムが含む非天然に生じるトランスジェニック動物を提供する。ヌクレオチド配列は、好ましくはヒト内因性プロモーターに作用可能に結合しており、よってヒトCD20はBリンパ球の表面に発現せしめられる。今記載されているトランスジェニック動物への抗ヒトCD20抗体の投与により、ヒトCD20を発現するBリンパ腫の枯渇が生じる。一実施態様では、ヒトCD20トランスジェニック動物は、発現細胞に結合した抗ヒトCD20抗体が細胞の死滅に影響を及ぼすのに十分なレベルでの細胞上のヒトCD20の発現によって特徴付けられ、少なくとも約75%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、99%、そして更には100%の末梢及び/又は循環B細胞のB細胞枯渇を生じる。
【0009】
他の実施態様では、動物のゲノムが相同の内因性CD20遺伝子を含む場合、その遺伝子は、内因性分子が細胞表面に発現されないように破壊又はノックアウトされる。
本発明は、更に、B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤を同定する方法を提供し、その方法は、Bリンパ球上にヒトCD20を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与し、Bリンパ球数の減少があるかどうかを決定することを含む。本発明はまたヒトCD20を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与し、そのような細胞の数の減少があるかどうかを決定することを含む、ヒトCD20を発現する細胞を枯渇させ又は殺すことが可能な薬剤を同定する方法を提供する。更に提供されるのは、このような方法によって同定された薬剤である。
【0010】
本発明の動物はまた今記載したトランスジェニック動物への投与によって抗CD20治療剤の毒性を評価するのに有用である。治療特異性、毒性及び効果は、薬剤の効果を野生型動物又は未処置のトランスジェニック動物における効果と比較することによって決定することもまたできる。
【0011】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は更にヒトへ投与される特定の薬剤の安全性の指標を提供することができる。例えば、ヒト化抗体又は他の薬剤をトランスジェニック動物に投与することができ、動物への薬剤の投与の結果生じるあらゆる毒性又は副作用を、インビボでヒトに使用される薬剤又はヒト化抗体の安全性と耐容性の指標としてモニターすることができる。短期の基準で生じうる有害事象には、頭痛、感染、発熱、悪寒、痛み、吐き気、無気力、咽頭炎、下痢、鼻炎、注入反応、及び筋肉痛が含まれる。短期の有害事象は治療後何日間かしばらく測定される。長期の有害事象には、ある細胞型の細胞傷害性、血小板減少による出血事象、免疫及び/又はアレルギー反応によるメディエータの放出、免疫系の阻害及び/又は抗治療剤抗体の発生、終末器官毒性、及び感染又は悪性腫瘍の発生増加が含まれる。長期の有害事象は治療後何ヶ月間も測定される。
【0012】
本発明の他の側面は、抗CD20薬剤の効果を決定する方法を含む。効果は、ある範囲の用量の薬剤を、ヒトCD20を有するトランスジェニック動物群に投与し、ヒトCD20を有する細胞の減少を生じせしめる薬剤の少なくとも一の用量を決定することによって、決定することができる。
【0013】
(詳細な説明)
次の用語は別に特定しない限り以下に基づく意味を持つ。
「コンストラクト」又は「ターゲティングコンストラクト」という用語は、ターゲティング領域を含むポリヌクレオチド分子を意味する。ターゲティング領域は、標的組織、細胞又は動物中の内因性配列に実質的に相同であり、標的組織、細胞又は動物のゲノム中へのターゲティングコンストラクトの組込みをもたらす配列を含む。典型的には、ターゲティングコンストラクトは特に興味のある遺伝子又は核酸配列、マーカー遺伝子及び適切な制御配列をまた含むであろう。
【0014】
「CD20」という用語は免疫系のある種の細胞に発現される細胞表面タンパク質、特にBリンパ球制限分化抗原Bp35を意味する。「天然に生じるCD20」は自然から得られたタンパク質のアミノ酸配列を有し、対立遺伝子変異体、アイソタイプ及び切断型のような天然に生じる変異体を含む。より詳細には、「CD20」はヒトCD20(AH003353;ジェンバンク受託番号M27395、J03574)を含む。ヒト及びマウスCD20の代表的なアミノ酸配列、cDNA配列及びゲノム配列を図21に示す。本発明はまたCD20変異体を考慮する。変異体は一般に知られている方法によって供給源配列と比較して変化させられ、好ましくは天然に生じるヒトCD20の生物学的活性を保持する。好ましくは、変異体は天然に生じるヒトCD20のアミノ酸位置170及び172は変化させないが、これは、Polyak等, Blood 99:3256 (2002)に記載されているように、これらの位置が数種の異なった抗ヒトCDモノクローナル抗体によって認識されるエピトープの一部であることが示されているからである。
【0015】
遺伝子の「破壊」は、DNAの断片が位置し、内因性相同配列と再結合する場合に生じる。これらの配列破壊又は修飾には、挿入、ミスセンス、フレームシフト、欠失、又は置換、又はDNA配列の交換、又はそれらの任意の組み合わせが含まれうる。挿入は、動物、植物、真菌、昆虫、原核生物、又はウイルス由来でありうる全遺伝子の挿入を含む。破壊は、例えば、その生産を部分的に又は完全に阻害するか又は正常な遺伝子産物の活性を向上させることによって正常な遺伝子産物を改変し得る。好適な実施態様では、破壊は遺伝子の有意な発現がない無発現破壊である。
「内因性遺伝子座」とはトランスジェニックになることになる宿主動物に見出される天然に生じる遺伝子座を含むことを意味する。
【0016】
ポリペプチド又は遺伝子との関連で使用される場合の「異種」という用語は非ヒトトランスジェニック宿主動物には見出されないポリペプチドをコードするDNA又はアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。よって、ヒトCD20遺伝子を有するトランスジェニックマウスは異種CD20遺伝子を有するものと記述することができる。導入遺伝子は、PCR、ウェスタンブロット又はサザンブロットを含む様々な方法を使用して検出することができる。「ヒト内因性プロモーター」という用語は、トランスジェニック動物を形成するために動物中に導入されることになるヒトタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に天然に伴っているプロモーターを意味する。
【0017】
「非ヒト動物」という用語は、哺乳類、鳥類、爬虫類、及び両生類のような任意の脊椎動物を含むことを意図している。好適な哺乳類には、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ及びウシが含まれる。好適な鳥類にはニワトリ、ガチョウ、及びシチメンチョウが含まれる。好適な非ヒト動物はラットとマウス、最も好ましくはマウスを含む齧歯類ファミリーから選択される。
物に適用されるここで使用の「天然に生じる」又は「天然に付随する」という用語は、物を自然に見出すことができることを意味する。例えば、天然の供給源から単離することができ、実験室において人によって意図的に改変されていない生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は天然に生じている。
【0018】
核酸に対して、「実質的な相同性」という用語は、二つの核酸又はその示された配列が、最適に整列させ、適切にヌクレオチドを挿入又は欠失して比較した場合に、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは約81%の配列同一性、より好ましくは約82%の配列同一性、より好ましくは約83%の配列同一性、より好ましくは約84%の配列同一性、より好ましくは約85%の配列同一性、より好ましくは約86%の配列同一性、より好ましくは約87%の配列同一性、より好ましくは約88%の配列同一性、より好ましくは約89%の配列同一性、より好ましくは約90%の配列同一性、より好ましくは約91%の配列同一性、より好ましくは約92%の配列同一性、より好ましくは約93%の配列同一性、より好ましくは約94%の配列同一性、より好ましくは約95%の配列同一性、より好ましくは約96%の配列同一性、より好ましくは約97%の配列同一性、より好ましくは約98%の配列同一性、より好ましくは約99%の配列同一性を互いに有することを示している。あるいは、実質的な相同性は、選択的なハイブリダイゼーション条件下でストランドの相補鎖にセグメントがハイブリダイズする場合に存在する。二つの配列を整列させ、%同一性を同定する方法は当業者に知られている。%同一性を決定するための幾つかのコンピュータプログラムが利用可能である。パーセント核酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者の技量の範囲内にある様々な方法で達成することができる。当業者であれば、比較されている配列の完全長にわたって最大のアラインメントを達成するのに必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0019】
「転写制御配列」は、それらが作用可能に結合しているタンパク質コード配列の転写を誘導又は制御する、開始シグナル、エンハンサー、及びプロモーターのようなポリヌクレオチド配列を意味する。好適な実施態様では、組換え導入遺伝子の転写は、発現が意図されている細胞型における組換え遺伝子の発現を制御するプロモーター配列(又は他の転写制御配列)の制御下にある。組換え遺伝子が、同じであるか又はその配列とは異なっており、CD20の天然に生じる形態の転写を制御する転写制御配列の制御下にありうることがまた理解される。
ここで使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、例えばここに開示された方法によってヒトの介入によって細胞中に導入された核酸配列(例えばCD20をコードする)を意味する。導入遺伝子は、それが導入されるトランスジェニック動物又は細胞に対して部分的に又は完全に異種性、つまり外来性でありうる。導入遺伝子は一又は複数の転写制御配列と、選択された核酸の最適な発現に必要でありうるイントロンのような任意の他の核酸を含みうる。
【0020】
「トランスジェニック動物」又は「Tg+」は同義に使用され、動物の細胞の一又は複数が、当該分野でよく知られているトランスジェニック技術によるようなヒトの介入によって導入されているヒトCD20をコードする異種性核酸を含む任意の非天然に生じる非ヒト動物を含むことを意図している。核酸は、細胞の前駆体中への導入、故意の遺伝子操作、例えばマイクロインジェクション又は組換えウイルスでの感染によって、直接的に又は間接的に細胞中に導入される。遺伝子操作という用語は古典的な交雑育種を含まず、むしろ組換えDNA分子の導入に関している。この分子は染色体内に組込まれうるか、又はそれは染色体外に複製するDNAでありうる。「Tg+」という用語には、ヒトCD20にヘテロ接合性及び/又はホモ接合性である動物が含まれる。
【0021】
「CD20関連疾患」は、細胞上のCD20の発現、B細胞の異常増殖又は活性化を伴っているか、又は抗CD20抗体で治療されている疾患又は障害を意味する。例えば、キメラ抗CD20抗体がリンパ腫の患者を治療するために使用されている。抗CD20療法で治療されている他の疾患又は症状には自己免疫症状又は疾患、例えば関節リウマチ、全身性エリテマトーデス及び強直性脊椎炎が含まれる。他の症状には、血液又は骨髄移植後のエプスタインバーウイルス関連疾患、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス関連多中心性キャッスルメン(Castlemen)病、C型肝炎関連クリオグロブリン血症血管炎、自己免疫溶血性貧血を伴うリンパ球増殖疾患、及びANCA関連血管炎が含まれる。
【0022】
A.発明の形態
本発明は異種性CD20マーカーを発現するトランスジェニック動物を提供する。一実施態様では、本発明のヒトCD20トランスジェニック動物はヒトと同じ型のB細胞にCD20を発現する。ヒトCD20を発現するトランスジェニック動物を調製する過去の試みでは、導入遺伝子中への効果的な転写制御領域の取り込みができなかったために適切なB細胞区画におけるヒトCD20の発現を達成できなかった。
本発明は、ヒト患者と同様な形で反応する細胞を有するトランスジェニック動物を提供する。現在記載されているトランスジェニック動物への抗ヒトCD20抗体の投与により、ヒトCD20を発現するBリンパ球の枯渇が生じる。一実施態様では、ヒトCD20トランスジェニックマウスは、発現細胞に結合した抗ヒトCD20抗体が細胞の死滅に影響を及ぼすのに十分なレベルでの細胞上でのヒトCD20の発現により特徴付けられ、少なくとも約75%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、99%、更には100%の末梢及び/又は循環B細胞のB細胞枯渇を生じる。同様な応答がヒトにおいて観察される。これらの動物モデルは、限定されるものではないがCD20マーカーに対するモノクローナル抗体を含む薬剤のスクリーニングに使用することができる。また、トランスジェニック動物は抗CD20に向けられた治療法の効果と毒性を試験するために使用することができる。
【0023】
B.DNAコンストラクト
典型的には、本発明の異種タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子は、適切な宿主細胞中でポリヌクレオチド分子を複製するためにベクター、好ましくはDNAベクター中に挿入される。DNAコンストラクトはまたノックアウト動物のためのターゲティングベクターを調製するのにも有用でありうる。
CD20遺伝子座を単離し、クローニングし、移すために、酵母人工染色体(YAC)を用いることができる。全遺伝子座をクローニングし、一又は数個のYACクローン内に含めることができる。複数のYACクローンが用いられ重複する相同性領域を含む場合、それらを酵母宿主菌内で組換えて全遺伝子座を提示する単一のコンストラクトをつくることができる。YACアームは、過去に概説された方法によって胚性幹細胞又は胚中へのコンストラクトの導入の補助を改善することによって哺乳動物選択カセットで更に改変することができる。
【0024】
高安定性及び比較的大きな挿入断片、操作及びショットガンシークエンシングの容易性のため、細菌人工染色体(BAC)ライブラリーは対象遺伝子のヒト配列を提供し得る。BACライブラリーは100−150kbの平均挿入サイズを含む。BACクローンは300000塩基対もの多くの挿入断片を有することが可能である。Shizuya等, (1992) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89:8794-8797; Kim等, (1996) Genomics 34 213-218; Swiatek, 等, (1993) Genes and Development 7:2071-2084。ヒト及びマウスのゲノムBACライブラリーが構築され、商業的に入手可能である(インビトロゲン, Carlsbad CA)。ゲノムBACライブラリーはまたヒト及びマウスCD20遺伝子配列並びに転写制御領域の供給源となり得る。
【0025】
ヒトCD20をコードする核酸は当業者には知られている。ヒトCD20の代表的なcDNA(配列番号:2)、ゲノム(配列番号:3)及びアミノ酸配列(配列番号:1)は図21に示す。他の配列もまた受託番号AH003353のようにジェンバンクに見出すことができる。マウスCD20(配列番号:4)の代表的なcDNAは図21Dに示す。
異種導入遺伝子は好ましくはトランスジェニック非ヒト動物中で発現されることとなる対象遺伝子に作用可能に結合した生殖系列制御DNA配列を含む。「作用可能に結合」という用語は核酸セグメント、又は与えられたセグメント又は配列の上流(5')又は下流(3')の配列に作用的に(つまり機能的に)結合した遺伝子配列を意味する。それらの近傍の配列はしばしば所望細胞型中での核酸セグメント又は配列のプロセシング及び/又は発現に影響を及ぼす。
【0026】
好ましくは、これらの制御配列は由来がゲノムであり、一又は複数のイントロンを含む。例えば、トランスジェニックコンストラクトは宿主細胞中で遺伝子を複製及び発現可能な形でコード化配列に作用可能に結合して、CD20をコードする遺伝子の5'-フランキング領域に位置した制御領域を含み得る。一実施態様では、制御配列はCD20の何れかに天然に付随する内因性プロモーター配列を含む。幾つかの実施態様では、プロモーターは配列が由来する動物中での発現レベルに類似のレベルの組織特異的発現をもたらす。更なるフランキング配列が発現の最適化に有用であり、かかる配列は既存の配列をプローブとして使用してクローニングできる。導入遺伝子のプロセシング又は発現を最大にするのに必要な更なる配列はゲノム配列から誘導することができる。
【0027】
あるいは、プロモーターは、トランスジェニック宿主動物中の対応する内因性遺伝子に付随したプロモーターでありうる。例えば、マウス遺伝子CD20遺伝子が対応するヒト遺伝子との統合によって破壊される場合、対応するヒト遺伝子は、好ましくは、内因性マウスCD20のそれぞれのマウス転写制御領域に作用可能に結合するように組み込まれる。
好ましくは、制御配列は、例えば抗体での検出のような標準的な方法を使用して発現を検出することができるように適切な細胞中での所定のレベルでの導入遺伝子の発現をもたらす。一実施態様では、制御配列はヒト細胞上でのCD20の発現の少なくとも40%のレベルのヒトCD20導入遺伝子の発現をもたらす。
【0028】
ここに記載された導入遺伝子をコードする発現系又はコンストラクトはまたDNA配列の下流の3'未翻訳領域を含みうる。そのような領域は発現系のRNA転写物を安定化させることができ、よって発現系から所望のタンパク質の収率を増大させる。この発明のコンストラクトに有用な3'未翻訳領域にはポリAシグナルをもたらす配列がある。そのような配列は、例えば当該分野でよく知られたSV40スモールt抗原、CD20未翻訳領域又は他の3'未翻訳配列から誘導することができる。
場合によっては、発現系又はコンストラクトはシグナル配列をコードするDNA配列とプロモーターの間に5'未翻訳領域を有する。そのような未翻訳領域は、プロモーターが取り出されるものと同じ制御領域から由来するか又は異なった遺伝子から由来し得、例えばそれらは他の合成、半合成又は天然源から誘導されうる。
また、導入遺伝子には天然には付随しない他のプロモーター又は他の転写制御配列を利用することができる。例えば異種プロモーターは発現又は組織特異的発現のレベルの向上をもたらしうる。異なった強さを有する様々なプロモーターを、非ヒト動物又は所望の組織型においてそのプロモーターが機能する限り利用することができる。多くのプロモーターが当業者に知られている。
【0029】
発現系は当該分野で公知の方法を使用して調製することができる。例えば、発現系は、より大きなプラスミドの一部として調製することができる。そのような調製は当該分野で知られているような効率的な形での正しいコンストラクトのクローニングと選択を可能にする。発現系は、それらが所望の哺乳動物中への組み込みのため残りのプラスミド配列から容易に単離することができるように、プラスミド上の簡便な制限部位間に位置し得る。好ましくは、ヒトCD20をコードするDNAコンストラクトは、組織特異的発現をもたらすために天然に付随する転写制御配列を含む細菌人工染色体を含む。
プラスミドの調製及び宿主生物の形質転換に使用される様々な方法が当該分野で知られている。原核生物細胞と真核生物細胞の双方に対して好適な他の発現系、並びに一般的な組換え手順については、Sambrook, Fritsch及びManiatisによって編集されたMolecular Cloning A Laboratory Manual, 第2版 (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989) の第16及び17章を参照のこと。
【0030】
C.トランスジェニック動物の産生
ノックアウトとノックインを含む本発明のトランスジェニック動物を産生する方法は当該分野でよく知られている(一般には、Gene Targeting: A Practical Approach, Joyner編, Oxford University Press, Inc. (2000)を参照のこと)。一実施態様では、トランスジェニックマウスの産生は、マウスマーカーの遺伝子座の破壊とヒトマーカーをコードする遺伝子のマウスゲノム中の、好ましくは内因性遺伝子と同じ位置への導入を場合によっては含みうる。
本発明によれば、ヒトCD20がマウスゲノム中に導入されたトランスジェニックマウスモデルが産生される(huCD20+;あるいはhuCD20Tg+と記載する)。内因性マウスCD20ポリペプチドはマウスリンパ球上に存在するが、既知の抗ヒトCD20モノクローナル抗体はマウスB細胞に結合しない。従って、内因性マウスCD20遺伝子は、破壊されないが、望まれるならば破壊することができる。内因性マウスCD20が破壊されない場合、ヒトCD20をコードする遺伝子は、好ましくはマウスCD20をコードする遺伝子の位置以外の位置に挿入される。
【0031】
内因性遺伝子座の不活化
好適な実施態様では、内因性遺伝子座の不活化は、胚性幹細胞における相同組換えによる標的化破壊によって達成される。一実施態様では、DNAが宿主細胞中に導入され、内因性遺伝子座において組換えられて内因性CD20の産生を破壊する。ターゲティングコンストラクトは、当該分野で公知の標準的方法を使用して産生することができる(Sambrook等, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York;E.N. Glover編, 1985, DNA Cloning: A Practical Approach, 第I及びII巻;M.J. Gait編, 1984, Oligonucleotide Synthesis;B. D. Hames及びS.J. Higgins編, 1985, Nucleic Acid Hybridization;B.D. Hames及び S. J. Higgins 編, 1984, Transcription and Translation;R.I. Freshney編, 1986, Animal Cell Culture;Immobilized Cells And Enzymes, IRL Press, 1986;B. Perbel, 1984, A Practical Guide To Molecular Cloning;F.M. Ausubel等編, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.を参照のこと)。例えば、ターゲティングコンストラクトは、配列が合成され、天然源から単離され、操作され、クローン化され、ライゲーションされ、インビトロ突然変異誘発を受け、プライマー修復等を受ける一般的な方法に従って調製することができる。様々な段階で、結合された配列がクローン化され、制限分析によって分析され、配列決定等がなされうる。
【0032】
ターゲティングDNAは当該分野でよく知られている技法を用いて得ることができる。例えば、ターゲティングDNAは、オリゴヌクレオチドの化学合成、二本鎖DNA鋳型のニックトランスレーション、配列のポリメラーゼ連鎖反応増幅(又はリガーゼ連鎖反応増幅)、対象配列(例えばクローン化cDNA又はゲノムDNA、合成DNA又は上記の組み合わせの何れか)を含む原核細胞又は標的クローニングベクターの精製、例えばプラスミド、ファージミド、YAC、コスミド、BAC、バクテリオファージDNA、他のウイルスDNA又は複製中間体、又はその精製制限断片、並びに所望のヌクレオチド配列を有する一本鎖及び二本鎖ポリヌクレオチドの他の供給源の精製によって産生することができる。更に、相同の長さは当該分野で既知の方法を使用して選択することができる。例えば、選択は予め決められた内因性標的DNA配列の配列組成と複雑性に基づいている場合がある。
一実施態様では、本発明のターゲティングコンストラクトは、破壊されることになるCD20遺伝子の一部又は領域に相同の第一配列(又はアーム)とその遺伝子の第二部分又は領域に相同な第二配列を含むターゲティング領域を含む。ターゲティングコンストラクトは、第一及び第二DNA配列間に好ましくは位置するポジティブ選択マーカーを更に含みうる。ポジティブ選択マーカーはプロモーター及びポリアデニル化シグナルに作用可能に結合していてもよい。
【0033】
他の実施態様では、ターゲティングコンストラクトは、ターゲティングコンストラクトの相同アームの一方又は双方の外側に好ましくは位置している、単純ヘルペスウイルスtk(HSV-tk)遺伝子のようなネガティブ選択マーカーを含む一を越える選択マーカー遺伝子を含みうる。ネガティブ選択マーカーはプロモータ及びポリアデニル化シグナルに作用可能に結合しうる(例えば米国特許第5464764号;第5487992号;第5627059号及び第5631153号を参照)。
適切なターゲティングコンストラクトがひとたび調製されれば、ターゲティングコンストラクトは当該分野で知られている任意の方法を使用して適切な宿主細胞中に導入することができる。例えば、前核マイクロインジェクション;生殖系列中へのレトルウイルス媒介遺伝子移入;胚性幹細胞での標的遺伝子組換え;胚のエレクトロポレーション;精子媒介遺伝子移入;及びリン酸カルシウム/DNA共沈、核中へのDNAのマイクロインジェクション、無傷の細胞との細菌プロトプラスト融合、形質移入、ポリカチオン、例えばポリブレン、ポリオルニチンなど等々を含む様々な方法を本発明において用いることができる(例えば米国特許第4873191号; Van der Putten等, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 82:6148-6152; Thompson等, 1989, Cell 56:313-321; Lo, 1983, Mol Cell. Biol. 3:1803-1814; Lavitrano等, 1989, Cell, 57:717-723を参照のこと)。哺乳動物細胞を形質転換する様々な技法が当該分野で知られている(例えばGordon, 1989, Intl. Rev. Cytol., 115:171-229; Keown等, 1989, Methods in Enzymology; Keown等, 1990, Methods and Enzymology, Vol. 185, pp. 527-537; Mansour等, 1988, Nature, 336:348-352を参照のこと)。
【0034】
相同組換えが可能な任意の細胞型を本発明の実施に使用することができる。そのような標的細胞の例には、ヒト、ウシ種、ヒツジ種、マウス種、サル種のようなほ乳類を含む脊椎動物、及び糸状真菌のような他の真核生物、及び植物のような高等多細胞生物から誘導された細胞が含まれる。
好適な細胞型には、典型的にはインビトロで培養された移植前胚から得られる胚性幹(ES)細胞が含まれる(例えば、Evans, M. J.等, 1981, Nature 292:154-156; Bradley, M. O.等, 1984, Nature 309:255-258; Gossler等, 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:9065-9069; 及びRobertson等, 1986, Nature 322:445-448を参照のこと)。当業者によく知られた方法を使用してES細胞を培養し、ターゲティングコンストラクト導入の準備をする(例えば、Robertson, E. J.編 "Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells, a Practical Approach", IRL Press, Washington D.C., 1987; Bradley等, 1986, Current Topics in Devel. Biol. 20:357-371; Hogan等,"Manipulating the Mouse Embryo": A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor N.Y., 1986; Thomas等, 1987, Cell 51:503; Koller等, 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:10730; Dorin等, 1992, Transgenic Res. 1:101;及びVeis等, 1993, Cell 75:229を参照のこと)。ターゲティングコンストラクトと共に挿入されるES細胞は、それらが導入されることになる発生胚と同じ種の胚又は胚盤胞から由来する。ES細胞は典型的には内部細胞塊に組み込まれ、発生の胚盤胞段階で胚の哺乳動物中に導入される場合に個体の生殖系列に寄与するその能力について選択される。よって、この能力を有する任意のES細胞株が本発明を実施するための使用に適している。
【0035】
ターゲティングコンストラクトが細胞中に導入された後、標的遺伝子の組み込みが成功した細胞が同定される。標的遺伝子中へのターゲティングコンストラクトの挿入は、典型的にはマーカー遺伝子の発現によって細胞を同定することによって検出される。好適な実施態様では、本発明のターゲティングコンストラクトで形質転換された細胞を、選択マーカーを発現しない細胞に対して選択する適切な薬剤で処置する。選択マーカー遺伝子を発現する細胞だけが、ある条件下で生存し及び/又は成長する。例えば、導入されたネオマイシン耐性遺伝子を発現する細胞は化合物G418に耐性がある一方、ネオ遺伝子マーカーを発現しない細胞はG418によって殺される。ターゲティングコンストラクトがまたGFPのようなスクリーニングマーカーを含む場合、蛍光光の下にスクリーニング細胞コロニーを通して相同組換えを同定することができる。相同組換えを受けた細胞はGFP遺伝子を欠失しており、蛍光を発しない。
【0036】
あるいは、ポジティブ-ネガティブ選択技術を用いて相同組換え体を選択することができる。この技法は、第一薬剤を細胞集団に加える、例えばネオマイシン様薬剤を形質移入細胞の成長を選択するために、つまりポジティブな選択のために加える。例えばFIAUのような第二薬剤を、つづいてネガティブ選択マーカーを発現する細胞を死滅させるために、つまりネガティブ選択のために加える。ネガティブ選択マーカーを含み発現する細胞は選択薬剤によって死滅される一方、ネガティブ選択マーカーを含まず発現しない細胞は生存する。例えば、コンストラクトの非相同的挿入を伴う細胞はHSVチミジンキナーゼを発現し、よってガンシクロビル(GANC)又はFIAU(1-(2-デオキシ2-フルオロ-B-D-アラビノフルラノシル)-5-ヨードウラシル)のようなヘルペス薬に感受性がある。(例えば、Mansour等, Nature 336:348-352: (1988); Capecchi, Science 244:1288-1292, (1989); Capecchi, Trends in Genet. 5:7076 (1989)を参照のこと)。他の方法には、制御ポジティブ選択法が含まれ(米国特許出願公開第20030032175A1を参照)、これは単一の選択薬剤の添加を必要とする。
【0037】
成功裏の組換えは、選択された細胞のDNAを分析して相同組換えを確認することによって同定することができる。当該分野で既知の様々な方法、例えばPCR及び/又はサザン分析法を用いて相同組換え事象を確認することができる。
ついで、選択された細胞は動物(例えばマウス)の胚盤胞(又は例えば桑実胚のような生存可能な動物を作り出す目的に適した発達の他の段階)に注入してキメラを形成する(例えば、Bradley, A. Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, E. J. Robertson編, IRL, Oxford, pp.113-152 (1987)を参照のこと)。あるいは、選択されたES細胞を分離したマウス胚細胞と凝集させて凝集キメラを形成する。ついで、キメラ胚を適当な偽妊娠雌育成動物中に移植し、胚を出産させることができる。その生殖細胞に相同組換えDNAを有するキメラ子孫を用いて、動物の全細胞が相同組換えされたDNAを含む動物を育種することができる。一実施態様では、キメラ子孫マウスを用いてCD20遺伝子にヘテロ接合性破壊を持つマウスを産生する。ヘテロ接合性トランスジェニックマウスをついで交配させることができる。典型的にはそのような交配の子孫の1/4がCD20遺伝子にホモ接合性破壊を有することは当該分野においてよく知られている。
【0038】
上述の内因性遺伝子座の不活化方法に加えて、更なる好適な不活化方法が利用でき、例えば、対象の特異的遺伝子の時間的な制御を移用するtet転写系の使用(Proc. Natl. Acad. Sci. 91:9302-9306 (1994))又は組織特異的制御のためのデオキシサイクリン転写調節制御の導入(Proc. Natl. Acad. Sci. 93:10933-10938 (1996))が含まれうる。
更なる好適な機能的不活化方法には、遺伝子座の標的ノックアウトのためのcre-lox欠失、部位特異的組換え系の利用が含まれ、そこでは、loxP部位が対象の隣接遺伝子に挿入され、creリコンビナーゼが活性化されて遺伝子を欠失させる(Curr. Opin. Biotechnol., 5:521-527 (1994))。
あるいは、所望の遺伝子座の転写を阻害し、よって内因性遺伝子座の機能的破壊を生じさせるためにアンチセンス又はRNAi法を利用することができる(ノックダウン法)。そのような状況で、対象の指定遺伝子座の特異的配列を標的とするオリゴヌクレオチドが産生され、成功裏のターゲティングにより機能性タンパク質の産生が阻害される。
【0039】
内因性CD20の喪失に対してホモ接合性のノックアウトマウスは国際公開第02/062946号に記載されたようにして調製することができる。簡単に述べると、一実施態様では、CD20欠損マウスを、相同組換えを使用して胚性幹(ES)細胞中におけるマウスCD20遺伝子を標的破壊することによって産生することができる。ネオマイシン耐性遺伝子を持つマウスCD20の大きなカルボキシル末端細胞質ドメイン、第四膜貫通ドメイン、第二の細胞外ループの一部をコードするエキソンを置き換えるターゲティングベクターを産生することができる。マウスCD20のヌクレオチド配列は当業者に知られている。(ジェンバンク受託番号第M62541号;国際公開第02/062946号)。一実施態様では、適切な遺伝子ターゲティングはアミノ酸位置157が切断され、ネオ遺伝子配列によってコードされる88アミノ酸タンパク質と融合された異常CD20タンパク質を産生する。
【0040】
DNA形質移入後、標的の対立遺伝子を担持するネオ耐性ES細胞クローンをサザンブロット分析法によって決定することができる。一つのES細胞クローンの細胞は育成母中に移され得る胚盤胞中に注入することができる。高度にキメラな雄の子孫(外被色によると80−100%)は、その変異を子孫に伝えるために、C57BL/6(B6)雌と共に飼育することができる。CD20遺伝子の破壊に対してホモ接合性のマウスを、ヘテロ接合性子孫を交雑することによって期待されたメネデリアン頻度で得ることができる。
CD20の適切なターゲティングはホモ接合性子孫からのゲノムDNAをPCR分析することによって更に証明することができる。CD20−/−マウス中の野生型CD20mRNAの存在又は不存在はCD20−/−マウスの脾細胞から産生されたcDNAのPCR増幅によって確認することができる。CD20−/−マウス中の細胞表面CD20タンパク質の発現の欠如は、マウス抗CD20モノクローナル抗体でB220+脾細胞を染色することによって更に証明することができる。CD20遺伝子の標的変異は細胞表面CD20タンパク質の発現を抑制する。
【0041】
非ヒト動物中への導入遺伝子の導入
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は好ましくは動物の生殖系列中に導入遺伝子を導入することにより産生される。様々な発達段階の胚性標的細胞を用いて導入遺伝子を導入することができる。胚性標的細胞の発達段階に応じて異なった方法が使用される。この発明を実施するために使用される任意の動物の特異的系統は全体的に良好な健康、良好な胚収量、胚における良好な前核可視性、及び良好な生殖適合性について選択される。トランスジェニックマウスが産生されることになる場合、C57BL/6又はC57BL/6xDBA/2F1のような株、又はFVB系統がしばしば使用される(Charles River Labs, Boston, Mass., The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME, 又はTaconic Labsから商業的に取得した)。好適な系統は、H-2b、H-2d又はH-2qハプロタイプのもの、例えばC57BL/6又はDBA/1である。ヒト腫瘍細胞の導入を可能にするためにヌードマウスを利用してもよい。ヌードマウスの飼育と維持はそれが感染や疾患に罹りやすいために更に難しい。この発明を実施するために使用される系統自体がトランスジェニック体であってもよく、及び/又はノックアウト体であってもよい。好ましくは、最初のノックアウト哺乳動物とトランスジェニック哺乳動物の双方の調製には同じ系統を使用する。これにより、続く飼育と戻し交雑をより効率的なものとできる。
【0042】
胚中への導入遺伝子の導入は当該分野で知られた任意の手段、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション又はリポフェクションによって達成することができる。例えば、導入遺伝子は、受精哺乳動物卵の前核中にコンストラクトをマイクロインジェクションすることによって発達中の哺乳動物の細胞にコンストラクトの一又は複数のコピーを保持させることができる。受精卵中への導入遺伝子コンストラクトの導入後に、変動時間量の間、卵をインビトロでインキュベートするか、又は代理宿主中に再移植するか、又は双方を実施することができる。成熟するまでのインビトロでのインキュベーションはこの発明の範囲内である。一つの一般的な方法は、種に応じて約1−7日インビトロで胚をインキュベートし、ついでそれを代理宿主中に再移植することである。
再移植は標準的な方法を使用して達成される。通常、代理宿主を麻酔し、胚を卵管中に挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は種によって変化するが、通常は、その種が天然に産生する子孫の数に匹敵する。
【0043】
レトロウイルス感染もまた非ヒト動物中に導入遺伝子を導入するために使用することができる。発達中の非ヒト胚を胚盤胞期までインビトロで培養することができる。この期間中、割球がレトロウイルス感染の標的でありうる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260-1264)。割球の効果的な感染は透明帯を取り除く酵素処理によって得られる(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan編 (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。導入遺伝子を導入するために使用されるウイルスベクター系は典型的には導入遺伝子を担持する複製欠陥性レトロウイルスである(Jahner等 (1985) PNAS 82:6927-6931; Van der Putten等 (1985) PNAS 82:6148-6152)。形質移入は、ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することによって簡単かつ効果的に得られる(上掲のVan der Putten; Stewart等 (1987) EMBO J. 6:383-388)。あるいは、感染は後の段階で実施することができる。ウイルス又はウイルス産生細胞を割腔中に注入することができる(Jahner等 (1982) Nature 298:623-628)。殆どのファウンダー(起源物)は、トランスジェニック非ヒト動物を形成した細胞のサブセットにのみ取り込みが生じるので、導入遺伝子に対してモザイクである。更に、ファウンダーは子孫で一般に分離するゲノム中の異なった位置に導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含みうる。また、中期妊娠期間胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖系列中に導入遺伝子を導入することもできる(上掲のJahner等 (1982))。
【0044】
導入遺伝子導入のための標的細胞の第三のタイプは胚性幹細胞である。導入遺伝子はDNA形質移入によるか又はレトロウイルス媒介形質導入によってES細胞中に効率的に導入することができる。そのような形質転換ES細胞をついで非ヒト動物からの胚盤胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞は胚とコロニー形成し、得られるキメラ動物の生殖系列に寄与する。
一実施態様では、図21に示すようにヒトCD20をコードするcDNA又はゲノムクローンを、マイクロインジェクション又は形質移入を使用してFVBマウス受精卵又はES細胞中に導入することができる。胚をインビトロで約1−7日間インキュベートした後、代理宿主に移植する。ES細胞を自然に交配した宿主動物からの胚盤胞と組み合わせ、胚盤胞を代理母中に再移植する。
【0045】
本発明の一実施態様では、非ヒト宿主の内因性CD20遺伝子は、異種CD20遺伝子が内因性CD20遺伝子をそれぞれ実質的に置換し、好ましくは内因性CD20遺伝子のコード化配列を完全に置換するように、異種CD20遺伝子の相同組込みによって機能的に破壊される。好ましくは、異種CD20遺伝子は、相同組込みの結果として、異種遺伝子が内因性CD20遺伝子座から調節エレメントの転写制御下で発現されるように、内因性CD20遺伝子の制御配列(例えばエンハンサープロモーター)に結合する。そのような置換対立遺伝子体に対してホモ接合性である非ヒト宿主はここに記載の方法によって生産することができる。そのようなホモ接合性非ヒト宿主は一般に異種CD20を発現するが、内因性CD20タンパク質を発現しない。通常、異種CD20遺伝子の発現パターンは、天然に生じる(非トランスジェニック)非ヒト宿主における内因性CD20遺伝子の発現パターンを実質的に模倣する。
例えば、内因性マウスCD20遺伝子配列の代わりにヒトCD20遺伝子配列を有し、内因性マウス制御配列によって転写制御されるトランスジェニックマウスを産生させることができる。一般にヒトCD20は、天然に生じる非トランスジェニックマウスにおけるマウスCD20と同様にして発現される。
【0046】
一般に、置換タイプのターゲティングコンストラクトが相同遺伝子置換に用いられる。ターゲティングコンストラクトの内因性CD20遺伝子配列間の二重クロスオーバー相同組換えにより、異種CD20遺伝子セグメントの標的組込みが生じる。通常、導入遺伝子の相同性標的領域は内因性CD20遺伝子セグメントに隣接する配列を含むので、相同組換えは、内因性CD20の同時欠失と異種遺伝子セグメントの相同組込みを生じせしめる。実質的に、内因性CD20遺伝子の全体を、単一ターゲティング事象によるか又は複数ターゲティング事象によって(例えば、個々のエキソンの逐次の置換)異種CD20遺伝子で置き換えることができる。通常はポジティブ又はネガティブ選択発現カセットの形態の、一又は複数の選択マーカーをターゲティングコンストラクトに位置させることができる。通常は、選択マーカーは異種置換領域のイントロン領域に位置しているのが好ましい。
【0047】
トランスジェニックマウスの交雑
導入遺伝子ヒトCD20を有するトランスジェニックマウスは、マウスCD20を欠くトランスジェニックマウスと交雑させることができる。一実施態様では、トランスジェニックマウスはヒトCD20を含み、マウスCD20を欠く。調製方法は、所望のノックアウトコンストラクト又は導入遺伝子の一つをそれぞれが含む一連の哺乳動物を産生することである。そのような哺乳動物を、一連の交雑、戻し交雑及び選択を通して互いに育種し、最終的には、あらゆる所望のノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子を含む単一の哺乳動物が生産されるが、その哺乳動物はノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子が存在することを除くと野生型とその他の点でコンジェニック(遺伝的に同一)である。
【0048】
典型的には、交雑及び戻し交雑は、飼育過程の各特定の工程の目標に応じて、同胞又は親系統を子孫と交配させることによって達成される。ある場合には、適切な染色体位置にノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子のそれぞれを含む単一の子孫を産生するためには、多数の子孫を産生することが必要である場合がある。また、所望の遺伝子型を最終的に得るには数世代にわたって交雑又は戻し交雑を行う必要がある場合がある。
相同組換えかランダム組込みによってひとたびヒト遺伝子座が宿主ゲノム中に導入され、様々なトランスジェニック又は変異動物の適切な育種によって不活化された内因性CD20遺伝子座を持つ宿主動物が産生されたならば、内因性CD20を産生する本来の能力を欠くがヒトCD20をつくる能力を有している宿主をつくることができる。
【0049】
D.導入遺伝子の存在の検証
代理宿主のトランスジェニック子孫を、所望の組織、細胞又は動物中での導入遺伝子の存在及び/又は発現について任意の好適な方法によってスクリーニングすることができる。スクリーニングは、しばしばサザンブロット又はノーザンブロットによって、少なくとも導入遺伝子の一部に相補的であるプローブを用いて達成される。導入遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析法は、導入遺伝子産物の存在をスクリーニングする代替の又は更なる方法として用いることができる。典型的には、DNAを尾の組織から準備し、導入遺伝子についてサザン分析法又はPCRによって分析する。あるいは、最も高いレベルで導入遺伝子を発現すると思われている組織又は細胞が、サザン分析法又はPCRを用いて導入遺伝子の存在及び発現について試験されるが、任意の組織又は細胞型をこの分析に使用することができる。
導入遺伝子の存在を評価するための別の又は更なる方法は、限定するものではないが、好適な生化学アッセイ、例えば酵素及び/又は免疫学的アッセイ、特定のマーカー又は酵素活性に対する組織学的染色、フローサイトメトリー分析等々を含む。血液の分析はまた血液中の導入遺伝子産物の存在を検出し、また様々なタイプの血液細胞及び他の血液成分のレベルに対する導入遺伝子の効果を評価するのに有用でありうる。一実施態様では、ヒトCD20の発現は、ヒトCD20に対する検出可能に標識された抗体を使用し、FACSを用いて標識細胞を分析することにより、脾臓、骨髄、末梢血、リンパ節、及びパイエル板からの免疫細胞において検出することができる。
【0050】
本発明のトランスジェニックマウスにおける発現パターンの検査により、ヒトB系統細胞に見出される正常なヒトCD20発現のミラーリングが明らかになる。T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞及び好中球のものを含む細胞割合及び表現型特性について検査した他の免疫学的パラメータは、トランスジェニックネガティブ及びポジティブ同腹仔間の類似性を明らかにした。
【0051】
E.トランスジェニック動物の用途
本発明のトランスジェニック動物は、ヒトにおけるCD20の発現及び機能のモデルを表す。従って、これらの動物はその機能と関連する事象の背後にある機構を研究し、癌や自己免疫症状を含むCD20関連ヒト疾患を治療し診断するのに有用な生成物(例えば抗体、二重特異性体、多重特異性体等々)を産生し試験するのに有用である。
幾つかの実施態様では、遺伝子組換え的に発現されるヒトCD20はヒト細胞において示されるものと同様の機能特性を保持している。例えば、ヒトCD20を発現するBリンパ球は、抗ヒトCD20抗体によって、またヒトにおけるようにして認識され、ヒトCD20抗体の投与に応答してトランスジェニック動物から同様にして枯渇される。実施例において更に詳細に記載されるように、本発明のトランスジェニックマウスのBリンパ球はリツキサンのような抗ヒトCD20抗体での治療に応答して枯渇される。一実施態様では、ヒトCD20トランスジェニックマウスは、抗ヒトCD20抗体が発現細胞に結合して細胞の死滅に影響を及ぼすのに十分なレベルでの細胞上でのヒトCD20の発現によって特徴付けられ、少なくとも約75%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、99%、更には100%の末梢及び/又は循環B細胞のB細胞枯渇を生じる。同様な応答がヒトにおいて観察される。
【0052】
従って、一実施態様では、本発明のトランスジェニック動物は、例えばヒトCD20の領域のような標的エピトープへの結合について、例えば抗体、多重又は二重特異的分子、イムノアドヘシンのような薬剤を(例えばヒトの安全性と効果について)試験するために使用される。他の薬剤は、Fc領域を伴うか伴わない抗体の抗原結合断片、単鎖抗体、ミニボディ(minibodies)(重鎖のみの抗体)、多量体抗ヒトCD20抗原結合領域の一つを伴うヘテロ多量体イムノアドヘシンを含み得る。他の薬剤は、CD20に結合するがCD20を活性化しないCD20のリガンド変異体を含みうるCD20-B細胞枯渇を阻害するかこれを生じる小分子を含みうる。例えば、悪性B細胞のようなCD20発現細胞を枯渇させるそのような薬剤の効果は、試験薬剤の投与の前後でのトランスジェニック動物中のBリンパ球レベルを測定することによって決定することができる。
【0053】
従って、本発明は、ヒトCD20を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与し、Bリンパ球の数の減少があるかどうかを決定することにより、B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤、並びにヒトCD20を発現するBリンパ球を枯渇又は死滅させることができる薬剤を同定する方法を提供する。ここで使用する場合、「B細胞枯渇」とは、薬剤又は抗体での治療後のかかる治療前のレベルと比較した動物又はヒトにおけるB細胞レベルの減少を意味する。B細胞レベルはここに記載されるよく知られたアッセイ法を使用して測定することができる。B細胞枯渇は部分的か又は完全でありうる。好ましくは、薬剤によって誘導されるB細胞枯渇のレベルは、疾患又は障害の徴候の低減又は軽減と相関する量である。推定薬剤の効果(つまり、CD20を発現するBリンパ球を枯渇させるその能力)は、CD20を発現するトランスジェニック動物における循環Bリンパ球のベースラインレベルを測定し、同動物における投与後のレベルと比較することによって評価することができる。B細胞枯渇の効果の比較を、抗ヒトCD20抗体(例えばリツキサン)のような既知の治療剤に対して行って、CD20関連症状の治療のための推定薬剤の効果を測定することができる。あるいは、Bリンパ球のベースラインレベルを、ヒトCD20を発現する第一のトランスジェニック動物の様々な組織(例えば、脾臓、骨髄、末梢血、リンパ節、パイエル板)において測定することができる。ついで、推定薬剤を、ヒトCD20を発現する第二のトランスジェニック動物に投与することができる。ついで、その動物を屠殺し、Bリンパ球のレベルを分析する。ヒトCD20を発現するトランスジェニック動物におけるBリンパ球数の減少が、B細胞リンパ腫に関連する癌細胞を減少させ、及び/又はヒト患者におけるB細胞リンパ腫を治療する点における薬剤の効果の指標である。併用療法もまた所望の細胞型を枯渇させる効果を決定するために試験することができる。例えば、抗ヒトCD20抗体をBr3-Fcのような他の薬剤と組み合わせて、抗ヒトCD20による死滅に耐性があるかも知れない任意のCD20担持B細胞の枯渇を生じさせることができる。
【0054】
Bリンパ球の回復は、一連のトランスジェニック動物において経時的に細胞レベルを測定することによってまた評価することができる。ヒトCD20に対する薬剤の特異性は、野生型マウス(CD20マーカーを発現しない)に対する効果とヒトCD20を発現するトランスジェニックマウスに対する薬剤の効果を比較することによって評価することができる。薬剤の効果はまた非特定的Ab又は他のコントロール剤のようなプラシーボ又はコントロール物質の効果と比較することもできる。好ましくは、薬剤は、ヒトCD20を有する細胞の殆ど又は全てを標的とするが、T非依存性免疫反応を刺激する抗原に対して免疫応答性をもたらす細胞に影響を及ぼさない。
また、上記動物は、そのような薬剤の投与時におけるトランスジェニック動物においての免疫反応の開始が、薬剤がヒトにおいても同じ効果を示すことの指標であるので、ヒトにおいて潜在的な免疫反応を評価するための有用なモデルである。そのようなトランスジェニック動物における免疫反応に対する効果は例えばサイトカインレベルの変化、抗体の産生又はT細胞応答によって検出することができる。また、トランスジェニック動物は多重又は二重特異的分子の投与の前に標的細胞(例えば腫瘍、ウイルス)を含むように操作することができる。
【0055】
トランスジェニック動物への抗CD20抗体又は二重又は多重特異的分子の投与後に抗体結合を検出するために、任意の好適なアッセイを使用することができる。例えば、動物の血液の試料を採取して、当該分野で既知のスクリーニング方法、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)又はウェスタンブロットアッセイを使用して抗CD抗体-CD複合体の存在をアッセイすることができる。これらのアッセイの各々は一般に対象の複合体に特異的な標識試薬(例えば抗体)を用いることによって特定の対象のタンパク質-抗体複合体の存在を検出する。従って、本発明では、これらのアッセイを用いて、動物の血清中に含まれる免疫グロブリン(例えばIgG、IgA等)と動物の特定の細胞の表面に含まれるヒトCDマーカーの間で形成されるCD-抗体複合体を検出する。
CDマーカー-抗体複合体は、例えば抗体-CDマーカー複合体を認識しそれに特異的に結合する酵素結合抗体又は抗体断片を使用して検出することができる。あるいは、複合体は、様々な他の免疫アッセイ法の任意のものを使用して検出することができる。例えば、抗体は放射標識することができ、ラジオイムノアッセイ(RIA)に使用することができる。放射性同位元素はガンマカウンター又はシンチレーションカウンターの使用のような手段又はオートラジオグラフィーによって検出することができる。
【0056】
トランスジェニック動物への抗体又は二重又は多重特異的分子又は他の薬剤の投与後に免疫反応を検出するために、動物の血漿又は血清中の例えばサイトカイン、抗体又はT細胞集団の濃度変化を測定する任意の好適な手順を使用することができる。例えば、インビボでのサイトカイン濃度の変化は様々なイムノアッセイ法、例えば酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)又はELISPOTアッセイを経由して検出することができる。アッセイすることができる例示的なサイトカインには、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インターロイキン1−12(IL-1からIL-12)が含まれる。
【0057】
例えば、血漿を、抗体、二重特異的又は多重特異的分子又は他の薬剤が投与されたトランスジェニック動物から得ることができる。サイトカインの濃度は、抗体とのサイトカインの相互作用を検出することによってEIAを使用して測定することができ、その抗体が続いて酵素に結合される。酵素の活性は、例えば分光光度定量、蛍光定量又は可視手段によって検出することができる化学部分をつくり出すような、適切な基質、好ましくは色素生産性基質との反応によって検出される(Voller, "The Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA)", Diagnostic Horizons 2:1-7, 1978, Microbiological Associates Quarterly Publication, Walkersville, MD; Voller等, J. Clin. Pathol. 31:507-520 (1978); Butler, Meth. Enzymol. 73:482-523 (1981); Maggio編 Enzyme Immunoassay, CRC Press, Boca Raton, FL, 1980; Ishikawa等編 Enzyme Immunoassay, Kgaku Shoin, Tokyo, 1981)。抗体を検出可能に標識するために使用することができる酵素には、限定するものではないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ-グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ及びアセチルコリンステアラーゼが含まれる。検出は酵素の色素生産性基質を用いる比色分析法によって達成することができる。検出はまたRIAを使用して又は同様にして調製した標準と比較した基質の酵素反応の度合いの可視による比較によっても達成することができる。
【0058】
抗サイトカイン抗体又は抗CD20分子を蛍光化合物で標識することもまたできる。蛍光的に標識された抗体が適切な波長の光に暴露されると、その存在を検出することができる。最も一般的に使用される蛍光標識化合物としてはフルオレッセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド及びフルオレサミンがある。抗体はまた152Euのような蛍光発光金属、又はランタニド系の他のものを使用して検出可能に標識することもできる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属キレート基を使用して抗体に結合させることができる。抗体はまた化学発光化合物にそれを結合させることにより検出可能に標識することができる。ついで、化学発光タグ抗体の存在は化学反応の過程中に生じる発光を検出することによって決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例はルミノール、イソルミノール、サーロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステルである。同様に、生物発光化合物は抗体を標識するために使用することができる。生物発光は生物学的系に見出される化学発光の一タイプであり、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増大させる。生物発光タンパク質の存在は発光の存在を検出することによって決定される。標識のために重要な生物発光化合物はルシフェリン、ルシフェラーゼ及びエクオリンである。
【0059】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は更にヒトに投与される特定の薬剤の安全性の指標を提供し得る。例えば、ヒト化抗体又は他の薬剤をトランスジェニック動物に投与することができ、動物への薬剤の投与の結果としてのあらゆる毒性又は有害作用を、インビボでのヒトへの使用のための薬剤又はヒト化抗体の安全性と耐容性の指標としてモニターすることができる。短期間ベースで生じうる有害事象には、頭痛、感染、発熱、悪寒、痛み、吐き気、無気力、咽頭炎、下痢、鼻炎、注入反応、及び筋肉痛が含まれる。短期の有害事象は治療後何日間かしばらく測定される。長期の有害事象には、ある細胞型の細胞傷害性、血小板減少による出血事象、免疫及び/又はアレルギー反応によるメディエータの放出、免疫系の阻害及び/又は抗治療剤抗体の発生、終末器官毒性、及び感染又は悪性腫瘍の発生増加が含まれる。長期の有害事象は治療後何ヶ月間も測定される。
本発明の他の側面は、抗CD20薬剤の効果を決定する方法を含む。効果は、ある範囲の用量の薬剤を、ヒトCD20を有するトランスジェニック動物群に投与し、ヒトCD20を有する細胞の減少を生じせしめる薬剤の少なくとも一の用量を決定することによって、決定することができる。
【0060】
細胞、組織又はそれらから誘導される他の材料を含む本発明のトランスジェニック動物は疾患、特にCD20担持細胞に関連し又はそれに媒介される疾患のモデルとして利用することができる。限定するものではないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、ミニブタ、ヤギ及び非ヒト霊長類、例えばヒヒ、サル及びチンパンジーを含む任意の種の動物を用いて疾患動物モデルを産生することができる。これらの系は様々な用途に使用することができる。そのようなアッセイは、例えば疾患の徴候を軽減することができる化合物のような薬剤を同定するために設計されるスクリーニング方策の一部として利用することができる。よって、動物及び細胞ベースのモデルを用いて、薬剤、医薬、疾患の治療に効果的でありうる治療法及び介入を同定することができる。
細胞ベース系は疾患の徴候を軽減するように作用する可能性のある化合物を同定するために使用することができる。例えば、そのような細胞系は疾患の徴候を軽減する能力を示すと思われる化合物に、暴露された細胞に疾患徴候のそのような軽減を誘発するのに十分な濃度で十分な時間の間、暴露することができる。暴露後に、細胞を検査して、疾患細胞表現型の一又は複数が改変されて、より正常な又はより野生型の非疾患表現型に似ているかどうかを決定する。
他の用途は当業者には直ぐに明らかであろう。
以下の非限定的実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0061】
実施例1
この実施例はヒトCD20BACトランスジェニック(Tg+)マウスの産生とhCD20+マウスにおける抗ヒトCD20抗体処置の効果の研究を記載する。
ヒトCD20トランスジェニックマウスを、インビトロゲンのCITBヒトBAC-D-クローン番号117H19(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して産生した。ヒトCD20をコードするDNAをヒトリンパ球から単離し、インビトロゲンに送った。インビトロゲンは、ヒトBACライブラリーからのクローンを用いてフィルターに対してDNAを試験し、クローン117H19を同定した。ヒトCD20を発現するトランスジェニックマウスを産生する過去の試みは、おそらくは部分的には導入遺伝子コンストラクト中に十分な転写制御領域を含ませるのに失敗したために成功しなかった。トランスジェニックマウスは、クローン117H19で調製したヒトCD20BACコンストラクトをマウスのFVB近交系の受精卵中に微量注入することにより産生した。受精卵は1−7日間インキュベートした後、代理マウス中に移植した。マウスをヒトCD20発現のFACS分析に基づいてスクリーニングした。図1のFACSプロットから分かるように、導入遺伝子に対してヘテロ接合性(Tg+/−)及びホモ接合性(Tg+/+)のマウスがそのB220+B細胞上にヒトCD20を発現する。マウスCD20遺伝子は意図的に破壊しなかった。
【0062】
図2はB細胞分化及び成熟化の間における様々な細胞表面マーカー(CD43、IgM、IgD)の発現の概略図を提供する。Tg+マウスでは、hCD20はプレB、未熟B細胞及び成熟B細胞に発現される。ヒトCD20はヒトのものと同じ細胞型に見出され、ヒトB細胞上のように僅かに低いレベルに匹敵するレベルでこれらの細胞型に発現される。
Tg+マウスを、FITC(BD Pharmingen)に結合した抗ヒトCD20抗体を使用して骨髄、脾臓、腸間膜LN及びパイエル板のB細胞におけるヒトCD20発現についてスクリーニングした(結果は図3−6に示す)。B220及びCD43、CD21又はCD38について細胞をゲーティングすることにより、異なった組織由来のB細胞の様々な集団中への描写が可能になる。ゲーティングでは、PerCP(BD Biosciences)に結合した抗B220Ab及び抗CD43Ab、抗CD21Ab又はPE(蛍光, Becton Dickinson)に結合した抗CD38Abで細胞を染色した。
【0063】
CD20トランスジェニックマウスの末梢血細胞上でのヒトCD20の発現レベルを、ヒト末梢血細胞上のCD20の発現と比較した。末梢血細胞を数人のヒトドナー及びhCD20Tg+マウスから得て、標識抗ヒトCD20抗体(mH27)で染色した。細胞をFACSによって分析し、ヒトCD19+及びB220のそれぞれについてゲーティングした。代表的なグラフを図22に示す。グラフ上の数は平均蛍光強度を表す。グラフ上の数は、平均蛍光強度の比較に基づいて、ヒトCD20が、ヒト細胞上に発現されるCD20の約40%のレベルでトランスジェニック細胞上に発現されることを示している。
これらの結果は、トランスジェニックマウスの多くの異なった組織から得たB細胞がヒトCD20マーカーを発現することを示している。ヒトCD20マーカーは成熟B細胞に優勢に見出されるが、ヒトに観察されるプロファイルと同様にプレB及び未熟B細胞にもまた見出すことができる。
【0064】
ついで、トランスジェニックマウスを、抗体処置がB細胞枯渇を生じるかどうかを決定するために抗ヒトCD20mAb m2H7で処置した。抗体m2H7はBD PharMingen(San Diego, CA)、eBioscience、又はCalbiochemから得ることができる。m2H7の抗ヒトCD20活性を、インビトロアッセイでリツキサンの活性と比較したが、匹敵する活性を有していた。リツキサンのようなヒト化抗体は、ヒト化抗体への免疫反応が問題とはならない十分に短い時間にわたってインビボでの細胞死滅が生じるので細胞死滅研究においても利用することができる。
抗体m2H7を、図7に概略図によって概説しているように、70kgのヒトの場合の3.5mgに等価な全1mgの用量でトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、矢印で示した日に、末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄及びパイエル板について実施した。抗CD20mAbの血清レベルをモニターした。
【0065】
抗CD20mAb(m2H7)だけでTg+マウスを処置した場合、末梢血、成熟末梢リンパ節B細胞、脾臓中のT2及び卵胞B細胞の枯渇を生じた(図8−11を参照)。しかしながら、ある種のB細胞サブセットは、細胞表面上での抗体の非常に高いおそらくは飽和レベルにも拘わらず、抗CD20抗体による死滅に耐性があることもまた観察された。これらの耐性B細胞は脾臓中の周辺帯B細胞(図10)、及びパイエル板(図12)及び脾臓(図14)の双方の胚中心B細胞である。図14では、マウスに、1日目に100ugの抗CD20mAbの第一の用量と、続く3日目の第二の100ug用量を注射した(50ugの単一用量がB細胞を飽和させるのに十分であったようである)。T2/卵胞B細胞は枯渇したが、パイエル板からの胚中心B細胞は抗CD20mAbに結合することが示されたが死滅化に耐性があった。
【0066】
抗ヒトCD20抗体での処置に続くB細胞の回復を研究した。抗体を1日目にマウスに投与した。図13は、抗体処置の6日後に、末梢血中のB細胞は検出できなかったことを示している。6週目には、抗体の除去時に、hCD20+細胞が検出され始め、14週には、B細胞は正常なレベルまで回復したように見えた。回復はCD20を発現しない前駆B細胞から生じ、それはついでヒトCD20+の成熟B細胞になる。
図14は脾臓胚中心B細胞の短期(単一注射)抗CD20mAb処置に対する耐性を証明するFACSプロットを示す。マウスは免疫しないか、又は脾臓に胚中心を誘導するために1日目に腹腔内注射によってヒツジ赤血球(SRBC)を用いて免疫した。胚中心は7日で現れる。8日には、一群のマウスをm2H7で処置した。マウスのコントロール群はmIgG2aアイソタイプコントロール抗体で処置した。マウスの脾臓細胞を12日目に分析した。胚中心を染色するPNA(ピーナッツアグルチニン)を利用した。SRBCで免疫しなかったマウスの脾臓には検出可能な胚中心細胞は見られなかったが、免疫したマウスの脾臓は0.3%PNA染色細胞を示す。T2/卵胞B細胞は抗CD20抗体処置で枯渇するが、脾臓中の周辺帯B細胞は抗体に耐性がある。
【0067】
ついで、B細胞枯渇時にマウスがT非依存性免疫反応を生じ得るかどうかを決定した。マウスを、0日目にm2H7又はアイソタイプコントロール抗体mIgG2aで処置した。3−7日目に、B細胞枯渇が生じた。7日目に、マウスに肺炎連鎖球菌IVを静脈内注射して多糖に対する応答を誘導した。T細胞非依存性応答に11日目に達した。図15に示す結果は、抗ヒトCD20での処置は周辺帯及びB1細胞からのB細胞応答に影響を及ぼさないこと、すなわち非枯渇MZ及びB1B細胞がT非依存性抗原に対する保護を付与することを実証している。このデータは、体液性免疫の幾つかの観点、特にT非依存性B細胞応答(この場合)が抗CD20mAbでの処置にも拘わらず保存されることを実証している。
【0068】
まとめると、ヒトCD20トランスジェニック動物は血液、骨髄、脾臓、リンパ節及びパイエル板の成熟、プレB及び未熟B細胞上にヒトCD20を発現した。FACSを使用して測定して、トランスジェニック細胞上のヒトCD20の発現レベルはヒト細胞上のCD20のものの約40%であった。抗ヒトCD20抗体でのマウスの処置により、脾臓中の周辺帯B細胞(図10)及びパイエル板(図12)及び脾臓(図14)の双方の胚中心B細胞を除いて、処置から3−4日以内にB細胞の有意な枯渇が生じた。如何なる理論に縛られるものではないが、B細胞死はADCC、補体依存性細胞毒性(CDC)又はアポトーシス又はこれら3種の組み合わせによって媒介されるように思われる。T非依存性抗原に対する応答は、ヒト抗ヒトCD20抗体による枯渇に対する脾臓周辺帯B細胞の耐性に一致している抗ヒトCD20処置マウスに観察された。抗ヒトCD20抗体での死滅化に耐性のあるB細胞はT非依存性免疫応答の保持及び/又は併用療法が所望される場合B細胞の全てを枯渇させるのに必要とされるうるという証拠を提供する。ヒトCD20を発現するB細胞の回復は、最もありそうなことには前駆B細胞の成熟化により、抗ヒトCD20抗体での処置後14週までに観察された。これらの結果はリツキサンで処置されたヒトに見られるものと同様である。
【0069】
実施例2
この実施例はB細胞調節/枯渇のための抗CD20mAb処置とBR3アンタゴニスト処置の相乗効果を実証する。BR3-Fcは、ヒトIgG1、この場合は免疫グロブリン配列の定常ドメインに融合したヒトBR3の細胞外ドメインを有するイムノアドヘシンである。
発現するヒトCD20トランスジェニックマウス(hCD20+マウスと命名)を、抗CD20mAb(9日目に100マイクログラムの単一注射)、BR3-Fc(1日目から12日目まで一日おきに100マイクログラム)、又は抗CD20mAb及びBR3-Fcの組み合わせの腹腔内投与注射で処置した。各群は4匹のマウスからなる。最後の注射の2日後に、マウスを屠殺し、hCD20+B細胞について分析した。脾臓、血液、リンパ節及びパイエル板のFACS分析をB細胞マーカーについて分析した(CD21+CD23+)。
結果は、抗CD20mAb療法が血液及びリンパ節中の成熟循環B細胞の>99%を枯渇させ、BR3-Fc処置が血液及びリンパ節中の成熟循環B細胞を減少させた(図16)ことを示している。抗CD20mAb療法はT2及び卵胞B細胞を枯渇させたが、脾臓中の周辺帯B細胞は枯渇させず、またBR3-Fc処置は脾臓中のT2/卵胞及び周辺帯B細胞を減少させた。
【0070】
抗CD20mAbとBR3-Fcの組み合わせは相乗的に脾臓中のB細胞の全集団を枯渇させた。抗CD20mAbの枯渇は殆どの周辺帯及び幾らかの卵胞/T2脾臓B細胞を残し、またBR3-Fc枯渇は主として周辺帯及び幾らかの卵胞/T2B細胞で生じた(図16)。よって、両方の試薬の併用は脾臓中のB系統細胞を完全に枯渇させる。BR3-Fcも2H7もその2つの組み合わせも何れもパイエル板中の胚中心B細胞には効果がなかった(図17)。形質細胞は抗CD20mAb処置によって有意な影響を受けなかったが(図18)、これは、免疫応答性のある種の側面が抗CD20抗体で処置したマウスで維持されたことを示している。
これらの結果は、殆どのB細胞を枯渇させるために併用療法が有効であることを示している。ヒトと同様に、トランスジェニックマウスの幾らかのB細胞は抗CD20抗体での死滅化に耐性がある。併用療法は抗CD20抗体に耐性のある脾臓中のB細胞の枯渇をもたらす。これは、トランスジェニックマウスが、抗CD20耐性細胞又は非常に攻撃的な腫瘍を有する状況下で更に有効でありうる薬剤の組み合わせを同定するのにもまた有用であることを示している。
【0071】
実施例3
この実験では、ナチュラルキラー細胞が抗CD20mAb媒介B細胞枯渇に所定の役割を果たすことが証明された。
PK-136mAb(マウスNK1.1に対して特異的)を作るハイブリドーマクローンをATCCから得た。4群のヒトCD20トランスジェニックマウスに、コントロールmAb、PK-136、抗CD20mAb及びPK-136/抗CD20の組み合わせをそれぞれ腹腔内(ip)注射した。腹腔内投与の用量は次の通りであった:
コントロールmAb: 200ug/ip、3ip/週、1週間
PK-136: 200ug/ip、3ip/週、1週間
抗CD20mAb: 10ug/ip、単一用量
末梢血、リンパ節及び脾臓からのリンパ球を、抗CD20mAb腹腔内投与3日後に分析した。データはn=8で平均+/−標準誤差として表される。
結果は、PK-136での処置により、検査された組織(肝臓、脾臓及び血液)の中でNK細胞集団のおよそ80%から90%の減少が生じたことを示している(図19)。NK細胞の大部分がない場合、2H7媒介B細胞の枯渇は効果が低かった(図20)。よって、NK細胞は抗CD20mAb媒介B細胞枯渇に所定の役割を担っている。
【0072】
ここに引用した全ての文献(特許及び特許出願を含む)は出典明示によりここに取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、導入遺伝子のないマウス(Tg−)、導入遺伝子についてヘテロ接合マウス(Tg+/−)及びホモ接合性マウス(Tg+/+)から由来するマウスB220+細胞中でのヒトCD20の発現を示す。
【図2】図2はB細胞分化及び成熟化の間の様々な細胞表面マーカー(CD43、IgM、IgD)の発現の模式図を提供する。Tg+マウスでは、hCD20はプレB、未熟B細胞及び成熟B細胞に発現する。
【図3】図3は骨髄のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD43の存在について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD43Abで染色した。
【図4】図4は脾臓のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD21について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD21Abで染色した。ヒトCD20を有するB細胞はT1帯、周辺帯及びT2/卵胞帯に見出される。
【図5】図5は腸間膜リンパ節のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD21について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD21Abで染色した。
【図6】図6はパイエル板のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD38について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD38Abで染色した。ヒトCD20を有するB細胞は成熟B細胞及び胚中心の細胞に見出される。
【図7】図7はTg+マウス中への抗ヒトCD20mAbの投与とヒトCD20を有する細胞の有無の分析の模式図である。抗ヒトCD20モノクローナル抗体1gの単一用量を0日に投与した。−1日、1、2、3、4、7、14及び21日に様々な組織から試料を取った。末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板のような異なった組織からの試料を、過去に記載されているようにして、FACsによって分析した。抗CD20モノクローナル抗体の血清レベルもまたモニターした。
【図8】図8は抗ヒトCD20mAbm2H7(BD Pharmingen)で処置したトランスジェニックマウスにおける末梢B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図9】図9は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける成熟末梢リンパ節B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図10】図10は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける脾臓T2及び卵胞B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図11】図11は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける再循環成熟B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図12】図12は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける成熟B細胞の枯渇とパイエル板胚中心B細胞の枯渇に対する耐性を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図13】図13は抗CD20mAbの投与後のB細胞の枯渇と回復を示す。抗体を1日目にマウスに投与した。抗体処置後6日目には、末梢血中にヒトCD20発現B細胞を検出できなかった。6週目では、抗体の排除時に、hCD20+細胞が検出され始める。14週目までには、B細胞は正常なレベルに回復したようであった。回復は、CD20を発現せず、ついでヒトCD20+を持つ成熟B細胞に発達するプレカーサーB細胞から生じる。
【図14】図14は短期抗CD20mAb療法に対する脾臓胚中心B細胞の耐性を示すFACSプロットを示す。マウスは未免疫か又は1日目に腹腔内注入によってヒツジ赤血球(SRBC)で免疫化して脾臓に胚中心を誘導した。胚中心は7日目に現れる。8日目に、マウスの一群を抗CD20抗体m2H7で処置した。マウスのコントロール群はmIgG2aアイソタイプコントロール抗体で処置した。マウスの脾臓細胞を12日目に分析した。胚中心を染色するPNA(ピーナッツアグルチニン)を使用した。検出可能な胚中心細胞はSRBCで免疫しなかったマウスの脾臓では見られなかったが、免疫したマウスの脾臓は0.3%のPNA染色細胞を示す。T2/卵胞B細胞は抗CD20抗体処置で枯渇するが、脾臓中の周辺中心B細胞は抗体に耐性がある。
【図15】図15は抗CD20mAb処置マウス及びコントロールにおけるT細胞非依存性応答を示す。マウスを、0日目にm2H7又はアイソタイプコントロール抗体mIgG2aで処置した。3−7日目に、B細胞枯渇が生じた。7日目に、マウスに肺炎連鎖球菌IVを静脈内注射して、多糖に対する応答を誘導した。T細胞非依存性応答は11日に達した。該結果は、抗ヒトCD20m2H7での処置は周辺帯及びB1細胞からのB細胞応答に影響を及ぼさない、つまり非枯渇MZ及びB1B細胞がT非依存性抗原に対する保護をもたらすことを実証している。
【図16】図16はTg+マウスにおけるBR3及び2H7抗体処置の効果の比較を示す。ヒトCD20をコードする細菌人工染色体を発現するヒトCD20トランスジェニックマウス(hCD20+マウスと称す)を、抗CD20mAb(9日目に100マイクログラムの一回の注射)、BR3-Fc(1日目から12日目まで一日おきに100マイクログラム)、又は抗CD20mAbとBR3-Fcの組み合わせの腹腔内注射で処置した。各群は4匹のマウスから構成されていた。最後の注射の2日後に、マウスを屠殺し、hCD20+B細胞について分析した。脾臓、血液、リンパ節及びパイエル板のFACS分析をB細胞マーカー(CD21+CD23+)について分析した。抗CD20mAb療法はT2及び卵胞B細胞を枯渇させたが脾臓中の周辺帯B細胞は枯渇させず、またBR3-Fc処置は脾臓中のT2/卵胞及び周辺帯B細胞を減少させた。
【図17】図17はパイエル板に対する抗CD20mAb処置の効果の欠如を示す。ヒトCD20をコードする細菌人工染色体を発現するヒトCD20トランスジェニックマウスを、抗CD20mAb(9日目に100マイクログラムの一回の注射)、BR3-Fc(1日目から12日目まで一日おきに100マイクログラム)、又は抗CD20mAbとBR3-Fcの組み合わせの腹腔内注射で処置した。各群は4匹のマウスから構成されていた。最後の注射の2日後に、マウスを屠殺し、hCD20+B細胞について分析した。脾臓、血液、リンパ節及びパイエル板のFACS分析をB細胞マーカー(CD21+CD23+)について分析した。BR3-Fcも2H7もその二つの組み合わせの何れもパイエル板中の胚中心B細胞に対して効果がなかった。
【図18】図18は長期の抗CD20mAb処置後に形質細胞が枯渇しないことを示す。ヒトCD20に対して陽性のトランスジェニックTg+マウスを、過去に記載されているようにして抗ヒトCD20mH27抗体で処置した。シンジカン(syndican)(CD-138形質細胞マーカー)に対して陽性であった骨髄及び脾臓中の細胞を検出することによって形質細胞の有無についてマウスを分析した。IgA又はIgM陽性形質細胞の数をまた抗ヒトCD20処置後にモニターした。結果は、Tg+マウス中の形質細胞は抗ヒトCD20抗体処置には影響を受けないことを示し、これはTg+マウスが抗体を産生する能力を尚有していることを示している。
【図19】図19はTg+マウス中でのPK-136mAbによるNK細胞の枯渇を示す。(マウスNK1.1に対して特異的な)PK-136mAbを産生するハイブリドーマクローンをATCCから取得した。4群のヒトCD20トランスジェニックマウスに、コントロールmAb、PK-136、抗CD20mAb及びPK-136/抗CD20の組み合わせをそれぞれ腹腔内(ip)注射した。腹腔内投与された用量は次の通りであった: コントロールmAb:200ug/ip、3ip/週、1週間 PK-136:200ug/ip、3ip/週、1週間 抗CD20mAb: 10ug/ip、単一用量 末梢血、肝臓及び脾臓からのNK細胞を、抗体処置後に分析した。データは、n=8で、平均+/−標準誤差として表す。
【図20】図20は、NK細胞がTg+マウス中において2H7媒介B細胞枯渇に所定の役割を果たしていることを示す。(マウスNK1.1に対して特異的な)PK-136mAbを産生するハイブリドーマクローンをATCCから取得した。4群のヒトCD20トランスジェニックマウスに、コントロールmAb、PK-136、抗CD20mAb及びPK-136/抗CD20の組み合わせをそれぞれ腹腔内(ip)注射した。腹腔内投与された用量は次の通りであった: コントロールmAb:200ug/ip、3ip/週、1週間 PK-136:200ug/ip、3ip/週、1週間 抗CD20mAb:10ug/ip、単一用量 末梢血、リンパ節及び脾臓からのリンパ球を、抗CD20mAbの腹腔内投与3日後に分析した。データは、n=8で、平均+/−標準誤差として表す。
【図21A】ヒトCD20のアミノ酸配列(配列番号:1)(ジェンバンク受託番号BC002807)を示す。
【図21B】ヒトCD20のcDNA配列(配列番号:2)(ジェンバンク受託番号BC002807)を示す。
【図21C−1】ヒトCD20のゲノム配列(配列番号:3)(ジェンバンク受託番号AH005353)を示す。
【図21C−2】ヒトCD20のゲノム配列(配列番号:3)(ジェンバンク受託番号AH005353)を示す。
【図21C−3】ヒトCD20のゲノム配列(配列番号:3)(ジェンバンク受託番号AH005353)を示す。
【図21D】マウスの代表的なcDNA配列(配列番号:4)(ジェンバンク受託番号M62541)を示す。
【図22】図22はヒト末梢血細胞上のCD20の発現と比較したヒトCD20トランスジェニックマウス由来の末梢血細胞上のヒトCD20発現の発現レベルの代表的な比較を示す。末梢血細胞はヒトドナー及びhCD20Tg+マウスから取得し、標識抗ヒトCD20抗体(mH27)で染色した。細胞をFACSによって分析し、ヒトCD19+及びB220+集団についてゲーティングした。グラフ上の数値は平均蛍光強度を表している。
【発明の開示】
【0001】
この出願は、全ての国を指定し、2002年12月16日出願の米国仮出願番号第60/434115号及び2003年6月5日出願の米国仮出願番号第60/476481号に基づく優先権を主張して、米国籍の国内企業のジェネンテック・インク(米国を除く全ての国に対しての出願人)、米国在住米国市民アンドリュー・チー-イェン・チャン(米国に対してのみ出願人)、米国在住中国市民キアン・ゴン(米国に対してのみ出願人)、及び米国在住ルーマニア市民フラビウス・マーチン(米国に対してのみ出願人)の名義で2003年12月11日にPCT国際特許出願として出願されたものである。
【0002】
発明の背景
T細胞とB細胞は共に分化と同定のためのマーカーとして利用することができる細胞表面タンパク質を含む。一つのそのようなヒトB細胞マーカーは「CD20」としても知られているヒトBリンパ球制限的分化抗原Bp35である。CD20は初期プレB細胞発生中に発現し、形質細胞の分化まで残る。CD20分子は、細胞分裂周期開始と分化に必要な活性化プロセスの工程を調節すると考えられている。
【0003】
CD20は正常なB細胞並びにその衰えない増殖がB細胞リンパ腫を生じうる悪性B細胞の双方に存在する。よって、CD20表面抗原は抗原に特異的な抗体を用いてB細胞リンパ腫のターゲティングの候補となる可能性がある。これらの抗CD20抗原は正常及び悪性B細胞双方のCD20細胞表面抗原に特異的に結合し、B細胞の破壊と枯渇を生じる。腫瘍を破壊する可能性を有する化学薬剤又は放射標識を該薬剤が腫瘍性B細胞に特異的に送達されるように抗CD20抗体に結合させることができる。
【0004】
CD20を標的とするモノクローナル抗体の使用は記載されている(例えば、Weiner, Semin. Oncol., 26, 43-51 (1999); Gopal及びPress, J. Lab. Clin. Med., 134, 445-450 (1999); White等, Pharm. Sci. Technol. Today, 2, 95101 (1999)を参照)。リツキサンTMは、リンパ腫と新しく診断された患者及びリンパ腫が再発した患者に対して単一の薬剤としてまた化学療法と併用して広く使用されているキメラ抗CD20モノクローナル抗体である(Davis等, J. Clin. Oncol., 17, 1851-1857 (1999); Solal-Celigny等, Blood, 94, abstract 2802 (1999); Foran等, J. Clin. Oncol., 18, 317-324 (2000))。放射標識抗体のコンジュゲートの利用もまた記載されている(例えば、BexxarTM; Zelenetz等, Blood, 94, abstract 2806 (1999))。
【0005】
CD20を標的とする抗体の使用は、他の症状、特に自己免疫性に関連するものについてもまた記載されている。例えば、抗CD20抗体療法は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス及び強直性脊椎炎の治療において過去に評価され又は現在も評価されている。(Protheroe等, Rheumatology 38:1150(1999))。例えば自己免疫血小板減少症及び好中球減少、及び自己免疫溶血性貧血のような他の自己免疫症状についてもまたB細胞枯渇を生じる抗CD20抗体での治療法が研究されている。(Trape等, Haematologica 88:223(2003); Arzo等, Annals of Rheumatic Diseases 61:922 (2002))。
【0006】
ヒトリンパ腫及び他の疾患におけるCD20の重要な役割にも拘わらず、ヒトマーカーを発現する動物モデルは欠けている。よって、疾患の研究及び医薬薬剤開発のために関連する動物モデルが必要である。
【0007】
発明の概要
本発明は、一般にヒト細胞マーカー、特にCD20を発現する非天然に生じる非ヒトトランスジェニック動物に関する。一側面では、トランスジェニック動物は、癌のようなCD20関連疾患又は症状のための新規治療剤を同定し試験する系を提供する。一実施態様では、トランスジェニック動物はCD20に向けられた治療法の有効性と毒性を試験するのに有用である。
【0008】
本発明は、異種性CD20、好ましくはヒトCD20をコードするヌクレオチド配列をそのゲノムが含む非天然に生じるトランスジェニック動物を提供する。ヌクレオチド配列は、好ましくはヒト内因性プロモーターに作用可能に結合しており、よってヒトCD20はBリンパ球の表面に発現せしめられる。今記載されているトランスジェニック動物への抗ヒトCD20抗体の投与により、ヒトCD20を発現するBリンパ腫の枯渇が生じる。一実施態様では、ヒトCD20トランスジェニック動物は、発現細胞に結合した抗ヒトCD20抗体が細胞の死滅に影響を及ぼすのに十分なレベルでの細胞上のヒトCD20の発現によって特徴付けられ、少なくとも約75%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、99%、そして更には100%の末梢及び/又は循環B細胞のB細胞枯渇を生じる。
【0009】
他の実施態様では、動物のゲノムが相同の内因性CD20遺伝子を含む場合、その遺伝子は、内因性分子が細胞表面に発現されないように破壊又はノックアウトされる。
本発明は、更に、B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤を同定する方法を提供し、その方法は、Bリンパ球上にヒトCD20を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与し、Bリンパ球数の減少があるかどうかを決定することを含む。本発明はまたヒトCD20を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与し、そのような細胞の数の減少があるかどうかを決定することを含む、ヒトCD20を発現する細胞を枯渇させ又は殺すことが可能な薬剤を同定する方法を提供する。更に提供されるのは、このような方法によって同定された薬剤である。
【0010】
本発明の動物はまた今記載したトランスジェニック動物への投与によって抗CD20治療剤の毒性を評価するのに有用である。治療特異性、毒性及び効果は、薬剤の効果を野生型動物又は未処置のトランスジェニック動物における効果と比較することによって決定することもまたできる。
【0011】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は更にヒトへ投与される特定の薬剤の安全性の指標を提供することができる。例えば、ヒト化抗体又は他の薬剤をトランスジェニック動物に投与することができ、動物への薬剤の投与の結果生じるあらゆる毒性又は副作用を、インビボでヒトに使用される薬剤又はヒト化抗体の安全性と耐容性の指標としてモニターすることができる。短期の基準で生じうる有害事象には、頭痛、感染、発熱、悪寒、痛み、吐き気、無気力、咽頭炎、下痢、鼻炎、注入反応、及び筋肉痛が含まれる。短期の有害事象は治療後何日間かしばらく測定される。長期の有害事象には、ある細胞型の細胞傷害性、血小板減少による出血事象、免疫及び/又はアレルギー反応によるメディエータの放出、免疫系の阻害及び/又は抗治療剤抗体の発生、終末器官毒性、及び感染又は悪性腫瘍の発生増加が含まれる。長期の有害事象は治療後何ヶ月間も測定される。
【0012】
本発明の他の側面は、抗CD20薬剤の効果を決定する方法を含む。効果は、ある範囲の用量の薬剤を、ヒトCD20を有するトランスジェニック動物群に投与し、ヒトCD20を有する細胞の減少を生じせしめる薬剤の少なくとも一の用量を決定することによって、決定することができる。
【0013】
(詳細な説明)
次の用語は別に特定しない限り以下に基づく意味を持つ。
「コンストラクト」又は「ターゲティングコンストラクト」という用語は、ターゲティング領域を含むポリヌクレオチド分子を意味する。ターゲティング領域は、標的組織、細胞又は動物中の内因性配列に実質的に相同であり、標的組織、細胞又は動物のゲノム中へのターゲティングコンストラクトの組込みをもたらす配列を含む。典型的には、ターゲティングコンストラクトは特に興味のある遺伝子又は核酸配列、マーカー遺伝子及び適切な制御配列をまた含むであろう。
【0014】
「CD20」という用語は免疫系のある種の細胞に発現される細胞表面タンパク質、特にBリンパ球制限分化抗原Bp35を意味する。「天然に生じるCD20」は自然から得られたタンパク質のアミノ酸配列を有し、対立遺伝子変異体、アイソタイプ及び切断型のような天然に生じる変異体を含む。より詳細には、「CD20」はヒトCD20(AH003353;ジェンバンク受託番号M27395、J03574)を含む。ヒト及びマウスCD20の代表的なアミノ酸配列、cDNA配列及びゲノム配列を図21に示す。本発明はまたCD20変異体を考慮する。変異体は一般に知られている方法によって供給源配列と比較して変化させられ、好ましくは天然に生じるヒトCD20の生物学的活性を保持する。好ましくは、変異体は天然に生じるヒトCD20のアミノ酸位置170及び172は変化させないが、これは、Polyak等, Blood 99:3256 (2002)に記載されているように、これらの位置が数種の異なった抗ヒトCDモノクローナル抗体によって認識されるエピトープの一部であることが示されているからである。
【0015】
遺伝子の「破壊」は、DNAの断片が位置し、内因性相同配列と再結合する場合に生じる。これらの配列破壊又は修飾には、挿入、ミスセンス、フレームシフト、欠失、又は置換、又はDNA配列の交換、又はそれらの任意の組み合わせが含まれうる。挿入は、動物、植物、真菌、昆虫、原核生物、又はウイルス由来でありうる全遺伝子の挿入を含む。破壊は、例えば、その生産を部分的に又は完全に阻害するか又は正常な遺伝子産物の活性を向上させることによって正常な遺伝子産物を改変し得る。好適な実施態様では、破壊は遺伝子の有意な発現がない無発現破壊である。
「内因性遺伝子座」とはトランスジェニックになることになる宿主動物に見出される天然に生じる遺伝子座を含むことを意味する。
【0016】
ポリペプチド又は遺伝子との関連で使用される場合の「異種」という用語は非ヒトトランスジェニック宿主動物には見出されないポリペプチドをコードするDNA又はアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。よって、ヒトCD20遺伝子を有するトランスジェニックマウスは異種CD20遺伝子を有するものと記述することができる。導入遺伝子は、PCR、ウェスタンブロット又はサザンブロットを含む様々な方法を使用して検出することができる。「ヒト内因性プロモーター」という用語は、トランスジェニック動物を形成するために動物中に導入されることになるヒトタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に天然に伴っているプロモーターを意味する。
【0017】
「非ヒト動物」という用語は、哺乳類、鳥類、爬虫類、及び両生類のような任意の脊椎動物を含むことを意図している。好適な哺乳類には、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ及びウシが含まれる。好適な鳥類にはニワトリ、ガチョウ、及びシチメンチョウが含まれる。好適な非ヒト動物はラットとマウス、最も好ましくはマウスを含む齧歯類ファミリーから選択される。
物に適用されるここで使用の「天然に生じる」又は「天然に付随する」という用語は、物を自然に見出すことができることを意味する。例えば、天然の供給源から単離することができ、実験室において人によって意図的に改変されていない生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は天然に生じている。
【0018】
核酸に対して、「実質的な相同性」という用語は、二つの核酸又はその示された配列が、最適に整列させ、適切にヌクレオチドを挿入又は欠失して比較した場合に、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは約81%の配列同一性、より好ましくは約82%の配列同一性、より好ましくは約83%の配列同一性、より好ましくは約84%の配列同一性、より好ましくは約85%の配列同一性、より好ましくは約86%の配列同一性、より好ましくは約87%の配列同一性、より好ましくは約88%の配列同一性、より好ましくは約89%の配列同一性、より好ましくは約90%の配列同一性、より好ましくは約91%の配列同一性、より好ましくは約92%の配列同一性、より好ましくは約93%の配列同一性、より好ましくは約94%の配列同一性、より好ましくは約95%の配列同一性、より好ましくは約96%の配列同一性、より好ましくは約97%の配列同一性、より好ましくは約98%の配列同一性、より好ましくは約99%の配列同一性を互いに有することを示している。あるいは、実質的な相同性は、選択的なハイブリダイゼーション条件下でストランドの相補鎖にセグメントがハイブリダイズする場合に存在する。二つの配列を整列させ、%同一性を同定する方法は当業者に知られている。%同一性を決定するための幾つかのコンピュータプログラムが利用可能である。パーセント核酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者の技量の範囲内にある様々な方法で達成することができる。当業者であれば、比較されている配列の完全長にわたって最大のアラインメントを達成するのに必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0019】
「転写制御配列」は、それらが作用可能に結合しているタンパク質コード配列の転写を誘導又は制御する、開始シグナル、エンハンサー、及びプロモーターのようなポリヌクレオチド配列を意味する。好適な実施態様では、組換え導入遺伝子の転写は、発現が意図されている細胞型における組換え遺伝子の発現を制御するプロモーター配列(又は他の転写制御配列)の制御下にある。組換え遺伝子が、同じであるか又はその配列とは異なっており、CD20の天然に生じる形態の転写を制御する転写制御配列の制御下にありうることがまた理解される。
ここで使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、例えばここに開示された方法によってヒトの介入によって細胞中に導入された核酸配列(例えばCD20をコードする)を意味する。導入遺伝子は、それが導入されるトランスジェニック動物又は細胞に対して部分的に又は完全に異種性、つまり外来性でありうる。導入遺伝子は一又は複数の転写制御配列と、選択された核酸の最適な発現に必要でありうるイントロンのような任意の他の核酸を含みうる。
【0020】
「トランスジェニック動物」又は「Tg+」は同義に使用され、動物の細胞の一又は複数が、当該分野でよく知られているトランスジェニック技術によるようなヒトの介入によって導入されているヒトCD20をコードする異種性核酸を含む任意の非天然に生じる非ヒト動物を含むことを意図している。核酸は、細胞の前駆体中への導入、故意の遺伝子操作、例えばマイクロインジェクション又は組換えウイルスでの感染によって、直接的に又は間接的に細胞中に導入される。遺伝子操作という用語は古典的な交雑育種を含まず、むしろ組換えDNA分子の導入に関している。この分子は染色体内に組込まれうるか、又はそれは染色体外に複製するDNAでありうる。「Tg+」という用語には、ヒトCD20にヘテロ接合性及び/又はホモ接合性である動物が含まれる。
【0021】
「CD20関連疾患」は、細胞上のCD20の発現、B細胞の異常増殖又は活性化を伴っているか、又は抗CD20抗体で治療されている疾患又は障害を意味する。例えば、キメラ抗CD20抗体がリンパ腫の患者を治療するために使用されている。抗CD20療法で治療されている他の疾患又は症状には自己免疫症状又は疾患、例えば関節リウマチ、全身性エリテマトーデス及び強直性脊椎炎が含まれる。他の症状には、血液又は骨髄移植後のエプスタインバーウイルス関連疾患、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス関連多中心性キャッスルメン(Castlemen)病、C型肝炎関連クリオグロブリン血症血管炎、自己免疫溶血性貧血を伴うリンパ球増殖疾患、及びANCA関連血管炎が含まれる。
【0022】
A.発明の形態
本発明は異種性CD20マーカーを発現するトランスジェニック動物を提供する。一実施態様では、本発明のヒトCD20トランスジェニック動物はヒトと同じ型のB細胞にCD20を発現する。ヒトCD20を発現するトランスジェニック動物を調製する過去の試みでは、導入遺伝子中への効果的な転写制御領域の取り込みができなかったために適切なB細胞区画におけるヒトCD20の発現を達成できなかった。
本発明は、ヒト患者と同様な形で反応する細胞を有するトランスジェニック動物を提供する。現在記載されているトランスジェニック動物への抗ヒトCD20抗体の投与により、ヒトCD20を発現するBリンパ球の枯渇が生じる。一実施態様では、ヒトCD20トランスジェニックマウスは、発現細胞に結合した抗ヒトCD20抗体が細胞の死滅に影響を及ぼすのに十分なレベルでの細胞上でのヒトCD20の発現により特徴付けられ、少なくとも約75%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、99%、更には100%の末梢及び/又は循環B細胞のB細胞枯渇を生じる。同様な応答がヒトにおいて観察される。これらの動物モデルは、限定されるものではないがCD20マーカーに対するモノクローナル抗体を含む薬剤のスクリーニングに使用することができる。また、トランスジェニック動物は抗CD20に向けられた治療法の効果と毒性を試験するために使用することができる。
【0023】
B.DNAコンストラクト
典型的には、本発明の異種タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子は、適切な宿主細胞中でポリヌクレオチド分子を複製するためにベクター、好ましくはDNAベクター中に挿入される。DNAコンストラクトはまたノックアウト動物のためのターゲティングベクターを調製するのにも有用でありうる。
CD20遺伝子座を単離し、クローニングし、移すために、酵母人工染色体(YAC)を用いることができる。全遺伝子座をクローニングし、一又は数個のYACクローン内に含めることができる。複数のYACクローンが用いられ重複する相同性領域を含む場合、それらを酵母宿主菌内で組換えて全遺伝子座を提示する単一のコンストラクトをつくることができる。YACアームは、過去に概説された方法によって胚性幹細胞又は胚中へのコンストラクトの導入の補助を改善することによって哺乳動物選択カセットで更に改変することができる。
【0024】
高安定性及び比較的大きな挿入断片、操作及びショットガンシークエンシングの容易性のため、細菌人工染色体(BAC)ライブラリーは対象遺伝子のヒト配列を提供し得る。BACライブラリーは100−150kbの平均挿入サイズを含む。BACクローンは300000塩基対もの多くの挿入断片を有することが可能である。Shizuya等, (1992) Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89:8794-8797; Kim等, (1996) Genomics 34 213-218; Swiatek, 等, (1993) Genes and Development 7:2071-2084。ヒト及びマウスのゲノムBACライブラリーが構築され、商業的に入手可能である(インビトロゲン, Carlsbad CA)。ゲノムBACライブラリーはまたヒト及びマウスCD20遺伝子配列並びに転写制御領域の供給源となり得る。
【0025】
ヒトCD20をコードする核酸は当業者には知られている。ヒトCD20の代表的なcDNA(配列番号:2)、ゲノム(配列番号:3)及びアミノ酸配列(配列番号:1)は図21に示す。他の配列もまた受託番号AH003353のようにジェンバンクに見出すことができる。マウスCD20(配列番号:4)の代表的なcDNAは図21Dに示す。
異種導入遺伝子は好ましくはトランスジェニック非ヒト動物中で発現されることとなる対象遺伝子に作用可能に結合した生殖系列制御DNA配列を含む。「作用可能に結合」という用語は核酸セグメント、又は与えられたセグメント又は配列の上流(5')又は下流(3')の配列に作用的に(つまり機能的に)結合した遺伝子配列を意味する。それらの近傍の配列はしばしば所望細胞型中での核酸セグメント又は配列のプロセシング及び/又は発現に影響を及ぼす。
【0026】
好ましくは、これらの制御配列は由来がゲノムであり、一又は複数のイントロンを含む。例えば、トランスジェニックコンストラクトは宿主細胞中で遺伝子を複製及び発現可能な形でコード化配列に作用可能に結合して、CD20をコードする遺伝子の5'-フランキング領域に位置した制御領域を含み得る。一実施態様では、制御配列はCD20の何れかに天然に付随する内因性プロモーター配列を含む。幾つかの実施態様では、プロモーターは配列が由来する動物中での発現レベルに類似のレベルの組織特異的発現をもたらす。更なるフランキング配列が発現の最適化に有用であり、かかる配列は既存の配列をプローブとして使用してクローニングできる。導入遺伝子のプロセシング又は発現を最大にするのに必要な更なる配列はゲノム配列から誘導することができる。
【0027】
あるいは、プロモーターは、トランスジェニック宿主動物中の対応する内因性遺伝子に付随したプロモーターでありうる。例えば、マウス遺伝子CD20遺伝子が対応するヒト遺伝子との統合によって破壊される場合、対応するヒト遺伝子は、好ましくは、内因性マウスCD20のそれぞれのマウス転写制御領域に作用可能に結合するように組み込まれる。
好ましくは、制御配列は、例えば抗体での検出のような標準的な方法を使用して発現を検出することができるように適切な細胞中での所定のレベルでの導入遺伝子の発現をもたらす。一実施態様では、制御配列はヒト細胞上でのCD20の発現の少なくとも40%のレベルのヒトCD20導入遺伝子の発現をもたらす。
【0028】
ここに記載された導入遺伝子をコードする発現系又はコンストラクトはまたDNA配列の下流の3'未翻訳領域を含みうる。そのような領域は発現系のRNA転写物を安定化させることができ、よって発現系から所望のタンパク質の収率を増大させる。この発明のコンストラクトに有用な3'未翻訳領域にはポリAシグナルをもたらす配列がある。そのような配列は、例えば当該分野でよく知られたSV40スモールt抗原、CD20未翻訳領域又は他の3'未翻訳配列から誘導することができる。
場合によっては、発現系又はコンストラクトはシグナル配列をコードするDNA配列とプロモーターの間に5'未翻訳領域を有する。そのような未翻訳領域は、プロモーターが取り出されるものと同じ制御領域から由来するか又は異なった遺伝子から由来し得、例えばそれらは他の合成、半合成又は天然源から誘導されうる。
また、導入遺伝子には天然には付随しない他のプロモーター又は他の転写制御配列を利用することができる。例えば異種プロモーターは発現又は組織特異的発現のレベルの向上をもたらしうる。異なった強さを有する様々なプロモーターを、非ヒト動物又は所望の組織型においてそのプロモーターが機能する限り利用することができる。多くのプロモーターが当業者に知られている。
【0029】
発現系は当該分野で公知の方法を使用して調製することができる。例えば、発現系は、より大きなプラスミドの一部として調製することができる。そのような調製は当該分野で知られているような効率的な形での正しいコンストラクトのクローニングと選択を可能にする。発現系は、それらが所望の哺乳動物中への組み込みのため残りのプラスミド配列から容易に単離することができるように、プラスミド上の簡便な制限部位間に位置し得る。好ましくは、ヒトCD20をコードするDNAコンストラクトは、組織特異的発現をもたらすために天然に付随する転写制御配列を含む細菌人工染色体を含む。
プラスミドの調製及び宿主生物の形質転換に使用される様々な方法が当該分野で知られている。原核生物細胞と真核生物細胞の双方に対して好適な他の発現系、並びに一般的な組換え手順については、Sambrook, Fritsch及びManiatisによって編集されたMolecular Cloning A Laboratory Manual, 第2版 (Cold Spring Harbor Laboratory Press: 1989) の第16及び17章を参照のこと。
【0030】
C.トランスジェニック動物の産生
ノックアウトとノックインを含む本発明のトランスジェニック動物を産生する方法は当該分野でよく知られている(一般には、Gene Targeting: A Practical Approach, Joyner編, Oxford University Press, Inc. (2000)を参照のこと)。一実施態様では、トランスジェニックマウスの産生は、マウスマーカーの遺伝子座の破壊とヒトマーカーをコードする遺伝子のマウスゲノム中の、好ましくは内因性遺伝子と同じ位置への導入を場合によっては含みうる。
本発明によれば、ヒトCD20がマウスゲノム中に導入されたトランスジェニックマウスモデルが産生される(huCD20+;あるいはhuCD20Tg+と記載する)。内因性マウスCD20ポリペプチドはマウスリンパ球上に存在するが、既知の抗ヒトCD20モノクローナル抗体はマウスB細胞に結合しない。従って、内因性マウスCD20遺伝子は、破壊されないが、望まれるならば破壊することができる。内因性マウスCD20が破壊されない場合、ヒトCD20をコードする遺伝子は、好ましくはマウスCD20をコードする遺伝子の位置以外の位置に挿入される。
【0031】
内因性遺伝子座の不活化
好適な実施態様では、内因性遺伝子座の不活化は、胚性幹細胞における相同組換えによる標的化破壊によって達成される。一実施態様では、DNAが宿主細胞中に導入され、内因性遺伝子座において組換えられて内因性CD20の産生を破壊する。ターゲティングコンストラクトは、当該分野で公知の標準的方法を使用して産生することができる(Sambrook等, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York;E.N. Glover編, 1985, DNA Cloning: A Practical Approach, 第I及びII巻;M.J. Gait編, 1984, Oligonucleotide Synthesis;B. D. Hames及びS.J. Higgins編, 1985, Nucleic Acid Hybridization;B.D. Hames及び S. J. Higgins 編, 1984, Transcription and Translation;R.I. Freshney編, 1986, Animal Cell Culture;Immobilized Cells And Enzymes, IRL Press, 1986;B. Perbel, 1984, A Practical Guide To Molecular Cloning;F.M. Ausubel等編, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.を参照のこと)。例えば、ターゲティングコンストラクトは、配列が合成され、天然源から単離され、操作され、クローン化され、ライゲーションされ、インビトロ突然変異誘発を受け、プライマー修復等を受ける一般的な方法に従って調製することができる。様々な段階で、結合された配列がクローン化され、制限分析によって分析され、配列決定等がなされうる。
【0032】
ターゲティングDNAは当該分野でよく知られている技法を用いて得ることができる。例えば、ターゲティングDNAは、オリゴヌクレオチドの化学合成、二本鎖DNA鋳型のニックトランスレーション、配列のポリメラーゼ連鎖反応増幅(又はリガーゼ連鎖反応増幅)、対象配列(例えばクローン化cDNA又はゲノムDNA、合成DNA又は上記の組み合わせの何れか)を含む原核細胞又は標的クローニングベクターの精製、例えばプラスミド、ファージミド、YAC、コスミド、BAC、バクテリオファージDNA、他のウイルスDNA又は複製中間体、又はその精製制限断片、並びに所望のヌクレオチド配列を有する一本鎖及び二本鎖ポリヌクレオチドの他の供給源の精製によって産生することができる。更に、相同の長さは当該分野で既知の方法を使用して選択することができる。例えば、選択は予め決められた内因性標的DNA配列の配列組成と複雑性に基づいている場合がある。
一実施態様では、本発明のターゲティングコンストラクトは、破壊されることになるCD20遺伝子の一部又は領域に相同の第一配列(又はアーム)とその遺伝子の第二部分又は領域に相同な第二配列を含むターゲティング領域を含む。ターゲティングコンストラクトは、第一及び第二DNA配列間に好ましくは位置するポジティブ選択マーカーを更に含みうる。ポジティブ選択マーカーはプロモーター及びポリアデニル化シグナルに作用可能に結合していてもよい。
【0033】
他の実施態様では、ターゲティングコンストラクトは、ターゲティングコンストラクトの相同アームの一方又は双方の外側に好ましくは位置している、単純ヘルペスウイルスtk(HSV-tk)遺伝子のようなネガティブ選択マーカーを含む一を越える選択マーカー遺伝子を含みうる。ネガティブ選択マーカーはプロモータ及びポリアデニル化シグナルに作用可能に結合しうる(例えば米国特許第5464764号;第5487992号;第5627059号及び第5631153号を参照)。
適切なターゲティングコンストラクトがひとたび調製されれば、ターゲティングコンストラクトは当該分野で知られている任意の方法を使用して適切な宿主細胞中に導入することができる。例えば、前核マイクロインジェクション;生殖系列中へのレトルウイルス媒介遺伝子移入;胚性幹細胞での標的遺伝子組換え;胚のエレクトロポレーション;精子媒介遺伝子移入;及びリン酸カルシウム/DNA共沈、核中へのDNAのマイクロインジェクション、無傷の細胞との細菌プロトプラスト融合、形質移入、ポリカチオン、例えばポリブレン、ポリオルニチンなど等々を含む様々な方法を本発明において用いることができる(例えば米国特許第4873191号; Van der Putten等, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 82:6148-6152; Thompson等, 1989, Cell 56:313-321; Lo, 1983, Mol Cell. Biol. 3:1803-1814; Lavitrano等, 1989, Cell, 57:717-723を参照のこと)。哺乳動物細胞を形質転換する様々な技法が当該分野で知られている(例えばGordon, 1989, Intl. Rev. Cytol., 115:171-229; Keown等, 1989, Methods in Enzymology; Keown等, 1990, Methods and Enzymology, Vol. 185, pp. 527-537; Mansour等, 1988, Nature, 336:348-352を参照のこと)。
【0034】
相同組換えが可能な任意の細胞型を本発明の実施に使用することができる。そのような標的細胞の例には、ヒト、ウシ種、ヒツジ種、マウス種、サル種のようなほ乳類を含む脊椎動物、及び糸状真菌のような他の真核生物、及び植物のような高等多細胞生物から誘導された細胞が含まれる。
好適な細胞型には、典型的にはインビトロで培養された移植前胚から得られる胚性幹(ES)細胞が含まれる(例えば、Evans, M. J.等, 1981, Nature 292:154-156; Bradley, M. O.等, 1984, Nature 309:255-258; Gossler等, 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:9065-9069; 及びRobertson等, 1986, Nature 322:445-448を参照のこと)。当業者によく知られた方法を使用してES細胞を培養し、ターゲティングコンストラクト導入の準備をする(例えば、Robertson, E. J.編 "Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells, a Practical Approach", IRL Press, Washington D.C., 1987; Bradley等, 1986, Current Topics in Devel. Biol. 20:357-371; Hogan等,"Manipulating the Mouse Embryo": A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor N.Y., 1986; Thomas等, 1987, Cell 51:503; Koller等, 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:10730; Dorin等, 1992, Transgenic Res. 1:101;及びVeis等, 1993, Cell 75:229を参照のこと)。ターゲティングコンストラクトと共に挿入されるES細胞は、それらが導入されることになる発生胚と同じ種の胚又は胚盤胞から由来する。ES細胞は典型的には内部細胞塊に組み込まれ、発生の胚盤胞段階で胚の哺乳動物中に導入される場合に個体の生殖系列に寄与するその能力について選択される。よって、この能力を有する任意のES細胞株が本発明を実施するための使用に適している。
【0035】
ターゲティングコンストラクトが細胞中に導入された後、標的遺伝子の組み込みが成功した細胞が同定される。標的遺伝子中へのターゲティングコンストラクトの挿入は、典型的にはマーカー遺伝子の発現によって細胞を同定することによって検出される。好適な実施態様では、本発明のターゲティングコンストラクトで形質転換された細胞を、選択マーカーを発現しない細胞に対して選択する適切な薬剤で処置する。選択マーカー遺伝子を発現する細胞だけが、ある条件下で生存し及び/又は成長する。例えば、導入されたネオマイシン耐性遺伝子を発現する細胞は化合物G418に耐性がある一方、ネオ遺伝子マーカーを発現しない細胞はG418によって殺される。ターゲティングコンストラクトがまたGFPのようなスクリーニングマーカーを含む場合、蛍光光の下にスクリーニング細胞コロニーを通して相同組換えを同定することができる。相同組換えを受けた細胞はGFP遺伝子を欠失しており、蛍光を発しない。
【0036】
あるいは、ポジティブ-ネガティブ選択技術を用いて相同組換え体を選択することができる。この技法は、第一薬剤を細胞集団に加える、例えばネオマイシン様薬剤を形質移入細胞の成長を選択するために、つまりポジティブな選択のために加える。例えばFIAUのような第二薬剤を、つづいてネガティブ選択マーカーを発現する細胞を死滅させるために、つまりネガティブ選択のために加える。ネガティブ選択マーカーを含み発現する細胞は選択薬剤によって死滅される一方、ネガティブ選択マーカーを含まず発現しない細胞は生存する。例えば、コンストラクトの非相同的挿入を伴う細胞はHSVチミジンキナーゼを発現し、よってガンシクロビル(GANC)又はFIAU(1-(2-デオキシ2-フルオロ-B-D-アラビノフルラノシル)-5-ヨードウラシル)のようなヘルペス薬に感受性がある。(例えば、Mansour等, Nature 336:348-352: (1988); Capecchi, Science 244:1288-1292, (1989); Capecchi, Trends in Genet. 5:7076 (1989)を参照のこと)。他の方法には、制御ポジティブ選択法が含まれ(米国特許出願公開第20030032175A1を参照)、これは単一の選択薬剤の添加を必要とする。
【0037】
成功裏の組換えは、選択された細胞のDNAを分析して相同組換えを確認することによって同定することができる。当該分野で既知の様々な方法、例えばPCR及び/又はサザン分析法を用いて相同組換え事象を確認することができる。
ついで、選択された細胞は動物(例えばマウス)の胚盤胞(又は例えば桑実胚のような生存可能な動物を作り出す目的に適した発達の他の段階)に注入してキメラを形成する(例えば、Bradley, A. Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, E. J. Robertson編, IRL, Oxford, pp.113-152 (1987)を参照のこと)。あるいは、選択されたES細胞を分離したマウス胚細胞と凝集させて凝集キメラを形成する。ついで、キメラ胚を適当な偽妊娠雌育成動物中に移植し、胚を出産させることができる。その生殖細胞に相同組換えDNAを有するキメラ子孫を用いて、動物の全細胞が相同組換えされたDNAを含む動物を育種することができる。一実施態様では、キメラ子孫マウスを用いてCD20遺伝子にヘテロ接合性破壊を持つマウスを産生する。ヘテロ接合性トランスジェニックマウスをついで交配させることができる。典型的にはそのような交配の子孫の1/4がCD20遺伝子にホモ接合性破壊を有することは当該分野においてよく知られている。
【0038】
上述の内因性遺伝子座の不活化方法に加えて、更なる好適な不活化方法が利用でき、例えば、対象の特異的遺伝子の時間的な制御を移用するtet転写系の使用(Proc. Natl. Acad. Sci. 91:9302-9306 (1994))又は組織特異的制御のためのデオキシサイクリン転写調節制御の導入(Proc. Natl. Acad. Sci. 93:10933-10938 (1996))が含まれうる。
更なる好適な機能的不活化方法には、遺伝子座の標的ノックアウトのためのcre-lox欠失、部位特異的組換え系の利用が含まれ、そこでは、loxP部位が対象の隣接遺伝子に挿入され、creリコンビナーゼが活性化されて遺伝子を欠失させる(Curr. Opin. Biotechnol., 5:521-527 (1994))。
あるいは、所望の遺伝子座の転写を阻害し、よって内因性遺伝子座の機能的破壊を生じさせるためにアンチセンス又はRNAi法を利用することができる(ノックダウン法)。そのような状況で、対象の指定遺伝子座の特異的配列を標的とするオリゴヌクレオチドが産生され、成功裏のターゲティングにより機能性タンパク質の産生が阻害される。
【0039】
内因性CD20の喪失に対してホモ接合性のノックアウトマウスは国際公開第02/062946号に記載されたようにして調製することができる。簡単に述べると、一実施態様では、CD20欠損マウスを、相同組換えを使用して胚性幹(ES)細胞中におけるマウスCD20遺伝子を標的破壊することによって産生することができる。ネオマイシン耐性遺伝子を持つマウスCD20の大きなカルボキシル末端細胞質ドメイン、第四膜貫通ドメイン、第二の細胞外ループの一部をコードするエキソンを置き換えるターゲティングベクターを産生することができる。マウスCD20のヌクレオチド配列は当業者に知られている。(ジェンバンク受託番号第M62541号;国際公開第02/062946号)。一実施態様では、適切な遺伝子ターゲティングはアミノ酸位置157が切断され、ネオ遺伝子配列によってコードされる88アミノ酸タンパク質と融合された異常CD20タンパク質を産生する。
【0040】
DNA形質移入後、標的の対立遺伝子を担持するネオ耐性ES細胞クローンをサザンブロット分析法によって決定することができる。一つのES細胞クローンの細胞は育成母中に移され得る胚盤胞中に注入することができる。高度にキメラな雄の子孫(外被色によると80−100%)は、その変異を子孫に伝えるために、C57BL/6(B6)雌と共に飼育することができる。CD20遺伝子の破壊に対してホモ接合性のマウスを、ヘテロ接合性子孫を交雑することによって期待されたメネデリアン頻度で得ることができる。
CD20の適切なターゲティングはホモ接合性子孫からのゲノムDNAをPCR分析することによって更に証明することができる。CD20−/−マウス中の野生型CD20mRNAの存在又は不存在はCD20−/−マウスの脾細胞から産生されたcDNAのPCR増幅によって確認することができる。CD20−/−マウス中の細胞表面CD20タンパク質の発現の欠如は、マウス抗CD20モノクローナル抗体でB220+脾細胞を染色することによって更に証明することができる。CD20遺伝子の標的変異は細胞表面CD20タンパク質の発現を抑制する。
【0041】
非ヒト動物中への導入遺伝子の導入
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は好ましくは動物の生殖系列中に導入遺伝子を導入することにより産生される。様々な発達段階の胚性標的細胞を用いて導入遺伝子を導入することができる。胚性標的細胞の発達段階に応じて異なった方法が使用される。この発明を実施するために使用される任意の動物の特異的系統は全体的に良好な健康、良好な胚収量、胚における良好な前核可視性、及び良好な生殖適合性について選択される。トランスジェニックマウスが産生されることになる場合、C57BL/6又はC57BL/6xDBA/2F1のような株、又はFVB系統がしばしば使用される(Charles River Labs, Boston, Mass., The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME, 又はTaconic Labsから商業的に取得した)。好適な系統は、H-2b、H-2d又はH-2qハプロタイプのもの、例えばC57BL/6又はDBA/1である。ヒト腫瘍細胞の導入を可能にするためにヌードマウスを利用してもよい。ヌードマウスの飼育と維持はそれが感染や疾患に罹りやすいために更に難しい。この発明を実施するために使用される系統自体がトランスジェニック体であってもよく、及び/又はノックアウト体であってもよい。好ましくは、最初のノックアウト哺乳動物とトランスジェニック哺乳動物の双方の調製には同じ系統を使用する。これにより、続く飼育と戻し交雑をより効率的なものとできる。
【0042】
胚中への導入遺伝子の導入は当該分野で知られた任意の手段、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション又はリポフェクションによって達成することができる。例えば、導入遺伝子は、受精哺乳動物卵の前核中にコンストラクトをマイクロインジェクションすることによって発達中の哺乳動物の細胞にコンストラクトの一又は複数のコピーを保持させることができる。受精卵中への導入遺伝子コンストラクトの導入後に、変動時間量の間、卵をインビトロでインキュベートするか、又は代理宿主中に再移植するか、又は双方を実施することができる。成熟するまでのインビトロでのインキュベーションはこの発明の範囲内である。一つの一般的な方法は、種に応じて約1−7日インビトロで胚をインキュベートし、ついでそれを代理宿主中に再移植することである。
再移植は標準的な方法を使用して達成される。通常、代理宿主を麻酔し、胚を卵管中に挿入する。特定の宿主中に移植される胚の数は種によって変化するが、通常は、その種が天然に産生する子孫の数に匹敵する。
【0043】
レトロウイルス感染もまた非ヒト動物中に導入遺伝子を導入するために使用することができる。発達中の非ヒト胚を胚盤胞期までインビトロで培養することができる。この期間中、割球がレトロウイルス感染の標的でありうる(Jaenich, R. (1976) PNAS 73:1260-1264)。割球の効果的な感染は透明帯を取り除く酵素処理によって得られる(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan編 (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1986)。導入遺伝子を導入するために使用されるウイルスベクター系は典型的には導入遺伝子を担持する複製欠陥性レトロウイルスである(Jahner等 (1985) PNAS 82:6927-6931; Van der Putten等 (1985) PNAS 82:6148-6152)。形質移入は、ウイルス産生細胞の単層上で割球を培養することによって簡単かつ効果的に得られる(上掲のVan der Putten; Stewart等 (1987) EMBO J. 6:383-388)。あるいは、感染は後の段階で実施することができる。ウイルス又はウイルス産生細胞を割腔中に注入することができる(Jahner等 (1982) Nature 298:623-628)。殆どのファウンダー(起源物)は、トランスジェニック非ヒト動物を形成した細胞のサブセットにのみ取り込みが生じるので、導入遺伝子に対してモザイクである。更に、ファウンダーは子孫で一般に分離するゲノム中の異なった位置に導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含みうる。また、中期妊娠期間胚の子宮内レトロウイルス感染によって生殖系列中に導入遺伝子を導入することもできる(上掲のJahner等 (1982))。
【0044】
導入遺伝子導入のための標的細胞の第三のタイプは胚性幹細胞である。導入遺伝子はDNA形質移入によるか又はレトロウイルス媒介形質導入によってES細胞中に効率的に導入することができる。そのような形質転換ES細胞をついで非ヒト動物からの胚盤胞と組み合わせることができる。その後、ES細胞は胚とコロニー形成し、得られるキメラ動物の生殖系列に寄与する。
一実施態様では、図21に示すようにヒトCD20をコードするcDNA又はゲノムクローンを、マイクロインジェクション又は形質移入を使用してFVBマウス受精卵又はES細胞中に導入することができる。胚をインビトロで約1−7日間インキュベートした後、代理宿主に移植する。ES細胞を自然に交配した宿主動物からの胚盤胞と組み合わせ、胚盤胞を代理母中に再移植する。
【0045】
本発明の一実施態様では、非ヒト宿主の内因性CD20遺伝子は、異種CD20遺伝子が内因性CD20遺伝子をそれぞれ実質的に置換し、好ましくは内因性CD20遺伝子のコード化配列を完全に置換するように、異種CD20遺伝子の相同組込みによって機能的に破壊される。好ましくは、異種CD20遺伝子は、相同組込みの結果として、異種遺伝子が内因性CD20遺伝子座から調節エレメントの転写制御下で発現されるように、内因性CD20遺伝子の制御配列(例えばエンハンサープロモーター)に結合する。そのような置換対立遺伝子体に対してホモ接合性である非ヒト宿主はここに記載の方法によって生産することができる。そのようなホモ接合性非ヒト宿主は一般に異種CD20を発現するが、内因性CD20タンパク質を発現しない。通常、異種CD20遺伝子の発現パターンは、天然に生じる(非トランスジェニック)非ヒト宿主における内因性CD20遺伝子の発現パターンを実質的に模倣する。
例えば、内因性マウスCD20遺伝子配列の代わりにヒトCD20遺伝子配列を有し、内因性マウス制御配列によって転写制御されるトランスジェニックマウスを産生させることができる。一般にヒトCD20は、天然に生じる非トランスジェニックマウスにおけるマウスCD20と同様にして発現される。
【0046】
一般に、置換タイプのターゲティングコンストラクトが相同遺伝子置換に用いられる。ターゲティングコンストラクトの内因性CD20遺伝子配列間の二重クロスオーバー相同組換えにより、異種CD20遺伝子セグメントの標的組込みが生じる。通常、導入遺伝子の相同性標的領域は内因性CD20遺伝子セグメントに隣接する配列を含むので、相同組換えは、内因性CD20の同時欠失と異種遺伝子セグメントの相同組込みを生じせしめる。実質的に、内因性CD20遺伝子の全体を、単一ターゲティング事象によるか又は複数ターゲティング事象によって(例えば、個々のエキソンの逐次の置換)異種CD20遺伝子で置き換えることができる。通常はポジティブ又はネガティブ選択発現カセットの形態の、一又は複数の選択マーカーをターゲティングコンストラクトに位置させることができる。通常は、選択マーカーは異種置換領域のイントロン領域に位置しているのが好ましい。
【0047】
トランスジェニックマウスの交雑
導入遺伝子ヒトCD20を有するトランスジェニックマウスは、マウスCD20を欠くトランスジェニックマウスと交雑させることができる。一実施態様では、トランスジェニックマウスはヒトCD20を含み、マウスCD20を欠く。調製方法は、所望のノックアウトコンストラクト又は導入遺伝子の一つをそれぞれが含む一連の哺乳動物を産生することである。そのような哺乳動物を、一連の交雑、戻し交雑及び選択を通して互いに育種し、最終的には、あらゆる所望のノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子を含む単一の哺乳動物が生産されるが、その哺乳動物はノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子が存在することを除くと野生型とその他の点でコンジェニック(遺伝的に同一)である。
【0048】
典型的には、交雑及び戻し交雑は、飼育過程の各特定の工程の目標に応じて、同胞又は親系統を子孫と交配させることによって達成される。ある場合には、適切な染色体位置にノックアウトコンストラクト及び/又は導入遺伝子のそれぞれを含む単一の子孫を産生するためには、多数の子孫を産生することが必要である場合がある。また、所望の遺伝子型を最終的に得るには数世代にわたって交雑又は戻し交雑を行う必要がある場合がある。
相同組換えかランダム組込みによってひとたびヒト遺伝子座が宿主ゲノム中に導入され、様々なトランスジェニック又は変異動物の適切な育種によって不活化された内因性CD20遺伝子座を持つ宿主動物が産生されたならば、内因性CD20を産生する本来の能力を欠くがヒトCD20をつくる能力を有している宿主をつくることができる。
【0049】
D.導入遺伝子の存在の検証
代理宿主のトランスジェニック子孫を、所望の組織、細胞又は動物中での導入遺伝子の存在及び/又は発現について任意の好適な方法によってスクリーニングすることができる。スクリーニングは、しばしばサザンブロット又はノーザンブロットによって、少なくとも導入遺伝子の一部に相補的であるプローブを用いて達成される。導入遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析法は、導入遺伝子産物の存在をスクリーニングする代替の又は更なる方法として用いることができる。典型的には、DNAを尾の組織から準備し、導入遺伝子についてサザン分析法又はPCRによって分析する。あるいは、最も高いレベルで導入遺伝子を発現すると思われている組織又は細胞が、サザン分析法又はPCRを用いて導入遺伝子の存在及び発現について試験されるが、任意の組織又は細胞型をこの分析に使用することができる。
導入遺伝子の存在を評価するための別の又は更なる方法は、限定するものではないが、好適な生化学アッセイ、例えば酵素及び/又は免疫学的アッセイ、特定のマーカー又は酵素活性に対する組織学的染色、フローサイトメトリー分析等々を含む。血液の分析はまた血液中の導入遺伝子産物の存在を検出し、また様々なタイプの血液細胞及び他の血液成分のレベルに対する導入遺伝子の効果を評価するのに有用でありうる。一実施態様では、ヒトCD20の発現は、ヒトCD20に対する検出可能に標識された抗体を使用し、FACSを用いて標識細胞を分析することにより、脾臓、骨髄、末梢血、リンパ節、及びパイエル板からの免疫細胞において検出することができる。
【0050】
本発明のトランスジェニックマウスにおける発現パターンの検査により、ヒトB系統細胞に見出される正常なヒトCD20発現のミラーリングが明らかになる。T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞及び好中球のものを含む細胞割合及び表現型特性について検査した他の免疫学的パラメータは、トランスジェニックネガティブ及びポジティブ同腹仔間の類似性を明らかにした。
【0051】
E.トランスジェニック動物の用途
本発明のトランスジェニック動物は、ヒトにおけるCD20の発現及び機能のモデルを表す。従って、これらの動物はその機能と関連する事象の背後にある機構を研究し、癌や自己免疫症状を含むCD20関連ヒト疾患を治療し診断するのに有用な生成物(例えば抗体、二重特異性体、多重特異性体等々)を産生し試験するのに有用である。
幾つかの実施態様では、遺伝子組換え的に発現されるヒトCD20はヒト細胞において示されるものと同様の機能特性を保持している。例えば、ヒトCD20を発現するBリンパ球は、抗ヒトCD20抗体によって、またヒトにおけるようにして認識され、ヒトCD20抗体の投与に応答してトランスジェニック動物から同様にして枯渇される。実施例において更に詳細に記載されるように、本発明のトランスジェニックマウスのBリンパ球はリツキサンのような抗ヒトCD20抗体での治療に応答して枯渇される。一実施態様では、ヒトCD20トランスジェニックマウスは、抗ヒトCD20抗体が発現細胞に結合して細胞の死滅に影響を及ぼすのに十分なレベルでの細胞上でのヒトCD20の発現によって特徴付けられ、少なくとも約75%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、99%、更には100%の末梢及び/又は循環B細胞のB細胞枯渇を生じる。同様な応答がヒトにおいて観察される。
【0052】
従って、一実施態様では、本発明のトランスジェニック動物は、例えばヒトCD20の領域のような標的エピトープへの結合について、例えば抗体、多重又は二重特異的分子、イムノアドヘシンのような薬剤を(例えばヒトの安全性と効果について)試験するために使用される。他の薬剤は、Fc領域を伴うか伴わない抗体の抗原結合断片、単鎖抗体、ミニボディ(minibodies)(重鎖のみの抗体)、多量体抗ヒトCD20抗原結合領域の一つを伴うヘテロ多量体イムノアドヘシンを含み得る。他の薬剤は、CD20に結合するがCD20を活性化しないCD20のリガンド変異体を含みうるCD20-B細胞枯渇を阻害するかこれを生じる小分子を含みうる。例えば、悪性B細胞のようなCD20発現細胞を枯渇させるそのような薬剤の効果は、試験薬剤の投与の前後でのトランスジェニック動物中のBリンパ球レベルを測定することによって決定することができる。
【0053】
従って、本発明は、ヒトCD20を発現するトランスジェニック動物に薬剤を投与し、Bリンパ球の数の減少があるかどうかを決定することにより、B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤、並びにヒトCD20を発現するBリンパ球を枯渇又は死滅させることができる薬剤を同定する方法を提供する。ここで使用する場合、「B細胞枯渇」とは、薬剤又は抗体での治療後のかかる治療前のレベルと比較した動物又はヒトにおけるB細胞レベルの減少を意味する。B細胞レベルはここに記載されるよく知られたアッセイ法を使用して測定することができる。B細胞枯渇は部分的か又は完全でありうる。好ましくは、薬剤によって誘導されるB細胞枯渇のレベルは、疾患又は障害の徴候の低減又は軽減と相関する量である。推定薬剤の効果(つまり、CD20を発現するBリンパ球を枯渇させるその能力)は、CD20を発現するトランスジェニック動物における循環Bリンパ球のベースラインレベルを測定し、同動物における投与後のレベルと比較することによって評価することができる。B細胞枯渇の効果の比較を、抗ヒトCD20抗体(例えばリツキサン)のような既知の治療剤に対して行って、CD20関連症状の治療のための推定薬剤の効果を測定することができる。あるいは、Bリンパ球のベースラインレベルを、ヒトCD20を発現する第一のトランスジェニック動物の様々な組織(例えば、脾臓、骨髄、末梢血、リンパ節、パイエル板)において測定することができる。ついで、推定薬剤を、ヒトCD20を発現する第二のトランスジェニック動物に投与することができる。ついで、その動物を屠殺し、Bリンパ球のレベルを分析する。ヒトCD20を発現するトランスジェニック動物におけるBリンパ球数の減少が、B細胞リンパ腫に関連する癌細胞を減少させ、及び/又はヒト患者におけるB細胞リンパ腫を治療する点における薬剤の効果の指標である。併用療法もまた所望の細胞型を枯渇させる効果を決定するために試験することができる。例えば、抗ヒトCD20抗体をBr3-Fcのような他の薬剤と組み合わせて、抗ヒトCD20による死滅に耐性があるかも知れない任意のCD20担持B細胞の枯渇を生じさせることができる。
【0054】
Bリンパ球の回復は、一連のトランスジェニック動物において経時的に細胞レベルを測定することによってまた評価することができる。ヒトCD20に対する薬剤の特異性は、野生型マウス(CD20マーカーを発現しない)に対する効果とヒトCD20を発現するトランスジェニックマウスに対する薬剤の効果を比較することによって評価することができる。薬剤の効果はまた非特定的Ab又は他のコントロール剤のようなプラシーボ又はコントロール物質の効果と比較することもできる。好ましくは、薬剤は、ヒトCD20を有する細胞の殆ど又は全てを標的とするが、T非依存性免疫反応を刺激する抗原に対して免疫応答性をもたらす細胞に影響を及ぼさない。
また、上記動物は、そのような薬剤の投与時におけるトランスジェニック動物においての免疫反応の開始が、薬剤がヒトにおいても同じ効果を示すことの指標であるので、ヒトにおいて潜在的な免疫反応を評価するための有用なモデルである。そのようなトランスジェニック動物における免疫反応に対する効果は例えばサイトカインレベルの変化、抗体の産生又はT細胞応答によって検出することができる。また、トランスジェニック動物は多重又は二重特異的分子の投与の前に標的細胞(例えば腫瘍、ウイルス)を含むように操作することができる。
【0055】
トランスジェニック動物への抗CD20抗体又は二重又は多重特異的分子の投与後に抗体結合を検出するために、任意の好適なアッセイを使用することができる。例えば、動物の血液の試料を採取して、当該分野で既知のスクリーニング方法、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)又はウェスタンブロットアッセイを使用して抗CD抗体-CD複合体の存在をアッセイすることができる。これらのアッセイの各々は一般に対象の複合体に特異的な標識試薬(例えば抗体)を用いることによって特定の対象のタンパク質-抗体複合体の存在を検出する。従って、本発明では、これらのアッセイを用いて、動物の血清中に含まれる免疫グロブリン(例えばIgG、IgA等)と動物の特定の細胞の表面に含まれるヒトCDマーカーの間で形成されるCD-抗体複合体を検出する。
CDマーカー-抗体複合体は、例えば抗体-CDマーカー複合体を認識しそれに特異的に結合する酵素結合抗体又は抗体断片を使用して検出することができる。あるいは、複合体は、様々な他の免疫アッセイ法の任意のものを使用して検出することができる。例えば、抗体は放射標識することができ、ラジオイムノアッセイ(RIA)に使用することができる。放射性同位元素はガンマカウンター又はシンチレーションカウンターの使用のような手段又はオートラジオグラフィーによって検出することができる。
【0056】
トランスジェニック動物への抗体又は二重又は多重特異的分子又は他の薬剤の投与後に免疫反応を検出するために、動物の血漿又は血清中の例えばサイトカイン、抗体又はT細胞集団の濃度変化を測定する任意の好適な手順を使用することができる。例えば、インビボでのサイトカイン濃度の変化は様々なイムノアッセイ法、例えば酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)又はELISPOTアッセイを経由して検出することができる。アッセイすることができる例示的なサイトカインには、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インターロイキン1−12(IL-1からIL-12)が含まれる。
【0057】
例えば、血漿を、抗体、二重特異的又は多重特異的分子又は他の薬剤が投与されたトランスジェニック動物から得ることができる。サイトカインの濃度は、抗体とのサイトカインの相互作用を検出することによってEIAを使用して測定することができ、その抗体が続いて酵素に結合される。酵素の活性は、例えば分光光度定量、蛍光定量又は可視手段によって検出することができる化学部分をつくり出すような、適切な基質、好ましくは色素生産性基質との反応によって検出される(Voller, "The Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA)", Diagnostic Horizons 2:1-7, 1978, Microbiological Associates Quarterly Publication, Walkersville, MD; Voller等, J. Clin. Pathol. 31:507-520 (1978); Butler, Meth. Enzymol. 73:482-523 (1981); Maggio編 Enzyme Immunoassay, CRC Press, Boca Raton, FL, 1980; Ishikawa等編 Enzyme Immunoassay, Kgaku Shoin, Tokyo, 1981)。抗体を検出可能に標識するために使用することができる酵素には、限定するものではないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ-グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ及びアセチルコリンステアラーゼが含まれる。検出は酵素の色素生産性基質を用いる比色分析法によって達成することができる。検出はまたRIAを使用して又は同様にして調製した標準と比較した基質の酵素反応の度合いの可視による比較によっても達成することができる。
【0058】
抗サイトカイン抗体又は抗CD20分子を蛍光化合物で標識することもまたできる。蛍光的に標識された抗体が適切な波長の光に暴露されると、その存在を検出することができる。最も一般的に使用される蛍光標識化合物としてはフルオレッセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド及びフルオレサミンがある。抗体はまた152Euのような蛍光発光金属、又はランタニド系の他のものを使用して検出可能に標識することもできる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属キレート基を使用して抗体に結合させることができる。抗体はまた化学発光化合物にそれを結合させることにより検出可能に標識することができる。ついで、化学発光タグ抗体の存在は化学反応の過程中に生じる発光を検出することによって決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例はルミノール、イソルミノール、サーロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステルである。同様に、生物発光化合物は抗体を標識するために使用することができる。生物発光は生物学的系に見出される化学発光の一タイプであり、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を増大させる。生物発光タンパク質の存在は発光の存在を検出することによって決定される。標識のために重要な生物発光化合物はルシフェリン、ルシフェラーゼ及びエクオリンである。
【0059】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は更にヒトに投与される特定の薬剤の安全性の指標を提供し得る。例えば、ヒト化抗体又は他の薬剤をトランスジェニック動物に投与することができ、動物への薬剤の投与の結果としてのあらゆる毒性又は有害作用を、インビボでのヒトへの使用のための薬剤又はヒト化抗体の安全性と耐容性の指標としてモニターすることができる。短期間ベースで生じうる有害事象には、頭痛、感染、発熱、悪寒、痛み、吐き気、無気力、咽頭炎、下痢、鼻炎、注入反応、及び筋肉痛が含まれる。短期の有害事象は治療後何日間かしばらく測定される。長期の有害事象には、ある細胞型の細胞傷害性、血小板減少による出血事象、免疫及び/又はアレルギー反応によるメディエータの放出、免疫系の阻害及び/又は抗治療剤抗体の発生、終末器官毒性、及び感染又は悪性腫瘍の発生増加が含まれる。長期の有害事象は治療後何ヶ月間も測定される。
本発明の他の側面は、抗CD20薬剤の効果を決定する方法を含む。効果は、ある範囲の用量の薬剤を、ヒトCD20を有するトランスジェニック動物群に投与し、ヒトCD20を有する細胞の減少を生じせしめる薬剤の少なくとも一の用量を決定することによって、決定することができる。
【0060】
細胞、組織又はそれらから誘導される他の材料を含む本発明のトランスジェニック動物は疾患、特にCD20担持細胞に関連し又はそれに媒介される疾患のモデルとして利用することができる。限定するものではないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、ミニブタ、ヤギ及び非ヒト霊長類、例えばヒヒ、サル及びチンパンジーを含む任意の種の動物を用いて疾患動物モデルを産生することができる。これらの系は様々な用途に使用することができる。そのようなアッセイは、例えば疾患の徴候を軽減することができる化合物のような薬剤を同定するために設計されるスクリーニング方策の一部として利用することができる。よって、動物及び細胞ベースのモデルを用いて、薬剤、医薬、疾患の治療に効果的でありうる治療法及び介入を同定することができる。
細胞ベース系は疾患の徴候を軽減するように作用する可能性のある化合物を同定するために使用することができる。例えば、そのような細胞系は疾患の徴候を軽減する能力を示すと思われる化合物に、暴露された細胞に疾患徴候のそのような軽減を誘発するのに十分な濃度で十分な時間の間、暴露することができる。暴露後に、細胞を検査して、疾患細胞表現型の一又は複数が改変されて、より正常な又はより野生型の非疾患表現型に似ているかどうかを決定する。
他の用途は当業者には直ぐに明らかであろう。
以下の非限定的実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0061】
実施例1
この実施例はヒトCD20BACトランスジェニック(Tg+)マウスの産生とhCD20+マウスにおける抗ヒトCD20抗体処置の効果の研究を記載する。
ヒトCD20トランスジェニックマウスを、インビトロゲンのCITBヒトBAC-D-クローン番号117H19(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して産生した。ヒトCD20をコードするDNAをヒトリンパ球から単離し、インビトロゲンに送った。インビトロゲンは、ヒトBACライブラリーからのクローンを用いてフィルターに対してDNAを試験し、クローン117H19を同定した。ヒトCD20を発現するトランスジェニックマウスを産生する過去の試みは、おそらくは部分的には導入遺伝子コンストラクト中に十分な転写制御領域を含ませるのに失敗したために成功しなかった。トランスジェニックマウスは、クローン117H19で調製したヒトCD20BACコンストラクトをマウスのFVB近交系の受精卵中に微量注入することにより産生した。受精卵は1−7日間インキュベートした後、代理マウス中に移植した。マウスをヒトCD20発現のFACS分析に基づいてスクリーニングした。図1のFACSプロットから分かるように、導入遺伝子に対してヘテロ接合性(Tg+/−)及びホモ接合性(Tg+/+)のマウスがそのB220+B細胞上にヒトCD20を発現する。マウスCD20遺伝子は意図的に破壊しなかった。
【0062】
図2はB細胞分化及び成熟化の間における様々な細胞表面マーカー(CD43、IgM、IgD)の発現の概略図を提供する。Tg+マウスでは、hCD20はプレB、未熟B細胞及び成熟B細胞に発現される。ヒトCD20はヒトのものと同じ細胞型に見出され、ヒトB細胞上のように僅かに低いレベルに匹敵するレベルでこれらの細胞型に発現される。
Tg+マウスを、FITC(BD Pharmingen)に結合した抗ヒトCD20抗体を使用して骨髄、脾臓、腸間膜LN及びパイエル板のB細胞におけるヒトCD20発現についてスクリーニングした(結果は図3−6に示す)。B220及びCD43、CD21又はCD38について細胞をゲーティングすることにより、異なった組織由来のB細胞の様々な集団中への描写が可能になる。ゲーティングでは、PerCP(BD Biosciences)に結合した抗B220Ab及び抗CD43Ab、抗CD21Ab又はPE(蛍光, Becton Dickinson)に結合した抗CD38Abで細胞を染色した。
【0063】
CD20トランスジェニックマウスの末梢血細胞上でのヒトCD20の発現レベルを、ヒト末梢血細胞上のCD20の発現と比較した。末梢血細胞を数人のヒトドナー及びhCD20Tg+マウスから得て、標識抗ヒトCD20抗体(mH27)で染色した。細胞をFACSによって分析し、ヒトCD19+及びB220のそれぞれについてゲーティングした。代表的なグラフを図22に示す。グラフ上の数は平均蛍光強度を表す。グラフ上の数は、平均蛍光強度の比較に基づいて、ヒトCD20が、ヒト細胞上に発現されるCD20の約40%のレベルでトランスジェニック細胞上に発現されることを示している。
これらの結果は、トランスジェニックマウスの多くの異なった組織から得たB細胞がヒトCD20マーカーを発現することを示している。ヒトCD20マーカーは成熟B細胞に優勢に見出されるが、ヒトに観察されるプロファイルと同様にプレB及び未熟B細胞にもまた見出すことができる。
【0064】
ついで、トランスジェニックマウスを、抗体処置がB細胞枯渇を生じるかどうかを決定するために抗ヒトCD20mAb m2H7で処置した。抗体m2H7はBD PharMingen(San Diego, CA)、eBioscience、又はCalbiochemから得ることができる。m2H7の抗ヒトCD20活性を、インビトロアッセイでリツキサンの活性と比較したが、匹敵する活性を有していた。リツキサンのようなヒト化抗体は、ヒト化抗体への免疫反応が問題とはならない十分に短い時間にわたってインビボでの細胞死滅が生じるので細胞死滅研究においても利用することができる。
抗体m2H7を、図7に概略図によって概説しているように、70kgのヒトの場合の3.5mgに等価な全1mgの用量でトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、矢印で示した日に、末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄及びパイエル板について実施した。抗CD20mAbの血清レベルをモニターした。
【0065】
抗CD20mAb(m2H7)だけでTg+マウスを処置した場合、末梢血、成熟末梢リンパ節B細胞、脾臓中のT2及び卵胞B細胞の枯渇を生じた(図8−11を参照)。しかしながら、ある種のB細胞サブセットは、細胞表面上での抗体の非常に高いおそらくは飽和レベルにも拘わらず、抗CD20抗体による死滅に耐性があることもまた観察された。これらの耐性B細胞は脾臓中の周辺帯B細胞(図10)、及びパイエル板(図12)及び脾臓(図14)の双方の胚中心B細胞である。図14では、マウスに、1日目に100ugの抗CD20mAbの第一の用量と、続く3日目の第二の100ug用量を注射した(50ugの単一用量がB細胞を飽和させるのに十分であったようである)。T2/卵胞B細胞は枯渇したが、パイエル板からの胚中心B細胞は抗CD20mAbに結合することが示されたが死滅化に耐性があった。
【0066】
抗ヒトCD20抗体での処置に続くB細胞の回復を研究した。抗体を1日目にマウスに投与した。図13は、抗体処置の6日後に、末梢血中のB細胞は検出できなかったことを示している。6週目には、抗体の除去時に、hCD20+細胞が検出され始め、14週には、B細胞は正常なレベルまで回復したように見えた。回復はCD20を発現しない前駆B細胞から生じ、それはついでヒトCD20+の成熟B細胞になる。
図14は脾臓胚中心B細胞の短期(単一注射)抗CD20mAb処置に対する耐性を証明するFACSプロットを示す。マウスは免疫しないか、又は脾臓に胚中心を誘導するために1日目に腹腔内注射によってヒツジ赤血球(SRBC)を用いて免疫した。胚中心は7日で現れる。8日には、一群のマウスをm2H7で処置した。マウスのコントロール群はmIgG2aアイソタイプコントロール抗体で処置した。マウスの脾臓細胞を12日目に分析した。胚中心を染色するPNA(ピーナッツアグルチニン)を利用した。SRBCで免疫しなかったマウスの脾臓には検出可能な胚中心細胞は見られなかったが、免疫したマウスの脾臓は0.3%PNA染色細胞を示す。T2/卵胞B細胞は抗CD20抗体処置で枯渇するが、脾臓中の周辺帯B細胞は抗体に耐性がある。
【0067】
ついで、B細胞枯渇時にマウスがT非依存性免疫反応を生じ得るかどうかを決定した。マウスを、0日目にm2H7又はアイソタイプコントロール抗体mIgG2aで処置した。3−7日目に、B細胞枯渇が生じた。7日目に、マウスに肺炎連鎖球菌IVを静脈内注射して多糖に対する応答を誘導した。T細胞非依存性応答に11日目に達した。図15に示す結果は、抗ヒトCD20での処置は周辺帯及びB1細胞からのB細胞応答に影響を及ぼさないこと、すなわち非枯渇MZ及びB1B細胞がT非依存性抗原に対する保護を付与することを実証している。このデータは、体液性免疫の幾つかの観点、特にT非依存性B細胞応答(この場合)が抗CD20mAbでの処置にも拘わらず保存されることを実証している。
【0068】
まとめると、ヒトCD20トランスジェニック動物は血液、骨髄、脾臓、リンパ節及びパイエル板の成熟、プレB及び未熟B細胞上にヒトCD20を発現した。FACSを使用して測定して、トランスジェニック細胞上のヒトCD20の発現レベルはヒト細胞上のCD20のものの約40%であった。抗ヒトCD20抗体でのマウスの処置により、脾臓中の周辺帯B細胞(図10)及びパイエル板(図12)及び脾臓(図14)の双方の胚中心B細胞を除いて、処置から3−4日以内にB細胞の有意な枯渇が生じた。如何なる理論に縛られるものではないが、B細胞死はADCC、補体依存性細胞毒性(CDC)又はアポトーシス又はこれら3種の組み合わせによって媒介されるように思われる。T非依存性抗原に対する応答は、ヒト抗ヒトCD20抗体による枯渇に対する脾臓周辺帯B細胞の耐性に一致している抗ヒトCD20処置マウスに観察された。抗ヒトCD20抗体での死滅化に耐性のあるB細胞はT非依存性免疫応答の保持及び/又は併用療法が所望される場合B細胞の全てを枯渇させるのに必要とされるうるという証拠を提供する。ヒトCD20を発現するB細胞の回復は、最もありそうなことには前駆B細胞の成熟化により、抗ヒトCD20抗体での処置後14週までに観察された。これらの結果はリツキサンで処置されたヒトに見られるものと同様である。
【0069】
実施例2
この実施例はB細胞調節/枯渇のための抗CD20mAb処置とBR3アンタゴニスト処置の相乗効果を実証する。BR3-Fcは、ヒトIgG1、この場合は免疫グロブリン配列の定常ドメインに融合したヒトBR3の細胞外ドメインを有するイムノアドヘシンである。
発現するヒトCD20トランスジェニックマウス(hCD20+マウスと命名)を、抗CD20mAb(9日目に100マイクログラムの単一注射)、BR3-Fc(1日目から12日目まで一日おきに100マイクログラム)、又は抗CD20mAb及びBR3-Fcの組み合わせの腹腔内投与注射で処置した。各群は4匹のマウスからなる。最後の注射の2日後に、マウスを屠殺し、hCD20+B細胞について分析した。脾臓、血液、リンパ節及びパイエル板のFACS分析をB細胞マーカーについて分析した(CD21+CD23+)。
結果は、抗CD20mAb療法が血液及びリンパ節中の成熟循環B細胞の>99%を枯渇させ、BR3-Fc処置が血液及びリンパ節中の成熟循環B細胞を減少させた(図16)ことを示している。抗CD20mAb療法はT2及び卵胞B細胞を枯渇させたが、脾臓中の周辺帯B細胞は枯渇させず、またBR3-Fc処置は脾臓中のT2/卵胞及び周辺帯B細胞を減少させた。
【0070】
抗CD20mAbとBR3-Fcの組み合わせは相乗的に脾臓中のB細胞の全集団を枯渇させた。抗CD20mAbの枯渇は殆どの周辺帯及び幾らかの卵胞/T2脾臓B細胞を残し、またBR3-Fc枯渇は主として周辺帯及び幾らかの卵胞/T2B細胞で生じた(図16)。よって、両方の試薬の併用は脾臓中のB系統細胞を完全に枯渇させる。BR3-Fcも2H7もその2つの組み合わせも何れもパイエル板中の胚中心B細胞には効果がなかった(図17)。形質細胞は抗CD20mAb処置によって有意な影響を受けなかったが(図18)、これは、免疫応答性のある種の側面が抗CD20抗体で処置したマウスで維持されたことを示している。
これらの結果は、殆どのB細胞を枯渇させるために併用療法が有効であることを示している。ヒトと同様に、トランスジェニックマウスの幾らかのB細胞は抗CD20抗体での死滅化に耐性がある。併用療法は抗CD20抗体に耐性のある脾臓中のB細胞の枯渇をもたらす。これは、トランスジェニックマウスが、抗CD20耐性細胞又は非常に攻撃的な腫瘍を有する状況下で更に有効でありうる薬剤の組み合わせを同定するのにもまた有用であることを示している。
【0071】
実施例3
この実験では、ナチュラルキラー細胞が抗CD20mAb媒介B細胞枯渇に所定の役割を果たすことが証明された。
PK-136mAb(マウスNK1.1に対して特異的)を作るハイブリドーマクローンをATCCから得た。4群のヒトCD20トランスジェニックマウスに、コントロールmAb、PK-136、抗CD20mAb及びPK-136/抗CD20の組み合わせをそれぞれ腹腔内(ip)注射した。腹腔内投与の用量は次の通りであった:
コントロールmAb: 200ug/ip、3ip/週、1週間
PK-136: 200ug/ip、3ip/週、1週間
抗CD20mAb: 10ug/ip、単一用量
末梢血、リンパ節及び脾臓からのリンパ球を、抗CD20mAb腹腔内投与3日後に分析した。データはn=8で平均+/−標準誤差として表される。
結果は、PK-136での処置により、検査された組織(肝臓、脾臓及び血液)の中でNK細胞集団のおよそ80%から90%の減少が生じたことを示している(図19)。NK細胞の大部分がない場合、2H7媒介B細胞の枯渇は効果が低かった(図20)。よって、NK細胞は抗CD20mAb媒介B細胞枯渇に所定の役割を担っている。
【0072】
ここに引用した全ての文献(特許及び特許出願を含む)は出典明示によりここに取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、導入遺伝子のないマウス(Tg−)、導入遺伝子についてヘテロ接合マウス(Tg+/−)及びホモ接合性マウス(Tg+/+)から由来するマウスB220+細胞中でのヒトCD20の発現を示す。
【図2】図2はB細胞分化及び成熟化の間の様々な細胞表面マーカー(CD43、IgM、IgD)の発現の模式図を提供する。Tg+マウスでは、hCD20はプレB、未熟B細胞及び成熟B細胞に発現する。
【図3】図3は骨髄のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD43の存在について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD43Abで染色した。
【図4】図4は脾臓のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD21について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD21Abで染色した。ヒトCD20を有するB細胞はT1帯、周辺帯及びT2/卵胞帯に見出される。
【図5】図5は腸間膜リンパ節のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD21について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD21Abで染色した。
【図6】図6はパイエル板のB細胞中でのヒトCD20を発現するTg+マウスのスクリーニングの結果を示す。細胞はFITC(BD Phramingen)に結合した抗ヒトCD20で染色した。B220及びCD38について細胞をゲーティングすることによってB細胞の様々な集団を描写することが可能になる。ゲーティングには、細胞を、PerCP(BD Phramingen)に結合した抗B220Ab及びPE(蛍光、BD Phramingen)に結合した抗CD38Abで染色した。ヒトCD20を有するB細胞は成熟B細胞及び胚中心の細胞に見出される。
【図7】図7はTg+マウス中への抗ヒトCD20mAbの投与とヒトCD20を有する細胞の有無の分析の模式図である。抗ヒトCD20モノクローナル抗体1gの単一用量を0日に投与した。−1日、1、2、3、4、7、14及び21日に様々な組織から試料を取った。末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板のような異なった組織からの試料を、過去に記載されているようにして、FACsによって分析した。抗CD20モノクローナル抗体の血清レベルもまたモニターした。
【図8】図8は抗ヒトCD20mAbm2H7(BD Pharmingen)で処置したトランスジェニックマウスにおける末梢B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図9】図9は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける成熟末梢リンパ節B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図10】図10は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける脾臓T2及び卵胞B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図11】図11は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける再循環成熟B細胞の枯渇を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図12】図12は抗ヒトCD20mAbm2H7で処置したトランスジェニックマウスにおける成熟B細胞の枯渇とパイエル板胚中心B細胞の枯渇に対する耐性を示す。抗体を、1mgの全用量で図7の概略図に概要が示されているようにトランスジェニックマウスに投与した。FACS分析を、過去に記載されたようなゲーティングによって末梢血、脾臓、リンパ節、骨髄、及びパイエル板について実施した。
【図13】図13は抗CD20mAbの投与後のB細胞の枯渇と回復を示す。抗体を1日目にマウスに投与した。抗体処置後6日目には、末梢血中にヒトCD20発現B細胞を検出できなかった。6週目では、抗体の排除時に、hCD20+細胞が検出され始める。14週目までには、B細胞は正常なレベルに回復したようであった。回復は、CD20を発現せず、ついでヒトCD20+を持つ成熟B細胞に発達するプレカーサーB細胞から生じる。
【図14】図14は短期抗CD20mAb療法に対する脾臓胚中心B細胞の耐性を示すFACSプロットを示す。マウスは未免疫か又は1日目に腹腔内注入によってヒツジ赤血球(SRBC)で免疫化して脾臓に胚中心を誘導した。胚中心は7日目に現れる。8日目に、マウスの一群を抗CD20抗体m2H7で処置した。マウスのコントロール群はmIgG2aアイソタイプコントロール抗体で処置した。マウスの脾臓細胞を12日目に分析した。胚中心を染色するPNA(ピーナッツアグルチニン)を使用した。検出可能な胚中心細胞はSRBCで免疫しなかったマウスの脾臓では見られなかったが、免疫したマウスの脾臓は0.3%のPNA染色細胞を示す。T2/卵胞B細胞は抗CD20抗体処置で枯渇するが、脾臓中の周辺中心B細胞は抗体に耐性がある。
【図15】図15は抗CD20mAb処置マウス及びコントロールにおけるT細胞非依存性応答を示す。マウスを、0日目にm2H7又はアイソタイプコントロール抗体mIgG2aで処置した。3−7日目に、B細胞枯渇が生じた。7日目に、マウスに肺炎連鎖球菌IVを静脈内注射して、多糖に対する応答を誘導した。T細胞非依存性応答は11日に達した。該結果は、抗ヒトCD20m2H7での処置は周辺帯及びB1細胞からのB細胞応答に影響を及ぼさない、つまり非枯渇MZ及びB1B細胞がT非依存性抗原に対する保護をもたらすことを実証している。
【図16】図16はTg+マウスにおけるBR3及び2H7抗体処置の効果の比較を示す。ヒトCD20をコードする細菌人工染色体を発現するヒトCD20トランスジェニックマウス(hCD20+マウスと称す)を、抗CD20mAb(9日目に100マイクログラムの一回の注射)、BR3-Fc(1日目から12日目まで一日おきに100マイクログラム)、又は抗CD20mAbとBR3-Fcの組み合わせの腹腔内注射で処置した。各群は4匹のマウスから構成されていた。最後の注射の2日後に、マウスを屠殺し、hCD20+B細胞について分析した。脾臓、血液、リンパ節及びパイエル板のFACS分析をB細胞マーカー(CD21+CD23+)について分析した。抗CD20mAb療法はT2及び卵胞B細胞を枯渇させたが脾臓中の周辺帯B細胞は枯渇させず、またBR3-Fc処置は脾臓中のT2/卵胞及び周辺帯B細胞を減少させた。
【図17】図17はパイエル板に対する抗CD20mAb処置の効果の欠如を示す。ヒトCD20をコードする細菌人工染色体を発現するヒトCD20トランスジェニックマウスを、抗CD20mAb(9日目に100マイクログラムの一回の注射)、BR3-Fc(1日目から12日目まで一日おきに100マイクログラム)、又は抗CD20mAbとBR3-Fcの組み合わせの腹腔内注射で処置した。各群は4匹のマウスから構成されていた。最後の注射の2日後に、マウスを屠殺し、hCD20+B細胞について分析した。脾臓、血液、リンパ節及びパイエル板のFACS分析をB細胞マーカー(CD21+CD23+)について分析した。BR3-Fcも2H7もその二つの組み合わせの何れもパイエル板中の胚中心B細胞に対して効果がなかった。
【図18】図18は長期の抗CD20mAb処置後に形質細胞が枯渇しないことを示す。ヒトCD20に対して陽性のトランスジェニックTg+マウスを、過去に記載されているようにして抗ヒトCD20mH27抗体で処置した。シンジカン(syndican)(CD-138形質細胞マーカー)に対して陽性であった骨髄及び脾臓中の細胞を検出することによって形質細胞の有無についてマウスを分析した。IgA又はIgM陽性形質細胞の数をまた抗ヒトCD20処置後にモニターした。結果は、Tg+マウス中の形質細胞は抗ヒトCD20抗体処置には影響を受けないことを示し、これはTg+マウスが抗体を産生する能力を尚有していることを示している。
【図19】図19はTg+マウス中でのPK-136mAbによるNK細胞の枯渇を示す。(マウスNK1.1に対して特異的な)PK-136mAbを産生するハイブリドーマクローンをATCCから取得した。4群のヒトCD20トランスジェニックマウスに、コントロールmAb、PK-136、抗CD20mAb及びPK-136/抗CD20の組み合わせをそれぞれ腹腔内(ip)注射した。腹腔内投与された用量は次の通りであった: コントロールmAb:200ug/ip、3ip/週、1週間 PK-136:200ug/ip、3ip/週、1週間 抗CD20mAb: 10ug/ip、単一用量 末梢血、肝臓及び脾臓からのNK細胞を、抗体処置後に分析した。データは、n=8で、平均+/−標準誤差として表す。
【図20】図20は、NK細胞がTg+マウス中において2H7媒介B細胞枯渇に所定の役割を果たしていることを示す。(マウスNK1.1に対して特異的な)PK-136mAbを産生するハイブリドーマクローンをATCCから取得した。4群のヒトCD20トランスジェニックマウスに、コントロールmAb、PK-136、抗CD20mAb及びPK-136/抗CD20の組み合わせをそれぞれ腹腔内(ip)注射した。腹腔内投与された用量は次の通りであった: コントロールmAb:200ug/ip、3ip/週、1週間 PK-136:200ug/ip、3ip/週、1週間 抗CD20mAb:10ug/ip、単一用量 末梢血、リンパ節及び脾臓からのリンパ球を、抗CD20mAbの腹腔内投与3日後に分析した。データは、n=8で、平均+/−標準誤差として表す。
【図21A】ヒトCD20のアミノ酸配列(配列番号:1)(ジェンバンク受託番号BC002807)を示す。
【図21B】ヒトCD20のcDNA配列(配列番号:2)(ジェンバンク受託番号BC002807)を示す。
【図21C−1】ヒトCD20のゲノム配列(配列番号:3)(ジェンバンク受託番号AH005353)を示す。
【図21C−2】ヒトCD20のゲノム配列(配列番号:3)(ジェンバンク受託番号AH005353)を示す。
【図21C−3】ヒトCD20のゲノム配列(配列番号:3)(ジェンバンク受託番号AH005353)を示す。
【図21D】マウスの代表的なcDNA配列(配列番号:4)(ジェンバンク受託番号M62541)を示す。
【図22】図22はヒト末梢血細胞上のCD20の発現と比較したヒトCD20トランスジェニックマウス由来の末梢血細胞上のヒトCD20発現の発現レベルの代表的な比較を示す。末梢血細胞はヒトドナー及びhCD20Tg+マウスから取得し、標識抗ヒトCD20抗体(mH27)で染色した。細胞をFACSによって分析し、ヒトCD19+及びB220+集団についてゲーティングした。グラフ上の数値は平均蛍光強度を表している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD20をコードするヌクレオチド配列をゲノムが含む非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
上記ヌクレオチド配列がヒト内因性プロモーターに作用可能に結合している請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項3】
細胞がヒトCD20を発現する請求項2に記載のトランスジェニック動物。
【請求項4】
ヒトCD20がBリンパ球の表面に発現される請求項3に記載のトランスジェニック動物。
【請求項5】
ヒトCD20が、発現細胞に結合した抗ヒトCD20抗体が細胞の死滅に影響を及ぼし、B細胞の枯渇を生じるのに十分なレベルでBリンパ球上に発現される請求項3に記載のトランスジェニック動物。
【請求項6】
ゲノムが、ヒトCD20に実質的に相同なCD20分子をコードする内因性遺伝子に破壊を含む請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項7】
内因性遺伝子がマウスCD20をコードする請求項6に記載のトランスジェニック動物。
【請求項8】
B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤を同定する方法において、
a)請求項1又は6に記載の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)請求項1又は6に記載の動物に上記薬剤を投与し、
c)上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定することを含み、薬剤で治療した後の動物におけるヒトCD20を発現するBリンパ球数の減少により、B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤が同定される方法。
【請求項9】
請求項8によって同定された薬剤。
【請求項10】
ヒトCD20を発現する細胞を枯渇させ又は死滅させることが可能な薬剤を同定する方法において、
a)請求項1又は6に記載の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)請求項1又は6に記載の動物に上記薬剤を投与し、
c)上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定することを含み、動物におけるヒトCD20を発現するBリンパ球数の減少により、CD20を発現する細胞を枯渇させ又は死滅させることができるものとして薬剤が同定される方法。
【請求項11】
上記細胞が癌細胞である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項11によって同定された薬剤。
【請求項13】
請求項1又は6に記載のトランスジェニック動物に由来する細胞又は組織。
【請求項14】
上記動物が齧歯類である請求項1又は6に記載のトランスジェニック動物。
【請求項15】
上記齧歯類がマウスである請求項14に記載のトランスジェニック動物。
【請求項16】
抗ヒトCD20療法の安全性を試験する方法において、
a)請求項1又は6に記載の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)請求項1又は6に記載の動物に上記薬剤を投与し、
c)上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
ここで、動物におけるヒトCD20を発現するBリンパ球数の減少により、CD20を発現する細胞を枯渇させ又は殺すことができるものとして薬剤が同定され、
d)短期間又は長期間の副作用について動物をモニターすることを含む方法。
【請求項17】
抗ヒトCD20療法の有効性を試験する方法において、
a)請求項1又は6に記載の一群の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)上記群の各動物に異なった用量の薬剤を投与し、
c)各用量後の上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
d)最もB細胞枯渇の多い薬剤の少なくとも一の用量を決定することを含む方法。
【請求項1】
ヒトCD20をコードするヌクレオチド配列をゲノムが含む非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
上記ヌクレオチド配列がヒト内因性プロモーターに作用可能に結合している請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項3】
細胞がヒトCD20を発現する請求項2に記載のトランスジェニック動物。
【請求項4】
ヒトCD20がBリンパ球の表面に発現される請求項3に記載のトランスジェニック動物。
【請求項5】
ヒトCD20が、発現細胞に結合した抗ヒトCD20抗体が細胞の死滅に影響を及ぼし、B細胞の枯渇を生じるのに十分なレベルでBリンパ球上に発現される請求項3に記載のトランスジェニック動物。
【請求項6】
ゲノムが、ヒトCD20に実質的に相同なCD20分子をコードする内因性遺伝子に破壊を含む請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項7】
内因性遺伝子がマウスCD20をコードする請求項6に記載のトランスジェニック動物。
【請求項8】
B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤を同定する方法において、
a)請求項1又は6に記載の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)請求項1又は6に記載の動物に上記薬剤を投与し、
c)上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定することを含み、薬剤で治療した後の動物におけるヒトCD20を発現するBリンパ球数の減少により、B細胞リンパ腫を治療可能な薬剤が同定される方法。
【請求項9】
請求項8によって同定された薬剤。
【請求項10】
ヒトCD20を発現する細胞を枯渇させ又は死滅させることが可能な薬剤を同定する方法において、
a)請求項1又は6に記載の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)請求項1又は6に記載の動物に上記薬剤を投与し、
c)上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定することを含み、動物におけるヒトCD20を発現するBリンパ球数の減少により、CD20を発現する細胞を枯渇させ又は死滅させることができるものとして薬剤が同定される方法。
【請求項11】
上記細胞が癌細胞である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項11によって同定された薬剤。
【請求項13】
請求項1又は6に記載のトランスジェニック動物に由来する細胞又は組織。
【請求項14】
上記動物が齧歯類である請求項1又は6に記載のトランスジェニック動物。
【請求項15】
上記齧歯類がマウスである請求項14に記載のトランスジェニック動物。
【請求項16】
抗ヒトCD20療法の安全性を試験する方法において、
a)請求項1又は6に記載の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)請求項1又は6に記載の動物に上記薬剤を投与し、
c)上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
ここで、動物におけるヒトCD20を発現するBリンパ球数の減少により、CD20を発現する細胞を枯渇させ又は殺すことができるものとして薬剤が同定され、
d)短期間又は長期間の副作用について動物をモニターすることを含む方法。
【請求項17】
抗ヒトCD20療法の有効性を試験する方法において、
a)請求項1又は6に記載の一群の動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
b)上記群の各動物に異なった用量の薬剤を投与し、
c)各用量後の上記動物においてヒトCD20を発現するBリンパ球のレベルを測定し、
d)最もB細胞枯渇の多い薬剤の少なくとも一の用量を決定することを含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図21C−1】
【図21C−2】
【図21C−3】
【図21D】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図21C−1】
【図21C−2】
【図21C−3】
【図21D】
【図22】
【公表番号】特表2006−517096(P2006−517096A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508583(P2005−508583)
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/039696
【国際公開番号】WO2004/060053
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/039696
【国際公開番号】WO2004/060053
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
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