説明

ヒューマンマシンインタフェイスデバイス及びCADシステム

【課題】ワーク表面の微妙な起伏を疑似的に知覚できるCADシステムを提供する。
【解決手段】CADシステム100は、デバイス10と、デバイス10を接続するコンピュータ2に実装されるプログラムとを備える。デバイス10は、可撓性のプレート12と、プレート12の歪量を検出するセンサ13を有する。プログラムはコンピュータ2に次の処理を実行させる。(1)湾曲表面を有するワークのCADデータに基づいて、ワークピースを仮想空間内に配置する処理。(2)HMIから送られたセンサデータに基づいてプレートの湾曲形状を特定し、仮想空間内において、特定された湾曲プレートの長辺がワークピース表面に接するようにプレートを配置する処理。(3)HMI長辺の各位置におけるプレートとワークピース表面との隙間幅を算出する処理。(4)プレートに対応する矩形を表示するとともに、隙間幅のプロファイルを表示する処理。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CADに適したヒューマンマシンインタフェイスデバイスと、そのヒューマンマシンインタフェイスデバイスを使ったCADシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人の手に機械刺激を与え、あたかも物体を触っているかのごとく知覚させるデバイスが研究されている。そのようなデバイスは、触覚ディスプレイ、ハプティックデバイス、あるいは、触覚デバイスと呼ばれることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、手の指の関節部位にチューブを配置し、指の動作に同期してチューブ内の圧力を制御し、指の動作に対するチューブの反力の変化を利用して力覚を与える装置が開示されている。この装置は、物体を掴むために指を曲げる際に指関節が受ける反力をチューブが指に与える圧力で模擬する。すなわち、この装置は、あたかも物体を掴んでいるような感覚(力覚)をユーザに与える。
【0004】
また、特許文献2には、多数のピンを平行に格子状に配置し、夫々のピンの高さを変えることで、物体表面の起伏を再現する装置が開示されている。この装置は、物体表面の起伏を物理的に模擬するものである。
【0005】
さらに、本願の発明者らが開発した触覚ディスプレイが、特許文献3、非特許文献1、非特許文献2に開示されている。その装置は、ユーザが掌を載せるプレート上に、指関節の掌側の部位を押圧する刺激子を配置し、平面上を、掌ごとプレートを滑らせながら、コンピュータ内でその平面上に仮想的に設定された起伏のデータに応じて指関節の掌側部位を刺激する構成を有している。この装置は、指関節部位を刺激することで、掌が起伏の上を通過する際に得られる触感覚を擬似的にユーザに与えるものである。
【0006】
発明者らの触覚ディスプレイは、微妙な表面起伏(例えば10〜100μm程度の高低差の起伏)を有するワークピースの形状データ(CADデータ)を作成するCADへの応用を目指したものである。なお、そのようなワークピースの典型例は、自動車のボディ、あるいは、そのようなボディを形成する金型である。特に、金型の製作では、従来、ボディ形状のCADデータに基づいて一旦金型を作った後、熟練作業者が金型の表面を手で触り目で見ながら削り込んでいき、微妙な修正を施していた。触覚ディスプレイは、金型のCADデータに基づき、金型表面の微妙な起伏を疑似的に体感できるようにすることを目的とした。触覚ディスプレイを採用することによって、作業者は、金型を実際に作成する前に、金型表面の起伏を体感しながら微妙な起伏の修正(CADデータの修正)を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−167419号公報
【特許文献2】特開2005−4058号公報
【特許文献3】国際公開WO/2011/036787号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】井口憲二、佐野明人、田中由浩、他、「3×3面歪ディスプレイの開発」、計測自動制御学会第10回システムインテグレーション部門講演会(2009年12月24日〜26日)講演集、第153−154頁
【非特許文献2】佐藤厚介、田中由浩、佐野明人、藤本英雄、「環境適応型3×3面歪ディスプレイの開発」、計測自動制御学会第11回システムインテグレーション部門講演会(2010年12月23日〜25日)講演集、第1780−1781頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
実際の金型製作の現場では、熟練作業者は、手触りだけでなく目で見ながら表面の起伏を確かめている。このとき、作業者は、図9に示すように、長さ15〜30cm程度、幅2〜5cm程度の金属プレートSC(以下、スケールSC)を起伏のある金型MDの上に立て、スケールSCの下エッジと金型表面との間の隙間を見て、起伏の湾曲形状を確認する。さらにこのとき熟練作業者は、図10に示すように、スケールSCを所望のカーブに湾曲させ、かつ、金型MDの表面に対して角度をつけてスケールSCを接触させ、細い隙間幅Wdの大きさから、微妙な起伏の形状を確認する。ここで、熟練作業者は、スケールSCを湾曲させ、かつ、傾けて金型表面に立てることによって、作業者の視点から観察されるスケール下エッジのカーブが、目的とする表面起伏の形状に一致するようにスケールの湾曲と傾きを調整する。すなわち、そのように湾曲させ傾斜させたスケールと金型表面との間に隙間ができなければ、金型表面が所望の起伏形状に形成されていることが確認できる。本明細書が開示する技術は、上記した熟練作業者の作業を、現実の金型を用意することなくコンピュータが計算上で構築するいわゆる仮想空間内で行うことができるヒューマンマシンインタフェイスデバイス(以下、HMI)と、そのHMIを使ったCADシステムを提供する。なお、上記した「金型」は、CADデータが対象とするワークピースの一例であって、本明細書が開示する技術はいかなるワークピースであっても適用できることに留意されたい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書が開示する技術の一つは、ユーザがつまむ可撓性のプレートと、プレートの歪量を検出するセンサと、センサデータをコンピュータへ送信する回路とを有するHMI(ヒューマンマシンインタフェイスデバイス)を提供する。可撓性のプレートは、上記したスケールSCを模擬するものである。すなわち、可撓性のプレートは、長さ15〜30cm程度、幅2〜5cm程度の薄板である。なお、可撓性のプレートは金属である必要はなく、プラスチック製であってもよい。以下、HMIが備える可撓性のプレートをスケール(定規)と称する。回路は、歪量を検出するセンサの出力を増幅してコンピュータへ送信する。回路は、コンピュータのマウスに内蔵されている程度の回路であるから説明は省略する。
【0011】
この新規なHMIは、スケール(プレート)の歪量をセンサで検知してコンピュータへ送信する。コンピュータでは、送られたセンサデータに基づいてスケールの湾曲形状を特定することができる。すなわち、上記HMIは、コンピュータが構築する仮想空間内へ、作業者(ユーザ)が湾曲させたスケールを取り込むことを可能とする。なお、スケールの湾曲形状の特定は、材料力学の技術分野でよく知られた梁の歪と応力の関係式から求めることができる。
【0012】
本明細書が開示する技術の他の一つは、上記したHMIと連動するCADプログラムを提供する。すなわち、上記したHMIと、そのHMIを接続するコンピュータに実装されるプログラムを備えるCADシステムを提供する。そのプログラムは、コンピュータに次の処理を実行させる。(1)湾曲表面を有するワークピースの表面形状を記述したCADデータに基づいて、ワークピースを仮想空間内に配置する処理(ワークピース配置処理)。なお、CADデータは、従来のCADソフトウエアで作成されたものが与えられればよい。(2)HMIから送られたセンサデータに基づいてスケールの湾曲形状を特定し、仮想空間内において、特定された湾曲スケールの長辺(下側長辺)がワークピース表面に接するようにスケールを配置する処理(スケール配置処理)。(3)スケールの下側長辺の各位置におけるスケールとワークピース表面との隙間幅を算出する処理(隙間幅算出処理)。(4)物理的に存在するスケールに対応する矩形を表示するとともに、スケールの下側長辺に対応する矩形の一辺に沿って、算出された隙間幅のプロファイルを表示する処理(表示処理)。
【0013】
ここで、「プロファイル」とは、「輪郭」、あるいは「外形」という意味である。すなわち、「スケールの下側長辺に対応する矩形の一辺に沿って、算出された隙間幅のプロファイルを表示する」とは、矩形の一辺に沿った隙間幅の変化パターンを表示することを意味する。典型的には、「プロファイルを表示する」とは、スケールの下側長辺に対応する矩形の一辺に沿って、下側長辺に対応する矩形の一辺を横軸とし隙間幅を縦軸とする座標系にて隙間幅のグラフを表示することである。このとき、「グラフ」は、算出された各位置の隙間幅に対応する線分であって一辺の方向と交差する方向を向く線分で表されるものであってもよい。
【0014】
「仮想空間」とは、「コンピュータの計算上で」という意味であり、バーチャルリアリティの技術分野ではよく知られた概念である。上記のCADシステムの場合、具体的には、「仮想空間内」に「ワークピースを配置」し、「そのワークピース表面に接するようにスケールを配置する」とは、ワークピースとその表面に接するスケールを同一の座標系上で表したときのワークピースとスケールの各点の座標を決定する計算をコンピュータが実行することである。
【0015】
上記のCADシステムにCADデータを読み込ませた上で、そのCADシステムのHMIであるスケールをユーザ(作業者)が所望のカーブに湾曲させれば、CADシステムは、湾曲したスケールとワークピースの表面(CADデータ上の表面)との間の隙間幅を計算しグラフィック表示する。上記CADシステムを採用することによって、実際に金型を製作することなく、スケールを使ったワークピース表面の起伏のチェック作業を疑似的なスケールを使ってバーチャルに行うことができる。
【0016】
前述したように、現実の起伏チェック作業では、作業者はスケールを傾けてワークピースに接触させる。その作業を模擬するため、CADシステムのHMIはさらに、スケール(可撓性プレート)の傾きを検出する角度センサを備えており、プログラムは、スケールを配置する処理において、角度センサのセンサデータに基づいて、仮想空間内にて、ワークピース表面に対するスケールの傾きを決定することが好ましい。そのような処理に換えて、或いはそのような処理に加えて、HMIは、スケールの傾きを指定するスイッチを備えており、プログラムは、スケールを配置する処理において、スイッチからの信号に基づいて、仮想空間内にて、ワークピース表面に対するスケールの傾きを決定することが好ましい。そのような処理を実装することによって、一層現実に近い起伏チェック作業を疑似的に行うことができる(疑似的に体感することができる)。
【0017】
上記したCADシステムは、特許文献3や非特許文献1、2に開示された触覚ディスプレイも備えていると、より良いCADシステムとなる。その触覚ディスプレイの構成は、次の通りである。触覚ディスプレイは、人の掌に密着して手とともに移動可能であり、人の掌側皮膚の指関節位置に刺激を加える刺激子を有している。触覚ディスプレイを備える場合は、CADのプログラムは、コンピュータに次の処理を実行させるものであることが好ましい。プログラムは、位置センサのデータに基づいて、仮想空間内におけるワークピース上の触覚ディスプレイの位置を決定する。次にプログラムは、CADデータから指関節位置に対応するワークピースの表面位置における起伏高さを特定する。そして、特定された起伏高さに対応する大きさの刺激を加えるように触覚ディスプレイを制御する。上記のHMIとともに触覚ディスプレイを備えれば、微妙な表面起伏を有するワークピースのCADデータ生成をより一層効率よく支援できる。なお、触覚ディスプレイの詳細は、上記した文献のほか、特願2010−282822号(本願出願時は未公開)にも詳しいので参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】CADシステムの構成を示す図である。
【図2】スケールデバイスの構成を示す図である。
【図3】隙間幅表示の一例を示す図である。
【図4】触覚ディスプレイの模式的斜視図である。
【図5】触覚ディスプレイの模式的側面図である。
【図6】触覚ディスプレイの動作を説明する図である。
【図7】CADデータ修正処理を説明する図である。
【図8】CADシステムのプログラムのフローチャートである。
【図9】実際の金型表面起伏のチェック作業を説明する模式図である(1)。
【図10】実際の金型表面起伏のチェック作業を説明する模式図である(2)。
【実施例】
【0019】
図1にCADシステムの構成を示す。このCADシステム100は、いくつかのHMI(ヒューマンマシンインタフェイスデバイス)とコンピュータ2(コンピュータに実装されたプログラム)で構成される。CADシステム100が備えるHMIは、スケールデバイス10、ダイヤルスイッチ20、フットスイッチ30、テーブル型モニタ50、および、触覚ディスプレイ70である。CADシステム100は、例えば、自動車のボディをプレス加工するためのプレス金型のCADデータを精密に修正する際に用いられる。プレス金型の最初のCADデータは、通常のCADソフトウエアで作成される。CADシステム100に初期のCADデータを読み込ませ、ユーザ(熟練作業者)は、CADデータが規定する金型意匠面の起伏をスケールデバイス10や触覚ディスプレイ70で疑似的に体感しながら、ダイヤルスイッチ20等を使ってCADデータを微修正する。あるいはこのCADシステム100は、実際の金型の上に触覚ディスプレイを配置し、実際の金型表面の現実の起伏に、触覚ディスプレイによって仮想的な起伏修正量を付加してユーザに提示する、という使い方をする。以下では、CADシステム100を用いて金型のCADデータを修正する場合を例に説明する。なお、図1では、スケールデバイス10、触覚ディスプレイ70は簡略化して描いてある。詳細な構造は後に別の図にて示す。
【0020】
各HMIについては後に詳しく説明するが、まず、CADシステム100の概要を説明する。図1のテーブル型モニタ50には金型意匠面の起伏を表す等高線52が示されている。このテーブル型モニタ50の表示が、仮想的な金型を表すことになる。詳しくは後述するが、触覚ディスプレイ70の上に手を置き、触覚ディスプレイと一緒に手をモニタ50上で移動させると、等高線が示す起伏を掌に感じることができる。また、符号54が示す矩形は、スケールデバイス10の疑似スケール12に対応する。疑似スケール12を示す矩形54の下に表示されたグラフ53は、モニタに表示されている十字カーソル51が示す位置における等高線が示す起伏の上にスケールを立てたときのスケールと起伏表面との間の隙間幅のプロファイルに相当する。
【0021】
スケールデバイス10の構造について図2を参照して説明する。スケールデバイス10は、先に説明した、現実の金型表面起伏チェックの際に用いられるスケールSC(図9参照)を模擬するデバイスである。ベース11に回転可能に支持された疑似スケール12が、現実に作業者が用いるスケールSCを模擬する可撓性のプレートである。なお、疑似スケール12は、作業者が実際に用いるスケールSCと同じものを用いている。疑似スケール12は、長さ(図2の座標系においてY軸方向)が15〜30cm程度であり、幅(図2の座標系においてZ軸方向)が2〜5cm程度の金属薄板であり、作業者がその両端をつまんで容易に湾曲させることができる程度の可撓性を有している。疑似スケール12には、疑似スケール12の歪量を検出する歪センサ13が取り付けられている。歪センサ13のセンサデータはコンピュータ2に送られる。なお、ベース11には、歪センサ13の出力を増幅するとともに、コンピュータ2へセンサデータを送るための回路が収められている。センサデータは、例えば、USB(Universal Serial Bus)の規格に準拠したフォーマット/プロトコルでコンピュータ2へ送られる。
【0022】
疑似スケール12は、回転シャフト14に固定されたクリップ15に挟み込まれて固定される。回転シャフト14は、ベース11に回転可能に支持されている。クリップ15はシャフト14に沿って(図中のY軸の方向に)移動することができる。クリップ15のY軸方向の位置は、クリップ15に取り付けたリニアエンコーダによって計測される。符号CLが示す直線がシャフト14(疑似スケール12)の回転軸を示している。作業者は、疑似スケール12の両端をつまみ、疑似スケール12を適度に湾曲させながらY軸周りに回転させ、疑似スケール12の下側長辺に所望のカーブを形作る。なお、疑似スケール12は、図の座標系におけるX軸周りやZ軸周りには回転はできないが、ダイヤル16a等は、疑似スケール12のX軸周りやZ軸周りの回転角度を指定するためのスイッチであり、これらのダイヤルスイッチを操作することで、ユーザはコンピュータ2の仮想空間内における疑似スケール12の角度を自在に設定することができる。また、コンピュータ2は、スケールデバイス10から送られる歪センサ13のセンサデータから、疑似スケール12の湾曲形状を算出する。疑似スケール12の湾曲形状は、梁の歪量と応力の関係式に基づいて算出される。コンピュータ2は、仮想空間内に、算出した湾曲形状の疑似スケール12を配置する。なお、歪センサ13は、クリップ15の上に取り付けてもよい。
【0023】
図1に戻り、スケールデバイス10の使用方法を説明する。コンピュータ2には、CADデータが読み込まれており、CADデータに基づく金型モデル(数値モデル)がコンピュータ2によって仮想空間内に配置される。テーブル型モニタ50の画面が、金型モデルの起伏面に対応する。ただし、起伏は、等高線で画面上に表される。図1の符号52が示す楕円が、金型モデルにおける表面の起伏を表す等高線である。符号51は、十字のカーソルを示しており、十字カーソルの中心が、仮想空間における疑似スケール12の位置を示している。符号54が示す矩形は、疑似スケール12を表している。すなわち、仮想空間内では、疑似スケール12は、十字カーソルの中心位置にあり、その下側長辺をY方向に向けて配置されている。また下側長辺は、十字カーソル51の中心、すなわち、等高線が最も高い位置を示す場所で金型モデルと接触している。符号53が示すグラフは、仮想空間内に配置された金型表面と疑似スケールの間の隙間を示している。なお、隙間を示すグラフ53は、原寸大で表してもよいし、そうでなくともよい。
【0024】
図3を参照して、テーブル型モニタ50に表示されるグラフ53の意味を説明する。図3の例では、金型の起伏を示す等高線52は、同軸の楕円となっている。この例では、金型は、小さい楕円ほど高くなる突状の起伏を有している。図3(A)では、疑似スケール(矩形54a)は、起伏の頂点P1で金型と接している。したがって隙間幅を示すグラフ53aは、疑似スケール(矩形54a)の中央P2でゼロであり、疑似スケールの端へ行くにしたがって大きくなっていることを示している。ここで、図2を参照して説明したようにダイヤル16a等を使って疑似スケール12の傾きを変えると、スケールSCの下型エッジと金型表面との間の隙間幅のプロファイルも変化する。例えば、図3(B)は、疑似スケールを右に回転させたときの状況を示している。疑似スケールの回転に伴い(ダイヤルによる疑似スケール回転の指示に伴い)、疑似スケールに対応する矩形54bが回転する。図3(B)では、疑似スケール(モニタに表示された矩形54b)は、その右端P4で仮想的な金型モデルの表面と接している。符号P4が示す位置が、疑似スケールと金型表面が接している位置である。この例の場合、矩形の右端では隙間幅が小さくなり、左端では隙間幅が大きくなる。その隙間幅の変化に応じて、符号53bが示すようにグラフが変化する。同様に、ユーザが疑似スケール12(図2参照)を湾曲させると、仮想空間内の疑似スケールも湾曲する。仮想空間内での疑似スケールの湾曲に伴い、疑似スケールの各位置における金型表面との隙間幅(隙間幅のプロファイル)も変化する。このように、スケールデバイス10の位置や傾きを変化させると、これに応じて隙間幅のプロファイルも変化する。その変化は、現実のスケール/金型表面の間の隙間幅の動きとよく対応する。ユーザは、スケールデバイス10を操作し、疑似スケール12の仮想空間内での傾きを変化させながら、隙間幅のプロファイル(グラフ53)を観察し、金型表面の起伏をチェックする。作業者は、現実の金型に触れることなく、しかし現実のスケールで現実の金型の起伏をチェックする感覚を疑似的に体感しながら、金型のCADモデルを確認することができる。
【0025】
なお、仮想空間内で疑似スケールが接している金型の表面上の位置は、モニタ50上に表示された十字カーソル51で指定する。十字カーソルはフットスイッチ30によってXY座標上を自在に動かすことができる。作業者は両手で疑似スケール12を操作するので、他の操作を同時に行うためにはフットスイッチは有効である。
【0026】
また、スケールデバイス10のスイッチを押すと、仮想空間内の疑似スケールを自動的に移動することができる。例えば、スイッチを押すと、十字カーソルの中心がX軸方向に移動する。モニタ50に表示されるグラフ53は、十字カーソルの中心に疑似スケールを位置させたときの隙間幅のプロファイルを示しているから、十字カーソルの移動に伴ってグラフの形状も変化する。このことは、熟練作業者が、スケールSCを金型表面に当てながら手前に移動させ、移動中の隙間幅の変化を観察して起伏の3次元形状を把握することを疑似的に再現するものである。
【0027】
次に、触覚ディスプレイ70について説明する。なお、触覚ディスプレイについては、国際公開WO/2011/036787号公報、および、特願2010−282822号(本願出願時は未公開)に詳しいのでそちらも参照されたい。
【0028】
図4に、触覚ディスプレイ70の斜視図を示す。図5に、触覚ディスプレイ70の模式的側面図を示す。触覚ディスプレイ70は、9個の触覚刺激ユニット72を備える。9個の触覚刺激ユニット72は、ユーザの手Hの人差指F1の第1、第2、第3関節(図5のJ1、J2、J3)、中指F2の第1、第2、第3関節、及び、薬指F3の第1、第2、第3関節の夫々に対向するように相互に連結されている。複数の触覚刺激ユニット72の構造はみな同じである。以下では主として人差指F1に対向配置されている触覚刺激ユニット72a、72b、72cについて説明する。なお、図4、図5では、人差指F1に対向配置された触覚刺激ユニットだけに符号(72a、72b、72c)を付しており、他の指に対向配置されている触覚刺激ユニットには符号を付していないことに留意されたい。また、9個の触覚刺激ユニットを総称する場合、及び、いずれか一つの触覚刺激ユニット(どれでもよい)について言及する場合は、「触覚刺激ユニット72」と呼称する。
【0029】
触覚刺激ユニット72a、72b、及び、72cは、夫々、人差指F1の第1関節J1、第2関節J2、及び、第3関節J3の掌側部位に対向するように連結されている。なお、触覚刺激ユニット72aの先端に取り付けられている部品73は、第1関節より先の指先部分を載せる台である。
【0030】
夫々の触覚刺激ユニット72は、指関節部位に向かって伸びる刺激子75を有している。刺激子75は、アクチュエータ(不図示)によってZ軸方向に沿ってスライドするように取り付けられている。すなわち刺激子75は上下動する。刺激子75を上下動させるアクチュエータは例えばピエゾ素子である。刺激子75は、指関節部位に向かってスライドし、その掌側部位を押圧する。
【0031】
触覚刺激ユニット72aと72bはジョイント76によって連結されている。触覚刺激ユニット72bと72cも別のジョイント76によって連結されている。触覚刺激ユニット72cと回転ユニット74aも別のジョイント76によって連結されている。ジョイント76は、Y軸方向(指関節の回転軸と平行の方向)に伸びる回転軸を有しており、連結している2個のユニットはY軸周りに相互に回転することができる。
【0032】
触覚ディスプレイ70は、ユーザがその上に掌を載せて、モニタ50の上を移動させる。図1の符号70は、触覚ディスプレイ70の付属部品であり、触覚ディスプレイ70の位置を検出する位置センサである。コンピュータ2は、位置センサ79のセンサデータからテーブル型モニタ50上での触覚ディスプレイ70の位置を特定する。先に述べたように、テーブル型モニタ50上では、等高線52によって金型の表面の起伏が示されている。換言すれば、テーブル型モニタ50は、金型モデルを疑似的に表している。コンピュータ2は、テーブル型モニタ50上での触覚ディスプレイ70の位置を特定するとともに、特定された位置における等高線のデータ(CADデータ)からその位置における金型モデルの高さを特定する。コンピュータ2は、特定された高さに対応する長さだけ刺激子75を上昇させる。ユーザは、触覚ディスプレイ70に手を置いてモニタ50の上を動かすと、等高線に対応した高さを掌に感じることができる。モニタ50の上で触覚ディスプレイ70を移動させると、ユーザは、あたかも物理的に起伏のある金型表面を撫でているような感覚を得る(図6参照)。
【0033】
次に、ダイヤルスイッチ20(図1参照)の機能について説明する。ダイヤルスイッチ20は、CADデータを修正するためのHMIである。先に説明したように、作業者は、スケールデバイス10(およびフットスイッチ30)と触覚ディスプレイ70を用い、CADデータが規定する金型(ワークピース)の表面起伏を疑似的に体感して確認する。この確認作業の結果、ワークピース表面の形状(すなわちCADデータ)を修正したいと望む場合、作業者はダイヤルスイッチ20を使ってCADデータを修正することができる。図7を参照してCADデータ修正処理を説明する。図7(A)は、テーブル型モニタ50の画面に、金型の表面の起伏を等高線で表した図である。等高線は、初期のCADデータに基づいて描かれる。図7(A)の等高線の楕円の右上に新たな突部を追加するケースを考える。作業者は、フットスイッチ30を操作して十字カーソル51aを、新たな突部を形成する位置に移動させる(図7(B))。次に、ユーザがダイヤルスイッチ20の別のダイヤルを回すと、十字カーソルの位置を頂点とする突部がCADデータに追加される。ダイヤルの回転角に応じて頂点の高さが増す。追加される突部はリアルタイムにテーブル型モニタ50の画像に反映される。図7(C)の符号52bが、新たに追加された突部を表す等高線である。当初の突部(図7(A)にて等高線52aで表される突部)の付近に新たな突部(図7(C)の等高線52b)が追加されるので、当初の突部の等高線の一部が、新たな突部をも囲むように変形する。以上の手順を適宜繰り返すことによって、所望の表面形状を有するようにCADデータを修正することができる。
【0034】
以上、各HMIを説明しながらCADシステム100の動作を説明した。以上の動作は、コンピュータ2に実装されたプログラムによって実現される。次に、図8のフローチャートを参照して、プログラムの観点からCAD100の動作を説明する。
【0035】
CADシステム100を起動すると、プログラムはまず、指定されるCADデータを読み込む(S2)。次にプログラムは、読み込んだCADデータによって記述されるワークピースのモデルを仮想空間内に配置する(S4)。モデルを仮想空間に配置するとは具体的には次のとおりである。CADデータは、ワークピースの形状を表す点列で与えられるので、プログラムはそれらの点列を、所定の位置を座標原点とする3次元空間の座標に変換する。そうすることで、ワークピースの各位置の座標を特定することが可能となる。このことを「仮想空間にワークピースを配置する」と称する。なお、このときプログラムは、起伏を等高線で表してワークピースのモデルをテーブル型モニタ50に表示する。
【0036】
次にプログラムは、ユーザが操作するHMIに対応した処理を実行する(S6)。スケールデバイス10を使う場合、プログラムはまず、スケールデバイス10のセンサデータ、すなわち、疑似スケール12に張り付けられた歪センサ13のデータ、疑似スケール12の回転角度を検出する角度センサのデータ、および、十字カーソルの位置を取得する(S12)。この場合、十字カーソルの位置が疑似スケール12の位置を表す。次にプログラムは、歪センサ13のセンサデータに基づいて疑似スケールの湾曲形状を算出する(S13)。プログラムは次いで、仮想空間内で十字カーソルが示す位置に湾曲した疑似スケールを配置する(S14)。このとき、プログラムは、疑似スケールの下エッジがワークピースの表面に接するという条件が成立するように、ワークピースの高さ方向における疑似スケールの位置を決定する。「仮想空間内に疑似スケールを配置する」とは、ワークピースの各点の座標を決めた座標系において疑似スケール各部の座標を定めることを意味する。
【0037】
ステップS14まで実行すると、仮想空間内で(すなわち同一の座標系において)ワークピース表面と疑似スケール12の位置関係が定まる。次いでプログラムは、疑似スケール下辺の各位置における疑似スケールとワークピース表面の間の隙間幅を算出する(S15)。最後にプログラムは、算出した隙間幅を表示する(S16)。表示の仕方は前述したとおりである。すなわち、プログラムは、疑似スケール12に対応する矩形をモニタ上に表示するとともに、疑似スケール12の下辺に対応する矩形の一辺に沿って、隙間幅のプロファイルを表示する。具体的にはプログラムは矩形の一辺(疑似スケールの下長辺)を横軸とし、隙間幅を縦軸とする座標系で隙間幅をグラフ表示する。
【0038】
ステップS6においてユーザが触覚ディスプレイ70を選択した場合は、プログラムは、触覚ディスプレイ70のモニタ50上の位置を特定する位置センサ79(図1)のセンサデータを取得する(S22)。次にプログラムは、触覚ディスプレイの位置に対応する等高線(触覚ディスプレイの下に表示されている等高線)を特定し、その位置における起伏高さを特定する(S23)。起伏高さはCADデータから特定される。プログラムは、特定した起伏高さに応じて触覚ディスプレイの刺激子を駆動する(S24)。
【0039】
ダイヤルスイッチ20が操作された場合は、プログラムはダイヤル信号データを取得する(S32)。プログラムは、ダイヤル信号データに応じてCADデータを修正するとともに、修正後のCADデータでモニタ50に表示する等高線を更新する(S33)。
【0040】
プログラムは、システム終了のスイッチが押されるまで、上記の処理を繰り返す(S42:NO)。システム終了のスイッチが押されると、プログラムはCADデータを記憶装置にセーブし(S44)、システムを終了する。
【0041】
実施例についての留意点を述べる。等高線を表示する場合、もともとCADデータにあったmmオーダーの起伏を表す等高線と、本システムでユーザが新たに追加した仮想空間上でのμmオーダーの起伏を表す等高線を、異なる態様で表示することも好適である。ここで、異なる態様で表示することの一例は、色、太さ、線の種類の少なくともいずれか一つを異なるもので表示することである。また、表示を切り替え可能にし、どちらか一方のみの起伏を表わす等高線を表示しても良い。
【0042】
上記したスケールデバイス10、触覚ディスプレイ70は、10〜100μmオーダの微妙な起伏を疑似的に体感させるのに好適である。スケールデバイス10が、特許請求の範囲に記載したヒューマンインタフェイスデバイスの一例に相当する。CADシステム100は、ユーザに、あたかもワークピースに触れているような疑似体験を与える。ユーザは、ワークピースの表面形状を疑似的に知覚しながらCADデータを修正することができる。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0044】
2:コンピュータ
10:スケールデバイス
12:プレート(疑似スケール)
13:歪センサ
20:ダイヤルスイッチ
30:フットスイッチ
50:テーブル型モニタ
51:十字カーソル
52:等高線
53: グラフ
70:触覚ディスプレイ
72:触覚刺激ユニット
75:刺激子
79:位置センサ
100:CADシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザがつまむ可撓性のプレートと、プレートの歪量を検出するセンサと、センサデータをコンピュータへ送信する回路とを有するヒューマンマシンインタフェイスデバイス。
【請求項2】
請求項1のヒューマンマシンインタフェイスデバイスと、前記ヒューマンマシンインタフェイスデバイスを接続するコンピュータに実装されるプログラムとを備えるCADシステムであり、前記プログラムは、コンピュータに次の処理、即ち、
湾曲表面を有するワークピースのCADデータに基づいて、ワークピースを仮想空間内に配置する処理;
ヒューマンマシンインタフェイスデバイスから送られたセンサデータに基づいてプレートの湾曲形状を特定し、仮想空間内において、特定された湾曲プレートの長辺がワークピース表面に接するようにプレートを配置する処理;
前記長辺の各位置におけるプレートとワークピース表面との隙間幅を算出する処理;
前記プレートに対応する矩形を表示するとともに、前記長辺に対応する矩形の一辺に沿って、前記隙間幅のプロファイルを表示する処理;
を実行させることを特徴とするCADシステム。
【請求項3】
プロファイルを表示する処理では、前記プレートに対応する矩形を表示するとともに、前記長辺に対応する矩形の一辺を横軸とし隙間幅を縦軸とする座標系に前記隙間幅のグラフを表示することを特徴とする請求項2に記載のCADシステム。
【請求項4】
前記ヒューマンマシンインタフェイスデバイスはさらに、プレートの傾きを検出する角度センサを備えており、前記プログラムは、プレートを配置する処理において、角度センサのセンサデータに基づいて、仮想空間内にて、ワークピース表面に対するプレートの傾きを決定することを特徴とする請求項2または3に記載のCADシステム。
【請求項5】
前記ヒューマンマシンインタフェイスデバイスはさらに、プレートの傾きを指定するスイッチを備えており、プログラムは、プレートを配置する処理において、スイッチからの信号に基づいて、仮想空間内にて、ワークピース表面に対するプレートの傾きを決定することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のCADシステム。
【請求項6】
人の掌に密着して手とともに移動可能であり、人の掌側皮膚の指関節位置に刺激を加える刺激子を有しているとともに、位置を特定する位置センサを有する触覚ディスプレイをさらに備えており、前記プログラムは、
位置センサのデータに基づいて、仮想空間内におけるワークピース上の触覚ディスプレイの位置を決定し、CADデータから指関節位置に対応するワークピースの表面位置における起伏高さを特定し、特定された起伏高さに対応する大きさの刺激を加えるように触覚ディスプレイを制御する処理を実行することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載のCADシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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