説明

ビタミンC及びその誘導体を含む脱毛治療剤組成物

【課題】本発明は、ビタミンC及び/又はその誘導体を含む脱毛治療剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ビタミンC及びその誘導体を含む脱毛治療剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
一般的に、哺乳類の毛包は非常に組織化しており、多層構造でかつ動的な組織である。毛包は、間葉組織由来の毛乳頭(dermal papilla)及び毛根鞘細胞(dermal sheath cell)のみならず、上皮組織由来の内毛根鞘及び外毛根鞘、マトリックス、並びに毛幹の上皮細胞を有する。上皮組織と間葉組織との相互作用は、毛包の発生に限らず、出生後の毛髪の成長にも不可欠である。
【0003】
出生後の毛包は、成長期(anagen)、退行期(catagen)、及び休止期(telogen)の周期を有する。成長期において、毛乳頭は、上皮のマトリックス細胞によってカプセル化し、インスリン様成長因子1(IGF−1)、ケラチノサイト成長因子(KGF)など、毛乳頭から分泌される成長因子が上皮細胞を増殖させ、かつ毛幹を生産するように分化させることがわかっている(Itami S,et.al.,Biochem Biophys Res Commun.212:988−94,1995;Werner S,et.al.,Science.266:819−22,1994)。
【0004】
一方、退行期には、上皮細胞は、腫瘍成長因子ベータ(TGF−β)のような、毛乳頭から分泌された成長抑制因子によってプログラム化したアポトーシスに陥る(Soma et al.,J Invest Dermatol.111:948−54,1998;Hibino and Nishiyama,J Dermatol Sci.35:9−18,2004)。したがって、毛乳頭細胞から分泌される因子が毛髪の成長を調節することがわかっている。また、毛乳頭の大きさは、毛包の大きさにも比例する(Stenn and Paus,Physiol Rev.81:449−494,2001)。したがって、毛乳頭細胞の成長を調節したり、これら細胞の遺伝子発現の調節が可能な天然抽出物又は化学物質は、毛髪の成長の調節にも重要な役割を担うものとみられる。
ビタミンC(L−アスコルビン酸)は、コラーゲンの生合成の補因子活性を有し、培地における補充成分として使用される。しかし、このようなビタミンCは、水溶液、特に、通常の培養条件下で急速に酸化分解されるため、その用途は限られてしまう。ビタミンC誘導体のL−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩(「Asc2−P」とする。)は、ビタミンCよりも安定した製剤であり、様々な培地における補充成分として使用されてきた。ビタミンCと同様、Asc2−Pも、ヒト真皮線維芽細胞及び骨芽細胞の成長を促進する(Hata et al.,Eur J Biochem.173:261−267,1988)。ビタミンC又はAsc2−Pが毛髪の成長及び毛乳頭細胞の成長に及ぼす影響については全く知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の開示
そこで、本発明は、上記の必要性に鑑みてなされたものであって、その目的は、毛乳頭細胞及び/又は毛包の成長を促進する脱毛治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明は、有効成分として、ビタミンC又はその誘導体を含む脱毛治療用組成物を提供する。
本発明において、前記誘導体は、L−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩(L−ascorbic acid−2−phosphate magnesium)、L−アスコルビン酸パルミテート(L−ascorbyl palmitate)、L−アスコルビン酸ステアレート(L−ascorbyl stearate)からなる群から選択されることが好ましく、下記式1のL−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩が最も好ましい。
【0007】
【化1】

【0008】
また、本発明のビタミンC又はその誘導体は、毛包の成長を促進し、かつ毛乳頭細胞の成長を促進し、また、毛乳頭細胞においてIGF−1(insulin like growth factor)の生産を促進し、かつ毛乳頭細胞及び毛包においてバーシカン(versican)の発現を増加させ、毛乳頭細胞においてアルカリ性ホスファターゼ(alkaline phosphatase)の発現を増加させることを特徴とする。
発明を実施するための最良の形態
以下、非限定的な実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
実施例1:ヒト毛包の組織培養及び成長分析
生検サンプルは、患者の同意を得た後、慶北大学病院で男性ホルモン性脱毛症患者が毛髪移植手術を受けている間に喉頭部の頭皮部分から得た。毛包は、公知の方法(Philpott et al.,J Cell Sci.97:463−471,1990)によって分離及び培養された。頭皮において、成長期(anagen)の毛包は、双眼解剖顕微鏡下で分離した。分離した成長期毛包の上部1/3を切断した後、下部の2/3の毛包をWilliams E培地(Sigma,USA)で37℃、5%CO下において培養した。毛包をAsc2−Pを添加した培地で9日間培養した後、成長した毛包の長さを解剖顕微鏡にて測定した。
実施例2:毛乳頭細胞の培養及び成長分析
毛乳頭は、双眼顕微鏡下で切開した毛球から分離し、組織培養皿に移した。毛乳頭は、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及び20%加熱不活性化したウシ胎仔血清(FBS,Hyclone,USA)を補充したDMEM培地で37℃、5%CO下において5日間培養した後、継代培養を行った。継代培養の後に、毛乳頭細胞は、10%FBSを有するDMEMで保持した。2度の継代培養した細胞を本発明にて使用した。
【0010】
毛乳頭細胞を、10%FBSを補充したDMEM培地で、96ウェルプレート内に5,000個の細胞/ウェルの密度で一晩培養した。その後、その培地を様々な濃度のAsc2−Pを有するDMEMに換えて5日間培養した後、MTT法にて細胞数を測定した。
実施例3:毛乳頭細胞における各種遺伝子発現の分析
毛乳頭細胞をAsc2−Pを0.25mM含有する培地で5日間培養した後、RNAをTRIzol試薬(Gibco−BRL,Grand Island,NY)を用いて分離した。cDNAは、superscript II逆転写酵素及びランダム6量体(Gibco−BRL)を有するcDNA合成キットを用いてRNAから合成した。cDNAは、遺伝子特異的プライマー対に増幅した(表1)。表1は、RT−PCRプライマー及び条件を示したものである。
【0011】
本発明では、IGF−1(insulin like growth factor l)、HGF(hepatocyte growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、KGF(keratinocyte growth factor)、コラーゲンI、コラーゲンIII、バーシカン(versican)及びアルカリ性ホスファターゼ(ALP、alkaline phosphatase)の遺伝子発現を分析した。
【0012】
【表1】

【0013】
実施例4:毛包におけるバーシカンに対する免疫染色
毛包を0.1mM及び1mM Asc2−Pで処理した培地で5日間培養した後、バーシカン(versican)に対する免疫染色を行った。
実施例5:統計分析
統計的な違いは、t−テストを用いて分析した。0.05以下の可能性(P)値を統計的に有意なものとしてみなした。
【0014】
上記のような実施例から、本発明者等は、次のような結果を得た。
インビトロにおける毛包の成長促進に対するAsc2−Pの効果
本発明者等は、頭皮から分離したヒト成長期毛包に対するAsc2−Pの効果を調べた。0.05mM及び0.25mM Asc2−Pの存在下におけるWilliams E培地にて9日間毛包を培養した際、顕著な毛包の成長が観察された(図1)。
毛乳頭細胞の成長促進に対するAsc2−Pの効果
Asc2−Pは、0.05mM、0.25mM、1mM及び5mMの濃度において毛乳頭細胞の成長を顕著に促進させた(図2)。特に、0.25mMの濃度では、対照群に比べて2.4倍の高い成長をみせた。
毛乳頭細胞の遺伝子発現に対するAsc2−Pの効果
Asc2−Pは、0.25mMの濃度においてIGF−1、バーシカン、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)のmRNAの濃度を増加させた。反面、HGF、VEGF、KGF、コラーゲンI、コラーゲンIIIは、影響がなかった(図3)。
免疫染色も、Asc2−Pによって処理された毛包においてバーシカンの発現が増加することを示した(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0015】
産業上の利用可能性
上記の構成からわかるように、本発明のビタミンC又はその誘導体のAsc2−Pは、毛乳頭細胞及び/又は毛包の成長を促進し、脱毛治療剤などとして有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、インビトロで培養された毛包の成長に対するAsc2−Pの効果を示す図である。毛包をAsc2−Pの存在下で9日間培養した後、成長した毛包の長さを測定した(*、P<0.05)。
【図2】図2は、培養された毛乳頭細胞の成長に対するAsc2−Pの効果を示す図である。毛乳頭細胞をAsc2−Pを含有した培地で5日間培養した後、細胞数をMTT法にて測定した(*、P<0.05)。
【図3】図3は、毛乳頭細胞において成長因子(A)、コラーゲン(B)、バーシカン(C)及びアルカリ性ホスファターゼ(D)の発現に対するAsc2−Pの効果を示す図である。毛乳頭細胞をAsc2−Pによって5日間処理した後、mRNAを測定した。
【図4】図4は、毛包においてバーシカンの発現に対するAsc2−Pの効果を示す図である。毛包をAsc2−Pによって5日間処理した後、免疫染色を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、ビタミンC又はその誘導体を含むことを特徴とする脱毛治療用組成物。
【請求項2】
前記誘導体が、L−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩(L−ascorbic acid−2−phosphate magnesium)、L−アスコルビン酸パルミテート(L−ascorbyl palmitate)、又はL−アスコルビン酸ステアレート(L−ascorbyl stearate)であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ビタミンC又はその誘導体が、毛包の成長を促進することを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ビタミンC又はその誘導体が、毛乳頭細胞の成長を促進することを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ビタミンC又はその誘導体が、毛乳頭細胞においてIGF−1(insulin like growth factor)の生産を促進することを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ビタミンC又はその誘導体が、毛乳頭細胞及び毛包においてバーシカン(versican)の発現を増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記ビタミンC又はその誘導体が、毛乳頭細胞においてアルカリ性ホスファターゼ(alkaline phosphatase)の発現を増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−526955(P2008−526955A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551190(P2007−551190)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000069
【国際公開番号】WO2006/075854
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(507234047)トリコジーン インク. (1)
【Fターム(参考)】