説明

ヒートポンプ温水暖房機

【課題】ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度の過度の上昇を抑えるとともに、循環ポンプの消費電力を削減し、効率が高いヒートポンプ温水暖房機を提供すること。
【解決手段】往き温度Twoの時間変化量ΔTwoが往き温度変化許容範囲ε1に入り、戻り温度Twiの時間変化量ΔTwiが戻り温度変化許容範囲ε2に入り、かつ、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの差が往き温度誤差許容範囲ε3に入った場合にのみ、戻り温度Twiが目標戻り温度Twitとなるように、循環ポンプ121により水熱媒の流量を調整することで、水熱媒の循環流量を下げて戻り温度の上昇を抑え、凝縮温度の上昇を防いで、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ温水暖房機の省エネルギー制御に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のヒートポンプ温水暖房機は、ヒートポンプサイクルと水熱媒サイクルを備え、ヒートポンプサイクルを流れる冷媒が、水熱媒サイクルを流れる水熱媒を水熱媒熱交換器115で加熱し、加熱された水熱媒が複数の室内放熱器125に送水され放熱し、部屋の暖房行う。水熱媒を送水する手段としては、交流もしくは直流電源で駆動する循環ポンプ121が利用されている。
【0003】
交流電源駆動の循環ポンプを利用した場合、常に一定の揚程で運転するため、暖房運転を行う室内放熱器の数が同じである限り、常に水熱媒の循環流量は同じとなる。交流電源駆動の循環ポンプは、低コストで制御が容易であるという利点から、広く利用されている。
【0004】
しかし、水熱媒の循環量が一定であるため、ヒートポンプ温水暖房機の効率が悪くなる場合がある。
【0005】
室内放熱器の総数が4台で、交流電源駆動の循環ポンプ121が毎分6.0Lの水熱媒を送水しているヒートポンプ温水暖房機にて説明する。
【0006】
ヒートポンプ温水暖房機の効率が悪くなる例として、4台全ての室内放熱器(125a〜125d)に水熱媒を送水し、水熱媒熱交換器115から流出する水熱媒の往き温度Twoが目標往き温度Twotとなり、かつ、水熱媒熱交換器115で水熱媒を加熱する熱量と、室内放熱器125で放熱する熱量とが平衡となっている状態から、利用者の設定により、3台の室内放熱(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止した後の状態が挙げられる。
【0007】
室内放熱器125a〜125dがすべて同じものであると仮定すると、4台全ての室内放熱器に水熱媒を送水している状態では、室内放熱器1台当たりに送水される水熱媒の流量は毎分6.0L/4=1.5Lである。
【0008】
ここで、室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の送水を停止すると、残りの室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量は、4倍の毎分6.0Lと大幅に増加する。
【0009】
実際には、室内放熱器内に敷設された水熱媒配管に流れる水熱媒の量が増加すると、抵抗が増加するため、室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量は、毎分6.0Lよりも少し小さな値となるが、ここでは、単純化するため、毎分6.0Lとなるものとする。
【0010】
一般的に、水熱媒熱交換器115から流出する水熱媒の往き温度Two、水熱媒熱交換器115に流入する戻り温度Twi、水熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量をM、そして、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qとの間には、数1で示す関係式が成り立つ。
【0011】
(数1) Q = (Two−Twi)×M
また、室内放熱器125i(i=a〜d)から流出する水熱媒の温度をTwi、室内放熱器125iを流れる水熱媒の循環量をM、室内放熱器125iにおいて室内に放熱
する熱量をQiとし、室内放熱器125iに流入する水熱媒の温度は往き温度Twoと等しいと仮定すると、数2で示す関係式が成り立つ。
【0012】
(数2) Q = (Two−Twi)×M
数1と数2の間には、Q=ΣQ、M=ΣMが成り立つ。
【0013】
上記例において、室内放熱器125dにおける放熱量Qが一定であると仮定すると、室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量Mが、毎分1.5Lから4倍の6.0Lに増加すると、数2の関係より、温度差Two−Twiは1/4に縮小することになる。しかし、実際には、室内放熱器125d内に敷設された水熱媒配管内には数Lの水熱媒を保有しているため、即座に温度差Two−Twiは1/4に縮小しない。
【0014】
この理由は、水熱媒の循環量Mが増加しても、その瞬間において、室内放熱器125d内の流出配管により近い位置に存在する水熱媒ほど、水熱媒の循環量Mの増加により配管内を流れる熱流媒の温度低下を小さくする影響を受けずに、室内放熱器125dから流出するためである。すなわち、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiは徐々に上昇することになる。
【0015】
次に、水熱媒熱交換器115で加熱された後の水熱媒の往き温度Twoは、戻り温度Twiの上昇に追随して上昇する。熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量Mは毎分6.0Lで変化しないため、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qが一定ならば、数1の関係より、温度差Two−Twiが一定となるからである。
【0016】
従来のヒートポンプ温水暖房機では、往き温度Twoを、利用者が設定した目標往き温度Twotとなるように、主にヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数を制御している。上記のように往き温度Twoが上昇した場合は、圧縮機の周波数を下げ、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qを下げて、往き温度Twoを低下させる制御を行う。十分に時間が経過した後では、Q=Qとなるまで圧縮機の周波数は下げられており、往き温度Twoは目標往き温度Twotに保持される。
【0017】
一方、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiは上昇したままになっており、十分に時間が経過した後では、温度差Two−Twiは、数2に基づき、1/4となる。すなわち、戻り温度Twiは上昇し、往き温度Twoに接近している。結果として、ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度は高くなり、サイクル効率が悪化してしまう。
【0018】
このような事態を避けるため、直流電源駆動で循環流量を制御できる循環ポンプを使用し、ヒートポンプ温水暖房機の高効率化を図る技術がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0019】
特許文献1には、水熱媒の往き温度Twoと戻り温度Twiとの差である往き戻り温度差Two−Twiが、所定の範囲内となるように、循環ポンプの回転数の制御方法が開示されている。
【0020】
特許文献1では、戻り温度Twiの過度の上昇を抑え、すなわち、水熱媒熱交換器における冷媒凝縮温度の過度の上昇を抑えて、サイクル効率悪化を防止し、かつ、循環ポンプの消費電力を削減できると記述されている。
【0021】
図5に、この制御方法の循環ポンプの制御フローを示す。往き戻り温度差ΔTa(=Two−Tw)を算出し(ステップS04)、往き戻り温度差が所定値(4K)よりも小さ
い場合、もしくは、目標往き温度Twotが確保されていない場合は、水熱媒の循環流量を下げるよう、循環ポンプを制御する(ステップS09)。逆に、往き温度Twoが目標往き温度Twotとほぼ近い温度を確保していても、往き戻り温度差が所定値(20K)以上となっている場合は、水熱媒の循環流量を大きくするよう、循環ポンプを制御する(ステップS10)。
【0022】
すなわち、往き戻り温度差が所定範囲内(4K以上20K未満)で、かつ目標往き温度Twotが確保されている場合のみ、水熱媒の循環流量は保持される(ステップS08)。
【0023】
また、特許文献2には、水熱媒の往き温度Twoが目標往き温度(Twot)となるようにヒートポンプサイクルにおけるヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数を制御し、これと平行して、往き戻り温度差Two−Twiが目標往き戻り温度差となるように循環ポンプを制御する方法が開示されている。
【0024】
図6に、この制御方法の循環ポンプの制御フローを示す。往き戻り温度差ΔTa(=Two−Tw)を算出し(ステップS24)、往き戻り温度差ΔTaが目標往き戻り温度差ΔTatよりも大きい状態を所定時間維持しているならば、温度差が大きすぎるとみなして、水熱媒の循環流量を大きくするよう、循環ポンプを制御する(ステップS26)。
【0025】
逆に、往き戻り温度差ΔTaが目標往き戻り温度差ΔTatよりも小さい、もしくは往き戻り温度差ΔTaが目標往き戻り温度差ΔTatよりも大きい状態を所定時間維持できていない場合は、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの関係を調べる(ステップS27)。
【0026】
往き温度Twoが目標往き温度Twot以上の状態が所定時間維持されている状態では、水熱媒の循環流量を下げるよう、循環ポンプを制御する(ステップS28)。逆に、往き温度Twoが目標往き温度Twot未満、もしくは、往き温度Twoが目標往き温度Twot以上の状態が所定時間維持されていない状態では、水熱媒の循環流量は据え置く。
【0027】
なお、ステップS26とステップS28において、循環ポンプの制御には、PI制御が用いられている。また、S25以降の処理は一定時間ごと行い、水熱媒の循環流量はその間据え置く。
【0028】
特許文献2でも、特許文献1と同様、水熱媒熱交換器における冷媒凝縮温度の過度の上昇を抑えて、サイクル効率悪化を防止し、かつ、循環ポンプの消費電力を削減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2009−287895号公報
【特許文献2】特開2010−196946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
特許文献1には、循環ポンプの回転数の制御のみ記載されており、ヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数制御との関連が記載されていない。このような制御を行うと、上述した例では、往き温度Twoが目標往き温度Twotに保てない場合がある。
【0031】
4台全ての室内放熱器(125a〜125d)に水熱媒を送水している状態から、利用
者の設定により、3台の室内放熱(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止した直後は、上述したように、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiが上昇し、水熱媒熱交換器115に流入する戻り温度Twiも上昇するため、水熱媒熱交換器115を通過した後の往き温度Twoも上昇する。
【0032】
特許文献1の制御方法では、往き温度Twoの上昇により、水熱媒の循環流量を下げるよう、循環ポンプを制御する(ステップS09)。この結果、水熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量Mは低下する。
【0033】
一方、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qは調整せず一定であるため、数1より、往き戻り温度差Two−Twiは拡大する。このとき、戻り温度Twiは上昇する傾向にあるため、往き温度Twoはさらに上昇し、目標往き温度Twotから大きく乖離してしまう恐れがある。
【0034】
特許文献2には、循環ポンプの回転数の制御と、ヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数制御とが平行して行う旨が記載されている。しかし、両者の制御時間間隔の関係についての記述はなく、制御が不安定になる恐れがある。
【0035】
前述の例で説明すると、3台の室内放熱器(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止すると、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qは明らかに過大である。従って、ヒートポンプサイクルの圧縮機の周波数制御は、往き温度Twoが上昇し、目標往き温度Twotから乖離し始めると、往き温度Twoが目標往き温度Twotを保てるよう、比較的短い時間(10〜30秒)で動作する必要がある。
【0036】
前述したように、圧縮機周波数のみを低下させた場合、往き温度Twoの上昇は抑制され、低下に転じる。一方で、戻り温度Twiは徐々に上昇し、往き戻り温度差Two−Twiは徐々に縮小する。
【0037】
もし、図6におけるステップS23の「一定時間」と、ステップS25やステップS27の「所定時間」が、圧縮機の周波数制御が行われる時間間隔と同等以下の場合は、循環ポンプ121のPI制御は、上記のような過渡状態において行われることになり、圧縮機の周波数制御の影響が反映されてしまう。もちろん、圧縮機の周波数制御にも、循環ポンプの制御の影響が反映され、制御全体が不安定に陥る恐れがある。
【0038】
圧縮機の周波数制御の影響を排除するため、ステップS23の「一定時間」と、ステップS25やステップS27の「所定時間」は、ともに十分長く取る必要がある。制御による省エネ効果を発揮するためには、該時間をできるだけ短く設定したほうがよいが、室内放熱器125a〜125dが異なる広さを持ち、上記過渡状態が送水する室内放熱器ごとに違う場合も考慮すると、上記時間の具体的な設定方法を明確化する必要があった。
【0039】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、特に室内暖房負荷が小さい場合に、ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度の上昇を抑え、ヒートポンプサイクルの運転効率が高いヒートポンプ温水暖房機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0040】
前記従来の課題を解決するために、本発明のヒートポンプ温水暖房機は、往き温度の時間変化量が往き温度変化許容範囲に入り、戻り温度検知手段で検知される戻り温度の時間変化量が戻り温度変化許容範囲に入り、往き温度と目標往き温度との差が往き温度誤差許容範囲に入った場合にのみ、戻り温度が目標戻り温度となるように、循環ポンプにより水熱媒の流量を調整するものである。
【0041】
これによって、往き温度を利用者が設定した目標往き温度に保持しつつ、熱負荷が急激に低下した場合でも、水熱媒の循環流量を下げて戻り温度の上昇を抑える。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、特に室内暖房負荷が小さい場合、ヒートポンプサイクルにおける凝縮温度の上昇を確実に抑え、ヒートポンプサイクルの運転効率の向上を実現したヒートポンプ温水暖房機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態1におけるヒートポンプ温水暖房機の循環ポンプの制御フローチャート
【図2】同ヒートポンプ温水暖房機起動後の、圧縮機の周波数、循環ポンプの回転数、往き温度、戻り温度の時間変化を示した図
【図3】同一部の室内放熱器への送水を停止した後の、圧縮機の周波数、循環ポンプの回転数、往き温度、戻り温度の時間変化を示した図
【図4】同ヒートポンプ温水暖房機の構成図
【図5】従来の循環ポンプの制御フローチャート
【図6】従来の他の循環ポンプの制御フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0044】
第1の発明は、往き温度の時間変化量が往き温度変化許容範囲に入り、戻り温度検知手段で検知される戻り温度の時間変化量が戻り温度変化許容範囲に入り、かつ、往き温度と目標往き温度との差が往き温度誤差許容範囲に入り、圧縮機の周波数が一定になった場合にのみ、戻り温度が目標戻り温度となるように、循環ポンプにより水熱媒の流量を調整する。
【0045】
このため、圧縮機の制御と、循環ポンプの制御とが、お互いに干渉することがなく、それぞれの制御が不安定にならずに、水熱媒の循環流量を下げて戻り温度Twiの上昇を確実に抑え、凝縮温度の上昇を防いで、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0046】
第2の発明は、循環ポンプによる水熱媒の流量の調整量に上限を設けており、第1の発明の効果に加えて、循環ポンプを制御した場合の、往き温度の過度な変化を防止することができる。
【0047】
第3の発明は、第1または第2の発明における目標戻り温度を、人体の皮膚の温受容器が感受する温覚刺激が優位な、34℃以上45℃以下の第1温度範囲から選択するようにしている。このため、特に室内放熱器が床暖房パネルの場合に、触って冷たいと不快を感じることがない範囲で、凝縮温度の上昇を防いで、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止することができると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0048】
第4の発明は、第3の発明において、目標往き温度から目標戻り温度を引いた温度差が所定温度差未満の場合は、前記目標往き温度から前記所定温度差を引いた温度を前記目標戻り温度としている。
【0049】
このため、余熱運転を行うような、目標往き温度を40℃以下の比較的低い温度に設定する場合でも、戻り温度が往き温度に接近することを抑え、ヒートポンプサイクルの効率低下を防止することができる。また、この場合でも、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0050】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって、本発明が限定されるものではない。
【0051】
(実施の形態1)
図4は、本発明の対象となるヒートポンプ温水暖房機100の構成図である。ヒートポンプ温水暖房機100は、ヒートポンプサイクル110、水熱媒サイクル120、そして制御部130とで構成される。
【0052】
ヒートポンプサイクル110は、気体状態の冷媒を吸入して圧縮し、高温高圧の冷媒を吐出する圧縮機111、室外空気から採熱する空気熱交換器112、室外空気を強制的に空気熱交換器112に導入する空気熱交換器ファン113、冷媒の流量を調整する冷媒流量調整弁114、そして、冷媒と水熱媒との熱交換を行う水熱媒熱交換器115で構成されている。
【0053】
一方、水熱媒サイクル120は、水熱媒熱交換器115と接続され、水熱媒サイクル120内の水熱媒を循環させる循環ポンプ121、水熱媒を貯留するバッファタンク122、4台の室内放熱器125a〜125d、そして、個々の室内放熱器125への水熱媒供給を制御する開閉弁123で構成されている。
【0054】
ヒートポンプサイクル110の冷媒と水熱媒サイクル120の水熱媒とは、互いに独立し、混合することはないが、水熱媒熱交換器115を介して熱交換可能な構成となっている。水熱媒熱交換器115には、二重管式熱交換器やプレート熱交換器が使用される。また、直流電源によって駆動される循環ポンプ121は羽根車を有し、この羽根車の回転数をPWM制御することで、水熱媒サイクル120内の水熱媒の循環流量を変更することができる。
【0055】
水熱媒サイクル120において、水熱媒熱交換器115の出口側には、水熱媒熱交換器115から室内放熱器125a〜125dに向かう水熱媒の往き温度Twoを計測する往き温度検知センサ126が設置されている。また、水熱媒熱交換器115の入口側には、室内放熱器125a〜125dから水熱媒交換器115に戻る水熱媒の戻り温度Twiを計測する戻り温度検知センサ127が設置されている。
【0056】
制御部130は、マイコン(図示せず)に組み込まれた制御プログラムで、室外温度、圧縮機111の吐出温度(ともに図示しない温度センサにより検知)、往き温度検知センサ126で検知した往き温度Two、戻り温度検知センサ127で検知した戻り温度Twiを取得し、圧縮機111の周波数、空気熱交換器ファン113の回転数、冷媒流量調整弁114の開度、使用する室内放熱器125a〜125dと接続した開閉弁123の開度、および、循環ポンプ121の回転数を制御する。
【0057】
リモコン124と室内放熱器125a〜125dは、共に暖房対象となる部屋内に設置される。リモコン124は、4台接続して、室内放熱器125a〜125dを個別に制御するようにしても、2〜3台接続して、室内放熱器125a〜125dのうち数台ごとに制御するようにしても、1台接続して、室内放熱器125a〜125dの全てを制御するようにしてもよい。
【0058】
リモコン124の操作により、ヒートポンプ温水暖房機100が稼動し、加熱された水熱媒が循環ポンプ121により室内放熱器125a〜125dに搬送され放熱することにより、部屋の暖房が行われる。なお、室内放熱器125としては、床に埋め込まれ輻射暖房を行う床暖房パネル、室内壁面に設置され輻射暖房を行うラジエータ、送風機を使い室
内放熱器125の熱を強制的に部屋内に供給するファンコンベクターなどを利用する。
【0059】
ヒートポンプ温水暖房機100の利用者は、リモコン124において目標往き温度Twotを設定する。あるいは、暖房強度レベル、例えば、室内放熱器125に床暖房パネルを用いる場合は床面温度の高さレベルを設定する。この場合、制御部130は、利用者が設定した暖房強度レベルに応じて、目標往き温度Twotを計算し保持する。
【0060】
また、ヒートポンプ温水暖房機100の利用者は、リモコン124において目標戻り温度Twitを設定する。この目標戻り温度Twitは、必ずしも利用者が設定しなくてもよい。
【0061】
次に、ヒートポンプ温水暖房機100の動作について説明する。図1は、本発明の第1に実施の形態における、制御部130の循環ポンプ121に対する制御動作を説明したフローチャートである。
【0062】
まず、ヒートポンプ温水暖房機100を起動し、加熱した水熱媒を、室内放熱器125a〜125dへ一斉に搬送開始してから、往き温度Twoが目標往き温度Twotに、戻り温度Twiが目標戻り温度Twitになるまでの制御動作について説明する。
【0063】
利用者がリモコン124で運転開始操作(ステップS001)をすると、リモコン124は、運転開始指令とともに、利用者が設定した目標往き温度Twotを制御部130に送信する。制御部130は受信した目標往き温度Twotを保持する。リモコン124が暖房強度レベルを制御部130に送信した場合は、制御部130は、受信した暖房強度レベルに応じた目標往き温度Twotを計算し、保持する(ステップS002)。
【0064】
次に、ステップS003において、リモコン124は、利用者が設定した目標戻り温度Twitを制御部130に送信する。制御部130は受信した目標戻り温度Twitを保持する。利用者が、リモコン124において、目標戻り温度Twitを設定しない、あるいは、設定できない場合は、制御部130が自動的に目標戻り温度Twitを設定する。
【0065】
人間の皮膚には、冷受容器と温受容器とで構成される温度受容器が存在する。一般的に、皮膚が触れる温度が32.5℃〜33.5℃のとき、冷・温受容器が受ける刺激が同程度となり、熱くも冷たくも感じない無感温度となる。34℃〜45℃では、皮膚の温受容器のみが刺激を受けて温かいと感じるが、36℃を超えると、その刺激の強さは温度上昇とともに低下する。また、45℃を越えると、皮膚の冷受容器も刺激されて熱いと感じるようになる。
【0066】
以上の知見と、戻り温度Twiは、室内放熱器125の表面の最も低い温度よりも若干高い程度であることを考慮すると、目標戻り温度Twitは、人間の皮膚の温受容器のみが刺激を受け、温かいと感じる34℃〜45℃とするのが望ましい。さらには、ヒートポンプサイクルは、凝縮温度を下げたほうが高効率となるため、戻り温度Twiを、できるだけ低くするほうが有効である。皮膚が触れる温度が36℃を超えると、皮膚の温受容器の刺激の強さは温度上昇とともに低下することも考慮すると、目標戻り温度Twitは、34℃〜36℃とすることが最も望ましい。
【0067】
また、利用者が部屋を離れる場合などに行う余熱運転では、目標往き温度Twotが比較的低く(40℃以下)に設定される。この場合、目標往き温度Twotと、34〜45℃の範囲から選択される目標戻り温度Twitとの間の温度差は小さくなり、余熱運転中のヒートポンプサイクルの効率が悪化する恐れがある。たとえば、目標往き温度Twotが35℃と設定されている場合、目標戻り温度Twitの下限値は34℃となり、それら
の温度差は1Kしかない。このような場合は、目標往き温度Twot=35℃から、所定値、たとえば5K低い、30℃を目標戻り温度Twitとする。
【0068】
なお、この所定値は、リモコン124において、利用者が設定できるようにしてもよい。
【0069】
目標往き温度Twotと目標戻り温度Twitとを設定すると、制御部130は、圧縮機111、空気熱交換器ファン113、冷媒流量調整弁114、循環ポンプ121の運転を開始する。
【0070】
循環ポンプ121の回転数Fsに関しては、Fs=0から段階的に上げる起動時循環流量制御を行う。起動時循環流量制御は、循環ポンプ121の起動開始(ステップS003)から、所定時間、例えば10分経過するまで行われる。一般的には、該所定時間内に、循環ポンプ121の回転数Fsが最大回転数に達するよう、3〜5段階に分けて、回転数Fsを上昇させる(ステップS006)。
【0071】
起動時循環流量制御を実施する理由は、ヒートポンプサイクル110起動直後に、循環ポンプ121の回転数Fsを急激に上げてしまうと、室内放熱器125に滞留していた冷えた水熱媒が水熱媒熱交換器115に大量に流れて、水熱媒熱交換器115におけるヒートポンプサイクル110側の冷媒凝縮温度の上昇が遅れ、室内放熱器125の温度上昇に時間を要する恐れがあり、これを避けるためである。
【0072】
上記の起動時循環流量制御と同時に、圧縮機111の周波数Fcの制御も行う。この制御の最も基本的な手法は、往き温度Twoが目標往き温度Twotとなるように、圧縮機111の周波数Fcの調整を行うP制御(比例制御)である。
【0073】
圧縮機111の周波数FcのP制御(比例制御)では、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの温度差Two−Twotに、比例ゲインKp1を乗じたKp1×(Two−Twot)を、圧縮機111の周波数Fcを修正する値とする(ステップS007とステップS008)。
【0074】
比例ゲインKp1の値は、次のような効果が出るよう、負の値をとる。すなわち、Two−Twot>0のときは、圧縮機111の周波数Fcを低下させて、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qを低下させる。逆に、Two−Twot<0のときは、圧縮機111の周波数を上昇させ、熱量Qを上昇させる。
【0075】
圧縮機111の周波数Fcの制御方法としては、P制御の替わりに、いわゆるPI制御を用いてもよい。PI制御では、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの温度差Two−Twotの時間積分に積分ゲインKi1を乗じたKi1×∫(Two−Twot)dt と、P制御(比例制御)のKp1×(Two−Twot)との和を用いて、圧縮機111の周波数を修正する。
【0076】
P制御では、往き温度Twoの変化がなくなった状態(定常状態)でも、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの間に、残留偏差(オフセット)が生じる可能性がある。しかし、比例ゲインKpと積分ゲインKiとを適切に設定したPI制御を用いると、往き温度Twoを目標往き温度Twotに確実に収束させることができる。
【0077】
なお、制御部130は、起動時循環流量制御を実施中、空気熱交換器ファン113の回転数と、冷媒流量調整弁114の開度も、それぞれ制御する。たとえば、空気熱交換器ファン113の回転数は、圧縮機111の周波数Fcに応じて制御し、冷媒流量調整弁11
4の開度は、目標往き温度Twotに応じて制御する。
【0078】
さて、起動時循環流量制御が所定時間(たとえば10分)経過して終了すると、循環ポンプ121の回転数Fsは最大回転数に達している。この時点から、制御部130は、往き温度Twoの変化量ΔTwo、および戻り温度Twiの変化量ΔTwiが、それぞれ、数3、数4を満たしているかどうかの監視を開始する(ステップS009とステップS010)。
【0079】
(数3) |ΔTwo|<ε1
(数4) |ΔTwi|<ε2
なお、数3におけるε1は、往き温度変化許容範囲、数4におけるε2は、戻り温度変化許容範囲を示し、それぞれの値は、たとえば、0.5Kとする。
【0080】
往き温度Twoの変化量ΔTwo、および戻り温度Twiの変化量ΔTwiは、現在の計測値と、現在から所定時間(たとえば5分)前の計測値との差としてもよいし、所定時間内(たとえば5分)の、それぞれの計測値の最大値から最小値を引いた値を用いても良い。
【0081】
数3と数4とを同時に満たさない場合は、ステップS007とステップS008の処理、すなわち、圧縮機111の周波数Fcの制御を行う。逆に、数3と数4とを同時に満たす場合には、ヒートポンプ温水暖房機100の運転状態は、定常状態になっているとみなし、ステップS011に移行し、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達しているかどうかを判断する。
【0082】
ステップS011では、往き温度Twoと目標往き温度Twotとの差が数5を満たしているかどうかを調べる。数5において、ε3は往き温度誤差許容範囲であり、この値は、たとえば、0.3Kとする。
【0083】
(数5) |Two−Twot|<ε3
ステップS011において、数5を満たさない場合は、室内放熱器125が放熱している部屋が、十分に暖まっていない可能性があるため、ステップS007とステップS008の処理、すなわち、圧縮機111の周波数Fcの制御を継続する。
【0084】
一方、数5を満たしている場合は、室内放熱器125が放熱している部屋が、十分に暖まっていると判断し、ステップS012に移行して、循環ポンプ121の回転数Fsの制御を行う。この制御の最も基本的な手法は、戻り温度Twiが目標往き温度Twitとなるように、循環ポンプ121の回転数Fsの調整を行うP制御(比例制御)である。
【0085】
循環ポンプ121の回転数Fsの調整を行うP制御(比例制御)では、戻り温度Twiと目標戻り温度Twitとの温度差Twi−Twitに、比例ゲインKp2を乗じたKp2×(Twi−Twit)を、循環ポンプ121の回転数Fsを修正する値とする(ステップS012とステップS013)。
【0086】
比例ゲインKp2の値は、次のような効果が出るよう、負の値をとる。すなわち、Twi−Twit>0のときは、循環ポンプ121の回転数Fsを低下させ、往き温度Twoとの温度差を拡大させることでTwiを下げる。逆に、Twi−Twit<0のときは、循環ポンプ121の回転数Fsを上昇させ、往き温度Twoとの温度差を縮小させることでTwiを上げる。
【0087】
循環ポンプ121の回転数Fsの制御方法としては、P制御の替わりに、いわゆるPI
制御を用いてもよい。PI制御では、戻り温度Twiと目標戻り温度Twitとの温度差Twi−Twitの時間積分に積分ゲインKi2を乗じたKi2×∫(Twi−Twit)dt と、P制御(比例制御)のKp2×(Twi−Twit)との和を用いて、循環ポンプ121の回転数Fsを修正する。
【0088】
P制御では、戻り温度Twiの変化がなくなった状態(定常状態)でも、戻り温度Twiと目標戻り温度Twitとの間に、残留偏差(オフセット)が生じる可能性がある。しかし、比例ゲインKp2と積分ゲインKi2とを適切に設定したPI制御を用いると、戻り温度Twiを目標戻り温度Twitに確実に収束させることができる。
【0089】
図2に、ヒートポンプ温水暖房機100が起動後、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達してからの、圧縮機111の周波数Fcと循環ポンプ121の回転数Fsの制御の様子と、これらの制御に伴う、往き温度Twoと戻り温度Twiの時間変化の概要を示す。なお、目標往き温度Twotは50℃、目標戻り温度Twitは35℃と設定されているものとする。
【0090】
また、時刻T1では、戻り温度Twiは40℃に達し、時刻T1以降は、室内放熱器125において放熱する熱量(熱負荷)は一定であるものとする。
【0091】
時刻T1において、制御部130は、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になる定常状態となり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達したと判断し(ステップS009〜ステップS011)、循環ポンプ121の回転数Fsの回転数を制御する(ステップS012とステップS013)。時刻T1における戻り温度Twi(=40℃)は、目標戻り温度Twit(=35℃)よりも高いため、戻り温度Twiを下げるために、循環ポンプ121の回転数Fsを下げる。
【0092】
この時点では、まだ圧縮機111の周波数Fcは制御していないため、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qは変わらない。よって、循環ポンプ121の回転数Fsのみが低下することになり、数2の関係より、往き戻り温度差Two−Twiは拡大する。実際は、数Lの水熱媒を保有する室内放熱器125から戻る水熱媒の温度Twiの変化は遅いため、まずは往き温度Twoが急上昇しはじめる。
【0093】
なお、この往き温度Twoの急上昇は、循環ポンプ121の回転数Fsの変化量に比例する。この変化量があまり大きいと、往き温度Twoの上昇が2〜3K以上となる。特に室内放熱器125に床暖房パネルを使用する場合、床面の温度の変化が大きくなり、利用者の快適性が損なわれる可能性がある。
【0094】
したがって、循環ポンプ121の回転数Fsの変化量には上限値を設け、往き温度Twoの上昇を抑えることが望ましい。その上限値は、たとえば、現在の循環ポンプ121の回転数Fsの10〜20%に設定する。
【0095】
往き温度Twoが急上昇すると、ステップS009で数3を満たさなくなるため、圧縮機111の周波数Fcの制御(ステップS007とS008)に移行する。そして、制御部130は、往き温度Twoを目標往き温度Twotに戻すために、圧縮機111の周波数Fcを落とす。この結果、往き温度Twoの上昇は止まり、逆に下降に転じる。
【0096】
ところが、室内放熱器125で放熱する熱量(熱負荷)は一定であるため、圧縮機111の周波数Fcを落とした影響を受けて、往き温度Twoが目標往き温度Twotを下回ってしまうようになる。そこで、制御部130は、往き温度Twoを目標往き温度Twotに戻すために、再度、圧縮機111の周波数Fcを上げる(ステップS007とS00
8)。
【0097】
一方、戻り温度Twiは、上述したような、往き温度Twoの急上昇の影響を受けて細かい変化をするが、数分単位のスパンで見ると、循環ポンプ121の回転数Fsが低下したことによる、往き戻り温度差Two−Twiを拡大させようとする効果と、往き温度Twoを目標往き温度Twotに戻そうとする圧縮機111の周波数Fcの制御の影響を受けて、徐々に低下する。
【0098】
こうして、ある程度時間が経過した時刻T3では、圧縮機111の周波数Fcは、時刻T1以前と同じとなり、循環ポンプ121の回転数Fsのみが低下している。そして、再び、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値となり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達した状態となる。ただし、戻り温度Twiは、時刻T1の40℃よりも目標戻り温度Twit(=35℃)に近い値になる。
【0099】
制御部130は、時刻T3において、再び、循環ポンプ121の回転数Fsを下げるように制御する。循環ポンプ121の回転数Fsが制御された後の、圧縮機111の周波数Fcの制御、および、往き温度Twoと戻り温度Twiの変化は上記と同様となる。こうして、ある程度時間が経過した時刻T5では、戻り温度Twiは、時刻T3よりもさらに目標戻り温度Twit(35℃)に近い値になる。
【0100】
以上のように、制御部130は、ヒートポンプ温水暖房機100が起動して、起動時循環量制御(ステップS003)で水熱媒の循環流量を徐々に上げて、ヒートポンプサイクル110を安定させた後、まず、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達するまで、圧縮機111の周波数Fcの制御のみを行う。
【0101】
往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達すると、圧縮機111の周波数Fcはほとんど変化しない状態となる。制御部130は、この状態になったときのみ、戻り温度Twiが目標戻り温度Twitとなるように、循環ポンプ121の回転数Fsの制御を行う。
【0102】
循環ポンプ121の回転数Fsの制御を行うと、往き温度Twoが往き温度許容変化範囲ε1を超えてしまう。そこで、制御部130は、往き温度Twoと戻り温度Twiの時間変化が小さくなるまで、再度、圧縮機111の周波数Fcの制御のみを行う。
【0103】
このように、本実施の形態では、往き温度Twoと戻り温度Twiの、それぞれの値と時間変化を監視しながら、圧縮機111の周波数Fcの制御と、循環ポンプ121の回転数Fsの制御とを、お互いの制御の影響を受けないように、切り換えて実施するため、それぞれの制御が不安定に陥ることはない。
【0104】
この結果、戻り温度Twiの上昇を確実に抑え、凝縮温度の上昇を防いで、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【0105】
さて、次に、4台全ての室内放熱器(125a〜125d)に水熱媒を送水し、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達した状態から、利用者の設定により、3台の室内放熱器(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止した後の、ヒートポンプ温水暖房機100の動作について説明する。
【0106】
図3に、3台の室内放熱器(125a〜125c)への水熱媒の送水を停止した後の、圧縮機111の周波数Fcと循環ポンプ121の回転数Fsの制御の様子と、これらの制御に伴う、往き温度Twoと戻り温度Twiの時間変化の概要を示す。
【0107】
図3の前提条件として、まず、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の送水を停止する時刻T6において、往き温度Twoは目標往き温度Twot(=50℃)に、戻り温度Twitは目標戻り温度Twit(=35℃)になっているものとする。
【0108】
次に、室内放熱器125a〜125dはすべて同じものであるとする。時刻T6において、循環ポンプ121が送出する水熱媒の流量が毎分6Lであるとすると、時刻T6以前では、室内放熱器1台当たりに送水される水熱媒の流量は毎分6.0L/4=1.5Lである。そして、時刻T6以降では、残りの室内放熱器125dにおける水熱媒の循環量は、4倍の毎分6.0Lと大幅に増加する。
【0109】
さらに、時刻T6以前の、4台の室内放熱器125a〜125dにおいて放熱する熱量(熱負荷)は、それぞれ同じであるものとする。すなわち、時刻T6以降に、室内放熱器125dにおいて放熱する熱量(熱負荷)は、時刻T6以前の、室内放熱器125a〜125dにおいて放熱する熱量(熱負荷)の合計の1/4になっている。
【0110】
次に、図3について説明する。時刻T6において、3台の室内放熱器125a〜125cへの水熱媒の送水を停止すると、室内放熱器125dを流れる水熱媒の循環量Mは、4倍の毎分6.0Lと大幅に増加する。この影響を受けて、室内放熱器125dから流出する水熱媒の温度Twiは徐々に上昇し始める。この現象は、数2の関係式に基づいているが、温度Twiは、ステップ的に急上昇はしない。
【0111】
この理由は、室内放熱器125d内の水熱媒配管内には数Lの水熱媒が存在し、水熱媒の循環量Mが増加しても、時刻T6において、室内放熱器125d内の流出配管により近い位置に存在する水熱媒ほど、水熱媒の循環量Mの増加により配管内を流れる熱流媒の温度低下が小さくなる影響を受けずに、室内放熱器125dから流出するためである。
【0112】
次に、水熱媒熱交換器115で加熱された後の水熱媒の往き温度Twoは、戻り温度Twiの上昇に追随して上昇する。熱媒熱交換器115を流れる水熱媒の循環量Mは毎分6.0Lで変化しないため、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱する熱量Qが一定ならば、数1の関係より、温度差Two−Twiが一定となるからである。
【0113】
この状態においては、制御部130は、圧縮機111の周波数Fcの制御(ステップS007とS008)を行う。そして、往き温度Twoを目標往き温度Twotに戻すために、圧縮機111の周波数Fcを落とす。この結果、往き温度Twoの上昇は止まり、逆に下降に転じる。
【0114】
比例ゲインKp1、もしくは積分ゲインKi1を適切に設定していれば、ある程度時間が経つと(図3中の時刻T7)、往き温度Twoを目標往き温度Twotとなっている。また、圧縮機111の周波数Fcは、時刻T6以前に、水熱媒熱交換器115において水熱媒を加熱していた熱量Qが1/4となる周波数に落ち着いている。
【0115】
一方、戻り温度Twiは、往き温度Twoの一時的な上昇の影響を受け、過度に上昇する瞬間もあるが、時刻T7では、行き戻り温度差Two−Twiが、時刻T6以前の1/4となる温度に落ち着いている。Two=Twot=50℃、Two−Twi=(50−35)/4=3.75Kであるため、Twiは50−3.75=約46.3℃となっている。
【0116】
この後の、制御部130の制御は、前述した起動時の制御と全く同様である。すなわち、往き温度Twoと戻り温度Twiとがほぼ一定値になる定常状態となり、かつ、往き温度Twoが目標往き温度Twotに達しているかどうかを監視し(ステップS009〜ステップS011)、これらの条件を満たしていれば、循環ポンプ121の回転数Fsの回転数を制御する(ステップS012とステップS013)。満たしていなければ、圧縮機111の周波数Fcの制御(ステップS007とS008)のみを行う。
【0117】
すなわち、本実施の形態によれば、一部の室内放熱器125への水熱媒の送水を停止するような、熱負荷の急な低下があっても、往き温度Twoと戻り温度Twiの、それぞれの値と時間変化を監視しながら、圧縮機111の周波数Fcの制御と、循環ポンプ121の回転数Fsの制御とを、お互いの制御の影響を受けないように、切り換えて実施するため、それぞれの制御が不安定に陥ることはない。
【0118】
この結果、戻り温度Twiの上昇を確実に抑え、凝縮温度の上昇を防いで、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止すると共に、循環ポンプの運転動力を削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明にかかるヒートポンプ温水暖房機は、ヒートポンプサイクルの冷媒から水熱媒熱交換器において加熱された水熱媒が、循環ポンプにより室内放熱器に搬送され部屋を暖房するとともに、熱負荷の急な低下があっても、ヒートポンプサイクルの効率の低下を防止して、循環ポンプの運転動力を削減することができるので、ランニングコストの小さいヒートポンプ温水暖房機に適用できる。
【符号の説明】
【0120】
100 ヒートポンプ温水暖房機
110 ヒートポンプサイクル
111 圧縮機
112 空気熱交換器
113 空気熱交換器ファン
114 冷媒流量調整弁
115 水熱媒熱交換器
120 水熱媒サイクル
121 循環ポンプ
122 バッファタンク
123 開閉弁
124 リモコン
125 室内放熱器
126 往き温度検知センサ
127 戻り温度検知センサ
130 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、冷媒と熱媒との間で熱交換を行う熱媒熱交換器と、膨張弁と、熱源側熱交換器とで構成されるヒートポンプサイクルと、前記熱媒により暖房を行う室内放熱器と、前記熱媒熱交換器と前記室内放熱器との間で前記熱媒を循環させる循環ポンプと、前記熱媒熱交換器から前記室内放熱器に向かう前記熱媒の温度を検知する往き温度検知手段と、前記室内放熱器から前記熱媒熱交換器に戻る前記熱媒の温度を検知する戻り温度検知手段とを備え、前記往き温度検知手段で検知される往き温度が、目標往き温度となるように前記圧縮機の動作周波数を制御するとともに、前記往き温度の時間変化量が往き温度変化許容範囲に入り、前記戻り温度検知手段で検知される戻り温度の時間変化量が戻り温度変化許容範囲に入り、前記往き温度と目標往き温度との差が往き温度誤差許容範囲に入った場合に、前記戻り温度が目標戻り温度となるように、前記循環ポンプにより前記熱媒の流量を調整することを特徴とするヒートポンプ温水暖房機。
【請求項2】
前記循環ポンプによる前記熱媒の流量の調整量に、上限値を設けていることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ温水暖房機。
【請求項3】
前記目標戻り温度は、34℃以上45℃以下の第1温度範囲より選択することを特徴とした請求項1または2に記載のヒートポンプ温水暖房機。
【請求項4】
前記目標往き温度から前記目標戻り温度を引いた温度差が所定温度差未満の場合に、前記目標往き温度から前記所定温度差を引いた温度を前記目標戻り温度とすることを特徴とする請求項3に記載のヒートポンプ温水暖房機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−163275(P2012−163275A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24918(P2011−24918)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】