ヒトDAX−1遺伝子およびタンパク質の神経変性疾患に関する診断的および治療的使用
本発明は、アルツハイマー病患者の特定の脳領域における細胞質スルホトランスフェラーゼの発現の差を開示する。この知見に基づき、本発明は被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断するための、または被験者がそのような疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する方法を提供する。さらに、本発明は、DAX−1をコードする遺伝子を用いた、アルツハイマー病および関連する神経変性疾患を治療または予防するための治療的および予防的方法を提供する。神経変性疾患の調節物質についてのスクリーニング方法および組み換え動物モデルもまた開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者における神経変性疾患の進行を診断、予測、および監視する方法に関する。さらに、神経変性疾患の調節物質の治療コントロールおよびスクリーニングの方法を提供する。本発明はまた、医薬組成物、キット、および組み換え動物モデルも開示する。
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生活を強く衰弱させる影響を与える。さらに、これらの疾患は、甚大な健康上の、社会的な、および経済的な負担を構成する。ADは最も一般的な神経変性疾患であり、痴呆の症例全体の約70%を占め、65歳超の人口の約10%および85歳超の最大45%が罹患する、おそらく最も破壊的な加齢関連神経変性症状である(最近の総説はヴィッカーズ(Vickers)ら、Progress in Neurobiology 2000,60;139−165を参照)。現在、これは米国、欧州、および日本において推定約1200万例に達する。この状況は、発展途上国における高齢者数の人口統計上の増加(「ベビーブーマーの高齢化」)に伴い不可避的に悪化する。ADを有する人の脳に生じる神経病理学的な顕著な特徴は、アミロイド−βタンパク質で構成される老人斑、および異常な線維状構造の出現および神経原線維変化の形成と一致して現れる著しい細胞骨格変化である。
【0003】
アミロイド−β(Aβ)タンパク質は、さまざまな種類のプロテアーゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂から生じる。β/γ−セクレターゼによる開裂はさまざまな長さのAβペプチドの形成に繋がり、典型的には、40アミノ酸から構成される短くより可溶性が高く凝集が遅いペプチド、および細胞外で迅速に凝集し特徴的なアミロイド斑を形成する、より長い42アミノ酸ペプチドである(セルコー(Selkoe), Physiological Rev 2001, 81; 741−66;グリーンフィールド(Greenfield)ら,Frontiers Bioscience 2000,5; D72−83)。それらは主に大脳皮質および海馬に見出される。脳における毒性のA(沈着物の生成は、ADの経過のごく早期に開始し、およびADの病理に繋がるその後の破壊過程の中心的存在であると論じられている。ADの他の病理学的な顕著な特徴は、神経原線維変化(NFT)および、ニューロピル・スレッドと表現される異常な神経突起である(ブラーク(Braak)およびブラーク(Braak), Acta Neuropathol 1991, 82; 239−259)。NFTは神経細胞の内部に出現し、および互いに絡まり合う対のらせん状線維を形成する、化学的に変化したタウタンパク質から成る。神経原線維変化の出現およびその数の増加は、ADの臨床的重症度とよく相関する(シュミット(Schmitt)ら, Neurology 2000, 55; 370−376)。
【0004】
ADは進行性疾患であり、初期の記憶形成の障害を伴い、および最終的にはより高次の認知機能の完全な衰退に繋がる。認知障害には、とりわけ、記憶障害、失語症、失認症、および実行機能の喪失がある。ADの病因の特徴的性質は、脳の特定の領域および神経細胞の部分集団の、変性過程に対する選択的な不安定性である。具体的には、側頭葉領域および海馬は、疾患の経過中に早期におよびより重度に冒される。一方、前頭皮質、後頭皮質、および小脳内の神経細胞は大体は損なわれないままであり、神経変性から守られている(テリー(Terry)ら, Annals of Neurology 1981, 10; 184−92)。ADの発症年齢は50年の範囲内でさまざまであり、65歳未満の人で起こる早発型AD、65歳超の人で起こる遅発型ADがある。
【0005】
現在、ADに治療法は無く、ADの進行を止めるか、または高確率で死亡前にADを診断するためさえ、有効な方法は無い。個人がADを発症する素因となるいくつかのリスク因子が特定されている。また、遺伝的欠陥によるとされる早発型ADの稀な例が存在するが、遅発型散発性ADの一般的な型は、これまでのところ病因的起源は不明である。
【0006】
神経変性疾患の遅い発症および複雑な病因は、治療用および診断用薬の開発に困難な問題をもたらす。医薬標的および診断マーカーの候補のプールを拡大することが極めて重大である。したがって、神経疾患の病因に関する洞察を与えること、およびこれらの疾患の治療の診断および開発に特に適した方法、材料、物質、組成物、および動物モデルを提供することは、本発明の目的である。この目的は、独立請求項の条項によって解決される。下位請求項は、本発明の好ましい実施形態を定義する。
【0007】
本発明は、ヒトアルツハイマー病の脳試料中における、X染色体第1遺伝子(DAX−1)上のDSS−AHCの重要な領域をコードする遺伝子の発現の差およびそのタンパク質産物を基礎とする。
【0008】
様々な一連の証拠は、コレステロール代謝と、散発性アルツハイマー病(AD)の発症のリスクおよび/または年齢との暫定的なリンクを示している。遺伝子レベルでは、アポリポタンパクE遺伝子(ApoE)の3つの異なる既存アレル(エプシロン2、3および4)のうちエプシロン4が、今日までに知られる最も強力なADのリスク因子である(コーダー(Corder)ら, Science 1993, 261:921−923; ストリットマター(Strittmatter)ら, Proc Nail Acad Sci USA 1993, 90:1977−81; ローゼズ(Roses)ら, Ann NY Acad Sci 1998, 855:738−43)。脳内のアポリポタンパクとして、ApoEは細胞外輸送および神経組織中のコレステロールおよび脂質の再分配に寄与する。コレステロールの細胞内含有物の調節は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク分解処理に直接影響する。具体的には、コレステロール負荷を低下することは、非アミロイド性の?−セクレターゼ経路に有利に働くことによって、アミロイド生成A?40およびA?42ペプチドの形成を排除している(ハウランド(Howland)ら, J. Biol. Chem 1998, 273: 16576−16582; シモンズ(Simons)ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1998, 95: 6460−6464)。人口に基づく検討によって、コレステロール生合成の主要酵素の阻害剤である3?−ヒドロキシ−3?−メチルグルタリル補酵素Aリダクターゼによる長期治療後に、人の認知症のリスクが低下することが実証されてきた(ジック(Jick)ら, Lancet2000, 356; 1627−1631; ウォロジン(Wolzin)ら, Arch. Neurol.2000, 57; 1439−1443)。
【0009】
コレステロールの代謝に関与する酵素の調節は、アルツハイマー病の過程および治療と関連すると思われる。ステロイド合成因子1(SF1)がコレステロール代謝およびステロイド代謝に関与する遺伝子の転写調節において役割を果たすこと、および以降DAX−1というX染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域は、次にSF1の負の調節因子として作用する。DAX−1は、元来は副腎腺の発達に対する先天的な障害である先天性副腎発育不全として同定され(ザナリア(Zanaria)ら, Nature 1994, 372; 635−641)、X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域と名付けられた。DSSは用量依存性性転換の略語である。その理由は、Xp21染色体上の断片の複製に障害のある患者は遺伝子型女性として発達するためである。AHCは先天性副腎発育不全の略語であり、この不全状態は副腎皮質の永久領域が存在しないこと、および腺の構造的な解体を特徴とする。この場合、各染色体上の欠損またはDAX−1の変異がみとめられてきた。DAX−1遺伝子は、長さが470アミノ酸、分子量が約51.7kDaのタンパク質を算出する1413塩基対によってコード化されている(タンパク質配列:SwissProt登録番号Q96F69;mRNA配列:Genbank登録番号S74720;DAX−1遺伝子ヌクレオチド配列および対応するDAX−1タンパク質アミノ酸配列が、マッケーブ(McCabe)らによる米国特許第6465627号に開示されている。遺伝子は、イントロンスパニング(spanning)3.4kbによって分離される2個のエクソンから成る(クオ(Guo)ら, J. Endocrinol. Met. 1996, 81:2481−2486)。DAX−1のC末端領域の予測されたアミノ酸配列は、リガンド結合に関与する核ホルモン受容体遺伝子ファミリー(領域E)(レチノイン酸受容体)との類似性を明らかにする。N側端半分は、それぞれ65から67個のアミノ酸から成る3.5個の末端反復へと分割してもよいが、新規の異常なジンクフィンガーDNA結合モチーフから構成されると考えられてきた(ブリス(Burris)ら, Biochem. Biophys. Res. Comm. 1995, 214:576−581; クオ(Guo)ら, J. Endocrinol. Met. 1996, 81:2481−2486)。
【0010】
DAX−1は副腎腺または複数の副腎腺に支配的に発現するが(ザナリア(Zanaria)ら, Nature 1994, 372:635−641)、ヒトの皮膚(ペーテル(Petel)ら, J. Invest. Dermatol. 2001, 117:1559−1565)、視床下部および下垂体(クオ(Guo)ら, Biochem. Mol. Med. 1995, 56:8−13)にもみとめられてきた。細胞内において、DAX−1は細胞質中だけでなく細胞核中にもみとめられる可能性があり、またDAX−1は、mRNAを介したポリリボソームと相関する輸送(shuttling)RNA結合タンパク質として機能するであろうと考えられてきた(ラリ(Lalli)ら, Mol. Cell Biol. 2000, 20:4910−4921)。N末端核局在化シグナルは損なわれないままであるものの、X連鎖型先天性副腎発育不全としてみとめられるDAX−1の変異は、細胞質へのタンパク質の局在化が移動する(レーマン(Lehmann)ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2002, 99:8225-8230)。DAX−1は主にステロイド生成に関与する組織中で発現するため、ステロイド代謝に参加する遺伝子の転写調節における役割が提案されてきた。DAX−1の役割は転写抑制因子として最も良く説明される可能性がある。DAX−1の機能は転写抑制因子として説明されるであろう。実際のところ、DAX−1のDNA−結合の結果、所定の遺伝子の転写抑制が発生し、ステロイド生成が大幅に減少することが示されてきた(ザゾポーラス(Zazopoulos)ら, Nature 1997, 390: 311−315)。これによってDAX−1の発現パターンは、ステロイド生成に関与する様々な酵素の転写因子として周知のステロイド生成因子(SF−1)の発現と重複する。DAX−1とSF−1の抑制因子と誘導因子との間のバランスは、ステロイド代謝の調節において決定的な重要性をもつと思われる(オスマン(Osman)ら, J. Biol. Chem. 2002, 277:41259−41267)。しかし、DAX−1はSF−1を発現しない細胞中にも存在する可能性があり、これはSF−1によって調節される経路以外の経路での役割を示唆している(イケダ(Ikeda)ら, Dev. Dyn. 2001, 220:363−376)。
【0011】
ステロイド生成に関与するいくつかの遺伝子の転写は、DAX−1によって抑制され(ラリ(Lalli)ら, Mol. Endocrinol. 2003, 17:1445−1453)、これらの例にはStAR(ステロイド生成急性調節タンパク質;ザゾポウラス(Zazopoulos)ら, Nature 1997, 390:311−315; ラリ(Lalli)ら,Mol. Endocrinol. 1997, 11:1950−1960)、P450scc(チトクロームP450側鎖切断酵素)、3ベータ−HSD(3ベータ−ヒドロキシ−デルタ5−C27−ステロイド酸化還元酵素; ラリ(Lalli)ら, Mol. Endocrinol. 1998, 139:4237−4243),CYP17(ステロイド17−アルファ−水酸化酵素, ハンリー(Hanley)ら, Mol. Endocrinol. 2001, 15:57−68)およびCYP19(アロマターゼ、 ワン(Wang)ら, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 2001, 98:7988−7993)がある。DAX−1は各遺伝子のプロモーター中のヘアピン構造への結合によって機能を発揮し、この場合、遺伝子の発現を推進すると説明されてきたステロイド因子1の結合をアロステリックに阻害すると考えられている(ザゾポウラス(Zazopoulos)ら, Nature 1997, 390:311−315)。
【0012】
DAX−1の発現は、ステロイド生成因子1によって調節されると考えられてきた。SF−1のコンセンサス部位がDAX−1のプロモーター領域にみとめられてきた(ブリス(Burris)ら, Biochem. Biophys. Res. Comm. 1995, 214:576−581)。しかし、SF−1ノックアウトマウスは損なわれていないことから、DAX−1発現の推進にはSF−1が必要ないことを示唆している(イケダ(Ikeda)ら, Mol. Endocrinol. 1996, 10:1261−1272)。
【0013】
様々なDAX−1レベルが、生理学的または病理生態学的なヒト脳におけるコレステロール恒常性に寄与するかどうかを試験するために、AD患者および対応する年齢の対照健常者の前頭皮質、側頭皮質および海馬におけるDAX−1遺伝子の転写レベルをRT−PCRによって測定した。
【0014】
本発明は、アルツハイマー病罹患脳におけるDAX−1遺伝子発現において、AD患者のDAX−1のmRNAレベルが前頭葉と比較して側頭皮質および海馬において高いこと、および側頭皮質および海馬ではAD患者のDAX−1のmRNAレベルが対照群と比較してより高いが前頭皮質では高くないという点で、異常調節を開示する。対応する年齢の対照健常者のDAX−1発現は、側頭皮質と前頭皮質との間で、および海馬と前頭葉との間で差はなかった。この異常調節は、AD罹患脳におけるコレステロール恒常性の病理学的変更に関係する可能性がある。例えば、このような異常調節は、罹患脳領域での細胞死に有利に働くプロアポトーシス不均衡(imbalance)を引き起こす可能性があり、最終的には不可逆的な神経損傷に至る。DAX−1遺伝子の発現の調節異常と神経変性疾患、特にADの病理学との関係を実証する実験がこれまで説明されたことはなかった。同様に、DAX−1遺伝子における変異が該疾患と関連すると説明されたこともなかった。DAX−1遺伝子とこの疾患を関連付けることによって、とりわけ該疾患の診断および治療に対して新しい方法を提供する。
【0015】
ここでおよび請求項で用いられる単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈でそうでないと示されない限り、複数への言及を含む。たとえば、「a細胞(一つの細胞)」は複数の細胞をも意味する、など。本明細書および請求項で用いられる「および/または」の語句は、この語句の前および後の語句が選択肢としてまたは組み合わせて考えられるべきであることを示す。たとえば、「レベルおよび/または活性の測定」という言い回しは、レベルだけ、または活性だけ、またはレベルおよび活性の両方が測定されることを意味する。ここで用いられる「レベル」の語は、転写産物、たとえばmRNA、または翻訳産物、たとえばタンパク質またはポリペプチドの、量または濃度の尺度または指標を含むことを意図する。ここで用いられる「活性」の語は、転写産物または翻訳産物が生物学的効果を生じる能力についての指標、または、生物学的に活性な分子のレベルの指標と理解すべきである。「活性」の語はまた、酵素活性を、または、結合、拮抗、抑制、阻害または中和をいう生物活性および/または薬理活性をいう。ここで用いられる「レベル」および/または「活性」の語はさらに、遺伝子発現レベルまたは遺伝子活性をいう。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生に繋がる、転写および翻訳による、遺伝子に含まれる情報の利用と定義される。「調節障害」は遺伝子発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを意味することとする。遺伝子産物はRNAまたはタンパク質のどちらかを含み、および遺伝子の発現の結果である。遺伝子産物の量は、遺伝子がどの程度活性であるかを測定するのに用いることができる。本明細書および請求項で用いられる「遺伝子」の語は、コード領域(エクソン)および非コード領域(たとえばプロモーターまたはエンハンサー、イントロン、リーダーおよびトレーラー配列といった非コード調節配列)の両方を含む。「ORF」の語は「オープン・リーディング・フレーム」の頭文字であり、および、少なくとも1つの読み枠に終止コドンを持たずおよびしたがって潜在的にアミノ酸の配列に翻訳されうる核酸配列をいう。「調節配列」は、遺伝子発現を推進し調節する、誘導性および非誘導性プロモーター、エンハンサー、オペレーター、およびその他の配列を含む。ここで用いられる「断片」の語は、たとえば択一的にスプライシングされ、または短縮され、またはさもなければ切断された転写産物または翻訳産物を含むことを意図する。ここで用いられる「誘導体」の語は、突然変異の、またはRNA改変された、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた転写産物、または、突然変異の、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた翻訳産物をいう。明確には、誘導体転写産物は、たとえば、一塩基または複数塩基の欠失、挿入、または交換といった変化を核酸配列に有する転写産物をいう。「誘導体」は、変化したリン酸化、またはグリコシル化、またはアセチル化、または脂質化といった過程によって、または変化したシグナルペプチド開裂またはその他の型の成熟開裂によって生じうる。これらの過程は翻訳後に起こりうる。本発明および請求項で用いられる「調節因子」の語は、遺伝子、または遺伝子の転写産物、または遺伝子の翻訳産物のレベルおよび/または活性を変化または改変することができる分子をいう。好ましくは、「調節因子」は、遺伝子の転写産物または翻訳産物の生物学的活性を変化または改変することができる。前記の調節は、たとえば、生物活性および/または薬理活性、酵素活性の上昇または低下、結合特性の変化、または遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的、または免疫学的性質の何らかのその他の変化または改変でありうる。「調節因子」は、イオンチャンネルサブユニットまたはイオンチャンネルの機能的性質を促進または阻害、したがって「調節する」、イオンチャンネルまたはイオンチャンネルサブユニットの結合、拮抗、抑制、阻害、中和または封鎖を「調節する」、および活性化、作用、アップレギュレーションを「調節する」ことができる能力を有する分子をいう。「調節」はまた、細胞の生物活性に影響を与える能力をいうのにも用いられる。「調節因子」、「物質」、「試薬」、または「化合物」の語は、細胞、組織、体液に対して、または任意の生物学的系または被験分析系の背景内で、正または負の生物学的効果を有する任意の物質、化学物質、組成物または抽出物をいう。それらは標的の作用因子、拮抗因子、部分的作用因子または逆作用因子でありうる。それらは、核酸、天然または合成ペプチドまたはタンパク質複合体、または融合タンパク質でありうる。それらはまた、抗体、有機または無機分子または組成物、低分子、薬物、および上の前記物質のうち任意のものの任意の組み合わせでありうる。それらは診断のまたは治療の目的のための試験に用いることができる。そのような調節因子、物質、試薬または化合物は、細胞培地、または細胞培養に用いられる血清中に存在する因子、栄養因子といった因子でありうる。本発明で用いられる「栄養因子」は、神経栄養因子を、サイトカインを、ニューロカインを、神経免疫因子を、脳由来因子(BDNF)を、およびTGFベータファミリーの因子を含むがそれらに限定されない。そのような栄養因子の例は、ニューロトロフィン3(NT−3)、ニューロトロフィン4/5(NT−4/5)、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン−ベータ、膠細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インシュリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)および血小板由来成長因子(PDGF)である。「オリゴヌクレオチドプライマー」または「プライマー」の語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって、与えられた標的ポリヌクレオチドとアニーリングすることができ、およびポリメラーゼによって伸長することができる、短い核酸配列をいう。それらは特定の配列に対して特異的であるように選択することができ、または任意に選択することができ、たとえばそれらはある混合物中のすべての可能な配列のプライマーとなることができる。ここで用いられるプライマーの長さは10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動しうる。「プローブ」はここで記載および開示される核酸配列の短い核酸配列またはそれと相補的である配列である。それらは完全長配列、または任意の配列の断片、誘導体、アイソフォーム、または変異体を含むことができる。「プローブ」と分析試料との間のハイブリダイゼーション複合体の同定は、その試料内の他の類似配列の存在の検出を可能にする。ここで用いられる「ホモログまたはホモロジー」は、ヌクレオチドまたはペプチド配列の、別のもう一つのヌクレオチドまたはペプチド配列との関連性を表す本分野の語であり、比較される前記配列間の同一性および/または類似性の程度によって測定される。本分野では、「同一性」および「類似性」の語は、問い合わせ配列と、好ましくは同一の種類の別の配列(核酸またはタンパク質配列)とを、互いにマッチングさせることによって決定される、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列関連性の程度を意味する。「同一性」および「類似性」を計算および決定するための好ましいコンピュータープログラム法は、GCG BLAST(基礎局所整列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool))(アルチュール(Altschul)ら,J.Mol.Biol.1990,215: 403−410;アルチュールら,Nucleic Acids Res.1997,25: 3389−3402;デベロー(Devereux)ら,Nucleic Acids Res.1984,12: 387)、 BLASTN 2.0 (ギッシュ(Gish)W.,http://blast.wustl.edu,1996−2002)、FASTA(ピアソン(Pearson)およびリップマン(Lipman),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85: 2444−2448)、および最長の重複を有する一対のコンティグを決定および整列するGCG GelMerge(ウィルバー(Wilbur)およびリップマン(Lipman),SIAM J.Appl.Math.1984,44: 557−567;ニードルマン(Needleman)およびビュンシュ(Wunsch),J.Mol.Biol.1970,48: 443−453)を含むがそれらに限定されない。ここで用いられる「変異体」の語は、本発明で開示されたポリペプチドおよびタンパク質に関して、本発明の天然のポリペプチドまたはタンパク質の天然のアミノ酸配列のN末端および/またはC末端におよび/または中に、1個以上のアミノ酸が付加されたおよび/または置換されたおよび/または欠失したおよび/または挿入された、任意のポリペプチドまたはタンパク質をいう。さらに、「変異体」の語は、ポリペプチドまたはタンパク質の任意のより短いかまたはより長い形を含む。「変異体」はまた、配列番号1のDAX−1のアミノ酸配列と、少なくとも約80%配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%配列同一性、および非常に好ましくは少なくとも約95%配列同一性を有する配列も含む。タンパク質分子の「変異体」は、たとえば、高度に保存された領域に保存されたアミノ酸置換を有するタンパク質を含む。本発明の「タンパク質およびポリペプチド」は、配列番号1のDAX−1のアミノ酸配列を含むタンパク質の、変異体、断片、および化学的誘導体を含む。コドンが代替的な塩基配列によって別のコドンに置き換えられ、しかしそのDNA配列によって翻訳されるアミノ酸配列が変化しないままである配列変異を含めるべきである。この本分野で知られる現象は、特定のアミノ酸を翻訳するコドンの組の冗長性と呼ばれる。アルギニンをリジンに、バリンをロイシンに、アスパラギンをグルタミンにといった、機能性にまったく影響しないアミノ酸の交換もまた含めるべきである。天然から単離することができるかまたは、組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができるタンパク質およびポリペプチドを含めることができる。天然タンパク質またはポリペプチドは、天然に存在する短縮型または分泌型、天然に存在する変異型(たとえばスプライス変異体)および天然に存在する対立遺伝子変異体をいう。ここで用いられる「単離された」の語は、天然の環境から変化および/または取り出された、すなわち通常存在する細胞からまたは生体から単離され、および天然で付随して見出される共存成分から分離されたかまたは本質的に精製された分子または物質をいうと考えられ、またそれらは「非天然」であるともいう。この概念はさらに、そのような分子をコードする配列を人間の手で、自然状態では結合していないポリヌクレオチドと結合させることができること、およびそのような分子を組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができることを意味する(非天然)。前記の目的のためにそれらの配列が、当業者に既知である方法によって生体または死んだ生物に導入されても、およびそれらの配列が前記生物中にまだ存在していても、それらはなお単離されており、非天然であると考えられる。本発明では、「リスク」、「感受性」、および「素因」の語は同等であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する確率に関して用いられる。
【0016】
「AD」はアルツハイマー病を意味する。ここで用いられる「AD型神経病理」は、本発明に記載されている通りの、および最先端の文献から一般に既知である通りの、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的、および臨床的な顕著な特徴をいう(イクバル(Iqbal),スワーブ(Swaab),ウィンブラッド(Winblad)およびウィスニュースキ(Wisniewski),『アルツハイマー病と関連疾患(疫学、病因論および治療薬)』(Alzheimer`s Disease and Related Disorders (Etiology, Pathogenesis and Therapeutics)),ワイリー・アンド・サンズ社(Wiley & Sons),ニューヨーク(New York)、ワインハイム(Weinheim),トロント(Toronto),1999;シント(Scinto)およびダフナー(Daffner),『アルツハイマー病の早期診断』(Early Diagnosis of Alzheimer`s Disease),ヒューマナ・プレス社(Humana Press),ニュージャージー州トトワ(Totowa)2000;マイユ(Mayeux)およびクリステン(Christen)『アルツハイマー病の疫学:遺伝子から予防まで』(Epidemiology of Alzheimer`s Disease; From Gene to Prevention),シュプリンガー・プレス社(Springer Press),ベルリン(Berlin),ハイデルベルク(Heidelberg),ニューヨーク(New York),1999;ヨーンキン(Younkin),タンジ(Tanzi)およびクリステン(Christen),『プレセニリンとアルツハイマー病』(Presenilins and Alzheimer`s Disease),シュプリンガー・プレス社,ベルリン,ハイデルベルク,ニューヨーク,1998を参照)。「ブラーク病期」または「ブラーク病期分類」の語は、ブラークおよびブラークによって提案された判定基準に従った脳の分類をいう(ブラーク(Braak)およびブラーク(Braak),Acta Neuropathology 1991,82: 239−259)。神経原線維変化およびニューロピル・スレッドの分布に基づいて、ADの神経病理学的進行は6つの病期に分けられる(病期0から6)。本発明では、ブラーク病期0から2は対照健常者(「対照」)を表し、およびブラーク病期4から6はアルツハイマー病の患者(「AD患者」)を表す。前記「対照」から得られた値が、「既知の健康状態」を表す「参照値」であり、および前記「AD患者」から得られた値が、「既知の疾患状態」を表す「参照値」である。ブラーク病期3は、対照健常者またはAD患者のどちらかを表しうる。ブラーク病期が高いほど、ADの症状を示す可能性が高い。神経病理学的評価、すなわちADの病理学的変化が痴呆の根本にある原因である確率の推定については、ブラーク(Braak)Hによる提言が与えられている(www.alzforum.org)。
【0017】
本発明に記載の神経変性疾患または障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭性痴呆症、進行性核麻痺、大脳皮質基底核変性症、脳血管性痴呆症、多系統変性症、嗜銀性顆粒痴呆症およびその他のタウオパシー、および軽度の認知障害を含む。神経変性過程を含むその他の症状は、たとえば、加齢黄斑変性、ナルコレプシー、運動神経細胞疾患、プリオン病および外傷性神経損傷および修復、および多発性硬化症である。
【0018】
一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する方法を扱う。その方法は:前記被験者由来の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定すること、および、前記レベル、および/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定することを含む。「被験者において」という言い回しは、被験者が罹患する疾患に結果が関係する限りの、すなわち、前記疾患が被験者「において」存在する、開示された方法の結果をいう。
【0019】
本発明はまた、本発明に開示される通りの核酸配列、またはその断片、または変異体に独自のプライマーおよびプローブの構築および使用に関する。そのオリゴヌクレオチドプライマーおよび/またはプローブは、蛍光、生物発光、磁性、または放射性物質で特異的に標識することができる。本発明はさらに、適当な組み合わせの前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた、前記核酸配列、またはその断片および/または変異体の検出および製造に関する。PCR分析は、当業者によく知られた方法であるが、核酸を含む試料から前記遺伝子特異的核酸配列を増幅するために、前記プライマーの組み合わせを用いて実施することができる。そのような試料は、健常者または患者のどちらかから得ることができる。増幅の結果として特定の核酸産物を生じるかどうか、および異なる長さの断片を得ることができるかどうかは、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を示しうる。このように、本発明は、調べる核酸配列を含む任意の試料中の、神経変性疾患、特にアルツハイマー病と関連している可能性がある、遺伝子突然変異および一塩基多型の検出に有用な、少なくとも長さ10塩基、最大でコード配列および遺伝子配列全体の、核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー、およびプローブを提供する。この機能は、好ましくはまたキットの形式である、DNAに基づく迅速診断検査を開発するために有用である。
DAX−1のプライマーの例は例(iii)に明記されている。
【0020】
別の一態様では、本発明は被験者における神経変性疾患の進行を監視する方法を扱う。前記被験者由来の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定する。前記レベルおよび/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較する。それによって前記被験者において前記神経変性疾患の、アルツハイマー病の、進行を監視する。
【0021】
さらに別の一態様では、本発明は、前記疾患について治療されている被験者由来の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定することを含む、神経変性疾患の治療を評価する方法を扱う。前記レベル、または前記活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記神経変性疾患の、アルツハイマー病の、治療を評価する。
【0022】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および使用の好ましい一実施形態では、X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域ともいい、またはNR0B1、AHCHまたはAHXとも名付けられる該DAX−1遺伝子は、配列番号1(Genbank登録番号Q96F69;Genbank登録番号S74720のcDNA配列に対応するmRNAから推定される)、配列番号2、およびDAX−1のコード配列(DAX−1 cds)に対応する配列番号3の配列によって表現される。本発明では、前記DAX−1のタンパク質をコードする遺伝子はまた、一般にDAX−1遺伝子、もしくは単にDAX−1という。さらに、DAX−1遺伝子にエンコードされるDAX−1のタンパク質はまた、一般にDAX−1タンパク質または単にDAX−1という。前記配列はここで用語が用いられる通り「単離」されている。
【0023】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および使用の別の好ましい一実施形態では、前記神経変性疾患または障害はアルツハイマー病であり、および前記被験者または患者はアルツハイマー病患者である。
【0024】
本発明は、特定のサンプルにおいて、AD患者の特定の脳領域において、および/または対照者と比較して、DAX−1をコードする遺伝子の発現の差、調節の差、調節障害を開示する。
さらに、本発明はDAX−1の遺伝子発現が変動し、AD罹患脳で調節障害されていること、AD罹患脳でDAX−1mRNAレベルが側頭皮質および/または海馬において前頭皮質と比較してアップレギュレートされているか、または、前頭皮質において側頭皮質および/または海馬と比較してダウンレギューレートされていることを開示する。
さらに本発明は、DAX−1発現は、年齢対応する対照健常者の前頭皮質および側頭皮質および/または海馬と、AD患者の前頭皮質および側頭皮質および/または海馬とを比較して異なることを開示する。年齢対応する対照健常者から得られた試料には、調節障害はみとめられなかった。DAX−1遺伝子の発現の調節異常と神経変性疾患、特にADの病理学との関係を実証する実験がこれまで説明されたことはなかった。本発明で開示されたように、DAX−1遺伝子およびエンコードされたこのような疾患を関連付けることによって、とりわけ該障害、特にADの診断および治療に対して新しい方法を提供する。
【0025】
下側頭葉、内嗅皮質、海馬および扁桃体内の神経は、ADにおける変性過程を受ける(テリー(Terry)ら,Annals of Neurology 1981, 10:184−192)。これら脳領域は主に学習および記憶機能の過程に関与しており、ADにおける神経細胞の脱落および変性に対する選択的な不安定性を示している。これとは対照的に、前頭皮質、後頭皮質、および小脳中の神経は損なわれないままであり、神経変性過程から保護されている。本明細書中に開示された実施例には、AD患者および年齢対応する対照健常者の前頭皮質(F)、側頭皮質(T)および海馬(H)由来の脳組織が使用された。
【0026】
したがって、DAX−1遺伝子およびその対応する転写および/または翻訳産物は、ADで典型的に観察される局所性選択的神経細胞変性の原因的な役割を有する可能性がある。DAX−1は、本発明で開示および説明される通り、残りの生存神経細胞に神経保護機能を与える。これらの開示に基づき、本発明は、神経変性疾患、特にADの、診断評価および予測診断のために、および素因の検出に有用である。さらに、本発明は、そのような疾患のための治療を受けている患者の診断的監視のための方法を提供する。
【0027】
分析および測定する前記試料は、脳組織,脳細胞または他の組織または他の体細胞から成る群から選択されるのが好ましい。試料はまた、脳脊髄液または、唾液、尿、血液、血清、血漿、または粘液を含むその他の体液を含むことができる。好ましくは、本発明に記載の神経変性疾患の診断、予測診断、進行の監視、または治療の評価の方法は、体外で実施することができ、およびそのような方法は好ましくは、たとえば、被験者または患者または対照健常者から摘出、採取、または単離された体液または細胞といった試料に関する。
【0028】
さらに好ましい実施形態では、前記参照値は、前記神経変性疾患に罹患していない被験者由来の試料中の(対照健常者、対照試料、対照)、または、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を罹患している被験者由来の試料中の(患者試料、患者)、(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方の値である。
【0029】
好ましい実施形態では、既知の健康状態を表す参照値(対照試料)に対する、被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/またはDAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、レベルおよび/または活性における変化、変化したレベルおよび/または活性が、神経変性疾患、特にADに罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
【0030】
別の好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の既知の疾患状態を表す参照値(AD患者試料)に対する、被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/またはDAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、等しいかまたは類似のレベルおよび/または活性は、前記神経変性疾患に罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
【0031】
好ましい実施形態では、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物のレベルの測定が、被験者から得られた試料において、被験者の試料から抽出されたRNAの逆転写によって得られたcDNAに由来する前記遺伝子特異的配列を増幅するために、プライマーの組み合わせを用いた定量的PCR分析を使用して実施される。プライマーの組み合わせは本発明の実施例(iii)に示されるが、本発明で開示される通りの配列から生成される他のプライマーもまた用いることができる。前記遺伝子に特異的なプローブを用いたノーザンブロットもまた適用することができる。チップを基礎とするマイクロアレイ技術によって転写産物を測定することがさらに好ましい。これらの手法は当業者に公知である(サムブルック(Sambrook)およびラッセル(Russell),『分子クローニング:実験の手引き』(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,2001;シェーナ(Schena)M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),2000を参照)。免疫測定法の一例は、特許出願国際公開第02/14543号パンフレットに開示され記載される通り、酵素活性の検出および測定である。
【0032】
さらに、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物のおよび/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体のレベルおよび/または活性、および/または、前記翻訳産物および/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の活性のレベルは、免疫測定法、活性測定法、および/または結合測定法によって検出することができる。これらの測定法は、前記タンパク質分子と抗タンパク質抗体との間の結合の量を、抗タンパク質抗体かまたはその抗タンパク質抗体と結合する二次抗体のどちらかに結合した、酵素、色力学、放射性、磁性、または発光標識を用いることによって測定することができる。加えて、他の高親和性リガンドを用いることができる。使用することができる免疫測定法は、たとえばELISA、ウェスタンブロット、および当業者に公知のその他の技術を含む(ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane),(Harlow and Lane,『抗体を用いて:実験の手引き』(Using Antibodies: A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1999およびエドワーズ(Edwards)R,『免疫診断:実践的手法』(Immunodiagnostics: A Practical Approach),オックスフォード大学出版会(Oxford University Press),英国オックスフォード,1999を参照)。これらの検出方法すべてはまた、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ、またはタンパク質チップを基礎とする技術の形式で使用することができる(シェーナ(Schena)M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),2000を参照)。
【0033】
好ましい一実施形態では、前記疾患の進行を監視するため、ある期間にわたって前記被験者から採取された一連の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が比較される。さらに好ましい実施形態では、前記被験者は前記試料収集の1回以上の前に治療を受ける。さらに別の好ましい一実施形態では、前記レベルおよび/または活性は、前記被験者の前記治療の前および後に測定される。
【0034】
別の一態様では、本発明は被験者において神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、または被験者の神経変性疾患、特にADを発症する傾向または素因を判定するためのキットを扱い、前記キットは下記を含む:
(a)(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも1つの試薬;および
(b)・前記被験者に由来する試料中の、DAX−1をコードする遺伝子の前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出する;および
・神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、および/またはそのような疾患を発症する前記被験者の傾向または素因を判定する段階を記載することによる、神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、またはそのような疾患を発症する被験者の傾向または素因を判定するための指示であって、既知の健康状態を表す参照値(対照)と比較した前記転写産物および/または前記翻訳産物の、変化したレベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方、および/または、既知の疾患状態、好ましくはADの疾患状態を表す参照値と同様であるかまたは等しい、前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、神経変性疾患、特にADの診断または予測診断、またはそのような疾患を発症する高い傾向または素因を示す。本発明のキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクがある人の特定に特に有用である可能性がある。
【0035】
別の一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断する方法における、およびそのような疾患を発症する被験者の高い傾向または素因を判定する方法における、(i)前記被験者に由来する試料中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出、および(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、前記レベルまたは活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値および/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記転写産物および/または前記翻訳産物の前記レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、既知の健康状態を表す参照値と比較して変動し、および/または既知の疾患状態を表す参照値と類似または等しい段階を含むキットの使用を扱う。
【0036】
したがって、本発明の記載のキットは、疾患経過において不可逆的損傷が与えられる前に、特定された人を疾患の発症前の早期予防処置または治療的介入の対象とする方法となりうる。さらに、好ましい実施形態では、本発明で扱うキットは、被験者において神経変性疾患、特にADの進行を監視、および前記被験者のそのような疾患について治療的処置の成功または失敗を監視および評価するのに有用である。
【0037】
別の一態様では、本発明は、(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方に直接的にまたは間接的に影響を及ぼす、治療的にまたは予防的に有効な量の一または複数の物質の前記被験者への投与を含む、被験者において神経変性疾患、特にADを治療または予防する方法を扱う。前記物質は低分子を含むことができ、またはペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドを含むこともできる。前記ペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドは、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物のアミノ酸配列、またはその断片、または誘導体、または変異体を含むことができる。本発明に記載の、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための物質はまた、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドから成ることができる。前記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、DAX−1をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を、センス方向かまたはアンチセンス方向のどちらかで含むことができる。
【0038】
好ましい実施形態では、本方法は前記の一または複数の物質を投与するための遺伝子治療および/またはアンチセンス核酸技術の本質的に既知である方法の応用を含む。一般的に、遺伝子治療はいくつかの手法を含む: 変異遺伝子の分子的置換、治療用タンパク質の合成を結果として生じる新しい遺伝子の付加、および組み換え発現方法によるかまたは薬剤による内因性細胞遺伝子発現の調節。遺伝子導入法は詳細に記載されており(たとえばベール(Behr),Ace Chem Res 1993,26: 274− 278 およびムリガン(Mulligan),Science 1993,260: 926−931を参照)、および細胞へのDNAの機械的マイクロインジェクションといった直接的遺伝子導入法、および生物ベクター(組み換えウイルス、特にレトロウイルスのような)またはモデルリポソームを用いる間接的方法、またはDNAのポリカチオンとの共沈を用いた遺伝子導入に基づく方法、化学的(溶媒、界面活性剤、ポリマー、酵素)または物理的手段(機械的、浸透圧、熱、電気ショック)による細胞膜の不安定化を含む。出生後の中枢神経系への遺伝子導入は詳細に記載されている(たとえばウォルフ(Wolff),Curr Opin Neurobiol 1993,3: 743−748を参照)。
【0039】
特に、本発明は、アンチセンス核酸治療、すなわちある種の重要な細胞へのアンチセンス核酸またはその誘導体の導入による、不適切に発現されたかまたは欠陥のある遺伝子のダウンレギュレーションを用いた、神経変性疾患を治療するかまたは予防する方法を扱う(たとえばギレスピー(Gillespie),DN&P 1992,5: 389−395;アグラワル(Agrawal)およびアクター(Akhtar),Trends Biotechnol 1995,13: 197−199;クルック(Crooke),Biotechnology 1992,10: 882−6を参照)。ハイブリダイゼーション戦略以外に、リボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子の、疾患のメッセージを運ぶRNAを破壊する適用もまた記載されている(たとえばバリナガ(Barinaga),Science 1993,262: 1512−1514を参照)。好ましい実施形態では、治療される被験者はヒトであり、および治療的アンチセンス核酸またはその誘導体はDAX−1をコードする遺伝子の転写産物に対して向けられる。被験者の中枢神経系、好ましくは脳の細胞は、そのような方法で治療されるのが好ましい。細胞透過は、アンチセンス核酸およびその誘導体のキャリヤー粒子へのカップリング、または上記の方法といった既知の戦略によって実施することができる。標的化した治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与するための戦略は当業者に公知である(たとえばウィックシュトロム(Wickstrom),Trends Biotechnol 1992,10: 281− 287を参照)。一部の場合では、デリバリーは単なる局所投与によって実施することができる。別の手法はアンチセンスRNAの細胞内発現に向けられる。この戦略では、細胞は標的核酸の領域と相補的であるRNAの合成を指示する組み換え遺伝子を用いてex vivoで形質転換される。細胞内で発現されたアンチセンスRNAの治療的使用は、手続的に遺伝子治療と同様である。RNA干渉(RNAi)としてさまざまに知られる、二本鎖RNAを用いて遺伝子の細胞内発現を調節する近年開発された方法は、核酸治療のもう一つの有効な手法である可能性がある(ハノン(Hannon),Nature 2002,418: 244−251)。
【0040】
さらに好ましい実施形態では、本方法は前記被験者の中枢神経系、好ましくは脳に、ドナー細胞、または好ましくは移植片拒絶を最小化または低減するように処理されたドナー細胞を移植することを含み、前記ドナー細胞は前記一または複数の物質をコードする少なくとも一つの導入遺伝子の挿入によって遺伝子組み換えされている。前記導入遺伝子は、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって運ばれうる。導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAの非ウイルス物理的遺伝子導入によって、特にマイクロインジェクションによってドナー細胞へ挿入することができる。導入遺伝子の挿入はまた、エレクトロポレーション、化学的媒介遺伝子導入、特にリン酸カルシウム遺伝子導入またはリポソーム媒介遺伝子導入によっても実施することができる(マクセランド(Mc Celland)およびパーディー(Pardee),『発現遺伝学:迅速および高処理量法』(Expression Genetics; Accelerated and High−Throughput Methods),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),1999を参照)。
【0041】
好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にADを治療および予防するための前記物質は、対象細胞を前記被験者に導入し、ここで前記対象細胞は前記治療用タンパク質をコードするDNA断片を挿入するためにin vitroで処理されており、前記対象細胞がin vivoで前記被験者において治療的に有効な量の前記治療用タンパク質を発現することを含む過程によって、前記被験者、好ましくはヒトに投与することができる治療用タンパク質である。前記DNA断片は、前記細胞へin vitroでウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって挿入することができる。
【0042】
本発明に記載の、治療の方法は、前記の細胞治療的および遺伝子治療的方法の任意のものと組み合わせた、治療的クローニング、移植、および胚性幹細胞または胚性生殖細胞および神経細胞性成体幹細胞を用いた幹細胞治療の適用を含む。幹細胞は全能性または多能性でありうる。それらはまた器官特異性でもありうる。罹患および/または損傷した脳細胞または組織を修復する戦略は、(i)ドナー細胞を成体組織から採取することを含む。これらの細胞の核は、遺伝物質が除去されている未受精卵細胞に移植される。胚性幹細胞は、体細胞核移植を受けた細胞の胚盤胞期から単離される。その時、分化因子の使用は、特化した細胞型、好ましくは神経細胞への幹細胞の分化誘導に繋がる(ランザ(Lanza)ら,Nature Medicine 1999,9: 975−977)、または(ii)in vitroでの拡大およびその後の移植のために、中枢神経系から、または骨髄(間葉性幹細胞)から単離された成体幹細胞を精製する、または(iii)内因性神経幹細胞を直接、増殖、移動、および機能する神経細胞へ分化するように誘導する(ピーターソン(Peterson)DA,Curr.Opin.Pharmacol.2002,2: 34−42)。成体脳の胚中心は神経細胞損傷または機能障害が存在しないため、成体神経幹細胞は、損傷したかまたは罹患した脳組織を修復する大きな可能性がある(コルマン(Colman)A,Drug Discovery World2001,7: 66−71)。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明に記載の治療または予防の被験者は、ヒト、実験動物、たとえばマウスまたはラットまたはハエ、家畜、または非ヒト霊長類であることができる。実験動物は、神経変性疾患の動物モデル、遺伝子改変動物、たとえば、好ましくはADの症状を示しAD型神経病理を示す、遺伝子導入マウスまたはハエおよび/またはノックアウトマウスまたはハエであることができる。
【0044】
別の一態様では、本発明は、(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
【0045】
別の一態様では、本発明は、前記調節因子および好ましくは医薬キャリヤーを含む医薬組成物を扱う。前記キャリヤーは、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または調節因子と共に投与する媒体をいう。
【0046】
別の一態様では、本発明は、医薬組成物における使用のための(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
【0047】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための薬剤の調製のための(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子の使用を提供する。
【0048】
一態様では、本発明はまた、治療的にまたは予防的に有効な量の前記医薬組成物を詰めた一個以上の容器を含むキットを提供する。
【0049】
別の一態様では、本発明はヒトおよび/またはマウスDAX−1(X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域)をコードする遺伝子の非天然核酸分子のおよび翻訳産物、タンパク質分子の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、配列番号2、配列番号3に示す核酸分子の、および配列番号1に示すタンパク質分子の、遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物である組み換え、遺伝子操作された非ヒト動物を作製するための標的分子としての使用を扱う。前記遺伝子操作非ヒト動物は、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスまたはラットまたはモルモットであることが好ましい。前記遺伝子操作非ヒト動物は、非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエDrosophila melanogasterといったハエであることがさらに好ましい。さらに、前記遺伝子操作非ヒト動物は、家畜、または非ヒト霊長類でありうる。一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、神経変性疾患に類似した神経病理の症状、特に、とりわけADの組織学的性質およびADに特徴的な行動変化を含む、AD(AD型神経病理)に類似した神経病理の症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す非ヒト動物を結果として生じる。別の一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた有益な作用のために、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示すおよび/またはADの症状を有しない非ヒト動物を結果として生じる。
【0050】
一態様では、本発明は、配列番号2、配列番号3に示す通りの、および配列番号1に示す通りの、DAX−1(X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域)をコードする非天然遺伝子配列、またはその断片または誘導体、または変異体を含む組み換え、遺伝子操作非ヒト動物を扱う。DAX−1をコードする前記非天然遺伝子配列は、ヒトおよび/またはマウスDAX−1遺伝子配列でありうる。前記組み換え、遺伝子操作非ヒト動物の作製は、(i)遺伝子のターゲティング構造を生成するため、配列番号2、配列番号3、配列番号1に示されるように、ヒトおよび/またはマウスDAX−1をコードする遺伝子の非天然核酸分子のおよび翻訳産物、タンパク質分子の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体を使う。(ii)ヒトおよび/またはマウスDAX−1の遺伝子配列、または断片、または前記遺伝子配列の変異体、および選択可能なマーカー配列を含む前記遺伝子ターゲッティング構造を提供、および(iii)前記ターゲッティング構造を非ヒト動物の幹細胞へ、胚性幹(ES)細胞へ導入、および(iv)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚へ導入、および(v)前記胚を偽妊娠非ヒト動物へ移植、および(vi)前記胚を満期まで発生させること、および(vii)ゲノムが一方または両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の修飾を含む遺伝子操作非ヒト動物を特定すること、および(viii)段階(vii)の遺伝子操作非ヒト動物を繁殖させて、ゲノムが前記内因性遺伝子の修飾を含む遺伝子操作非ヒト動物を得ることを含む。前記遺伝子操作非ヒト動物は、発現が異所性発現、または低発現、または過剰発現、または非発現である、組み換え、操作された遺伝子を発現することが好ましい。ヒトおよび/またはマウスDAX−1の遺伝子配列および選択可能なマーカー配列を含むそのようなターゲッティング構造、および、前記組み換え、操作されたDAX−1遺伝子の非ヒト遺伝子操作動物における発現の例、好ましくはマウスまたはハエのような動物、は、本発明に開示される(実施例(Viii)、(ix)および図14から20を参照)。
【0051】
好ましい一実施形態では、前記遺伝子破壊または抑制または活性化または前記遺伝子操作の発現は、神経変性疾患の神経病理に類似した症状、特にADに類似した神経病理(AD型神経病理)の症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す前記非ヒト動物を結果として生じる。
【0052】
別の好ましい一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた、有益な作用でありうる作用のために、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示す、および/またはADの症状を有しない非ヒト動物を結果として生じる。
【0053】
別の好ましい一実施形態では、前記遺伝子操作非ヒト動物は、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスまたはラットまたはモルモットである。前記遺伝子操作非ヒト動物は、非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエDrosophila melanogasterといったハエであることがさらに好ましい。さらに、前記遺伝子操作非ヒト動物は、家畜、または非ヒト霊長類でありうる。前記遺伝子操作非ヒトは、遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物である。
【0054】
本発明の別の好ましい一実施形態において、該組み換え型は、ゲノムにDAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体は、ヒトおよび/またはマウスのDAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体のいずれかをコーディングするための非天然型遺伝子を含む非ヒト動物を遺伝子的に操作した。該DAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体は、ステップ(i)から(viii)によって本発明に記載された通りに生成され、当業において既知のアルツハイマー病と交雑させることによって、アルツハイマー病の背景に対して遺伝子導入DAX−1動物および/またはDAX−1ノックアウト動物を生成する。該遺伝的に操作された非ヒト遺伝子導入DAX−1動物および/またはDAX−1ノックアウト動物における、アルツハイマー病の病理学に対するDAX−1発現の影響は、組織学的分析、免疫組織化学および/または脳内の拡散および成熟した脳内斑の定量化によって、所定の細胞母数および/または炎症および神経変性の徴候に対する染色によって、さらにAbetaの抽出物の差および/またはタウタンパク質のリン酸化状態等の生化学的分析によって定義される。神経学的機能は、一連の行動試験によって評価され、この行動試験は小規模(mini)神経学的検査、ロータロッド、グリップ試験、Y−maze、ホットプレート試験、0−maze、オープンフィールド試験、Y−maze、Morris水迷路試験および/または能動回避試験を含むがそれらに限定されない。さらに、該非ヒト遺伝子導入DAX−1動物および/またはDAX−1ノックアウト動物の表現型は、様々な組織の遺伝子発現分析、タンパク質検出法および/または組織病理学を使用して分析される。
【0055】
別の好ましい一実施形態では、前記組み換え、遺伝子操作非ヒト動物は、本分野で一般に知られる通り、アルツハイマー病動物モデルと交雑される。ヒトアルツハイマー前駆体タンパク質(APP)および/またはAPPの突然変異型、たとえばスウェーデン変異を有するAPP、および/または文献に記載された通りの既知の変異を有するヒトプレセニリン−1または−2(ジェイナス(Janus)およびウェスタウェイ(Westaway),Physiology Behavior 2001,873−886;リチャーズ(Richards)ら,J.Neuroscience 2003,23:8989−9003)および/または既知の変異を有するヒトTau、たとえばP301L変異(ゴッツ(Gotz)ら,J.Biological Chemistry 2001,276:529−534)を発現する遺伝子導入マウス、またはアルツハイマー様病理を発症するこれらまたは他のマウス突然変異体からの二または三遺伝子導入動物といった、遺伝子が導入されたDAX−1動物および/またはDAX−1のノックアウト動物と交雑されるのに用いられるアルツハイマー病動物モデルは、遺伝子操作マウスおよび/またはハエが選択される。さらにヒトAPP(hAPP)およびショウジョウバエプレセニリン遺伝子導入ハエ等の遺伝子操作された非ヒト動物、例えばUAS−ウシtau遺伝子導入ハエ、アクチン−GAL4ハエおよび/またはgmr−GAL4ハエが、例えばUAS−APP695IIおよびUAS−DPsn−変異体(L235P)として選択される。他のアルツハイマー病動物モデルは、神経原線維変化および/またはアミロイド斑を生じることができる組み換え動物モデル;ヒトまたはマウスtauまたは4反復アイソフォームまたはP301L変異tauといったtauアイソフォームのようなtauタンパク質をコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;アミロイド前駆体タンパク質または変異アミロイド前駆体タンパク質、またはβ−アミロイドをコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;セクレターゼ、ガンマ−セクレターゼ、ベータ−セクレターゼまたはアルファ−セクレターゼ、プレセニリン1またはプレセニリン2をコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;および上記の組み換え遺伝子の組み合わせを発現する任意の組み換え動物モデルでありうる。
【0056】
別の好ましい一実施形態では、前記交雑は、アルツハイマー病の背景で、神経変性疾患に類似の神経病理の症状、特に、とりわけADの組織学的性質およびADに特徴的な行動変化を含む、ADに類似の神経病理の症状(AD型神経病理)を発症するおよび/または示す強化および促進された素因を有する、DAX−1ノックアウト動物または遺伝子導入DAX−1動物を結果として生じる。
【0057】
別の好ましい一実施形態では、前記交雑は、アルツハイマー病の背景で、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた有益な作用のために、AD症状が低減した、および/または神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、またはADの症状を有しないDAX−1ノックアウト動物および/または遺伝子導入DAX−1動物を結果として生じる。
【0058】
遺伝子操作非ヒト遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物は、実験動物として、被験動物として、神経変性疾患についての動物モデルとして、好ましくはアルツハイマーについての動物モデルとして、用いることができる。神経病理学的性質を示すおよび/または症状の低減を示すそのような遺伝子操作非ヒト動物の例は、本発明に開示される(実施例(Viii)、(ix)および図面(14から20)を参照)。
【0059】
そのような遺伝子導入および/またはノックアウト動物の作製および構築のための戦略および技術は当業者に公知であり(たとえばカペッキ(Capecchi),Science 1989,244: 1288−1292 およびホーガン(Hogan)ら,『マウス胚操作:実験の手引き』(Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1994 およびジャクソン(Jackson)およびアボット(Abbott),『マウス遺伝学および遺伝子組み換え:実践的手法』(Mouse Genetics and Transgenics; A Practical Approach),オックスフォード大学出版会,英国オックスフォード,1999を参照)、および本発明に詳細に記載される(上記および実施例(Viii)、(ix)および図面(14から20)を参照)。
【0060】
本発明の別の一態様では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を調べるための動物モデルとして、そのような組み換え、遺伝子操作非ヒト動物、遺伝子導入またはノックアウト動物を利用するのが好ましい。そのような動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するのに有用な被験動物または実験動物でありうる。
【0061】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または (i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱い、その方法は下記を含む(a)神経変性疾患または関連する疾患または障害を発症する素因を有するかまたはすでに発症している、被験動物または実験動物または動物モデルへ被験化合物を投与、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定、および(c)等しく前記疾患を発症する素因を有するかまたはすでに発症している、およびそのような被験化合物が投与されていない、対応する対照動物中の前記物質の、活性および/またはレベルを測定、および(d)段階(b)および(c)の動物中の物質の活性および/またはレベルを比較し、ここで被験動物、または実験動物、または動物モデル中の物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患および障害の調節因子であることを示す。
【0062】
好ましい一実施形態では、本発明に開示される通り、前記被験動物、または実験動物、または動物モデルおよび/または前記対照動物は、天然DAX−1遺伝子転写調節配列でない転写調節配列の調節下にある、DAX−1をコードする遺伝子、またはその断片、または誘導体、または変異体を発現する、組み換え、遺伝子操作非ヒト動物である(下記参照)。
【0063】
別の一態様では、本発明に記載の遺伝子操作非ヒト動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療のための治療法、または調節物質、または化合物の有効性を測定または評価するためのin vivo検定法を提供する。
【0064】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱う。このスクリーニング方法は下記を含む(a)細胞を被験化合物、物質、または調節因子と接触させること、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の前記物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(d)段階(b)および(c)の細胞中の物質のレベルを比較し、ここで、接触させた細胞中の前記物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物、または物質、または調節因子が前記疾患および障害の調節因子であることを示し、前記調節因子は(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方でありうる。
【0065】
本発明で開示される通りの、DAX−1タンパク質を過剰発現する細胞、好ましくはDAX−1タンパク質を安定に過剰発現する細胞といった、前記スクリーニング検定法で用いられる細胞の例を下記に示す(実施例(vi)および図12)。前記細胞を用いる検定法の詳細な例が本発明で開示される(実施例(viii)および図13を参照)。
【0066】
遺伝子操作動物および細胞およびスクリーニング検定法の例は単なる説明であり、および開示の残りを限定することを決して意図しない。
【0067】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述のスクリーニング測定の方法によって神経変性疾患の調節因子を特定する、および(ii)調節因子を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記因子はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定することができる。
【0068】
別の一態様では、別の一態様では、本発明は、リガンドと、DAX−1タンパク質、またはその断片、または誘導体、または変異体との間の結合の阻害について、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を提供する。前記スクリーニング測定法は、(i)前記DAX−1タンパク質、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記阻害についてスクリーニングする一または複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドを前記容器に加える、および(iv)前記DAX−1タンパク質、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記一または複数の化合物、および前記検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドをインキュベートする、および(v)前記DAX−1タンパク質に、またはその前記断片、または誘導体、または変異体に結合した蛍光の量を測定する、および(vi)前記リガンドの、前記DAX−1タンパク質、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の、一種類以上の前記化合物による阻害の程度を測定する段階を含む。リガンドと前記DAX−1翻訳産物との間の結合の阻害を測定するためには、前記DAX−1翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体を、人工リポソーム中に再構成し、対応するプロテオリポソームを作製するのが好ましい可能性がある。界面活性剤からリポソームへのDAX−1翻訳産物の再構成の方法は詳しく説明されている(シュワルツ(Schwarz)ら,Biochemistry 1999,38: 9456−9464;クリヴォシェフ(Krivosheev)およびウサノフ(Usanov),Biochemistry−Moscow 1997,62: 1064−1073)。蛍光標識リガンドを利用する代わりに、一部の態様では、当業者に公知である任意のその他の検出可能な標識、たとえば放射性標識を用い、およびそれをしかるべく検出するのが好ましい可能性がある。前記方法は、新規化合物の同定に、および、DAX−1をコードする遺伝子の遺伝子産物、またはその断片、または誘導体、または変異体へのリガンドの結合を阻害する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。キャリヤー粒子の使用を基礎としたこの場合の蛍光結合測定法の一例は、特許出願国際公開第00/52451号パンフレットに開示され記載されている。別の一例は、特許国際公開第02/01226号パンフレットに記載された競合測定法である。本発明のスクリーニング測定法のために好ましいシグナル検出方法は、下記の特許出願に記載されている:国際公開第96/13744号、第98/16814号、第98/23942号、第99/17086号、第99/34195号、第00/66985号、第01/59436号および第01/59416号パンフレット。
【0069】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の阻害結合測定法によって、化合物を、リガンドとDAX−1をコードする遺伝子の遺伝子産物との間の結合の阻害因子として特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
【0070】
別の一態様では、本発明は、DAX−1タンパク質との、またはその断片、または誘導体、または変異体との前記化合物の結合の程度を測定する、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を扱う。前記スクリーニング測定法は、(i)前記DAX−1タンパク質、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記結合についてスクリーニングする検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)前記DAX−1タンパク質と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物をインキュベートする、および(iv)前記DAX−1タンパク質と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と結合した好ましくは蛍光の量を測定する、および(v)前記DAX−1タンパク質への、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への、一種類以上の前記化合物による結合の程度を測定する段階を含む。この型の測定では、蛍光標識を用いるのが好ましい。しかし、任意の他の種類の検出可能な標識もまた使用することができる。またこの型の測定では、DAX−1翻訳産物またはその断片、または誘導体、または変異体を、本発明に記載の通り、人工リポソーム中に再構成するのが好ましい可能性がある。前記測定法は、新規化合物の同定に、およびDAX−1、またはその断片、または誘導体、または変異体へ結合する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。
【0071】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の結合測定法によって、DAX−1をコードする遺伝子の遺伝子産物への結合因子として化合物を特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
【0072】
別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得ることができる薬剤を提供する。別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得られた薬剤を提供する。
【0073】
本発明は、配列番号1に示される、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、またはその断片、または誘導体、または変異体、および、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としてのその使用を扱う。
【0074】
さらに、本発明は、配列番号1および配列番号2に示される、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、またはその断片、または誘導体、または変異体、および、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防、または治療、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての使用のためのその使用を扱う。
【0075】
本発明は、DAX−1遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である免疫原と、特異的に免疫反応する抗体を扱う。その免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原性または抗原性のエピトープまたは部分を含むことができ、ここで翻訳産物の前記免疫原性または抗原性部分はポリペプチドであり、および前記ポリペプチドは抗体反応を動物において導き、前記ポリペプチドは前記抗体によって免疫特異的に結合している。抗体を作製する方法は本分野でよく知られている(ハーロウ(Harlow)ら,『抗体−実験の手引き』(Antibodies, A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1988を参照)。本発明で使用される「抗体」の語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、組み換え、抗イディオタイプ、ヒト化、または一本鎖抗体、およびその断片といった、当該分野で既知のすべての型の抗体を包含する(デュベル(Dubel)およびブライトリンク(Breitling),『組み換え抗体』(Recombinant Antibodies),ワイリー・リース社(Wiley−Liss),ニューヨーク州ニューヨーク,1999)。本発明の抗体は、たとえば(ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane),(Harlow and Lane,『抗体を用いて:実験の手引き』(Using Antibodies: A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1999およびエドワーズ(Edwards)R,『免疫診断:実践的手法』(Immunodiagnostics: A Practical Approach),オックスフォード大学出版会(Oxford University Press),英国オックスフォード,1999を参照)、酵素免疫測定法(たとえば酵素結合免疫吸収測定法、ELISA)、ラジオイムノアッセイ、化学発光免疫測定法、ウェスタンブロット、免疫沈降法、および抗体マイクロアレイといった、最先端の方法を基礎とするさまざまな診断および治療方法で有用である。これらの方法は、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の検出を含む。
【0076】
本発明の好ましい一実施形態では、前記抗体は被験者に由来する試料中の細胞の病理状態を検出するのに用いることができ、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含み、ここで既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化は、前記細胞の病理状態を示す。好ましくは、病理状態は神経変性疾患、特にADに関係する。細胞の免疫細胞化学染色は、本分野でよく知られたいくつかの異なる実験法によって実施することができる。しかし、抗体結合の検出には自動化法を適用するのが好ましく、ここで、細胞の染色の程度の判定、または細胞の細胞染色または細胞成分染色のパターンの判定、または細胞表面上または細胞内のオルガネラおよびその他の細胞下構造の間の抗原のトポロジカルな分布は、米国特許第6150173号明細書に記載の方法に従って実施される。
【0077】
本発明のその他の特性および利点は、単なる説明であり、および開示の残りを限定することを決して意図しない下記の図および実施例の説明から明らかになる。
【実施例】
【0078】
(i)AD患者由来の脳組織解剖:
AD患者および対応する年齢の対照被験者由来の脳組織を死後6時間以内に採取し、直ちにドライアイス上で凍結した。診断の組織病理的確認のため、各組織からの試料切片はパラホルムアルデヒドで固定した。発現差の分析のための脳の部分を特定し、RNA抽出を実施するまで−80℃にて保存した。
【0079】
(ii)総mRNAの単離:
総RNAは、RNeasyキット(キアゲン(Qiagen))を取扱説明書に従って使用することによって、死後脳組織から抽出した。正確なRNA濃度およびRNA品質は、DNAラブチップ(LabChip)系を用いてアジレント(Agilent)2100バイオアナライザー(アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))を使用して測定した。調製したRNAの追加の品質試験、すなわち部分分解の排除およびDNA混入に関する試験は、特に設計したイントロンGAPDHオリゴヌクレオチドおよび参照対照としてゲノムDNAを使用して、ライトサイクラー(LightCycler)技術を取扱説明書(ロシュ(Roche))に従って用いて融解曲線を作成した。
【0080】
(iii)定量RT−PCR分析
側頭皮質対前頭皮質および海馬対前頭皮質におけるDAX−1遺伝子の発現差レベルをライトサイクラー(LightCycler)技術(ロシュ((Roche))を用いて分析した。この方法は、ポリメラーゼ連鎖反応についての迅速熱サイクリング、および増幅中の蛍光シグナルのリアルタイム測定を扱い、およびしたがって、終点計測値でなく動力学を用いたRT−PCR産物の高精度な定量を可能にする。AD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の側頭皮質由来、AD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の前頭皮質由来、AD患者および対応する年齢の健常対照者の海馬由来の、DAX−1cDNAの比、およびAD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の側頭皮質および前頭皮質由来のDAX−1cDNAの比、およびAD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の海馬および前頭皮質由来のDAX−1cDNAの比をそれぞれ測定した(相対的定量)。
【0081】
DAX−1の、前頭皮質組織(F)と下側頭皮質組織(T)との間のmRNA発現プロファイリングを、各ブラーク病期につき4〜最大9の組織で分析した。ブラーク3病理を有するドナー1名からの高品質組織が無かったため、ブラーク3病理を有する追加の1名のドナーの組織を含め、およびブラーク6病理を有するドナー1名からの高品質組織が無かったため、ブラーク5病理を有する追加の1名のドナーの組織試料を含めた。
【0082】
プロファイリングの分析のため、2つの一般的手法を用いている。DAX−1の、AD生理における関連の複合像に寄与する、下側頭皮質に対する前頭皮質、およびAD患者に対する対照の両方の比較プロファイリング試験を下記に詳細に示す。
【0083】
1)対照の、およびAD患者の、前頭皮質組織と下側頭皮質組織との間のmRNA発現の相対比較。この手法は、同定された遺伝子DAX−1が、変性に対する 脆弱性のより低い 組織(前頭皮質)の保護に関与しているか、または、脆弱性のより高い組織(下側頭皮質)の変性過程に関与するかまたはそれを促進するかを検証することを可能にした。
【0084】
最初に、PCRの効率を測定するため、DAX−1遺伝子:
5'−TACCAAGGAGTACGCCTACCTCA−3'(配列番号2、ヌクレオチド1356−1378;配列番号3、ヌクレオチド1122−1144)を用いて、および
5'−CACGTCCGGGTTAAAGAGCA−3'(配列番号2、ヌクレオチド1407−1388;配列番号3、ヌクレオチド1173−1153);を用いて、標準曲線を作成した。
PCR増幅(95℃で1秒間,56℃で5秒間、および72℃で5秒間)を、ライトサイクラー・ファストスタートDNAマスターSYBRグリーンI(LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I)混合物(ファストスタートTaqDNAポリメラーゼ、反応緩衝液、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTP混合物、SYBRグリーンI色素、および1mM MgCl2;ロシュ(Roche))、0.5μMプライマー、2μlのcDNA希釈系列(終濃度40、20、10、5、1および0.5ngヒト脳総cDNA;クローンテック(Clontech))および、使用プライマーに応じて追加の3mM MgCl2を含む20μl容量中で実施した。融解曲線分析は、約83.5℃にて単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物の品質および大きさはDNAラブチップ(LabChip)システムを用いて測定した (アジレント2100バイオアナライザー、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))。試料の電気泳動図でDAX−1について52bpの予測サイズに単一ピークが観察された。
【0085】
同様の方法で、PCR手順を適用して、定量用の参照標準として選択された参照遺伝子の組のPCR効率を測定した。本発明では、5種類のそのような参照遺伝子の平均値を測定した;(1)シクロフィリンB、特異的 プライマー 5'− ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3' および 5'−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3' を用いMgCl2を省いて(別に1mMを3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62 bp)の単一バンド一本を示した。(2)リボソームタンパク質S9(RPS9)、特異的プライマー5'− GGTCAAATTTACCCTGGCCA−3'および5'−TCTCATCAAGCGTCAGCAGTTC−3'を用いて(例外;別に1mM MgCl2を3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約85℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62bp)を有する単一バンド一本を示した。(3)ベータアクチン、特異的プライマー5'TGGAACGGTGAAGGTGACA−3'および5'−GGCAAGGGACTTCCTGTAA−3'を用いて。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(142bp)を有する単一バンド一本を示した。(4)GAPDH、特異的プライマー51CGTCATGGGTGTGAACCATG−3'および5'−GCTAAGCAGTTGGTGGTGCAG−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(81bp)を有する単一バンド一本を示した。(5)トランスフェリン受容体TRR、特異的プライマー5'−GTCGCTGGTCAGTTCGTGATT−3'および5'AGCAGTTGGCTGTTGTACCTCTC−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(80bp)を有する単一バンド一本を示した。
【0086】
値の計算のために、まずcDNA濃度の対数を、DAX−1について、および5種類の参照標準遺伝子についてのサイクル数閾値Ctに対してプロットした。標準曲線の傾きおよび切片(すなわち直線回帰)をすべての遺伝子について計算した。次の段階で、AD患者のおよび対照健常者の前頭皮質由来、AD患者のおよび対照健常者の側頭皮質由来、AD患者のおよび対照健常者の海馬由来のcDNA、および、AD患者のおよび対照者の前頭皮質および側頭皮質由来、およびAD患者のおよび対照者の前頭皮質および海馬由来のcDNAを、それぞれ平行して分析しシクロフィリンBに対して正規化した。Ct値を測定し、対応する標準曲線を用いてng総脳cDNAに変換した:
10^((Ct値−切片)/傾き) [ng総脳DNA]
【0087】
側頭および前頭皮質DAX−1cDNAについての値、海馬および前頭皮質DAX−1cDNAについての値、およびAD患者(P)および対照者(C)の前頭皮質DAX−1cDNAからの値、およびAD患者(P)および対照者(C)の側頭皮質DAX−1cDNAについての値は、シクロフィリンBに対して正規化し、および比を下記の式に従って計算した:
【数1】
【0088】
三番目の段階で、参照標準遺伝子の組を平行して分析し、個別の脳試料それぞれについて参照標準遺伝子の発現レベルの、対照者対AD患者側頭皮質比の、対照者対AD患者前頭皮質比、およびAD患者および対照者の前頭対側頭比の、およびAD患者および対照者の前頭対海馬比の平均値をそれぞれ決定したシクロフィリンBを段階2および段階3で分析し、また、一つの遺伝子から別の遺伝子への比は別々の分析で一定のままであったため、DAX−1を、単一の遺伝子だけに対して正規化するのでなく、参照標準遺伝子の組の平均値に対して正規化することが可能であった。計算は、上記に示すそれぞれの比を、すべてのハウスキーピング遺伝子の平均値からのシクロフィリンBの偏差で割ることによって行った。DAX−1をコードする遺伝子についてのそのような定量的RT−PCR分析の結果およびそれぞれの計算値を図1および8に、図2および9に示す。
【0089】
2)対照とAD患者との間のmRNA発現の比較。
この分析に関して、別の時点での別の実験間のリアルタイム定量PCR(ライトサイクラー(Lightcycler)法)の絶対値は、キャリブレーターを使用しない定量比較に用いるのに十分に一貫性があることが証明された。シクロフィリンを、100を超える組織について、qPCR実験のどれでも正規化のための標準物質として用いた。我々の正規化実験において、中でもシクロフィリンは最も一貫して発現されたハウスキーピング遺伝子であることが見出された。したがって、シクロフィリンに関して生じた値を用いることによって概念実証が行われた。
【0090】
第一の分析は、3名の異なるドナー由来の前頭皮質および下側頭皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いた。分析したすべての実験で、各組織から同一のcDNA調製物を用いた。この分析の中では、データ数の小ささのため、値の正規分布は達成されなかった。したがって、中央値およびその98%信頼レベルの方法を用いた。この分析は、絶対値の比較について中央値から8.7%の中間偏差、および相対値の比較について中央値から6.6%の中間偏差を明らかにした。
【0091】
第二の分析は、それぞれ2名の異なるドナー由来の前頭皮質および下側頭皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いたが、異なる時点からの異なるcDNA調製物を用いた。この分析、絶対値の比較について中央値から29.2%の中間偏差、および相対値の比較について中央値から17.6%の中間偏差を明らかにした。この分析から、qPCR実験からの絶対値を使用できるが、しかし中央値からの中間偏差はさらに考慮されるべきであると結論されたDAX−1について絶対値の詳細な分析を実施した。したがって、シクロフィリンを用いた相対的正規化後にDAX−1の絶対レベルを用いた。中央値および98%信頼レベルを対照群(ブラーク0〜ブラーク3)および患者群(ブラーク4〜ブラーク6)についてそれぞれ計算した。同じ分析を、対照群(ブラーク0〜ブラーク2)および患者群(ブラーク3〜ブラーク6)を再定義して実施し、および対照群(ブラーク0〜ブラーク1)および患者群(ブラーク2〜ブラーク6)を再定義して実施した。後者の分析は、対照とAD患者との間のmRNA発現差の初期出現を見出すことを目的とした。この分析の別の視点では、遺伝子発現調節および初期出現差の傾向を見出すため、それぞれブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3、およびブラーク病期4〜6を含む3群を互いに比較した。上記の通りの前記分析を図3に示す。
【0092】
(iv)免疫組織化学
ヒト脳中のDAX−1の免疫蛍光染色法のために、またAD罹患組織を対照組織と比較するために、ドナー由来の検死後の新鮮凍結した前頭および側頭前脳試料を、クリオスタット(ライカ(Leica) CM3050S)を使用して14μmの厚さに切断した。ドナーは、様々なブラーク病期(P038、P016、P011、P017;ブラーク4、5、6)においてアルツハイマー病と臨床的に診断され、神経病理学的に確認された患者ならびにアルツハイマーに罹患していない対応する年齢の対照者(C027、C030;ブラーク0、1)を含む。組織切片は室温で空気乾燥し、アセトン中に10分間固定した。PBS中で洗浄した後、切片をブロッキング用緩衝液(10%清浄ウマ血清、PBS中の0.2%トリトンX−100)で30分間プレインキュベートし、次にアフィニティ精製した抗DAX−1ウサギポリクロナール抗体(ブロッキング用緩衝液中で1:20に希釈;サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)、sc−13064(H−330)またはsc−841(K−17)、ハイデルベルグ、ドイツ)で4℃で一夜インキュベートした。0.1%トリトンX−100/PBS中で3回すすいだ後、切片をFITC結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清(ジャクソン(Jackson)/ディアノバ(Dianova)、No.111−096−045;1%BSA/PBS中に1:150で希釈)中で2時間室温でインキュベートし、次にPBS中で洗浄した。神経細胞の染色は上記のとおり抗神経特異的マーカーNeuNモノクローナル抗体(ケミコン(Chemicon) 、MAB377、1:200で希釈)およびヤギCy3結合抗マウスマウス抗体(ディアノバ(Dianova)、115−166−062、希釈1:600)に対して実施した。核の染色は、PBS中において5μMのDAPIで3分間インキュベートすることによって実施した。ヒト脳中のリポフスチンの自己発光を阻害するため、切片を70%エタノール中の1%スーダンブラックB(Sudan Black B)で2〜10分間室温で処理し、次に70%エタノール、蒸留水およびPBS中に順次浸漬した。切片は『ベクタシールド』(Vectashield)封入剤(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)、バーリンゲーム、カリフォルニア)を封入したカバーグラスを載せた。顕微暗視野落射蛍光および明視野位相差照明条件(IX81、オリンパス光学(Olympus Optical))を使用して顕微鏡像を得た。顕微鏡像はPCOセンシカム(SensiCam)を使用してデジタル取り込みし、および適切なソフトウェアを使用して分析した(AnalySiS、オリンパス光学(Olympus Optical))(図11を参照)。
【0093】
(v)免疫ブロット法
氷上で1mlのRIPA緩衝液(150mM塩化ナトリウム、50mMトリス−HCl、pH7.4、1mMエチレンジアミン四酢酸、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、1%トリトンX−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、1%ドデシル硫酸ナトリウム、アプロチニン5μg/ml、5μ/mlロイペプチン)中で脳組織(0.2g)をホモジナイズした。3000rpm、4℃で5分間の遠心分離を2回行った後、上清をSDS負荷緩衝液中で5倍に希釈した。割当量12μlの希釈試料をSDS−PAGE(8%ポリアクリルアミド)に溶解し、PVDFウェスタンブロッティング膜(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim))へ移送した。ブロットは抗DAX−1ウサギポリクローナル抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)、sc−13064(H−330)またはsc−841(K−17)、ハイデルバーグ)、引き続きホースラディシュ・ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清(サンタクルーズ(Santa Cruz)、sc−2030、1:5000で希釈)でプローブし、ECL化学発光検出キット(アメリカン・ファルマシア(Amersham Pharmacia))に展開した(図10)。
【0094】
(vi)免疫蛍光分析(IF):
細胞中のDAX−1タンパク質の免疫蛍光染色のために、スウェーデン変異を有するヒトAPP695アイソフォームを安定に発現する(K670N、M671L)ヒト神経膠腫細胞株(H4細胞)を使用した(H4APPsw細胞)。
【0095】
H4APPsw細胞に、DAX−1(DAX−1−cds)のコード配列(配列番号3、1413bp)およびmyc−タグを含むPFB−Neoベクター(ストラタジーン(Stratagene)、#217561、6.6kb)を用いて形質導入した(pFBNeo−DAX−1cds−myc、DAX−1ベクター、8034bp)。DAX−1ベクターの作製については、DAX−1−myc配列をPFB−Neoベクターのマルチクローニングサイト(MCS)のEcoRI/Xhol制限部位へ導入した。DAX−1ベクターを用いたH4APPsw細胞の形質導入には、ストラタジーン(Stratagene)のレトロウイルス発現系バイラポート(ViraPort)を使用した。
【0096】
myc−タグ化DAX−1過剰発現細胞(H4APPsw−DAX−1−myc)を24ウェルプレート(ヌンク(Nunc)、デンマーク、ロスキルデ(Roskilde);#143982)中でカバーグラス片上に、5x104細胞の密度で播種し、および37℃にて5%CO2で一夜インキュベートした。細胞をカバーグラス上に固定するため、培地を除去しおよび冷メタノール(−20℃)を加えた。15分間、−20℃にてのインキュベート期間後、メタノールを除去し、および固定された細胞を、1時間、ブロッキング溶液(200μlPBS/5%BSA/3%ヤギ血清)中で室温にてブロッキングした。第一の抗体(ポリクローナル抗myc抗体、ウサギ、1:500、モビテック(Mobitec))およびDAPI(DNA色素、0.05μg/ml、1:1000)を含むPBS/1%ヤギ血清を加え、および1時間室温にてインキュベートした。第一の抗体を除去後、固定された細胞を3回PBSで5分間洗浄した。第二の抗体(Cy3結合抗ウサギ抗体、1:1000、アマシャム・ファルマシア(Amersham Pharmacia)、ドイツ)をブロッキング溶液に加え、および1時間室温にてインキュベートした。細胞を3回PBSで5分間洗浄した。パーマフロー(Permafluor)(ベックマン・コールター(Beckman Coulter))を用いてカバーグラスを顕微鏡スライドに載せ、および4℃で一夜保存して封入剤を固化した。細胞は顕微暗視野落射蛍光および明視野位相差照明条件(IX81、オリンパス光学(Olympus Optical))を用いて視覚化した。顕微鏡像(図12)はPCOセンシカム(SensiCam)を用いてデジタル取り込みし、および適当なソフトウェアを用いて分析した(AnalySiS、オリンパス光学)。
【0097】
(vii)細胞毒性/生存能測定:
DAX−1タンパク質過剰発現細胞(実施例(vi)に上述のDAX−1細胞)に対する栄養因子欠乏の作用を分析するため、H4APPsw対照およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰発現細胞を、1.5x104細胞/mlの密度で96ウェルプレートに、DMEM(シグマ(Simga))、10%FCS(ギブコ(Gibco))およびペニシリン/ストレプトマイシン(ギブコ)中に播種した。37℃にてCO2条件(8.5%)下で一夜インキュベート後、培地をペニシリン/ストレプトマイシン含有DMEMに交換した。毒性について陽性対照として、0.06〜10mg/mlの範囲の12種類の濃度のクロロキン(シグマ)を、対照細胞へ、およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰発現細胞へ加えた(3連で)。毒性について陰性対照として、DMEM(シグマ)、10%FGS(ギブコ)およびペニシリン/ストレプトマイシン(ギブコ)を24ウェルの対照細胞およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰発現細胞へ加えた。栄養因子欠乏について、漸増濃度の血清(0、0.3、0.6、1.25、2.5、5%および7.5%)を含むDMEM、ペニシリン/ストレプトマイシンを対照細胞およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰細胞へ加えた(3連で)。37℃にてCO2条件(8.5%)下で40時間インキュベート後酸化還元指示薬アラーマーブルー(AlamarBlue)(バイオソース((BioSource))を加え、および相対蛍光(RFU)を4時間後に544nm(励起)および590nm(放出)にて、BMGフルオスター(Fluostar)検出器を用いて測定した。毒性の%はRFU平均値を用いて、下記の式を用いて計算した:
【数2】
グラフはグラフパッド・プリズム(GraphPad Prism)を用いて決定されている(シグモイド用量反応および可変勾配に合致する非線形回帰曲線)。
【0098】
(viii)遺伝子導入ハエの生成
ヒトBACE遺伝子導入ハエおよびヒトDAX−1遺伝子導入ハエを、グリーブら(グリーブ(Greeve)ら,J. Neurosci. 2004,24:3899−3906)に従って、および本発明に記載の通り生成した。DAX−1(配列番号NO.3)のオープン・リーディング・フレーム全体を含有するDAX−1cDNA(配列番号NO. 2)1576bpEcoRI/NotI断片を、ベクターpUASTEcoRI/NotIの制限部位へとクローニングし、確実にUAS結合部位の下流にあるDAX−1挿入片の配向された(oriented)サブクローニングした(ブランド(Brand)およびペリモン(Perrimon), Development 1993, 118:401−15)。Pエレメント媒介生殖細胞系列形質転換を、スプラドリング(Spradling)およびルビン(Rubin)によって記載された通り実施した(ルビン(Rubin)およびスプラドリング(Spradling), Science 1982, 218:348−53; スプラドリング(Spradling)およびルビン(Rubin), Science 1982, 218:341−7)。26の独立したヒトDAX−1遺伝子導入ハエ系統を生成し、および3つの異なる系統を本分析に用いた。
【0099】
ヒトAPPおよびショウジョウバエ(Drosophila)プレセニリン遺伝子導入ハエ、UAS−APP695IIおよびUAS−DPsn−変異体(L235P)は、R.パロ(R. Paro)およびE. Fortiniより提供を受けた(フォスグリーン(Fossgreen)ら, Proc Natl Acad Sci USA 1998, 95: 13703−8; イエ(Ye)およびフォーティニ(Fortini), J Cell Biol 1999, 146:1351−64)。UAS−ウシtau遺伝子導入ハエ系統はS.シュニューリ(S. Schneuwly)より提供された(イトウ(Ito)ら, Cell Tissue Res. 1997, 290:1−10)。アクチン−GAL4系統は、ブルーミントン・ストック・センター(Bloomington stock center)から入手した。F.ピグノニ(F. Pignoni)からのgmr−GAL4系統を、導入遺伝子の眼特異的発現を達成するために用いた。
【0100】
遺伝交雑を標準ショウジョウバエ培地上で25℃で設定した。使用した遺伝子型はw;UAS−hAPP695、UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4/Tm3−w;UAS−hAPP695、UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4、UAS−DPsnL235P/Tm3−w;UAS−DAX−1#1(第2染色体、生存可能な挿入)−w;UAS−DAX−1#18(第3染色体、生存可能な挿入)−w;UAS−DAX−1#28/CyO(第2染色体、致死性挿入)。
【0101】
免疫組織学的および組織学的分析のために、成体ハエを下記の方法にしたがって免疫染色しおよび調製した。免疫染色のためには、成体ハエを4%パラホルムアルデヒド中で3時間固定し、1xPBSで洗浄し、および25%ショ糖中へ移して4℃にて一夜インキュベートした。ハエを剃刀で頭部切断し、および頭部をティシュー・テック(Tissue Tek)(サクラ(Sakura))に包埋しおよび急速凍結した。10μm凍結横断切片をクリオスタット(ライカ(Leica) CM3050S)で調製した。免疫染色は、ベクタステイン・エリート(Vectastain Elite)キット(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)を用いて、製造業者の取り扱い説明書に従って実施した。下記の一次抗体を使用した:24B10(アルファ−カオプチン, 1:5)、デベロップメンタル・スタディーズ・ハイブリドーマ・バンク(Developmental Studies Hybridoma Bank)より供給。成体頭部のパラフィン切片をツシャーペ(Tschape) J.−A.らに従って調製した(EMBO J. 2002, 21:6367−6376)。チオフラビンS染色のために、切片を5分間マイヤーヘマトキシリン(Mayers Hemalum)(シグマ(Sigma))で対比染色し、水道水中で10分間すすぎ、および3分間1%チオフラビンS(シグマ(Sigma))水溶液中で染色した。スライドを、蒸留水を何回か交換してすすぎ、15分間1%酢酸中でインキュベートし、水道水ですすぎ、およびベクタシールド(Vectashield)封入剤(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)に封入した。スライドはオリンパスBX51蛍光顕微鏡下で分析した(励起430nm、放出550nm)。
【0102】
ウェスタンブロッティングによるタンパク質分析については、ハエ頭部を1xPBS、5mM EDTA、0.5% トリトンX−100およびプロテアーゼインヒビターミックス・コンプリート(ロシュ・アプライドサイエンス(Roche Applied Science))中でホモジナイズした。等量のタンパク質を10% SDS−PAGEにより分離し、イモビロン(Immobilon)膜(ミリポア社(Millipore GmbH))へ転写し、5%低脂肪乳中で2時間室温にてブロッキングし、およびモノクローナル抗体22C11(APPN末端特異的、ケミコン・インターナショナル(Chemicon international)、ウサギポリクローナルsc841(サンタクルーズ(Santa Cruz))、およびモノクローナル抗体アルファ−ベータ−チューブリン(E7, デベロップメンタル・スタディーズ・ハイブリドーマ・バンク(Developmental Studies Hybridoma Bank))とインキュベートした。結合した抗体を、ヤギ 抗マウスペロキシダーゼ結合二次抗体(ディアノバ(Dianova))で検出した。免疫沈降については、ハエ頭部は上記の通りホモジナイズし、および溶解物をクローンテック社(Clontech)の抗体手順に記載の通り処理した。抗体mab 6E10(アルファ−Aベータ1−16, シグネット・パソロジー・システムズ(Signet Pathology Systems))を免疫沈降に用いた。試料を10〜20%勾配ノベックス(Novex)トリス−トリシンゲル(インビトロジェン(Invitrogen))で分離し、およびプロトラン(Protran)BA79硝酸セルロース膜(0.1μm,シュライヒャー・シュール(Schleicher/Schuell)、ドイツ・ダッセル(Dassel))へブロットした。ベータ−アミロイドの検出は、モノクローナル抗体6E10およびヤギ抗マウスペルオキシダーゼ二次抗体(ディアノバ(Dianova))を使用して、記載の通り実施した(イダ(Ida)ら,J Biol Chem 1996,271:22908−14)。
【0103】
遺伝子導入ハエにおけるヒトAPP(ベータ−アミロイド前駆体タンパク質、hAPP)のアミロイド形成過程に伴う神経病理に及ぼすヒトDAX−1発現の潜在的影響を特徴づけるため、眼特異的GAL4系統gmr−GAL4を用いることによって、成体網膜でDAX−1をhAPP695およびヒトBACE(ベータ位APP切断酵素、hBACE)と同時発現させた。
【0104】
gmr−GAL4の調節下のDAX−1の遺伝子導入発現は、ウェスタンブロッティングによって、確認された。(図14参照)。DAX−1特異抗体sc841(サンタクルーズ(Santa Cruz))は、見かけの分子量50kDのタンパク質を検出する。2つの異なる遺伝子導入ハエ系統を分析に使用した(DAX−1#1およびDAX−1#18)。成体網膜中のDAX−1の過剰発現は、図15に示すように成体網膜の光受容体細胞の適切な構築および分化に影響しない。gmr−GAL4の調節下でDAX−1を発現しているハエの脳および網膜を介して10μmクリオスタットを、光受容体細胞特異的抗体24B10で染色し、および非遺伝子導入対照ハエと比較した。3つの異なるDAX−1遺伝子導入ハエ系統を分析に使用し、および羽化から1日後および8日後に光受容体細胞の染色を日齢対応するハエについて比較した。
【0105】
ショウジョウバエの成体網膜におけるhAPPおよびhBACEの発現は、光受容体細胞の加齢依存性変性に繋がる(グリーブ(Greeve)ら,J.Neurosci. 2004, 24: 3899−3906)。トルイジン・ブルー(Toluidine Blue)染色した1μmのプラスチック切片(図16A)、および光受容体細胞特異的抗体で染色したクリオスタット(図16BおよびC)で実証するように、DAX−1の同時発現は、若齢(図16C、4日齢)および高齢(図16AおよびB;16および12日齢のハエ)ハエにおける光受容体細胞変性の変性表現型の顕著な救済に繋がるに。2個の独立したDAX−1遺伝子導入ハエ系統をこの分析に使用した(DAX1#1およびDAX1#28)。図16Aは、hAPPおよびhBACEの同時発現が16日齢のハエの網膜における光受容体細胞の深刻な変性に繋がる(図16Aの黒矢印は、欠失した光受容体細胞の個眼を示す)一方、DAX−1を同時発現しているす日齢対応するハエでは光受容体細胞の変性は有意に遅れる(図16Aの赤矢印は、光受容体細胞の完全成分を示す)ことを示している。
【0106】
hAPP/hBACE発現ハエの網膜におけるアミロイド斑沈着は、プレセニリンの変異体型の同時発現によって加速される(グリーブ(Greeve)ら, J. Neurosci. 2004, 24:3899−3906)。したがって、我々はチオフラビンS陽性アミロイド斑の発生を、hAPP/hBACE/DPsnL235Pを発現するハエで調べ、およびhAPP/hBACE/DPsnL235PおよびDAX−1#1を発現するハエと比較した。図17は、羽化から35日後にすでに斑沈積を示す対照ハエと比べて、DAX−1#1を同時発現するハエにおいて斑沈積の発生の遅れを示している(羽化から45日後)。
【0107】
光受容体細胞変性に及ぼすDAX−1の神経保護細胞をさらに特徴づけるために、我々はウシtau(bTAU)の発現によって誘導された第2の変性表現型を調査した。gmr−GAL4の調節下でのbTAUの目に特異的な発現は、成体の網膜における顕著な光受容体細胞の年齢依存変性に繋がる(図18,btauを発現する2日齢および11日齢の対照ハエ)。DAX−1#1の同時発現は、再び光受容体細胞変性を救済する(図18、DAX−1#1を同時発現する年齢が合致した2日齢および11日齢の対照群のハエ)。この救済はより高齢のハエにおいてより顕著であった。
【0108】
(ix)DAX−1を発現する遺伝子導入マウスの生成
DAX−1遺伝子導入マウスを生成して、神経細胞中にヒトDAX−1 cDNAを発現させた。この目的のために、ヒトDAX−1(ORF DAX−1)cDNA配列番号NO.3のオープン・リーディング・フレーム、および/または配列番号NO.2の断片を、脳特異的Thy1.2遺伝子の調節配列(Thy−1.2プロモーターおよび調節要素)を含み、神経特異的発現を指示するマウスThy1.2発現カセットにクローニングして、こうして脳細胞だけで発現をきたした(ルシ(Luthi)およびファン・デル・プッテン(van der Putten), J. Neuroscience 1997, 17:4688−4699)。Rosa26遺伝子座(第6染色体上のマウスRosaベータgeo26遺伝子;サイブラー(Seibler)ら, Nucleic Acids Research 2003, 31:e12)へその配列を組み込むために、導入遺伝子をRosa26ターゲッティングベクターへクローニングした。導入遺伝子の5’端にNeo選択マーカーを配置した。Neoカセットは、内因性Rosa26遺伝子由来のRosaプロモーターによって動作するNeo選択マーカーの発現を可能にするスプライス受容体を含む、(フリードリヒ(Friedrich)およびソリアノ(Soriano), Genes Dev. 1991, 5:1513−1523;ザムブロウィツ(Zambrowicz)ら, Proc Natl Acad Sci USA他, 94:3789−3794)。Neoマーカーの3’端ポリAシグナル(pA)が転写およびRosaプロモーターの影響を停止する。本ターゲッティングベクターは、Rosa26遺伝子座への相同組み換えを可能にするために、ゲノム129S6DNA由来のRosa26ホモロジー配列を含む。短ホモロジーアーム(SA)は約1.1kbから成り、長ホモロジーアーム(LA)は約4.3kbから成る。製作されたターゲッティングベクターおよびターゲッティング戦略を図19に示す。
【0109】
上記のターゲッティングベクターはクローニングされ、およびさらに、C57BL/6Nマウス胎児性幹細胞(ES)(マウス染色C57BL/6J)へと導入した。ES細胞の遺伝子導入は、最新技術に従って実行した(ホーガン(Hogan)ら,『マウス胚操作:実験の手引き』(Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1994 およびジャクソン(Jackson)およびアボット(Abbott),『マウス遺伝学および遺伝子組み換え:実践的手法』(Mouse Genetics and Transgenics; A Practical Approach),オックスフォード大学出版会,英国オックスフォード,1999)。相同組み換え後、ターゲッティングされたES細胞は、サザンブロット分析(図20)によって特定され、標準的方法を用いて胚盤胞へ注入されてキメラマウスを生じた((チムス(Tymms)およびコーラ(Kola),『遺伝子ノックアウト手順』(Gene Knock Out Protocols), ヒューマナ・プレス社(Humana Press) 2001)。作製されたキメラマウスの生殖細胞系列への遺伝子導入の成功後、キメラマウスをアルツハイマー病マウスモデルと交雑し、アルツハイマー病背景上で遺伝子導入DAX-1マウスを作製した。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1および2は、ヒトDAX−1遺伝子の発現差をAD脳組織において、定量RT−PCR分析によって図示する。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図1a)、およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)に由来する試料(図2a)からのRT−PCR産物の定量は、ライトサイクラー(LightCycler)迅速熱サイクリング法によって実施した。同様に、対応する年齢の対照健常者の試料を比較した(図1bは前頭皮質および側頭皮質、図2bは前頭皮質および海馬)。データは、遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった標準遺伝子の組の平均値の組み合わせについて正規化した。前記標準遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から成った。図は、蛍光によって測定された増幅された物質の量に対してサイクル数をプロットすることによって、増幅の動力学を示す。反応の指数期の間、対照健常者の前頭皮質および側頭皮質、および対照健常者の前頭皮質および海馬、のそれぞれ両方に由来するDAX−1cDNAの増幅動力学は並列しており(図1bおよび2b、矢印)、一方、アルツハイマー病では(図1aおよび2a、矢印)対応する曲線の有意な分離があり、分析した脳領域のそれぞれでDAX−1をコードする遺伝子の発現の差を示し、ヒトDAX−1遺伝子の転写産物の、DAX−1遺伝子またはその断片、または誘導体、または変異体の、側頭皮質において前頭皮質と相対的な、および海馬において前頭皮質と相対的な、調節障害、好ましくはダウンレギュレーションを示すことに注意する。
【図2】図1および2は、ヒトDAX−1遺伝子の発現差をAD脳組織において、定量RT−PCR分析によって図示する。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図1a)、およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)に由来する試料(図2a)からのRT−PCR産物の定量は、ライトサイクラー(LightCycler)迅速熱サイクリング法によって実施した。同様に、対応する年齢の対照健常者の試料を比較した(図1bは前頭皮質および側頭皮質、図2bは前頭皮質および海馬)。データは、遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった標準遺伝子の組の平均値の組み合わせについて正規化した。前記標準遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から成った。図は、蛍光によって測定された増幅された物質の量に対してサイクル数をプロットすることによって、増幅の動力学を示す。反応の指数期の間、対照健常者の前頭皮質および側頭皮質、および対照健常者の前頭皮質および海馬、のそれぞれ両方に由来するDAX−1cDNAの増幅動力学は並列しており(図1bおよび2b、矢印)、一方、アルツハイマー病では(図1aおよび2a、矢印)対応する曲線の有意な分離があり、分析した脳領域のそれぞれでDAX−1をコードする遺伝子の発現の差を示し、ヒトDAX−1遺伝子の転写産物の、DAX−1遺伝子またはその断片、または誘導体、または変異体の、側頭皮質において前頭皮質と相対的な、および海馬において前頭皮質と相対的な、調節障害、好ましくはダウンレギュレーションを示すことに注意する。
【図3】図3は、98%信頼レベルでの中央値の統計手法を用いた、対照およびAD病期の比較による、DAX−1の絶対mRNA発現の分析を示す。データは、ブラーク病期0から1、ブラーク病期0から2、またはブラーク病期0から3のいずれかの被験者を含む対照群を定義することによって計算し、ブラーク病期2から6、ブラーク病期3から6およびブラーク病期4から6をそれぞれ含む定義されたAD患者群について計算されたデータと比較する。加えて、ブラーク病期0から1、ブラーク病期2から3およびブラーク病期4から6のどれかの被験者をそれぞれ含む3群を互いに比較した。AD患者のおよび対照者の前頭皮質(F)と下側頭皮質(T)を互いに比較して有意差が検出された。前記の差は、ブラーク病期0から3を、ブラーク病期4から6と比較するとAD患者の側頭皮質における、対照者の側頭皮質と相対的なDAX−1のアップレギュレーションを顕著に反映する。その差はまた、AD患者の前頭皮質における、対照群被験者の前頭皮質と比較したDAX−1のダウンレギュレーションを反映する。ブラーク病期はAD疾患の進行過程と相関し、進行過程は本発明で示す通り、DAX−1の調節、レベルおよび活性の漸増する差と上記の通り関連する。前記の有意差は、ブラーク病期3ですでに観察された。
【図4】図4は、SwissProt登録番号Q96F69に定義される通り、配列番号1、すなわち470アミノ酸を含むヒトDAX−1タンパク質のアミノ酸完全長配列を開示する。
【図5】図5は、Genbank登録番号S74720に定義される通り、配列番号2、すなわち2022ヌクレオチドを含むヒトDAX−1cDNAのヌクレオチド配列を表す。
【図6】図6は、配列番号3のヌクレオチド配列、すなわち、1413ヌクレオチド(配列番号2のヌクレオチド235から1647)を含み、ヒトDAX−1遺伝子のコード配列(cds)を示す。
【図7】図7は、配列番号2のヌクレオチド配列(ヌクレオチド1356から1407)に対応するクリッピング(clipping)とともに、定量PT−PCRによるDAX−1の転写レベルのプロファイリングのために使用されるプライマーの配列整列を示す。
【図8】図8は、内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049(0.58〜7.53倍;下記の式に従った逆数値)で特定されるAD患者15名、および内部参照番号C005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C028、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07(0.36〜2.26倍;下記の式に従った逆数値)で特定される対応する年齢の対照者24名のDAX−1の発現レベルを列記する。それぞれ、側頭皮質におけるアップレギュレーションについては、表示の数値は本明細書に記載の式(下記参照)に従って計算し、および前頭皮質におけるアップレギュレーションの場合は、逆数値を計算した。棒グラフは、異なるブラーク病期(0から6)における側頭皮質の前頭皮質に対する自然対数値ln(IT/IF)、および側頭皮質調節因子に対する前頭皮質の自然体数値ln(IF/IT)を視覚化する。
【図9】図9は、DAX−1遺伝子について、内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P019(0.14から13.61倍)で特定されるアルツハイマー病患者6名、および内部参照番号C004、C005、C008(0.08から2.23倍)で特定される対応する年齢の対照者3名における、海馬における前頭皮質と相対的な遺伝子発現レベルを列記する。表示の数値は本明細書に記載の式(下記参照)に従って計算される。散布図は、それぞれ対照試料(点)における、およびAD患者試料(三角)における、前頭皮質に対する海馬の調節比の個々の対数値(log(比HC/IF))を視覚化する。
【図10】図10は、ウサギポリクローナル抗DAX−1抗体で標識される(K−17、サンタクルーズ(Santa Cruz))ヒト脳抽出物を示す。 M:分子量マーカー(サンタクルーズマーカー(Santa Cruz Marker);レーン1および2:2つの異なる組織ドナー由来のヒト脳(大脳皮質)全タンパク質抽出物試料。矢印は約52kDaでの主バンドを示し、これは完全長DAX−1タンパク質の予測分子量に対応する。
【図11】図11は、ウサギポリクローナル抗DAX−1抗血清で免疫標識した、対照ドナー(対照T、C030、C027、図11A、C)およびアルツハイマー患者(患者T、P011、P016、図11B、D)由来の下側頭脳回の切片をデジタル撮像した例示的な顕微鏡写真である(グリーンシグナル)(倍率40倍)。DAX−1の免疫活性がすべての神経細胞にみとめられた。これは特に核において顕著に検出される。神経細胞(神経核および体細胞)を神経特異的マーカーNeuN(レッドシグナル)で染色する。核はDAPI(ブルーシグナル)で染色している。弱いDAX−1免疫活性が星状細胞にみとめられるが、これは小グリア細胞、オリゴデンドロサイト細胞、ミエリンには概ね存在しない。ここに例示的に示されているデータは、DAX−1タンパク質の神経細胞の免疫活性の強度および量のレベルは、対照のヒト(図1Aおよび11C)由来の下側頭皮質と比較して、患者由来の下側頭皮質のほうが低い(図11Bおよび11D)ことを明らかに示している。DAX−1発現は、分析したすべての試料のAD脳中の神経細胞において低下している。対照試料(図11A、C、矢印)の神経細胞において検出される神経細胞DAX−1免疫活性は、試験したAD患者の試料のいずれからも検出できない(図11B、D)。さらに、対照由来の切片と比較して、患者由来の側頭部試料において星状細胞のDAX−1免疫活性は増加している(白質、図11B、Dにおいてより明瞭にみとめられる)。DAX−1タンパク質の定量的および定性的星状細胞の発現は、アルツハイマー病の進行を反映している(ADのブラーク病期の進行に伴い、より高く強力なホモジニアスな核および細胞質の染色がみとめられた)。大脳皮質(CT);白質(WM)。
【図12】図12は、H4APPsw対照細胞およびmyc−タグ化DAX−1タンパク質を安定に過剰発現するH4APPsw細胞(H4APPsw−DAX−1−myc)の免疫蛍光分析を示す。DAX−1タンパク質は、ウサギ抗myc抗体(モビテック(Mobitec))およびCy3結合抗ウサギ抗体(アマシャム(Amersham))を用いて検出した(図12AおよびB)。細胞核はDAPIで染色した(図12CおよびD)。オーバーレイ分析は、DAX−1−mycタンパク質は核に局在し(図12E)、およびH4APPsw対照細胞と比較してH4APPsw−DAX−1−myc形質導入細胞の50%より多くで過剰発現されることを示す(図12F)。
【図13】図13は、DAX−1−mycタンパク質の過剰発現が、H4−APPsw細胞をH4APPsw対照細胞よりも、栄養因子欠乏に高耐性にすることを示す。両方の細胞型は、0から7.5%の範囲の血清濃度を含む細胞培地中で40時間インキュベートされている。栄養因子欠乏への細胞応答は、酸化還元指示薬アラーマーブルー(AlamarBlue)(バイオソース((BioSource))を用いおよび相対蛍光(RFU)を測定することによって判定した。%毒性は下記に示す式に従って計算した(実施例(vii))。グラフは、1回の代表的な実験から得られた毒性計算を表す。
【図14】図14は、gmr−GAL4の調節下における2つの異なるDAX−1遺伝子導入ハエ系統におけるウェスタンブロッティングによるDAX−1発現の検出を示す。使用した遺伝子型は:w1118;w;UAS−DAX−1#1/+;gmr−GAL4/+;w;UAS−DAX−1#18/gmr−GAL4であった。ブロットは、sc841抗体(サンタクルーズ(Santa Cruz);抗−DAX1抗体;1:200;ウサギポリクローナル)およびE7(抗−ベータ−チューブリン;Developmental Studies Hybridoma Bank;1:1000;マウスモノクローナル)でプローブした。DAX−1タンパク質は、非遺伝子導入対照ハエにもみとめられる強い交叉反応バンド(赤いアスタリスク)の下方に位置するかすかな列(bank)として検出可能である。ベータチューブリンのシグナルは負荷対照としての役割を果たす。
【図15】図15は、gmr−GAL4の調節下におけるDAX−1の発現を示す。10μmのクリオスタットの成体脳切片は、羽化から1日後および8日後に光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。成体網膜におけるDAX−1の発現は、光受容体細胞の整合性(integrity)とは干渉せず、病理学的な表現型はみとめられなかった。使用した遺伝子型は:w1118;w;UAS−DAX−1#1/+;gmr−GAL4/+−w;UAS−DAX−1#18/gmr−GAL4−w;UAS−DAX−1#28/+;gmr−GAL4/+。Re:網膜;La:薄層;Me:骨髄。
【図16】図16は、hAPP/hBACEをまたはDAX−1#1と組み合わせてhAPP/hBACEを発現している、対応する日齢である16日齢のプラスチック切片の「トルイジンブルー」染色を示す(図16A)。光受容体細胞の感桿分体は各個眼において青点として現れる(赤い矢の根)。図16BおよびCは、hAPP/hBACEを発現している、およびDAX−1#1(図16B、羽化後10から12日)またはDAX−1#28(図16C、羽化後4日)発現している対照ハエの成体網膜の10μmクリオスタット切片を示す。切片は光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。図示するように、光受容体細胞変性は、網膜の直径から判断すると、DAX−1の同時発現によって有意に遅延する(白矢印で示す)。
【図17】図17は、hAPP/hBACE/DPsnL235Pを(図17A)または、DAX−1#1と組み合わせてhAPP/hBACE/DPsnL235Pmを(図17B)発現しているハエの網膜を介したパラフィン切片上の、チオフラビンS陽性斑を示す。35日齢の対照ハエでは斑沈着の開始がみとめられるが、一方DAX−1#1を同時発現するハエでは斑沈着の開始は10日間遅れることがみとめられる。使用した遺伝子型:w;UAS−hBACE,UAS−hAPP/+;gmr−GAL4,UAS−DPsnL235P/+およびw;UAS−hBACE,UAS−hAPP/UAS−DAX−1#1;gmr−GAL4,UAS−Dpsnl235P/+。多くの場合、切片化手順によって斑が移動するため、星印は切片化前にみとめられたアミロイド斑の位置を示す。
【図18】図18は、羽化から2日後および11日後それぞれの、btauを発現している対照ハエおよびDAX−1#1と組み合わせて発現するハエの成体網膜の10μmクリオスタット切片を示す。切片は、光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。DAX−1の同時発現は、網膜(白矢印)の直径によって判断すると、tauによって誘導される光受容体細胞変性を救済する(11日齢のハエに示す)。使用した遺伝子型は:w;gmr−GAL4/UAS−bTAUおよびw;UAS−DAX1#1/+;gmr−GAL4/UAS−bTAU。Re:網膜;La:薄層;Me:骨髄。
【図19】図19は、ヒトDAX−1を発現する遺伝子導入マウスを作製するために用いられたターゲッティング戦略を模式的に示す。ターゲッティングベクターは、導入遺伝子をRosa26遺伝子座(マウスRosaベータgeo26遺伝子)へ組み込むために、導入遺伝子およびRosa26ホモロジー配列から成る。短ホモロジーアーム配列(SA)は約1.1kbから成り、長ホモロジーアーム配列(LA)は約4.3kbから成る。Rosa26遺伝子の3個のエクソンをローマ数字(I〜III)で示す。導入遺伝子は、脳特異的Thy1.2遺伝子の調節配列を含むマウスThy1.2発現カセットに位置するヒトDAX−1(ORFDAX−1)(配列番号3および/または配列番号2の断片)のオープン・リーディング・フレームから成る。導入遺伝子の5'端にネオマイシン耐性遺伝子(Neo;ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ)およびスプライス受容体が位置し、内因性Rosa26遺伝子由来のRosaプロモーターによって動作するNeo選択マーカーの発現を可能にする。Neoマーカーの3'端のポリAシグナル(pA)が転写の停止を保証する。
【図20】図20は、ターゲットされたES細胞クローンのサザンブロット分析を示す。6個の異なるES細胞クローン由来のゲノムDNAは、Bg1Iで消化(digest)し、サザンブロット分析に供した。Bg1I制限部位の位置ならびにプローブの結合部位(Rosa26遺伝子のエクソンIIを用いた配列ハイブリダイゼーション)が、マウス野生型アレル(WT)およびDAX−1ターゲットされた相同組み換え型アレル(HR)(図20A)の概略線で示す。Rosa26遺伝子の3個のエクソンを、ローマ数字(I〜III)で示す。図20B中のサザンブロットは5個のターゲットされたES細胞クローン(数字A10、B2、B10、C6、C9で示す)および対照としての野生型アレル(WT)を示す。5個のターゲットされたES細胞クローンはすべて相同組み換え型アレル(HR)を有し、野生型アレル(WT)を表す6.7kbの各バンドに加えて、該相同組み換え型アレルは、10.1kbにおけるバンドの存在によって特定することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者における神経変性疾患の進行を診断、予測、および監視する方法に関する。さらに、神経変性疾患の調節物質の治療コントロールおよびスクリーニングの方法を提供する。本発明はまた、医薬組成物、キット、および組み換え動物モデルも開示する。
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生活を強く衰弱させる影響を与える。さらに、これらの疾患は、甚大な健康上の、社会的な、および経済的な負担を構成する。ADは最も一般的な神経変性疾患であり、痴呆の症例全体の約70%を占め、65歳超の人口の約10%および85歳超の最大45%が罹患する、おそらく最も破壊的な加齢関連神経変性症状である(最近の総説はヴィッカーズ(Vickers)ら、Progress in Neurobiology 2000,60;139−165を参照)。現在、これは米国、欧州、および日本において推定約1200万例に達する。この状況は、発展途上国における高齢者数の人口統計上の増加(「ベビーブーマーの高齢化」)に伴い不可避的に悪化する。ADを有する人の脳に生じる神経病理学的な顕著な特徴は、アミロイド−βタンパク質で構成される老人斑、および異常な線維状構造の出現および神経原線維変化の形成と一致して現れる著しい細胞骨格変化である。
【0003】
アミロイド−β(Aβ)タンパク質は、さまざまな種類のプロテアーゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂から生じる。β/γ−セクレターゼによる開裂はさまざまな長さのAβペプチドの形成に繋がり、典型的には、40アミノ酸から構成される短くより可溶性が高く凝集が遅いペプチド、および細胞外で迅速に凝集し特徴的なアミロイド斑を形成する、より長い42アミノ酸ペプチドである(セルコー(Selkoe), Physiological Rev 2001, 81; 741−66;グリーンフィールド(Greenfield)ら,Frontiers Bioscience 2000,5; D72−83)。それらは主に大脳皮質および海馬に見出される。脳における毒性のA(沈着物の生成は、ADの経過のごく早期に開始し、およびADの病理に繋がるその後の破壊過程の中心的存在であると論じられている。ADの他の病理学的な顕著な特徴は、神経原線維変化(NFT)および、ニューロピル・スレッドと表現される異常な神経突起である(ブラーク(Braak)およびブラーク(Braak), Acta Neuropathol 1991, 82; 239−259)。NFTは神経細胞の内部に出現し、および互いに絡まり合う対のらせん状線維を形成する、化学的に変化したタウタンパク質から成る。神経原線維変化の出現およびその数の増加は、ADの臨床的重症度とよく相関する(シュミット(Schmitt)ら, Neurology 2000, 55; 370−376)。
【0004】
ADは進行性疾患であり、初期の記憶形成の障害を伴い、および最終的にはより高次の認知機能の完全な衰退に繋がる。認知障害には、とりわけ、記憶障害、失語症、失認症、および実行機能の喪失がある。ADの病因の特徴的性質は、脳の特定の領域および神経細胞の部分集団の、変性過程に対する選択的な不安定性である。具体的には、側頭葉領域および海馬は、疾患の経過中に早期におよびより重度に冒される。一方、前頭皮質、後頭皮質、および小脳内の神経細胞は大体は損なわれないままであり、神経変性から守られている(テリー(Terry)ら, Annals of Neurology 1981, 10; 184−92)。ADの発症年齢は50年の範囲内でさまざまであり、65歳未満の人で起こる早発型AD、65歳超の人で起こる遅発型ADがある。
【0005】
現在、ADに治療法は無く、ADの進行を止めるか、または高確率で死亡前にADを診断するためさえ、有効な方法は無い。個人がADを発症する素因となるいくつかのリスク因子が特定されている。また、遺伝的欠陥によるとされる早発型ADの稀な例が存在するが、遅発型散発性ADの一般的な型は、これまでのところ病因的起源は不明である。
【0006】
神経変性疾患の遅い発症および複雑な病因は、治療用および診断用薬の開発に困難な問題をもたらす。医薬標的および診断マーカーの候補のプールを拡大することが極めて重大である。したがって、神経疾患の病因に関する洞察を与えること、およびこれらの疾患の治療の診断および開発に特に適した方法、材料、物質、組成物、および動物モデルを提供することは、本発明の目的である。この目的は、独立請求項の条項によって解決される。下位請求項は、本発明の好ましい実施形態を定義する。
【0007】
本発明は、ヒトアルツハイマー病の脳試料中における、X染色体第1遺伝子(DAX−1)上のDSS−AHCの重要な領域をコードする遺伝子の発現の差およびそのタンパク質産物を基礎とする。
【0008】
様々な一連の証拠は、コレステロール代謝と、散発性アルツハイマー病(AD)の発症のリスクおよび/または年齢との暫定的なリンクを示している。遺伝子レベルでは、アポリポタンパクE遺伝子(ApoE)の3つの異なる既存アレル(エプシロン2、3および4)のうちエプシロン4が、今日までに知られる最も強力なADのリスク因子である(コーダー(Corder)ら, Science 1993, 261:921−923; ストリットマター(Strittmatter)ら, Proc Nail Acad Sci USA 1993, 90:1977−81; ローゼズ(Roses)ら, Ann NY Acad Sci 1998, 855:738−43)。脳内のアポリポタンパクとして、ApoEは細胞外輸送および神経組織中のコレステロールおよび脂質の再分配に寄与する。コレステロールの細胞内含有物の調節は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク分解処理に直接影響する。具体的には、コレステロール負荷を低下することは、非アミロイド性の?−セクレターゼ経路に有利に働くことによって、アミロイド生成A?40およびA?42ペプチドの形成を排除している(ハウランド(Howland)ら, J. Biol. Chem 1998, 273: 16576−16582; シモンズ(Simons)ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1998, 95: 6460−6464)。人口に基づく検討によって、コレステロール生合成の主要酵素の阻害剤である3?−ヒドロキシ−3?−メチルグルタリル補酵素Aリダクターゼによる長期治療後に、人の認知症のリスクが低下することが実証されてきた(ジック(Jick)ら, Lancet2000, 356; 1627−1631; ウォロジン(Wolzin)ら, Arch. Neurol.2000, 57; 1439−1443)。
【0009】
コレステロールの代謝に関与する酵素の調節は、アルツハイマー病の過程および治療と関連すると思われる。ステロイド合成因子1(SF1)がコレステロール代謝およびステロイド代謝に関与する遺伝子の転写調節において役割を果たすこと、および以降DAX−1というX染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域は、次にSF1の負の調節因子として作用する。DAX−1は、元来は副腎腺の発達に対する先天的な障害である先天性副腎発育不全として同定され(ザナリア(Zanaria)ら, Nature 1994, 372; 635−641)、X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域と名付けられた。DSSは用量依存性性転換の略語である。その理由は、Xp21染色体上の断片の複製に障害のある患者は遺伝子型女性として発達するためである。AHCは先天性副腎発育不全の略語であり、この不全状態は副腎皮質の永久領域が存在しないこと、および腺の構造的な解体を特徴とする。この場合、各染色体上の欠損またはDAX−1の変異がみとめられてきた。DAX−1遺伝子は、長さが470アミノ酸、分子量が約51.7kDaのタンパク質を算出する1413塩基対によってコード化されている(タンパク質配列:SwissProt登録番号Q96F69;mRNA配列:Genbank登録番号S74720;DAX−1遺伝子ヌクレオチド配列および対応するDAX−1タンパク質アミノ酸配列が、マッケーブ(McCabe)らによる米国特許第6465627号に開示されている。遺伝子は、イントロンスパニング(spanning)3.4kbによって分離される2個のエクソンから成る(クオ(Guo)ら, J. Endocrinol. Met. 1996, 81:2481−2486)。DAX−1のC末端領域の予測されたアミノ酸配列は、リガンド結合に関与する核ホルモン受容体遺伝子ファミリー(領域E)(レチノイン酸受容体)との類似性を明らかにする。N側端半分は、それぞれ65から67個のアミノ酸から成る3.5個の末端反復へと分割してもよいが、新規の異常なジンクフィンガーDNA結合モチーフから構成されると考えられてきた(ブリス(Burris)ら, Biochem. Biophys. Res. Comm. 1995, 214:576−581; クオ(Guo)ら, J. Endocrinol. Met. 1996, 81:2481−2486)。
【0010】
DAX−1は副腎腺または複数の副腎腺に支配的に発現するが(ザナリア(Zanaria)ら, Nature 1994, 372:635−641)、ヒトの皮膚(ペーテル(Petel)ら, J. Invest. Dermatol. 2001, 117:1559−1565)、視床下部および下垂体(クオ(Guo)ら, Biochem. Mol. Med. 1995, 56:8−13)にもみとめられてきた。細胞内において、DAX−1は細胞質中だけでなく細胞核中にもみとめられる可能性があり、またDAX−1は、mRNAを介したポリリボソームと相関する輸送(shuttling)RNA結合タンパク質として機能するであろうと考えられてきた(ラリ(Lalli)ら, Mol. Cell Biol. 2000, 20:4910−4921)。N末端核局在化シグナルは損なわれないままであるものの、X連鎖型先天性副腎発育不全としてみとめられるDAX−1の変異は、細胞質へのタンパク質の局在化が移動する(レーマン(Lehmann)ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2002, 99:8225-8230)。DAX−1は主にステロイド生成に関与する組織中で発現するため、ステロイド代謝に参加する遺伝子の転写調節における役割が提案されてきた。DAX−1の役割は転写抑制因子として最も良く説明される可能性がある。DAX−1の機能は転写抑制因子として説明されるであろう。実際のところ、DAX−1のDNA−結合の結果、所定の遺伝子の転写抑制が発生し、ステロイド生成が大幅に減少することが示されてきた(ザゾポーラス(Zazopoulos)ら, Nature 1997, 390: 311−315)。これによってDAX−1の発現パターンは、ステロイド生成に関与する様々な酵素の転写因子として周知のステロイド生成因子(SF−1)の発現と重複する。DAX−1とSF−1の抑制因子と誘導因子との間のバランスは、ステロイド代謝の調節において決定的な重要性をもつと思われる(オスマン(Osman)ら, J. Biol. Chem. 2002, 277:41259−41267)。しかし、DAX−1はSF−1を発現しない細胞中にも存在する可能性があり、これはSF−1によって調節される経路以外の経路での役割を示唆している(イケダ(Ikeda)ら, Dev. Dyn. 2001, 220:363−376)。
【0011】
ステロイド生成に関与するいくつかの遺伝子の転写は、DAX−1によって抑制され(ラリ(Lalli)ら, Mol. Endocrinol. 2003, 17:1445−1453)、これらの例にはStAR(ステロイド生成急性調節タンパク質;ザゾポウラス(Zazopoulos)ら, Nature 1997, 390:311−315; ラリ(Lalli)ら,Mol. Endocrinol. 1997, 11:1950−1960)、P450scc(チトクロームP450側鎖切断酵素)、3ベータ−HSD(3ベータ−ヒドロキシ−デルタ5−C27−ステロイド酸化還元酵素; ラリ(Lalli)ら, Mol. Endocrinol. 1998, 139:4237−4243),CYP17(ステロイド17−アルファ−水酸化酵素, ハンリー(Hanley)ら, Mol. Endocrinol. 2001, 15:57−68)およびCYP19(アロマターゼ、 ワン(Wang)ら, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 2001, 98:7988−7993)がある。DAX−1は各遺伝子のプロモーター中のヘアピン構造への結合によって機能を発揮し、この場合、遺伝子の発現を推進すると説明されてきたステロイド因子1の結合をアロステリックに阻害すると考えられている(ザゾポウラス(Zazopoulos)ら, Nature 1997, 390:311−315)。
【0012】
DAX−1の発現は、ステロイド生成因子1によって調節されると考えられてきた。SF−1のコンセンサス部位がDAX−1のプロモーター領域にみとめられてきた(ブリス(Burris)ら, Biochem. Biophys. Res. Comm. 1995, 214:576−581)。しかし、SF−1ノックアウトマウスは損なわれていないことから、DAX−1発現の推進にはSF−1が必要ないことを示唆している(イケダ(Ikeda)ら, Mol. Endocrinol. 1996, 10:1261−1272)。
【0013】
様々なDAX−1レベルが、生理学的または病理生態学的なヒト脳におけるコレステロール恒常性に寄与するかどうかを試験するために、AD患者および対応する年齢の対照健常者の前頭皮質、側頭皮質および海馬におけるDAX−1遺伝子の転写レベルをRT−PCRによって測定した。
【0014】
本発明は、アルツハイマー病罹患脳におけるDAX−1遺伝子発現において、AD患者のDAX−1のmRNAレベルが前頭葉と比較して側頭皮質および海馬において高いこと、および側頭皮質および海馬ではAD患者のDAX−1のmRNAレベルが対照群と比較してより高いが前頭皮質では高くないという点で、異常調節を開示する。対応する年齢の対照健常者のDAX−1発現は、側頭皮質と前頭皮質との間で、および海馬と前頭葉との間で差はなかった。この異常調節は、AD罹患脳におけるコレステロール恒常性の病理学的変更に関係する可能性がある。例えば、このような異常調節は、罹患脳領域での細胞死に有利に働くプロアポトーシス不均衡(imbalance)を引き起こす可能性があり、最終的には不可逆的な神経損傷に至る。DAX−1遺伝子の発現の調節異常と神経変性疾患、特にADの病理学との関係を実証する実験がこれまで説明されたことはなかった。同様に、DAX−1遺伝子における変異が該疾患と関連すると説明されたこともなかった。DAX−1遺伝子とこの疾患を関連付けることによって、とりわけ該疾患の診断および治療に対して新しい方法を提供する。
【0015】
ここでおよび請求項で用いられる単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈でそうでないと示されない限り、複数への言及を含む。たとえば、「a細胞(一つの細胞)」は複数の細胞をも意味する、など。本明細書および請求項で用いられる「および/または」の語句は、この語句の前および後の語句が選択肢としてまたは組み合わせて考えられるべきであることを示す。たとえば、「レベルおよび/または活性の測定」という言い回しは、レベルだけ、または活性だけ、またはレベルおよび活性の両方が測定されることを意味する。ここで用いられる「レベル」の語は、転写産物、たとえばmRNA、または翻訳産物、たとえばタンパク質またはポリペプチドの、量または濃度の尺度または指標を含むことを意図する。ここで用いられる「活性」の語は、転写産物または翻訳産物が生物学的効果を生じる能力についての指標、または、生物学的に活性な分子のレベルの指標と理解すべきである。「活性」の語はまた、酵素活性を、または、結合、拮抗、抑制、阻害または中和をいう生物活性および/または薬理活性をいう。ここで用いられる「レベル」および/または「活性」の語はさらに、遺伝子発現レベルまたは遺伝子活性をいう。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生に繋がる、転写および翻訳による、遺伝子に含まれる情報の利用と定義される。「調節障害」は遺伝子発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを意味することとする。遺伝子産物はRNAまたはタンパク質のどちらかを含み、および遺伝子の発現の結果である。遺伝子産物の量は、遺伝子がどの程度活性であるかを測定するのに用いることができる。本明細書および請求項で用いられる「遺伝子」の語は、コード領域(エクソン)および非コード領域(たとえばプロモーターまたはエンハンサー、イントロン、リーダーおよびトレーラー配列といった非コード調節配列)の両方を含む。「ORF」の語は「オープン・リーディング・フレーム」の頭文字であり、および、少なくとも1つの読み枠に終止コドンを持たずおよびしたがって潜在的にアミノ酸の配列に翻訳されうる核酸配列をいう。「調節配列」は、遺伝子発現を推進し調節する、誘導性および非誘導性プロモーター、エンハンサー、オペレーター、およびその他の配列を含む。ここで用いられる「断片」の語は、たとえば択一的にスプライシングされ、または短縮され、またはさもなければ切断された転写産物または翻訳産物を含むことを意図する。ここで用いられる「誘導体」の語は、突然変異の、またはRNA改変された、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた転写産物、または、突然変異の、または化学的に修飾された、または別の方法で改変を受けた翻訳産物をいう。明確には、誘導体転写産物は、たとえば、一塩基または複数塩基の欠失、挿入、または交換といった変化を核酸配列に有する転写産物をいう。「誘導体」は、変化したリン酸化、またはグリコシル化、またはアセチル化、または脂質化といった過程によって、または変化したシグナルペプチド開裂またはその他の型の成熟開裂によって生じうる。これらの過程は翻訳後に起こりうる。本発明および請求項で用いられる「調節因子」の語は、遺伝子、または遺伝子の転写産物、または遺伝子の翻訳産物のレベルおよび/または活性を変化または改変することができる分子をいう。好ましくは、「調節因子」は、遺伝子の転写産物または翻訳産物の生物学的活性を変化または改変することができる。前記の調節は、たとえば、生物活性および/または薬理活性、酵素活性の上昇または低下、結合特性の変化、または遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的、または免疫学的性質の何らかのその他の変化または改変でありうる。「調節因子」は、イオンチャンネルサブユニットまたはイオンチャンネルの機能的性質を促進または阻害、したがって「調節する」、イオンチャンネルまたはイオンチャンネルサブユニットの結合、拮抗、抑制、阻害、中和または封鎖を「調節する」、および活性化、作用、アップレギュレーションを「調節する」ことができる能力を有する分子をいう。「調節」はまた、細胞の生物活性に影響を与える能力をいうのにも用いられる。「調節因子」、「物質」、「試薬」、または「化合物」の語は、細胞、組織、体液に対して、または任意の生物学的系または被験分析系の背景内で、正または負の生物学的効果を有する任意の物質、化学物質、組成物または抽出物をいう。それらは標的の作用因子、拮抗因子、部分的作用因子または逆作用因子でありうる。それらは、核酸、天然または合成ペプチドまたはタンパク質複合体、または融合タンパク質でありうる。それらはまた、抗体、有機または無機分子または組成物、低分子、薬物、および上の前記物質のうち任意のものの任意の組み合わせでありうる。それらは診断のまたは治療の目的のための試験に用いることができる。そのような調節因子、物質、試薬または化合物は、細胞培地、または細胞培養に用いられる血清中に存在する因子、栄養因子といった因子でありうる。本発明で用いられる「栄養因子」は、神経栄養因子を、サイトカインを、ニューロカインを、神経免疫因子を、脳由来因子(BDNF)を、およびTGFベータファミリーの因子を含むがそれらに限定されない。そのような栄養因子の例は、ニューロトロフィン3(NT−3)、ニューロトロフィン4/5(NT−4/5)、神経成長因子(NGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン−ベータ、膠細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インシュリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)および血小板由来成長因子(PDGF)である。「オリゴヌクレオチドプライマー」または「プライマー」の語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって、与えられた標的ポリヌクレオチドとアニーリングすることができ、およびポリメラーゼによって伸長することができる、短い核酸配列をいう。それらは特定の配列に対して特異的であるように選択することができ、または任意に選択することができ、たとえばそれらはある混合物中のすべての可能な配列のプライマーとなることができる。ここで用いられるプライマーの長さは10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動しうる。「プローブ」はここで記載および開示される核酸配列の短い核酸配列またはそれと相補的である配列である。それらは完全長配列、または任意の配列の断片、誘導体、アイソフォーム、または変異体を含むことができる。「プローブ」と分析試料との間のハイブリダイゼーション複合体の同定は、その試料内の他の類似配列の存在の検出を可能にする。ここで用いられる「ホモログまたはホモロジー」は、ヌクレオチドまたはペプチド配列の、別のもう一つのヌクレオチドまたはペプチド配列との関連性を表す本分野の語であり、比較される前記配列間の同一性および/または類似性の程度によって測定される。本分野では、「同一性」および「類似性」の語は、問い合わせ配列と、好ましくは同一の種類の別の配列(核酸またはタンパク質配列)とを、互いにマッチングさせることによって決定される、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列関連性の程度を意味する。「同一性」および「類似性」を計算および決定するための好ましいコンピュータープログラム法は、GCG BLAST(基礎局所整列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool))(アルチュール(Altschul)ら,J.Mol.Biol.1990,215: 403−410;アルチュールら,Nucleic Acids Res.1997,25: 3389−3402;デベロー(Devereux)ら,Nucleic Acids Res.1984,12: 387)、 BLASTN 2.0 (ギッシュ(Gish)W.,http://blast.wustl.edu,1996−2002)、FASTA(ピアソン(Pearson)およびリップマン(Lipman),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85: 2444−2448)、および最長の重複を有する一対のコンティグを決定および整列するGCG GelMerge(ウィルバー(Wilbur)およびリップマン(Lipman),SIAM J.Appl.Math.1984,44: 557−567;ニードルマン(Needleman)およびビュンシュ(Wunsch),J.Mol.Biol.1970,48: 443−453)を含むがそれらに限定されない。ここで用いられる「変異体」の語は、本発明で開示されたポリペプチドおよびタンパク質に関して、本発明の天然のポリペプチドまたはタンパク質の天然のアミノ酸配列のN末端および/またはC末端におよび/または中に、1個以上のアミノ酸が付加されたおよび/または置換されたおよび/または欠失したおよび/または挿入された、任意のポリペプチドまたはタンパク質をいう。さらに、「変異体」の語は、ポリペプチドまたはタンパク質の任意のより短いかまたはより長い形を含む。「変異体」はまた、配列番号1のDAX−1のアミノ酸配列と、少なくとも約80%配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%配列同一性、および非常に好ましくは少なくとも約95%配列同一性を有する配列も含む。タンパク質分子の「変異体」は、たとえば、高度に保存された領域に保存されたアミノ酸置換を有するタンパク質を含む。本発明の「タンパク質およびポリペプチド」は、配列番号1のDAX−1のアミノ酸配列を含むタンパク質の、変異体、断片、および化学的誘導体を含む。コドンが代替的な塩基配列によって別のコドンに置き換えられ、しかしそのDNA配列によって翻訳されるアミノ酸配列が変化しないままである配列変異を含めるべきである。この本分野で知られる現象は、特定のアミノ酸を翻訳するコドンの組の冗長性と呼ばれる。アルギニンをリジンに、バリンをロイシンに、アスパラギンをグルタミンにといった、機能性にまったく影響しないアミノ酸の交換もまた含めるべきである。天然から単離することができるかまたは、組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができるタンパク質およびポリペプチドを含めることができる。天然タンパク質またはポリペプチドは、天然に存在する短縮型または分泌型、天然に存在する変異型(たとえばスプライス変異体)および天然に存在する対立遺伝子変異体をいう。ここで用いられる「単離された」の語は、天然の環境から変化および/または取り出された、すなわち通常存在する細胞からまたは生体から単離され、および天然で付随して見出される共存成分から分離されたかまたは本質的に精製された分子または物質をいうと考えられ、またそれらは「非天然」であるともいう。この概念はさらに、そのような分子をコードする配列を人間の手で、自然状態では結合していないポリヌクレオチドと結合させることができること、およびそのような分子を組み換えおよび/または合成の方法によって製造することができることを意味する(非天然)。前記の目的のためにそれらの配列が、当業者に既知である方法によって生体または死んだ生物に導入されても、およびそれらの配列が前記生物中にまだ存在していても、それらはなお単離されており、非天然であると考えられる。本発明では、「リスク」、「感受性」、および「素因」の語は同等であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する確率に関して用いられる。
【0016】
「AD」はアルツハイマー病を意味する。ここで用いられる「AD型神経病理」は、本発明に記載されている通りの、および最先端の文献から一般に既知である通りの、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的、および臨床的な顕著な特徴をいう(イクバル(Iqbal),スワーブ(Swaab),ウィンブラッド(Winblad)およびウィスニュースキ(Wisniewski),『アルツハイマー病と関連疾患(疫学、病因論および治療薬)』(Alzheimer`s Disease and Related Disorders (Etiology, Pathogenesis and Therapeutics)),ワイリー・アンド・サンズ社(Wiley & Sons),ニューヨーク(New York)、ワインハイム(Weinheim),トロント(Toronto),1999;シント(Scinto)およびダフナー(Daffner),『アルツハイマー病の早期診断』(Early Diagnosis of Alzheimer`s Disease),ヒューマナ・プレス社(Humana Press),ニュージャージー州トトワ(Totowa)2000;マイユ(Mayeux)およびクリステン(Christen)『アルツハイマー病の疫学:遺伝子から予防まで』(Epidemiology of Alzheimer`s Disease; From Gene to Prevention),シュプリンガー・プレス社(Springer Press),ベルリン(Berlin),ハイデルベルク(Heidelberg),ニューヨーク(New York),1999;ヨーンキン(Younkin),タンジ(Tanzi)およびクリステン(Christen),『プレセニリンとアルツハイマー病』(Presenilins and Alzheimer`s Disease),シュプリンガー・プレス社,ベルリン,ハイデルベルク,ニューヨーク,1998を参照)。「ブラーク病期」または「ブラーク病期分類」の語は、ブラークおよびブラークによって提案された判定基準に従った脳の分類をいう(ブラーク(Braak)およびブラーク(Braak),Acta Neuropathology 1991,82: 239−259)。神経原線維変化およびニューロピル・スレッドの分布に基づいて、ADの神経病理学的進行は6つの病期に分けられる(病期0から6)。本発明では、ブラーク病期0から2は対照健常者(「対照」)を表し、およびブラーク病期4から6はアルツハイマー病の患者(「AD患者」)を表す。前記「対照」から得られた値が、「既知の健康状態」を表す「参照値」であり、および前記「AD患者」から得られた値が、「既知の疾患状態」を表す「参照値」である。ブラーク病期3は、対照健常者またはAD患者のどちらかを表しうる。ブラーク病期が高いほど、ADの症状を示す可能性が高い。神経病理学的評価、すなわちADの病理学的変化が痴呆の根本にある原因である確率の推定については、ブラーク(Braak)Hによる提言が与えられている(www.alzforum.org)。
【0017】
本発明に記載の神経変性疾患または障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭性痴呆症、進行性核麻痺、大脳皮質基底核変性症、脳血管性痴呆症、多系統変性症、嗜銀性顆粒痴呆症およびその他のタウオパシー、および軽度の認知障害を含む。神経変性過程を含むその他の症状は、たとえば、加齢黄斑変性、ナルコレプシー、運動神経細胞疾患、プリオン病および外傷性神経損傷および修復、および多発性硬化症である。
【0018】
一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する方法を扱う。その方法は:前記被験者由来の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定すること、および、前記レベル、および/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定することを含む。「被験者において」という言い回しは、被験者が罹患する疾患に結果が関係する限りの、すなわち、前記疾患が被験者「において」存在する、開示された方法の結果をいう。
【0019】
本発明はまた、本発明に開示される通りの核酸配列、またはその断片、または変異体に独自のプライマーおよびプローブの構築および使用に関する。そのオリゴヌクレオチドプライマーおよび/またはプローブは、蛍光、生物発光、磁性、または放射性物質で特異的に標識することができる。本発明はさらに、適当な組み合わせの前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた、前記核酸配列、またはその断片および/または変異体の検出および製造に関する。PCR分析は、当業者によく知られた方法であるが、核酸を含む試料から前記遺伝子特異的核酸配列を増幅するために、前記プライマーの組み合わせを用いて実施することができる。そのような試料は、健常者または患者のどちらかから得ることができる。増幅の結果として特定の核酸産物を生じるかどうか、および異なる長さの断片を得ることができるかどうかは、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を示しうる。このように、本発明は、調べる核酸配列を含む任意の試料中の、神経変性疾患、特にアルツハイマー病と関連している可能性がある、遺伝子突然変異および一塩基多型の検出に有用な、少なくとも長さ10塩基、最大でコード配列および遺伝子配列全体の、核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー、およびプローブを提供する。この機能は、好ましくはまたキットの形式である、DNAに基づく迅速診断検査を開発するために有用である。
DAX−1のプライマーの例は例(iii)に明記されている。
【0020】
別の一態様では、本発明は被験者における神経変性疾患の進行を監視する方法を扱う。前記被験者由来の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定する。前記レベルおよび/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較する。それによって前記被験者において前記神経変性疾患の、アルツハイマー病の、進行を監視する。
【0021】
さらに別の一態様では、本発明は、前記疾患について治療されている被験者由来の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を測定することを含む、神経変性疾患の治療を評価する方法を扱う。前記レベル、または前記活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記神経変性疾患の、アルツハイマー病の、治療を評価する。
【0022】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および使用の好ましい一実施形態では、X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域ともいい、またはNR0B1、AHCHまたはAHXとも名付けられる該DAX−1遺伝子は、配列番号1(Genbank登録番号Q96F69;Genbank登録番号S74720のcDNA配列に対応するmRNAから推定される)、配列番号2、およびDAX−1のコード配列(DAX−1 cds)に対応する配列番号3の配列によって表現される。本発明では、前記DAX−1のタンパク質をコードする遺伝子はまた、一般にDAX−1遺伝子、もしくは単にDAX−1という。さらに、DAX−1遺伝子にエンコードされるDAX−1のタンパク質はまた、一般にDAX−1タンパク質または単にDAX−1という。前記配列はここで用語が用いられる通り「単離」されている。
【0023】
ここで請求される本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、分析法、および使用の別の好ましい一実施形態では、前記神経変性疾患または障害はアルツハイマー病であり、および前記被験者または患者はアルツハイマー病患者である。
【0024】
本発明は、特定のサンプルにおいて、AD患者の特定の脳領域において、および/または対照者と比較して、DAX−1をコードする遺伝子の発現の差、調節の差、調節障害を開示する。
さらに、本発明はDAX−1の遺伝子発現が変動し、AD罹患脳で調節障害されていること、AD罹患脳でDAX−1mRNAレベルが側頭皮質および/または海馬において前頭皮質と比較してアップレギュレートされているか、または、前頭皮質において側頭皮質および/または海馬と比較してダウンレギューレートされていることを開示する。
さらに本発明は、DAX−1発現は、年齢対応する対照健常者の前頭皮質および側頭皮質および/または海馬と、AD患者の前頭皮質および側頭皮質および/または海馬とを比較して異なることを開示する。年齢対応する対照健常者から得られた試料には、調節障害はみとめられなかった。DAX−1遺伝子の発現の調節異常と神経変性疾患、特にADの病理学との関係を実証する実験がこれまで説明されたことはなかった。本発明で開示されたように、DAX−1遺伝子およびエンコードされたこのような疾患を関連付けることによって、とりわけ該障害、特にADの診断および治療に対して新しい方法を提供する。
【0025】
下側頭葉、内嗅皮質、海馬および扁桃体内の神経は、ADにおける変性過程を受ける(テリー(Terry)ら,Annals of Neurology 1981, 10:184−192)。これら脳領域は主に学習および記憶機能の過程に関与しており、ADにおける神経細胞の脱落および変性に対する選択的な不安定性を示している。これとは対照的に、前頭皮質、後頭皮質、および小脳中の神経は損なわれないままであり、神経変性過程から保護されている。本明細書中に開示された実施例には、AD患者および年齢対応する対照健常者の前頭皮質(F)、側頭皮質(T)および海馬(H)由来の脳組織が使用された。
【0026】
したがって、DAX−1遺伝子およびその対応する転写および/または翻訳産物は、ADで典型的に観察される局所性選択的神経細胞変性の原因的な役割を有する可能性がある。DAX−1は、本発明で開示および説明される通り、残りの生存神経細胞に神経保護機能を与える。これらの開示に基づき、本発明は、神経変性疾患、特にADの、診断評価および予測診断のために、および素因の検出に有用である。さらに、本発明は、そのような疾患のための治療を受けている患者の診断的監視のための方法を提供する。
【0027】
分析および測定する前記試料は、脳組織,脳細胞または他の組織または他の体細胞から成る群から選択されるのが好ましい。試料はまた、脳脊髄液または、唾液、尿、血液、血清、血漿、または粘液を含むその他の体液を含むことができる。好ましくは、本発明に記載の神経変性疾患の診断、予測診断、進行の監視、または治療の評価の方法は、体外で実施することができ、およびそのような方法は好ましくは、たとえば、被験者または患者または対照健常者から摘出、採取、または単離された体液または細胞といった試料に関する。
【0028】
さらに好ましい実施形態では、前記参照値は、前記神経変性疾患に罹患していない被験者由来の試料中の(対照健常者、対照試料、対照)、または、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を罹患している被験者由来の試料中の(患者試料、患者)、(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方の値である。
【0029】
好ましい実施形態では、既知の健康状態を表す参照値(対照試料)に対する、被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/またはDAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、レベルおよび/または活性における変化、変化したレベルおよび/または活性が、神経変性疾患、特にADに罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
【0030】
別の好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の既知の疾患状態を表す参照値(AD患者試料)に対する、被験者に由来する試料細胞、または組織、または体液中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/またはDAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、等しいかまたは類似のレベルおよび/または活性は、前記神経変性疾患に罹患する診断、または予測診断、または高リスクを示す。
【0031】
好ましい実施形態では、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物のレベルの測定が、被験者から得られた試料において、被験者の試料から抽出されたRNAの逆転写によって得られたcDNAに由来する前記遺伝子特異的配列を増幅するために、プライマーの組み合わせを用いた定量的PCR分析を使用して実施される。プライマーの組み合わせは本発明の実施例(iii)に示されるが、本発明で開示される通りの配列から生成される他のプライマーもまた用いることができる。前記遺伝子に特異的なプローブを用いたノーザンブロットもまた適用することができる。チップを基礎とするマイクロアレイ技術によって転写産物を測定することがさらに好ましい。これらの手法は当業者に公知である(サムブルック(Sambrook)およびラッセル(Russell),『分子クローニング:実験の手引き』(Molecular Cloning:A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,2001;シェーナ(Schena)M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),2000を参照)。免疫測定法の一例は、特許出願国際公開第02/14543号パンフレットに開示され記載される通り、酵素活性の検出および測定である。
【0032】
さらに、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物のおよび/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体のレベルおよび/または活性、および/または、前記翻訳産物および/または前記翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の活性のレベルは、免疫測定法、活性測定法、および/または結合測定法によって検出することができる。これらの測定法は、前記タンパク質分子と抗タンパク質抗体との間の結合の量を、抗タンパク質抗体かまたはその抗タンパク質抗体と結合する二次抗体のどちらかに結合した、酵素、色力学、放射性、磁性、または発光標識を用いることによって測定することができる。加えて、他の高親和性リガンドを用いることができる。使用することができる免疫測定法は、たとえばELISA、ウェスタンブロット、および当業者に公知のその他の技術を含む(ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane),(Harlow and Lane,『抗体を用いて:実験の手引き』(Using Antibodies: A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1999およびエドワーズ(Edwards)R,『免疫診断:実践的手法』(Immunodiagnostics: A Practical Approach),オックスフォード大学出版会(Oxford University Press),英国オックスフォード,1999を参照)。これらの検出方法すべてはまた、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ、またはタンパク質チップを基礎とする技術の形式で使用することができる(シェーナ(Schena)M.,『マイクロアレイバイオチップ技術』(Microarray Biochip Technology),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),2000を参照)。
【0033】
好ましい一実施形態では、前記疾患の進行を監視するため、ある期間にわたって前記被験者から採取された一連の試料中の(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物の、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物の、および/または(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が比較される。さらに好ましい実施形態では、前記被験者は前記試料収集の1回以上の前に治療を受ける。さらに別の好ましい一実施形態では、前記レベルおよび/または活性は、前記被験者の前記治療の前および後に測定される。
【0034】
別の一態様では、本発明は被験者において神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、または被験者の神経変性疾患、特にADを発症する傾向または素因を判定するためのキットを扱い、前記キットは下記を含む:
(a)(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも1つの試薬;および
(b)・前記被験者に由来する試料中の、DAX−1をコードする遺伝子の前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出する;および
・神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、および/またはそのような疾患を発症する前記被験者の傾向または素因を判定する段階を記載することによる、神経変性疾患、特にADを診断するかまたは予測診断する、またはそのような疾患を発症する被験者の傾向または素因を判定するための指示であって、既知の健康状態を表す参照値(対照)と比較した前記転写産物および/または前記翻訳産物の、変化したレベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方、および/または、既知の疾患状態、好ましくはADの疾患状態を表す参照値と同様であるかまたは等しい、前記転写産物および/または前記翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、神経変性疾患、特にADの診断または予測診断、またはそのような疾患を発症する高い傾向または素因を示す。本発明のキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクがある人の特定に特に有用である可能性がある。
【0035】
別の一態様では、本発明は、被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断する方法における、およびそのような疾患を発症する被験者の高い傾向または素因を判定する方法における、(i)前記被験者に由来する試料中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出、および(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、前記レベルまたは活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値および/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記転写産物および/または前記翻訳産物の前記レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、既知の健康状態を表す参照値と比較して変動し、および/または既知の疾患状態を表す参照値と類似または等しい段階を含むキットの使用を扱う。
【0036】
したがって、本発明の記載のキットは、疾患経過において不可逆的損傷が与えられる前に、特定された人を疾患の発症前の早期予防処置または治療的介入の対象とする方法となりうる。さらに、好ましい実施形態では、本発明で扱うキットは、被験者において神経変性疾患、特にADの進行を監視、および前記被験者のそのような疾患について治療的処置の成功または失敗を監視および評価するのに有用である。
【0037】
別の一態様では、本発明は、(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方に直接的にまたは間接的に影響を及ぼす、治療的にまたは予防的に有効な量の一または複数の物質の前記被験者への投与を含む、被験者において神経変性疾患、特にADを治療または予防する方法を扱う。前記物質は低分子を含むことができ、またはペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドを含むこともできる。前記ペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドは、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物のアミノ酸配列、またはその断片、または誘導体、または変異体を含むことができる。本発明に記載の、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための物質はまた、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドから成ることができる。前記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、DAX−1をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を、センス方向かまたはアンチセンス方向のどちらかで含むことができる。
【0038】
好ましい実施形態では、本方法は前記の一または複数の物質を投与するための遺伝子治療および/またはアンチセンス核酸技術の本質的に既知である方法の応用を含む。一般的に、遺伝子治療はいくつかの手法を含む: 変異遺伝子の分子的置換、治療用タンパク質の合成を結果として生じる新しい遺伝子の付加、および組み換え発現方法によるかまたは薬剤による内因性細胞遺伝子発現の調節。遺伝子導入法は詳細に記載されており(たとえばベール(Behr),Ace Chem Res 1993,26: 274− 278 およびムリガン(Mulligan),Science 1993,260: 926−931を参照)、および細胞へのDNAの機械的マイクロインジェクションといった直接的遺伝子導入法、および生物ベクター(組み換えウイルス、特にレトロウイルスのような)またはモデルリポソームを用いる間接的方法、またはDNAのポリカチオンとの共沈を用いた遺伝子導入に基づく方法、化学的(溶媒、界面活性剤、ポリマー、酵素)または物理的手段(機械的、浸透圧、熱、電気ショック)による細胞膜の不安定化を含む。出生後の中枢神経系への遺伝子導入は詳細に記載されている(たとえばウォルフ(Wolff),Curr Opin Neurobiol 1993,3: 743−748を参照)。
【0039】
特に、本発明は、アンチセンス核酸治療、すなわちある種の重要な細胞へのアンチセンス核酸またはその誘導体の導入による、不適切に発現されたかまたは欠陥のある遺伝子のダウンレギュレーションを用いた、神経変性疾患を治療するかまたは予防する方法を扱う(たとえばギレスピー(Gillespie),DN&P 1992,5: 389−395;アグラワル(Agrawal)およびアクター(Akhtar),Trends Biotechnol 1995,13: 197−199;クルック(Crooke),Biotechnology 1992,10: 882−6を参照)。ハイブリダイゼーション戦略以外に、リボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子の、疾患のメッセージを運ぶRNAを破壊する適用もまた記載されている(たとえばバリナガ(Barinaga),Science 1993,262: 1512−1514を参照)。好ましい実施形態では、治療される被験者はヒトであり、および治療的アンチセンス核酸またはその誘導体はDAX−1をコードする遺伝子の転写産物に対して向けられる。被験者の中枢神経系、好ましくは脳の細胞は、そのような方法で治療されるのが好ましい。細胞透過は、アンチセンス核酸およびその誘導体のキャリヤー粒子へのカップリング、または上記の方法といった既知の戦略によって実施することができる。標的化した治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与するための戦略は当業者に公知である(たとえばウィックシュトロム(Wickstrom),Trends Biotechnol 1992,10: 281− 287を参照)。一部の場合では、デリバリーは単なる局所投与によって実施することができる。別の手法はアンチセンスRNAの細胞内発現に向けられる。この戦略では、細胞は標的核酸の領域と相補的であるRNAの合成を指示する組み換え遺伝子を用いてex vivoで形質転換される。細胞内で発現されたアンチセンスRNAの治療的使用は、手続的に遺伝子治療と同様である。RNA干渉(RNAi)としてさまざまに知られる、二本鎖RNAを用いて遺伝子の細胞内発現を調節する近年開発された方法は、核酸治療のもう一つの有効な手法である可能性がある(ハノン(Hannon),Nature 2002,418: 244−251)。
【0040】
さらに好ましい実施形態では、本方法は前記被験者の中枢神経系、好ましくは脳に、ドナー細胞、または好ましくは移植片拒絶を最小化または低減するように処理されたドナー細胞を移植することを含み、前記ドナー細胞は前記一または複数の物質をコードする少なくとも一つの導入遺伝子の挿入によって遺伝子組み換えされている。前記導入遺伝子は、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって運ばれうる。導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAの非ウイルス物理的遺伝子導入によって、特にマイクロインジェクションによってドナー細胞へ挿入することができる。導入遺伝子の挿入はまた、エレクトロポレーション、化学的媒介遺伝子導入、特にリン酸カルシウム遺伝子導入またはリポソーム媒介遺伝子導入によっても実施することができる(マクセランド(Mc Celland)およびパーディー(Pardee),『発現遺伝学:迅速および高処理量法』(Expression Genetics; Accelerated and High−Throughput Methods),イートン・パブリッシング社(Eaton Publishing),マサチューセッツ州ナティック(Natick),1999を参照)。
【0041】
好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にADを治療および予防するための前記物質は、対象細胞を前記被験者に導入し、ここで前記対象細胞は前記治療用タンパク質をコードするDNA断片を挿入するためにin vitroで処理されており、前記対象細胞がin vivoで前記被験者において治療的に有効な量の前記治療用タンパク質を発現することを含む過程によって、前記被験者、好ましくはヒトに投与することができる治療用タンパク質である。前記DNA断片は、前記細胞へin vitroでウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって挿入することができる。
【0042】
本発明に記載の、治療の方法は、前記の細胞治療的および遺伝子治療的方法の任意のものと組み合わせた、治療的クローニング、移植、および胚性幹細胞または胚性生殖細胞および神経細胞性成体幹細胞を用いた幹細胞治療の適用を含む。幹細胞は全能性または多能性でありうる。それらはまた器官特異性でもありうる。罹患および/または損傷した脳細胞または組織を修復する戦略は、(i)ドナー細胞を成体組織から採取することを含む。これらの細胞の核は、遺伝物質が除去されている未受精卵細胞に移植される。胚性幹細胞は、体細胞核移植を受けた細胞の胚盤胞期から単離される。その時、分化因子の使用は、特化した細胞型、好ましくは神経細胞への幹細胞の分化誘導に繋がる(ランザ(Lanza)ら,Nature Medicine 1999,9: 975−977)、または(ii)in vitroでの拡大およびその後の移植のために、中枢神経系から、または骨髄(間葉性幹細胞)から単離された成体幹細胞を精製する、または(iii)内因性神経幹細胞を直接、増殖、移動、および機能する神経細胞へ分化するように誘導する(ピーターソン(Peterson)DA,Curr.Opin.Pharmacol.2002,2: 34−42)。成体脳の胚中心は神経細胞損傷または機能障害が存在しないため、成体神経幹細胞は、損傷したかまたは罹患した脳組織を修復する大きな可能性がある(コルマン(Colman)A,Drug Discovery World2001,7: 66−71)。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明に記載の治療または予防の被験者は、ヒト、実験動物、たとえばマウスまたはラットまたはハエ、家畜、または非ヒト霊長類であることができる。実験動物は、神経変性疾患の動物モデル、遺伝子改変動物、たとえば、好ましくはADの症状を示しAD型神経病理を示す、遺伝子導入マウスまたはハエおよび/またはノックアウトマウスまたはハエであることができる。
【0044】
別の一態様では、本発明は、(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
【0045】
別の一態様では、本発明は、前記調節因子および好ましくは医薬キャリヤーを含む医薬組成物を扱う。前記キャリヤーは、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または調節因子と共に投与する媒体をいう。
【0046】
別の一態様では、本発明は、医薬組成物における使用のための(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子を扱う。
【0047】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にADを治療するかまたは予防するための薬剤の調製のための(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される少なくとも一つの物質の、活性、またはレベル、または前記活性および前記レベルの両方の調節因子の使用を提供する。
【0048】
一態様では、本発明はまた、治療的にまたは予防的に有効な量の前記医薬組成物を詰めた一個以上の容器を含むキットを提供する。
【0049】
別の一態様では、本発明はヒトおよび/またはマウスDAX−1(X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域)をコードする遺伝子の非天然核酸分子のおよび翻訳産物、タンパク質分子の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体の、配列番号2、配列番号3に示す核酸分子の、および配列番号1に示すタンパク質分子の、遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物である組み換え、遺伝子操作された非ヒト動物を作製するための標的分子としての使用を扱う。前記遺伝子操作非ヒト動物は、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスまたはラットまたはモルモットであることが好ましい。前記遺伝子操作非ヒト動物は、非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエDrosophila melanogasterといったハエであることがさらに好ましい。さらに、前記遺伝子操作非ヒト動物は、家畜、または非ヒト霊長類でありうる。一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、神経変性疾患に類似した神経病理の症状、特に、とりわけADの組織学的性質およびADに特徴的な行動変化を含む、AD(AD型神経病理)に類似した神経病理の症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す非ヒト動物を結果として生じる。別の一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた有益な作用のために、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示すおよび/またはADの症状を有しない非ヒト動物を結果として生じる。
【0050】
一態様では、本発明は、配列番号2、配列番号3に示す通りの、および配列番号1に示す通りの、DAX−1(X染色体第1遺伝子上のDSS−AHCの重要な領域)をコードする非天然遺伝子配列、またはその断片または誘導体、または変異体を含む組み換え、遺伝子操作非ヒト動物を扱う。DAX−1をコードする前記非天然遺伝子配列は、ヒトおよび/またはマウスDAX−1遺伝子配列でありうる。前記組み換え、遺伝子操作非ヒト動物の作製は、(i)遺伝子のターゲティング構造を生成するため、配列番号2、配列番号3、配列番号1に示されるように、ヒトおよび/またはマウスDAX−1をコードする遺伝子の非天然核酸分子のおよび翻訳産物、タンパク質分子の、および/またはその断片、または誘導体、または変異体を使う。(ii)ヒトおよび/またはマウスDAX−1の遺伝子配列、または断片、または前記遺伝子配列の変異体、および選択可能なマーカー配列を含む前記遺伝子ターゲッティング構造を提供、および(iii)前記ターゲッティング構造を非ヒト動物の幹細胞へ、胚性幹(ES)細胞へ導入、および(iv)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚へ導入、および(v)前記胚を偽妊娠非ヒト動物へ移植、および(vi)前記胚を満期まで発生させること、および(vii)ゲノムが一方または両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の修飾を含む遺伝子操作非ヒト動物を特定すること、および(viii)段階(vii)の遺伝子操作非ヒト動物を繁殖させて、ゲノムが前記内因性遺伝子の修飾を含む遺伝子操作非ヒト動物を得ることを含む。前記遺伝子操作非ヒト動物は、発現が異所性発現、または低発現、または過剰発現、または非発現である、組み換え、操作された遺伝子を発現することが好ましい。ヒトおよび/またはマウスDAX−1の遺伝子配列および選択可能なマーカー配列を含むそのようなターゲッティング構造、および、前記組み換え、操作されたDAX−1遺伝子の非ヒト遺伝子操作動物における発現の例、好ましくはマウスまたはハエのような動物、は、本発明に開示される(実施例(Viii)、(ix)および図14から20を参照)。
【0051】
好ましい一実施形態では、前記遺伝子破壊または抑制または活性化または前記遺伝子操作の発現は、神経変性疾患の神経病理に類似した症状、特にADに類似した神経病理(AD型神経病理)の症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す前記非ヒト動物を結果として生じる。
【0052】
別の好ましい一実施形態では、前記遺伝子操作の発現は、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた、有益な作用でありうる作用のために、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示す、および/またはADの症状を有しない非ヒト動物を結果として生じる。
【0053】
別の好ましい一実施形態では、前記遺伝子操作非ヒト動物は、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスまたはラットまたはモルモットである。前記遺伝子操作非ヒト動物は、非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエDrosophila melanogasterといったハエであることがさらに好ましい。さらに、前記遺伝子操作非ヒト動物は、家畜、または非ヒト霊長類でありうる。前記遺伝子操作非ヒトは、遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物である。
【0054】
本発明の別の好ましい一実施形態において、該組み換え型は、ゲノムにDAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体は、ヒトおよび/またはマウスのDAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体のいずれかをコーディングするための非天然型遺伝子を含む非ヒト動物を遺伝子的に操作した。該DAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体は、ステップ(i)から(viii)によって本発明に記載された通りに生成され、当業において既知のアルツハイマー病と交雑させることによって、アルツハイマー病の背景に対して遺伝子導入DAX−1動物および/またはDAX−1ノックアウト動物を生成する。該遺伝的に操作された非ヒト遺伝子導入DAX−1動物および/またはDAX−1ノックアウト動物における、アルツハイマー病の病理学に対するDAX−1発現の影響は、組織学的分析、免疫組織化学および/または脳内の拡散および成熟した脳内斑の定量化によって、所定の細胞母数および/または炎症および神経変性の徴候に対する染色によって、さらにAbetaの抽出物の差および/またはタウタンパク質のリン酸化状態等の生化学的分析によって定義される。神経学的機能は、一連の行動試験によって評価され、この行動試験は小規模(mini)神経学的検査、ロータロッド、グリップ試験、Y−maze、ホットプレート試験、0−maze、オープンフィールド試験、Y−maze、Morris水迷路試験および/または能動回避試験を含むがそれらに限定されない。さらに、該非ヒト遺伝子導入DAX−1動物および/またはDAX−1ノックアウト動物の表現型は、様々な組織の遺伝子発現分析、タンパク質検出法および/または組織病理学を使用して分析される。
【0055】
別の好ましい一実施形態では、前記組み換え、遺伝子操作非ヒト動物は、本分野で一般に知られる通り、アルツハイマー病動物モデルと交雑される。ヒトアルツハイマー前駆体タンパク質(APP)および/またはAPPの突然変異型、たとえばスウェーデン変異を有するAPP、および/または文献に記載された通りの既知の変異を有するヒトプレセニリン−1または−2(ジェイナス(Janus)およびウェスタウェイ(Westaway),Physiology Behavior 2001,873−886;リチャーズ(Richards)ら,J.Neuroscience 2003,23:8989−9003)および/または既知の変異を有するヒトTau、たとえばP301L変異(ゴッツ(Gotz)ら,J.Biological Chemistry 2001,276:529−534)を発現する遺伝子導入マウス、またはアルツハイマー様病理を発症するこれらまたは他のマウス突然変異体からの二または三遺伝子導入動物といった、遺伝子が導入されたDAX−1動物および/またはDAX−1のノックアウト動物と交雑されるのに用いられるアルツハイマー病動物モデルは、遺伝子操作マウスおよび/またはハエが選択される。さらにヒトAPP(hAPP)およびショウジョウバエプレセニリン遺伝子導入ハエ等の遺伝子操作された非ヒト動物、例えばUAS−ウシtau遺伝子導入ハエ、アクチン−GAL4ハエおよび/またはgmr−GAL4ハエが、例えばUAS−APP695IIおよびUAS−DPsn−変異体(L235P)として選択される。他のアルツハイマー病動物モデルは、神経原線維変化および/またはアミロイド斑を生じることができる組み換え動物モデル;ヒトまたはマウスtauまたは4反復アイソフォームまたはP301L変異tauといったtauアイソフォームのようなtauタンパク質をコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;アミロイド前駆体タンパク質または変異アミロイド前駆体タンパク質、またはβ−アミロイドをコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;セクレターゼ、ガンマ−セクレターゼ、ベータ−セクレターゼまたはアルファ−セクレターゼ、プレセニリン1またはプレセニリン2をコードする組み換え遺伝子を発現する組み換え動物モデル;および上記の組み換え遺伝子の組み合わせを発現する任意の組み換え動物モデルでありうる。
【0056】
別の好ましい一実施形態では、前記交雑は、アルツハイマー病の背景で、神経変性疾患に類似の神経病理の症状、特に、とりわけADの組織学的性質およびADに特徴的な行動変化を含む、ADに類似の神経病理の症状(AD型神経病理)を発症するおよび/または示す強化および促進された素因を有する、DAX−1ノックアウト動物または遺伝子導入DAX−1動物を結果として生じる。
【0057】
別の好ましい一実施形態では、前記交雑は、アルツハイマー病の背景で、前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた有益な作用のために、AD症状が低減した、および/または神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した神経病理の症状を発症するリスクが低い、またはADの症状を有しないDAX−1ノックアウト動物および/または遺伝子導入DAX−1動物を結果として生じる。
【0058】
遺伝子操作非ヒト遺伝子導入動物および/またはノックアウト動物は、実験動物として、被験動物として、神経変性疾患についての動物モデルとして、好ましくはアルツハイマーについての動物モデルとして、用いることができる。神経病理学的性質を示すおよび/または症状の低減を示すそのような遺伝子操作非ヒト動物の例は、本発明に開示される(実施例(Viii)、(ix)および図面(14から20)を参照)。
【0059】
そのような遺伝子導入および/またはノックアウト動物の作製および構築のための戦略および技術は当業者に公知であり(たとえばカペッキ(Capecchi),Science 1989,244: 1288−1292 およびホーガン(Hogan)ら,『マウス胚操作:実験の手引き』(Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1994 およびジャクソン(Jackson)およびアボット(Abbott),『マウス遺伝学および遺伝子組み換え:実践的手法』(Mouse Genetics and Transgenics; A Practical Approach),オックスフォード大学出版会,英国オックスフォード,1999を参照)、および本発明に詳細に記載される(上記および実施例(Viii)、(ix)および図面(14から20)を参照)。
【0060】
本発明の別の一態様では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を調べるための動物モデルとして、そのような組み換え、遺伝子操作非ヒト動物、遺伝子導入またはノックアウト動物を利用するのが好ましい。そのような動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するのに有用な被験動物または実験動物でありうる。
【0061】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または (i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱い、その方法は下記を含む(a)神経変性疾患または関連する疾患または障害を発症する素因を有するかまたはすでに発症している、被験動物または実験動物または動物モデルへ被験化合物を投与、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定、および(c)等しく前記疾患を発症する素因を有するかまたはすでに発症している、およびそのような被験化合物が投与されていない、対応する対照動物中の前記物質の、活性および/またはレベルを測定、および(d)段階(b)および(c)の動物中の物質の活性および/またはレベルを比較し、ここで被験動物、または実験動物、または動物モデル中の物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患および障害の調節因子であることを示す。
【0062】
好ましい一実施形態では、本発明に開示される通り、前記被験動物、または実験動物、または動物モデルおよび/または前記対照動物は、天然DAX−1遺伝子転写調節配列でない転写調節配列の調節下にある、DAX−1をコードする遺伝子、またはその断片、または誘導体、または変異体を発現する、組み換え、遺伝子操作非ヒト動物である(下記参照)。
【0063】
別の一態様では、本発明に記載の遺伝子操作非ヒト動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療のための治療法、または調節物質、または化合物の有効性を測定または評価するためのin vivo検定法を提供する。
【0064】
別の一態様では、本発明は、神経変性疾患、特にAD、または(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体から成る群から選択される一種類以上の物質の、関連する疾患および異常の、調節因子についてのスクリーニングのための測定法を扱う。このスクリーニング方法は下記を含む(a)細胞を被験化合物、物質、または調節因子と接触させること、および(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の前記物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方を測定すること、および(d)段階(b)および(c)の細胞中の物質のレベルを比較し、ここで、接触させた細胞中の前記物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物、または物質、または調節因子が前記疾患および障害の調節因子であることを示し、前記調節因子は(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性、またはレベル、または活性およびレベルの両方でありうる。
【0065】
本発明で開示される通りの、DAX−1タンパク質を過剰発現する細胞、好ましくはDAX−1タンパク質を安定に過剰発現する細胞といった、前記スクリーニング検定法で用いられる細胞の例を下記に示す(実施例(vi)および図12)。前記細胞を用いる検定法の詳細な例が本発明で開示される(実施例(viii)および図13を参照)。
【0066】
遺伝子操作動物および細胞およびスクリーニング検定法の例は単なる説明であり、および開示の残りを限定することを決して意図しない。
【0067】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述のスクリーニング測定の方法によって神経変性疾患の調節因子を特定する、および(ii)調節因子を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記因子はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定することができる。
【0068】
別の一態様では、別の一態様では、本発明は、リガンドと、DAX−1タンパク質、またはその断片、または誘導体、または変異体との間の結合の阻害について、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を提供する。前記スクリーニング測定法は、(i)前記DAX−1タンパク質、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記阻害についてスクリーニングする一または複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドを前記容器に加える、および(iv)前記DAX−1タンパク質、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記一または複数の化合物、および前記検出可能な、好ましくは蛍光標識リガンドをインキュベートする、および(v)前記DAX−1タンパク質に、またはその前記断片、または誘導体、または変異体に結合した蛍光の量を測定する、および(vi)前記リガンドの、前記DAX−1タンパク質、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の、一種類以上の前記化合物による阻害の程度を測定する段階を含む。リガンドと前記DAX−1翻訳産物との間の結合の阻害を測定するためには、前記DAX−1翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体を、人工リポソーム中に再構成し、対応するプロテオリポソームを作製するのが好ましい可能性がある。界面活性剤からリポソームへのDAX−1翻訳産物の再構成の方法は詳しく説明されている(シュワルツ(Schwarz)ら,Biochemistry 1999,38: 9456−9464;クリヴォシェフ(Krivosheev)およびウサノフ(Usanov),Biochemistry−Moscow 1997,62: 1064−1073)。蛍光標識リガンドを利用する代わりに、一部の態様では、当業者に公知である任意のその他の検出可能な標識、たとえば放射性標識を用い、およびそれをしかるべく検出するのが好ましい可能性がある。前記方法は、新規化合物の同定に、および、DAX−1をコードする遺伝子の遺伝子産物、またはその断片、または誘導体、または変異体へのリガンドの結合を阻害する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。キャリヤー粒子の使用を基礎としたこの場合の蛍光結合測定法の一例は、特許出願国際公開第00/52451号パンフレットに開示され記載されている。別の一例は、特許国際公開第02/01226号パンフレットに記載された競合測定法である。本発明のスクリーニング測定法のために好ましいシグナル検出方法は、下記の特許出願に記載されている:国際公開第96/13744号、第98/16814号、第98/23942号、第99/17086号、第99/34195号、第00/66985号、第01/59436号および第01/59416号パンフレット。
【0069】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の阻害結合測定法によって、化合物を、リガンドとDAX−1をコードする遺伝子の遺伝子産物との間の結合の阻害因子として特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
【0070】
別の一態様では、本発明は、DAX−1タンパク質との、またはその断片、または誘導体、または変異体との前記化合物の結合の程度を測定する、化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための測定法を扱う。前記スクリーニング測定法は、(i)前記DAX−1タンパク質、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加える、および(ii)前記結合についてスクリーニングする検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物を前記複数の容器に加える、および(iii)前記DAX−1タンパク質と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、または検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物をインキュベートする、および(iv)前記DAX−1タンパク質と、またはその前記断片、または誘導体、または変異体と結合した好ましくは蛍光の量を測定する、および(v)前記DAX−1タンパク質への、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への、一種類以上の前記化合物による結合の程度を測定する段階を含む。この型の測定では、蛍光標識を用いるのが好ましい。しかし、任意の他の種類の検出可能な標識もまた使用することができる。またこの型の測定では、DAX−1翻訳産物またはその断片、または誘導体、または変異体を、本発明に記載の通り、人工リポソーム中に再構成するのが好ましい可能性がある。前記測定法は、新規化合物の同定に、およびDAX−1、またはその断片、または誘導体、または変異体へ結合する能力が改良されたかまたはそうでなければ最適化された化合物を評価するために有用である可能性がある。
【0071】
別の一実施形態では、本発明は、(i)前述の結合測定法によって、DAX−1をコードする遺伝子の遺伝子産物への結合因子として化合物を特定する、および(ii)その化合物を医薬キャリヤーと混合する段階を含む、薬剤を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、他の種類のスクリーニング測定法によっても特定できる可能性がある。
【0072】
別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得ることができる薬剤を提供する。別の一実施形態では、本発明は、ここで請求するスクリーニング測定法に記載の方法のうち任意のものによって得られた薬剤を提供する。
【0073】
本発明は、配列番号1に示される、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、またはその断片、または誘導体、または変異体、および、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としてのその使用を扱う。
【0074】
さらに、本発明は、配列番号1および配列番号2に示される、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、またはその断片、または誘導体、または変異体、および、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防、または治療、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての使用のためのその使用を扱う。
【0075】
本発明は、DAX−1遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である免疫原と、特異的に免疫反応する抗体を扱う。その免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原性または抗原性のエピトープまたは部分を含むことができ、ここで翻訳産物の前記免疫原性または抗原性部分はポリペプチドであり、および前記ポリペプチドは抗体反応を動物において導き、前記ポリペプチドは前記抗体によって免疫特異的に結合している。抗体を作製する方法は本分野でよく知られている(ハーロウ(Harlow)ら,『抗体−実験の手引き』(Antibodies, A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1988を参照)。本発明で使用される「抗体」の語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、組み換え、抗イディオタイプ、ヒト化、または一本鎖抗体、およびその断片といった、当該分野で既知のすべての型の抗体を包含する(デュベル(Dubel)およびブライトリンク(Breitling),『組み換え抗体』(Recombinant Antibodies),ワイリー・リース社(Wiley−Liss),ニューヨーク州ニューヨーク,1999)。本発明の抗体は、たとえば(ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane),(Harlow and Lane,『抗体を用いて:実験の手引き』(Using Antibodies: A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1999およびエドワーズ(Edwards)R,『免疫診断:実践的手法』(Immunodiagnostics: A Practical Approach),オックスフォード大学出版会(Oxford University Press),英国オックスフォード,1999を参照)、酵素免疫測定法(たとえば酵素結合免疫吸収測定法、ELISA)、ラジオイムノアッセイ、化学発光免疫測定法、ウェスタンブロット、免疫沈降法、および抗体マイクロアレイといった、最先端の方法を基礎とするさまざまな診断および治療方法で有用である。これらの方法は、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の検出を含む。
【0076】
本発明の好ましい一実施形態では、前記抗体は被験者に由来する試料中の細胞の病理状態を検出するのに用いることができ、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含み、ここで既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化は、前記細胞の病理状態を示す。好ましくは、病理状態は神経変性疾患、特にADに関係する。細胞の免疫細胞化学染色は、本分野でよく知られたいくつかの異なる実験法によって実施することができる。しかし、抗体結合の検出には自動化法を適用するのが好ましく、ここで、細胞の染色の程度の判定、または細胞の細胞染色または細胞成分染色のパターンの判定、または細胞表面上または細胞内のオルガネラおよびその他の細胞下構造の間の抗原のトポロジカルな分布は、米国特許第6150173号明細書に記載の方法に従って実施される。
【0077】
本発明のその他の特性および利点は、単なる説明であり、および開示の残りを限定することを決して意図しない下記の図および実施例の説明から明らかになる。
【実施例】
【0078】
(i)AD患者由来の脳組織解剖:
AD患者および対応する年齢の対照被験者由来の脳組織を死後6時間以内に採取し、直ちにドライアイス上で凍結した。診断の組織病理的確認のため、各組織からの試料切片はパラホルムアルデヒドで固定した。発現差の分析のための脳の部分を特定し、RNA抽出を実施するまで−80℃にて保存した。
【0079】
(ii)総mRNAの単離:
総RNAは、RNeasyキット(キアゲン(Qiagen))を取扱説明書に従って使用することによって、死後脳組織から抽出した。正確なRNA濃度およびRNA品質は、DNAラブチップ(LabChip)系を用いてアジレント(Agilent)2100バイオアナライザー(アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))を使用して測定した。調製したRNAの追加の品質試験、すなわち部分分解の排除およびDNA混入に関する試験は、特に設計したイントロンGAPDHオリゴヌクレオチドおよび参照対照としてゲノムDNAを使用して、ライトサイクラー(LightCycler)技術を取扱説明書(ロシュ(Roche))に従って用いて融解曲線を作成した。
【0080】
(iii)定量RT−PCR分析
側頭皮質対前頭皮質および海馬対前頭皮質におけるDAX−1遺伝子の発現差レベルをライトサイクラー(LightCycler)技術(ロシュ((Roche))を用いて分析した。この方法は、ポリメラーゼ連鎖反応についての迅速熱サイクリング、および増幅中の蛍光シグナルのリアルタイム測定を扱い、およびしたがって、終点計測値でなく動力学を用いたRT−PCR産物の高精度な定量を可能にする。AD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の側頭皮質由来、AD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の前頭皮質由来、AD患者および対応する年齢の健常対照者の海馬由来の、DAX−1cDNAの比、およびAD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の側頭皮質および前頭皮質由来のDAX−1cDNAの比、およびAD患者のおよび対応する年齢の健常対照者の海馬および前頭皮質由来のDAX−1cDNAの比をそれぞれ測定した(相対的定量)。
【0081】
DAX−1の、前頭皮質組織(F)と下側頭皮質組織(T)との間のmRNA発現プロファイリングを、各ブラーク病期につき4〜最大9の組織で分析した。ブラーク3病理を有するドナー1名からの高品質組織が無かったため、ブラーク3病理を有する追加の1名のドナーの組織を含め、およびブラーク6病理を有するドナー1名からの高品質組織が無かったため、ブラーク5病理を有する追加の1名のドナーの組織試料を含めた。
【0082】
プロファイリングの分析のため、2つの一般的手法を用いている。DAX−1の、AD生理における関連の複合像に寄与する、下側頭皮質に対する前頭皮質、およびAD患者に対する対照の両方の比較プロファイリング試験を下記に詳細に示す。
【0083】
1)対照の、およびAD患者の、前頭皮質組織と下側頭皮質組織との間のmRNA発現の相対比較。この手法は、同定された遺伝子DAX−1が、変性に対する 脆弱性のより低い 組織(前頭皮質)の保護に関与しているか、または、脆弱性のより高い組織(下側頭皮質)の変性過程に関与するかまたはそれを促進するかを検証することを可能にした。
【0084】
最初に、PCRの効率を測定するため、DAX−1遺伝子:
5'−TACCAAGGAGTACGCCTACCTCA−3'(配列番号2、ヌクレオチド1356−1378;配列番号3、ヌクレオチド1122−1144)を用いて、および
5'−CACGTCCGGGTTAAAGAGCA−3'(配列番号2、ヌクレオチド1407−1388;配列番号3、ヌクレオチド1173−1153);を用いて、標準曲線を作成した。
PCR増幅(95℃で1秒間,56℃で5秒間、および72℃で5秒間)を、ライトサイクラー・ファストスタートDNAマスターSYBRグリーンI(LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I)混合物(ファストスタートTaqDNAポリメラーゼ、反応緩衝液、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTP混合物、SYBRグリーンI色素、および1mM MgCl2;ロシュ(Roche))、0.5μMプライマー、2μlのcDNA希釈系列(終濃度40、20、10、5、1および0.5ngヒト脳総cDNA;クローンテック(Clontech))および、使用プライマーに応じて追加の3mM MgCl2を含む20μl容量中で実施した。融解曲線分析は、約83.5℃にて単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物の品質および大きさはDNAラブチップ(LabChip)システムを用いて測定した (アジレント2100バイオアナライザー、アジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies))。試料の電気泳動図でDAX−1について52bpの予測サイズに単一ピークが観察された。
【0085】
同様の方法で、PCR手順を適用して、定量用の参照標準として選択された参照遺伝子の組のPCR効率を測定した。本発明では、5種類のそのような参照遺伝子の平均値を測定した;(1)シクロフィリンB、特異的 プライマー 5'− ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3' および 5'−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3' を用いMgCl2を省いて(別に1mMを3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62 bp)の単一バンド一本を示した。(2)リボソームタンパク質S9(RPS9)、特異的プライマー5'− GGTCAAATTTACCCTGGCCA−3'および5'−TCTCATCAAGCGTCAGCAGTTC−3'を用いて(例外;別に1mM MgCl2を3mMの代わりに加えた)。融解曲線分析は約85℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(62bp)を有する単一バンド一本を示した。(3)ベータアクチン、特異的プライマー5'TGGAACGGTGAAGGTGACA−3'および5'−GGCAAGGGACTTCCTGTAA−3'を用いて。融解曲線分析は約87℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(142bp)を有する単一バンド一本を示した。(4)GAPDH、特異的プライマー51CGTCATGGGTGTGAACCATG−3'および5'−GCTAAGCAGTTGGTGGTGCAG−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(81bp)を有する単一バンド一本を示した。(5)トランスフェリン受容体TRR、特異的プライマー5'−GTCGCTGGTCAGTTCGTGATT−3'および5'AGCAGTTGGCTGTTGTACCTCTC−3'を用いて。融解曲線分析は約83℃に単一ピークを示し、プライマー二量体は見られなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予想サイズ(80bp)を有する単一バンド一本を示した。
【0086】
値の計算のために、まずcDNA濃度の対数を、DAX−1について、および5種類の参照標準遺伝子についてのサイクル数閾値Ctに対してプロットした。標準曲線の傾きおよび切片(すなわち直線回帰)をすべての遺伝子について計算した。次の段階で、AD患者のおよび対照健常者の前頭皮質由来、AD患者のおよび対照健常者の側頭皮質由来、AD患者のおよび対照健常者の海馬由来のcDNA、および、AD患者のおよび対照者の前頭皮質および側頭皮質由来、およびAD患者のおよび対照者の前頭皮質および海馬由来のcDNAを、それぞれ平行して分析しシクロフィリンBに対して正規化した。Ct値を測定し、対応する標準曲線を用いてng総脳cDNAに変換した:
10^((Ct値−切片)/傾き) [ng総脳DNA]
【0087】
側頭および前頭皮質DAX−1cDNAについての値、海馬および前頭皮質DAX−1cDNAについての値、およびAD患者(P)および対照者(C)の前頭皮質DAX−1cDNAからの値、およびAD患者(P)および対照者(C)の側頭皮質DAX−1cDNAについての値は、シクロフィリンBに対して正規化し、および比を下記の式に従って計算した:
【数1】
【0088】
三番目の段階で、参照標準遺伝子の組を平行して分析し、個別の脳試料それぞれについて参照標準遺伝子の発現レベルの、対照者対AD患者側頭皮質比の、対照者対AD患者前頭皮質比、およびAD患者および対照者の前頭対側頭比の、およびAD患者および対照者の前頭対海馬比の平均値をそれぞれ決定したシクロフィリンBを段階2および段階3で分析し、また、一つの遺伝子から別の遺伝子への比は別々の分析で一定のままであったため、DAX−1を、単一の遺伝子だけに対して正規化するのでなく、参照標準遺伝子の組の平均値に対して正規化することが可能であった。計算は、上記に示すそれぞれの比を、すべてのハウスキーピング遺伝子の平均値からのシクロフィリンBの偏差で割ることによって行った。DAX−1をコードする遺伝子についてのそのような定量的RT−PCR分析の結果およびそれぞれの計算値を図1および8に、図2および9に示す。
【0089】
2)対照とAD患者との間のmRNA発現の比較。
この分析に関して、別の時点での別の実験間のリアルタイム定量PCR(ライトサイクラー(Lightcycler)法)の絶対値は、キャリブレーターを使用しない定量比較に用いるのに十分に一貫性があることが証明された。シクロフィリンを、100を超える組織について、qPCR実験のどれでも正規化のための標準物質として用いた。我々の正規化実験において、中でもシクロフィリンは最も一貫して発現されたハウスキーピング遺伝子であることが見出された。したがって、シクロフィリンに関して生じた値を用いることによって概念実証が行われた。
【0090】
第一の分析は、3名の異なるドナー由来の前頭皮質および下側頭皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いた。分析したすべての実験で、各組織から同一のcDNA調製物を用いた。この分析の中では、データ数の小ささのため、値の正規分布は達成されなかった。したがって、中央値およびその98%信頼レベルの方法を用いた。この分析は、絶対値の比較について中央値から8.7%の中間偏差、および相対値の比較について中央値から6.6%の中間偏差を明らかにした。
【0091】
第二の分析は、それぞれ2名の異なるドナー由来の前頭皮質および下側頭皮質組織のqPCR実験からのシクロフィリン値を用いたが、異なる時点からの異なるcDNA調製物を用いた。この分析、絶対値の比較について中央値から29.2%の中間偏差、および相対値の比較について中央値から17.6%の中間偏差を明らかにした。この分析から、qPCR実験からの絶対値を使用できるが、しかし中央値からの中間偏差はさらに考慮されるべきであると結論されたDAX−1について絶対値の詳細な分析を実施した。したがって、シクロフィリンを用いた相対的正規化後にDAX−1の絶対レベルを用いた。中央値および98%信頼レベルを対照群(ブラーク0〜ブラーク3)および患者群(ブラーク4〜ブラーク6)についてそれぞれ計算した。同じ分析を、対照群(ブラーク0〜ブラーク2)および患者群(ブラーク3〜ブラーク6)を再定義して実施し、および対照群(ブラーク0〜ブラーク1)および患者群(ブラーク2〜ブラーク6)を再定義して実施した。後者の分析は、対照とAD患者との間のmRNA発現差の初期出現を見出すことを目的とした。この分析の別の視点では、遺伝子発現調節および初期出現差の傾向を見出すため、それぞれブラーク病期0〜1、ブラーク病期2〜3、およびブラーク病期4〜6を含む3群を互いに比較した。上記の通りの前記分析を図3に示す。
【0092】
(iv)免疫組織化学
ヒト脳中のDAX−1の免疫蛍光染色法のために、またAD罹患組織を対照組織と比較するために、ドナー由来の検死後の新鮮凍結した前頭および側頭前脳試料を、クリオスタット(ライカ(Leica) CM3050S)を使用して14μmの厚さに切断した。ドナーは、様々なブラーク病期(P038、P016、P011、P017;ブラーク4、5、6)においてアルツハイマー病と臨床的に診断され、神経病理学的に確認された患者ならびにアルツハイマーに罹患していない対応する年齢の対照者(C027、C030;ブラーク0、1)を含む。組織切片は室温で空気乾燥し、アセトン中に10分間固定した。PBS中で洗浄した後、切片をブロッキング用緩衝液(10%清浄ウマ血清、PBS中の0.2%トリトンX−100)で30分間プレインキュベートし、次にアフィニティ精製した抗DAX−1ウサギポリクロナール抗体(ブロッキング用緩衝液中で1:20に希釈;サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)、sc−13064(H−330)またはsc−841(K−17)、ハイデルベルグ、ドイツ)で4℃で一夜インキュベートした。0.1%トリトンX−100/PBS中で3回すすいだ後、切片をFITC結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清(ジャクソン(Jackson)/ディアノバ(Dianova)、No.111−096−045;1%BSA/PBS中に1:150で希釈)中で2時間室温でインキュベートし、次にPBS中で洗浄した。神経細胞の染色は上記のとおり抗神経特異的マーカーNeuNモノクローナル抗体(ケミコン(Chemicon) 、MAB377、1:200で希釈)およびヤギCy3結合抗マウスマウス抗体(ディアノバ(Dianova)、115−166−062、希釈1:600)に対して実施した。核の染色は、PBS中において5μMのDAPIで3分間インキュベートすることによって実施した。ヒト脳中のリポフスチンの自己発光を阻害するため、切片を70%エタノール中の1%スーダンブラックB(Sudan Black B)で2〜10分間室温で処理し、次に70%エタノール、蒸留水およびPBS中に順次浸漬した。切片は『ベクタシールド』(Vectashield)封入剤(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)、バーリンゲーム、カリフォルニア)を封入したカバーグラスを載せた。顕微暗視野落射蛍光および明視野位相差照明条件(IX81、オリンパス光学(Olympus Optical))を使用して顕微鏡像を得た。顕微鏡像はPCOセンシカム(SensiCam)を使用してデジタル取り込みし、および適切なソフトウェアを使用して分析した(AnalySiS、オリンパス光学(Olympus Optical))(図11を参照)。
【0093】
(v)免疫ブロット法
氷上で1mlのRIPA緩衝液(150mM塩化ナトリウム、50mMトリス−HCl、pH7.4、1mMエチレンジアミン四酢酸、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、1%トリトンX−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、1%ドデシル硫酸ナトリウム、アプロチニン5μg/ml、5μ/mlロイペプチン)中で脳組織(0.2g)をホモジナイズした。3000rpm、4℃で5分間の遠心分離を2回行った後、上清をSDS負荷緩衝液中で5倍に希釈した。割当量12μlの希釈試料をSDS−PAGE(8%ポリアクリルアミド)に溶解し、PVDFウェスタンブロッティング膜(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim))へ移送した。ブロットは抗DAX−1ウサギポリクローナル抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)、sc−13064(H−330)またはsc−841(K−17)、ハイデルバーグ)、引き続きホースラディシュ・ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG抗血清(サンタクルーズ(Santa Cruz)、sc−2030、1:5000で希釈)でプローブし、ECL化学発光検出キット(アメリカン・ファルマシア(Amersham Pharmacia))に展開した(図10)。
【0094】
(vi)免疫蛍光分析(IF):
細胞中のDAX−1タンパク質の免疫蛍光染色のために、スウェーデン変異を有するヒトAPP695アイソフォームを安定に発現する(K670N、M671L)ヒト神経膠腫細胞株(H4細胞)を使用した(H4APPsw細胞)。
【0095】
H4APPsw細胞に、DAX−1(DAX−1−cds)のコード配列(配列番号3、1413bp)およびmyc−タグを含むPFB−Neoベクター(ストラタジーン(Stratagene)、#217561、6.6kb)を用いて形質導入した(pFBNeo−DAX−1cds−myc、DAX−1ベクター、8034bp)。DAX−1ベクターの作製については、DAX−1−myc配列をPFB−Neoベクターのマルチクローニングサイト(MCS)のEcoRI/Xhol制限部位へ導入した。DAX−1ベクターを用いたH4APPsw細胞の形質導入には、ストラタジーン(Stratagene)のレトロウイルス発現系バイラポート(ViraPort)を使用した。
【0096】
myc−タグ化DAX−1過剰発現細胞(H4APPsw−DAX−1−myc)を24ウェルプレート(ヌンク(Nunc)、デンマーク、ロスキルデ(Roskilde);#143982)中でカバーグラス片上に、5x104細胞の密度で播種し、および37℃にて5%CO2で一夜インキュベートした。細胞をカバーグラス上に固定するため、培地を除去しおよび冷メタノール(−20℃)を加えた。15分間、−20℃にてのインキュベート期間後、メタノールを除去し、および固定された細胞を、1時間、ブロッキング溶液(200μlPBS/5%BSA/3%ヤギ血清)中で室温にてブロッキングした。第一の抗体(ポリクローナル抗myc抗体、ウサギ、1:500、モビテック(Mobitec))およびDAPI(DNA色素、0.05μg/ml、1:1000)を含むPBS/1%ヤギ血清を加え、および1時間室温にてインキュベートした。第一の抗体を除去後、固定された細胞を3回PBSで5分間洗浄した。第二の抗体(Cy3結合抗ウサギ抗体、1:1000、アマシャム・ファルマシア(Amersham Pharmacia)、ドイツ)をブロッキング溶液に加え、および1時間室温にてインキュベートした。細胞を3回PBSで5分間洗浄した。パーマフロー(Permafluor)(ベックマン・コールター(Beckman Coulter))を用いてカバーグラスを顕微鏡スライドに載せ、および4℃で一夜保存して封入剤を固化した。細胞は顕微暗視野落射蛍光および明視野位相差照明条件(IX81、オリンパス光学(Olympus Optical))を用いて視覚化した。顕微鏡像(図12)はPCOセンシカム(SensiCam)を用いてデジタル取り込みし、および適当なソフトウェアを用いて分析した(AnalySiS、オリンパス光学)。
【0097】
(vii)細胞毒性/生存能測定:
DAX−1タンパク質過剰発現細胞(実施例(vi)に上述のDAX−1細胞)に対する栄養因子欠乏の作用を分析するため、H4APPsw対照およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰発現細胞を、1.5x104細胞/mlの密度で96ウェルプレートに、DMEM(シグマ(Simga))、10%FCS(ギブコ(Gibco))およびペニシリン/ストレプトマイシン(ギブコ)中に播種した。37℃にてCO2条件(8.5%)下で一夜インキュベート後、培地をペニシリン/ストレプトマイシン含有DMEMに交換した。毒性について陽性対照として、0.06〜10mg/mlの範囲の12種類の濃度のクロロキン(シグマ)を、対照細胞へ、およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰発現細胞へ加えた(3連で)。毒性について陰性対照として、DMEM(シグマ)、10%FGS(ギブコ)およびペニシリン/ストレプトマイシン(ギブコ)を24ウェルの対照細胞およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰発現細胞へ加えた。栄養因子欠乏について、漸増濃度の血清(0、0.3、0.6、1.25、2.5、5%および7.5%)を含むDMEM、ペニシリン/ストレプトマイシンを対照細胞およびH4APPsw−DAX−1−myc過剰細胞へ加えた(3連で)。37℃にてCO2条件(8.5%)下で40時間インキュベート後酸化還元指示薬アラーマーブルー(AlamarBlue)(バイオソース((BioSource))を加え、および相対蛍光(RFU)を4時間後に544nm(励起)および590nm(放出)にて、BMGフルオスター(Fluostar)検出器を用いて測定した。毒性の%はRFU平均値を用いて、下記の式を用いて計算した:
【数2】
グラフはグラフパッド・プリズム(GraphPad Prism)を用いて決定されている(シグモイド用量反応および可変勾配に合致する非線形回帰曲線)。
【0098】
(viii)遺伝子導入ハエの生成
ヒトBACE遺伝子導入ハエおよびヒトDAX−1遺伝子導入ハエを、グリーブら(グリーブ(Greeve)ら,J. Neurosci. 2004,24:3899−3906)に従って、および本発明に記載の通り生成した。DAX−1(配列番号NO.3)のオープン・リーディング・フレーム全体を含有するDAX−1cDNA(配列番号NO. 2)1576bpEcoRI/NotI断片を、ベクターpUASTEcoRI/NotIの制限部位へとクローニングし、確実にUAS結合部位の下流にあるDAX−1挿入片の配向された(oriented)サブクローニングした(ブランド(Brand)およびペリモン(Perrimon), Development 1993, 118:401−15)。Pエレメント媒介生殖細胞系列形質転換を、スプラドリング(Spradling)およびルビン(Rubin)によって記載された通り実施した(ルビン(Rubin)およびスプラドリング(Spradling), Science 1982, 218:348−53; スプラドリング(Spradling)およびルビン(Rubin), Science 1982, 218:341−7)。26の独立したヒトDAX−1遺伝子導入ハエ系統を生成し、および3つの異なる系統を本分析に用いた。
【0099】
ヒトAPPおよびショウジョウバエ(Drosophila)プレセニリン遺伝子導入ハエ、UAS−APP695IIおよびUAS−DPsn−変異体(L235P)は、R.パロ(R. Paro)およびE. Fortiniより提供を受けた(フォスグリーン(Fossgreen)ら, Proc Natl Acad Sci USA 1998, 95: 13703−8; イエ(Ye)およびフォーティニ(Fortini), J Cell Biol 1999, 146:1351−64)。UAS−ウシtau遺伝子導入ハエ系統はS.シュニューリ(S. Schneuwly)より提供された(イトウ(Ito)ら, Cell Tissue Res. 1997, 290:1−10)。アクチン−GAL4系統は、ブルーミントン・ストック・センター(Bloomington stock center)から入手した。F.ピグノニ(F. Pignoni)からのgmr−GAL4系統を、導入遺伝子の眼特異的発現を達成するために用いた。
【0100】
遺伝交雑を標準ショウジョウバエ培地上で25℃で設定した。使用した遺伝子型はw;UAS−hAPP695、UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4/Tm3−w;UAS−hAPP695、UAS−hBACE437/CyO;gmr−GAL4、UAS−DPsnL235P/Tm3−w;UAS−DAX−1#1(第2染色体、生存可能な挿入)−w;UAS−DAX−1#18(第3染色体、生存可能な挿入)−w;UAS−DAX−1#28/CyO(第2染色体、致死性挿入)。
【0101】
免疫組織学的および組織学的分析のために、成体ハエを下記の方法にしたがって免疫染色しおよび調製した。免疫染色のためには、成体ハエを4%パラホルムアルデヒド中で3時間固定し、1xPBSで洗浄し、および25%ショ糖中へ移して4℃にて一夜インキュベートした。ハエを剃刀で頭部切断し、および頭部をティシュー・テック(Tissue Tek)(サクラ(Sakura))に包埋しおよび急速凍結した。10μm凍結横断切片をクリオスタット(ライカ(Leica) CM3050S)で調製した。免疫染色は、ベクタステイン・エリート(Vectastain Elite)キット(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)を用いて、製造業者の取り扱い説明書に従って実施した。下記の一次抗体を使用した:24B10(アルファ−カオプチン, 1:5)、デベロップメンタル・スタディーズ・ハイブリドーマ・バンク(Developmental Studies Hybridoma Bank)より供給。成体頭部のパラフィン切片をツシャーペ(Tschape) J.−A.らに従って調製した(EMBO J. 2002, 21:6367−6376)。チオフラビンS染色のために、切片を5分間マイヤーヘマトキシリン(Mayers Hemalum)(シグマ(Sigma))で対比染色し、水道水中で10分間すすぎ、および3分間1%チオフラビンS(シグマ(Sigma))水溶液中で染色した。スライドを、蒸留水を何回か交換してすすぎ、15分間1%酢酸中でインキュベートし、水道水ですすぎ、およびベクタシールド(Vectashield)封入剤(ベクター・ラボラトリーズ(Vector Laboratories)に封入した。スライドはオリンパスBX51蛍光顕微鏡下で分析した(励起430nm、放出550nm)。
【0102】
ウェスタンブロッティングによるタンパク質分析については、ハエ頭部を1xPBS、5mM EDTA、0.5% トリトンX−100およびプロテアーゼインヒビターミックス・コンプリート(ロシュ・アプライドサイエンス(Roche Applied Science))中でホモジナイズした。等量のタンパク質を10% SDS−PAGEにより分離し、イモビロン(Immobilon)膜(ミリポア社(Millipore GmbH))へ転写し、5%低脂肪乳中で2時間室温にてブロッキングし、およびモノクローナル抗体22C11(APPN末端特異的、ケミコン・インターナショナル(Chemicon international)、ウサギポリクローナルsc841(サンタクルーズ(Santa Cruz))、およびモノクローナル抗体アルファ−ベータ−チューブリン(E7, デベロップメンタル・スタディーズ・ハイブリドーマ・バンク(Developmental Studies Hybridoma Bank))とインキュベートした。結合した抗体を、ヤギ 抗マウスペロキシダーゼ結合二次抗体(ディアノバ(Dianova))で検出した。免疫沈降については、ハエ頭部は上記の通りホモジナイズし、および溶解物をクローンテック社(Clontech)の抗体手順に記載の通り処理した。抗体mab 6E10(アルファ−Aベータ1−16, シグネット・パソロジー・システムズ(Signet Pathology Systems))を免疫沈降に用いた。試料を10〜20%勾配ノベックス(Novex)トリス−トリシンゲル(インビトロジェン(Invitrogen))で分離し、およびプロトラン(Protran)BA79硝酸セルロース膜(0.1μm,シュライヒャー・シュール(Schleicher/Schuell)、ドイツ・ダッセル(Dassel))へブロットした。ベータ−アミロイドの検出は、モノクローナル抗体6E10およびヤギ抗マウスペルオキシダーゼ二次抗体(ディアノバ(Dianova))を使用して、記載の通り実施した(イダ(Ida)ら,J Biol Chem 1996,271:22908−14)。
【0103】
遺伝子導入ハエにおけるヒトAPP(ベータ−アミロイド前駆体タンパク質、hAPP)のアミロイド形成過程に伴う神経病理に及ぼすヒトDAX−1発現の潜在的影響を特徴づけるため、眼特異的GAL4系統gmr−GAL4を用いることによって、成体網膜でDAX−1をhAPP695およびヒトBACE(ベータ位APP切断酵素、hBACE)と同時発現させた。
【0104】
gmr−GAL4の調節下のDAX−1の遺伝子導入発現は、ウェスタンブロッティングによって、確認された。(図14参照)。DAX−1特異抗体sc841(サンタクルーズ(Santa Cruz))は、見かけの分子量50kDのタンパク質を検出する。2つの異なる遺伝子導入ハエ系統を分析に使用した(DAX−1#1およびDAX−1#18)。成体網膜中のDAX−1の過剰発現は、図15に示すように成体網膜の光受容体細胞の適切な構築および分化に影響しない。gmr−GAL4の調節下でDAX−1を発現しているハエの脳および網膜を介して10μmクリオスタットを、光受容体細胞特異的抗体24B10で染色し、および非遺伝子導入対照ハエと比較した。3つの異なるDAX−1遺伝子導入ハエ系統を分析に使用し、および羽化から1日後および8日後に光受容体細胞の染色を日齢対応するハエについて比較した。
【0105】
ショウジョウバエの成体網膜におけるhAPPおよびhBACEの発現は、光受容体細胞の加齢依存性変性に繋がる(グリーブ(Greeve)ら,J.Neurosci. 2004, 24: 3899−3906)。トルイジン・ブルー(Toluidine Blue)染色した1μmのプラスチック切片(図16A)、および光受容体細胞特異的抗体で染色したクリオスタット(図16BおよびC)で実証するように、DAX−1の同時発現は、若齢(図16C、4日齢)および高齢(図16AおよびB;16および12日齢のハエ)ハエにおける光受容体細胞変性の変性表現型の顕著な救済に繋がるに。2個の独立したDAX−1遺伝子導入ハエ系統をこの分析に使用した(DAX1#1およびDAX1#28)。図16Aは、hAPPおよびhBACEの同時発現が16日齢のハエの網膜における光受容体細胞の深刻な変性に繋がる(図16Aの黒矢印は、欠失した光受容体細胞の個眼を示す)一方、DAX−1を同時発現しているす日齢対応するハエでは光受容体細胞の変性は有意に遅れる(図16Aの赤矢印は、光受容体細胞の完全成分を示す)ことを示している。
【0106】
hAPP/hBACE発現ハエの網膜におけるアミロイド斑沈着は、プレセニリンの変異体型の同時発現によって加速される(グリーブ(Greeve)ら, J. Neurosci. 2004, 24:3899−3906)。したがって、我々はチオフラビンS陽性アミロイド斑の発生を、hAPP/hBACE/DPsnL235Pを発現するハエで調べ、およびhAPP/hBACE/DPsnL235PおよびDAX−1#1を発現するハエと比較した。図17は、羽化から35日後にすでに斑沈積を示す対照ハエと比べて、DAX−1#1を同時発現するハエにおいて斑沈積の発生の遅れを示している(羽化から45日後)。
【0107】
光受容体細胞変性に及ぼすDAX−1の神経保護細胞をさらに特徴づけるために、我々はウシtau(bTAU)の発現によって誘導された第2の変性表現型を調査した。gmr−GAL4の調節下でのbTAUの目に特異的な発現は、成体の網膜における顕著な光受容体細胞の年齢依存変性に繋がる(図18,btauを発現する2日齢および11日齢の対照ハエ)。DAX−1#1の同時発現は、再び光受容体細胞変性を救済する(図18、DAX−1#1を同時発現する年齢が合致した2日齢および11日齢の対照群のハエ)。この救済はより高齢のハエにおいてより顕著であった。
【0108】
(ix)DAX−1を発現する遺伝子導入マウスの生成
DAX−1遺伝子導入マウスを生成して、神経細胞中にヒトDAX−1 cDNAを発現させた。この目的のために、ヒトDAX−1(ORF DAX−1)cDNA配列番号NO.3のオープン・リーディング・フレーム、および/または配列番号NO.2の断片を、脳特異的Thy1.2遺伝子の調節配列(Thy−1.2プロモーターおよび調節要素)を含み、神経特異的発現を指示するマウスThy1.2発現カセットにクローニングして、こうして脳細胞だけで発現をきたした(ルシ(Luthi)およびファン・デル・プッテン(van der Putten), J. Neuroscience 1997, 17:4688−4699)。Rosa26遺伝子座(第6染色体上のマウスRosaベータgeo26遺伝子;サイブラー(Seibler)ら, Nucleic Acids Research 2003, 31:e12)へその配列を組み込むために、導入遺伝子をRosa26ターゲッティングベクターへクローニングした。導入遺伝子の5’端にNeo選択マーカーを配置した。Neoカセットは、内因性Rosa26遺伝子由来のRosaプロモーターによって動作するNeo選択マーカーの発現を可能にするスプライス受容体を含む、(フリードリヒ(Friedrich)およびソリアノ(Soriano), Genes Dev. 1991, 5:1513−1523;ザムブロウィツ(Zambrowicz)ら, Proc Natl Acad Sci USA他, 94:3789−3794)。Neoマーカーの3’端ポリAシグナル(pA)が転写およびRosaプロモーターの影響を停止する。本ターゲッティングベクターは、Rosa26遺伝子座への相同組み換えを可能にするために、ゲノム129S6DNA由来のRosa26ホモロジー配列を含む。短ホモロジーアーム(SA)は約1.1kbから成り、長ホモロジーアーム(LA)は約4.3kbから成る。製作されたターゲッティングベクターおよびターゲッティング戦略を図19に示す。
【0109】
上記のターゲッティングベクターはクローニングされ、およびさらに、C57BL/6Nマウス胎児性幹細胞(ES)(マウス染色C57BL/6J)へと導入した。ES細胞の遺伝子導入は、最新技術に従って実行した(ホーガン(Hogan)ら,『マウス胚操作:実験の手引き』(Manipulating the Mouse Embryo; A Laboratory Manual,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー,1994 およびジャクソン(Jackson)およびアボット(Abbott),『マウス遺伝学および遺伝子組み換え:実践的手法』(Mouse Genetics and Transgenics; A Practical Approach),オックスフォード大学出版会,英国オックスフォード,1999)。相同組み換え後、ターゲッティングされたES細胞は、サザンブロット分析(図20)によって特定され、標準的方法を用いて胚盤胞へ注入されてキメラマウスを生じた((チムス(Tymms)およびコーラ(Kola),『遺伝子ノックアウト手順』(Gene Knock Out Protocols), ヒューマナ・プレス社(Humana Press) 2001)。作製されたキメラマウスの生殖細胞系列への遺伝子導入の成功後、キメラマウスをアルツハイマー病マウスモデルと交雑し、アルツハイマー病背景上で遺伝子導入DAX-1マウスを作製した。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1および2は、ヒトDAX−1遺伝子の発現差をAD脳組織において、定量RT−PCR分析によって図示する。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図1a)、およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)に由来する試料(図2a)からのRT−PCR産物の定量は、ライトサイクラー(LightCycler)迅速熱サイクリング法によって実施した。同様に、対応する年齢の対照健常者の試料を比較した(図1bは前頭皮質および側頭皮質、図2bは前頭皮質および海馬)。データは、遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった標準遺伝子の組の平均値の組み合わせについて正規化した。前記標準遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から成った。図は、蛍光によって測定された増幅された物質の量に対してサイクル数をプロットすることによって、増幅の動力学を示す。反応の指数期の間、対照健常者の前頭皮質および側頭皮質、および対照健常者の前頭皮質および海馬、のそれぞれ両方に由来するDAX−1cDNAの増幅動力学は並列しており(図1bおよび2b、矢印)、一方、アルツハイマー病では(図1aおよび2a、矢印)対応する曲線の有意な分離があり、分析した脳領域のそれぞれでDAX−1をコードする遺伝子の発現の差を示し、ヒトDAX−1遺伝子の転写産物の、DAX−1遺伝子またはその断片、または誘導体、または変異体の、側頭皮質において前頭皮質と相対的な、および海馬において前頭皮質と相対的な、調節障害、好ましくはダウンレギュレーションを示すことに注意する。
【図2】図1および2は、ヒトDAX−1遺伝子の発現差をAD脳組織において、定量RT−PCR分析によって図示する。AD患者の前頭皮質(F)および側頭皮質(T)から採取したRNA試料(図1a)、およびAD患者の前頭皮質(F)および海馬(H)に由来する試料(図2a)からのRT−PCR産物の定量は、ライトサイクラー(LightCycler)迅速熱サイクリング法によって実施した。同様に、対応する年齢の対照健常者の試料を比較した(図1bは前頭皮質および側頭皮質、図2bは前頭皮質および海馬)。データは、遺伝子発現レベルに有意差を示さなかった標準遺伝子の組の平均値の組み合わせについて正規化した。前記標準遺伝子の組は、シクロフィリンB、リボソームタンパク質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH、およびベータアクチンの遺伝子から成った。図は、蛍光によって測定された増幅された物質の量に対してサイクル数をプロットすることによって、増幅の動力学を示す。反応の指数期の間、対照健常者の前頭皮質および側頭皮質、および対照健常者の前頭皮質および海馬、のそれぞれ両方に由来するDAX−1cDNAの増幅動力学は並列しており(図1bおよび2b、矢印)、一方、アルツハイマー病では(図1aおよび2a、矢印)対応する曲線の有意な分離があり、分析した脳領域のそれぞれでDAX−1をコードする遺伝子の発現の差を示し、ヒトDAX−1遺伝子の転写産物の、DAX−1遺伝子またはその断片、または誘導体、または変異体の、側頭皮質において前頭皮質と相対的な、および海馬において前頭皮質と相対的な、調節障害、好ましくはダウンレギュレーションを示すことに注意する。
【図3】図3は、98%信頼レベルでの中央値の統計手法を用いた、対照およびAD病期の比較による、DAX−1の絶対mRNA発現の分析を示す。データは、ブラーク病期0から1、ブラーク病期0から2、またはブラーク病期0から3のいずれかの被験者を含む対照群を定義することによって計算し、ブラーク病期2から6、ブラーク病期3から6およびブラーク病期4から6をそれぞれ含む定義されたAD患者群について計算されたデータと比較する。加えて、ブラーク病期0から1、ブラーク病期2から3およびブラーク病期4から6のどれかの被験者をそれぞれ含む3群を互いに比較した。AD患者のおよび対照者の前頭皮質(F)と下側頭皮質(T)を互いに比較して有意差が検出された。前記の差は、ブラーク病期0から3を、ブラーク病期4から6と比較するとAD患者の側頭皮質における、対照者の側頭皮質と相対的なDAX−1のアップレギュレーションを顕著に反映する。その差はまた、AD患者の前頭皮質における、対照群被験者の前頭皮質と比較したDAX−1のダウンレギュレーションを反映する。ブラーク病期はAD疾患の進行過程と相関し、進行過程は本発明で示す通り、DAX−1の調節、レベルおよび活性の漸増する差と上記の通り関連する。前記の有意差は、ブラーク病期3ですでに観察された。
【図4】図4は、SwissProt登録番号Q96F69に定義される通り、配列番号1、すなわち470アミノ酸を含むヒトDAX−1タンパク質のアミノ酸完全長配列を開示する。
【図5】図5は、Genbank登録番号S74720に定義される通り、配列番号2、すなわち2022ヌクレオチドを含むヒトDAX−1cDNAのヌクレオチド配列を表す。
【図6】図6は、配列番号3のヌクレオチド配列、すなわち、1413ヌクレオチド(配列番号2のヌクレオチド235から1647)を含み、ヒトDAX−1遺伝子のコード配列(cds)を示す。
【図7】図7は、配列番号2のヌクレオチド配列(ヌクレオチド1356から1407)に対応するクリッピング(clipping)とともに、定量PT−PCRによるDAX−1の転写レベルのプロファイリングのために使用されるプライマーの配列整列を示す。
【図8】図8は、内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049(0.58〜7.53倍;下記の式に従った逆数値)で特定されるAD患者15名、および内部参照番号C005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C028、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07(0.36〜2.26倍;下記の式に従った逆数値)で特定される対応する年齢の対照者24名のDAX−1の発現レベルを列記する。それぞれ、側頭皮質におけるアップレギュレーションについては、表示の数値は本明細書に記載の式(下記参照)に従って計算し、および前頭皮質におけるアップレギュレーションの場合は、逆数値を計算した。棒グラフは、異なるブラーク病期(0から6)における側頭皮質の前頭皮質に対する自然対数値ln(IT/IF)、および側頭皮質調節因子に対する前頭皮質の自然体数値ln(IF/IT)を視覚化する。
【図9】図9は、DAX−1遺伝子について、内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P019(0.14から13.61倍)で特定されるアルツハイマー病患者6名、および内部参照番号C004、C005、C008(0.08から2.23倍)で特定される対応する年齢の対照者3名における、海馬における前頭皮質と相対的な遺伝子発現レベルを列記する。表示の数値は本明細書に記載の式(下記参照)に従って計算される。散布図は、それぞれ対照試料(点)における、およびAD患者試料(三角)における、前頭皮質に対する海馬の調節比の個々の対数値(log(比HC/IF))を視覚化する。
【図10】図10は、ウサギポリクローナル抗DAX−1抗体で標識される(K−17、サンタクルーズ(Santa Cruz))ヒト脳抽出物を示す。 M:分子量マーカー(サンタクルーズマーカー(Santa Cruz Marker);レーン1および2:2つの異なる組織ドナー由来のヒト脳(大脳皮質)全タンパク質抽出物試料。矢印は約52kDaでの主バンドを示し、これは完全長DAX−1タンパク質の予測分子量に対応する。
【図11】図11は、ウサギポリクローナル抗DAX−1抗血清で免疫標識した、対照ドナー(対照T、C030、C027、図11A、C)およびアルツハイマー患者(患者T、P011、P016、図11B、D)由来の下側頭脳回の切片をデジタル撮像した例示的な顕微鏡写真である(グリーンシグナル)(倍率40倍)。DAX−1の免疫活性がすべての神経細胞にみとめられた。これは特に核において顕著に検出される。神経細胞(神経核および体細胞)を神経特異的マーカーNeuN(レッドシグナル)で染色する。核はDAPI(ブルーシグナル)で染色している。弱いDAX−1免疫活性が星状細胞にみとめられるが、これは小グリア細胞、オリゴデンドロサイト細胞、ミエリンには概ね存在しない。ここに例示的に示されているデータは、DAX−1タンパク質の神経細胞の免疫活性の強度および量のレベルは、対照のヒト(図1Aおよび11C)由来の下側頭皮質と比較して、患者由来の下側頭皮質のほうが低い(図11Bおよび11D)ことを明らかに示している。DAX−1発現は、分析したすべての試料のAD脳中の神経細胞において低下している。対照試料(図11A、C、矢印)の神経細胞において検出される神経細胞DAX−1免疫活性は、試験したAD患者の試料のいずれからも検出できない(図11B、D)。さらに、対照由来の切片と比較して、患者由来の側頭部試料において星状細胞のDAX−1免疫活性は増加している(白質、図11B、Dにおいてより明瞭にみとめられる)。DAX−1タンパク質の定量的および定性的星状細胞の発現は、アルツハイマー病の進行を反映している(ADのブラーク病期の進行に伴い、より高く強力なホモジニアスな核および細胞質の染色がみとめられた)。大脳皮質(CT);白質(WM)。
【図12】図12は、H4APPsw対照細胞およびmyc−タグ化DAX−1タンパク質を安定に過剰発現するH4APPsw細胞(H4APPsw−DAX−1−myc)の免疫蛍光分析を示す。DAX−1タンパク質は、ウサギ抗myc抗体(モビテック(Mobitec))およびCy3結合抗ウサギ抗体(アマシャム(Amersham))を用いて検出した(図12AおよびB)。細胞核はDAPIで染色した(図12CおよびD)。オーバーレイ分析は、DAX−1−mycタンパク質は核に局在し(図12E)、およびH4APPsw対照細胞と比較してH4APPsw−DAX−1−myc形質導入細胞の50%より多くで過剰発現されることを示す(図12F)。
【図13】図13は、DAX−1−mycタンパク質の過剰発現が、H4−APPsw細胞をH4APPsw対照細胞よりも、栄養因子欠乏に高耐性にすることを示す。両方の細胞型は、0から7.5%の範囲の血清濃度を含む細胞培地中で40時間インキュベートされている。栄養因子欠乏への細胞応答は、酸化還元指示薬アラーマーブルー(AlamarBlue)(バイオソース((BioSource))を用いおよび相対蛍光(RFU)を測定することによって判定した。%毒性は下記に示す式に従って計算した(実施例(vii))。グラフは、1回の代表的な実験から得られた毒性計算を表す。
【図14】図14は、gmr−GAL4の調節下における2つの異なるDAX−1遺伝子導入ハエ系統におけるウェスタンブロッティングによるDAX−1発現の検出を示す。使用した遺伝子型は:w1118;w;UAS−DAX−1#1/+;gmr−GAL4/+;w;UAS−DAX−1#18/gmr−GAL4であった。ブロットは、sc841抗体(サンタクルーズ(Santa Cruz);抗−DAX1抗体;1:200;ウサギポリクローナル)およびE7(抗−ベータ−チューブリン;Developmental Studies Hybridoma Bank;1:1000;マウスモノクローナル)でプローブした。DAX−1タンパク質は、非遺伝子導入対照ハエにもみとめられる強い交叉反応バンド(赤いアスタリスク)の下方に位置するかすかな列(bank)として検出可能である。ベータチューブリンのシグナルは負荷対照としての役割を果たす。
【図15】図15は、gmr−GAL4の調節下におけるDAX−1の発現を示す。10μmのクリオスタットの成体脳切片は、羽化から1日後および8日後に光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。成体網膜におけるDAX−1の発現は、光受容体細胞の整合性(integrity)とは干渉せず、病理学的な表現型はみとめられなかった。使用した遺伝子型は:w1118;w;UAS−DAX−1#1/+;gmr−GAL4/+−w;UAS−DAX−1#18/gmr−GAL4−w;UAS−DAX−1#28/+;gmr−GAL4/+。Re:網膜;La:薄層;Me:骨髄。
【図16】図16は、hAPP/hBACEをまたはDAX−1#1と組み合わせてhAPP/hBACEを発現している、対応する日齢である16日齢のプラスチック切片の「トルイジンブルー」染色を示す(図16A)。光受容体細胞の感桿分体は各個眼において青点として現れる(赤い矢の根)。図16BおよびCは、hAPP/hBACEを発現している、およびDAX−1#1(図16B、羽化後10から12日)またはDAX−1#28(図16C、羽化後4日)発現している対照ハエの成体網膜の10μmクリオスタット切片を示す。切片は光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。図示するように、光受容体細胞変性は、網膜の直径から判断すると、DAX−1の同時発現によって有意に遅延する(白矢印で示す)。
【図17】図17は、hAPP/hBACE/DPsnL235Pを(図17A)または、DAX−1#1と組み合わせてhAPP/hBACE/DPsnL235Pmを(図17B)発現しているハエの網膜を介したパラフィン切片上の、チオフラビンS陽性斑を示す。35日齢の対照ハエでは斑沈着の開始がみとめられるが、一方DAX−1#1を同時発現するハエでは斑沈着の開始は10日間遅れることがみとめられる。使用した遺伝子型:w;UAS−hBACE,UAS−hAPP/+;gmr−GAL4,UAS−DPsnL235P/+およびw;UAS−hBACE,UAS−hAPP/UAS−DAX−1#1;gmr−GAL4,UAS−Dpsnl235P/+。多くの場合、切片化手順によって斑が移動するため、星印は切片化前にみとめられたアミロイド斑の位置を示す。
【図18】図18は、羽化から2日後および11日後それぞれの、btauを発現している対照ハエおよびDAX−1#1と組み合わせて発現するハエの成体網膜の10μmクリオスタット切片を示す。切片は、光受容体細胞特異的抗体24B10で染色した。DAX−1の同時発現は、網膜(白矢印)の直径によって判断すると、tauによって誘導される光受容体細胞変性を救済する(11日齢のハエに示す)。使用した遺伝子型は:w;gmr−GAL4/UAS−bTAUおよびw;UAS−DAX1#1/+;gmr−GAL4/UAS−bTAU。Re:網膜;La:薄層;Me:骨髄。
【図19】図19は、ヒトDAX−1を発現する遺伝子導入マウスを作製するために用いられたターゲッティング戦略を模式的に示す。ターゲッティングベクターは、導入遺伝子をRosa26遺伝子座(マウスRosaベータgeo26遺伝子)へ組み込むために、導入遺伝子およびRosa26ホモロジー配列から成る。短ホモロジーアーム配列(SA)は約1.1kbから成り、長ホモロジーアーム配列(LA)は約4.3kbから成る。Rosa26遺伝子の3個のエクソンをローマ数字(I〜III)で示す。導入遺伝子は、脳特異的Thy1.2遺伝子の調節配列を含むマウスThy1.2発現カセットに位置するヒトDAX−1(ORFDAX−1)(配列番号3および/または配列番号2の断片)のオープン・リーディング・フレームから成る。導入遺伝子の5'端にネオマイシン耐性遺伝子(Neo;ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ)およびスプライス受容体が位置し、内因性Rosa26遺伝子由来のRosaプロモーターによって動作するNeo選択マーカーの発現を可能にする。Neoマーカーの3'端のポリAシグナル(pA)が転写の停止を保証する。
【図20】図20は、ターゲットされたES細胞クローンのサザンブロット分析を示す。6個の異なるES細胞クローン由来のゲノムDNAは、Bg1Iで消化(digest)し、サザンブロット分析に供した。Bg1I制限部位の位置ならびにプローブの結合部位(Rosa26遺伝子のエクソンIIを用いた配列ハイブリダイゼーション)が、マウス野生型アレル(WT)およびDAX−1ターゲットされた相同組み換え型アレル(HR)(図20A)の概略線で示す。Rosa26遺伝子の3個のエクソンを、ローマ数字(I〜III)で示す。図20B中のサザンブロットは5個のターゲットされたES細胞クローン(数字A10、B2、B10、C6、C9で示す)および対照としての野生型アレル(WT)を示す。5個のターゲットされたES細胞クローンはすべて相同組み換え型アレル(HR)を有し、野生型アレル(WT)を表す6.7kbの各バンドに加えて、該相同組み換え型アレルは、10.1kbにおけるバンドの存在によって特定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する、
前記被験者由来の試料中の
(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体、
のレベルおよび/または活性を測定し、および前記レベルおよび/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記の段階によって、被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断する、または被験者のそのような疾患を発症する傾向または素因を判定するためのキットであって、
(i)前記被験者に由来する試料中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出、および(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の前記レベルまたは活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値とおよび/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記転写産物および/または前記翻訳産物の前記レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、既知の健康状態を表す参照値と比較して変化し、および/または既知の疾患状態を表す参照値と同様または等しい、
a)(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬および(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも一つの試薬
を含む前記キット。
【請求項4】
DAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体をコードする非天然遺伝子配列を含む、遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項5】
非ヒト動物が、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウス、ラットまたはモルモット、または非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)といったハエである、請求項4に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項6】
前記遺伝子操作の発現が、神経変性疾患に類似した神経病理の症状、特にADに類似した症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す前記非ヒト動物を結果として生じる、請求項4および5に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項7】
前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた作用のために、前記遺伝子操作の発現が、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示すおよび/またはADの症状を有しない前記非ヒト動物を結果として生じる、請求項4および5に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項8】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するための、請求項4から7に記載の遺伝子操作非ヒト動物の使用。
【請求項9】
(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された少なくとも一種類の物質の活性および/またはレベルの調節因子。
【請求項10】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病、または関連する疾患または障害の調節因子についての、
(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された一種類以上の物質のスクリーニングのための測定法であって、
(a)細胞を被験化合物と接触させること;
(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;
(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の、(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;および
(d)段階(b)および(c)の細胞中の物質のレベルおよび/または活性を比較する(但し、接触させた細胞中の物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患または障害の調節因子であることを示す)こと
を含む前記方法。
【請求項11】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病、または関連する疾患または障害の調節因子についての、
(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された一種類以上の物質のスクリーニングのための測定法であって、
(a)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質に関して、神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している被験動物に、被験化合物を投与すること;
(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;
(c)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質に関して、およびそのような被験化合物が投与されていない、神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している対応する対照動物において、(i)または(iv)で列挙された一種類以上の物質の活性および/またはレベルを測定すること;
(d)段階(b)および(c)の動物における物質の活性および/またはレベルを比較する(但し、被験動物における物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患または障害の調節因子であることを示す)こと
を含む前記方法。
【請求項12】
前記被験動物および/または前記対照動物が、天然のDAX−1遺伝子転写調節配列ではない転写調節配列の調節下にある、DAX−1をコードする遺伝子、またはその断片、または誘導体、または変異体を発現する遺伝子操作非ヒト動物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化合物の試験のための、好ましくは複数の化合物のスクリーニングのための、DAX−1翻訳産物またはその断片、または誘導体、または変異体への前記化合物の結合の程度を決定するための分析法であって、
(i)前記DAX−1翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加えること;
(ii)前記結合についてスクリーニングされる検出可能な、特に蛍光標識される化合物、または蛍光標識される複数の化合物を前記複数の容器に加えること;
(iii)前記DAX−1翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記検出可能な、特に蛍光標識される化合物または蛍光標識される複数の化合物をインキュベートすること;
(iv)前記DAX−1翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、またはその変異体と相関する(associated with)好ましくは蛍光量を測定すること;
(v)一種類以上の前記化合物による前記DAX−1翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の程度を判定すること
を含む分析法。
【請求項14】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としての、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である、配列番号1のタンパク質分子の使用。
【請求項15】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防する、または治療する、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての使用のための、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である、配列番号1のタンパク質分子の使用。
【請求項16】
被験者由来の試料中の細胞の病理状態を検出するための、免疫原と特異的に免疫反応性である抗体の使用であって、免疫原がDAX−1、配列番号1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体であり、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含む(但し、既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化が、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病と関係する前記細胞の病理状態を示す)前記使用。
【請求項1】
被験者において神経変性疾患を診断または予測診断する、または被験者が前記疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定する、
前記被験者由来の試料中の
(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iii)前記転写または翻訳産物の断片、または誘導体、または変異体、
のレベルおよび/または活性を測定し、および前記レベルおよび/または前記活性を、既知の疾患または健康状態を表す参照値と比較し、それによって前記被験者において前記神経変性疾患を診断または予測診断すること、または前記被験者が前記神経変性疾患を発症する高いリスクがあるかどうかを判定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下記の段階によって、被験者において神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断または予測診断する、または被験者のそのような疾患を発症する傾向または素因を判定するためのキットであって、
(i)前記被験者に由来する試料中の、DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の、レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を検出、および(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の前記レベルまたは活性、または前記レベルおよび前記活性の両方を、既知の健康状態を表す参照値とおよび/または既知の疾患状態を表す参照値と比較し、および前記転写産物および/または前記翻訳産物の前記レベル、または活性、または前記レベルおよび前記活性の両方が、既知の健康状態を表す参照値と比較して変化し、および/または既知の疾患状態を表す参照値と同様または等しい、
a)(i)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬および(ii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、から成る群から選択された少なくとも一つの試薬
を含む前記キット。
【請求項4】
DAX−1またはその断片、または誘導体、または変異体をコードする非天然遺伝子配列を含む、遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項5】
非ヒト動物が、哺乳類、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウス、ラットまたはモルモット、または非脊椎動物、好ましくは昆虫、より好ましくはショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)といったハエである、請求項4に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項6】
前記遺伝子操作の発現が、神経変性疾患に類似した神経病理の症状、特にADに類似した症状を発症する素因を示すおよび/または症状を示す前記非ヒト動物を結果として生じる、請求項4および5に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項7】
前記非ヒト動物を遺伝子操作するのに用いられた遺伝子の発現によって引き起こされた作用のために、前記遺伝子操作の発現が、神経変性疾患に類似した症状を発症するリスクが低い、特にADに類似した症状を発症するリスクが低い、および/またはAD症状の低減を示すおよび/またはADの症状を有しない前記非ヒト動物を結果として生じる、請求項4および5に記載の遺伝子操作非ヒト動物。
【請求項8】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬および治療薬の開発において、化合物、物質、および調節因子を、スクリーニング、試験、および評価するための、請求項4から7に記載の遺伝子操作非ヒト動物の使用。
【請求項9】
(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された少なくとも一種類の物質の活性および/またはレベルの調節因子。
【請求項10】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病、または関連する疾患または障害の調節因子についての、
(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された一種類以上の物質のスクリーニングのための測定法であって、
(a)細胞を被験化合物と接触させること;
(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;
(c)前記被験化合物と接触させていない対照細胞中の、(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;および
(d)段階(b)および(c)の細胞中の物質のレベルおよび/または活性を比較する(但し、接触させた細胞中の物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患または障害の調節因子であることを示す)こと
を含む前記方法。
【請求項11】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病、または関連する疾患または障害の調節因子についての、
(i)DAX−1をコードする遺伝子、および/または
(ii)DAX−1をコードする遺伝子の転写産物、および/または
(iii)DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、および/または
(iv)(i)から(iii)の断片、または誘導体、または変異体
から成る群から選択された一種類以上の物質のスクリーニングのための測定法であって、
(a)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質に関して、神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している被験動物に、被験化合物を投与すること;
(b)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質の、活性および/またはレベルを測定すること;
(c)(i)から(iv)で列挙された一種類以上の物質に関して、およびそのような被験化合物が投与されていない、神経変性疾患または関連する疾患または障害の症状を発症する素因があるかまたは既に発症している対応する対照動物において、(i)または(iv)で列挙された一種類以上の物質の活性および/またはレベルを測定すること;
(d)段階(b)および(c)の動物における物質の活性および/またはレベルを比較する(但し、被験動物における物質の活性および/またはレベルの変化は被験化合物が前記疾患または障害の調節因子であることを示す)こと
を含む前記方法。
【請求項12】
前記被験動物および/または前記対照動物が、天然のDAX−1遺伝子転写調節配列ではない転写調節配列の調節下にある、DAX−1をコードする遺伝子、またはその断片、または誘導体、または変異体を発現する遺伝子操作非ヒト動物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
化合物の試験のための、好ましくは複数の化合物のスクリーニングのための、DAX−1翻訳産物またはその断片、または誘導体、または変異体への前記化合物の結合の程度を決定するための分析法であって、
(i)前記DAX−1翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体の懸濁液を複数の容器に加えること;
(ii)前記結合についてスクリーニングされる検出可能な、特に蛍光標識される化合物、または蛍光標識される複数の化合物を前記複数の容器に加えること;
(iii)前記DAX−1翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体、および前記検出可能な、特に蛍光標識される化合物または蛍光標識される複数の化合物をインキュベートすること;
(iv)前記DAX−1翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、またはその変異体と相関する(associated with)好ましくは蛍光量を測定すること;
(v)一種類以上の前記化合物による前記DAX−1翻訳産物、またはその前記断片、または誘導体、または変異体への結合の程度を判定すること
を含む分析法。
【請求項14】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断標的としての、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である、配列番号1のタンパク質分子の使用。
【請求項15】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防する、または治療する、または改善する試薬または化合物についてのスクリーニング標的としての使用のための、DAX−1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体である、配列番号1のタンパク質分子の使用。
【請求項16】
被験者由来の試料中の細胞の病理状態を検出するための、免疫原と特異的に免疫反応性である抗体の使用であって、免疫原がDAX−1、配列番号1をコードする遺伝子の翻訳産物、またはその断片、または誘導体、または変異体であり、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学染色を含む(但し、既知の健康状態を表す細胞と比較した前記細胞における染色の程度の変化、または染色パターンの変化が、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病と関係する前記細胞の病理状態を示す)前記使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2007−514406(P2007−514406A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537298(P2006−537298)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052684
【国際公開番号】WO2005/071418
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(504087411)エヴォテック ニューロサイエンシス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052684
【国際公開番号】WO2005/071418
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(504087411)エヴォテック ニューロサイエンシス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【Fターム(参考)】
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