ヒトTNF−αに対する抗体酵素およびその利用
【課題】リウマチや慢性閉塞性肺炎疾患のようなサイトカインの産生異常により発症する疾患を予防または治療する目的で用いることが可能な抗体酵素を提供することにある。
【解決手段】ヒトTNF−αを抗原として作製された抗体またはその断片は、TNF−αを認識するとともに、当該TNF−αを切断および/または分解することができる抗体酵素である。
【解決手段】ヒトTNF−αを抗原として作製された抗体またはその断片は、TNF−αを認識するとともに、当該TNF−αを切断および/または分解することができる抗体酵素である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体酵素およびその利用に関するものであって、特に、リウマチや慢性閉塞性肺炎疾患のようなサイトカインの産生異常により発症する疾患を予防または治療する目的で用いることが可能な抗体酵素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、自己成分が異物として認識されることにより、自己抗体が産生されたり、自己反応性リンパ球が出現したりする状態(自己免疫と呼ばれる)によって引き起こされる病態である。具体的には、通常、免疫系は体の中に侵入した細菌やウイルスを排除して体を防御するように働くが、自己に対して過剰な免疫応答を起こさない。つまり、自己成分は免疫寛容を獲得しているのである。しかし、自己免疫疾患では、免疫寛容に何らかの異常が生じているため、上記のような病態が引き起こされる。
【0003】
自己免疫疾患の代表的な疾患としては、例えば、慢性関節リウマチ、橋本病、全身性エリマトーデスなどを挙げることができる。
【0004】
上記自己免疫疾患のうち、慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis;以下、「RA」ともいう)は、多発性関節炎を主徴とする原因不明の慢性炎症性疾患である。日本全国でRA患者は70万人とも100万人ともいわれ、その数は高齢化に伴い年々増加する傾向がある。また、女性の患者が圧倒的に多く、RA患者の8割が女性といわれているが、その原因は分かっていない。
【0005】
RAの病因には、遺伝、免疫異常、内分泌、環境要因などが複雑に関与していると推測されている。しかし、はっきりとした病因は判明していない。病変の主座は関節滑膜であるが、進行すれば軟骨・骨を侵し、関節組織の破壊や変形へと至る。多くの関節が腫れ、そして痛みを伴い、歩くことをはじめ、日常生活動作が徐々に障害される難病である。関節以外に皮膚、肺、腎などの全身症状も伴うことも少なくない。病理組織学的には、リンパ球やマクロファージの炎症性細胞の浸潤、滑膜細胞の増殖などが起こるといわれている。
【0006】
RAの関節液あるいは滑膜細胞を用いた研究において、RAの病態には炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのアンバランスが原因であることが明らかにされている。さらに、その中心的役割をしているサイトカインは、腫瘍壊死因子(tumour necrosis factor;以下、「TNF」ともいう)のTNF−αであるといわれている。具体的には、RA患者の関節液では、TNF−αの濃度上昇が見られる。濃度が上昇したTNF−αは、(a)血管内皮細胞の接着分子の発現を誘導することにより、リンパ球などの白血球が炎症部位に浸潤するのを促進し、(b)滑膜細胞に作用して、様々な炎症性サイトカインを産生させ、(c)破骨細胞の分化・活性化を促進させることにより、関節破壊を誘発し、(d)線維芽細胞を活性化し、線維芽細胞を増殖させるといった作用を示すことにより、関節破壊、炎症の持続・慢性化を起こすと考えられている。
【0007】
RAの治療は、通常、RA病態の病状の進行度によって選択すべき治療手段が異なる。一般的に確定診断を下すことが困難なRA初期では、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を投与し、経過を慎重に観察しながら膠原病を含む他の自己免疫疾患との鑑別を同時に行う。RAがさらに進行し、RAとの確定診断が下されると、NSAIDに加えて疾患修飾性リウマチ薬(DMARD)を投与する。さらに、疼痛のための薬物療法と共に関節機能の維持・回復に対して理学療法・装具療法を行う。また、関節破壊により日常生活が不自由になった場合には、手術療法を行う場合もある。
【特許文献1】特表2003−535591号公報(平成15(2003)年12月2日公表)
【特許文献2】特表2005−522457号公報(平成17(2005)年7月28日公表)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特定疾患に指定されている疾患が多く存在することからも分かるように、自己免疫疾患は、一般的に根治することが困難な疾患である。そのため、自己免疫疾患の診断や治療および予防に関する研究はされているが、未だ十分とはいえないのが現状である。
【0009】
ところで、近年、上述したように自己免疫疾患ではT細胞、B細胞、マクロファージなどから様々なサイトカインが産生されていることが分かってきた。そのため、サイトカインを標的に自己免疫疾患の治療を行うことに注目が集まっており、抗サイトカイン療法の臨床応用が既に始まっている。例えば、サイトカインと特異的に結合し、その機能を阻害するモノクローナル抗体や、サイトカインの働きを阻害する可溶性受容体や拮抗物(アンタゴニスト)の利用が検討されている。より具体的には、特許文献1には、ヒトTNF−αに対して特異性を有する抗体分子を、TNF−αによって媒介される慢性関節リウマチまたは骨関節炎を治療するための医薬の製造に用いることが開示されている。
【0010】
また、サイトカインの産生異常との関連が知られている疾患は、自己免疫疾患だけではなく、例えば、慢性閉塞性肺炎疾患(以下、「COPD」ともいう)についても、サイトカインの産生異常と疾患との関連性が知られている。より具体的には、特許文献2には、プロ炎症性サイトカインまたは炎症性サイトカインカスケードにより引き起こされる炎症を低減する方法として、脊椎動物の脳ムスカリン性レセプターを活性化させることを含む、炎症性サイトカインカスケードにより媒介される慢性閉塞性肺疾患の危険性にあるか、または該疾患を有する脊椎動物においてTNFの放出を阻害する方法が開示されている。
【0011】
このように、サイトカインは、様々な疾患の病態に関与しており、現在、サイトカインを標的分子とした疾患の治療や予防に関する技術の開発が求められている。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、リウマチやCOPDのようなサイトカインの産生異常により発症する疾患を予防または治療する目的で用いることが可能な抗体酵素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、RAやCOPDの病態との関連性が知られているTNF−αに対する抗体酵素を製造可能であることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。
【0014】
(1)ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であり、かつ、上記TNF−αを分解することを特徴とする抗体酵素。
【0015】
(2)上記抗体酵素は、触媒三つ組残基構造を有することを特徴とする(1)に記載の抗体酵素。
【0016】
(3)上記抗体酵素は、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなることを特徴とする(1)または(2)に記載の抗体酵素。
【0017】
(4)上記軽鎖可変領域は、以下の(a)または(b)に記載のポリペプチドからなり、上記重鎖可変領域は、以下の(c)または(d)に記載のポリペプチドからなることを特徴とする(3)に記載の抗体酵素。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【0018】
(5)上記軽鎖可変領域は、配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなり、上記重鎖可変領域は、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなることを特徴とする(3)に記載の抗体酵素。
【0019】
(6)以下の(e)または(f)に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
(e)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(f)配列番号1または2のアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【0020】
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載の抗体酵素を含み、生体内におけるTNF−α量の増加を抑制することを特徴とする薬学的組成物。
【0021】
(8)(6)に記載のポリヌクレオチドを導入してなることを特徴とする形質転換体。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる抗体酵素は、以上のように、ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であり、かつ、当該TNF−αを分解するという構成を備えている。それゆえ、生体に投与した際、生体内のTNF−αを効率よく分解することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について以下により具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0024】
<1.TNF−α>
本発明にかかる抗体酵素は、後述するようにヒトTNF−αを抗原として得られる抗体である。そこで、まず、本発明の抗体酵素の抗原であるTNF−αについて以下詳細に述べることとする。
【0025】
TNF−αは19世紀末にWilliam Coleyによって発見されたサイトカインである。Coleyは細菌感染後に何人かの癌患者の腫瘍が退縮または消失していることを発見した。そこで細菌を投与し、癌の治療を試みたが一貫した結果が得られず、医学的治療とはなり得なかった。腫瘍を消失させる活性成分は、その後、LPS(エンドトキシン)と呼ばれる複雑な生体分子であることが示された。LPS自身には抗腫瘍活性を持っていない。LPSを投与された動物の血清には癌細胞に対して毒性を示す因子が含まれることが明らかにされた。LPSに対する反応の結果、特異的な細胞から産生されるこの因子がTNF(腫瘍壊死因子)である。
【0026】
腫瘍壊死因子はインターフェロン、インターロイキンとは異なるサイトカイン・ファミリーの調節タンパクである。TNF−αとTNF−βとの2種類のTNFが知られている。両方とも同じ受容体に結合し同様の広い生物的反応を誘導するが、両者の相同性は、30%以下と低い。特に腫瘍壊死因子としてのTNFは、より正確にはTNF−αを指す。TNF−αはカケクチン(cachectin)としても知られている。
【0027】
TNF−αの主な生物学的活性としては、食細胞の活性化、直接的または関節的な炎症の促進、形質転換細胞に対する細胞障害、IL−1、IL−6、IL−8、コロニー刺激因子などのサイトカイン合成および産生の誘導が挙げられる。また、全身的に高濃度なTNF−αは、敗血症ショックや、自己免疫疾患を誘導する。
【0028】
また、生物学的に活性なヒトTNF−αは、3つの同じポリペプチド・サブユニットが3回転軸対称で強く結合したホモトリマー(ホモ3量体)である。モノマーは生物学的に不活性であり、17.3kDaの分子量をもつ。なお、TNF−αの特性については、下記の表1にまとめている。
【0029】
【表1】
【0030】
上記ヒトTNF−αとしては、具体的には、NCBIアクセション番号CAA26669や、NP_000585に登録されているアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモ3量体を挙げることができる。
【0031】
本発明において用いるヒトTNF−αを取得する方法は特に限定されるものではないが、例えば、市販品を購入することにより取得することができる。また、従来公知の遺伝子組み換え技術等を用いて製造して用いてもよい。例えば、上記例示したアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子をベクター等に組み込んだ後、発現可能に適当な宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたポリペプチドを精製する等の方法により製造することができる。さらに、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成したり、無細胞系のタンパク質合成液を利用して合成したりすることもできる。
【0032】
さらに、本発明においては、上記例示したTNF−αのアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上述したようなヒトTNF−αの生理活性を有するポリペプチド、換言すれば、変異ヒトTNF−αをヒトTNF−αとして用いることもできる。
【0033】
このような変異ヒトTNF−αの取得方法も特に限定されるものではなく、例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, Gene 152,271-275(1995)他)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し、変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いて製造することにより、取得することができる。
【0034】
また、本発明においては、上述したヒトTNF−αや変異ヒトTNF−αに加えて、それらのペプチド断片を抗原として用いてもよい。このようなペプチド断片を得る方法も特に限定されるものではない。例えば、上述しような方法で取得したヒトTNF−αや変異ヒトTNF−αを適当なプロテアーゼを用いて目的とするペプチド断片が得られるように切断すればよい。また、予め設計したペプチド断片をコードする遺伝子を上述したように従来公知の方法で発現させることにより製造してもよい。また、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成したり、無細胞系のタンパク質合成液を利用して合成したりすることもできる。
【0035】
以上のようなヒトTNF−αやそのペプチド断片を抗原として用いることにより、後述する本発明にかかる抗体酵素を製造することができる。
【0036】
<2.本発明にかかる抗体酵素>
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であって、かつ、当該TNF−αを分解する活性を有する抗体酵素であればよい。
【0037】
本明細書において、「抗体酵素」とは、抗体でありながら酵素作用を有するものであり、その中でも特に、その抗原タンパク質を標的として高い分解活性を示すものは「スーパー抗体酵素」と呼ばれる。上記「スーパー抗体酵素」は、標的としたタンパク質を完全分解することができ、しかも天然型酵素に近い活性を有する(Super Catalytic Antibody [I] : Decomposition of targeted protein by its antibody light chain. Hifumi, E., Okamoto, Y., Uda, T., J. Biosci. Bioeng., 88(3), 323-327 (1999)を参照)。つまり、本発明にかかる抗体酵素は、TNF−αを抗原とする抗体であり、当該TNF−αを完全分解するため、「スーパー抗体酵素」に含まれるものである。また、本明細書における「抗体酵素」には、抗体の断片であって、当該抗体の抗原を認識し、当該抗原を分解する活性を有するものも含まれる。
【0038】
また、本明細書において、「抗体の断片」とは、抗体を構成する各ペプチド鎖、例えば、軽鎖(以下、「L鎖」ともいう)や重鎖(以下、「H鎖」ともいう)を意味する。さらに、「抗体の断片」には、上記各ペプチド鎖内の一部の領域のペプチド断片、例えば、軽鎖可変領域や重鎖可変領域、およびそれら可変領域を含むペプチド断片も含まれる。
【0039】
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトTNF−αに対するポリクロナール抗体であってもよいが、ヒトTNF−αに対するに対するモノクローナル抗体であることがより好ましい。これにより、当該TNF−αに対する特異性の高い抗体酵素を得ることができる。
【0040】
また、本発明にかかる抗体酵素が認識するTNF−αは、ヒトTNF−αに限定されるものではなく、ヒトTNF−αに加えて、その他のあらゆる生物由来のTNF−αを認識してもよい。
【0041】
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であると同時に、当該TNF−αを分解する活性を有する。すなわち、本発明にかかる抗体酵素はTNF−αを特異的に認識する抗体としての性質と、認識したTNF−αを切断および/または分解する酵素としての性質を併せ持つ。それゆえ、TNF−αの分解活性を有さない抗体では、抗体1分子に対して、1分子または2分子のTNF−αが結合するだけであるが、本発明の抗体酵素では、抗体酵素1分子に対して、TNF−αが次から次に結合しては分解されるという反応を繰り返す。したがって、本発明にかかる抗体酵素のTNF−αを分解する能力は、TNF−αの分解活性を有さない抗体のそれの数百倍あるいは数千倍に達する。
【0042】
このように、TNF−αに対する高い分解活性を有する本発明の抗体酵素を生体に投与することにより、TNF−αが過剰に産生された場合であっても、TNF−αの過剰な蓄積を抑制することができ、RAやCOPDのようなTNF−αの過剰産生が発症の原因となる疾患の予防や治療に寄与することが期待できる。すなわち、本発明には、本発明にかかる抗体酵素を含み、生体内におけるTNF−α量の増加を抑制することができる薬学的組成物も含まれる。
【0043】
また、本発明にかかる抗体酵素は、抗体であると同時に酵素であるため、酵素センサの構築が可能である。このように、本発明にかかる抗体酵素は、抗原の分解活性を有さない通常の抗体よりも応用範囲が広い。なお、本発明にかかる抗体酵素の酵素活性は、ヒトTNF−α以外に、他の生物由来のTNF−αをも切断および/または分解するものであってもよい。
【0044】
本発明にかかる抗体酵素は触媒三つ組残基構造を有することが好ましい。なお、「触媒三つ組残基構造」とは、少なくともセリンを含む3つのアミノ酸残基が活性部位に含まれ活性中心を形成していると推定される構造のことをいう。この触媒三つ組残基構造を有するプロテアーゼは、活性部位にセリンが含まれることからセリンプロテアーゼと呼ばれる。したがって、本発明にかかる抗体酵素はセリンプロテアーゼの一種であるということもできる。この触媒三つ組残基と推定される構造を有していれば、プロテアーゼとして高い活性を有していると予測できる。発明者らは、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有するマウス由来抗体酵素を用いて、その性質や構造の特徴を詳細に解析した結果、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有する抗体酵素は、いずれもその立体構造中に、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とが立体構造上近接して存在することを明らかにした(例えば特開2004−97211号公報(平成16年4月2日公開)参照)。ここで、「立体構造上近接して存在する」とは、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とのCα間の距離が、少なくとも3〜20Åの範囲内、好ましくは、3〜10Åの範囲内にあることを意味する。
【0045】
本発明にかかる抗体酵素が、上記「触媒三つ組残基構造」を有するか否かを調べる方法は、特に限定されるものではない。例えば、X線回折による立体構造決定法のように、実際に当該抗体酵素の立体構造を決定する方法を用いて、「触媒三つ組残基構造」の有無を調べることができる。また、当該抗体酵素の一次構造、すなわち当該抗体酵素のアミノ酸配列をもとに、タンパク質の立体構造予測ソフトウェアを用いて、当該抗体酵素の立体構造を予測することによって、「触媒三つ組残基構造」の有無を調べることもできる。
【0046】
上記抗体酵素は、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなることが好ましい。この「可変領域」とは、抗体を構成するH鎖およびL鎖のうち、N末端から約110残基のアミノ酸からなる部分のことである。この可変領域は、抗体の種類によって一次構造に多様性が見られ、抗体が酵素としての活性を有する場合にその活性中心が含まれている可能性が高い。それゆえ、本発明にかかる抗体酵素が抗体の可変領域を含めば、酵素として高い活性を有していると予測できる。
【0047】
本発明において、上記軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、ヒトTNF−αに対する抗体の軽鎖および重鎖の可変領域であればよく、特に限定されるものではない。上記軽鎖可変領域を構成するポリペプチドとしては、例えば、(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、および(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0048】
また、上記重鎖可変領域を構成するポリペプチドとしては、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、および(d)配列番号2のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0049】
なお、本明細書において、「1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されることを意味する。このように、上記(b)および(d)のポリペプチドは、それぞれ、上記(a)および(c)のポリペプチドの変異体であるといえる。なお、ここでいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、自然発生的に生じた変異であってもよい。
【0050】
上述したように、本発明にかかる抗体酵素は、その一実施形態として、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなるものである。したがって、本発明にかかる抗体酵素の具体例としては、上記例示したポリペプチドを挙げることができる。なお、配列番号1に示すアミノ酸配列は、後述する実施例において製造した抗体酵素であるETNF−6抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号2に示すアミノ酸配列は、当該抗体酵素であるETNF−6抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。図13にETNF−6抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を、図11にETNF−6抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。図13に示すように、ETNF−6抗体の軽鎖可変領域は、下線を付して示す3つの相補性決定領域(complementarity determing region、以下「CDR」ともいう)、具体的にはCDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち、ETNF−6抗体の軽鎖可変領域は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の24番目から38番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1に示されるアミノ酸配列の54番目から60番目のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号1に示されるアミノ酸配列の93番目から101番目のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。
【0051】
また、図11に示すように、ETNF−6抗体の重鎖可変領域もまた、下線を付して示すCDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち、ETNF−6抗体の重鎖可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の31番目から35番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列の50番目から66番目のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号2に示されるアミノ酸配列の99番目から108番目のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。
【0052】
また、本発明にかかる抗体酵素には、ヒトTNF−αに対する抗体の断片であって、上記抗体の可変領域を含み、かつ、TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有する抗体の断片が含まれる。上記可変領域は、重鎖可変領域であっても、軽鎖可変領域であってもよい。また、上記重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、かかる可変領域をヒトその他の動物の抗体に移植してキメラ抗体を作製するために好適に用いることができる。
【0053】
本発明において用いることが可能な抗体の断片としては、例えば、上述の(a)〜(d)のいずれかのポリペプチドや、これらのポリペプチドのアミノ酸配列を含む抗体の断片を挙げることができる。
【0054】
また、本発明には、上記抗体酵素をコードする遺伝子も含まれる。本発明にかかる遺伝子としては、具体的には、例えば、配列番号3または4に示される塩基配列からなる遺伝子、またはこれらを含む遺伝子を挙げることができる。配列番号3に示される塩基配列は、後述する実施例において製造した抗体酵素であるETNF−6抗体の軽鎖可変領域をコードする遺伝子であり、配列番号4に示される塩基配列は、上記ETNF−6抗体の重鎖可変領域をコードする遺伝子である。
【0055】
本発明にかかる遺伝子を適当な宿主に発現可能に導入することにより、本発明の抗体酵素を宿主内で発現させることができる。また、本発明の抗体酵素の可変領域、またはそのCDRを組み込んだ可変領域は、そのまま発現させてもよいが、定常領域をコードする遺伝子と連結してキメラ抗体酵素として発現させることもできる。
【0056】
なお、本明細書において「遺伝子」との用語は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用される。「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)を包含する。さらに、上記「遺伝子」は、本発明の抗体酵素をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む。)等の配列を含むものであってもよい。
【0057】
「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA、プラスミドDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、真核生物のゲノム中に含まれる形態であるイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、原核生物由来のイントロンなどの非コード配列を含まない「ゲノム」形DNAであってもよい。また、逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロンなどの非コード配列を含まない「転写」形DNAであってもよい。また、細胞がゲノムDNAとは別に保持しうる低分子量の環状DNAである「プラスミド」形DNAであってもよい。
【0058】
また、「核酸」なる語には、任意の単純ヌクレオチドおよび/または修飾ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド、例えばcDNA、mRNAおよびhnRNAを含む全RNA等が含まれる。「修飾ヌクレオチド」には、イノシン、アセチルシチジン、メチルシチジン、メチルアデノシン、メチルグアノシンを含むリン酸エステルの他、紫外線や化学物質の作用で後天的に発生し得るヌクレオチドも含まれる。
【0059】
「塩基配列」との用語は、「核酸配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(それぞれA、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの「塩基配列」は、DNA分子またはポリヌクレオチドに対してのデオキシリボヌクレオチドの配列を意図し、そしてRNA分子またはポリヌクレオチドに対してのリボヌクレオチド(A、G、CおよびU)の対応する配列(ここで特定されるデオキシヌクレオチド配列における各チミジンデオキシヌクレオチド(T)は、リボヌクレオチドのウリジン(U)によって置き換えられる)を意図する。
【0060】
また、本発明にかかる遺伝子は、配列番号3または4に示される塩基配列と必ずしも同一である必要はなく、配列番号3または4に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズし、かつ、TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有する抗体酵素をコードする遺伝子であってもよい。
【0061】
上記「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ」するとは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の具体的な例として、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(すなわち、ハイブリダイズし難くなる)。
【0062】
<3.本発明にかかる抗体酵素の製造方法>
本発明にかかる抗体酵素は、例えば、TNF−αを抗原ペプチドとして、免疫したマウス等の免疫動物の脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞等の融合パートナーとを融合させてなるハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を産生することにより製造することができる。重鎖、軽鎖を得る場合には、得られたモノクローナル抗体を重鎖と軽鎖とに分離すればよい。また、本発明の抗体の断片を得る場合には、まず該当するモノクローナル抗体を取得し、その後、上記モノクローナル抗体を適当なプロテアーゼを用いて目的とする抗体の断片が得られるように切断すればよい。また、ファージディスプレイ法で得られる抗体であってよい。
【0063】
モノクローナル抗体の取得は通常のハイブリドーマ法(Kohler, G. and Milstein, C., Nature 256, 495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, Immunology Today 4, 72(1983))、EBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss, Inc.,77-96(1985))等により行なわれる。
【0064】
また、上記抗原ペプチドには、上述したTNF−αまたはTNF−αのペプチド断片を用いればよい。
【0065】
さらに、アミノ酸配列が明らかになっている抗体酵素については、従来公知の遺伝子組み換え技術等を用いて本発明の抗体酵素を製造することができる。この場合、上記抗体酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子をベクター等に組み込んだ後、発現可能に適当な宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたペプチドを精製する等の方法を用いることができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記抗体酵素をコードする遺伝子を組み込めば、目的とする抗体酵素を効率よく製造することができる。
【0066】
また、上述の(b)または(d)のポリペプチドのように、変異型のポリペプチドを作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, Gene 152,271-275(1995)他)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し、変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いることができる。これら方法を用いることによって、上記(b)や(d)のポリペプチドをコードするcDNAの塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加されるように改変を加えることによって作製することができる。また、変異型のポリペプチドの作製には、市販のキットを利用してもよい。
【0067】
さらに、本発明にかかる抗体酵素の取得方法は、上述に限定されるものではなく、例えば、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成されたものであってもよい。また別の方法としては、無細胞系のタンパク質合成液を利用して、本発明にかかる遺伝子から本発明にかかるポリペプチドを合成してもよい。
【0068】
<4.本発明にかかる形質転換体>
本発明にかかる形質転換体は、本発明にかかる遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。また、上記「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
【0069】
本発明に係る形質転換体の作製方法(生産方法)は、本発明にかかる遺伝子を含む組換え発現ベクターを形質転換する方法を挙げることができる。
【0070】
上記組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
【0071】
ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主(ホスト)細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかる遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。かかる発現ベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクター、及びウイルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント、ウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、及びレトロウイルス)、並びにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミド及びファージミド)を利用可能である。
【0072】
より具体的には、細菌における使用に好ましいベクターの中には、例えば、pQE70、pQE60、及びpQE−9(Qiagenから入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratageneから入手可能);並びにptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。
【0073】
また、好ましい真核生物ベクターの中には、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、及びpSG(Stratageneから入手可能);並びにpSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。
【0074】
植物における使用に好ましいベクターの中には、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)、「pTA7001」、「pTA7002」(Aoyama ら(1997) Plant J. 11:605) 、「pPZP211」(Hajdukiewicz et al., Plant Mol. Biol. 25:989(1994)などが含まれる。
【0075】
また、形質転換の対象となる生物(宿主生物)も特に限定されるものではなく、従来公知の各種生物およびそれら由来の細胞を好適に用いることができる。適切な宿主の代表的な例としては、菌体(例えば、E. coli細胞、Streptomyces細胞、及びSalmonella typhimurium細胞);真菌細胞(例えば酵母細胞);昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞及びSpodoptera Sf9細胞);動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、及びBowes黒色腫細胞);並びに植物細胞(例えばシロイヌナズナ、タバコなどの双子葉植物、イネ、オオムギなどの単子葉植物)が挙げられる。
【0076】
本発明にかかる好ましい形質転換体としては、本発明にかかる遺伝子を、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、宿主細胞に発現可能に導入した形質転換体が挙げられる。
【0077】
さらに、形質転換する方法についても特に限定されるものではなく、宿主生物の種類に応じた従来公知の方法を用いることができる。例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション法、感染法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、リポソーム法、適切なベクター系を用いた導入法等を例に挙げることができる。
【0078】
このようにして得られる形質転換体は、本発明にかかるポリペプチドを産生することができる。これらポリペプチドは、従来公知の方法により、当該形質転換体生物から抽出、精製することができる。
【0079】
当該ポリペプチドを抽出、製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、硫安沈殿又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって組換え細胞培養物から回収され、そして精製され得る。
【0080】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0081】
本発明について、実施例および図1〜21に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例における抗体の力価、抗体産生細胞(ハイブリドーマ)のクローニングは以下の方法に従って行った。
【0082】
〔ELISAによる力価測定〕
抗原(TNF-α)をPBSに溶解し、4μg/mlの抗原溶液を調整した。96穴イムノプレートに上記抗原溶液を50μlずつオクタピペットを用いて入れた。その後、4℃で一晩反応させた(コーティング)。
【0083】
翌日、プレートを室温に戻し、イムノウォッシャーを用いて0.05%のTween20を含むPBS(以下、「PBS−T」ともいう)でプレートを2回洗浄した。洗浄したプレートをキムタオルの上に逆さに置き、軽く叩いてウェルの中の水分を除去した。全てのウェルに2%ゼラチン/PBSを130μlずつ入れ、30〜60分間、室温でインキュベーションした(ブロッキング)。
【0084】
ブロッキングの間に、一次反応の準備を行った。免疫マウスから採血を行った抗血清をまず1/50に希釈し、そこから3倍連続希釈を7点行い、1サンプルにつき8種類の希釈液を作製した。また、未処理マウスの血清も同様に希釈を行い、コントロールとして使用した。
【0085】
ブロッキング後、PBS−Tでプレートを2回洗浄し、水分を除去した。その後、ブロッキング中に作製したそれぞれの血清希釈液を50μlずつウェルに入れ、60分間インキュベーションした(一次反応)。
【0086】
一次反応後、PBS−Tでプレートを2回洗浄し、水分を除去した。次に、PBS−Tで希釈調製したアルカリフォスファターゼ(ALP)標識抗マウス抗体を50μlずつウェルに入れ、60分間室温でインキュベーションした(二次反応)。
【0087】
二次反応後、PBS−Tでプレートを2回洗浄し、水分を除去した。次に、ALP基質タブレットをALP基質緩衝液で溶かし、各ウェルに100μlずつ入れ、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、λ1=405nm、λ2 =620nmに設定したイムノリーダーで吸光度を測定した。X軸に抗体の希釈割合(Dilution)、Y軸に吸光度をとったグラフを作成し、力価を測定した。
【0088】
〔限界希釈法によるクローニング〕
まず、6ml滅菌チューブおよび14ml滅菌チューブを各2本ずつ用意した。6ml滅菌チューブの一方をA、もう一方をBとした。14ml滅菌チューブの一方にはHCF添加HAT培地を3.9ml分注し、もう一方にはHCF添加HAT培地を2.4ml分注した。HCF添加HAT培地を3.9ml分注したチューブをC、2.4ml分注したチューブをDとした。
【0089】
クローニングしたいウェルの細胞をマイクロピペットでピペッティングし、その懸濁液から50μlをAに入れた。
【0090】
これとは別に、上記懸濁液から50μlを採取し、トリパンブルー50μlと混合した後、血球計算盤で細胞数をカウントした。その計測した結果を用いて、最終的な細胞濃度が2×103個/mlになるように、必要量のHAT培地をBに入れた。
【0091】
次に、上記Aに1mlのHAT培地を加え、そこから100μlを上記Bに移し、よくピペッティングを行った。その後Bから100μlを採取し、それをCに移し、ピペッティングを行った。その後、Cから600μlを採取し、それをDに移し混合した。このようにして得られたCおよびDに入った細胞懸濁液をそれぞれ100μlずつ96穴プレートに分注し、インキュベーターで培養を開始した。7日後に培地の添加を行い、その後は、3日ごとに培地の交換を行った。
【0092】
7日目を過ぎたあたりからコロニーのチェックを行い、コロニーが形成されたウェルのスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、同じプレート内でTNF−αに対して最も反応が高いシングルコロニーをクローニングした。コロニーが形成されたウェルが全て陽性になるまで、上記の方法でスクリーニングとクローニングとを繰り返し行った。
【0093】
〔実施例1:抗TNF−α抗体の製造〕
(1.マウスの免疫)
免疫に用いた抗原タンパクとして、Recombinant Human TNF-α(Strathmann Biotec AG社製,hTNFa-1000,Lot.090590)を用いた。また、免疫する動物として、Balb/cマウス(雌6週齢)を2匹用いた。
【0094】
まず、クリーンベンチ内にFCA(Freund’s complete adjuvant)、抗原(Recombinant Human TNF-α)、ルアーロック式シリンジを2本、注射針(19G)を2本、および三方活栓を用意した。上記シリンジに注射針をセットし、FCAを必要量より少し多めにとり、三方活栓に取り付けた。0.5mg/mlに調製した抗原をFCAと同様にシリンジにとり、三方活栓に取り付けた。三方活栓で繋いだシリンジをクリーンベンチから取り出し、抗原側、FCA側それぞれのシリンジ先端に残った空気を抜いた後に、water in oilの要領でFCAと抗原とを混合した。2本のシリンジをそれぞれ交互に押し、FCAと抗原とをよく混合した。その後、4℃で静置した。白い乳液状になるまでこの操作を繰り返し、FCAと抗原とを混合した。
【0095】
次に、片方のシリンジに混合した溶液を集め、シリンジを三方活栓から外し25Gの注射針を取り付けた。マウスの腹部をアルコール綿で拭いて消毒し、腹部皮下の2箇所に100μlずつ投与した。なお、注射針はマウスごとに交換しなかった。また、マウス1匹あたりの抗原投与量は50μgであった。
【0096】
免疫注射から10日後にマウスの採血を行い、上述の手順で、ELISA法により力価測定を行った。
【0097】
初回免疫から約2週間後に追加免疫を行った。2回目からは不完全フロイントアジュバント(FIA)を用いた。免疫方法は初回免疫と同様とし、マウス1匹あたりの抗原投与量は50μgとした。追加免疫から10日後、眼窩静脈叢より採血を行い、ELISA法により力価測定を行った。
【0098】
同様の方法で、マウスIには、さらにもう1回追加免疫(合計3回目免疫)を行い、力価測定を行った。また、マウスIIについては、さらに2回追加免疫(合計4回目免疫)を行った。
【0099】
追加免疫後、力価が十分上がったマウス(3回目免疫後のマウスI、4回目免疫後のマウスII)に最終免疫を行った。最終免疫は滅菌PBSで0.5mg/mlに調製した抗原をマウス尾静脈または腹腔内に投与した。なお、本実施例の免疫スケジュールを表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
上記のように免疫したマウスから採取した血清の力価測定結果を図1〜図5に示す。図1〜図5に示すように、マウスI、IIともに順調に力価が上がり、3回目免疫後には細胞融合が可能な力価まで上がった(図3を参照)。マウスIIについては、最終免疫後の力価は、4回目免疫後力価よりも落ちていたが、細胞融合するのに十分な力価を保っていた(図4および図5を参照)。
【0102】
こうして得られた免疫マウスを用いて、最終免疫の3〜4日後に後述の細胞融合を行った。
【0103】
(2.細胞融合)
上記免疫マウスの首を切断することにより全採血を行った。採取した血液は4℃に一晩静置後、翌日、3000rpm、4℃で、10分間遠心分離を行うことにより、血清を回収し、力価測定を行った。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
次に、上記マウスを消毒して解剖後、脾臓を摘出した。摘出した脾臓を洗浄用MEM培地が5ml入ったシャーレに移した。脾臓に付着している脂肪などの余分な組織を取り除き、洗浄した。洗浄した脾臓を新しいMEM培地が5ml入ったシャーレに移し、擦りガラス板で脾臓をまず3等分した。擦りガラスを2枚合わせて、3等分にした脾臓を1つずつ擦りながら脾細胞を取り出し、シャーレに入れた。
【0106】
次に、上記脾細胞を、50ml遠心チューブの上にのせたろ過フィルターに注いだ。さらに上記脾細胞が入っていたシャーレを5mlのMEM培地で共洗いし、上記脾細胞がシャーレに残らないよう遠心チューブに移した。その後、上記脾細胞を1400rpmで6分間遠心分離した(1回目の洗浄)。脾細胞の遠心分離を行っている間に、予め培養していたミエローマ細胞(NS−1)を回収し、50mlの遠心チューブに移した。上記脾細胞の遠心分離が終了後、上記ミエローマ細胞を1400rpmで6分間遠心分離した(培地の除去)。
【0107】
1回目の洗浄を終えた脾細胞の上清をアスピレーターで吸引除去し、30mlのMEM培地をピペッティングしながら加え、ペレットをほぐした。上記ミエローマ細胞についても同様に上清を吸引除去し、30mlのMEM培地で懸濁した。
【0108】
上記のように懸濁した脾細胞およびミエローマ細胞を1400rpmで6分間遠心分離した(脾細胞は2回目の洗浄、ミエローマ細胞は1回目の洗浄)。遠心分離終了後、脾細胞およびミエローマ細胞の上清を吸引除去し、30mlのMEM培地で懸濁後、1400rpmで6分間遠心分離を行った(脾細胞は3回目の洗浄、ミエローマ細胞は2回目の洗浄)。遠心分離後、上清を吸引除去し、10mlのMEM培地に細胞を懸濁した。
【0109】
次に、脾細胞およびミエローマ細胞のそれぞれの懸濁液について、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。その後、表4に示すように、細胞数の比が脾細胞:ミエローマ細胞=5:1になるように、必要なミエローマ細胞数を脾細胞が入った遠心チューブに移した。
【0110】
【表4】
【0111】
脾細胞およびミエローマ細胞の混合懸濁液を十分に撹拌後、1400rpmで6分間遠心分離を行い、上清を除去した。上清除去後、遠心チューブを軽く叩きつけて、ペレットをほぐした。その後、ペレットの入った遠心チューブを激しく振り続けながら、1mlのPEGを1分間かけて1滴ずつゆっくりと加えた。PEGを添加後、さらに1分間遠心チューブを振り続けた。その後、遠心チューブを振り続けながら、1mlのMEM培地を1分間かけて加えた。再度、同様に1mlのMEM培地を1分間かけて加えた。次に、遠心チューブを振り続けながら、7mlのMEM培地を3〜4分間かけてゆっくり加えた。その後、800rpmで6分間遠心分離を行い、上清を吸引除去した。上清除去後、遠心チューブを叩きつけてペレットをほぐした。その後、まず、5mlのHAT培地をペレットに勢いよく吹き付け、ペレットを崩した。次に、マウスIでは33ml、マウスIIでは57mlのHAT培地をピペッティングせずに加えた。この細胞懸濁液を滅菌処理済の96穴プレートに100μlずつ播き、37℃のCO2インキュベーターで培養開始した。3〜4日後にHAT培地を5mlのピペットを用いて2滴ずつ添加した。そして、7日後には培地の交換を行った。
【0112】
細胞融合後の7日目頃からコロニー確認を行ったところ、最終的にマウスIおよびマウスIIともに全てのウェルでコロニー形成が確認された。すなわち、細胞融合効率は100%であった(表4を参照)。
(3.スクリーニングおよびクローニング)
そこで、それら全てのウェルの上清を用いて、スクリーニングを行った。スクリーニングは、上述したELISA法による力価測定の方法の一部条件を変更した方法を用いて行った。変更点は、具体的には、(1)コーティングに使用する抗原をTNF−αの他に、HSAおよびIgG(濃度はどちらも4μg/mlとした)を用いた、(2)コーティング後の洗浄は行わず、アスピレートのみを行った、(3)コロニーが確認できたウェルの上清を96穴U底プレートに入れ、PBS−Tで1/2に希釈したものを一次反応に用いた、(4)一次反応の陽性コントロールとして細胞融合時の抗血清を、陰性コントロールとして、PBS−Tで1/2に希釈したHAT培地を用いた点である。一次スクリーニングの結果、マウスIでは陽性ウェル数が27ウェル、マウスIIでは陽性ウェル数は9ウェルであった(表5を参照)。そのうち、マウスIの14ウェル、マウスIIの9ウェルについて、上述の限界希釈法によるクローニングを行った。なお、TNF−αに対して吸光度が0.1以上のものを陽性とした。また、限界希釈法によるクローニングの結果、陽性ウェル100%が2回連続した株を、TNF−αに対するモノクローナル抗体産生株(以下、「抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマ」ともいう)とした。
【0113】
その結果、最終的に確立した抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマはマウスIで13株、マウスIIで4株の計17株となった(表5を参照)。これらのハイブリドーマをETNF−1〜17とし、各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体をETNF−1〜17抗体とした。
【0114】
【表5】
【0115】
次に、上記抗体ETNF−1〜17抗体について、Iso StripTM マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキットを用いてアイソタイプ決定を行った。結果を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
(4.タンパク質との交差反応試験)
上記抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマの培養上清を用いて、ETNF−1〜17抗体の各種タンパクに対する反応性をELISA法によって調べた。タンパク質には、TNF−α、TNF−β、ヒトIgA(図6および図7ではH−IgAと表記する)、ヒトIgM(図6および図7ではH−IgMと表記する)、ヒトIgE(図6および図7ではH−IgEと表記する)、ヒト血清アルブミン(図8および図9ではHSAと表記する)、ヒトヘモグロビン(図8および図9ではH−hemoと表記する)、ウシ血清アルブミン(図8および図9ではBSAと表記する)、Keyhole Lympet Hemocyanine(図8および図9ではKLHと表記する)を用いた。図6〜図9に示すように、ETNF−1、3〜7、9〜14抗体は高い反応特異性を示した。ETNF−2および16抗体はヒトIgAおよびIgEに対して交差反応した。また、ETNF−8、15、および17抗体には非特異的な反応が認められた。
【0118】
〔実施例2:ETNF−6抗体の可変領域の塩基配列およびアミノ酸配列の決定〕
以下に示す方法で、実施例1の抗TNF−α抗体(ETNF−6抗体)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列を決定した。さらに、上記塩基配列から、当該抗TNF−α抗体の可変領域の推定アミノ酸配列を決定した。
【0119】
(1.抗体産生細胞の培養)
抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマは、培養温度37℃、CO2濃度5.5%で20%FCSを含むIMDM培地で1×107〜5×107細胞が得られるまで培養した。培養後の細胞培養液を50ml遠心チューブに移し、1400rpmで6分間遠心分離することにより、細胞を回収した。培地をアスピレーターにて除去後、10mlのPBSに懸濁し、1つのチューブにまとめて再度1400rpmで6分間遠心分離を行った。上清を吸引除去後、再度10mlのPBSに懸濁して血球計算盤を使用し細胞数をカウントした。
【0120】
カウント後、1×107〜5×107細胞分の細胞懸濁液を採取し、再度1400rpmで6分間遠心分離を行った。上清を除去後、ペーパータオル上で逆さにし完全に液を切った。アスピレートが不十分であれば、再度遠心し、マイクロピペットで残ったPBSを除去した。
【0121】
(2.mRNAの抽出と精製)
mRNAの抽出はQuickPrepTMmRNA purirfcation Kit (amershampharmacia biotect)を用いて、推奨プロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。
【0122】
まず、Extraction bufferを37℃のインキュベーターに約30分間静置し、結晶を完全に溶解させた。こうして得られたExtraction buffer 1.5mlを上記(1.抗体産生細胞の培養)で回収した細胞のペレットに添加した。そして、21Gの針に数回通すことで細胞を破砕した。その後、その破砕溶液に3mlのElution bufferを加え、さらに細胞を破砕した。こうして得られた破砕溶液をRNase freeの 1.5mlマイクロチューブ4本に分注した。その後、室温(25℃)、18000×gで、20分間遠心分離を行い、その上清を後述のoligo(dT)-cellulose spin columnに添加するサンプルとした。
【0123】
mRNAの単離は、まず、oligo(dT)-cellulose spin columnの樹脂を懸濁し、上下のキャップを外して15ml遠心チューブにセットし、1300rpmで1分45秒間遠心分離を行って保存液を除去した。そして、下キャップを装着し、タンパク質およびDNAが除去された上記サンプル(上清)を4ml添加した。その後、上キャップをしっかりと取り付け、oligo(dT)-cellulose spin columnの樹脂を懸濁した後、10〜15分間、転倒混和し、樹脂にmRNAを吸着させた。そして、上下のキャップを装着し、1400rpmで、1〜2分間遠心分離を行った。その後、上のキャップを取り、RNase freeのマイクロピペットを使用し、上清を除去した。そこに、3mlのHigh-salt bufferを添加し、緩やかに2分間ほど混和した。その後、上キャップを装着し、1400rpmで2分間遠心分離を行い、上清を除去した。さらにこの操作を2回繰り返した。
【0124】
次に、3mlのLow---salt bufferを添加して緩やかに1〜2分間程度懸濁した後、キャップを装着し、15mlチューブに入れ、1400rpmで、2分間遠心分離を行った。そして、生じた上清を除去した。その後、下のキャップを外し、スピンカラムの表面が平らになるように、3mlのLow-salt bufferを壁に添わせながら回し入れた。その後、15mlチューブに設置し、1300rpmで、2分間遠心分離を行った。
【0125】
次に、新しい15ml遠心チューブを用意し、mRNA回収用の1.5mlマイクロチューブ2個の蓋をハサミで切断後、遠心チューブに重ねて入れ、溶出用チューブとした。溶出用チューブにカラムを入れ、そこに65℃に加熱していた0.25mlのElution bufferを回し入れるように添加した。その後、1300rpmで、2分間遠心分離を行った。この操作を2回繰り返した。溶出液は、mRNA画分として1.5mlマイクロチューブ2本に回収し、氷上に静置した。別に定量用のマイクロチューブを準備し、10μlのmRNA画分を取り、70μlのElution bufferを加え、希釈した(1/8希釈)。その希釈した溶液を用いて、吸光度ブランクをElution Bufferとして、A260およびA280を測定した。なお、セルは測定前に予め、塩酸:メタノール=1:1の溶液に1時間ほど浸し、RNase freeにし、DEPC処理水で洗浄しておいた。また、RNAの濃度は下記式を用いて算出した。
【0126】
RNAの濃度(μg/ml)=A260×希釈率×40
次に、2等分され、氷上に静置しておいたmRNA画分(mRNA抽出溶液)に、1/10量の3M酢酸カリウム、1/50量のグリコーゲン、2.5倍量の95%エタノールを加えて攪拌した。その後、−30℃に約40分間置き、その後、4℃、15000rpmで、5分間遠心分離した後、−80℃で保存した。
【0127】
なお、実験に用いたガラスおよび金属類(実験器具)には、240℃で2時間乾熱滅菌したものを用い、プラスチック類の実験器具にはRNase freeおよびDNase freeのものを用いた。
【0128】
(3.mRNAからのFirst strand cDNAの合成)
−80℃でエタノール沈澱の状態で保存していたmRNAを取り出し、4℃、15000rpmで10分間遠心分離し、マイクロピペットで上清を除去した。
【0129】
その後、1mlの氷冷した75%エタノール(予めDEPC処理水で調製し、−30℃に用意しておいた。)をペレットのない側からそっと加えてリンスし、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行い、その後、マイクロピペットで上清を除去した。そして、15分間真空乾燥を行い、0.2μg/μlとなるようにDEPC処理水を添加し1時間静置し溶解した。溶解後、確認のために、mRNA溶液をDEPC処理水でA260=1前後になるように希釈し吸光度を測定した。cDNAの合成はAMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(TaKaRa)のプロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。
【0130】
RNase freeの0.2mlマイクロチューブにmRNA 2μg分のmRNA溶液を添加した。そのチューブにpd(T)12-18primer(0.5μg/ml)を2μl、DEPC処理水をmRNA溶液と合わせて17μlとなるように添加し、混合後、70℃で10分間アニーリング処理を行った。その後、氷上に置き、0.25M DTTを1μl、RNase inhibitorを1μl、5×Reaction bufferを5μl添加し、よく混合した。更にAMV−RTを1μl添加し緩やかに攪拌し、41℃で60分間伸長反応を行った。処理時間終了後氷上に置き、反応を止め、−30℃に保存した。
【0131】
(4.PCRによる抗体可変領域遺伝子の増幅)
Mouse Ig primer Kit(Novagen)、NovaTaqTM Hot Start DNA Polymerase Kit(Novagen)を使用し、上記(3.mRNAからのFirst strand cDNAの合成)で得られたcDNAから、抗体遺伝子可変領域の増幅を行った。
【0132】
まず、抗体重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の増幅には、Positive Control、Negative Control、primerの本数分準備したPCRチューブのそれぞれに、37.25μlの滅菌超純水、0.5μlの3’−Primer(最終濃度5pmol)、3μlの25mM MgCl2(最終濃度1.5mM)、1μlの10mM dNTPs(最終濃度0.2mM)、5μlの10×NovaTaq Hot Start Buffer(最終濃度1×)、0.25μlのNovaTaq Hot Start DNA Polymerase(最終濃度1.25U)をサンプルの本数+0.5のスケールで混合した。)を加えて、そこに、1μlの5’−Primer(最終濃度5pmol)、2μlのcDNA溶液を添加した。なお、Positive Controlは Mouse Ig primer Kitに付属のものを使用し、Negative Controlには滅菌超純水を使用した。
【0133】
以上の組成物をよく混合し、Biometra社T-GRADIENT、TaKaRa社PCR Thermal cycler PERSONALを使用しPCRを行った。反応条件として、L鎖は95℃で7分間のプレヒート後、熱変性を98℃で15秒間、伸長反応を74℃で15秒間に固定し、アニーリング温度を70℃、66℃、62℃、58℃、54℃、および50℃と6段階に4℃ずつ下げるStep Down法を行った。なお、アニーリング時間は、15秒間に固定した。上記の3ステップを5段階まで3サイクルずつ行い、6段階目を10サイクル行った。H鎖は95℃で10分間のプレヒート後、熱変性を94℃で1分間、アニーリング温度50℃で2分間、伸長反応を72℃で2分間の3ステップを40サイクル行った後、72℃の伸長反応を10分間行った。PCR終了後、アガロース電気泳動により、抗体可変領域遺伝子の増幅を確認した。
【0134】
(5.抗体可変領域遺伝子のクローニング)
クローニングは、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen)を用いて、以下のようにして行った。
【0135】
アガロースゲル電気泳動で抗体可変領域と予測されるDNAの増幅を確認したPCR産物を2μl、salt Solutionを1μl、および滅菌水を2μl、氷上にてPCRチューブに分注し攪拌した。さらに、1μlのTOPO vectorを添加し緩やかに攪拌後、30分間、室温でライゲーション反応させた。30分間の反応後直ちに、上記PCRチューブを氷上に置き、反応を止めた。このようにして調製された反応液を以下「ライゲーション反応液」と称する。
【0136】
使用直前に−80℃のフリーザーからOne Shot TOP10 Chemically Competent E. coli(Invitrogen)を取り出し氷上で溶解した。そこに、氷上に置いていた上記ライゲーション反応液を2μl加え、氷上で30分間インキュベーションし、コンピテントセル間にDNAを拡散させた。反応終了後、42℃で45秒間、熱ショックを与えてDNAを取り込ませ、氷上に戻し、2分間静置した。そこに、予め、室温に戻しておいた250μlのSOC培地をクリーンベンチ内で加え、振盪(200rpm)しながら37℃で1時間培養した。
【0137】
1時間の培養中に、予め準備しておいたアンピシリンを含むLBプレート培地1枚に対し、100μlの100mM IPTGストックと、20μlの50mg/ml X−Galを塗り広げ、15〜30分間乾燥させた。
【0138】
培養終了後、アンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地に、培養後の大腸菌液を50μl、および100μlの2種類の濃度で塗り広げ、37℃で一晩培養した。
【0139】
翌日、形質転換後の青/白判定によりDNA断片がインサートされていると考えられる白コロニーを12コロニー選択し、偽陽性を除くため、さらに画線培養を行った。画線培養では、形質転換後の大腸菌を培養したのと同様にアンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地を使用し、白金耳で単一コロニーが得られるように画線し、37℃で一晩培養した。
【0140】
(6.プラスミドDNAの調製)
上記(5.抗体可変領域遺伝子のクローニング)で得られた大腸菌をアンピシリンを含むLB液体培地で培養した。大腸菌培養液から0.75mlを取り、0.2mlの80%グリセロールと混合し、大腸菌のグリセロールストックとして−80℃で保存した。プラスミドDNAは残りの培養液を用いてアルカリSDS法により調製した。
【0141】
残りの約5.25mlの培養液を1.5mlマイクロチューブ6本に移し、12000rpmで1分間、遠心分離して集菌し、上清を丁寧に吸引除去した。そこに、Solution I(50mM D−グルコース、25mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH8.0)を100μl加えてボルテックスにかけよく懸濁した。
【0142】
そこに、Solution II(0.2M NaOH、1%(w/v)SDS)を200μl加えて転倒混和後、氷中に5分間置き、Solution III(3M酢酸カリウム、2M酢酸)を150μl加え、緩やかに撹拌した後、氷上に5分間置いた。
【0143】
そして、4℃、15000rpmで、10分間遠心分離を行った後、沈殿が入らない様に注意しながら上清を採り、新しい1.5mlマイクロチューブに移した。このとき得られ上清と等量のフェノール・クロロホルムを加えて攪拌した後、4℃、15000rpmで、2分間遠心分離した。さらに同じ作業を繰り返し、2回のフェノール・クロロホルム処理を行った後、上層(水層)を別のマイクロチューブに移した。そこに、2.5倍等量の氷冷エタノールを加えて上下に振って攪拌し、−70℃で5分間静置した。そして、4℃、15000rpmで、10分間遠心分離を行った後、上清を除去した。そして、氷冷70%エタノールを1ml加え、ペレットをリンスし、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を除去し、15分間真空乾燥した。
【0144】
乾燥終了後、45μlのTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)緩衝液に、ペレットを溶解し、RNase A溶液(5mg/ml RNase A、10mM Tris−HCl、15mM NaCl、pH7.5)を5μl加えた(終濃度:50μg/ml)。その後、2本のチューブの溶液を1本のチューブにまとめ、37℃で1時間反応させた。
【0145】
反応終了後、2/3等量のPEG(13%(w/v)PEG6000、0.8M NaCl)を入れ、氷上に1時間以上置いた。その後、4℃、15000rpmで、15分間遠心分離を行い、上清を除去した。そこに、70%エタノールを1ml加えてリンスし、4℃、15000rpmで、10分間遠心分離を行った。
【0146】
上清を除去後、真空乾燥し、1サンプルにつき50μlの滅菌水に溶解し、1本のチューブにまとめプラスミド溶液とした。そして、アガロース電気泳動によるバンド比較にてサンプルのDNA濃度を推測した。
【0147】
(7.塩基配列の決定)
Thermo SequenaseTMCyTM5.5 Terminator Cycle Sequencing Kit (Pharmacia)を用いて、塩基配列の決定を行った。A、C、G、およびTの4種類の塩基用に、PCRチューブを用意し、d(N)TP/Cy5.5-dd(N)TPを各サンプル分、1μlずつ分注した。
【0148】
次に、DNA/プライマーミックスの調製を行った。(6.プラスミドDNAの調製)で調製された1.5μgのDNA、3.5μlのReaction Buffer、1μlのTOPO13 Reverse(4pmol/μl)(Invitrogen)、および2μlのThermo Sequenase(10U/μl)を混合し、さらに滅菌超純水を添加して全量が31.5μlとなるようにした。これを上記のPCRチューブに7μlずつ分注し、すみやかにBiometoraサーマルサイクラーにセットし、95℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で120秒間の反応サイクルを30サイクル行い、4℃で冷却し反応を停止させた。
【0149】
反応終了後、サンプルをPCRチューブから1.5mlのマイクロチューブに移し、20mg/mlグリコーゲンを1μl、7.5M酢酸アンモニウムを2μl、および98%エタノールを30μl添加し、よく混合した。10分間氷上で静置した後、12000rpmで20分間遠心分離した。その後、キムワイプ上でデカンテーションにより上清を除去し、70%エタノールを200μl添加し、ペレットおよびチューブ内壁をリンスした。そして12000rpmで10分間遠心分離を行い、その後、マイクロピペットを使用し、上清を丁寧に除去した。そして、遮光してペレットを乾燥させ、6μlのLoading Dyeに溶解し、72℃で、3分間熱処理を行い、LONG-READ TOWERTM System (Amersham Pharmacia Biotech.)に各2μlずつローディングし、解析を行った。得られた塩基配列は、
DNASISソフトウェアを使用して解析され、アミノ酸配列に翻訳された。
【0150】
その結果、抗TNF−α抗体であるETNF−6抗体のL鎖およびH鎖の可変領域をコードするcDNAは、それぞれ、配列番号3および配列番号4に示される塩基配列からなることが分かった。また、ETNF−6抗体のL鎖およびH鎖の可変領域の推定アミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2に示されるアミノ酸配列であった。
【0151】
〔実施例3:ETNF−6抗体の可変領域の立体構造予測〕
実施例2で決定した塩基配列から推定したETNF−6抗体の可変領域のアミノ酸配列(配列番号1および配列番号2を参照)をもとに、AbM(Oxford Molecular、 Oxford、UK)により目的抗体CDR領域のループ構造とFR領域の立体構造を予測した。AbMで予測された立体構造をもとに、InsightII/Discover3(Molecular Simulatoin、USA)により分子間力計算を行い、熱力学的に安定となる立体構造を予測した。
【0152】
さらに、PPC Protein AdviSer(FQS、Japan)を用いて、立体構造中のセリンプロテアーゼの触媒三つ組み残基を構成するSer、HisおよびAspの残基群を探索した。その結果を図10〜図13に示す。
【0153】
図10および図12は、それぞれETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の予測立体構造を模式的に示す図である。また、図10および図12には、触媒三つ組残基を構成すると思われるアミノ酸残基(Ser、His、Asp)が記載されている。また、図10および図12では、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖のそれぞれのCDR1〜3をリボンで表現している。
【0154】
図11および図13は、それぞれ、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖のアミノ酸配列を示すものであり、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖それぞれのCDR1〜3には、下線が付されている。
【0155】
図10および図11に示すように、H鎖については、His35−Ser99のCα間は7.12Å、His35−Asp101のCα間は9.87Åと空間的に近い位置で3残基がCDR部分に存在すると予測された。その結果、これら3つのアミノ酸残基は、触媒三つ組残基様構造を構成すると考えられる。
【0156】
また、図12および図13に示すように、L鎖については、触媒三つ組残基を構成すると思われるアミノ酸残基(Ser、His、Asp)は、CDR部分に存在していないと予測された。しかし、His80−Ser67のCα間は7.98Å、His80−Asp85のCα間は12.63Å、His80−Asp86は10.36Åと3残基が空間的に近い位置に存在すると予測された。
【0157】
また、現在見出されている天然型抗体酵素のトリプシンや当研究室で見出された抗体酵素の触媒三つ組残基(Ser、His、Asp)の距離と比較したところ、これらと同じようにETNF−6抗体のH鎖およびL鎖では、HisとSerとの距離は10Å以内、HisとAspとの距離は15Å以内であった(表7を参照)。
【0158】
【表7】
【0159】
これらの結果をこれまでの本発明者らによる多くの研究成果(例えば、Appl. Biochem. Biotech., 83, 209-220(2000); J. Immunol. Methods, 269, 283-298(2002); Immunol. Lett. 86, 249-257(2003); Biotechnol. Bioeng., 84(7), 485-493(2003); 化学工業、54, 368-372(2003); Biotechnol. Bioeng. 86(2), 217-225(2004); 科学、75(11), 1254-1259(2005)を参照)に照らして考察したところ、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖は、抗体酵素であることが示唆された。
【0160】
〔実施例4:ETNF−6モノクローナル抗体の大量取得と精製〕
予めプリスタンを投与したBalb/cマウスに実施例1の抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマを1×106個投与後、腹水を採取することにより、ETNF−6モノクローナル抗体を大量に取得することができた。また、モノクローナル抗体の精製は、以下の方法に従って行った。
【0161】
(1.塩析)
腹水約8mlを同量のPBSで希釈後、濾紙を使用して濾過してフィブリンを除去した。これを2本の高速冷却遠心チューブに分け、各々、同量の飽和硫酸アンモニウムをドロップワイズで加えた。これを氷中で30分間静置し、その後、4℃、10000rpmで、10分間遠心分離した。デカンテーションにより上清を除去し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。再度、等量の飽和硫酸アンモニウムを添加して、塩析し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。これを、1本のチューブに合わせ、PBSに対して2回透析した。
【0162】
(2.カラム精製)
透析終了後、抗体の精製を行った。操作はMAPS-IIキット(BIO-RAD社製/ProteinAを使った精製キット)の説明に従い、4℃で行った。使用する試薬として、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、Elution buffer、および2M Tris−HCl(pH8.0)を以下のようにして調製した。0.05%NaN3/PBSは、0.1gのNaN3を200mlのPBSに溶解した。Binding bufferは、47.1gのBinding buffer粉末を蒸留水に溶解し、150mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが9±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。Elution bufferは2.3gのElution buffer粉末を蒸留水に溶解し、100mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが3±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。2M Tris−HClは、12.11gのTrisを蒸留水に溶解し、HClでpHを8.0に調整した後、蒸留水で50mlにメスアップした。
【0163】
透析終了後、上記の塩析済みの腹水を、腹水: Binding buffer=1:1.2になるように希釈した。不溶物が認められる時には、濾紙で濾過して取り除いた。また、精製操作前に、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、およびElution buffer、並びにサンプル(上記腹水の濾液)を脱気した。
【0164】
アフィゲルプロテインAを充填し、カラムを上記Binding bufferで洗浄した。UV 280nmの吸光度をモニターし、ベースラインが落ち着くまで上記Binding bufferでゲルを洗浄した。流速を0.2ml/minに調節し、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、上記サンプルをカラムに供した。
【0165】
次に、50ml以上のBinding bufferを供し、抗体以外の夾雑物質を除去した。ここで検出したピーク部分は、素通り画分として採取した。素通り画分を分取後、ベースラインが落ち着いたら、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、45mlのElution bufferを添加し、アフィゲルプロテインAに結合した抗体を溶出させ、ピーク部分を抗体画分として分取した。回収した各画分について、pH試験紙でpHを測定し、2M Tris−HCl(pH8.0)で中和した。上記抗体画分(抗体液)は、PBSに対して2回透析した後、SDS−PAGEで純度を確認した。純度の高い画分のみを回収し、DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でタンパク濃度を測定し、1mg/ml以上の濃度で(1mg/ml未満の場合は濃縮して)凍結保存した。
【0166】
〔実施例5:ETNF−6抗体の重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)の分離・精製〕
実施例4で精製したETNF−6抗体を用いて、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の分離精製を以下に示す方法に従い、行った。
【0167】
(1.限外濾過)
実施例4で精製した抗体溶液5mg分を0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に対して2回透析した。透析の終了後の抗体溶液を、セントリプレップ−10を用いて、4℃、2800rpmで遠心分離し、約1mlになるまで限外濾過により濃縮した。さらに、5mlの0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を加え、約1mlになるまで再び遠心分離した。この操作を再度行い、限外濾過による濃縮後、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で抗体溶液を2.7mlに調整し、褐色瓶に入れ以下の実験に使用するまで低温で保存した。
【0168】
(2.ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の分離)
まず、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1M Tris溶液、および上記抗体溶液2.7mlをそれぞれ脱気した。2M 2−メルカプトエタノール(以下、「2−ME」ともいう)と、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)とを抗体溶液に加え、ピペッティングで軽く撹拌したのち、1M Tris溶液でpH8.0に調整し、窒素封入を行った。その後、インキュベーター内で、15℃、3時間スターラーで撹拌しながら還元反応を行った。還元反応後、上記抗体溶液に脱気した0.6Mヨードアセトアミド溶液を600μl加え混合した。その後、1M Tris溶液でpH8.0に調整した。そして、15℃で、15分間撹拌しながらアルキル化反応を行った。次に、ディスクフィルター(0.2μm)を使用し、上記抗体溶液から粒子の除去を行った。セントリプレップ−10を用いて、液量が約0.5mlになるまで濃縮した。
【0169】
(3.サイズ排除HPLCによるETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の精製)
ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の精製は、上記のようにして得られた還元アルキル化処理後の抗体溶液をサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより行った。
【0170】
サイズ排除クロマトグラフィーシステムとして、PU−2080 Plus(JASCO社製)を用いた。また、カラムには、Protein-PakTM300SW(φ7.5mm×300mm;Waters製)を用いた。上記カラムの平衡化は、移動相に用いる6M 塩酸グアニジン(pH6.5)を、0.15ml/minの流速で、約2時間流すことにより行った。サンプル(上記還元アルキル化処理後の抗体溶液)は、2〜3回に分けて供した。H鎖およびL鎖に相当する画分を分取した。分取後の各画分はPBSに対して透析を行い、H鎖およびL鎖をRefoldingした。バッファーを15mM PBに交換した後、クリーンベンチ内でサンプルを回収した。DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でH鎖およびL鎖の濃度を測定した後、SDS−PAGEで純度を確認して4℃で保存した。このようにして調製したH鎖およびL鎖の液量と濃度とを表8に示す。
【0171】
【表8】
【0172】
〔実施例6:ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖におけるペプチダーゼ活性〕
天然型抗体酵素は、タンパク質を基質として用いる場合には標的タンパク質を特異的に分解するという特徴を持つ。しかし、ペプチド基質においては、非特異的に分解することが分かっている。そこで、これまでの抗体酵素のペプチダーゼ活性試験で基質として用いてきたTP41-1 peptide(H2N-TPRGPDRPEGIEEEGGERDRD-COOH : 21mer、配列番号5)を使用してETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が上記ペプチドに対する分解能を有するか検討した。
【0173】
実験操作は全てクリーンベンチ内で行い、使用する試験管、緩衝液などは、すべて滅菌処理を行った後、使用した。
【0174】
粉末のTP41-1 peptideを必要量はかり、15mM PB(pH6.5)に溶解した後に、ウルトラフリーMC(φ0.22μm、MILLIPORE製)を使って、濾過滅菌した。また、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖についても、15mM PB(pH6.5)を用いて濃度を調整した。最終的に、TP41-1 peptideの濃度が120μM、L鎖の濃度が0.8μM、H鎖の濃度が0.4μMになるように試験管内で混合し、25℃で反応させた。
【0175】
反応の経時時間ごとに、反応液の一部をクリーンベンチ内で採取し、ウルトラフリーC3(φ0.5μm、MILLIPORE製)で除粒子した。これを逆相HPLCで分析することにより、ペプチド基質の濃度変化を経時的に追跡した。逆相HPLCの分析条件には、puresil C18カラム(Waters製)を使用した。移動相には0.08%TFAを含む13%アセトニトリルを用い、流速0.5ml/min、モニター波長214nm、分析温度を40℃とした。その結果を、図14〜図17に示す。図14および図15はETNF−6抗体のL鎖の結果を、図16および図17は、ETNF−6抗体のH鎖の結果を示す。また、図15および図17は、各経時時間で採取したサンプルのHPLC分析により得られたクロマトグラムを示し、図14および図16は、それらのHPLCのクロマトグラムから算出した各経時時間におけるTP41-1 peptide量をグラフに示したものである。なお、図15の(a)〜(d)はそれぞれ、0時間後、27.7時間後、50.4時間後、73.2時間後の結果を示す。また、図17の(a)〜(d)はそれぞれ、0.3時間後、27.7時間後、50.7時間後、58.7時間後の結果を示す。
【0176】
図14〜図17に示すように、反応時間が経過するにつれ、ETNF−6抗体のH鎖またはL鎖を含む反応液では、ペプチド基質の濃度の減少が見られた。具体的には、ペプチド基質の濃度は、反応開始後27時間ごろから減少していき、L鎖を含む反応液では73時間で(図14および図15を参照)、H鎖を含む反応液では59時間で完全にペプチドが消失した(図16および図17を参照)。また、ペプチド基質の濃度の減少に伴い、当該ペプチドの分解断片と思われるピークも出現した。
【0177】
また、このH鎖およびL鎖はどちらも、分解速度の遅い「誘導期」と高活性を示す「活性期」とからなる2相性の分解曲線を描いていた。本発明者らは、これまでの研究において、通常の酵素の特性とは異なる天然型抗体酵素の特性として、2相性の分解曲線があることを見出している。これは、上記誘導期において抗体の立体構造に変化が起こり、抗体の酵素活性が高い構造に変化することにより、活性期が現れると推測されている。
【0178】
このように、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が天然型抗体酵素と同様の特性を示したことは、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が抗体酵素であることを示唆するものである。
【0179】
〔実施例7:ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖における抗原分解能〕
実施例6に示すように、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖はペプチダーゼ活性を有することが明らかとなった。そこで、次にETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が、抗原タンパクであるTNF−αを分解する能力を有するか否かの検討を行った。
【0180】
抗原タンパクには、実施例1で用いたTNF−αを用いた。まず、バッファーを15mM PB(pH6.5)に交換した。続いて、濃度を600μg/mlに調整した後、濾過滅菌して用いた。
【0181】
また、コントロールタンパクとしてウマ心臓由来のミオグロビン(SIGMA M1882-250MG)、およびBSA(BIO-RAD Protein Assay Standard II)についても、同様に分解試験を行った。ミオグロビンおよびBSAは、粉末を必要量測り取り、15mM PB(pH6.5)に溶解後、ウルトラフリーMC(φ0.22μm、MILLIPORE製)により濾過滅菌した。分解実験における終濃度は、それぞれミオグロビンが0.9μM(15μg/ml)、BSAが0.3μM(20μg/ml)、TNF−αが1.1μM(20μg/ml)、ETNF−6抗体のL鎖が0.4μM(10μg/ml)、およびETNF−6抗体のH鎖が0.2μM(10μg/ml)とした。
【0182】
反応時間4、8、12、24時間、48時間、および74時間において、各タンパク質の反応液の一部をクリーンベンチ内で分取し、各タンパク質の経時変化をSDS−PAGEで追跡した。その結果を、図18〜図21に示す。図18および図19は、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖とTNF−αとの反応結果を示すものである。
【0183】
まず、図18(b)に示すように、ネガティブコントロールであるTNF−αのみの反応液では、17.0kDaに太いバンドが検出され、このバンドは74時間経過しても変化はみられなかった。
【0184】
一方、図18(a)に示すように、ETNF−6抗体のH鎖とTNF−αとの反応液では、反応開始直後からTNF−αの太いバンドの上部が薄くなり、下部の16.8kDaのバンドが鮮明になってきた。また、反応時間4時間では、15.0kDaおよび13.3kDa付近にTNF−αの分解断片と思われるバンドが出現した。反応時間が8時間、16時間と経過するにつれて、16.8kDaのバンドは強くなり、かつ、13.3kDaのバンドおよびその下に、このフラグメントがさらに断片化されたと思われる複数のバンドが出現してきた。反応時間48時間では、もとの17.0kDaの太いバンドは細くなり、16.8kDaのバンドのみが明らかに強く検出された。
【0185】
N末端アミノ酸配列の結果、この細いバンドはTNF−αのN末端から5番目のセリンと6番目のアルギニンとの間のペプチド結合が切断されたものであることが判明した。また、15.0kDaに現れるバンドは、N末端から20番目のプロリンと21番目のグルタミンとの間のペプチド結合が切断されて生じる断片であった。さらに、13.3kDaに現れるバンドは、N末端から36番目のロイシンと37番目のロイシンとの間のペプチド結合が切断されて生じる断片であった。つまり、TNF−αは反応時間4時間あたりから、ETNF−6抗体のH鎖による分解がはじまり、20〜30時間でほとんど分解されたものと考えられる。以上の結果から、ETNF−6抗体のH鎖は抗体酵素であることが実証された。
【0186】
図19に示すように、ETNF−6抗体のL鎖についても同様の分解傾向が見られ、ETNF−6抗体のL鎖においても抗原分解活性が見られた。
【0187】
なお、本実施例において、H鎖単独あるいはL鎖単独では時間と共に自己消化を起こし、いくつかの抗体酵素は、自己消化により生じる断片と結びついて多量体を形成していた(図18(c)および図19(c)を参照)。
【0188】
次に、コントロールタンパクのミオグロビンのみの反応液では、図20(b)に示すように、18.0kDaにバンドが認められ、このバンドは74時間経過しても変化は見られなかった。L鎖とミオグロビンとの反応液では、図20(a)に示すように、高分子側と低分子側に若干バンドが見られたが、ミオグロビンには変化が見られなかった。また、L鎖のみの反応液でも、図19(c)に示すように、同様のバンドが見られた。このため、これらのバンドは、ミオグロビンの分解断片ではなく、L鎖由来の断片であると考えられる。
【0189】
また、ETNF−6抗体のL鎖とBSAと反応の結果でも、図20(c)に示すように、8時間ごろから若干BSAより低分子側のバンドが濃くなっていた。しかし、BSAと思われるバンドには変化は見られなかったことから、ETNF−6抗体のL鎖は、BSAの分解活性を有さないと考えられる。
【0190】
また、H鎖についてもL鎖と同様に、図21(a)および(b)に示すように、にミオグロビンには変化が見られなかった。さらに、BSAとH鎖との反応液では、図21(c)に示すように、L鎖と同様に8時間ごろから若干BSAより低分子側のバンドが濃くなっていた。しかし、これらのバンドもまた、H鎖由来の分解断片であると考えられる(図18(c)および図21(c)を参照)。以上の結果より、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖は、TNF−αを特異的に分解する活性を有する抗体酵素であることが明らかとなった。
【0191】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0192】
以上のように、本発明にかかる抗体酵素は、TNF−αに対する抗体として機能し、かつ、TNF−αを切断および/または分解することができる抗体酵素であるため、当該抗体酵素を用いることにより、効率よくTNF−αを分解することができる。それゆえ、本発明は、関節リウマチやCOPDのようにTNF−αの過剰産生により引き起こされる疾患の予防や治療に利用することができる。さらに、本発明は、TNF−αを利用する医療業、製薬産業、試薬産業、医療機器産業、食品産業等に幅広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(初回)した後の力価測定(初回免疫より9日後)の結果を示すグラフである。
【図2】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(2回目)した後の力価測定(初回免疫より23日後)の結果を示すグラフである。
【図3】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(3回目)した後の力価測定(初回免疫より37日後)の結果を示すグラフである。
【図4】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(4回目)した後の力価測定(初回免疫より52日後)の結果を示すグラフである。
【図5】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(最終)した後の力価測定(マウスIについては、初回免疫より43日後;マウスIIについては初回免疫より108日後)の結果を示すグラフである。
【図6】本実施例において、ETNF−1〜8抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図7】本実施例において、ETNF−9〜17抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図8】本実施例において、ETNF−1〜8抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図9】本実施例において、ETNF−9〜17抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図10】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖可変領域の立体構造を予測した結果を示す図である。
【図11】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図12】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖可変領域の立体構造を予測した結果を示す図である。
【図13】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図14】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるペプチド基質の分解をモニターした結果を示すグラフである。
【図15】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるペプチド基質の分解産物をHPLCにより経時的に分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図16】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるペプチド基質の分解をモニターした結果を示すグラフである。
【図17】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるペプチド基質の分解産物をHPLCにより経時的に分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図18】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるTNF−αの分解を電気泳動によりモニターした結果を示す図である。
【図19】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるTNF−αの分解を電気泳動によりモニターした結果を示す図である。
【図20】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるコントロールタンパク質(ミオグロビンおよびBSA)の分解をSDS−PAGE法によりモニターした結果を示す図である。
【図21】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるコントロールタンパク質(ミオグロビンおよびBSA)の分解をSDS−PAGE法によりモニターした結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体酵素およびその利用に関するものであって、特に、リウマチや慢性閉塞性肺炎疾患のようなサイトカインの産生異常により発症する疾患を予防または治療する目的で用いることが可能な抗体酵素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、自己成分が異物として認識されることにより、自己抗体が産生されたり、自己反応性リンパ球が出現したりする状態(自己免疫と呼ばれる)によって引き起こされる病態である。具体的には、通常、免疫系は体の中に侵入した細菌やウイルスを排除して体を防御するように働くが、自己に対して過剰な免疫応答を起こさない。つまり、自己成分は免疫寛容を獲得しているのである。しかし、自己免疫疾患では、免疫寛容に何らかの異常が生じているため、上記のような病態が引き起こされる。
【0003】
自己免疫疾患の代表的な疾患としては、例えば、慢性関節リウマチ、橋本病、全身性エリマトーデスなどを挙げることができる。
【0004】
上記自己免疫疾患のうち、慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis;以下、「RA」ともいう)は、多発性関節炎を主徴とする原因不明の慢性炎症性疾患である。日本全国でRA患者は70万人とも100万人ともいわれ、その数は高齢化に伴い年々増加する傾向がある。また、女性の患者が圧倒的に多く、RA患者の8割が女性といわれているが、その原因は分かっていない。
【0005】
RAの病因には、遺伝、免疫異常、内分泌、環境要因などが複雑に関与していると推測されている。しかし、はっきりとした病因は判明していない。病変の主座は関節滑膜であるが、進行すれば軟骨・骨を侵し、関節組織の破壊や変形へと至る。多くの関節が腫れ、そして痛みを伴い、歩くことをはじめ、日常生活動作が徐々に障害される難病である。関節以外に皮膚、肺、腎などの全身症状も伴うことも少なくない。病理組織学的には、リンパ球やマクロファージの炎症性細胞の浸潤、滑膜細胞の増殖などが起こるといわれている。
【0006】
RAの関節液あるいは滑膜細胞を用いた研究において、RAの病態には炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのアンバランスが原因であることが明らかにされている。さらに、その中心的役割をしているサイトカインは、腫瘍壊死因子(tumour necrosis factor;以下、「TNF」ともいう)のTNF−αであるといわれている。具体的には、RA患者の関節液では、TNF−αの濃度上昇が見られる。濃度が上昇したTNF−αは、(a)血管内皮細胞の接着分子の発現を誘導することにより、リンパ球などの白血球が炎症部位に浸潤するのを促進し、(b)滑膜細胞に作用して、様々な炎症性サイトカインを産生させ、(c)破骨細胞の分化・活性化を促進させることにより、関節破壊を誘発し、(d)線維芽細胞を活性化し、線維芽細胞を増殖させるといった作用を示すことにより、関節破壊、炎症の持続・慢性化を起こすと考えられている。
【0007】
RAの治療は、通常、RA病態の病状の進行度によって選択すべき治療手段が異なる。一般的に確定診断を下すことが困難なRA初期では、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を投与し、経過を慎重に観察しながら膠原病を含む他の自己免疫疾患との鑑別を同時に行う。RAがさらに進行し、RAとの確定診断が下されると、NSAIDに加えて疾患修飾性リウマチ薬(DMARD)を投与する。さらに、疼痛のための薬物療法と共に関節機能の維持・回復に対して理学療法・装具療法を行う。また、関節破壊により日常生活が不自由になった場合には、手術療法を行う場合もある。
【特許文献1】特表2003−535591号公報(平成15(2003)年12月2日公表)
【特許文献2】特表2005−522457号公報(平成17(2005)年7月28日公表)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特定疾患に指定されている疾患が多く存在することからも分かるように、自己免疫疾患は、一般的に根治することが困難な疾患である。そのため、自己免疫疾患の診断や治療および予防に関する研究はされているが、未だ十分とはいえないのが現状である。
【0009】
ところで、近年、上述したように自己免疫疾患ではT細胞、B細胞、マクロファージなどから様々なサイトカインが産生されていることが分かってきた。そのため、サイトカインを標的に自己免疫疾患の治療を行うことに注目が集まっており、抗サイトカイン療法の臨床応用が既に始まっている。例えば、サイトカインと特異的に結合し、その機能を阻害するモノクローナル抗体や、サイトカインの働きを阻害する可溶性受容体や拮抗物(アンタゴニスト)の利用が検討されている。より具体的には、特許文献1には、ヒトTNF−αに対して特異性を有する抗体分子を、TNF−αによって媒介される慢性関節リウマチまたは骨関節炎を治療するための医薬の製造に用いることが開示されている。
【0010】
また、サイトカインの産生異常との関連が知られている疾患は、自己免疫疾患だけではなく、例えば、慢性閉塞性肺炎疾患(以下、「COPD」ともいう)についても、サイトカインの産生異常と疾患との関連性が知られている。より具体的には、特許文献2には、プロ炎症性サイトカインまたは炎症性サイトカインカスケードにより引き起こされる炎症を低減する方法として、脊椎動物の脳ムスカリン性レセプターを活性化させることを含む、炎症性サイトカインカスケードにより媒介される慢性閉塞性肺疾患の危険性にあるか、または該疾患を有する脊椎動物においてTNFの放出を阻害する方法が開示されている。
【0011】
このように、サイトカインは、様々な疾患の病態に関与しており、現在、サイトカインを標的分子とした疾患の治療や予防に関する技術の開発が求められている。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、リウマチやCOPDのようなサイトカインの産生異常により発症する疾患を予防または治療する目的で用いることが可能な抗体酵素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、RAやCOPDの病態との関連性が知られているTNF−αに対する抗体酵素を製造可能であることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。
【0014】
(1)ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であり、かつ、上記TNF−αを分解することを特徴とする抗体酵素。
【0015】
(2)上記抗体酵素は、触媒三つ組残基構造を有することを特徴とする(1)に記載の抗体酵素。
【0016】
(3)上記抗体酵素は、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなることを特徴とする(1)または(2)に記載の抗体酵素。
【0017】
(4)上記軽鎖可変領域は、以下の(a)または(b)に記載のポリペプチドからなり、上記重鎖可変領域は、以下の(c)または(d)に記載のポリペプチドからなることを特徴とする(3)に記載の抗体酵素。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【0018】
(5)上記軽鎖可変領域は、配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなり、上記重鎖可変領域は、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなることを特徴とする(3)に記載の抗体酵素。
【0019】
(6)以下の(e)または(f)に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
(e)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(f)配列番号1または2のアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【0020】
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載の抗体酵素を含み、生体内におけるTNF−α量の増加を抑制することを特徴とする薬学的組成物。
【0021】
(8)(6)に記載のポリヌクレオチドを導入してなることを特徴とする形質転換体。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる抗体酵素は、以上のように、ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であり、かつ、当該TNF−αを分解するという構成を備えている。それゆえ、生体に投与した際、生体内のTNF−αを効率よく分解することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について以下により具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0024】
<1.TNF−α>
本発明にかかる抗体酵素は、後述するようにヒトTNF−αを抗原として得られる抗体である。そこで、まず、本発明の抗体酵素の抗原であるTNF−αについて以下詳細に述べることとする。
【0025】
TNF−αは19世紀末にWilliam Coleyによって発見されたサイトカインである。Coleyは細菌感染後に何人かの癌患者の腫瘍が退縮または消失していることを発見した。そこで細菌を投与し、癌の治療を試みたが一貫した結果が得られず、医学的治療とはなり得なかった。腫瘍を消失させる活性成分は、その後、LPS(エンドトキシン)と呼ばれる複雑な生体分子であることが示された。LPS自身には抗腫瘍活性を持っていない。LPSを投与された動物の血清には癌細胞に対して毒性を示す因子が含まれることが明らかにされた。LPSに対する反応の結果、特異的な細胞から産生されるこの因子がTNF(腫瘍壊死因子)である。
【0026】
腫瘍壊死因子はインターフェロン、インターロイキンとは異なるサイトカイン・ファミリーの調節タンパクである。TNF−αとTNF−βとの2種類のTNFが知られている。両方とも同じ受容体に結合し同様の広い生物的反応を誘導するが、両者の相同性は、30%以下と低い。特に腫瘍壊死因子としてのTNFは、より正確にはTNF−αを指す。TNF−αはカケクチン(cachectin)としても知られている。
【0027】
TNF−αの主な生物学的活性としては、食細胞の活性化、直接的または関節的な炎症の促進、形質転換細胞に対する細胞障害、IL−1、IL−6、IL−8、コロニー刺激因子などのサイトカイン合成および産生の誘導が挙げられる。また、全身的に高濃度なTNF−αは、敗血症ショックや、自己免疫疾患を誘導する。
【0028】
また、生物学的に活性なヒトTNF−αは、3つの同じポリペプチド・サブユニットが3回転軸対称で強く結合したホモトリマー(ホモ3量体)である。モノマーは生物学的に不活性であり、17.3kDaの分子量をもつ。なお、TNF−αの特性については、下記の表1にまとめている。
【0029】
【表1】
【0030】
上記ヒトTNF−αとしては、具体的には、NCBIアクセション番号CAA26669や、NP_000585に登録されているアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモ3量体を挙げることができる。
【0031】
本発明において用いるヒトTNF−αを取得する方法は特に限定されるものではないが、例えば、市販品を購入することにより取得することができる。また、従来公知の遺伝子組み換え技術等を用いて製造して用いてもよい。例えば、上記例示したアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子をベクター等に組み込んだ後、発現可能に適当な宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたポリペプチドを精製する等の方法により製造することができる。さらに、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成したり、無細胞系のタンパク質合成液を利用して合成したりすることもできる。
【0032】
さらに、本発明においては、上記例示したTNF−αのアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上述したようなヒトTNF−αの生理活性を有するポリペプチド、換言すれば、変異ヒトTNF−αをヒトTNF−αとして用いることもできる。
【0033】
このような変異ヒトTNF−αの取得方法も特に限定されるものではなく、例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, Gene 152,271-275(1995)他)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し、変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いて製造することにより、取得することができる。
【0034】
また、本発明においては、上述したヒトTNF−αや変異ヒトTNF−αに加えて、それらのペプチド断片を抗原として用いてもよい。このようなペプチド断片を得る方法も特に限定されるものではない。例えば、上述しような方法で取得したヒトTNF−αや変異ヒトTNF−αを適当なプロテアーゼを用いて目的とするペプチド断片が得られるように切断すればよい。また、予め設計したペプチド断片をコードする遺伝子を上述したように従来公知の方法で発現させることにより製造してもよい。また、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成したり、無細胞系のタンパク質合成液を利用して合成したりすることもできる。
【0035】
以上のようなヒトTNF−αやそのペプチド断片を抗原として用いることにより、後述する本発明にかかる抗体酵素を製造することができる。
【0036】
<2.本発明にかかる抗体酵素>
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であって、かつ、当該TNF−αを分解する活性を有する抗体酵素であればよい。
【0037】
本明細書において、「抗体酵素」とは、抗体でありながら酵素作用を有するものであり、その中でも特に、その抗原タンパク質を標的として高い分解活性を示すものは「スーパー抗体酵素」と呼ばれる。上記「スーパー抗体酵素」は、標的としたタンパク質を完全分解することができ、しかも天然型酵素に近い活性を有する(Super Catalytic Antibody [I] : Decomposition of targeted protein by its antibody light chain. Hifumi, E., Okamoto, Y., Uda, T., J. Biosci. Bioeng., 88(3), 323-327 (1999)を参照)。つまり、本発明にかかる抗体酵素は、TNF−αを抗原とする抗体であり、当該TNF−αを完全分解するため、「スーパー抗体酵素」に含まれるものである。また、本明細書における「抗体酵素」には、抗体の断片であって、当該抗体の抗原を認識し、当該抗原を分解する活性を有するものも含まれる。
【0038】
また、本明細書において、「抗体の断片」とは、抗体を構成する各ペプチド鎖、例えば、軽鎖(以下、「L鎖」ともいう)や重鎖(以下、「H鎖」ともいう)を意味する。さらに、「抗体の断片」には、上記各ペプチド鎖内の一部の領域のペプチド断片、例えば、軽鎖可変領域や重鎖可変領域、およびそれら可変領域を含むペプチド断片も含まれる。
【0039】
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトTNF−αに対するポリクロナール抗体であってもよいが、ヒトTNF−αに対するに対するモノクローナル抗体であることがより好ましい。これにより、当該TNF−αに対する特異性の高い抗体酵素を得ることができる。
【0040】
また、本発明にかかる抗体酵素が認識するTNF−αは、ヒトTNF−αに限定されるものではなく、ヒトTNF−αに加えて、その他のあらゆる生物由来のTNF−αを認識してもよい。
【0041】
本発明にかかる抗体酵素は、ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であると同時に、当該TNF−αを分解する活性を有する。すなわち、本発明にかかる抗体酵素はTNF−αを特異的に認識する抗体としての性質と、認識したTNF−αを切断および/または分解する酵素としての性質を併せ持つ。それゆえ、TNF−αの分解活性を有さない抗体では、抗体1分子に対して、1分子または2分子のTNF−αが結合するだけであるが、本発明の抗体酵素では、抗体酵素1分子に対して、TNF−αが次から次に結合しては分解されるという反応を繰り返す。したがって、本発明にかかる抗体酵素のTNF−αを分解する能力は、TNF−αの分解活性を有さない抗体のそれの数百倍あるいは数千倍に達する。
【0042】
このように、TNF−αに対する高い分解活性を有する本発明の抗体酵素を生体に投与することにより、TNF−αが過剰に産生された場合であっても、TNF−αの過剰な蓄積を抑制することができ、RAやCOPDのようなTNF−αの過剰産生が発症の原因となる疾患の予防や治療に寄与することが期待できる。すなわち、本発明には、本発明にかかる抗体酵素を含み、生体内におけるTNF−α量の増加を抑制することができる薬学的組成物も含まれる。
【0043】
また、本発明にかかる抗体酵素は、抗体であると同時に酵素であるため、酵素センサの構築が可能である。このように、本発明にかかる抗体酵素は、抗原の分解活性を有さない通常の抗体よりも応用範囲が広い。なお、本発明にかかる抗体酵素の酵素活性は、ヒトTNF−α以外に、他の生物由来のTNF−αをも切断および/または分解するものであってもよい。
【0044】
本発明にかかる抗体酵素は触媒三つ組残基構造を有することが好ましい。なお、「触媒三つ組残基構造」とは、少なくともセリンを含む3つのアミノ酸残基が活性部位に含まれ活性中心を形成していると推定される構造のことをいう。この触媒三つ組残基構造を有するプロテアーゼは、活性部位にセリンが含まれることからセリンプロテアーゼと呼ばれる。したがって、本発明にかかる抗体酵素はセリンプロテアーゼの一種であるということもできる。この触媒三つ組残基と推定される構造を有していれば、プロテアーゼとして高い活性を有していると予測できる。発明者らは、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有するマウス由来抗体酵素を用いて、その性質や構造の特徴を詳細に解析した結果、ペプチドや抗原タンパク質を切断および/または分解する活性を有する抗体酵素は、いずれもその立体構造中に、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とが立体構造上近接して存在することを明らかにした(例えば特開2004−97211号公報(平成16年4月2日公開)参照)。ここで、「立体構造上近接して存在する」とは、セリン残基と、アスパラギン酸残基と、ヒスチジン残基またはグルタミン酸残基とのCα間の距離が、少なくとも3〜20Åの範囲内、好ましくは、3〜10Åの範囲内にあることを意味する。
【0045】
本発明にかかる抗体酵素が、上記「触媒三つ組残基構造」を有するか否かを調べる方法は、特に限定されるものではない。例えば、X線回折による立体構造決定法のように、実際に当該抗体酵素の立体構造を決定する方法を用いて、「触媒三つ組残基構造」の有無を調べることができる。また、当該抗体酵素の一次構造、すなわち当該抗体酵素のアミノ酸配列をもとに、タンパク質の立体構造予測ソフトウェアを用いて、当該抗体酵素の立体構造を予測することによって、「触媒三つ組残基構造」の有無を調べることもできる。
【0046】
上記抗体酵素は、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなることが好ましい。この「可変領域」とは、抗体を構成するH鎖およびL鎖のうち、N末端から約110残基のアミノ酸からなる部分のことである。この可変領域は、抗体の種類によって一次構造に多様性が見られ、抗体が酵素としての活性を有する場合にその活性中心が含まれている可能性が高い。それゆえ、本発明にかかる抗体酵素が抗体の可変領域を含めば、酵素として高い活性を有していると予測できる。
【0047】
本発明において、上記軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、ヒトTNF−αに対する抗体の軽鎖および重鎖の可変領域であればよく、特に限定されるものではない。上記軽鎖可変領域を構成するポリペプチドとしては、例えば、(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、および(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0048】
また、上記重鎖可変領域を構成するポリペプチドとしては、(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、および(d)配列番号2のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0049】
なお、本明細書において、「1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されることを意味する。このように、上記(b)および(d)のポリペプチドは、それぞれ、上記(a)および(c)のポリペプチドの変異体であるといえる。なお、ここでいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、自然発生的に生じた変異であってもよい。
【0050】
上述したように、本発明にかかる抗体酵素は、その一実施形態として、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなるものである。したがって、本発明にかかる抗体酵素の具体例としては、上記例示したポリペプチドを挙げることができる。なお、配列番号1に示すアミノ酸配列は、後述する実施例において製造した抗体酵素であるETNF−6抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号2に示すアミノ酸配列は、当該抗体酵素であるETNF−6抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。図13にETNF−6抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を、図11にETNF−6抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。図13に示すように、ETNF−6抗体の軽鎖可変領域は、下線を付して示す3つの相補性決定領域(complementarity determing region、以下「CDR」ともいう)、具体的にはCDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち、ETNF−6抗体の軽鎖可変領域は、配列番号1に示されるアミノ酸配列の24番目から38番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号1に示されるアミノ酸配列の54番目から60番目のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号1に示されるアミノ酸配列の93番目から101番目のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。
【0051】
また、図11に示すように、ETNF−6抗体の重鎖可変領域もまた、下線を付して示すCDR1、CDR2、CDR3を有している。すなわち、ETNF−6抗体の重鎖可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の31番目から35番目のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列の50番目から66番目のアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号2に示されるアミノ酸配列の99番目から108番目のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。
【0052】
また、本発明にかかる抗体酵素には、ヒトTNF−αに対する抗体の断片であって、上記抗体の可変領域を含み、かつ、TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有する抗体の断片が含まれる。上記可変領域は、重鎖可変領域であっても、軽鎖可変領域であってもよい。また、上記重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、かかる可変領域をヒトその他の動物の抗体に移植してキメラ抗体を作製するために好適に用いることができる。
【0053】
本発明において用いることが可能な抗体の断片としては、例えば、上述の(a)〜(d)のいずれかのポリペプチドや、これらのポリペプチドのアミノ酸配列を含む抗体の断片を挙げることができる。
【0054】
また、本発明には、上記抗体酵素をコードする遺伝子も含まれる。本発明にかかる遺伝子としては、具体的には、例えば、配列番号3または4に示される塩基配列からなる遺伝子、またはこれらを含む遺伝子を挙げることができる。配列番号3に示される塩基配列は、後述する実施例において製造した抗体酵素であるETNF−6抗体の軽鎖可変領域をコードする遺伝子であり、配列番号4に示される塩基配列は、上記ETNF−6抗体の重鎖可変領域をコードする遺伝子である。
【0055】
本発明にかかる遺伝子を適当な宿主に発現可能に導入することにより、本発明の抗体酵素を宿主内で発現させることができる。また、本発明の抗体酵素の可変領域、またはそのCDRを組み込んだ可変領域は、そのまま発現させてもよいが、定常領域をコードする遺伝子と連結してキメラ抗体酵素として発現させることもできる。
【0056】
なお、本明細書において「遺伝子」との用語は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用される。「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)を包含する。さらに、上記「遺伝子」は、本発明の抗体酵素をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む。)等の配列を含むものであってもよい。
【0057】
「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA、プラスミドDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、真核生物のゲノム中に含まれる形態であるイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、原核生物由来のイントロンなどの非コード配列を含まない「ゲノム」形DNAであってもよい。また、逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロンなどの非コード配列を含まない「転写」形DNAであってもよい。また、細胞がゲノムDNAとは別に保持しうる低分子量の環状DNAである「プラスミド」形DNAであってもよい。
【0058】
また、「核酸」なる語には、任意の単純ヌクレオチドおよび/または修飾ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド、例えばcDNA、mRNAおよびhnRNAを含む全RNA等が含まれる。「修飾ヌクレオチド」には、イノシン、アセチルシチジン、メチルシチジン、メチルアデノシン、メチルグアノシンを含むリン酸エステルの他、紫外線や化学物質の作用で後天的に発生し得るヌクレオチドも含まれる。
【0059】
「塩基配列」との用語は、「核酸配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(それぞれA、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの「塩基配列」は、DNA分子またはポリヌクレオチドに対してのデオキシリボヌクレオチドの配列を意図し、そしてRNA分子またはポリヌクレオチドに対してのリボヌクレオチド(A、G、CおよびU)の対応する配列(ここで特定されるデオキシヌクレオチド配列における各チミジンデオキシヌクレオチド(T)は、リボヌクレオチドのウリジン(U)によって置き換えられる)を意図する。
【0060】
また、本発明にかかる遺伝子は、配列番号3または4に示される塩基配列と必ずしも同一である必要はなく、配列番号3または4に示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズし、かつ、TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有する抗体酵素をコードする遺伝子であってもよい。
【0061】
上記「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズ」するとは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の具体的な例として、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(すなわち、ハイブリダイズし難くなる)。
【0062】
<3.本発明にかかる抗体酵素の製造方法>
本発明にかかる抗体酵素は、例えば、TNF−αを抗原ペプチドとして、免疫したマウス等の免疫動物の脾臓細胞と、マウスのミエローマ細胞等の融合パートナーとを融合させてなるハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を産生することにより製造することができる。重鎖、軽鎖を得る場合には、得られたモノクローナル抗体を重鎖と軽鎖とに分離すればよい。また、本発明の抗体の断片を得る場合には、まず該当するモノクローナル抗体を取得し、その後、上記モノクローナル抗体を適当なプロテアーゼを用いて目的とする抗体の断片が得られるように切断すればよい。また、ファージディスプレイ法で得られる抗体であってよい。
【0063】
モノクローナル抗体の取得は通常のハイブリドーマ法(Kohler, G. and Milstein, C., Nature 256, 495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor, Immunology Today 4, 72(1983))、EBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss, Inc.,77-96(1985))等により行なわれる。
【0064】
また、上記抗原ペプチドには、上述したTNF−αまたはTNF−αのペプチド断片を用いればよい。
【0065】
さらに、アミノ酸配列が明らかになっている抗体酵素については、従来公知の遺伝子組み換え技術等を用いて本発明の抗体酵素を製造することができる。この場合、上記抗体酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子をベクター等に組み込んだ後、発現可能に適当な宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたペプチドを精製する等の方法を用いることができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記抗体酵素をコードする遺伝子を組み込めば、目的とする抗体酵素を効率よく製造することができる。
【0066】
また、上述の(b)または(d)のポリペプチドのように、変異型のポリペプチドを作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的突然変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, Gene 152,271-275(1995)他)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し、変異タンパク質を作製する方法、あるいはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異タンパク質作製法を用いることができる。これら方法を用いることによって、上記(b)や(d)のポリペプチドをコードするcDNAの塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加されるように改変を加えることによって作製することができる。また、変異型のポリペプチドの作製には、市販のキットを利用してもよい。
【0067】
さらに、本発明にかかる抗体酵素の取得方法は、上述に限定されるものではなく、例えば、市販されているペプチド合成器等を用いて化学合成されたものであってもよい。また別の方法としては、無細胞系のタンパク質合成液を利用して、本発明にかかる遺伝子から本発明にかかるポリペプチドを合成してもよい。
【0068】
<4.本発明にかかる形質転換体>
本発明にかかる形質転換体は、本発明にかかる遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。また、上記「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
【0069】
本発明に係る形質転換体の作製方法(生産方法)は、本発明にかかる遺伝子を含む組換え発現ベクターを形質転換する方法を挙げることができる。
【0070】
上記組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
【0071】
ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主(ホスト)細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかる遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。かかる発現ベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクター、及びウイルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント、ウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、及びレトロウイルス)、並びにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミド及びファージミド)を利用可能である。
【0072】
より具体的には、細菌における使用に好ましいベクターの中には、例えば、pQE70、pQE60、及びpQE−9(Qiagenから入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratageneから入手可能);並びにptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。
【0073】
また、好ましい真核生物ベクターの中には、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、及びpSG(Stratageneから入手可能);並びにpSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。
【0074】
植物における使用に好ましいベクターの中には、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)、「pTA7001」、「pTA7002」(Aoyama ら(1997) Plant J. 11:605) 、「pPZP211」(Hajdukiewicz et al., Plant Mol. Biol. 25:989(1994)などが含まれる。
【0075】
また、形質転換の対象となる生物(宿主生物)も特に限定されるものではなく、従来公知の各種生物およびそれら由来の細胞を好適に用いることができる。適切な宿主の代表的な例としては、菌体(例えば、E. coli細胞、Streptomyces細胞、及びSalmonella typhimurium細胞);真菌細胞(例えば酵母細胞);昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞及びSpodoptera Sf9細胞);動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、及びBowes黒色腫細胞);並びに植物細胞(例えばシロイヌナズナ、タバコなどの双子葉植物、イネ、オオムギなどの単子葉植物)が挙げられる。
【0076】
本発明にかかる好ましい形質転換体としては、本発明にかかる遺伝子を、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、宿主細胞に発現可能に導入した形質転換体が挙げられる。
【0077】
さらに、形質転換する方法についても特に限定されるものではなく、宿主生物の種類に応じた従来公知の方法を用いることができる。例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション法、感染法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、リポソーム法、適切なベクター系を用いた導入法等を例に挙げることができる。
【0078】
このようにして得られる形質転換体は、本発明にかかるポリペプチドを産生することができる。これらポリペプチドは、従来公知の方法により、当該形質転換体生物から抽出、精製することができる。
【0079】
当該ポリペプチドを抽出、製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、硫安沈殿又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、及びレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって組換え細胞培養物から回収され、そして精製され得る。
【0080】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0081】
本発明について、実施例および図1〜21に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例における抗体の力価、抗体産生細胞(ハイブリドーマ)のクローニングは以下の方法に従って行った。
【0082】
〔ELISAによる力価測定〕
抗原(TNF-α)をPBSに溶解し、4μg/mlの抗原溶液を調整した。96穴イムノプレートに上記抗原溶液を50μlずつオクタピペットを用いて入れた。その後、4℃で一晩反応させた(コーティング)。
【0083】
翌日、プレートを室温に戻し、イムノウォッシャーを用いて0.05%のTween20を含むPBS(以下、「PBS−T」ともいう)でプレートを2回洗浄した。洗浄したプレートをキムタオルの上に逆さに置き、軽く叩いてウェルの中の水分を除去した。全てのウェルに2%ゼラチン/PBSを130μlずつ入れ、30〜60分間、室温でインキュベーションした(ブロッキング)。
【0084】
ブロッキングの間に、一次反応の準備を行った。免疫マウスから採血を行った抗血清をまず1/50に希釈し、そこから3倍連続希釈を7点行い、1サンプルにつき8種類の希釈液を作製した。また、未処理マウスの血清も同様に希釈を行い、コントロールとして使用した。
【0085】
ブロッキング後、PBS−Tでプレートを2回洗浄し、水分を除去した。その後、ブロッキング中に作製したそれぞれの血清希釈液を50μlずつウェルに入れ、60分間インキュベーションした(一次反応)。
【0086】
一次反応後、PBS−Tでプレートを2回洗浄し、水分を除去した。次に、PBS−Tで希釈調製したアルカリフォスファターゼ(ALP)標識抗マウス抗体を50μlずつウェルに入れ、60分間室温でインキュベーションした(二次反応)。
【0087】
二次反応後、PBS−Tでプレートを2回洗浄し、水分を除去した。次に、ALP基質タブレットをALP基質緩衝液で溶かし、各ウェルに100μlずつ入れ、30分間インキュベーションした。インキュベーション後、λ1=405nm、λ2 =620nmに設定したイムノリーダーで吸光度を測定した。X軸に抗体の希釈割合(Dilution)、Y軸に吸光度をとったグラフを作成し、力価を測定した。
【0088】
〔限界希釈法によるクローニング〕
まず、6ml滅菌チューブおよび14ml滅菌チューブを各2本ずつ用意した。6ml滅菌チューブの一方をA、もう一方をBとした。14ml滅菌チューブの一方にはHCF添加HAT培地を3.9ml分注し、もう一方にはHCF添加HAT培地を2.4ml分注した。HCF添加HAT培地を3.9ml分注したチューブをC、2.4ml分注したチューブをDとした。
【0089】
クローニングしたいウェルの細胞をマイクロピペットでピペッティングし、その懸濁液から50μlをAに入れた。
【0090】
これとは別に、上記懸濁液から50μlを採取し、トリパンブルー50μlと混合した後、血球計算盤で細胞数をカウントした。その計測した結果を用いて、最終的な細胞濃度が2×103個/mlになるように、必要量のHAT培地をBに入れた。
【0091】
次に、上記Aに1mlのHAT培地を加え、そこから100μlを上記Bに移し、よくピペッティングを行った。その後Bから100μlを採取し、それをCに移し、ピペッティングを行った。その後、Cから600μlを採取し、それをDに移し混合した。このようにして得られたCおよびDに入った細胞懸濁液をそれぞれ100μlずつ96穴プレートに分注し、インキュベーターで培養を開始した。7日後に培地の添加を行い、その後は、3日ごとに培地の交換を行った。
【0092】
7日目を過ぎたあたりからコロニーのチェックを行い、コロニーが形成されたウェルのスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、同じプレート内でTNF−αに対して最も反応が高いシングルコロニーをクローニングした。コロニーが形成されたウェルが全て陽性になるまで、上記の方法でスクリーニングとクローニングとを繰り返し行った。
【0093】
〔実施例1:抗TNF−α抗体の製造〕
(1.マウスの免疫)
免疫に用いた抗原タンパクとして、Recombinant Human TNF-α(Strathmann Biotec AG社製,hTNFa-1000,Lot.090590)を用いた。また、免疫する動物として、Balb/cマウス(雌6週齢)を2匹用いた。
【0094】
まず、クリーンベンチ内にFCA(Freund’s complete adjuvant)、抗原(Recombinant Human TNF-α)、ルアーロック式シリンジを2本、注射針(19G)を2本、および三方活栓を用意した。上記シリンジに注射針をセットし、FCAを必要量より少し多めにとり、三方活栓に取り付けた。0.5mg/mlに調製した抗原をFCAと同様にシリンジにとり、三方活栓に取り付けた。三方活栓で繋いだシリンジをクリーンベンチから取り出し、抗原側、FCA側それぞれのシリンジ先端に残った空気を抜いた後に、water in oilの要領でFCAと抗原とを混合した。2本のシリンジをそれぞれ交互に押し、FCAと抗原とをよく混合した。その後、4℃で静置した。白い乳液状になるまでこの操作を繰り返し、FCAと抗原とを混合した。
【0095】
次に、片方のシリンジに混合した溶液を集め、シリンジを三方活栓から外し25Gの注射針を取り付けた。マウスの腹部をアルコール綿で拭いて消毒し、腹部皮下の2箇所に100μlずつ投与した。なお、注射針はマウスごとに交換しなかった。また、マウス1匹あたりの抗原投与量は50μgであった。
【0096】
免疫注射から10日後にマウスの採血を行い、上述の手順で、ELISA法により力価測定を行った。
【0097】
初回免疫から約2週間後に追加免疫を行った。2回目からは不完全フロイントアジュバント(FIA)を用いた。免疫方法は初回免疫と同様とし、マウス1匹あたりの抗原投与量は50μgとした。追加免疫から10日後、眼窩静脈叢より採血を行い、ELISA法により力価測定を行った。
【0098】
同様の方法で、マウスIには、さらにもう1回追加免疫(合計3回目免疫)を行い、力価測定を行った。また、マウスIIについては、さらに2回追加免疫(合計4回目免疫)を行った。
【0099】
追加免疫後、力価が十分上がったマウス(3回目免疫後のマウスI、4回目免疫後のマウスII)に最終免疫を行った。最終免疫は滅菌PBSで0.5mg/mlに調製した抗原をマウス尾静脈または腹腔内に投与した。なお、本実施例の免疫スケジュールを表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
上記のように免疫したマウスから採取した血清の力価測定結果を図1〜図5に示す。図1〜図5に示すように、マウスI、IIともに順調に力価が上がり、3回目免疫後には細胞融合が可能な力価まで上がった(図3を参照)。マウスIIについては、最終免疫後の力価は、4回目免疫後力価よりも落ちていたが、細胞融合するのに十分な力価を保っていた(図4および図5を参照)。
【0102】
こうして得られた免疫マウスを用いて、最終免疫の3〜4日後に後述の細胞融合を行った。
【0103】
(2.細胞融合)
上記免疫マウスの首を切断することにより全採血を行った。採取した血液は4℃に一晩静置後、翌日、3000rpm、4℃で、10分間遠心分離を行うことにより、血清を回収し、力価測定を行った。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
次に、上記マウスを消毒して解剖後、脾臓を摘出した。摘出した脾臓を洗浄用MEM培地が5ml入ったシャーレに移した。脾臓に付着している脂肪などの余分な組織を取り除き、洗浄した。洗浄した脾臓を新しいMEM培地が5ml入ったシャーレに移し、擦りガラス板で脾臓をまず3等分した。擦りガラスを2枚合わせて、3等分にした脾臓を1つずつ擦りながら脾細胞を取り出し、シャーレに入れた。
【0106】
次に、上記脾細胞を、50ml遠心チューブの上にのせたろ過フィルターに注いだ。さらに上記脾細胞が入っていたシャーレを5mlのMEM培地で共洗いし、上記脾細胞がシャーレに残らないよう遠心チューブに移した。その後、上記脾細胞を1400rpmで6分間遠心分離した(1回目の洗浄)。脾細胞の遠心分離を行っている間に、予め培養していたミエローマ細胞(NS−1)を回収し、50mlの遠心チューブに移した。上記脾細胞の遠心分離が終了後、上記ミエローマ細胞を1400rpmで6分間遠心分離した(培地の除去)。
【0107】
1回目の洗浄を終えた脾細胞の上清をアスピレーターで吸引除去し、30mlのMEM培地をピペッティングしながら加え、ペレットをほぐした。上記ミエローマ細胞についても同様に上清を吸引除去し、30mlのMEM培地で懸濁した。
【0108】
上記のように懸濁した脾細胞およびミエローマ細胞を1400rpmで6分間遠心分離した(脾細胞は2回目の洗浄、ミエローマ細胞は1回目の洗浄)。遠心分離終了後、脾細胞およびミエローマ細胞の上清を吸引除去し、30mlのMEM培地で懸濁後、1400rpmで6分間遠心分離を行った(脾細胞は3回目の洗浄、ミエローマ細胞は2回目の洗浄)。遠心分離後、上清を吸引除去し、10mlのMEM培地に細胞を懸濁した。
【0109】
次に、脾細胞およびミエローマ細胞のそれぞれの懸濁液について、血球計算盤を用いて細胞数をカウントした。その後、表4に示すように、細胞数の比が脾細胞:ミエローマ細胞=5:1になるように、必要なミエローマ細胞数を脾細胞が入った遠心チューブに移した。
【0110】
【表4】
【0111】
脾細胞およびミエローマ細胞の混合懸濁液を十分に撹拌後、1400rpmで6分間遠心分離を行い、上清を除去した。上清除去後、遠心チューブを軽く叩きつけて、ペレットをほぐした。その後、ペレットの入った遠心チューブを激しく振り続けながら、1mlのPEGを1分間かけて1滴ずつゆっくりと加えた。PEGを添加後、さらに1分間遠心チューブを振り続けた。その後、遠心チューブを振り続けながら、1mlのMEM培地を1分間かけて加えた。再度、同様に1mlのMEM培地を1分間かけて加えた。次に、遠心チューブを振り続けながら、7mlのMEM培地を3〜4分間かけてゆっくり加えた。その後、800rpmで6分間遠心分離を行い、上清を吸引除去した。上清除去後、遠心チューブを叩きつけてペレットをほぐした。その後、まず、5mlのHAT培地をペレットに勢いよく吹き付け、ペレットを崩した。次に、マウスIでは33ml、マウスIIでは57mlのHAT培地をピペッティングせずに加えた。この細胞懸濁液を滅菌処理済の96穴プレートに100μlずつ播き、37℃のCO2インキュベーターで培養開始した。3〜4日後にHAT培地を5mlのピペットを用いて2滴ずつ添加した。そして、7日後には培地の交換を行った。
【0112】
細胞融合後の7日目頃からコロニー確認を行ったところ、最終的にマウスIおよびマウスIIともに全てのウェルでコロニー形成が確認された。すなわち、細胞融合効率は100%であった(表4を参照)。
(3.スクリーニングおよびクローニング)
そこで、それら全てのウェルの上清を用いて、スクリーニングを行った。スクリーニングは、上述したELISA法による力価測定の方法の一部条件を変更した方法を用いて行った。変更点は、具体的には、(1)コーティングに使用する抗原をTNF−αの他に、HSAおよびIgG(濃度はどちらも4μg/mlとした)を用いた、(2)コーティング後の洗浄は行わず、アスピレートのみを行った、(3)コロニーが確認できたウェルの上清を96穴U底プレートに入れ、PBS−Tで1/2に希釈したものを一次反応に用いた、(4)一次反応の陽性コントロールとして細胞融合時の抗血清を、陰性コントロールとして、PBS−Tで1/2に希釈したHAT培地を用いた点である。一次スクリーニングの結果、マウスIでは陽性ウェル数が27ウェル、マウスIIでは陽性ウェル数は9ウェルであった(表5を参照)。そのうち、マウスIの14ウェル、マウスIIの9ウェルについて、上述の限界希釈法によるクローニングを行った。なお、TNF−αに対して吸光度が0.1以上のものを陽性とした。また、限界希釈法によるクローニングの結果、陽性ウェル100%が2回連続した株を、TNF−αに対するモノクローナル抗体産生株(以下、「抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマ」ともいう)とした。
【0113】
その結果、最終的に確立した抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマはマウスIで13株、マウスIIで4株の計17株となった(表5を参照)。これらのハイブリドーマをETNF−1〜17とし、各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体をETNF−1〜17抗体とした。
【0114】
【表5】
【0115】
次に、上記抗体ETNF−1〜17抗体について、Iso StripTM マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキットを用いてアイソタイプ決定を行った。結果を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
(4.タンパク質との交差反応試験)
上記抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマの培養上清を用いて、ETNF−1〜17抗体の各種タンパクに対する反応性をELISA法によって調べた。タンパク質には、TNF−α、TNF−β、ヒトIgA(図6および図7ではH−IgAと表記する)、ヒトIgM(図6および図7ではH−IgMと表記する)、ヒトIgE(図6および図7ではH−IgEと表記する)、ヒト血清アルブミン(図8および図9ではHSAと表記する)、ヒトヘモグロビン(図8および図9ではH−hemoと表記する)、ウシ血清アルブミン(図8および図9ではBSAと表記する)、Keyhole Lympet Hemocyanine(図8および図9ではKLHと表記する)を用いた。図6〜図9に示すように、ETNF−1、3〜7、9〜14抗体は高い反応特異性を示した。ETNF−2および16抗体はヒトIgAおよびIgEに対して交差反応した。また、ETNF−8、15、および17抗体には非特異的な反応が認められた。
【0118】
〔実施例2:ETNF−6抗体の可変領域の塩基配列およびアミノ酸配列の決定〕
以下に示す方法で、実施例1の抗TNF−α抗体(ETNF−6抗体)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列を決定した。さらに、上記塩基配列から、当該抗TNF−α抗体の可変領域の推定アミノ酸配列を決定した。
【0119】
(1.抗体産生細胞の培養)
抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマは、培養温度37℃、CO2濃度5.5%で20%FCSを含むIMDM培地で1×107〜5×107細胞が得られるまで培養した。培養後の細胞培養液を50ml遠心チューブに移し、1400rpmで6分間遠心分離することにより、細胞を回収した。培地をアスピレーターにて除去後、10mlのPBSに懸濁し、1つのチューブにまとめて再度1400rpmで6分間遠心分離を行った。上清を吸引除去後、再度10mlのPBSに懸濁して血球計算盤を使用し細胞数をカウントした。
【0120】
カウント後、1×107〜5×107細胞分の細胞懸濁液を採取し、再度1400rpmで6分間遠心分離を行った。上清を除去後、ペーパータオル上で逆さにし完全に液を切った。アスピレートが不十分であれば、再度遠心し、マイクロピペットで残ったPBSを除去した。
【0121】
(2.mRNAの抽出と精製)
mRNAの抽出はQuickPrepTMmRNA purirfcation Kit (amershampharmacia biotect)を用いて、推奨プロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。
【0122】
まず、Extraction bufferを37℃のインキュベーターに約30分間静置し、結晶を完全に溶解させた。こうして得られたExtraction buffer 1.5mlを上記(1.抗体産生細胞の培養)で回収した細胞のペレットに添加した。そして、21Gの針に数回通すことで細胞を破砕した。その後、その破砕溶液に3mlのElution bufferを加え、さらに細胞を破砕した。こうして得られた破砕溶液をRNase freeの 1.5mlマイクロチューブ4本に分注した。その後、室温(25℃)、18000×gで、20分間遠心分離を行い、その上清を後述のoligo(dT)-cellulose spin columnに添加するサンプルとした。
【0123】
mRNAの単離は、まず、oligo(dT)-cellulose spin columnの樹脂を懸濁し、上下のキャップを外して15ml遠心チューブにセットし、1300rpmで1分45秒間遠心分離を行って保存液を除去した。そして、下キャップを装着し、タンパク質およびDNAが除去された上記サンプル(上清)を4ml添加した。その後、上キャップをしっかりと取り付け、oligo(dT)-cellulose spin columnの樹脂を懸濁した後、10〜15分間、転倒混和し、樹脂にmRNAを吸着させた。そして、上下のキャップを装着し、1400rpmで、1〜2分間遠心分離を行った。その後、上のキャップを取り、RNase freeのマイクロピペットを使用し、上清を除去した。そこに、3mlのHigh-salt bufferを添加し、緩やかに2分間ほど混和した。その後、上キャップを装着し、1400rpmで2分間遠心分離を行い、上清を除去した。さらにこの操作を2回繰り返した。
【0124】
次に、3mlのLow---salt bufferを添加して緩やかに1〜2分間程度懸濁した後、キャップを装着し、15mlチューブに入れ、1400rpmで、2分間遠心分離を行った。そして、生じた上清を除去した。その後、下のキャップを外し、スピンカラムの表面が平らになるように、3mlのLow-salt bufferを壁に添わせながら回し入れた。その後、15mlチューブに設置し、1300rpmで、2分間遠心分離を行った。
【0125】
次に、新しい15ml遠心チューブを用意し、mRNA回収用の1.5mlマイクロチューブ2個の蓋をハサミで切断後、遠心チューブに重ねて入れ、溶出用チューブとした。溶出用チューブにカラムを入れ、そこに65℃に加熱していた0.25mlのElution bufferを回し入れるように添加した。その後、1300rpmで、2分間遠心分離を行った。この操作を2回繰り返した。溶出液は、mRNA画分として1.5mlマイクロチューブ2本に回収し、氷上に静置した。別に定量用のマイクロチューブを準備し、10μlのmRNA画分を取り、70μlのElution bufferを加え、希釈した(1/8希釈)。その希釈した溶液を用いて、吸光度ブランクをElution Bufferとして、A260およびA280を測定した。なお、セルは測定前に予め、塩酸:メタノール=1:1の溶液に1時間ほど浸し、RNase freeにし、DEPC処理水で洗浄しておいた。また、RNAの濃度は下記式を用いて算出した。
【0126】
RNAの濃度(μg/ml)=A260×希釈率×40
次に、2等分され、氷上に静置しておいたmRNA画分(mRNA抽出溶液)に、1/10量の3M酢酸カリウム、1/50量のグリコーゲン、2.5倍量の95%エタノールを加えて攪拌した。その後、−30℃に約40分間置き、その後、4℃、15000rpmで、5分間遠心分離した後、−80℃で保存した。
【0127】
なお、実験に用いたガラスおよび金属類(実験器具)には、240℃で2時間乾熱滅菌したものを用い、プラスチック類の実験器具にはRNase freeおよびDNase freeのものを用いた。
【0128】
(3.mRNAからのFirst strand cDNAの合成)
−80℃でエタノール沈澱の状態で保存していたmRNAを取り出し、4℃、15000rpmで10分間遠心分離し、マイクロピペットで上清を除去した。
【0129】
その後、1mlの氷冷した75%エタノール(予めDEPC処理水で調製し、−30℃に用意しておいた。)をペレットのない側からそっと加えてリンスし、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行い、その後、マイクロピペットで上清を除去した。そして、15分間真空乾燥を行い、0.2μg/μlとなるようにDEPC処理水を添加し1時間静置し溶解した。溶解後、確認のために、mRNA溶液をDEPC処理水でA260=1前後になるように希釈し吸光度を測定した。cDNAの合成はAMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(TaKaRa)のプロトコールに準じて行った。以下にその方法を示す。
【0130】
RNase freeの0.2mlマイクロチューブにmRNA 2μg分のmRNA溶液を添加した。そのチューブにpd(T)12-18primer(0.5μg/ml)を2μl、DEPC処理水をmRNA溶液と合わせて17μlとなるように添加し、混合後、70℃で10分間アニーリング処理を行った。その後、氷上に置き、0.25M DTTを1μl、RNase inhibitorを1μl、5×Reaction bufferを5μl添加し、よく混合した。更にAMV−RTを1μl添加し緩やかに攪拌し、41℃で60分間伸長反応を行った。処理時間終了後氷上に置き、反応を止め、−30℃に保存した。
【0131】
(4.PCRによる抗体可変領域遺伝子の増幅)
Mouse Ig primer Kit(Novagen)、NovaTaqTM Hot Start DNA Polymerase Kit(Novagen)を使用し、上記(3.mRNAからのFirst strand cDNAの合成)で得られたcDNAから、抗体遺伝子可変領域の増幅を行った。
【0132】
まず、抗体重鎖および軽鎖をコードする遺伝子の増幅には、Positive Control、Negative Control、primerの本数分準備したPCRチューブのそれぞれに、37.25μlの滅菌超純水、0.5μlの3’−Primer(最終濃度5pmol)、3μlの25mM MgCl2(最終濃度1.5mM)、1μlの10mM dNTPs(最終濃度0.2mM)、5μlの10×NovaTaq Hot Start Buffer(最終濃度1×)、0.25μlのNovaTaq Hot Start DNA Polymerase(最終濃度1.25U)をサンプルの本数+0.5のスケールで混合した。)を加えて、そこに、1μlの5’−Primer(最終濃度5pmol)、2μlのcDNA溶液を添加した。なお、Positive Controlは Mouse Ig primer Kitに付属のものを使用し、Negative Controlには滅菌超純水を使用した。
【0133】
以上の組成物をよく混合し、Biometra社T-GRADIENT、TaKaRa社PCR Thermal cycler PERSONALを使用しPCRを行った。反応条件として、L鎖は95℃で7分間のプレヒート後、熱変性を98℃で15秒間、伸長反応を74℃で15秒間に固定し、アニーリング温度を70℃、66℃、62℃、58℃、54℃、および50℃と6段階に4℃ずつ下げるStep Down法を行った。なお、アニーリング時間は、15秒間に固定した。上記の3ステップを5段階まで3サイクルずつ行い、6段階目を10サイクル行った。H鎖は95℃で10分間のプレヒート後、熱変性を94℃で1分間、アニーリング温度50℃で2分間、伸長反応を72℃で2分間の3ステップを40サイクル行った後、72℃の伸長反応を10分間行った。PCR終了後、アガロース電気泳動により、抗体可変領域遺伝子の増幅を確認した。
【0134】
(5.抗体可変領域遺伝子のクローニング)
クローニングは、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen)を用いて、以下のようにして行った。
【0135】
アガロースゲル電気泳動で抗体可変領域と予測されるDNAの増幅を確認したPCR産物を2μl、salt Solutionを1μl、および滅菌水を2μl、氷上にてPCRチューブに分注し攪拌した。さらに、1μlのTOPO vectorを添加し緩やかに攪拌後、30分間、室温でライゲーション反応させた。30分間の反応後直ちに、上記PCRチューブを氷上に置き、反応を止めた。このようにして調製された反応液を以下「ライゲーション反応液」と称する。
【0136】
使用直前に−80℃のフリーザーからOne Shot TOP10 Chemically Competent E. coli(Invitrogen)を取り出し氷上で溶解した。そこに、氷上に置いていた上記ライゲーション反応液を2μl加え、氷上で30分間インキュベーションし、コンピテントセル間にDNAを拡散させた。反応終了後、42℃で45秒間、熱ショックを与えてDNAを取り込ませ、氷上に戻し、2分間静置した。そこに、予め、室温に戻しておいた250μlのSOC培地をクリーンベンチ内で加え、振盪(200rpm)しながら37℃で1時間培養した。
【0137】
1時間の培養中に、予め準備しておいたアンピシリンを含むLBプレート培地1枚に対し、100μlの100mM IPTGストックと、20μlの50mg/ml X−Galを塗り広げ、15〜30分間乾燥させた。
【0138】
培養終了後、アンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地に、培養後の大腸菌液を50μl、および100μlの2種類の濃度で塗り広げ、37℃で一晩培養した。
【0139】
翌日、形質転換後の青/白判定によりDNA断片がインサートされていると考えられる白コロニーを12コロニー選択し、偽陽性を除くため、さらに画線培養を行った。画線培養では、形質転換後の大腸菌を培養したのと同様にアンピシリン/IPTG/X−Gal/LBプレート培地を使用し、白金耳で単一コロニーが得られるように画線し、37℃で一晩培養した。
【0140】
(6.プラスミドDNAの調製)
上記(5.抗体可変領域遺伝子のクローニング)で得られた大腸菌をアンピシリンを含むLB液体培地で培養した。大腸菌培養液から0.75mlを取り、0.2mlの80%グリセロールと混合し、大腸菌のグリセロールストックとして−80℃で保存した。プラスミドDNAは残りの培養液を用いてアルカリSDS法により調製した。
【0141】
残りの約5.25mlの培養液を1.5mlマイクロチューブ6本に移し、12000rpmで1分間、遠心分離して集菌し、上清を丁寧に吸引除去した。そこに、Solution I(50mM D−グルコース、25mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH8.0)を100μl加えてボルテックスにかけよく懸濁した。
【0142】
そこに、Solution II(0.2M NaOH、1%(w/v)SDS)を200μl加えて転倒混和後、氷中に5分間置き、Solution III(3M酢酸カリウム、2M酢酸)を150μl加え、緩やかに撹拌した後、氷上に5分間置いた。
【0143】
そして、4℃、15000rpmで、10分間遠心分離を行った後、沈殿が入らない様に注意しながら上清を採り、新しい1.5mlマイクロチューブに移した。このとき得られ上清と等量のフェノール・クロロホルムを加えて攪拌した後、4℃、15000rpmで、2分間遠心分離した。さらに同じ作業を繰り返し、2回のフェノール・クロロホルム処理を行った後、上層(水層)を別のマイクロチューブに移した。そこに、2.5倍等量の氷冷エタノールを加えて上下に振って攪拌し、−70℃で5分間静置した。そして、4℃、15000rpmで、10分間遠心分離を行った後、上清を除去した。そして、氷冷70%エタノールを1ml加え、ペレットをリンスし、4℃、15000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を除去し、15分間真空乾燥した。
【0144】
乾燥終了後、45μlのTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)緩衝液に、ペレットを溶解し、RNase A溶液(5mg/ml RNase A、10mM Tris−HCl、15mM NaCl、pH7.5)を5μl加えた(終濃度:50μg/ml)。その後、2本のチューブの溶液を1本のチューブにまとめ、37℃で1時間反応させた。
【0145】
反応終了後、2/3等量のPEG(13%(w/v)PEG6000、0.8M NaCl)を入れ、氷上に1時間以上置いた。その後、4℃、15000rpmで、15分間遠心分離を行い、上清を除去した。そこに、70%エタノールを1ml加えてリンスし、4℃、15000rpmで、10分間遠心分離を行った。
【0146】
上清を除去後、真空乾燥し、1サンプルにつき50μlの滅菌水に溶解し、1本のチューブにまとめプラスミド溶液とした。そして、アガロース電気泳動によるバンド比較にてサンプルのDNA濃度を推測した。
【0147】
(7.塩基配列の決定)
Thermo SequenaseTMCyTM5.5 Terminator Cycle Sequencing Kit (Pharmacia)を用いて、塩基配列の決定を行った。A、C、G、およびTの4種類の塩基用に、PCRチューブを用意し、d(N)TP/Cy5.5-dd(N)TPを各サンプル分、1μlずつ分注した。
【0148】
次に、DNA/プライマーミックスの調製を行った。(6.プラスミドDNAの調製)で調製された1.5μgのDNA、3.5μlのReaction Buffer、1μlのTOPO13 Reverse(4pmol/μl)(Invitrogen)、および2μlのThermo Sequenase(10U/μl)を混合し、さらに滅菌超純水を添加して全量が31.5μlとなるようにした。これを上記のPCRチューブに7μlずつ分注し、すみやかにBiometoraサーマルサイクラーにセットし、95℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で120秒間の反応サイクルを30サイクル行い、4℃で冷却し反応を停止させた。
【0149】
反応終了後、サンプルをPCRチューブから1.5mlのマイクロチューブに移し、20mg/mlグリコーゲンを1μl、7.5M酢酸アンモニウムを2μl、および98%エタノールを30μl添加し、よく混合した。10分間氷上で静置した後、12000rpmで20分間遠心分離した。その後、キムワイプ上でデカンテーションにより上清を除去し、70%エタノールを200μl添加し、ペレットおよびチューブ内壁をリンスした。そして12000rpmで10分間遠心分離を行い、その後、マイクロピペットを使用し、上清を丁寧に除去した。そして、遮光してペレットを乾燥させ、6μlのLoading Dyeに溶解し、72℃で、3分間熱処理を行い、LONG-READ TOWERTM System (Amersham Pharmacia Biotech.)に各2μlずつローディングし、解析を行った。得られた塩基配列は、
DNASISソフトウェアを使用して解析され、アミノ酸配列に翻訳された。
【0150】
その結果、抗TNF−α抗体であるETNF−6抗体のL鎖およびH鎖の可変領域をコードするcDNAは、それぞれ、配列番号3および配列番号4に示される塩基配列からなることが分かった。また、ETNF−6抗体のL鎖およびH鎖の可変領域の推定アミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2に示されるアミノ酸配列であった。
【0151】
〔実施例3:ETNF−6抗体の可変領域の立体構造予測〕
実施例2で決定した塩基配列から推定したETNF−6抗体の可変領域のアミノ酸配列(配列番号1および配列番号2を参照)をもとに、AbM(Oxford Molecular、 Oxford、UK)により目的抗体CDR領域のループ構造とFR領域の立体構造を予測した。AbMで予測された立体構造をもとに、InsightII/Discover3(Molecular Simulatoin、USA)により分子間力計算を行い、熱力学的に安定となる立体構造を予測した。
【0152】
さらに、PPC Protein AdviSer(FQS、Japan)を用いて、立体構造中のセリンプロテアーゼの触媒三つ組み残基を構成するSer、HisおよびAspの残基群を探索した。その結果を図10〜図13に示す。
【0153】
図10および図12は、それぞれETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の予測立体構造を模式的に示す図である。また、図10および図12には、触媒三つ組残基を構成すると思われるアミノ酸残基(Ser、His、Asp)が記載されている。また、図10および図12では、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖のそれぞれのCDR1〜3をリボンで表現している。
【0154】
図11および図13は、それぞれ、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖のアミノ酸配列を示すものであり、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖それぞれのCDR1〜3には、下線が付されている。
【0155】
図10および図11に示すように、H鎖については、His35−Ser99のCα間は7.12Å、His35−Asp101のCα間は9.87Åと空間的に近い位置で3残基がCDR部分に存在すると予測された。その結果、これら3つのアミノ酸残基は、触媒三つ組残基様構造を構成すると考えられる。
【0156】
また、図12および図13に示すように、L鎖については、触媒三つ組残基を構成すると思われるアミノ酸残基(Ser、His、Asp)は、CDR部分に存在していないと予測された。しかし、His80−Ser67のCα間は7.98Å、His80−Asp85のCα間は12.63Å、His80−Asp86は10.36Åと3残基が空間的に近い位置に存在すると予測された。
【0157】
また、現在見出されている天然型抗体酵素のトリプシンや当研究室で見出された抗体酵素の触媒三つ組残基(Ser、His、Asp)の距離と比較したところ、これらと同じようにETNF−6抗体のH鎖およびL鎖では、HisとSerとの距離は10Å以内、HisとAspとの距離は15Å以内であった(表7を参照)。
【0158】
【表7】
【0159】
これらの結果をこれまでの本発明者らによる多くの研究成果(例えば、Appl. Biochem. Biotech., 83, 209-220(2000); J. Immunol. Methods, 269, 283-298(2002); Immunol. Lett. 86, 249-257(2003); Biotechnol. Bioeng., 84(7), 485-493(2003); 化学工業、54, 368-372(2003); Biotechnol. Bioeng. 86(2), 217-225(2004); 科学、75(11), 1254-1259(2005)を参照)に照らして考察したところ、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖は、抗体酵素であることが示唆された。
【0160】
〔実施例4:ETNF−6モノクローナル抗体の大量取得と精製〕
予めプリスタンを投与したBalb/cマウスに実施例1の抗TNF−α抗体産生ハイブリドーマを1×106個投与後、腹水を採取することにより、ETNF−6モノクローナル抗体を大量に取得することができた。また、モノクローナル抗体の精製は、以下の方法に従って行った。
【0161】
(1.塩析)
腹水約8mlを同量のPBSで希釈後、濾紙を使用して濾過してフィブリンを除去した。これを2本の高速冷却遠心チューブに分け、各々、同量の飽和硫酸アンモニウムをドロップワイズで加えた。これを氷中で30分間静置し、その後、4℃、10000rpmで、10分間遠心分離した。デカンテーションにより上清を除去し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。再度、等量の飽和硫酸アンモニウムを添加して、塩析し、ペレットを6mlのPBSに溶解した。これを、1本のチューブに合わせ、PBSに対して2回透析した。
【0162】
(2.カラム精製)
透析終了後、抗体の精製を行った。操作はMAPS-IIキット(BIO-RAD社製/ProteinAを使った精製キット)の説明に従い、4℃で行った。使用する試薬として、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、Elution buffer、および2M Tris−HCl(pH8.0)を以下のようにして調製した。0.05%NaN3/PBSは、0.1gのNaN3を200mlのPBSに溶解した。Binding bufferは、47.1gのBinding buffer粉末を蒸留水に溶解し、150mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが9±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。Elution bufferは2.3gのElution buffer粉末を蒸留水に溶解し、100mlにメスアップして調製した。この時、pHメーターを用い、pHが3±0.2であることを確認し、範囲外である時はHClまたはNaOHでpHを調整した。2M Tris−HClは、12.11gのTrisを蒸留水に溶解し、HClでpHを8.0に調整した後、蒸留水で50mlにメスアップした。
【0163】
透析終了後、上記の塩析済みの腹水を、腹水: Binding buffer=1:1.2になるように希釈した。不溶物が認められる時には、濾紙で濾過して取り除いた。また、精製操作前に、0.05%NaN3/PBS、Binding buffer、およびElution buffer、並びにサンプル(上記腹水の濾液)を脱気した。
【0164】
アフィゲルプロテインAを充填し、カラムを上記Binding bufferで洗浄した。UV 280nmの吸光度をモニターし、ベースラインが落ち着くまで上記Binding bufferでゲルを洗浄した。流速を0.2ml/minに調節し、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、上記サンプルをカラムに供した。
【0165】
次に、50ml以上のBinding bufferを供し、抗体以外の夾雑物質を除去した。ここで検出したピーク部分は、素通り画分として採取した。素通り画分を分取後、ベースラインが落ち着いたら、ゲル表面とBinding bufferの液面とがほぼ一致したところで、45mlのElution bufferを添加し、アフィゲルプロテインAに結合した抗体を溶出させ、ピーク部分を抗体画分として分取した。回収した各画分について、pH試験紙でpHを測定し、2M Tris−HCl(pH8.0)で中和した。上記抗体画分(抗体液)は、PBSに対して2回透析した後、SDS−PAGEで純度を確認した。純度の高い画分のみを回収し、DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でタンパク濃度を測定し、1mg/ml以上の濃度で(1mg/ml未満の場合は濃縮して)凍結保存した。
【0166】
〔実施例5:ETNF−6抗体の重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)の分離・精製〕
実施例4で精製したETNF−6抗体を用いて、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の分離精製を以下に示す方法に従い、行った。
【0167】
(1.限外濾過)
実施例4で精製した抗体溶液5mg分を0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に対して2回透析した。透析の終了後の抗体溶液を、セントリプレップ−10を用いて、4℃、2800rpmで遠心分離し、約1mlになるまで限外濾過により濃縮した。さらに、5mlの0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を加え、約1mlになるまで再び遠心分離した。この操作を再度行い、限外濾過による濃縮後、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で抗体溶液を2.7mlに調整し、褐色瓶に入れ以下の実験に使用するまで低温で保存した。
【0168】
(2.ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の分離)
まず、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、1M Tris溶液、および上記抗体溶液2.7mlをそれぞれ脱気した。2M 2−メルカプトエタノール(以下、「2−ME」ともいう)と、0.15M NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)とを抗体溶液に加え、ピペッティングで軽く撹拌したのち、1M Tris溶液でpH8.0に調整し、窒素封入を行った。その後、インキュベーター内で、15℃、3時間スターラーで撹拌しながら還元反応を行った。還元反応後、上記抗体溶液に脱気した0.6Mヨードアセトアミド溶液を600μl加え混合した。その後、1M Tris溶液でpH8.0に調整した。そして、15℃で、15分間撹拌しながらアルキル化反応を行った。次に、ディスクフィルター(0.2μm)を使用し、上記抗体溶液から粒子の除去を行った。セントリプレップ−10を用いて、液量が約0.5mlになるまで濃縮した。
【0169】
(3.サイズ排除HPLCによるETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の精製)
ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖の精製は、上記のようにして得られた還元アルキル化処理後の抗体溶液をサイズ排除クロマトグラフィーに供することにより行った。
【0170】
サイズ排除クロマトグラフィーシステムとして、PU−2080 Plus(JASCO社製)を用いた。また、カラムには、Protein-PakTM300SW(φ7.5mm×300mm;Waters製)を用いた。上記カラムの平衡化は、移動相に用いる6M 塩酸グアニジン(pH6.5)を、0.15ml/minの流速で、約2時間流すことにより行った。サンプル(上記還元アルキル化処理後の抗体溶液)は、2〜3回に分けて供した。H鎖およびL鎖に相当する画分を分取した。分取後の各画分はPBSに対して透析を行い、H鎖およびL鎖をRefoldingした。バッファーを15mM PBに交換した後、クリーンベンチ内でサンプルを回収した。DCプロテインスタンダードアッセイ(BIO-RAD)でH鎖およびL鎖の濃度を測定した後、SDS−PAGEで純度を確認して4℃で保存した。このようにして調製したH鎖およびL鎖の液量と濃度とを表8に示す。
【0171】
【表8】
【0172】
〔実施例6:ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖におけるペプチダーゼ活性〕
天然型抗体酵素は、タンパク質を基質として用いる場合には標的タンパク質を特異的に分解するという特徴を持つ。しかし、ペプチド基質においては、非特異的に分解することが分かっている。そこで、これまでの抗体酵素のペプチダーゼ活性試験で基質として用いてきたTP41-1 peptide(H2N-TPRGPDRPEGIEEEGGERDRD-COOH : 21mer、配列番号5)を使用してETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が上記ペプチドに対する分解能を有するか検討した。
【0173】
実験操作は全てクリーンベンチ内で行い、使用する試験管、緩衝液などは、すべて滅菌処理を行った後、使用した。
【0174】
粉末のTP41-1 peptideを必要量はかり、15mM PB(pH6.5)に溶解した後に、ウルトラフリーMC(φ0.22μm、MILLIPORE製)を使って、濾過滅菌した。また、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖についても、15mM PB(pH6.5)を用いて濃度を調整した。最終的に、TP41-1 peptideの濃度が120μM、L鎖の濃度が0.8μM、H鎖の濃度が0.4μMになるように試験管内で混合し、25℃で反応させた。
【0175】
反応の経時時間ごとに、反応液の一部をクリーンベンチ内で採取し、ウルトラフリーC3(φ0.5μm、MILLIPORE製)で除粒子した。これを逆相HPLCで分析することにより、ペプチド基質の濃度変化を経時的に追跡した。逆相HPLCの分析条件には、puresil C18カラム(Waters製)を使用した。移動相には0.08%TFAを含む13%アセトニトリルを用い、流速0.5ml/min、モニター波長214nm、分析温度を40℃とした。その結果を、図14〜図17に示す。図14および図15はETNF−6抗体のL鎖の結果を、図16および図17は、ETNF−6抗体のH鎖の結果を示す。また、図15および図17は、各経時時間で採取したサンプルのHPLC分析により得られたクロマトグラムを示し、図14および図16は、それらのHPLCのクロマトグラムから算出した各経時時間におけるTP41-1 peptide量をグラフに示したものである。なお、図15の(a)〜(d)はそれぞれ、0時間後、27.7時間後、50.4時間後、73.2時間後の結果を示す。また、図17の(a)〜(d)はそれぞれ、0.3時間後、27.7時間後、50.7時間後、58.7時間後の結果を示す。
【0176】
図14〜図17に示すように、反応時間が経過するにつれ、ETNF−6抗体のH鎖またはL鎖を含む反応液では、ペプチド基質の濃度の減少が見られた。具体的には、ペプチド基質の濃度は、反応開始後27時間ごろから減少していき、L鎖を含む反応液では73時間で(図14および図15を参照)、H鎖を含む反応液では59時間で完全にペプチドが消失した(図16および図17を参照)。また、ペプチド基質の濃度の減少に伴い、当該ペプチドの分解断片と思われるピークも出現した。
【0177】
また、このH鎖およびL鎖はどちらも、分解速度の遅い「誘導期」と高活性を示す「活性期」とからなる2相性の分解曲線を描いていた。本発明者らは、これまでの研究において、通常の酵素の特性とは異なる天然型抗体酵素の特性として、2相性の分解曲線があることを見出している。これは、上記誘導期において抗体の立体構造に変化が起こり、抗体の酵素活性が高い構造に変化することにより、活性期が現れると推測されている。
【0178】
このように、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が天然型抗体酵素と同様の特性を示したことは、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が抗体酵素であることを示唆するものである。
【0179】
〔実施例7:ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖における抗原分解能〕
実施例6に示すように、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖はペプチダーゼ活性を有することが明らかとなった。そこで、次にETNF−6抗体のH鎖およびL鎖が、抗原タンパクであるTNF−αを分解する能力を有するか否かの検討を行った。
【0180】
抗原タンパクには、実施例1で用いたTNF−αを用いた。まず、バッファーを15mM PB(pH6.5)に交換した。続いて、濃度を600μg/mlに調整した後、濾過滅菌して用いた。
【0181】
また、コントロールタンパクとしてウマ心臓由来のミオグロビン(SIGMA M1882-250MG)、およびBSA(BIO-RAD Protein Assay Standard II)についても、同様に分解試験を行った。ミオグロビンおよびBSAは、粉末を必要量測り取り、15mM PB(pH6.5)に溶解後、ウルトラフリーMC(φ0.22μm、MILLIPORE製)により濾過滅菌した。分解実験における終濃度は、それぞれミオグロビンが0.9μM(15μg/ml)、BSAが0.3μM(20μg/ml)、TNF−αが1.1μM(20μg/ml)、ETNF−6抗体のL鎖が0.4μM(10μg/ml)、およびETNF−6抗体のH鎖が0.2μM(10μg/ml)とした。
【0182】
反応時間4、8、12、24時間、48時間、および74時間において、各タンパク質の反応液の一部をクリーンベンチ内で分取し、各タンパク質の経時変化をSDS−PAGEで追跡した。その結果を、図18〜図21に示す。図18および図19は、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖とTNF−αとの反応結果を示すものである。
【0183】
まず、図18(b)に示すように、ネガティブコントロールであるTNF−αのみの反応液では、17.0kDaに太いバンドが検出され、このバンドは74時間経過しても変化はみられなかった。
【0184】
一方、図18(a)に示すように、ETNF−6抗体のH鎖とTNF−αとの反応液では、反応開始直後からTNF−αの太いバンドの上部が薄くなり、下部の16.8kDaのバンドが鮮明になってきた。また、反応時間4時間では、15.0kDaおよび13.3kDa付近にTNF−αの分解断片と思われるバンドが出現した。反応時間が8時間、16時間と経過するにつれて、16.8kDaのバンドは強くなり、かつ、13.3kDaのバンドおよびその下に、このフラグメントがさらに断片化されたと思われる複数のバンドが出現してきた。反応時間48時間では、もとの17.0kDaの太いバンドは細くなり、16.8kDaのバンドのみが明らかに強く検出された。
【0185】
N末端アミノ酸配列の結果、この細いバンドはTNF−αのN末端から5番目のセリンと6番目のアルギニンとの間のペプチド結合が切断されたものであることが判明した。また、15.0kDaに現れるバンドは、N末端から20番目のプロリンと21番目のグルタミンとの間のペプチド結合が切断されて生じる断片であった。さらに、13.3kDaに現れるバンドは、N末端から36番目のロイシンと37番目のロイシンとの間のペプチド結合が切断されて生じる断片であった。つまり、TNF−αは反応時間4時間あたりから、ETNF−6抗体のH鎖による分解がはじまり、20〜30時間でほとんど分解されたものと考えられる。以上の結果から、ETNF−6抗体のH鎖は抗体酵素であることが実証された。
【0186】
図19に示すように、ETNF−6抗体のL鎖についても同様の分解傾向が見られ、ETNF−6抗体のL鎖においても抗原分解活性が見られた。
【0187】
なお、本実施例において、H鎖単独あるいはL鎖単独では時間と共に自己消化を起こし、いくつかの抗体酵素は、自己消化により生じる断片と結びついて多量体を形成していた(図18(c)および図19(c)を参照)。
【0188】
次に、コントロールタンパクのミオグロビンのみの反応液では、図20(b)に示すように、18.0kDaにバンドが認められ、このバンドは74時間経過しても変化は見られなかった。L鎖とミオグロビンとの反応液では、図20(a)に示すように、高分子側と低分子側に若干バンドが見られたが、ミオグロビンには変化が見られなかった。また、L鎖のみの反応液でも、図19(c)に示すように、同様のバンドが見られた。このため、これらのバンドは、ミオグロビンの分解断片ではなく、L鎖由来の断片であると考えられる。
【0189】
また、ETNF−6抗体のL鎖とBSAと反応の結果でも、図20(c)に示すように、8時間ごろから若干BSAより低分子側のバンドが濃くなっていた。しかし、BSAと思われるバンドには変化は見られなかったことから、ETNF−6抗体のL鎖は、BSAの分解活性を有さないと考えられる。
【0190】
また、H鎖についてもL鎖と同様に、図21(a)および(b)に示すように、にミオグロビンには変化が見られなかった。さらに、BSAとH鎖との反応液では、図21(c)に示すように、L鎖と同様に8時間ごろから若干BSAより低分子側のバンドが濃くなっていた。しかし、これらのバンドもまた、H鎖由来の分解断片であると考えられる(図18(c)および図21(c)を参照)。以上の結果より、ETNF−6抗体のH鎖およびL鎖は、TNF−αを特異的に分解する活性を有する抗体酵素であることが明らかとなった。
【0191】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0192】
以上のように、本発明にかかる抗体酵素は、TNF−αに対する抗体として機能し、かつ、TNF−αを切断および/または分解することができる抗体酵素であるため、当該抗体酵素を用いることにより、効率よくTNF−αを分解することができる。それゆえ、本発明は、関節リウマチやCOPDのようにTNF−αの過剰産生により引き起こされる疾患の予防や治療に利用することができる。さらに、本発明は、TNF−αを利用する医療業、製薬産業、試薬産業、医療機器産業、食品産業等に幅広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(初回)した後の力価測定(初回免疫より9日後)の結果を示すグラフである。
【図2】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(2回目)した後の力価測定(初回免疫より23日後)の結果を示すグラフである。
【図3】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(3回目)した後の力価測定(初回免疫より37日後)の結果を示すグラフである。
【図4】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(4回目)した後の力価測定(初回免疫より52日後)の結果を示すグラフである。
【図5】本実施例において、マウスをTNF−αで免疫(最終)した後の力価測定(マウスIについては、初回免疫より43日後;マウスIIについては初回免疫より108日後)の結果を示すグラフである。
【図6】本実施例において、ETNF−1〜8抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図7】本実施例において、ETNF−9〜17抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図8】本実施例において、ETNF−1〜8抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図9】本実施例において、ETNF−9〜17抗体の様々なタンパク質との交差反応性を調べた結果を示すグラフである。
【図10】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖可変領域の立体構造を予測した結果を示す図である。
【図11】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図12】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖可変領域の立体構造を予測した結果を示す図である。
【図13】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
【図14】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるペプチド基質の分解をモニターした結果を示すグラフである。
【図15】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるペプチド基質の分解産物をHPLCにより経時的に分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図16】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるペプチド基質の分解をモニターした結果を示すグラフである。
【図17】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるペプチド基質の分解産物をHPLCにより経時的に分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図18】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるTNF−αの分解を電気泳動によりモニターした結果を示す図である。
【図19】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるTNF−αの分解を電気泳動によりモニターした結果を示す図である。
【図20】本実施例において、ETNF−6抗体のL鎖によるコントロールタンパク質(ミオグロビンおよびBSA)の分解をSDS−PAGE法によりモニターした結果を示す図である。
【図21】本実施例において、ETNF−6抗体のH鎖によるコントロールタンパク質(ミオグロビンおよびBSA)の分解をSDS−PAGE法によりモニターした結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であり、かつ、上記TNF−αを分解することを特徴とする抗体酵素。
【請求項2】
上記抗体酵素は、触媒三つ組残基構造を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体酵素。
【請求項3】
上記抗体酵素は、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の抗体酵素。
【請求項4】
上記軽鎖可変領域は、以下の(a)または(b)に記載のポリペプチドからなり、
上記重鎖可変領域は、以下の(c)または(d)に記載のポリペプチドからなることを特徴とする請求項3に記載の抗体酵素。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【請求項5】
上記軽鎖可変領域は、配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなり、
上記重鎖可変領域は、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなることを特徴とする請求項3に記載の抗体酵素。
【請求項6】
以下の(e)または(f)に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
(e)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(f)配列番号1または2のアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体酵素を含み、生体内におけるTNF−α量の増加を抑制することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項8】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを導入してなることを特徴とする形質転換体。
【請求項1】
ヒトTNF−αに対する抗体または当該抗体の断片であり、かつ、上記TNF−αを分解することを特徴とする抗体酵素。
【請求項2】
上記抗体酵素は、触媒三つ組残基構造を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体酵素。
【請求項3】
上記抗体酵素は、上記TNF−αに対する抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の抗体酵素。
【請求項4】
上記軽鎖可変領域は、以下の(a)または(b)に記載のポリペプチドからなり、
上記重鎖可変領域は、以下の(c)または(d)に記載のポリペプチドからなることを特徴とする請求項3に記載の抗体酵素。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【請求項5】
上記軽鎖可変領域は、配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなり、
上記重鎖可変領域は、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドからなることを特徴とする請求項3に記載の抗体酵素。
【請求項6】
以下の(e)または(f)に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
(e)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(f)配列番号1または2のアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記TNF−αを認識し、当該TNF−αを分解する活性を有するポリペプチド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体酵素を含み、生体内におけるTNF−α量の増加を抑制することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項8】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを導入してなることを特徴とする形質転換体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2007−202444(P2007−202444A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23665(P2006−23665)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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