説明

ヒーター

【課題】サイズが小さな場合であっても、潤滑系流体を過度に加熱することなく潤滑系流体の温度を速やかに上げることが可能なヒーターを提供する。
【解決手段】ヒーター本体50、ヒーター本体50を収納するハウジング51、及びヒーター本体50とハウジング51との間の少なくとも一部に配置された樹脂材52、を備え、ヒーター本体50が、複数のセルを区画形成する隔壁を有する筒状のハニカム構造部4、及びハニカム構造部4の側面に配設された一対の電極部21を有し、ハウジング51が、ヒーター本体50の側面側を覆うようにヒーター本体50を収納し、ハニカム構造部4の隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなり、隔壁が通電により発熱するヒーター100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒーターに関する。更に詳しくは、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を加熱するために使用することができるヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
機械の中には、部品同士を擦り合わせながら動作するものがある。例えば、エンジンなどの内燃機関においては、シリンダー内をピストンが上下運動する過程で、多くの部品が互いに擦れ合う。このように部品同士が擦れ合うと、部品に摩耗や発熱を生じ、機械に不具合が生じることがある。
【0003】
そこで、部品同士が擦れ合う際の摩擦を低減させて摩耗や発熱を抑えるために、潤滑系流体を使用する。例えば、エンジンにおける部品の摩耗や発熱の抑制には、潤滑系流体としてエンジンオイルを使用する。このように、部品同士を擦り合わせながら動作する機械を良好に動作させるためには、潤滑系流体が欠かせないものとなっている。但し、このような潤滑系流体が低温状態にある場合には、潤滑系流体の粘性が高くなってしまう。その結果、摩擦を十分に低減できないという問題が生じる。また、潤滑系流体の粘性が高くなってしまうと、潤滑系流体を目的の箇所まで供給できないという問題も生じる。
【0004】
この問題に対処するため、ヒーターを用いて潤滑系流体を加熱することが行われている。これにより、潤滑系流体の粘性を適当に低くすることができ、潤滑系流体によって摩擦を良好に低減することが可能になる。但し、潤滑系流体を過度に加熱してしまうと、潤滑系流体の劣化を引き起こしてしまうという不都合が生じる。そのため、潤滑系流体を過度に加熱しない仕組みを備えるヒーター等が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−74789号公報
【特許文献2】特開昭63−16114号公報
【特許文献3】実開昭63−12607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のヒーターでは、潤滑系流体を過度に加熱しない仕組みを有効にしたままで潤滑系流体の温度を速やかに上げることは困難であった。例えば、特許文献1には、ヒーターをシェルに収容して潤滑油を間接加熱する潤滑油の凍結防止構造が記載されている。特許文献1に記載の凍結防止構造では、潤滑油を間接加熱するため、潤滑油の劣化を防止することができる。しかしながら、特許文献1に記載の凍結防止構造においては、ヒーターがシェル内に収容されているため、潤滑油の速やかな昇温が難しいと考えられる。
【0007】
また、特許文献2には、ヒーターに、自らは発熱しない放熱フィンが取り付けられたエンジンオイルの加熱装置が記載されている。特許文献3には、ヒーターに、自らは発熱しない放熱部材が取り付けられたオイルヒータが記載されている。特許文献2及び3のように、放熱部材等をヒーターに取り付けることにより、ヒーターの伝熱面積(換言すれば、熱交換面積)を大きくすることができる。但し、ヒーターに取り付けられた放熱フィンや放熱部材は、自ら発熱するものではないため、潤滑油の速やかな昇温が難しいと考えられる。
【0008】
また、それでも敢えて速やかな昇温を実現するためには、ヒーターのサイズを大きくせざるを得なかった。しかしながら、自動車等においては、車両内の空間的な制約があり、大型のヒーターを、エンジン用の加熱装置として使用することは困難であった。このため、小型で、且つ速やかな昇温が可能なヒーターの開発が要望されている。
【0009】
また、このようなヒーターにおいては、潤滑油が流れる配管等との絶縁対策が必要である。即ち、このようなヒーターには、ヒーターを発熱させるために電流を流すため、上記配管等に電流が流れないようにするための対策が必要である。また、潤滑油が流れる配管にヒーターを配置する際には、ヒーターにより発生した熱が外部に逃げないような断熱対策も必要である。
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、小型で、且つエンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を速やかに昇温することが可能なヒーターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のヒーターを提供する。
【0012】
[1] ヒーター本体、前記ヒーター本体を収納するハウジング、及び前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間の少なくとも一部に配置された樹脂材、を備え、前記ヒーター本体が、潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する筒状のハニカム構造部、及び前記ハニカム構造部の側面に配設された一対の電極部を有し、前記ハウジングが、前記潤滑系流体が流入する流入口及び前記ヒーター本体に形成された前記セルを通過した前記潤滑系流体が流出する流出口を有し、前記ヒーター本体の側面側を覆うように前記ヒーター本体を収納し、前記ハニカム構造部の前記隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなり、前記隔壁が通電により発熱するヒーター。
【0013】
[2] 前記樹脂材が、前記ヒーター本体の前記一方の端面側における前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間、及び前記ヒーター本体の前記他方の端面側における前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間に、少なくとも配置されている前記[1]に記載のヒーター。
【0014】
[3] 前記隔壁は、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、及び金属複合Siからなる群から選ばれる1種を主成分とする前記[1]又は[2]に記載のヒーター。
【0015】
[4] 前記一対の電極部の一部が、前記ハウジングを貫通して前記ハウジングの外側まで延設され、前記樹脂材が、前記一対の電極部が前記ハウジングを貫通する部位における前記一対の電極部と前記ハウジングとの間に、少なくとも配置されている前記[1]〜[3]のいずれかに記載のヒーター。
【0016】
[5] 前記樹脂材が、少なくとも前記ヒーター本体に配置された前記一対の電極部全域を覆うように、前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間に配置されている前記[1]〜[4]のいずれかに記載のヒーター。
【0017】
[6] 前記一対の電極部のそれぞれが、前記ハニカム構造部の側面に配置された電極基板と、前記電極基板に連結するように配置された棒状の電極部とからなる前記[1]〜[5]のいずれかに記載のヒーター。
【0018】
[7] 前記ハウジングの内部において、前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間に、断熱材が配置されている前記[1]〜[6]のいずれかに記載のヒーター。
【0019】
[8] 前記ハウジングの材質が、金属又は樹脂である前記[1]〜[7]のいずれかに記載のヒーター。
【0020】
[9] 前記ハウジングの材質が、樹脂である前記[8]に記載のヒーター。
【0021】
[10] 前記ハウジングと前記樹脂材とが一体化されている前記[9]に記載のヒーター。
【0022】
[11] 前記樹脂材の耐熱温度が、80℃以上である前記[1]〜[10]のいずれかに記載のヒーター。
【0023】
[12] 前記樹脂材の比抵抗が、10Ω・cm以上である前記[1]〜[11]のいずれかに記載のヒーター。
【発明の効果】
【0024】
本発明のヒーターは、ヒーター本体、ヒーター本体を収納するハウジング、及びヒーター本体とハウジングとの間の少なくとも一部に配置された樹脂材、を備えたものである。そして、上記ヒーター本体が、潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する筒状のハニカム構造部、及びハニカム構造部の側面に配設された一対の電極部を有する。また、上記ハウジングが、潤滑系流体が流入する流入口及びヒーター本体に形成されたセルを通過した潤滑系流体が流出する流出口を有する。上記ハウジングが、ヒーター本体の側面側を覆うようにヒーター本体を収納する。本発明のヒーターにおいては、ハニカム構造部の隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなる。上記隔壁が通電により発熱する。
【0025】
本発明のヒーターによれば、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。また、ヒーターのサイズが小さな場合であっても、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。
【0026】
更に、ヒーター本体とハウジングとの間の少なくとも一部に樹脂材が配置されているため、主にヒーター本体とハウジングとの電気的な絶縁を得ることができる。また、上記樹脂材が、ヒーター本体の断熱層としても機能する。これにより、ヒーターの断熱性を向上することができる。例えば、上記樹脂材を配置することにより、ヒーター本体が発熱した際に、ハウジング外部への放熱を抑制することができる。更に、上記樹脂材が、ヒーター本体とハウジングとのシール層としても機能する。これにより、ヒーター本体とハウジングとの間のシール性を向上することができる。例えば、上記樹脂材を配置することにより、ヒーター本体とハウジングとの間への、加熱対象である潤滑系流体の漏れ出しを抑制する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のヒーターの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すヒーターの一方の端面を模式的に示す平面図である。
【図3】図1に示すヒーターの上面を模式的に示す平面図である。
【図4】図3におけるA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【図5】図3におけるB−B’断面を模式的に示す断面図である。
【図6】図1に示すヒーターにおける、ヒーター本体を模式的に示す斜視図である。
【図7】図6に示すヒーター本体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図11A】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図11B】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図12】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図14】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図15】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図16】本発明のヒーターの他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図17】図16に示すヒーターの、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面を模式的に示す断面図である。
【図18】図16に示すヒーターにおける、ヒーター本体を模式的に示す斜視図である。
【図19】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図20】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図21】図20に示すヒーターにおける、ヒーター本体を模式的に示す斜視図である。
【図22】本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図23】図22に示すヒーターの、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面を模式的に示す断面図である。
【図24】図22に示すヒーターの、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【図25】図22に示すヒーターのヒーター本体を模式的に示す斜視図である。
【図26】図25に示すヒーター本体の展開状態を模式的に示す展開斜視図である。
【図27】ヒーターの加熱時間と、潤滑系流体の温度の関係を示すグラフである。
【図28】実施例における通電加熱試験の試験方法を説明するための説明図である。
【図29】本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられるヒーター本体を模式的に示す斜視図である。
【図30】本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられるヒーター本体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0029】
(1)ヒーター:
本発明のヒーターの一の実施形態は、図1〜図5に示すようなヒーター100である。本実施形態のヒーター100は、ヒーター本体50、ヒーター本体50を収納するハウジング51、及びヒーター本体50とハウジング51との間の少なくとも一部に配置された樹脂材52、を備えたものである。
【0030】
ここで、図1は、本発明のヒーターの一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すヒーターの一方の端面を模式的に示す平面図である。図3は、図1に示すヒーターの上面を模式的に示す平面図である。図4は、図3中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。図5は、図3中のB−B’断面を模式的に示す断面図である。
【0031】
本実施形態のヒーター100に用いられるヒーター本体50は、図6及び図7に示すようなものである。ここで、図6は、図1に示すヒーターにおける、ヒーター本体を模式的に示す斜視図である。図7は、図6に示すヒーター本体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【0032】
図6及び図7に示すように、ヒーター本体50が、筒状のハニカム構造部4、及び一対の電極部21を有する。筒状のハニカム構造部4は、潤滑系流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を有する。一対の電極部21が、ハニカム構造部4の側面5に配設されている。ハニカム構造部4の隔壁1が、セラミックスを主成分とする材料からなる。この隔壁1が通電により発熱する。即ち、本実施形態のヒーターにおいては、ハニカム構造部4の隔壁1が、潤滑系流体を加熱するための発熱体となる。
【0033】
また、図1〜図5に示すように、本実施形態のヒーター100のハウジング51が、ヒーター本体50の側面側を覆うようにヒーター本体50を収納している。ハウジング51が、潤滑系流体が流入する流入口55及びヒーター本体50に形成されたセル2を通過した潤滑系流体が流出する流出口56を有する。本実施形態のヒーター100のハウジング51においては、一の面に開口部を有するハウジング本体51aと、ハウジング本体51aの開口部を塞ぐための蓋部51bと、から構成されたものである。即ち、ハウジング本体51aの内部に、ヒーター本体50が配置され、その後、ハウジング本体51aに蓋部51bが配設されることによって、ハウジング51内にヒーター本体50が収納される。
【0034】
このような本実施形態のヒーター100によれば、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。また、ヒーター100のサイズが小さな場合であっても、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。即ち、上述したように、本実施形態のヒーター100においては、通電によって隔壁1自体が発熱する。このため、潤滑系流体がセル2内を流通する過程で、隔壁1によって潤滑系流体を加熱し続けることができる。
【0035】
例えば、ハニカム構造部の隔壁自体が発熱せずに、別の熱源によってハニカム構造部を加熱するヒーターでは、潤滑系流体の良好な加熱が困難である。即ち、ヒーターによって潤滑系流体を加熱する過程においては、セル内を流通する潤滑系流体と、隔壁との間で、熱交換が行われる。隔壁自体が発熱しないヒーターでは、別の熱源による隔壁の加熱が追いつかず、潤滑系流体の速やかな昇温が困難である。また、隔壁自体が発熱しないヒーターにおいては、別の熱源を大きくして、隔壁に伝達する熱を多くすることも考えられる。しかしながら、このような方法では、ヒーター全体のサイズが大きくなってしまう。自動車等においては、車両内の空間的な制約があり、大型のヒーターを、エンジン用の加熱装置として使用することは困難である。
【0036】
また、ハニカム構造部4が、複数のセル2を区画形成する隔壁1を有するハニカム構造であるため、潤滑系流体との接触面積を大きくすることができる。このため、セル2内を流通する潤滑系流体を良好に加熱することができ、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。即ち、本実施形態のヒーター100においては、ヒーター内に流入した潤滑系流体が小分けされ、小分けされた潤滑系流体が各セル2内を流通する。このように潤滑系流体が小分けされると、潤滑系流体と隔壁1との接触面積が大きくなる。これに伴って、隔壁1と潤滑系流体との接触による伝熱量も多くなる。更に、隔壁1と潤滑系流体との伝熱量が多くなると、その伝熱量が、潤滑系流体内での熱拡散によって散逸してしまう熱量よりも大きくなる。このため、潤滑系流体の温度が、より速やかに上がり易くなる。
【0037】
また、本実施形態のヒーター100においては、隔壁1の単位面積あたりの発熱量を少なくする場合であっても、潤滑系流体の温度を確実に上げることができる。これは、本実施形態のヒーター100が、セル2によって構成される流路中で、潤滑系流体を加熱し続けることができるからである。隔壁1の単位面積あたりの発熱量を少なくすると、潤滑系流体を過度に加熱することを防ぐことができる。従って、本実施形態のヒーター100においては、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。また、このように潤滑系流体を過度に加熱しないため、潤滑系流体の劣化を有効に抑制することができる。
【0038】
更に、本実施形態のヒーター100においては、ヒーター本体50とハウジング51との間の少なくとも一部に樹脂材52が配置されている。このため、主にヒーター本体50とハウジング51との電気的な絶縁を得ることができる。また、上記樹脂材52が、ヒーター本体50の断熱層としても機能する。これにより、ヒーター100の断熱性を向上することができる。例えば、上記樹脂材52を配置することにより、ヒーター本体50が発熱した際に、ハウジング51外部への放熱を抑制することができる。更に、上記樹脂材52が、ヒーター本体50とハウジング51とのシール層としても機能する。これにより、ヒーター本体50とハウジング51との間のシール性を向上することができる。例えば、上記樹脂材52を配置することにより、ヒーター本体とハウジングとの間への、加熱対象である潤滑系流体の漏れ出しを抑制する役割を果たす。
【0039】
本明細書において、「潤滑系流体」とは、機械系部品の潤滑に用いられる流体の総称を意味する。機械系部品の潤滑に用いられる流体としては、例えば、エンジンオイル、トランスミッションフルード、ギアオイル、デフオイル、ブレーキフルード、パワーステアリングフルード等を挙げることができる。
【0040】
本実施形態のヒーターは、例えば、自動車のエンジンオイルやトランスミッションフルード等の潤滑系流体を加熱するためのヒーターとして使用することができる。一般に、自動車を冬季に走行させたり、寒冷地で走行させたりする場合には、上記潤滑系流体が低温になり易い。潤滑系流体が低温状態にあると、その粘性が高くなってしまう。その結果、エンジンやトランスミッションについては、部品に生じる摩擦が大きい状態のまま動作する時間が増えてしまう。このような状態でエンジンやトランスミッションを動作させると、燃費の悪化を招く。
【0041】
本実施形態のヒーターを使用すると、エンジンオイルやトランスミッションフルードの温度を速やかに上げることができる。これにより、エンジンオイルやトランスミッションフルードが低温になっている時間を短縮することができる。その結果、自動車の燃費を向上させることができる。
【0042】
また、一般に、トランスミッションフルードは、エンジンオイルよりも燃費悪化への寄与が大きい。従来のヒーターでは、トランスミッションフルードを十分に加熱するためには、大型のヒーターを使用しなければならなかった。本実施形態のヒーターにおいては、ヒーターを小型化した場合であっても、トランスミッションフルードを十分に加熱することができる。これにより、自動車の燃費をより向上させることができる。このように、本実施形態のヒーターは、自動車のような、ヒーターを設置するための空間の広さが限られている場合に、その効果を十分に発揮するものである。
【0043】
以下、本実施形態のヒーターについて、構成要素毎に更に詳細に説明する。
【0044】
(1−1)ヒーター本体:
ヒーター本体は、図6及び図7に示すように、筒状のハニカム構造部4、及び一対の電極部21を有するものである。筒状のハニカム構造部4が、潤滑系流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を有する。このヒーター本体においては、一対の電極部21が、ハニカム構造部4の側面5に配設されている。
【0045】
ハニカム構造部4が、隔壁1を取り囲むように最外周に配置された外周壁3を更に有していてもよい。図6及び図7においては、ハニカム構造部4が、外周壁3を更に有している場合の例を示す。外周壁3によって構成されるハニカム構造部4の側面5に、一対の電極部21が配設されている。隔壁1と、外周壁3とは、同一の材料からなるものであってもよいし、異なる材料からなるものであってもよい。
【0046】
隔壁1は、セラミックスを主成分とする材料からなるものである。ここで、本明細書において、「セラミックスを主成分とする」とは、セラミックスを50質量%以上含むことをいう。即ち、セラミックスを主成分とする材料からなる隔壁とは、セラミックスを50質量%以上含んだ隔壁のことを意味する。本実施形態のハニカム構造部に適用可能な「通電により発熱するセラミックス」としては、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、金属複合Si等を挙げることができる。
【0047】
本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の比抵抗が0.01〜50Ω・cmであることが好ましい。本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の比抵抗が0.03〜10Ω・cmであることが更に好ましく、0.07〜5Ω・cmであることが特に好ましい。隔壁の比抵抗を上記数値範囲とすることにより、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を速やかに昇温することが可能なヒーターとすることができる。また、ハニカム構造部の小型化に十分対応可能なものとなる。
【0048】
上述したSiCには、再結晶SiC及び反応焼結SiCが含まれる。再結晶SiCは、例えば、以下のように作製されるものである。まず、SiC粉体、有機質バインダー、及び「水又は有機溶剤」を含有する原料を、混合、混練して坏土を調製する。次に、この坏土を成形して成形体を作製する。次に、得られた成形体を、不活性ガス雰囲気中において、1600〜2300℃で焼成して、焼成体を得る。このようにして得られたものが「再結晶SiC」である。そして、得られた焼成体は主に多孔質となる。再結晶SiCは、原料、粒径、不純物量などを変化させることにより比抵抗を変化させることができる。例えば、SiC中に不純物を固溶させることにより、比抵抗を変化させることができる。具体的には、窒素雰囲気中で焼成することにより、SiCに窒素を固溶させて再結晶SiCの比抵抗を小さくすることができる。
【0049】
反応焼結SiCは、原料間の反応を利用して生成させたSiCである。反応焼結SiCとしては、多孔質の反応焼結SiC、及び緻密質の反応焼結SiCを挙げることができる。多孔質の反応焼結SiCは、例えば、以下のように作製されるものである。まず、窒化珪素粉末、炭素質物質、炭化珪素及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製する。なお、炭素質物質は、窒化珪素を還元する物質である。炭素質物質としては、カーボンブラック、アセチレンブラック等の固体カーボン粉末、フェノール、フラン、ポリイミド等の樹脂等を挙げることができる。次に、この坏土を成形して成形体を作製する。次に、非酸化性雰囲気中において、上記成形体を一次焼成して一次焼成体を得る。次に、得られた一次焼成体を酸化性雰囲気中で加熱して脱炭することにより、残存する黒鉛を除去する。次に、非酸化性雰囲気中において、「脱炭された一次焼成体」を1600〜2500℃で二次焼成して二次焼成体を得る。このようにして得られたものが「多孔質の反応焼結SiC」である。
【0050】
緻密質の反応焼結SiCは、例えば、以下のように作製されるものである。まず、SiC粉体及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製する。次に、この坏土を成形して成形体を作製する。次に、この成形体に「溶融した珪素(Si)」を含浸させる。これにより、黒鉛を構成する炭素と、含浸させた珪素とを反応させてSiCを生成させる。上記のように、成形体に「溶融した珪素(Si)」を「含浸」させることにより、気孔が無くなり易い。即ち、気孔が塞がれ易い。そのため、緻密な成形体を得ることができる。このようにして得られたものが「緻密質の反応焼結SiC」である。
【0051】
上述した「金属含浸SiC」としては、Si含浸SiC、金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiC等を挙げることができる。上記「その他の種類の金属」としては、例えば、Al、Ni、Cu、Ag、Be、Mg、Ti等を挙げることができる。隔壁が、上述した「金属含浸SiC」を主成分とする材料からなる場合には、その隔壁が、耐熱性、耐熱衝撃性、耐酸化性、及び耐食性に優れたものになる。「耐食性」とは、酸やアルカリなどによって生じる腐食作用に対する対抗性のことを意味する。
【0052】
金属含浸SiCとしては、例えば、SiC粒子を主体とした多孔質体に、溶融した金属を含浸させたものを挙げることができる。このため、金属含浸SiCは、比較的に気孔が少ない緻密体となる。
【0053】
「Si含浸SiC」とは、金属SiとSiCとを構成成分として含む焼結体を総称する概念である。金属Siとは、金属珪素のことを意味する。Si含浸SiCでは、SiC粒子の表面を、金属Siの凝固物が取り囲んでいる。これにより、Si含浸SiCは、金属Siを介して、複数のSiC粒子同士が結合した構造を有するものとなっている。
【0054】
「金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiC」とは、金属Siとその他の種類の金属とSiCとを構成成分として含む焼結体を総称する概念である。金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiCでは、SiC粒子の表面を、金属Siの凝固物やその他の種類の金属の凝固物が取り囲んでいる。これにより、金属Siとその他の種類の金属とを含浸させたSiCは、金属Siやその他の種類の金属を介して、複数のSiC粒子同士が結合した構造を有するものとなっている。
【0055】
隔壁が、金属含浸SiCを主成分とする材料からなる場合には、含浸させる金属の量を調整することにより、隔壁の比抵抗を調整することができる。隔壁が、金属含浸SiCを主成分とする材料からなる場合には、一般に、含浸させる金属の量が多くなるにつれて、隔壁の比抵抗がより小さくなる。
【0056】
上述した「金属複合SiC」としては、Si複合SiC、金属Siとその他の種類の金属とを複合焼結させたSiC等を挙げることができる。上記「その他の種類の金属」としては、例えば、Al、Ni、Cu、Ag、Be、Mg、Ti等を挙げることができる。
【0057】
金属複合SiCとしては、SiC粒子と金属粉末とを混合焼結したものを挙げることができる。SiC粒子と金属粉末とを混合焼結する際には、SiC粒子と金属粉末とが接触する接点において焼結が進行する。このため、金属複合SiCは、比較的に多くの気孔が形成された多孔質体となる。金属複合SiCでは、金属粉末からなる金属相を介してSiC粒子が相互連結した構造を取りつつ、多孔質体の気孔が形成されている。例えば、Si複合SiCでは、SiC粒子の表面に金属Si相が結合した形で、気孔を形成しながら、金属Siを介してSiC粒子同士が結合した構造が取られている。金属Siとその他の種類の金属とを複合焼結させたSiCにおいても、上記金属複合SiCと同様の構造が取られている。
【0058】
隔壁が、金属複合SiCを主成分とする材料からなる場合には、複合させる金属の量や成分を調整することにより、隔壁の比抵抗を調整することができる。隔壁が、金属複合SiCを主成分とする材料からなる場合には、一般に、複合させる金属の量が多くなるにつれて、隔壁の比抵抗がより小さくなる。
【0059】
本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の単位表面積あたりの発熱量が、ハニカム構造部の大きさ、隔壁の比抵抗、隔壁の厚さ、セル密度等に依存している。例えば、ハニカム構造部の大きさが制限されている場合には、隔壁の厚さやセル密度を調整することによって、隔壁の単位表面積あたりの発熱量を調節することができる。これにより、潤滑系流体を過度に加熱しないようなヒーターとすることができる。また、ヒーターを配置する空間の広さに余裕がある場合には、ハニカム構造部の大きさを調整して、ヒーターの発熱量を調節することができる。ハニカム構造部の大きさとは、ハニカム構造部のセルの延びる方向の長さや、ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面の大きさのことを意味する。以下、「ハニカム構造部のセルの延びる方向の長さ」のことを、単に「ハニカム構造部の長さ」ということがある。また、「ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面の大きさ」のことを、単に「ハニカム構造部の断面の大きさ」ということがある。
【0060】
例えば、ハニカム構造部の長さを長くすることができる場合には、潤滑系流体を加熱する距離を長くすることができる。これにより、潤滑系流体を良好に加熱することができる。また、ハニカム構造部の長さを長くすることで、潤滑系流体を十分に加熱することができる場合には、隔壁の比抵抗を相対的に小さくしてもよい。
【0061】
一方、ハニカム構造部の長さや断面の大きさに制約がある場合には、隔壁の比抵抗、隔壁の厚さ、セル密度等を調整して、隔壁の単位表面積あたりの発熱量を調節することが好ましい。
【0062】
例えば、隔壁の気孔率を調整することにより、隔壁の比抵抗を調整することができる。一般に、隔壁の気孔率が小さくなるほど、隔壁の比抵抗がより小さくなる。
【0063】
また、隔壁の主成分によって、隔壁の気孔率の好ましい範囲が異なってくる。例えば金属複合SiCを主成分とすると、隔壁の気孔率は、30〜90%が好ましい。また、金属複合SiCを主成分とすると、隔壁に開気孔が多く存在し、気孔が大きくなる。そして、金属複合SiCを主成分とする隔壁は、隣り合うセル間を連通する連通気孔が多く存在する。そのため、この連通気孔によって潤滑系流体が隔壁内部を通過することが可能になる。従って、隔壁と潤滑系流体との接触面積が大きくなる。そのため、金属複合SiCを主成分とする隔壁を有するハニカム構造部を備えるヒーターは、加熱効率(即ち、熱交換効率)が向上する。なお、加熱効率は、後述する「変換効率」で表すことができる。一方、例えば、金属含浸SiCを主成分とすると、隔壁の気孔率は、0〜10%が好ましい。また、金属含浸SiCを主成分とすると、隔壁の気孔が小さくなり、開気孔が少なくなる。そのため、金属含浸SiCを主成分とする隔壁には、潤滑系流体が浸入し難い。そのため、隔壁の気孔内に留まって流れなくなる潤滑系流体が少なくなる。このようなことから、金属含浸SiCを主成分とする隔壁の場合には、潤滑系流体が過熱されて劣化することを防止できる。また、セル間を連通する気孔が無いため、潤滑系流体が隔壁の内部を通過することが無くなる。そのため、潤滑系流体についてセル内のみを流動させることができる。
【0064】
また、隔壁の材料として用いられるSiCの種類、純度(不純物量)によっても、隔壁の比抵抗を調整することができる。SiCの種類としては、α−SiC、β−SiC等を挙げることができる。また、α−SiCやβ−SiCの混合割合を調整することによって、隔壁の比抵抗を調整することもできる。
【0065】
また、隔壁の材料に含まれる金属中の不純物の量によっても、隔壁の比抵抗が変化する。また、主成分とする材料に含まれる金属として、合金を使用することもできる。また、ハニカム構造部の作製時に、上記金属を合金化させることもできる。このようにすることにより、隔壁の比抵抗を変化させることができる。
【0066】
本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の厚さが、0.1〜0.51mmであることが好ましい。また、ハニカム構造部のセル密度が、15〜280セル/cmであることが好ましい。このように構成されたハニカム構造部を用いることにより、潤滑系流体を過度に加熱することなく、潤滑系流体の温度を速やかに上げることができる。本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の厚さが、0.1〜0.51mmであり、且つハニカム構造部のセル密度が、15〜280セル/cmであることがより好ましい。
【0067】
また、本実施形態のヒーターにおいては、隔壁の厚さが0.25〜0.51mmであり、且つセル密度が15〜62セル/cmであることが更に好ましい。隔壁の厚さが0.30〜0.38mmであり、且つセル密度が23〜54セル/cmであることが特に好ましい。このように構成されたハニカム構造部を用いることにより、セル内を潤滑系流体が流通する際の圧力損失を小さくすることができる。
【0068】
ヒーター本体は、ハニカム構造部の隔壁の表面に、絶縁破壊強度が10〜1000V/μmである絶縁層を有するものであることが好ましい。絶縁層の絶縁破壊強度は、100〜1000V/μmであることが更に好ましい。潤滑系流体は、部品から生じた金属性磨耗粉や水分などを含んでいることがある。特に、金属性磨耗粉はオイルフィルターなどにより大部分が除去されるが、除去されずに潤滑系流体中に残るものがある。そのため、ヒーターを長期間使用することより、除去されずに残った金属性磨耗粉が隔壁に付着したり、堆積して目詰まりしたりすることがある。このような場合、ヒーターが短絡してしまう可能性がある。ハニカム構造部の隔壁の表面に、絶縁破壊強度が10〜1000V/μmである電気絶縁層(以下、単に「絶縁性」ともいう)を有すると、潤滑系流体に含まれる金属性磨耗粉が隔壁に付着や堆積して目詰まりすることに起因してヒーターが短絡してしまうことを防ぐことができる。
【0069】
上記絶縁層としては、隔壁に含まれるセラミックス成分が酸化して作られる酸化膜を挙げることができる。このような酸化膜は、酸化雰囲気下で高温処理することにより形成することができる。
【0070】
絶縁層としては、セラミックスコート層、SiO系のガラスコート層、又はセラミックスと「SiO系のガラス」との混合物のコート層からなるものであってもよい。
【0071】
セラミックスコート層としては、Al、MgO、ZrO、TiO、CeOなどの酸化物を主成分とするものや、窒化物を主成分とするものを挙げることができる。「酸化物を主成分とするもの」と「窒化物を主成分とするもの」とでは、「酸化物を主成分とするもの」の方が大気中における安定性が高い。一方、「窒化物を主成分とするもの」は、より熱伝導に優れる。SiO系のガラスコート層としては、SiOを主成分とするものを挙げることができる。セラミックスとSiO系のガラスとの混合物のコート層としては、SiOと「Al、MgO、ZrO、TiO、CeOなどの成分」との混合物を主成分とするものを挙げることができる。なお、絶縁層の構成成分は、耐電圧の要求値に応じて適宜選択することができる。
【0072】
セラミックスコート層、SiO系のガラスコート層、及びセラミックスとSiO系のガラスとの混合物のコート層の形成には、それぞれ湿式による方法、又は乾式による方法を採用することができる。
【0073】
湿式による方法としては、ハニカム焼結体を、絶縁層形成用スラリー、絶縁層形成用コロイド、及び絶縁層形成用溶液のいずれかに浸漬し、その後、余剰分を除去し、乾燥させた後、焼成する方法を挙げることができる。
【0074】
例えば、「酸化物を主成分とする絶縁層」を形成する場合、絶縁層形成用スラリー、及び絶縁層形成用コロイドとしては、Al、Mg、Si、Zr、Ti、Ce等の金属源、又はその酸化物を含むものを用いることができる。「酸化物を主成分とする絶縁層」は、Al、MgO、SiO、ZrO、TiO、CeOなどを主成分とする絶縁層のことである。また、絶縁層形成用溶液としては、Al(OC、Si(OCなどの金属アルコキシド溶液を用いることができる。湿式による方法における焼結温度は、主成分によって適宜決定することができる。湿式による方法における焼結温度は、例えば、SiOを主成分とする絶縁層の場合、1100〜1200℃であることが好ましい。また、Alを主成分とする絶縁層の場合、1300〜1400℃であることが好ましい。
【0075】
「窒化物を主成分とする絶縁層」を形成する場合、ハニカム成形体を、絶縁層形成用スラリー、及び絶縁層形成用コロイド、絶縁層形成用溶液のいずれかに浸漬し、その後、余剰分を除去し、乾燥させる。その後、窒素又はアンモニアを含む還元雰囲気にて窒化する。このようにして、窒化物を主成分とする絶縁層を形成することができる。窒化物としては、絶縁性を有しながら熱伝導が高いAlN、Si等を挙げることができる。
【0076】
乾式による方法は、静電スプレー法などを挙げることができる。静電スプレー法により絶縁層を形成するには、例えば、以下ように行うことができる。まず、絶縁性物質の粉末(絶縁性粒子)又は「絶縁性粒子を含むスラリー」に電圧を印加して負(又は正)に帯電させる。その後、正(又は負)に帯電させたハニカム構造部に、帯電させた「絶縁性粒子、又は絶縁性粒子を含むスラリー」を吹き付ける。このようにして絶縁層を形成する。
【0077】
絶縁層の膜厚は、所望の耐電圧に応じて適宜設定することができる。絶縁層の膜厚が厚いと、絶縁性が高くなるものの潤滑系流体を加熱するには熱抵抗が大きくなる。これは、絶縁層が隔壁に比較して熱伝導が低くなりやすいためである。更に、ヒーターの圧力損失が大きくなる。そのため、絶縁層の膜厚は絶縁性が確保できる範囲内において薄い方が好ましい。具体的には、絶縁層の膜厚は、隔壁の膜厚よりも薄いことが好ましい。更に具体的には、材質毎の絶縁破壊強度に拠るが、絶縁層の膜厚が、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが更に好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。絶縁層の膜厚が上述した値であると、熱抵抗を低く維持しつつ、ハニカム構造部の圧力損失が増加することを防止できる。絶縁層の膜厚は、絶縁層の平均膜厚を意味する。絶縁層の膜厚は、断面サンプルを用いて光学顕微鏡や電子顕微鏡により観察して計測した値である。ここで、「断面サンプル」は、ヒーター本体の一部を切り出したサンプルであり、隔壁の壁面に直交する切断面を有するサンプルである。また、例えば、絶縁層が酸化膜である場合に、上記のような厚さの酸化膜を形成するためには、焼成温度を1200〜1400℃とすることが好ましい。また、水蒸気雰囲気下で焼成し、酸化膜を形成することも好ましい方法である。更に、焼成時間を調整することにより、酸化膜の膜厚を調整することもできる。焼成時間が長くなるほど、酸化膜の厚さは厚くなる。
【0078】
更に、本実施形態のヒーターでは、隔壁の表面には、SiCが酸化してSiOが生成されたことにより、酸化膜が形成されている。隔壁の表面に酸化膜を形成する際には、大気などの酸化雰囲気下で高温処理を施す。本実施形態のヒーターが備えるハニカム構造部のように、隔壁の主成分が、SiC、Si含浸SiC、又はSi複合SiCである場合には、例えば、大気中で1200℃〜1400℃で熱処理することにより、隔壁の表面に酸化膜を形成することができる。
【0079】
ハニカム構造部の形状は特に限定されず、例えば、端面が円形の筒状(円筒形状)、底面がオーバル形状の筒状、端面が多角形の筒状等の形状とすることができる。多角形としては、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等を挙げることができる。図1〜図7においては、ハニカム構造部4の形状が、端面が四角形の筒状である場合の例を示す。
【0080】
セル2の延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状が、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせ、であることが好ましい。また、上記断面におけるセル2の形状が、円形であってもよい。
【0081】
外周壁は、ハニカム構造部の側面を構成する壁である。外周壁は、ハニカム構造部を作製する過程において、隔壁とともに形成されたものであってもよい。例えば、隔壁と外周壁とを一度に押出成形して作製してもよい。勿論、押出成形時には外周壁を形成しなくともよい。例えば、セルを区画形成する隔壁の外周部分に、セラミックス材料を塗工して外周壁を形成することもできる。
【0082】
外周壁3は、セラミックスを主成分とする材料からなるものであることが好ましい。外周壁3は、隔壁1と同一の材料からなるものであってもよいし、隔壁1と異なる材料からなるものであってもよい。外周壁の材料としては、例えば、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、金属複合Si等を挙げることができる。
【0083】
ハニカム構造部の外周壁は、厚肉であると更に好ましい。外周壁が厚肉であるとは、外周壁が隔壁より厚いことを意味する。外周壁が厚肉であると、外周壁の構造体としての強度が増大する。そのため、電極部の接合時における熱応力に対する耐性を向上させることができる。その結果、外周壁におけるクラックの生成などを抑制し易くなる。また、外周壁が厚肉であると、外周壁の熱容量が増大する。そのため、通電時における外周壁の温度上昇を減少させることができる。ここで、外周壁は、エンジンオイルなどの潤滑系流体との接触面積が小さいので過熱し易い。そのため、上記のように、通電時における外周壁の温度上昇を減少させることが好ましい。また、ヒーターのハウジングの少なくとも一部に樹脂が使用されている場合、ヒーターが局所的に過熱することによって当該樹脂が劣化し損傷することがある。そのため、ハニカム構造部の外周壁を厚肉にすることにより、当該樹脂の劣化による損傷を抑制することが可能になる。
【0084】
外周壁の厚さは、外周壁の気孔率などにも拠るが、0.3〜5mmが好ましく、0.5〜3mmが更に好ましい。
【0085】
また、ハニカム構造部の外周壁は、緻密であると更に好ましい。外周壁が緻密であると、外周壁内部を通過して潤滑系流体がヒーター本体の外部に漏れ出ることを抑制できる。ハウジング内にヒーターを収納する際には、ハウジング内に潤滑系流体が漏れ出ることを防止するために、ヒーター本体の外周にシール材が配置されることがある。外周壁を緻密にすれば、上記のように潤滑系流体がヒーターの外部に漏れ出ることを抑制できるため、上記シール材が不要になる。なお、上述したように、従来のヒーターにおいては、ヒーター本体の外部に潤滑系流体が漏れ出さないように構成されていることが一般的であるが、本実施形態のヒーターにおいては、ハウジングとヒーター本体との間に、積極的に潤滑系流体を流してもよい。即ち、ヒーター本体の外側に積極的に潤滑系流体を流して、ハニカム構造部の外周壁の外側の面を使用して、潤滑系流体を加熱してもよい。
【0086】
「緻密な外周壁」は、例えば、金属を含浸させることにより緻密化したものが好ましい。また、「緻密な外周壁」は、緻密な「Al、MgO、SiO、Si、AlN、又はBN」、又はこれらの複合物により形成されてもよい。
【0087】
このような「緻密な外周壁」を有するハニカム構造部は、例えば、「隔壁を構成する材料」と、この「隔壁を構成する材料」と異なる種類の「外周壁を構成する材料」とを、共押出しすることにより作製できる。
【0088】
また、「金属が含浸されることにより緻密化した外周壁」を有するハニカム構造部は、乾燥後のハニカム成形体、又は焼成後のハニカム焼結体に金属を含浸させて形成することが好ましい。なお、含浸させる金属としては、Siが好ましい。そして、上記乾燥後のハニカム成形体、又は焼成後のハニカム焼結体に金属を含浸させるには、外周壁のみが含浸されるように、含浸させる金属の量(例えば含浸Si量)を調整して金属を含浸させる方法がある。又は、上記乾燥後のハニカム成形体、又は焼成後のハニカム焼結の両端面に含浸阻害材をコーティングしたり、上記両端面に板状の治具を載置したりする方法がある。これらの方法により、外周壁に優先的に金属を含浸させることができる。含浸阻害材としては、例えば、酸化物系、特にAlなどを挙げることができる。
【0089】
一対の電極部21は、ハニカム構造部4の隔壁1を通電するための電極である。一対の電極部21における一方の電極部21と他方の電極部21とが、ハニカム構造部4を側方から挟み込むように、ハニカム構造部4の側面5に配設されている。一対の電極部21間に電圧を印加することにより、隔壁1が通電して、ハニカム構造部4が発熱する。
【0090】
一対の電極部21の材質としては、例えば、ステンレス、銅、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン、ロジウム、コバルト、クロム、ニオブ、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、及びこれら金属の合金等を挙げることができる。また、一対の電極部21は、Cu/W複合材、Cu/Mo複合材、Ag/W複合材、SiC/Al複合材、C/Cu複合材等の複合材を用いて形成されたものであってもよい。「Cu/W複合材」とは、銅タングステン複合材を意味する。「Cu/Mo複合材」とは、銅モリブデン複合材を意味する。「Ag/W複合材」とは、銀タングステン複合材を意味する。「SiC/Al複合材」とは、SiCとアルミニウムの複合材を意味する。「C/Cu複合材」とは、炭素と銅の複合材を意味する。
【0091】
この際、電極部の材質としては、電気抵抗が低く、熱膨張係数が低く、その熱膨張係数がハニカム構造部のセラミックスに近くなることが望ましい。電気抵抗が低いことが望ましい理由としては、電気抵抗が高いと、通電時に電極部自身の発熱により問題を生じる場合があるためである。また、熱膨張係数が低いことが望ましい理由としては、以下の通りである。電極材の熱膨張係数がセラミックスに対して高い場合には、電極部の接合時に発生する熱応力が大きくなり、界面剥離やセラミックス側へのクラック発生により問題を生じる場合があるためである。
【0092】
電極部の材質については、熱応力によるセラミックスへのクラックの発生や電極の界面剥離、電極部自身の発熱、コストの点等のバランスを考慮して適宜選択することができる。例えば、アルミニウムについては、電気抵抗が低いものの熱膨張係数が高いために熱応力によって電極部が剥離し易くなる場合がある。また、ステンレスについては、電気抵抗が比較的高いために電極部自身の発熱の点で問題となる場合がある。また、金、銀、白金、パラジウム、及びロジウム等の貴金属材質については、特に金、銀の電気抵抗が低いものの、材料コスト上問題となる場合がある。上述した複合材を用いて形成された電極部においては、電気抵抗が低いことに加え、熱膨張係数が、例えばアルミニウム等の他の純金属よりも低く、その熱膨張係数がハニカム構造部を構成するセラミックスに近いため、熱サイクル時の熱応力を低減する効果を期待することができる。これは、モリブデンやタングステンのように、他の金属と比較して熱膨張係数が低い材質でも同様な効果が得られる。
【0093】
一対の電極部21のそれぞれが、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に延びる帯状に形成されていることが好ましい。また、セル2の延びる方向に直交する断面において、一方の電極部21が、他方の電極部21に対して、ハニカム構造部4の中心を挟んで反対側に配設されていることが好ましい。図1〜図7においては、端面が四角形の筒状に形成されたハニカム構造部4の向かい合う2つの側面5に、一対の電極部21が配設された場合の例を示す。このように構成することによって、一対の電極部21間に電圧を印加したときの、ハニカム構造部4の温度分布の偏りを抑制することができる。
【0094】
また、電極部の形状が、「電極部の外周を取り囲む形状の面積より、電極部の接合部分の面積のほうが小さい」形状であることが好ましい。また、本実施形態のヒーターは、電極部の形状が、「長方形において角部が曲線状に形成された」形状であってもよい。このような電極部の形状は、熱応力が低減される形状である。そのため、「電極部とハニカム構造部とを接合した後に、ハニカム構造部にクラックが発生したり、電極部がハニカム構造部から剥れたりすること」が、抑制される。更に、加熱と冷却とが繰り返される使用環境下においても、電極部がハニカム構造部から剥れたり、ハニカム構造部にクラックが生じたりすることを防止することができる。
【0095】
例えば、図4においては、電極部21の形状は、長方形において角部が曲線状に形成された形状である。更に、図4においては、電極部21の形状が、複数の孔が形成された板状である。電極部21の形状を、「長方形において角部が曲線状に形成された形状」及び「複数の孔が形成された板状」とすることで、電極部21の熱応力が低減される。なお、電極部21の形状については、上述した形状に限定されることはない。例えば、「長方形において角部が曲線状に形成された形状」及び「複数の孔が形成された板状」のうちの一方のみを満たす形状であってもよい。
【0096】
一対の電極部21には、電源等との電気的接続を確保するための端子部分を有していてもよい。例えば、一対の電極部21の一部に、上記「端子部分」が形成されていてもよい。このような電極部としては、「電極部の本体」と、「電極部の本体から延びる突出部分」と、を有するものを挙げることができる。電極部の本体が、ハニカム構造部の側面に実際に配置される部分となる。
【0097】
一対の電極部21のそれぞれは、一対の電極部21の一部が、ハウジング51を貫通してハウジング51の外側まで延設されたものであってもよい。ハウジング51の外側まで延設された一対の電極部21の一部が、上述した突出部分であることが好ましい。このように構成することによって、ハウジング51内に収納したヒーター本体50の隔壁1に対して、簡便に通電を行うことができる。
【0098】
ハニカム構造部の2つの側面に一対の電極部が配置されたヒーター本体を作製する際には、板状又は膜状の電極部を、ハニカム構造部とは別に作製し、作製した電極部を、ハニカム構造部の2つの側面に接合することが好ましい。一対の電極部をハニカム構造部の側面に接合する方法としては、例えば、ハニカム構造部の側面に導電性接合材を配置し、この導電性接合材によって、電極部とハニカム構造部の側面とを接合する方法を挙げることができる。本実施形態のヒーターに用いられるヒーター本体においては、上述した導電性接合材が、60〜200℃で焼成されて導電性接合部を形成していることが好ましい。
【0099】
これは、導電性接合材が60〜200℃で焼成される際に、ハニカム構造部4と一対の電極部21とが、導電性接合材(焼成後は、導電性接合部23)を介して接合されることを意味する。本明細書において、被焼成物(例えば、導電性接合材)を「焼成する」とは、加熱により被焼成物の一部を溶融させ、被焼成物の構成要素同士を結合させて、被焼成物を焼成物(例えば、導電性接合部)とすることを意味する。導電性接合材が、焼成されて焼成物である導電性接合部になる際に、ハニカム構造部及び電極部が、当該導電性接合部を介して接合される。
【0100】
ここで、「ポリアミド樹脂、脂肪族アミン及び銀フレーク」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストAとする。また、「銀化合物、ケイ酸塩溶液及び水」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストBとする。また、「ニッケル粉末及びケイ酸塩溶液」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストCとする。ここで、ニッケル粉末は、導電性ペーストC全体に対して30〜60質量%含有されていることが好ましい。また、「酸化アルミニウム、グラファイト及びケイ酸塩溶液」を含有する導電性ペーストを導電性ペーストDとする。この場合、導電性接合材としては、導電性ペーストA、導電性ペーストB、導電性ペーストC、及び、導電性ペーストDからなる群から選択される1種であることが好ましい。従って、導電性接合部23は、導電性ペーストA、導電性ペーストB、導電性ペーストC、及び導電性ペーストDからなる群から選択される1種を焼成したものであることが好ましい。導電性接合部23の材質を上記のようにすることにより、本実施形態のヒーターのヒーター本体は、通電による発熱性能が良好になる。更に、本実施形態のヒーターのヒーター本体は、一般的なロウ接合などに比べて接合温度が低い。即ち、接合温度が200℃以下である。そのため、熱応力が低減されることから、セラミックスを主成分とするハニカム構造部と電極部とを接合した際に、ハニカム構造部にクラックが発生することを防止することができる。更に、本実施形態のヒーターのヒーター本体は、電極部がハニカム構造部から剥れることを防止することができる。
【0101】
また、一対の電極部とハニカム構造部とを接合する導電性接合部は、溶射法、コールドスプレー法、又はメッキ法によって形成された、金属を含有するものであってもよい。このような導電性接合部は、一対の電極部とともに「電極」としての機能を発揮する。また、このような導電性接合部は、ハニカム構造部の表面上に、電気抵抗が低い層として直接形成することができる点で好ましい。これにより、ヒーター本体に大きな電流を流すことができる。
【0102】
導電性接合部の材質としては、これまでに説明した電極部の材質と同様の材質を挙げることができる。導電性接合部の材質としては、上述した電極部と同様に、電気抵抗が低く、熱膨張係数が低く、その熱膨張係数がハニカム構造部のセラミックスに近くなることが望ましい。電気抵抗が高いと、通電時に導電性接合部自身の発熱により問題が発生することがある。また、熱膨張係数がセラミックスに対して高いと、導電性接合部とハニカム構造部との界面が剥離したり、ハニカム構造部にクラックが発生したりすることがある。
【0103】
溶射法としては、例えば、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法(HVOF法)、アーク溶射法、フレーム溶射法などを挙げることができる。
【0104】
溶射法による導電性接合部の形成方法としては、具体的には、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造部の側面のうち電極部を配設する2つの側面(電極部配設面)をサンドブラスト処理する。このサンドブラスト処理により上記電極部配設面を表面粗化するとともに、上記電極部配設面から酸化膜層を除去する。次に、上記電極部配設面以外の側面に、この側面を覆うように保護カバーを配設する。次に、上記電極部配設面に、加熱溶融させた粉末原料を吹き付ける。このようにして電極部配設面上に、導電性接合部となる塗膜を形成することができる。粉末原料としては、例えば、純ニッケル、ニッケル合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、純モリブデン、純タングステンなどを挙げることができる。また、粉末原料を加熱溶融させる温度は、前記の溶射方法によって異なり、適宜設定することが好ましい。
【0105】
このような溶射法によれば、導電性接合部が完全には緻密化し難い。即ち、溶射法によれば、導電性接合部の内部に複数の気孔が形成された導電性接合部を作製することができる。このような導電性接合部は、気孔が形成されていることによりヤング率が低下するため、熱応力に対する緩和機能が向上したものとなる。
【0106】
コールドスプレー法による導電性接合部の形成方法としては、具体的には、以下のような方法を挙げることができる。まず、上記溶射法と同様にして、電極部配設面をサンドブラスト処理し、上記電極部配設面以外の側面にこの側面を覆うように保護カバーを配設する。次に、キャリアガスとして約200〜600℃程度の窒素ガス、アルゴンガス、空気などのガスを用いて、粉末原料を上記電極部配設面に超高速で衝突させる。このように、超高速で粉末原料を上記電極部配設面に衝突させることにより、粉末原料が固相状態のまま塑性変形する。このようにして上記電極部配設面上に上記粉末原料に由来する塗膜を形成することができる。キャリアガスは、粉末原料の融点又は軟化点よりも低い温度に設定される。
【0107】
コールドスプレー法において粉末原料として用いることができるものは、主に、上記溶射法で用いることができる粉末原料に比べて塑性変形し易い軟質金属である。また、コールドスプレー法は、粉末原料の溶融温度が溶射法に比べて低いため、粉末原料の熱変質や酸化が発生し難い。そのため、バルク(固体状の固まり)の材料特性に近いという利点がある。
【0108】
粉末原料としては、例えば、純ニッケル、純アルミニウム、純銅などを挙げることができる。
【0109】
メッキ法による導電性接合部の形成方法としては、具体的には、以下のような方法を挙げることができる。まず、上記溶射法と同様にして、上記電極部配設面をサンドブラスト処理し、上記電極部配設面以外の側面にこの側面を覆うように保護カバーを配設する。次に、上記電極部配設面にメッキ処理を行う。このようにして上記電極部配設面上に導電性接合部となる塗膜を形成することができる。
【0110】
メッキ法としては、無電解メッキ法、電解メッキ法、又はこれらを組み合わせた方法などを挙げることができる。なお、無電解メッキ法では、膜厚が厚い導電性接合部を形成することが困難になる傾向がある。そのため、無電解メッキ法により下層(即ち、導電性接合部からなる第1層)を形成した後、この下層上に電解メッキ法により上層(即ち、導電性接合部からなる第2層)を形成することができる。このように無電解メッキ法と電解メッキ法とを組み合わせることにより、膜厚の厚い導電性接合部を形成することができる。
【0111】
メッキ法に用いるメッキ材料としては、例えば、純ニッケル、純銅などを挙げることができる。
【0112】
なお、導電性接合部は、溶射法、コールドスプレー法、メッキ法などの方法を組み合わせて形成することができる。例えば、無電解メッキ法により上記下層を形成した後、この下層上にコールドスプレー法により上記上層を形成することができる。なお、この下層と上層とからなるものが導電性接合部となる。このように複数の方法を組み合わせることにより、導電性接合部を厚く形成することができる。なお、上記各方法において、サンドブラスト処理及び保護カバーを配設する操作は、適宜採用すればよい。
【0113】
次に、本発明のヒーターの他の実施形態について説明する。本発明のヒーターの他の実施形態としては、図16及び図17に示すようなヒーター300を挙げることができる。ヒーター300では、ヒーター本体60の一対の電極21の構成が、これまでに説明した一対の電極部と異なっている。即ち、図18に示すように、一対の電極部21のそれぞれが、ハニカム構造部4の側面に配置された電極基板22aと、電極基板22aに連結するように配置された棒状の電極部22bとからなる。電極基板22aは、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合され、且つ、その一部が、ハニカム構造部4の一対の電極部21が配設されていない側面に沿って折れ曲がっていることが好ましい。そして、この一対の電極部21の折れ曲がった部分は、ハニカム構造部4と接触していないことが好ましい。
【0114】
図16及び図17に示すような本実施形態のヒーター300においては、棒状の電極部22bがハウジング51を貫通して、電源等との端子部分を形成している。棒状の電極部22bがハウジング51を貫通する部位に、Oリング53等のシール性を有する部材を配設することが好ましい。このように構成することによって、棒状の電極部22bがハウジング51を貫通する部位のシール性(耐圧性)を向上させることができる。また、図16〜図18に示すような径を有する棒状の電極部を設けることで、大電流を流す場合での電極部自身の発熱を抑制する効果がある。
【0115】
ここで、図16は、本発明のヒーターの他の実施形態を模式的に示す斜視図である。図17は、図16に示すヒーターの、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面を模式的に示す断面図である。また、図18は、図16に示すヒーターにおける、ヒーター本体を模式的に示す斜視図である。図16〜図18において、図1及び図6に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0116】
(1−2)ハウジング:
図1〜図5に示すように、ハウジング51は、ヒーター本体50の側面側を覆うようにヒーター本体50を収納する、筐体である。ハウジング51は、潤滑系流体が流入する流入口55と、ヒーター本体50に形成されたセル2を通過した潤滑系流体が流出する流出口56と、を有するものである。流入口55と流出口56とが、潤滑系流体が流れる配管等に接続されて、ヒーター100の内部に潤滑系流体が流入するようになる。
【0117】
ハウジングの材質については特に制限はない。例えば、ハウジングの材質が、金属又は樹脂であることが好ましい。金属によりハウジングを形成することにより、機械的強度、及び耐熱性に優れたハウジングとすることができる。また、潤滑系流体が流れる配管との接続部分の形成が容易である。更に、金属材では溶接等により筐体加工が可能である利点がある。このため、金属材を用いることにより、一般に、ヒーター使用時における信頼性に優れたハウジングを作製することができる。一方、近年、車両の軽量化の観点から実用化が進んでいる樹脂材をハウジングに用いることも可能である。樹脂によりハウジングを形成することにより、ヒーター本体とハウジングとの電気的な絶縁を得ることができる。本実施形態のヒーターにおいては、ヒーター本体とハウジングとの間の少なくとも一部に、樹脂材が配置されている。このため、ヒーター本体とハウジングとの電気的な絶縁が、上記樹脂材によって実現されている。上述したように、樹脂によりハウジングを形成することにより、ヒーター本体とハウジングとの絶縁をより確実なものとすることができる。また、樹脂材は一般に熱伝導が金属材に比較して低いことから、ヒーター加熱した熱を筐体内部に閉じ込めるための断熱効果がある。
【0118】
ハウジングを形成する金属としては、ステンレス(SUS)等の鉄合金、アルミ合金、マグネシウム合金、銅合金等を挙げることができる。ハウジングとしては、ヒーター発熱時の熱損失を抑制する点から、熱伝導が低いものであることが好ましい。このため、例えば、ハウジングを形成する金属として、熱伝導が低いと共に、汎用材であり筐体加工が可能なステンレスを好適に用いることができる。また、軽量性を要求する場合には、アルミ合金やマグネシウム合金等を適用することができる。
【0119】
また、ハウジングを形成する樹脂としては、加熱された潤滑系流体により変形しない程度の耐熱性を有する樹脂であることが好ましい。具体的には、エチレンプロピレンジエンモノマー共重合体(EPDM)、エチレンプロピレン共重合体、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン、フッ素エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリルニトリルスチレン(AS)樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、メチルメタクリレートスチレン(MS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、等の樹脂を挙げることができる。また、ハウジングを形成する樹脂として、上述した各樹脂に、ガラス繊維等を添加した樹脂複合材であってもよい。樹脂複合材にすることで、耐熱性の向上や低熱膨張化による熱応力の低減効果(別言すれば、耐久性の向上)がある。強化繊維はガラス繊維等を用いることができ、絶縁性を要求する場合には、絶縁性を有する繊維が好適となる。このようなことから、ヒーターの出力を高くする場合には、ハウジングを形成する樹脂として、耐熱性を高めた樹脂複合材を用いることが好ましい。
【0120】
ハウジングの流入口及び流出口は、潤滑系流体が流入又は流出する流路の出入口である。ハウジングの流入口及び流出口が、潤滑系流体が流れる配管に対して、直接接続することが可能に構成されていてもよい。また、ハウジングの流入口及び流出口に、上記配管との接続機構が更に接続されていてもよい。例えば、上記「配管との接続機構」としては、管継手(フランジ継手ともいう)を挙げることができる。また、「配管との接続機構」が、流入口に向けて口径が漸増する拡管部や、流出口から口径が漸減する狭管部等を更に有していてもよい。
【0121】
ハウジングの大きさについては特に制限はない。但し、ヒーター本体を収納することが可能な大きさである必要がある。また、ハウジングの大きさが、ヒーター本体を収納した際に、ハウジングとヒーター本体との間にある程度の隙間を有するような大きさであることが好ましい。この隙間に樹脂材が配置される。また、ハウジングとヒーター本体との間に、断熱材を更に配置してもよい。断熱材を配置することで、ヒーターの発熱が筐体内外へ逃げることを抑制した断熱構造にすることも可能である。なお、断熱材としては、ヒーター加熱時の耐熱性の点からも、無機質繊維系の断熱材が好適である。断熱材としては、セラミックス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、グラスウール、ロックウール等のファイバーマット、シート、ブランケット等が使用可能である。なお、これまでに説明した樹脂材にも、断熱性を付与することが可能であるが、本実施形態のヒーターに用いられる「断熱材」と、上記「樹脂材」とは、別の構成要素である。即ち、ここでいう「断熱材」には、本実施形態のヒーターに用いられる「樹脂材」は含まれていない。また、上記隙間の全ての部位に樹脂材が配置されない場合(即ち、隙間の一部のみに樹脂材が配置される場合)であっても、この隙間が空気層となり、ヒーター本体の断熱層となる。
【0122】
例えば、図5に示すように、本実施形態のヒーター100においては、ヒーター本体50の外周側に、樹脂材52が配置され、この樹脂材52とハウジング51との間に隙間を有していてもよい。
【0123】
また、本実施形態のヒーターにおいては、ヒーター本体とハウジングとの間に、2種以上の樹脂材が積層した状態で配置されていてもよい。即ち、図10に示すヒーター401のように、ヒーター本体50とハウジング51との間に、第一の樹脂材52aと第二の樹脂材52bとが積層した状態で配置されたものであってもよい。第一の樹脂材52aと第二の樹脂材52bとの樹脂の種類については、特に制限はない。例えば、ヒーター本体50側に配置する第一の樹脂材52aとしては、フッ素系樹脂等を用いることができる。また、ハウジング51側に配置する第二の樹脂材52bとしては、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等を用いることができる。尚、樹脂材の選定については、絶縁性、断熱性、耐熱性を重視することにより、適宜変化させることが可能である。また、第一の樹脂材52aと第二の樹脂材52bとを、以下のように形成してもよい。例えば、第一の樹脂材52aについては、ヒーター本体50の側面に、樹脂をコーティングすることによって形成する。そして、第二の樹脂材52bについては、第一の樹脂材52aをコーティングしたヒーター本体50とハウジング51との間に、樹脂を充填することによって形成してもよい。図10は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。図10に示す断面は、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面である。図10において、図5に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0124】
また、本実施形態のヒーターにおいては、ヒーター本体とハウジングとの間に、樹脂材と断熱材とが配置されていてもよい。即ち、図11A及び図11Bに示すヒーター402A,402Bのように、ヒーター本体50(図11Bにおいては、ヒーター本体60)とハウジング51との間に、樹脂材52と断熱材57とが積層した状態で配置されたものであってもよい。上記断熱材57には、断熱材とシリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等を積層させてもよい。また、図11A及び図11Bに示すヒーター402A,402Bにおいては、樹脂材52と断熱材57とを以下のように形成してもよい。例えば、樹脂材52については、ヒーター本体50(図11Bにおいては、ヒーター本体60)の側面に、樹脂をコーティングすることによって形成する。そして、断熱材57については、樹脂材52をコーティングしたヒーター本体50(図11Bにおいては、ヒーター本体60)とハウジング51との間に、断熱材と樹脂とを充填することによって形成してもよい。
【0125】
また、本実施形態のヒーターにおいては、ヒーター本体とハウジングとの間に、樹脂材と断熱材と樹脂材とが積層した状態で配置されたものであってもよい。例えば、図15に示すヒーター406においては、ヒーター本体60を覆うように、まず、樹脂材52が配置されている。そして、その樹脂材52の外側に断熱材57が配置され、更に、断熱材57の外側に樹脂材52が配置されている。一番外側の樹脂材52は、ハウジング51の内面を覆うように配置されている。図15における断熱材57は、図11A及び図11Bに示すヒーター402A,402Bの断熱材57と同様のものを用いることができる。
【0126】
また、ハウジングの材質が樹脂の場合には、ハウジングと樹脂材とが一体化されていてもよい。即ち、ヒーター本体の外側に配置された樹脂材によって、本実施形態のヒーターにおけるハウジングが形成されていてもよい。樹脂材は、ハウジングとヒーター本体との絶縁層、断熱層、シール層等として機能するものである。ハウジングの材質が樹脂の場合には、ハウジングと樹脂材とを一体化することにより、樹脂材の機能を、ハウジング全体にまで拡張することができる。例えば、図12に示すヒーター403は、これまでに説明した、ハウジングと樹脂材との双方の機能を備えた、樹脂製のハウジング71を備えたヒーターである。このような樹脂製のハウジング71としては、例えば、熱硬化性のエポキシ系樹脂を用いたものを好適例として挙げることができる。これにより、ハニカム外周に熱硬化性の樹脂を流し込んで鋳ぐるむような形(即ち、モールド)で一体化することが可能である。また、エポキシ系樹脂にガラス繊維等を添加した強化型の樹脂複合材を用いてもよい。強化型の樹脂複合材の場合、耐熱性の向上や低熱膨張化による熱応力の低減効果がある。強化繊維はガラス繊維等を用いることができ、ハウジング本体に絶縁性が要求されるため、絶縁性を有する繊維が好適となる。ハウジング71は、本実施形態のヒーター403における樹脂材72を兼用したものである。
【0127】
以上説明したように、本実施形態のヒーターにおいては、ハウジングとヒーター本体との間の少なくとも一部に、樹脂材が配置されていれば、ハウジング内部の構造等については、ヒーターを使用する状況や形態に応じて、適宜変更可能である。
【0128】
図11A、図11B、図12、及び図15は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。図11A、図11B、図12、及び図15に示す断面は、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面である。図11A、図11B、図12、及び図15において、図5及び図17に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0129】
「ハウジングと樹脂材とを一体化する」とは、ハウジングと樹脂材とが、1つの部材として構成されていることを意味する。従って、「ハウジングと樹脂材とを一体化したもの」には、ハウジングと樹脂材とを所定の樹脂を用いて成形する際に、一度の成形によって1つの部材として形成したものが含まれる。また、「ハウジングと樹脂材とを一体化したもの」には、ハウジングと樹脂材との接触部分を接合したものも含まれる。
【0130】
図1〜図5に示す本実施形態のヒーター100においては、ハウジング51が、その内部に収納したヒーター本体50の一対の電極部21を外部に取り出すための、電極取出部54を有している。この電極取出部54から一対の電極部21の先端側の部分が外部に露出しており、一対の電極部21に対する電気的接続を可能とする。
【0131】
この電極取出部54には、一対の電極部21がハウジング51を貫通する箇所にOリング53が配設されている。このOリング53によって、ハウジング51を貫通する部位における耐圧性(シール性)が確保される。ここでいう耐圧性とは、ハウジング内部に潤滑系流体が流動する際、潤滑系流体のハウジング外部への漏洩を抑止する性能のことを意味する。本実施形態のヒーターにおいては、ヒーター動作上において問題が生じないように、上述したような耐圧性が必要となる。
【0132】
また、本実施形態のヒーターにおいては、ヒーター本体の外側に積極的に潤滑系流体を流してもよい。例えば、図13に示すヒーター404は、ヒーター本体60とハウジング51との間にも、潤滑系流体が流れるように構成されたヒーターである。このように構成することによって、ハニカム構造部4の外周壁3の外側の面を使用して、潤滑系流体を加熱することができる。このようにして外周壁3における発熱を有効活用することで、ヒーター404の加熱効率を向上させることができる。勿論、図13に示すヒーター404においては、ハニカム構造部4のセル2内にも潤滑系流体が流れ、セル2の内部においても、潤滑系流体を加熱することができる。
【0133】
図13に示すヒーター404においては、ヒーター本体60の一対の電極部21の表面には、少なくとも樹脂材52を配置して、一対の電極部21の絶縁性を確保することが好ましい。即ち、ハニカム構造部4の外周壁3に対しては、積極的に潤滑系流体を接触させてもよいが、一対の電極部21には、潤滑系流体が接触しないようにすることが好ましい。一対の電極部21に対する絶縁は、上述したように、樹脂材52によって行うことができる。また、ハウジング51がSUS等の金属製のものである場合には、ハウジング51の内側の面にも樹脂材52を配置して、ハウジング51の絶縁性を確保することが好ましい。図13は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。図13に示す断面は、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面である。図13において、図17に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0134】
また、図12に示すヒーター403においては、ハウジング71が樹脂からなり、このハウジング71と樹脂材72とが一体化したものであるが、ハウジングが単独で樹脂からなるものであってもよい。例えば、図14に示すヒーター405においては、ハウジング73が樹脂からなるものである。ハウジング73は、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂等を用いて形成することができる。ヒーター本体60を覆う樹脂材52についても、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂等を用いて形成することができる。図14に示すヒーター405においては、ハウジング73と樹脂材52との間に断熱材57を充填している。また、ハウジング73は、ハウジング73から一対の電極部21が延出される部位に電極取出部74を有している。そして、電極取出部74には、一対の電極部21が貫通する箇所にOリング53が配設されている。図14は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。図14に示す断面は、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面である。図14において、図17に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0135】
(1−3)樹脂材:
樹脂材は、ヒーター本体とハウジングとの間の少なくとも一部に配置されたものである。この樹脂材が、本実施形態のヒーターにおける、ハウジングとヒーター本体との絶縁層、断熱層、シール層等として機能する。
【0136】
図1〜図5に示すように、樹脂材52が、ヒーター本体50の一方の端面側におけるヒーター本体50とハウジング51との間に配置されることが好ましい。また、樹脂材52が、ヒーター本体50の他方の端面側におけるヒーター本体50とハウジング51との間に配置されることが好ましい。このように構成することによって、ヒーター本体50の絶縁性、及び断熱性をより向上させることができる。また、ヒーター本体50の一方の端面側及び他方の端面側の、潤滑系流体に対するシール性を向上することができる。即ち、このように樹脂材52を配置することにより、ヒーター本体50とハウジング51との間に、加熱対象である潤滑系流体が漏れ出してしまうのを防止することができる。
【0137】
本実施形態のヒーターは、ハウジング内に樹脂材を適用することからも、ヒーター本体の発熱温度が、最高で200℃〜250℃程度までのヒーターとして好適に利用することができる。なお、ヒーターの内部には、加熱するための潤滑系流体が流れ、ヒーター本体から熱を受け取る。別言すれば、潤滑系流体がヒーター本体から熱を奪うことになる。そのため、潤滑系流体がヒーターの一種の冷却剤としても作用する。その結果、ヒーター本体が高温に発熱しても、ヒーター本体の外側にある樹脂材における実温度は低くなる傾向がある。但し、樹脂材の耐熱範囲を考慮したヒーター設計が必要になる。
【0138】
また、図1〜図5に示すように、樹脂材52が、一対の電極部21がハウジングを貫通する部位における、一対の電極部21とハウジング51との間に、少なくとも配置されていることが好ましい。このように構成することによって、一対の電極部21の一部がハウジング51を貫通する部位からの、潤滑系流体の漏れを防止することができる。上述したように、ハウジング51を貫通する部位には、耐圧性を確保する点よりOリング53が配設されていることが更に好ましい。本実施形態のヒーターにおいては、樹脂材が、少なくともヒーター本体に配置された一対の電極部全域を覆うように配置されていることが好ましい。このように構成することによって、ヒーター本体の絶縁性を確保することができる。
【0139】
また、図8及び図9に示すヒーター200のように、樹脂材52が、ヒーター本体50の側面側全域を覆うように、ヒーター本体50とハウジング51との間に配置されていてもよい。ここで、図8及び図9は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。図8は、図4に示す断面と同様の位置でヒーターを切断した断面である。図9は、図5に示す断面と同様の位置でヒーターを切断した断面である。図8及び図9においては、図1〜図5に示すヒーターの構成要素と同様に構成された構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0140】
このように、ヒーター本体50の側面側全域を覆うように樹脂材52を配置することにより、絶縁性、断熱性、及びシール性をより向上させることができる。
【0141】
図1〜図5に示すように、樹脂材52を特定の箇所に配置する際には、所定の形状に形成した樹脂材52を、ヒーター本体50とハウジング51との間に適宜配置する。一方、図8及び図9に示すように、ヒーター本体50の側面側全域を覆うように樹脂材52を配置する際には、以下のように樹脂材52を形成することが好ましい。例えば、ヒーター本体50とハウジング51との間に、溶融した樹脂を充填し、ヒーターを鋳ぐるむような形(即ち、モールド)で、溶融した樹脂を固めて樹脂材52を形成する。また、ヒーター本体50をハウジング51内に収納する前に、予め、ヒーター本体50の側面側全域に樹脂を塗布して、樹脂材52を形成する。そして、樹脂材52が側面に形成されたヒーター本体50を、ハウジング51内に収納する。このような方法によって樹脂材52を形成することにより、ヒーター本体50の側面側全域を覆うような樹脂材52を簡便に作製することができる。
【0142】
また、上述したように、ハウジングと樹脂材とが一体化されていてもよい。このような場合には、図12に示すように、ヒーター本体60の側面側に、ハウジング71と樹脂材72とが一体化したものを、所定の樹脂により一体成形によって形成することができる。
【0143】
樹脂材を形成する樹脂としては、加熱された潤滑系流体により変形しない程度の耐熱性を有する樹脂であることが好ましい。具体的には、エチレンプロピレンジエンモノマー共重合体(EPDM)、エチレンプロピレン共重合体、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン、フッ素エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリルニトリルスチレン(AS)樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、メチルメタクリレートスチレン(MS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、等の樹脂を挙げることができる。また、樹脂材を形成する樹脂として、上述した各樹脂に、ガラス繊維等を添加した樹脂複合材であってもよい。樹脂複合材にすることで、耐熱性の向上や低熱膨張化による熱応力の低減効果(別言すれば、耐久性の向上)がある。強化繊維はガラス繊維等を用いることができ、絶縁性を要求する場合には、絶縁性を有する繊維が好適となる。このようなことから、ヒーターの出力を高くする場合には、樹脂材を形成する樹脂として、耐熱性を高めた樹脂複合材を用いることが好ましい。
【0144】
また、樹脂材を断熱層及びシール層として有効に機能させるためには、樹脂材の耐熱温度が、80℃以上であることが好ましい。更に、樹脂材の耐熱温度が、100℃以上であることが好ましく、更に120℃以上であることが特に好ましい。
【0145】
本明細書において、「耐熱温度」とは、下記[1]及び[2]に示す温度のうちのいずれか1つの温度のことを意味する。即ち、「樹脂材の耐熱温度が、100℃以上」という場合には、下記[1]及び[2]に示す温度のうちのいずれか1つの温度が、100℃以上となる。勿論、「樹脂材の耐熱温度が、100℃以上」という場合において、下記[1]及び[2]に示す温度の両方が、100℃以上であってもよい。尚、耐熱温度の他の規格として、高温下で長時間暴露した場合を対象とした下記[3]等も存在する。
【0146】
[1]荷重たわみ温度:加熱浴槽中で長方形の試験片の両端2点を支え、試験片の中央に荷重を加えた状態で温度を上昇し、変形が生じたときの温度。
[2]ビカット軟化温度:加熱浴槽中で長方形の試験片の両端2点を支え、試験片の中央に一定の断面積の端面を押し当てた状態で温度を上昇し、変形が生じたときの温度。
[3]UL規格温度:数万時間の高温暴露により物性が半減する温度。
【0147】
また、樹脂材を絶縁層として有効に機能させるためには、樹脂材の比抵抗が、10Ω・cm以上であることが好ましい。更に、樹脂材の比抵抗が、1010Ω・cm以上であることが好ましく、1012Ω・cm以上であることが特に好ましい。
【0148】
(2)ヒーターの更に他の実施形態:
次に、本発明のヒーターの更に他の実施形態について説明する。本発明のヒーターの更に他の実施形態としては、下記のような、各種の振動吸収構造を備えたヒーターを挙げることができる。本発明のヒーターは、自動車等のエンジンの周辺に搭載されて、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を加熱するために用いることができる。この際、エンジンの振動により加速度が発生する。このため、下記のような振動吸収構造を備えたヒーターとすることで、振動による衝撃を緩和して、耐久性に優れたヒーターとすることができる。
【0149】
第一の振動吸収構造として、ヒーター本体の電極部が、ハウジングを貫通する部位に、樹脂製やゴム製等のOリングやパッキンを配置した構造を挙げることができる。例えば、図4及び図5に示すOリング53を、樹脂製やゴム製のOリング53とすることで、第一の振動吸収構造とすることができる。
【0150】
また、第二の振動吸収構造として、緩衝部材を、ヒーターの各部に配置した構造を挙げることができる。緩衝部材としては、樹脂製やゴム製のものを挙げることができる。緩衝部材を配置する箇所としては、ヒーター本体とハウジングとの間や、ヒーター本体の電極部がハウジングを貫通する部位等を挙げることができる。図9に示すようなヒーター本体50とハウジング51との間に配置された樹脂材52も、上述した緩衝部材となる。
【0151】
また、第三の振動吸収構造として、ヒーター本体の一対の電極部の一部に、伸縮可能な振動吸収部を設けた構造を挙げることができる。伸縮可能な振動吸収部としては、所定の方向に伸縮可能な蛇腹状のものを挙げることができる。本実施形態のヒーターにおいては、一対の電極部がハウジングを貫通する部位にて、ヒーター本体が固定されているため、一対の電極部に対して強い振動が加わることがある。そのため、このような伸縮可能な振動吸収部を設けた一対の電極部とすることで、ヒーター本体に加わる振動を良好に吸収することができる。
【0152】
例えば、第三の振動吸収構造を備えたヒーターとしては、図19に示すようなヒーター500を挙げることができる。図19に示すヒーター500においては、一対の電極部41の一部に、蛇腹状の振動吸収部42を設けた例を示す。一対の電極部41の蛇腹状の振動吸収部42は、ハウジング51の内部に位置するものであることが好ましい。これにより、ハウジング51内に収納されたヒーター本体70に加わる振動を良好に吸収することができる。図19は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す断面図である。図19に示す断面は、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面である。図19において、図5に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0153】
第四の振動吸収構造として、ヒーター本体の一対の電極部に対する電気的な接続方法において、以下のような接続方法を採用した構造を挙げることができる。一対の電極部に対する電気的な接続方法としては、例えば、それぞれの一対の電極部が、ハウジング内において、電気的接続用のケーブルに接続され、当該電気的接続用のケーブルをハウジングの外部まで引出して電気的な接続を行う方法を挙げることができる。また、別の接続方法としては、例えば、ヒーター本体を収納するハウジングに、電気的接続用のコネクターを挿入するためのコネクター挿入口を形成する。そして、電気的接続用のコネクターを、ハウジングのコネクター挿入口から挿入して、ハウジング内に収納・固定されたヒーター本体の一対の電極部との電気的な接続を行う方法を挙げることができる。この接続方法においては、一対の電極部が、ハニカム構造部とともに、ハウジング内に収納されている。即ち一対の電極部が、ハウジングを貫通して外部まで延出するように構成されていないため、ハウジングに加わる振動がヒーター本体に伝達され難い。
【0154】
また、本発明のヒーターの更に他の実施形態としては、ハウジングの流入口側又は流出口側から、一対の電極部が外部に延出するように構成されたヒーターを挙げることができる。即ち、図1に示すヒーター100は、一対の電極部21が、ハウジング51の側面から外部に延出するように構成されたものであるが、一対の電極部のハウジングの流入口側又は流出口側から、外部に延出するよう構成されていてもよい。このようなヒーターとしては、例えば、図20に示すヒーター600を挙げることができる。図20は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。図21は、図20に示すヒーターにおける、ヒーター本体を模式的に示す斜視図である。図20及び図21において、図1〜図5に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。図20及び図21においては、ハウジング81の流出口56側から、一対の電極部43が外部に延出するよう構成されている。一対の電極部43に流出口56側から電力を供給するように構成することによって、一対の電極部43からの抜熱を抑制することができる。これにより、潤滑系流体をより均一な温度に加熱することができる。また、このようなヒーター600においては、ハウジングの側面の上部から一対の電極部に電力を供給する構成と比較して、ハウジング内の上部と下部とでの、潤滑系流体の温度勾配が付き難くなると推測される。
【0155】
図21に示すように、ヒーター本体80のそれぞれの電極部43は、ハニカム構造部4の側面5に配置された電極基板43aと、この電極基板43から、潤滑系流体の流れ方向下流側に延出した電極端子部43bと有するものである。電極端子部43bが、ハウジング81(図20参照)の流出口56(図20参照)側から外部に延出するよう構成されている。
【0156】
また、本発明のヒーターの更に他の実施形態としては、図22〜図24に示すようなヒーター700を挙げることができる。このヒーター700は、ハウジング91の内部に、図25及び図26に示すようなヒーター本体90が収納されたものである。ハウジング91とヒーター本体90との間には、樹脂材52、及び断熱材57が配置されている。ここで、図22は、本発明のヒーターの更に他の実施形態を模式的に示す斜視図である。図23は、図22に示すヒーター700の、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に垂直な断面を模式的に示す断面図である。図25は、図22に示すヒーター700の、ヒーター本体内を流通する潤滑系流体の流れ方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。図25は、図22に示すヒーター700のヒーター本体を模式的に示す斜視図である。図26は、図25に示すヒーター本体90の展開状態を模式的に示す展開斜視図である。
【0157】
図22〜図26に示すように、本実施形態のヒーター700におけるハウジング91は、一の面に開口部を有するハウジング本体91aと、ハウジング本体91aの開口部を塞ぐための蓋部91bと、から構成されたものである。また、ヒーター本体90は、ハニカム構造部4と、一対の電極部31とを有するものである。
【0158】
本実施形態のヒーター700においては、それぞれの電極部31が、電極基板31aと、電極端子部31bと、電極基板連結部31cとから構成されている。電極基板31aは、ハニカム構造部4の側面5に配設されて、ハニカム構造部4に電圧を印加するためのものである。図25及び図26においては、電極基板31aが櫛歯状に形成された場合の例を示す。電極基板連結部31cは、電極基板31aと電極端子部31bとの連結するための部分である。本実施形態のヒーター700においては、一対の電極部31の各電極基板連結部31cが、電気絶縁性のシール材35を介して積層された状態で、ハウジング本体91aと蓋部91bとによって挟持されている。電極端子部31bは、ハウジング本体91aと蓋部91bとによって挟持された電極基板連結部31cから延設されたものである。
【0159】
本実施形態のヒーター700においては、シール材35を介して積層された状態の電極基板連結部31cを、ハウジング本体91aと蓋部91bとによって挟持することによって、ハウジング91からの電極部31の取り出しが行われている。このため、本実施形態のヒーター700は、耐圧性に優れたものである。即ち、このように構成することによって、ヒーター700内を潤滑系流体が流通した際における、電極部31の取り出し箇所からの潤滑系流体の漏れ出しを防止することができる。
【0160】
また、本発明のヒーターのその他の実施形態としては、以下のようなヒーター本体を備えたヒーターを挙げることができる。図29に示すヒーター本体152は、筒状のハニカム構造部4と、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合された一対の電極部24とを備えている。ハニカム構造部4は、潤滑系流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1、及び最外周に位置する外周壁3を有している。隔壁1は、セラミックスを主成分とする材料からなるとともに、通電により発熱するものである。導電性接合部23は、ハニカム構造部4の2つの側面5に配置されている。この導電性接合部23を介して、角部が曲線状に形成された形状の電極部24が接合されている。導電性接合部23は、溶射法、コールドスプレー法、又はメッキ法によって形成された、金属を含むものであることが好ましい。このようなヒーター本体152においても、図6に示すヒーター本体50と同様に、ハウジング内に収納することによって、本実施形態のヒーターとすることができる。
【0161】
また、本発明のヒーターのその他の実施形態としては、図30に示すヒーター本体153を備えたヒーターを挙げることができる。図30に示すヒーター本体153は、筒状のハニカム構造部4と、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合された一対の電極部25とを備えている。電極部25は、電極基板26aと、電極基板26aに連結するように配置された棒状の電極部26bと有している。このようなヒーター本体153においても、図18に示すヒーター本体60と同様に、ハウジング内に収納することによって、本実施形態のヒーターとすることができる。このヒーター本体153の場合には、棒状の電極部26bに外部電源等からの配線が接続されることが好ましい。一対の電極部25の各電極基板26aは、ハニカム構造部4の側面5に導電性接合部23を介して接合され、且つ、その一部が、ハニカム構造部4の一対の電極部25が配設されていない側面に沿って折れ曲がっていることが好ましい。ここで、図29及び図30は、本発明のヒーターの更に他の実施形態に用いられるヒーター本体を模式的に示す斜視図である。図29及び図30において、図6及び図18に示す各要素と同様に構成されているものについては、同一の符号を付して説明を省略する。
【0162】
(3)ヒーターの製造方法:
次に、本実施形態のヒーターを製造する方法について説明する。なお、本実施形態のヒーターを製造する方法については、以下の製造方法に限定されることはない。
【0163】
まず、Si複合SiCを主成分とするハニカム構造部を作製する例について説明する。SiC粉体、金属Si粉体、水、有機バインダーなどを混ぜ合わせ、混練して坏土を調製する。そして、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する。その後、得られたハニカム成形体を、不活性ガス雰囲気中において焼成することにより、Si複合SiCを主成分とするハニカム構造部を作製することができる。
【0164】
次に、Si含浸SiCを主成分とするハニカム構造部を作製する例について説明する。まず、SiC粉体、金属Si粉体、水、有機バインダーなどを混ぜ合わせ、混練して坏土を調製する。そして、この坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を作製する。その後、得られたハニカム成形体を不活性ガス雰囲気中において焼成することによりハニカム構造体を形成する。その後、得られたハニカム構造体に、不活性ガス雰囲気中においてSiを含浸することにより、Si含浸SiCを主成分とするハニカム構造部を作製することができる。尚、再結晶SiC及び反応焼結SiCの作製については先述の通りである。
【0165】
上記したSi含浸SiCを主成分とするハニカム構造部の作製方法において、SiC粉体、水、有機バインダーなどを混ぜ合わせ、混練して坏土を調製してもよい。即ち、坏土の原料には、金属Si粉体が含まれていなくともよい。
【0166】
また、その他、隔壁及び外周壁を構成する材料としては、炭化珪素、Fe−16Cr−8Al、SrTiO(perovslite)、Fe(corundum)、SnO(rutile)、ZnO(wurzite)等を挙げることができる。このような材料を用いることにより、隔壁及び外周壁の比抵抗を、0.01〜50Ω・cmにすることができる。炭化珪素の比抵抗は、一般的に幅が広く1〜1000Ω・cmであり、SiC単独であれば、先述の比抵抗範囲内にするのが好ましい。また、Si及びSi系合金と複合化する場合には、微構造組織にも拠るが、最大で1000Ω・cmの比抵抗まで適用することが可能である。Fe−16Cr−8Alの比抵抗は、0.03Ω・cmとなる。SrTiO(perovslite)の比抵抗は、0.1Ω・cm以下である。Fe(corundum)の比抵抗は、約10Ω・cmである。SnO(rutile)の比抵抗は、0.1Ω・cm以下である。ZnO(wurzite)の比抵抗は、0.1Ω・cm以下である。
【0167】
また、ハニカム構造部を作製する際には、金属Siの含有量/(Siの含有量+SiCの含有量)の値が5〜50であることが好ましい。金属Siの含有量/(Siの含有量+SiCの含有量)の値が10〜40であることが更に好ましい。このように構成することによって、隔壁や外周壁の強度を保ちながら、その比抵抗を適当な大きさにすることができる。
【0168】
また、隔壁表面に絶縁性を有するためには、例えば、大気中で1200℃、6時間高温処理することにより、隔壁の表面に酸化膜を形成してもよい。
【0169】
次に、ハニカム構造部の側面に配置する一対の電極部を形成する。電極部の材質としては、例えば、ステンレス、銅、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン、ロジウム、コバルト、クロム、ニオブ、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、及びこれら金属の合金等を挙げることができる。電極部の材質については、上述したように、熱応力によるセラミックスへのクラックの発生や電極の界面剥離、電極部自身の発熱、コストの点等のバランスを考慮して適宜選択することができる。また、電極部には、熱膨張係数が低く、その熱膨張係数がハニカム構造部のセラミックスに近くなるために、熱サイクル時の熱応力の低減に効果がある、モリブデン、タングステン、Cu/W複合材、Cu/Mo複合材、Ag/W複合材、SiC/Al複合材、C/Cu複合材等の複合材を用いて形成してもよい。
【0170】
次に、形成した電極部を、ハニカム構造部の側面に貼り付ける。このようにして、本実施形態のヒーターに用いられるヒーター本体を作製する。
【0171】
次に、本実施形態のヒーターに用いられるハウジングを形成する。ハウジングの材質が金属の場合には、ヒーター本体を収納可能な大きさの筐体であるハウジングを、従来公知の方法で作製する。ハウジングを作製する方法としては、例えば、熱間や冷間でのプレス成形、鍛造加工、押出し加工、溶接等の方法を挙げることができる。
【0172】
ハウジングの材質が樹脂の場合には、ヒーター本体を収納可能な大きさの筐体であるハウジングを作製する。樹脂製のハウジングを作製する方法としては、例えば、樹脂モールド、射出成形、押出成形、中空成形、熱成形、圧縮成形等の方法を挙げることができる。また、ハウジングの材質が樹脂の場合には、ヒーター本体を収納した状態で、成形によってハウジングを作製することもできる。即ち、ハウジングを容器として別途作製するのではなく、ヒーター本体を実際に覆うようにしてハウジングを作製することもできる。
【0173】
更に、ハウジングの材質が樹脂の場合には、ヒーター本体とハウジングとの間に配置する樹脂材と、ハウジングとを、一体的に形成してもよい。この際、樹脂材と一体化したハウジングを、容器として別途作製してもよい。また、ヒーター本体を収納した状態で、樹脂材と一体化したハウジングを作製してもよい。
【0174】
次に、樹脂材がハウジングと一体化していない場合には、ヒーター本体とハウジングとの間に配置する樹脂材を作製する。樹脂材としては、ヒーター本体の一方の端面側及び他方の端面側に配置されて、ヒーター本体とハウジングとの間を塞ぐような形状に形成されたものが好ましい。また、一対の電極部の一部が、ハウジングを貫通してハウジングの外側まで延設されている場合には、一対の電極部がハウジングを貫通する部位の隙間を塞ぐような形状に形成されたものが好ましい。このように樹脂材を配置することにより、主にヒーター本体とハウジングとの電気的な絶縁を得ることができる。また、上記樹脂材が、ヒーター本体の断熱層としても機能する。また、このように樹脂材を配置することにより、ヒーター本体とハウジングとの間への、加熱対象である潤滑系流体の漏れ出しを抑制する役割を果たす。
【0175】
また、少なくともヒーター本体に配置された一対の電極部全域を覆うように、樹脂材を配置してもよい。上述したように、少なくとも一対の電極部全域を覆うように、樹脂材を配置することにより、ヒーター本体に要求される十分な絶縁性を確保することができる。また、ヒーター本体の側面側全域を覆うように樹脂材を形成してもよい。なお、少なくとも一対の電極部全域を覆うように、又は、ヒーター本体の側面側全域を覆うように樹脂材を配置する場合には、ヒーター本体の側面側に樹脂を塗布し、この樹脂を固めて樹脂材を形成してもよい。
【0176】
次に、ハウジング内に、ヒーター本体を収納し、且つ、ヒーター本体とハウジングとの間に、適宜、樹脂材を配置する。以上のようにして、本実施形態のヒーターを製造することができる。なお、ヒーター本体を収納した状態でハウジングを作製した場合には、ヒーター本体を収納する工程が省略される。また、樹脂材と一体化したハウジングを作製した場合には、樹脂材を配置する工程が省略される。また、ヒーター本体の側面側全域を覆うように樹脂材を形成した場合には、側面側全域を覆うように樹脂材が形成されたヒーター本体を、ハウジング内に収納する。以上のようにして、本実施形態のヒーターを製造することができる。
【0177】
ここで、図11Aに示すようなヒーター402Aを製造する方法の具体例について説明する。まず、上述した方法によりハニカム構造部4を作製する。次に、ハニカム構造部4の側面5のうちの平行に配置された2つの面に、電極部21を接合する。電極部21は、Ni、Cu、Mo、W、Cu/W複合材等によって形成することができる。これにより、ハニカム構造部4の2つの側面5に、一対の電極部21が配置されたヒーター本体50を作製することができる。
【0178】
次に、得られたヒーター本体50の外周部分(より具体的には、ハニカム構造部4の側面5)に、樹脂をコーティングして、樹脂材52を形成する。コーティングする樹脂としては、フッ素系樹脂等を用いることができる。樹脂のコーティングは、例えば、大気中で、約150℃の温度によって行うことができる。
【0179】
次に、ハニカム構造部4の側面5に配置した樹脂材52を更に覆うように、断熱材57を更に配置する。断熱材57としては、セラミックスファイバーシート(Al−SiO系等)を用いることができる。また、図11Aにおいて図示していないが、断熱材57を更に覆うように、樹脂製のシートを更に配置してもよい。樹脂製のシートとしては、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等からなるシートを用いることができる。
【0180】
次に、外周部分に樹脂材52と断熱材57とが配置されたヒーター本体50を、SUS製のハウジング本体内に配置する。その後、ハウジング本体に、一対の電極部21の一部が露出するようにして、SUS製の蓋部を配置する。ハウジング本体と蓋部とを、例えば、レーザー溶接等によって接合して、ハウジング51内にヒーター本体50を収納する。蓋部としては、一対の電極部21が貫通する部位に電極取出部54を設け、その電極取出部54内部に、フッ素系樹脂等からなるOリング53を配置することが好ましい。
【0181】
また、電極取出部54から一対の電極部21が外部に露出する境界部分には、更に、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の樹脂材52を配置することが好ましい。即ち、一対の電極部21が外部に露出する境界部分を、樹脂材52によって封止することが好ましい。このように構成することによって、一対の電極部21に通電用の端子等を接続する際の絶縁を良好に確保することができる。このようにして、図11Aに示すようなヒーター402Aを製造することができる。
【0182】
次に、図12に示すようなヒーター403を製造する方法の具体例について説明する。図12に示すヒーター403は、樹脂材72とハウジング71とが一体化したものである。まず、上述した方法によりハニカム構造部4を作製する。次に、ハニカム構造部4の側面5のうちの平行に配置された2つの面に、電極部21を接合する。電極部21は、NiやCu等によって形成することができる。これにより、ハニカム構造部4の2つの側面5に、一対の電極部21が配置されたヒーター本体60を作製することができる。
【0183】
次に、ハウジング71を形成するための金型を用意する。即ち、作製するハウジング71の形状に対応した凹形状(別言すれば、キャビティー空間)を有する金型を用意する。ハウジング71を作製する際には、まず、用意した金型内に、ヒーター本体60を配置する。次に、大気中、室温にて、硬化剤を添加した熱硬化性の樹脂を、金型の凹形状内に流し込む。樹脂としては、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂等を用いることができる。流し込んだ樹脂を硬化させた後、金型から、樹脂に覆われた状態のヒーター本体60を取り出す。ヒーター本体60を覆っている樹脂の表面を、所定の形状に加工してハウジング71を作製する。このようにして、図12に示すようなヒーター403を製造することができる。
【0184】
また、上述した金型から取り出した「樹脂に覆われた状態のヒーター本体」を、更に、図11Aに示すようなSUS製のハウジング51内に収納して、ヒーターを作製してもよい。このようなヒーターを作製する場合には、樹脂に覆われた状態のヒーター本体の外側に、更に樹脂シートを配置して、ハウジング内に収納することが好ましい。このように構成することによって、絶縁性、断熱性、及びシール性により優れたヒーターを得ることができる。
【実施例】
【0185】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0186】
(実施例1)
まず、Si複合SiCを主成分とするハニカム構造部を作製した。具体的には、SiC粉体、金属Si粉体、水、有機バインダーを混ぜ合わせ、混練して坏土を調製した。次に、この坏土をハニカム形状に成形して、ハニカム成形体を作製した。次に、得られたハニカム成形体を、不活性ガス雰囲気中において焼成することにより、Si複合SiCを主成分とするハニカム構造部を作製した。得られたSi複合SiCハニカムの気孔率は40%であった。
【0187】
ハニカム構造部の形状は、端面が四角形の筒状であった。端面の四角形のそれぞれの一辺の長さは、38mmであった。ハニカム構造部のセルの延びる方向の長さは、50mmであった。隔壁の厚さは、0.38mmであった。外周壁の厚さは、0.38mmであった。ハニカム構造部のセル密度は、47セル/cmであった。隔壁及び外周壁の比抵抗は、30Ω・cmであった。
【0188】
その後、ハニカム構造部を大気中で酸化処理することで、隔壁及び外周壁の表面に絶縁用の酸化膜を形成した。その後、ハニカム構造部の外周壁の4面のうち、向かい合う一対の面のそれぞれを表面加工して酸化膜を除去した後に、電極部を配置してヒーター本体を作製した。ここで電極の接合方法としては、導電性接合材であるニッケル粉末及びケイ酸塩溶液を含有する導電性ペーストを用い、大気中で焼成することにより、ハニカム構造部の外周壁に電極部を接合した。それぞれの電極部としては、ハニカム構造部の側面に実際に配置される電極部の本体と、その電極部の本体から延びる突出部分と、を有するものを用いた。電極部の本体が、配置するハニカム構造部の側面と同じ大きさの面を有している。電極部の突出部分が、電源との電気的接続を確保するための端子部分となる。電極部の材質は、純金属ニッケル(Ni)であった。尚、電極部は、表面をサンドブラストにより表面粗化処理したものを用いた。これにより、ハニカム構造部の2つの側面に、一対の電極部が配置されたヒーター本体を作製した。
【0189】
次に、図5に示すように、得られたヒーター本体50の外周部分(より具体的には、ハニカム構造部4の側面5)に、樹脂をコーティングして、樹脂材52を形成した。コーティングする樹脂としては、フッ素系樹脂を用いた。樹脂のコーティングは、大気中で、約150℃の温度の温度条件にて行った。樹脂材52の厚さは、約1〜2mmとした。
【0190】
次に、ヒーター本体50を収納するハウジング51を作製した。ハウジング51としては、ヒーター本体50を収納するためのハウジング本体51aと、このハウジング本体51aの蓋となる蓋部51bとから構成されるものとした。ハウジング51は、ハウジング51内にヒーター本体50を収納した際に、樹脂材をコーティングしたヒーター本体50とハウジング51との間に、約0.5mmの隙間ができる大きさの筐体とした。ハウジング51には、潤滑系流体が流入する流入口、及び潤滑系流体が流出する流出口を形成した。ハウジング51の材質は、汎用材のステンレス鋼(SUS304)を用いた。ハウジング51を構成する金属材の厚さは、1.5mmであった。蓋部51bとしては、一対の電極部21が貫通する部位に電極取出部54を設け、その電極取出部54内部に、フッ素系樹脂からなるOリング53を配置した。
【0191】
外周部分に樹脂材52が配置されたヒーター本体50を、SUS製のハウジング本体51a内に配置した。その後、ハウジング本体51aに、一対の電極部21の一部が露出するようにして、ハウジング本体と同じSUS304製の蓋部51bを配置した。ハウジング本体51aと蓋部51bとを、レーザー溶接によって接合して、ハウジング51内に、ヒーター本体50を収納した。このようにして、実施例1のヒーターを作製した。
【0192】
表1に、電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、隔壁の材質、隔壁の気孔率(%)及び隔壁及び外周壁の比抵抗(Ω・cm)を示す。表1の「電極部の構造」の欄における「平板型」とは、図5に示すような電極部21のことを意味する。即ち、それぞれの電極部21が、一枚の平板状に形成され、ハニカム構造部4の側面5に配置された電極部21の一部が、ハウジング51の外部まで引出された構造のことを意味する。また、表1〜表4の「電極部の構造」の欄における「棒型」とは、図16〜図18に示すような、電極部21が、ハニカム構造部4の側面に配置された電極基板22aと、電極基板22aに連結するように配置された棒状の電極部22bとからなる構造のことを意味する。
【0193】
また、表1〜表4の「ハウジングの構造」とは、各実施例のヒーターにおけるハウジング内の構造を、図5、図10、図11A、図11B、図12、図13、図14、及び図23に示す構造を例にして示すものである。即ち、「ハウジングの構造」が図5である場合、ヒーター本体の外周を覆うように樹脂材が配置され、樹脂材によって覆われた状態のヒーター本体が、樹脂材とハウジングとの間に隙間を設けた状態で、ハウジング内に収納された構造のヒーターであることを示す。また、「ハウジングの構造」が図10である場合、ヒーター本体を覆うように配置された樹脂材が2層からなる構成のヒーターであることを示す。「ハウジングの構造」が図11A及び図11Bである場合、ヒーター本体を覆うように樹脂材が配置され、更に、その樹脂材を覆うように断熱材が配置された構成のヒーターであることを示す。尚、図11Aにおいては、「電極部の構造」が「平板型」である。また、図11Bにおいては、「電極部の構造」が「棒型」である。「ハウジングの構造」が図12である場合、樹脂材とハウジングが一体化した構成のヒーターであることを示す。「ハウジングの構造」が図13である場合、ハニカム構造部の外周壁の外側にも、潤滑系流体が流れるように構成されたヒーターであることを示す。図13に示すようなヒーターにおいては、ハニカム構造部の外周壁の外側の面を使用して、潤滑系流体を加熱することができる。「ハウジングの構造」が図14である場合、ハウジングが樹脂材によって形成されていることを示す。「ハウジングの構造」が図23である場合、電極部が、電極基板、電極端子部、及び電極基板連結部から構成されたヒーターであることを示す。このようなヒーターにおいては、一対の電極部の各電極基板連結部が、電気絶縁性のシール材を介して積層された状態で、ハウジング本体と蓋部とによって挟持されている。
【0194】
得られた実施例1のヒーターを用いて、以下の方法で、通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた実施例1の変換効率(%)を表1に示す。
【0195】
[通電加熱試験]
まず、図28に示すような通電加熱試験装置900に、各実施例のヒーター800を設置する。通電加熱試験装置900は、潤滑系流体が循環する配管95を備えたものである。この配管95には、ポンプ94が接続されており、ポンプ94を駆動させることにより、配管95内に潤滑系流体が循環する。また、この配管95には、バルブ98及び流量計99が設置されている。また、ヒーター800の流入口側及び流出口側には、熱電対T1,T2及び圧力計P1,P2が配置されている。これにより、ヒーター800のハウジングの流入口から流入する潤滑系流体の温度と圧力、及びヒーター800のハウジングの流出口から流出する潤滑系流体の温度と圧力を測定することができる。クーラー96は潤滑系流体の初期温度を調整するために使われる。図28は、実施例における通電加熱試験の試験方法を説明するための説明図である。
【0196】
上記のように通電加熱試験装置900にヒーター800を設置し、ポンプ94を駆動させて、ヒーター800内に潤滑系流体を通過させる。潤滑系流体を通過させたヒーター800のヒーター本体に、表1に示すような値の印加電圧(V)を印加して、ヒーター800によって潤滑系流体を加熱する。ハウジングの流入口から流入する潤滑系流体の温度、及びハウジングの流出口から流出する潤滑系流体の温度を、熱電対T1,T2にて測定しながら、ハウジングの流出口から流出する潤滑系流体の温度が60℃に到達するまでの時間(秒)を測定する。潤滑系流体としては、市販のエンジンオイル(グレード:0W−30、エクソンモービル社製の「モービル1(商品名)」)を用いた。表1に、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。潤滑系流体の初期温度とは、ヒーターによって加熱される前の潤滑系流体の温度である。
【0197】
測定した潤滑系流体の温度及び60℃に到達するまでの時間から、下記式(1)に基づいて、通電加熱試験を行ったヒーターの変換効率(%)を求めた。尚、ここでの変換効率とは試験時の時間平均値となる。下記式(1)中の「潤滑系流体への伝熱量」は、下記式(2)より算出される値である。下記式(1)中の「投入電力量」は、下記式(3)より算出される値である。なお、式(2)中の「潤滑系流体の温度差」とは、流出口から流出する潤滑系流体の温度が60℃に到達した時点における、「ハウジングの流出口から流出する潤滑系流体の温度」と「ハウジングの流入口から流入する潤滑系流体の温度」との差の値のことをいう。
【0198】
変換効率(%)=潤滑系流体への伝熱量/投入電力量 ・・・(1)
潤滑系流体への伝熱量=潤滑系流体の流量×比熱×潤滑系流体の温度差 ・・・(2)
投入電力量=電力(W)×時間(秒) ・・・(3)
【0199】
この通電加熱試験においては、各実施例のヒーター本体のハニカム構造部の比抵抗の値に応じて、ヒーター本体に印加する印加電圧の値を調節して試験を行った。即ち、比較的に比抵抗の値が大きなヒーター本体を「高抵抗品」として、印加電圧を、100〜400Vの範囲とした。また、比較的に比抵抗の値が小さなヒーター本体を「低抵抗品」として、印加電圧を、10〜60Vの範囲とした。
【0200】
【表1】

【0201】
ヒーターによって潤滑系流体を加熱した結果の代表例として、潤滑系流体の流速を7.5L/min、ヒーター印加電圧を300Vとした条件における、ヒーターの加熱時間と、潤滑系流体の温度との関係を、図27に示す。図27においては、ヒーター通過前、及びヒーター通過後の温度が示されている。これより、潤滑系流体の温度が、約40秒で30℃から60℃に上昇することが分かった。なお、本試験では、50秒でヒーター加熱電源をオフにした。
【0202】
各条件因子の効果については、ヒーターへの印加電圧を高くしていくことで、潤滑系流体への投入電力が大きくなり、潤滑系流体が短時間で昇温する傾向を示した。潤滑系流体の流量については、前記の印加電圧の効果に対し、加熱時間などへの影響は少ない結果であった。
【0203】
(実施例2〜14)
電極部の材質、電極部の構造、及びハウジングの構造を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でヒーターを作製した。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表1に示す。表1に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0204】
「ハウジングの構造」が図10である実施例2〜5においては、実施例1と同様にして樹脂材をコーティングしたものを、第一の樹脂材52aとした。そして、この第一の樹脂材52aを覆うように、第二の樹脂材52bを配置した。第二の樹脂材52bとしては、以下のような樹脂材のマットを用いた。樹脂材のマットとして、厚み2mmのシリコーン系樹脂を用いた。
【0205】
「ハウジングの構造」が図11Aである実施例6〜14においては、断絶材として、厚み5mmのセラミックスファイバーシート(Al−SiO系)を用いた。なお、「ハウジングの構造」が図11Bの実施例においても、実施例6〜14と同様に、断絶材として、厚み5mmのセラミックスファイバーシート(Al−SiO系)を用いた。また、実施例12〜14においては、電極部の材質として、純金属の銅(Cu)を用いた。
【0206】
(実施例15〜30)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でヒーターを作製した。実施例15〜30においては、電極部の構造が「棒型」である。この棒型の電極部は、端面の直径が6mmの円柱状のものである。
【0207】
得られた実施例15〜30のヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表2に示す。表2に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0208】
【表2】

【0209】
実施例18〜20、及び実施例24〜30においては、隔壁の材料を「再結晶SiC」とした。再結晶SiCからなる隔壁を有するハニカム構造部の作製方法は、以下の通りである。まず、SiC粉体、有機質バインダー、及び「水又は有機溶剤」を含有する原料を、混合、混練して坏土を調製した。次に、この坏土を成形してハニカム成形体を作製した。次に、得られた成形体を、窒素ガス雰囲気中において、所定の温度(1600〜2300℃)で焼成して、ハニカム構造部を作製した。
【0210】
(実施例31〜38)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でヒーターを作製した。ここで、実施例33及び34、実施例35及び36においては、電極部の材質として純金属のMo、Wを用いた。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表3に示す。表3に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0211】
【表3】

【0212】
実施例31及び32においては、隔壁の材料を「反応焼結SiC(多孔質)」とした。「反応焼結SiC(多孔質)」とは、多孔質の反応焼結SiCのことである。反応焼結SiC(多孔質)からなる隔壁を有するハニカム構造部の作製方法は、以下の通りである。まず、窒化珪素粉末、炭素質物質、炭化珪素及び黒鉛粉末を混合、混練して坏土を調製する。次に、この坏土を成形してハニカム成形体を作製した。次に、非酸化性雰囲気中において上記成形体を一次焼成して一次焼成体を得た。次に、得られた一次焼成体を酸化性雰囲気中で加熱して脱炭することにより、残存する黒鉛を除去した。次に、非酸化性雰囲気中において「脱炭された一次焼成体」を所定の温度(1600〜2500℃)で二次焼成して二次焼成体を得た。得られた二次焼成体がハニカム構造部となる。
【0213】
また、実施例37及び38においては、電極部の材質として、銅タングステン複合材を用いた。尚、本複合材は、タングステン(W)の体積率が85%のものを使用した。表3の「電力部の材質」の欄には、銅タングステン複合材を「Cu/W」と記す。
【0214】
(実施例39〜42)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表3に示すように変更し、樹脂材とハウジングとが一体化したヒーターを、以下の方法によって作製した。まず、表3に示す隔壁の材料に応じた、ハニカム構造部を有するヒーター本体を作製した。次に、ハウジングを形成するための金型を用意した。即ち、作製するハウジングの形状に対応した凹形状を有する金型を用意した。この金型内に、電極接合後のヒーター本体を配置し、更に前記電極部の外周にフッ素系樹脂製のOリングを所定の位置にはめ込んだ後、金型の凹形状内に、大気中、室温にて、硬化剤を添加した熱硬化性の樹脂を流し込む。樹脂としては、熱硬化性のエポキシ樹脂を用いた。流し込んだ樹脂を硬化させた後、金型から、樹脂に覆われた状態のヒーター本体を取り出した。ヒーター本体を覆っている樹脂の表面を加工して、ヒーター本体を覆っている樹脂からハウジングを作製した。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表3に示す。表3に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0215】
(実施例43〜46)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表3に示すように変更し、ハウジングが樹脂によって形成されたヒーター(即ち、「ハウジングの構造」が図14のヒーター)を、以下の方法によって作製した。まず、表3に示す隔壁の材料に応じた、ハニカム構造部を有するヒーター本体を作製した。実施例1と同様の方法で、ヒーター本体の外周部分に、樹脂をコーティングして、樹脂材を形成した。このヒーター本体とは別に、フッ素系樹脂を用いて、ハウジングを作製した。尚、ハウジングに使用したフッ素系樹脂は、その厚みが5mmのものを用いた。得られた樹脂製のハウジング内に、樹脂をコーティングして樹脂材を配設したヒーター本体を収納し、更に、ハウジングとヒーター本体との間に、前記同様のセラミックスファイバーシート(Al−SiO系)の断熱材を配置して、ヒーターを作製した。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表3に示す。表3に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0216】
(実施例47〜50)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表4に示すように変更し、ハニカム構造部の外側にも潤滑系流体が流れるように構成されたヒーターを作製した。即ち、実施例47〜50のヒーターは、「ハウジングの構造」が図13のヒーターである。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表4に示す。表4に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。実施例47〜50においては、ハウジングの内側に、樹脂材をコーティングした。ハウジングの内側にコーティングした樹脂材の厚みは約2mmである。また、この樹脂材としてはフッ素系樹脂を用いた。
【0217】
(実施例51〜54)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表4に示すように変更し、図23に示すような構造のヒーターを作製した。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表4に示す。表4に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0218】
(実施例55及び56)
電極部の材質、電極部の構造、ハウジングの構造、及び隔壁の材料を表4に示すように変更し、図11Bに示すような構造のヒーターを作製した。本実施例においては、低温動作時を模擬し、潤滑系流体の初期温度を0℃に下げた状態での試験とした。得られたヒーターを用いて、実施例1と同様の方法で通電加熱試験を行った。通電加熱試験の結果から求められた変換効率(%)を表4に示す。表4に、通電加熱試験における、印加電圧(V)、ヒーター内を通過させる潤滑系流体の流量(L/min)、及び潤滑系流体の初期温度(℃)を示す。
【0219】
【表4】

【0220】
(結果)
表1〜表4に示すように、実施例1〜56のヒーターは、通電加熱試験における変換効率が高いものであった。このように、実施例1〜56のヒーターにおいては、ハウジングとヒーター本体との間に樹脂材が配置されているため、ヒーター本体の絶縁性を確保すると共に、ヒーター本体によって加熱された熱がハウジングを伝って外部に拡散してしまうことを抑制していることが分かる。更に、樹脂材に加えてセラミックスファイバーシートの断熱材を併用したり、ハウジングを樹脂製にすることで、更に変換効率を向上させることができた。また、ハウジングを樹脂製にすることで、ヒーターの軽量化も実現可能であった。実施例55及び56においては、潤滑系流体の初期温度を0℃にまで下げたことから、始動時の粘性が高くなり、初期温度が30℃のものに比較してハニカム通過時の潤滑系流体の圧損は高くなったが、動作上の問題無く、ヒーターとして良好なものであった。
【0221】
また、実施例1〜56のヒーターのように樹脂材を多用に活用することで、軽量化と共に、簡便且つ低温プロセスでのハウジング構造の作製が可能となった。また、ヒーター本体として、ハニカム形状のハニカム構造部と、その側面に配設された一対の電極部とを有するものを用いることで、従来のヒーターに比較して、小型化、早期加熱、高い変換効率を得ることが分かった。尚、ハウジングの構造及びハウジング内部の樹脂材等の配置について、上述した変換効率と、ヒーターに要求される強度設計や耐久性等を考慮して、適宜決定することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0222】
本発明は、エンジンオイルやトランスミッションフルードなどの潤滑系流体を加熱するために使用可能なヒーターとして利用できる。
【符号の説明】
【0223】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、5:側面、11:一方の端面、12:他方の端面、21:電極部、22a:電極基板、22b:電極部、23:導電性接合部、24:電極部、25電極部、26a:電極基板、26b:電極部、31:電極部、31a:電極基板、31b:電極端子部、31c:電極基板連結部、35:シール材、41:電極部、42:振動吸収部、43:電極部、43a:電極基板、43b:電極端子部、50,60,70,80,90:ヒーター本体、51,61,71,73,81,91:ハウジング、51a:ハウジング本体、51b:蓋部、52,72:樹脂材、52a:第一の樹脂材、52b:第二の樹脂材、53:Oリング、54:電極取出部、55:流入口、56:流出口、57:断熱材、74:電極取出部、91a:ハウジング本体、91b:蓋部、94:ポンプ、95:配管、96:クーラー、98:バルブ、99:流量計、100,200,300,401,402A,402B,403,404,405,406,500,600,700,800:ヒーター、152:153:ヒーター本体、900:通電加熱試験装置、P1,P2:圧力計、T1,T2:熱電対。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒーター本体、前記ヒーター本体を収納するハウジング、及び前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間の少なくとも一部に配置された樹脂材、を備え、
前記ヒーター本体が、潤滑系流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する筒状のハニカム構造部、及び前記ハニカム構造部の側面に配設された一対の電極部を有し、
前記ハウジングが、前記潤滑系流体が流入する流入口及び前記ヒーター本体に形成された前記セルを通過した前記潤滑系流体が流出する流出口を有し、前記ヒーター本体の側面側を覆うように前記ヒーター本体を収納し、
前記ハニカム構造部の前記隔壁が、セラミックスを主成分とする材料からなり、前記隔壁が通電により発熱するヒーター。
【請求項2】
前記樹脂材が、前記ヒーター本体の前記一方の端面側における前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間、及び前記ヒーター本体の前記他方の端面側における前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間に、少なくとも配置されている請求項1に記載のヒーター。
【請求項3】
前記隔壁は、SiC、金属含浸SiC、金属複合SiC、及び金属複合Siからなる群から選ばれる1種を主成分とする請求項1又は2に記載のヒーター。
【請求項4】
前記一対の電極部の一部が、前記ハウジングを貫通して前記ハウジングの外側まで延設され、
前記樹脂材が、前記一対の電極部が前記ハウジングを貫通する部位における前記一対の電極部と前記ハウジングとの間に、少なくとも配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のヒーター。
【請求項5】
前記樹脂材が、少なくとも前記ヒーター本体に配置された前記一対の電極部全域を覆うように、前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間に配置されている請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒーター。
【請求項6】
前記一対の電極部のそれぞれが、前記ハニカム構造部の側面に配置された電極基板と、前記電極基板に連結するように配置された棒状の電極部とからなる請求項1〜5のいずれか一項に記載のヒーター。
【請求項7】
前記ハウジングの内部において、前記ヒーター本体と前記ハウジングとの間に、断熱材が配置されている請求項1〜6のいずれか一項に記載のヒーター。
【請求項8】
前記ハウジングの材質が、金属又は樹脂である請求項1〜7のいずれか一項に記載のヒーター。
【請求項9】
前記ハウジングの材質が、樹脂である請求項8に記載のヒーター。
【請求項10】
前記ハウジングと前記樹脂材とが一体化されている請求項9に記載のヒーター。
【請求項11】
前記樹脂材の耐熱温度が、80℃以上である請求項1〜10のいずれか一項に記載のヒーター。
【請求項12】
前記樹脂材の比抵抗が、10Ω・cm以上である請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2013−64397(P2013−64397A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−65647(P2012−65647)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】