説明

ビスフェノールAの再利用方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】ポリカーボネート樹脂の製造における反応排水中から酸析によって沈殿させた品質に劣るビスフェノールAから、高品質のポリカーボネート樹脂の製造に使用できるような十分満足のいく品質のビスフェノールAを得る方法を提供する。
【解決手段】(1)ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有するアルカリ水溶液に酸を加え、固体を析出させてろ過し、(2)得られたビスフェノールAを含有する固体、フェノールおよび水を混合し、70〜150℃で加熱、溶解した後、15〜60℃に冷却して、固形物(ビスフェノールAフェノール付加体)を析出させてろ過し、(3)得られたビスフェノールAフェノール付加体をポリカーボネート樹脂の原料として使用することを特徴とするビスフェノールAの再利用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート製造工程より排出される排水中に残存しているビスフェノールAを回収し、精製する方法、さらに、精製されたビスフェノールAを使用してポリカーボネート樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、脂肪族または芳香族ジヒドロキシ化合物、カーボネート前駆体、および末端停止剤を単相の溶液状態で重合させる方法や有機層と水層との界面において重合させる方法(溶液法)、または原料を溶融状態で混合し、エステル交換により重合させる方法(溶融法)等が知られている。
前記ポリカーボネート樹脂の製造方法において、界面重合法では相当量の反応排水が発生し、この反応排水中には原材料として使用したビスフェノールAが存在している。
【0003】
従来、ポリカーボネート樹脂の製造における反応排水中よりビスフェノールAを回収する方法としては、酸析によって沈殿させたビスフェノールAを濾過分離する方法が知られている。この方法は、大量のビスフェノールAを処理する方法として適している。
しかしながら、この方法で回収したビスフェノールAは不純物が多く存在し、これを原材料としてポリカーボネート樹脂を製造するには、十分な精製をする必要がある。
【0004】
これに対し、特許文献1では、未反応ビスフェノールAの有機溶媒抽出法が示されている。この公報では、ポリカーボネート樹脂の製造時において発生する反応排水のpHを5より高く且つ10以下にすると共に、該反応排水に対し5容量%以上の有機溶媒を接触させてビスフェノールAを抽出する方法が開示されている。しかし、この方法では、有機溶媒に抽出されるビスフェノールAの量は、最大でその有機溶媒に溶解するビスフェノールAの溶解度以下となり、回収量を増やすには大量の有機溶媒が必要になる。また、ポリカーボネート製造によって発生したビスフェノールA以外の不純物もビスフェノールAと同時に有機溶媒に抽出され、ポリカーボネートの品質が低下するという問題もある。
【0005】
一方、ビスフェノールAの製造方法は、アセトンとフェノールを酸触媒存在下反応させてビスフェノールAを生成させ、過剰の仕込みフェノールを留去することによりフェノール−ビスフェノールA付加体を生成し、ろ過したフェノール−ビスフェノールA付加体からスチーム等を使用してフェノールを除去し、溶融状態のビスフェノールAを得、それを不活性気体中に吹き込んで固体にする方法が一般的に知られている(例えば、特許文献2、特許文献3および特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特開平3−292341号公報
【特許文献2】英国特許第883391号明細書
【特許文献3】特開平5−331088号公報
【特許文献4】特開平5−294874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶液法のポリカーボネート樹脂製造工程より発生する反応排水からビスフェノールAを回収し、ポリカーボネート樹脂製造に使用可能な高品質のビスフェノールAフェノール付加体、またはビスフェノールAを得る方法を提供することである。
本発明の他の目的は、その回収した品質の良好なビスフェノールAを使用して高品質のポリカーボネート樹脂を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリカーボネート樹脂の製造における反応排水中から酸析によって沈殿させた品質に劣るビスフェノールAから、高品質のポリカーボネート樹脂の製造に使用できるような十分満足のいく品質のビスフェノールAを得る方法を提供すること、および、得られたビスフェノールAを原材料として高品質のポリカーボネート樹脂を製造することを目的として鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有する水溶液に酸を加え、固体を析出させてろ過し、その固体をフェノール/水混合液に入れ、加熱溶解させ、その後冷却して析出した固形分をろ過して、高純度のビスフェノールAフェノール付加体が得られること、また、ビスフェノールAフェノール付加体からフェノールを除去することにより、純度の高いビスフェノールAを得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
1.(1)ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有するアルカリ水溶液に酸を加え、固体を析出させてろ過し、(2)得られたビスフェノールAを含有する固体、フェノールおよび水を混合し、70〜150℃で加熱、溶解した後、15〜60℃に冷却して、固形物(ビスフェノールAフェノール付加体)を析出させてろ過し、(3)得られたビスフェノールAフェノール付加体をポリカーボネート樹脂の原料として使用することを特徴とするビスフェノールAの再利用方法、
2.(1)ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有するアルカリ水溶液に酸を加え、固体を析出させてろ過し、(2)得られたビスフェノールAを含有する固体、フェノールおよび水を混合し、70〜150℃で加熱、溶解した後、15〜60℃に冷却して、固形物(ビスフェノールAフェノール付加体)を析出させてろ過し、(3)得られたビスフェノールAフェノール付加体からフェノールを除いてビスフェノールAを回収し、(4)回収したビスフェノールAをポリカーボネート樹脂の原料として使用することを特徴とするビスフェノールAの再利用方法、
3.ビスフェノールAを含有する固体100重量部に対し、フェノール成分を100〜500重量部使用する前項1または2記載のビスフェノールAの再利用方法、
4.フェノールと水との混合比が、重量比で99:1〜1:99である前項1または2記載のビスフェノールAの再利用方法、
5.前項1または2において、(2)の加熱、溶解後に、ろ過を行い、未溶解物を除去することを特徴とする前項1または2記載のビスフェノールAの再利用方法、
6.前項1で得られた回収ビスフェノールAフェノール付加体をビスフェノール換算重量で1〜99重量%および購入したビスフェノールAを99〜1重量%使用して、かかるビスフェノールAとジフェニルカーボネートおよび触媒を使用し、減圧下でフェノールを留去することにより重合させるポリカーボネート樹脂の製造方法、および
7.前項2で得られた回収ビスフェノールAを1〜99重量%および購入したビスフェノールAを99〜1重量%使用して、かかるビスフェノールAのアルカリ水溶液を調合し、有機溶剤の存在下にホスゲンと反応させるポリカーボネート樹脂の製造方法、
が提供される。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有するアルカリ水溶液を使用する。かかる排水は、主に溶液法の反応工程で使用した水相を分液して得られた排水が使用される。
【0011】
ビスフェノールAを原材料とした溶液法のポリカーボネート製造工程で発生する排水中に、ビスフェノールAは、通常0.1〜5.0g/Lの濃度で存在する。また、通常排水はアルカリ性であるので、酸を加えて酸性にすると、排水中に存在しているビスフェノールAは析出し、スラリー状態になる。
このスラリーから固体をろ取すると、粗ビスフェノールA固体が得られる。この粗ビスフェノールAは、水分、無機塩、その他不純物を含んでいる。
【0012】
本発明では、この粗ビスフェノールA固体にフェノール/水の混合溶媒を加え、加熱溶解させた後、冷却して、固体を析出させる。この固体はビスフェノールAフェノール付加体である。ビスフェノールAとフェノールは、モル比1:1の付加体を生成する。このため、ビスフェノールAフェノール付加体を生成させるためには、理論上、フェノールのモル数は最低でもビスフェノールAのモル数よりも多くしなければならない。
【0013】
実際に精製されたビスフェノールAフェノール付加体を得るためには、粗ビスフェノールA固体100重量部に対し、混合溶媒中のフェノール量を100〜500重量部の範囲とすることが好ましい。フェノールが100重量部より少ないとビスフェノールAフェノール付加体が生成しにくくなり、500重量部より多いとビスフェノールAフェノール付加体の結晶発生量が少なくなり、母液リサイクル率が高くなり、工程エネルギーが多大となり不利となる。より好ましくはフェノール量を125〜450重量部の範囲、さらに好ましくはフェノール量を150〜400重量部の範囲とする。
【0014】
フェノール/水の混合溶媒を使用する理由は、フェノール単独ではビスフェノールAフェノール付加体の結晶化操作が不安定となる。安定に操作を行うことが可能で、精製効果の高いフェノール/水混合溶媒の混合比率は、重量比で好ましくは99:1〜1:99であり、より好ましくは98:2〜40:60であり、さらに好ましくは97:3〜60:40、特に好ましくは95:5〜80:20である。この範囲よりフェノールの割合が多い場合は、水スラリーが生成しにくく、全体が固化してしまい、操作が難しい。水の割合が多い場合は、溶媒の使用量が多くなることによる排水工程の負荷が高くなること、不純物の除去ができず固体の純度が低くなるという問題がある。
【0015】
粗ビスフェノールAをフェノール/水の混合溶媒により加熱溶解する温度は、70〜150℃である。この温度は、フェノール/水の混合溶媒の比率によって異なるが、粗ビスフェノールA全量が溶解する温度以上であり、大気圧において、フェノール/水の混合溶媒の沸点を越えない温度とする。好ましくは80〜140℃であり、より好ましくは90〜130℃である。また、加熱時間は、粗ビスフェノールA固体が完全に溶解する時間であればよく、2〜60分の範囲が好ましい。
また、加熱溶解させた後(次の冷却前)にろ過を行うと、夾雑物が除去され、スラリー中の固体不純物の量がより低減されるので好ましい。
【0016】
次いで、粗ビスフェノールA固体がフェノール/水の混合溶媒に溶解した溶液を冷却して、固形物を(ビスフェノールAフェノール付加体)を析出させる。冷却温度は、15〜60℃であり、好ましくは20〜50℃である。低温過ぎると溶液が固化し易くなり、高温過ぎるとビスフェノールAフェノール付加体の回収率が劣ることとなる。
【0017】
次いで、得られたビスフェノールAフェノール付加体をろ取し、溶液法によるポリカーボネート樹脂の製造原料として使用するときは、フェノールを除去する必要がある。フェノール除去は溶融して減圧留去する方法、スチームストリッピング法など、常法によって行われる。
【0018】
また、溶融法によるポリカーボネート樹脂の製造原料として使用するときは、得られたビスフェノールAフェノール付加体をそのまま原材料として使用することが可能である。このときは重合反応中でフェノールが留出する。
【0019】
ポリカーボネート樹脂を製造する基本的な手段を簡単に説明する。カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる溶液法では、通常酸結合剤および有機溶媒の存在下に芳香族ジヒドロキシ化合物成分とホスゲンとの反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノールやp−tert−ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることが望ましい。反応温度は通常0〜40℃、反応時間は数分〜5時間、反応中のpHは10以上に保つのが好ましい。
【0020】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用いるエステル交換法(溶融法)は、不活性ガスの存在下に所定割合の芳香族ジヒドロキシ化合物成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌し、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法である。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応させる。また反応を促進するために通常のエステル交換反応触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いる炭酸ジエステルとしては例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等があげられ、特にジフェニルカーボネートが好ましい。また、分子末端の未反応ヒドロキシル基低減のために末端停止剤を用いることもできるし、残存触媒活性を不活性化する不活性化剤を用いることが望ましい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して1.7×10〜3.0×10が好ましく、2.0×10〜2.6×10が特に好ましい。ここで、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、オストワルド粘度計を用いて塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0022】
また、製造されたポリカーボネート樹脂には、離型剤、蛍光増白剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、抗菌剤等改質改良剤を適宜添加して用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂の製造における反応排水中から酸析によって沈殿させた品質に劣るビスフェノールAから、高品質のポリカーボネート樹脂の製造に使用できるような、十分満足のいく品質のビスフェノールAを回収でき、その回収されたビスフェノールAを原材料として高品質のポリカーボネート樹脂を製造することができる。本発明の奏する工業的効果は格別である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に断り書きのない場合、部は重量部を表す。なお、評価は次に示す方法で行った。
【0025】
(1)色相(b値)
ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形機(日本製鋼所(株)製:日鋼アンカー V−17−65型)を用い、シリンダー温度350℃で、厚さ2mmの50mm角板を成形した。その成形板を色差計(日本電色(株)製)を用いてb値を測定した。
【0026】
(2)熱安定性(△E)
ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形機(日本製鋼所(株)製:日鋼アンカー V−17−65型)を用い、シリンダー温度350℃で10分間滞留させたものとさせないものの試験片(厚さ2mmの50mm角板)をそれぞれ作成し、その色相の変化(△E)を測定した。色相の変化は、色差計(日本電色(株)製)でそれぞれのL、a、b値を測定し、下記式を用いて算出した。
ΔE=[(L′−L)+(a′−a)+(b′−b)1/2
(L、a、bは滞留させないもの、L′、a′、b′は10分間滞留させたもの)
【0027】
(3)ビスフェノールA水溶液中のビスフェノールA濃度
ビスフェノールA水溶液を0.1〜0.5重量%になるように水酸化ナトリウム水溶液で薄め、UV計で波長294nmで吸光度を測定し、あらかじめ作成した検量線により水溶液中のビスフェノールA濃度を測定した。
【0028】
(4)ハーゼン色数
JIS K−0071に準じて測定した。
【0029】
[実施例1](ビスフェノールAフェノール付加体の回収)
PC製造工程からの排水(pH12.5、ビスフェノールA濃度0.26%)と98%濃硫酸を連続的に混合してpH3になるように調整し、ビスフェノールAを析出させ、連続的ろ過装置で主成分がビスフェノールAである固体を得た。この主成分がビスフェノールAである固体はピンク色をしていた。100℃で、6時間乾燥後、メタノールに溶解させて、不溶分をろ取したところ、不溶分は塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムであり、乾燥固形分中2.5重量%であった。
この塩分を含んだ固体150部と電気伝導度が100μS/cm以下の水500部で混合し、該スラリーをろ過し、固体を得、ついで電気伝導度が1μS/cm以下の純水100部でリンスした。得られた固形分を100℃、6時間乾燥し、乾燥した粗ビスフェノールA固体を得た。
【0030】
この粗ビスフェノールA固体100部、フェノール300部、水33.3部をフラスコに入れ、95℃で30分保持し溶解させた。混合液をろ過し、夾雑物を除去した。
ろ過して得られた混合液を、攪拌機つきフラスコに移し、95℃オイルバスで保温した。
その後、攪拌しながら2時間かけて30℃まで冷却し、固体を析出させた。
得られたスラリーをろ過し、さらに水10重量%を含むフェノール40部で2回リンスし、電気伝導度1μS/cm以下の純水200部でリンスし、ビスフェノールAフェノール付加体を固体として得た。80℃24時間熱風乾燥機で乾燥した後の重量は110部であった。
【0031】
[実施例2](ビスフェノールA水溶液の調整)
実施例1で得られたビスフェノールAフェノール付加体を攪拌機つきフラスコに入れ、攪拌しながら100℃、200kPaでフェノールと水を留去し、さらに180℃、30kPaでスチームストリッピングしてフェノールをほぼ完全に除去した。窒素を充填して常圧に戻して、ビスフェノールA液体を得た。
【0032】
温度計、撹拌機、還流冷却器、循環器付き反応器に、イオン交換水650部、25%水酸化ナトリウム水溶液252部を仕込み、塩化メチレン13部およびハイドロサルファイト0.34部を加え、循環しながらビスフェノールA液体170部を加え、冷却して温度を30℃に保持し40分間で溶解し、ビスフェノールA水溶液を調合した。濃度を測定したところ、濃度170g/Lであった。このビスフェノールA水溶液はハーゼン色数10であった。
【0033】
[実施例3](ビスフェノールAフェノール付加体の回収)
実施例1において塩分を除去した粗ビスフェノールA固体100部、フェノール150部、水30部を用いること以外は、実施例1と同様の操作を行い、乾燥後のフェノール付加体を112部得た。
【0034】
[実施例4](ビスフェノールA水溶液の調整)
実施例3で得られたビスフェノールAフェノール付加体を実施例2の方法でスチームストリッピング、溶液調合を行い、濃度170g/LのビスフェノールA水溶液を得た。このビスフェノールA水溶液はハーゼン色数20であった。
【0035】
[実施例5](ビスフェノールAフェノール付加体の回収)
実施例1において塩分を除去した粗ビスフェノールA固体100部、フェノール100部、水50部を用いること以外は、実施例1と同様の操作を行い、乾燥後のフェノール付加体を115部得た。
【0036】
[実施例6](ビスフェノールA水溶液の調整)
実施例5で得られたビスフェノールAフェノール付加体を実施例2の方法でスチームストリッピング、溶液調合を行い、濃度170g/LのビスフェノールA水溶液を得た。このビスフェノールA水溶液はハーゼン色数50であった。
【0037】
[比較例1](ビスフェノールAフェノール付加体の回収)
実施例1において、フェノール300部を使用し、水を使用しなかったところ、冷却中35℃まで冷却したとき、フラスコ内部全体が固化し、操作困難になった。再度95℃まで加熱し、2時間かけて70℃まで冷却したところ、スラリーになったので、70℃でろ過を行い、固形分を30部得た。
【0038】
[参考例1](溶融法によるポリカーボネート樹脂の製造)
購入したビスフェノールA228部、ジフェニルカーボネート220部および触媒としてビスフェノールAのナトリウム塩5.4×10−4部(ビスフェノールAに対し2×10−6モル)とテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを9.1×10−3部(ビスフェノールAに対し100×10−6モル)を攪拌装置、蒸留器および減圧装置を備えた反応槽に仕込み窒素置換した後、140℃で溶融させた。30分間攪拌後、内温を180℃に昇温し、133kPaで30分間反応させ、生成するフェノールを留去した。
【0039】
次に200℃に昇温しつつ徐々に減圧し67kPaで30分間フェノールを留去しつつ反応させた。さらに220℃、40kPaまで徐々に昇温、減圧し、同温同圧で30分間、さらに240℃、13kPa、260℃、1.3kPa、270℃、1.3kPa以下になるまで上記と同じ手順で昇温、減圧を繰り返し反応を続行した。
【0040】
最終的に同温・同圧で1時間重合を行い、ポリカーボネート樹脂の固有粘度が0.35程度になった段階で、2―メトキシカルボニルフェニルベンゾエート7.6部(ポリカーボネート樹脂100gに対し2.96g)の末端改質剤を添加した。その後、270℃、1.3kPa以下で5分間反応を継続し、末端改質反応を行った。次に溶融状態のままで、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩2.3×10−3部(ビスフェノールAに対し4×10−6モル)を添加した。その後、270℃、13kPa以下で10分間反応を継続した。
【0041】
以上の操作により得られたポリマーをベント式二軸押出機[東芝機械(株)製TEM−50B]に導入し、シリンダー温度280℃、乾式真空ポンプを用いてベント吸引圧7kPaで吸引脱気しながら溶融混練押出し、ペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0042】
[参考例2](溶液法によるポリカーボネート樹脂の製造)
温度計、撹拌機、還流冷却器、循環器付き反応器に、イオン交換水65000部、25%水酸化ナトリウム水溶液25200部を仕込み、これに塩化メチレン13部、およびハイドロサルファイト34部を加え攪拌した。購入したビスフェノールA17000部、循環しながら温度を30℃に保持しながら40分間で溶解し、ビスフェノールA水溶液を調合した。濃度を測定したところ、濃度170g/Lであった。
【0043】
温度計、撹拌機及び還流冷却器付き反応器に、該ビスフェノールA水溶液367部を仕込み、塩化メチレン181部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン28.3部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液7.2部およびp−tert−ブチルフェノール/塩化メチレン溶液2.42部を加え、乳化せしめた後、10分後にトリエチルアミン0.06部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物に塩化メチレン400部を加え混合した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離して、ポリカーボネート樹脂濃度14.5重量%有機溶媒溶液を得た。(この操作を、反応機2機を用いて繰り返し行った。)この有機溶媒溶液に水150部を加えて攪拌混合した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。この有機相にpH3の塩酸水200部を加え、攪拌混合しトリエチルアミン等を抽出した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。次いでさらに分離した有機相にイオン交換水200部を加え攪拌混合した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで(4回)繰返した。得られた精製ポリカーボネート樹脂溶液をSUS304製の濾過精度1μmフィルターで濾過した。
【0044】
次に、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けた内壁の材質がSUS316L製の1000Lニーダーにイオン交換水100Lを投入し、水温42℃にて該有機溶媒溶液を滴下して、塩化メチレンを蒸発させて粉粒体とし、該粉粒体と水との混合物を水温95℃にコントロールされた攪拌機付熱水処理槽を有した熱水処理工程の熱水処理槽に投入し、粉粒体25部、水75部の混合比で30分間攪拌機混合した。この粉粒体と水の混合物を遠心分離機で分離して塩化メチレン0.5重量%、水45重量%の含有粉粒体を得た。次に、この粉粒体を140℃にコントロールされているSUS316L製伝導受熱式溝型2軸攪拌連続乾燥機に50kg/h(ポリカーボネート樹脂換算)で連続供給して、平均乾燥時間3時間の条件で乾燥して粉粒体を得た。
【0045】
この粉粒体にトリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.010重量%、4,4’−ビフェニレンジホスホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)を0.010重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.080重量%加え混合した。次に、かかる粉粒体をベント式二軸押出機[東芝機械(株)製TEM−50B]によりシリンダー温度280℃、乾式真空ポンプを用いてベント吸引圧7kPaで吸引脱気しながら溶融混練押出し、ペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0046】
[実施例7]
参考例1において、購入したビスフェノールA228部の代わりに、購入したビスフェノールAを216.6部と実施例1で回収したビスフェノールAフェノール付加体を16.1部使用した以外は参考例1と同様の操作を行い、ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0047】
[実施例8]
参考例1において、購入したビスフェノールA228部の代わりに、購入したビスフェノールAを216.6部と実施例3で回収したビスフェノールAフェノール付加体を16.1部使用した以外は参考例1と同様の操作を行い、ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0048】
[実施例9]
参考例1において、購入したビスフェノールA228部の代わりに、購入したビスフェノールAを216.6部と実施例5で回収したビスフェノールAフェノール付加体を16.1部使用した以外は参考例1と同様の操作を行い、ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0049】
[実施例10]
参考例2において、購入したビスフェノールAから調整したビスフェノールA水溶液367部の代わりに、購入したビスフェノールAから調整したビスフェノールA水溶液348.5部と実施例2で調整したビスフェノールA水溶液18.5部を使用した以外は参考例2と同様の操作を行い、ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0050】
[実施例11]
参考例2において、購入したビスフェノールAから調整したビスフェノールA水溶液367部の代わりに、購入したビスフェノールAから調整したビスフェノールA水溶液348.5部と実施例4で調整したビスフェノールA水溶液18.5部を使用した以外は参考例2と同様の操作を行い、ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0051】
[実施例12]
参考例2において、購入したビスフェノールAから調整したビスフェノールA水溶液367部の代わりに、購入したビスフェノールAから調整したビスフェノールA水溶液348.5部と実施例6で調整したビスフェノールA水溶液18.5部を使用した以外は参考例2と同様の操作を行い、ポリカーボネートペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量を測定し、また、かかるペレットを用いて成形して、色相(b値)と熱安定性(ΔE)を評価し、それらの結果を表1に示した。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有するアルカリ水溶液に酸を加え、固体を析出させてろ過し、(2)得られたビスフェノールAを含有する固体、フェノールおよび水を混合し、70〜150℃で加熱、溶解した後、15〜60℃に冷却して、固形物(ビスフェノールAフェノール付加体)を析出させてろ過し、(3)得られたビスフェノールAフェノール付加体をポリカーボネート樹脂の原料として使用することを特徴とするビスフェノールAの再利用方法。
【請求項2】
(1)ポリカーボネート製造工程より排出されたビスフェノールAを含有するアルカリ水溶液に酸を加え、固体を析出させてろ過し、(2)得られたビスフェノールAを含有する固体、フェノールおよび水を混合し、70〜150℃で加熱、溶解した後、15〜60℃に冷却して、固形物(ビスフェノールAフェノール付加体)を析出させてろ過し、(3)得られたビスフェノールAフェノール付加体からフェノールを除いてビスフェノールAを回収し、(4)回収したビスフェノールAをポリカーボネート樹脂の原料として使用することを特徴とするビスフェノールAの再利用方法。
【請求項3】
ビスフェノールAを含有する固体100重量部に対し、フェノール成分を100〜500重量部使用する請求項1または2記載のビスフェノールAの再利用方法。
【請求項4】
フェノールと水との混合比が、重量比で99:1〜1:99である請求項1または2記載のビスフェノールAの再利用方法。
【請求項5】
請求項1または2において、(2)の加熱、溶解後に、ろ過を行い、未溶解物を除去することを特徴とする請求項1または2記載のビスフェノールAの再利用方法。
【請求項6】
請求項1で得られた回収ビスフェノールAフェノール付加体をビスフェノール換算重量で1〜99重量%および購入したビスフェノールAを99〜1重量%使用して、かかるビスフェノールAとジフェニルカーボネートおよび触媒を使用し、減圧下でフェノールを留去することにより重合させるポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項2で得られた回収ビスフェノールAを1〜99重量%および購入したビスフェノールAを99〜1重量%使用して、かかるビスフェノールAのアルカリ水溶液を調合し、有機溶剤の存在下にホスゲンと反応させるポリカーボネート樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−106192(P2008−106192A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292283(P2006−292283)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】