説明

ヒドロキシ末端ポリスルホンの製造方法

【課題】ハロゲン末端ポリスルホンから、ヒドロキシ末端の割合が高いポリスルホンを短時間で製造する。
【解決手段】ハロゲン末端ポリスルホンと塩基性化合物と溶媒とを含む混合物を、所定温度に加熱し、この所定温度で水を発生する金属化合物と混合する。塩基性化合物としては、炭酸のアルカリ金属塩が好ましく用いられ、溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましく用いられ、水を発生する金属化合物としては、金属水酸化物が好ましい用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端にハロゲン原子を有するポリスルホン(以下「ハロゲン末端ポリスルホン」ということがある。)から、末端にヒドロキシル基及び/又はその塩を有するポリスルホン(以下「ヒドロキシ末端ポリスルホン」という。)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスルホンは、耐熱性や耐薬品性に優れることから、電気・電子部品の材料をはじめ、各種用途への適用が検討されている。中でも、ヒドロキシ末端ポリスルホンは、そのヒドロキシ末端の反応性を活かして、塗料やエポキシ改質剤やアロイ化剤として好ましく検討されている。
【0003】
ポリスルホンの製造は、通常、溶媒中、塩基性化合物を用いて、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより行われ、その際、ジヒドロキシ化合物をジハロゲノスルホン化合物より過剰に用いることにより、ヒドロキシ末端ポリスルホンを得ることができるが、高重合度のものが得られ難いという問題がある。このような問題を解消するため、高重合度のものが得られ易いハロゲン末端ポリスルホンを加水分解して、ヒドロキシ末端ポリスルホンを製造する方法が検討されており、例えば、特許文献1には、ハロゲン末端ポリスルホンと水と塩基性化合物と溶媒とを含む混合物を加熱することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−1447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の方法では、ヒドロキシ末端の割合が高いポリスルホンを得るには、反応に長時間を要し、反応時間を短縮すべく、反応温度を上げると、水が反応に消費される前に系外に留去され易く、かえって反応が進み難くなるという問題がある。そこで、本発明の目的は、ハロゲン末端ポリスルホンから、ヒドロキシ末端の割合が高いポリスルホンを短時間で製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、末端にハロゲン原子を有するポリスルホンと塩基性化合物と溶媒とを含む混合物を、所定温度に加熱し、前記所定温度で水を発生する金属化合物と混合することを特徴とする末端にヒドロキシル基及び/又はその塩を有するポリスルホンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ハロゲン末端ポリスルホンから、ヒドロキシ末端の割合が高いポリスルホンを短時間で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ポリスルホンは、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)とスルホニル基(−SO2−)と酸素原子とを含む繰返し単位を有する樹脂である。ポリスルホンは、耐熱性や耐薬品性の点から、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)や、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0009】
(1)−Ph1−SO2−Ph2−O−
【0010】
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0011】
(2)−Ph3−R−Ph4−O−
【0012】
(Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0013】
(3)−(Ph5)n−O−
【0014】
(Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。nは、1〜3の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0015】
Ph1〜Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記フェニレン基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0016】
Rであるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及び1−ブチリデン基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜5である。
【0017】
ポリスルホンは、繰返し単位(1)を、全繰返し単位の合計に対して、50モル%以上有することが好ましく、80モル%以上有することがより好ましく、繰返し単位として実質的に繰返し単位(1)のみを有することがさらに好ましい。なお、ポリスルホンは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0018】
ポリスルホンは、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。例えば、繰返し単位(1)を有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として下記式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」ということがある。)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。また、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。また、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(7)で表される化合物(以下、「化合物(7)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0019】
(4)X1−Ph1−SO2−Ph2−X2
【0020】
(X1は及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1及びPh2は、前記と同義である。)
【0021】
(5)HO−Ph1−SO2−Ph2−OH
【0022】
(Ph1及びPh2は、前記と同義である。)
【0023】
(6)HO−Ph3−R−Ph4−OH
【0024】
(Ph3、Ph4及びRは、前記と同義である。)
【0025】
(7)HO−(Ph5)n−OH
【0026】
(Ph5及びnは、前記と同義である。)
【0027】
前記重縮合は、塩基性化合物を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。塩基性化合物としては、炭酸のアルカリ金属塩が好ましく用いられる。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリであってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(炭酸水素アルカリ)であってもよいし、両者の混合物であってもよく、炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられ、重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましく用いられ、中でも、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルアセトアミド等の極性溶媒が好ましく用いられる。
【0028】
本発明では、原料として、ハロゲン末端ポリスルホンを用い、これを加水分解して、その末端のハロゲン原子をヒドロキシル基及び/又はその塩(以下「ヒドロキシル基類」ということがある。)に変換することにより、ヒドロキシ末端ポリスルホンを得る。
【0029】
ハロゲン末端ポリスルホンは、前記重縮合において、ジハロゲノスルホン化合物をジヒドロキシ化合物より過剰に用いることにより得られる。ハロゲン末端ポリスルホンの全末端基に占めるハロゲン原子の割合は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0030】
ハロゲン末端ポリスルホンは、その還元粘度が、好ましくは0.2〜0.9dl/g、より好ましくは0.3〜0.8dl/g、さらに好ましくは0.35〜0.76dl/g、特に好ましくは0.4〜0.6dl/gである。還元粘度は重合度の目安となり、ハロゲン末端ポリスルホンの還元粘度が高いほど、得られるヒドロキシ末端ポリスルホンの還元粘度が高くなり易く、すなわち重合度が高くなり易く、耐熱性や強度・剛性に優れたものとなるが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、その成形に必要な温度が高くなり易く、また、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0031】
前記重縮合において、仮に副反応が生じなければ、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比が1:1に近いほど、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、重縮合温度が高いほど、また、重縮合時間が長いほど、得られるポリスルホンの重合度が高くなり易く、還元粘度が高くなり易いが、実際は、副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲノ基のヒドロキシル基への置換反応や解重合等の副反応が生じ、この副反応により、得られるポリスルホンの重合度が低下し易く、還元粘度が低下し易いので、この副反応の度合いも考慮して、所望の還元粘度を有するポリスルホンが得られるように、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比、炭酸のアルカリ金属塩の使用量、重縮合温度及び重縮合時間を調整することが好ましい。
【0032】
本発明では、ハロゲン末端ポリスルホンの加水分解を、ハロゲン末端ポリスルホンと塩基性化合物と溶媒とを含む混合物を所定温度に加熱し、この所定温度で水を発生する化合物と混合することにより行う。これにより、高温での速やかな加水分解が可能となり、ヒドロキシ末端の割合が高いポリスルホンを短時間で製造することができる。
【0033】
塩基性化合物としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩、炭酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム等の炭酸のアルカリ土類金属塩、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウムの水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の三級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等の二級アミン、メチルアミン、エチルアミン等の一級アミン、及びアンモニアが挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でも、取り扱い易さから、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムがより好ましい。
【0034】
塩基性化合物の使用量は、ハロゲン末端ポリスルホンに対し、通常0.001〜1モル倍、好ましくは0.005〜0.5モル倍、より好ましくは0.005〜0.1モル倍、さらに好ましくは0.01〜0.06モル倍である。塩基性化合物の使用量がまり多いと、塩基性化合物が溶解しきれず反応が不均一になったり、塩基性化合物がポリスルホン中に残存したり、ポリスルホンが着色したりし易くなる。塩基性化合物の使用量があまり少ないと、加水分解が進み難くなる。ここで、ハロゲン末端ポリスルホンのモル数は、ハロゲン末端ポリスルホン重量を繰り返し単位の式量(あたりの分子量)で割ったものである。
【0035】
溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましく用いられ、中でも、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピペリドン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等の極性溶媒が好ましく用いられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でも、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン及びジフェニルスルホンが好ましい。
【0036】
溶媒の使用量は、ハロゲン末端ポリスルホンに対し。通常1〜20質量倍、好ましくは1〜10質量倍、より好ましくは2〜5質量倍である。溶媒の使用量があまり少ないと、ポリスルホンが全て溶解しなったり、溶解しても粘度が高すぎて、撹拌等の操作がし難くなったりし易い。溶媒の使用量があまり多いと、反応速度が遅くなったり、回収時の収率が低下したりし易い。
【0037】
水を発生する金属化合物としては、例えば、水酸化物(MIOH、MII(OH)2、MIII(OH)3等)、酸化物の水和物(MI2O・H2O、MIIO・H2O、MIII23・3H2O等)、水酸化物の水和物、オキシ水酸化物の水和物及び結晶水を含む各種金属塩が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でも、水酸化アルミニウム(結晶性アルミナ水和物)が好ましく、その例としては、ギブサイト(Al23・H2O(示性式Al(OH)3)、バイアライト(a)、バイアライト(b)、ノルストランダイト、ジアスポア(Al23・H2O(示性式AlO(OH)))、ベーマイト、トーダイト(5Al23・H2O(示性式Al57(OH)))、擬ベーマイト(Al23・nH2O(示性式AlO(OH)・nH2O))、及びアルミノゲル(Al23・(H2O)n)が挙げられる。
【0038】
水を発生する金属化合物は、350℃以下の温度で水を発生するものであることが好ましい。水を発生する温度があまり高いと、当該温度まで温度を上げられる溶媒が限られ、また、そのような高温ではポリスルホンが分解し易く、着色し易くなる。
【0039】
水を発生する金属化合物の使用量は、それが発生する水の量で表して、ハロゲン末端ポリスルホンに対し、好ましくは0.01〜10モル倍、より好ましくは0.1〜10モル倍、さらに好ましくは0.1〜6モル倍である。水を発生する金属化合物の使用量があまり多いと、得られるヒドロキシ末端ポリスルホンの分子量が低下したり、水酸化物残渣が多くなり、ポリスルホンの回収洗浄が困難になったりし易くなる。水を発生する金属化合物の使用量があまり少ないと、反応が進み難く、ヒドロキシ末端が導入され難くなる。
【0040】
反応温度すなわち混合物の加熱温度は、用いる水を発生する金属化合物が水を発生する温度より高くする必要があり、逆に言えば、水を発生する金属化合物としては、混合物の加熱温度より低い温度で水を発生するものを用いる必要がある。混合物の加熱温度は、好ましくは100〜350℃、より好ましくは150〜300℃、さらに好ましくは200〜300℃である。混合物の加熱温度があまり高いと、使用できる溶媒が限られ、また、ポリスルホンが分解し易く、着色し易くなる。混合物の加熱温度があまり低いと、反応が進み難く、ヒドロキシ末端が導入され難くなる。
【0041】
反応時間は、好ましくは1分〜1時間、より好ましくは5分〜1時間、さらに好ましくは5〜30分、特に好ましくは5〜10分であり、本発明によれば、このような短時間でもヒドロキシ末端の割合が高いポリスルホンを得ることができ、ポリスルホンの分解反応や着色を抑制できる。
【0042】
反応系は塩基性化合物を含み、かつ、高温であるため、ヒドロキシ末端ポリスルホンが酸化され易いことから、反応雰囲気は酸素を含まないことが好ましく、窒素等の不活性ガス雰囲気下に反応を行うことが好ましい。
【0043】
反応混合物からのヒドロキシ末端ポリスルホンの回収は、反応混合物から、塩基性化合物及びその残渣や水を発生する金属化合物の残渣を、濾過や遠心分離により分離し、得られたヒドロキシ末端ポリスルホンの溶液を、ヒドロキシ末端ポリスルホンの貧溶媒と混合して、ヒドロキシ末端ポリスルホンを析出させることにより行ってもよいし、反応混合物を、ヒドロキシ末端ポリスルホンの貧溶媒と混合して、ヒドロキシ末端ポリスルホンを析出させることにより行ってもよい。ヒドロキシ末端ポリスルホンの貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトニトリル等のニトリル、及び水が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。なお、この貧溶媒には、ヒドロキシ末端ポリスルホンが析出可能な範囲で反応溶媒等のヒドロキシ末端ポリスルホンの良溶媒が含まれていてもよく、また、ヒドロキシ末端ポリスルホンの析出状態を制御するために界面活性剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0044】
ヒドロキシ末端ポリスルホンとして、末端にヒドロキシル基を有するポリスルホンを得るには、反応後に酸と接触させることが好ましく、酸との接触は、反応後の反応混合物に対し行ってもよいし、貧溶媒でヒドロキシ末端ポリスルホンを析出させる際に行ってもよいし、析出後に行ってもよい。
【0045】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、りん酸、亜硫酸、クロム酸、次亜塩素酸、シアン化水素酸、臭化水素酸、ホウ酸等の無機酸や、酢酸、蟻酸、シュウ酸、酒石酸、ステアリン酸、ナフテン酸、ピクリン酸、りんご酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。
【0046】
酸の使用量は、ポリスルホン1モルに対し、好ましくは0.001〜2モル倍、より好ましくは0.01〜1モル倍、さらに好ましくは0.02〜0.5モル倍である。酸の使用量があまり少ないと、ヒドロキシル基の塩からヒドロキシル基への変換が不十分になり易く、あまり多いと、効率的でない。
【0047】
析出回収後のヒドロキシ末端ポリスルホンは、その貧溶媒で洗浄後、乾燥することが好ましい。
【0048】
こうして得られるヒドロキシ末端ポリスルホンは、その全末端基に占めるヒドロキシル基類の割合が、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。また、その還元粘度が、好ましくは0.2〜0.7dl/g、より好ましくは0.5〜0.7dl/gである。
【0049】
本発明によれば、全末端基に占めるヒドロキシル基類の割合が60モル%以上で、還元粘度が0.5〜0.7dl/gという、ヒドロキシ末端の割合が高く、かつ、高重合度のポリスルホンを得ることができる。
【実施例】
【0050】
〔ポリスルホンの還元粘度の測定〕
ポリスルホン約1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dlとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。前記溶液の粘度(η)と前記溶媒の粘度(η0)から、比粘性率((η−η0)/η0)を求め、この比粘性率を、前記溶液の濃度(約1g/dl)で割ることにより、ポリスルホンの還元粘度(dl/g)を求めた。
【0051】
〔ポリスルホン中の末端ヒドロキシル基類の個数(モル/g)の測定〕
所定量のポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させ、過剰量のパラトルエンスルホン酸を加えた後、電位差滴定装置を用いて、0.05モル/Lのカリウムメトキシド/トルエン・メタノール溶液で滴定し、残存パラトルエンスルホン酸を中和した後、ヒドロキシル基を中和し、このヒドロキシル基の中和に要したカリウムメトキシドの量(モル)を、芳香族ポリスルホン樹脂の前記所定量(g)で割ることにより求めた。
【0052】
〔ポリスルホン中の末端クロロ基の個数(モル/g)の測定〕
400MHz核磁気共鳴装置(日本電子(株)の「AL−400」)を用い、濃度1mg/mlのポリスルホンの重水素化DMSO溶液について、積算回数100回でプロトンNMRスペクトルを測定した。クロロ基が結合するベンゼン環の炭素に隣接する炭素に結合するプロトンのシグナル(7.78ppm)の面積(HCl)と、エーテル結合の酸素原子が結合するベンゼン環の炭素に隣接する炭素に結合するプロトンのシグナル(7.4ppm)の面積(HO)から、繰返し単位1モルあたりのクロロ基のモル数(HCl/(HO/2))を求め、これに繰返し単位の式量を掛けることにより求めた。
【0053】
〔ポリスルホン中の全末端基に占めるクロロ基の割合及びヒドロキシル基類の割合の算出〕
先に求めたポリスルホン中の末端ヒドロキシル基類の個数と末端クロロ基の個数とから、次の式により求めた。
[全末端基に占めるヒドロキシル基類の割合]=[末端ヒドロキシル基類の個数]/([末端ヒドロキシル基類の個数]+[末端クロロ基の個数])
[全末端基に占めるハロゲン原子の割合]=[末端クロロ基の個数]/([末端ヒドロキシル基類の個数]+[末端クロロ基の個数])
【0054】
〔ポリスルホンの加熱減量の測定〕
〈加熱減量〉
熱重量分析装置((株)島津製作所の「TGA−50」)を用いて、ポリスルホン約10mgを窒素流通下、室温から600℃まで、10℃/分の速度で昇温し、10質量%減量する温度を測定した。
【0055】
参考例1(クロロ末端ポリスルホン(1)の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた容量2000mlの重合槽に、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン614.2g(2.14モル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン525.0g(2.10モル)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン784.0gを入れ、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温した後、無水炭酸カリウム300.8gを加え、290℃まで徐々に昇温し、290℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、固化した反応マスを、細かく粉砕した後、温水により洗浄して塩化カリウムを除去した。さらに、アセトンとメタノールの混合溶媒での洗浄を数回行い、重合溶媒であるジフェニルスルホンを除去し、次いで水で洗浄した後、150℃で加熱乾燥を行った。得られた粉末状のポリスルホンの平均粒径は500μmであった。このポリスルホンの還元粘度は、0.52dl/gであった。
【0056】
参考例1(クロロ末端ポリスルホン(2)の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた容量2000mlの重合槽に、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン609.3g(2.12モル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン525.0g(2.10モル)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン784.0gを入れ、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温した後、無水炭酸カリウム300.8gを加え。290℃まで徐々に昇温し、290℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、固化した反応マスを、細かく粉砕した後、温水により洗浄して塩化カリウムを除去した。さらに、アセトンとメタノールの混合溶媒での洗浄を数回行い、重合溶媒であるジフェニルスルホンを除去し、次いで水で洗浄した後、150℃で加熱乾燥を行った。得られた粉末状のポリスルホンの平均粒径は500μmであった。このポリスルホンの還元粘度は、0.76dl/gであった。
【0057】
〔水酸化アルミニウム〉
水酸化アルミニウムとして、住友化学(株)の「CW−375HT」を用いた。この水酸化アルミニウムは、昇温速度10℃/分でのDSC測定にて、吸熱開始200℃、吸熱ピーク300℃を有しており、理論放出水分量は34.6質量%である。
【実施例1】
【0058】
攪拌翼、冷却管(ジムロート(水冷))、窒素導入管、及び温度計を備えた500mlのSUS製セパラブルフラスコに、クロロ末端ポリスルホン(1)166.6g、及び溶媒としてジフェニルスルホン(DPS)230.0gを入れ、窒素ガス流通下、攪拌しながら、オイルバスを用いて285℃に昇温し、溶融、溶解させた。なお、ポリスルホン濃度は42質量%である。溶解、内温が安定した後、微粉状の無水炭酸カリウム1.98gを添加して分散させ、次いで水酸化アルミニウム5.0gを添加して、15分間攪拌した。
【0059】
攪拌終了後、直ちに反応液を150℃で熱時濾過して、水酸化アルミニウム残渣及び炭酸カリウム残渣を濾別し、その濾液を濃度0.1質量%の塩酸メタノール1000mlに滴下し、ポリスルホンを析出させた。濾紙上を100mlずつのN−メチルピロリドンで3回洗浄し、洗液はそのまま上記塩酸メタノール中に滴下した。析出したポリスルホンを1000mlの水で2回、1000mlのメタノールで1回洗浄した後、回収して、150℃で真空乾燥した。得られたポリスルホンは白色粉末状であった。このポリスルホンの収率(回収ポリスルホン質量/原料ポリスルホン質量)、還元粘度、全末端基に占めるクロロ基の割合及びヒドロキシル基類の割合、並びに加熱減量を表1に示す。
【0060】
実施例2、3
水酸化アルミニウムを1.85g(実施例2)又は200g(実施例3)用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例4
反応溶媒としてN−メチルピロリドンを用い、反応温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例5
反応温度を300℃としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例6、7
反応時間を70分(実施例6)又は40分(実施例7)としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例8
原料のポリスルホンとしてクロロ末端ポリスルホン(2)を用い、溶媒のジフェニルスルホンの使用量を330.0gとしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0065】
実施例9
反応温度を360℃としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例1
攪拌翼、冷却管(ジムロート(水冷))、窒素導入管、及び温度計を備えた500mlのガラス製セパラブルフラスコに、クロロ末端ポリスルホン(1)20.0g、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)200ml、水5.4g、及び無水炭酸カリウム2.8gを入れ、窒素ガス流通下、攪拌しながら、オイルバスを用いて150℃に昇温し、その温度で15分間反応を継続した。
【0067】
5時間の反応終了後、直ちに、反応液を150℃で熱時濾過して、炭酸カリウム残渣を濾過し、その濾液を濃度0.1質量%の塩酸メタノール500mlに滴下し、ポリスルホンを析出させた。濾紙上を100mlずつのN−メチルピロリドンで3回洗浄し、洗液はそのまま上記塩酸メタノール中に滴下した。析出したポリスルホンを500mlの水で2回、500mlのメタノールで1回洗浄した後、回収して、150℃で真空乾燥した。得られたポリスルホンは白色粉末状であった。このポリスルホンの収率(回収ポリスルホン質量/原料ポリスルホン質量)、還元粘度、全末端基に占めるクロロ基の割合及びヒドロキシル基類の割合、並びに加熱減量を表1に示す。
【0068】
比較例2、3
反応時間を60分(比較例2)又は300分(比較例3)としたこと以外は、比較例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0069】
比較例4
無水炭酸カリウムを1.12g用い、水を1.08g用い、反応時間を300分としたこと以外は、比較例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0070】
比較例5
反応溶媒としてN−メチルピロリドンを用い、反応温度を80℃とし、反応時間を60分としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にハロゲン原子を有するポリスルホンと塩基性化合物と溶媒とを含む混合物を、所定温度に加熱し、前記所定温度で水を発生する金属化合物と混合することを特徴とする末端にヒドロキシル基及び/又はその塩を有するポリスルホンの製造方法。
【請求項2】
前記所定温度が、100〜350℃である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
末端にハロゲン原子を有する前記ポリスルホンが、下記式(1)で表される繰返し単位を有するポリスルホンである請求項1又は2に記載の製造方法。
式(1):−Ph1−SO2−Ph2−O−
(Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項4】
前記塩基性化合物が、炭酸のアルカリ金属塩である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、非プロトン性溶媒である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物が、金属水酸化物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属化合物の使用量が、前記金属化合物が発生する水の量で表して、末端にハロゲン原子を有する前記ポリスルホンに対し、0.01〜10モル倍である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
末端にハロゲン原子を有する前記ポリスルホン中の全末端基に占める前記ハロゲン原子の割合が、60モル%以上である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
末端にヒドロキシル基及び/又はその塩を有する前記ポリスルホン中の全末端基に占める前記ヒドロキシル基及びその塩の割合が、60モル%以上である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
末端にハロゲン原子を有する前記ポリスルホンの還元粘度が、0.2〜0.9(dl/g)である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
末端にヒドロキシル基及び/又はその塩を有する前記ポリスルホンの還元粘度が、0.2〜0.7dl/gである請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
全末端基に占めるヒドロキシル基及び/又はその塩の割合が60モル%以上であり、還元粘度が0.5〜0.7dl/gであるポリスルホン。

【公開番号】特開2012−211289(P2012−211289A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78752(P2011−78752)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】