説明

ビスホスフィンオキシドの製造方法

【課題】本発明は、高収率で、かつ、簡便にビスホスフィンオキシドの製造を可能にするビスホスフィンオキシドの製造方法を提供する。
【解決手段】一般式:


で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、一般式:


で表されるハロゲン化物より調製される有機金属反応剤と、一般式:



で表されるリン化合物を反応させて、一般式:


で表されるホスフィンオキシドを製造し、触媒存在下、前記一般式(4)で表されるホスフィンオキシドと一般式:


で表されるリン化合物又は、一般式:


で表されるリン化合物を反応させることを特徴するビスホスフィンオキシドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスホスフィンオキシドの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスホスフィンオキシドは、2座配位子として様々な金属に配位し金属錯体を形成することができるため、産業上有用な種々のファインケミカルズ合成に使用する金属錯体触媒の配位子、LED蛍光体用金属錯体の配位子、金属抽出剤等として利用されている。また、ビスホスフィンオキシドは公知の技術、例えばクロロシラン及びトリアルキルアミンの混合物による還元等により、容易にビスホスフィンに変換できる。そのため、ビスホスフィンオキシドは、ビスホスフィンを合成するための中間体としても有用である。ビスホスフィンもまたビスホスフィンオキシドと同様、2座配位子として金属錯体を形成し、様々な触媒反応に利用されている。
【0003】
ビスホスフィンオキシドを配位子とする金属錯体は、触媒反応、LED蛍光体等において、その配位子の電子的要因及び立体的要因により様々な機能を発現させる。すなわち、1)リン原子が有する置換基及び2)2つのリン原子間の炭素数を適宜選択することにより、触媒反応の活性及び選択性を大きく向上させることが期待できる。また、LED蛍光体の発光強度を著しく増大させ、蛍光体の寿命を著しく延ばすことも可能となる。
【0004】
一般に、ビスホスフィンオキシドの製造方法とてして下記の(1)〜(6)が知られている。
(1)ジハライドX−(CH−X(n≧4)から調製されるジグリニャール反応剤をジオルガノホスフィン酸クロライドと反応させる方法(非特許文献1)。
(2)ジオルガノホスフィンオキシドにブチルリチウムのような強塩基を作用させ、続けて、ジハライドX−(CH−Xを作用させる方法(特許文献1)。
(3)Se含有ホスフィンオキシドに低温でフェニルリチウムを作用させ、続けて、ジハライドを作用させる方法(非特許文献2、特許文献2)。
(4)アミノホスフィンとジオールとを高温で反応させることにより、アミンを留去しつつ、ジホスフィナイトを合成した後、続けて、ジブロモエタンを滴下し、高温で加熱することにより、ジホスフィナイトをビスホスフィンオキシドへ異性化させる方法(特許文献3)。
(5)カルボン酸基を有するホスフィンオキシドをコルベ電解カップリング反応させる方法(特許文献4)。
(6)水素化ナトリウム又はブチルリチウムのような強塩基存在下、非プロトン性溶媒中、ジオルガノホスフィンオキシドとオキシラン化合物とを反応させる方法(特許文献5)。
【0005】
前記(1)の製造方法は、ジハライドX−(CH−X(n≧4)を用いてなるジグリニャール反応剤を使用して、ビスホスフィンオキシドを製造する方法であり、比較的一般的な方法である。しかしなら、前記ジハライドは、n≦3の場合、不安定で分解しやすくグリニャール反応剤の収率が極めて悪いことが知られており(非特許文献3及び非特許文献4)、n≦3の場合、ビスホスフィンオキシドを好適に製造することができない。
【0006】
前記(2)及び(6)の製造方法は、高価な水素化ナトリウム、ブチルリチウム等を使用しており、コスト面において問題がある。また、ビスホスフィンオキシド製造に際し、原料1molに対し、1molの水素又はブタンが発生するため、安全面においても問題がある。
【0007】
前記(3)の製造方法は、原料として、有毒なセレンを含む化合物を使用し、さらに、−78℃という低温反応が必要であるため、工業生産には不適である。
【0008】
前記(4)の製造方法は、原料として合成が難しいアミノホスフィンを使用している。また、(4)の製造方法は、高温、かつ、多段階の反応を必要とする。
【0009】
前記(5)の製造方法は、原料として多段階の合成が必要な、カルボン酸基含有ホスフィンオキシドを使用している。また、前記(5)の製造方法は、コルベ電解反応を採用しており、原料1molに対し、1molの二酸化炭素の副生、単位容積あたりの収量が少ない、電解反応のためスケールアップが困難である等の問題を有する。
しかも、前記(1)〜(5)の製造方法は、非対称ビスホスフィンオキシドの製造には適さない。ここで、非対称ビスホスフィンオキシドとは、2つのリン原子が互いに異なる置換基を有する場合をいう。
例えば、前記(3)の方法に関し、特許文献2には、2種類のSe含有ホスフィンオキシドにフェニルリチウムを反応させ、続けて、1,ω-ジブロモアルカンを反応させることにより、3種類のビスホスフィンオキシド混合物(対称体2種類+非対称体1種類)を得た後、前記混合物から目的とする非対称ビスホスフィンオキシドだけを単離精製する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、目的とする非対称ビスホスフィンオキシドの生成率は最大50%であり、しかも、3種類の異性体混合物及びその他不純物から目的の非対称ビスホスフィンオキシドを単離精製することは極めて困難である。従って、特許文献2に開示の方法は、実用的な非対称ビスホスフィンオキシドの製造方法にはなり得ない。
【0010】
前記(1)、(2)、(4)及び(5)の製造方法に関しても同様であり、2種類の原料を使用すれば3種類のビスホスフィンオキシド混合物(対称体2種類+非対称体1種類)が得られる。従って、前記(1)、(2)、(4)及び(5)の製造方法もまた実用的な非対称ビスホスフィンオキシドの製造方法にはなり得ない。
【0011】
前記(6)の製造方法は、唯一、非対称ビスホスフィンオキシドを比較的高い収率で製造できる方法である。しかしながら、前記(6)の製造方法は、オキシラン化合物を使用して、非対称ビスホスフィンオキシドを製造する方法である。すなわち、前記(6)の製造方法により得られる非対称ビスホスフィンオキシドは、2つのリン原子をつないでいる炭素鎖がオキシラン化合物由来のものに限定されてしまう。また、前記(6)の製造方法は、1)高価なブチルリチウムの使用、2)長時間反応及び3)大量のDMFの使用という点でコスト面の問題がある。さらに、前記(6)の製造方法は、ブタンを発生させるため、安全面においても問題がある。
【0012】
種々の触媒反応における触媒活性及び選択性の向上並びにLED蛍光体の発光強度の増大及び蛍光体の寿命の向上という様々な機能発現のために、ビスホスフィンオキシドの1)リン原子が有する置換基及び2)2つのリン原子をつなぐ炭素数を適宜選択することにより自由な分子設計を可能とする、実用的なビスホスフィンオキシドの製造方法の開発が切望されている。
【特許文献1】特開平10−1491
【特許文献2】特開2005−15564
【特許文献3】US3532774
【特許文献4】特開平11−228586
【特許文献5】特開昭59−130298
【非特許文献1】G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc., 1959, 3950.
【非特許文献2】T. Kawashima, et al., Chem. Lett., 1993, 1531.
【非特許文献3】H. R. Rogers, et al., J. Am. Chem. Soc., 1980, 102, 217.
【非特許文献4】J. W. F. L. Seetz, et al., Tetarahedron Lett., 1982, 23, 1497.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ビスホスフィンオキシドの自由な分子設計を可能としつつ、簡便に、かつ、高収率でビスホスフィンオキシドを製造するための方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造プロセスを採用することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記のビスホスフィンオキシドの製造方法に係る。
1. 一般式:
【0016】
【化1】

【0017】
(式中R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R、R、R、R、R10及びR11は、それらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、l、m及びnは、それぞれ同一又は異なって0以上の整数を示す。)で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、一般式:
【0018】
【化2】

【0019】
(式中Xは、ハロゲン原子を示し、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるハロゲン化物より調製される有機金属反応剤と、一般式:
【0020】
【化3】

【0021】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物を反応させて、一般式:
【0022】
【化4】

【0023】
(式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるホスフィンオキシドを製造し、触媒存在下、前記一般式(4)で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【0024】
【化5】

【0025】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物又は、一般式:
【0026】
【化6】

【0027】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物を反応させることを特徴するビスホスフィンオキシドの製造方法。
2. 前記有機金属反応剤がグリニャール反応剤である、前記項1に記載の製造方法。
3. 前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、前記項1又は2に記載の製造方法。
4. ビスホスフィンオキシドが非対称ビスホスフィンオキシドである前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 一般式:
【0028】
【化7】

【0029】
(式中R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R、R、R、R、R10及びR11は、それらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、l、m及びnは、それぞれ同一又は異なって0以上の整数を示す。)で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
触媒の存在下、一般式:
【0030】
【化8】

【0031】
(式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【0032】
【化9】

【0033】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物又は、一般式:
【0034】
【化10】

【0035】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物を反応させることを特徴するビスホスフィンオキシドの製造方法。
6. ビスホスフィンオキシドが非対称ビスホスフィンオキシドである前記項5に記載の製造方法。
【0036】
以下、本発明のビスホスフィンオキシドの製造方法について詳細に説明する。
【0037】
本発明のビスホスフィンオキシドの製造方法は、一般式:
【0038】
【化11】

【0039】
(式中R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R、R、R、R、R10及びR11は、それらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、l、m及びnは、それぞれ同一又は異なって0以上の整数を示す。)で表されるビスホスフィンオキシド(以下「ビスホスフィンオキシド(1)」と略記する)の製造方法であって、一般式:
【0040】
【化12】

【0041】
(式中Xは、ハロゲン原子を示し、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるハロゲン化物(以下「ハロゲン化物(2)」と略記する)より調製される有機金属反応剤と、一般式:
【0042】
【化13】

【0043】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物(以下「リン化合物(3)」と略記する)とを反応させて、一般式:
【0044】
【化14】

【0045】
(式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるホスフィンオキシド(以下「ホスフィンオキシド(4)」と略記する)を製造し、触媒存在下、前記ホスフィンオキシド(4)と一般式:
【0046】
【化15】

【0047】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物(以下「リン化合物(5)」と略記する)又は一般式:
【0048】
【化16】

【0049】
(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物(以下「リン化合物(6)」と略記する)とを反応させることを特徴する。
【0050】
ビスホスフィンオキシド(1)
本発明の製造方法により得られるビスホスフィンオキシド(1)の一般式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよい。
【0051】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の飽和炭化水素基としては、特に限定されず、例えばC〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基並びにC〜C12シクロアルキル基が挙げられる。具体的には、C〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示できる。また、C〜C12シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示できる。
【0052】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、有機金属反応剤の調製に悪影響を与えないものであればよく、特に限定されるものではないが、例えばアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばC1−6アルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。アリールオキシ基としては、例えばC6−12アリールオキシ基が挙げられ、具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0053】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、有機金属反応剤の調製に悪影響を与えない範囲であればよく、特に限定されるものではない。
【0054】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えばC6−14アリールが挙げられる。具体的には、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0055】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、有機金属反応剤の調製に悪影響を与えないものであればよく、特に限定されるものではない。例えばC1−6アルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0056】
1−6アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0057】
6−14アリール基としては、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0058】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0059】
アルコキシ基としては、例えばC1−6アルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。
【0060】
アリールオキシ基としては、例えばC6−12アリールオキシ基が挙げられる。具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0061】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。
【0062】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0063】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置、置換基の数は、有機金属反応剤の調製に悪影響を与えないものであればよく、特に限定されるものではない。
【0064】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。具体的には、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル及びアクリジニル等を例示できる。
【0065】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数は、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数と同様である。
【0066】
置換されていてもよいアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。置換されていてもよいアラルキル基の置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数は、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基の種類、置換基の位置及び置換基の数と同様である。
【0067】
前記R及びRが結合して形成する環としては、例えばピペリジン環、ピロリジン環またはモルホリン環等が挙げられる。R及びRが結合して形成する環としては、前記R及びRが結合して形成する環と同様のものが挙げられる。
【0068】
特に、本発明の製造方法によれば、非対称ビスホスフィンオキシドを簡便に、かつ、高収率で製造できる。ここで、本発明でいう非対称ビスホスフィンオキシドとは、RP(O)基とRP(O)基とが互いに異なる場合をいう。
【0069】
、R、R、R10及びR11は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R、R、R、R、R10及びR11は、それらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよい。
【0070】
置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基については、R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0071】
アルコキシ基としては、例えばC1−6アルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。
【0072】
アリールオキシ基としては、例えばC6−12アリールオキシ基が挙げられる。具体的には、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0073】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。
【0074】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。R、R、R、R、R、R10及びR11から選ばれる2つの基が形成する環については、R、R、R及びRで述べたものと同様である。
【0075】
本発明の製造方法によれば、R、R、R及びRが飽和炭化水素基(例えばC〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基)、置換又は無置換のアリール基(例えばC6−14アリール)或いは、置換又は無置換のヘテロアリール基(例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子から選ばれる原子を1〜3個含む5〜14員芳香族複素環基)、R、R、R、R、R、R10及びR11が水素原子或いはC〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基並びにl、m及びnが0≦l+m+n≦20、好ましくは0≦l+m+n≦8の条件を満たすビスホスフィンオキシドを好適に製造できる。
【0076】
特に、本発明の製造方法によれば、下記式(1a)のビスホスフィンオキシドをより好適に製造できる。
【0077】
【化17】

【0078】
(式中、pは2〜10、好ましくは2〜6の整数を示し、R及びRは、それぞれC〜C12アルキル基、R及びRは、それぞれ置換又は無置換アリール基或いは置換又は無置換ヘテロアリール基を示す。または、式中、pは2〜10、好ましくは2〜6の整数を示し、R及びRは、それぞれ置換又は無置換アリール基或いは置換又は無置換ヘテロアリール基、R及びRは、それぞれC〜C12アルキル基を示す。)
ビスホスフィンオキシド(1)の製造方法
ビスホスフィンオキシド(1)は、下記反応式に従って、製造することができる。
【0079】
【数1】

【0080】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m、n、及びXは前記に同じ)
本発明によれば、上記第一工程を経た後、第二工程を行うという一連のプロセスを採用することにより、自由に分子設計しつつ、簡便に、かつ、高収率でビスホスフィンオキシドを製造することができる。
【0081】
第一工程
第一工程では、ハロゲン化物(2)より調製される有機金属反応剤と、リン化合物(3)とを反応させて、前記ホスフィンオキシド(4)を製造する。
【0082】
ハロゲン化物(2)中、Xで表されるハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等が挙げられる。この中でも特に、反応性及び経済性の観点からCl及びBrが好ましい。
特に、ハロゲン化物(2)としては、0≦l+m+n≦20のものが好ましい。特に、R及び/又はRが、炭素数20以下の直鎖又は分枝鎖状の前記アルコキシ基、前記アリールオキシ基、前記シロキシ基又は前記ジアルキルアミノ基の場合、有機金属反応剤をより高い収率で調製でき、且つ、高収率で目的のビスホスフィンオキシドを製造できる点から、l≧1及びn≧2のものが好ましい。
【0083】
ハロゲン化物(2)は、市販されているか又は公知の方法に従って容易に製造することができる。
【0084】
前記ハロゲン化物(2)から調製される有機金属反応剤としては、例えばグリニャール反応剤、有機リチウム反応剤、有機亜鉛反応剤等が挙げられる。
【0085】
グリニャール反応剤は、公知の方法により容易に調製できる。例えば不活性ガス雰囲気下、非プロトン性溶媒中、前記ハロゲン化物(2)と金属マグネシウムとを攪拌しながら反応させることにより調製できる。
【0086】
前記不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガスを挙げることができる。
【0087】
前記非プロトン性溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,4―ジオキサン、1,2―ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アニソールなどのエーテル系溶媒を用いることができる。また、前記エーテル系溶媒と併用して、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミン系溶媒等を用いることができる。脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン等を例示できる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を例示できる。アミン系溶媒としては、例えばトリエチルアミン、ピリジン等を例示できる。
【0088】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、ハロゲン化物(2)1molに対し、通常100〜2000ml程度、好ましくは200〜1000ml程度である。
【0089】
金属マグネシウムとしては、切削状、箔状、粒状等いずれのものを用いても良い。
【0090】
金属マグネシウムの使用量は、特に限定されないが、ハロゲン化物(2)1molに対し、0.2〜5molが好ましく、0.5〜2molがより好ましく、0.8〜1.2molがさらに好ましい。
【0091】
反応温度は、ハロゲン化物(2)の種類、反応スケール等に応じて適宜設定すればよいが、−40〜200℃が好ましく、−20℃から前記溶媒の還流温度までの範囲がより好ましい。
【0092】
反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、15分〜48時間が好ましく、1時間〜24時間がより好ましい。
有機リチウム反応剤は、公知の方法に従って容易に調製できる。例えば不活性ガス雰囲気下、非プロトン性溶媒中、前記ハロゲン化物(2)と金属リチウムとを攪拌しながら反応させることにより調製できる。
【0093】
有機亜鉛反応剤もまた公知の方法に従って容易に調製できる。例えば不活性ガス雰囲気下、非プロトン性溶媒中、前記ハロゲン化物(2)と金属亜鉛とを攪拌しながら反応させる。または、不活性ガス雰囲気下、非プロトン性溶媒中、前記グリニャール反応剤及び/又は有機リチウム反応剤と塩化亜鉛とを攪拌しながら反応させるにより調製できる。
【0094】
リン化合物(3)は、市販されているか又は公知の方法に従って製造することができ容易に入手することができる。例えばR及びRが同一であるリン化合物(3a)は、下記式(A)に従って製造することができる。すなわち、容易に入手可能な化合物であるジエチルホスファイト(7)にグリニャール反応剤(8)を作用させてジオルガノホスフィンオキシド(9)を合成した後、触媒量の臭素の存在下、酸素を用いて酸化するか、または、過酸化水素を用いて酸化することにより、ジオルガノホスフィン酸(10)を製造し、続いて、ジオルガノホスフィン酸を五塩化リン、塩化チオニル等の塩化物でクロル化することにより製造できる。
【0095】
【数2】

【0096】
(式中、Xはハロゲン原子を示す)
その他、G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc., 1959, 3950−3952. に記載の方法によっても製造できる。
【0097】
及びRが異なるでリン化合物(3)は、T. L. Emmick, et al., J. Am. Chem. Soc., 1968, 90, 3459.、G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc.(C), 1967, 1789.、A. D. Brown Jr., et al., J. Chem. Soc.(C), 1968, 839.、P. C. Crofts, et al., J. Chem. Soc., (C), 1970, 332.等に記載の方法によって、ジオルガノホスフィン酸を製造し、さらにPCl又はSOClを反応させることにより、製造することができる。
前記有機金属反応剤と、リン化合物(3)とを反応させて、ホスフィンオキシド(4)を製造することができる。ホスフィンオキシド(4)の製造方法の代表例を以下に示す。
【0098】
まず、前記有機金属反応剤に、リン化合物(3)をそのまま又は前記溶媒に溶かして加える。特に、前記有機金属反応剤に、リン化合物(3)をそのまま又は前記溶媒に溶かして滴下するのが好ましい。
滴下温度は、特に限定されないが、通常−20〜150℃、好ましくは0〜80℃である。
【0099】
滴下速度は、特に限定されないが、前記リン化合物(3)又は前記リン化合物(3)を前記溶媒に溶かした溶液を通常5分〜12時間、好ましくは15分〜6時間かけて滴下するのが好ましい。
【0100】
滴下終了後、必要に応じて、通常−20〜150℃、好ましくは0℃から前記非プロトン性溶媒の還流温度の範囲でさらに反応させてもよい。
【0101】
次に、得られた反応液を加水分解することにより、反応液を有機層と水層に分離する。前記分離の後、必要に応じて、前記水層に、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒等を添加することにより、前記水層を、さらに有機層と水層に分離し、前記有機層を最初に分離して得られた有機層と合わせる操作を行っても良い。
【0102】
エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0103】
さらに、必要に応じて、得られた有機層を脱水処理してもよい。例えば硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム等を用いて、脱水処理を行うことができる。
【0104】
得られた有機層を濃縮することにより、ホスフィンオキシド(4)を得ることができる。
【0105】
なお、ホスフィンオキシド(4)の種類に応じて、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法により適宜精製してもよい。
【0106】
第二工程
第二工程では、触媒存在下、ホスフィンオキシド(4)とリン化合物(5)とを反応させることによりビスホスフィンオキシド(1)を製造する。
【0107】
前記触媒としては、例えばラジカル開始剤型触媒、遷移金属錯体触媒、塩基性触媒等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。この中でも特に、ラジカル開始剤型触媒を用いることが好ましい。ラジカル開始剤型触媒を用いることにより、目的のビスホスフィンオキシドをより高い収率で製造できる。また、0≦l+m+n≦2、より好ましくはl+m+n=0の条件を満たすホスフィンオキシド(4)を反応させる場合、遷移金属錯体触媒及び塩基性触媒は、ラジカル開始剤型触媒と同様の触媒活性を発揮する。
【0108】
ラジカル開始剤型触媒としては、例えばアゾ化合物、有機過酸化物、トリアルキルボラン等が挙げられる。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等を例示できる。有機過酸化物としては、ジベンゾイルパーオキシド(BPO)、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジイソブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチル−O)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート等を例示できる。トリアルキルボランとしては、トリエチルボラン、トリブチルボラン等のトリアルキルボラン等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0109】
遷移金属錯体触媒としては、例えばFe錯体、Ni錯体、Pd錯体等が挙げられる。
Fe錯体としては、[CpFe(CO)、Fe(CO)等を例示できる。Ni錯体としては、NiCl(PPh、NiBr(PPh等を例示できる。Pd錯体としては、PdCl(PPh、PdCl(PhCN)、PdCl(CHCN)等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0110】
塩基性触媒としては、 例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド、イソプロピルマグネシウムイソポロポキシド、t−ブチルマグシウムメトキシド等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
【0111】
触媒としてラジカル開始剤型触媒を用いる場合、ラジカル開始剤型触媒の使用量は限定的ではないが、ホスフィンオキシド(4)1molに対し、通常、0.0001〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.3mol、より好ましくは0.03〜0.2molである。
【0112】
また、触媒として遷移金属錯体触媒又は塩基性触媒を用いる場合、遷移金属錯体触媒及び塩基性触媒の使用量はそれぞれ限定的ではないが、ホスフィンオキシド(4)1molに対して、通常0.001〜0.5mol、好ましくは0.01〜0.3mol、より好ましくは0.03〜0.2molである。
【0113】
リン化合物(5)は、下記式(B)のように、互変異性体のリン化合物(6)との平衡状態で存在する。
【0114】
【数3】

【0115】
リン化合物(5)ないし(6)は、市販されているか又は公知の方法に従って容易に製造することができる。具体的には、以下の公知の方法に準じてリン化合物(5)を製造できる。例えば、R. Hays, J. Org. Chem., 1968, 33, 3691. に記載の方法、すなわち、ジエチルホスファイトに、ジエチルホスファイト1molに対して、3molのグリニャール反応剤を反応させることにより製造できる(上記式(A)の方法と同様)。また、前記、T. L. Emmick, et al., J. Am. Chem. Soc., 1968, 90, 3459., G. M. Kosolapoff, et al., J. Chem. Soc.(C), 1967, 1789., A. D. Brown Jr., et al., J. Chem. Soc.(C), 1968, 839.及びP. C. Crofts, et al., J. Chem. Soc., (C), 1970, 332.に記載の方法によっても製造することができる。
【0116】
また、前記リン化合物(5)は、M. M. Rauhut, et al., J. Org. Chem., 1961, 26, 4626. 及びW. Klaeui, et al., Inorg. Chem., 1989, 28, 3845.に記載の方法に従って製造することもできる(下記式(C))。
【0117】
【数4】

【0118】
その他、W. J. Bailey, et al., J. Org. Chem., 1962, 27, 4404. に記載の方法によっても製造できる。
リン化合物(5)の使用量は限定的ではないが、ホスフィンオキシド(4)1molに対し、通常、0.5〜2mol、好ましくは0.8〜1.2mol、より好ましくは0.9〜1.1molである。
【0119】
ホスフィンオキシド(4)とリン化合物(5)との反応は、触媒存在下、例えば攪拌しながら無溶媒又は溶媒中で行う。
【0120】
前記溶媒は、触媒機能が効果的に発現するものであればよく、特に限定されるものではない。例えば芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。前記芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を例示できる。前記脂肪族炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン等を例示できる。前記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール等を例示できる。前記エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4―ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,2―ジメトキシエタン等を例示できる。前記エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等を例示できる。前記アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド等を例示できる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド等を例示できる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。
前記ホスフィンオキシド(4)、リン化合物(5)及び触媒は、反応効率の観点から、溶媒に完全に溶解することが好ましい。なお、本発明においては、前記ホスフィンオキシド(4)等は、反応しながら溶解してもよい。
【0121】
反応温度は、前記触媒の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常−20℃〜200℃、好ましくは0℃〜溶媒の還流温度の範囲である。
【0122】
反応時間は特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分間〜48時間、好ましくは1時間〜24時間である。
【0123】
反応後、必要に応じて、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法により精製してもよい。
【発明の効果】
【0124】
本発明のビスホスフィンオキシドの製造方法によれば、高収率で、かつ、簡便に多様性のあるビスホスフィンオキシドを製造することができる。
【0125】
特に、本発明の製造方法によれば、非対称ビスホスフィンオキシドを高収率で、かつ、簡便に製造できる点に特徴がある。すなわち、本発明の製造方法によれば、目的に応じた非対称ビスホスフィンオキシドの分子設計が可能となる。
【0126】
このような非対称ビスホスフィンオキシドは、様々な触媒反応において、金属錯体の配位子として使用することにより、反応の活性及び選択性を大きく向上させることができる。また、非対称ビスホスフィンオキシドは、LED蛍光体に使用する希土類金属錯体の配位子として使用することにより、発光強度を著しく増大させ、蛍光体の寿命を著しく延ばすことができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0128】
実施例1
(1)第一工程
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた200ml四ツ口フラスコにマグネシウム3.3g(0.136mol)、テトラヒドロフラン(THF)5gを仕込み、攪拌しながらハロゲン化物(2)に対応する4−ブロモ−1−ブテン18.0g(0.133mol)をTHF50.0gに溶解させ、その溶液を全体量の約1/30添加し、65℃まで加熱した。その後、残りの溶液を65℃〜70℃で1時間かけて滴下し、続いて、加熱還流下、3時間攪拌することにより、グリニャール反応剤を調製した。
【0129】
次に、前記四ツ口フラスコの内温を30℃まで冷却した。前記フラスコの内温を30〜40℃の範囲に維持しつつ、これに、リン化合物(3)に対応するジブチルクロロホスフィンオキシド24.5g(0.125mol)をTHF25.0gに溶解させた溶液を1時間かけて滴下しそのまま2時間攪拌することにより、ホスフィンオキシド(4)に対応する3−ブテニルジブチルホスフィンオキシドを含む混合溶液を得た。
【0130】
さらに、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた300ml四ツ口フラスコに水90gを加え、攪拌しながら前記混合溶液を滴下した。その後、前記フラスコを内温90℃になるまで加熱することにより、前記フラスコ中の溶媒を常圧濃縮した。
【0131】
その後、前記フラスコにトルエン100gを加えて有機層及び水層に分離した後、有機層をさらに5%重曹水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、有機層を減圧濃縮した。
【0132】
得られた濃縮物をクーゲルロール蒸留装置で減圧蒸留(圧力267Pa、オーブン温度180〜210℃)することにより、3−ブテニルジブチルホスフィンオキシド22.6g(0.106mol)を得た。収率は85%であった。
(2)第二工程
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた200ml四ツ口フラスコに、3−ブテニルジブチルホスフィンオキシド21.3g(0.100mol)、リン化合物(5)に対応するジフェニルホスフィンオキシド20.2g(0.100mol)、AIBN164mg(0.001mol)、トルエン80gを添加し、前記フラスコを内温75℃まで加熱し同温で4時間攪拌した。その後、攪拌しながら前記フラスコを20℃まで冷却しそのまま1時間攪拌することにより結晶を得た。前記結晶を吸引ろ過により減圧乾燥して、ビスホスフィンオキシド(1)に対応する化合物33.7g(0.081mol)を得た。収率は81%であった。
【0133】
結果を表1に示す。
【0134】
実施例2〜20
実施例1の方法に準じて、表1〜表6の通りビスホスフィンオキシドを製造した。
【0135】
結果を表1〜6に示す。
【0136】
実施例21
(1)第一工程
窒素雰囲気下、攪拌機及び低温温度計を備えた100ml四ツ口フラスコにジエチルエーテル50g及び細かく切ったリチウムワイヤー2.8g(0.4mol)を加え、さらに、フラスコを冷却することにより内温を−10〜−5℃に保持しつつ、強く攪拌しながらハロゲン化物(2)に対応する4−ブロモ−1−ブテン18.0g(0.133mol)を全体量の約1/50添加し、1時間強く攪拌した。その後、強く攪拌しながら、残りの4−ブロモ−1−ブテンを2時間かけて滴下した。そのまま1時間攪拌し有機リチウム反応剤を調製した後、2時間静置した。静置後、過剰のリチウムが入らないように注射器で抜き取り、窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた別の200ml四ツ口フラスコへ移液した。
【0137】
次に、前記200ml四ツ口フラスコの内温を10℃まで冷却した。これに、リン化合物(3)に対応するジブチルクロロホスフィンオキシド24.5g(0.125mol)をジエチルエーテル25.0gに溶解させた溶液を2時間かけて滴下した。滴下後、室温まで昇温させつつ、そのまま2時間攪拌することにより混合溶液を調製した。
さらに、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた500ml四ツ口フラスコに水90gを加え、攪拌しながら前記混合溶液を滴下した。その後、前記500ml四ツ口フラスコにジエチルエーテル100gを加え有機層及び水層に分離した後、有機層をさらに5%重曹水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、有機層を減圧濃縮した。
得られた濃縮物をクーゲルロール蒸留装置で減圧蒸留(圧力267Pa、オーブン温度180〜210℃)することにより、3−ブテニルジブチルホスフィンオキシド18.1g(0.084mol)を得た。収率は63%であった。
【0138】
(2)第二工程
実施例1の方法に準じてビスホスフィンオキシド(1)を製造した。
【0139】
結果を表6に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
【表3】

【0143】
【表4】

【0144】
【表5】

【0145】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

(式中R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R、R、R、R、R10及びR11は、それらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、l、m及びnは、それぞれ同一又は異なって0以上の整数を示す。)で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、一般式:
【化2】

(式中Xは、ハロゲン原子を示し、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるハロゲン化物より調製される有機金属反応剤と、一般式:
【化3】

(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物を反応させて、一般式:
【化4】

(式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるホスフィンオキシドを製造し、触媒存在下、前記一般式(4)で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【化5】

(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物又は、一般式:
【化6】

(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物を反応させることを特徴するビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項2】
前記有機金属反応剤がグリニャール反応剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が、ラジカル開始剤型触媒である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ビスホスフィンオキシドが非対称ビスホスフィンオキシドである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
一般式:
【化7】

(式中R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示すか、或いは、R及びRが結合して環を形成していてもよく、又、R及びRが結合して環を形成していてもよく、R、R、R、R10及びR11は、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基又はジアルキルアミノ基を示し、ここで、R、R、R、R、R、R10及びR11は、それらから選ばれる2つの基が環を形成していてもよく、l、m及びnは、それぞれ同一又は異なって0以上の整数を示す。)で表されるビスホスフィンオキシドの製造方法であって、
触媒の存在下、一般式:
【化8】

(式中R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、l、m及びnは、前記に同じ。)で表されるホスフィンオキシドと一般式:
【化9】

(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物又は、一般式:
【化10】

(式中R及びRは、前記に同じ。)で表されるリン化合物を反応させることを特徴するビスホスフィンオキシドの製造方法。
【請求項6】
ビスホスフィンオキシドが非対称ビスホスフィンオキシドである請求項5に記載の製造方法。







【公開番号】特開2007−308412(P2007−308412A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138330(P2006−138330)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】