説明

ヒドロキシカルボン酸の精製方法、環状エステルの製造方法およびポリヒドロキシカルボン酸の製造方法

【課題】ポリヒドロキシカルボン酸の製造原料として適したヒドロキシカルボン酸の精製方法、これを含む環状エステルの製造方法ならびにポリヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】ヒドロキシカルボン酸水溶液を晶析により精製し、生成したヒドロキシカルボン酸結晶を母液と分離後、洗浄により更に精製するに際して、洗浄液としてヒドロキシカルボン酸水溶液を用いることを特徴とするヒドロキシカルボン酸の精製方法。該精製ヒドロキシカルボン酸を重縮合してヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを形成し、これを解重合してヒドロキシカルボン酸の二量体からなる環状エステルとし、さらにこの環状エステルを開環重合してリヒドロキシカルボン酸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシカルボン酸の製造原料として適したヒドロキシカルボン酸の精製方法、これを含む環状エステルの製造方法ならびにポリヒドロキシカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸やポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸(脂肪族ポリエステル)は、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、ポリヒドロキシカルボン酸は、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
【0003】
ポリヒドロキシカルボン酸の中でも、ポリグリコール酸は、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性に優れ、耐熱性や機械的強度にも優れているので、包装材料などの分野において、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
【0004】
ポリヒドロキシカルボン酸は、例えば、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)や乳酸(ヒドロキシプロパン酸)などのヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができるが、高分子量の脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、ポリグリコール酸が得られる。乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、ポリ乳酸が得られる。
【0005】
いずれにしろ、用途に適した高分子量と異種結合量の少ないポリヒドロキシカルボン酸の製造原料としてヒドロキシカルボン酸は、ある程度純度の高いものである必要があるが、現実には工業的に得られるヒドロキシカルボン酸には不純物が不可避である。例えば、有機酸および硫酸等の触媒の存在下でのホルムアルデヒドおよび水のカルボニル化反応により得られるグリコール酸には、これら触媒残渣の他に、グリコール酸のエステル形成性脱水縮合による二量体であるグリコール酸二量体あるいはオリゴマー、グリコール酸のエーテル形成性脱水縮合による二量体であるジグリコール酸(O(CHCOOH))が主たる不純物として含まれる。そして、触媒残渣等の少量成分あるいはイオン性不純物等は、吸着あるいはイオン交換等の手段により工業的な分離除去が容易であるが、有機不純物の除去には別途の手段が必要となる。例えば特許文献1によれば、工業的等級の70%グリコール酸水溶液の典型的な試料の成分は以下の通りであるとされている。
【0006】
グリコール酸 …………… 62.4重量%
グリコール酸二量体 …… 8.8 〃
ジグリコール酸 ………… 2.2 〃
メトキシ酢酸 …………… 2.2 〃
蟻酸 ……………………… 0.24 〃
【0007】
一般に、有機物の分離による精製のためには、蒸留、晶析等の単位操作が知られているが、これら精製手段をヒドロキシカルボン酸の精製に用いる際には、ヒドロキシカルボン酸が加熱下に容易に重縮合するという本質的な難点がある。この点、加熱を本質的な要素とする蒸留は基本的に適用困難である。他方、ヒドロキシカルボン酸水溶液の晶析は、本質的にヒドロキシカルボン酸にかかる熱負荷の小さい方法ではあるが、それでも晶析を効率化するために、濃縮しすぎると、ヒドロキシカルボン酸が重縮合しやすい。このため、例えば高純度グリコール酸の製造のために水溶液からの種晶の添加を含む晶析が提案されている(特許文献1)が、弊害を避けつつ水溶液を効果的に濃縮する工程が含まれていないために、晶析によるグリコール酸回収の収率は6.6%〜24%と極めて低いものとなっている。このような低収率は、精密化学合成原料としてのグリコール酸の製造のためには許容できるかも知れないが、汎用樹脂製品としての供給を目指すポリヒドロキシカルボン酸の原料としてのヒドロキシカルボン酸(グリコール酸)の製造のためには現実的でない。また特許文献2には、91重量%の乳酸水溶液327gの晶析、遠心分離により、150gの乳酸結晶を54%の収率で得た例が示されているが、実験室的な手法に止まり、工業的に適用可能なヒドロキシカルボン酸の精製方法とはなり得ていない。
【特許文献1】特表平6−501268号公報
【特許文献2】特表2004−509091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の主要な目的は、ポリヒドロキシカルボン酸の製造原料としてヒドロキシカルボン酸の工業的に合理的な精製方法、これを含む環状エステルの製造方法ならびにポリヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の目的で研究し、各種実験を繰返した結果、ポリヒドロキシカルボン酸の製造原料としての純度への精製であれば、ヒドロキシカルボン酸への熱負荷の小さい晶析によって工業的に妥当な高収率でのヒドロキシカルボン酸の精製(製造)が可能であるとの知見を得た。本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法は、このような知見に基づくものであり、より詳しくは、ヒドロキシカルボン酸水溶液を晶析により精製し、生成したヒドロキシカルボン酸結晶を母液と分離後、洗浄により更に精製するに際して洗浄液としてヒドロキシカルボン酸水溶液を用いることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の環状エステルの製造方法は、上記方法により精製したヒドロキシカルボン酸を、そのまま、もしくは水に溶解してから、縮重合してヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを形成し、該オリゴマーを解重合して、ヒドロキシカルボン酸の二量体からなる環状エステルを形成することを特徴とするものである。これは、上記本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法が、上記環状エステルの製造方法において、オリゴマーの解重合を抑制する不純物として作用するエーテル型ヒドロキシカルボン酸二量体(例えばジグリコール酸)の低減に有効であるとの知見に基づく。
【0011】
また、本発明のポリヒドロキシカルボン酸の製造方法は、上記のようにして得られた環状エステルを開環重合することを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の対象とするヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシ酪酸等の室温で固体のα−ヒドロキシカルボン酸が好ましく用いられる。発酵法、合成法等、それらの製造方法は特に限定されない。いずれにしても工業的に供給されるヒドロキシカルボン酸(水溶液)には、不純物の混入は避けられないからである。なかでも加熱による重縮合性が強いという点で、グリコール酸が最も適している。
【0013】
以下、本発明を、その好ましい実施形態としての、グリコール酸への適用を中心として、更に詳細に説明する。以下の記載において、量比を表わす「%」は、特に断らない限り「重量%」を意味するものとする。
【0014】
(ヒドロキシカルボン酸の精製方法)
図1は、本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法を実施するに適した装置系の配置図である。ここでは、不純物の代表例としてジグリコール酸(以下、しばしば「di−GA」と略記)を1重量%の濃度で含む工業的等級のグリコール酸(以下、しばしば「GA」と略記)の70%水溶液を原料液として、連続的に処理する例を説明する。di−GAを不純物の代表例として選ぶ理由は、晶析の特性として、より少量成分の不純物は優先的に除去され、またグリコール酸二量体は、ポリグリコール酸の製造のために有害性が少ないからである。
【0015】
図1を参照して、攪拌機1aを備えた供給液槽1には、代表的に、GA濃度70%、di−GA濃度9.3%(原液の連続処理の結果として、原液中よりは濃度が増大する。後記実施例参照)を有するグリコール酸水溶液が収容されている。一般にこのグリコール酸水溶液中のGA濃度は、80%以下程度が好ましく、65〜75%程度がより好ましい。
【0016】
供給液槽1中のグリコール酸水溶液は配管p1を経て、攪拌機2aおよび加熱手段(特に図示せず)を備えた脱水槽2に供給される。脱水槽2は、供給されるグリコール酸水溶液中のGA濃度を、引き続く晶析処理のために効率的な濃度まで上昇させるために、グリコール酸水溶液の一部、例えば30%以下、を脱水するためのものであり、一般に常圧下または減圧下で、例えば110〜130℃程度に加熱して、蒸発した水を、脱水槽頂部配管p2を経て全縮器3に導き、ここで全部凝縮させる。凝縮した水は、配管p3を経て、留出水槽4に保持され、その後系外へ排出される。脱水槽2では、GA濃度が50〜90%、好ましくは60〜85%、より好ましくは70〜80%程度(例えば80%)に調整される。GA濃度が50%未満では、引き続く晶析工程の効率が低くなり、90%を超えると、GAの縮合によってスラリー粘性が上昇し、固液分離が困難となり、本発明の精製方法による精製効率の上昇が困難となる。同様な理由により、脱水槽2による脱水率が30%を超えることは好ましくない。留出水中にわずか(1%程度)に含まれ得るGAは、全縮器3の前、好ましくは脱水槽2からの立ち上がり配管中に、分縮器を設ければ、ほぼ全て回収可能になり、収率が向上する。
【0017】
次いでGA濃度を調整したグリコール酸水溶液は、必要に応じて、配管p4に設けたプレクーラ5で50〜20℃程度まで冷却した後、晶析槽6に導入し、−20℃(GAと水の共晶点)〜5℃程度(晶析温度)に冷却しつつ、この温度で過飽和となったGAを晶出させる。晶析槽6は、例えば冷凍機7から配管p5a,p5bを通して循環・供給される冷媒(たとえばエチレングリコール水溶液)により冷却される冷媒との交流伝熱により、比較的大きな結晶が得られるような構成を有するもの(市販品の例としてオランダ・ガウダ社製横型多段冷却晶析装置CDC(Cooling Disc Crystallizer))が好ましく用いられる。
【0018】
晶析槽6で晶出したGAを含むGA水溶液は、次いで配管p6を経て洗浄機能付き遠心分離機8(例えば市販品の例としてタナベウィルテック社製デ・コーン型連続式遠心分離機)に送られ、GA結晶と洗浄ろ液とに分離され、ろ液は分離機8の底部配管p7および循環配管p8を経て、供給液槽1に循環される。他方、GA結晶は、洗浄液タンク9から連続的又は間欠的に分離機8に供給されるグリコール酸水溶液からなる洗浄液により洗浄された後、精製GA(結晶)として回収され、洗浄ろ液は分離機底部配管p9および循環配管p8を経て、供給液槽1に循環される。
【0019】
分離機8としては、洗浄機能付き固液分離機(すなわち、析出した結晶を固液分離後、洗浄液を添加し、再度固液分離できる機能を有する装置)、特に洗浄機能付き遠心分離機、を用いることが好ましい。これは、常法に従い、晶出した結晶を洗浄液と混合して再度スラリー化したのち固液分離する態様における、(イ)結晶に付着した母液と洗浄液とが完全に混ざり合って均一になってから再度固液分離するために、比較的不純物が結晶に残りやすい、(ロ)再スラリー化する際に、洗浄液に結晶が溶けてしまうために結晶の収率が低下する、という問題点を効果的に回避するためである。すなわち、洗浄機能付き遠心分離機においては、遠心分離により母液から分離された結晶に遠心力がかかっている状態で、その内側から洗浄液が降りかかるので、結晶への付着母液が洗浄液によって、押し流される効果が発生し、より洗浄効果が高まる。また洗浄液と結晶が接触する時間も短くて済むため、結晶の溶解による収率の低下が抑制される。
【0020】
また、分離機8において洗浄液としてグリコール酸水溶液を用いるのは、GAを含まない洗浄液にすると、生成したGA結晶が洗浄液中に過剰に溶解して、晶析による精製GA結晶の回収率が低下するのを防止するためである。GA結晶の溶解を防止して回収率を向上するためには、飽和GA水溶液を用いるのが好ましいが、一般には、それより若干GA濃度の低い本発明プロセスの処理対象であるグリコール酸水溶液の原料液(例えば上記した工業的等級の70%グリコール酸水溶液)を、そのまま、あるいは濃縮を行ってGA飽和水溶液にしてから用いることが適当である。これにより、本発明によるグリコール酸の精製プロセスが全体として連続化される。プロセス全体が、連続化することにより、系内にはdi−GA等の不純物が蓄積してくるので、分離機8の底部配管p7に抜出弁10を設けて、適時、分離機8からのろ液の一部を抜出して、系外に排出することにより、系内、すなわち供給液槽1中、の不純物濃度を一定化させる(例えば前述したようにdi−GA濃度=約9.3%)。ろ液の抜出・排出率を増大すれば、系内の不純物濃度が低下し、精製GA結晶純度が向上し、他方GA結晶の回収率は低下する。ろ液の抜出・排出率を減少すれば、この逆である。すなわち、ろ液の抜出・排出率を増減することにより、GA結晶の精製率(不純物の除去率)および回収率は、適宜制御可能である。例えば、di−GA濃度を指標とする不純物除去率が90%弱の精製GAが、収率95%以上で、得られている(後記実施例参照)。
【0021】
<変形例>
上記において、本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法をグリコール酸に適用する好ましい例を説明してきた。しかしながら、本発明の範囲内で、上記例が各種変形可能であることは、当業者には容易に理解できよう。
【0022】
例えば、配管p4に設けたプレクーラ5の代りに熱交換器を用い、配管p8からの低温のろ液と熱交換させることにより、晶析槽6に供給するグリコール酸水溶液を予備冷却することができる。また遠心分離機8の代りに、洗浄機能付きの振動篩、濾過乾燥機(例えばニッセン社製「WDフィルター」)等の固液分離機を使用することもできる。
【0023】
また、図1で説明した本発明のヒドロキシカルボン酸の精製装置系は、本質的にグリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸へも適用可能である。例えば、乳酸の場合には、グリコール酸に比べて、熱重縮合性が低いので、系内の乳酸濃度はより高めることができる、水に対する溶解度がグリコール酸に比べて高いため晶析温度は低めの方が好ましい、
等の点は、若干異なるが、それ以外は本質的に同様に適用可能である。
【0024】
(環状エステルの製造方法)
本発明の環状エステルの製造方法は、上記の方法により精製したヒドロキシカルボン酸を、そのまま、あるいはハンドリング性を考慮してその水溶液を形成し必要に応じて濃縮した後、縮重合してヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを形成し、該オリゴマーを解重合して、ヒドロキシカルボン酸の二量体からなる環状エステルを形成することを特徴とするものである。
【0025】
例えばヒドロキシカルボン酸がグリコール酸の場合、上記精製方法により精製したGAを、そのまま用いてもよいが、ハンドリング性を考慮して、水に溶解して、グリコール酸水溶液(濃度は70%以下が適当である)を形成し、このグリコール酸水溶液を、更に濃縮ならびに縮重合化によりグリコール酸オリゴマーとして回収し、更に国際公開WO 02/14303号公報に記載の方法により解重合して、ポリグリコール酸原料として有用なグリコリド(グリコール酸の環状二量体エステル)を得ることができる。すなわち、上記国際公開WO 02/14303号公報(その開示の全体は、参照により本願明細書に包含するものとする)の方法によれば、
(I)上記のように回収されたグリコール酸オリゴマー(A)と下記式(1)
[化1]
−O−(−R−O−)−−Y (1)
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表わし、Xは、炭化水素基を表わし、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表わし、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表わされ、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または0.1〜90kPaの減圧下に、該グリコール酸オリゴマー(A)の解重合が起こる温度(例えば200〜320℃)に加熱し、
(II)該グリコール酸オリゴマー(A)の融液相と該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とからなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、
(III)該溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成したグリコリド(環状エステル)を該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させ、
(IV)留出物からグリコリドを回収する
ことが可能になる。
【0026】
(ポリヒドロキシカルボン酸の製造方法)
上記のようにして得た環状エステルは、一般に開環重合により、ポリヒドロキシカルボン酸を製造するための良好な原料となることが知られている。
【0027】
環状エステルの開環重合のためには、環状エステルを触媒の存在下に加熱溶融させ、次いで、溶融状態の環状エステルを開環重合する方法を採用することが好ましい。この重合法は、塊状での開環重合法である。溶融状態の環状エステルの開環重合は、反応缶や管型あるいは塔型、押出機型反応装置を用い、バッチ式あるいは連続式で行うことができる。通常は、重合容器内で塊状開環重合する方法を採用することが好ましい。例えば、グリコリドを加熱すると溶融して液状になるが、加熱を継続して開環重合させると、ポリマーが生成する。重合温度が固体のポリマーの結晶化温度以下の場合は、重合途中でポリマーが析出し、最終的には固体のポリマーが得られる。重合時間は、開環重合法や重合温度などによって変化するが、容器内での開環重合法では、通常10分間〜100時間、好ましくは30分間〜50時間、より好ましくは1〜30時間である。重合転化率は、通常95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上であり、未反応モノマーの残留を少なくし、かつ、生産効率を高める上で、フル・コンバージョンとすることが最も好ましい。
【0028】
さらに、溶融状態の環状エステルを複数の管(両端が開閉可能な管も好ましく用いられる)を備えた重合装置に移送し、各管内で気密状態で開環重合して生成ポリマーを析出させる方法;また溶融状態の環状エステルを攪拌機付き反応缶中で開環重合を進行させた後、精製したポリマーを取り出し、一度ポリマーを冷却固化させた後、ポリマーの融点以下で固相重合反応を継続する方法も好ましい。これらの方法は、バッチ式または連続式のいずれの方法によっても行うことができる。いずれにしても、気密状態(すなわち、気相の無い反応系)で重合温度を制御する方法をとることにより、目標とする分子量、溶融粘度などの物性を有するポリマーを安定的に、かつ、再現性良く製造することができる。
【0029】
上記環状エステルの塊状開環重合をするに当り、水および/またはアルコールを開始剤または/及び分子量調節剤として含む環状エステルを、環状エステル中の全プロトン濃度を指標として用いて開環重合することが好ましい。
【0030】
このようなポリヒドロキシカルボン酸の製造法のより詳細は、例えばPCT/JP2004/015557号出願およびPCT/JP2004/016706号出願の明細書に記載されており、これら明細書の記載は、参照により本願明細書に包含するものとする。
【実施例】
【0031】
以下、本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法を実施例(実験例)により、更に具体的に説明する。
【0032】
(実施例1)
本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法、特に図1に示した装置系は、連続運転に適しているが、実験室規模での性能確認のため、供給液槽1から脱水槽2へのグリコール酸水溶液の供給から、遠心分離機8からの供給液槽1へのろ液リサイクルまでを1サイクル(単位操作として(1)脱水、(2)晶析、(3)固液分離および結晶洗浄、ならびに(4)ろ液のリサイクルを含む)として、このサイクル中の単位操作を回分的に繰り返し、連続運転のシミュレーション実験とした。
【0033】
すなわち、第1サイクルにおいては、供給液槽1から、GA濃度70%および不純物di−GA濃度1%のグリコール酸水溶液を脱水槽に供給して、以下のような操作(1)〜(4)(但し、過渡状態であるため、GA濃度、di−GA濃度等は異なる)を18サイクル繰り返したところ、供給液槽1にリサイクルされたろ液は、GA濃度70%、di−GA濃度9.29%でほぼ一定化した。従って、これをもって連続運転による定常状態と判断し、次の19サイクル目の以下の(1)〜(4)の操作を、連続運転における性能評価のためのシミュレーション実験として行った。
【0034】
(1)脱水
すなわち、定常状態GA濃度70%、di−GA濃度9.29%、のグリコール酸水溶液700gを常圧で120℃まで加熱して、GA濃度が80%になるまで濃縮した。
【0035】
(2)晶析
GA濃度80%に濃縮されたグリコール酸水溶液を0.2℃/分の冷却速度で−10℃まで冷却して、GA結晶の析出したスラリーを得た。
【0036】
(3)上記晶析によって得られたスラリーを遠心分離機(三陽理科学器械製作所(株)製「CENTRIFUGAL FILTER:TYPE SYK−3800−10A」)にかけ、得られた結晶に、それと同重量の70%グリコール酸水溶液(すなわち、di−GA濃度1%、GA濃度70%の原料グリコール酸水溶液)を添加して、再度遠心分離機にかけ、精製GAを得た。
【0037】
(4)ろ液のリサイクル
スラリーの遠心分離によって発生するろ液と、結晶の洗浄によって発生するろ液とを混合して、次のサイクル(第20サイクル)の原料として供給液槽1にリサイクルした。
【0038】
上記(3)の操作で得た精製GAの収率(18サイクル目で結晶の洗浄に使用した70%グリコール酸水溶液中のGA量に対する、この19サイクル目で得られた精製GAの割合)は95.5%であり、精製GA濃度は97.6%であった。また精製GA中のdi−GA濃度は0.16%であり、原料と同じ70%GA濃度に調整すると、di−GA濃度は0.12%となり、不純物除去率は88%になった。
【0039】
(実施例2〜5)
晶析前の脱水工程におけるグリコール酸水溶液の濃縮度の精製効果に対する影響を調べるために、以下の実験を行った。
【0040】
(1)脱水
上記実施例1で用いたものと同じGA濃度70%、di−GA濃度9.29%の定常状態グリコール酸水溶液を、常圧で加熱して、異なる程度に濃縮して、GA濃度が、それぞれ70%(実施例2、濃縮なし)、80%(実施例3)、84%(実施例4)および89%(実施例5)であるグリコール酸水溶液を得、これらを、それぞれ以下の操作(2)および(3)に付した。
【0041】
(2)晶析
0.2℃/分の冷却速度で0℃まで冷却した。
【0042】
(3)固液分離および結晶洗浄
上記(2)で得られたGA結晶を含むスラリーについて、上記実施例1と同様の固液分離および結晶洗浄操作を行った。
【0043】
得られた精製GA結晶について測定した、結晶化率、不純物di−GA濃度および含液率は、次表1に示す通りであった。
【表1】

【0044】
濃縮による効果は結晶化率の向上に表われている。その悪影響は、不純物di−GA濃度の上昇(精製効率の低下)および含液率の上昇(GAの重縮合によるスラリー粘性の上昇の結果としての遠心分離効率の低下を示す)に表われている。上記表1の結果を見れば、GA濃度80%程度までの濃縮であれば、本質的な悪影響がなく、結晶化率の向上(晶析効率)の向上が得られることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上述したように、本発明によれば、ポリヒドロキシカルボン酸の製造原料として適したヒドロキシカルボン酸の精製方法、これを含む環状エステルの製造方法ならびにポリヒドロキシカルボン酸の製造方法が提供される。また、本発明法により精製されたグリコール酸等のヒドロキシカルボン酸は、ポリヒドロキシカルボン酸の製造原料以外にも、同等以下の純度で充分な他の化学合成品の原料に用いられるほか、必要な場合には、1パスとしての収率は低下するが、より高純度のヒドロキシカルボン酸を得るための精製方法、例えば1パスとしての収率は低下するが、特許文献1の晶析法、の原料としても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のヒドロキシカルボン酸の精製方法を実施するに適した装置系の配置図。
【符号の説明】
【0047】
1 供給液槽(1a:攪拌機)
2 脱水槽(2a:攪拌機)
3 全縮器
4 留出水槽
5 プレクーラ
6 晶析槽
7 冷凍機
8 遠心分離機
9 洗浄液タンク
p1〜p4,p5a,p5b,p6〜p9 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸水溶液を晶析により精製し、生成したヒドロキシカルボン酸結晶を母液と分離後、洗浄により更に精製するに際して、洗浄液としてヒドロキシカルボン酸水溶液を用いることを特徴とするヒドロキシカルボン酸の精製方法。
【請求項2】
洗浄工程を洗浄機能付固液分離機を用いて実施する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固液分離機が遠心分離機である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸水溶液を冷却してから、晶析に付す請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
原料ヒドロキシカルボン酸水溶液を洗浄液として用い、ヒドロキシカルボン酸結晶の洗浄後の排液の一部を系外に排出し、残部を晶析に付されるヒドロキシカルボン酸水溶液としてリサイクルする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ヒドロキシカルボン酸水溶液中のヒドロキシカルボン酸濃度が80重量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ヒドロキシカルボン酸水溶液中のヒドロキシカルボン酸濃度が65〜75重量%である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ヒドロキシカルボン酸がグリコール酸である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ヒドロキシカルボン酸水溶液を晶析工程に付すに先立って、ヒドロキシカルボン酸濃度80重量%以下まで濃縮する工程を含む請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により精製したヒドロキシカルボン酸を縮重合してヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを形成し、該オリゴマーを解重合して、ヒドロキシカルボン酸の二量体からなる環状エステルを形成することを特徴とする環状エステルの製造方法。
【請求項11】
精製したヒドロキシカルボン酸の水溶液を濃縮してから縮重合してヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを形成する請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ヒドロキシカルボン酸がグリコール酸であり、環状エステルがグリコリドである請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項10または11に記載の方法により製造された環状エステルを開環重合することを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項14】
環状エステルがグリコリドであり、ポリグリコール酸を製造する請求項13に記載の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−169185(P2006−169185A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365808(P2004−365808)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】