説明

ビスフェノールA製造装置の洗浄方法

【課題】装置のビスフェノールAの付着を内部に亘って効率的に除去し、冷却効果の維持、差圧の上昇の抑制、長期間の造粒塔の連続運転を可能にすることができる、ビスフェノールAの製造装置の安価で環境負荷の少ない洗浄方法を提供する。
【解決手段】溶融ビスフェノールAを造粒塔1内で冷却ガスと接触させて固体プリル状のビスフェノールAを製造する際に使用するビスフェノールA製造装置の洗浄方法であって、冷却ガスと造粒塔及び/またはその周辺機器からなる装置との接触面にドライアイス粒子を衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスフェノールAが付着した装置の洗浄方法に関する。詳しくは、溶融ビスフ
ェノールAを造粒塔内で冷却ガスと接触させて固体プリル状のビスフェノールAを製造する際に使用するビスフェノールA製造装置の洗浄方法であって、冷却ガスと接触する造粒塔
及び/またはその周辺機器からなる装置との接触面にドライアイス粒子を衝突させるビスフェノールA製造装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAは、一般に直径1〜3mm程度のプリルと呼ばれる球状の固体で市中に流通している。プリルは、一般的に溶融状態のビスフェノールAを、造粒塔内で冷却ガスと交流接触させ、固化させることにより製造されている。より詳しくは、造粒塔上部に設置された目皿から溶融ビスフェノールAの液滴を落下させ、溶融ビスフェノールAより
も低温の窒素などのガスを向流接触させることにより固化させる。一般に冷却に使用したガスは温度が上昇しているので、熱交換器で冷却したのちに循環再利用されている。(特許文献1参照)
ビスフェノールAの固化冷却に使用された冷却ガスは、造粒塔内での溶融ビスフェノー
ルAと直接接触するため、ビスフェノールAのような種々の有機物の蒸気を含有している。このような有機物の蒸気を含有しているガスを熱交換器で冷却すると、有機物の飽和蒸気圧が低下するため、含有されていた有機物が熱交換器の伝面(表面)に付着し、熱交換器の伝熱効率の低下、及び差圧の上昇を招く。このような場合、都度プラントを停止し、当該熱交換器の洗浄を行う必要が発生し、連続運転が困難になる場合がある。また洗浄を行う方法としては、スチームにより融解する方法、溶媒に溶解させる方法、機械的に掻き取るなどの方法があるが、前二者はビスフェノールAはじめ種々の有機物質と水、溶媒が混じった廃液が大量に発生するという環境、コスト面での問題が発生し、また後者は熱交換器伝面の表面しか除去することができないので、形状が複雑であったり、厚みがある熱交換器の場合 伝面内部に付着した有機物の除去が困難である。
【0003】
特許文献2には、熱交換器の入口側のガスの温度における有機物の蒸気圧が、熱交換器の伝熱面の表面温度における有機物の飽和蒸気圧以下となる様に、熱交換器に供給される冷媒の供給量および温度を制御することにより有機物の熱交換器伝面の付着を減らすことが開示されているが、この制御による方法によってもある期間の運転後、運転を停止させて、伝熱面の洗浄を行う必要があり、より長期間の連続運転を可能にすべく洗浄方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002-534402号公報
【特許文献2】特開2007-262021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は上記の実情を踏まえ、ビスフェノールAの造粒塔内で溶融ビスフェノールA液の冷却ガスとして使用し、種々の有機物質の蒸気を含有しているガスを熱交換器で冷却し、再び溶融ビスフェノールA液の冷却ガスとして使用する際に、熱交換器、特にフィン付き多管式熱交換器の伝熱面への付着を内部に亘って効率的に除去し、冷却効果の維持、差圧の上昇の抑制、長期間の造粒塔の連続運転を可能にすることができる、ビスフェノールAの製造装置の安価で環境負荷の少ない洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題の解決のために検討を行った結果、溶融ビスフェノールAを造粒
塔内で冷却ガスと接触させて固体プリル状のビスフェノールAを製造する際に使用するビ
スフェノールA製造装置を洗浄するに際し、冷却ガスと造粒塔及び/またはその周辺機器
からなる装置との接触面にドライアイス粒子を衝突させることによって上記課題を解決できることを見出し本発明に到った。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、溶融ビスフェノールAを造粒塔内で冷却ガスと接触させて固体
プリル状のビスフェノールAを製造する際に使用するビスフェノールA製造装置の洗浄方法であって、冷却ガスと造粒塔及び/またはその周辺機器からなる装置との接触面にドライアイス粒子を衝突させることを特徴とするビスフェノールA製造装置の洗浄方法に存する

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビスフェノールAの造粒塔内で溶融ビスフェノールA液の冷却ガスとして使用し、種々の有機物質の蒸気を含有しているガスを熱交換器で冷却した後に、再び溶融ビスフェノールA液の冷却ガスとして使用する際に使用する装置において、多量の排水や廃溶媒を生ずることなく、熱交換器、特にフィン付き多管式熱交換器の伝熱面への付着を内部に亘って効率的に除去し、冷却効果の維持、差圧の上昇の抑制、を可能にすることができる。またこの除去方法を造粒塔内部に設置して運転中に非開放で実施することによって、運転を停止することなく熱交換器の伝熱面に付着した有機物を除去することができ、長期間の造粒塔の連続運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ビスフェノールAの溶融液を固体プリル状とするために使用される、代表的な造粒装置の図である。
【図2】フィン付き多管式熱交換器の側面の代表図である。
【図3】フィン付き多管式熱交換器の上面の代表図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
本発明のビスフェノールAの製造装置の洗浄方法は、例えば、造粒塔の塔上部に配置されたノズルからビスフェノールA溶融液を液滴状に吐出し、溶融液の温度より低温のガスと向流接触させることにより溶融液を固体プリル状(粒状化)とし、溶融液と接触させたガスを造粒塔の塔上部から抜き出した後に熱交換器で冷却し、冷却したガスを造粒塔の塔下部に供給して循環使用するような装置に適用できる。
本発明にかかわる溶融ビスフェノールA に特に制限はなく、代表的な方法として以下
に示す方法などにより製造することができる。
【0011】
<溶融ビスフェノールAの製造方法>
酸性イオン交換樹脂や塩酸、硫酸のような鉱酸などの酸性触媒の存在下、大過剰のフェノールとアセトンとを縮合反応させてビスフェノールA を含む反応混合液を得て、未反
応のアセトン、フェノールの一部、生成する水などを除去・濃縮した溶液からアダクト結晶と呼ばれるビスフェノールA とフェノールとの付加物結晶を含むスラリー溶液を得、
固液分離して結晶のみを取りだした後に、アダクト結晶を加熱溶融後、フェノールを留去させることにより製造することができる。
【0012】
この際に使用する酸性触媒としてはビスフェノールAの製造触媒として用いられる酸性
のイオン交換樹脂が好ましく、特にベンゼン環総数とほぼ同数のスルホン酸基を導入したスチレン−ジビニルベンゼン共重合型の酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。またこの触媒を用いて反応を行う際に、メルカプタン類の化合物を助触媒として共存させるのがよい。このメルカプタン類は、分子内にチオール基を遊離の形で有する化合物を意味し、アルキルメルカプタンや、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基などの置換基一種以上を有するアルキルメルカプタン類、例えばメルカプトカルボン酸、アミノアルカンチオール、メルカプトアルコールなどを用いることができる。
【0013】
このようなメルカプタン類の例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、などのアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸などのチオカルボン酸、2−アミノエタンチオール、2−ピリジルエタンチオール、4−ピリジルエタンチオールなどのアミノアルカンチオール、メルカプトエタノールなどのメルカプトアルコールなどが挙げられる。
【0014】
これらのメルカプタン類は、助触媒として原料であるフェノールやアセトンと同時に反応系に供給してもよいが、アミノ基のような塩基構造を持つ化合物を使用する場合、あらかじめ上記酸型イオン交換樹脂と反応させて、触媒中のスルホン酸基と助触媒のアミノ基のような塩基を反応させて触媒上に助触媒を固定化させて、反応に使用してもよい。また、これらのメルカプタン類は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
アルキルメルカプタンなどのような助触媒を反応時に添加して反応を行う場合は、原料のアセトンに対して、0.1〜20モル% 、好ましくは、1〜10モル% の範囲で添加するのが好ましく、アミノアルカンチオールなどのような助触媒を固定化して反応を行う場合は、スルホン酸型酸性イオン交換樹脂のスルホン酸基の1〜50モル%に助触媒をイオン結合させて固定化するのが好ましい。助触媒の使用量が少なすぎると実用的な反応速度が得られないという問題があり、助触媒の使用量が多すぎると使用量に見合う活性の上昇が見慣れず、経済的ではない。
【0016】
反応で使用するフェノールとアセトンのモル比については特に制限はないがフェノールを化学量論的量よりも過剰に用いるのがよく、アセトン1モル当たり、3〜30モル、好ましくは5〜20モルのフェノールが用いられる。アセトン1モルあたりのフェノールの使用量が3モルよりも少ないとビスフェノールAの選択率が低下し、30モルより多い場合は反応速度の低下、装置の巨大化などの問題が発生する。
【0017】
上記製造方法におけるフェノールとアセトンとの縮合反応は、反応方式に特に制限はないが、助触媒を固定化した酸型イオン交換樹脂を充填した反応器に、フェノールとアセトンを連続的に供給して反応させる固定床連続反応方式を用いるのが好ましい。 この際、反応器は1基で反応を行ってもよいが、また2基以上を直列及び/または並列に配置して反応させてもよい。
【0018】
また、反応温度は、通常40〜130℃ 、好ましくは40〜90℃ の範囲で反応させるのがよい。該反応温度が40℃ 未満では反応液が固化するおそれがあるので好ましく
なく、130℃を超える温度のように高温では、反応触媒である酸性イオン交換樹脂の酸性基が触媒から脱離してビスフェノールAに混入してビスフェノールAが分解する原因となったり、高温により触媒が分解して触媒寿命が低下したりする場合がある。
【0019】
原料混合物のLHSV(液空間速度)は、0.2〜20hr-1 で通液するのが好ましい。
反応器で生成したビスフェノールAを含有する反応液は、未反応のアセトン、フェノー
ルの一部、生成した水等を除去するために蒸留塔に供給される。この際反応液をフィルターによりろ過してもよい。
【0020】
この際使用するフィルターには特に制限はないが、ガラス繊維などでできたカートリッジフィルター、セラミックスフィルター、ステンレス鋼などでできた焼成金属フィルター、フッ素樹脂などでできたメンブレンフィルターなどを使用することができる。これらのフィルターのうち30ミクロン以上の粒子を補足できるようなものを使用することが好ましい。
【0021】
反応液を濾過することにより、触媒残渣や触媒破砕物を除去し、系内でのビスフェノールA の分解や色相の悪化を抑制することができる。
次いで蒸留によって、必要に応じて未反応のアセトンやフェノール、縮合反応で生成した水、反応で使用したメルカプタン化合物などが除去される。後の晶析の条件次第で、除去する物質の一部もしくは全部を省略してもよい。
【0022】
未反応のアセトンやフェノール、縮合反応で生成した水、反応で使用したメルカプタン化合物などを除去する場合、通常は1本もしくは2本以上の蒸留塔を用いて減圧蒸留することにより除去が行われる。
この減圧蒸留は、液との接触面がSUS304,SUS316,SUS316Lなどでできている蒸留塔を用
いて、一般に絶対圧力5〜100kPa及び温度70〜180℃ 程度の条件で実施され
る。温度が高すぎるとビスフェノールAが分解するおそれがあり、好ましくない。
【0023】
得られた蒸留液を晶析槽に送り、ビスフェノールAもしくはビスフェノールAとフェノールとの1:1付加物結晶(アダクト結晶)を得る。晶析を行う前に、濃度や組成を調整するために、フェノール、水、アセトン、C5〜C7などの炭化水素などを上記蒸留液に加えても良い。
上記方法により調整した液を40〜70℃に冷却して結晶を析出させて結晶とフェノールを主成分とするスラリー液を得る。晶析温度が40℃より小さいとフェノールが固化するおそれがあり、70℃以上であるとビスフェノールAのフェノールへの溶解によるロスが大きくなり、好ましくない。
この際の冷却は、外部熱交換器の利用、もしくは晶析調整液を減圧下の装置に供給し、液からの蒸発潜熱を利用などにより冷却することができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
このようにして晶析されて得られたスラリーを、ろ過や遠心分離などの公知の手段により、結晶と母液と呼ばれる液成分に分離する。ろ過や遠心分離の方法に特に制限はないが、減圧式や加圧式のベルトフィルターやロータリーフィルムエバポレーターのような装置により濾過・分離を行うのが好ましい。
要求されるビスフェノールAの品質により、必要に応じて上記濾過操作により得られた
結晶を加熱したり、各種のフェノール含有溶液などを加えて溶解させて、さらに晶析操作を繰り返し行ってもよい。使用するフェノール含有溶液としては特に制限はなく、例えばプロセス内に存在しているフェノール含有溶液 具体的には、回収フェノール、晶析母液、結晶の洗浄フェノール液などを挙げることができる。また再度晶析を行う前に結晶が溶解したフェノール溶液をフィルターを通して、不溶物を濾過・除去してもよい。
【0025】
濾過した際の液成分である晶析母液は、反応器へリサイクルしたり、一部又は全部を酸もしくはアルカリを加えて熱分解処理し、生成する重質分を蒸留により系外に除去することができる。残りの成分からは、熱分解処理の条件を操作することにより、フェノールのみを回収してもよいし、フェノールとイソプロペニルフェノールとを回収したのち、スルホン酸型の酸性イオン交換樹脂のような酸性触媒と接触させることによりビスフェノール
として回収してもよい。また、これらの操作の前もしくは後ろで一部又は全部を異性化処理することにより、不純物として含まれる2,4’異性体を4,4’ビスフェノールAに
変換して回収してもよい。
【0026】
上記分離された結晶がビスフェノールAの結晶の場合、そのまま製品のビスフェノール
Aとすることが可能である。必要に応じて結晶表面の不純物を除去するために水や有機溶媒などで洗浄してもよい。また結晶のままでは微粒子のために取り扱いが困難である場合は、1度溶融した後に、プリルとしてもよい。
分離された結晶がビスフェノールAとフェノールとの1:1アダクト結晶の場合は、一
般的には結晶からフェノールを除去してフェノールをほとんど含まないビスフェノールA
を製品として得る。しかしながら、アダクト結晶を溶解してそのまま溶融法ポリカーボネート製造工程に供給し、ポリカーボネートの原料モノマーとして使用することもできる。
【0027】
ビスフェノールAとフェノールとの1:1アダクト結晶からフェノールを除去する方法
としては、晶析・分離されたアダクト結晶を100〜160℃程度に加熱・溶融して液状混合物とし、次いで絶対圧力で1〜10kPa程度の減圧、温度150〜200℃の条件下で各種
の蒸留操作(フラッシュ蒸留、遠心式やベルト式などの薄膜蒸発器を用いた蒸留)などの方法により大部分のフェノールを留去する。この操作により溶融ビスフェノールA中のフ
ェノール濃度は数wt%程度のレベルにまで減少するが、さらにこの残存フェノールを除去するために、スチームストリッピング等によりフェノールの除去を行い、最終的にフェノール含有量が100wtppm以下好ましくは30wtppm以下さらに好ましくは20wtppm以下の溶融ビスフェノールAを得ることができる。
【0028】
<ビスフェノールAの溶融液の造粒方法>
以下にビスフェノールAの溶融液を固体プリル状とする造粒方法について、図1に示し
た装置を代表例として、詳細に説明する。
ビスフェノールAの溶融液は、ライン(101)を介して造粒塔(1)に供給される。造粒
塔(1)としては、通常の有機物の造粒に使用されるものであれば特に制限は無く、例え
ば公知の造粒塔が使用できる。造粒塔(1)の構造としては、内容積が、通常1〜2000m3であり、下端が略逆円錐状に形成された縦長の円筒胴部を有する構造体である。造粒塔(1
)の塔上部には、滴下ノズル(11)が設置されており、ライン(101)を介して供給され
たビスフェノールAの溶融液が滴下ノズル(11)によって液滴を形成し、造粒塔(1)内を落下する。滴下ノズル(11)としては特に制限されることなく公知のものが使用でき、製造される粒状物の粒径や溶融体の粘度などに応じてノズル径等を設定でき、噴霧ノズル、目皿などの多孔板構造のノズルや、遠心力を利用した回転ノズル等を適宜選択できる。また必要に応じてノズルを振動させることにより、液滴の切れなどを向上させることも行われている。
【0029】
ビスフェノールAの液滴は、滴下ノズル(11)から造粒塔内をシャワー状に落下する。
その際に造粒塔下部より導入された冷却ガスと向流接触することにより固化し、直径1〜2mmのプリル状の固形物となる。生成したビスフェノールAのプリルは造粒塔底部より排出
され、冷却に使用されて暖められたガスは造粒塔の塔頂、好ましくは塔頂部中央より排出される。造粒塔の下部には、例えば、特開2002−306943号公報に開示されているような公知の閉塞防止手段を設けてもよい。これにより、粒状物排出口(14)の入口および内部が塊状物によって閉塞するのを有効に防止できる。
【0030】
ビスフェノールA溶融液の冷却ガスとしてはビスフェノールAの溶融液より低温のガス
が使用されるが、窒素ガス、アルゴン等の不活性ガスや空気が好ましく、ビスフェノールAの酸化や粉塵爆発の恐れがなく、経済的にも安価で入手しやすい窒素を使用することが
特に好ましい。冷却に使用したガスは大気放出してもよいが、窒素を使用している場合熱
交換器などにより冷却した後 循環利用される。
【0031】
より詳しくは造粒塔の塔頂から抜出された冷却用ガスは、バグフィルター等により、冷却用ガスに同伴した微細なビスフェノールA粉末を回収除去した後、循環ガスブロワーに
供給される。使用することができるバグフィルターとしては、特に制限されず、例えば機械振動式、逆気流式、パルスジェット式などの公知のものが使用できる。ビスフェノールA粉末を除去したガスは、ガス冷却用熱交換器に供給され、冷却される。
【0032】
ガス冷却用熱交換器としては特に制限は無く、例えばShell&Tube型や、プレート型な
どの公知の熱交換器が使用できるが、冷媒が流れる複数の管が錯列配置された熱交換器が安価に大量のガスを効率よく冷却できるので好ましい。さらに冷却用ガス側の伝熱係数を大きくするために、構造物の管が管軸に対して垂直方向に複数のフィン等を設け、伝熱面積を広くするような構造が好ましい。 熱交換器に使用する冷媒としては特に制限は無く、水やエチレングリコール、これらの混合物等の通常使用されている冷媒が使用できるが、ビスフェノールAの場合はそれほど低い冷却温度が必要とはされないので、水で十分冷
却が可能である。
【0033】
冷却ガスが循環利用される場合、冷却ガス中にはビスフェノールAや低沸点の不純物が蒸気圧相当分 蒸気として存在し、これらが造粒塔内面や冷却ガスが流通している配管の内面、ガス冷却用熱交換器の伝熱面などに昇華析出・付着する。特にガス冷却用熱交換器の伝熱面は有機物が析出しやすく、付着により冷却効率の低下を引き起こすという問題がある。これら付着物の有無は、ビスフェノールA等の有機物の結晶の析出・付着により熱
交換器前後での差圧が生じるので、一般的には差庄計を設置することにより監視や検知が可能である。
【0034】
<ドライアイスブラスト技術>
構造物に付着している物を除去する技術として研磨剤(通常、砂、重曹、ガラスビーズ、金属粉等)をガスと一緒に構造物に射出してその摩擦により付着物を除去するブラスト法があるが、砂、重曹、ガラスビーズ、金属粉などでは研磨剤自身が非常に固いために構造材が柔らかい金属などの場合、ブラストにより構造材が変形してしまったり、研磨剤自身が構造材周辺に残ってしまうという問題があった。
【0035】
近年、研磨剤としてドライアイスを用いるドライアイスブラスト法が使用されるようになっている。これは、ドライアイス自身は構造材と衝突した際に昇華してしまうので、適度な射出速度で射出することにより構造材を変形させないで、かつ研磨剤自身を残さずに構造物に付着している物質を除去できる優れた方法である。
特に、管軸に対して垂直にフィンが付属した管が錯列配置された多管式熱交換器の場合、図2に示したように管軸と垂直な方向を鉛直方向とすると、正面からではなく、管と管の間をガスとドライアイスが抜けていくように、上または下に角度を振ってブラストを行うことで浸透効果が発現し、浸透力が増すことが判明した。ここで言う錯列配置とは、図2に示したように、ある列の隣接した管軸の中心を結ぶ線の中点に次の列の管が存在するような配置のことであり、縦方向の管軸の中心間の距離(Lv)と、それに垂直な列間の距離(Lh)の二つによって特徴付けられる。
【0036】
即ち冷却ガスと熱交換器との接触面と、ドライアイス粒子とを衝突させる際に、ドライアイス粒子が噴霧される方向が、その軌跡の影を管軸に対して垂直な平面に落としたとき、熱交換器の最外面を形成する管軸の中心と、その管に隣接する最外面以外の管の管軸の中心を結んだ方向と平行であるか、または−15°〜+15°の角をなす範囲にあるのが、浸透効果が大きく、ドライアイスを噴射した側のみならず、装置の反対側にまでドライアイスが浸透し、付着物を除去することができるので好ましい。
【0037】
一方で図3のように管軸と平行な水平方向に対しては、フィンとフィンの間をガスとドライアイスが抜けるよう、角度を振らずに管軸に対して垂直な平面上にブラストを行う場合に浸透効果が大きく、浸透力が大きいことが明らかとなった。熱交換器のフィンは熱交換効率をよくするために通常は薄い金属板が用いられており、従来型の研磨剤ではフィンが変形してしまうことがあったが、特定の方向から特定の速度でドライアイスを研磨剤として噴射させることにより、フィンを変形させることなく装置の表面のみならず、浸透効果を利用して管内部まで付着物であるビスフェノールAなどの結晶を除去できる優れた除去方法であることが判明した。本発明で規定するドライアイスブラスト法において、ドライアイス粒子を移送するための流体ガスとしては、特に制限はないが、空気、窒素などが安価、かつ入手も容易で好ましい。ドライアイス粒子の粒径は0.5〜5mm程度の粒径がよく、好ましくは1〜5mmである。ドライアイス粒子の移送流体の圧力は、大気に対する相対圧力で0.2〜0.8MPa、好ましくは0.3〜0.5MPaである。圧力が低すぎると装置の駆動に支障をきたし、また付着物除去効果も低い。一方、高すぎると、フィンなどの熱交換器の破損、騒音などの問題を引き起こす。ドライアイスの噴射方法としてはひとつのノズルからドライアイスを噴射させても良いが、多数のノズルから同時に噴射させても良いし、また噴射させている1もしくは複数のノズルを移動させながら噴射させても良いし、熱交換器などの構造物自体を回転させたり、スライドさせたりしながら噴射させても良い。
【0038】
ブラスト装置からノズルまでのラインは、特に制限はなく、一般に各種樹脂ホース、金属配管などであるが、高速で管内を移動するドライアイスとラインとの摩擦衝突による、管内壁の剥がれ由来のコンタミネーション、発生静電気の除電の観点から、金属の配管が望ましい。その中でもステンレスのサニタリー配管が最適である。
使用するブラスト装置のドライアイスを供給する仕組みは回転フィーダー、振動フィーダーなどがあるが、摺動部の削りカスによるコンタミネーションを防止する観点で、振動フィーダーがより好ましい。
【0039】
研磨剤を噴射する際のノズルと対象物の距離は、10〜100cmが好ましく、さらに好まし
くは25〜75cmである。ドライアイス粒子の供給量は1〜30kg/minがよく、好ましくは2〜10kg/minであり、さらに好ましくは2〜5kg/minである。また、一回あたりの連続ブラスト
時間は1〜120秒で、好ましくは5〜60秒である。ドライアイスの噴出速度は50〜300m/sで
あり、好ましくは100〜250m/sである。ドライアイスの運動エネルギーは噴出速度の2乗
に比例するため噴出速度の影響が大きく、小さすぎると付着物が除去できず、大きすぎると対象物の破損の原因となる。対象物がフィン付き多管式熱交換器である場合、フィンは一般に、重量、価格、加工の容易さなどからアルミニウムであることが多く、厚みは0.5
〜1.0mm程度であり壊れやすいので、ドライアイスの噴出速度を上記範囲に調整するのが
好ましい。噴出ノズルの大きさは、噴出口の大きさが1〜5cm2であり、好ましくは1.5〜3cm2である。大半のドライアイスブラスト装置は、装置へのガスの供給圧力でパワーを制御するシステムになっており、装置からノズルまでの配管径、形状、長さにもよるが、上記の噴出速度を確保する上で、先述の条件よりも噴出口が大きいと噴出ガス量が大きくなりすぎるため騒音の原因となる。一方小さすぎると噴出されたドライアイスのスポットが小さくなり、除去効果が低減する。ビスフェノールA以外の熱交換器の伝熱面に付着している有機物としては、プロピルフェノール、ブチルフェノール、イソプロペニルフェノール、メシチルオキシルフェノール、ビスフェノールAの2,2’−異性体、ビスフェノールAの2,4’異性体、ダイアニン、メチルビスフェノールA、イソプロペニルフェノールの直鎖状ダイマー、イソプロペニルフェノールの環状ダイマー、スピロインダン、トリスフェノール、トリスクロマンなどがあげられる。これらの有機物も、付着しているビスフェノールAと共に、本発明の除去方法により除去することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を詳細に示すが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
図1に示す構成と同様の装置を使用し、53日間運転を行った後に、ブラスト装置としてColdJet社製、「C100」を使用して後述の各例を実施した。
熱交換器については、図2,3に示すようなアルミ製フィン付き多管式熱交換器を用いており、管軸に対して垂直に2.5mm間隔で螺旋状にフィンが付属し、それぞれの管は錯列
配置されている。LvとLhはそれぞれ、48mm、42mmである。すなわち、管軸の中心を結ぶ線はほぼ正三角形となっている。
【0041】
運転条件は以下の通りである。ビスフェノールA 溶融液(温度169℃ )を13重量部/
Hrの速度で滴下ノズル(11)より造粒塔(1)内に落下させ、冷却ガスとして窒素ガスを使用し、冷却ガスの流量が70重量部/Hrとなるように弁(4) で調節しながら
循環させた。さらに、ライン(106)より窒素ガスを導入しながら、造粒塔(1)内の圧力が大気圧に対する相対圧力で2.5kPaとなるようにライン(105)より循環ガスの
パージを行った。また、冷却用ガスの出口(12)の冷却用ガスの温度が70℃ となるよ
うに、熱交換器(3)の冷媒である水の温度を調節した。
【0042】
実施例1
ブラスト装置からラインを通じて、内径14mmのノズルの先から、大気圧に対する相対圧力0.3MPaの窒素ガスを移送流体として、径3mmのドライアイス粒子を2.1kg/minで噴射し、50cm先のフィン付き多管式熱交換器束に上流側から下流側に向かって10秒間ドライアイスを衝突させて、付着物の除去を行った。このとき、フィン付き多管式熱交換器束面に対して、錯列配置された管の隙間をガスとドライアイスが抜けるように、鉛直角が下向きに30°になるように打ち下ろしてブラストを行った。ただし、隣り合うフィンとフィンの間をガスとドライアイスが抜けるように、水平角は0°になるようにした。(鉛直角、水平角は図2及び図3に示した角度である。)
その結果、上流側では直径約20cmの円状に付着物の除去が確認され、熱交換器の下流側でも直径約10cmの円状に付着物が除去されており、浸透効果が確認できた。このとき、下流側の付着物が除去された部分では、フィン間のクリアランスが付着物によって平均1mm
程度になっていたものが、元の2.5mmに改善された。
【0043】
実施例2
実施例1と同じ条件、方法において、大気圧に対する相対圧力0.4MPa の窒素ガスを移
送流体とし、ドライアイスを噴射する量を3.5kg/min、噴射時間を17秒、鉛直角度を上に30°としてブラストを行った。
結果は実施例1とほぼ同じであり、上流側、下流側両方において、除去効果が確認された。
【0044】
実施例3
実施例と2と同じ条件、方法において、鉛直角と水平角を共に0°としてブラストを行
った。
その結果、上流側では直径約20cmの円状に付着物の除去が確認されたが、浸透効果は見られず下流側では付着物の除去は確認されなかった。
【0045】
実施例4
実施例と2と同じ条件、方法において、鉛直角を下向き30°となるように、また水平角を45°となるようにしてブラストを実施した。
その結果、上流側では直径約20cmの円状に付着物の除去が確認されたが、浸透効果は見られず下流側では付着物の除去は確認されなかった。
【0046】
比較例1
実施例2と同じ条件、方法において、ドライアイスの供給量を0kg/minとして、ブラス
ト装置から窒素のみを20秒間噴出させた。
その結果、上流側と下流側共に付着物の除去は確認されなかった。
これらの実施例及び比較例のデータを表1に示した。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、多量の排水や廃溶媒を生ずることなく、熱交換器、特にフィン付き多管式熱交換器の伝熱面へのビスフェノールAの付着を内部に亘って効率的に除去し、冷却効果の維持、差圧の上昇の抑制、を可能にすることができる。またこの除去方法を造粒塔内部に設置して運転中に非開放で実施することによって、運転を停止することなく熱交換器の伝熱面に付着した有機物を除去することができ、長期間の造粒塔の連続運転が可能になる。
【符号の説明】
【0049】
1:造粒塔
2:循環ガスブロワー
3:熱交換器
4:弁
5:バグフィルター
11:滴下ノズル
12:冷却用ガスの出口
13:冷却用ガスの入口
14:粒状物排出口
21:弁
22:弁
31:弁
32:弁
33:ポンプ
34:差庄計
105:冷却ガス(窒素)パージライン
106:冷却ガス(窒素)入口
107:冷却水入口
108:冷却水
1:鉛直方向
2:フィン
3:冷媒流路
4:鉛直角
1:水平方向
2:フィンチューブ
3:冷媒流路
4:冷媒流れ(点線)
5:水平角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ビスフェノールAを造粒塔内で冷却ガスと接触させて固体プリル状のビスフェノー
ルAを製造する際に使用するビスフェノールA製造装置の洗浄方法であって、冷却ガスと接触する造粒塔及び/またはその周辺機器からなる装置との接触面にドライアイス粒子を衝突させることを特徴とするビスフェノールA製造装置の洗浄方法。
【請求項2】
冷却ガスと接触する装置が複数の管が錯列配置された熱交換器であり、冷却ガスと熱交換器との接触面とドライアイス粒子とを衝突させる際に、ドライアイス粒子が噴霧される方向が、その軌跡の影を管軸に対して垂直な平面に落としたとき、熱交換器の最外面を形成する管軸の中心とその管に隣接する最外面以外の管の管軸の中心を結んだ方向と平行であるか、または−15°〜+15°の角をなす範囲にある請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
熱交換器の管が管軸に対して垂直方向に複数のフィンを有した構造であり、ドライアイス粒子の噴霧される方向が管軸に対して垂直な平面上にある、請求項2に記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−213641(P2011−213641A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82392(P2010−82392)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】