説明

ビット変化判定方法及びビット変化判定装置

【課題】航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定するための手法の提案。
【解決手段】GPS衛星信号を受信した受信信号とレプリカCAコードとの相関演算を行う。そして、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の増感期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化(遷移)の有無を判定する第1の事前判定、及び、第1の増感期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の増感期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化(遷移)の有無を判定する第2の事前判定としての予備判定を行う。その予備判定の結果に基づいて、単位期間毎の予備合算値を所定の増感時間分合算する。そして、第1及び第2の増感期間について算出した合算値を用いてIQ内積値を計算し、当該IQ内積値に基づいて、第1の増感期間と第2の増感期間との境目における航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定するためのビット変化判定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された受信装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から受信装置までの擬似距離等の情報に基づいて受信装置の位置座標と時計誤差とを求める位置算出計算を行う。
【0003】
GPS衛星から送出されるGPS衛星信号は、CA(Coarse and Acquisition)コードと呼ばれるGPS衛星毎に異なる拡散符号で変調されている。CAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号である。受信装置は、微弱な受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉するために、受信信号と、装置内部で発生させた擬似的なCAコードであるレプリカCAコードとの相関演算を行い、得られる相関値に基づいてGPS衛星信号を捕捉する。この場合、相関値のピークの検出を容易にするため、相関値を所定の相関積算時間に亘って積算する手法が用いられる。
【0004】
しかし、GPS衛星信号は、拡散符号であるCAコードが航法メッセージデータのビット値に応じてBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調されている。そのため、GPS衛星信号を受信した受信信号とレプリカCAコードとの相関演算を行うと、航法メッセージデータのビット値が変化(遷移)する前後で、ちょうど符号が逆転した相関値が得られることになる。ゆえに、航法メッセージデータのデータビット長である20ミリ秒を跨いで相関値を積算する場合には、符号の異なる相関値を積算してしまう可能性がある。
【0005】
上記の問題を解決するために、例えば特許文献1には、I相の受信信号に対する相関演算を行うことで得られる相関値(以下、「I相相関値」と称す。)と、Q相の受信信号に対する相関演算を行うことで得られる相関値(以下、「Q相相関値」と称す。)とを用いて内積を計算し、その内積値を用いて、航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5768319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術では、最初に20ミリ秒分のI相相関値を合算してI相相関積算値を算出し、同じく20ミリ秒分のQ相相関値を合算してQ相相関積算値を算出する。そして、隣接する20ミリ秒の期間のI相相関積算値及びQ相相関積算値を用いて内積値を計算する。そして、20ミリ秒毎に計算した内積値を所定時間分(例えば30秒分)蓄積し、これらの内積値を積算した結果を用いて、航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定する。
【0008】
この特許文献1の技術では、ビット変化判定を行うために、所定時間分の内積値のデータをメモリーに蓄積記憶させる必要がある。例えば、30秒分の内積値を用いるのであれば、内積値のデータを1500個分もメモリーに蓄積記憶させる必要があるため、多くのメモリー容量を必要とする。また、GPS衛星信号の初回受信時においては、少なくとも30秒が経過しなければビット変化判定を行うことができないため、GPS衛星信号の初期捕捉に多大な時間を要するという問題もある。
【0009】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定するための新たな手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するための第1の形態は、衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行うことと、前記受信信号により搬送された航法メッセージデータのビット遷移タイミングで前記受信信号を時分割した場合に前記ビット遷移タイミングで区切られる各期間を単位期間として、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の期間についての前記相関演算の結果を合算する第1の合算を行うことと、前記第1の期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の期間についての前記相関演算の結果を合算する第2の合算を行うことと、前記第1及び第2の合算の結果を用いて、前記第1の期間と前記第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定することと、を含むビット変化判定方法である。
【0011】
また、他の形態として、衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行う相関演算部と、前記受信信号により搬送された航法メッセージデータのビット遷移タイミングで前記受信信号を時分割した場合に前記ビット遷移タイミングで区切られる各期間を単位期間として、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の期間についての前記相関演算の結果を合算する第1の合算を行う第1の合算部と、前記第1の期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の期間についての前記相関演算の結果を合算する第2の合算を行う第2の合算部と、前記第1及び第2の合算の結果を用いて、前記第1の期間と前記第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定する判定部と、を備えたビット変化判定装置を構成してもよい。
【0012】
この第1の形態等によれば、衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行う。そして、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の期間と、第1の期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の期間とのそれぞれについて、相関演算の結果を合算する。そして、これらの合算の結果を用いて、第1の期間と第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定する。
【0013】
従来のように、20ミリ秒毎に相関演算結果を合算した結果を用いるのではなく、連続するN個の単位期間である第1の期間についての相関演算結果を合算した結果と、連続するM個の単位期間である第2の期間についての相関演算結果を合算した結果とを用いて、航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定することとした。これにより、従来の手法と比べて航法メッセージデータのビット値の変化の有無を適切に判定することができる。また、上記形態では、従来のように膨大な量のデータをメモリーに保持しておく必要がなく、加えて、初回受信時においても衛星信号の捕捉を短時間で完了させることができる。
【0014】
また、第2の形態として、第1の形態のビット変化判定方法であって、前記相関演算の結果を用いて、前記第1の期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第1の事前判定を行うことと、前記相関演算の結果を用いて、前記第2の期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第2の事前判定を行うことと、を含み、前記境目におけるビット値の変化の有無を判定することは、前記第1の事前判定の結果に応じた合算方法で前記第1の合算を行った結果と、前記第2の事前判定の結果に応じた合算方法で前記第2の合算を行った結果とを用いて判定することを含む、ビット変化判定方法を構成してもよい。
【0015】
この第2の形態によれば、相関演算の結果を用いて、第1の期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第1の事前判定を行う。その一方で、相関演算の結果を用いて、第2の期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第2の事前判定を行う。そして、第1の事前判定の結果に応じた合算方法で第1の合算を行った結果と、第2の事前判定の結果に応じた合算方法で第2の合算を行った結果とを用いて、第1の期間と第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定する。
【0016】
第1及び第2の期間はそれぞれ連続する複数の単位期間で構成され得るため、複数のビット遷移タイミングを含み得る。そこで、これらのビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を事前判定することとした。事前判定により各ビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無がわかれば、その事前判定の結果に応じて相関演算結果を適切に合算することが可能となる。これは、第1の期間と第2の期間との境目におけるビット変化有無の判定の正確性の向上に繋がる。
【0017】
また、第3の形態として、第2の形態のビット変化判定方法であって、前記第1の合算を行うことは、前記第1の期間に含まれる単位期間毎の前記相関演算の結果を、加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算することを含み、前記第1の事前判定を行うことは、前記第1の合算における複数の合算方法で合算した結果を用いて、前記第1の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することを含み、前記第2の合算を行うことは、前記第2の期間に含まれる単位期間毎の前記相関演算の結果を、加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算することを含み、前記第2の事前判定を行うことは、前記第2の合算における複数の合算方法で合算した結果を用いて、前記第2の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することを含む、ビット変化判定方法を構成してもよい。
【0018】
この第3の形態によれば、第1の期間に含まれる単位期間毎の相関演算の結果を、加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算する。そして、複数の合算方法で合算した結果を用いて、第1の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を事前判定する。同様に、第2の期間に含まれる単位期間毎の相関演算の結果を、加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算する。そして、複数の合算方法で合算した結果を用いて、第2の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を事前判定する。
【0019】
第1及び第2の期間ともに、当該期間に含まれる各ビット遷移タイミングにおいてビット値が変化したかどうかは不明である。そこで、第1及び第2の期間ともに、単位期間毎の相関演算の結果を加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算する。そして、これら複数の合算方法での合算結果を用いることで、各期間の各ビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を適切に事前判定することができる。
【0020】
また、第4の形態として、第3の形態のビット変化判定方法であって、前記第1の事前判定を行うことは、前記合算方法毎に当該合算方法で合算した結果を用いてパワー値を算出することと、前記パワー値が最大の合算方法に基づいて、前記第1の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することと、を含み、前記第2の事前判定を行うことは、前記合算方法毎に当該合算方法で合算した結果を用いてパワー値を算出することと、前記パワー値が最大の合算方法に基づいて、前記第2の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することと、を含む、ビット変化判定方法を構成してもよい。
【0021】
この第4の形態によれば、第1の事前判定について、合算方法毎に、相関演算結果を合算した結果を用いてパワー値を算出する。そして、パワー値が最大の合算方法に基づいて、第1の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定する。第2の事前判定についても同様である。
【0022】
航法メッセージデータのビット値が変化した場合、前後の単位期間における相関演算結果をそのまま加算すると、相関演算結果が互いに相殺し合うことでパワー値が小さくなってしまう。しかし、前後の単位期間における相関演算結果を減算すれば、符号を揃えて相関演算結果を合算することができるため、パワー値を大きくすることができる。ゆえに、パワー値が最大となった合算方法を特定すれば、単位期間毎の各ビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無がわかる。
【0023】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態のビット変化判定方法であって、前記境目におけるビット値の変化の有無を判定することは、前記第1の合算の結果と前記第2の合算の結果との内積を算出して当該ビット値の変化の有無を判定することを含む、ビット変化判定方法を構成してもよい。
【0024】
この第5の形態によれば、第1の合算の結果と第2の合算の結果との内積を算出するといった簡易且つ単純な方法により、第1の期間と第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定することができる。
【0025】
また、第6の形態として、第1〜第5の何れかの形態のビット変化判定方法であって、前記衛星信号の受信状況に基づいて前記N及びMのうちの少なくとも一方を変更することを更に含む、ビット変化判定方法を構成してもよい。
【0026】
この第6の形態によれば、衛星信号の受信状況に基づいてN及びMのうちの少なくとも一方を変更する。衛星信号の受信状況は衛星毎に異なり得る。そのため、この第6の形態によれば、ビット値の変化の有無を判定するための第1の期間や第2の期間を衛星毎に設定することが可能となる。
【0027】
また、第7の形態として、第6の形態のビット変化判定方法であって、前記変更することは、前記受信状況が良好である場合に、良好でない場合に比べて小さな値に変更することを含む、ビット変化判定方法を構成してもよい。
【0028】
この第7の形態によれば、衛星信号の受信状況が良好である場合に、良好でない場合に比べて小さな値に変更する。衛星信号の受信状況が良好であれば、衛星信号の受信信号とレプリカコードとの相関演算を行うことで、信頼性の高い相関演算結果を得ることができる。そのため、衛星信号の受信状況が良好でない場合と比べて第1の期間や第2の期間を短い期間としても、第1の期間と第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態におけるビット変化判定の原理の説明図。
【図2】IQ内積値の説明図。
【図3】携帯型電話機の機能構成の一例を示すブロック図。
【図4】ベースバンド処理回路部の回路構成の一例を示す図。
【図5】衛星別ビット変化判定用データのデータ構成の一例を示す図。
【図6】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図7】ビット変化判定処理の流れを示すフローチャート。
【図8】実験結果の一例を示す図。
【図9】変形例におけるビット変化判定の原理の説明図。
【図10】変形例におけるビット変化判定の原理の説明図。
【図11】第2のベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図12】第1の設定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図13】第2の設定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図14】第2の衛星別ビット変化判定用データのデータ構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を適用した好適な実施形態の一例について説明するが、本発明を適用可能な形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0031】
1.原理
最初に、本実施形態における航法メッセージデータのビット変化判定の原理について説明する。本実施形態では、衛星測位システムの一種であるGPS(Global Positioning System)を例に挙げて、GPS衛星から発信されるGPS衛星信号の受信信号に搬送された航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定する場合について説明する。
【0032】
GPSを利用した衛星測位システムにおいて、測位用衛星の一種であるGPS衛星は、アルマナックやエフェメリス等の衛星軌道データを含む航法メッセージデータを、測位用衛星信号の一種であるGPS衛星信号に乗せて発信している。GPS衛星信号は、拡散符号の一種であるCA(Coarse and Acquisition)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。CAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、各GPS衛星に固有のコードである。
【0033】
GPS衛星がGPS衛星信号を発信する際の周波数(規定搬送波周波数)は、1.57542[GHz]と予め規定されているが、GPS衛星及びGPS受信装置の移動により生ずるドップラーの影響等により、GPS受信装置がGPS衛星信号を受信する際の周波数は、必ずしも規定搬送波周波数とは一致しない。そのため、GPS受信装置は、受信信号と、装置内部で発生させた擬似的なCAコードであるレプリカCAコードとの相関演算を周波数方向及び位相方向それぞれについて実行して、GPS衛星信号を捕捉する手法が用いられる。
【0034】
周波数方向の相関演算は、受信したキャリア(搬送波)の信号である受信キャリア信号の周波数(以下、「受信周波数」と称す。)を特定するための演算(いわゆる周波数サーチ)である。また、位相方向の相関演算は、受信信号に含まれるCAコードである受信CAコードの位相(以下、「コード位相」と称す。)を特定するための演算(いわゆる位相サーチ)である。具体的には、GPS受信装置は、受信キャリア信号からキャリアを除去するためのキャリア除去用信号の周波数とレプリカCAコードの位相とを変化させながら、相関演算を実行する。そして、得られた相関値のピークを検出することで、受信周波数及びコード位相を特定する。
【0035】
しかしながら、インドア環境(屋内環境)に代表されるような弱電界環境等においては、相関値のレベルが総じて低くなるため、ピークの検出が難しくなる。そこで、かかる受信環境下では、相関演算で得られる相関値を所定の相関積算時間に亘って積算していき、得られた相関積算値の中からピークを検出する手法が用いられる。
【0036】
ところで、GPS衛星信号は、拡散符号であるCAコードが航法メッセージデータのビット値に応じてBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調されている。具体的には、50bps(bit per second)での変調のため、航法メッセージデータの1ビット分の時間は20ミリ秒である。つまり、航法メッセージデータのビット値は、20ミリ秒毎に“0→1”又は“1→0”に変化(遷移)する可能性がある。可能性があるというのは、“0→0”又は“1→1”のようにビット値が変化しない場合もあるということである。
【0037】
本実施形態では、この20ミリ秒毎に到来するタイミングであって、航法メッセージデータのビット値が変化(遷移)し得るタイミングのことを「ビット遷移タイミング」と定義する。ビット遷移タイミングは、航法メッセージデータのビット値が変化(遷移)する可能性のある時刻、いわゆるビット遷移時刻(BTT(Bit Transition Time))に相当するタイミングである。
【0038】
CAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとし、繰返し周期1msで繰り返す固定コードである。上記のBPSK変調によって、航法メッセージデータの1ビットは20サイクルのCAコードによって表される。かかる変調により、GPS衛星信号を受信した受信信号とレプリカCAコードとの相関演算を行うと、航法メッセージデータのビット値が変化する前後で、ちょうど符号が逆転した相関値が得られることになる。ゆえに、航法メッセージデータのビット値が変化したタイミングを跨いで相関値を積算した場合には、符号の異なる相関値を積算することになる。その結果、符号の異なる相関値同士が相殺し合うことで、相関積算値が総体的に小さな値(極端な場合は0)となってしまい、相関積算値に対するピーク検出が困難になるという問題が生ずる。
【0039】
上記の問題は、各ビット遷移タイミングにおいて航法メッセージデータのビット値が変化したかどうか、つまり航法メッセージデータのビット値の変化の有無が判定できれば解消される。なぜならば、航法メッセージデータのビット値の変化の有無がわかれば、相関値同士が相殺しないように符号を調整して相関値を積算することができるためである。これは、航法メッセージデータのビット長である20ミリ秒よりも長い時間に亘って相関値を積算することができることを意味する。
【0040】
図1は、本実施形態におけるビット変化判定の原理の説明図である。本実施形態では、ビット遷移タイミングは既知であり、ビット遷移タイミング自体の検出は不要であるものとして説明する。ビット遷移タイミングに関する情報は、例えば外部装置からアシストデータとして取得可能である。そのため、本実施形態では、受信信号の各ビット遷移タイミングはわかっているが、各ビット遷移タイミングにおいて航法メッセージデータのビット値が実際に変化するかどうかがわからない状況を想定する。
【0041】
本実施形態では、GPS衛星信号を受信した受信信号を航法メッセージデータのビット遷移タイミングで時分割した場合にビット遷移タイミングで区切られる各期間のことを「単位期間」と定義する。「期間」とは、定められた始期から定められた終期までの間のことである。「単位期間」は、隣接するビット遷移タイミングを始期及び終期とした期間である。この単位期間を定める始期と終期の間の“20ミリ秒”の時間のことを「単位時間」と定義する。
【0042】
また、本実施形態では、時系列順に連続するN個(N≧1)の単位期間でなる「第1の増感期間」と、当該第1の増感期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間でなる「第2の増感期間」との2種類の期間を定義する。また、第1の増感期間を定める始期と終期の間の“N×20ミリ秒”の時間のことを「第1の増感時間」と定義する。同じく、第2の増感期間を定める始期と終期の間の“M×20ミリ秒”の時間のことを「第2の増感時間」と定義する。そして、第1の増感時間と第2の増感時間とを合算した時間を「増感合算時間」と定義し、第1の増感期間と第2の増感期間とにより定まる期間のことを「増感合算期間」と定義する。
【0043】
なお、本実施形態では、便宜的に、過去から現在に向かって(古い方から順に)第1及び第2の増感期間を設定するものとして説明するが、現在から過去に向かって(新しい方から順に)第1及び第2の増感期間を設定することとしてもよい。
【0044】
また、単位時間は固定的(20ミリ秒)であるが、第1及び第2の増感時間は適用するシステムに応じて適宜変更可能である。ここでは一例として、第1及び第2の増感時間を単位時間の2倍の時間である“40ミリ秒(N=M=2)”としてビット変化判定を行う場合について詳細に説明する。
【0045】
図1において、横方向は時間を示し、本実施形態においてビット変化判定を行うために用いる各諸量を縦方向に示している。各諸量については詳細後述するが、最上段のラインはI相相関値を示し、下向きの矢印はI相相関値の算出タイミングを示す。2段目のラインはQ相相関値を示し、下向きの矢印はQ相相関値の算出タイミングを示す。3段目のPSumI及び4段目のPSumQは、それぞれI成分及びQ成分の予備的な合算値であるI相予備合算値及びQ相予備合算値を示す。5段目のPower及び6段目のPowerは、それぞれビット変化の予備判定に用いる加算パワー値及び減算パワー値を示す。また、7段目のSumI及び8段目のSumQは、それぞれI成分及びQ成分の合算値であるI相合算値及びQ相合算値を示す。
【0046】
また、図1において一点鎖線の矩形で囲った諸量のデータが、各回のビット変化判定を行うために用いるデータの組合せ(データ組)に相当する。また、データ組を示す矩形の内部に示した縦の黒帯は、当該ビット変化判定においてビット値の変化の有無の判定対象とするビット遷移タイミングを示す。具体的には、各回のビット変化判定において、第1の増感期間と第2の増感期間との境目に対応するビット遷移タイミングに縦の黒帯が示されている。
【0047】
最初に、IQ分離された受信信号(以下、「受信IQ信号」と称す。)の同相成分(I相)及び直交成分(Q相)それぞれについてレプリカCAコードとの相関演算を行う。これにより、I相の相関値であるI相相関値及びQ相の相関値であるQ相相関値が得られる。但し、I相は受信信号の同相成分(実部)を示し、Q相は受信信号の直交成分(虚部)を示す。
【0048】
次いで、I相相関値とQ相相関値とのそれぞれについて、各算出タイミングにおける相関値を単位期間毎に合算して、各単位期間についてI相予備合算値“PSumI”及びQ相予備合算値“PSumQ”を得る。ここで算出される合算値は予備的に用いられる合算値であるため「予備合算値」と称し、合算値を表す“Sum”の前に“P”を付して“PSum”と表記する。また、各予備合算値に対応する単位期間の番号“n=1,2,3,・・・”を括弧書きで示す。例えば、第1番目(n=1)の単位期間のI相予備合算値及びQ相予備合算値を、それぞれ“PSumI(1)”及び“PSumQ(1)”と表記する。
【0049】
次いで、第1及び第2の増感期間それぞれについて、予備合算値を用いてパワー値を算出する。具体的には、各増感期間に含まれる単位期間毎の予備合算値を加算或いは減算の組合せを異ならせて合算し、その合算結果を用いてパワー値を算出する。図1では、第1及び第2の増感期間には、それぞれ2個の単位期間が含まれる。そのため、第1番目の単位期間の予備合算値を「正」とし、第2番目の単位期間の予備合算値を「正」とする合算方法である第1の組合せ(正,正)と、第1番目の単位期間の予備合算値を「正」とし、第2番目の単位期間の予備合算値を「負」とする合算方法である第2の組合せ(正、負)との2種類の組合せ(合算方法)に従ってパワー値を算出する。
【0050】
本実施形態では、第1の組合せ(正,正)に従って算出したパワー値のことを「加算パワー値」と称し、“Power”と表記する。また、第2の組合せ(正,負)に従って算出したパワー値のことを「減算パワー値」と称し、“Power”と表記する。また、パワー値を算出するために用いた単位期間の番号を、時系列順にコンマで区切って括弧書きで表記する。例えば、第n番目の単位期間の予備合算値と第n+1番目の単位期間の予備合算値とを用いて算出した加算パワー値及び減算パワー値を、それぞれ“Power(n,n+1)”及び“Power(n,n+1)”と表記する。
【0051】
第1の増感期間についての加算パワー値“Power(n,n+1)”及び減算パワー値“Power(n,n+1)”は、それぞれ次式(1)及び(2)に従って算出される。
【数1】

【数2】

【0052】
同様に、第2の増感期間についての加算パワー値“Power(n+2,n+3)”及び減算パワー値“Power(n+2,n+3)”は、それぞれ次式(3)及び(4)に従って算出される。
【数3】

【数4】

【0053】
なお、上記の第1及び第2の組合せについて正負の符号を入れ替えた組合せ{(負,負)、(負,正)}も考えられるが、これらの組合せについてパワー値を算出すると、それぞれ{(正,正)、(正,負)}の組合せでパワー値を算出した場合と同じ結果が得られる。そのため、{(正,正)、(正,負)、(負,正)、(負,負)}の4通りの組合せ全てについて計算を行う必要はなく、{(正,正)、(正,負)}の組合せか{(負,正)、(負,負)}の組合せの何れか一方の組合せについてのみ計算を行えば済む。
【0054】
次に、第1の増感期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第1の事前判定、及び、第2の増感期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第2の事前判定として、各増感期間についてビット変化有無の予備判定を行う。
【0055】
具体的には、各増感期間について、算出した加算パワー値“Power”の大きさと減算パワー値“Power”の大きさとを比較する。そして、パワー値が大きい方を選択し、選択したパワー値を算出するために用いた加算或いは減算の組合せを判定する。そして、判定した組合せに従って単位期間毎の予備合算値をIQ成分毎に合算し、I成分の合算値であるI相合算値“SumI”及びQ成分の合算値であるQ相合算値“SumQ”を得る。
【0056】
第1の増感期間に着目して詳細に説明する。加算パワー値“Power(n,n+1)”が減算パワー値“Power(n,n+1)”よりも大きければ(Power(n,n+1)>Power(n,n+1))、合算により相関値を増大させる組合せは第1の組合せ(正、正)ということになる。これは、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目において航法メッセージデータのビット値が変化しなかったことを意味する。そのため、この場合は、第n番目の単位期間の予備合算値を「正」とし、第n+1番目の単位期間の予備合算値も「正」として予備合算値を合算する。
【0057】
具体的には、次式(5)及び(6)に従って、I相合算値“SumI(n,n+1)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1)”を算出する。
【数5】

【数6】

【0058】
それに対して、減算パワー値“Power(n,n+1)”が加算パワー値“Power(n,n+1)”よりも大きければ(Power(n,n+1)>Power(n,n+1))、合算により相関値を増大させる組合せは第2の組合せ(正、負)ということになる。これは、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目において航法メッセージデータのビット値が変化したことを意味する。そのため、この場合は、第n番目の単位期間の予備合算値を「正」とし、第n+1番目の単位期間の予備合算値を「負」として予備合算値を合算する。
【0059】
具体的には、次式(7)及び(8)に従って、I相合算値“SumI(n,n+1)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1)”を算出する。
【数7】

【数8】

【0060】
第2の増感期間についても同様の手順で予備合算値を合算して合算値を算出する。すなわち、加算パワー値“Power(n+2,n+3)”の大きさと減算パワー値“Power(n+2,n+3)”の大きさとを比較する。そして、パワー値が大きい方に対応する加算或いは減算の組合せに従って、I相合算値“SumI(n+2,n+3)”及びQ相合算値“SumQ(n+2,n+3)”を算出する。
【0061】
具体的には、“Power(n+2,n+3)>Power(n+2,n+3)”の場合は、次式(9)及び(10)に従って、I相合算値“SumI(n+2,n+3)”及びQ相合算値“SumQ(n+2,n+3)”を算出する。
【数9】

【数10】

【0062】
それに対し、“Power(n+2,n+3)>Power(n+2,n+3)”の場合は、次式(11)及び(12)に従って、I相合算値“SumI(n+2,n+3)”及びQ相合算値“SumQ(n+2,n+3)”を算出する。
【数11】

【数12】

【0063】
なお、式(1)〜(4)からわかるように、単位期間毎の予備合算値を加算或いは減算の組合せを変えて合算し、その合算結果を用いてパワー値を算出している。そのため、パワー値を算出する過程において、式(5)〜式(12)の合算値“Sum”は必然的に算出されることになる。従って、実際の処理では、パワー値を算出する過程で算出した合算値“Sum”を中間データとして記憶部に保持しておき、最大のパワー値に対応する合算値“Sum”を記憶部から読み出して利用することとすれば好適である。
【0064】
このようにして得られる合算値は、航法メッセージデータのビット変化の有無の本判定(最終判定)を行うために必要な合算値である。便宜的に、I相合算値及びQ相合算値を包括するベクトルを「IQ合算値ベクトル」と定義し、ベクトル表記の“IQ”で表す。なお、明細書及び図面における表記の都合上、ベクトルを意味する矢印を明細書中では省略するが、図面中では省略せずに記載する。
【0065】
また、I相合算値“SumI”及びQ相合算値“SumQ”と、IQ合算値ベクトル“IQ”との表記において、合算値の算出に用いた単位期間の番号を、時系列順にコンマで区切って括弧書きで表記する。例えば、第n番目の単位期間及び第n+1番目の単位期間の予備合算値を用いて算出したI相合算値及びQ相合算値を“SumI(n,n+1)”及び“SumQ(n,n+1)”と表記し、これらを包括してIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1)”と表記する。
【0066】
ここまでの手順で、第1の増感期間について第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1)=[SumI(n,n+1),SumQ(n,n+1)]”が得られ、第2の増感期間について第2のIQ合算値ベクトル“IQ(n+2,n+3)=[SumI(n+2,n+3),SumQ(n+2,n+3)]”が得られたことになる。
【0067】
次いで、第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1)”と第2のIQ合算値ベクトル“IQ(n+2,n+3)”とを用いて、次式(13)に従ってIQ内積値“Dot(n+1|n+2)”を算出する。“Dot(a|b)”の表記は、第a番目の単位期間と第b番目の単位期間との境目におけるビット変化判定を行うためのIQ内積値であることを意味する。
【数13】

【0068】
但し、式(13)の計算を行う際には、以下の点に留意する必要がある。第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目において航法メッセージデータのビット値が変化している場合、第n番目及び第n+1番目の単位期間の予備合算値の符号は、「正→負」或いは「負→正」に変化している。この場合、式(7)及び(8)によれば、第n番目の単位期間の予備合算値を基準として減算を行うことになる。つまり、予備合算値の符号が「正→負」に変化しているのであれば、算出される合算値“Sum”の符号が「正」となるように減算を行い、予備合算値の符号が「負→正」に変化しているのであれば、算出される合算値“Sum”の符号が「負」となるように減算を行うことになる。
【0069】
しかし、最終的に判定したいのは、第n+1番目の単位期間と第n+2番目の単位期間との境目における航法メッセージデータのビット値の変化の有無である。つまり、第n+1番目の単位期間における航法メッセージデータのビット値の符号と、第n+2番目の単位期間における航法メッセージデータのビット値の符号との異同が問題となる。従って、式(7)及び(8)に従って減算を行う際には、境目部分の単位期間である第n+1番目の単位期間の予備合算値を基準として減算を行うことが必要となる。つまり、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間とで、予備合算値の符号が「正→負」に変化しているのであれば、算出される合算値“Sum”の符号が「負」となるように減算を行い、予備合算値の符号が「負→正」に変化しているのであれば、算出される合算値“Sum”の符号が「正」となるように減算を行う必要がある。
【0070】
そこで、予備判定を行った結果、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目において航法メッセージデータのビット値が変化していると判定した場合は、式(7)及び(8)に従って算出したI相合算値“SumI(n,n+1)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1)”の正負の符号を逆転させて、IQ内積値の計算に利用する。これは、次式(14)及び(15)に従ってI相合算値“SumI(n,n+1)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1)”を算出することに相当する。
【数14】

【数15】

【0071】
なお、第n+2番目及び第n+3番目の単位期間については、境目部分の単位期間である第n+2番目の単位期間の予備合算値を基準として減算を行えばよい。つまり、式(9)〜式(12)に従ってI相合算値“SumI(n+2,n+3)”及びQ相合算値“SumQ(n+2,n+3)”を算出して、式(13)のIQ内積値“Dot(n+1|n+2)”の計算に利用する。
【0072】
図2は、IQ内積値の説明図である。図2はIQ平面を示しており、横軸はQ相、縦軸はI相にそれぞれ対応する。原点“O”を始点として、第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1)”と、第2のIQ合算値ベクトル“IQ(n+2,n+3)”とをIQ平面に書き表す。図2では、第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1)”を実線で示し、第2のIQ合算値ベクトル“IQ(n+2,n+3)”を点線で示している。
【0073】
また、第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1)”と第2のIQ合算値ベクトルと“IQ(n+2,n+3)”の成す角度“θ”を「ベクトル角」と定義する。便宜的に、第1のIQ合算値ベクトルを基準として反時計回りに第2のIQ合算値ベクトルを見た場合のベクトル角“θ”の符号を「正」とし、第1のIQ合算値ベクトルを基準として時計回りに第2のIQ合算値ベクトルを見た場合のベクトル角“θ”の符号を「負」と定義する。
【0074】
IQ内積値“Dot”の計算は、第1のIQ合算値ベクトルと第2のIQ合算値ベクトルとの内積計算を行うことに等しい。つまり、次式(16)が成立する。
【数16】

【0075】
IQ内積値“Dot”は、ベクトル角“θ”の余弦“cosθ”に依存して正負の符号が変化する。第1のIQ合算値ベクトルと第2のIQ合算値ベクトルとが互いに同じ向きかそれに近い向きであれば(−π/2<θ<π/2)、IQ内積値は正の値となる(例えば図2のベクトル角“θ1”や“θ3”)。これは、第1の増感期間と第2の増感期間との境目において航法メッセージデータのビット値が変化しなかった場合に相当する。
【0076】
それに対し、第1のIQ合算値ベクトルと第2のIQ合算値ベクトルとが互いに逆向きかそれに近い向きであれば(−π≦θ≦−π/2,π/2≦θ≦π)、IQ内積値は負の値となる(例えば図2のベクトル角“θ2”や“θ4”)。これは、第1の増感期間と第2の増感期間との境目において航法メッセージデータのビット値が変化した場合に相当する。
【0077】
このことから、IQ内積値“Dot”を用いて次のようにビット変化を判定する。式(13)に従って算出したIQ内積値“Dot(n+1|n+2)”が「負」であれば(“Dot(n+1|n+2)”<0)、第n+1番目の単位期間と第n+2番目の単位期間との境目においてビット値が変化した(ビット変化有り)と判定する。それに対し、IQ内積値“Dot(n+1|n+2)”が「正」であれば(“Dot(n+1|n+2)”≧0)、第n+1番目の単位期間と第n+2番目の単位期間との境目においてビット値が変化しなかった(ビット変化無し)と判定する。
【0078】
以上の手順が、第1回目のビット変化判定を行うまでの手順である。本実施形態では、図1に一点鎖線で囲って示したように、単位時間ずつ時間をずらしながらビット変化判定を行う。この場合、第2回目の判定では、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定する。また、第3回目の判定では、第n+3番目の単位期間と第n+4番目の単位期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定する。
【0079】
上記の説明におけるパワー値に基づく予備判定は、各増感期間に含まれる単位期間毎のビット遷移タイミングにおける航法メッセージデータのビット変化有無の判定であり、本判定の前段階として行う事前判定に相当するものである。変形例でも後述するが、事前判定の方法はパワー値に基づく予備判定に限らず、各増感期間に含まれる各ビット遷移タイミングにおけるビット変化有無を判定できる方法であればよい。
【0080】
2.実施例
次に、上述した原理に従ってビット変化判定を行うビット変化判定装置の実施例について説明する。ここでは、ビット変化判定装置を備えた電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合の実施例について説明する。但し、本発明を適用可能な実施例が以下説明する実施例に限定されるわけではないことは勿論である。
【0081】
2−1.携帯型電話機の機能構成
図3は、本実施例における携帯型電話機1の機能構成の一例を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ5と、GPS受信部10と、ホスト処理部30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80と、時計部90とを備えて構成される。
【0082】
GPSアンテナ5は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信信号をGPS受信部10に出力する。
【0083】
GPS受信部10は、GPSアンテナ5から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路或いは位置算出装置であり、いわゆるGPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。なお、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0084】
RF受信回路部11は、RF信号の受信回路である。回路構成としては、例えば、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をA/D変換器でデジタル信号に変換し、デジタル信号を処理する受信回路を構成してもよい。また、GPSアンテナ5から出力されたRF信号をアナログ信号のまま信号処理し、最終的にA/D変換することでデジタル信号をベースバンド処理回路部20に出力する構成としてもよい。
【0085】
後者の場合には、例えば、次のようにRF受信回路部11を構成することができる。すなわち、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ5から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0086】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力された受信信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉し、GPS衛星信号から取り出した衛星軌道データや時刻データ等に基づいて、所定の位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置(位置座標)を算出する処理回路ブロックである。ベースバンド処理回路部20は、受信信号に対する相関演算を行う相関演算部や、相関演算部の相関演算結果に基づいてGPS衛星信号を捕捉する捕捉部等を有する。
【0087】
ホスト処理部30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーである。ホスト処理部30は、ベースバンド処理回路部20から取得した位置座標をもとに、表示部50に現在位置を指し示した地図を表示させたり、その位置座標を各種のアプリケーション処理に利用する。
【0088】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号をホスト処理部30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0089】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホスト処理部30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0090】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0091】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0092】
記憶部80は、ホスト処理部30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、各種アプリケーション処理を実行するための各種プログラムやデータ等を記憶する記憶装置である。
【0093】
時計部90は、携帯型電話機1の内部時計であり、水晶発振器等の発振回路を備えて構成される。時計部90の計時時刻は、ベースバンド処理回路部20及びホスト処理部30に随時出力される。
【0094】
2−2.ベースバンド処理回路部の回路構成
図4は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図であり、本実施例に係わる回路ブロックを中心に記載した図である。ベースバンド処理回路部20は、例えば、乗算部21と、キャリア除去用信号発生部22と、相関演算部23と、レプリカコード発生部24と、処理部25と、記憶部27とを備えて構成される。
【0095】
乗算部21は、キャリア除去用信号発生部22により生成・発生されたキャリア除去用信号をI相及びQ相の受信信号である受信IQ信号に乗算することで、受信IQ信号から搬送波(キャリア)を除去する回路部であり、乗算器等を有して構成される。
【0096】
なお、受信信号のIQ成分の分離(IQ分離)を行う回路ブロックについては図示を省略するが、例えば、RF受信回路部11において受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする際に、位相が90度異なる局部発振信号を受信信号に乗算することでIQ分離を行うこととすればよい。
【0097】
また、RF受信回路部11から出力される信号がIF信号である場合には、IF周波数のキャリア除去用信号を生成すればよい。このように、RF受信回路部11が受信信号をIF信号にダウンコンバージョンする場合も、本実施形態を実質的に同一に適用可能である。
【0098】
キャリア除去用信号発生部22は、GPS衛星信号のキャリア信号の周波数と同一の周波数のキャリア除去用信号を生成する回路であり、キャリアNCO(Numerical Controlled Oscillator)等の発振器を有して構成される。受信IQ信号がIF信号である場合に
は、IF周波数の信号を生成する。キャリア除去用信号発生部22は、I相の受信信号に対するI相キャリア除去用信号と、Q相の受信信号に対するQ相キャリア除去用信号とを生成して、乗算部21にそれぞれ出力する。Q相キャリア除去用信号は、I相キャリア除去用信号と位相が90度異なる信号である。
【0099】
キャリア除去用信号発生部22により発生されたキャリア除去用信号が乗算部21において受信IQ信号に乗算されることで、受信IQ信号の復調(検波)が行われ、キャリアが除去された受信コード信号が生成・出力される。すなわち、乗算部21において、I相の受信信号にI相のキャリア除去用信号を乗算されることで、I相の受信コード信号が生成されるとともに、Q相の受信信号にQ相のキャリア除去用信号が乗算されることでQ相の受信コード信号が生成される。乗算部21及びキャリア除去用信号発生部22は、復調部(検波部)であるとも言える。
【0100】
相関演算部23は、乗算部21から出力されたI相及びQ相の受信コード信号と、レプリカコード発生部24により生成・発生されたレプリカCAコードとの相関演算を行う回路部であり、複数の相関器(コリレーター)等を有して構成される。
【0101】
レプリカコード発生部24は、CAコードを模擬したレプリカであるレプリカCAコードを生成・発生する回路部であり、コードNCO等の発振器を有して構成される。レプリカコード発生部24は、処理部25から指示されたPRN番号(衛星番号)に応じたレプリカCAコードを生成・発生して、相関演算部23に出力する。相関演算部23は、I相及びQ相の受信コード信号それぞれに対して、レプリカコード発生部24により生成されたレプリカCAコードとの相関演算を行う。
【0102】
処理部25は、ベースバンド処理回路部20の各機能部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部25は、主要な機能部として、衛星信号捕捉部251と、位置算出部253とを有する。
【0103】
衛星信号捕捉部251は、相関演算部23から出力される周波数方向及び位相方向の相関演算結果に対するピーク判定を行って、受信信号の周波数(受信周波数)及び受信したCAコードの位相(コード位相)を検出する。検出された受信周波数及びコード位相は、メジャメント情報として位置算出等に用いられる。
【0104】
本実施形態において、衛星信号捕捉部251は、第1の増感期間についての相関演算部23の相関演算結果を合算する第1の合算部や、第2の増感期間についての相関演算部23の相関演算結果を合算する第2の合算部として機能する。また、第1及び第2の合算部の合算結果を用いて、第1の増感期間と第2の増感期間との境目のビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する判定部としても機能する。
【0105】
位置算出部253は、衛星信号捕捉部251により各捕捉衛星について検出・取得されたメジャメント情報を用いて、公知の位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置を算出する。そして、算出した位置をホスト処理部30に出力する。
【0106】
記憶部27は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリー)によって構成され、ベースバンド処理回路部20のシステムプログラムや、衛星信号捕捉機能、位置算出機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0107】
図4に示すように、記憶部27には、プログラムとして、処理部25により読み出され、ベースバンド処理(図6参照)として実行されるベースバンド処理プログラム271が記憶されている。ベースバンド処理プログラム271は、ビット変化判定処理(図7参照)として実行されるビット変化判定プログラム2711をサブルーチンとして含む。
【0108】
ベースバンド処理とは、処理部25が、捕捉対象とするGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)それぞれについて、相関演算部23から出力されるI相及びQ相の相関演算結果を用いてGPS衛星信号を捕捉し、捕捉したGPS衛星信号を利用した位置算出計算を行って携帯型電話機1の位置を算出する処理である。
【0109】
ビット変化判定処理とは、処理部25が、上記の原理に従って、受信信号に搬送されている航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定する処理である。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0110】
また、記憶部27には、データとして、衛星軌道データ272と、衛星別ビット遷移タイミングデータ273と、衛星別ビット変化判定用データ274と、衛星別相関積算時間275と、衛星別相関積算値データ276と、衛星別メジャメントデータ277と、算出位置データ278とが記憶される。
【0111】
衛星軌道データ272は、全てのGPS衛星の概略の衛星軌道情報を記憶したアルマナックや、各GPS衛星それぞれについて詳細な衛星軌道情報を記憶したエフェメリス等のデータである。この衛星軌道データ272は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号をデコードすることで取得する他、例えば携帯型電話機1の基地局やアシストサーバーからアシストデータとして取得する。
【0112】
衛星別ビット遷移タイミングデータ273は、捕捉対象衛星それぞれについて、受信信号に搬送されている航法メッセージデータのビット遷移タイミングが記憶されたデータである。衛星別ビット遷移タイミングデータ273は、例えば携帯型電話機1の基地局やアシストサーバーといった外部装置からアシストデータとして取得することができる。衛星別ビット遷移タイミングデータ273の生成方法や取得方法については従来公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0113】
衛星別ビット変化判定用データ274は、捕捉対象衛星それぞれについて、受信信号に搬送されている航法メッセージデータのビット変化判定を行うために用いられるデータであり、そのデータ構成例を図5に示す。衛星別ビット変化判定用データ274には、捕捉対象衛星別にビット変化判定用データが記憶されている。ビット変化判定用データには、捕捉対象衛星の番号である衛星番号2741と、第1の増感時間2743と、第2の増感時間2745と、諸量データ2747と、ビット変化判定結果2749とが記憶される。
【0114】
衛星番号2741は、各GPS衛星をユニークに識別するための番号である。第1の増感時間2743は、連続する単位期間の数“N”によって定まる時間であり、例えば所定値が設定される。また、第2の増感時間2745は、連続する単位期間の数“M”によって定まる時間であり、例えば所定値が設定される。捕捉対象衛星毎に第1の増感時間2743及び第2の増感時間2745を設定することが特徴の1つである。
【0115】
諸量データ2747は、ビット変化判定に用いる諸量と時刻とが対応付けてテーブル形式に記憶されたデータである。具体的には、テーブルの横方向に単位時間毎の時刻“t=t1,t2,t3,t4,t5,t6,・・・”が、テーブルの縦方向には各諸量がそれぞれ対応付けられ、各時刻における各諸量のデータがマトリックス状に記憶されている。また、諸量が算出されなかった時刻は、諸量の欄は「−(無し)」とされている。
【0116】
各諸量には、I相予備合算値“PsumI”及びQ相予備合算値“PSumQ”と、第1及び第2の増感期間それぞれについてのパワー値“Power”及び“Power”と、第1及び第2の増感期間それぞれについてのI相合算値“SumI”及びQ相合算値“SumQ”と、IQ内積値“Dot”とが含まれる。
【0117】
例えば、図5において最も手前側に示したビット変化判定用データは、衛星番号2741が“SV1”である捕捉対象衛星についてのデータであり、第1の増感時間2743として40ミリ秒(N=2)が設定されており、第2の増感時間2745として同じ時間である40ミリ秒(M=2)が設定されている。
【0118】
予備合算値“PsumI,PSumQ”は単位時間(20ミリ秒)毎に算出されるため、各々の時刻“t1,t2,t3,t4,t5,t6,・・・”に予備合算値“PsumI,PSumQ”が記憶されている。第1の増感期間のパワー値“Power,Power”は、初回は第1の増感時間(40ミリ秒)が経過したタイミングで算出され、それ以降は単位時間が経過する毎に算出される。そのため、時刻“t1”にはデータが記憶されておらず、時刻“t2”以降の各時刻にはデータが記憶されている。
【0119】
第2の増感期間のパワー値“Power,Power”は、初回は第1及び第2の増感時間を合算した増感合算時間(80ミリ秒)が経過したタイミングで算出され、それ以降は単位時間が経過する毎に算出される。そのため、時刻“t1〜t3”にはデータが記憶されておらず、時刻“t4”以降の各時刻にはデータが記憶されている。
【0120】
合算値“PSumI,PSumQ”は予備判定結果に基づいて算出されるため、パワー値が算出・記憶されたタイミングに合わせて算出・記憶される。つまり、パワー値のデータと合わせて、第1の増感期間については時刻“t2”以降の各時刻に合算値のデータが記憶されている。また、第2の増感期間については時刻“t4”以降の各時刻に合算値のデータが記憶されている。
【0121】
ビット値の変化の有無の本判定は、初回は増感合算時間が経過した時刻“t4”に行われ、それ以降は単位時間が経過する毎に行われる。第1回目の本判定では、時刻“t2”の合算値のデータ“SumI(1,2)、SumQ(1,2)”と、時刻“t4”の合算値のデータ“SumI(3,4),SumQ(3,4)”とを用いて、IQ内積値“Dot(2|3)”が算出される。そして、IQ内積値“Dot(2|3)”に基づいて、時刻“t2”におけるビット値の変化の有無が判定される。
【0122】
ビット変化判定結果2749には、ビット変化の本判定の結果が時系列に記憶される。具体的には、ビット変化有りと判定された時刻には「有」が記憶され、ビット変化無しと判定された時刻には「無」が記憶される。また、ビット変化判定が行われなかった時刻は「−(無し)」とされる。
【0123】
なお、図5のデータ例では、第1の増感時間と第2の増感時間とが同じであるため(N=M=2)、結果的に、時刻“t4”以降の各時刻において算出されるパワー値及び合算値は第1及び第2の増感期間で同じになっている。そのため、図5にハッチングで示した第2の増感期間のパワー値及び合算値のデータは省略可能であり、第1の増感時間のパワー値及び合算値のデータのみ記憶させることとしてもよい。このように第1の増感時間と第2の増感時間とが等しい場合には重複したデータが生ずるため、何れか一方のデータのみを記憶させることでメモリーを節約することができる。
【0124】
データ構成の説明に戻って、衛星別相関積算時間275は、各捕捉対象衛星それぞれについて相関積算時間が記憶されたデータである。また、衛星別相関積算値データ276は、各捕捉対象衛星それぞれについて相関積算時間分の相関値を積算することで得られる相関積算値が記憶されたデータである。
【0125】
衛星別メジャメントデータ277は、相関積算値に対するピーク判定を行うことで取得されるメジャメント情報が捕捉対象衛星別に記憶されたデータである。具体的には、各捕捉対象衛星それぞれについて、受信周波数及びコード位相の情報がメジャメント情報として記憶されている。
【0126】
算出位置データ278は、位置算出部253が位置算出処理を行うことで算出した携帯型電話機1の位置データである。算出位置データ278は、算出位置が時系列に蓄積記憶された時系列データであってもよいし、最新の算出位置のみが更新・記憶されるデータであってもよい。
【0127】
2−3.処理の流れ
図6は、記憶部27に記憶されているベースバンド処理プログラム271が処理部25により読み出されることで、ベースバンド処理回路部20において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0128】
最初に、衛星信号捕捉部251は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップA1)。具体的には、時計部90で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、記憶部27に記憶されたアルマナックやエフェメリス等の衛星軌道データ272を用いて判定して、捕捉対象衛星に決定する。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによってアシストサーバーから取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、最新の算出位置とする等の方法で設定できる。
【0129】
次いで、衛星信号捕捉部251は、ステップA1で判定した各捕捉対象衛星それぞれについて、ループAの処理を実行する(ステップA3〜A17)。ループAの処理では、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星からのGPS衛星信号の捕捉を試行する(ステップA5)。すなわち、キャリア除去用信号発生部22及びレプリカコード発生部24を制御して、RF受信回路部11から出力される受信IQ信号に対してキャリア除去及び相関演算を行わせる。そして、相関演算部23からI相相関値及びQ相相関値を取得する。
【0130】
次いで、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星について第1及び第2の増感時間を設定する(ステップA7)。すなわち、第1の増感時間を決定付ける“N”の値と、第2の増感時間を決定付ける“M”の値とに、それぞれ所定値を設定する。そして、設定した値を衛星別ビット変化判定用データ274に記憶させる。
【0131】
また、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星について相関積算時間を設定する(ステップA9)。本実施形態では、ビット変化判定処理を行ってビット値の変化の有無を判定することで、単位時間よりも長い時間に亘って相関値を積算することが可能となる。そのため、単位時間よりも長い時間を相関積算時間として設定する。例えば、単位時間の整数倍の時間(例えば単位時間の10倍の時間である200ミリ秒)を相関積算時間として設定する。
【0132】
その後、衛星信号捕捉部251は、記憶部27のビット変化判定プログラム2711に従ってビット変化判定処理を行う(ステップA11)。
【0133】
図7は、ビット変化判定処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、衛星信号捕捉部251は、当該捕捉対象衛星についてのビット遷移タイミングデータを外部から取得し、衛星別ビット変化判定用データ274に記憶させる(ステップB1)。そして、衛星信号捕捉部251は、タイマーをスタートさせ、相関演算部23から出力されるI相相関値及びQ相相関値の合算を開始する(ステップB3)。そして、衛星信号捕捉部251は、単位時間が経過するまで待機する(ステップB5;No)。
【0134】
単位時間が経過すると(ステップB5;Yes)、衛星信号捕捉部251は、IQ成分の合算値を予備合算値“Psum”として衛星別ビット変化判定用データ274の諸量データ2747に記憶させる(ステップB7)。そして、衛星信号捕捉部251は、タイマーをリスタートさせて、再びIQ相関値の合算を開始する(ステップB9)。
【0135】
次いで、衛星信号捕捉部251は、諸量データ2747に最新の第1の増感時間分の予備合算値“Psum”が記憶されているか否かを判定する(ステップB11)。そして、記憶されていると判定した場合は(ステップB11;Yes)、第1の増感期間についてパワー値“Power”を算出する(ステップB13)。
【0136】
その後、衛星信号捕捉部251は、ステップB13で算出したパワー値“Power”を用いて、第1の増感期間に対する予備判定を行う(ステップB15)。そして、衛星信号捕捉部251は、予備判定結果に基づいて、第1の増感期間の合算値“Sum”を算出する(ステップB17)。
【0137】
具体的には、例えば「N=2」の場合において、ステップB15の予備判定により、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目においてビット変化が生じなかったと判定した場合は、式(5)及び(6)に従ってI相合算値“SumI(n,n+1)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1)”を算出する。また、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目においてビット変化が生じたと判定した場合は、式(14)及び(15)に従ってI相合算値“SumI(n,n+1)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1)”を算出する。
【0138】
次いで、衛星信号捕捉部251は、諸量データ2747に最新の増感合算時間分の予備合算値“PSum”が記憶されているか否かを判定する(ステップB19)。そして、記憶されていると判定した場合は(ステップB19;Yes)、第2の増感期間についてパワー値“Power”を算出する(ステップB21)。
【0139】
その後、衛星信号捕捉部251は、ステップB21で算出したパワー値“Power”を用いて、第2の増感期間に対する予備判定を行う(ステップB23)。そして、衛星信号捕捉部251は、予備判定結果に基づいて、第2の増感期間の合算値“Sum”を算出する(ステップB25)。
【0140】
具体的には、例えば「M=2」の場合において、ステップB23の予備判定により、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目においてビット変化が生じなかったと判定した場合は、式(9)及び(10)に従ってI相合算値“SumI(n+2,n+3)”及びQ相合算値“SumQ(n+2,n+3)”を算出する。また、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目においてビット変化が生じたと判定した場合は、式(11)及び(12)に従ってI相合算値“SumI(n+2,n+3)”及びQ相合算値“SumQ(n+2,n+3)”を算出する。
【0141】
なお、ステップB11において最新の第1の増感時間分の予備合算値が記憶されていないと判定した場合は(ステップB11;No)、衛星信号捕捉部251は、ステップB19へと処理を移行する。また、ステップB19において最新の増感合算時間分の予備合算値が記憶されていないと判定した場合は(ステップB19;No)、衛星信号捕捉部251は、ステップB33へと処理を移行する。
【0142】
ステップB25の処理の後、衛星信号捕捉部251は、ステップB17で算出した第1の増感期間の合算値“Sum”と、ステップB25で算出した第2の増感期間の合算値“Sum”とを用いて、IQ内積値を算出する(ステップB27)。そして、衛星信号捕捉部251は、算出したIQ内積値を用いてビット変化有無の本判定を行う(ステップB29)。衛星信号捕捉部251は、本判定の結果を、衛星別ビット変化判定用データ274にビット変化判定結果2749として記憶させる(ステップB31)。
【0143】
そして、衛星信号捕捉部251は、処理を終了するか否かを判定し(ステップB33)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップB33;No)、ステップB5に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップB33;Yes)、ビット変化判定処理を終了する。
【0144】
図6のベースバンド処理に戻って、ビット変化判定処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、衛星別ビット変化判定用データ274に記憶された当該捕捉対象衛星のビット変化判定結果2749に基づいて、ステップA9で設定した相関積算時間分の相関値を積算する(ステップA13)。具体的には、ビット値の変化無しと判定されたビット遷移タイミングの前後では相関値の符号をそのまま、ビット値の変化有りと判定されたビット遷移タイミングの前後では相関値の符号を反転させて、単位期間毎の相関値を積算する。
【0145】
そして、衛星信号捕捉部251は、ステップA13で取得した相関積算値に対するピーク判定を行って当該捕捉対象衛星のメジャメント情報を取得し、衛星別メジャメントデータ277に記憶させる(ステップA15)。そして、衛星信号捕捉部251は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0146】
全ての捕捉対象衛星についてステップA5〜A15の処理を行った後、衛星信号捕捉部251は、ループAの処理を終了する(ステップA17)。その後、位置算出部253は、衛星別メジャメントデータ277に記憶されている各捕捉対象衛星についてのメジャメント情報を用いて、携帯型電話機1の位置を算出する位置算出処理を行う(ステップA19)。位置算出処理では、携帯型電話機1と各捕捉衛星間の擬似距離を利用して、例えば最小二乗法やカルマンフィルターを用いた公知の位置算出計算を行う。
【0147】
擬似距離は、次のようにして算出することができる。すなわち、衛星軌道データ272から求められる各捕捉衛星の衛星位置と、携帯型電話機1の概略位置とを用いて、各捕捉衛星と携帯型電話機1間の擬似距離の整数部分を算出する。また、メジャメント情報であるコード位相を用いて、各捕捉衛星と携帯型電話機1間の擬似距離の端数部分を算出する。このようにして求めた整数部分と端数部分とを合算することで擬似距離が求められる。
【0148】
次いで、位置算出部253は、位置算出処理で算出した位置(位置座標)をホスト処理部30に出力する(ステップA21)。そして、処理部25は、処理を終了するか否かを判定し(ステップA23)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA23;No)、ステップA1に戻る。また、処理を終了すると判定した場合は(ステップA23;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0149】
3.実験結果
図8は、本実施形態のビット変化判定方法を用いて航法メッセージデータのビット変化判定を実際に行った実験結果の一例を示す図である。GPS衛星信号の受信信号の信号強度を変化させた状況で、それぞれの信号強度について航法メッセージデータのビット変化判定を行い、その成功率を測定する実験を行った。
【0150】
図8において、横軸は受信信号の信号強度(単位はdBm)を示し、縦軸はビット変化判定の成功率(単位は%)を示す。また、四角形のプロットが本実施形態の手法でビット変化判定を行った場合の成功率を示し、三角形のプロットが従来の手法でビット変化判定を行った場合の成功率を示す。
【0151】
この図を見ると、全ての信号強度について、本実施形態の手法での成功率が、従来の手法での成功率を上回っていることがわかる。特に、信号強度が“−145dBm〜−147dBm”の範囲では、本実施形態の手法での成功率が90%以上の高い値となっていることがわかる。信号強度がそれよりも低くなると成功率も次第に低くなるが、本実施形態の手法での成功率が従来の手法での成功率を上回る傾向に変化は見られなかった。これにより、本実施形態の手法の有効性が実証された。
【0152】
4.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星信号を受信した受信信号とレプリカCAコードとの相関演算を行う。そして、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の増感期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化(遷移)の有無を判定する第1の事前判定、及び、第1の増感期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の増感期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化(遷移)の有無を判定する第2の事前判定としての予備判定を行う。その予備判定の結果に基づいて、単位期間毎の予備合算値を増感時間分合算する。そして、第1及び第2の増感期間について算出した合算値を用いてIQ内積値を計算し、当該IQ内積値に基づいて、第1の増感期間と第2の増感期間との境目における航法メッセージデータのビット値の変化の有無を判定する。
【0153】
連続する複数の単位期間で構成され得る第1及び第2の増感期間を設定し、各増感期間についての相関演算結果の合算値を用いて、IQ内積値を算出することにした。これにより、従来のように連続する2つの単位期間それぞれの相関演算結果の合算値を用いる場合と比べて、ビット変化判定に適したIQ内積値を求めることができる。第1及び第2の増感時間を長くすれば、その分だけビット変化判定に適したIQ内積値が求まるため、ビット変化判定をより正確に行うことができる。この手法は、受信したGPS衛星信号が弱電界の信号となる弱電界環境において特に有効である。
【0154】
また、GPS衛星信号の初回受信時には、第1及び第2の増感時間を合算した増感合算時間が経過したタイミングでビット変化判定が行われる。そのため、第1及び第2の増感時間として適宜適切な値を設定しさえすれば、GPS衛星信号の初回捕捉に要する時間を短縮し、初回の位置算出までに要する時間(初期定点化時間:TTFF(Time To First Fix))を短縮することができる。また、1回のビット変化に必要なデータは増感合算時間分のデータで済むため、必要なメモリー容量も少なく済む。
【0155】
また、本実施形態では、単位期間毎に予備合算値を算出し、加算或いは減算の組合せを異ならせて予備合算値を合算することでパワー値を算出する。そして、パワー値が最大となった加算或いは減算の組合せに従った合算方法で単位期間毎の予備合算値を合算する。これにより、増感期間に含まれる各ビット遷移タイミングにおけるビット変化の有無を仮判定して、IQ内積値を適切に求めることができる。
【0156】
5.変形例
5−1.ビット変化判定
上述した実施形態では、予備合算値を用いてパワー値を算出し、パワー値の大きさに基づいてビット変化の予備判定を行った。しかし、パワー値を算出せずとも、IQ内積値の計算を行って予備判定を行うことも可能である。
【0157】
図9は、この場合におけるビット変化判定の原理の説明図である。図9は図1に対応する図となっており、図の見方は図1と同じである。図9の手法では、第1及び第2の増感期間それぞれについて、単位期間毎に算出された予備合算値を用いて、隣接する2つの単位期間について予備IQ内積値を算出する。
【0158】
第1の増感期間については、第n番目の単位期間のI相予備合算値“PSumI(n)”及びQ相予備合算値“PSumQ(n)”と、第n+1番目の単位期間のI相予備合算値“PSumI(n+1)”及びQ相予備合算値“PSumQ(n+1)”とを用いて、次式(17)に従って予備IQ内積値“Dot(n|n+1)”を算出する。
【数17】

【0159】
そして、算出した予備IQ内積値に基づいて、第1の増感期間を構成する単位期間毎の境目のビット遷移タイミングにおけるビット変化の有無を予備判定する。つまり、予備IQ内積値“Dot(n|n+1)”が「負」であれば(Dot(n|n+1)<0)、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目においてビット値が変化したと判定する。また、予備IQ内積値“Dot(n|n+1)”が「正」であれば(Dot(n|n+1)≧0)、第n番目の単位期間と第n+1番目の単位期間との境目においてビット値が変化しなかったと判定する。
【0160】
第2の増感期間についても同様に、第n+2番目の単位期間のI相予備合算値“PSumI(n+2)”及びQ相予備合算値“PSumQ(n+2)”と、第n+3番目の単位期間のI相予備合算値“PSumI(n+3)”及びQ相予備合算値“PSumQ(n+3)”とを用いて、次式(18)に従って予備IQ内積値“Dot(n+2|n+3)”を算出する。
【数18】

【0161】
そして、予備IQ内積値“Dot(n+2|n+3)”が「負」であれば(Dot(n+2|n+3)<0)、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目においてビット値が変化したと判定する。また、予備IQ内積値“Dot(n+2|n+3)”が「正」であれば(Dot(n+2|n+3)≧0)、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目においてビット値が変化しなかったと判定する。
【0162】
上記のようにビット変化の予備判定を行ったら、当該予備判定結果に基づいてI相合算値“PSumI”及びQ相合算値“PSumQ”を算出する。以降の処理は上述した実施形態と同様である。
【0163】
5−2.増感時間
上述した実施形態では、第1及び第2の増感時間を40ミリ秒(N=M=2)としてビット変化判定を行う場合を例に挙げて説明したが、第1及び第2の増感時間には適宜に値を設定可能である。例えば、第1及び第2の増感時間を60ミリ秒(N=M=3)としてビット変化判定を行うこととしてもよい。
【0164】
図10は、この場合におけるビット変化判定の原理の説明図である。図の見方は図1と同じである。先ず、第1の増感期間を構成する3つの単位期間それぞれについて、IQ成分毎に予備合算値を算出する。これにより、I相予備合算値“PSumI(n),PSumI(n+1),PSumI(n+2)”と、Q相予備合算値“PSumQ(n),PSumQ(n+1),PSumQ(n+2)”とを得る。
【0165】
第2の増感期間についても同様に、第2の増感期間を構成する3つの単位期間について、I相予備合算値“PSumI(n+3),PSumI(n+4),PSumI(n+5)”と、Q相予備合算値“PSumQ(n+3),PSumQ(n+4),PSumQ(n+5)”とを得る。
【0166】
次いで、第1及び第2の増感期間それぞれについて、単位期間毎の予備合算値を加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算してパワー値を算出する。具体的には、各増感期間を構成する3つの単位期間の予備合算値を{(正,正,正),(正,負,正),(正,正,負),(正,負,負)}の4通りの組合せでそれぞれ合算し、その合算結果を用いてパワー値“Power1〜Power4”を算出する。
【0167】
その後、パワー値“Power1〜Power4”の大きさを比較する。そして、最大のパワー値に対応する加算或いは減算の組合せ(合算方法)に従って、単位期間毎の予備合算値を合算する。例えば、パワー値“Power1〜Power4”のうち“Power3”が最大であったとすると、対応する加算或いは減算の組合せ(合算方法)は{(正,正,負)}である。そのため、1番目の単位期間の予備合算値を「正」、2番目の単位期間の予備合算値を「正」、3番目の単位期間の予備合算値を「負」として、3つの単位期間の予備合算値を合算する。
【0168】
第1及び第2の増感期間それぞれについて上記の処理を行うことで、第1の増感期間については、I相合算値“SumI(n,n+1,n+2)”及びQ相合算値“SumQ(n,n+1,n+2)”を成分とする第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1,n+2)”が得られる。また、第2の増感期間については、I相合算値“SumI(n+3,n+4,n+5)”及びQ相合算値“SumQ(n+3,n+4,n+5)”を成分とする第2のIQ合算値ベクトル“IQ(n+3,n+4,n+5)”が得られる。
【0169】
次いで、第1のIQ合算値ベクトル“IQ(n,n+1,n+2)”と、第2のIQ合算値ベクトル“IQ(n+3,n+4,n+5)”との内積計算を行ってIQ内積値“Dot(n+2|n+3)”を得る。そして、IQ内積値“Dot(n+2|n+3)”が負であれば、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目においてビット変化有りと判定する。また、IQ内積値“Dot(n+2|n+3)”が正であれば、当該境目においてビット変化無しと判定する。
【0170】
5−3.受信状況に基づく増感時間の変更
GPS衛星信号の受信状況に基づいて、第1及び第2の増感時間のうちの少なくとも一方の時間(N及びMのうちの少なくとも一方の値)を変更することとしてもよい。例えば、GPS衛星信号を受信した受信信号の信号強度やGPS衛星信号の受信環境といった情報をGPS衛星信号の受信状況として、増感時間をGPS衛星毎に変更することができる。なお、変更する時間は、第1及び第2の増感時間の両方であってもよいし、何れか一方の時間のみであってもよい。
【0171】
例えば、受信信号の信号強度が強い場合には、信号強度が弱い場合と比べて相関演算によって信頼性の高い相関値を取得することができる。そのため、IQ内積値を用いてビット変化判定を行うと、ビット変化の有無を正しく判定することができる可能性が高まる。従って、受信信号の信号強度が強い場合には、信号強度が弱い場合と比べて増感時間を短くしてもよい。同様に、GPS衛星信号の受信環境が良ければ、受信環境が悪い場合と比べて相関演算によって信頼性の高い相関値を取得することができる。そのため、受信環境が良い場合は、信号強度が悪い場合と比べて増感時間を短くしてもよい。
【0172】
図11は、この場合において、衛星信号捕捉部251が図6のベースバンド処理の代わりに実行する第2のベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。なお、ベースバンド処理と同一のステップについては同一の符号を付して説明を省略し、ベースバンド処理とは異なるステップを中心に説明する。
【0173】
衛星信号捕捉部251は、ステップA5において衛星信号の捕捉を試行した後、GPS衛星信号の受信状況を判定する(ステップC6)。例えばC/N比(Carrier to Noise ratio)を算出することで受信信号の信号強度を計測したり、GPS衛星の天空配置やGPS衛星の仰角といった情報に基づいてGPS衛星信号の受信環境を判定する。そして、衛星信号捕捉部251は、判定した受信状況に基づいて、第1及び第2の増感時間を設定する(ステップC7)。
【0174】
図12は、増感時間設定用のテーブルの一例である第1の設定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図である。第1の設定用テーブルは、受信信号の信号強度に基づいて増感時間を設定するためのテーブルであり、信号強度と、第1の増感時間と、第2の増感時間とが対応付けて記憶されている。信号強度が強いほど、第1及び第2の増感時間として短い時間が設定されている。また、このテーブルでは、同一の信号強度について、第2の増感時間が第1の増感時間よりも長くなるように時間が定められている。衛星信号捕捉部251は、ステップC6において信号強度を計測した場合には、この第1の設定用テーブルを参照し、計測した信号強度に対応する第1及び第2の増感時間を設定する。
【0175】
図13は、増感時間設定用のテーブルの一例である第2の設定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図である。第2の設定用テーブルは、GPS衛星信号の受信環境に基づいて増感時間を設定するためのテーブルであり、受信環境と、第1の増感時間と、第2の増感時間とが対応付けて記憶されている。受信環境が良くなるほど、第1及び第2の増感時間として短い時間が設定されている。また、このテーブルでは、同一の受信環境について、第1の増感時間と第2の増感時間とが同一となるように時間が定められている。衛星信号捕捉部251は、ステップC6において受信環境を判定した場合は、この第2の設定用テーブルを参照し、判定した受信環境に対応する第1及び第2の増感時間を設定する。
【0176】
図14は、衛星信号捕捉部251がビット変化判定の処理用データとして用いる第2の衛星別ビット変化判定用データ274Bのデータ構成の一例を示す図である。なお、図5に示した衛星別ビット変化判定用データ274と同一のデータ要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0177】
第2のビット変化判定用データ274Bには、衛星番号2741、第1の増感時間2743及び第2の増感時間2745に加えて、受信信号の信号強度2742が記憶されている。具体的には、図14の最も手前側に示したデータは、衛星番号2741が“SV1”である捕捉対象衛星についてのデータであり、受信信号の信号強度2742は“S”である。そして、当該信号強度2742に対応する増感時間として、第1の増感時間に“40ミリ秒(N=2)”が設定され、第2の増感時間に“60ミリ秒(M=3)”が設定されている。
【0178】
予備合算値“PsumI,PSumQ”は単位時間(20ミリ秒)毎に算出されるため、各時刻“t1,t2,t3,t4,t5,t6,・・・”それぞれについて予備合算値“PsumI,PSumQ”が記憶されている。第1の増感期間のパワー値“Power,Power”は、初回は第1の増感時間(40ミリ秒)が経過したタイミングで算出され、それ以降は単位時間が経過するタイミングで算出される。そのため、時刻“t1”にはデータが記憶されておらず、時刻“t2”以降の各時刻にデータが記憶されている。
【0179】
第2の増感期間のパワー値“Power,Power”は、初回は第1及び第2の増感時間を合算した増感合算時間(100ミリ秒)が経過したタイミングで算出され、それ以降は単位時間が経過するタイミングで算出される。そのため、時刻“t1〜t4”にはデータが記憶されておらず、時刻“t5”以降の各時刻にデータが記憶されている。
【0180】
合算値“PSumI,PSumQ”はビット変化の予備判定結果に基づいて算出されるため、パワー値の算出タイミングに合わせて算出される。第1の増感期間のパワー値は初回に時刻“t2”において算出されるため、時刻“t2”以降の各時刻に合算値のデータが記憶されている。また、第2の増感期間のパワー値は初回に時刻“t5”において算出されるため、時刻“t5”以降の各時刻に合算値のデータが記憶されている。
【0181】
第1回目の判定は時刻“t5”に行われる。この場合は、時刻“t2”における合算値のデータ“SumI(1,2)、SumQ(1,2)”と、時刻“t5”における合算値のデータ“SumI(3,4,5),SumQ(3,4,5)”とを用いて、IQ内積値“Dot(2|3)”が算出される。そして、IQ内積値“Dot(2|3)”に基づいて、時刻“t2”におけるビット変化の有無が判定される。
【0182】
5−4.処理負荷の軽減
ビット変化判定に係る演算量を削減することで、処理部の処理負荷を軽減することとしてもよい。上述した実施形態では、各判定時刻において、ビット値変化の予備判定を行うものとして説明した。しかし、単位時間ずつ時間をずらしながらビット変化判定を行うことにしているため、単位時間が経過する毎に第1の増感時間と第2の増感時間との境目におけるビット値の変化の有無が判定されることになる。従って、過去の本判定の結果を流用することにすれば、予備判定を行うことは不要となる。
【0183】
例えば図1の原理説明において、第1回目の判定では、第n+1番目の単位期間と第n+2番目の単位期間との境目におけるビット変化の有無について本判定が行われ、その判定結果が記憶される。その後、第2回目の判定では、第1の増感期間について、第n+1番目の単位期間と第n+2番目の単位期間との境目におけるビット値の変化の有無が予備判定される。しかし、予備判定を行わずとも、第1回目の本判定で第n+1番目の単位期間と第n+2番目の単位期間との境目におけるビット値の変化の有無は既にわかっている。そのため、第2回目の判定では予備判定を省略し、第1回目の本判定の結果を流用して、合算値を算出すればよい。
【0184】
同様に、第3回目の判定では、第n+2番目の単位期間と第n+3番目の単位期間との境目におけるビット値の変化の有無を予備判定することになるが、第2回目の本判定によって当該境目におけるビット値の変化の有無は既知となっている。そのため、予備判定は行わず、第2回目の本判定の結果を流用して合算値を算出すればよい。
【0185】
5−5.電子機器
上述した実施例では、電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0186】
5−6.処理の主体
上述した実施形態では、ビット変化判定を含む衛星信号の捕捉をベースバンド処理回路部の処理部が実行するものとして説明したが、これらの処理を電子機器のホスト処理部が実行することとしてもよい。また、ビット変化判定を含む衛星信号の捕捉はベースバンド処理回路部の処理部が実行し、位置算出は電子機器のホスト処理部が行うといったように処理を分担することとしてもよい。
【0187】
5−7.衛星測位システム
また、上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムであってもよい。
【符号の説明】
【0188】
1 携帯型電話機、 10 GPS受信部、 11 RF受信回路部、 20 ベースバンド処理回路部、 21 乗算部、 22 キャリア除去用信号発生部、 23 相関演算部、 24 レプリカコード発生部、 25 処理部、 27 記憶部、 30 ホスト処理部、 40 操作部、 50 表示部、 60 携帯電話用アンテナ、 70 携帯電話用無線通信回路部、 80 記憶部、 90 時計部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行うことと、
前記受信信号により搬送された航法メッセージデータのビット遷移タイミングで前記受信信号を時分割した場合に前記ビット遷移タイミングで区切られる各期間を単位期間として、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の期間についての前記相関演算の結果を合算する第1の合算を行うことと、
前記第1の期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の期間についての前記相関演算の結果を合算する第2の合算を行うことと、
前記第1及び第2の合算の結果を用いて、前記第1の期間と前記第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定することと、
を含むビット変化判定方法。
【請求項2】
前記相関演算の結果を用いて、前記第1の期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第1の事前判定を行うことと、
前記相関演算の結果を用いて、前記第2の期間に含まれるビット遷移タイミングにおけるビット値の変化の有無を判定する第2の事前判定を行うことと、
を含み、
前記境目におけるビット値の変化の有無を判定することは、前記第1の事前判定の結果に応じた合算方法で前記第1の合算を行った結果と、前記第2の事前判定の結果に応じた合算方法で前記第2の合算を行った結果とを用いて判定することを含む、
請求項1に記載のビット変化判定方法。
【請求項3】
前記第1の合算を行うことは、前記第1の期間に含まれる単位期間毎の前記相関演算の結果を、加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算することを含み、
前記第1の事前判定を行うことは、前記第1の合算における複数の合算方法で合算した結果を用いて、前記第1の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することを含み、
前記第2の合算を行うことは、前記第2の期間に含まれる単位期間毎の前記相関演算の結果を、加算或いは減算の組合せを異ならせた合算方法で合算することを含み、
前記第2の事前判定を行うことは、前記第2の合算における複数の合算方法で合算した結果を用いて、前記第2の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することを含む、
請求項2に記載のビット変化判定方法。
【請求項4】
前記第1の事前判定を行うことは、
前記合算方法毎に当該合算方法で合算した結果を用いてパワー値を算出することと、
前記パワー値が最大の合算方法に基づいて、前記第1の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することと、
を含み、
前記第2の事前判定を行うことは、
前記合算方法毎に当該合算方法で合算した結果を用いてパワー値を算出することと、
前記パワー値が最大の合算方法に基づいて、前記第2の期間に含まれるビット遷移タイミングでのビット値の変化の有無を判定することと、
を含む、
請求項3に記載のビット変化判定方法。
【請求項5】
前記境目におけるビット値の変化の有無を判定することは、前記第1の合算の結果と前記第2の合算の結果との内積を算出して当該ビット値の変化の有無を判定することを含む、
請求項1〜4の何れか一項に記載のビット変化判定方法。
【請求項6】
前記衛星信号の受信状況に基づいて前記N及びMのうちの少なくとも一方を変更することを更に含む、
請求項1〜5の何れか一項に記載のビット変化判定方法。
【請求項7】
前記変更することは、前記受信状況が良好である場合に、良好でない場合に比べて小さな値に変更することを含む、
請求項6に記載のビット変化判定方法。
【請求項8】
衛星信号を受信した受信信号とレプリカコードとの相関演算を行う相関演算部と、
前記受信信号により搬送された航法メッセージデータのビット遷移タイミングで前記受信信号を時分割した場合に前記ビット遷移タイミングで区切られる各期間を単位期間として、連続するN個(N≧1)の単位期間である第1の期間についての前記相関演算の結果を合算する第1の合算を行う第1の合算部と、
前記第1の期間に隣接する連続するM個(M>1)の単位期間である第2の期間についての前記相関演算の結果を合算する第2の合算を行う第2の合算部と、
前記第1及び第2の合算の結果を用いて、前記第1の期間と前記第2の期間との境目におけるビット値の変化の有無を判定する判定部と、
を備えたビット変化判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図5】
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