説明

ヒドリドイオン導電体およびその製造方法

【課題】ヒドリドを構造中に含む酸化物によって、固体中で高いイオン伝導を持つヒドリドイオン導電体を提供する。
【解決手段】一般式Ln2−XAH(式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1−xである。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドリドイオン導電体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトンや酸素イオンは、燃料電池や空気電池を代表としたエネルギー変換デバイスの可動イオンとして重要な役割を担っている。ヒドリドイオンは、一価でイオン半径が約1.2 Åと適度な大きさであることから、プロトンや酸素イオンより可動イオンとして適した特徴を持つ。さらに、H2 + 2e- → 2H-の酸化還元電位が-2.25 V(vs. SHE)と高いことから、高電位の新規エネルギー変換デバイスを生み出すポテンシャルを有している。しかし、これまでにヒドリドイオン導電体の報告は皆無であり、電子伝導性酸化物中にヒドリドイオンを導入した場合、高速で動く可能性があると報告されているだけである(非特許文献1)。
【0003】
ヒドリドイオンを結晶構造中に導入可能な酸化物としてはK2NiF4型構造(Fig. 1a)が提案されている(非特許文献2)。CaH2による還元処理でLaSrCoO4-xの格子中にヒドリドイオンを導入できる(LaSrCoO3Hx)とされているが、分解温度の500℃付近でヒドリドが通電する可能性が示唆されたのみで、実験的なヒドリド導電の確証は報告されていない(非特許文献1)。また、遷移金属であるコバルトを含有し、電子伝導性を持つことから、固体電解質としての利用は困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. A. Bridges et al., Adv. Mater., 18, 3304 (2006)
【非特許文献2】M. A. Hayward et al., Science, 295, 1822 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、LaSrCoO3Hxと同じ構造を持つが、遷移金属を含まないLa2LiHO3に着目し、ヒドリドを構造中に含む酸化物によって、固体中で高いイオン伝導を持つヒドリドイオン導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
(1)一般式Ln2−XAH(式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1−xである。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体。
(2)3価の希土類元素が、La、Ce,Sc、Y、Nd、Sm、Eu、およびGdの少なくとも1種から選ばれる上記(1)に記載のヒドリドイオン導電体。
(3)アルカリ土類金属元素が、Ca,Sr、Ba、およびMgの少なくとも1種から選ばれる上記(1)または(2)に記載のヒドリドイオン導電体。
(4)一般式Ln2−XAH(式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1−xである。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体を製造する方法であって、Ln、MおよびAを含む原料化合物を焼成することを特徴とするヒドリドイオン導電体の製造方法。
(5)焼成が、600〜1000℃で行われる上記(4)に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
(6)焼成が、加圧下で行われる上記(4)または(5)に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
(7)3価の希土類元素が、La、Ce,Sc、Y、Nd、Sm、Eu、およびGdの少なくとも1種から選ばれる上記(4)〜(6)のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体。
(8)アルカリ土類金属元素が、Ca,Sr、Ba、およびMgの少なくとも1種から選ばれる上記(4)〜(7)のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒドリドを構造中に含む酸化物によって、固体中で高いイオン伝導を持つヒドリドイオン導電体を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】LaLiHOのX線回折図形を示す。
【図2】o- LaLiHOとt- LaLiHOの構造モデルを示す。
【図3】o- LaLiHOとt- LaLiHOのTG/DTA測定結果を示す。
【図4】o- LaLiHOのTG測定後のX線回折図形を示す。
【図5】o- La2-xSrLiH1-xO3 (x = 0、0.1, 0.2)のX線回折図形を示す。
【図6】固溶量xに対するo- La2-xSrLiH1-xO3 (x =0、 0.1, 0.2)の格子定数変化を示す。
【図7】o- La2-xMLiH1-xO3 (M = Ca, Sr, Ba、x = 0, 0.1) のX線回折図形を示す。
【図8】o- La1.9Ce0.1LiH1。1O3のX線回折図形を示す。
【図9】300 ℃における各試料のCole-Coleプロットとアレニウスプロットを示す。
【図10】o- LaLiHOの中性子回折測定に対するリートベルト解析結果を示す。
【図11】La2-xCeLiH1+xO(x = 0.2, 0.3, 0.4)のX線回折図形を示す。
【図12】中性子回折測定結果に対するリートベルト解析結果を示す。
【図13】異方性温度因子を考慮したLaLiHO結晶構造を示す。
【図14】本発明により得られたヒドリドイオン導電体試料の導電率測定結果を図14に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のヒドリドイオン導電体は、一般式Ln2−XAHで示される組成を有してなる。式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1−xである。すなわち、Mが4価のCeであるとき、ヒドリド過剰Ln2−X CeAH1+xで表わされ(0<x<0.2、好ましくは0.10<x<0.18)、一方Mがアルカリ土類金属元素のとき、ヒドリド欠損Ln2−XAH1-xで表される(0<x<1、好ましくは0<x≦0.3)。
【0010】
希土類元素は、La、Ce、Sc、Y、Nd、Sm、Eu、およびGdの少なくとも1種から選ばれるが、イオン半径、コストの点からはLaが好ましい。また、アルカリ土類金属元素は、Ca,Sr、Ba、およびMgの少なくとも1種から選ばれるが、イオン半径の点からはSr,Ca,またはBaが好ましい。また、Aとしては、イオン半径の点からはLiが好ましい。
【0011】
本発明のヒドリドイオン導電体は、Ln、MおよびAを含む原料化合物を焼成することにより得られる。好適にはLn、MまたはAの酸化物、水素化物、炭酸塩もしくは硝酸塩等、Aの水素化物、含む原料化合物を焼成することにより得られる。Lnの酸化物としては、La、Sc、Y、Nd、Sm、Eu、またはGdが挙げられる。また、Mの酸化物としては、CeO、CaO,SrO、BaO、またはMgOが挙げられる。Aの酸化物としては、LiO,NaO,Li,またはNaが挙げられる。焼成を加圧下に行う場合には、LnおよびMの酸化物もしくは水素化物、ならびにAHを用いるのが好適である。これらの原料化合物の仕込み比は、目的とする組成比に応じて調整されるが、たとえば、Liと反応容器であるAuチューブの合金化による組成ずれの回避、合成時の水素分圧の制御等のために、随時微調整され得る。
【0012】
焼成は、通常600〜1000℃で行われる。好適には1〜10GPa程度の加圧下で、620〜750℃である。加圧下での焼成に際して、反応器は、特に制限されないが、AuもしくはPtチューブ内に所定仕込み比で原料化合物を封入して高圧反応を行うのが好適である。反応時間は、反応条件に依存するが、通常、30分〜24時間程度から選ばれる。
【0013】
また、本発明のヒドリドイオン導電体は、無機複合酸化物等の固相反応に用いられる、通常の電気炉内で700〜1000℃程度の温度で製造され得、その焼成は、水素気流中で低圧ないし常圧下で行われるのが好適である。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
(A)合成
合成は高圧合成法によって行った。以下に合成条件を示す。
1) LaLiHO
原料: LaO、LiH
条件: 1〜2GPa、650〜750 ℃、Auチューブ
原料の仕込み比は、LiとAuチューブの合金化による組成ずれの回避と合成時の水素分圧の制御のため、Li過剰のLaO:LiH=1:2とした。
2) La2-xMxLiH1-xO (M = Ca, Sr, Ba)
原料: 定比のLaLiHOの合成に用いたLaO、LiHに加え、アルカリ土類金属のドープ源として、SrO, SrH,CaH, CaO, BaO、BaHを用いた。また、LiOは組成の酸素量を3に固定するために用いた。代表例として、La1.8Sr0.2LiH0.8Oの合成に用いる原料の比は、LaO:SrH:LiH:LiO=0.9:0.2:1.6:0.15またはLaO:SrO:LiH:LiO=0.9:0.2:2:0.05となる。
条件: 2GPa、620〜650℃、Auチューブ
3) La2−xCeLiH1+xO
原料: LaO、LaH,LiH、CeO2
代表例として、La1.9Ce0.1LiH1.1Oでは、LaO:LaH:LiH:CeO=0.93:0.13:2:0.1となる。
条件: 2GPa、620℃、Auチューブ
(B) TG/DTA測定
測定対象:正方晶t- LaLiHOおよび斜方晶t- LaLiHO(2GPa, 750℃で合成した試料)
測定条件:昇温速度5℃/min、Ar flow
(C)粉末X線回折測定
高圧合成によって得られる試料が少量であることから、無反射板を用いて測定した。また、構造解析にはプログラムRIEAN-FPを用いた。
(D)粉末中性子回折測定
J-PARC iMateriaを使用して測定を行った。構造解析にはプログラムZ−Cooleを用いた。

(E)交流インピーダンス測定
高圧合成後の凝結した試料(直径2.3〜2.6 φ)を厚さ約0.61〜1mmの円筒形ペレットに切断した。ペレットの両面に金ペーストを塗り、Ar雰囲気中で測定用セルに固定した。以下に測定条件を記す。
測定装置:Solatron 1260
測定条件:室温〜320℃、周波数1Hz〜10 MHz、交流電圧1000 mV
結果・考察
1) LaLiHO
LiH120%過剰、2 GPa、750℃の条件で合成すると単相の斜方晶o- LaLiHOが得られた。また、温度を650℃に低下させても同様にo- LaLiHOが得られた。図1にX線回折図形を、表1にリートベルト解析から得られた格子定数を示す(Laの一部をMで置換しても母構造は維持されている)。
【0015】
【表1】

【0016】
o- LaLiHOはt- LaLiHOと比較して格子定数a, cが収縮、bが伸長しており、結果的に格子体積は収縮していた。このことから、b軸方向にヒドリドが規則的に配列しているo- LaLiHOに対して、t- LaLiHOでは以下の3通りの構造モデル(図2)が考えられる。i アニオンの欠損は無く、ヒドリドと酸素のみが不規則配列した構造、iiアニオン欠損が存在し、ヒドリド、酸素、欠損が不規則配列した構造、およびiii ヒドリドが無く、酸素と欠損が不規則配列した構造。
【0017】
構造内のヒドリド含有量を見積もるためにo- LaLiHOとt- LaLiHOに対してTG/DTA測定を行った。結果を図3に示す。その結果、室温〜500℃の昇降温によってo- LaLiHOでは約3%、t- LaLiHOでは約1%の質量増加が観測された。この質量増加は、気流させた工業用アルゴン中に含まれる水分によって、ヒドリドと酸素の交換反応が引き起こされたためと考えられる。質量増加量の違いから、含有しているヒドリド量がo- LaLiHOとt- LaLiHOで異なると予想され、全てのヒドリドが酸素に置換された場合(LaLiHO→LaLiHO3.5)の重量増加が約2%であることを考慮すると、t- LaLiHOの組成はLaLiH1−2xO3+x(x = 0.2〜0.3程度)となる。また、o- LaLiHOについてのみTG/DTA後にX線回折測定を行った(図4)。その結果、o- LaLiHOはt- LaLiHOとLaOに分解していたことが明らかとなった。さらに、観測されたt- LaLiHOは、合成直後のt- LaLiHOの回折図形と比較して、ピークがシフトしていた。
2) o-La2-xSrLiH1-xO3 (x = 0.1, 0.2)
図5にo- La2-xSrLiH1-xO3 (x = 0.1, 0.2)のX線回折図形を比較して示す。Srの固溶により若干のt- LaLiHOが副相として観測されたが、固溶によるピークシフトはo- LaLiHO相にのみ確認された。従って、LaサイトへのSrの置換はo-LaLiHO相でのみ成されていると考えられる。
【0018】
リートベルト解析によって得られた格子定数を図6に示す。Sr固溶量に依存した直線的な格子定数の増加 (a, c, V) または減少 (b) が確認できる。b軸の収縮から、b軸方向に配列したヒドリドが欠損することでSrの固溶による電荷補償をおこなっていることが示唆される。また、a、c軸の伸長はSrとLaのイオン半径がSr > Laであることや、欠損の生成による静電反発から生じていると考えられる。
3) Ca, Sr, Ba置換による格子変化
o- LaLiHOのAサイトのLa3+(1.5 Å)をイオン半径、価数の異なるCa2+(1.48 Å), Sr2+(1.58 Å), Ba2+(1.75 Å)で置換する際の格子変化を調査した。図7にo- La2-xMLiH1-xO3 (M = Ca, Sr, Ba、x = 0, 0.1) のX線回折図形を、表2にそれぞれの格子定数を示す。若干のt- LaLiHOが副相として検出されたSr固溶系と異なり、Ca、Ba固溶系では単相の回折図形が得られた。格子体積は置換する原子のイオン半径の増大に伴い膨張する傾向を示したが、置換によりアニオンの欠損も生じるため、変化は異方的であった。イオン半径の最も大きいBa固溶系においては、a, b, c全ての方位で格子が膨張したが、Ca、Sr固溶系においては、a,c軸が伸長したのに対してb軸は収縮した。ヒドリドがb軸方向に一次元的に配列していることを考慮すると、欠損したアニオンがヒドリドであると予想される。
【0019】
【表2】

【0020】
4) o- La2-xCeLiH1。1O3 (x = 0.1)
ヒドリド量を過剰にするためにAサイトのLa3+をCe4+で置換した。図8にo- LaLiHOとo- La1.9Ce0.1LiH1。1O3のX線回折図形を、表3に格子定数を示す。Ceの固溶による不純物の生成などはなく、単相のo- La1.9Ce0.1LiH1。1O3が得られた。
【0021】
Ceの固溶により格子は収縮していた。これは、La3+(1.5 Å)とCe4+(1.28 Å)のイオン半径の違いに起因すると考えられる。さらに、格子の収縮はCeがCe3+(1.48 Å)ではなく、Ce4+で存在していることを示唆している。合成がLiH過剰で行われていることを考慮するとCe4+固溶の際の電荷補償にはヒドリド過剰が寄与している可能性が高い。
【0022】
【表3】

【0023】
5) 導電率測定
図9に300 ℃における各試料のCole-Coleプロットとアレニウスプロットを示す。インピーダンス測定結果を比較すると、導電率と活性化エネルギーは表4に示す値となり、Sr、Ceの固溶により導電率が一桁上昇した。
【0024】
なお、円弧の容量成分が10-11〜10-10 F程度であったことから、バルク成分としてフィッティングを行い、抵抗値を算出した。
【0025】
【表4】

【0026】
6) 中性子回折測定
図10と表5にo- LaLiHOの中性子回折測定に対するリートベルト解析結果を示す。解析プログラムにはZ-Rietveld を用いた。
【0027】
【表5】

【0028】
不純物として若干のLiOを含むが、解析結果と実測値は良好な一致を示した。また、ヒドリドの占有率はほぼ定比の0.998で、温度因子は1.94という高い値を示している。ヒドリドが導電を示している。さらに、酸素とリチウムの温度因子は低い値を示したため、主にヒドリドがイオン導電に関与すると考えられる。
実施例2
実施例1に記載される方法と同様な方法により、La2-xCeLiH1+xO(x = 0.2, 0.3, 0.4)を合成し、そのX線回折測定結果から、固溶量 xの上限値を見積もった。また、中性子回折のリートベルト解析結果では等方性温度因子の精密化に加えて、異方性温度因子の精密化を行った。導電率に関しては、交流インピーダンス測定から、La1.9Ca0.1LiH0.9O3、La1.9Ba0.1LiH0.9O3、およびLa1.7Ce0.3LiH1.3O3の導電率と活性化エネルギーを算出し、固溶による構造変化と導電率の相関を検討した。
1)ヒドリド過剰La2-xCeLiH1+xO(x = 0.2, 0.3, 0.4)の合成
図11は、得られたLa2-xCeLiH1+xO(x = 0.2, 0.3, 0.4)のX線回折図形を示す。固溶量の増加によるピークシフトは無く、格子定数の変化も観測されなかった。さらに、固溶量の増加に伴い、ピークが肩を持ち、17度付近には副相として新たなピークが出現していた。従って、La2-xCeLiH1+xOの固溶範囲は、好ましくは(?) x < 0.2であると考えられる。
2) La2LiHO3 の中性子回折測定結果に対する異方性温度因子の精密化
図12および表6は、中性子回折測定結果に対するリートベルト解析結果を示す。o-La2LiHO3の中性子回折測定結果に対して行ったリートベルト解析から、ヒドリドが定比で存在することが明らかとなり、温度因子も1.94という高い値を示した。これらの結果は、o- La2LiHO3のヒドリドイオン導電性を支持するものである。
【0029】
【表6】

【0030】
図13は、異方性温度因子を考慮したLaLiHO結晶構造を示す。ヒドリドイオンは他の原子と比較して温度因子が大きかった。特に、c 軸方向の温度因子が大きく現れていることが確認できる。
実施例3
本発明により得られたヒドリドイオン導電体試料の導電率測定結果を図14に示す。図4において、(a)は各試料のアレニウスプロット、(b)はBa,SrおよびCa固溶量による比較、(c)はSr固溶量による比較、(d)はCe固溶量による比較を示す。
【0031】
また、各試料のイオン導電率および活性化エネルギーを表7に示す。
【0032】
【表7】

【0033】
図14の(b)から、Ba、Sr、Caそれぞれの固溶による影響を比較する。固溶によりヒドリドの欠損が生じるため、定比の La2LiHOから導電率の向上が確認された。影響の度合いは、Sr固溶体とBa固溶体がほぼ同程度であったのに対し、Ca固溶体では小さく現れた。Sr固溶体とBa固溶体と比較してCa固溶体の格子体積が最も小さいことを考慮すると、Ca固溶体はヒドリドイオンの導電パスが狭く、欠損導入による影響が最も小さく現れたと予想される。表8に、o-La2−XLiH1-x(M=Ca,Sr,Ba、x=0、0.1)の格子定数の比較を示す。
【0034】
【表8】

【0035】
一方、Ce固溶系については、固溶量x = 0.3の試料では x = 0.1より導電率が低下した。これは、過剰Ce源由来の不純物による影響と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、ヒドリドを構造中に含む酸化物によって、固体中で高いイオン伝導を持つヒドリドイオン導電体を提供し得、固体電解質燃料電池等の電解質として利用し得る。さらには、ヒドリドイオン導電体を用いた新たなエネルギーデバイスを生み出す可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Ln2−XAH(式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1−xである。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体。
【請求項2】
3価の希土類元素が、La、Ce,Sc、Y、Nd、Sm、Eu、およびGdの少なくとも1種から選ばれる請求項1に記載のヒドリドイオン導電体。
【請求項3】
アルカリ土類金属元素が、Ca,Sr、Ba、およびMgの少なくとも1種から選ばれる請求項1または2に記載のヒドリドイオン導電体。
【請求項4】
一般式Ln2−XAH(式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1−xである。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体を製造する方法であって、Ln、MおよびAを含む原料化合物を焼成することを特徴とするヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項5】
焼成が、600〜1000℃で行われる請求項4に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項6】
焼成が、加圧下で行われる請求項4または5に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項7】
3価の希土類元素が、La、Ce,Sc、Y、Nd、Sm、Eu、およびGdの少なくとも1種から選ばれる請求項4〜6のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体。
【請求項8】
アルカリ土類金属元素が、Ca,Sr、Ba、およびMgの少なくとも1種から選ばれる請求項4〜7のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−204632(P2011−204632A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73408(P2010−73408)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】