説明

ビカルタミド含有製剤

【課題】抗アンドロゲン活性をもつ化合物であり、前立腺癌の治療に広く用いられている医薬であるビカルタミド含有の製剤であって、従来よりもより低コストで安全性の高い添加剤を用いた溶出性に優れるビカルタミド含有製剤の提供。
【解決手段】有効成分ビカルタミド(下式)に、ヒドロキシプロピルセルロースを配合した製剤。ヒドロキシプロピルセルロースの配合量は、ビカルタミド100重量部に対して0.1〜30重量部の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性薬物であるビカルタミドの溶出性を高めた、ビカルタミド含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビカルタミド(bicalutamide)は抗アンドロゲン活性をもつ化合物であり、前立腺癌の治療に広く用いられている。
ビカルタミドは別名4 ’ − シアノ− α ’ , α ’ , α ’ − トリフルオロ− 3 − ( 4 − フルオロフェニルスルホニル) − 2 − ヒドロキシ− 2 − メチルプロピオノ− m − トルイジドのラセミ化合物であり、その構造は

にて示される。
ビカルタミドは水にほとんど溶解しない薬物のため、製剤化には溶解性の向上が不可欠である。
溶解性を向上する手段としては薬物を微粉砕することが公知であり、WO02/100339号パンフレットにはビカルタミドの好ましい平均粒子径が4μmであることを開示している。
しかし、原薬の粉砕だけでは十分な溶解性が得られないことも多いため、更なる製剤的な工夫が必要とされる。
特開2004−143185公報には、ビカルタミドの溶解性を高め、生物学的利用能を増加させる手段として、ビカルタミドと腸溶性ポリマーをアセトンやジクロロメタンなどの有機溶媒に溶解させた後、溶媒を除去して、固体分散体を製造する方法が開示されている。
しかし、固体分散体を製造するには、ビカルタミドよりもはるかに多くの添加剤が必要となるので、製剤が大型化してしまうという問題点と製造工程において多量の有機溶媒を使用しなければならないという問題点がある。
また、溶解性を向上する手段として界面活性剤を添加する方法も公知であるが、界面活性剤の中には毒性を示す物質もあるので、より安全な添加剤を用いて溶解性を高めることが望ましい。
ビカルタミド製剤は、商品名カソデックス錠80mgとして販売されているが、本発明者は低コストで人体への安全性に優れた添加剤を用いてビカルタミドの溶解性を改善することを検討し、本発明に至った。
【0003】
【特許文献1】WO02/100339号パンフレット
【特許文献2】特開2004−143185公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より低コストで安全性の高い添加剤を用いた溶出性に優れるビカルタミド含有製剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明者らは安価でより安全性の高い添加剤を用いて、ビカルタミドの溶出性を鋭意検討した結果、有効成分であるビカルタミドにヒドロキシプロピルセルロースを配合することで、簡易な製法を採用しても、ビカルタミドの溶解性を高めることができることが分かり、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のビカルタミド含有製剤は、ヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とする。
ヒドロキシプロピルセルロースの配合量はビカルタミド100重量部に対して0.1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
ヒドロキシプロピルセルロースは粉末のままで使用することも、水やエタノールなどの溶媒に溶解させて使用することも可能である。
本発明の製剤で使用されるビカルタミドの平均粒子径は20μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、難溶性薬物であるビカルタミドにヒドロキシプロピルセルロースを配合することで溶出性を改善することができたので市販製剤に比較して溶出性を同等以上に確保しつつ、低コストで人体により安全な製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の製剤にはビカルタミド及びヒドロキシプロピルセルロース以外に、医薬品添加物として通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などを適宜配合することが可能である。
本発明で使用される賦形剤としては、乳糖などの糖類、結晶セルロースなどのセルロース類、トウモロコシデンプンなどのデンプン類、リン酸水素カルシウムなどが挙げられるが、乳糖および結晶セルロースが好ましい。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、部分アルファー化デンプンなどが挙げられるが、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンなどが挙げられるが、カルボキシメチルスターチナトリウムおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油などが挙げられるが、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。
本発明の錠剤の製造方法としては、湿式顆粒圧縮法、乾式顆粒圧縮法、直接粉末圧縮法などが挙げられるが、湿式顆粒圧縮法が好ましい。
湿式顆粒圧縮法で用いられる造粒方法としては、撹拌造粒、転動流動層造粒、流動層造粒、押出し造粒、噴霧乾燥造粒などが挙げられるが、撹拌造粒および転動流動層造粒が好ましい。
また、造粒工程で使用する溶媒としては、水、エタノール、メタノール、塩化メチレンなどが挙げられるが、水またはエタノールが好ましい。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
ビカルタミド(平均粒子径:3.0μm)80.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)104.0g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達)4.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)7.0gを攪拌造粒機(VG−01、パウレック製)に入れ、混合後、水34.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(フローコーターミニ、フロイント産業製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品184.6gに対してカルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)6.6g、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)2.8gを加えて混合し、ロータリー打錠機(PICCOLA、奈良機械製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
【実施例2】
【0009】
ビカルタミド(平均粒子径:3.0μm)80.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)64.0g、結晶セルロース(商品名:セオラスKG802、旭化成製)40.0g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達)4.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)7.0gを攪拌造粒機(VG−01、パウレック製)に入れ、混合後、水60.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(フローコーターミニ、フロイント産業製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品187.2gに対してカルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)6.7g、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)2.9gを加えて混合し、ロータリー打錠機(PICCOLA、奈良機械製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
【実施例3】
【0010】
ビカルタミド(平均粒子径:3.0μm)80.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)64.0g、結晶セルロース(商品名:セオラスKG802、旭化成製)40.0g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達)4.0g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:L−HPC、信越化学製)7.0gを攪拌造粒機(VG−01、パウレック製)に入れ、混合後、水55.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(フローコーターミニ、フロイント産業製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品179.1gに対して低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:L−HPC、信越化学製)6.4g、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)2.8gを加えて混合し、ロータリー打錠機(PICCOLA、奈良機械製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
【実施例4】
【0011】
ビカルタミド(平均粒子径:3.0μm)80.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)60.0g、結晶セルロース(商品名:セオラスKG802、旭化成製)40.0g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達)8.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)14.0gを攪拌造粒機(VG−01、パウレック製)に入れ、混合後、水68.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(フローコーターミニ、フロイント産業製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品195.8gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)2.9gを加えて混合し、ロータリー打錠機(PICCOLA、奈良機械製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
【実施例5】
【0012】
ビカルタミド(平均粒子径:3.2μm)240.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)192.0g、結晶セルロース(商品名:セオラスKG802、旭化成製)120.0g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達)12.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)42.0gを攪拌造粒機(VG−05、パウレック製)に入れ、混合後、水216.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(MP−01、パウレック製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品565.6gに対してステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)8.4gを加えて混合し、ロータリー打錠機(アクエリアス、菊水製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
精製水129.68g、ヒプロメロース(商品名:TC−5RW、信越化学製)6.83g、マクロゴール6000(商品名:マクロゴール6000P、日本油脂製)1.05g、酸化チタン(商品名:TIPAQUE、石原産業製)1.58g、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)1.05gを溶解、分散させたコーティング液を調製し、先に得た錠剤307.5を錠剤コーティング機(HC−LABO:フロイント産業製)に入れ、1錠の重量が210mgになるまでコーティング液をスプレーして、フィルムコーティング錠を得た。
以上の実施例1〜5の処方を図1の表に一錠当りの配合成分量として表した。
表中、HPCはヒドロキシプロピルセルロースを示し、CMS−Naはカルボキシメチルスターチナトリウムを示す。
【0013】
(比較例1)
ビカルタミド(平均粒子径:3.0μm)80.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)104.0g、ポリビニルピロリドンK30(商品名:コリドン30、BASF)4.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)7.0gを攪拌造粒機(VG−01、パウレック製)に入れ、混合後、水34.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(フローコーターミニ、フロイント産業製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品184.6gに対してカルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)6.6g、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)2.8gを加えて混合し、ロータリー打錠機(PICCOLA、奈良機械製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
【0014】
(比較例2)
精製水149.72g、ヒプロメロース(商品名:TC−5RW、信越化学製)7.88g、マクロゴール300(商品名:マクロゴール300、三洋化成製)1.05g、酸化チタン(商品名:TIPAQUE、石原産業製)1.58gを溶解、分散させたコーティング液を調製し、比較例1で得た錠剤および希釈錠合計307.5を錠剤コーティング機(HC−LABO:フロイント産業製)に入れ、1錠の重量が210mgになるまでコーティング液をスプレーして、フィルムコーティング錠を得た。
【0015】
(比較例3)
ビカルタミド(平均粒子径:3.0μm)80.0g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV製)100.0g、ポリビニルピロリドンK30(商品名:コリドン30、BASF)8.0g、カルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)7.0gを攪拌造粒機(VG−01、パウレック製)に入れ、混合後、水32.0gを添加して造粒した。
造粒物を流動層乾燥機(フローコーターミニ、フロイント産業製)で乾燥し、22メッシュ篩で整粒した。
整粒品184.6gに対してカルボキシメチルスターチナトリウム(商品名:グリコリス、ROQUETTE製)6.6g、ステアリン酸マグネシウム(日本油脂製)2.8gを加えて混合し、ロータリー打錠機(PICCOLA、奈良機械製作所製)にて、直径7.5mm、重量205mgの錠剤を得た。
以上の比較例1〜3の処方を図2の表に一錠当りの配合成分量として表した。
表中、PVPはポリビニルピロリドンを示す。
【0016】
(試験)
各種錠剤の溶出性を確認するために、実施例1〜5及び比較例1〜3の錠剤の溶出試験を、装置:パドル法、試験液:1%ポリソルベート80を添加したMcIlvaine緩衝液(pH4.0)、試験液量:900mL、試験液温度:37±0.5℃、パドル回転数:50rpmの条件で実施した。
その結果を図3の表に示す。
ヒドロキシプロピルセルロースを配合した実施例1〜5は120分の溶出率が90%前後を示すが、ヒドロキシプロピルセルロースを配合していない比較例1〜3は120分の溶出率が70%程度であり、溶出率に差が見られた。
有効成分であるビカルタミドにヒドロキシプロピルセルロースを配合することで、簡易な製法を採用しても、ビカルタミドの溶解性を高めることができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施例の処方例を示す。
【図2】比較例としてHPCのかわりにPVPを用いた処方例を示す。
【図3】溶出性試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分ビカルタミドにヒドロキシプロピルセルロースを配合してあることを特徴とする溶出性に優れたビカルタミド含有製剤。
【請求項2】
ヒドロキシプロピルセルロースの配合量はビカルタミド100重量部に対して0.1〜30重量部の範囲であることを特徴とする請求項1記載のビカルタミド含有製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84236(P2009−84236A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258492(P2007−258492)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(592073695)日医工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】