説明

ヒューズ用錫合金及びこれを用いた電線ヒューズ

【課題】 普通溶断型の無鉛化電線ヒューズに用いられる、特に低圧配電線路に使用され大電流の供給を従来と同等に安全に行うことができるヒューズ用錫合金及びこれを利用した電線ヒューズを提供する。また、資源の保護及び原価低減が可能なヒューズ用錫合金及びこれを利用した電線ヒューズを提供する。
【解決手段】 本発明に係るヒューズ用錫合金は、Znを0.2mass%以上50mass%以下を含み、残部がSnと不可避的不純物からなる組成を有する。また、本発明に係る電線ヒューズは、上記ヒューズ用錫合金からなるヒューズエレメントと銅細線を結線してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉛成分を含まないヒューズ用錫合金及びこれを用いた電線ヒューズに係り、特に低圧配電線路に使用される普通溶断型の電線ヒューズに用いて好適なヒューズ用錫合金及びこれを用いた電線ヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年電機製品等に使用される有害重金属の人体及び環境に及ぼす影響が懸念され、そのような有害重金属の排除が世界的に求められている。例えば電機製品等に使用される鉛を除くためはんだの無鉛化についての研究開発や規格化プロジェクトが世界的に進められている。
【0003】
はんだと同様に電線ヒューズについても無鉛化が求められており、例えば特許文献1では従来のヒューズより鉛成分を少なくした鉛―ビスマスー錫合金が提案されている。また、特許文献2では、半導体装置に使用する低融点の銀又は亜鉛合金をアルミニウムや銅で被覆した速動溶断型の電流ヒューズエレメントが提案されている。特許文献3にはタイムラグ溶断型の自動車用電流ヒューズエレメントに使用する亜鉛―アルミニウムーマグネシウム合金が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000-228141号公報
【特許文献2】特開2001-28228号公報
【特許文献3】特開2002-260518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電線ヒューズの無鉛化の取り組み例は少なく、その取り組みも限られた製品分野又は限られた溶断型の電線ヒューズに限られている。特に大電流の供給を行う低圧配電線路に使用される電線ヒューズに対しては、質量でPb39%-Ti1.6%-Cu0.1%を含み残部がSnの合金を用いた電線ヒューズの使用実績が多く信頼性が高いことも原因していると思われるが、そのような低圧配電線路に使用される普通溶断型の無鉛化電線ヒューズに関する提案はない。
【0006】
本発明は、かかる社会的な要請及び従来の問題点に鑑みて、普通溶断型の無鉛化電線ヒューズに用いられる、特に低圧配電線路に使用され大電流の供給を従来と同等に安全に行うことができるヒューズ用錫合金及びこれを用いた電線ヒューズを提供することを目的とする。また、資源の保護及び原価低減に資するヒューズ用錫合金及びこれを用いた電線ヒューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、はんだ用の低融点合金として公知のSn-Zn合金に着目し、Snをベースとする電線ヒューズに要求される種々の試験を行って本発明を完成させた。本発明に係るヒューズ用錫合金は、Znを0.2mass%以上50mass%以下を含み、残部がSnと不可避的不純物からなる組成を有する。
【0008】
上記ヒューズ用錫合金は、亜鉛の組成が0.2mass%以上20mass%以下であるのが好ましく、また、上記ヒューズ用錫合金においてはさらにAlを0.2mass%以上2.0mass%以下を含むのが好ましい。
【0009】
上記のヒューズ用錫合金を用いて、ヒューズ用錫合金からなるヒューズエレメントと銅細線を結線してなる電線ヒューズを構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るヒューズ用錫合金及びこれを用いた電線ヒューズは鉛成分を全く含まず、低圧配電線路に使用され大電流の供給を安全に行うことができる普通溶断型の電線ヒューズに用いて好適である。また、本ヒューズ用錫合金は、比較的豊富な資源である錫を主体とした合金であり、資源の保護及び原価低減に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るヒューズ用錫合金は、Znを0.2mass%以上50mass%以下を含み、残部がSnと不可避的不純物からなる組成を有する。以下にこの成分組成をその限定理由を含めて説明する。
【0012】
Zn:0.2mass%以上50mass%以下
ヒューズ用合金は、先ず低融点であることが必要であるが、ヒューズエレメントに加工するため所定寸法に線引き加工可能な程度に機械的強度を有するものでなければならない。このため、SnにZnを0.2mass%以上50mass%以下添加し、Sn-Zn合金とすることによりその機械的強度を向上する。すなわち、Znの組成が0.2mass%以上1.0mass%以下においてはSnのマトリックス中にZnを固溶させることにより、Znの組成が1.0mass%を超え50mass%以下においてはSn-Zn共晶の晶出・分散強化によりSn-Zn合金の機械的強度を強化する。Znの組成が0.2mass%未満であるとZnの添加による固溶強化が期待できない。一方、Znの組成が50mass%を超えるとSn-Zn合金の融点が355℃を超えて好ましくなく、ヒューズエレメントの溶断時にヒューズボックスのカバー等を損傷するおそれもあり50mass%以下とする。
【0013】
残部:不可避的不純物を含むSn
Sn-Zn合金は、一般にはんだ合金として使用され製造も容易であり、特にSnは比較的資源が豊富で入手しやすい。このためSnをベースとしたヒューズ用合金とする。不可避的不純物としては、As、Feが含まれる。
【0014】
上記発明においては、Znの組成を0.2mass%以上20mass%以下とするのが好ましい。さらに、好ましくはZnの組成を0.2mass%以上13mass%以下とする。Znの組成が20mass%を超えると、Sn-Zn合金の融点が280℃以上になり、下記に説明するように定格電流の180%に相当する99アンペアで600秒以内に溶断させるという規格を満たすには、ヒューズエレメントの線径を2mm以下にする必要があり、この場合は線径が小さすぎて機械強度が低く取り扱いが不便であるからである。一方、Znの組成が13mass%以下の場合は、機械的強度に優れ線引き加工をしやすいからである。また、Sn-Zn合金の融点が純Snの融点以下になるので好ましい。
【0015】
また、電線ヒューズとして要求される耐候性を向上させるため、Alを添加するのが好ましい。添加するAlの組成は0.2mass%以上2mass%以下にするのがよい。0.2mass%未満であると、耐候性を向上させる効果がなく、2.0mass%を超えると溶湯の流動性が悪くなり、また溶湯表面が酸化されて製品が脆くなるので好ましくない。
【0016】
以上本発明のヒューズ用錫合金について説明した。このヒューズ用錫合金を用いて図1に示すような電線ヒューズを構成することができる。図1は電線ヒューズの構成を模式的に示した断面図である。電線ヒューズ100は、ヒューズ用錫合金からなるヒューズエレメント10とこれに結線された銅細線15と、これらを収納するヒューズボックス20と、ヒューズエレメント10及び銅細線15に結線され、ヒューズボックス20から引き出された電線30からなる。ヒューズエレメント10は過負荷片と呼ばれ以下に説明する性能を有しなければならない。銅細線15は短絡片と呼ばれ、過大な突入電流、例えば試験電流3000A及び電圧220Vで溶断し電流を遮断する機能を有する。
【0017】
ヒューズエレメント10が低圧配電線路の電線ヒューズとして使用されるには、温度上昇試験、通電試験、溶断試験、耐候性試験を行い、各試験において以下の規格値を満たすものでなければならない。すなわち、温度上昇試験においては、64Aの電流を通電したときヒューズボックス20の絶縁カバー中央部の温度は40℃以下、ヒューズエレメント10又は銅細線15と電線30の接続部の温度は50℃以下でなければならない。通電試験においては、定格電流の130%の電流を通電したとき100時間連続通電で溶断せず、210Aを通電したとき3秒以内で溶断してはならない。溶断試験においては、定格電流の180%を連続通電したとき600秒以内に溶断し、定格電流の300%の場合は40秒以内に溶断し、さらに定格電流の700%の場合は6秒以内に溶断しなければならない。耐候性試験においては、屋外暴露10年間相当試験後破損、亀裂を生ぜず、上記通電試験と定格電流の300%溶断試験を満足しなければならない。
【0018】
このように、低圧配電線路の電線ヒューズとして使用されるヒューズエレメント10は上記の各規格値を満たさなければならない。すなわち、このような電線ヒューズに用いられるヒューズエレメント10は、適切なヒューズ用材料を用いて製作されることが重要であるが、ヒューズエレメントの線径、ヒューズボックス20等を含めた電線ヒューズ全体として所定の熱的条件を満たすように設計されることが重要である。
【0019】
このため、図1に示す構成の電線ヒューズ100を、導線を流れる電流による内部発熱とこの導線表面からの放熱を伴う1次元熱伝導モデルとしてモデル化し、熱解析を行った。図2は、ヒューズ用錫合金にSn91mass%-Zn9mass%を用い、ヒューズエレメント10の線径が4.0〜3.0mm、銅細線15の線径が1.2mm、電線30の線径が3.2mm(同図(a))の場合、および、ヒューズエレメント10の線径が3.0〜2.4mm、銅細線15の線径が1.2mm、電線30の線径が2.6mm(同図(b))の場合に最適なヒューズエレメント10の線径を求めた熱解析結果の例を示す。ヒューズエレメント10は、図中に示すA及びBの範囲内で溶断しなければならない。図2によると、電線30の線径が3.2mmの場合に、線径3.5mmのヒューズエレメント10が要件を満たす。なお、熱解析は表1に示す条件を用いて行い、さらに、ヒューズボックス20の影響が銅細線15に直接固体接触する部分で顕著に現れるので、熱容量補正係数βを導入して行った。ここで、β=0の場合はヒューズボックス20を無視するものとし、β=1の場合はヒューズボックス20が銅細線15と同等の特性・挙動を有するものとする。上記例の場合は、β=0.75とした。
【0020】
【表1】

【実施例1】
【0021】
図1に示す構造の電線ヒューズを作成し、上述の各試験を行った。ヒューズエレメント10は、組成がSn91mass%-Zn9mass%からなるヒューズ用錫合金を用い線引きにより線径が3.5mm、長さ50mmの細線を作成し、これを長さ30mmの長さにしたものを用いた。銅細線15の線径は1.2mmであった。なお、ヒューズ用錫合金は、錫(99.9%以上)インゴットをスライスしたもの,亜鉛(純度99.9%以上)粒状を、目標の組成になり合金重量が500gになるように調整・秤量したものを、グラファイト製(容量3リットル)のるつぼのなかに入れ、電気炉を用いて、各原料が溶解するまで加熱した後、塩浴炉内において523Kになるまで攪拌しながら冷却して作成した。
【0022】
試験結果は以下の通りであり、本例の電線ヒューズは、上記規格値を全て満たした。すなわち、温度上昇試験においては、64Aの電流を通電したときヒューズボックス20の絶縁カバー中央部の温度は32℃であった。ヒューズエレメント10又は銅細線15と電線30の接続部の温度はともに27℃であった。通電試験においては、定格電流の130%の電流を通電したとき100時間連続通電で溶断しなかった。また、210Aを通電したとき3秒以内で溶断しなかった。溶断試験においては、定格電流の180%を連続通電したとき600秒以内に溶断し、定格電流の300%の場合は40秒以内に溶断し、さらに定格電流の700%の場合は6秒以内に溶断した。耐候性試験においては、ウェザーメータ2000時間照射後、上記通電試験と定格電流の300%溶断試験を行った結果何ら異常はなかった。
【実施例2】
【0023】
組成がSn91mass%-Zn8.5mass%-Al0.5mass%からなるヒューズ用錫合金についても実施例1と同様な試験を行った。本例の電線ヒューズについても上記規格値を全て満たした。
なお、本ヒューズ用錫合金は、錫(99.9%以上)インゴットをスライスしたもの,亜鉛(純度99.9%以上)粒状、アルミニウム(純度99.9%以上)粒状を目標の組成に調整・秤量して作成した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の電線ヒューズの断面図である。
【図2】図1の電線ヒューズの熱解析結果の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
10 ヒューズエレメント
15 銅細線
20 ヒューズボックス
30 電線
100 電線ヒューズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを0.2mass%以上50mass%以下を含み、残部がSnと不可避的不純物からなる組成を有するヒューズ用錫合金。
【請求項2】
Znを0.2mass%以上20mass%以下を含む請求項1に記載のヒューズ用錫合金。
【請求項3】
さらに、Alを0.2mass%以上2.0mass%以下を含む組成の請求項1又は2に記載のヒューズ用錫合金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載したヒューズ用錫合金からなるヒューズエレメントと銅細線を結線してなる電線ヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−161130(P2006−161130A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357205(P2004−357205)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】