説明

ビタミンK強化thyA(−)突然変異細菌

本発明は、ビタミンK強化thyA(-)突然変異細菌、並びに、当該thyA(-)突然変異体を使用した、哺乳類(例えばヒト)のビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防用の組成物/製品の製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンK強化thyA(-)突然変異細菌、並びに、当該thyA(-)突然変異体を使用した、哺乳類(例えばヒト)のビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防用の組成物/製品の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
知られているように、乳酸菌(LAB)は、乳製品製造産業において、ヨーグルト、チーズ等の動物の乳を発酵させた様々な製品を製造するのに、大いに使用されている。
【0003】
ビタミンKは、骨健康等、様々なヒト/動物の健康問題において重要である。
【0004】
乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)及びロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)は、ビタミンK2(メナキノン)を天然に生産する(Morishita T et al. 1999. Production of Menaquinones by Lactic Acid Bacteria. J. Dairy. Sci. 82: 1897-1903)。
【0005】
ビタミンK2は、細菌の細胞膜の構成要素であり、即ち、ビタミンK2は、LABの膜内に存在する。
【0006】
一般的には、野生型乳酸菌により生産されるビタミンK2の量は、商業的に有用なビタミンK2を含有する製品、例えば十分に高レベルのビタミンK2を有する乳製品を生産する程に十分には高くない。
【0007】
従って、ビタミンK2の生産量が向上したラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)の突然変異体を同定する作業が行われた(例えば、WO2008/040793A1 (Danone)参照)。
【0008】
更に、WO2008/040784A1 (Danone)において、ビタミンK2量の増大は、LABが、増殖期にではなく、WO2008/040784A1において「休止細胞」期と称される段階にある条件下で乳を発酵させることにより実現出来ることを記載している(例えば請求項1参照)。端的には、当該増大は、乳に相対的に多量のLABを添加することにより実現される。
【0009】
当該技術分野で知られているように、乳に相対的に多量のLABが添加される場合、実質的にLABが増殖(細胞分裂)しなくなる。これは、最初に添加された多量のLABが急速に大量の乳酸を生産することにより、乳のpHが、LABの顕著な増殖を阻害する低pH、例えば4を下回るまで落ち込むためである。
【0010】
換言すると、乳に多量のLABが添加されると、LABが増殖(細胞分裂)する「時間」が無い程に急速にpHが低下する。
【0011】
当業者に公知のように、thyA遺伝子は、チミジル酸合成酵素である。図1に示されるように、このthyA遺伝子が、例えばLAB中で不活性化するとき、いわゆるチミジン栄養要求性突然変異体が得られる。当該変異株は、チミジンの添加無くしてdTTPを合成出来ないことによりゲノムを複製出来ないため、チミジン「制限」培地中で細胞分裂出来ない。知られているように、乳は、顕著な量のチミジンを含有しないため、そのようなthyA(-)突然変異株は、乳中では顕著な増殖を示さない。
【0012】
WO00/01799A2 (Chr. Hansen A/S)は、受入番号DSM12891で寄託されたthyA(-)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)突然変異株、及び当該thyA(-)株のバクテリオファージ耐性を記載している。そのようなthyA(-)突然変異株がビタミンK2の量の増大に使用出来ることは、開示も示唆もしていない。
【0013】
更に、上記及び下記の公知文献は、LAB細胞中のthyA遺伝子を不活性化することによるビタミンK2生産を向上させ得ることについては、開示も示唆もしていない。
【0014】
例えば、上記で議論したWO2008/040793A1 (Danone)は、LABにおけるビタミンK2生産の強化を達成するために重要な多数の遺伝子について言及しているが、これらの言及された遺伝子のいずれも、thyA遺伝子、又は文中でthyA遺伝子と類似する/関連するものとして取り上げられている遺伝子ではない。
【0015】
JP2001 136959A(2001年5月公開)は、骨粗鬆症の予防及び処置に有用な、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)微生物細胞培養に関し、ここで、微生物細胞は、ビタミンKを放出する前に回収される。この骨粗鬆症を処置する作用は、ビタミンKを含有する微生物細胞を服用することにより達成されるため、当該微生物細胞は、食品又は医薬品中に混入され得る(要約参照)。
【0016】
JP2000 080043A(2000年3月公開)は、骨粗鬆症を防止するための、バチルス・ナット(Bacillus natto)の水溶性ビタミンKフラクションを含む、経口医薬/食品に関する(要約参照)。
【0017】
Tsukamotoらの文献("Construction of a Bacillus subtilis (natto) with High Productivity of Vitamin K2 (Menaquinone-7) by Analog Resistance"; Bioscience Biotechnology Biochemistry; vol. 65(9), pages 2007-2015, 2001)は、ビタミンK2(menaquinone-7/MK7)の生産能力を強化したバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)株の樹立を報告している。市販の株と比較してMK7の生産能力が2倍に高められたOUV23481株は、1-ヒドロキシ-2-ナフト酸(HNA)、p-フルオロ-D,L-フェニルアラニン(pFP)、m-フルオロ-D,L-フェニルアラニン(mFP)及びベータ-2-チエニルアラニン(betaTA)に耐性の類似体を有する突然変異として樹立されている。当該突然変異は、バチルス・スブチリス・ナット(Basillus subtilis natto)として分類される(要約、2007ページ右コラム第2段落、及び2014ページ左コラム第2段落参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、ビタミンK2の生産量を増大させることが出来る乳酸菌の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らは、その課題の解決手段として、LAB細胞中のthyA遺伝子を不活性化することにより、ビタミンK2の生産量増大を実現出来るthyA(-)突然変異株を同定した。
【0020】
本明細書中の実施例で、(上記WO00/01799A2 (Chr. Hansen A/S)参照)受入番号DSM12891で寄託されたthyA(-)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)突然変異株MBP71の性能が、明確に実証されている。
【0021】
本明細書中の実施例1において、thyA(-)突然変異株MBP71は、対応するthyA(+)野生型株MBP68と比較して、約3倍の量のビタミンK2を生産した。
【0022】
更に、実施例1において、両方の株が、OD=1.0の播種レベルで、乳に添加される。この播種レベルは、乳に添加されるLABの量としては相対的に多量とみなされてもよく、即ち、上記両実験において議論したように、LABの分裂は限定され、又は起こらず、即ち、この条件は、WO2008/040784A1における「休止細胞」期にある(上記参照)。
【0023】
従って、thyA(-)突然変異株MBP71が乳中でゲノム複製が出来ないという事実は、thyA(-)突然変異株が顕著に多量のビタミンK2を生産するという驚くべき結果の唯一の説明とはなり得ない。
【0024】
換言すると、thyA(-)突然変異株が上記WO2008/040784A1で言うところの「休止細胞」とみなされ得るという事実は、それ自体が、ビタミンK2生産量の顕著な増大という驚くべき結果を説明することが出来ない。
【0025】
本明細書中の実施例2は、直接的なdTTPの飢餓ではなく、むしろthyA遺伝子の不活性化により生じる代謝の変化により、ビタミンK2の増大が引き起こされることを示している。
【0026】
本明細書中の実施例3において、purDの欠失突然変異が試験されたが、そのような突然変異体は、他のヌクレオチド代謝関連突然変異体と称されてもよい(例えば図1参照)。当該purD突然変異は機能せず、即ち、ビタミンK2生産量の増大をもたらさなかった。
【0027】
総括すると、実施例1〜3は、thyA遺伝子の不活性化が、ビタミンK2生産に対して、驚異的かつ特異な正の作用を有することを示す。
【0028】
従って、そのようなthyA(-)突然変異体は、例えば乳製品中に更に多くのビタミンK2を供給することにより、大衆の骨健康を改善等するのに、有用である。
【0029】
更に、本明細書中の実施例は、当該改善(ビタミンK2生産の増大)が、thyA遺伝子と直接関連していることを明確に実証しているのであるから、客観的に、当業者にとって、本明細書中に記載の概念(即ちthyA(-)突然変異の作製)が、本明細書中の開示事項に関連する、即ち改良ラクトコッカス・ラクティス株(Lactococcus lactis)に限らない改良細菌株の作製に一般的に応用されないであろうと考える理由は無い。
【0030】
上記で議論したMorishita Tらの1999年の文献中には、様々な野生型ラクトコッカス(Lactococcus)及びロイコノストック(Leuconostoc)株が、測定可能な量のビタミンK2を生産出来ることが記載されている(上記文献中の表2参照)。
【0031】
更に、当業者に知られているように、上記Morishita Tらの文献中1899ページに記載されているように、バチルス(Bacillus)も、ビタミンKを強力に生産する。
【0032】
要約すると、上記の観点から、ラクトコッカス(Lactococcus)ロイコノストック(Leuconostoc)又はバチルス(Bacillus)が、thyA(-)突然変異株を作製して、本明細書中に記載のビタミンK2の生産量が向上した株を取得する、適切な候補となり得る。
【0033】
従って、本発明の第1の側面は、ビタミンK2を含有する細菌を含む組成物であり、当該組成物中に存在する細菌が:
(a):組成物中に0.10 μg/(ml又はg)のビタミンK2をもたらす量で存在し;そして
(i):前記細菌がthyA(-)突然変異体であり;かつ
(ii)前記細菌が:ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)及びバチルス(Bacillus)属からなる群から選択される細菌であり;そして
哺乳類のビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防に使用される、前記組成物に関する。
【0034】
商業的に重要な組成物の例として、発酵した乳食品産物(例えば乳製品)、例えばヨーグルト又はチーズ等が挙げられる。
【0035】
本明細書中に記載の乳製品等のビタミンK含有量が高く、及び当該製品がビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防に使用され得るため、そのような乳製品は、機能性食品と称されてもよい。
【0036】
本明細書中に記載の知見(即ち、thyA(-)突然変異体のビタミンK2生産能力向上)が見出される前は、当業者は、哺乳類のビタミンK欠乏症を処置及び/又は予防する、本明細書中に記載のthyA(-)突然変異体を使用することによる機能的乳製品等の市販化を想定していなかったことは明白である。
【0037】
市場において、上記のような機能性食品は、製品(例えばヨーグルト又はチーズ)に、ビタミンKの含有量が高いことを消費者に知らせる、ある種の「表示/告示」が付される。
【0038】
前記組成物中のビタミンK2の量が、組成物(例えばヨーグルト)中の前記thyA(-)突然変異細菌の存在に由来するビタミンK2の量に対応することは、明白である。
【0039】
本明細書中の実施例1に示されるように、乳に一定量のMBP71 thyA(-)突然変異株を播種して乳を発酵させることにより、100mlあたり26μgのビタミンK2、即ち0.26μg/mlのビタミンK2を含有する発酵乳が取得された。
【0040】
前記組成物が固体である場合(即ちヨーグルトのような液体でない)、ビタミンK2の量は、μg/gとして測定されてもよい。そのような組成物の例として、例えば、単離したthyA(-)突然変異細菌の乾燥組成物が挙げられ、そのような乾燥組成物は、例えば、カプセルに封入され、医薬として販売される。
【0041】
当業者にとって、関心のある組成物(例えばヨーグルト又はチーズ)中のビタミンK2の量を容易に決定することが出来、当該組成物中のthyA(-)突然変異細菌の存在に由来するビタミンK2の量を容易に同定することも出来る。
【0042】
周知のアッセイを使用することにより、当業者は、組成物(ヨーグルト等)中のビタミンK2の量を容易に決定することが出来る。更に、当業者は、当該組成物中のthyA(-)突然変異細菌の量を容易に決定することが出来る(例えば109 cfu/ml)。
【0043】
最後に、当業者は、前記組成物の個々の細菌中に存在するビタミンK2の平均量を容易に決定することが出来ることにより、当該組成物中のthyA(-)突然変異細菌の存在に由来するビタミンK2の量を容易に同定することが出来る。
【0044】
本発明の第一の側面の範囲/本質は、あるいは、哺乳類に所定の量の組成物を投与する工程を含む、哺乳類のビタミンK欠乏症を処置及び/又は予防する方法に関すると表現されてもよく、ここで、組成物は、ビタミンK2を含有する細菌を含み、ここで、当該組成物中に存在する細菌が:
(a):組成物中に0.10 μg/(ml又はg)以上のビタミンK2をもたらす量で存在し;そして
(i):前記細菌がthyA(-)突然変異体であり;かつ
(ii)前記細菌が:ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)及びバチルス(Bacillus)属からなる群から選択される細菌である。
【0045】
本発明の態様は、例示のみを目的として、下記に示される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1:L.ラクティスのヌクレオチド代謝の概要を示す。プリン及びピリミジンの代謝は、それぞれ図中の左及び右に示されている。デオキシリボヌクレオチドと前駆体の相互変換のみ詳細に示されている。他の反応の矢印は、2つ以上の酵素反応を含んでもよい。表示されている全ての遺伝子は、ned及びdcdを除いて、L.ラクティスIL1403のゲノム中に局在化している(Bolotin et. al 2001, Genome Res. 11 :731-753)。IL1403ゲノム配列中で、tdkはyfiGと称され、そしてtmkはyeaBと称される。遺伝子は:deoBがホスホペントムターゼ;deoCがデオキシリボアルドラーゼ;pdpがチミジンホスホリラーゼ;cddがシチジンデアミダーゼ;tdkがチミジンキナーゼ;dcdAがdCMPデアミナーゼ;thyAがTS;cmkがCMPキナーゼ;dutがdUTPアーゼ;tmkがチミジル酸キナーゼ;ndkがNDPキナーゼ;dcdがdCMPデアミナーゼを意味する。PRPPは5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸塩を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
組成物
上記で述べたように、本明細書中の商業的な組成物として、例えば、ヨーグルト又はチーズ等の、発酵乳生産物(乳性食品等)が挙げられる。
【0048】
本明細書中に記載の乳製品等のビタミンK含有量が高く、及び当該製品がビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防に使用され得るため、そのような乳製品は、機能性食品と称されてもよい。
【0049】
従って、好ましい態様において、前記第一の側面に掛かる組成物は、食品又は飼料生産物、好ましくは飼料生産物である。
【0050】
好ましくは、前記食品は、動物の乳を本明細書中に記載のthyA(-)細菌で発酵させたもの、例えば好ましくは乳製品である。
【0051】
好ましくは、前記動物の乳は、牛乳又はヤギの乳である。
【0052】
好ましくは、前記乳製品は、乳、ヨーグルト及びチーズからなる群から選択される1つ以上の乳製品である。
【0053】
上記のように、より高度のビタミンK生産を達成するために、相対的に多量のLABを乳中に添加するのが有利であり得る。
【0054】
従って、好ましくは、前記発酵させられた動物の乳は:
(A):動物の乳に本明細書中に記載のthyA(-)細菌を108〜1012cfu/ml播種する工程;及び
(B):当該乳を、4〜72時間、10℃〜50℃の温度で発酵させる工程;
により取得される。
【0055】
あるいは、前記組成物は、単離された本明細書中に記載のthyA(-)突然変異細菌、好ましくは乾燥させた単離された本明細書中に記載のthyA(-)突然変異細菌を含む。
【0056】
「単離された」という用語は、適切な媒体、例えば乳又はM17培地等の周知の細菌増殖培地等の中で適切に発酵をさせた後で、細菌を単離することとして理解されるべきである。
【0057】
当業者に知られているように、細菌は、遠心分離等により、容易に単離/回収が可能である。
【0058】
上記のように、ビタミンK2は、細菌の細胞膜の成分である。即ち、ビタミンK2は、LABの膜中に存在する。
【0059】
従って、乾燥させた単離された本明細書中に記載のthyA(-)突然変異細菌を含む組成物は、例えば医薬であってもよく、例えば医薬として許容されるカプセルに封入されてもよい。
【0060】
ビタミンK2を含有する細菌
「細菌」という用語は、本明細書中に記載の第一の側面において、複数形で用いられる。1個の細菌のみを含む組成物が本明細書中で言及されることはあり得ないからである。しかしながら、本明細書中の実施例で使用されるように、前記組成物は、例えば、109cfu/mlの同一種の細菌株、例えばMBP71(DSM12891)等を含んでもよいことは明らかである。
【0061】
更に、前記組成物は、本明細書中に記載のthyA(-)突然変異体以外の、他の細菌(例えば野生型thyA(+)細菌)を含んでもよい。
【0062】
「thyA(-)突然変異体」という用語は、当業者は、本明細書の文脈中から、thyA遺伝子が活性を有しない突然変異として理解し得る。
【0063】
当業者に知られているように、遺伝子は、欠失や突然変異等の様々な周知の方法で不活性化され得る。
【0064】
前記thyA遺伝子は、様々な生物において配列決定及び特定が完了している周知の遺伝子であるため、当業者は、関心のある細菌がthyA(-)突然変異であるか否かを容易に判定することが出来る。
【0065】
上記で述べたように、本明細書中に記載の第一の側面に係る細菌は、ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)及びバチルス(Bacillus)属からなる群から選択される細菌である。
【0066】
好ましくは、前記細菌は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)及びバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)からなる群から選択される細菌である。
【0067】
より好ましくは、前記細菌は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)である。
【0068】
好ましくは、前記ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)細菌は、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)又はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)である。より好ましくは、前記細菌は、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)である。
【0069】
好ましい態様において、前記細菌は、受入番号DSM12891で寄託されている、thyA(-)ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)突然変異株である。上記のように、DSM12891は、WO00/01799A2 (Chr. Hansen A/S)に記載されており、WO00/01799A2のPCT出願日より前に寄託されたものである。
【0070】
組成物中のビタミンK2の量
上記のように、本明細書中に記載の組成物は、
当該組成物中に存在する細菌の量が:
(a):組成物中に0.10 μg/(ml又はg)以上のビタミンK2をもたらす。
【0071】
上記のように、関心のある組成物(例えばヨーグルト又はチーズ)中のビタミンK2の量の決定は、当業者にとってありふれた作業であり、また、組成物中のthyA(-)突然変異細菌の存在に由来するビタミンK2の量の特定も、当業者にとってありふれた作業である。
【0072】
当業者は、これを決定するために、周知のアッセイ(例えばMorishita T et al. 1999参照)
【0073】
好ましくは、前記組成物中には0.15μg/ (ml又はg)以上のビタミンK2が存在し、より好ましくは、前記組成物中には0.20μg/ (ml又はg)以上のビタミンK2が存在する。
【0074】
場合によっては、前記組成物は、単離されたthyA(-)突然変異細菌の凍結乾燥組成物等の、極度に濃縮された固体組成物であってもよく、この場合、項目(a)において、当該組成物中のビタミンK2の濃度は、0.10μg/mgとなるのが好ましい。
【0075】
前記組成物においてかかるビタミンK2濃度を実現するために、通常、本明細書中に記載の組成物は、第一の側面に係る細菌を、108〜1012cfu/(ml又はmg)含有する。
【0076】
本明細書中で、cfu/(ml又はmg)という用語は、基本的に、組成物(例えばチーズ)のml又はmgあたりに存在する全細胞数を表すものとして理解される。死細胞の場合、細胞数は、当業者に周知の計数板を使用して判定される。
【0077】
哺乳類のビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防における使用
上記のように、本発明の知見(即ちthyA(-)突然変異体がビタミンK2を高度に含有すること)が得られる前は、当業者は、哺乳類におけるビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防のために、本明細書中に記載のthyA(-)突然変異体を使用することにより生産された、機能性食品を商業化することを想到することは出来なかった。
【0078】
市場において、例えば、本明細書中に記載される機能性食品は、製品(例えばヨーグルト又はチーズ)に、ビタミンKの含有量が高いことを消費者に知らせる、ある種の「表示/告示」が付される。
【0079】
商業的には、本明細書中の哺乳類として最も重要なのはヒトである。
【0080】
当業者に知られているように、「ビタミンK欠乏症」という用語は、当業者にとって周知かつ明確な病理的状態である。
【0081】
ビタミンK欠乏症に関連する幾つかのありふれた一般的な知見を後述する。
【0082】
ビタミンK欠乏症は、ビタミンKの不足により引き起こされるビタミン欠乏症の一つである。ビタミンK欠乏症は、小腸での吸収の機能不全(例えば胆管障害)、治療としての、若しくは不慮のビタミンKアンタゴニストの取り込み、又は非常に稀であるが、栄養的なビタミンK欠乏により起こり得る。その結果、Gla残基が不適切に形成され、これらのGlaタンパク質は、活性が低下する。
【0083】
上記3つのプロセスのコントロールの欠如は、以下の4つの結果;腹痛;大量の制御出来ない出血;軟骨の石灰化;及び重度の骨成長の異常又は動脈内壁における不溶性カルシウム塩の沈着を招く。動脈壁を含む軟組織中のカルシウムの沈着は非常にありふれており、特にアテローム性動脈硬化を起こした者において頻発することから、ビタミンK欠乏症は、従来考えられていたよりもありふれていることが示唆される。
【0084】
従って、好ましい態様において、ビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防は、哺乳類の骨健康の改善を目的とする。
【0085】
前記骨健康の改善は、骨成長の異常の減少に関するものであってもよい。
【0086】
あるいは、ビタミンK欠乏の処置及び/又は予防は、腹痛;大量の制御出来ない出血、又は軟骨の石灰化の処置及び/又は予防のために行われてもよい。
【0087】
前記組成物がビタミンK欠乏症の処置又は治療のいずれに作用するかは、一般に、使用される組成物の種類(例えば、乳製品又は医薬)に依存する。
【0088】
乳製品(ヨーグルト等)である場合、例えばそのヨーグルトは、「健康な」人に販売されるため、ビタミンK欠乏症の予防に係るものと見なされ得る(例えば、「正常な」人は、一般的な骨健康が改善することで、骨の障害の予防に繋がる)。
【0089】
前記組成物が医薬である場合、例えば重度の骨成長の異常又は腹痛を示す、明らかに病んだ人々の処置に、より関連し得る。
【0090】
要するに、本文中の記載に基づいて、当業者は、ビタミンKの処置と予防との間の相異を容易に同定することが出来る。
【0091】
商業的には、本明細書中の最も重要な哺乳類はヒトである。
【0092】
あるいは、前記哺乳類は、例えばウシ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ又はウサギであってもよい。
【0093】
当業者は、技術常識に基づき、哺乳類に対して好ましい組成物の投与量を同定し得る。
【0094】
前記組成物が例えばヨーグルトである場合、当然に、消費者がどの程度の量のヨーグルトを食べるかは、本質的に消費者次第である。前記組成物が医薬である場合、例えば医師は、治療/予防効果を挙げるために患者にとって必要な摂取量を認識し得る。
【実施例】
【0095】
実施例1:ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)thyA(-)突然変異MBP71(DSM12891)におけるビタミンK2生産量の増大
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)thyA(-)突然変異MBP71(DSM12891)のthyA(+)「野生型」/母株を、ここではMBP68と称する。
【0096】
「野生型」/母株ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)MBP68を、好気条件下で増殖させた(10OmL、M17+1% ラクトース5ppmヘミン、30℃で激しく攪拌)。静置培養のOD600は、6.5であった(3回の測定の平均)。OD1.0の菌液100mLを回収し、4℃で細胞を遠心分離した。当該細胞を、脂肪分3.5%の牛乳(全乳)5mLに再懸濁した。これらの5mlを、4℃、95mlの「全乳」に播種することで、播種レベルをOD=1.0とした。30℃で20時間インキュベーションして、当該飼料を-20℃で凍結し、ビタミンK2の分析に供した。
【0097】
ビタミンK2の分析は、当該技術分野で慣用されるプロセスに従った。即ち、Morishita T et al. 1999. Production of Menaquinones by Lactic Acid Bacteria. J. Dairy. Sci. 82: 1897-1903に記載の分析手順を使用することにより得られるのと同一の結果をもたらす分析的手順が使用された。
【0098】
このMBP68株により、ビタミンK2の濃度は、9μg/100mLとなった。
【0099】
同じ実施例において、発明者らは、前記MBP71株(CHCC11590, DSM12891)を試験した。これは、チミジル酸合成酵素をコードするthyA遺伝子が欠失した突然変異体MBP68、即ち、thyA(-)突然変異株である。そのような突然変異体は、チミジンの添加無くしてdTTPを合成することが出来ないため、ゲノムを複製出来ない。発明者らは、この株を、M17培地に20mg/Lのチミジンを添加することを除いて、MBP68と同様に培養した。静置ODは5.5であった。その後、これを上記と同様に処理した。乳は個本的にチミジンを含有しない点留意されたい。
【0100】
驚くべきことに、MBP71は、26μg/100mLのビタミンK2を生産し、これはMBP68の約3倍に相当する。上記と同様の試験を数度繰り返したが、いずれもMBP71のビタミンK2の生産量がMBP68を数倍上回っていた。
【0101】
結論
thyA(-)突然変異株MBP71は、対応するthyA(+)野生型株MBP68と比較して、約3倍のビタミンK2を生産した。
【0102】
いずれの株も、OD=1.0の播種レベルで乳に添加された。この播種レベルは、乳に添加されるLABの量としては相対的に多量とみなされてもよく、即ち、上記のように、両実験において、LABの増殖(細胞分裂)は限定されていた。
【0103】
従って、thyA(-)突然変異株MBP71が乳の中でゲノムを複製出来ないという事実は、thyA(-)突然変異株が顕著に多量のビタミンK2を生産するという驚くべき結果の唯一の説明とはなり得ない。
【0104】
実施例2:様々な培養条件下のMPP71 thyA(-)
これらの試験の一つにおいて、実施例1のMBP71は、OD 0.5(実施例1ではOD 1.0であった)で乳に播種された。この場合、ビタミンK2の収量は、17μg/100mLであった。20mg/Lのチミジンが乳に添加された点を除いて同一条件の培養も準備された。この培養条件ではビタミンK2の収量は15μg/100mLであり、即ち、チミジン無しの培養条件とおおよそ同様であった。
【0105】
結論:
この実施例は、直接的なdTTPの飢餓ではなく、むしろthyA遺伝子の不活性化により生じる代謝の変化により、ビタミンK2の増大が引き起こされることを示している。
【0106】
実施例3:他の核酸代謝突然変異体の試験
上記結果がビタミンK2レベルの増大を引き起こす核酸代謝の一般摂動ではなかったことを示すために、発明者らは、ホスホリボシルアミン-グリシンリガーゼをコードするpurD(purDEKオペロンの一部)の欠失突然変異を、MBP71からMBP68を樹立したのと類似の方法により樹立した(データ無し)。
【0107】
そのような突然変異体は、リボ又はデオキシリボヌクレオチドのいずれのプリンヌクレオチドも合成することが出来ないため、増殖のために外部からのプリンの供給を必要とする。このpurD株CG75(CHCC11704)は、M17培地に100mg/Lのイノシンを添加する点を除いてMBP68と同様に培養され、上記のように処理された。静置ODは、7.3であった。乳は本質的にプリンを含有しない旨留意されたい。
【0108】
前記CG75株は、ビタミンK2を2μg/100mLしか生産せず、即ちMBP68の数分の一であった。
【0109】
結論:
まとめると、実施例1〜3の結果から、thyAの突然変異が、ビタミンK2生産に対し、特異な影響を有することが示される。
【0110】
そのような突然変異は、乳製品等により多くのビタミンK2を供給することにより、一般公衆の骨健康を改善する有用な手段である。
【0111】
参考文献
1. Morishita T et al. 1999. Production of Menaquinones by Lactic Acid Bacteria. J. Dairy. Sci. 82: 1897-1903.
2. WO2008/040793A1 (Danone).
3. WO2008/040784A1 (Danone)
4. WO00/01799A2 (Chr. Hansen A/S)
5. Bolotin et. al 2001, Genome Res. 11 :731-753
6. JP 2001 136959 A
7. JP 2000 080043 A
8. Tsukamoto et al; "Construction of a Bacillus subtilis (natto) with High Productivity of Vitamin K2 (Menaquinone-7) by Analog Resistance"; Bioscience Biotechnology Bio-chemistry; vol. 65(9), pages 2007-2015, 2001

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンK2を含有する細菌を含む組成物であり、当該組成物中に存在する細菌が:
(a):組成物中に0.10 μg/(ml又はg)のビタミンK2をもたらす量で存在し;そして
(i):前記細菌がthyA(-)突然変異体であり;かつ
(ii)前記細菌が:ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)及びバチルス(Bacillus)属からなる群から選択される細菌である;
哺乳類のビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防に使用される、前記組成物。
【請求項2】
前記組成物が食品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記食品が、請求項1に記載のthyA(-)細菌で発酵させられた動物の乳である、即ち前記食品が乳製品(dairy product)である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記乳製品が:乳、ヨーグルト、及びチーズからなる群から選択される1つ以上の乳製品である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記発酵させられた動物の乳が:
(A):動物の乳に請求項1に記載のthyA(-)細菌を108〜1012cfu/ml播種する工程;及び
(B):当該乳を、4〜72時間、10℃〜50℃の温度で発酵させる工程;
により取得される、請求項3又は4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の乾燥単離thyA(-)突然変異細菌を含む組成物であり、医薬品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記細菌がラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)細菌が、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)又はラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記細菌が、受入番号DSM12891で供託された、thyA(-)ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)突然変異株MBP71である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物が、請求項1に記載のthyA(-)細菌を108〜1012cfu/(ml又はg)含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記哺乳類がヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ビタミンK欠乏症の処置及び/又は予防が、ヒトの骨の健康の改善のために行われる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記骨の健康の改善が、骨の発達又は骨の強度の異常の減少に関する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1の(a)が、「組成物中に0.10 μg/mg以上のビタミンK2をもたらす量で存在し」である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2012−528826(P2012−528826A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513598(P2012−513598)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057629
【国際公開番号】WO2010/139690
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(503260310)セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ (23)
【Fターム(参考)】