説明

ビタミンB6の分別定量方法およびビタミンB6の分別定量用キット

【課題】食品、尿、母乳などの夾雑物を多く含む試料が対象であっても、試料中に含まれる個々のビタミンB6をより正確かつ効率的に分別定量できる方法と、当該方法に使用できるビタミンB6分別定量用キットを提供。
【解決手段】ビタミンB6の分別定量方法は、ピリドキサール−4−デヒドロゲナーゼ等、特定の酵素を組合わせて試料を処理することにより生じる4−ピリドキソラクトンを定量し、各反応で得られた定量値から個々のビタミンB6を分別定量するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB6を個別に定量するための方法、およびビタミンB6を個別に定量するためのキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への関心が高まっており、食品中の機能性成分に注目が集まっている。また、ビタミン類の一つであるビタミンB6が欠乏すると、特に新生児や妊婦において皮膚炎や痙攣などが引き起こされることがある。よって、食品に加え、血液や尿に含まれるビタミンB6や、その代謝物である4−ピリドキシン酸を定量することが行われている。
【0003】
ビタミンB6の一般的な定量方法としては、塩酸や硫酸を用いて試料中のリン酸型ビタミンB6を加水分解した上で、Saccharomyces cerevisiae ATCC9080の増殖を特定波長の吸光度に基づいて測定し、検量線からビタミンB6の総量を定量する方法が知られている。
【0004】
しかし当該方法では微生物を用いるため、その精度と信頼性は決して高いものではない。また、ビタミンB6としては、ピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキシン、およびそれらのリン酸エステルであるピリドキサミン 5’−リン酸、ピリドキサール 5’−リン酸、ピリドキシン 5’−リン酸があり、これらのうちピリドキサミン 5’−リン酸は加水分解され難いので、これを多く含む食品などの測定値は不正確となりやすい。さらに当該方法では、ビタミンB6と構造が類似するもののビタミンB6には分類されないピリドキシン−β−グルコシドの量も測定値に含まれてしまうという問題がある。
【0005】
また、個々のビタミンB6は、それぞれに特有の作用効果や物性を有する。例えば、ピリドキサール 5’−リン酸はトランスアミナーゼやデカルボキシラーゼなどの補酵素として働く。かかるデカルボキシラーゼとしては脳に存在するグルタミン酸デカルボキシラーゼが挙げられ、ピリドキサール 5’−リン酸が欠乏すると当該デカルボキシラーゼの活性低下につながり、神経症状の原因になると考えられている。また、ピリドキサール 5’−リン酸は、種々の酵素のリシン残基に結合してその活性を阻害する。このようにピリドキサール 5’−リン酸は、生体内の代謝に深く関わっている。その他、最近、ピリドキサミンは糖尿病合併症の予防作用や治療作用を有することが見出されている。また、ピリドキサール 5’−リン酸とピリドキサミンは糖尿病腎症の予防作用等を有することが明らかにされている。一方、ピリドキサールは肝臓のアルデヒドオキダーゼにより直接4−ピリドキシン酸に酸化されて尿中に排泄されてしまうので、ヒトにビタミンB6を投与する場合には、ピリドキサールよりピリドキシンでの投与が有効であるといわれている。よって、上記方法のようにビタミンB6の総量を測定するよりも、個々のビタミンB6をそれぞれ定量することが望まれる。
【0006】
そこで、高速液体クロマトグラフィを用いて各ビタミンB6を分別定量する方法が開発されている。しかし当該方法には、比較的含量の多いピリドキサール 5’−リン酸とピリドキサール以外のビタミンB6の定量が難しいという問題がある。カラムを工夫することによりピリドキサミン 5’−リン酸も定量できるようにはなるものの、全てのビタミンB6を定量し難いことには変わりはない。また、食品、尿、母乳、各種臓器など蛍光性夾雑物を特に多く含む試料では、含量の低いビタミンB6の定量は非常に困難である。
【0007】
ところで本発明者は、特許文献1のとおり、ピリドキサールを4−ピリドキソラクトンへ効率的に変換する酵素を見出している。
【0008】
また、本発明者の研究グループは、非特許文献1のとおり、塩酸による加水分解反応と酵素反応を組合わせてビタミンB6を分別定量する方法を開発している。詳しくは、試料中のピリドキサミン 5’−リン酸などのリン酸型ビタミンB6を、0.055〜0.88Mの塩酸中、121℃で5時間加水分解した後、反応液を中和してから酵素反応に付すことにより蛍光発色性が極めて高い4−ピリドキソラクトンに導く。また、ピリドキサールなどリン酸化されていないビタミンB6は、タンパク質などの高分子や脂質といった夾雑物を除去するために塩酸中低温で処理した上で酵素処理することにより、同じく4−ピリドキソラクトンに導く。これら酵素反応において使用する酵素の組合わせを工夫し、生じた4−ピリドキソラクトンを定量することによって、個々のビタミンB6を分別定量することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−238808号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Saki NISHIMURAら,Journal of Nutritional Science and Vitaminology(ジャーナル・オブ・ニュトリショナル・サイエンス・アンド・ヴィタミノロジー),第54巻,第18〜24頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、本発明者の研究グループは、塩酸による加水分解反応と酵素反応を組合わせてビタミンB6を分別定量する方法を開発している。
【0012】
しかし、リン酸体を加水分解するため長時間にわたり加熱酸処理すると、定量対象であるビタミンB6が夾雑物と反応して変質してしまい、正確な定量ができなくなるおそれがある。一方、AOAC(The Association of Official Analytical Chemists)で定められているリン酸型ビタミンB6の公的加水分解条件のとおり反応時間を2〜3時間にとどめると、特にピリドキサミン 5’−リン酸とピリドキシン 5’−リン酸が十分に加水分解されない。さらに当該方法では、ピリドキシン 5’−リン酸と、ビタミンB6ではないピリドキシン−β−グルコシドを区別できず、これらの合計量しか測定できないという問題もある。
【0013】
そこで本発明は、たとえ食品、尿、母乳など夾雑物を多く含む試料が対象であっても、試料中に含まれる個々のビタミンB6をより正確かつ効率的に分別定量できる方法と、当該方法に使用できるビタミンB6分別定量用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、リン酸型ビタミンB6の加水分解には酸性ホスファターゼは使えない一方で、アルカリホスファターゼを用いれば極めて効率的に各ビタミンB6を分別定量できる上に、ピリドキシン−β−グルコシドの存在の有無にかかわらずピリドキシン 5’−リン酸を分別定量できることを見出して、本発明を完成した。
【0015】
本発明に係るビタミンB6の分別定量方法は、試料にピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量することにより、ピリドキサールを定量する工程1;試料にピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程2;試料にピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程3;試料にアルカリホスファターゼ、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程4;試料にアルカリホスファターゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程5;試料にアルカリホスファターゼ、ピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程6;工程2の定量値から工程1の定量値を引き、ピリドキサミンを定量する工程;工程3の定量値から工程1の定量値を引き、ピリドキシンを定量する工程;工程4の定量値から工程2の定量値を引き、ピリドキサミン 5’−リン酸を定量する工程;工程5の定量値から工程1の定量値を引き、ピリドキサール 5’−リン酸を定量する工程;工程6の定量値から工程3の定量値を引き、ピリドキシン 5’−リン酸を定量する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明方法においては、酵素反応前に試料をトリクロロ酢酸で処理することが好ましい。当該処理により脂質やタンパク質などの夾雑物を試料から良好に除去できる一方で、後続する酵素反応をワンポットで問題なく実施できる。さらに、試料中でタンパク質に結合しているピリドキサール 5’−リン酸を遊離させることができ、より正確な定量が可能になる。
【0017】
また、本発明では、さらに、試料にβ−グルコシダーゼ、ピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程7;並びに、工程7の定量値から工程1および工程3の定量値を減じ、ピリドキシン−β−グルコシドを定量する工程を実施することが好ましい。これら工程により、ビタミンB6には分類されないものの、構造的には類似でありビタミンB6と同様の働きをする可能性もあるピリドキシン−β−グルコシドも定量することが可能になる。
【0018】
本発明に係るビタミンB6分別定量用キットは、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ、ピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびアルカリホスファターゼを含むことを特徴とする。当該キットを用いれば、本発明方法を実施することができる。
【0019】
また、上記本発明方法と同様に、本発明に係るビタミンB6分別定量用キットとしては、さらにトリクロロ酢酸を含むものや、β−グルコシダーゼを含むものが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明方法によれば、たとえ食品、尿、母乳など夾雑物を多く含む試料が対象であっても、試料中における個々のビタミンB6をより正確かつ効率的に分別定量することができる。また、本発明に係るビタミンB6分別定量用キットは、本発明方法を実施するために用いることができる。よって本発明は、近年の健康志向に応じて、生体内での代謝などに深く関与するビタミンB6の含有量を、食品や母乳など夾雑物を多く含む試料においても正確に分別定量できることから非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、まず本発明方法を実施の順番に従って説明する。
【0022】
(1) 試料の前処理工程
本発明で各ビタミンB6の含有量を測定すべき試料は特に制限されず、ビタミンB6の含有量を知ることが望ましい何らかの理由があるものであればよい。例えば、食品原料や加工食品などの食品;脳や肝臓などの臓器試料;血液、血清、血漿、尿、母乳などの液状生体試料;微生物や土壌などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
測定対象試料には、蛍光性物質、タンパク質などの高分子や脂質、セルロースなどの水不溶性物質などが含まれている場合が多い。これらは正確な測定を阻害するおそれがあり得るため、特に食品、尿、母乳など、夾雑物が多く含まれる試料を測定対象とする場合には、夾雑物の量を減らすための前処理を行うことが好ましい。また、ピリドキサール 5’−リン酸は、タンパク質と結合している場合がある。かかるピリドキサール 5’−リン酸を遊離させるためにも、前処理することが好ましい。
【0024】
かかる前処理としては、酸処理が好ましい。ビタミンB6は水溶性で且つ、酸性水溶液中で析出せず分解されにくいことから、アルカリ水溶液よりも酸性水溶液で処理する。使用する酸としては、塩酸、硫酸などの無機酸;トリクロロ酢酸、ピクリン酸などの有機酸を挙げることができる。但し、過塩素酸など酵素反応を阻害するものは使用すべきでない。
【0025】
酸性水溶液の濃度や量、処理の温度や時間などは、夾雑物を不溶化することができ、且つリン酸型ビタミンB6が加水分解されず、他のビタミンB6が変質しない範囲で適宜調整すればよい。例えば、トリクロロ酢酸を用いる場合、その濃度を30w/v%以上、60w/v%以下程度とし、尿などの液体試料に対しては試料1mLに対して0.01mL以上、0.05mL以下程度、食品などの固体試料に対しては試料1gに対して0.05mL以上、0.5mL以下程度用いることができ、また、反応温度は80℃以上、120℃以下程度、反応時間は1分間以上、20分間以下程度とすることができる。塩酸を用いる場合には、その濃度を0.05N以上、0.2N以下程度とし、固体試料に対しては試料1gに対して1mL以上、10mL以下程度用いることができ、反応温度は80℃以上、120℃以下程度、反応時間は10分間以上、1時間以下程度とすることができる。
【0026】
前処理で使用する酸は一種のみ用いてもよいし、二種以上を組合わせて使用してもよい。例えば、試料を均質化するために0.1N程度の塩酸を加えて約100℃で30分間程度加熱した後、50w/v%程度のトリクロロ酢酸を加えて約100℃で5分間程度加熱してもよい。
【0027】
固体試料を測定する場合、上記酸処理する前に、水または上記酸性水溶液中で、ホモジェナイザーなどを用いて固体試料を十分に粉砕することが好ましい。
【0028】
上記酸処理の後は、水酸化ナトリウムなどのアルカリや緩衝液を加え、後続の酵素反応などのために必要であれば、pHを調整してもよい。
【0029】
次いで、遠心分離や濾過などにより、不溶性の夾雑物を除去する。この際、水溶性であるビタミンB6は、上澄や濾液に溶解している。より一層正確な定量のために、残渣を水洗し、洗浄液を上澄などに混合してもよい。
【0030】
さらに、本発明方法では各ビタミンB6を4−ピリドキソラクトンに変換して定量するが、4−ピリドキソラクトンの蛍光発色性は極めて高くpmolレベルでも検出可能であるので、必要に応じて反応液を希釈してもよい。希釈率は、予備実験などで適宜決定すればよい。
【0031】
得られた試料溶液は、後続する酵素反応のために、同様のものを最低7つ調製する。
【0032】
(2) 工程1:PLの定量工程
本工程では、下記式のとおり、試料にピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりピリドキサール(PL)を4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量することにより、ビタミンB6の一つであるPLを間接的に定量する。
【0033】
【化1】

【0034】
PLDHはピリドキシンを唯一の炭素源として生育する微生物に存在し、PLを不可逆的に酸化して4−PALに変換する酵素である。PLDHは、Psceudomonas MA−1株から単離したり、また、特許文献1のとおり、Mesorhizobium lotiから対応遺伝子を取得し、遺伝子組み換え法により得てもよい。例えば、本発明者の研究グループによる、Arch Biochem Biophys, 452(1), pp.1-8(2006)に記載の方法により得ることができる。また、市販のものがあれば、市販品を使用してもよい。
【0035】
PLDHの反応至適pHは8.7〜9.7程度であることから、緩衝液などを適量添加して反応溶液のpHを当該範囲に調整することが好ましい。
【0036】
使用するPLDHの適量は、反応溶液中におけるPLの量に依存するので、予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のNAD+を添加する。
【0037】
PLDHの至適反応温度は30〜55℃程度であることから、酵素反応時の反応溶液温度は当該範囲に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0038】
十分に酵素反応を行った後、塩酸などを添加することにより酵素反応を停止させた上で、不溶成分などを遠心分離や濾過などにより除去する。次に、4−PALを定量することによりPLを間接的に定量する。
【0039】
4−PALは355〜365nmの波長で励起すると425〜435nm程度の波長の蛍光を強く発し、pmolレベルの量でも十分に検出可能である。よって、当該波長範囲の検出波長で反応溶液を高速液体クロマトグラフィなどで蛍光強度を測定する場合、蛍光性夾雑物などの悪影響は少ないといえる。
【0040】
得られた蛍光強度から、検量線などにより4−PALを定量し、ひいてはPLを定量する。因みに、本発明者による実験的知見によれば、4−PALの蛍光強度と濃度は明確な比例関係にあるので、蛍光強度から4−PALの濃度を正確に求めることが可能である。
【0041】
(3) 工程2:PMとPLとの合計量の測定工程
本工程では、下記式のとおり、試料にピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(PPAT)を作用させることによりピリドキサミン(PM)をピリドキサール(PL)に変換し、さらにピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりPLを4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量する。
【0042】
【化2】

【0043】
PPATは、ピリドキサミンまたはピリドキシンを単一炭素源として生育した微生物のみから見出されている酵素であり、PMとPLの相互変換を触媒する。PPATは、Psceudomonas MA−1株から単離することができる。また、Mesorhizobium lotiから対応遺伝子を取得し、遺伝子組み換え法により得てもよい。例えば、本発明者の研究グループによる、Biochem J, 396(3), pp.499-507(2006)に記載の方法により得ることができる。市販のものがあれば、市販品を使用してもよい。
【0044】
また、PPATとPLDHによる各反応は逐次的に行うこともできるが、反応溶液に両酵素を存在せしめて連続的に行うこともできる。効率を考慮すれば、各反応を連続的に行うことが好ましい。
【0045】
PPATの至適反応pHは9.5程度であることから、PLDHの至適反応pHも考慮し、緩衝液を適量添加することにより反応溶液のpHを9.0以上、10.0以下程度に調整することが好ましい。
【0046】
使用するPPATの適量は反応溶液中におけるPMの量に依存し、PLDHの適量はPMとPLの合計量に依存するので、両酵素の使用量は工程1の結果や予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のピルビン酸とNAD+を添加する。
【0047】
PPATの至適反応温度は70℃程度であることから、PLDHの至適反応温度も考慮し、反応溶液の温度を30℃以上、55℃以下程度に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPMとPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のPPATとPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0048】
反応終了後は、上記工程1と同様にして4−PALを定量することにより、間接的にPMとPLの合計量を定量することができる。
【0049】
(4) 工程3:PNとPLとの合計量の測定工程
本工程では、下記式のとおり、試料にピリドキシン 4−オキシダーゼ(PNOX)を作用させることによりピリドキシン(PN)をピリドキサール(PL)に変換し、さらにピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりPLを4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量する。
【0050】
【化3】

【0051】
PNOXは、Psceudomonas MA−1株から単離したり、また、Mesorhizobium lotiから対応遺伝子を取得し、遺伝子組み換え法により得てもよい。例えば、本発明者の研究グループによる、FEMS Microbiol Lett, 234(2), pp.225-230(2004)に記載の方法により得ることができる。市販のものがあれば、市販品を使用してもよい。
【0052】
PNOXとPLDHによる各反応は逐次的に行うこともできるが、反応溶液に両酵素を存在せしめて連続的に行うこともできる。効率を考慮すれば、各反応を連続的に行うことが好ましい。
【0053】
PNOXの至適反応pHは7.5〜8.0程度であることから、PLDHの至適反応pHも考慮し、緩衝液を適量添加することにより反応溶液のpHを8.0以上、9.5以下程度に調整することが好ましい。
【0054】
使用するPNOXの適量は反応溶液中におけるPNの量に依存し、PLDHの適量はPNとPLの合計量に依存するので、両酵素の使用量は工程1の結果や予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のFADとNAD+を添加する。
【0055】
PNOXの至適反応温度は40℃程度であることから、PLDHの至適反応温度も考慮し、反応溶液の温度を30℃以上、55℃以下程度に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPNとPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のPNOXとPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0056】
反応終了後は、上記工程1と同様にして4−PALを定量することにより、間接的にPNとPLの合計量を定量することができる。
【0057】
(5) 工程4:PMPとPMとPLとの合計量の測定工程
本工程では、下記式のとおり、試料にアルカリホスファターゼ(ALP)を作用させることによりピリドキサミン 5’−リン酸(PMP)をピリドキサミン(PM)に変換し、さらにピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(PPAT)を作用させることによりピリドキサミン(PM)をピリドキサール(PL)に変換し、さらにピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりPLを4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量する。
【0058】
【化4】

【0059】
ALPは、至適反応pHがアルカリ側にあり、多くのリン酸モノエステル結合を加水分解できる特異性の広い酵素である。ALPは微生物から高等動物まで広く存在しているので、常法により単離精製することができるし、これら生物から対応遺伝子を取得し、遺伝子組み換え法により得てもよい。また、市販のものがあれば、市販品を使用してもよい。
【0060】
また、ALP、PPATおよびPLDHによる各反応は逐次的に行うこともできるが、反応溶液に両酵素を存在せしめて連続的に行うこともできる。効率を考慮すれば、各反応を連続的に行うことが好ましい。
【0061】
ALPの至適反応pHは9.0〜10.5程度であることから、PPATおよびPLDHの至適反応pHも考慮し、緩衝液を適量添加することにより反応溶液のpHを8.0以上、9.5以下程度に調整することが好ましい。また、ALPの活性維持のためにMg2+を塩化マグネシウムなどの塩として添加することが好ましい。
【0062】
使用するALPの適量は反応溶液中におけるPMP、ピリドキサール 5’−リン酸(PLP)およびピリドキシン 5’−リン酸(PLP)の合計量とその他のリン酸エステル化合物の総量に依存し、PPATの適量はPMPとPMの合計量に依存し、PLDHの適量はこれらとPLの合計量に依存するので、これら酵素の使用量は工程1等の結果や予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のNAD+を添加する。
【0063】
ALPの至適反応温度は70〜80℃程度であることから、PPATおよびPLDHの至適反応温度も考慮し、反応溶液の温度を30℃以上、55℃以下程度に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPMP、PMおよびPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のALP、PPATおよびPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0064】
反応終了後は、上記工程1と同様にして4−PALを定量することにより、間接的にPMP、PMおよびPLの合計量を定量することができる。
【0065】
(6) 工程5:PLPとPLとの合計量の測定工程
本工程では、下記式のとおり、試料にアルカリホスファターゼ(ALP)を作用させることによりピリドキサール 5’−リン酸(PLP)をピリドキサール(PL)に変換し、さらにピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりPLを4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量する。
【0066】
【化5】

【0067】
ALPとPLDHによる各反応は逐次的に行うこともできるが、反応溶液に両酵素を存在せしめて連続的に行うこともできる。効率を考慮すれば、各反応を連続的に行うことが好ましい。
【0068】
上記工程4と同様に、反応溶液のpHを8.0以上、9.5以下程度に調整することが好ましい。また、ALPの活性維持のためにMg2+を塩化マグネシウムなどの塩として添加することが好ましい。
【0069】
使用するALPの適量は反応溶液中におけるリン酸型ビタミンB6とその他のリン酸エステル型化合物の量に依存し、PLDHの適量はPLPとPLの合計量に依存するので、これら酵素の使用量は工程1の結果や予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のNAD+を添加する。
【0070】
上記工程4と同様に、反応溶液の温度を30℃以上、55℃以下程度に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPLPとPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のALPとPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0071】
反応終了後は、上記工程1と同様にして4−PALを定量することにより、間接的にPLPとPLの合計量を定量することができる。
【0072】
(7) 工程6:PNPとPNとPLとの合計量の測定工程
本工程では、下記式のとおり、試料にアルカリホスファターゼ(ALP)を作用させることによりピリドキシン 5’−リン酸(PNP)をピリドキシン(PN)に変換し、さらにピリドキシン 4−オキシダーゼ(PNOX)を作用させることによりピリドキシン(PN)をピリドキサール(PL)に変換し、さらにピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりPLを4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量する。
【0073】
【化6】

【0074】
ALP、PNOXおよびPLDHによる各反応は逐次的に行うこともできるが、反応溶液に両酵素を存在せしめて連続的に行うこともできる。効率を考慮すれば、各反応を連続的に行うことが好ましい。
【0075】
上記工程4と同様に、反応溶液のpHを8.0以上、9.5以下程度に調整することが好ましい。また、ALPの活性維持のためにMg2+を塩化マグネシウムなどの塩として添加することが好ましい。
【0076】
使用するALPの適量は反応溶液中におけるリン酸型ビタミンB6とその他のリン酸エステル型化合物の量に依存し、PNOXの適量はPNPとPNの合計量に依存し、PLDHの適量はこれらとPLの合計量に依存するので、これら酵素の使用量は工程1等の結果や予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のFADとNAD+を添加する。
【0077】
上記工程4と同様に、反応溶液の温度を30℃以上、55℃以下程度に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPNP、PNおよびPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のALP、PNOXおよびPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0078】
反応終了後は、上記工程1と同様にして4−PALを定量することにより、間接的にPNP、PNおよびPLの合計量を定量することができる。
【0079】
(8) 各ビタミンB6の量の算出工程
上記工程1により、試料中におけるピリドキサール(PL)の量を求めることができる。また、上記工程2によりピリドキサミン(PM)とPLとの合計量が、上記工程3によりピリドキシン(PN)とPLとの合計量が、上記工程4によりピリドキサミン 5’−リン酸(PMP)とPMとPLとの合計量が、上記工程5によりピリドキサール 5’−リン酸(PLP)とPLとの合計量が、上記工程6によりピリドキシン 5’−リン酸(PNP)とPNとPLとの合計量が求められる。
【0080】
従って、上記工程2の定量値から上記工程1の定量値を減ずることにより、ピリドキサミン(PM)の定量値を求めることができ;
上記工程3の定量値から上記工程1の定量値を減ずることにより、ピリドキシン(PN)の定量値を求めることができ;
上記工程4の定量値から上記工程2の定量値を減ずることにより、ピリドキサミン 5’−リン酸(PMP)の定量値を求めることができ;
上記工程5の定量値から上記工程1の定量値を減ずることにより、ピリドキサール 5’−リン酸(PLP)の定量値を求めることができ;
上記工程6の定量値から上記工程3の定量値を減ずることにより、ピリドキシン 5’−リン酸(PNP)の定量値を求めることができる。
【0081】
(9) PNGの定量工程
ピリドキシン−β−グルコシド(PNG)はピリドキシンにグルコースがβ結合した構造を有し、ビタミンB6と構造的に類似するものの、ヒト体内でビタミンB6と栄養学的に同じように働くか否か不明な点があり、ビタミンB6には分類されていない。しかしPNGは植物細胞中に含まれており、ヒト体内でそのまま吸収されてから代謝されてビタミンB6と同様の作用を示したり、或いはピリドキシンに変換されて吸収されるという報告もあるので、PNGも定量することが好ましい。
【0082】
PNGを定量するには、先ず下記式のとおり、試料にβ−グルコシダーゼを作用させることによりピリドキシン−β−グルコシド(PNG)をピリドキシン(PN)に変換し、さらにピリドキシン 4−オキシダーゼ(PNOX)を作用させることによりピリドキシン(PN)をピリドキサール(PL)に変換し、さらにピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)を作用させることによりPLを4−ピリドキソラクトン(4−PAL)に変換し、生じた4−PALを定量する。
【0083】
【化7】

【0084】
β−グルコシダーゼは、その至適pHが酸性側にあり、多くのβ−1,4−グリコシド結合を加水分解できる特異性の広い酵素である。β−グルコシダーゼは微生物から高等生物まで広く存在しているので、常法により単離精製することができるし、これら生物から対応遺伝子を取得し、遺伝子組み換え法により得てもよい。また、市販のものがあれば、市販品を使用してもよい。
【0085】
β−グルコシダーゼの反応は酸性条件下で行い、反応後、反応溶液のpHをアルカリ性にしてからPNOXとPLDHを添加し、PNをPLへ連続的に変換する。
【0086】
β−グルコシダーゼの至適反応pHは5.0程度であることから、β−グルコシダーゼによる反応段階では、緩衝液を適量添加することにより反応溶液のpHを4.0以上、5.5以下程度に調整することが好ましい。また、PNOXとPLDHによる反応段階では、上記工程3と同様にpHを8.0以上、9.5以下程度にすることが好ましい。
【0087】
使用するβ−グルコシダーゼの適量は反応溶液中におけるPNGとその他のβ−グリコシド化合物の量に依存し、PNOXの適量はPNGおよびピリドキシンの合計量に依存し、PLDHの適量はこれらとPLの合計量に依存するので、これら酵素の使用量は工程1等の結果や予備実験などにより決定すればよい。また、反応溶液中には、十分量のNAD+とFADを添加する。
【0088】
β−グルコシダーゼの至適反応温度は30〜40℃程度であることから、PNOXおよびPLDHの至適反応温度も考慮し、反応溶液の温度を30℃以上、55℃以下程度に調整することが好ましい。また、反応時間は、反応溶液に含まれるPNG、PNおよびPLが十分に4−PALへ変換されるように適宜調整すればよいが、本発明者による実験的知見によれば、適量のβ−グルコシダーゼ、PNOXおよびPLDHを用いる限り45分間以上、2時間程度反応させれば十分である。
【0089】
反応終了後は、上記工程1と同様にして4−PALを定量することにより、間接的にPNG、PNおよびPLの合計量を定量することができる。
【0090】
よって、当該工程の定量値から、上記工程3の定量値を減ずることにより、ピリドキシン−β−グルコシド(PNG)の定量値を求めることができる。
【0091】
上記工程1〜7の番号は便宜上付したものであり、上記工程1〜7を実施する順番は任意である。また、各ビタミンB6およびピリドキシン−β−グルコシド(PNG)の定量値を算出する各工程の実施順序も任意である。
【0092】
以上のとおり試料を処理することにより、試料中に含まれる各ビタミンB6、および任意にピリドキシン−β−グルコシドを、簡便かつ正確に分別定量することが可能である。
【0093】
また、上記の説明に従えば、本発明方法は、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(PLDH)、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(PPAT)、ピリドキシン 4−オキシダーゼ(PNOX)、およびアルカリホスファターゼを含む、本発明に係るビタミンB6分別定量用キットにより実施することが可能である。
【0094】
より詳しくは、本発明のビタミンB6分別定量用キットは、本発明方法の各反応を実施するために、下記の組合わせがセットになっているものが好ましい。
・PLDH、NAD+
・PPAT、ピルビン酸、PLDH、NAD+
・PNOX、FAD、PLDH、NAD+
・ALP、マグネシウム塩、PPAT、ピルビン酸、PLDH、NAD+
・ALP、マグネシウム塩、PLDH、NAD+
・ALP、マグネシウム塩、PNOX、FAD、PLDH、NAD+
【0095】
さらに、各酵素反応のための緩衝液、反応を停止し且つ試料から夾雑物を除去するための塩酸、試料から夾雑物を除去するためのトリクロロ酢酸や、β−グルコシダーゼを含むビタミンB6分別定量用キットももちろん好適である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0097】
実施例1 ヒト尿における各ビタミンB6の分別定量
(1) ヒト尿の前処理
21〜22歳の成人男性5名から採取した尿(5mL)に、50w/v%のトリクロロ酢酸(0.1mL)を加え、100℃で5分間加熱処理した。次いで、4℃、8000rpmで10分間遠心分離した。
【0098】
(2) ピリドキサール(PL)の定量
Arch Biochem Biophys, 452(1), pp.1-8(2006)に記載の遺伝子組み換え方法により、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを得た。次いで、上記実施例1(1)で得られた上澄液(5μL)に、当該ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(1mU)、250mM トリス塩酸(pH9.0,0.04mL)、100mM NAD+水溶液(2μL)および精製水(0.332mL)を加え、30℃で1時間反応させた。
【0099】
反応液に0.55N塩酸(20μL)を加えて反応を停止した後に、濾過した。濾液(100μL)を下記条件の高速液体クロマトグラフィで分析し、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定した。
カラム: ナラカイテスク社製,Cosmosil 5C18−MS−II,4.6mm×250mm
溶離液: リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)/メタノール=90/10(v/v)の混合液
流速: 0.5mL/分
検出波長: 励起波長−360nm,測定波長430nm
【0100】
得られた蛍光強度の測定値と、標準試料から事前に作成した検量線により4−ピリドキソラクトン(4−PAL)、ひいてはピリドキサール(PL)の尿中濃度を算出した。
【0101】
(3) ピリドキサミン(PM)の定量
Biochem J, 396(3), pp.499-507(2006)に記載の遺伝子組み換え方法により、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼを得た。次いで、上記実施例1(2)において、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼに加えて当該ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(1mU)と100mMピルビン酸水溶液(8μL)を用いた以外は同様にして酵素反応を行い、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定した。
【0102】
得られた蛍光強度の測定値と、標準試料から事前に作成した検量線によりPLとピリドキサミン(PM)の合計の尿中濃度を算出し、上記実施例1(2)の結果と合わせてPMの尿中濃度を求めた。
【0103】
(4) ピリドキシン(PN)の定量
FEMS Microbiol Lett, 234(2), pp.225-230(2004)に記載の遺伝子組み換え方法により、ピリドキシン 4−オキシダーゼを得た。次いで、上記実施例1(2)において、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼに加えて当該ピリドキシン 4−オキシダーゼ(1mU)と1mM FAD水溶液(1μL)を用いた以外は同様にして酵素反応を行い、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定した。
【0104】
得られた蛍光強度の測定値と、標準試料から事前に作成した検量線により、PLとピリドキシン(PN)の合計の尿中濃度を算出し、上記実施例1(2)の結果と合わせてPNの尿中濃度を求めた。
【0105】
(5) ピリドキサミン 5’−リン酸(PMP)の定量
上記実施例1(1)で得られた上澄液(5μL)に、250mM トリスHCl(pH9.0,0.04mL)、アルカリホスファターゼ(10mU,シグマ社製)、5mM塩化マグネシウム水溶液(40μL)および精製水(0.332mL)を加え、30℃で2時間反応させた。次いで、反応溶液にピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(1mU)、100mM NAD+水溶液(2μL)、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(1mU)および100mMピルビン酸水溶液(8μL)を加え、30℃で1時間反応させた。
【0106】
反応液に0.55N塩酸(20μL)を加えて反応を停止した後に、濾過した。濾液(100μL)を上記実施例1(2)の条件の高速液体クロマトグラフィで分析し、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定した。
【0107】
得られた蛍光強度の測定値と、標準試料から事前に作成した検量線により、PMPとPMとPLの合計の尿中濃度を算出し、上記実施例1(3)の結果と合わせてPMPの尿中濃度を求めた。
【0108】
(6) ピリドキサール 5’−リン酸(PLP)の定量
上記実施例1(2)において、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼに加えてアルカリホスファターゼ(10mU,シグマ社製)と5mM塩化マグネシウム水溶液(40μL)を用いた以外は同様にして酵素反応を行い、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定した。
【0109】
得られた蛍光強度の測定値と、標準試料から事前に作成した検量線により、PLとピリドキサール 5’−リン酸(PLP)の合計の尿中濃度を算出し、上記実施例1(2)の結果と合わせてPLPの尿中濃度を求めた。
【0110】
(7) ピリドキシン 5’−リン酸(PNP)の定量
上記実施例1(5)において、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ(1mU)および100mMピルビン酸水溶液(8μL)の代わりにピリドキシン 4−オキシダーゼ(1mU)および1mM FAD水溶液(1μL)を用いた以外は同様にして酵素反応を行い、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定した。
【0111】
得られた蛍光強度の測定値と、標準試料から事前に作成した検量線により、PNPとPMとPLの合計の尿中濃度を算出し、上記実施例1(3)の結果と合わせてPNPの尿中濃度を求めた。
【0112】
(8) 4−ピリドキシン酸(4−PA)の定量
ビタミンB6の代謝物である4−ピリドキシン酸の尿中濃度を下記のとおり求めた。即ち、尿(10μL)に精製水(90μL)と5N塩酸(0.2mL)を添加し、20分間煮沸した。冷却後、反応混合液を4℃、8000rpmで10分間遠心分離した。得られた上澄(10μL)に、上記実施例1(2)の溶離液(90μL)を添加した後、上記実施例1(2)に示す条件の高速液体クロマトグラフィで分析し、4−ピリドキシン酸の尿中濃度を求めた。
【0113】
以上の結果を表1に示す。なお、表1中の数値の単位はnmol/mLである。
【0114】
【表1】

【0115】
また、尿の濃度を補正するため、尿中クレアチニン含有量(g)当たりのピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)および4−ピリドキシン酸(4−PA)の含有量(μmol)を表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
上記結果のとおり、ヒト尿中には一定量のピリドキサール(PL)とピリドキサミン(PM)が含まれていることが明らかとなった。また、ピリドキサールの含有量は各人であまり大きく変動しないが、ピリドキサミンの含有量には個人間で大きな差が認められた。このように本発明方法によれば、nmol/mLという極めて低濃度のレベルでのビタミンB6含有量の定量が可能であることが実証された。
【0118】
(9) 測定感度
測定試料に含まれる各ビタミンB6等が精度良く検出できているか、内部標準法により確認した。具体的には、上記(1)で得られた上澄液(5μL)に内部標準として各ビタミンB6等(2pmol)を加え、上記(2)〜(8)と同様にして各ビタミンB6等を定量した。内部標準を加えた場合と加えない場合の値から、下記式により測定感度を求めた。
測定感度(%)=([{内部標準を加えた場合の定量値(nmol/mL)}−{内部標準を加えない場合の定量値(nmol/mL)}]/[内部標準の量(nmol/mL)])×100
【0119】
その結果、本発明方法による測定感度は76〜134%であった。このように本発明方法は、試料に微量含まれる各ビタミンB6を約±30%の誤差で検出可能であり、従来方法よりも正確であることが明らかとなった。
【0120】
実施例2 トリささ身における各ビタミンB6の分別定量
(1) 各ビタミンB6の定量
生のトリささ身(1.0g)に0.1N塩酸(5.0mL)を加え、ホモジェナイザー(セントラル科学貿易製、製品名:ポリトロン)で5分間ホモジェナイズした後、100℃で30分間加熱処理した。当該混合液を氷中で冷却した後、50w/v%のトリクロロ酢酸(0.1mL)を加え、さらに100℃で5分間加熱処理した。当該混合液を氷中で冷却した後、0.5Mトリス酢酸(pH7.5,0.5mL)を加えてよく混合し、さらに1M水酸化ナトリウム水溶液(570μL)を添加してpHを7.5とし、また、総液量を5mLとした。当該混合液を8000rpmで5分間遠心分離した。得られた上澄を精製水で10倍に希釈し、当該希釈液を試料として、上記実施例1(2)〜(7)と同様に各ビタミンB6を分別定量した。
【0121】
(2) ピリドキシン−β−グルコシド(PNG)の定量
ピリドキシン−β−グルコシド(PNG)の定量のため、上記希釈液(50μL)に、500mM酢酸ナトリウム水溶液(pH5.0,40μL)、β−グルコシダーゼ(50mU,シグマ社製)、100mMリン酸第二水素ナトリウム水溶液(20μL)および精製水(0.07mL)を加え、30℃で2時間反応させた。次いで、反応溶液を中和するため、100mM水酸化ナトリウム(80μL)と500mMトリス塩酸(pH9.0,8μL)を添加した後、ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ(1mU)、100mM NAD+水溶液(2μL)、ピリドキシン 4−オキシダーゼ(1mU,第一ファインケミカル社製),1mM FAD(1μL)および精製水(83μL)を加え、30℃で1時間反応させた。
【0122】
反応液に0.55N塩酸(20μL)を加えて反応を停止した後に、濾過した。濾液(100μL)を上記実施例1(2)に示す条件の高速液体クロマトグラフィで分析し、4−ピリドキソラクトンの蛍光強度を測定し、トリささ身に含まれるPNGの含有量を求めた。
【0123】
以上の結果を表3に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
上記結果のとおり、トリささ身中にはピリドキサール(PL)が最も多く含まれ、次いでピリドキサール 5’−リン酸(PLP)が多く含まれている一方で、ピリドキシン(PN)、ピリドキシン 5’−リン酸(PNP)およびピリドキシン−β−グルコシド(PNG)はほとんど含まれていなかった。また、測定されたビタミンB6総量は、従来方法である微生物定量法が用いられている食品成分表の値(600μg/100g)よりもかなり多い。その理由としては、微生物定量法ではリン酸型ビタミンB6を塩酸により加水分解するので、その際に含有ビタミンB6の一部が分解されているのに対して、本発明方法によれば含有ビタミンB6が分解されることなく定量可能であることが考えられる。
【0126】
このように本発明方法によれば、nmol/gという極めて低濃度のレベルでのビタミンB6含有量の定量が可能であることが証明された。また、上記結果によっても、本発明方法は試料に含まれる各ビタミンB6を約±30%の誤差で検出可能であり、従来方法よりも正確であることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB6を個別に定量するための方法であって、
試料にピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量することにより、ピリドキサールを定量する工程1;
試料にピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程2;
試料にピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程3;
試料にアルカリホスファターゼ、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程4;
試料にアルカリホスファターゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程5;
試料にアルカリホスファターゼ、ピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程6;
工程2の定量値から工程1の定量値を減じ、ピリドキサミンを定量する工程;
工程3の定量値から工程1の定量値を減じ、ピリドキシンを定量する工程;
工程4の定量値から工程2の定量値を減じ、ピリドキサミン 5’−リン酸を定量する工程;
工程5の定量値から工程1の定量値を減じ、ピリドキサール 5’−リン酸を定量する工程;
工程6の定量値から工程3の定量値を減じ、ピリドキシン 5’−リン酸を定量する工程;
を含むことを特徴とするビタミンB6の分別定量方法。
【請求項2】
酵素反応前に試料をトリクロロ酢酸で処理する請求項1に記載のビタミンB6の分別定量方法。
【請求項3】
さらに、試料にβ−グルコシダーゼ、ピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼを作用させ、生じた4−ピリドキソラクトンを定量する工程7;並びに
工程7の定量値から工程1および工程3の定量値を減じ、ピリドキシン−β−グルコシドを定量する工程;
を含む請求項1または2に記載のビタミンB6の分別定量方法。
【請求項4】
ピリドキサール 4−デヒドロゲナーゼ、ピリドキサミン−ピルビン酸 アミノトランスフェラーゼ、ピリドキシン 4−オキシダーゼ、およびアルカリホスファターゼを含むことを特徴とするビタミンB6分別定量用キット。
【請求項5】
さらにトリクロロ酢酸を含む請求項4に記載のビタミンB6分別定量用キット。
【請求項6】
さらにβ−グルコシダーゼを含む請求項4または5に記載のビタミンB6分別定量用キット。

【公開番号】特開2011−78357(P2011−78357A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233631(P2009−233631)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年4月25日に日本ビタミン学会発行の「ビタミン 第83巻 第4号(日本ビタミン学会第61回大会 プログラム・講演要旨)」において発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度及び平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業シーズ発掘試験、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】