説明

ビスマスの回収方法

【課題】高純度のビスマスを回収する。
【解決手段】ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液にアルカリを添加して、pHを2.5以上4.0未満の範囲で維持することによりビスマスを含有する中和澱物を含むスラリーを得て、スラリーから中和澱物を回収する中和澱物回収工程(S1、S2)と、中和澱物回収工程(S1、S2)で回収した中和澱物に、4mol/l以上のアルカリ溶液を添加し、攪拌して、中和澱物から塩素を分離して、ビスマス澱物を回収するビスマス澱物回収工程(S3、S4)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマスの回収方法に関し、更に詳しくは、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液から塩素の混入が少ないビスマスを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスマス(Bi)は、セラミックコンデンサ等の電子部品、フェライト等の磁性材料、アルミ・銅合金等の冶金製品、塗料、有機合成用触媒等に幅広く使用されている。近年では、ガラスレンズの添加剤、鉛フリーはんだ等の低融点合金をはじめとする、鉛やカドミウムの代替原料としても使用されるようになってきている。
【0003】
このビスマスは、主に銀・鉛・銅・亜鉛・タングステン鉱石等に伴う副産物として産出される。例えば、銅の電解精製では、原料である銅鉱石中に含有されるビスマスがそのまま製錬工程内に留まると、主製品である銅や複製品である白金族等の品質を低下させる原因となる。このため、銅の電解精製では、精錬工程外にビスマスを分離除去する処理が行われる。
【0004】
具体的に、銅の電解精製工程では、銅アノードから電解液中に溶出するビスマスの液中濃度が高くなりすぎると、カソードに電着する製品銅の品質低下を引き起こしてしまう。このため、銅の電解精製工程では、キレート樹脂又は溶媒抽出等を単独又は組み合わせて用いて、電解液からビスマスを分離除去する浄液処理が導入されている。
【0005】
また、銅電解のスライムから白金族等の貴金属を濃縮・分離・精製する工程においても、共存するビスマス濃度が高くなり一定の限界を超えた場合には、精製しようとする白金族元素の製品の品質低下を引き起こすため、銅の電解精製工程と同様にビスマスを分離し除去する処理が行われる。
【0006】
例えば特許文献1には、銅電解液に含まれるビスマス等の不純物をキレート樹脂に吸着し、硫酸と塩化ナトリウムで合成した塩酸と硫酸を混合した酸性溶液を溶離液に用いてビスマスを選択的に溶離し、次いで溶離液を電解採取してビスマスメタルを回収する方法が記載されている。
【0007】
一般に、ビスマスは、単体よりも酸化物等の塩類としての用途が好まれる傾向にある。例えば酸性溶液から酸化ビスマスを得るには、酸性溶液にアルカリを添加し、水酸化物又は酸化物の沈殿を得て、これを加水分解する等して酸化ビスマスを得る方法がある。
【0008】
しかしながら、上述したキレート樹脂を用いてビスマスを回収する方法では、溶離液に塩化物イオンが含有されており、一般的な中和処理により、塩化物イオンが含有された溶液からビスマスを含む沈澱を分離した場合には塩化物イオンが共存してしまうといった問題がある。
【0009】
このような問題点について更に説明すると、単純な中和処理によって銅製錬の工程由来のビスマス濃縮液から回収されたビスマスの沈澱には、ビスマス濃縮液中に共存する共存成分の銅、砒素等も混入する上、数〜十数%の品位になるほどの塩素が含有されてしまう。
【0010】
したがって、ビスマスを沈澱させることにより、ビスマスを銅製錬工程から払い出す場合には、同時に銅も払い出されてしまい、銅製錬工程における銅が減少するため、ビスマスの沈澱への銅の混入を最低限に抑制する必要がある。また、ビスマスの沈澱に含まれる塩素や砒素の量が限度を超えると、ビスマス製品粗原料としての利用に制約が大きくなるため、最低限に抑制する必要がある。
【0011】
一般的な中和処理により回収されるビスマスの沈澱中に塩素が大量に含まれる傾向がある。これは、ビスマスが酸塩化ビスマス(BiClO、オキシ塩化ビスマス)の形態の酸塩化物として沈澱するためだと考えられる。そこで、ビスマスを回収する際には、回収されたビスマスに含まれる塩素を少なくするため、酸塩化ビスマスから塩素を取り除く必要がある。
【0012】
酸塩化ビスマスは、熱濃アルカリ下で反応させることにより、下記式1に例示されるように酸化ビスマス(Bi2)に形態を変えることが知られている。したがって、式1の反応を生じさせることによって、酸塩化ビスマスから塩素を分離することができる。式1の反応を生じさせるには、例えば特許文献2に示されているように、少なくとも90℃以上の加温が必要と考えられる。
【0013】
2BiOCl+NaOH→Bi+2NaCl+HO ・・・・(式1)
【0014】
しかしながら、強アルカリ性のスラリーを90℃以上で加熱処理するには、反応容器の素材の耐久性が要求されるため、設備投資が嵩む課題があり、ビスマス粗原料として回収する場合の実操業方法としては採用し難い方法である。
【0015】
そこで、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液から、塩素の混入が少ないビスマスを容易に回収できる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許3350917号公報
【特許文献2】特開2010−64916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記実情に鑑みて提案されたものであり、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液から塩素の混入が少ないビスマスを容易に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した目的を達成する本発明に係るビスマスの回収方法は、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液にアルカリを添加して、pHを2.5以上4.0未満の範囲で維持することによりビスマスを含有する中和澱物を含むスラリーを得るスラリー生成工程と、中和澱物を含むスラリーを固液分離し、固相を水洗してスラリーから中和澱物を回収する中和澱物回収工程と、中和澱物回収工程で回収した中和澱物に、4mol/l以上のアルカリ溶液を添加したスラリーを攪拌して、中和澱物から塩素を分離する脱塩素処理工程と、脱塩素処理工程のスラリーを固液分離し、固相を水洗してスラリーからビスマスを含むビスマス澱物を回収するビスマス澱物回収工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、ビスマスを含む酸性溶液に塩化物イオンが含まれている場合であっても、塩素の混入が少なく、ビスマス製品の粗原料として利用可能な高純度なビスマス澱物を容易に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用したビスマスの回収方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を適用したビスマスの回収方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0022】
ビスマスの回収方法は、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液からビスマスを酸化ビスマスの形態で回収する方法である。ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液としては、ビスマスを含む溶液中のビスマスをキレート樹脂に吸着させ、このキレート樹脂に塩化物イオンを含む溶離液を接触させてビスマスを溶離させた溶離液を想定している。ビスマスを含む溶液としては、例えばビスマス、銅及び砒素を含む銅の電解精製又は電解採取で用いた電解液である。銅の電解精製又は電解採取で用いた電解液の場合には、溶離液にはビスマスや塩素の他に砒素や銅も混入している。また、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液としては、ビスマスを含む溶液を有機抽出剤と接触させた後、有機抽出剤に塩化物イオンを含む溶離液を接触させ、該ビスマスが溶離した溶離液であってもよい。
【0023】
ビスマスの回収方法は、図1に示すように、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液にアルカリ溶液を添加して、pHを2.5以上4.0未満の範囲で維持することにより、ビスマスを含有する中和澱物を含むスラリーを得るスラリー生成工程S1を経て、このスラリー生成工程S1で得られたスラリーから中和澱物を回収する中和澱物回収工程S2と、この中和澱物回収工程S2で回収した中和澱物に、4mol/l以上のアルカリ溶液を添加し、攪拌して、中和澱物から塩素を分離する脱塩素処理工程S3を経て、塩素の混入が少ないビスマス澱物を回収するビスマス澱物回収工程S4とを有する。
【0024】
(スラリー生成工程S1)
スラリー生成工程S1では、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液にアルカリ溶液を添加して、pHを2.5以上4.0未満で維持することにより、塩化物イオンの一部が含有された液相と、ビスマスを含有する中和澱物を含む固相とからなるスラリーを得る。中和澱物中のビスマスは、主に酸塩化ビスマス(BiClO)の形態となっている。ここで、例えば銅の電解精製で用いた電解液のように、酸性溶液中に銅が含まれている場合には、液相に銅も含有されることとなる。
【0025】
使用するアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が利用しやすいが、これに限定されるものではない。
【0026】
スラリーのpHが2.5未満の場合には、再溶解が進んでしまい、ビスマスを含む中和澱物の沈澱率が低下するため好ましくない。一方、pHが4.0以上の場合には、銅が沈澱してしまい、ビスマスの中和澱物に銅が混入してしまう。したがって、銅を沈澱させないという観点から、スラリーのpHの上限は4.0未満であり、3.5未満に保持することが好ましく、更に積極的に加温を行わず室温下で反応させることが好ましい。このようにスラリーのpHを制御することにより、最終的に回収するビスマス澱物中に酸塩化ビスマス中の塩素以外の塩素、更には銅が混入することを抑制できる。
【0027】
なお、スラリーのpHは、上限及び下限において、操業でのpH調製誤差許容範囲は約0.5である。
【0028】
(中和澱物回収工程S2)
次に、中和澱物回収工程S2では、上述したスラリー生成工程S1で得られた中和澱物を含むスラリーを固液分離して、塩化物イオンの一部、場合により更に銅を含む液相は廃液1として処理し、固相は水洗してビスマスを含有する中和澱物として回収する。固液分離する方法としては、例えば吸引ろ過、フィルタープレス等の加圧ろ過、遠心ろ過等を用いることができる。固液分離及び水洗が不十分である場合には、スラリー生成工程S1にて液相側へ残留させた塩化物イオンの一部や銅が中和澱物に再び分配してしまうため、十分な固液分離と水洗を行うことが好ましい。
【0029】
この中和澱物回収工程S2では、酸性溶液に含有されていた塩化物イオン、更には銅を除去でき(廃液1)、ビスマスは中和澱物として回収することができる。したがって、この中和澱物回収工程S2では、酸塩化ビスマス中の塩素以外の塩素や銅が中和澱物に含有されることを抑制できる。したがって、最終的に回収するビスマス澱物中に塩素や銅が混入することを抑制できる。回収された中和澱物は、ビスマスが主に酸塩化ビスマス(BiClO)の形態をとっているため、後の脱塩処理工程S3にて酸塩化ビスマスから塩素を分離し、酸化ビスマスとする処理を行う必要がある。
【0030】
(脱塩素処理工程S3)
次に、脱塩素処理工程S3では、中和澱物回収工程S2で回収した中和澱物に、濃度4mol/l上のアルカリ溶液を添加したスラリーを攪拌して、酸塩化ビスマスに対して脱塩処理を行う。このとき、中和澱物をよく分散させてアルカリ溶液と接触させることが重要である。この脱塩素処理工程S3では、中和澱物中のビスマスの形態が、酸塩化ビスマス(BiClO)から酸化ビスマス(Bi)へ変化し、これに伴って塩素が固相側から液相側へ移行する。ここで、例えば銅の電解精製で用いた電解液のように、酸性溶液中に砒素が含まれている場合には、液相に砒素も含有されることとなる。
【0031】
具体的に、アルカリ溶液に水酸化ナトリウムを用いた場合には、2BiOCl+NaOH→Bi+2NaCl+HO(式1)の反応が生じ、酸塩化ビスマス(BiClO)から酸化ビスマス(Bi)へ変化する。これにより、中和澱物から塩素を除去することができる。
【0032】
この脱塩素処理工程S3では、添加するアルカリ溶液の濃度を4mol/l以上とすることによって、酸塩化ビスマス(BiClO)を酸化ビスマス(Bi)とする式1の右向きの反応が進み、中和澱物から塩素を除去することができる。アルカリ溶液の濃度の上限は、結晶を晶出しない範囲である。
【0033】
この脱塩素処理工程S3では、上述した中和澱物回収工程S2において、塩化物イオンの一部が液相中に残留し、廃液として除去され、中和澱物に含まれている塩化物イオンが少ないため、スラリー中に共存する塩化物イオンが少なく、塩化物イオンの濃度が高くなることを抑制することができる。これにより、脱塩素処理工程S3では、従来のような加熱は必要とせずに上記式1の右向きの反応を十分に生じさせることができる。この脱塩処理工程S3では、加熱せずに式1の反応を十分に生じさせて、酸塩化ビスマス(BiClO)を酸化ビスマス(Bi)とすることができるため、反応容器等の耐久性、設備投資等の問題は生じず、実操業方法に採用することができる。
【0034】
このように、脱塩素処理工程S3では、上述した中和澱物回収工程S2において、塩化物イオンが除去されているため、加熱を必要とせず、また反応容器等の耐久性、設備投資等の問題が生じることなく、酸化ビスマスを容易に生成することができる。
【0035】
なお、この脱塩素処理工程S3では、脱塩素処理を加速させるため、加温してもよい。しかしながら、80℃を超えた加温は、利用できる設備素材に制限が加わり、加温に要するコストを無視できなくなるため、好ましくない。したがって、加温する場合には、80℃未満とすることが好ましい。
【0036】
(ビスマス澱物回収工程S4)
次に、ビスマス澱物回収工程S4では、脱塩素処理工程S3で得たスラリーから固液分離を行い、塩化物イオン、場合により更に砒素を含む液相を廃液2として処理し、固相を水洗することにより酸化ビスマスの形態でビスマス澱物を回収する。固液分離する方法としては、例えば吸引ろ過、フィルタープレス等の加圧ろ過、遠心ろ過等を用いることができる。ビスマス澱物回収工程S4では、固液分離と水洗が不十分である場合、脱塩素処理工程S3にて液相側へ移行させた塩素や砒素の一部が酸化ビスマス澱物に再び分配する可能性があるので、十分な固液分離と水洗を行うことが好ましい。
【0037】
このビスマス澱物回収工程S4では、塩化物イオン、更には砒素を除去でき(廃液2)、塩素、更には銅及び砒素の混入量が少ないビスマスを酸化ビスマスの形態で回収することができる。
【0038】
以上のようなビスマスの回収方法では、先ず、スラリー生成工程S1及び中和澱物回収工程S2により、ビスマス及び塩化物イオンを含む溶液にアルカリを添加して、スラリーのpHを2.5以上4.0未満の範囲で維持することにより、塩化物イオンを含む液相と、ビスマスを含む中和澱物を含む固相とに分けることができ、塩素が中和澱物に含有されることを抑制できる。また、スラリー生成工程S1及び中和澱物回収工程S2により、溶液中の塩化物イオンを除去することができるため、後の脱塩素処理工程S3では、加熱することなく、酸塩化ビスマスを酸化ビスマスにすることができる。
【0039】
そして、このビスマスの回収方法では、脱塩素処理工程S3及びビスマス澱物回収工程S4により、ビスマスを含む中和澱物に4mol/l以上のアルカリ溶液を添加して脱塩処理を行うことによって、酸塩化ビスマス中の塩素を除去することができる。
【0040】
したがって、このビスマスの回収方法では、スラリー生成工程S1からビスマス澱物回収工程S4までによって、ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液から塩素をほとんど含まない高純度のビスマスを酸化ビスマスの形態で回収することができる。これにより、このビスマスの回収方法では、ビスマス製品粗原料の品質が低下することを防止できる。また、このビスマスの回収方法では、スラリー生成工程S1及び中和澱物回収工程S2により、塩化物イオンを除去することができるため、脱塩素処理工程S3において加熱を必要とせず、また反応容器等の耐久性、設備投資等の問題が生じることもないため、酸化ビスマスを容易に生成することができる。
【0041】
また、このビスマスの回収方法では、例えば酸性溶液として、ビスマス、砒素及び銅を含む銅の電解精製で用いた電解液中のビスマスをキレート樹脂に吸着させ、このキレート樹脂に塩化物イオンを含む溶離液を接触させてビスマスを溶離させた溶離液、即ちビスマス、銅、砒素及び塩化物イオンを含む溶液である場合には、スラリー生成工程S1及び中和澱物回収工程S2により、塩素及び銅がビスマスを含む中和澱物に含有されることを抑制できる。そして、このビスマスの回収方法では、塩素及び銅がほとんど含まれていない中和澱物に対して、脱塩素処理工程S3及びビスマス澱物回収工程S4を経て、塩酸化ビスマス中の塩素及び砒素を取り除くことができる。したがって、このビスマスの回収方法では、スラリー生成工程S1からビスマス澱物回収工程S4を経ることによって、塩素、銅及び砒素の混入が少ないビスマスを酸化ビスマスの形態で回収することができる。
【0042】
更に、このビスマスの回収方法では、銅の電解精製又は電解採取で用いた電解液からビスマスを回収する場合、ビスマスの回収物への銅の混入を抑えることができるため、銅の電解精製による銅の回収量を減少させてしまうことも抑制できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で示した液体と固体の分析は、分析用試料に適切な前処理を施した後、塩素以外の元素はICP発光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)を用い、塩素は塩化銀比濁法を用いて、分析した。
【0044】
<実施例1>
実施例1では、キレート樹脂(ミヨシ油脂(株)製エポラスMX−2)1リットルをカラムに充填し、銅の電解精製で用いる硫酸酸性の電解液をこのキレート樹脂に通液し、電解液中のビスマスを吸着させた。そして、通液量BV3の温水で洗浄後、硫酸と塩化ナトリウムの混合溶液を用いて、ビスマスを選択的に溶離するため、カラム上方から混合溶液を通液してビスマスの溶離を行った。樹脂からビスマスを溶離した液を元液とした。
【0045】
元液の組成は、ビスマス9.0g/l、塩化物イオン140g/l、銅0.49g/l、砒素1.2g/lである。この塩酸性ビスマス含有溶液を1リットル分取した。この分取した1リットルの塩酸性ビスマス含有溶液を溶液Aとする。
【0046】
(スラリー生成工程S1)
この溶液Aを攪拌しながら、水酸化ナトリウム溶液(9mol/l)を添加してpH3.0に調整し、このpHを保持しつつ30分間攪拌して中和澱物を含むスラリーを生成した。この30分の間、pH変動は2.9〜3.2の間で安定した。この中和処理には、400mlの水酸化ナトリウム溶液を要した。なお、中和処理において加温は行わず液温は成り行きとした。
【0047】
(中和澱物回収工程S2)
次に、この中和澱物を含むスラリーを静置して上澄を除去し、そして純水500mlを加えレパルプ洗浄を行った。この上澄除去とレパルプ洗浄を合計4回繰返した。4回目のレパルプ洗浄後、濾別して中和澱物を回収した。
【0048】
(脱塩素処理工程S3)
次に、4回のレパルプ洗浄を行い濾過した中和澱物に、水(180ml)と水酸化ナトリウム溶液(9mol/l、180ml)を添加し、即ち、4.5mol/lの水酸化ナトリウム溶液を添加し、攪拌して完全に澱物を分散けん濁させた後、6時間静置して脱塩素処理を行った。この間、特に加温は行わなかった。
【0049】
(ビスマス沈澱物回収工程S4)
次いで、6時間静置後、上澄を除去し、純水500mlを加えて行うレパルプ洗浄を、上澄除去と交互に合計3回繰返し実施した。3回目のレパルプ洗浄後、濾別によりビスマス澱物を回収した。
【0050】
以上の工程を経て得たビスマス澱物の品位、及び得た澱物の物量を元液に含有されたビスマス量で割って得た回収率を表1に示す。
【0051】
実施例1では、銅品位が分析下限(0.1%)未満と、銅の混入が無視できるほど少なく、また塩素品位は1%未満、砒素品位は0.1%未満となるなど、ビスマス製品の原料として利用可能なビスマス沈澱を得ることができた。
【0052】
【表1】

(注:加温「なし」は室温での反応で成り行きとしたことを示す)
【0053】
<比較例1>
比較例1では、実施例1と同じ塩酸酸性でビスマス9.0g/lとともに、塩素140g/l、銅0.49g/l、砒素1.2g/lを含む塩酸性ビスマス含有液1リットル(溶液A)を攪拌しながら70℃まで加温し、水酸化ナトリウム溶液(9mol/l)を添加してpH13.5に調整し、このpHと温度70℃を保持しつつ7時間攪拌して、中和・脱塩処理を行い、ビスマス澱物を生成させた。この間のpH変動は、13.3〜13.7の間で収まった。この中和・脱塩素処理では、700mlの水酸化ナトリウム溶液を要した。
【0054】
次に、中和・脱塩素処理における攪拌を停止して静置後に、上澄を除去した上で、水500mlを加えて行うレパルプ洗浄を、上澄除去と交互に合計8回繰返し実施した後、濾別により澱物(ビスマス澱物)を回収した。
【0055】
比較例1では、実施例1の中和澱物回収工程(S2)に相当する工程は行っていない。比較例1では、実施例1の脱塩素処理工程(S3)に相当する脱塩素処理を、実施例1のスラリー生成工程(S1)に相当する中和処理と区切りなく連続して行うことにより、見かけ上は省略している。
【0056】
比較例1の中和澱物(ビスマス澱物)の品位と回収率を表1に示す。水酸化ナトリウム溶液の総添加量は、実施例1を上回った。一方で、比較例1では、中和澱物回収工程(S2)に相当する工程を行っておらず、塩化物イオンが除去されていないため、回収した澱物(ビスマス澱物)の塩素品位が実施例1を大幅に上回った。砒素品位は実施例1より若干高くなった。また、比較例1では、pHが4.0よりも高いため、銅が沈澱し、元液中の30%程度がビスマス澱物中に分配してしまい、銅品位が高くなり、本実施例と比べて劣る結果となった。また、この結果から、比較例1の方法を銅製錬におけるビスマスの回収に用いた場合は、銅製錬で得られる銅が少なくなり、銅のロスが生じてしまうことがいえる。
【0057】
<比較例2>
比較例2では、実施例1と同じ塩酸酸性でビスマス9.0g/lとともに、塩素140g/l、銅0.49g/l、砒素1.2g/lを含む塩酸性ビスマス含有液1リットル(溶液A)を攪拌しながら、水酸化ナトリウム溶液(濃度9mol/l)を添加してpH3.0に調整し、次にこのpHを保持しつつ30分間攪拌して中和澱物を生成させた。この30分間のpH変動は殆んどなく、2.9〜3.2の間で収まった。この中和処理には410mlの水酸化ナトリウム溶液を要した。特に加温は行わなかった。
【0058】
次に、この中和澱物スラリーを静置して上澄を除去した上、水500mlを加えて行うレパルプ洗浄を、上澄除去と交互に合計8回繰返し実施した。8回目のレパルプ洗浄後、濾別により中和澱物を回収した。
【0059】
比較例2では、実施例1の脱塩素処理工程及びビスマス沈澱物回収工程に相当する工程は行っていない。
【0060】
比較例2の回収した中和澱物の品位と回収率を表1に示す。銅は、品位が分析下限(0.1%)未満となり、銅の混入を抑えることができたが、脱塩素処理工程及びビスマス沈澱物回収工程を行っていないため、塩素品位も砒素品位も実施例1で回収したビスマス澱物を大幅に上回った。
【0061】
<比較例3>
比較例3では、実施例1と同じ塩酸酸性でビスマス9.0g/lとともに、塩素140g/l、銅0.49g/l、砒素1.2g/lを含む、塩酸性ビスマス含有液1リットル(溶液A)を攪拌しながら、水酸化ナトリウム溶液(濃度9mol/l)を添加してpH3.0に調整し、次いでこのpHを保持しつつ30分間攪拌して中和澱物を生成させた。この30分間のpH変動は殆んどなく、2.9〜3.2の間で収まった。この中和処理には400mlの水酸化ナトリウム溶液を要した。特に加温は行わなかった。
【0062】
次に、この中和澱物スラリーを静置して上澄を除去した上、水500mlを加えて行うレパルプ洗浄を、上澄除去と交互に合計4回繰返し実施した。4回目のレパルプ洗浄後、濾別により中和澱物を回収した。
【0063】
次に、実施例1と同様に、4回のレパルプ洗浄を行い濾過した中和澱物に、水(180ml)と水酸化ナトリウム溶液(9mol/l、100ml)を添加し、即ち、3.2mol/lの水酸化ナトリウム溶液を添加し、攪拌して完全に澱物を分散けん濁させた後、6時間静置して脱塩素処理を行った。この間、特に加温は行わなかった。
【0064】
次に、6時間静置後、上澄を除去し、純水500mlを加えて行うレパルプ洗浄を、上澄除去と交互に合計3回繰返し実施した。3回目のレパルプ洗浄後、濾別によりビスマス澱物を回収した。
【0065】
比較例3の回収した中和澱物の品位と回収率を表1に示す。銅は、品位が分析下限(0.1%)未満となり、銅の混入を抑制することができたが、脱塩素処理における水酸化ナトリウムの濃度が低いため、脱塩素処理を十分に行うことができず、塩素品位が実施例1で回収したビスマス澱物を上回った。
【0066】
以上のように、実施例1、比較例1〜3の結果から、実施例1で示した本発明のビスマス回収方法を用いることにより、高純度のビスマスを回収できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス及び塩化物イオンを含む酸性溶液にアルカリを添加して、pHを2.5以上4.0未満の範囲で維持することにより上記ビスマスを含有する中和澱物を含むスラリーを得るスラリー生成工程と、
上記中和澱物を含むスラリーを固液分離し、固相を水洗して上記スラリーから上記中和澱物を回収する中和澱物回収工程と、
上記中和澱物回収工程で回収した上記中和澱物に、4mol/l以上のアルカリ溶液を添加したスラリーを攪拌して、上記中和澱物から塩素を分離する脱塩素処理工程と、
上記脱塩素処理工程のスラリーを固液分離し、固相を水洗して上記スラリーからビスマスを含むビスマス澱物を回収するビスマス澱物回収工程とを有することを特徴とするビスマスの回収方法。
【請求項2】
上記酸性溶液は、ビスマスを含む溶液を有機抽出剤と接触させ又はキレート樹脂に通液して上記ビスマスを吸着させた後、上記有機抽出剤又は上記キレート樹脂に塩化物イオンを含む溶離液を接触させ、該ビスマスが溶離した溶離液であることを特徴とする請求項1記載のビスマスの回収方法。
【請求項3】
上記ビスマスを含む溶液は、ビスマス及び砒素を含む銅の電解精製又は電解採取に用いた電解液であることを特徴とする請求項2記載のビスマスの回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−144754(P2012−144754A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1785(P2011−1785)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】