ヒラメのインターフェロン
【課題】ヒラメ用ウイルス病防除剤、とくにインターフェロン様活性を有するタンパク質の提供。
【解決手段】 以下の(a)または(b)のタンパク質。(a)特定のアミノ酸配列を有するタンパク質。(b)前記特定のアミノ酸配列を有するタンパク質において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、ヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質。
【解決手段】 以下の(a)または(b)のタンパク質。(a)特定のアミノ酸配列を有するタンパク質。(b)前記特定のアミノ酸配列を有するタンパク質において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、ヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒラメから単離されたインターフェロンおよびそれを用いたヒラメのウイルス病等疾病の処置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒラメ(Paralichthys olivaceus)は、カレイ目ヒラメ科に属する魚の一種である。食材としては、刺身、寿司ネタに用いられる高級食材で、ヒラメ、カレイ類の中では最も高値で取引される。また、カレイ類よりも成長が早いため、養殖が盛んである。かかる養殖においては、資源保護のため、ある大きさに達しない個体は再放流したり、稚魚の放流も行われている。
【0003】
一般に魚類の増養殖において、魚病の発生は極めて重大な問題で、年間損害額は約300億円に上ると推定されている。時には魚病の蔓延により周辺の養殖魚が全滅するような壊滅的損害を被ることがある。また、病原菌の汚染により以後の養殖が不可能となるなど、魚類の安定供給の障害ともなっている。さらに、魚病の治療または予防のため大量の抗生物質が使用される場合があり、養殖魚の安全性に関し疑問を生じる原因となっている。したがって、魚病、とくに病原菌に起因する病気を予防する有効な手段の開発が産業界で強く望まれている。魚病に対しては抗生物質やホルマリン等が用いられているが、食品としての魚の安全性、とくに抗生物質の生体残留および耐性菌の発生が問題視されている。また、これらの薬剤は、ウイルス病に対する効果はない。そのため、ウイルス病に対しては、ワクチンの使用が推奨されている。
しかしながら、ワクチンの開発は遅れているのみならず、以下のような問題点がある:
・効果の特異性が高いことに起因する限定的な適用場面、
・各病原ウイルスごとに開発する必要性、
・病原体の変異やワクチンの病原性に起因する不安定な効果、
・新規魚病に対する効果の欠如(近年新規魚病の発生は増加している)。
【0004】
ヒラメにおいても各種細菌病およびウイルス病が知られている。細菌病としてはエドワジエラ症、βレンサ球菌症および滑走細菌症が、ウイルス病としてはウイルス性表皮増生症(原因ウイルス:FHV(flounder herpesvirus)、ウイルス性出血性敗血症(VHS)(原因ウイルス:VHSV(viral haemorrhagic speticaemia))、ウイルス性腹水症(原因ウイルス:YAV(yellowtail ascite virus)、ヒラメラブドウイルス病(原因ウイルス:HIRRV(hirame rhabdovirus))およびウイルス性神経壊死症(VNN:viral nervous necrosis)(原因ウイルス: Japanese Flounder Nervous Necrosis Virus (JFNNV))等が問題となっている。
【0005】
例えばVHSは1999年頃に発症が初めて認められた新しい病害であるところ、これに対する製造(輸入)承認を受けた水産用薬品は現在ない。そのため、その対処法としては塩化ベンザルコニウムによる手、輸送機材、網、衣類等の消毒および長靴や水槽のさらし粉による消毒等が対症療法的に行われている。しかしながら、これらの消毒薬は魚のみならず人や環境にも悪影響を及ぼす可能性があるため、その用法・用量や使用後の廃液処理には十分な配慮が必要とされている。また、これらの消毒薬は、その処理方法も煩雑である。そのため、これらの消毒薬は必ずしも使用し易いものではない。
【0006】
魚に病気を出さないようにする免疫賦活物質を有効成分として含有する製剤については既に開発され、かかる物質を餌に混ぜて与えることによって、病気に罹りにくい魚を育てられるとされている。例えば、該物質はヒラメの滑走細菌症等には充分な効果が期待できる旨報告されている(非特許文献1)。また、VHSに対しても、不活化ウイルスをワクチンとして利用する試みもなされている(非特許文献2)。しかしながら、上記のような免疫賦活物質を用いた病害防除は未だ緒に就いたばかりであり、用いられている物質の効果および安全性については未知の部分が多い。
【0007】
また、ヒラメにおける疾病を予防するための有効な方法として、生体の持つ自己防御機構の調節に関与しているサイトカイン類の利用も考えられている。とくにサイトカイン類の1種であるインターフェロン(以下「IFN」ということがある)は、ウイルス感染阻害作用、抗腫瘍作用をはじめとして、多様な免疫エフェクター作用を有し、免疫作用の活性化によって特定の病原に限定されずに生体防御を誘導できる極めて重要な糖タンパクであることが知られている。また、IFNは、上記のようなワクチンにおける問題点は有しない。そのため哺乳動物ではIFNについては本体の構造の解明とともに医薬品への応用の研究が進んでいる。しかしながら、ヒラメを含む魚類の免疫機構については不明な点が多く、IFNを含むサイトカイン類についても、その単離・利用に対する試みはなされているが、その構造および効果については解明されていない(特許文献1)。
【0008】
一方魚類のうち、サケ、ニジマス、ゼブラフィッシュ、キンギョ、ナマズ、フグについては、そのIFNの配列(塩基配列およびアミノ酸配列)が知られている。また、ヒラメのIFNに関連するものとして、特許文献1には、新規糖タンパク質、ポリペプチドならびにその製造方法およびそれらをコードする遺伝子について報告されている。また、ヒラメインターフェロンに対するモノクローナル抗体および関連するハイブリドーマについての報告もなされている(特許文献2)。しかしながら、特許文献1と2においてヒラメ由来のIFNとして開示されている塩基配列およびアミノ酸配列は、クローニングに用いたファージの配列であることが非特許文献3において指摘されている(非特許文献3)。したがって、実際にはヒラメのIFNについては、そのアミノ酸配列および塩基配列については未だ解明されていないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開平5−308990号公報
【特許文献2】特開平6−133794号公報
【非特許文献1】和歌山県「水試だより200号:平成11年度ヒラメ種苗生産について」、インターネットURL<:Http://Www.Pref.Wakayama.Lg.Jp/Prefg/070100/070101/News/008/News200_4.Htm
【非特許文献2】大分県海洋水産研究センター養殖環境部、「養魚情報」(No.03−02(第188号))、2003年3月5日
【非特許文献3】Altmann S. M. et al., (2003)“Molecular and functional analysis of an interferon gene from the zebrafish, Danio rerio.”Journal of Virology vol.77, No3, p1992-2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、ヒラメのインターフェロン様活性を有するタンパク質を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記改題を解決すべく鋭意研究を進める中で、他の魚類において公知のIFNの配列を基に遺伝子の単離を試みたところ、当該魚類IFNと類似のアミノ酸をコードする遺伝子を見出すことに成功し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の(a)または(b)のタンパク質に関する。
(a)配列表配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(b)配列表配列番号2において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、ヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質に関する。
【0013】
また、本発明は、以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子に関する。
(a)配列表配列番号1に示す塩基配列からなるDNA。
(b)(a)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0014】
さらに、本発明は、前記遺伝子を組み込んだ発現ベクターに関する。
【0015】
また、本発明は、前記発現ベクターを導入した形質転換体に関する。
【0016】
さらに、本発明は、前記形質転換体によって作出されたヒラメのインターフェロンに関する。
【0017】
また、本発明は、前記形質転換体を用いてヒラメのインターフェロンを作出する方法に関する。
【0018】
さらに、本発明は、インターフェロンをヒラメに処理することを含む、ヒラメにおけるウイルス病または細菌病を予防または治療する方法に関する。
また、本発明は、前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを用いる抗IFN抗体の製造方法に関する。
そして本発明は、前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを含むヒラメの免疫賦活化剤に関する。
【0019】
本発明は、魚類インターフェロンに関する研究が充分に進んでおらず、その発現条件等の基礎的な情報が少ないなかで、未だ単離に至らなかったヒラメIFNを以下を特徴とする手法により見出すことに成功したものである。すなわち、
・既知の魚類IFNのアミノ酸配列において極めてわずかに保存されていた配列に基づきdegenerate primerを設計すること;
・保存性の低さから、設計したdegenerate primerの配列の組み合わせは必然的に多くなり、プライマーとしては特異性の低いもの用いること;
・そのため、遺伝子増幅においては一度PCRを実施した増幅断片を、内在するプライマーで再度PCRを行うnested PCRを行うこと;
・プライマーの特異性が低いためPCRの鋳型核酸とプライマーが二本鎖DNAを形成するアニーリング(annealing)反応における設定温度を、例えば35℃といった低温に設定すること;
・低温のアニーリングにより非特異的断片の増幅も当然に予想されたが、DNA断片の獲得を優先すること;
・獲得した増幅断片の全てを大腸菌等によるクローニングの対象とし、これら断片の塩基配列の解析を実施すること;
・解析した塩基配列がコードする推定アミノ酸配列から、魚類IFNにおいて散在して保存されている1アミノ酸配列の配置と、同じアミノ酸と配置を有する配列を選抜すること;
・選抜したIFN様配列から当該配列を有する全長cDNA配列を決定すること。
以上の過程を経ることによって、初めてヒラメIFNを単離することに成功したものである。本発明のタンパク質は免疫作用の活性化に極めて重要な機能を有することから、ウイルス感染阻害作用をはじめとして、多様な免疫エフェクター作用を利用した薬剤への応用などが期待されるものである。
【発明の効果】
【0020】
(1)IFNは極めて微量で作用を発揮する生体内物質である。また、種特異性が高いため、人を含む他の動物に対する影響はほとんどない。したがって、本発明のタンパク質によれば、ヒラメ体内におけるIFN活性および免疫活性を人為的に制御することによって、近傍に棲息する他の生物群やヒラメを食料として摂取する人体に対する影響を与えることなく、例えばヒラメのウイルス病等を効率的かつ安全に防除することが可能となる。とくに海上施設での養殖においては、侵入する病原種を予測することは不可能であるところ、本発明のIFNにおいては、かかる未知の病原に対する効果も期待できる。
また、本発明のヒラメIFNによれば、各種実験動物を免疫して抗ヒラメIFN抗体を得ることができる。かかるIFN抗体を得ることによって、各種実験への応用はもとより、IFNの発現の有無の検定が可能となり、魚のウイルス感染ストレスの評価等の応用が可能となる。
さらに、本発明のヒラメIFNによれば、ヒラメの免疫機構および病害メカニズムの解明ならびにヒラメの免疫系のアッセイが可能となる。
(2)本発明の遺伝子によれば、本発明のヒラメIFNを効率的に生産することができる。
(3)本発明の発現ベクターによれば、本発明の形質転換体を効率的に産生することができる。
(4)本発明の形質転換体によれば、本発明のヒラメIFNをより効率的に生産することができる。
(5)前記形質転換体によって作出された本発明のヒラメIFNによれば、ヒラメのウイルス病をより一層効率的かつ安全に防除することが可能となる。
(6)前記形質転換体を用いてヒラメのインターフェロンを作出する本発明の方法によれば、ヒラメIFNを効率的に生産することができる。
(7)本発明のヒラメにおけるウイルス病を予防または治療する方法によれば、ヒラメ体内におけるIFN活性および免疫活性を人為的に制御することによって、例えばヒラメのウイルス病・細菌病等をより一層効率的かつ安全に防除することが可能となる。
(8)前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを用いる本発明の抗IFN抗体の製造方法によれば、抗IFN抗体を効率的に製造することが可能となる。
(9)前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを含む本発明のヒラメの免疫賦活化剤によれば、ヒラメのウイルス病等をより一層効率的かつ安全に防除することが可能となる。
以下、本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.ヒラメIFN遺伝子のクローニング
本発明のヒラメIFN遺伝子をクローニングする方法は限定されず、ディファレンスディスプレイやサブトラクション法等の一般的な方法を用いることができる。これらのうち、cDNAライブラリーを作製しない方法は、より簡便であるため好ましい。かかる方法は、例えば(1)IFN様断片の採取、(2)各末端領域の配列決定ならびに(3)目的遺伝子の発現によって行うことができる。
【0022】
(1)IFN様断片の採取は、例えば、
・各種魚類において公知となっているIFNのアミノ酸配列から相同性の高い領域の選抜、
・これらの領域のアミノ酸配列を基にしたdegenerate primerの構築、および
・該degenerate primerを用いたPCRスクリーニングによるIFN遺伝子の単離、
によって好適に行うことができる。
【0023】
IFNの構造が知られている魚類としてはサケ、ニジマス、ゼブラフィッシュ、キンギョ、ナマズおよびフグが挙げられる。したがって、これらの魚類のアミノ酸配列を解析することによって魚類IFNのアミノ酸配列で保存性の高い領域を選抜することによってプライマー配列を決定すればよい。
【0024】
degenerate primerを用いたPCRスクリーニングは、例えば、
・ヒラメからのRNA抽出、
・該RNA(mRNA)を用いたcDNA合成、
・cDNAと前記degenerate primerを用いたnested PCR、
・PCR産物の電気泳動と増幅断片の精製、
・PCR産物のクローニング(ベクターへの結合とホストの形質転換)、
・形質転換体からのベクターの抽出
・前記増幅断片(cDNA)の塩基配列の解析、および
・相同性検索、
によって好適に行うことができる。
【0025】
RNAの抽出に用いるヒラメの部位はIFN産生部位であることが想定される脾臓、または腎臓等が好適に用いられる。また、IFN発現を誘導するために、PolyI:C処理等を行うことは好ましい。
RNAの抽出・精製は市販のキットを用いることによって簡便に行うことができる。
mRNAを用いたcDNA合成は、市販の逆転写酵素を用いて好適に行うことができる。
【0026】
nested PCRにおける1st PCRにおいては、前記cDNAを鋳型とし、少なくとも1種ずつのforward primerおよびreverse primerを添加する。また、2nd PCRにおいては、1st PCR産物を鋳型として、前記forward primerおよびreverse primerとは異なる少なくとも1種ずつのforward primerおよびreverse primerを添加する。
【0027】
PCR産物の電気泳動、DNAの回収・精製、PCR産物のクローニング、形質転換体からのベクターの抽出、増幅断片(cDNA)の塩基配列の解析および相同性検索も常法に従って行うことができる。相同性検索の結果から、インターフェロン様配列を有するcDNAクローンをスクリーニングする。
【0028】
次に、(2)各末端領域の配列決定は、3’および5’末端の両末端については、例えばrapid amplification of cDNA ends 法(RACE法) による末端領域のクローニングによって行うことができる。該クローニングは、
・3’または5’RACE用プライマーの構築、
・3’または5’RACE、
・塩基配列の解析、および
・相同性検索、
によって行うことができる。
【0029】
3’RACE用プライマーの構築は、前記インターフェロン様配列を有するcDNAクローンの塩基配列を基に行う。鋳型核酸としてはdegenerate primerによるPCRスクリーニングに用いた鋳型核酸と同一の物を用いることができる。また、リバースプライマーは、前記逆転写反応において用いたプライマーのアダプター領域を用いることができる。
続く塩基配列の解析は、3’RACE PCR によって獲得したDNA断片を電気泳動に付し、抽出・精製し、かかる精製後のDNA断片を鋳型としてダイレクトシークエンスにより行うことができる。シークエンスプライマーとしては、3’RACE PCRのフォワードプライマーを用いることができる。又、精製したDNA断片を大腸菌クローニングベクターに導入してクローニングを行い、獲得したクローン(主にプラスミドクローン)の塩基配列を解析することでも可能である。
【0030】
5’RACE用プライマーの構築は、3’RACEの結果からヒラメIFNの3’末端領域と推定される塩基配列に基づき、5’RACEに用いるプライマーを構築すればよい。5’RACEにおける鋳型核酸としては、例えば種々の生育ステージの、誘導処理したヒラメから摘出したIFNの産生が予想される臓器、例えば脾臓または腎臓由来のRNAを用いることができる。mRNA精製は、市販のキットを用いて簡便に行うことができる。
【0031】
続く塩基配列の解析は、5’RACE PCRによって得た精製後のDNA断片を鋳型にダイレクトシークエンスを行うことでできる。また、精製したDNA断片を大腸菌クローニングベクターに導入してクローニングを行い、獲得したクローン(主にプラスミドクローン)の塩基配列を解析することでも可能である。
精製、泳動解析は、常法に従って行うことができる。
上記、塩基配列の解析により得られた塩基配列につき、5’末端領域と3’末端領域の解析に供した配列のうち、重複した配列を互いに連結することで、全塩基配列の推定が可能である。さらに推定された全塩基配列の5’並びに3’末端から全長増幅用のPCRプライマーを構築して、当該配列に存在するの全オープンリーディングフレーム(ORF)を含むDNA断片の増幅が可能である。かかる増幅断片の塩基配列を解析し、得られた配列をもとに相同性検索を行い、当該配列がヒラメIFNであることを推察することが可能である。
【0032】
2.発現ベクターおよび形質転換体の作製
上記のようにして得られる遺伝子を組み込む発現ベクターは、宿主細胞の種類に応じて定められるが、公知のプラスミド、ファージ、コスミド等を広く用いることができる。宿主細胞としては、真核生物および原核生物のいずれをも用い得る。真核生物の細胞には、脊椎動物、酵母、昆虫、植物等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞[Y. Gluzaen, Cell. 23, 175-182 (1982)]やチャイニーズハムスター卵巣細胞のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株[G. Urlaub and L.A. Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 77, 4216-4220 (1980)、各種昆虫細胞等がよく用いられるが、これらに限定されるものではない。脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終了配列等を保有するものを使用でき、これはさらに必要に応じて複製起源を保有してもよい。該発現ベクターの具体例としてはSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr[S. Subramani, R.Mulligan and P. Berg, Mol. Cell. Biol., 1(9), 854-864(1981)], pcDLSRα(Takebe Y, Moll Cell. Biol., 1, 466(1988))等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
真核微生物としては、一般によく用いられる酵母を、本発明においても用いることができる。中でもサッカロミセス属酵母が有利に利用できる。該酵母等の真核微生物の発現ベクターとしては、例えば酸性ホスファターゼ遺伝子に対するプロモーターを持つ pAM82[A. Miyanohara, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 80, 1-5 (1983)]等を好ましく利用できる。
【0034】
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌等の一般に用いられる宿主を用いることができる。本発明ではこれら宿主菌中で複製可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に本発明遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーターおよびSD (シャイン・ダルガーノ)塩基配列、さらにタンパク質合成開始に必要なATGを付与した発現プラスミドを使用できる。上記宿主菌としての大腸菌としてはエシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K12株等がよく用いられ、ベクターとしてはpBR322、pUC119、pKK223-3 de Boer, H. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 78, 21(1983) 、pET(Novagen社)、pMAL(登録商標:New England BioLabs社)等が用いられるが、これらに限定されず、公知の各種の菌株およびベクターのいずれをも用いることができる。プロモーターとしては、例えばトリプトファン・プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター等を使用でき、いずれの場合においても本発明の遺伝子が発現され得る。
本発明の遺伝子を発現させるための昆虫細胞用のベクターにも制限はない。例えばInvitorgen社のpFASTBacを好適に使用することができる。また、ベクターに挿入するヒラメIFNのDNA断片を増幅するプライマーおよびクローニングサイトは適宜選択可能である。
【0035】
本発明遺伝子の発現の確認は、例えばノーザンブロット法やウエスタンブロット法等により行うことができる。
(3)目的遺伝子の発現は、まず上記で得られる所望の形質転換体または形質導入体を常法に従い培養することにより、その培養液に本発明のポリペプチドまたは糖タンパク質を生産蓄積せしめることによって行われる。該培養に用いられる培地は、通常の細胞培養に慣用される各種の培地のいずれでもよい。培養上清からの目的とするポリペプチドまたは糖タンパク質の精製、単離も、前述した免疫担当細胞培養上清からの目的糖タンパク質の精製、単離と同様に常法に従って行うことができる。
【0036】
なお、宿主細胞として、大腸菌等の原核生物を用いれば、目的物はポリペプチドとして得られ、動物細胞を用いれば、目的物は該ポリペプチドを含むタンパク質として得られる。さらに、発現ベクターに組み込まれた本発明の遺伝子の塩基配列は、例えばマキサム−ギルバートの化学修飾法 Maxam-Gilbert, Meth. Enzya., 65, 499-560(1980)やジデオキシ法 Messlog, J. and Vieira, J., Gene, 19, 269-276(1982)等により確認することができる。本発明の遺伝子は、通常の方法、例えばホスファイト・トリエステル法 Nature,310, 105(1984) 等の常法に従って核酸の化学合成により全合成することもできる。
【0037】
本発明にかかる遺伝子工学的手法において、例えばDNAの切断、結合、リン酸化等には、各種制限酵素、DNAリガーゼ、ポリヌクレオチドキナーゼ、DNAポリメラーゼ等の酵素を用いた一般的な手段が採用でき、それらの酵素は市販品として容易に入手できる。これら各操作における遺伝子または核酸の単離、精製も常法、例えばアガロース電気泳動法等に従えばよい。得られる遺伝子の複製は、通常公知のベクターを利用する方法に従い得る。所望のアミノ酸配列をコードするDNA断片や合成リンカーは、上記した化学合成により容易に製造できる。
【0038】
合成したcDNAを通常用いられるクローニングベクターに組み込み、このライブラリーの中からヒラメIFNをコードしたcDNAのスクリーニングを行うこともできる。このスクリーニングには通常公知の方法を採用することができる。即ち、ライブラリーの各クローンからプラスミドを抽出し、これを転写してRNAを合成するためにT3およびT7ポリメラーゼ等を用いるが、これに限定されるものではない。
IFNの活性は、培養細胞(好ましくはヒラメ組織由来の培養細胞)に当該発明に係るヒラメIFNのcDNAを組み込んだ発現ベクターをトランスフェクションし、ヒラメ病原ウイルスの感染阻害活性を測定することや、IFNによって発現誘導されるタンパク質(Mx protein等)を測定することによって行うことができる。また、IFNの活性の測定は、当該発明に係るヒラメIFNタンパク質を培養細胞系に投与して、ウイルス感染阻害活性の測定やIFN誘導タンパク質を検出することによって行うこともできる。
【0039】
なお、生理活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列において、1個もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されていても、一般にその生理活性が維持される場合があることは当業者にとって自明のことである。したがって、本発明においても、このように修飾され、かつヒラメIFN活性を有するタンパク質をコードするDNA断片も含まれる。すなわち、配列表配列番号2において、1個もしくは数個のアミノ酸が付加、欠失、置換もしくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒラメIFN活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の範囲に含まれる。
【0040】
ここで、「1個もしくは数個」とは、アミノ酸が付加、欠失もしくは置換されるアミノ酸残基のヒラメIFNタンパク質の立体構造における部位またはアミノ酸残基の脂累によって異なるが、通常2〜20個、好ましくは2〜15個程度を指す。
そのような改変されたDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されるように本発明のDNAの塩基配列を改変することによって得られる。
【0041】
また、本発明のDNAまたはこれを有する細胞に変異処理を行い、これらのDNAもしくは細胞から、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを選択することによっても改変されたDNAを得ることができる。
【0042】
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、例えば、99.5%以上であるような相同性が高い核酸同士はハイブリダイズするが、それより相同性が低いDNA同士はハイブリダイズしないような条件が挙げられる。
【0043】
本発明のタンパク質は、ヒラメにおける抗ウイルス活性を有する。したがって、本発明のタンパク質を用いることによってヒラメにおけるウイルス病の予防・治癒に用いることができるところ、その投与方法は、同タンパク質がヒラメ体内に摂取される方法であれば制限されない。すなわち、典型的には稚魚への注射および混餌投与等が考えられる。作業の簡便さの観点から、混餌投与が好ましい。投与量は、いずれの投与法においても適宜決定し得る。
また、本発明のタンパク質は、とくにヒラメに対して高い効果を有するが、カレイ目ヒラメ科に属する他の魚種、とくにParalichthys属に属する魚種に対しても効果を有する。
【0044】
以下に本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)ヒラメIFNタンパク質および遺伝子の採取
1.PCRスクリーニング用degenerate primerの構築
魚類IFN関連遺伝子のデータベース検索を、Genbankより魚類IFN関連の遺伝子の塩基配列並びにアミノ酸配列のデータを入手することにより行った。すなわち、サケ(AAP51035、AAP51036)、ニジマス(CAE45642、CAE46918)、ゼブラフィッシュ(CAD67752、CAD67753、CAD67754、NP997523、AAM95448、BAC99048、BAD04984)、キンギョ(AAR20886)、ナマズ(AAP92146)、フグ(CAD67762、CAD67779、CAE47314)のIFN配列(塩基配列およびアミノ酸配列)を選抜してマルチプルアライメントを行った 。マルチプルアライメントの結果を図1に示した。
【0046】
なお、データベース検索より、「interferon - Japanese flounder」としてS36115が見つかった。前記のとおり当該配列はクローニングに用いたファージの配列と考えられるため、本検討においては適用しなかった。相同性の比較的高い5領域(便宜上、A〜E領域とした)よりdegenerate primerを構築した(Aregion-FW:TCT CTG WVC CTG CTG GAG VAI ATG、Bregion-FW:TCY TWT TCC CAA SNK ISC TTT AC、Cregion-FW:GAG GAC MAR GTG ANR TTB CTG G、Dregion-FW:TGG GAC VRG AAV AVI STG GAN GAT T、Eregion-RV1:GCT CCC AIG CBB SWG CAC TGT AGT、Eregion-RV2:TKG GAG CHS RTC VGG RRV GIN)。また、ゼブラフィッシュ、キンギョ、サケの保存性の高い領域からdegenerate primerを構築した(ZGS-1FW:AGG TKG AGG ACC ARG TSA RRT T)。同様に、ゼブラフィッシュとキンギョで保存されていた配列に基づきプライマーを構築した(GZ-1FW:AAG GTG GAG GAC CAG GTG AAG)。
【0047】
2. degenerate primerを用いたPCRスクリーニングによるヒラメIFN遺伝子の単離検討
(1)実験方法
孵化後4〜7ヶ月のヒラメ稚魚並びに成魚を下記検討に供した。
1)PolyI:C処理(IFN発現誘導)
ヒラメ稚魚にIFN発現を誘導するためにPolyI:C処理を行った。処理は腹腔注射にて、PolyI:CをPBSで2mg/mLに調整したものを、検体重量1gにつき5μLを注射して行った。注射後、6時間後、12時間後にヒラメ検体から脾臓並びに腎臓を摘出してRNA抽出源とした。対照として、PBS処理12時間後のヒラメならびに、未処理ヒラメより脾臓・腎臓を摘出してRNA抽出源とした。
2)RNA抽出
ヒラメより摘出した脾臓・腎臓よりtotal RNA抽出を行った。抽出には、Invitrogen社製 TRIZOL試薬を用いた。抽出したRNA精製には、QIAGEN社RNeasy Kitを使用した。total RNAからのmRNA(ポリ(A)+RNA)分離・精製には、TaKaRa Oligotex-dT30 mRNA purification kitを使用した。抽出・精製は、キット記載の手順に従って実施した。
【0048】
3)逆転写反応
精製したmRNAを鋳型にM-MLV逆転写酵素(Invitrogen社)を用いてcDNA合成を行った。mRNA添加量は約1〜5μgとし、逆転写用プライマーとしてアダプター配列を3’側に付加したオリゴdT17プライマー、AP1dT17:CGA TGG TAC CTG CAG GCG CGC C(T)17およびAP2dT17:CTG ATC TAG AGG TAC CGG ATC C(T)17を用いた。
また、反応系には、100pmol/μLのpdT17primerを2μL 10mM dNTPsを12μL等を添加し、全体量を50μLとした。最終濃度は、逆転写酵素:80U/μL、dNTPs: 2.4mM、プライマー:4pmol/μLとした。
【0049】
4)degenerate primer を用いたnested PCR
PCRにはPlatinumTaq(Invitrogen社)を用いた。1st PCR において鋳型核酸としてヒラメcDNAを50μLの反応系に対して、逆転写反応産物の10倍希釈液を1μL添加した。2nd PCRにおいて鋳型核酸として1st PCR産物を50μLの反応系に対して1μL添加した。
1st並びに2nd PCRにおいて添加するプライマーとデオキシヌクレオチドの最終濃度はそれぞれそれぞれ1μM(FWおよびRVともに)、0.8mM(A,G,C,Tそれぞれ0.2mM)とした。
i)1st PCR
degenerate primer A-FW、B-FW、C-FW、ZGS-FW、GZ-FWをそれぞれforward primerとし、これにreverse primerとしてE-RV2を用いて1st PCRを行った。
ii)2nd PCR
1st PCR産物を鋳型に、D-FWとE-RV1のプライマー対を用いて2nd PCRを行った。
PCRは、熱変性:94℃30秒、アニーリング:35℃30秒、伸長反応:72℃30秒の3ステップを1サイクルとして、これを35回繰り返して行った。なお、増幅に先立ち、94℃1分30秒の熱変性を行い、PCRの最終サイクルとして72℃10分、反応を行った。
【0050】
5)PCR産物の電気泳動と増幅断片の精製
PCR産物はアガロースゲル電気泳動(1.5%GenePure LE Agarose または4%NusieveGTG Agarose 0.5×TBE 100V定電圧)に供し、増幅断片の確認を行った。
【0051】
6)PCR産物のクローニングに際して、TA cloning kit(Invitrogen社)を使用した(プラスミドベクター:pCR2.1)。PCR産物は2μLを反応に供した。ベクターと挿入DNA断片の結合は、T4 DNA Ligase(キット添付)で14℃ 4時間〜一晩反応することで実施した。大腸菌(INVαF’)への導入はキット記載の方法に従い実施した。
【0052】
7)プラスミド抽出
大腸菌の形質転換体(白色コロニー)を100μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地(2mL)に接種し、37℃一晩振盪培養した。培養液を13000rpm 2分間遠心分離を行い集菌した。これをQIAGEN社 QIAquick miniprep kitを用いてプラスミド抽出を行った。抽出したプラスミドの確認は、アガロースゲル電気泳動(0.75%SeaKemGTG アガロースゲル 泳動緩衝液0.5×TBE 100V定電圧)で実施した。プラスミド中にクローニングに供した挿入断片の存在確認は、電気泳動の泳動像、若しくはPCRで確認した。
【0053】
8)塩基配列の解析
取得したヒラメ由来cDNAクローンの下記の2機種を用いて塩基配列の解析を行った。機種仕様に合わせて以下に述べるシークエンスキットをそれぞれ使用した。なお、シークエンスプライマーは、M13フォワードプライマー、M13リバースプライマー、T7プロモータープライマーを選択して用いた。
【0054】
i)アロカ社 Licor dna sequencer Long readir 4200
プラスミドを鋳型にシークエンスキット:SequiTherm ExcelII(エアブラウン社)を用いてシークエンス反応を行い、泳動解析に供した。シークエンスゲルは、LongRnager(TaKaRa社)を用いた。シークエンスプライマーは、蛍光色素標識(IRD700またはIRD800)されたものを使用した(日清紡)。
ii)ABI PRISM 310Genetic Analyzer
プラスミドを鋳型にシークエンスキット:BigDye Terminator v1.1 Cycle sequencing kitを用いてシークエンス反応を、泳動解析に供した。シークエンスプライマーは、Invitrogen社のものを用いた。シークエンス反応産物はエタノール沈殿を行った。反応産物は乾燥させ、-20℃暗所下で泳動解析まで保存した。泳動解析を行うサンプルには、TSR25μLを添加し、95℃2分間熱変性〜急冷処理を施し、泳動に供した。
【0055】
(2)結果
プラスミドスクリーニングの結果、2つのクローンにおいて下記に示したインターフェロン様配列が認められた。
451bpの塩基配列内から、プライマー設定領域(Eregion-RV2)に基づき190番目〜450番目の塩基配列にコードされた87残基からなるアミノ酸配列(VRDGLSASGGQDKAAHRGGEDAGSGGGADTADYSAGSGNHPQGEGAEGLRSCIVSHSHMKNKKLHMYFKRLSRHVLKQMDYSAQAWEが推定された;下線部はdegenerate primerの配列が翻訳された領域。このアミノ酸配列のdegenerate primer領域の近傍に、魚類IFNで保存されているアミノ酸残基が少なくとも3箇所存在していた。この3つのアミノ酸残基に注目して、相同性検索(Blastp)を実施した。検索に際しては、アミノ酸配列中からプライマー領域を除去せずに実施した。プライマー設計の性格上、該プライマー領域は魚類IFNと相同性を有しているため相同性検索においては本来除去するべき配列部分である。しかし、先の3つのアミノ酸残基とプライマー領域とのアミノ酸配列の配置を比較検討するため、当該プライマー領域は除去せずに相同性検索に供した。
【0056】
相同性検索の結果(一部)を図2に示した。図中で*で示したアミノ酸残基(下段Sbjctで示されたtype I interferon [Takifugu rubripes]のアミノ酸配列では118番目のL・121番目のC・137番目のF)と、供試したアミノ酸配列中の配列(49番目のL・53番目のC・68番目のF)が検索結果においても一致していることが示された(interferon alpha[Salmo salar ]においても同様)。また、プライマー領域以外の配列において、相同性を有する結果が示された。
【0057】
魚類IFNで保存されていたアミノ酸残基(49番目のL・53番目のC・68番目のF)の配置が一致し、その近傍の配列において一致若しくは近似なアミノ酸残基が確認できた。以上よりプライマー領域を除去した配列においても、魚類IFNと相同性を有することが示された。
魚類IFNで保存されているアミノ酸配列が獲得したクローンの塩基配列から予想されるアミノ酸配列において保存されていることに注目して、全長mRNAのcDNA取得に向け、インターフェロン様配列に基づきRACE法の検討を続いて行った。
【0058】
3.3’RACE法によるヒラメIFN 3’末端領域のクローニング
(1)方法
1)3’RACE用プライマーの構築
インターフェロン様配列に基づき、3’RACEに用いるプライマーを構築した。配列は以下のとおりであった:GA rhs34-FW :GACACAGCCACATGAAGAACAAAAAGCTGCAC、vhr24-FW: GTGAGACACAGCCACATGAAGAAC。
2)3’RACE
構築したプライマーを用いて3’RACE法によるインターフェロン様配列の3’末端領域の増幅検討を実施した。鋳型核酸として前記degenerate primerによるPCRスクリーニングに用いた鋳型核酸と同じものを用いた。PCRにおけるリバースプライマーは、逆転写反応に用いたオリゴdTプライマーのアダプター配列を用いた。
【0059】
PCR産物は1.5%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅断片を確認した。その泳動像を図3に示した。約350bpの増幅断片がIFN誘導処理した検体に共通して確認できた。特に、脾臓由来cDNAでは単一のバンドとして検出された。一方、腎臓由来cDNAの増幅断片では、明確な3つのバンドが確認され、上流域には高分子のバンドも認められた。その一方、IFN誘導処理を行っていない検体(PBS処理・未処理)の区では明確な増幅断片は確認できなかった。IFN誘導処理区に共通して確認できた約500bpのバンドは、誘導処理特有の増幅断片と考えられた。
【0060】
IFN誘導処理特異的と推定される約350bpのDNA断片をダイレクトシークエンスに供した。解析により決定した塩基配列を図4に示す。サケIFNmRNAの3’非翻訳領域に存在するmRNAの安定性に関与すると推定されるATTTAモチーフが、3’RACE増幅断片においても認められた(169〜229bp間に8つ)。また、ポリA付加シグナル“AATAAAAA”が292〜299bpに認められた。
【0061】
3)相同性検索
ダイレクトシークエンスで決定した塩基配列を相同性検索(Blastn並びにBlastx)に供した。その結果、Blastx検索において、3’RACEの増幅断片が魚類IFNと有意な相同性を示した。この結果から、3’RACEで得られた増幅断片がヒラメIFNcDNAの3’末端側の断片であることが示唆された。この配列に基づき、5’RACEを検討した。
【0062】
4.5’RACE法によるヒラメIFN 5’末端領域のクローニング
(1)方法
1)5’RACE用プライマーの構築
3’RACE検討の結果、ヒラメIFNの3’末端領域と推定される塩基配列を決定した。この配列に基づき、5’RACEに用いるプライマーを構築した。
2)5’RACE
Invitorgen社製5’RACE System version2.0を用いて5’RACEを行った。鋳型核酸として成魚ヒラメ脾臓RNA(total RNA並びにmRNA)を使用した。mRNA精製は、TAKARA Oligotex-dT30 mRNA purification kitを使用した。
【0063】
(2)結果
構築したプライマーの各種組み合わせで5’RACE検討を行ったところ、Invitrogen社製キット5’RACE System version2.0を用いて逆転写反応のプライマーとしてhira RV8(CTAGTTGATGGTGAGTAGAG)、PCRプライマーとしてhira RV11(GCAGGTCTGATCTCATTAGA)、RV12(CAGTTCCCAGGATTCAGCAC)を組み合わせた検討で、単一の増幅断片を得ることができた。実験手順は、5’RACE System version2.0の実験手順に一部改変を加えて下記i)、ii)のように実施した。
i)逆転写反応;hira RV8を逆転写用プライマーとし、以下の反応系で逆転写反応を行った。供試したRNA量は、total RNA:10μg、mRNA:1.7μg(キット推奨量より過剰量)を添加した。
【0064】
上記反応液を、42℃で60分間反応を行い、また、RNase inhibitorを添加した。
反応後、70℃で15分間処理し、酵素を失活させた。反応液を37℃下におき、RNase mixを1μL添加し、30分間反応を行った(RNaseH1によるHybrid RNAの分解)。
【0065】
反応後の1st strand cDNAをキット添付のS.N.A.P Columnで精製を行った;反応液を120μLのbinding solution(6M NaI)を添加し、これをカラムへ移した。カラムを13000×g 20秒で遠心分離し、これに4℃に冷却した1×wash bufferを400μL添加して13000×g 20秒で遠心分離(この操作を3回繰り返した)。続いてice cold 70%エタノール400μLで洗浄(13000×g20秒 遠心分離)を2回行った。エタノールを遠心分離等で完全に除去した後、65℃滅菌水でカラムからDNAを溶出(50μL)して、次の操作へ移行した。
【0066】
カラム精製後のcDNAにdCtailの付加反応を行った;5×tailing buffer(50mM Tris-HCl(pH8.4),125mM KCl,7.5mM MgCl2) 5μL、2mM dCTP 2.5μL、SNAP purified cDNA 16.5μLの反応液を94℃で2分間処理後、直ちに氷中へ移した(1分間)。これにTerminal deoxynucleotidyl tansferaseを1μL添加(ピペッティングで混合)、37℃で30分間反応せしめた。反応後は、65℃10分間処理して酵素を失活させた。以上の操作をしたものをdC-tailed cDNAとする。
【0067】
ii)1st PCR
dC-taile cDNA を鋳型に1st PCRを行った。プライマーは、5’RACE System version2.0に添付のAbridged Anchor primer(GGCCACGCGTCGACTAGTACGGGIIGGGIIGGGIIG)とhira RV11(GCAGGTCTGATCTCATTAGA)を用いた。
【0068】
iii)2nd PCR
1st PCR産物を鋳型に2nd PCRを行った。プライマーは5’RACE System version2.0に添付のAUAP(GGCCACGCGTCGACTAGTAC)とhira RV12(CAGTTCCCAGGATTCAGCAC)を使用した。
【0069】
1st並びに2nd PCR産物を電気泳動に供した。対照として、成魚RNA(total RNA並びにmRNA)をOligo dT17primer(AP1dT17)で逆転写反応を行い、vhr34FWとAP1のプライマー対でPCRを行った(3’RACE PCR)ものを同時に泳動に供した。泳動像を図5に示す。
2nd PCRの増幅断片が単一バンドとして検出された。1st PCR産物のメインバンドの位置に対してわずかに短い断片であったことから、2nd PCRの増幅断片はプライマー特異的なDNA断片であることが推定できた。このDNA断片をアガロースゲルから抽出・精製を行い、ダイレクトシークエンスに供した。
【0070】
解析により決定した塩基配列を図6に示す。78〜80bpに開始コドン(ATG)が存在し以降決定した配列の3’末端側まで停止コドンで寸断されることなくアミノ酸配列が続いた(ORFと推定)。なお、1〜10bpのGはTdT反応により付加されたdC-tailと考える。このGのリピート配列を除去した塩基配列を相同性検索に供した。
(2)結果
魚類IFNと高い相同性が認められた。また、78〜80bpは開始コドンであることが、相同性検索のアライメントから推定できた。5’RACEにより決定した塩基配列と3’RACEの塩基配列を結合することで、ヒラメIFNmRNAの塩基配列とIFNのアミノ酸配列を推定することができた。推定配列に基づき、ヒラメIFNmRNA の全長cDNAの増幅を試みた。
【0071】
(実施例2)ヒラメIFN遺伝子の全長配列の決定
(1)プライマー構築
5’RACE検討により決定した塩基配列に基づき、フォワードプライマーを構築した。リバースプライマーは、5’RACE検討に際して構築したプライマー(hira RV4:GGTTGGAGAATGCATGTTTTTATTGGA)を用いた。
【0072】
PCR産物は、1.5%アガロースゲル電気泳動に供してDNA増幅の確認を行った。泳動像を図7に示す。IFN誘導処理(PolyI:C処理)したヒラメに共通して約800bpのDNA断片が認められた。5’RACEと3’RACE検討で決定した塩基配列をその重複した配列で連結した場合、789bpの増幅断片がPCRで増幅することが予想されるが、このバンドはその予想断片にほぼ一致するサイズである。約800bpのバンド以外に、約1500bpの増幅断片が認められたが、IFN誘導処理に関係なく増幅していた。脾臓からは、このバンドは検出されなかった。
【0073】
約800bpの増幅断片をターゲットにクローニング・シークエンスを行い、789塩基の塩基配列を決定した。その他に塩基置換の変異や挿入配列の存在といった差異が認められた。断片長795塩基のもの (ORFに6塩基付加)や断片長が793塩基であった(3’非翻訳領域に4塩基付加)。別のクローンでは、3つの塩基に変異(塩基置換)が存在した。変異は、ORFに2箇所、3’NTRに1箇所に分散していた。ORFに存在した変異のうち、426番目の変異はアミノ酸配列の置換を伴う塩基置換であった。
このように、概ね789塩基の増幅断片であったが、各種変異や多型の存在を示唆する塩基配列の存在が示唆された。
【0074】
アミノ酸配列中のシグナルペプチドはRobertsen, B et al.(2003),J. Interferon Cytokine Res. 23, 601-612に記載の解析プログラムSignalP(www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/) より推定した(以下、他の配列も同様)。
クローンの塩基配列およびアミノ酸配列を図8Aおよび図8Bにそれぞれ示す。
【0075】
(2)相同性検索
アミノ酸配列(184aa)をBlast検索に供した結果、相同性を有する367種の配列がヒットし、その殆どがIFN-αであった。とくに、トラフグ(Takifugu rubripes)との相同性が最も高く。52%の配列が一致していた。また、IFN-α等のconserved domainであるIFabが存在することが示唆された。これらの結果から、本解析によって獲得した塩基配列(並びに推定アミノ酸配列)は、ヒラメIFNであることが強く示唆された。
【0076】
魚類IFNとの比較(図9)では、degenerate primer構築に際して実施したマルチプルアライメント解析と同様に、保存性の高い領域は殆ど存在しないが、全配列に共通するアミノ酸配列が数箇所認められた(図中*印:全配列で保存されているアミノ酸残基)。
【0077】
(考察)
以上の結果から、単離したDNAは、配列の構造やアミノ酸配列の相同性、conserved domainの存在(IFab)から、ヒラメIFNcDNAと考えられた。また、該DNAがコードしているヒラメIFNのアミノ酸組成は表1に示すとおりであった。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例3)ヒラメIFNの大腸菌発現ベクターおよび形質転換体の構築
(1)ヒラメIFN DNA断片処理
TdT活性のないPCR用酵素およびプライマーとして
hira FW14: ATGCTTAACAGGATCTTCTTCGTおよびhiraRV15h:TTCTTAAgCTtGTGGACGAATTCTAGTTGATGGT
を用いてヒラメIFN DNA 断片を増幅した。増幅を泳動で確認後、増幅断片を制限酵素HindIIIで切断処理した。酵素処理の後、DNA断片を精製してpET(Novagen社;図10)またはpMAL(登録商標:New England BioLabs社;図11)に示す大腸菌発現ベクターに導入した。
【0080】
(2)ヒラメIFN大腸菌発現ベクターの作製
1)Novagen社:pET System
ベクターとしてpET32(a)+を用いた。マルチクローニングサイトを制限酵素EcoRVとHindIIIで切断し、これにヒラメIFN DNA断片(制限酵素処理済)を導入した。
EcoRVサイトにヒラメIFN開始コドンがくるように導入した。停止コドンはヒラメIFNの配列をそのまま活用した。大腸菌はBL21(DE3)を用いた。
形質転換体の37℃での一晩培養液20μLを2mLのLB(アンピシリンを含む)に接種し、37℃で振盪培養を3時間行った(誘導開始前のサンプルとして一部採取した)。これに100mM IPTG 20μLを添加した後、37℃で振盪培養をさらに3時間行った(誘導後のサンプル)。各培養液を250μL採取し、5000×gで5分間の遠心分離に付して上清を除去した。沈殿を50mMTris-HCl(pH8.0) 2mMEDTA 100μLに懸濁せしめ、2×SDS-PAGEサンプルバッファー100μLを加え、熱変性させた。熱変成後の培養液の5μLを電気泳動に付した。
【0081】
2)New England BioLabs社:pMAL(登録商標)Protein Fusion and Purification System
ベクターとしてpMAL-c2X、-p2Xを用いた。マルチクローニングサイトを制限酵素XmnIとHindIIIで切断し、これにヒラメIFN DNA断片(制限酵素処理済)を導入した。
pET Systemを用いた場合の電気泳動の結果を図12に示した。ヒラメIFN遺伝子のベクターへの組み込み部位から、IPTG誘導により346aaの融合タンパク質として発現が予想された(ヒラメIFNのN末側にpET32aのHis-Tag配列等が付加していた)。図12中のIPTG添加後に特有の濃いバンドは、分子量からヒラメIFN融合タンパク質と考えられた。
【0082】
(実施例4)ヒラメIFNの昆虫細胞用発現ベクターの構築
発現ベクターとしてInvitorgen社のpFastBac(登録商標)1 4775 nucleotidesを用いた。また、ベクターに挿入するヒラメIFNのDNA断片を増幅するプライマーは下記の配列を用いた。
FW;GGATCCTCTAGAATGCTTAACAGGATCTTC (BamHI+XbaI+ATG・・・)
RV;CTCGAGGAGCTCCTAGTTGATGGTGAGTAGAG(XhoI+SacI+stop+GTT)
これらのプライマーについて、大腸菌クローニングベクターによってクローニングを行うことによって増幅を行った後、プラスミドベクターから制限酵素で昆虫細胞発現ベクター用のDNA断片を切り出した。この際の制限酵素としては、BamHI/XhoI を用いた。前記DNA断片をpFastBac(登録商標)1 4775 nucleotidesのクローニングサイトである前記BamHI/XhoI に導入した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によるタンパク質を用いれば、ヒラメのウイルス病を効率的に防除することができる。また、本発明によるタンパク質は、ヒラメ免疫機構・ヒラメの病害メカニズムの解明、生体由来のIFNでは作製が困難である抗IFN抗体の効率的な作製とその応用(例:ヒラメのウイルス等病害の感染モニタリング。IFN検出により何らかのストレス下にあることが推察できる)、ヒラメ免疫系のアッセイ、ヒラメ免疫腑活化剤の開発、抗生物質等に依存しない病害対策等に資するものである。さらに、本発明による発現ベクターおよび形質転換体を用いることによって、ヒラメIFNの大量生産も可能となる。したがって、本発明はヒラメの養殖業および食品産業等の関連産業の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】魚類(Teleostei)IFNの(アミノ酸配列)マルチプルアライメントの結果を示す図である。
【図2】相同性検索(Blastp)の結果を示す図である。
【図3】3’RACE PCR産物の電気泳動像を示す図である。
【図4】3’RACE 増幅断片の塩基配列を示す図である。
【図5】5’RACE PCR産物泳動像図である。
【図6】5’RACE 2nd PCR 増幅断片の塩基配列を示す図である。
【図7】PCR産物の電気泳動像を示す図である。
【図8A】ヒラメIFN遺伝子の塩基配列を示す図である。
【図8B】ヒラメIFNのアミノ酸配列を示す図である。
【図9】ヒラメIFNと他の魚類IFNとの比較を示す図である。
【図10】大腸菌発現ベクターであるpETを示す図である。
【図11】大腸菌発現ベクターであるpMAL(登録商標)を示す図である。
【図12】ヒラメIFNの電気泳動の結果を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
[配列番号1]ヒラメIFN遺伝子の塩基配列。
[配列番号2]ヒラメIFNのアミノ酸配列
[配列番号3]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Aregion−FW)。
[配列番号4]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Bregion−FW)。
[配列番号5]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Cregion−FW)。
[配列番号6]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Dregion−FW)。
[配列番号7]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Eregion−RV1)。
[配列番号8]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Eregion−RV2)。
[配列番号9]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(ZGS1−FW)。
[配列番号10]PCR用のdegenerate primer(GZ1−FW)。
[配列番号11]人工物の配列の記載:逆転写用オリゴdT17プライマー(AP1dT17)。
[配列番号12]人工物の配列の記載:逆転写用オリゴdT17プライマー(AP2dT17)。
[配列番号13]人工物の配列の記載:3’RACE用のプライマー(rhs34−FW)。
[配列番号14]人工物の配列の記載:3’RACE用のプライマー(vhr24−FW)。
[配列番号15]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV4)。
[配列番号16]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV8)。
[配列番号17]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV11)。
[配列番号18]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV12)。
[配列番号19]人工物の配列の記載:5’RACE System version2.0に添付のAbridged Anchor primer。
[配列番号20]5’RACE System version2.0に添付のAUAPプライマー。
[配列番号21]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(FW)。
[配列番号22]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(RV)。
[配列番号23]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(FW)。
[配列番号24]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(RV)。
【技術分野】
【0001】
本発明はヒラメから単離されたインターフェロンおよびそれを用いたヒラメのウイルス病等疾病の処置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒラメ(Paralichthys olivaceus)は、カレイ目ヒラメ科に属する魚の一種である。食材としては、刺身、寿司ネタに用いられる高級食材で、ヒラメ、カレイ類の中では最も高値で取引される。また、カレイ類よりも成長が早いため、養殖が盛んである。かかる養殖においては、資源保護のため、ある大きさに達しない個体は再放流したり、稚魚の放流も行われている。
【0003】
一般に魚類の増養殖において、魚病の発生は極めて重大な問題で、年間損害額は約300億円に上ると推定されている。時には魚病の蔓延により周辺の養殖魚が全滅するような壊滅的損害を被ることがある。また、病原菌の汚染により以後の養殖が不可能となるなど、魚類の安定供給の障害ともなっている。さらに、魚病の治療または予防のため大量の抗生物質が使用される場合があり、養殖魚の安全性に関し疑問を生じる原因となっている。したがって、魚病、とくに病原菌に起因する病気を予防する有効な手段の開発が産業界で強く望まれている。魚病に対しては抗生物質やホルマリン等が用いられているが、食品としての魚の安全性、とくに抗生物質の生体残留および耐性菌の発生が問題視されている。また、これらの薬剤は、ウイルス病に対する効果はない。そのため、ウイルス病に対しては、ワクチンの使用が推奨されている。
しかしながら、ワクチンの開発は遅れているのみならず、以下のような問題点がある:
・効果の特異性が高いことに起因する限定的な適用場面、
・各病原ウイルスごとに開発する必要性、
・病原体の変異やワクチンの病原性に起因する不安定な効果、
・新規魚病に対する効果の欠如(近年新規魚病の発生は増加している)。
【0004】
ヒラメにおいても各種細菌病およびウイルス病が知られている。細菌病としてはエドワジエラ症、βレンサ球菌症および滑走細菌症が、ウイルス病としてはウイルス性表皮増生症(原因ウイルス:FHV(flounder herpesvirus)、ウイルス性出血性敗血症(VHS)(原因ウイルス:VHSV(viral haemorrhagic speticaemia))、ウイルス性腹水症(原因ウイルス:YAV(yellowtail ascite virus)、ヒラメラブドウイルス病(原因ウイルス:HIRRV(hirame rhabdovirus))およびウイルス性神経壊死症(VNN:viral nervous necrosis)(原因ウイルス: Japanese Flounder Nervous Necrosis Virus (JFNNV))等が問題となっている。
【0005】
例えばVHSは1999年頃に発症が初めて認められた新しい病害であるところ、これに対する製造(輸入)承認を受けた水産用薬品は現在ない。そのため、その対処法としては塩化ベンザルコニウムによる手、輸送機材、網、衣類等の消毒および長靴や水槽のさらし粉による消毒等が対症療法的に行われている。しかしながら、これらの消毒薬は魚のみならず人や環境にも悪影響を及ぼす可能性があるため、その用法・用量や使用後の廃液処理には十分な配慮が必要とされている。また、これらの消毒薬は、その処理方法も煩雑である。そのため、これらの消毒薬は必ずしも使用し易いものではない。
【0006】
魚に病気を出さないようにする免疫賦活物質を有効成分として含有する製剤については既に開発され、かかる物質を餌に混ぜて与えることによって、病気に罹りにくい魚を育てられるとされている。例えば、該物質はヒラメの滑走細菌症等には充分な効果が期待できる旨報告されている(非特許文献1)。また、VHSに対しても、不活化ウイルスをワクチンとして利用する試みもなされている(非特許文献2)。しかしながら、上記のような免疫賦活物質を用いた病害防除は未だ緒に就いたばかりであり、用いられている物質の効果および安全性については未知の部分が多い。
【0007】
また、ヒラメにおける疾病を予防するための有効な方法として、生体の持つ自己防御機構の調節に関与しているサイトカイン類の利用も考えられている。とくにサイトカイン類の1種であるインターフェロン(以下「IFN」ということがある)は、ウイルス感染阻害作用、抗腫瘍作用をはじめとして、多様な免疫エフェクター作用を有し、免疫作用の活性化によって特定の病原に限定されずに生体防御を誘導できる極めて重要な糖タンパクであることが知られている。また、IFNは、上記のようなワクチンにおける問題点は有しない。そのため哺乳動物ではIFNについては本体の構造の解明とともに医薬品への応用の研究が進んでいる。しかしながら、ヒラメを含む魚類の免疫機構については不明な点が多く、IFNを含むサイトカイン類についても、その単離・利用に対する試みはなされているが、その構造および効果については解明されていない(特許文献1)。
【0008】
一方魚類のうち、サケ、ニジマス、ゼブラフィッシュ、キンギョ、ナマズ、フグについては、そのIFNの配列(塩基配列およびアミノ酸配列)が知られている。また、ヒラメのIFNに関連するものとして、特許文献1には、新規糖タンパク質、ポリペプチドならびにその製造方法およびそれらをコードする遺伝子について報告されている。また、ヒラメインターフェロンに対するモノクローナル抗体および関連するハイブリドーマについての報告もなされている(特許文献2)。しかしながら、特許文献1と2においてヒラメ由来のIFNとして開示されている塩基配列およびアミノ酸配列は、クローニングに用いたファージの配列であることが非特許文献3において指摘されている(非特許文献3)。したがって、実際にはヒラメのIFNについては、そのアミノ酸配列および塩基配列については未だ解明されていないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開平5−308990号公報
【特許文献2】特開平6−133794号公報
【非特許文献1】和歌山県「水試だより200号:平成11年度ヒラメ種苗生産について」、インターネットURL<:Http://Www.Pref.Wakayama.Lg.Jp/Prefg/070100/070101/News/008/News200_4.Htm
【非特許文献2】大分県海洋水産研究センター養殖環境部、「養魚情報」(No.03−02(第188号))、2003年3月5日
【非特許文献3】Altmann S. M. et al., (2003)“Molecular and functional analysis of an interferon gene from the zebrafish, Danio rerio.”Journal of Virology vol.77, No3, p1992-2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、ヒラメのインターフェロン様活性を有するタンパク質を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記改題を解決すべく鋭意研究を進める中で、他の魚類において公知のIFNの配列を基に遺伝子の単離を試みたところ、当該魚類IFNと類似のアミノ酸をコードする遺伝子を見出すことに成功し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の(a)または(b)のタンパク質に関する。
(a)配列表配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(b)配列表配列番号2において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、ヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質に関する。
【0013】
また、本発明は、以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子に関する。
(a)配列表配列番号1に示す塩基配列からなるDNA。
(b)(a)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0014】
さらに、本発明は、前記遺伝子を組み込んだ発現ベクターに関する。
【0015】
また、本発明は、前記発現ベクターを導入した形質転換体に関する。
【0016】
さらに、本発明は、前記形質転換体によって作出されたヒラメのインターフェロンに関する。
【0017】
また、本発明は、前記形質転換体を用いてヒラメのインターフェロンを作出する方法に関する。
【0018】
さらに、本発明は、インターフェロンをヒラメに処理することを含む、ヒラメにおけるウイルス病または細菌病を予防または治療する方法に関する。
また、本発明は、前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを用いる抗IFN抗体の製造方法に関する。
そして本発明は、前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを含むヒラメの免疫賦活化剤に関する。
【0019】
本発明は、魚類インターフェロンに関する研究が充分に進んでおらず、その発現条件等の基礎的な情報が少ないなかで、未だ単離に至らなかったヒラメIFNを以下を特徴とする手法により見出すことに成功したものである。すなわち、
・既知の魚類IFNのアミノ酸配列において極めてわずかに保存されていた配列に基づきdegenerate primerを設計すること;
・保存性の低さから、設計したdegenerate primerの配列の組み合わせは必然的に多くなり、プライマーとしては特異性の低いもの用いること;
・そのため、遺伝子増幅においては一度PCRを実施した増幅断片を、内在するプライマーで再度PCRを行うnested PCRを行うこと;
・プライマーの特異性が低いためPCRの鋳型核酸とプライマーが二本鎖DNAを形成するアニーリング(annealing)反応における設定温度を、例えば35℃といった低温に設定すること;
・低温のアニーリングにより非特異的断片の増幅も当然に予想されたが、DNA断片の獲得を優先すること;
・獲得した増幅断片の全てを大腸菌等によるクローニングの対象とし、これら断片の塩基配列の解析を実施すること;
・解析した塩基配列がコードする推定アミノ酸配列から、魚類IFNにおいて散在して保存されている1アミノ酸配列の配置と、同じアミノ酸と配置を有する配列を選抜すること;
・選抜したIFN様配列から当該配列を有する全長cDNA配列を決定すること。
以上の過程を経ることによって、初めてヒラメIFNを単離することに成功したものである。本発明のタンパク質は免疫作用の活性化に極めて重要な機能を有することから、ウイルス感染阻害作用をはじめとして、多様な免疫エフェクター作用を利用した薬剤への応用などが期待されるものである。
【発明の効果】
【0020】
(1)IFNは極めて微量で作用を発揮する生体内物質である。また、種特異性が高いため、人を含む他の動物に対する影響はほとんどない。したがって、本発明のタンパク質によれば、ヒラメ体内におけるIFN活性および免疫活性を人為的に制御することによって、近傍に棲息する他の生物群やヒラメを食料として摂取する人体に対する影響を与えることなく、例えばヒラメのウイルス病等を効率的かつ安全に防除することが可能となる。とくに海上施設での養殖においては、侵入する病原種を予測することは不可能であるところ、本発明のIFNにおいては、かかる未知の病原に対する効果も期待できる。
また、本発明のヒラメIFNによれば、各種実験動物を免疫して抗ヒラメIFN抗体を得ることができる。かかるIFN抗体を得ることによって、各種実験への応用はもとより、IFNの発現の有無の検定が可能となり、魚のウイルス感染ストレスの評価等の応用が可能となる。
さらに、本発明のヒラメIFNによれば、ヒラメの免疫機構および病害メカニズムの解明ならびにヒラメの免疫系のアッセイが可能となる。
(2)本発明の遺伝子によれば、本発明のヒラメIFNを効率的に生産することができる。
(3)本発明の発現ベクターによれば、本発明の形質転換体を効率的に産生することができる。
(4)本発明の形質転換体によれば、本発明のヒラメIFNをより効率的に生産することができる。
(5)前記形質転換体によって作出された本発明のヒラメIFNによれば、ヒラメのウイルス病をより一層効率的かつ安全に防除することが可能となる。
(6)前記形質転換体を用いてヒラメのインターフェロンを作出する本発明の方法によれば、ヒラメIFNを効率的に生産することができる。
(7)本発明のヒラメにおけるウイルス病を予防または治療する方法によれば、ヒラメ体内におけるIFN活性および免疫活性を人為的に制御することによって、例えばヒラメのウイルス病・細菌病等をより一層効率的かつ安全に防除することが可能となる。
(8)前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを用いる本発明の抗IFN抗体の製造方法によれば、抗IFN抗体を効率的に製造することが可能となる。
(9)前記タンパク質または前記ヒラメのインターフェロンを含む本発明のヒラメの免疫賦活化剤によれば、ヒラメのウイルス病等をより一層効率的かつ安全に防除することが可能となる。
以下、本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.ヒラメIFN遺伝子のクローニング
本発明のヒラメIFN遺伝子をクローニングする方法は限定されず、ディファレンスディスプレイやサブトラクション法等の一般的な方法を用いることができる。これらのうち、cDNAライブラリーを作製しない方法は、より簡便であるため好ましい。かかる方法は、例えば(1)IFN様断片の採取、(2)各末端領域の配列決定ならびに(3)目的遺伝子の発現によって行うことができる。
【0022】
(1)IFN様断片の採取は、例えば、
・各種魚類において公知となっているIFNのアミノ酸配列から相同性の高い領域の選抜、
・これらの領域のアミノ酸配列を基にしたdegenerate primerの構築、および
・該degenerate primerを用いたPCRスクリーニングによるIFN遺伝子の単離、
によって好適に行うことができる。
【0023】
IFNの構造が知られている魚類としてはサケ、ニジマス、ゼブラフィッシュ、キンギョ、ナマズおよびフグが挙げられる。したがって、これらの魚類のアミノ酸配列を解析することによって魚類IFNのアミノ酸配列で保存性の高い領域を選抜することによってプライマー配列を決定すればよい。
【0024】
degenerate primerを用いたPCRスクリーニングは、例えば、
・ヒラメからのRNA抽出、
・該RNA(mRNA)を用いたcDNA合成、
・cDNAと前記degenerate primerを用いたnested PCR、
・PCR産物の電気泳動と増幅断片の精製、
・PCR産物のクローニング(ベクターへの結合とホストの形質転換)、
・形質転換体からのベクターの抽出
・前記増幅断片(cDNA)の塩基配列の解析、および
・相同性検索、
によって好適に行うことができる。
【0025】
RNAの抽出に用いるヒラメの部位はIFN産生部位であることが想定される脾臓、または腎臓等が好適に用いられる。また、IFN発現を誘導するために、PolyI:C処理等を行うことは好ましい。
RNAの抽出・精製は市販のキットを用いることによって簡便に行うことができる。
mRNAを用いたcDNA合成は、市販の逆転写酵素を用いて好適に行うことができる。
【0026】
nested PCRにおける1st PCRにおいては、前記cDNAを鋳型とし、少なくとも1種ずつのforward primerおよびreverse primerを添加する。また、2nd PCRにおいては、1st PCR産物を鋳型として、前記forward primerおよびreverse primerとは異なる少なくとも1種ずつのforward primerおよびreverse primerを添加する。
【0027】
PCR産物の電気泳動、DNAの回収・精製、PCR産物のクローニング、形質転換体からのベクターの抽出、増幅断片(cDNA)の塩基配列の解析および相同性検索も常法に従って行うことができる。相同性検索の結果から、インターフェロン様配列を有するcDNAクローンをスクリーニングする。
【0028】
次に、(2)各末端領域の配列決定は、3’および5’末端の両末端については、例えばrapid amplification of cDNA ends 法(RACE法) による末端領域のクローニングによって行うことができる。該クローニングは、
・3’または5’RACE用プライマーの構築、
・3’または5’RACE、
・塩基配列の解析、および
・相同性検索、
によって行うことができる。
【0029】
3’RACE用プライマーの構築は、前記インターフェロン様配列を有するcDNAクローンの塩基配列を基に行う。鋳型核酸としてはdegenerate primerによるPCRスクリーニングに用いた鋳型核酸と同一の物を用いることができる。また、リバースプライマーは、前記逆転写反応において用いたプライマーのアダプター領域を用いることができる。
続く塩基配列の解析は、3’RACE PCR によって獲得したDNA断片を電気泳動に付し、抽出・精製し、かかる精製後のDNA断片を鋳型としてダイレクトシークエンスにより行うことができる。シークエンスプライマーとしては、3’RACE PCRのフォワードプライマーを用いることができる。又、精製したDNA断片を大腸菌クローニングベクターに導入してクローニングを行い、獲得したクローン(主にプラスミドクローン)の塩基配列を解析することでも可能である。
【0030】
5’RACE用プライマーの構築は、3’RACEの結果からヒラメIFNの3’末端領域と推定される塩基配列に基づき、5’RACEに用いるプライマーを構築すればよい。5’RACEにおける鋳型核酸としては、例えば種々の生育ステージの、誘導処理したヒラメから摘出したIFNの産生が予想される臓器、例えば脾臓または腎臓由来のRNAを用いることができる。mRNA精製は、市販のキットを用いて簡便に行うことができる。
【0031】
続く塩基配列の解析は、5’RACE PCRによって得た精製後のDNA断片を鋳型にダイレクトシークエンスを行うことでできる。また、精製したDNA断片を大腸菌クローニングベクターに導入してクローニングを行い、獲得したクローン(主にプラスミドクローン)の塩基配列を解析することでも可能である。
精製、泳動解析は、常法に従って行うことができる。
上記、塩基配列の解析により得られた塩基配列につき、5’末端領域と3’末端領域の解析に供した配列のうち、重複した配列を互いに連結することで、全塩基配列の推定が可能である。さらに推定された全塩基配列の5’並びに3’末端から全長増幅用のPCRプライマーを構築して、当該配列に存在するの全オープンリーディングフレーム(ORF)を含むDNA断片の増幅が可能である。かかる増幅断片の塩基配列を解析し、得られた配列をもとに相同性検索を行い、当該配列がヒラメIFNであることを推察することが可能である。
【0032】
2.発現ベクターおよび形質転換体の作製
上記のようにして得られる遺伝子を組み込む発現ベクターは、宿主細胞の種類に応じて定められるが、公知のプラスミド、ファージ、コスミド等を広く用いることができる。宿主細胞としては、真核生物および原核生物のいずれをも用い得る。真核生物の細胞には、脊椎動物、酵母、昆虫、植物等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞[Y. Gluzaen, Cell. 23, 175-182 (1982)]やチャイニーズハムスター卵巣細胞のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株[G. Urlaub and L.A. Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 77, 4216-4220 (1980)、各種昆虫細胞等がよく用いられるが、これらに限定されるものではない。脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終了配列等を保有するものを使用でき、これはさらに必要に応じて複製起源を保有してもよい。該発現ベクターの具体例としてはSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr[S. Subramani, R.Mulligan and P. Berg, Mol. Cell. Biol., 1(9), 854-864(1981)], pcDLSRα(Takebe Y, Moll Cell. Biol., 1, 466(1988))等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
真核微生物としては、一般によく用いられる酵母を、本発明においても用いることができる。中でもサッカロミセス属酵母が有利に利用できる。該酵母等の真核微生物の発現ベクターとしては、例えば酸性ホスファターゼ遺伝子に対するプロモーターを持つ pAM82[A. Miyanohara, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 80, 1-5 (1983)]等を好ましく利用できる。
【0034】
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌等の一般に用いられる宿主を用いることができる。本発明ではこれら宿主菌中で複製可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に本発明遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーターおよびSD (シャイン・ダルガーノ)塩基配列、さらにタンパク質合成開始に必要なATGを付与した発現プラスミドを使用できる。上記宿主菌としての大腸菌としてはエシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K12株等がよく用いられ、ベクターとしてはpBR322、pUC119、pKK223-3 de Boer, H. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 78, 21(1983) 、pET(Novagen社)、pMAL(登録商標:New England BioLabs社)等が用いられるが、これらに限定されず、公知の各種の菌株およびベクターのいずれをも用いることができる。プロモーターとしては、例えばトリプトファン・プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター等を使用でき、いずれの場合においても本発明の遺伝子が発現され得る。
本発明の遺伝子を発現させるための昆虫細胞用のベクターにも制限はない。例えばInvitorgen社のpFASTBacを好適に使用することができる。また、ベクターに挿入するヒラメIFNのDNA断片を増幅するプライマーおよびクローニングサイトは適宜選択可能である。
【0035】
本発明遺伝子の発現の確認は、例えばノーザンブロット法やウエスタンブロット法等により行うことができる。
(3)目的遺伝子の発現は、まず上記で得られる所望の形質転換体または形質導入体を常法に従い培養することにより、その培養液に本発明のポリペプチドまたは糖タンパク質を生産蓄積せしめることによって行われる。該培養に用いられる培地は、通常の細胞培養に慣用される各種の培地のいずれでもよい。培養上清からの目的とするポリペプチドまたは糖タンパク質の精製、単離も、前述した免疫担当細胞培養上清からの目的糖タンパク質の精製、単離と同様に常法に従って行うことができる。
【0036】
なお、宿主細胞として、大腸菌等の原核生物を用いれば、目的物はポリペプチドとして得られ、動物細胞を用いれば、目的物は該ポリペプチドを含むタンパク質として得られる。さらに、発現ベクターに組み込まれた本発明の遺伝子の塩基配列は、例えばマキサム−ギルバートの化学修飾法 Maxam-Gilbert, Meth. Enzya., 65, 499-560(1980)やジデオキシ法 Messlog, J. and Vieira, J., Gene, 19, 269-276(1982)等により確認することができる。本発明の遺伝子は、通常の方法、例えばホスファイト・トリエステル法 Nature,310, 105(1984) 等の常法に従って核酸の化学合成により全合成することもできる。
【0037】
本発明にかかる遺伝子工学的手法において、例えばDNAの切断、結合、リン酸化等には、各種制限酵素、DNAリガーゼ、ポリヌクレオチドキナーゼ、DNAポリメラーゼ等の酵素を用いた一般的な手段が採用でき、それらの酵素は市販品として容易に入手できる。これら各操作における遺伝子または核酸の単離、精製も常法、例えばアガロース電気泳動法等に従えばよい。得られる遺伝子の複製は、通常公知のベクターを利用する方法に従い得る。所望のアミノ酸配列をコードするDNA断片や合成リンカーは、上記した化学合成により容易に製造できる。
【0038】
合成したcDNAを通常用いられるクローニングベクターに組み込み、このライブラリーの中からヒラメIFNをコードしたcDNAのスクリーニングを行うこともできる。このスクリーニングには通常公知の方法を採用することができる。即ち、ライブラリーの各クローンからプラスミドを抽出し、これを転写してRNAを合成するためにT3およびT7ポリメラーゼ等を用いるが、これに限定されるものではない。
IFNの活性は、培養細胞(好ましくはヒラメ組織由来の培養細胞)に当該発明に係るヒラメIFNのcDNAを組み込んだ発現ベクターをトランスフェクションし、ヒラメ病原ウイルスの感染阻害活性を測定することや、IFNによって発現誘導されるタンパク質(Mx protein等)を測定することによって行うことができる。また、IFNの活性の測定は、当該発明に係るヒラメIFNタンパク質を培養細胞系に投与して、ウイルス感染阻害活性の測定やIFN誘導タンパク質を検出することによって行うこともできる。
【0039】
なお、生理活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列において、1個もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されていても、一般にその生理活性が維持される場合があることは当業者にとって自明のことである。したがって、本発明においても、このように修飾され、かつヒラメIFN活性を有するタンパク質をコードするDNA断片も含まれる。すなわち、配列表配列番号2において、1個もしくは数個のアミノ酸が付加、欠失、置換もしくは挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒラメIFN活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の範囲に含まれる。
【0040】
ここで、「1個もしくは数個」とは、アミノ酸が付加、欠失もしくは置換されるアミノ酸残基のヒラメIFNタンパク質の立体構造における部位またはアミノ酸残基の脂累によって異なるが、通常2〜20個、好ましくは2〜15個程度を指す。
そのような改変されたDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されるように本発明のDNAの塩基配列を改変することによって得られる。
【0041】
また、本発明のDNAまたはこれを有する細胞に変異処理を行い、これらのDNAもしくは細胞から、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを選択することによっても改変されたDNAを得ることができる。
【0042】
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、例えば、99.5%以上であるような相同性が高い核酸同士はハイブリダイズするが、それより相同性が低いDNA同士はハイブリダイズしないような条件が挙げられる。
【0043】
本発明のタンパク質は、ヒラメにおける抗ウイルス活性を有する。したがって、本発明のタンパク質を用いることによってヒラメにおけるウイルス病の予防・治癒に用いることができるところ、その投与方法は、同タンパク質がヒラメ体内に摂取される方法であれば制限されない。すなわち、典型的には稚魚への注射および混餌投与等が考えられる。作業の簡便さの観点から、混餌投与が好ましい。投与量は、いずれの投与法においても適宜決定し得る。
また、本発明のタンパク質は、とくにヒラメに対して高い効果を有するが、カレイ目ヒラメ科に属する他の魚種、とくにParalichthys属に属する魚種に対しても効果を有する。
【0044】
以下に本発明を実施例によってさらに詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)ヒラメIFNタンパク質および遺伝子の採取
1.PCRスクリーニング用degenerate primerの構築
魚類IFN関連遺伝子のデータベース検索を、Genbankより魚類IFN関連の遺伝子の塩基配列並びにアミノ酸配列のデータを入手することにより行った。すなわち、サケ(AAP51035、AAP51036)、ニジマス(CAE45642、CAE46918)、ゼブラフィッシュ(CAD67752、CAD67753、CAD67754、NP997523、AAM95448、BAC99048、BAD04984)、キンギョ(AAR20886)、ナマズ(AAP92146)、フグ(CAD67762、CAD67779、CAE47314)のIFN配列(塩基配列およびアミノ酸配列)を選抜してマルチプルアライメントを行った 。マルチプルアライメントの結果を図1に示した。
【0046】
なお、データベース検索より、「interferon - Japanese flounder」としてS36115が見つかった。前記のとおり当該配列はクローニングに用いたファージの配列と考えられるため、本検討においては適用しなかった。相同性の比較的高い5領域(便宜上、A〜E領域とした)よりdegenerate primerを構築した(Aregion-FW:TCT CTG WVC CTG CTG GAG VAI ATG、Bregion-FW:TCY TWT TCC CAA SNK ISC TTT AC、Cregion-FW:GAG GAC MAR GTG ANR TTB CTG G、Dregion-FW:TGG GAC VRG AAV AVI STG GAN GAT T、Eregion-RV1:GCT CCC AIG CBB SWG CAC TGT AGT、Eregion-RV2:TKG GAG CHS RTC VGG RRV GIN)。また、ゼブラフィッシュ、キンギョ、サケの保存性の高い領域からdegenerate primerを構築した(ZGS-1FW:AGG TKG AGG ACC ARG TSA RRT T)。同様に、ゼブラフィッシュとキンギョで保存されていた配列に基づきプライマーを構築した(GZ-1FW:AAG GTG GAG GAC CAG GTG AAG)。
【0047】
2. degenerate primerを用いたPCRスクリーニングによるヒラメIFN遺伝子の単離検討
(1)実験方法
孵化後4〜7ヶ月のヒラメ稚魚並びに成魚を下記検討に供した。
1)PolyI:C処理(IFN発現誘導)
ヒラメ稚魚にIFN発現を誘導するためにPolyI:C処理を行った。処理は腹腔注射にて、PolyI:CをPBSで2mg/mLに調整したものを、検体重量1gにつき5μLを注射して行った。注射後、6時間後、12時間後にヒラメ検体から脾臓並びに腎臓を摘出してRNA抽出源とした。対照として、PBS処理12時間後のヒラメならびに、未処理ヒラメより脾臓・腎臓を摘出してRNA抽出源とした。
2)RNA抽出
ヒラメより摘出した脾臓・腎臓よりtotal RNA抽出を行った。抽出には、Invitrogen社製 TRIZOL試薬を用いた。抽出したRNA精製には、QIAGEN社RNeasy Kitを使用した。total RNAからのmRNA(ポリ(A)+RNA)分離・精製には、TaKaRa Oligotex-dT30 mRNA purification kitを使用した。抽出・精製は、キット記載の手順に従って実施した。
【0048】
3)逆転写反応
精製したmRNAを鋳型にM-MLV逆転写酵素(Invitrogen社)を用いてcDNA合成を行った。mRNA添加量は約1〜5μgとし、逆転写用プライマーとしてアダプター配列を3’側に付加したオリゴdT17プライマー、AP1dT17:CGA TGG TAC CTG CAG GCG CGC C(T)17およびAP2dT17:CTG ATC TAG AGG TAC CGG ATC C(T)17を用いた。
また、反応系には、100pmol/μLのpdT17primerを2μL 10mM dNTPsを12μL等を添加し、全体量を50μLとした。最終濃度は、逆転写酵素:80U/μL、dNTPs: 2.4mM、プライマー:4pmol/μLとした。
【0049】
4)degenerate primer を用いたnested PCR
PCRにはPlatinumTaq(Invitrogen社)を用いた。1st PCR において鋳型核酸としてヒラメcDNAを50μLの反応系に対して、逆転写反応産物の10倍希釈液を1μL添加した。2nd PCRにおいて鋳型核酸として1st PCR産物を50μLの反応系に対して1μL添加した。
1st並びに2nd PCRにおいて添加するプライマーとデオキシヌクレオチドの最終濃度はそれぞれそれぞれ1μM(FWおよびRVともに)、0.8mM(A,G,C,Tそれぞれ0.2mM)とした。
i)1st PCR
degenerate primer A-FW、B-FW、C-FW、ZGS-FW、GZ-FWをそれぞれforward primerとし、これにreverse primerとしてE-RV2を用いて1st PCRを行った。
ii)2nd PCR
1st PCR産物を鋳型に、D-FWとE-RV1のプライマー対を用いて2nd PCRを行った。
PCRは、熱変性:94℃30秒、アニーリング:35℃30秒、伸長反応:72℃30秒の3ステップを1サイクルとして、これを35回繰り返して行った。なお、増幅に先立ち、94℃1分30秒の熱変性を行い、PCRの最終サイクルとして72℃10分、反応を行った。
【0050】
5)PCR産物の電気泳動と増幅断片の精製
PCR産物はアガロースゲル電気泳動(1.5%GenePure LE Agarose または4%NusieveGTG Agarose 0.5×TBE 100V定電圧)に供し、増幅断片の確認を行った。
【0051】
6)PCR産物のクローニングに際して、TA cloning kit(Invitrogen社)を使用した(プラスミドベクター:pCR2.1)。PCR産物は2μLを反応に供した。ベクターと挿入DNA断片の結合は、T4 DNA Ligase(キット添付)で14℃ 4時間〜一晩反応することで実施した。大腸菌(INVαF’)への導入はキット記載の方法に従い実施した。
【0052】
7)プラスミド抽出
大腸菌の形質転換体(白色コロニー)を100μg/mLアンピシリンを含むLB液体培地(2mL)に接種し、37℃一晩振盪培養した。培養液を13000rpm 2分間遠心分離を行い集菌した。これをQIAGEN社 QIAquick miniprep kitを用いてプラスミド抽出を行った。抽出したプラスミドの確認は、アガロースゲル電気泳動(0.75%SeaKemGTG アガロースゲル 泳動緩衝液0.5×TBE 100V定電圧)で実施した。プラスミド中にクローニングに供した挿入断片の存在確認は、電気泳動の泳動像、若しくはPCRで確認した。
【0053】
8)塩基配列の解析
取得したヒラメ由来cDNAクローンの下記の2機種を用いて塩基配列の解析を行った。機種仕様に合わせて以下に述べるシークエンスキットをそれぞれ使用した。なお、シークエンスプライマーは、M13フォワードプライマー、M13リバースプライマー、T7プロモータープライマーを選択して用いた。
【0054】
i)アロカ社 Licor dna sequencer Long readir 4200
プラスミドを鋳型にシークエンスキット:SequiTherm ExcelII(エアブラウン社)を用いてシークエンス反応を行い、泳動解析に供した。シークエンスゲルは、LongRnager(TaKaRa社)を用いた。シークエンスプライマーは、蛍光色素標識(IRD700またはIRD800)されたものを使用した(日清紡)。
ii)ABI PRISM 310Genetic Analyzer
プラスミドを鋳型にシークエンスキット:BigDye Terminator v1.1 Cycle sequencing kitを用いてシークエンス反応を、泳動解析に供した。シークエンスプライマーは、Invitrogen社のものを用いた。シークエンス反応産物はエタノール沈殿を行った。反応産物は乾燥させ、-20℃暗所下で泳動解析まで保存した。泳動解析を行うサンプルには、TSR25μLを添加し、95℃2分間熱変性〜急冷処理を施し、泳動に供した。
【0055】
(2)結果
プラスミドスクリーニングの結果、2つのクローンにおいて下記に示したインターフェロン様配列が認められた。
451bpの塩基配列内から、プライマー設定領域(Eregion-RV2)に基づき190番目〜450番目の塩基配列にコードされた87残基からなるアミノ酸配列(VRDGLSASGGQDKAAHRGGEDAGSGGGADTADYSAGSGNHPQGEGAEGLRSCIVSHSHMKNKKLHMYFKRLSRHVLKQMDYSAQAWEが推定された;下線部はdegenerate primerの配列が翻訳された領域。このアミノ酸配列のdegenerate primer領域の近傍に、魚類IFNで保存されているアミノ酸残基が少なくとも3箇所存在していた。この3つのアミノ酸残基に注目して、相同性検索(Blastp)を実施した。検索に際しては、アミノ酸配列中からプライマー領域を除去せずに実施した。プライマー設計の性格上、該プライマー領域は魚類IFNと相同性を有しているため相同性検索においては本来除去するべき配列部分である。しかし、先の3つのアミノ酸残基とプライマー領域とのアミノ酸配列の配置を比較検討するため、当該プライマー領域は除去せずに相同性検索に供した。
【0056】
相同性検索の結果(一部)を図2に示した。図中で*で示したアミノ酸残基(下段Sbjctで示されたtype I interferon [Takifugu rubripes]のアミノ酸配列では118番目のL・121番目のC・137番目のF)と、供試したアミノ酸配列中の配列(49番目のL・53番目のC・68番目のF)が検索結果においても一致していることが示された(interferon alpha[Salmo salar ]においても同様)。また、プライマー領域以外の配列において、相同性を有する結果が示された。
【0057】
魚類IFNで保存されていたアミノ酸残基(49番目のL・53番目のC・68番目のF)の配置が一致し、その近傍の配列において一致若しくは近似なアミノ酸残基が確認できた。以上よりプライマー領域を除去した配列においても、魚類IFNと相同性を有することが示された。
魚類IFNで保存されているアミノ酸配列が獲得したクローンの塩基配列から予想されるアミノ酸配列において保存されていることに注目して、全長mRNAのcDNA取得に向け、インターフェロン様配列に基づきRACE法の検討を続いて行った。
【0058】
3.3’RACE法によるヒラメIFN 3’末端領域のクローニング
(1)方法
1)3’RACE用プライマーの構築
インターフェロン様配列に基づき、3’RACEに用いるプライマーを構築した。配列は以下のとおりであった:GA rhs34-FW :GACACAGCCACATGAAGAACAAAAAGCTGCAC、vhr24-FW: GTGAGACACAGCCACATGAAGAAC。
2)3’RACE
構築したプライマーを用いて3’RACE法によるインターフェロン様配列の3’末端領域の増幅検討を実施した。鋳型核酸として前記degenerate primerによるPCRスクリーニングに用いた鋳型核酸と同じものを用いた。PCRにおけるリバースプライマーは、逆転写反応に用いたオリゴdTプライマーのアダプター配列を用いた。
【0059】
PCR産物は1.5%アガロースゲル電気泳動に供し、増幅断片を確認した。その泳動像を図3に示した。約350bpの増幅断片がIFN誘導処理した検体に共通して確認できた。特に、脾臓由来cDNAでは単一のバンドとして検出された。一方、腎臓由来cDNAの増幅断片では、明確な3つのバンドが確認され、上流域には高分子のバンドも認められた。その一方、IFN誘導処理を行っていない検体(PBS処理・未処理)の区では明確な増幅断片は確認できなかった。IFN誘導処理区に共通して確認できた約500bpのバンドは、誘導処理特有の増幅断片と考えられた。
【0060】
IFN誘導処理特異的と推定される約350bpのDNA断片をダイレクトシークエンスに供した。解析により決定した塩基配列を図4に示す。サケIFNmRNAの3’非翻訳領域に存在するmRNAの安定性に関与すると推定されるATTTAモチーフが、3’RACE増幅断片においても認められた(169〜229bp間に8つ)。また、ポリA付加シグナル“AATAAAAA”が292〜299bpに認められた。
【0061】
3)相同性検索
ダイレクトシークエンスで決定した塩基配列を相同性検索(Blastn並びにBlastx)に供した。その結果、Blastx検索において、3’RACEの増幅断片が魚類IFNと有意な相同性を示した。この結果から、3’RACEで得られた増幅断片がヒラメIFNcDNAの3’末端側の断片であることが示唆された。この配列に基づき、5’RACEを検討した。
【0062】
4.5’RACE法によるヒラメIFN 5’末端領域のクローニング
(1)方法
1)5’RACE用プライマーの構築
3’RACE検討の結果、ヒラメIFNの3’末端領域と推定される塩基配列を決定した。この配列に基づき、5’RACEに用いるプライマーを構築した。
2)5’RACE
Invitorgen社製5’RACE System version2.0を用いて5’RACEを行った。鋳型核酸として成魚ヒラメ脾臓RNA(total RNA並びにmRNA)を使用した。mRNA精製は、TAKARA Oligotex-dT30 mRNA purification kitを使用した。
【0063】
(2)結果
構築したプライマーの各種組み合わせで5’RACE検討を行ったところ、Invitrogen社製キット5’RACE System version2.0を用いて逆転写反応のプライマーとしてhira RV8(CTAGTTGATGGTGAGTAGAG)、PCRプライマーとしてhira RV11(GCAGGTCTGATCTCATTAGA)、RV12(CAGTTCCCAGGATTCAGCAC)を組み合わせた検討で、単一の増幅断片を得ることができた。実験手順は、5’RACE System version2.0の実験手順に一部改変を加えて下記i)、ii)のように実施した。
i)逆転写反応;hira RV8を逆転写用プライマーとし、以下の反応系で逆転写反応を行った。供試したRNA量は、total RNA:10μg、mRNA:1.7μg(キット推奨量より過剰量)を添加した。
【0064】
上記反応液を、42℃で60分間反応を行い、また、RNase inhibitorを添加した。
反応後、70℃で15分間処理し、酵素を失活させた。反応液を37℃下におき、RNase mixを1μL添加し、30分間反応を行った(RNaseH1によるHybrid RNAの分解)。
【0065】
反応後の1st strand cDNAをキット添付のS.N.A.P Columnで精製を行った;反応液を120μLのbinding solution(6M NaI)を添加し、これをカラムへ移した。カラムを13000×g 20秒で遠心分離し、これに4℃に冷却した1×wash bufferを400μL添加して13000×g 20秒で遠心分離(この操作を3回繰り返した)。続いてice cold 70%エタノール400μLで洗浄(13000×g20秒 遠心分離)を2回行った。エタノールを遠心分離等で完全に除去した後、65℃滅菌水でカラムからDNAを溶出(50μL)して、次の操作へ移行した。
【0066】
カラム精製後のcDNAにdCtailの付加反応を行った;5×tailing buffer(50mM Tris-HCl(pH8.4),125mM KCl,7.5mM MgCl2) 5μL、2mM dCTP 2.5μL、SNAP purified cDNA 16.5μLの反応液を94℃で2分間処理後、直ちに氷中へ移した(1分間)。これにTerminal deoxynucleotidyl tansferaseを1μL添加(ピペッティングで混合)、37℃で30分間反応せしめた。反応後は、65℃10分間処理して酵素を失活させた。以上の操作をしたものをdC-tailed cDNAとする。
【0067】
ii)1st PCR
dC-taile cDNA を鋳型に1st PCRを行った。プライマーは、5’RACE System version2.0に添付のAbridged Anchor primer(GGCCACGCGTCGACTAGTACGGGIIGGGIIGGGIIG)とhira RV11(GCAGGTCTGATCTCATTAGA)を用いた。
【0068】
iii)2nd PCR
1st PCR産物を鋳型に2nd PCRを行った。プライマーは5’RACE System version2.0に添付のAUAP(GGCCACGCGTCGACTAGTAC)とhira RV12(CAGTTCCCAGGATTCAGCAC)を使用した。
【0069】
1st並びに2nd PCR産物を電気泳動に供した。対照として、成魚RNA(total RNA並びにmRNA)をOligo dT17primer(AP1dT17)で逆転写反応を行い、vhr34FWとAP1のプライマー対でPCRを行った(3’RACE PCR)ものを同時に泳動に供した。泳動像を図5に示す。
2nd PCRの増幅断片が単一バンドとして検出された。1st PCR産物のメインバンドの位置に対してわずかに短い断片であったことから、2nd PCRの増幅断片はプライマー特異的なDNA断片であることが推定できた。このDNA断片をアガロースゲルから抽出・精製を行い、ダイレクトシークエンスに供した。
【0070】
解析により決定した塩基配列を図6に示す。78〜80bpに開始コドン(ATG)が存在し以降決定した配列の3’末端側まで停止コドンで寸断されることなくアミノ酸配列が続いた(ORFと推定)。なお、1〜10bpのGはTdT反応により付加されたdC-tailと考える。このGのリピート配列を除去した塩基配列を相同性検索に供した。
(2)結果
魚類IFNと高い相同性が認められた。また、78〜80bpは開始コドンであることが、相同性検索のアライメントから推定できた。5’RACEにより決定した塩基配列と3’RACEの塩基配列を結合することで、ヒラメIFNmRNAの塩基配列とIFNのアミノ酸配列を推定することができた。推定配列に基づき、ヒラメIFNmRNA の全長cDNAの増幅を試みた。
【0071】
(実施例2)ヒラメIFN遺伝子の全長配列の決定
(1)プライマー構築
5’RACE検討により決定した塩基配列に基づき、フォワードプライマーを構築した。リバースプライマーは、5’RACE検討に際して構築したプライマー(hira RV4:GGTTGGAGAATGCATGTTTTTATTGGA)を用いた。
【0072】
PCR産物は、1.5%アガロースゲル電気泳動に供してDNA増幅の確認を行った。泳動像を図7に示す。IFN誘導処理(PolyI:C処理)したヒラメに共通して約800bpのDNA断片が認められた。5’RACEと3’RACE検討で決定した塩基配列をその重複した配列で連結した場合、789bpの増幅断片がPCRで増幅することが予想されるが、このバンドはその予想断片にほぼ一致するサイズである。約800bpのバンド以外に、約1500bpの増幅断片が認められたが、IFN誘導処理に関係なく増幅していた。脾臓からは、このバンドは検出されなかった。
【0073】
約800bpの増幅断片をターゲットにクローニング・シークエンスを行い、789塩基の塩基配列を決定した。その他に塩基置換の変異や挿入配列の存在といった差異が認められた。断片長795塩基のもの (ORFに6塩基付加)や断片長が793塩基であった(3’非翻訳領域に4塩基付加)。別のクローンでは、3つの塩基に変異(塩基置換)が存在した。変異は、ORFに2箇所、3’NTRに1箇所に分散していた。ORFに存在した変異のうち、426番目の変異はアミノ酸配列の置換を伴う塩基置換であった。
このように、概ね789塩基の増幅断片であったが、各種変異や多型の存在を示唆する塩基配列の存在が示唆された。
【0074】
アミノ酸配列中のシグナルペプチドはRobertsen, B et al.(2003),J. Interferon Cytokine Res. 23, 601-612に記載の解析プログラムSignalP(www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/) より推定した(以下、他の配列も同様)。
クローンの塩基配列およびアミノ酸配列を図8Aおよび図8Bにそれぞれ示す。
【0075】
(2)相同性検索
アミノ酸配列(184aa)をBlast検索に供した結果、相同性を有する367種の配列がヒットし、その殆どがIFN-αであった。とくに、トラフグ(Takifugu rubripes)との相同性が最も高く。52%の配列が一致していた。また、IFN-α等のconserved domainであるIFabが存在することが示唆された。これらの結果から、本解析によって獲得した塩基配列(並びに推定アミノ酸配列)は、ヒラメIFNであることが強く示唆された。
【0076】
魚類IFNとの比較(図9)では、degenerate primer構築に際して実施したマルチプルアライメント解析と同様に、保存性の高い領域は殆ど存在しないが、全配列に共通するアミノ酸配列が数箇所認められた(図中*印:全配列で保存されているアミノ酸残基)。
【0077】
(考察)
以上の結果から、単離したDNAは、配列の構造やアミノ酸配列の相同性、conserved domainの存在(IFab)から、ヒラメIFNcDNAと考えられた。また、該DNAがコードしているヒラメIFNのアミノ酸組成は表1に示すとおりであった。
【0078】
【表1】
【0079】
(実施例3)ヒラメIFNの大腸菌発現ベクターおよび形質転換体の構築
(1)ヒラメIFN DNA断片処理
TdT活性のないPCR用酵素およびプライマーとして
hira FW14: ATGCTTAACAGGATCTTCTTCGTおよびhiraRV15h:TTCTTAAgCTtGTGGACGAATTCTAGTTGATGGT
を用いてヒラメIFN DNA 断片を増幅した。増幅を泳動で確認後、増幅断片を制限酵素HindIIIで切断処理した。酵素処理の後、DNA断片を精製してpET(Novagen社;図10)またはpMAL(登録商標:New England BioLabs社;図11)に示す大腸菌発現ベクターに導入した。
【0080】
(2)ヒラメIFN大腸菌発現ベクターの作製
1)Novagen社:pET System
ベクターとしてpET32(a)+を用いた。マルチクローニングサイトを制限酵素EcoRVとHindIIIで切断し、これにヒラメIFN DNA断片(制限酵素処理済)を導入した。
EcoRVサイトにヒラメIFN開始コドンがくるように導入した。停止コドンはヒラメIFNの配列をそのまま活用した。大腸菌はBL21(DE3)を用いた。
形質転換体の37℃での一晩培養液20μLを2mLのLB(アンピシリンを含む)に接種し、37℃で振盪培養を3時間行った(誘導開始前のサンプルとして一部採取した)。これに100mM IPTG 20μLを添加した後、37℃で振盪培養をさらに3時間行った(誘導後のサンプル)。各培養液を250μL採取し、5000×gで5分間の遠心分離に付して上清を除去した。沈殿を50mMTris-HCl(pH8.0) 2mMEDTA 100μLに懸濁せしめ、2×SDS-PAGEサンプルバッファー100μLを加え、熱変性させた。熱変成後の培養液の5μLを電気泳動に付した。
【0081】
2)New England BioLabs社:pMAL(登録商標)Protein Fusion and Purification System
ベクターとしてpMAL-c2X、-p2Xを用いた。マルチクローニングサイトを制限酵素XmnIとHindIIIで切断し、これにヒラメIFN DNA断片(制限酵素処理済)を導入した。
pET Systemを用いた場合の電気泳動の結果を図12に示した。ヒラメIFN遺伝子のベクターへの組み込み部位から、IPTG誘導により346aaの融合タンパク質として発現が予想された(ヒラメIFNのN末側にpET32aのHis-Tag配列等が付加していた)。図12中のIPTG添加後に特有の濃いバンドは、分子量からヒラメIFN融合タンパク質と考えられた。
【0082】
(実施例4)ヒラメIFNの昆虫細胞用発現ベクターの構築
発現ベクターとしてInvitorgen社のpFastBac(登録商標)1 4775 nucleotidesを用いた。また、ベクターに挿入するヒラメIFNのDNA断片を増幅するプライマーは下記の配列を用いた。
FW;GGATCCTCTAGAATGCTTAACAGGATCTTC (BamHI+XbaI+ATG・・・)
RV;CTCGAGGAGCTCCTAGTTGATGGTGAGTAGAG(XhoI+SacI+stop+GTT)
これらのプライマーについて、大腸菌クローニングベクターによってクローニングを行うことによって増幅を行った後、プラスミドベクターから制限酵素で昆虫細胞発現ベクター用のDNA断片を切り出した。この際の制限酵素としては、BamHI/XhoI を用いた。前記DNA断片をpFastBac(登録商標)1 4775 nucleotidesのクローニングサイトである前記BamHI/XhoI に導入した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によるタンパク質を用いれば、ヒラメのウイルス病を効率的に防除することができる。また、本発明によるタンパク質は、ヒラメ免疫機構・ヒラメの病害メカニズムの解明、生体由来のIFNでは作製が困難である抗IFN抗体の効率的な作製とその応用(例:ヒラメのウイルス等病害の感染モニタリング。IFN検出により何らかのストレス下にあることが推察できる)、ヒラメ免疫系のアッセイ、ヒラメ免疫腑活化剤の開発、抗生物質等に依存しない病害対策等に資するものである。さらに、本発明による発現ベクターおよび形質転換体を用いることによって、ヒラメIFNの大量生産も可能となる。したがって、本発明はヒラメの養殖業および食品産業等の関連産業の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】魚類(Teleostei)IFNの(アミノ酸配列)マルチプルアライメントの結果を示す図である。
【図2】相同性検索(Blastp)の結果を示す図である。
【図3】3’RACE PCR産物の電気泳動像を示す図である。
【図4】3’RACE 増幅断片の塩基配列を示す図である。
【図5】5’RACE PCR産物泳動像図である。
【図6】5’RACE 2nd PCR 増幅断片の塩基配列を示す図である。
【図7】PCR産物の電気泳動像を示す図である。
【図8A】ヒラメIFN遺伝子の塩基配列を示す図である。
【図8B】ヒラメIFNのアミノ酸配列を示す図である。
【図9】ヒラメIFNと他の魚類IFNとの比較を示す図である。
【図10】大腸菌発現ベクターであるpETを示す図である。
【図11】大腸菌発現ベクターであるpMAL(登録商標)を示す図である。
【図12】ヒラメIFNの電気泳動の結果を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
[配列番号1]ヒラメIFN遺伝子の塩基配列。
[配列番号2]ヒラメIFNのアミノ酸配列
[配列番号3]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Aregion−FW)。
[配列番号4]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Bregion−FW)。
[配列番号5]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Cregion−FW)。
[配列番号6]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Dregion−FW)。
[配列番号7]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Eregion−RV1)。
[配列番号8]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(Eregion−RV2)。
[配列番号9]人工物の配列の記載:PCR用のdegenerate primer(ZGS1−FW)。
[配列番号10]PCR用のdegenerate primer(GZ1−FW)。
[配列番号11]人工物の配列の記載:逆転写用オリゴdT17プライマー(AP1dT17)。
[配列番号12]人工物の配列の記載:逆転写用オリゴdT17プライマー(AP2dT17)。
[配列番号13]人工物の配列の記載:3’RACE用のプライマー(rhs34−FW)。
[配列番号14]人工物の配列の記載:3’RACE用のプライマー(vhr24−FW)。
[配列番号15]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV4)。
[配列番号16]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV8)。
[配列番号17]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV11)。
[配列番号18]人工物の配列の記載:5’RACE用のプライマー(hira RV12)。
[配列番号19]人工物の配列の記載:5’RACE System version2.0に添付のAbridged Anchor primer。
[配列番号20]5’RACE System version2.0に添付のAUAPプライマー。
[配列番号21]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(FW)。
[配列番号22]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(RV)。
[配列番号23]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(FW)。
[配列番号24]人工物の配列の記載:IFNのDNA断片増幅用プライマー(RV)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のタンパク質。
(a)配列表配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(b)配列表配列番号2において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、ヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質。
【請求項2】
以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列表配列番号1に示す塩基配列からなるDNA。
(b)(a)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子を組み込んだ発現ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の発現ベクターを導入した形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体によって作出されたヒラメのインターフェロン。
【請求項6】
請求項4に記載の形質転換体を用いてヒラメのインターフェロンを作出する方法。
【請求項7】
請求項5に記載のインターフェロンをヒラメに処理することを含む、ヒラメにおけるウイルス病または細菌病を予防または治療する方法。
【請求項8】
請求項1に記載のタンパク質または請求項5に記載のヒラメのインターフェロンを用いる抗IFN抗体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク質または請求項5に記載のヒラメのインターフェロンを含むヒラメの免疫賦活化剤。
【請求項1】
以下の(a)または(b)のタンパク質。
(a)配列表配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質。
(b)配列表配列番号2において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、ヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質。
【請求項2】
以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。
(a)配列表配列番号1に示す塩基配列からなるDNA。
(b)(a)の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつヒラメに対するインターフェロン活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子を組み込んだ発現ベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の発現ベクターを導入した形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体によって作出されたヒラメのインターフェロン。
【請求項6】
請求項4に記載の形質転換体を用いてヒラメのインターフェロンを作出する方法。
【請求項7】
請求項5に記載のインターフェロンをヒラメに処理することを含む、ヒラメにおけるウイルス病または細菌病を予防または治療する方法。
【請求項8】
請求項1に記載のタンパク質または請求項5に記載のヒラメのインターフェロンを用いる抗IFN抗体の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク質または請求項5に記載のヒラメのインターフェロンを含むヒラメの免疫賦活化剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−82496(P2007−82496A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277425(P2005−277425)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(391011076)北海三共株式会社 (6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(391011076)北海三共株式会社 (6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]